説明

半導体レーザ装置

【課題】光出射層表面に堆積物が生じることを抑制し、信頼性の改善が可能な半導体レーザ装置を提供する。
【解決手段】活性層を含む積層体と、前記積層体により構成された光共振器の光出射端面に接触して設けられ、前記光出射端面側とは反対側の面を構成する光触媒膜を有する誘電体層と、前記光触媒膜の一部が露出するように前記光触媒膜の上に設けられた導電体部と、を有する光出射層と、を備え、前記活性層から放出される光ビームは、前記導電体部を透過して放出されることを特徴とする半導体レーザ装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)用途を含む半導体レーザ装置では、レーザチップの光共振器を構成する端面に誘電体層からなる光反射層を設けている。この光反射層の光反射率を変化させることにより光ディスク駆動装置の要求を満たす光出力、及び信頼性を得ることが容易となる。
このような光反射層は、単層膜または多層膜を有する誘電体層を用いて構成することができる。誘電体層の材質としては、SiO、SixNy、Al、AlN、TiO、及びZrOなどとすることができる。
【0003】
レーザ光がこれらの誘電体層を介して外部に出射する場合、レーザ光の有するエネルギーが高いため、その表面には誘電分極により電荷がたまりやすい。また、半導体レーザ装置を構成するパッケージ部材、チップのマウント材、封止ガス、及び環境雰囲気中には、Si有機化合物や炭化水素化合物が存在することが多い。レーザ光の発光波長が500nm以下と短い場合、光ビームのエネルギーが高いためにSi有機化合物や炭化水素化合物から発生した揮発ガスが容易に分解される。例えば、(Si−O−Si)結合によるポリマーであるシロキサン、(−Si−OH)結合を含むシラノールなどのSi有機化合物は、次世代DVD用途に用いる500nm以下の発光波長の光ビームにより容易に分解される。分解されたSi、Oなどの原子、及びこれらの反応生成物は、光出射層の表面の電荷に吸着されやすく、例えばSiOxなどからなる堆積物を形成しやすい。このような堆積物は、光ディスク用途において重要なレーザ光の遠視野像(FFP)を変動させる。また、光出力低下及び駆動電流変動などを生じ、信頼性を低下させる。
【0004】
このため、次世代DVD用半導体レーザモジュールでは、べーキングや水銀ランプ照射等により、パッケージ部品に付着した汚染源を可能な限り除去し、かつ外部からの汚染物質の混入を防ぐために気密封止する必要がある。この結果、モジュール組立工程は煩雑にならざるを得なかった。
【0005】
半導体レーザモジュール内に汚染物質を吸着させる機能を設け、良好な特性及び長期信頼性を得ることが可能な技術開示例がある(特許文献1)。この技術開示例では、レーザモジュールの密閉容器に、例えばゼオライト吸着剤のようなガス吸着機能を有する物質を設け、炭化水素化合物などの汚染物質を除去可能としている。
しかしながら、この技術開示例ではレーザモジュール構造が複雑となり、量産性を高めることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−14820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光出射層表面に堆積物が生じることを抑制し、信頼性の改善が可能な半導体レーザ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、活性層を含む積層体と、前記積層体により構成された光共振器の光出射端面に接触して設けられ、前記光出射端面側とは反対側の面を構成する光触媒膜を有する誘電体層と、前記光触媒膜の一部が露出するように前記光触媒膜の上に設けられた導電体部と、を有する光出射層と、を備え、前記活性層から放出される光ビームは、前記導電体部を透過して放出されることを特徴とする半導体レーザ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態にかかる半導体レーザ装置
【図2】チップ断面を説明する模式図
【図3】開放雰囲気中動作におけるFFPを説明する図
【図4】第3の実施形態を説明する模式断面図
【図5】第4の実施形態を表す模式断面図
【図6】第5の実施形態を表す模式図
【図7】第6の実施形態を表す模式図
【図8】第7の実施形態にかかる半導体レーザ装置を説明する図
【図9】第8の実施形態を表す模式断面図
【図10】第9の実施形態を表す模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の第1の実施形態にかかる半導体レーザ装置を表す図である。すなわち、図1(a)は模式斜視図、図1(b)はA−A線に沿った模式断面図、図1(c)は遠視野像を説明する図である。
【0011】
チップは、n型GaN基板12上に、光ガイド層16、活性層18、光ガイド層20、及びクラッド層22などを含む窒化物系の積層体15が形成された構造を有する。クラッド層22の中間までをストライプ状のリッジとし、光の導波路26とする。導波路26の上部以外の表面を覆うように酸化物などの絶縁膜23を形成する。この構造は、実屈折率型と言う。さらに、ストライプが延在する方向と垂直な面でチップへきかいを行い、鏡面状の端面を有する光共振器とする。光共振器の端面のうち、一方を光出射端面70、他方を光反射端面72とする。
【0012】
光出射端面70の上には光出射層54が形成され、光反射端面72の上には光反射層64が形成されている。活性層18からの放出光は光出射層54を介して光出射領域56から光ビーム80となって外部へ放出される。
【0013】
また、図1(c)は、光ビーム80の遠視野像(FFP:Far Field Pattern)を説明する図である。光ビーム80は、光出射端面70から垂直方向及び水平方向に発散し楕円状断面を保ちながら進む。光強度が最大値の50%となる放射角は、活性層18に垂直な方向でθv(度)、水平方向でθh(度)で表す。光ディスク用途では、光ビーム80の断面は、真円に近いほど好ましいが、図1(b)のような活性層中心面に関して垂直方向に非対称な構造のためにθvがθhよりも大きな楕円断面形状となることが多い。
【0014】
図2は、半導体レーザ装置のチップを説明する模式図である。すなわち、図2(a)は図1(a)のB−B線に沿った断面、図2(b)は光出射層の変形例、図2(c)は比較例の断面、図2(d)は比較例の光ビームの光出射領域近傍の部分模式断面図である。
【0015】
図2(a)に表す本実施形態を構成するチップ5において、光出射端面70には、例えば積層体15(屈折率:2.5〜2.7)側から4分の1波長(厚さ:略50nm)のSiN膜(屈折率:略2.1)50と、4分の1波長(厚さ略70nm)のSiO膜(屈折率:略1.5)52と、が4層ずつ交互に積層された誘電体層53と、表面のSiO膜52の上に設けられた導電体部59と、を有する光出射層54を構成している。なお、SiN膜50はSi膜をも含むものとする。
【0016】
略3.2×10−6/℃の線膨張係数を有するSiN膜50と、略3.17×10−6/℃の線膨張係数を有する光出射端面70と、を接触させると、熱膨張及び熱収縮における応力が低減でき、密着性を高めることが容易となる。また、SiN膜50と光出射端面70とは共にNを有するので、その界面においてダングリング・ボンドを低減し、非発光再結合中心密度を低減可能である。このために、COD(Catastrophic Optical Damage)発生レベルの低下を抑制することが容易である。
【0017】
光出射端面70とは反対側の光反射端面72には、例えば4分の1波長のSiN膜50が6層と、4分の1波長のSiO膜52が5層と、が交互に積層された誘電体層から構成された光反射層64が設けられている。光出射層54の反射率を略45%とし、且つ光反射層64の反射率を略90%とした。
【0018】
なお、本実施形態では、SiN膜50及びSiO膜52の厚さをそれぞれの媒質内波長の4分の1波長としたが、反射層の構成はこれに限定されない。SiN膜50及びSiO膜52の一対の厚さの和を、2分の1波長とするブラッグ反射器としてもよい。また、それぞれの膜の厚さをこれらに限定せず、全体として誘電体層53が所望の反射率を有するようにしてもよい。
【0019】
導電体部59の材質は、Au、Al、W、Fe、Mo、Pt、及びPdなどの金属とすることができる。またその厚さを、例えば1〜20nmとすると、光ビーム80の吸収を殆ど生じることなく導電性を保つことができる。
【0020】
図2(c)の比較例において、光ビーム80が誘電体層のみからなる光出射層154から出射する場合、光ビーム80が通過する光出射層154は誘電分極を生じ、その表面の光出射領域近傍に電荷が蓄積しやすくなる。このため、半導体レーザチップの 周囲にSi有機化合物や炭化水素化合物が存在していると、分解されたSi、Oなどの原子、及びこれらの反応生成物は、光出射層154の表面の電荷に吸着されやすく、図2(d)に表すように、例えばSiOxなどからなる堆積物160を形成しやすい。
【0021】
これに対して、導電体部59としてAuを用いた本実施形態では光出射領域56と比較して十分に広い面積である導電体部59の表面全体に電荷が拡散可能であり、Si、Oなどの原子、及びこれらの反応生成物は、図2(a)にドット線で表すように導電体部59の表面に広がって吸着され、光出射領域近傍に堆積物が集中して形成されることを抑制できる。
【0022】
導電体部59をAuとした図2(a)の構造のチップ5を、開放雰囲気にて、ケース温度(Tc)が75℃、光出力(Po)が20mWにおいて定出力通電試験を行ったところ、軸ずれなどFFPの変化を生じなかった。また、動作電流の変動を生じなかった。さらに、SEM(Scanning Electron Micrpscope:走査型電子顕微鏡)により光出射層54表面の光出射領域56の近傍に堆積物は観測されなかった。
【0023】
他方、導電体部が誘電体層の表面にオーバーコートされず、SiO膜152が露出した光出射層154を有する図2(c)の比較例のチップを、開放雰囲気にて、同一の条件で通電試験を行ったところ、FFPの軸ずれを生じ、時間経過にともなって反射率が変化し動作電流の上下変動を生じた。また、通電後の光出射領域近傍をSEM観察すると、図2(d)のような堆積物160が局所的に生じていた。この堆積物160を電界放射型オージェ電子分光法を用いて分析を行ったところ、Si及びOなどの成分が検出されたことから、アモルファス状のSiOxがその成分のひとつであることが判明した。このような堆積物160が大きくなるにともない光ビームの光出力の低下及びFFPの変化がより顕著になり、光ディスク駆動装置の要求を満たすことができない。
【0024】
これに対して本実施形態ではSi及びOの反応生成物が光出射領域56の近傍に堆積することを抑制でき、長時間通電においてもFFPが安定し、且つ光出力低下及び動作電流の変動が抑制され、信頼性が改善された半導体レーザ装置が提供される。
【0025】
なお、堆積物160は、炭化水素化合物などの分解により生じたCなどによっても生じることがあるが、本実施形態の導電体部59により、このような堆積物の抑制が容易となる。
【0026】
また、図2(b)は、第1の実施形態の光出射層54の変形例である。導電体部59が積層体15に直接接触しないようにすれば、導電体部59を、例えば誘電体層53の中間に設けてもよい。図2(b)では、SiN膜50の中間にAlの薄い膜を設けている。Alのように酸化しやすい金属の場合、表面にSiN膜50またはSiO膜52などを設けると開放雰囲気中での酸化を抑制できる。
導電体部59が光出射層54の内部に設けられていても、光出射層54の表面電位を均一にすることが可能であり、図2(a)の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0027】
第2の実施形態は、導電体部59を触媒作用を有する金属とした半導体レーザ装置である。触媒作用を有する金属として、例えばPt、Pd、Rh、及びIrなどを用いることができる。
【0028】
図3は、開放雰囲気中動作におけるFFPを説明する図である。すなわち、図3(a)は第2の実施形態におけるFFP、図3(b)は比較例のFFP、図3(c)は開放雰囲気のパッケージの模式断面図、図3(d)は光出射領域近傍の部分模式断面図である。なお、通電条件は、いずれもTc=75℃、Po=20mW(一定出力)とした。
【0029】
図3(c)のように、パッケージは、鉄系または銅系材料からなるステム90の上に、AlNなど絶縁材料からなるサブマウント92が接着されている。また、サブマウント92の上にチップ5の積層体15側が接着されている。開放雰囲気とするために、キャップ91にはガラスが接着されておらず気密封止しない。光ビーム80は、図3(d)に示す方向へ放出される。
【0030】
図3(b)に表す比較例では、816時間経過後、FFPのピークは約4度の軸ずれを生じた。すなわち、半導体レーザ装置は垂直方向に対称形状ではないので堆積物160は非対称形状となりやすく、垂直方向に軸ずれを生じる。また、SiOxなどの堆積物160の生成により、光出射層54の反射率が変動し、光出力及び動作電流が変動を生じやすい。
【0031】
他方、図2(a)の構造において導電体部59をPtとした本実施形態では、図3(a)に表すように816時間経過後、FFPの軸ずれを殆ど生じておらず、光出力及び動作電流の変動も殆ど生じていない。開放雰囲気のパッケージを用いた場合、部品実装のために使用する接着剤などから放出されるSi有機化合物などを含むガスが外部から入り込む可能性がある。しかしながら、分解されたSi、O、及びこれらによる反応生成物などがPtの表面に吸着され、さらに成長または堆積しようとしても、Ptが反応生成物を分解するなどの触媒作用により反応生成物の堆積を抑制することが可能である。このように開放雰囲気など厳しい使用環境では、触媒作用を有する導電体部59を備えることにより堆積物抑制作用をより高め信頼性をより改善可能である。
【0032】
この場合、Ptは不均一系触媒としてSi有機化合物のような汚染源の吸着・分解・除去などの作用を有する。なお、Ptの厚さは、例えば1〜20nmとすることができる。また、図3(d)に表すように、Ptからなる導電体部59が連続膜ではなく微粒子状部分を有していてもその触媒作用を維持可能である。
【0033】
気密封止を行わないでも長期安定動作が可能な本実施形態の半導体レーザ装置は、パッケージ部品点数を低減可能であり、実装工程が簡素化できるので量産性に富む。その結果として低価格化が容易となる。
【0034】
図4は、第3の実施形態を説明する模式断面図である。
本実施形態では、光出射層54を構成する誘電体層53の少なくとも1つを非アモルファス膜58とする。本図において、導電体部59に隣接する誘電体層53の表面側を非アモルファス膜58とする。非アモルファス膜58の材質としては、SiO、SiN、Al、AlN、TiO(光触媒作用を有する)、TaO、ZrO、及びTiNのように、酸化物、窒化物、及び酸窒化物などとできる。
【0035】
このうち、例えば、SiO、SiN、Alなどは、レーザ照射することにより、少なくとも一部が結晶化または多結晶化可能であり、Oの透過の抑制が容易となる。なお、本明細書において、結晶化領域または多結晶化領域を少なくとも一部に有し、残余の一部がアモルファス領域である膜も「非アモルファス膜」に含めることにする。
【0036】
誘電体層53がアモルファス膜であると、酸素(O)が透過可能である。仮に薄い導電体層があってもピンホールなどからOが透過可能である。透過したOは、例えばSiN膜を構成するSiと反応してSiOxなどを形成可能であり、光出射層54の反射率を変動させる場合がある。本実施形態では、誘電体層53の内部へのOの進入を抑制し、誘電体層53の組成を安定に保つことが容易である。Oによる組成変化を生じやすい誘電体膜の外側に非アモルファス膜58を設ければ、より効果的にOの進入を抑制できる。すなわち、本図のように、Ptに隣接して設けることがより好ましい。このようにして、光出射層54の反射率の変動がより低減され、かつ光出力及び動作電流の変動が低減され、長期信頼性が改善可能な半導体レーザ装置が提供される。
【0037】
第3の実施形態においては、非アモルファス膜58を設け誘電体層内へのOの進入を抑制した。しかしながら、Oが誘電体層内へ進入しても、酸化膜内にとどまり窒化膜にまで到達しないようにすれば、誘電体層の光学的特性の変化を抑制可能である。
【0038】
図5は、第4の実施形態を表す模式断面図である。すなわち、図5(a)は誘電体層の表面をAl膜とした場合、図5(b)は誘電体層がTaO膜を含む場合である。
図5(a)において、SiN膜50とSiO膜52とを積層した上に、Al膜51を設けている。Al膜51の厚さは略2分の1波長(120nm)に相当しており、Al膜51を設けても光出射層54の反射率は約45%のままで変化しない。一方、Al膜51を設けたことにより、Ptなどの導電体部59からSiN膜50までの距離を190nm以上とすることが容易である。この結果、Oが進入した場合でも、SiN層50に到達するまでの時間を長く延ばすことができる。進入したOがSiN膜50に到達しない限り屈折率等の光学特性は変化しないため、光出射層54の反射率や、光出射層54を介して出射する光ビーム80の形状も変化しない。
【0039】
また、図5(b)において、積層体15にはSiN膜50が隣接するが、導電体部59側をSiO膜52とTaO膜55とが積層された構造とし、それぞれの厚さは略4分の1波長とする。低屈折率(略1.5)のSiO膜52と、高屈折率(略2.2)のTaO膜55と、を積層することにより、光出射層54の反射率は約50%となっている。積層されたSiO膜52とTaO膜55との厚さの総和は約400nmであり、例えば図4と比べてと十分に厚くできる。最表面からOが進入した場合でも、SiN膜50にまで到達する量を抑制できる。また、SiO膜52およびTaO膜55中にOが混入しても屈折率等の光学特性は変化しないため、光出射層54の反射率や、光出射層54を介して出射する光ビーム80の形状も変化しない。
【0040】
なお、図5(b)では、SiO膜52とTaO膜55との積層構造について説明したが、この他にも、SiO膜とZrO膜の積層構造を用いることもできる。すなわち、2種類あるいはそれ以上の酸化物層を積層した積層構造を用いることができる。
また、Ptと隣接する膜は、低屈折率膜でも、高屈折率膜でも良く、所定の反射率が得られるように膜厚を調整すれば良い。図5(b)では、Ptと隣接する膜をSiO膜52としたが、例えば、SiO膜52の上にさらに2分の1波長のTaO膜を設けてからPtを設けても良い。この場合、光出射層54の反射率を変えること無く、Ptと隣接する膜をTaO膜とすることが可能であり、同時に、SiO膜とTaO膜の厚さの総和を、例えば約500nm以上にすることもできる。
【0041】
以上のように、第4の実施形態では様々な膜構成とすることが可能であり、Oの進入を防ぐに十分な酸化膜厚を確保しつつ、所定の反射率が得られるように膜構成を調整すれば良く、例えば全ての膜を酸化膜から構成しても構わない。
【0042】
図6は、第5の実施形態を表す図である。すなわち、図6(a)は模式断面図、図6(b)はそのFFPを表すグラフ図である。
本実施形態の半導体レーザ装置は、開放雰囲気中にチップ5がマウントされたフレーム型パッケージ(オープンパッケージ)を用いている。リード96の上にモニタ用フォトダイオード(光検出用素子)98及びサブマウント97がマウントされ、サブマウント97の上にチップ5がマウントされている。
【0043】
通常、モニタ用フォトダイオードは、光反射層64側に設けられる。発光波長が500nmよりも波長が短いと、光反射層64を介して放出された光が樹脂からなるキャップ95の内表面95aを変質・変色させ、その反射率が変化して、モニタ用フォトダイオードへの入射光強度が変動するこのため、光出射層54からの光ビーム80の光強度を精度良くモニタすることが困難となることがある。
【0044】
これに対して、本実施形態では、モニタ用フォトダイオード98をチップ5の光出射層54側に設ける。図6(b)に表すFFPのように、光ビーム80は垂直方向角度が略15度以上の裾部分がフォトダイオード98に入射可能である。他方、光ピックアップでは垂直方向角度が15度よりも小さい範囲で使用するので実用上問題を生じない。このようにして、光ビーム80の強度を精度良くモニタ可能となる。
【0045】
フレーム型パッケージは多数個取りのリードフレームを用いており、チップマウント、ワイヤボンディング、及び樹脂モールドなどの工程を短時間で処理可能である。このような実装工程はCAN型パッケージの実装工程よりも量産性に富んでいる。また、導電体部59を有した光出射層54を備えた本実施形態では堆積物が抑制可能であるので、気密封止型パッケージを用いるよりも量産性をさらに高めることが可能である。
【0046】
さらに、フレーム型半導体レーザ装置は、小型化及び実装基板への取り付けが容易である。このために、小型かつ量産性に富む光ディスク駆動装置が可能となる。
【0047】
図7は、第6の実施形態を表す模式図である。すなわち、図7(a)は断面図、図7(b)その第1変形例、図7(c)は第2変形例、図7(d)はチップの断面図である。
図7(a)では、チップの光反射層64から出射した光ビーム81は、モニタ用フォトダイオード98により受光可能である。光ビーム81は、キャップ95の内表面95aにおいて反射されてフォトダイオード98に入射してもよい。この場合、光ビーム81の光強度を低く保つか、内表面95aに反射膜を設けることなどにより樹脂の変質・変色を抑制することができる。なお、光反射層64は、光反射端面72に接触して設けられた反射側の誘電体層64と、誘電体層64の表面及び内部の少なくともいずれかに設けられた反射側の導電体部59と、を有している。
【0048】
また、図7(b)に表す第1変形例では、光反射層64を介して後方へ放出された光ビーム81を直接フォトダイオード98で受光可能である。このために、樹脂などからなるキャップ内表面における変質・変色を生じない。さらにキャップを省略可能である。さらに、図7(c)に表す第2変形例では、サブマウントとフォトダイオード99aとをSi基板上に一体化したSiサブマウント99を用いることにより部品点数の削減が可能である。
【0049】
図8は、第7の実施形態を説明する図である。すなわち、図8(a)は半導体レーザチップの模式断面図、図8(b)はその端面反射率を表すグラフ図、図8(c)は変形例のチップ模式断面図、である。
図8(a)において、光出射層54と、光反射層64と、は、光ビームの方向に沿って略対称に積層された構造としている。すなわち、光出射層54の反射率と、光反射層64の反射率と、は、略同一となる。したがって、前方へ放出される光ビーム80と後方へ放出される光ビーム81とは略同じ光出力となり、第1から第6の実施形態よりも、後方により多くの光ビームを放出させることができる。
【0050】
本実施形態では、例えば、光出射層54及び光反射層64は、それぞれ4分の1波長(略50nm)のSiN膜50と、4分の1波長(略70nm)のSiO膜52とが交互に積層された誘電体層から構成されているが、第1の実施形態とは異なり、最表面側SiO層56だけは2分の1波長(略140nm)の厚さとしている。さらに、その外側にはPtからなる導電体部59が設けられている。
【0051】
図8(b)には端面反射率(%)の距離依存性を示す。横軸に表す距離(nm)は、光出射端面70、または光反射端面72から外側へ向かう距離を表す。積層を重ねるごとに、反射率は周期的に増減するが、最表面側SiO層56の厚さを略2分の1波長とすることで、反射率がピークとなるように設定することができる。この結果、本実施形態では、光出射層54、及び光反射層64の反射率は、例えばともに略70%と高くできる。
【0052】
光出射端面70の(前方)反射率と光反射端面72の(後方)反射率との積を大きくすると、レーザチップの発振閾値電流を低減できる。本実施形態では、光出射端面70からの光出力を所望のキンクレベル以上に保ちつつ、前方反射率と後方反射率をともに高く設定可能であるので、発振閾値電流がより低減でき長期信頼性を改善することが容易となる。
【0053】
通常、フォトダイオード98にはSiを用いるが、次世代DVD用途に用いる500nm以下の波長帯ではSiフォトダイオードの受光感度が低く、十分なモニタ電流が得られない場合がある。また、例えば光出射層54の反射率を略45%、光反射層64の反射率を略90%と設定し、前方へ放出される光ビーム80と後方へ放出される光ビーム81との光出力の比率を略8対1などとすることが多い。
【0054】
これに対して、第7の実施形態では、前方へ放出される光ビーム80と後方へ放出される光ビーム81との光出力を略同一とし、モニタ電流の変動をより少なくすることが容易となり、より信頼性の高いDVD用半導体レーザ装置を提供することが可能である。なお、光出射層54及び光反射層64を構成する誘電体膜のそれぞれの厚さは、図8(a)及び図8(b)に限定されない。すなわち、光出力を所望のキンクレベル以上に保ちつつ、光出射端面70の反射率と光反射端面72の反射率との積を大きくするように設定してもよい。あるいは、所望の信頼性が確保される範囲内において、光出射端面70の反射率と光反射端面72の反射率との積を小さくするように設定してもよい。
【0055】
図8(c)に示す変形例では、4分の1波長(略50nm)のSiN膜50と、4分の1波長(略70nm)のSiO膜52とを交互に積層した後、2分の1波長(略120nm)のAl膜57、さらに4分の1波長のSiO膜52を積層している。本変形例でも、反射率はピークとなるように設定されており、光出射層54、光反射層64の反射率は、ともに略70%である。本変形例では、導電体部59との密着性により優れるSiO膜52を誘電体層の最表面側に設けると同時に、Oの進入をより抑制できるAl膜57をSiO膜52の間に設けている。この結果、最表面からのOの進入を抑制できると同時に、Oが進入した場合にもSiN膜50に到達するまでの時間を長く延ばすことが可能であり、誘電体層の光学的特性の変化をより抑制することができる。
【0056】
本変形例では、導電体部59と隣接する誘電体層としてSiO膜、Oの進入をより抑制できる誘電体層としてAl膜を用いる構造について説明したが、他にも様々な誘電体層の組合せを用いることができる。さらには、各積層膜の厚さについても、4分の1波長や、2分の1波長の厚さに限定する必要は無く、所望の反射率が得られるように適宜調整することが可能である。
【0057】
なお、第1〜第7の実施形態において、非アモルファス膜58を図4のように設けることも可能である。さらに、非アモルファス膜58の位置は図4に限定されない。
図9(a)〜図9(c)は、非アモルファス膜58の位置関する他の例を表す模式断面図である。 図9(a)において、導電体部59は光出射層54の表面ではなく内部に設けられている。本図のように、非アモルファス膜58は、導電体部59に隣接し導電体部59と光出射層54の表面側に最も近いSiN膜50との間に設けられていてもよい。この非アモルファス膜58は、Oによる組成変化を生じやすいSiN膜50などの誘電体膜よりも外側に設けられているので、Oが内部に進入することを抑制し反射率の変動が低減できる。なお、「窒素含有膜」はOの進入により組成変化を生じやすい。AlNなどの窒化膜、SiONやAlONなどで表される酸窒化膜を、SiN膜50の代わりに用いる場合にも、本発明は適用可能である。
【0058】
また、図9(b)において、非アモルファス膜58と、導電体部59と、の間にSiO膜52が設けられている。このように、導電体部59と、非アモルファス膜58と、が互いに離間していてもよい。すなわち、非アモルファス膜58はOによる組成変化を生じやすいSiN膜50などの誘電体膜よりも外側に設けられているので、Oが内部に進入することを抑制し反射率の変動が低減できる。
さらに、図9(c)のように、非アモルファス膜58が導電体部59よりも外側であっても、誘電体層54内部へのOの進入を抑制することができる。
【0059】
なお、図1に表す第1及び第2の実施形態、図5に表す第4の実施形態、図6に表す第5の実施形態、図7に表す第6の実施形態、及び図8に表す第7の実施形態において、図9に表す非アモルファス膜58を適用することができる。すなわち、非アモルファス膜58を、光出射層54の最表面、または最表面からSiN膜までの間に設けると、OがSiN膜まで到達することが抑制される。すなわち、非アモルファス膜58は酸素ブロック層として機能し、光出射層54の反射率の変動を低減可能となる。
【0060】
図10(a)及び図10(b)は、第9の実施形態にかかる半導体レーザ装置の模式断面図である。
導電体部59は、Ptのような触媒作用を有するものとする。この場合、光ビーム80により分解されたSi、O、CO、有機物、及び反応生成物などが吸着力の高いPt上に吸着されても、Ptの強い酸化作用により除去され、それらの堆積が抑制される。しかしながら、Ptのような金属触媒膜であっても、さらに長い時間が経過すると、有機物、Si、及び反応生成物などが次第に蓄積されその表面を広く覆うようになる。このために、Ptの酸化能力が低下する。この状態は、触媒の「失活」と呼ばれる。
【0061】
図10(a)では、導電体部59と、SiO膜52と、の間に酸化チタン(TiO)膜60が設けられている。すなわち、TiO膜60は、光出射端面70と接触する側とは反対側となる誘電体層53の面を構成している。TiO膜60は、バンドギャップ以上のエネルギーを有する光を吸収し、正孔−電子ペアを発生する。このために、活性酸素を放出して有機物や反応生成物などからなる堆積物を分解、除去可能である。本実施形態では、TiO膜60の一部が露出するように、TiO膜60の上にPtのような導電体部59が設けられ、光ビーム80により照射されたTiO膜60が光触媒として作用する。なお、このような光触媒としては、例えばSrTiOなどのチタン酸塩やZnO(酸化亜鉛)膜などを用いてもよい。
【0062】
なお、導電体部59を光ビーム80により照射すると、図3(d)のように微粒子状とすることができる。このために、微粒子状に分散して配置された導電体部59を取り囲む領域ではTiO膜60が露出され、図10(a)のような断面構造とできる。なお、導電体部59に、例えばパターニング法などを用いた微小開口を形成してもよい。光ビーム80が照射され、露出したTiO膜60の部分から発生した活性酸素などは、隣接した導電体部59近傍で酸化反応を促進する。このために、導電体部59の表面の堆積物が分解され、除去される。
【0063】
このようにして、Ptなど金属触媒の失活が抑制され、その強い触媒作用をより長く維持可能となる。微粒子状となった導電体部59の領域が不連続となると、表面電荷が導電体部59の表面に十分には拡散しなくなることがある。しかしながら、TiO膜60の光触媒作用により有機物や反応生成物の堆積を抑制することができる。このようにして、高い酸化能力を有するPtなどの金属からなる触媒と、光照射により酸化能力を生じる酸化チタンからなる光触媒と、により堆積物の生成が抑制され信頼性がより改善された半導体レーザ装置が提供される。
【0064】
なお、TiO膜60に隣接するSiO膜52などの酸化物膜を非アモルファス膜とするとOの進入を抑制でき、誘電体層53の反射率変動を低減可能である。
【0065】
また、図10(b)では、微粒子状の導電体部59に隣接してTiOからなる非アモルファス膜58が設けられている。TiOからなる非アモルファス膜58は光触媒膜として作用可能である。このようにすると、より簡素な構造で、光触媒作用により導電体部59上への反応生成物の堆積を抑制しつつ、OがSiN膜59へ到達することが抑制される。このために、誘電体層53の反射率の変動がより低減可能となる。
【0066】
本発明は、500nm以下の波長範囲の光を放射可能な窒化物系半導体レーザ装置に限定されるものではない。例えば赤色波長範囲の光を放射可能なInAlGaP系、赤〜赤外光波長範囲の光を放射可能なAlGaAs系、及び1.3〜1.6μmの波長範囲の光を放射可能なInP系材料からなる半導体レーザ装置であってもよい。
【0067】
以上、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかしながら本発明はこれら実施形態に限定されない。本発明を構成する積層体、活性層、誘電体層、導電体部、光出射層、光反射層、非アモルファス膜、パッケージ、フォトダイオードの材質、サイズ、形状、配置などに関して当業者が設計変更を行ったものであっても、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明の範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
長時間通電においてもFFPが安定し、且つ光出力低下及び動作電流の変動が抑制され、信頼性が改善された半導体レーザ装置が提供される。この半導体レーザ装置は、DVDなど光ディスク駆動装置に用いることができ、産業上のメリットは多大である。
【符号の説明】
【0069】
5 チップ、15 積層体、18 活性層、50 SiN膜(窒素含有膜)、52 SiO膜、53 誘電体層、54 光出射層、56 光反射層、58 非アモルファス膜、59 導電体部、60 酸化チタン膜、70 光出射端面、80、81 光ビーム、98 フォトダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性層を含む積層体と、
前記積層体により構成された光共振器の光出射端面に接触して設けられ、前記光出射端面側とは反対側の面を構成する光触媒膜を有する誘電体層と、前記光触媒膜の一部が露出するように前記光触媒膜の上に設けられた導電体部と、を有する光出射層と、
を備え、
前記活性層から放出される光ビームは、前記導電体部を透過して放出されることを特徴とする半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記誘電体層は、酸化物膜をさらに有することを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記誘電体層は、窒素含有膜をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
前記光出射端面に接触する前記誘電体層の面は、窒素含有膜からなることを特徴とする請求項3記載の半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記光触媒膜は、非アモルファス膜とされることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記誘電体層は、前記光出射層の表面、または前記光出射層の前記表面と前記窒素含有膜との間に設けられた非アモルファス膜を有することを特徴とする請求項1記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記導電体部は、触媒作用を有することを特徴とする請求項1または6に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記導体部は、Pt、Pd、Rh、およびIrのいずれかを有することを特徴とする請求項7記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
前記導電体部は、微粒子状に分散された領域を有し、
光ビームは、前記分散された領域から出射されることを特徴とする請求項7記載の半導体レーザ装置。
【請求項10】
前記光触媒膜は、酸化チタン、チタン酸塩、酸化亜鉛、のうちのいずれかを含むことを特徴とする請求項1または6に記載の半導体レーザ装置。
【請求項11】
光検出素子をさらに備え、
前記光検出素子は、前記光出射端面と対向する光反射端面に設けられた光反射層を介して放出された光ビームの一部を受光可能なことを特徴とする請求項1または6に記載の半導体レーザ装置。
【請求項12】
前記光反射層は、前記光反射他面に接触して設けられた反射側誘電体層と、前記反射側誘電体層の表面及び内部の少なくともいずれかに設けられた反射側導電体部と、を有することを特徴とする請求項11記載の半導体レーザ装置。
【請求項13】
前記光出射層と、前記光反射層と、は、前記光ビームの方向に沿って略対称に積層された構造を有することを特徴として請求項12記載の半導体レーザ装置。
【請求項14】
光検出素子をさらに備え、
前記光検出素子は、前記光出射層を介して前記活性層から放出された光ビームの一部を受光可能なことを特徴とする請求項1または6に記載の半導体レーザ装置。
【請求項15】
前記導電体部の厚さは、1nm以上かつ20nm以下であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つに記載の半導体レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−84984(P2013−84984A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−2026(P2013−2026)
【出願日】平成25年1月9日(2013.1.9)
【分割の表示】特願2010−519800(P2010−519800)の分割
【原出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】