説明

半導体ウエハの洗浄方法

【課題】ウエハ表面に付着するワックスの均一的な除去を可能とし、洗浄中のパーティクルの再付着および洗浄槽のフィルター詰まりの問題を低減することが可能な、ワックスの除去方法を提供する。
【解決手段】洗浄液を用いてウエハ表面に付着するワックスを除去する半導体ウエハの洗浄方法において、当該洗浄液がマイクロバブルを含むことを特徴とする、洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン等の半導体ウエハを製造する工程で行われる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスに用いられる半導体ウエハ(基板)は、チョクラルスキー法やフロートゾーン法で育成されたインゴットブロックを鏡面状の薄板に加工することで製造される。その加工工程においては、主に、(1)インゴットブロックをウエハ状にスライスするスライス工程、(2)スライスされたウエハの外周部を面取りする面取り工程、(3)面取りされたウエハをラッピングまたは平面研削等を用いて平坦化する平坦化工程、(4)平坦化されたウエハの加工歪を除去する為のエッチング工程、(5)エッチングされたウエハの両面、または片面を研磨する研磨工程、(6)熱処理工程や検査工程、各種洗浄工程などが行われる。
【0003】
従来、ウエハの片面を研磨する研磨工程においては、研磨するウエハの片面にワックスを塗布してターンテーブルに固定し、もう一方の面の研磨を行っている。この研磨工程後、ウエハに付着したワックスや加工中に付着したパーティクルを除去するために、塩基等を用いた洗浄が行われる(特許文献1参照)。この方法では、ウエハ表面に付着したワックスは、洗浄液中に完全に溶解しないではがれ落ちるように除去される場合もあり、洗浄後のワックス残留の恐れもあった。
【特許文献1】特開平8−213356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、従来技術の洗浄方法において、溶解せずに固形物としてはがれ落ちたワックスがパーティクルとしてウエハに再付着してウエハを汚染したり、洗浄槽のフィルタの目詰まりを起こしてしまうという問題点を見いだした。
【0005】
そこで、本発明は、上述の問題を解決し、ウエハのワックス除去を効率的に行うことを可能とする洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、マイクロバブルを含む洗浄液を用いてウエハの洗浄を行うことにより、ウエハの表面に付着したワックスを固形物としてはがれ落とすことなく洗浄液に完全に溶解させつつ、均一に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、洗浄液を用いて半導体ウエハ表面に付着するワックスを除去する洗浄方法において、当該洗浄液がマイクロバブルを含むことを特徴とする、洗浄方法に関する。
【0008】
さらに、本発明は、前記洗浄液がアルカリ成分および界面活性剤を含有する、前記洗浄方法に関する。
【0009】
さらに、本発明は、前記アルカリ成分がアンモニアあるいは有機アンモニウム水酸化物である、前記洗浄方法に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記半導体ウエハがシリコンウエハである、前記洗浄方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る洗浄方法よれば、マイクロバブルを含む洗浄液を使用することにより、ウエハの表面に付着したワックスを固形物としてはがれ落とすことなく洗浄液に溶解させつつ均一に除去することが可能であり、ワックス除去過程において固形物としてはがれ落ちたワックスにより生じるパーティクルによりウエハが再汚染される危険性を低くすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明は、洗浄液を用いて半導体ウエハ表面に付着するワックスを除去する洗浄方法において、当該洗浄液がマイクロバブルを含むことを特徴とする、洗浄方法に関する。
【0014】
本発明の洗浄方法で洗浄可能なウエハは、材料、形状等において特に制限はない。従来の半導体製造で使用される種々の材料が含まれる。具体的にはSi、Ge、As、又はそれらの複合材料が挙げられる。また本発明においてはウエハの形状としても従来公知の種々の形状であって種々の製造工程中で形成される形状が含まれる。好ましくは通常のシリコンウエハ製造工程の各段階でのシリコンウエハが含まれる。
【0015】
本発明の洗浄方法において、除去対象であるワックスは通常の半導体ウェハの研磨工程などで使用されるもので種類に関しても特に制限はなく、一般的にはロウ状物質のワックス分、樹脂分及び添加剤により構成されている。主に研磨精度に関わる粘度、延び、可撓性をコントロールするためのワックス分には、蜜蝋、油脂、カルナバ、木ロウ、パラフィンなどの天然系物質や、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの合成系物質がある。主に保持力に関わる接着力、耐衝撃性、硬度等をコントロールするための樹脂分には、シェラック、ロジン、ピッチなどの天然系物質や、酢酸ビニル、ナイロン、アクリル、各種ポリマーなどの合成系物質がある。洗浄性、酸化防止、耐熱性、濡れ性などをコントロールするための添加剤には、各種界面活性剤などがある。またその塗布形態としても、特に制限はなく、スプレーワックス、固形ワックス、コーティング剤等がある。
【0016】
洗浄液としては、ワックスの除去を目的として使用される洗浄液であれば特に制限無く使用することが出来、具体的には、油脂類、樹脂、パーティクルなどの除去性能の点で優位な、アルカリ成分および界面活性剤を含有している水系液体が好ましい。
【0017】
アルカリ成分としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムおよび水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、ヒドロキシルアミンなどの無機アンモニウム水酸化物、水酸化モノメチルアンモニウム、水酸化ジメチルアンモニウム、水酸化トリメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ(n−またはi−)プロピルアンモニウム、水酸化テトラ(n−、i−またはt−)ブチルアンモニウム、水酸化テトラペンチルアンモニウムおよび水酸化テトラヘキシルアンモニウムヒドロキサイド、コリンなどの有機アンモニウム水酸化物およびこれらの混合物などが挙げられる。これら無機、有機アンモニウム水酸化物のうち、半導体洗浄向けに比較的安価に清浄度の高い薬液が入手できるアンモニアあるいは水酸化テトラメチルアンモニウムあるいはコリンの使用が好ましい。
【0018】
界面活性剤は、除去対象であるワックスの溶解性を向上させるために添加され、除去対象であるワックスにあわせて好適なものを選択することが出来る。界面活性剤としては、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤およびこれらの混合物が挙げられる。
【0019】
非イオン界面活性剤としては、例えば、アルキレンオキシド付加型非イオン界面活性剤および多価アルコール型非イオン界面活性剤などがあげられる。アルキレンオキシド付加型非イオン性界面活性剤の具体例としては、高級アルコール、アルキルフェノール、高級脂肪酸、または高級アルキルアミン等に直接アルキレンオキシド(例えばエチレンオキシド(以下EOと略記)、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、以下同じ)を付加させたものなどがあげられる。また、多価アルコール型非イオン界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
【0020】
アニオン界面活性剤としては、例えば、カルボン酸(例えば、炭素数8〜22の飽和または不飽和脂肪酸)またはその塩、硫酸エステル塩(例えば、高級アルコール硫酸エステル塩(炭素数8 〜18の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩など)、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩(例えば、炭素数8〜18の脂肪族アルコールのEO(1〜10モル)付加物の硫酸エステル塩)、硫酸化油(例えば、天然の不飽和油脂または不飽和のロウをそのまま硫酸化して中和した塩)、硫酸化脂肪酸エステル(例えば、不飽和脂肪酸の低級アルコールエステルを硫酸化して中和した塩)、硫酸化オレフィン(例えば、炭素数12〜18のオレフィンを硫酸化して中和した塩)、スルホン酸塩(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル型、α−オレフィン(炭素数12〜18)スルホン酸塩)、リン酸エステル塩(例えば、高級アルコール(炭素数8 〜60)リン酸エステル塩)などが挙げられる。なお、塩としては、アルカリ金属( ナトリウム、カリウムなど)塩、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウムなど)塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩およびアルカノールアミン塩などが挙げられる。
【0021】
カチオン界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等の第4級アンモニウム塩、およびアミン塩(例えば、ラウリルアミン等の高級アミンの無機酸塩など)などがあげられる。
【0022】
両性界面活性剤としては、アミノ酸型両性界面活性剤(例えば、高級アルキル(炭素数12〜18)アミンのプロピオン酸ナトリウムなど)、硫酸エステル塩型両性界面活性剤(例えば、高級アルキル(炭素数8〜18)アミンの硫酸エステルナトリウム塩など)、ペンタデシルスルフォタウリン等のスルホン酸塩型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0023】
界面活性剤の使用量は、洗浄剤の全重量に基づいて、通常30%以下、好ましくは1〜20%である。
【0024】
また、上記のアルカリ成分および界面活性剤を溶解させる水系液体としては、ウエハ汚染を防止する観点から、超純水が好ましい。
【0025】
本発明の洗浄方法において、マイクロバブルの気体の種類には特に制限はないが、具体的には空気、水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴン等があげられる。また本発明のマイクロバブルについては、単一気体成分のみならず二以上の気体成分からなるものが含まれる。具体的には、空気、水素、ヘリウム、窒素、酸素、アルゴンからなる群から選択される二種以上の気体成分が挙げられる。
【0026】
また、マイクロバブルの調製方法についても特に制限はなく、公知のマイクロバブル発生方法、又は発生装置を用いてガスを導入し、洗浄液中にマイクロバブルを発生させることができる。マイクロバブル発生方法としては、公知文献に記載された各種方法を適用することができる(たとえば、上山智嗣、宮本誠著、「マイクロバブルの世界」工業調査会(2006))。また、マイクロバブル発生装置については高速せん断流式マイクロバブル発生装置等が挙げられる。
【0027】
本発明の洗浄方法において使用するマイクロバブルの発生条件及び発生するマイクロバブルの量についても特に制限は無い。使用する洗浄装置の容積、形状、シリコンウエハの枚数、設置方法、洗浄液温度、洗浄時間、洗浄液の他の添加剤に基づいて適宜好ましい範囲のマイクロバブル発生量を選択することができる。
【0028】
またマイクロバブルを発生させる位置についても特に制限はなく、マイクロバブルのノズル部を洗浄容器のいかなる位置にも設けることができる。使用する洗浄装置の容積、形状、シリコンウエハの枚数、設置方法、洗浄液温度、洗浄時間、洗浄液の他の添加剤に基づいて適宜好ましい位置を選択することができる。具体的に洗浄容器の底部、側面部、上部、またはそれらの複数の部分が挙げられる。
【0029】
また、洗浄容器とは別の容器内でマイクロバブルを発生させてから送水ポンプを使って洗浄容器に導入する方法も可能である。また、洗浄容器とマイクロバブル水製造用容器を循環配管でつなぎ、送水ポンプで循環し続ける方法も可能である。また、送水配管途中にマイクロバブル発生装置を設置し、マイクロバブル水を洗浄容器に導入する方法も可能である。
【0030】
なお、上述の実施形態では、洗浄液を充填した洗浄容器にウエハを浸漬させる態様を前提に説明したが、シャワー洗浄、スプレー洗浄等を用いても良い。また、超音波を併用しつつ洗浄することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。
【0032】
1.実験方法
以下の(1)に従い片面にワックス塗布されたウエハを作製し、該ウエハを(2)の方法で洗浄した。
【0033】
(1)片面にワックス塗布されたウエハの作製
8インチP型シリコンウエハにワックスとしてスカイリキッド(日化精工株式会社製ワックス(水添ロジン+イソプロピルアルコール+トルエン))を塗布した。スピンコーターにシリコンウエハのミラー面を上向きにセットし、3000rpmで回転させつつ、スカイリキッド原液を3mLピペットで量りとり基板中心から注ぎ入れた。20秒後、回転を停止し、自然乾燥させた。
【0034】
(2)洗浄方法
洗浄薬液としてANC−1(多摩化学工業株式会社製、10%以下TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)+界面活性剤)を超純水で20倍に希釈したものを使用し、液温は20℃にて行った。実施例および比較例の条件は以下の通りである。
【0035】
(実施例)
マイクロバブル発生装置(ナノプラネット研究所製M2−MS/PTFE型)のノズル部を、洗浄薬液を充填した4L洗浄槽の底の位置に1個設け、1L/minのマイクロバブルを連続して発生させ導入した。バブル用気体には空気を用いた。5分間マイクロバブルを導入した後、片面にワックスを塗布したシリコンウエハを浸漬した。浸漬している間中マイクロバブルを発生させ続けた。所定の時間(1,3,5,10分間)浸漬した後、超純水リンス槽に1分間浸漬し、薬液をすすぎ落とした。その後ウエハを引き上げ、ドライエアーをウエハ表面に吹き付けて乾燥させた。
【0036】
(比較例)
マイクロバブルを発生させない以外は実施例と同様の操作を行った。
【0037】
2.評価方法
各ウエハのワックス除去状態および洗浄液の状態を目視で評価した。
【0038】
3.実験結果
各ウエハのワックス除去状態を観察した結果を図1(写真)および図2(模式図)に示した。
【0039】
ワックス除去過程を経時的に観察した結果、比較例では、ワックスがパーティクルとして周囲から剥がれ落ちていた。このことから、ワックスの取れ方は不均一でムラがあることが分かった。このことから、ワックスの部分的な残留の可能性が高いと言うことが出来る。また、固形物の状態でワックスが剥がれ落ちており、パーティクル増加、フィルターのつまりの危険性が高いと言うことが出来る。
【0040】
一方、マイクロバブルを添加すると、全面が均一に溶解して、全体的にワックス厚みが薄くなっていった。このことから、ワックスの取れ方が均一、ムラがないことが分かった。このことから、ワックスの部分的な残留の可能性は低いと言うことができる。また、ワックスは固形物として剥がれることなくすべて溶けて除去されたので、パーティクル増加、フィルターのつまりの危険性が低いと言うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の洗浄方法は、半導体基板の製造プロセスにおいてウエハに付着したワックスを効率的に除去することができることから、当該分野における貢献は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、実施例および比較例の各ウエハの写真である。
【図2】図2は、実施例および比較例の各ウエハの状態を観察した結果を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液を用いて半導体ウエハ表面に付着するワックスを除去する洗浄方法において、当該洗浄液がマイクロバブルを含むことを特徴とする、洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液が、アルカリ成分および界面活性剤を含有する水系液体である、請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記アルカリ成分が第4級アンモニウム水酸化物である、請求項2記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記半導体ウエハがシリコンウエハである、請求項1〜3いずれかに記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−135525(P2010−135525A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309283(P2008−309283)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】