説明

半導体スイッチ回路

【課題】高いESD保護耐圧を確保しつつ、ESD保護素子の静電容量を極力小さくし、しかも、集積化の際における占有サイズを小さくする。
【解決手段】ESD保護回路103は、共通端子41とグランドとの間に設けられており、共通端子41側から順に、ESD保護スイッチ素子としての複数の直列接続された電界効果トランジスタ31−1〜31−4と、逆接続された一組のESD保護素子としてのダイオード32−1,32−2が直列接続されると共に、電界効果トランジスタ31−1〜31−4は、ゲートが相互に接続されてグランドに接続されており、ESD保護素子のダイオード32−1,32−2による静電容量を低減し、高いESD保護耐圧の確保が可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体スイッチ回路に係り、特に、耐ESD (electro-static discharge)性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を扱う携帯電話機や移動体無線通信装置などにおいては、高周波信号の入出力経路の切り替えを行うために、電界効果トランジスタ等の半導体素子を用いて構成された半導体スイッチ回路が用いられている。
この種の従来回路としては、例えば、図3に示された構成のSPDT(Single Plole Dual Throw)スイッチ回路がある。
以下、図3を参照しつつ、従来の半導体スイッチ回路について説明する。
この半導体スイッチ回路は、第1の個別端子P1と第2の個別端子P2との間に第1及び第2の単位スイッチ201,202が直列接続され、これら第1及び第2の単位スイッチ201,202の相互の接続点に共通端子PCが接続されて、SPDTスイッチ回路が構成されたものとなっている。
【0003】
第1及び第2の単位スイッチ201,202は、それぞれ4つの電界効果トランジスタの直列接続により構成されたものとなっている。
また、この従来回路にあっては、いわゆるシャントスイッチに代えて、ESD保護を強化するために、ダイオードを互いに逆方向(Back-to-Back)に接続したものを最小単位として、それを10個直列接続して構成されたESD保護素子203が共通端子PCとグランドとの間に設けられたものとなっている。
【0004】
かかる構成における動作について概略的に説明すれば、まず、第2の単位スイッチ202のゲート制御電圧VCTL2を0V、第1の単位スイッチ201のゲート制御電圧VCTL1を2.7Vに、それぞれ設定すると、第2の単位スイッチ202はオフ(非導通状態)となる一方、第1の単位スイッチ201はオン(導通状態)となり、共通端子PCと第1の個別端子P1間が信号通過経路となり、共通端子PCと第2の個別端子P2間は非通過経路となる。
【0005】
次に、ゲート制御電圧VCTL1,VCTL2の設定を上述の場合とは逆にすると、第1の単位スイッチ201がオフ、第2の単位スイッチ202がオンとなり、共通端子PCと第2の個別端子P2間が信号通過経路となる一方、共通端子PCと第1の個別端子P1間は非信号通過経路となる。
先に述べたように、この従来回路においては、ダイオードを用いたESD保護素子203が設けられているが、ダイオードを用いているため、高いクランプ電圧と、高周波信号に対して小さい静電容量が得られるものとなっている。
【0006】
一般に、ESD保護素子の静電容量は、高周波信号に対して十分小さなリアクタンスを示すように設計されるべきであるが、半導体ICに要求されるESD耐量として適切な値であるためには、ある程度の大きなESD素子が必要となり、必然的にESD保護素子の静電容量も大きくなる傾向にある。
また、ESD保護素子による高周波信号に対する影響は、静電容量によるリアクタンスの非線形性が無視できない場合もある。すなわち、ESD保護素子が半導体素子を用いて構成されているため、あるクランプ電圧でオン状態に切り替わるという非線形性を有し、リアクタンスの非線形性は避けられない。さらに、高周波のスイッチ回路においては、1電源化のために高周波信号経路を正電圧にバイアスすることが従来から行われており、これによりESD保護素子が高周波端子に接続されていると、直流的にバイアスが印加された状態になる。例えば、ESD保護素子をダイオードで構成した場合、これに直流バイアスを与えると、静電容量が高周波信号に対して対称に変化しないため、これによるひずみが発生することとなる。
【0007】
一方、図4には、シャントスイッチを設けたSPDTスイッチの従来回路例が示されており、以下、同図を参照しつつ、この従来回路について説明する。なお、図3に示された従来回路例と同一の構成要素については、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
この図4に示された従来回路においては、第1の個別端子P1とグランドとの間に、シャントスイッチ204が設けられたものとなっている。
【0008】
このシャントスイッチ204は、直列接続されたシャント用FET51−1〜51−4と、ESD保護素子としてのBack-to-Back接続されたダイオード52−1,52−2が直列接続されると共に、ダイオード52−1,52−2と並列にシャントキャパシタ53が並列接続されて構成されたものとなっている。
かかる構成においては、ESD保護素子としてのダイオード52−1,52−2の静電容量は、シャントキャパシタ53の静電容量に隠れるため、問題となることはない。また、ダイオード52−1,52−2が設けられている部位は、シャントキャパシタ53で高周波的に接地されているため、高周波信号が通ることはない。そのため、この図4の従来回路では、ESD保護素子であるダイオード52−1,52−2から発生するひずみが問題となることはない。
なお、この種の従来回路としては、例えば、特許文献1等に開示されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−124653号公報(第5−15頁、図1−図10)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
とろこで、図3に示された従来回路においては、ESD保護素子203の静電容量を極力小さくし、ひずみの発生を抑制するため、先に説明したように最小単位のダイオードを10段直列接続したものとしているが、このように直列段数を極力抑えても、なおもESD保護素子203に起因するひずみは若干発生する。
このように多数のESD保護素子を用いた場合にはESDクランプ電圧が高くなってしまい、ESD保護が却って難しくなるという問題も生ずる。例えば、1段のESD保護素子のクランプ電圧が10Vの場合には、10段直列では100Vのクランプ電圧となり、保護対象としているスイッチ素子を保護するにはやや高すぎるものとなってしまう。
【0011】
さらに、ESD保護素子を多数用いると、集積回路内の占有面積も当然に増大する。ESD保護素子のサイズは、ESD保護素子がチャネルをESD放電経路として用いるものとすると、スイッチ素子1つとさほど差はない大きさが必要となる。すなわち、スイッチ素子と同程度以上の大きさのESD保護素子を設けることとなってしまう。
【0012】
一方、図4に示された従来回路の場合、先に述べたようにESD保護素子から発生するひずみが問題となることはないが、シャントスイッチは全ての半導体スイッチ回路に必要とされる訳ではないため、図4に示された構成が適用できる半導体スイッチ回路が限られてしまうだけでなく、回路の簡素化によるコストダウンの要請という観点からは、十分に満足できるものではない。
【0013】
ところが、シャントスイッチがない場合には、ESD保護素子は、高周波信号経路に直列に設けることになり、結局、ESD保護素子から発生するひずみが問題となる。
ESD保護素子は、素子固有のクランプ電圧以上の電圧が印加されると、ON状態となり、そのクランプ電圧以下の場合にはOFF状態となり、主に小さな容量性リアクタンスを示す。
高周波信号に対するひずみ発生は、容量性リアクタンス、すなわちOFF時の静電容量の非線形性に起因する。
そのため、ひずみ低減のためには、OFF容量を減らすことが最も効果的な方法であり、単純にESD保護素子のサイズを小さくするか、あるいは、直列接続により、静電容量を小さくするのが最も簡単で一般的な方法である。
【0014】
しかし、ESD保護素子のサイズを小さくすることは、クランプ時のESD保護素子自体の耐電流が減少し、ESD保護耐圧が低下することになる。一方、ESD保護素子を直列接続すると、クランプ電圧がそれに比例して高くなり、保護対象のクランプ電圧との大小関係が逆転すると、保護できなくなるという事態も起こり得る。
したがって、ESD保護素子のサイズや、直列接続により容量の低減は、完全にトレードオフ関係にあり、双方を満足させられる場合もあるが、両立不可能ということも起こり得る。
特に、大電力に対して低ひずみを要求する場合は、ESD保護素子のサイズを小さくすることと、直列接続により容量の低減は、両立不能なレベルとなることが想定できる。
【0015】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、高いESD保護耐圧を確保しつつ、ESD保護素子の静電容量を極力小さくでき、しかも、集積化の際における占有サイズを小さくすることのできるESD保護回路を有する半導体スイッチ回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る半導体スイッチ回路は、
少なくとも1つの共通端子と、2つ以上の個別端子を有し、前記共通端子と前記個別端子とが、前記個別端子のそれぞれに対応して設けられた単位スイッチにより選択的に導通状態とされるよう構成されてなる半導体スイッチ回路において、
前記共通端子とグランドとの間には、ESD保護回路が設けられ、
前記ESD保護回路は、前記共通端子側から順に、ESD保護スイッチ素子としての直列接続された複数の電界効果トランジスタと、逆接続された一組のESD保護素子としてのダイオードが直列接続されてなり、
前記直列接続された複数の電界効果トランジスタは、ゲートが相互に接続されてグランドに接続されてなるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来に比して、ESD保護ダイオードによる静電容量を低減しつつ、高いESD保護耐圧を確保することができ、しかも、ESD保護ダイオードによるひずみの発生を抑圧できるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の回路構成例を示す回路図である。
【図2】本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の入力周波数に対する挿入損失の変化例を従来回路の変化例と共に示す特性線図である。
【図3】シャントスイッチを有しない従来の半導体スイッチ回路の回路構成例を示す回路図である。
【図4】シャントスイッチを有する従来の半導体スイッチ回路の回路構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の回路構成について図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路は、2つの単位スイッチ101,102によりSPDT(Single Plole Dual Throw)スイッチが構成されると共に、ESD保護回路103が設けられてなるものである。
【0020】
以下、具体的にその構成を説明すれば、まず、第1及び第2の単位スイッチ101,102は、いずれも基本的に同一の構成を有してなるもので、本発明の実施の形態においては、それぞれ4つのシングルゲート電界効果トランジスタ(以下「FET」と称する)が直列接続されて構成されたものとなっている。
すなわち、第1の単位スイッチ101はFET11〜14が直列接続されて構成されており、第2の単位スイッチ102はFET15〜19が直列接続されて構成されたものとなっている。
なお、電界効果トランジスタは、高周波特性に優れ、ON抵抗の小さい、ガリウムヒ素電界効果トランジスタ(GaAs FET)、又は、ガリウムヒ素ヘテロ接合型電界効果トランジスタを用いるのが好適である。また、単位スイッチにおけるFETの段数、すなわち、直列接続するFETの数は、上述の例に限定される必要はなく、任意に設定し得るものである。
【0021】
第1の単位スイッチ101においては、FET11のソース(又はドレイン)とFET12のドレイン(又はソース)が相互接続され、FET12のソース(又はドレイン)とFET13のドレイン(又はソース)が相互に接続され、FET13のソース(又はドレイン)とFET14のドレイン(又はソース)が相互に接続されたものとなっている。
そして、FET11のドレイン(又はソース)は、後述する第2の単位スイッチ102のFET15のソース(又はドレイン)と接続されると共に、共通端子(図1においては「PC」と表記)41と接続されたものとなっている。
【0022】
一方、FET14のソース(又はドレイン)は、第1の個別端子(図1においては「P1」と表記)42に接続されている。
また、FET11〜FET14の各ゲートは、それぞれゲート抵抗器21−1〜21−4を介して相互に接続されて、外部から第1のゲート制御電圧VCTL1が印加可能とされている。
【0023】
一方、第2の単位スイッチ102においては、FET15のソース(又はドレイン)とFET16のドレイン(又はソース)が相互接続され、FET16のソース(又はドレイン)とFET17のドレイン(又はソース)が相互に接続され、FET17のソース(又はドレイン)とFET18のドレイン(又はソース)が相互に接続されたものとなっている。
そして、FET15のドレイン(又はソース)は、先に述べたようにFET11のドレイン(又はソース)と接続されると共に、共通端子(図1においては「PC」と表記)41と接続されたものとなっている。
【0024】
一方、FET18のソース(又はドレイン)は、第2の個別端子(図1においては「P2」と表記)43に接続されている。
また、FET15〜FET18の各ゲートは、それぞれゲート抵抗器22−1〜22−4を介して相互に接続されて、外部から第2のゲート制御電圧VCTL2が印加可能とされている。
【0025】
本発明の実施の形態におけるESD保護回路103は、共通端子41とグランドとの間に設けられたものとなっている。
かかるESD保護回路103は、ESD保護スイッチ素子としての4つのESD用FET31−1〜31−4と、互いに逆方向(Back-to-Back)に接続されて一組をなすESD保護素子としてのESD保護ダイオード32−1,32−2とを主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0026】
すなわち、ESD用FET31−1のソース(又はドレイン)はESD用FET31−2のドレイン(又はソース)と相互に接続され、ESD用FET31−2のソース(又はドレイン)はESD用FET31−3のドレイン(又はソース)と相互に接続され、ESD用FET31−3のソース(又はドレイン)はESD用FET31−4のドレイン(又はソース)と相互に接続されている。
【0027】
そして、ESD用FET31−1のドレイン(又はソース)は共通端子41に接続される一方、ESD用FET31−4のソース(又はドレイン)はESD保護ダイオード32−1のアノードに接続されている。
ESD保護ダイオード32−1とESD保護ダイオード32−2は、カソードが相互に接続され、ESD保護ダイオード32−2のアノードはグランドに接続されたものとなっている。
また、ESD用FET31−1〜31−4のゲートは、それぞれゲート抵抗器33−1〜33−4を介してグランドに接続されている。
【0028】
次に、かかる構成における回路動作について説明する。
まず、SPDTスイッチとしての動作は従来同様であるので、概略的に説明することとする。すなわち、正常な動作電圧が外部より供給され、所望する信号通過経路に応じて、第1及び第2の制御電圧VCTL1,VCTL2を設定することにより、共通端子41と第1及び第2の個別端子42,43のいずれかとが導通状態とされる。
かかる通常動作状態においては、ESD保護回路103において、ESD用FET31−1〜31−4のゲート制御電圧は接地電位であり、これに対して、共通端子41、第1及び第2の個別端子42,43は、正電圧にバイアスされるので、ESD保護回路103はOFF(オフ)状態となる。
【0029】
ESD保護回路103のグランド側には、ESD保護ダイオード32−1,32−2が接続されているが、通常の動作電圧においてはOFF容量を示すだけである。このESD保護ダイオード32−1,32−2には、OFF状態のESD用FET31−1〜31−4のために高周波信号は到達しないので、ひずみ特性に影響を与えることはない。
【0030】
したがって、共通端子41には、OFF状態のESD保護回路103が並列に接続されていると等価的に見ることができる。そのため、ESD用FET31−1,〜31−4は、第1及び第2の個別スイッチ101,102を構成するスイッチ素子であるFETと同等のFETで構成するのであれば、ひずみ特性も特別に問題となることはない。
【0031】
ESD保護機能が作用するのは、電源が供給されていない状態である。その状態にあっては、共通端子41、第1及び第2の個別端子42,43の初期電位は接地電位である。
ここで、例えば、共通端子41からESDが印加されるとした場合についてESD保護機能について説明すれば、次述する如くとなる。
まず、正のESD電圧が印加される場合について説明する。
ESD電圧印加開始後、共通端子41の電位は次第に正の電圧領域で上昇する。
【0032】
一方、ESD保護ダイオード32−1,32−2の電位も同時に正の電圧領域で上昇するが、ESD保護ダイオード32−1,32−2のクランプ電圧Vclampを越えると低抵抗状態に移行し、ESD保護ダイオード32−1,32−2の両端の電位は上昇しなくなる。それによってESD用FET31−1〜31−4の両端の電位が次第に上昇してゆく。この際、ESD用FET31−1〜31−4のゲート制御電圧は接地電位であるため、ESD用FET31−1〜31−4はOFF状態を維持する。ESD電圧がさらに上昇し、その電圧が、ESD用31−1〜31−4のゲート・ソース間、及び、ゲート・ドレイン間がブレークダウンする電圧に達すると、ブレークダウン効果により、ESD用FET31−1〜31−4はON(オン)状態になる。すなわち、この動作状態では、2段階のブレークダイン状態を経て、ESDに対する放電が行われることとなる。
【0033】
次に、負のESD電圧が印加される場合について説明する。
ESD電圧の印加開始後、共通端子41の電位は、次第に負の電圧領域で低下してゆく。一方、ESDダイオード32−1,32−2の電位も同時に負の電圧領域で低下するが、その絶対値がESDダイオード32−1,32−2のクランプ電圧Vclampを越えると低抵抗状態に移行し、ESDダイオード32−1,32−2の両端の電位は上昇しなくなる。
【0034】
すると、ESD用FET31−1〜31−4の両端の電位差が増加してゆく。この際、ESD用FET31−1〜31−4のゲート制御電圧は接地電位であるため、ESD用FET31−1〜31−4のゲート電位は、ソース端、ドレイン端よりも高くなり、そのため、ESD用FET31−1〜31−4はON状態となる。
したがって、ESD用FET31−1〜31−4、ESD保護ダイオード32−1,32−2の双方がON状態となるため、共通端子41に対するESD保護素子として放電が行われることとなる。
【0035】
次に、本発明の実施の形態におけるESDに対するクランプ電圧VCLYを求める。
まず、ESD用FET31−1〜31−4のゲート・ソース間、又は、ゲート・ドレイン間の2端子ブレーク電圧をVBR、ESD用FETの段数をNSW、ESD保護ダイオード32−1,32−2の段数をMDX1、ESD保護ダイオード32−1,32−2のクランプ電圧をVclampとすると、本発明の実施の形態におけるESD保護回路103によるクランプ電圧VCLYは、下記する式の如くとなる。
【0036】
VCLY=NSW×VBR+MDX1×Vclamp
【0037】
一方、ESD保護ダイオード32−1,32−2のみでESD保護を行う場合のESDに対するクランプ電圧VCLYを求めると次述する如くとなる。
まず、ESD保護ダイオードの段数をMDX2とすると、ESD保護ダイオードのみによるESD保護を行う場合の従来のクランプ電圧VCLYは、下記する式の如くとなる。
【0038】
VCLY=MDX2×Vclamp
【0039】
大小関係は、それぞれの値によるところが大であるが、例えば、NSW=4、VBR=15V、MDX1=1、MDX2=10、Vclamp=10Vとした場合、本発明の実施の形態におけるESD保護回路103のクランプ電圧VCLYは、VCLY=4×15+1×10=70Vとなる一方、ESD保護ダイオードのみの従来のクランプ電圧VCLYは、VCLY=10×10=100Vとなり、本発明の実施の形態におけるESD保護回路103においては従来に比してクランプ電圧を低くできることとなる。
【0040】
一方、OFF容量という観点では次述するような事が言える。
まず、スイッチ素子としてのFETの一般的なOFF容量値CSWoffは0.1pF/単位程度であり、例えば、4段スタック回路で、ON抵抗一定となるように設計すると、4単位分のサイズが必要となり、結局、OFF容量はそのままで0.1pFとなる。
ESD保護ダイオードについては、ESD放電電流密度に配慮する必要がある。HBM(Human Body Model)に対する耐圧で4kVは一般的には半導体素子として十分なESD耐量の指標であり、この際のESD電流IHBM4kは、下記する式の如くとなる。
【0041】
IHBM4k=VHBM4k/RHBM=4000/1.5kΩ=2.66A
【0042】
これを1単位とする場合のESD保護ダイオードの一般的な静電容量CESDは、CESD=1pF/単位となる、
一方、スイッチ素子としてのFETのESD放電電流は、経験値として0.5単位程度で2.66Aである。
したがって、ESD用FETに必要なサイズは0.5単位、4段スタックとすると、結局、本発明の実施の形態のESD保護回路103におけるOFF容量COFFXは、ESD用FETのサイズをUSWとすると、下記する式の如くとなる。
【0043】
COFFX=1/{1/(USW×Cswoff/NSW)}+1/(CESD/2)}=1/{1/(0.5×0.1/4)+1/(1/2)}=1/{(1/(0.125)+1/(0.5)}=1/(80+2)=0.0122pF
【0044】
一方、ESD保護ダイオードだけの場合のOFF静電容量COFFは、下記する式の如くとなる。
【0045】
COFF=CESD/10=1/10=0.1pF
【0046】
すなわち、ESD保護ダイオードだけによるESD保護と比較して、本発明の実施の形態のESD保護回路103におけるOFF静電容量は大幅に低減されたものとなる。
このように、OFF容量の絶対値を小さくすることで、ひずみの低減を図ることができる。
【0047】
本発明の実施の形態におけるESD保護回路103においては、上述のようにOFF容量が低減されるため、OFF容量に伴う不整合が軽減でき、従来に比して損失特性が改善される。
図2には、本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の損失特性の変化例が従来回路の同様な変化例と共に示されており、以下、同図について説明すれば、まず、横軸は入力高周波信号の周波数を、縦軸は挿入損失を、それぞれ示している。
【0048】
また、同図において実線の特性線は、本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の挿入損失の変化を、点線の特性線は、従来回路の挿入損失の変化を、それぞれ表したものとなっている。
同図によれば、本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路では、従来に比して、周波数が高くなるほど挿入損失が改善されることが確認できる。
【0049】
なお、ここで、図4に示されたシャントスイッチを有する半導体スイッチ回路との対比における本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路の特徴について説明する。
本発明の実施の形態における半導体スイッチ回路においては、ESD用FET31−1〜31−4のゲートを接地し、ESD用FET31−1〜31−4を常時OFF状態としたものとなっている。
【0050】
また、ESD保護回路103が共通端子41とグランドとの間に設けられているため、例えば、第1の個別端子42や第2の個別端子43に設けた場合に比して、確実にESD保護機能を確保できるものとなっている。
すなわち、ESD保護回路103を、第1の個別端子42や第2の個別端子43に設けた場合には、共通端子41から見込んだクランプ電圧が高くなってしまい、保護機能が低下してしまうが、ESD保護回路103を共通端子41に接続することにより、そのような不都合が確実に回避され、安定性、信頼性の高いESD保護機能が実現できる。
さらに、ESD保護ダイオード32−1,32−2には、図4の従来回路におけるシャントキャパシタ53が不要のため回路の簡素化ができるものとなっている。
【0051】
なお、上述した本発明の実施の形態においては、1つの共通端子41と2つの個別端子42,43が設けられた半導体スイッチ回路について説明したが、共通端子は1つに限定される必要はなく複数であっても良く、また、個別端子は2つに限定される必要はなく、任意の個数設定し得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0052】
ESD保護素子のサイズの縮小化とOFF容量の低減との両立が所望される半導体スイッチ回路に適用できる。
【符号の説明】
【0053】
31−1〜31−4…ESD用FET
32−1,32−2…ESD保護ダイオード
101…第1の単位スイッチ
102…第2の単位スイッチ
103…ESD保護回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの共通端子と、2つ以上の個別端子を有し、前記共通端子と前記個別端子とが、前記個別端子のそれぞれに対応して設けられた単位スイッチにより選択的に導通状態とされるよう構成されてなる半導体スイッチ回路において、
前記共通端子とグランドとの間には、ESD保護回路が設けられ、
前記ESD保護回路は、前記共通端子側から順に、ESD保護スイッチ素子としての直列接続された複数の電界効果トランジスタと、逆接続された一組のESD保護素子としてのダイオードが直列接続されてなり、
前記直列接続された複数の電界効果トランジスタは、ゲートが相互に接続されてグランドに接続されてなることを特徴とする半導体スイッチ回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−26982(P2013−26982A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162463(P2011−162463)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000191238)新日本無線株式会社 (569)
【Fターム(参考)】