説明

化合物、誘導体、組成物、硬化物、並びに化合物及び誘導体の製造方法

【課題】蛍光特性を有さず、かつ、高融点、高光屈折性、及びビスフェノール構造に起因する反応多様性を兼ね備えた新規な化合物及びこの製造方法を提供することを目的とする。また、この化合物の誘導体、これらを含む組成物、及びこの組成物から得られる硬化物を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明は、下記式(1)で表される化合物である。


(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な化合物、この誘導体、これらを含む組成物、硬化物、並びに上記化合物及び誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アントラセンは、木材の殺虫材や保存安定剤、塗料等の他、エポキシ樹脂やカーボンブラックの製造原料、アントラキノン染料の合成原料等の種々の用途に利用されている。このアントラセンは、ベンゼン環が3個縮合した縮合多環芳香族化合物であるため、構造的な硬さ、炭素密度の高さ、高融点、高屈折率等の有用な特性を有している。かかる特性を付加価値として更なる活用を図るべく、アントラセンの様々な応用展開が試みられている。これまでも種々のアントラセン誘導体が、多岐にわたる技術分野で付加価値の高い材料として開発されている。
【0003】
例えば、アントラセンの9,10位に(メタ)アクリレート基を導入し、重合性モノマーとすることで、光ラジカル重合の増感剤として作用する光硬化ポリマー(特開2007−99637号公報参照)や、紫外線吸収能や難燃性を有するポリマー(特開2008−1637号公報参照)を得ることができる。
【0004】
また、フォトレジストの分野においても、アントラセン誘導体を用い、高感度、高解像性、高エッチング耐性、低昇華性などの利点を有する感放射性樹脂組成物(特開2005−346024号公報参照)や、レジスト樹脂とのインターミキシングを防止する反射防止膜(特開平7−82221号公報参照)等を得ることができる。
【0005】
また、アントラセンが高屈折率を有するという特徴を生かして、光学材料としての利用の他、高屈折率材料、低屈折率材料及び増感色素等を混合し、露光によって干渉縞を記録するホログラム記録材料としての利用も行われている(特開平6−295151号公報参照)。
【0006】
しかしながら、アントラセン及びこの誘導体は縮合多環芳香族化合物であるため、蛍光特性を有する。従って、アントラセン誘導体は、例えば光学材料分野においては適用が制限されるなどの不都合も有する。
【0007】
一方、2個以上の芳香環を有するビスフェノール系化合物に注目すると、例えば、ビスフェノールフルオレンは、分子内の芳香環に結合する水酸基及び/又は該芳香環自体の反応性を利用して、新規な各種ポリマー、例えばエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリレート樹脂、アリール系オリゴマー等の製造に用いられている(例えば、特開平9−328534号公報参照)。これらのビスフェノール系化合物由来の樹脂は、光学材料、電子材料等の多様な用途に適用される。このように、ビスフェノール系化合物は、反応が多様であり、多岐に亘る応用展開を可能とする汎用性を有していることから、特に注目されている。
【0008】
以上の事情から、材料の高機能化や新たな特性の付与を可能とする新規なビスフェノール構造を有する化合物の開発が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−99637号公報
【特許文献2】特開2008−1637号公報
【特許文献3】特開2005−346024号公報
【特許文献4】特開平7−82221号公報
【特許文献5】特開平6−295151号公報
【特許文献6】特開平9−328534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、蛍光特性を有さず、かつ、高融点、高光屈折性、及びビスフェノール構造に起因する反応多様性を兼ね備えた新規な化合物及びこの製造方法を提供することを目的とする。また、この化合物の誘導体、これらを含む組成物、及びこの組成物から得られる硬化物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記式(1)で表される化合物である。
【化1】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【0012】
当該化合物は、アントラセン骨格に類似するヒドロアントラセン骨格を有するため、例えば、高融点及び高光屈折性等において、アントラセン化合物と同等程度又はそれ以上の性能を備える。一方、当該化合物は、アントラセンとは異なり、中央のベンゼン環が水素化されているため、蛍光特性を有さない。当該化合物は、さらに、反応活性な水酸基及び芳香環を有することから、ビスフェノール系化合物が備える多様な反応性を有する。従って、当該化合物は、各種樹脂原料等に用いることができる等の高い汎用性を有する。
【0013】
上記X及びYが、それぞれ置換基として少なくとも1つのアルキル基を有するとよい。当該化合物は、X及びYが、それぞれ置換基として少なくとも1つのアルキル基を有する場合、対応するアントラセン誘導体から効率よく製造することができ、生産性に優れる。また、アルキル基の種類や数を調整することで、融点や光屈折率を細かく制御することができる。
【0014】
本発明の誘導体は、上記化合物の誘導体である。当該誘導体は、各種官能基を導入すること等で、更なる特有な性質が付与され、様々な樹脂を合成する樹脂原料等として用いることができる。
【0015】
本発明の組成物は、上記化合物又は誘導体を含む組成物である。当該組成物は、高い汎用性と付加価値を有する様々な樹脂の原料組成物等として用いることができる。
【0016】
本発明の硬化物は、上記組成物を硬化して得られる硬化物である。当該硬化物は、高融点、高光屈折性等を備えることができ、多分野へ応用可能な樹脂等として使用することができる。
【0017】
本発明の化合物の製造方法は、
非反応性含酸素有機溶媒及びオキソ酸を含む触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程
を有する下記式(1)で表される化合物の製造方法である。
【化2】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【0018】
当該製造方法によれば、副反応の発生を抑えることができ、また、フェノール類の種類を選択することによって、所望する当該化合物を効率よく製造することができる。
【0019】
上記フェノール類が、少なくとも1つのアルキル基を有するフェノール系化合物であるとよい。当該製造方法によれば、副反応の発生をより抑えることができ、生産性を高めることができる。
【0020】
本発明の誘導体の製造方法は、
下記式(1)で表される化合物を酸性触媒下で反応させる工程
を有する下記式(2)で表される誘導体の製造方法である。
【化3】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【化4】

(式(2)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【0021】
当該誘導体の製造方法によれば、上記一の工程で化合物中のヒドロキシアントラセン骨格をアントラセン骨格にすることができる。従って、当該製造方法によれば、本発明の化合物から、さらに蛍光特性等を有する有用性の高い誘導体を効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明の化合物は、蛍光特性を有さず、かつ、高融点、高光屈折性、及びビスフェノール構造に起因する反応多様性を兼ね備える。また、本発明の化合物からは様々な特性を有する各種誘導体を得ることができる。これらを含む本発明の組成物及び硬化物は、材料の高機能化や新たな特性の付与に極めて効果的であり、高い汎用性と付加価値を有する樹脂原料、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料、積層材、塗料等のコーティング材料、レンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料、分子磁気メモリー等の磁性材料、有機太陽電池、有機EL素子等として多岐の技術分野での応用展開をはかることができる。さらに、本発明の製造方法によれば所望する当該化合物及びその誘導体を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の反応終了後のHPLCチャートである。
【図2】実施例1の目的物のH−NMRチャートである。
【図3】実施例1の目的物の13C−NMRチャートである。
【図4】実施例2の反応終了後のHPLCチャートである。
【図5】実施例2の目的物のH−NMRチャートである。
【図6】実施例2の目的物の13C−NMRチャートである。
【図7】比較例1の反応終了後のHPLCチャートである。
【図8】比較例1の目的物のH−NMRチャートである。
【図9】比較例1の目的物の13C−NMRチャートである。
【図10】比較例2の反応終了後のHPLCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、化合物及びこの製造方法、これを用いて得られる誘導体及びその製造方法、これらを含む組成物並びにこの硬化物の順に詳説する。
【0025】
<化合物>
本発明の化合物は、上記式(1)で表される。
当該化合物は、アントラセン骨格に類似するヒドロアントラセン骨格を有するため、例えば、高融点及び高光屈折性等において、アントラセン化合物と同等程度又はそれ以上の性能を備える。当該化合物の融点としては、例えば180℃以上であり、200℃以上とすることもできる。当該化合物の光屈折率は、例えば1.650以上であり、1.660以上とすることもできる。この融点や光屈折率は、後に詳述する置換基等によって調整することができる。一方、当該化合物は、アントラセンとは異なり、中央のベンゼン環が水素化されているため、蛍光特性を有さない。
【0026】
当該化合物は、さらに、反応活性な水酸基及び芳香環を有することから、ビスフェノール系化合物が備える多様な反応性を有する。例えば、当該化合物は、アリル化、グリシジル化、(メタ)アクリル化、メチロール化、ベンゾオキサジン化等されることができる。
【0027】
従って、当該化合物は各種樹脂原料等に用いることができる等の高い汎用性を有する。特に、当該化合物は、芳香環がヒドロアントラセン環の9位及び10位に配置されていることで、対称性が高く、また、2つ以上の水酸基により架橋すること等でポリマーの主鎖内にヒドロアントラセン骨格を導入することが可能である。従って、当該化合物によれば、ヒドロアントラセン骨格に由来する剛直さを生かした機械的特性に優れたポリマーを得ることができ、かつヒドロアントラセン骨格の短軸となる9位及び10位に芳香環が配置されているため、ポリマー骨格へ導入された際、このポリマーが極めて高い炭素密度を有する等の特有な機能が発揮される。
【0028】
上記式(1)中、X及びYで表される芳香族基としては、それぞれ置換基を有していてもよいベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン等の芳香族炭化水素から、芳香環上の水素原子を(n+1)個又は(n+1)個除いた基等が挙げられる。上記芳香族炭化水素の中でも、当該化合物の製造容易性及び吸光・蛍光の制御性等の点から、ベンゼン及びナフタレンが好ましく、ベンゼンがさらに好ましい。
【0029】
上記X及びYで表される芳香族基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルケニル基、アミノ基、メルカプト基、ヒドロキシル基等が挙げられる。これらの置換基は、X及びY毎に、1又は複数であってもよい。なお、X及びYの価数としては、これらの置換基の有無及び置換基の数に依存せず、Xは(n+1)価であり、Yは(n+1)価である。すなわち、n及びnは、X及びYにおける芳香環(置換基以外の部分)に直接結合する水酸基の数となる。
【0030】
上記アルキル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基、又は1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルキル基等が挙げられる。
【0031】
直鎖状、分岐鎖状、単環状又は縮合多環状アルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、tert−オクチル基、ネオペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、ボロニル基、4−デシルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0032】
また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状又は分岐鎖状アルキル基の具体例としては、−CH−O−CH、−CH−CH−O−CH−CH、−CH−CH−CH−O−CH−CH、−(CH−CH−O)m1−CH(ここでm1は1〜8の整数である)、−(CH−CH−CH−O)p1−CH(ここでp1は1〜5の整数である)、−CH−CH(CH)−O−CH−CH、−CH−CH−(OCH等が挙げられる。1個以上の−O−で中断されている単環状又は縮合多環状アルキル基としては、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、7−オキサノルボルニル基等が挙げられる。
【0033】
上記アルコキシ基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基、又は1個以上の−O−で中断されている直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基等が挙げられる。
【0034】
直鎖状、分岐鎖状、単環状若しくは縮合多環状アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、イソペンチルオキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、ボロニルオキシ基、4−デシルシクロヘキシルオキシ基等を挙げることができる。
【0035】
また、1個以上の−O−で中断されている直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基の具体例としては、−O−CH−O−CH、−O−CH−CH−O−CH−CH、−O−CH−CH−CH−O−CH−CH、−O−(CH−CH−O)m2−CH(ここでm2は1〜8の整数である)、−O−(CH−CH−CH−O)p2−CH(ここでp2は1〜5の整数である)、−O−CH−CH(CH)−O−CH−CH、−O−CH−CH−(OCH等を挙げることができる。1個以上の−O−で中断されている単環状又は縮合多環状アルコキシ基としては、テトラヒドロフラニルオキシ基、テトラヒドロピラニルオキシ基、7−オキサノルボルニルオキシ基等が挙げられる。
【0036】
上記アリール基としては、置換基を有していてもよい芳香環から1個の水素原子を除いた基が挙げられ、具体例としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、9−アンスリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、5−ナフタセニル基、1−インデニル基、2−アズレニル基、1−アセナフチル基、2−フルオレニル基、9−フルオレニル基、3−ペリレニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−キシリル基、2,5−キシリル基、メシチル基、p−クメニル基、p−ドデシルフェニル基、o−メトキシフェニル基、m−メトキシフェニル基、p−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、p−シクロヘキシルフェニル基、4−ビフェニル基、o−フルオロフェニル基、m−クロロフェニル基、p−ブロモフェニル基、p−ヒドロキシフェニル基、m−カルボキシフェニル基、o−メルカプトフェニル基、p−シアノフェニル基、m−ニトロフェニル基、m−アジドフェニル基等を挙げることができる。
【0037】
上記アルケニル基としては、直鎖状、分岐鎖状、単環状又は縮合多環状アルケニル基等が挙げられ、それらは構造中に複数の炭素−炭素二重結合を有していてもよく、具体例としては、ビニル基、1−プロペニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、1,3−ブタジエニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロペンタジエニル基等を挙げることができる。
【0038】
これらの上記X及びYが有する置換基の中でも、アルキル基が好ましい。X及びYにおいて、置換基としてアルキル基を有する芳香族基を備える当該化合物によれば、当該化合物の反応性を低下させることなく屈折率や融点等を調整することができる。なお、この置換基としてのアルキル基は、立体配座の安定性の点から、低分子量であることが好ましく、具体的には炭素数が5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。また、このアルキル基の数としては、X及びYそれぞれにおいて、1以上が好ましく、1〜3がより好ましく、1又は2がさらに好ましい。このアルキル基の数及び種類は、X及びYにおいて、同一でも異なっていてもよい。
【0039】
及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。このn及びnは、X及びYの芳香環に直接結合する水酸基の数となる。n及びnとしては、ともに1であることが合成容易性や水酸基の反応制御性等の点から好ましい。
【0040】
さらには、n及びnが1であり、かつ、X及びYで表される芳香族基が、置換基を有していてもよいベンゼンから、ベンゼン環上の水素原子をそれぞれ2個ずつ除いた基である場合、水酸基がヒドロアントラセン側への結合位置に対してパラ位に位置することが好ましい。加えて、上記ベンゼンが置換基としてアルキル基を有する場合、このアルキル基が、上記水酸基に対してオルト位に位置することが好ましい。当該化合物がこのような構造をとる場合、合成が容易であり生産性に優れる。また、このような場合、分子の対称性が高く、高融点化や高炭素密度化を図ることができる。
【0041】
本発明の化合物は、上記の構造を有するため、直接又は反応中間体として用いて、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の各種合成樹脂原料等として用いることができる。また、合成樹脂原料以外にも、例えば農薬中間体や、医薬中間体として用いることができる。
【0042】
<化合物の製造方法>
本発明の化合物は、例えば、
非反応性含酸素有機溶媒及びオキソ酸を含む触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程
を有する方法により製造される。この反応の反応機構は定かではないが、非反応性含酸素有機溶媒及びオキソ酸により、アントラセン−9−カルボアルデヒドの特定の炭素上の電子が局在化され、フェノール類との反応が生じること等が考えられる。なお、触媒として、オキソ酸以外の酸(例えば、塩酸)を用いると、アントラセン−9−カルボアルデヒドのアントラセン骨格が水素化されない。
【0043】
上記フェノール類とは芳香環上にヒドロキシ基を有する化合物をいい、フェノール系化合物、ナフトール系化合物等がある。
【0044】
フェノール系化合物とは、フェノール及び芳香環上の水素が他の置換基に置換されたフェノールをいう。当該置換基としては、アルキル基やヒドロキシ基等が挙げられる。上記アルキル基としては、上記化合物の説明中に例示したものを挙げることができ、炭素数5以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0045】
フェノール系化合物としては例えば、フェノール、クレゾール(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、キシレノール(2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール)、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−イソプロピルフェノール、4−イソプロピルフェノール、2−tert−ブチルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、2−シクロヘキシルフェノール、4−シクロヘキシルフェノール、2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、チモール、2−tert−ブチル−5−メチルフェノール、2−シクロヘキシル−5−メチルフェノール、レゾルシン、2−メチルレゾルシン、カテコール、4−メチルカテコール、ハイドロキノン、ピロガロール等が挙げられる。
【0046】
ナフトール系化合物とは、ナフトール及び芳香環上の水素が他の置換基に置換されたナフトールをいう。当該置換基としては、アルキル基やヒドロキシ基等が挙げられる。
【0047】
ナフトール系化合物としては、1−ナフトール、2−ナフトール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0048】
これらのフェノール類の中でも、少なくとも1つのアルキル基を有するフェノール類が好ましく、少なくとも1つのアルキル基を有するフェノール系化合物がより好ましく、クレゾール及びキシレノールがさらに好ましい。これらの化合物をフェノール類として用いることで、副反応の発生をより抑えることができ、生産性を高めることができる。
【0049】
なお、これらのフェノール類は、特にこれらに限定されるものではなく、所望する上記化合物の構造に応じて適宜選択される。また、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
また、このフェノール類の配合量の下限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し2モルが好ましく、4モルがさらに好ましい。このフェノール類の配合量の上限としては、アントラセン−9−カルボアルデヒド1モルに対し100モルが好ましく、50モルがさらに好ましく、20モルが特に好ましい。フェノール類の配合量が上記下限未満では、原料の高次縮合物が生成する為精製に多大なエネルギーを要し、逆に上記上限を超えると未反応のフェノール類を除去するのに多大なエネルギーを要する為、共に非経済的である。
【0051】
本製造方法においては、反応溶媒として、分子中に1以上の酸素原子を備える非反応性含酸素有機溶媒を用いる。なお「非反応性」とは、この反応系におけるフェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド及び合成されるアントラセン誘導体とは反応しないことをいう。当該非反応含酸素有機溶媒としては、例えばアルコール類、多価アルコール系エーテル、環状エーテル類、多価アルコール系エステル、ケトン類、エステル類、スルホキシド類、カルボン酸類等を用いることができる。
【0052】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール、グリセリン等の三価アルコールが挙げられる。
【0053】
多価アルコール系エーテルとしては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル等のグリコールエーテル類が挙げられる。
【0054】
環状エーテル類としては、例えば、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。多価アルコール系エステルとしては、例えば、エチレングリコールアセテート等のグリコールエステル類が挙げられる。ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。スルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、酢酸、無水酢酸等が挙げられる。
【0055】
これらの中でもアルコール類及び多価アルコール系エーテルが好ましく、メタノール、エチレングリコール及びエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに、メタノールが特に好ましい。
【0056】
非反応性含酸素有機溶媒は、前記の例示に限定されず、また、それぞれを単独又は2種以上を混合して用いても良い。非反応性含酸素有機溶媒の配合量の下限としては、フェノール類100質量部に対して、1質量部が好ましく、5質量部が更に好ましく、10質量部が特に好ましい。また、非反応性含酸素有機溶媒の配合量の上限としては、フェノール類100質量部に対して、1000質量部が好ましく、500質量部が更に好ましく、10質量部が特に好ましい。非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記下限未満であると、反応副生物の生成が顕著となり、生産性が低下するおそれがある。逆に、非反応性含酸素有機溶媒の配合量が上記上限を超えると、反応速度が低下し、生産性が低下するおそれがある。
【0057】
上記触媒としてのオキソ酸は、ある原子に水酸基とオキソ基(=O)が結合しており、かつ、その水酸基が酸性プロトンを与える化合物のことを指す。このオキソ酸としては、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、硝酸、過塩素酸、過臭素酸などの無機酸、カルボン酸、フタル酸、マレイン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸などの有機酸等を挙げることができる。これらの中でも、無機酸が好ましく、硫酸がさらに好ましい。
【0058】
これらのオキソ酸は、単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、メルカプト酢酸等の反応助触媒やその他の触媒を併用しても良い。オキソ酸の使用量としては、反応が過激で危険とならない範囲でかつ反応促進の為少なすぎない量を設定すればよいが、一般的には、フェノール類の質量に対して、0.1〜20質量%である。
【0059】
当該化合物の製造は、上記フェノール類、アントラセン−9−カルボアルデヒド、非反応性含酸素有機溶媒及びオキソ酸を含む触媒を反応容器に投入して、所定時間撹拌して行われる。なお、上記反応容器への投入物の投入順序は問わない。
【0060】
当該製造方法の反応工程における反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは、25〜60℃の範囲で行われる。反応温度が低すぎると、反応時間が長くなる可能性があり、一方、反応温度が高すぎると、高次縮合物及び異性体等の反応副生物の生成が助長され、当該化合物の純度が低下する可能性がある。
【0061】
当該製造方法の反応工程における反応容器内の圧力は、通常は常圧であるが、加圧又は減圧で行っても良く、具体的には内部圧力(ゲージ圧)が−0.02〜0.2MPaの範囲であることが好ましい。
【0062】
当該製造方法の反応工程における反応時間は、用いるフェノール類、非反応性含酸素有機溶媒の種類と量、モル比、反応温度、圧力等に左右され、一概に定めることはできないが一般的には、1〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0063】
当該製造方法の反応終了後、酸触媒の除去を行う。この触媒除去の方法としては、一般的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の非水溶性有機溶媒に生成物を溶解し、水洗により除去を行うが、その他中和処理を行った後析出した中和塩を濾別する方法や、イオン交換樹脂等の樹脂酸を直接濾別除去する方法、アニオン製充填剤の詰まったカラムに反応液を通過させる方法等、特に制限はない。
【0064】
当該製造方法においては触媒除去後、精製により当該化合物を取り出す。一般的には、目的物に対して貧溶媒として作用し、その他の副生成物や未反応原料には良溶媒として作用する有機溶媒を添加し、析出させた後濾別、乾燥する方法によって目的物である当該化合物を得ることができる。
【0065】
<当該化合物の誘導体>
本発明の誘導体は、本発明の上記化合物の誘導体である。当該誘導体は、上記化合物を公知の方法により、グリシジル化、(メタ)アクリル化、アリル化、メチロール化、ベンゾオキサジン化等を行うことで得ることができる。
【0066】
上記グリシジル化は、例えば当該化合物とエピクロロヒドリンとを反応させることで行うことができる。また、上記(メタ)アクリル化は、例えば当該化合物と(メタ)アクリロイルハライド(例えばアクリロイルクロライド等)とを反応させることで行うことができる。
【0067】
このようにして得られた各誘導体は、エポキシ樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料として用いることができる。当該誘導体も、高融点、高光屈折性等の優れた特性を有することができる。
【0068】
当該誘導体としては、アントラセン骨格を有する誘導体も挙げられる。このような誘導体としては、上記式(2)で表される誘導体を挙げることができる。上記式(2)中の、X、Y、n及びnの定義は上記式(1)と同様である。この式(2)で表される誘導体は、アントラセン骨格を有するため、アントラセン特有の諸特性、例えば、高炭素密度、高屈折率及び紫外線に対する蛍光性能等を備える。
【0069】
<上記式(2)で表される誘導体(以下、「特定誘導体」ともいう。)の製造方法>
上記特定誘導体は、下記式(1)で表される化合物を酸性触媒下で反応させる工程を有する方法で製造することができる。
【0070】
具体的には、当該化合物を溶媒に溶解し、酸性触媒を添加することで、当該化合物が上記特定誘導体に変換する。上記溶媒としては特に限定されないが、例えば上記段落0051〜0054に記載の非反応性含酸素有機溶媒、フェノール類等が挙げられ、これらを単独又は2種以上を混合して用いることができる。これらの溶媒の中でも、フェノール類が好ましく、クレゾールがさらに好ましい。
【0071】
上記酸性触媒も特に限定されないが、上記変換反応の反応性の点から、上述したオキソ酸以外の酸、例えばハロゲン水素酸(HF、HCl、HBr、HI)が好ましく、HCl(塩酸)がさらに好ましい。反応後は、公知の方法で精製等を行うことで、上記特定誘導体を抽出することができる。
【0072】
<組成物>
当該化合物、又はこの化合物を中間体として得られる誘導体を含む組成物は、エポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料や、接着剤、塗料等に用いることができる。当該組成物における他の成分としては、各樹脂を製造する際に使用される公知のものが挙げられる。この他の成分としては、硬化剤、硬化促進剤、溶媒、無機充填剤、顔料、揺変性付与剤、流動性向上剤、他のモノマー等を挙げることができる。
【0073】
上記硬化剤としては、一般のエポキシ樹脂用の硬化剤が用いられ、例えば、多価フェノール類、酸無水物類、アミン類、イミダゾール類等を挙げることができる。
【0074】
上記多価フェノール類としては、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、ビスフェノール−F、ビスフェノール−A、ビフェノール、フェノールノボラック類、クレゾールノボラック類、キシレノールノボラック類、ビスフェノール−Aノボラック類、トリスフェノールメタン類、テトラキスフェノールエタン類、アラルキルポリフェノール類、ジシクロペンタジエンポリフェノール類、環化ポリブタジエンポリフェノール類などが挙げられる。
【0075】
上記酸無水物類としては、無水メチルヘキサヒドロ酢酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水トリアルキルテトラヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0076】
上記アミン類としては、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラスピロ[5.5]ウンデカン等の脂肪族及び脂環族アミン類、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン類、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−アザビシクロ[4.3.0]−ノネン−7等の3級アミン類及びその塩類などが挙げられ、またこれらのBF錯体化合物も挙げることができる。
【0077】
上記イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等が挙げられる。
また、その他の硬化剤として、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0078】
上記硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリフェニルホスフィン、オクチル酸スズ等が挙げられる。
【0079】
上記溶媒としては、組成物構成によって異なるが、例えば、エーテル類、ジエチレングリコールアルキルエーテル類、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルプロピオネート類、芳香族炭化水素類、ケトン類、エステル類等を挙げることができる。
【0080】
また、無機充填剤としては、球状あるいは破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、また、顔料としては、有機系又は無機系の体質顔料、鱗片状顔料等が挙げられる。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができ、流動性向上剤としては、フェニルグリシジルエーテル、ナフチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0081】
<硬化物>
また、この組成物を硬化して得られる硬化物は各種樹脂として使用することができる。これらの硬化物は、ヒドロアントラセン骨格に由来する高融点、光高屈折性といった様々な特性を付与する高汎用性の材料として様々な用途に用いることができる。なお、当該硬化物は、上記の組成物を光照射、加熱等の各組成に対応した公知の方法を用いることによって得ることができる。
【0082】
これらの硬化物は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の各種合成樹脂として、更には、機能性を活かしてレンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料等として用いることができる。
【実施例】
【0083】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、本実施例によってなんら限定されるものではない。なお、測定は、下記測定機器及び測定方法により行った。
【0084】
<GPC純度>
GPC純度は、東ソー社製HLC−8220型GPC、RI検出器、TSK−Gel SuperHZ2000+HZ1000+HZ1000(4.6mmφ×150mm)カラムを用い、展開溶媒としてテトラヒドロフランを0.35ml/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0085】
<HPLC純度>
HPLC純度及び反応の終点確認は、島津製作所社製HPLC Promineceシリーズ、UV検出器SPD−20A(246nm)、GLサイエンス社製ODS−3(4.6mmφ×250mm)カラムを用いた。展開溶媒としては、実施例1、3、4及び比較例1は水/アセトニトリル=25/75を、実施例2及び比較例2は水/アセトニトリル=20/80を、実施例6は水/アセトニトリル=40/60を用い、1.0ml/分で送液し、目的物ピークの面積比によって求めた。
【0086】
<融点及びガラス転移温度(Tg)>
融点は、リガク社製DSC8230型示差走査熱量計にて、窒素雰囲気下5℃/分の昇温速度によるピークトップ法にて求めた。また、ガラス転移温度は同様の条件で測定し、中点ガラス転移温度を求めた。
【0087】
H−NMR及び13C−NMR>
H−NMR及び13C−NMRは、バリアン社製UNITY−INOVA 400MHzを用い、TMSを基準物質としてDMSO−d6溶媒で測定した。
【0088】
<屈折率>
屈折率は、京都電子工業社製RA−520N型屈折率計を用い、25℃にて1質量%、5質量部及び10質量%の各濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解して測定し、検量線を作成して100質量%時の換算屈折率を求めた。
【0089】
<吸収スペクトル及び蛍光スペクトル>
吸収スペクトルは、日本分光社製分光光度計V−570を用いて1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して、250nmから600nmの波長範囲にて測定を行った。蛍光スペクトルは、日立ハイテクノロジーズ社製蛍光分光光度計F−4010を用い、1×10−5mol/L濃度でDMSOに溶解して極大波長で励起させて測定を行った。また、アズワン社製ハンディーUVランプSLUV−4を用いて、365nmの紫外線を照射し、発光の有無を観察した。
【0090】
<線膨張率係数>
線膨張係数は、寸法安定性を確認するための測定であり、硬化物を2.5mm×3.0mm×15.0mmの試験片に切り出し、リガク製TMA8141BS型熱機械測定装置にて、Air雰囲気下5℃/分の昇温速度で300℃までの試験片の長さの測定を行い、30℃〜280℃の範囲の平均熱膨張率(ppm/℃)を求めた。
【0091】
<吸水率>
吸水率は、硬化物を10mm×10mm×2.5mmの試験片に切り出し、8時間熱水中で煮沸した後の質量増加量(質量%)を測定して求めた。
【0092】
<残炭率>
残炭率と酸素指数とは比例関係があり、一般的に難燃性の高い樹脂は残炭率が高いと言われている(下記文献1参照)。この文献を参照し、難燃性の指標として残炭率を測定した。測定方法は、リガク製TG8230型示差熱天秤にて、窒素雰囲気下10℃/分の昇温速度で830℃までの測定を行い、質量減少率(%)を100%から減じた数値で求めた。
【0093】
(文献1)『Krevelen酸素指数と高分子の炭化の程度(Char Residue)に直線関係がある事を確認した。D.W.van Krevelen,polymer,16,p615(1975)D.W.van Krevelen,Chimia,28,p504(1974)』
【0094】
[実施例1]ビスクレゾールヒドロアントラセンの合成
300mLの環流管付き反応容器にo−クレゾール(108.0g,1.0mol)、アントラセン−9−カルボアルデヒド(41.2g,0.2mol)及びメタノール(108.0g)を入れ、40℃にて溶解した。98%濃硫酸(5.4g)を投入し、40℃で24時間反応を行い、HPLCにて、アントラセン−9−カルボアルデヒドピークの消失と、主として目的物が生成していることを確認した。反応終点のHPLCチャートを図1に示す。次いで、反応液をメチルイソブチルケトン(216.0g)に溶解し、蒸留水(108.0g)にて水洗を数回行って触媒を除去した。減圧下にて、メチルイソブチルケトン及びo−クレゾールを留去した後、トルエン(324.0g)及びシクロヘキサン(21.8g)を投入して10℃で攪拌した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、赤褐色結晶54.2g(収率67.0%)を得た。
【0095】
得られた結晶は、GPC純度99.3%、HPLC純度99.0%、融点188℃、換算屈折率1.666(25℃)であり、H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/2.0,2.1,6H,−C/6.9,1H,−C=/6.6,6.7,6.9,7.0,6H,Phenyl−/5.2,7.1,7.2,7.3,7.4,9H,Hydroxyanthryl−/9.2,9.5,2H,−O/)及び13C−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/16.3,16.4,−/129.6,−=/114.7,114.8,123.7,124.0,125.4,125.6,126.7,127.5,127.8,133.2,153.9,155.1,−Phenyl/50.9,123.8,126.8,127.0,127.6,128.0,128.4,128.6,131.6,134.5,135.5,138.5,139.3,141.3,−Hydroanthryl)にて9−(3−メチル−4−ヒドロキシベンジリデン)−10−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−10−ヒドロアントラセン(下記式で表される化合物)であることを確認した。図2にH−NMRチャート、図3に13C−NMRチャートを示す。また、UVランプ(365nm)照射時の発光が無い事を目視にて確認した。
【0096】
【化5】

【0097】
[実施例2]ビスキシレノールヒドロアントラセンの合成
実施例1において、オルソクレゾールを2,6−キシレノール(12.2g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、白色結晶49.0g(収率56.6%)を得た。反応終点のHPLCチャートを図4に示す。
【0098】
得られた結晶は、GPC純度99.6%、HPLC純度99.4%、融点226℃、換算屈折率1.669(25℃)であり、H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/2.0,2.1,12H,−C/6.9,1H,−C=/6.8,7.0,4H,Phenyl−/5.2,7.0,7.1〜7.2,7.2〜7.3,7.3〜7.4,7.4〜7.7,9H,Hydroanthryl−/7.8〜8.2,8.2〜8.7,2H,−OH/)及び13C−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/16.94,16.98−/129.1,−=/123.6,124.3,125.3,126.6,127.2,133.3,151.7,152.9,−Phenyl/50.8,124.2,126.7,126.9,127.7,127.9,128.1,128.4,128.6,134.7,135.7,138.3,139.5,141.1,−Hydroanthryl)にて9−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジリデン)−10−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−10−ヒドロアントラセン(下記式で表される化合物)であることを確認した。図5にH−NMRチャート、図6に13C−NMRチャートを示す。UVランプ(365nm)照射時の発光が無いことを目視にて確認した。
【0099】
【化6】

【0100】
[比較例1]ビスクレゾールアントラセンの合成
実施例1において、98%硫酸を35%塩酸(10.8g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、淡黄色結晶45.1g(収率55.7%)を得た。反応終点のHPLCチャートを図7に示す。
【0101】
得られた結晶は、GPC純度99.4%、HPLC純度99.6%、融点168℃、換算屈折率1.692(25℃)でありUVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。H−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/2.0,2.1−C/4.9,2H,−C−/6.6,6.7,6.9,7.0,6H,Phenyl−/7.3,7.4,7.6,8.3,8H,Anthryl−/9.1,9.6,2H,−O)及び13C−NMR(400MHz,DMSO−d6,δ,ppm/16.3,−/32.1,−−/114.7,114.8,123.8,124.2,126.2,129.4,129.7,130.2,132.6,133.3,153.7,155.1,−Phenyl/125.1,125.2,125.7,127.6,128.6,130.3,131.3,136.7,−Anthryl)にて9−(3−メチル−4−ヒドロキシベンジル)−10−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アントラセン(下記式で表される化合物)であることを確認した。図8にH−NMRチャート、図9に13C−NMRチャートを示す。
【0102】
【化7】

【0103】
[比較例2]ビスキシレノールヒドロアントラセンの合成
実施例2において、98%硫酸を35%塩酸(12.2g)とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、淡黄色結晶49.1g(収率56.8%)を得た。反応終点のHPLCチャートを図10に示す。本化合物は、9−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンジル)−10−(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)アントラセン(下記式で表される化合物)であると推定される。
【0104】
【化8】

【0105】
得られた結晶は、GPC純度99.0%、HPLC純度98.6%、融点190℃、換算屈折率1.685(25℃)でありUVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。
【0106】
[実施例3]誘導体1の合成(ビスクレゾールヒドロアントラセンのアクリル体)
300mLの環流管付き反応容器に実施例1で得られたビスクレゾールヒドロアントラセン(10.1g,0.025mol)、メチルイソブチルケトン(90.4g)及びトリエチルアミン(6.3g)を入れ、撹拌溶解した。25℃としたこの溶液にアクリロイルクロリド(5.2g)を滴下投入した。40℃で5時間反応後、メタノール(10.1g)を加えて反応を終了させた。反応液を10%NaCl水(100g)で洗浄後、次いで蒸留水(100g)にて水洗を数回行った。減圧下にて、メチルイソブチルケトンを留去した後、メタノール(60.1g)を加えて10℃で晶析した。析出した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、ビスクレゾールヒドロアントラセンのアクリル体である薄黄褐色結晶7.9g(収率61.7%)を得た。得られた結晶は、GPC純度97.0%、HPLC純度99.1%、換算屈折率1.619(25℃)であった。
【0107】
[実施例4]誘導体2の合成(ビスクレゾールヒドロアントラセンのエポキシ体)
300mLの環流管付き反応容器に実施例1で得られたビスクレゾールヒドロアントラセン(30.3g,0.074mol)、メタノール(30.3g)及びエピクロロヒドリン(109.8g)を入れ、撹拌溶解した。40℃としたこの溶液に苛性ソーダ(5.9g)を投入し、60℃まで昇温した。60℃で3時間反応後、メチルエチルケトン(93.2g)を加えて撹拌溶解させ、蒸留水(60g)にて水洗を数回行った。減圧下にて、有機層を濃縮し、樹脂状の目的物を得た。放置冷却した樹脂状物を、乳鉢にて粗砕し、メタノール(321.3g)とともに撹拌して結晶を析出させ、濾過、乾燥して淡黄色の結晶24.2gを得た。得られた結晶は、GPC純度97.1%、HPLC純度95.3%、換算屈折率1.629(25℃)であった。
【0108】
[実施例5]ビスクレゾールヒドロアントラセンのエポキシ体硬化物
実施例4で得られた結晶20.0g、硬化剤として無水メチルヘキサヒドロ酢酸(14.4g)を量り取り、180熱板上で溶融混合した。さらに硬化促進剤として1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール(0.1g)を加え、充分に撹拌、脱泡してエポキシ体組成物を得た。得られた液体を金型に流し込み、100℃で45分間減圧脱気した後、常圧で0.01kgf/cmの圧力をかけ、100℃(3時間)、150℃(5時間)かけて硬化させた後、220℃で3時間アフターキュアを行ってエポキシ体硬化物を得た。
【0109】
得られた硬化物を前述した各種測定方法のサイズに切り取り、特性の評価を行った。ガラス転移温度174℃、線膨張係数111ppm/℃、吸水率0.55質量%、残炭率9.29%であった。
【0110】
[実施例6]ビスクレゾールヒドロアントラセンのビスクレゾールアントラセンへの変換反応
300mLの環流管付き反応容器に、実施例1で得られたビスクレゾールヒドロアントラセン(8.13g,0.02mol)及びo−クレゾール(21.6g)を入れ、50℃にて溶解した。30℃以下に冷却後、35%濃塩酸(2.08g)を投入し、60℃まで昇温させた。HPLCにてヒドロアントラセンのピークの消失と、主として目的物が生成していることを確認した。次いで、反応液に48%NaOHを加え、pH6〜7に調整した後、蒸留水(100.0g)にて水洗を数回行って中和塩を除去した。減圧下にて、残留している純水を留去した後、冷却しメタノール(124.0g)及び蒸留水(24.0g)を投入して10℃で晶析した。晶析した結晶を濾別後、減圧乾燥を行って、黄色結晶5.6g(収率68.9%)を得た。
【0111】
得られた結晶は、GPC純度98.9%、HPLC純度99.2%、融点168.2℃、換算屈折率1.692(25℃)であった。また、UVランプ(365nm)照射時の青色の発光を目視にて確認した。H−NMR及び13C−NMRにて9−(3−メチル−4−ヒドロキシベンジル)−10−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)アントラセン(比較例1で得られた化合物と同一)であることを確認した。
【0112】
[比較例3]一般のエポキシ体
ビスフェノール−A型エポキシ樹脂の市販品であるアデカレジンEP−4100[商品名:株式会社ADEKA製/エポキシ当量190]を入手し、換算屈折率を測定したところ、1.572(25℃)であった。
【0113】
[比較例4]一般のエポキシ体硬化物
実施例5において、実施例4で得られた結晶(20.0g)を比較例3で測定したEP−4100(20.0g)とし、無水メチルヘキサヒドロ酢酸(12.2g)を(15.9g)とした以外は実施例5と同様の操作を行い、エポキシ体硬化物を得た。
【0114】
得られた硬化物を前述した各種測定方法のサイズに切り取り、特性の評価を行った。ガラス転移温度150℃、線膨張係数118ppm/℃、吸水率0.68質量%、残炭率2.57%であった。
【0115】
各測定値を以下の表にまとめて示す。なお、対比を容易にするため、実施例及び比較例を並び替えている。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示されるように、本発明の化合物は対応する比較例のアントラセン化合物(実施例1と比較例1及び実施例2と比較例2)と比較して、高い融点及び屈折率を有する。また、これらの化合物から得られる誘導体も優れた屈折率を有する。さらには、本発明の硬化物は、比較例のエポキシ硬化物と比べて優れた諸性能を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の化合物及びこれを中間体として得られる誘導体は、高融点、高光屈折性などの様々な特性を付与する高汎用性材料を提供することができ、例えばエポキシ樹脂原料、ポリカーボネート樹脂原料、アクリル樹脂原料等の樹脂原料に用いることができる。これらの当該化合物等を原料とした樹脂等は、例えば積層材、塗料等のコーティング材料、レンズ、光学シート等の光学材料、ホログラム記録材料等の記録材料、有機感光体、フォトレジスト材料、反射防止膜、半導体封止材等の高機能材料、分子磁気メモリー等の磁性材料等に用いることができ、これらは、例えば有機太陽電池、有機EL素子、液晶表示素子などの材料として使用することができる。また、本発明の化合物は、樹脂原料のみならず、例えば医薬品中間体や染料中間体として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【請求項2】
上記X及びYが、それぞれ置換基として少なくとも1つのアルキル基を有する請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の化合物の誘導体。
【請求項4】
請求項1若しくは請求項2に記載の化合物又は請求項3に記載の誘導体を含む組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項6】
非反応性含酸素有機溶媒及びオキソ酸を含む触媒の存在下、フェノール類と、アントラセン−9−カルボアルデヒドとを反応させる工程
を有する下記式(1)で表される化合物の製造方法。
【化2】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【請求項7】
上記フェノール類が、少なくとも1つのアルキル基を有するフェノール系化合物である請求項6に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
下記式(1)で表される化合物を酸性触媒下で反応させる工程
を有する下記式(2)で表される誘導体の製造方法。
【化3】

(式(1)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)
【化4】

(式(2)中、Xは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。Yは、(n+1)価の芳香族基であり、この芳香族基が置換基を有していてもよい。n及びnは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−171943(P2012−171943A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37712(P2011−37712)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000117102)旭有機材工業株式会社 (235)
【Fターム(参考)】