説明

加飾用成形シート及びその製造方法、並びに加飾用成形シートを使用して製造した成形品及びその製造方法

【課題】意匠性に優れ、成形品の生産効率を向上することができる加飾用成形シートを提供すること。
【解決手段】加飾用成形シート5は、構成繊維間に所定の間隙17を有する織布14aにより構成された織布層14と、織布層14の一方の面側に配置され、加飾用の成形材料を含む第1の層20aと、織布層14の他方の面側に配置され、前記成形材料を含む第2の層20bと、を一体に備える。加飾用の成形材料は、加飾用の柄材18を含有する。第1の層20a及び第2の層20bの表面には、剥離可能な保護フィルム25,25を備える。織布14aにおける構成繊維間の間隙17の大きさL1は、加飾用の柄材18の大きさL2よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗い場付き浴槽や防水パン等の成形材料として用いられる加飾用成形シート及びその製造方法、並びに加飾用成形シートを使用して製造した成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、洗い場付き浴槽や防水パン等として用いられる成形品は、強度確保の観点から、補強用のリブ部を有している。このような成形品は、シートモールディングコンパウンド(Sheet Molding Compound。以下、適宜、「SMC」ともいう)や、バルクモールディングコンパウンド(Bulk Molding Compound。以下、適宜、「BMC」ともいう)等の成形材料を用いて、熱圧成形法(所定の高温高圧下で行われるプレス成形法)により製造されるものが多い。
【0003】
一般に、SMC成形材料は、高強度を有し、軽量性に優れている。そのため、SMC成形材料は、成形品の構造部材や強度部材として多用されている。その一方で、SMC成形材料は、BMC成形材料よりも質感等の意匠性に劣る。そのため、模様を印刷した不織布にDAP(ジアリルフタレート)樹脂を含浸させたもの等を用いることによって意匠性を向上させたSMC成形材料が、防水パン等に広く採用されている。
【0004】
一方、BMC成形材料は、SMC成形材料よりも質感等の意匠性に優れ、高級感を有する。そのため、BMC成形材料は、人工大理石の加飾模様(例えば、石目模様等)を形成する際に多用されているが、SMC成形材料よりも単位強度が低く、コストが高いことから、防水パン等への採用は一般的ではない。
【0005】
SMCを成形材料とする従来の成形品の製造方法として、例えば、金型内にSMCをセットすると共に、このSMCの上を補強材としてのガラスマットで覆い、ガラスマットの上に他のSMCを載置した状態で成形するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−4915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の技術は、成形品の成形時に、金型内にSMCをセットし、このSMCの上に補強材としてのガラスマットを配置し、更にこのガラスマットの上に他のSMCを配置してから成形しなければならず、生産工程が煩雑であった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、意匠性に優れ、成形品の生産効率を向上することができる加飾用成形シート及びその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、意匠性に優れ、強度が高い成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、構成繊維間に所定の間隙を有する織布により構成された織布層と、前記織布層の一方の面側に配置され、加飾用の成形材料を含む第1の層と、前記織布層の他方の面側に配置され、前記成形材料を含む第2の層と、を一体に備える加飾用成形シートに関する。
【0010】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有することが好ましい。
【0011】
また、前記第1の層及び前記第2の層の表面には、剥離可能な保護フィルムを備えることが好ましい。
【0012】
また、前記織布における前記間隙の大きさは、前記柄材の大きさよりも小さいことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、構成繊維間に所定の間隙を有する織布が配置される一方のキャリアフィルムと該織布と対向するように配置される他方のキャリアフィルムとの間に、加飾用の成形材料を配置し、前記一方のキャリアフィルム及び前記他方のキャリアフィルムを厚み方向に圧縮することにより加飾用成形シートを形成するシート形成工程と、前記シート形成工程によって形成された前記加飾用成形シートを更に圧縮し、前記成形材料を前記織布に含浸させる含浸工程と、を含む加飾用成形シートの製造方法に関する。
【0014】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有することが好ましい。
【0015】
また、前記含浸工程を経た前記加飾用成形シートを所定温度で所定時間加熱する熟成工程を更に含むことが好ましい。
【0016】
また、前記加飾用成形シートの所定量をロール状に巻き取ってシートロールを形成するシートロール形成工程を更に含むことが好ましい。
【0017】
また、本発明は、第1の成形材料により構成され、一方の面側に形成されたリブ部を有する構造層と、加飾用の成形材料を、構成繊維間に所定の間隙を有する織布に予め含浸させてなる第2の成形材料により構成され、前記構造層の他方の面側に固着される加飾層と、を備え、前記構造層及び前記加飾層が熱圧成形によって一体的に構成された成形品に関する。
【0018】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有することが好ましい。
【0019】
また、本発明は、第1の成形材料を、補強用のリブ部を成形品の裏側に形成する第1の金型に対向するように配置し、加飾用の成形材料を構成繊維間に所定の間隙を有する織布に予め含浸させてなる第2の成形材料を、前記成形品の表側を形成する第2の金型に対向するように配置する材料配置工程と、前記材料配置工程によって配置された前記第1の成形材料及び前記第2の成形材料を熱圧成形する熱圧成形工程と、を含む成形品の製造方法に関する。
【0020】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、意匠性に優れ、成形品の生産効率を向上することができる加飾用成形シート及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、意匠性に優れ、強度が高い成形品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態の加飾用成形シートを示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態のクロスの織り組織を示す拡大平面図である。
【図3】本発明の実施形態の加飾用成形シートの製造装置を示す模式図である。
【図4】本発明の実施形態の加飾用成形シートの製造方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態の加飾用成形シートを使用して製造した成形品を示す部分斜視図である。
【図6】本発明の実施形態の成形品の製造過程を示す図であり、(a)は、材料配置工程を示す図、(b)は、熱圧成形工程を示す図、(c)は、金型から取り外された成形品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態の加飾用成形シートについて図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態の加飾用成形シートを示す断面図である。図2は、本発明の実施形態のクロスの織り組織を示す拡大平面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態の加飾用成形シート5は、織布層14と、織布層14の一方の面側に配置される第1の層としての加飾層20aと、織布層14の他方の面側に配置される第2の層20bと、加飾層20a及び第2の層20bの表面に配置されるキャリアフィルム25,25と、を一体に備える。
【0024】
織布層14は、構成繊維間に所定の間隙を有する織布としてのクロス14aにより構成される。織布層14は、加飾用成形シート5の形成時及び成形品10(後述)の成形時において、加飾用の柄材18の流動を規制すると共に、成形品10を補強する層である。
【0025】
クロス14aには、例えば、図2に示すように、目抜き平織りのガラスクロスが好ましく用いられる。ここで、平織りのクロスとは、等間隔の隙間を有する織物であって、図2に示すように、経糸(たていと)15と緯糸(よこいと)16とを交互に浮き沈みさせて織られる織物である。なお、織布の素材としては、ガラス繊維の他、例えば、アラミド繊維、ビニロン繊維等の有機繊維、カーボン繊維等であってもよい。また、更に強度を要する場合には、織布の素材にガラスロービングクロスを用いてもよい。
【0026】
図1及び図2に示すように、クロス14aは、経糸15と緯糸16とにより形成される矩形状の間隙17を有している。この間隙17の大きさL1は、後述する加飾用の柄材18の大きさ(長径)L2よりも小さい。
【0027】
図1に示すように、加飾層20aは、加飾用の柄材18が含有された成形材料を含み、織布層14の一方の面(図1においては上面)側に配置される層である。成形材料は、加飾用の柄材18を、例えば、不飽和ポリエステル樹脂に混練機にて均一に混合したBMC等の複合材料である。
【0028】
加飾用の柄材18は、上記成形材料に添加されるものであり、図1及び図2に模式的に示すように、所定の大きさL2を有している。この柄材18は、加飾層20aに形成する模様の種類(例えば、御影石調の模様等)に応じて、適宜、選択される。
この柄材18は、図1及び図2に示すように、少なくともその長径が、クロス14aの間隙17の大きさよりも大きい。そのため、この柄材18は、上記間隙17を容易に通り抜けることができない。
【0029】
第2の層20bは、加飾層20aと同様の成形材料を含み、織布層14の他方の面(図1においては下面)側に配置される層である。第2の層20bは、加飾層20aよりも薄く形成されている。なお、後述する成形品10の説明においては、加飾層20a及び第2の層20bを「加飾層20」と総称する。
【0030】
加飾層20a及び第2の層20bの表面には、図1に示すように、剥離可能な保護フィルムとしてのキャリアフィルム25,25を備える。このキャリアフィルム25,25によれば、加飾層20aの表面(加飾用成形シート5の表面)及び第2の層20bの表面(加飾用成形シート5の裏面)を汚れ等から保護することができる。
【0031】
以上のように構成される織布層14、加飾層20a、第2の層20b及びキャリアフィルム25,25は、一体に固着されている。但し、キャリアフィルム25,25は、必要時において、加飾層20a及び第2の層20bの表面から剥離することができる。
【0032】
次に、加飾用成形シート5の製造装置40について図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の実施形態の加飾用成形シートの製造装置を示す模式図である。
図3に示すように、製造装置40は、一対のキャリアフィルム供給部41,41と、成形材料供給部42と、クロス供給部43と、シート形成部44と、含浸部46と、熟成部47と、アキュムレータ部48と、シートロール形成部49と、を主体に構成されている。
【0033】
キャリアフィルム供給部41は、一対設けられ、ロール状に巻かれたキャリアフィルム25をシート形成部44に供給する。
成形材料供給部42は、加飾用の成形材料を、クロス14aが配置される一方のキャリアフィルム25とこのクロス14aと対向するように配置される他方のキャリアフィルム25との間に供給する。この加飾用の成形材料は、所定の粘度を有するシロップ状又はペースト状となっており、所定の柄材18が含有されている。なお、透明感のある加飾用成形シート5を形成する場合には、成形材料に柄材18を含有させなくてもよい。また、成形材料には、所定の硬化剤が含有されることが好ましい。
クロス供給部43は、ロール状に巻かれたクロス14aを、一方のキャリアフィルム25の表面に供給する。
【0034】
シート形成部44は、回転自在な一対のローラ44aと、ドクターブレード45と、を備える。一対のローラ44aは、互いに平行に配置される。一対のローラ44a,44aの間隙は、調節可能となっている。この一対のローラ44a,44aの間隙に、上記一対のキャリアフィルム25,25、クロス14a及び成形材料が導入される。ドクターブレード45は、成形材料供給部42から供給される成形材料を均一の厚さで、クロス14aと他方のキャリアフィルム25との間に配置する。
【0035】
このように構成されるシート形成部44は、上記成形材料及びクロス14aが挟み込まれた一対のキャリアフィルム25,25を、一対のローラ44a,44aによってキャリアフィルム25,25の厚み方向に圧縮することにより加飾用成形シート5を形成する。
【0036】
含浸部46は、シート形成部44によって形成された加飾用成形シート5を、表裏から押圧可能な複数のローラ46aを備える。含浸部46は、これらのローラ46aによって加飾用成形シート5を表裏から更に圧縮(押圧)し、上記成形材料をクロス14aに含浸させる。
【0037】
熟成部47は、加熱室47aを備える。加熱室47aは、含浸部46を経た加飾用成形シート5を所定温度で所定時間加熱する。この熟成部47によれば、加飾用成形シート5の組成物の粘度を増加させることができる。
【0038】
アキュムレータ部48は、熟成部47を経た加飾用成形シート5を掛け渡す複数のローラ48aを備える。アキュムレータ部48は、これらのローラ48aによって加飾用成形シート5の張力を調節し、加飾用成形シート5をシートロール形成部49に送出する。
シートロール形成部49は、アキュムレータ部48を経た加飾用成形シート5の所定量をロール状に巻き取ってシートロール49aを形成する。
【0039】
次に、加飾用成形シート5の製造方法について図4及び図3を参照しながら説明する。図4は、本発明の実施形態の加飾用成形シートの製造方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法は、シート形成工程(ステップST1)と、含浸工程(ステップST2)と、熟成工程(ステップST3)と、シートロール形成工程(ステップST4)と、を含んで構成されている。
【0040】
図4のステップST1に示すシート形成工程においては、図3に示すように、一対のキャリアフィルム25,25が、製造装置40のキャリアフィルム供給部41からシート形成部44に供給される。この一方のキャリアフィルム25の表面には、クロス供給部43によってクロス14aが供給される。このクロス14aと他方のキャリアフィルム25の間には、加飾用の柄材18や所定の硬化剤が含有された成形材料が、成形材料供給部42によって供給される。成形材料供給部42から供給される成形材料は、ドクターブレード45によってクロス14aと他方のキャリアフィルム25との間に均一の厚さで配置される。
【0041】
シート形成部44においては、一対のキャリアフィルム25,25が、上記成形材料及びクロス14aを挟んだ状態で、一対のローラ44a,44aによってキャリアフィルム25の厚さ方向に圧縮される。これにより、加飾用の柄材18等を含有した成形材料がクロス14aと一体となり、所定厚さの加飾用成形シート5が形成される。
シート形成部44を経た加飾用成形シート5は、一対のローラ44a,44aによって含浸部46に送出される。
【0042】
図4のステップST2に示す含浸工程においては、図3に示すように、シート形成部44から含浸部46に導入された加飾用成形シート5が、複数のローラ46aによって表裏から更に圧縮(押圧)される。これにより、加飾用成形シート5において成形材料がクロス14aに含浸する。
含浸部46を経た加飾用成形シート5は、複数のローラ46aによって熟成部47に送出される。
【0043】
図4のステップST3に示す熟成工程においては、図3に示すように、含浸部46から熟成部47の加熱室47aに導入された加飾用成形シート5が、所定温度で所定時間加熱される。これにより、加飾用成形シート5の組成物の粘度を増加させることができる。
熟成部47を経た加飾用成形シート5は、アキュムレータ部48のローラ48aによって張力を調節され、シートロール形成部49に送出される。
【0044】
図4のステップST4に示すシートロール形成工程においては、図3に示すように、加飾用成形シート5の所定量が、ロール状に巻き取られ、所定径のシートロール49aが形成される。これにより、加飾用成形シート5の取り扱い性を向上することができる。
【0045】
次に、本実施形態の加飾用成形シート5を使用して製造される成形品10について図5を参照しながら説明する。図5は、本発明の実施形態の加飾用成形シートを使用して製造した成形品を示す部分斜視図である。
図5に示すように、本実施形態の成形品10は、例えば、浴室等に使用される人工大理石製の防水パンであり、補強用のリブ部12を有する。この防水パンは、大部分が平面状に構成され、この平面の周縁には、低い立ち上がり部(図示せず)を有する。
図5に示すように、成形品10は、一方の面側に形成されたリブ部12を有する構造層11と、織布層14を含み、構造層11の他方の面側に固着される加飾層20と、を備える。織布層14を含む加飾層20と構造層11とは、後述するように、熱圧成形によって一体的に固着されている。
【0046】
構造層11は、成形品10の裏側において強度を確保する層状の部分であり、成形品10の構造材として機能する層である。構造層11は、SMC又はBMCを含む第1の成形材料13(図6(a)参照)からなる。
【0047】
SMCは、不飽和ポリエステル樹脂と充填材(例えば、炭酸カルシウム等)とを配合したコンパウンドを、ガラス繊維等に含浸させ、シート状に形成した複合材料である。
第1の成形材料13として、SMC又はBMCのいずれを用いるかは、成形品10の用途等を勘案して決定される。
【0048】
リブ部12は、構造層11の一方の面である裏面から、該裏面と交差する方向(図5における下方)に突出する突条部として構成されている。リブ部12は、突出方向に向かって先細(例えば、断面形状が台形)となっている。リブ部12は、複数(例えば、図示例では2つ)設けられており、構造層11の剛性を補強する。
【0049】
次に、成形品10の製造方法について、図6を参照しながら説明する。図6は、本発明の実施形態の成形品の製造過程を示す図であり、図6(a)は、材料配置工程を示す図、図6(b)は、熱圧成形工程を示す図、図6(c)は、金型から取り外された成形品を示す図である。
【0050】
図6(a)に示すように、本実施形態の成形品10の製造方法において使用される金型30は、所定の温度及び圧力で熱圧成形可能に構成されている。金型30は、成形品10の裏側を形成する第1の金型としての可動金型31と、この可動金型31の下側に配され、成形品10の表側を形成する第2の金型としての固定金型32と、を備える。
【0051】
可動金型31は、成形品10のリブ部12を成形可能なリブ成形用凹部31aを有し、固定金型32に対して押圧可能に構成されている。固定金型32は、可動金型31に係合可能な係合凹部32aを有する。リブ成形用凹部31aを有する可動金型31を、成形品10の表側を形成する固定金型32の上側に配することにより、成形時における柄材18の流動を少なくし、柄むらを生じにくくすることができる。
【0052】
本実施形態の成形品10の製造方法は、材料配置工程と、熱圧成形工程と、を含んで構成されている。材料配置工程においては、図6(a)に示すように、第1の成形材料13を可動金型31に対向するように配置し、第2の成形材料21としての加飾用成形シート5を固定金型32に対向するように配置する。この場合、加飾用成形シート5は、その加飾層20a(図1参照)が、固定金型32の係合凹部32aに対向するように配置される。
【0053】
また、熱圧成形工程においては、図6(b)に示すように、材料配置工程(図6(a)参照)によって配置された加飾用成形シート5及び第1の成形材料13を、可動金型31及び固定金型32によって、所定の温度及び圧力で熱圧成形する。これにより、加飾用成形シート5の第2の層20bが第1の成形材料13と一体となって成形される。この熱圧成形工程の終了後に、固定金型32及び可動金型31の係合が解除され、図6(c)に示すように、成形品10が金型30から取り出される。
【0054】
以上に説明した本実施形態の加飾用成形シート5によれば、以下に示す各効果が奏される。
本実施形態の加飾用成形シート5は、構成繊維間に所定の間隙17を有するクロス14aにより構成された織布層14と、織布層14の一方の面側に配置され、加飾用の成形材料を含む加飾層20aと、織布層14の他方の面側に配置され、上記成形材料を含む第2の層20bと、を一体に備える。
【0055】
加飾用成形シート5は、クロス14aにより構成された織布層14を含んで形成されている。そのため、成形品10の成形時にこの加飾用成形シート5を用いることにより、クロスを金型30内に配置する工程が必要なくなり、強度が高く且つ意匠性に優れた成形品10を効率よく生産することができる。
【0056】
また、加飾用の成形材料は、加飾用の柄材18を含有している。そのため、加飾用成形シート5を用いて防水パン等の成形品10を熱圧成形する場合において、加飾層20aの柄材18の大部分が、織布層14によって第2の層20bの側に流動しにくくなり、加飾層20aの側に残ることになる。従って、本実施形態の加飾用成形シート5によれば、柄材18の大部分が加飾層20aに均一に分布した状態で成形品10を成形することができ、優れた意匠性を確保することができる。
【0057】
また、本実施形態の加飾用成形シート5は、従来のような塊(バルク)状ではなく、シート状に形成されている。そのため、薄い成形材料を提供することができると共に、取り扱いが容易であり、金型へも容易にチャージすることができる。また、織布層14にガラスクロスを用いているため、成形品10を容易かつ正確にトリミングすることができると共に、加飾層20aと第2の層20bの境界部分を正確に区画することができる。従って、本実施形態の加飾用成形シート5によれば、意匠性に優れた成形品の生産効率を向上することができる。
【0058】
また、加飾層20a及び第2の層20bの表面には、剥離可能なキャリアフィルム25,25を備える。そのため、加飾層20a及び第2の層20bの表面を汚れ等から保護することができる。
【0059】
また、クロス14aにおける構成繊維間の間隙17の大きさL1は、加飾用の柄材18の大きさ(長径)L2よりも小さい。そのため、加飾用成形シート5が製造される時や、加飾用成形シート5を用いた成形品10の熱圧成形時において、この柄材18は、クロス14aの間隙17を通って、クロス14aの一方の面側から他方の面側に流動(移動)することを抑制される。従って、加飾層20に柄むらが生じにくくなり、優れた意匠性を確保することができる。
【0060】
また、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法は、構成繊維間に所定の間隙17を有するクロス14aが配置される一方のキャリアフィルム25とこのクロス14aと対向するように配置される他方のキャリアフィルム25との間に、加飾用の柄材18が含有された成形材料を配置し、一方のキャリアフィルム25及び他方のキャリアフィルム25を厚み方向に圧縮することにより加飾用成形シート5を形成するシート形成工程(図4に示すステップST1)と、シート形成工程によって形成された加飾用成形シート5を更に圧縮し、成形材料をクロス14aに含浸させる含浸工程(図4に示すステップST2)と、を含んで構成されている。
【0061】
そのため、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法によれば、シート形成工程において、クロス14aの上記作用により、成形材料中の柄材18の大部分を加飾用成形シート5の加飾層20a内に残して均一に分布させることができ、含浸工程において、成形材料をクロス14aに含浸させることができる。従って、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法によれば、優れた意匠性を有する加飾用成形シート5を容易かつ大量に生産することができる。
【0062】
また、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法は、含浸工程を経た加飾用成形シート5を所定温度で所定時間加熱する熟成工程(図4に示すステップST3)を更に含んで構成されている。そのため、含浸工程を経た加飾用成形シート5の組成物の粘度を増加させることができる。
【0063】
また、本実施形態の加飾用成形シート5の製造方法は、熟成工程ST3を経たシートの所定量をロール状に巻き取ってシートロール49aを形成するシートロール形成工程ST4を更に含んで構成されている。そのため、加飾用成形シート5の取り扱い性を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態の成形品10は、SMC又はBMCを含む第1の成形材料13により構成され、一方の面側に形成されたリブ部12を有する構造層11と、加飾用の柄材18が含有された成形材料を、構成繊維間に所定の間隙17を有するクロス14aに予め含浸させてなる第2の成形材料21(加飾用成形シート5)により構成され、構造層11の他方の面側に固着される加飾層20と、を備え、構造層11及び加飾層20が熱圧成形によって一体的に構成される。
【0065】
そのため、成形品10を熱圧成形する場合において、加飾層20の柄材18が、クロス14aの間隙17を通って、クロス14aの一方の面側から他方の面側に流動(移動)することを抑制することができる。従って、加飾層20に柄むらが生じにくく、意匠性の優れた成形品10を得ることができる。また、成形品10は、リブ部12を有した構造層11を備えている。そのため、強度の高い成形品10を得ることができる。
【0066】
また、本実施形態の成形品10の製造方法は、補強用のリブ部12を成形可能な金型30内に、SMC又はBMCを含む第1の成形材料13、及び加飾用の柄材18が含有された成形材料を、構成繊維間に所定の間隙17を有するクロス14aに予め含浸させてなる第2の成形材料21としての加飾用成形シート5を配置する材料配置工程と、材料配置工程によって配置された第1の成形材料13及び第2の成形材料21を熱圧成形する熱圧成形工程と、を含んで構成されている。
【0067】
そのため、本実施形態の成形品10の製造方法によれば、意匠性に優れ強度の高い成形品10を、金型30を用いた1度のプレス成形によって製造することができる。従って、本製造方法は、大量生産に好適である。
【0068】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
前記実施形態においては、成形品として、防水パンを例にして説明したが、これに制限されない。BMCは、板厚が薄くても、熱に強く、寸法安定性、清掃等のメンテナンス性にも優れている。そのため、前述の防水パンのほか、例えば、長尺状のキッチンカウンターや洗面カウンター、トイレカウンター、キッチンシンク、洗い場付き浴槽及びその他の家具等、種々の成形品に、本実施形態を適用することができる。
【0069】
また、前記実施形態においては、織布には、目抜き平織りのクロス14aが用いられるものとして説明したが、これに制限されない。柄材18が、織布の構成繊維間の間隙を通って、織布の一方の面側から他方の面側に流動(移動)することを抑制することができれば、他の織り組織の織布を用いてもよい。
【0070】
例えば、クロスの織り方は、朱子織り、模紗織り、からみ織り、綾織り等でもよい。朱子織りは、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の交錯点を一定の間隔に配置した、浮き糸が多い織り方である。この朱子織りは、綾織りよりも柔軟性に富み、複雑な曲面の成形に適し、一方向に最高強度を出すことができるという特長を有する。模紗織りは、数本の糸をまとめて経糸及び緯糸に用い、目抜き平織りのように織る織り方であり、経糸及び緯糸が目ずれしにくいという特長を有する。からみ織りは、2本或いはそれ以上の経糸を、1本の緯糸にからみ合わせる、隙間の多い織り方である。からみ織りは、本数の少ない織物を目ずれしないように織ることができるという特長を有する。綾織りは、経糸、緯糸共に最小3本ずつを用い、はっきりした斜線が見える密度の高い織り方である。平織りよりもソフトで、かつ、ドレープ性があるという特長を有する。
従って、朱子織りで織られたクロス及び模紗織りで織られたクロスを、特に好ましく用いることができる。
【0071】
また、前記実施形態においては、柄材18の大きさL2は、クロス14aの間隙17の大きさL1よりも大きいものとして説明したが、これに制限されない。例えば、成形材料は、間隙17の大きさL1よりも小さい柄材18を含んでいてもよい。この小さな柄材18は、他の大きな柄材18によって、クロス14aの一方の面側から他方の面側に流動(移動)することを抑制されるからである。
【0072】
また、前記実施形態の加飾用成形シート5の製造方法においては、含浸工程(図4に示すステップST2)の後に、熟成工程(図4に示すステップST3)及びシートロール形成工程(図4に示すステップST4)を更に含むものとして説明したが、これに制限されない。熟成工程及び/又はシートロール形成工程は、含浸工程の後に、必要に応じて付加すればよい。
【0073】
また、前記実施形態の加飾用成形シート5の製造方法においては、最終工程として、シートロール形成工程(図4に示すステップST4)を含むものとして説明したが、これに制限されない。加飾用成形シート5の製造方法は、最終工程として、例えば、含浸工程又は熟成工程を経た加飾用成形シート5の所定量を所定の幅に折り畳んで積層する折り畳み工程を更に含んでもよい。
【0074】
また、前記実施形態の加飾用成形シート5の製造方法においては、熟成部47(図3参照)において含浸工程を行うものとして説明したが、前記シートロール形成工程で得られたシートロール49a又は前記折り畳み工程で得られたシートを、更に所定の熟成室(図示せず)において熟成させてもよい。
【0075】
また、前記実施形態の成形品10の製造工程においては、リブ成形用凹部31aを有する可動金型31を、成形品10の表側を形成する固定金型32の上側に配するものとして説明したが、これに制限されない。例えば、リブ成形用凹部を有する金型を固定金型とし、成形品10の表側を形成する可動金型の下側に配してもよい。
【0076】
また、前記実施形態の加飾用成形シート5の製造方法及び成形品10の製造方法においては、加飾用の柄材18が含有された成形材料を用いるものとして説明したが、これに制限されない。例えば、透明感のある加飾用成形シート5又は透明感のある加飾層20を有する成形品10を形成する場合には、成形材料に柄材18を含有させなくてもよい。
【符号の説明】
【0077】
5 加飾用成形シート
10 成形品
11 構造層
12 リブ部
13 第1の成形材料
14 織布層
14a クロス(織布)
17 間隙
18 柄材
20,20a 加飾層(第1の層)
20b 第2の層
21 第2の成形材料
25 キャリアフィルム(保護フィルム)
31 可動金型(第1の金型)
32 固定金型(第2の金型)
49a シートロール
L1,L2 大きさ
ST1 シート形成工程
ST2 含浸工程
ST3 熟成工程
ST4 シートロール形成工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維間に所定の間隙を有する織布により構成された織布層と、
前記織布層の一方の面側に配置され、加飾用の成形材料を含む第1の層と、
前記織布層の他方の面側に配置され、前記成形材料を含む第2の層と、
を一体に備える加飾用成形シート。
【請求項2】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有する請求項1に記載の加飾用成形シート。
【請求項3】
前記第1の層及び前記第2の層の表面には、剥離可能な保護フィルムを備える請求項2に記載の加飾用成形シート。
【請求項4】
前記織布における前記間隙の大きさは、前記柄材の大きさよりも小さい請求項2又は3に記載の加飾用成形シート。
【請求項5】
構成繊維間に所定の間隙を有する織布が配置される一方のキャリアフィルムと該織布と対向するように配置される他方のキャリアフィルムとの間に、加飾用の成形材料を配置し、前記一方のキャリアフィルム及び前記他方のキャリアフィルムを厚み方向に圧縮することにより加飾用成形シートを形成するシート形成工程と、
前記シート形成工程によって形成された前記加飾用成形シートを更に圧縮し、前記成形材料を前記織布に含浸させる含浸工程と、
を含む加飾用成形シートの製造方法。
【請求項6】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有する請求項5に記載の加飾用成形シートの製造方法。
【請求項7】
前記含浸工程を経た前記加飾用成形シートを所定温度で所定時間加熱する熟成工程を更に含む請求項5又は6に記載の加飾用成形シートの製造方法。
【請求項8】
前記加飾用成形シートの所定量をロール状に巻き取ってシートロールを形成するシートロール形成工程を更に含む請求項5から7のうちのいずれか一つに記載の加飾用成形シートの製造方法。
【請求項9】
第1の成形材料により構成され、一方の面側に形成されたリブ部を有する構造層と、
加飾用の成形材料を、構成繊維間に所定の間隙を有する織布に予め含浸させてなる第2の成形材料により構成され、前記構造層の他方の面側に固着される加飾層と、を備え、
前記構造層及び前記加飾層が熱圧成形によって一体的に構成された成形品。
【請求項10】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有する請求項9に記載の成形品。
【請求項11】
第1の成形材料を、補強用のリブ部を成形品の裏側に形成する第1の金型に対向するように配置し、加飾用の成形材料を構成繊維間に所定の間隙を有する織布に予め含浸させてなる第2の成形材料を、前記成形品の表側を形成する第2の金型に対向するように配置する材料配置工程と、
前記材料配置工程によって配置された前記第1の成形材料及び前記第2の成形材料を熱圧成形する熱圧成形工程と、
を含む成形品の製造方法。
【請求項12】
前記加飾用の成形材料は、加飾用の柄材を含有する請求項11に記載の成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−144027(P2012−144027A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6206(P2011−6206)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(593078279)吉本産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】