説明

半導体マッハツェンダー光変調器及びその製造方法、半導体光集積素子及びその製造方法

【課題】それぞれの位相変調領域が電気的に分離され、かつ高い光透過率を有する半導体マッハツェンダー光変調器及びその製造方法並びに半導体光集積素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、基板11上にコア層13と上部クラッド層15とが積層されている。その上には、光導波路1a及び1b、MMI分波器2a、MMI合波器2bを備える。光導波路1a及び1bには位相変調領域が設けられている。MMI分波器2aから出射された光は、光導波路1a及び1bで位相変調され、MMI合波器2bへ出射する。また、光導波路1a及び1bの両側にコア層13を貫通して形成された2本のトレンチ5に挟まれたメサ部19が形成されている。なお、光導波路1a及び1bは、位相変調領域とMMI分波器2a及び位相変調領域とMMI合波器2bとの間で長さLgapの分離溝Gapで分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路を有する半導体マッハツェンダー光変調器及び半導体光集積素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ、光増幅器、光変調器、光検出器及び光導波路等の、機能が異なる領域をモノリシック集積することによる、半導体光集積素子の小型化、低価格化が期待されている。例えば、光変調器と光源をモノリシック集積した半導体光集積素子では、ハイメサ導波路構造、BH(Buried Hetero)構造及びリッジ導波路構造など、それぞれの領域において最適な導波路構造を採用することが望ましい。
【0003】
しかし、半導体光集積素子を作製する観点からは、素子内における導波路構造を統一して、一括形成することが望ましい。また、高温特性や変調屈折率特性の優位性から、コア層をAlGaInAsやAlInAsなどの、Alを含む組成とする場合が増えている。ところが、ハイメサ導波路構造やBH構造では、その製造過程においてAlを含むコア層が露出する。そのため、酸化の影響や、当該コア層を半導体結晶で埋め込む際の前処理などに注意を払う必要がある。一方、リッジ導波路構造は、Alを含むコア層が露出しないので、コア層が酸化する懸念が無い。さらに、ハイメサ導波路構造と同様に、結晶成長の回数が少なく、製作工程を簡素化できる。従って、このような半導体光集積素子においては、リッジ導波路構造を一括形成することが望ましい。
【0004】
また、上述の半導体光集積素子を高速動作させるため、マッハツェンダー(以下MZ:Mach−Zehnder)光変調器を適用することが考えられる。MZ光変調器は、2つの位相変調領域を個別に電界駆動させなければならない。そのため、それぞれの位相変調領域を電気的に分離する必要がある。このような電気的分離の方法として、光導波路の合分波領域における上部クラッド層を高抵抗層に置き換える、または、光導波路に分離溝を形成して、空間的に分離する(特許文献1乃至3)といった手法が取られている。
【0005】
しかし、前者は、上部クラッド層のエッチングと、半導体結晶を再成長させる工数が新たに必要となる。さらに、半導体結晶を再成長させた接合面の凹凸により、その後の光導波路形成において不具合が生じる恐れも少なくない。
【0006】
一方、後者も、新たな工数が必要であるとともに、分離溝をコア層まで貫通させる場合には、コア層が酸化される懸念が生じる。これを防止するため、コア層を保護する酸化膜または窒化膜の形成や、ポリイミドなどの熱硬化樹脂の充填などが必要となり、工数が増加する。また、光導波路に分離溝を設けた場合には、光導波路が分離された部分において結合損失が生じ、導波される光結合効率が低下する。
【0007】
上記の問題を解決する構造として、特許文献1には、コア層を形成した後に、クラッド層を選択成長することで光導波路と分離溝を同時に形成し、2つの位相変調器領域を電気的に分離する構造が提案されている。図8Aは、特許文献1に記載された半導体MZ光変調器の、光の出射側から見た場合の選択成長後における断面構造を示す断面図である。この半導体MZ光変調器は、図8Aに示すように、n型InPの(100)面を主面とする基板31上に、n型InPからなるクラッド層32、真性型InGaAsPからなるコア層33及び真性型InPからなるクラッド層34が順に積層されている。クラッド層34の上には、リッジ構造導波路を成長させる部分が開口した、誘電体マスク37が形成されている。誘電体マスク37の開口部には、選択成長法により成長された、リッジ構造導波路を構成する、p型InPからなるクラッド層35及びp型InGaAsからなるキャップ層36が形成されている。
【0008】
また、図8Bは、図8Aに示すVIIB−VIIB線断面図である。この半導体MZ光変調器は、図8Aと同様に、基板31上に、クラッド層32、コア層33、クラッド層34が順に積層されている。クラッド層34の上には、分離溝38を形成する部分に誘電体マスク37が形成されている。また、誘電体マスク37が形成されていない部分には、選択成長法により、リッジ構造導波路を構成する、クラッド層35及びキャップ層36が形成されている。
【0009】
また、特許文献3には、素子端面の近傍における光導波路をテーパ形状とすることで、光ファイバとの結合損失を低減する構造が開示されている。さらに、特許文献4では、テーパ形状の光導波路間に、光導波路と所定の角度をなす溝を設ける構造が開示されている。
【0010】
特許文献5では、リッジ型導波路構造を有する半導体光デバイスにおいて、光導波路の両側の半導体層に溝を形成する導電素子構造を採用し、半導体光デバイスの高速動作性を向上させる構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−021985号公報
【特許文献2】特開平9−105893号公報
【特許文献3】特開2001−42149号公報
【特許文献4】特開平7−20359号公報
【特許文献5】特開2003−69153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、特許文献1のように、選択成長法により分離溝を形成する場合には、分離溝の端面が傾斜してしまう、分離溝の長さを十分に小さく形成することができないなどの問題が生じる。また、端面が垂直に形成されない。従って、導波される光の透過率はさらに低下する。
【0013】
また、特許文献3において光導波路に設けられたテーパ部は、素子端面近傍の光のモードプロファイルを拡大するものであり、かつ分離溝は設けられていない。特許文献4は、光導波路間に設けられたコア層を貫通する溝で端面反射を抑制できるが、Alを含むコア層を用いた場合には端面が酸化されてしまう。
【0014】
すなわち、既存の構造及び製造方法により、光導波路に分離溝を設けて位相変調領域同士を電気的に分離すると、光結合効率が低下することは避けられない。
【0015】
本発明は、光導波路に分離溝を設けて位相変調領域同士を電気的に分離し、かつ高い光透過率を有する半導体MZ光変調器及びその製造方法ならびに半導体光集積素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様である半導体マッハツェンダー光変調器は、半導体基板と、前記半導体基板上に積層されたコア層及びクラッド層を含む半導体積層体と、前記半導体積層体上に形成された、外部から入射する入射光を分波する分波器と、前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器と、前記コア層を貫通して前記第1及び前記第2の光導波路の両側に形成された2本のトレンチに挟まれたメサ部とを少なくとも備え、前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されているものである。
【0017】
本発明の一態様である半導体マッハツェンダー光変調器の製造方法は、半導体基板上にコア層及びクラッド層を積層して半導体積層体を形成する工程と、外部から入射する入射光を分波する分波器と、前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器とを前記半導体積層体上に形成する工程と、前記第1及び前記第2の光導波路の両側に、前記コア層を貫通する2本トレンチに挟まれたメサ部を形成する工程とを少なくとも備え、前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されている。
【0018】
本発明の一態様である半導体光集積素子の製造方法は、半導体基板上の半導体レーザを形成する領域に回折格子を形成する工程と、前記半導体基板上及び前記回折格子上に活性層を積層する工程と、半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域の前記活性層をエッチングして除去する工程と、前記半導体基板上の前記半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域に前記活性層とバットジョイント接合させてコア層を積層する工程と、前記活性層及び前記コア層上にクラッド層を積層する工程と、外部から入射する入射光を分波する分波器と、前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器とを前記クラッド層上の前記半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域に形成する工程と、前記第1及び前記第2の光導波路の両側に、前記コア層を貫通する2本トレンチに挟まれたメサ部を形成する工程とを少なくとも備え、前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、それぞれの位相変調領域が電気的に分離され、かつ高い光透過率を有する半導体マッハツェンダー光変調器及びその製造方法並びに半導体光集積素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の構成を示す上面図である。
【図2】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の断面構成を示す斜視図である。
【図3A】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す斜視図である。
【図3B】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す斜視図である。
【図3C】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す斜視図である。
【図3D】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す斜視図である。
【図3E】実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す斜視図である。
【図4A】テーパ部を形成した光導波路における光の透過率を表す等高線図である。
【図4B】テーパ部を形成した光導波路における光の透過率を表す等高線図である。
【図5】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の構成を示す上面図である。
【図6】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の断面を模式的に示す断面図である。
【図7A】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の製造工程を示す断面図である。
【図7B】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の製造工程を示す断面図である。
【図7C】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の製造工程を示す断面図である。
【図7D】実施の形態2にかかる半導体光集積素子の製造工程を示す断面図である。
【図8A】特許文献1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す断面図である。
【図8B】特許文献1にかかる半導体MZ光変調器の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。尚、以下では、同様な構成要素には同様の符号を記し、適宜説明を省略する。
実施の形態1
実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の構成について説明する。図1は、実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器の上面図である。この半導体MZ光変調器は、図1に示すように、光導波路1a及び1bが設けられている。光導波路1a及び1bの一端には、MMI(Multi Mode Interference)分波器2aが光学的に接続されている。もう一方の一端には、MMI合波器2bが光学的に接続されている。また、光導波路1a及び2aには、電界により光の位相を回転させる位相変調領域が設けられている。光導波路1a及び2aは、位相変調領域の両端にて分離溝Gapにより、分離されている。
【0022】
MMI分波器2aには、入射光を導波させる入射光導波路3が光学的に接続されている。MMI合波器2bには、出射光を導波させる出射光導波路4が光学的に接続されている。
【0023】
さらに、光導波路1a及び1bの両側には、トレンチ5が設けられている。なおトレンチ5は、図1に示すように、光導波路1a及び1bのみならず、入射光導波路3、出射光導波路4、MMI分波器2a及びMMI合波器2bの両側に設けられてもよい。
【0024】
次に、この半導体MZ光変調器の光導波路1a及び1bの分離溝Gap近傍における断面構造について、光導波路1aを例として説明する。図2は、この半導体MZ光変調器の光導波路1aの分離溝Gap付近における断面構成を示す斜視図である。図2に示すように、この半導体MZ光変調器は、例えば、n型InPの(100面)を主面とする基板11上に、例えば、n型InPからなるバッファ層12(例えば、厚さ0.2μm、キャリア濃度1×1018cm−3)、AlGaInAsからなる量子井戸構造を有するコア層13(例えば、厚さ0.3μm、発光波長1.4μm)、InGaAsPからなるエッチングストップ層14(例えば、厚さ0.02μm、発光波長1.15μm)、p型InPからなる上部クラッド層15(例えば、厚さ1.5μm、キャリア濃度1×1018cm−3)が形成されている。
【0025】
上部クラッド層15には、分離溝Gapにより分離された、リッジ構造を有する光導波路1aが形成されている。また、光導波路1aには、分離溝Gapに向かってその幅が連続的に細くなるテーパ部が設けられている。なお、ここで、分離溝Gapの長さをLgap、テーパ部の長さをLtaper、光導波路1aの幅をWrib、テーパ部先端における光導波路1aの幅をWtaperとする。
【0026】
また、光導波路1aの両側には、エッチングストップ層14とコア層13を貫通して、バッファ層12に達するトレンチ5が形成されている。また、2本のトレンチ5に挟まれた部分は、メサ部19となる。メサ部19に含まれるコア層13の幅をWmesaとして、本構成では、例えば、Wmesa=6μmである。
【0027】
次に、この半導体MZ光変調器の製造方法について説明する。図3A〜Eは、この半導体MZ光変調器の製造工程を示す、分離溝Gap付近における斜視図である。まず、図3Aに示すように、基板11上に、例えば、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法により、バッファ層12、コア層13、エッチングストップ層14、上部クラッド層15を順に積層する。
【0028】
次に、図3Bに示すように、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法とフォトリソグラフィにより、SiOからなるマスク16を形成する。マスク16は、分離溝Gap部において1μm程度の狭い幅で開口している。また、分離溝Gap近傍における形状は、分離溝Gapに近づくに従って幅が細くなるテーパ形状とする。
【0029】
次に、図3Cに示すように、ドライエッチングにより、エッチングストップ層14の近傍まで、かつ、エッチングストップ層14が露出しない程度に、上部クラッド層15を深さ方向に異方性エッチングする。
【0030】
続いて、図3Dに示すように、例えば、塩酸を含むエッチング液を用いたウェットエッチングにより、残存している上部クラッド層15を選択的にエッチングする。
【0031】
次に、マスク16を除去して、図3Eに示すように、CVD法とフォトリソグラフィにより、例えばSiOからなるマスク17を形成する。このマスク17には、トレンチ5を形成する部分に開口18を設ける。
【0032】
次いで、例えばウェットエッチングにより、トレンチ5を形成する。その後、マスク17を除去して、図2に示す半導体MZ光変調器を作製することができる。
【0033】
本構成によれば、光導波路1a及び1bにはそれぞれ分離溝Gapが形成されているので、光導波路1a及び1bは電気的に分離される。よって、位相変調領域において、それぞれの光導波路に個別の電界をかけて、位相変調を行うことが可能である。
【0034】
ところが、光導波路に分離溝を設けると、一般に光透過率は低下する。そのため、本構成では、光導波路1a及び1bの分離溝Gap近傍にテーパ部を設けることで、光透過率の低下を抑制している。
【0035】
光導波路にテーパ部を設けることによる効果を見積もるため、本構成にかかる半導体MZ光変調器において、BPM(Beam Propagation Method)解析により、Wtaper、Ltaper及びLgapを変化させた場合の、波長1.55μmの光に対する光透過率の分布をシミュレーションした。図4Aは、Lgap=1.5μmとして、WtaperとLtaperを変化させた場合の光透過率を示す等高線図である。また、図4Bは、Lteper=25μmとして、WtaperとLgapを変化させた場合の光透過率を示す等高線図である。
【0036】
図4(a)及び(b)に示すように、基本的にはLgapとWtaperをともに小さくすることで光透過率の低下を抑制できることがわかる。例えば、図4(b)に示すように、Wtaper=0.8μm、Ltaper=25μm、Lgap=0.2μmの場合では、光透過率を95%程度とすることができる。
【0037】
なお、上述のシミュレーションは、光導波路の幅が直線的に変化するテーパ形状の場合について行ったものであるが、例えば、関数曲線的に変化してもその傾向は大きく異なるものではない。
【0038】
なお、電気的分離の効果を向上させるならば、分離溝Gapをコア層まで貫通させることが望ましい。しかし、この場合には、分離溝形状や端面の平滑性により光結合効率が大きく変動するという問題が生じる。さらに、Alを含むコア層を用いる場合には、当該コア層が露出して酸化されることを防止するために、酸化膜、窒化膜及びポリイミドなどの熱硬化樹脂層で保護することが必要となり、工数の増大を招く。よって、本構成では、電気的分離効果と光結合効率の確保の両立を考慮して、上部クラッド層15に分離溝Gapを設ける構造としている。
【0039】
なお、ハイメサ導波路構造において、分離溝近傍における導波路をテーパ形状とすると、コア層から光が放射して光透過率は大きく低下し、かえって損失を増加させてしまう。よって、光導波路にテーパ部を設けることは、コア層が分断せずに上部クラッド層のみが分離するリッジ導波路構造において有効である。
【0040】
また、本構成によれば、2本のトレンチ5に挟まれたメサ部19が形成されており、これにより、光の横モードの制御性を向上させることができる。併せて、光設計と電気設計を独立して行うことができるようになり、高速動作を想定した設計の自由度を向上させることができる。さらに、コア層13及びエッチングストップ層14の電流が流れる面積を狭窄化することで、寄生容量を低減できるので、高速動作が可能となる。
【0041】
なお、トレンチ5を形成することにより、Alを含むコア層13が露出するので、酸化の影響が懸念される。しかし、光導波路1a及び1bとトレンチ5の距離はある程度離れているので、その酸化の影響は小さい。
【0042】
なお、上述の製造方法によれば、主としてドライエッチングにより分離溝Gapを形成する。すなわち、ウェットエッチングや選択成長法により形成する場合と比べて、分離溝の長さLgapを小さくすることができる。さらにまた、垂直性に優れた形状を有する分離溝端面を形成でき、光導波路1a及び1bにおける光結合効率低下を抑制する観点から有効である。
【0043】
さらに、上述の製造方法によれば、光導波路1a及び1bと分離溝Gapを一括形成できるので、選択成長法を用いる場合のように結晶成長回数が増加することもなく、作製工程が簡単であり、低コスト化が期待できる。
【0044】
実施の形態2
また、実施の形態1にかかる半導体MZ光変調器を、半導体レーザ等の光源と同一の基板上にモノリシック集積することにより、半導体光集積素子を形成することが可能である。図5は実施の形態2にかかる半導体光集積素子の構成を示す上面図である。この半導体光集積素子は、同一基板上に、図5に示すように、半導体MZ光変調器領域201とDFB(Distributed FeedBack laser)レーザ領域202とが集積されている。
【0045】
半導体MZ光変調器領域201は、光導波路203がMMI分波器2aと光学的に接続されている。光導波路204がMMI合波器2bと光学的に接続されている。その他の構成は図1と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
DFBレーザ領域202には、半導体MZ光変調器領域201から延在する、光導波路203が設けられている。
【0047】
次に、この半導体光集積素子の断面構造について説明する。図6は、この半導体光集積素子の断面を模式的に示す断面図である。図6に示すように、この半導体光集積素子は、半導体MZ光変調器領域201とDFBレーザ領域202により構成される。
【0048】
半導体MZ光変調器領域201においては、例えば、n型InPの(100)面を主面とする基板21上に、AlGaInAsからなる量子井戸構造を有するコア層22(例えば、厚さ0.3μm、発光波長1.4μm)、InGaAsPからなるエッチングストップ層23(例えば、厚さ0.02μm、発光波長1.15μm)、p型InPかならなるクラッド層24(例えば、厚さ0.01μm、キャリア濃度1×1018cm−)が形成されている。
【0049】
DFBレーザ領域202においては、例えば、半導体MZ光変調器領域201と共通の基板21上に、回折格子25、InGaAsPからなる量子井戸構造を有する活性層26(例えば、厚さ0.3μm、発光波長1.55μm)、p型InPからなるクラッド層27(例えば、厚さ0.01μm)が形成されている。なお、活性層26は、クラッド層27と比べて、半導体MZ光変調器領域201側に食い込んで設けられている。
【0050】
コア層22と活性層26とは光学的に接続され、半導体MZ光変調器領域201とDFBレーザ領域202とを小さな結合損失で結合するバットジョイント接合を形成している。さらに、半導体MZ光変調器領域201に形成されるクラッド層24は、上部保護層としての役割を果たす厚さを有していればよいため、十分に薄く形成できる。よって、バットジョイント接合において大幅な段差が生じる懸念はない。
【0051】
さらに、クラッド層24及びクラッド層27の上には、上部クラッド層28が形成されている。図示しないが、図1に示す光導波路1a及び1bは、この上部クラッド層28に形成される。
【0052】
次に、この半導体光集積素子の製造方法について説明する。図7A〜Dは、この半導体光集積素子の製造方法を示す断面図である。まず、図7Aに示すように、基板21上のDFBレーザ領域202に、回折格子25を形成する。次に、例えばMOVPE法により、基板21及び回折格子25の上に、活性層26及びクラッド層27を順に積層させる。
【0053】
次いで、図7Bに示すように、CVD法とフォトリソグラフィにより、例えば、SiOからなるマスク29をDFBレーザ領域202に形成する。その後、ドライエッチングにより、半導体MZ光変調器領域201のクラッド層27と活性層26を除去する。この際、活性層26は、基板21が露出しない程度までエッチングする。
【0054】
引き続き、図7Cに示すように、硫酸、過酸化水素水及び水の混合液を用いたウェットエッチングにより、残存している活性層26を選択的に除去する。なお、ウェットエッチングでは、等方的にエッチングが進行する。そのため、活性層26はサイドエッチングにより、クラッド層27と比べてその界面が半導体MZ光変調器領域201側に後退する。その結果、クラッド層27は活性層26に対して庇形状を有することとなる。
【0055】
次に、図7Dに示すように、半導体MZ光変調器領域201に、例えばMOVPE法により、コア層22、エッチングストップ層23、クラッド層24を形成する。ここで、コア層22は、DFBレーザ領域202の活性層26とバットジョイント接合するように形成する。この際、クラッド層27は活性層26に対して庇形状を有しているので、バットジョイント接合の接合部での異常成長を防止しつつ、結晶成長を行うことができる。更に、クラッド層24は、バットジョイント接合に大幅な段差が生じないように十分に薄く形成する。続いて、マスク29を除去する。
【0056】
次いで、例えばMOVPE法により、上部クラッド層28を積層する。以降は、実施の形態1に説明した製造工程と同様に、半導体MZ光変調器領域201及びDFBレーザ領域202に光導波路を一括形成し、その後、光導波路の両側にトレンチを形成して、実施の形態2にかかる半導体光集積素子を得ることができる。
【0057】
すなわち、この半導体光集積素子は、DFBレーザ領域202とバットジョイント接合の工程以外は、半導体MZ光変調器単体と同じ工程で作製することができる。また、活性層26とエッチングストップ層23との高さはほぼ一致している。よって、ドライエッチングとウェットエッチングの併用で形成されるリッジ導波路の高さを揃えることができる。
【0058】
よって、本構成及び製造方法によれば、リッジ導波路形成と同時に、半導体MZ光変調器領域201の光導波路に分離溝を形成することができる。従って、作製工程が容易で、光透過率の低下を抑制できる半導体光集積素子を得ることができる。
【0059】
その他の実施の形態
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上記の実施の形態で示した寸法やキャリア濃度は一例であり、結晶成長条件、素子構造などに応じて適切な寸法、濃度を採用すべきことは言うまでもない。
【0060】
また、マスクに用いる誘電体についてはSiOに限られず、例えば、窒化シリコンまたは酸窒化シリコンなどの、他の誘電体を用いることができる。
【0061】
半導体MZ光変調器における層構造もp−i−n構造に限られず、例えばn−p−i−n構造でも構わない。
【0062】
基板は導電性基板に限らず、高抵抗基板を用いてもよい。
【0063】
コア層の組成は、AlGaInAsに限られず、例えばInGaAsPやInGaAsなどの、他の半導体混晶を用いてもよい。また、活性層はInGaAsPに限られず、AlGaInAsやInGaAsなどの、他の半導体混晶を用いてもよい。また、コア層または活性層の構造も量子井戸構造に限られず、例えば、バルク構造などの他の構造でもよい。
【0064】
また、半導体MZ光変調器と集積される機能領域はDFBレーザに限られないことは言うまでもない。さらに、半導体MZ光変調器と集積される機能領域は1つでもよいし、複数でも構わない。
【符号の説明】
【0065】
1a、1b 光導波路
2a MMI分波器
2b MMI合波器
3 入射側導波路
4 出射側導波路
5 トレンチ
11 基板
12 バッファ層
13 コア層
14 エッチングストップ層
15 上部クラッド層
16、17 マスク
18 開口
19 メサ部
21 基板
22 コア層
23 エッチングストップ層
24 クラッド層
25 回折格子
26 活性層
27 クラッド層
28 上部クラッド層
29 マスク
31 基板
32 クラッド層
33 コア層
34 クラッド層
35 クラッド層
36 キャップ層
37 誘電体マスク
38 分離溝
201 半導体MZ光変調器領域
202 DFBレーザ領域
203、204 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に積層されたコア層及びクラッド層を含む半導体積層体と、
前記半導体積層体上に形成された、
外部から入射する入射光を分波する分波器と、
前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、
前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器と、
前記コア層を貫通して前記第1及び前記第2の光導波路の両側に形成された2本のトレンチに挟まれたメサ部とを少なくとも備え、
前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されている半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項2】
前記第1及び前記第2の光導波路は、前記分離溝に向かって連続的に幅が細くなることを特徴とする、
請求項1に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項3】
前記半導体基板はInPからなることを特徴とする、
請求項1または2に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項4】
前記コア層はAlを含む半導体混晶からなることを特徴とする、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項5】
前記コア層はAlGaInAsまたはAlInAsからなることを特徴とする、
請求項4に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項6】
前記コア層は量子井戸構造を有することを特徴とする、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項7】
前記クラッド層はInPからなることを特徴とする、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の半導体マッハツェンダー光変調器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の前記半導体マッハツェンダー光変調器と、
前記半導体基板上に前記半導体マッハツェンダー光変調器とモノリシック集積された半導体レーザとを備え、
前記半導体レーザは、
前記半導体基板上に形成された回折格子と、
前記回折格子上に積層された活性層と、
前記活性層上に積層された前記半導体マッハツェンダー光変調器と共通する前記クラッド層とを少なくとも備える半導体光集積素子。
【請求項9】
前記コア層と前記活性層とはバットジョイント接合していることを特徴とする、
請求項8に記載の半導体光集積素子。
【請求項10】
半導体基板上にコア層及びクラッド層を積層して半導体積層体を形成する工程と、
外部から入射する入射光を分波する分波器と、
前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、
前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器とを前記半導体積層体上に形成する工程と、
前記第1及び前記第2の光導波路の両側に、前記コア層を貫通する2本トレンチに挟まれたメサ部を形成する工程とを少なくとも備え、
前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されている半導体マッハツェンダー光変調器の製造方法。
【請求項11】
半導体基板上の半導体レーザを形成する領域に回折格子を形成する工程と、
前記半導体基板上及び前記回折格子上に活性層を積層する工程と、
半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域の前記活性層をエッチングして除去する工程と、
前記半導体基板上の前記半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域に前記活性層とバットジョイント接合させてコア層を積層する工程と、
前記活性層及び前記コア層上にクラッド層を積層する工程と、
外部から入射する入射光を分波する分波器と、
前記分波器から出射された光の位相を変調する位相変調領域が設けられた第1及び第2の光導波路と、
前記第1及び前記第2の光導波路から出射された光を合波する合波器とを前記クラッド層上の前記半導体マッハツェンダー光変調器を形成する領域に形成する工程と、
前記第1及び前記第2の光導波路の両側に、前記コア層を貫通する2本トレンチに挟まれたメサ部を形成する工程とを少なくとも備え、
前記第1及び前記第2の光導波路は、前記位相変調領域と前記分波器との間、及び、前記位相変調領域と前記合波器との間で、所定の長さの分離溝で分離されている半導体光集積素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【公開番号】特開2010−256761(P2010−256761A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108959(P2009−108959)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】