説明

動力伝達装置

【課題】2つの入力要素から動力の入力が可能で、いずれか一方の入力要素から動力が入力された場合に出力を行う動力伝達装置において、動力伝達装置全体の高さを抑制する。
【解決手段】この動力伝達装置は、自身の軸心回りに回転可能に配設されたサンギヤ31と、サンギヤの軸心回りに回転可能に配設されたリングギヤ32と、サンギヤおよびリングギヤとそれぞれ歯合し、自身の軸心回りに回転可能、且つサンギヤの軸心回りに公転可能に配設され、サンギヤおよびリングギヤのいずれか一方の択一的な回転に伴って従動するプラネタリギヤと、サンギヤの軸心を通過する平面に投影したときにサンギヤの軸心と略直交する軸の回りの回転をサンギヤの軸心回りの回転に変換することにより、上記軸の回りの回転で発生する動力をサンギヤまたはリングギヤに伝達する伝達機構50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの入力要素から動力の入力が可能で、いずれか一方の入力要素から動力が入力された場合に出力を行うようにした動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、2つの入力要素から動力の入力が可能で、いずれか一方の入力要素から動力が入力された場合に出力を行うようにした動力伝達装置としては、超音波モータによる自動焦点調節と、手動操作による手動焦点調節とが可能なカメラのレンズ鏡筒に関する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。このレンズ鏡筒では、超音波モータによって回転する駆動部材と、手動操作によって回転する操作部材との間に中間ギヤ部材が介在しており、この中間ギヤ部材をプラネタリギヤ、駆動部材をリングギヤ、操作部材をサンギヤとして遊星歯車機構が構成されている。中間ギヤ部材のキャリヤは、動力伝達対象であるレンズ駆動筒に接続されている。
【0003】
上記のように構成されたレンズ鏡筒では、超音波モータが駆動した場合、あるいは操作部材を回転操作した場合のいずれにおいても、中間ギヤ部材を公転させ、キャリヤを介してレンズ駆動筒を回転させることにより、スイッチの切り替え操作を行うことなく、2つの動作を行うことができる。
【0004】
ところで、駆動部材又は操作部材を回転操作して中間ギヤ部材を公転させている間に他方の部材の回転を規制するために、特許文献1においては、次のように超音波モータを利用している。即ち、操作部材に係合可能な係合部材を非回転部材に配設し、係合部材を操作部材に係合させた状態で超音波モータを駆動させることにより、駆動部材の回転によって中間ギヤ部材を公転させる。一方、操作部材を回転操作する際には、無通電状態の超音波モータにおいてステータとロータとの間に生じる摩擦力を利用し、駆動部材の回転を規制する。しかしながら、このような構成によれば、アクチュエータとして適用できるのが回転負荷トルクの大きい超音波モータに限定されてしまう。また、このような構成によっても、キャリヤに加えられる負荷が増大した場合には、中間ギヤ部材が公転せずに自転して駆動部材が回転してしまい、レンズ駆動鏡を回転させることが困難になることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−115760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、このような動力伝達装置においては、超音波モータの駆動力を遊星歯車機構に入力するために、超音波モータの駆動軸の軸心が遊星歯車機構の軸心に合致するように両者を配置するので、動力伝達装置全体の高さが高くなり、小型レンズに搭載し難いという問題が生じている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、装置全体の高さを抑制することができる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る動力伝達装置は、自身の軸心回りに回転可能に配設された第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設された第2ギヤ部材と、前記第1および第2ギヤ部材とそれぞれ歯合し、自身の軸心回りに回転可能、且つ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に配設され、前記第1および第2ギヤ部材のいずれか一方の択一的な回転に伴って従動する中間ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材の軸心を通過する平面に投影したときに前記第1ギヤ部材の軸心と略直交する軸の回りの回転を前記第1ギヤ部材の軸心回りの回転に変換することにより、前記軸の回りの回転で発生する動力を前記第1および第2ギヤ部材のいずれか一方に伝達する伝達手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記伝達手段が、自身の軸心に対して傾斜したギヤ歯を有し、前記軸の回りに回転可能に配設された第1傾斜ギヤ部材と、自身の軸心に対して傾斜したギヤ歯を有し、前記第1傾斜ギヤ部材に歯合すると共に、前記第1ギヤ部材の軸心に平行な軸回りに回転可能に配設された第2傾斜ギヤ部材とを有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記第1傾斜ギヤ部材がネジ歯を有するウォームであり、前記第2傾斜ギヤ部材が、前記ネジ歯に歯合可能な斜歯を有するウォームホイール又は斜歯歯車であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記第1ギヤ部材がギヤ軸を有し、前記第2傾斜ギヤ部材が、前記ギヤ軸に固着されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記第2傾斜ギヤ部材がギヤ軸を有し、前記伝達手段が、前記第2傾斜ギヤ部材のギヤ軸に固着され、且つ、前記第2ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材をさらに有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記伝達手段が伝達する動力を発生する動力発生手段をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る動力伝達装置は、上記発明において、前記動力発生手段が、前記軸を駆動軸とするアクチュエータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1ギヤ部材の軸心を通過する平面に投影したときに第1ギヤ部材の軸心と略直交する軸の回りで発生する動力を、伝達手段によって第1ギヤ部材の軸心回りの回転に変換してから第1又は第2ギヤ部材に伝達する。そのため、そのような軸に駆動軸の軸心が合致するような向きにアクチュエータを配設することができる。即ち、駆動軸の軸心が第1ギヤ部材の軸心に合致するようにアクチュエータを配設する必要がなくなるので、動力伝達装置全体の高さを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1である動力伝達装置を概念的に示す斜視図である。
【図2A】図2Aは、図1の動力伝達装置を示す正面図である。
【図2B】図2Bは、図1の動力伝達装置を示す上面図である。
【図3】図3は、図1の動力伝達装置の要部を示す斜視図である。
【図4】図4は、図3の動力伝達装置の一部を示す斜視図である。
【図5】図5は、図2AのA−A線断面図である。
【図6】図6は、図2BのB−B線断面図である。
【図7】図7は、図2BのC−C線断面図である。
【図8】図8は、図2BのD−D線断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2である動力伝達装置を示す斜視図である。
【図10】図10は、図9の動力伝達装置の要部を示す斜視図である。
【図11】図11は、図10の動力伝達装置の要部を示す上面図である。
【図12】図12は、図11のE−E線一部断面図である。
【図13】図13は、図11のF−F線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る動力伝達装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る動力伝達装置を示している。この動力伝達装置1は、いわゆるオートフォーカス機能を備えたレンズ鏡筒において、動力を発生するアクチュエータによる自動焦点調節と、手動操作による手動焦点調節とを可能とするものである。アクチュエータとしては、DC(直流)モータやステッピングモータ、超音波モータ等、回転駆動力を発生するものであればいずれを適用しても良く、本実施の形態1においては、DCモータを用いている。
【0019】
図2Aおよび図2Bに示すように、動力伝達装置1は、ギヤケース10と、DCモータ20とを有している。
ギヤケース10は、第1カバー部材11および第2カバー部材12を含んでいる。各カバー部材11、12は凹部を有する箱状を成しており、これらを互いに向かい合わせることによってギヤ等の収納空間が形成されている。また、ギヤケース10の外形は、レンズ駆動筒LDやマニュアルフォーカスリングMRの形状に合わせて弧状となるように成型されている。さらに、ギヤケース10の一部には挿通孔や切り欠き部が設けられており、ギヤケース10内に収納されているギヤの一部は、これらの挿通孔等からギヤケース10の外部に突出するように配設されている。
【0020】
DCモータ20は、モータ固定プレート13を介してギヤケース10に取り付けられている。また、DCモータ20は、駆動軸21を備えている。駆動軸21はDCモータ20が駆動した場合に回転駆動する部分であり、DCモータ20本体部分の一端面の中央から突出している。駆動軸21は、モータ固定プレート13に形成された貫通孔13aを貫通している。このようなDCモータ20は、駆動軸21の軸心をサンギヤ軸31bの軸心を通過する平面に投影したときに、両軸心が略直交する位置関係となるように配設されている。
【0021】
また、図3に示すように、動力伝達装置1は、遊星歯車機構30と、出力ギヤユニット40と、伝達機構50と、マニュアル入力ユニット60と、クラッチユニット70と、ブレーキユニット80とを備えている。
【0022】
図4及び図5に示すように、遊星歯車機構30は、サンギヤ(第1ギヤ部材)31と、リングギヤ(第2ギヤ部材)32と、プラネタリギヤ(中間ギヤ部材)33とを有している。サンギヤ31は、外周部にギヤ部31aを有する平歯車である。また、リングギヤ32は、外周部及び内周部の双方にギヤ部32a、32bを有する円筒状のギヤであり、その軸心がサンギヤ軸31bと合致するように配設されている。プラネタリギヤ33は、外周部にギヤ部33aを有する平歯車であり、リングギヤ31の内側、且つサンギヤ31の周囲に3つ配設されている。各プラネタリギヤ33は、ギヤ部33aを介してサンギヤ31およびリングギヤ32に歯合しており、各々が自身の軸心回りに回転可能、且つサンギヤ31の軸心回りに公転可能となっている。
【0023】
図6に示すように、出力ギヤユニット40は、支持盤41と、支持盤41から突出してプラネタリギヤ33の内周を貫通し、プラネタリギヤ33を回転可能に支持する支持部42と、外周にギヤ歯が形成された出力ギヤ43とを有している。これらの支持盤41と、支持部42と、出力ギヤ43とは、一体的に成型されている。このような出力ギヤユニット40は、サンギヤ軸31bの軸心回りに回転可能に配設されており、プラネタリギヤ33の公転運動に従動して回転する。また、出力ギヤ43は、第2カバー部材12の挿通孔14を通って外側に突出するように配設されており、出力ギヤユニット40の回転によって発生する動力をレンズ駆動筒LDに伝達する。
【0024】
図3および図6に示すように、伝達機構50は、DCモータ20から出力される駆動力を、その回転軸の方向をサンギヤ31の軸心と平行となるように変換してサンギヤ31に入力するものであり、ウォーム(第1傾斜ギヤ部材)51およびウォームホイール(第2傾斜ギヤ部材)52を有している。ウォーム51は、ネジ歯を成すギヤ部51aを外周部に有するネジ歯ギヤであり、DCモータ20の駆動軸21に固着されて該駆動軸21の軸心回りに回転する。一方、ウォームホイール52は、ウォーム51に歯合可能なギヤ部52aを外周部に有するヘリカルギヤ(斜歯歯車)であり、サンギヤ軸31bに固着されて該サンギヤ軸31bの軸心回りに回転する。さらに、ウォーム51とウォームホイール52とは、それぞれのギヤ部51a、52aが互いに歯合するように配設されている。
【0025】
図3および図7に示すように、マニュアル入力ユニット60は、マニュアル入力ギヤ61とマニュアル伝達ギヤ62と突出部63とを有している。マニュアル入力ギヤ61およびマニュアル伝達ギヤ62は外周部に平歯が形成されたギヤであり、突出部63と共に軸心を合わせて一体的に成型されている。また、マニュアル入力ギヤ61の中心部には凹部64が形成されている。このようなマニュアル入力ユニット60は、第1カバー部材11に形成された凸部15を凹部64に嵌合させると共に、第2カバー部材12に設けられた挿通孔16に突出部63を嵌合させることにより位置決めされ、軸心回りに回転可能に配設されている。また、マニュアル入力ギヤ61の外周部の一部は、第1カバー部材11に設けられた切り欠き部17から外に突出しており、この突出している部分がマニュアルフォーカスリングMRのギヤ部MRGと歯合している。一方、マニュアル伝達ギヤ62は後述する第1クラッチギヤ71に歯合している。
【0026】
図3、図6、図7に示すように、クラッチユニット70は、第1クラッチギヤ71および第2クラッチギヤ72を有している。第1クラッチギヤ71および第2クラッチギヤ72は、外周部にギヤ部を有する平歯車である。また、第1クラッチギヤ71にはクラッチ板73が固着されており、第2クラッチギヤ72には、このクラッチ板73に当接するボス部72aが形成されている。これらの第1クラッチギヤ71および第2クラッチギヤ72は、クラッチシャフト74によって軸心回りに回転可能に支持されている。さらに、第1クラッチギヤ71は、マニュアル伝達ギヤ62に歯合していると共に、後述するブレーキギヤ81にも歯合している。一方、第2クラッチギヤ72は、リングギヤ32に歯合している。
【0027】
クラッチシャフト74の両端部は、第1カバー部材11に形成された凹部18aおよび第2カバー部材12に形成された孔部18bにそれぞれ嵌合されて位置決めされている。また、クラッチシャフト74にはEリング(E型止め輪)75が取り付けられている。さらに、クラッチシャフト74の長手方向の端部付近にはフランジ部74aが設けられている。このフランジ部74aと第2クラッチギヤ72との間には、ワッシャ76および圧縮した状態の押圧スプリング77が介在している。第1クラッチギヤ71、第2クラッチギヤ72、およびクラッチ板73は、Eリング75と押圧スプリング77とフランジ部74aとによって挟持され、圧接した状態となっている。
【0028】
図8に示すように、ブレーキユニット80は、ブレーキギヤ81と、該ブレーキギヤ81を軸心回りに回転可能に支持するブレーキシャフト82とを有している。ブレーキギヤ81は外周部にギヤ部を有する平歯車であり、第1クラッチギヤ71と歯合している。また、ブレーキシャフト82の両端部は、第1カバー部材11に形成された凹部19aおよび第2カバー部材12に形成された孔部19bにそれぞれ嵌合されて位置決めされている。さらに、ブレーキシャフト82にはEリング83が取り付けられている。
【0029】
ブレーキギヤ81の一端面(図の上側)には、ワッシャ84に当接するボス部81aが形成されており、ブレーキギヤ81の他端面(図の下側)には、ワッシャ85に当接するボス部81bが形成されている。また、ブレーキシャフト82の長手方向の端部付近には、フランジ部82aが設けられており、このフランジ部82aとワッシャ85との間には、圧縮した状態の押圧スプリング86が介在している。ワッシャ84、ブレーキギヤ81、およびワッシャ85は、Eリング83と押圧スプリング86とフランジ部82aとによって挟持され、圧接した状態となっている。
【0030】
このように構成した動力伝達装置1は、例えば図1に示すように、マニュアル入力ギヤ61をマニュアルフォーカスリングMRの内周面に設けたギヤ部MRGに歯合させる一方、出力ギヤ43をレンズ駆動筒LDの内周面に設けたギヤ部LDGに歯合させる態様でレンズ鏡筒に付設させて用いる。
【0031】
いま、このレンズ鏡筒においてDCモータ20を駆動すると、駆動力がウォーム51およびウォームホイール52を介してサンギヤ31に入力され、サンギヤ31が一方向に回転する。このとき、動力伝達装置1では、第2クラッチギヤ72のボス部72aが押圧スプリング77によってクラッチ板73に圧接された状態にある。そのため、第2クラッチギヤ72とクラッチ板73との間に作用する摩擦力により、第2クラッチギヤ72の第1クラッチギヤ71に対する相対的な回転が規制されている。一方、ブレーキギヤ81も、ボス部81aとワッシャ84との間、およびボス部81bとワッシャ85との間でそれぞれ生じる摩擦力により、その回転が規制されている。結局、ブレーキユニット80による第1クラッチギヤ71の回転規制に伴い、第2クラッチギヤ72の回転も規制されるので、これに歯合するリングギヤ32の回転も規制されることになる。それにより、サンギヤ31の回転運動は全てプラネタリギヤ33の自転および公転運動に伝達され、プラネタリギヤ33の公転運動に従動する出力ギヤユニット40の回転によってレンズ駆動筒LDが回転する。また、この間、上記第1クラッチギヤ71に対する回転規制により、マニュアル入力ユニット60およびマニュアルフォーカスリングMRが回転してしまう事態も回避することができる。
【0032】
一方、手動焦点調節を行う場合には、マニュアルフォーカスリングMRを回転操作することにより、マニュアル入力ギヤ61を回転させる。その際には、押圧スプリング86の押圧力によるボス部81a、81bの摩擦力に打ち勝つような回転力を、外部からマニュアルフォーカスリングMRに加える。それにより、第1クラッチギヤ71および第2クラッチギヤ72を介してリングギヤ32が回転する。ここで、ウォーム51の軸心とウォームホイール52の軸心とは投影面において直交する位置関係にあり、ウォーム51およびウォームホイール52の作用によってサンギヤ31の回転は規制されている。そのため、リングギヤ32の回転運動はすべてプラネタリギヤ33の公転運動を介して出力ギヤ43に伝達され、さらにレンズ駆動筒LDに動力が伝えられる。
【0033】
ここで、一般的な動力伝達装置には、マニュアルフォーカスリングを回転させた際にレンズの操作角度の両端においてレンズ駆動鏡がそれ以上回転しないように、ストッパー機構が設けられている。そのため、マニュアルフォーカスリングを無理に大きな力で回転させると、レンズ駆動筒の回転が規制されているにもかかわらず、動力伝達装置内部の歯車に回転力が発生し、その回転力の逃げ場がなくなって歯車や周辺機構が破損する虞れがある。それに対して、本実施の形態1に係る動力伝達装置1においては、そのような場合、言い換えると、レンズの操作角両端部にも関わらず、マニュアルフォーカスリングを大きな力で回転させた場合、次のようにして動力伝達装置1内部の歯車等の破損を防止している。即ち、出力ギヤユニット40はレンズ駆動筒LDに対する回転規制により回転できず、また、サンギヤ31も上記ウォーム51及びウォームホイール52の作用により回転できないため、プラネタリギヤ33およびリングギヤ32は共に回転を規制されている。このとき、マニュアル入力ユニット60と歯合する第1クラッチギヤ71の回転力が、ボス部72aとクラッチ板73との間の摩擦力に打ち勝つようになると、第1クラッチギヤ71が空転し始めるので、その回転力を逃がすことができる。
【0034】
以上詳細に説明したように、実施の形態1においては、DCモータ(アクチュエータ)20の駆動力の回転軸方向を変換する伝達機構50を設けたので、駆動軸21の軸心をサンギヤ軸31bの軸心を通過する平面に投影したときに両軸心が略直交する位置関係となるように、DCモータ20を配設することができる。それにより、駆動軸21の軸心をサンギヤ軸31bに合致させる一般的なDCモータの配置に比較して、動力伝達装置全体の高さを抑えることが可能となる。その結果、小型レンズへの動力伝達装置の搭載が容易になる。
【0035】
また、上記構成により、DCモータ20を駆動していない間は伝達機構50によってサンギヤ31の回転が規制されている状態となるので、マニュアルフォーカスリングMRを操作した際にマニュアル入力ギヤ61からの動力を確実に出力ギヤ43に伝えることが可能となる。このように、伝達機構50によってサンギヤ31に対する回転規制の作用が得られるため、アクチュエータとして、回転負荷トルクはそれほど高くないが安価なDCモータやステッピングモータを適用できるようになり、製造コストを削減することが可能となる。
さらに、ウォームギヤは減速比が高いので、減速比に対するバックラッシを小さくすることができ、動力を高精度に伝達することが可能となる。
【0036】
加えて、実施の形態1においては、伝達機構50においてウォームギヤを用いているので、通常の平歯車よりもかみ合い周波数を小さくすることができ、一般的な動力伝達装置よりも騒音レベルを小さくできるという効果も得られる。
【0037】
(実施の形態2)
図9は、本発明の実施の形態2に係る動力伝達装置の外観を示す図である。図9に示す動力伝達装置2は、第1カバー部材131および第2カバー部材132を含むギヤケース130と、モータ固定プレート133を介してギヤケース130に取り付けられたDCモータ20とを有している。
【0038】
図10は、図9に示すギヤケース130の内部の様子を示す図である。動力伝達装置2は、遊星歯車機構30と、出力ギヤユニット40と、DCモータ20から出力される駆動力を遊星歯車機構30に伝達する伝達機構110と、マニュアル入力ユニット120とを備えている。DCモータ20は、駆動軸21の軸心をサンギヤ軸31bの軸心を通過する平面に投影したときに、両軸心が略直交する位置関係となるように配設されている。
【0039】
遊星歯車機構30は、サンギヤ31と、リングギヤ32と、プラネタリギヤ33とを有している。また、出力ギヤユニット40は、このプラネタリギヤ33の公転運動に従動して回転するものであり、第1カバー部材131に設けられた挿通孔131aから突出するように配設された出力ギヤ43を介して、動力をレンズ駆動筒に伝達する。なお、遊星歯車機構30および出力ギヤユニット40は実施の形態1と同様に構成されている。
【0040】
図10〜図12に示すように、伝達機構110は、ウォーム(第1傾斜ギヤ部材)111と、ウォームホイール(第2傾斜ギヤ部材)112と、伝達ギヤ(第3ギヤ部材)113とを有している。ウォーム111は、外周部にネジ歯を成すギヤ部が形成されたネジ歯ギヤであり、DCモータ20の駆動軸21に固着されて該駆動軸21の軸心回りに回転する。また、ウォームホイール112は、ウォーム111に歯合可能なギヤ部を外周部に有するヘリカルギヤ(斜歯歯車)であり、自身の軸心回りに回転可能に配設されている。さらに、伝達ギヤ113は、外周部にギヤ部を有する平歯車であり、ウォームホイール112のギヤ軸114に固着されて、又は該ギヤ軸114と一体的に成型されてギヤ軸114の軸心回りに回転する。ウォーム111、ウォームホイール112、および伝達ギヤ113は、ウォーム111とウォームホイール112とが互いに歯合し、且つ伝達ギヤ113とリングギヤ32のギヤ部32aとが歯合するように配設されている。
【0041】
図10に示すように、マニュアル入力ユニット120は、外周部にギヤ部を有する平歯車であるマニュアル入力ギヤ121と、このマニュアル入力ギヤ121と歯合する第1マニュアル伝達ギヤ122と、サンギヤ31と歯合する第2マニュアル伝達ギヤ123とを有している。図11に示すように、マニュアル入力ギヤ121は、その一部が第2カバー部材132に設けられた切り欠き部132aからギヤケース130の外側に突出し、且つ自身の軸心回りに回転可能に配設されている。また、図13に示すように、第1マニュアル伝達ギヤ122および第2マニュアル伝達ギヤ123は、互いに軸心を合わせて一体的に成型されていると共に、軸心周りに回転可能に配設されている。第1マニュアルギヤ122に入力された回転を変速するために、第2マニュアル伝達ギヤ123の外径は第1マニュアル伝達ギヤ122の外径よりも大きく設計されている。
【0042】
このように構成した動力伝達装置2は、実施の形態1と同様に、マニュアル入力ギヤ121をマニュアルフォーカスリングの内周面に設けたギヤ部に歯合させる一方、出力ギヤ43をレンズ駆動筒の内周面に設けたギヤ部に歯合させる態様でレンズ鏡筒に付設されて用いる。
【0043】
このレンズ鏡筒においてDCモータ20を駆動すると、その駆動力がウォーム111、ウォームホイール112、および伝達ギヤ113を介してリングギヤ32に入力される。リングギヤ32に回転力が発生すると、リングギヤ32内周部のギヤ部32bに歯合しているプラネタリギヤ33が自転および公転運動を開始し、この公転運動に従動して、出力ギヤユニット40が回転する。それにより、出力ギヤ43を介して動力が伝達され、レンズ駆動筒が動作する。
【0044】
一方、手動焦点調節を行う場合には、マニュアルフォーカスリングを回転操作することにより、マニュアル入力ギヤ121を回転させる。マニュアル入力ギヤ121が回転すると、第1マニュアル伝達ギヤ122および第2マニュアル伝達ギヤ123を介して、サンギヤ31に回転力が発生する。そして、サンギヤ31に回転力が発生すると、サンギヤ31に歯合しているプラネタリギヤ33が自転および公転運動を開始し、この公転運動に従動して、出力ギヤユニット40が回転する。このとき、ウォーム111及びウォームホイール112の作用により、伝達ギヤ113を介してリングギヤ32の回転は規制されている。そのため、サンギヤ31の回転運動はすべてプラネタリギヤ33の公転運動を介して出力ギヤ43に伝達され、さらに、レンズ駆動筒LDに動力が伝えられる。
【0045】
以上詳細に説明したように、実施の形態2においては、DCモータ20の駆動力の回転軸方向を変換する伝達機構110を設けたので、駆動軸21の軸心をサンギヤ軸31bの軸心を通過する平面に投影したときに両軸心が略直交する位置関係となるように、DCモータ20を配設することができる。それにより、動力伝達装置全体の高さを抑えることが可能となる。また、DCモータ20を駆動していない間は伝達機構110によってリングギヤ32の回転が規制されている状態となるので、マニュアルフォーカスリングMRを操作した際にマニュアル入力ギヤ121からの動力を確実に出力ギヤ43に伝えることが可能となる。このように、伝達機構110のウォームギヤ(ウォーム111およびウォームホイール112)によってリングギヤ32に対する回転規制の作用が得られるため、アクチュエータとして適用できるモータ選択の自由度が高まると共に、製造コストの削減が可能となる。併せて、ウォームギヤは減速比が高いので、減速比に対するバックラッシを小さくすることができ、動力を高精度に伝達することが可能となる。さらに、実施の形態2においても、伝達機構110においてウォームギヤを用いることにより、通常の平歯車よりもかみ合い周波数を小さくすることができ、一般的な動力伝達装置よりも騒音レベルを小さくできるという効果が得られる。
【0046】
以上説明した本発明の実施の形態1および2においては、伝達機構としてウォームおよびウォームホイールを組み合わせたウォームギヤを用いたが、自身の軸心に対して傾斜したギヤ歯が形成されたギヤであれば、どのようなギヤを組み合わせて用いても構わない。例えば、ねじれ角が45度のヘリカルギヤを2つ組み合わせたスパイラルギヤ(ねじ歯車)を用いても、アクチュエータから出力される回転動力の軸を略90度方向転換することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、2 動力伝達装置
10 ギヤケース
11 第1カバー部材
12 第2カバー部材
13 モータ固定プレート
20 DC(直流)モータ
21 駆動軸
30 遊星歯車機構
31 サンギヤ
32 リングギヤ
33 プラネタリギヤ
40 出力ギヤユニット
41 支持盤
42 支持部
43 出力ギヤ
50 伝達機構
51 ウォーム
52 ウォームホイール
60 マニュアル入力ユニット
61 マニュアル入力ギヤ
62 マニュアル伝達ギヤ
63 突出部
70 クラッチユニット
71 第1クラッチギヤ
72 第2クラッチギヤ
73 クラッチ板
74 クラッチシャフト
76 ワッシャ
77 押圧スプリング
80 ブレーキユニット
81 ブレーキギヤ
82 ブレーキシャフト
83 Eリング
84、85 ワッシャ
86 押圧スプリング
110 伝達機構
111 ウォーム
112 ウォームホイール
113 伝達ギヤ
114 ギヤ軸
120 マニュアル入力ユニット
121 マニュアル入力ギヤ
122 第1マニュアル伝達ギヤ
123 第2マニュアル伝達ギヤ
130 ギヤケース
131 第1カバー部材
132 第2カバー部材
LD レンズ駆動筒
MR マニュアルフォーカスリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の軸心回りに回転可能に配設された第1ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設された第2ギヤ部材と、
前記第1および第2ギヤ部材とそれぞれ歯合し、自身の軸心回りに回転可能、且つ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に配設され、前記第1および第2ギヤ部材のいずれか一方の択一的な回転に伴って従動する中間ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材の軸心を通過する平面に投影したときに前記第1ギヤ部材の軸心と略直交する軸の回りの回転を前記第1ギヤ部材の軸心回りの回転に変換することにより、前記軸の回りの回転で発生する動力を前記第1および第2ギヤ部材のいずれか一方に伝達する伝達手段と、
を備えることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記伝達手段は、
自身の軸心に対して傾斜したギヤ歯を有し、前記軸の回りに回転可能に配設された第1傾斜ギヤ部材と、
自身の軸心に対して傾斜したギヤ歯を有し、前記第1傾斜ギヤ部材に歯合すると共に、前記第1ギヤ部材の軸心に平行な軸回りに回転可能に配設された第2傾斜ギヤ部材と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記第1傾斜ギヤ部材は、ネジ歯を有するウォームであり、
前記第2傾斜ギヤ部材は、前記ネジ歯に歯合可能な斜歯を有するウォームホイール又は斜歯歯車であることを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記第1ギヤ部材はギヤ軸を有し、
前記第2傾斜ギヤ部材は、前記ギヤ軸に固着されていることを特徴とする請求項2または3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2傾斜ギヤ部材はギヤ軸を有し、
前記伝達手段は、前記第2傾斜ギヤ部材のギヤ軸に固着され、且つ、前記第2ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材をさらに有することを特徴とする請求項2または3に記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記伝達手段が伝達する動力を発生する動力発生手段をさらに備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記動力発生手段は、前記軸を駆動軸とするアクチュエータであることを特徴とする請求項6に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−179593(P2011−179593A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44574(P2010−44574)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(503366841)株式会社アイカムス・ラボ (27)
【Fターム(参考)】