説明

半導体又は液晶製造用装置並びに液体材料ガスの気化方法

【課題】高速で再現性のある、均一性が高く、かつ高速な半導体又は液晶ディスプレイの製造を可能とする装置を提供する。
【解決手段】設定流量より任意の過剰のガスを任意の時間供給することが可能である装置内の圧力及び複数のガス分圧の制御システムを装置の上流に備え、制御システムと装置の下流に備えられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置とを連動させる事により装置内の圧力及び複数のガス分圧を一定に保つ事が可能なフィードフォワード方式の製造が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体又は液晶製造用装置並びに液体材料ガスの気化方法に係る。
【背景技術】
【0002】
従来の温度分布式流量調整器は、流量センサにより、質量流量に比例した温度を調整器の上流及び下流でモニターしており、その時の温度分布により流体を制御する方式であるがゆえ、流体を供給していない時は、上流及び下流の温度分布が発生しないため流量調整弁が全開となってしまい、流体供給直後には流量が過剰に供給されてしまう構造であった。すなわち、ガスを供給していない時は、ガス流れが発生していないためガスを制御することが不可能であり、流量調整器内に溜まっていた未制御のガスが流れ込むため、ガス供給直後に過剰流量のガスが流れてしまうためにガス供給システムの下流側に設置されている半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置内の圧力上昇及び複数のガス分圧の変動が発生する問題があった。
【0003】
従来の半導体又は液晶ディスプレイ製造における最適条件の調整において、製造基板の均一性を向上させるため装置内の圧力を調整しており、調整された圧力と供給ガス流量により供給ガス分圧を算出し、ガス供給後に装置内圧力が最適条件になるようガス供給流量を調整、または下流の排気速度を調整する、いわゆるフィードバック方式の製造が取られており、この方式では、製造条件の設定に時間が取られてしまい再現性の高い半導体又は液晶ディスプレイの製造が困難であった。
【0004】
上述のように従来の流量調整器では、ガス供給直後に過剰流量のガスが供給されてしまい、ガス流量が安定した後でしか装置内圧力及び複数のガス分圧を調整することができず、初期状態は調整不可能なため、半導体又は液晶ディスプレイ製造の最適条件で製造することが困難であり、また装置内圧力が安定するまで時間がかかってしまうという問題があり、再現性のある、均一性の高い半導体又は液晶ディスプレイ製造が不可能であった。
【0005】
また、現在半導体又は液晶ディスプレイの製造においては高速枚葉処理が求められるおり、要求されている生産性はウェハ1枚の処理時間は1分と大変短く、またウェハの装置への導入時間、回収時間を考慮するとウェハ実処理時間は1枚/30秒となる。従来の温度分布式流量調整器を用いた場合、このような高速枚葉処理が不可能であった。
【0006】
一方、現在、半導体開発において、高速化、高集積化、低消費電力化が求められている。半導体メモリにおいて、従来のDRAMでは、電源を切ると全ての情報が消えてしまう大きな欠点が存在し、DRAMの性能を備え、かつ不揮発性(電源を切っても情報が残っている)メモリが求められている。
【0007】
この問題点を解決するため、自発的な電気分極を有し、その自発分極が磁場をかけることにより方向を反転しうる性能を有する強誘電体薄膜を用いた強誘電体メモリ(FeRAM)が開発されているが、この強誘電体を成膜するために、ジルコニウム(Zr)、鉛(Pb)、ストロンチウム(Sr)、ニオブ(Nb)、ビスマス(Bi)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)などの金属が錯体として存在する有機金属が用いられている。
【0008】
しかし、上述の有機金属は、原料が液体であるため、供給するためには気化させる必要がある。
【0009】
現状、行われている供給方法として、原料が液体となるような温度でアルゴンなどをキャリアガスとしてバブリングにより供給する方法がある。しかし、この方法では供給配管を原料と同様の温度以上に保たなければならなくなり、逆に温度が高すぎると配管中で分解してしまう恐れがあるためガス配管系の温度管理が難しくなる。特にDPM系のような固体原料を用いると配管中での析出が問題となり成膜特性の再現性が悪くなる恐れがある。
【0010】
このような問題点を解決するためにアルコールなどを溶媒とした液体原料を液体状体のまま輸送、流量制御し、気化器を用いて供給する方法が提案されている。この方法を用いると成膜速度の再現性などが向上するが、気化器内や気化器下流の配管での析出は解決されていない。また、気化する際に、溶媒ばかりが気化してしまい供給されるガス中には、所望の有機金属はほとんど含まれていない恐れも生じてしまう。
【0011】
これらの問題により、半導体製造において液体材料ガスの安定供給は不可能であり、高品質で均一性に優れ、かつ高信頼性を有する半導体の製造が困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の装置は、高速で再現性のある、均一性の高い、高速な半導体又は液晶の製造を可能とする装置を構築することを目的とする。
【0013】
本発明は、液体材料の気化を均一に行うことが可能な液体材料の気化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の半導体又は液晶製造用装置は、装置内の圧力及び複数のガス分圧の制御システムを装置の上流側に備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の制御システムは、圧力制御式流量調整器と流体制御バルブからなることを特徴とする。
【0016】
本発明の半導体又は液晶製造用装置は、設定流量より過剰な任意流量のガスを任意の時間供給することが可能である上記制御システムを備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の半導体又は液晶製造用装置は、制御システムと装置の下流に備えられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置とを連動させる事により装置内の圧力及び複数のガス分圧を一定に保つ事が可能であることを特徴とする。
【0018】
本発明の制御システムの補正用として半導体又は液晶製造用装置内の圧力及びガス組成比をモニターすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガス供給直後のガスの過剰供給に伴う装置内圧力の変動がなく、またガス流量の定常状態に達するまでの所要時間の短縮により半導体又は液晶ディスプレイの製造にかかる工程時間が短縮されるためコストの削減が可能である。
【0020】
本発明によれば、所望のガス流量を瞬時に供給可能であるため、既知である装置内容積、ポンプ排気速度より、装置内圧力やガス組成比といった製造条件をガス供給前に算出するフィードフォワード方式の制御が可能であり、高速で再現性のある、均一性の高く、高速な半導体又は液晶ディスプレイの製造が可能である。
【0021】
本発明によれば、設定流量より過剰な任意のガスを任意の時間供給することが可能である制御システムと装置の下流に備えられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置とを連動させる事により装置内の圧力及び複数のガス分圧を一定に保つ事が可能であるため、設定ガス組成比の到達時間の短縮化が図れ、より高速で再現性がありかつ均一性の高い製造工程を実現することが可能となる。
【0022】
本発明によれば、様々なガス種や装置並びにポンプに対応した高速で再現性のある、均一性の高く、高速な半導体又は液晶ディスプレイ用製造装置の構築が可能となる。
【0023】
本発明によれば、流体気化器、流量制御機器、流体排気システム間での圧力差を利用することにより、従来から問題になっていた液体材料ガス供給時の再液化、析出、パーティクル発生、分解、溶媒のみの気化といった問題がなく、流体を安定に供給することが可能となる。
【0024】
本発明によれば、瞬時流体供給が可能であり、さらに配管系及び装置内の圧力変動を生じない流体供給制御システムの構築が可能であり、半導体プロセスの高速化、高信頼性及び高品質を有する再現性に優れた半導体製造が可能となる。
【0025】
本発明によれば、様々なガス種や装置並びにポンプに対応した高速で再現性のある、均一性の高い半導体及び液晶用装置の構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置のガス供給系の模式図である。
【図2】装置内容積1リットル、装置内圧力1Torr時の従来型温度分布式流量調整器を用いたガス切り替え時のガス濃度及び装置内圧力の経時変化を示す結果である。
【図3】装置内容積1リットル、装置内圧力1Torr時の圧力制御式流量調整器を用いたガス切り替え時のガス濃度及び装置内圧力の経時変化を示す結果である。
【図4】装置内容積12リットル、装置内圧力1Torr時の従来型温度分布式流量調整器を用いたガス切り替え時のガス濃度及び装置内圧力の経時変化を示す結果である。
【図5】装置内容積12リットル、装置内圧力1Torr時の圧力制御式流量調整器を用いたガス切り替え時のガス濃度及び装置内圧力の経時変化を示す結果である。
【図6】装置内容積12リットル、装置内圧力1Torr時の、外部入力により設定流量より過剰な任意流量のガスを任意の時間供給することを可能とした圧力制御式流量調整器と制御システムと連動することが可能な流体制御バルブと備えたガス切り替え時のガス濃度及び装置内圧力の経時変化を示す結果である。
【図7】実施例4の実験系を示す模式図である。
【図8】装置内の圧力依存性を示す図である。
【図9】ポンプ内に窒素を導入した時の圧力変化を示す図である。
【図10】実施例5において用いた装置のシステム系統図である。
【図11】実施例5における結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施の形態を作用とともに説明する。
【0028】
本発明は、装置内の圧力及び複数のガス分圧の制御システムを装置の上流側に備えており、制御システムは圧力制御式流量調整器と流体制御バルブからなることを特徴とする。
【0029】
上流の圧力が下流の圧力の2倍以上であれば流体は、音速域になるため流量は上流側の圧力に比例するという原理を用いた圧力制御方式の流量調整器を用いることにより、上流の圧力を調整することにより流量を制御するため、ガス供給直後でも設定通りのガス流量が瞬時に供給可能な構造である。すなわち、圧力によりガスを制御しているためガス流れがない時でもガスを制御することが可能である。それゆえ、ガス供給時に瞬時に設定流量のガスを制御することが可能であり、従来からの温度分布式流量制御器を用いたガス供給システムで発生していたガス供給直後のガスの過剰供給に伴う装置内圧力の変動がなく、またガス流量の定常状態に達するまでの所要時間の短縮により半導体又は液晶ディスプレイの製造にかかる工程時間が短縮されるためコストの削減が可能である。
【0030】
所望のガス流量を瞬時に供給可能であるため、既知である装置内容積、ポンプ排気速度より、装置内圧力やガス組成比といった製造条件をガス供給前に算出することが可能であり、従来ガス流量と装置内圧力により最適条件を設定するためガス供給後に条件(装置内圧力及びガス組成比)を設定していたフィードバック方式の制御に替わり、製造前に条件設定が行えるフィードフォワード方式の制御になるため高速で再現性のある、均一性の高い半導体又は液晶ディスプレイの製造が可能である。
【0031】
本発明の半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置は、設定流量より任意の過剰のガスを任意の時間供給することが可能である上記制御システムを備えたことを特徴とする。
【0032】
発明の半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置は、制御システムと装置の下流に備えられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置とを連動させる事により装置内の圧力及び複数のガス分圧を一定に保つ事が可能であることを特徴とする。
【0033】
設定流量より過剰な任意流量のガスを任意の時間供給することが可能である制御システムと装置の下流に備えられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置とを連動させる事により装置内の圧力及び複数のガス分圧を一定に保つ事が可能であるため、設定ガス組成比の到達時間の短縮化が図れ、さらにその際、既知の制御されたガスが過剰に供給されるため、下流側に設けられた開度可変型流体制御バルブもしくは排気速度可変型真空排気装置を連動させることにより、任意の排気速度を瞬時に設定可能であるため装置内の圧力変動が抑制され、より高速で再現性がありかつ均一性の高い製造工程を実現することが可能となる。
【0034】
本発明は、制御システムの補正用として半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置内の圧力及びガス組成比をモニターすることを特徴とし、ガス種依存によるガスの流れ易さの違い、またはポンプへの排気のされ易さの違いや、装置内の形状の違いによるガス流れの違い、またはポンプ種依存による排気容量の違いなどの補正を行うことが可能で、様々なガス種や装置並びにポンプに対応した信頼性の高い半導体又は液晶ディスプレイの製造が可能となる。
【0035】
本発明の液体材料の気化方では、液体材料を流体気化器内に導入し、液体材料を気化させる方法において、前記流体気化器の上流と下流との間に圧力差を設けることを特徴とする。
【0036】
流体気化器、流量制御器、流体排気システム間で圧力差をつけ、圧力による供給を行えば、配管系の温度変化や圧力変動がないため、流体の物性そのものに変化を生じさせることがなく、従来からの問題点であった析出や分解を発生させずに流体を安定な状態で供給可能となる。
【0037】
流体気化器の上流と下流の圧力差が10倍以上とすことが好ましい。従来の温度による気化方法では、溶媒のみが気化されるという問題が生じたが、圧力差を10倍以上設けた圧力制御による気化方法により、一定の濃度(溶媒中に含まれる有機金属量)の気化が可能になる。気化部の圧力差を10倍以上にするために気化部の上流部と下流部にオリフィスを備え急激な圧力減少を生じさせ、連続気化が可能となる。この圧力差が10倍以下であれば気化時に再液化を生じ、析出もしくはパーティクルといった問題が生ずることがある。また、気化器下流の流量制御器を圧力制御式にすることにより、常時流量制御器の下流側が上流側に比べ減圧になるため、再液化、析出を起こさず流体の安定供給が可能になる。
【0038】
設定流量より任意の過剰の流体を任意の時間供給することが可能である流体制御システム、設定排気速度より任意の過剰の排気速度で任意の時間流体を排気することが可能である流体排気システムを備えることが好ましい。
【0039】
流体制御システムと流体排気システムとを連動させる事により装置内の圧力及び流体の分圧を一定に保つ事が好ましい。
【0040】
設定流量より任意の過剰のガスを任意の時間供給することが可能である流量制御システムと装置の下流に備えられた任意に排気速度を変えられる流体排気システムとを連動させる事により装置内の圧力及びガス分圧を一定に保つ事が可能であるため、設定ガス組成比の到達時間の短縮化が図れ、さらにその際過剰にガスが供給されるため、下流側に設けられた流体排気システムとを連動させることにより、より高速で再現性がありかつ均一性の高い製造工程を実現することが可能となる。
【0041】
また、制御システムの補正用として装置内の圧力及び流体組成比をモニターすることが好ましく、流体種依存による流れ易さの違い、またはポンプへの排気のされ易さの違いや、装置内の形状の違いによる流れ方の違い、またはポンプ種依存による排気容量の違いなどの補正を行うことが可能で、様々な流体種や装置並びにポンプに対応した信頼性の高い半導体製造が可能となる。
【0042】
なお、半導体または液晶製造装置のチャンバ内の上流部に均一な流体の流れを作る付帯機器(シャワープレート、シャワーヘッド)を備えておくことが好ましい。装置上流部に均一な流体流れを作る付帯設備を備えることにより、半導体基板上の原料流体の組成比、副生成物の密度が均一になり、高品質で再現性に優れる半導体及び液晶の製造が可能となる。
【0043】
また、供給部材ならびに供給配管系は再液化防止のため高温に保持しておくことが望ましい。
【実施例】
【0044】
以下、図面を参照して本発明にかかる、半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置の説明をするが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
本実施例におけるガス濃度は、日本バイオ・ラッド社製のFTS−30/40/60Aを用い赤外吸収スペクトル法(FT−IR)により測定を行った。事前に流量制御器で、正確に制御された既知濃度における各種ガスの検出されるピーク高さを測定し、ピーク高さとガス濃度の検量線を作成し、本実施例でのガス濃度を測定した。排気のポンプにはALCATEL社製DRYTEL100、圧力はMKSINSTRUMENTS,
INC.社製BARATRON690Aを用いて測定を行った。
【0046】
(実施例1)図1は本発明にかかる半導体又は液晶ディスプレイ製造用装置のガス供給系の模式図である。ガス供給系には、実際の多種類のガスを用いる製造を考慮し3種類のガスを用いた。ガス種はパージガスとして窒素(N2)、FT−IRにて測定しやすいメタン(CH4)、4フッ化炭素(CF4)、二酸化炭素(CO2)を用いた。
【0047】
101の流量調整器に従来型の温度分布式流量調整器並びに本発明に用いた圧力制御式流量調整器を用いて、装置内の圧力並びに装置内へのガス供給時ガス流量を調査した。
【0048】
ガス流量は、下記の通りである。
2 100cc/min
CH4 30cc/min
CF4 50cc/min
CO2 20cc/min
【0049】
図2及び図3は、装置内容積1リットル、装置内圧力1Torrの時の温度分布式流量調整器並びに圧力制御式流量調整器を用いたときの結果を示すグラフである。
【0050】
図2より、従来型の温度分布式流量調整器を用いるとパージガスから切り替えた瞬間に過剰のガスが供給されガス流量並びに装置内圧力ともに上昇し、制御が不可能であり、ガス流量並びに装置内圧力が定常状態になるまでに約10秒程度要することが判明した。これにより、従来の半導体並びに液晶製造方法においてはガス供給直後には製造条件を設定することが困難であり、信頼性の高い製造を行うことが不可能であると推測される。
【0051】
これに対し、図3の圧力制御式流量調整器を用いた方ではパージガスから切り替えた直後もガスの過剰供給もなく装置内圧力の変動も抑えられていることが判明し、ガス供給直後に設定条件が得られ、信頼性の高い製造が可能であると推測される。
【0052】
パージガス及びガス切り替え後のガス総流量が等しいのに、ガス切替え後の装置内圧力に差が見られるのはガス種依存によるガスの流れ易さの違い、またはポンプへの排気のされ易さの違いによるためであると推測される。
【0053】
(実施例2)実施例1と同様に、従来型の温度分布式流量調整器並びに本発明に用いた圧力制御式流量調整器を用いて、装置内の圧力並びに装置内へのガス供給時ガス流量を調査した。
【0054】
ガス種、ガス流量、装置内圧力は実施例1と同様であり、装置内容積は12リットルとした。
【0055】
図4及び図5は、温度分布式流量調整器並びに圧力制御式流量調整器を用いたときの結果を示すグラフである。
【0056】
実施例1と同様に従来型の温度分布式流量調整器では、ガス流量並びに装置内圧力ともに上昇が確認され、実施例1に比べ流量上昇は抑えられているが、定常状態になるまでの時間が約25秒と時間がかかることが判明した。この現象は、装置内容積が大きくなることでガスの置換に時間がかかるためであると推測される。一方、圧力制御式流量調整器では、ガスの過剰供給もなく装置内圧力の変動も抑えられていることが確認されたが、温度分布式流量調整器同様に装置内容積が大きくなることで設定ガス流量の到達時間が若干遅くなっていることが確認された。
【0057】
(実施例3)実施例2で確認された装置内容積依存による設定ガス流量到達時間の遅れ並びにガス切り替え後のガス種依存による装置内圧力の変動を克服するため、実施例2で用いた圧力制御式流量調整器の調整弁を外部入力により操作し、設定流量より過剰な任意流量のガスを任意の時間流すことが可能なように設定し、ガス切り替え直後0.1秒の間、設定流量の4倍のガスを流し、かつ下流に設けられた流体制御バルブを連動させ装置内の圧力を一定に保つよう設定した時の装置内の圧力並びに装置内へのガス供給時ガス流量を調査した。
【0058】
ガス種、ガス流量、装置内圧力、装置内容積は実施例2と同様とした。図6に結果を示す。
【0059】
結果より、実施例2で確認された若干の到達時間遅れ並びに装置内圧力の変動が克服されていることが確認された。
【0060】
本実施例より、圧力制御式流量調整器を用いた場合でも発生するガス到達時間の遅れ並びにガス種依存による装置内圧力の変動を回避でき、さらに信頼性の高い半導体又は液晶ディスプレイ製造が可能であると推測される。
【0061】
(実施例4)圧力制御式流量調整器と流体制御バルブから成る半導体又は液晶ディスプレイ製造用ガス供給システムと装置下流に備えつけられた真空排気装置を連動される事により装置内のガス分圧及びガス組成を一定に保つことが可能となる。
【0062】
図7に実験系の摸式図を示す。圧力制御式流量調整器と流体制御バルブで構成されるガス供給系から各種ガスを装置内に導入し、下流に備えつけられた真空ポンプで装置内を真空状態としている。
【0063】
通常、半導体又は液晶ディスプレイ製造用の装置に用いられる真空ポンプはバックポンプとターボ分子ポンプで構成されている。ターボ分子ポンプはパージポートから窒素等の不活性ガスを導入し、反応性ガスあるいは腐食性ガスからポンプ内部を保護している。
【0064】
パージポートに窒素を導入したときの装置内圧力依存性を図8に示す。この結果から、装置内の圧力はパージポートに供給する窒素流量の増大に伴って高くなる。すなわち、パージポートに導入する窒素流量によって装置内の圧力を制御することが可能であることがわかる。
【0065】
本実験ではパージポートに導入する窒素の流量を圧力制御式流量調整器で制御し、真空ポンプの排気速度を変化させる事によって装置内の圧力を一定に保ち、かつ装置内のガスの瞬時切替を可能とした。
【0066】
装置直近に制御バルブを設け、ガスパネルから装置までの圧力を一定に保ち、装置内のガス組成を赤外吸収スペクトル法(FT−IR)で測定を行った。尚、ターボ分子ポンプはダイキン社製DMS300A、バックポンプには日酸エドワーズ社製ドライスター80を用い、装置内の圧力は、MKSINSTRUMENTS,INC社製BARATRON690A、装置上流及びターボ分子ポンプの排気圧力は日酸エドワーズ社製ピラニ501で測定した。また、ガス供給系の圧力制御式流量調整器、流体制御バルブ及ぴポンプのパージポート用の圧力制御式流量調整器はキーエンス社製プログラマブルコントローラー(KZ−40)にて流量を制御している。
【0067】
ポンプに窒素を導入した時の圧力変化を図9に示す。ガス供給系のガスの切替とポンプに導入する窒素の流量の変化を同時に行うとガスが装置内に導入される前に真空ポンプの排気速度が上がるため、装置内の圧力は減少する。このため、ガス供給系のガスを切り変えた後にポンプのパージポートの流量を変化させる必要がある。
【0068】
図8から、ガス供給系のガス切替と同時あるいはガス切替より早くポンプパージポートの窒素流量を変化させると装置内の圧力の減少が観測される。図8から、ガス供給系のガスの切替から0.2〜0.4秒後にポンプパージポートに窒素ガスを導入する事で圧力変化1mTorr(1%)以内に抑える事が可能となる。
【0069】
以上の結果から、ポンプパージポートに導入する窒素の(と)切り替える時間はガス供給系からのガス供給量、装置容量及びポンプの排気速度に依存ると考察される。
【0070】
なお、本実施例で用いた圧力制御式流量調整器において、調整弁を外部入力により操作し、設定流量より過剰な任意流量のガスを任意の時間流すことが可能な性能に加え、任意の時間で、可変的に過剰流量から設定流量に戻すことが可能な性能を有していることが望ましい。
【0071】
(実施例5)図10は本発明にかかる圧力差を利用した流体供給系の模式図である。液体原料には、Ta(OC255の金属材料を用いた。なお、溶媒は、THF(テトラヒドロフラン(C48O))を用いた。
【0072】
流量制御器306により50cc/minに制御した。パージガスとしてアルゴン(Ar)を用いた。また有機金属溶媒の供給はヘリウム(He)による圧送により行い、304のシリンダに貯蔵し、303の圧送用ボンベから窒素(N2)を供給させ305の気化器への圧送を行った。
【0073】
尚、気化器305から下流側の配管系は常時120℃に保持され、配管内表面への再液化を防止した。
【0074】
気化器上流側の有機金属圧送圧力と気化器下流側の圧力による再液化、パーティクル発生の相関性を調査した。
【0075】
気化器下流の圧力は、306の流量制御器の制御可能圧力である1.5kg/cm2で行い、また排気側の圧力は100Torrになるよう311の制御バルブで調整した。
【0076】
305で有機金属が気化され、306の流量制御器により流量が制御され309の排気ポンプで排気されるまでの間、フランジ307aおよび307bに設置されたシリコンウェハ308aおよび308bにおいて再液化ならびにパーティクルが発生していないかを、Aeronca Electronics, Inc. 社製のパーティクル測定器WIS (Wafer Inspection System) 100を用いて評価し、気化器下流および流量制御器下流のシリコンウェハ上のパーティクル発生数により検討を行った。
【0077】
尚、圧力は310の減圧弁、ならびに312の圧力計にて計測を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1に示す結果より、気化器上流圧力が上昇するにつれ、気化器と流量制御器間のシリコンウェハ上のパーティクル数は減少しており気化器下流側の圧力の10倍以上でほとんどパーティクルは存在しないことが分かる。
【0080】
尚、パーティクル数が数10個あるのは、測定の際に付着したパーティクルであると考えられる。気化器上流の圧力が上昇するにつれ、気化部での急激な圧力減少により断熱膨張が大きく、気化されやすくなっているものと考えられる。また流量制御器と排気ポンプ間のシリコンウェハ上のパーティクル数は気化器上流の圧力に関わらず、ほとんど検出されなかった。これは、流量制御器下流においては常時100Torrに設定されており、流量制御器において断熱膨張が起こり、流量制御器にて気化されているためであると考えられる。
【0081】
よって、気化器上流及び下流の圧力を制御し、かつ流量制御器上流及び下流の圧力も制御することにより、圧力差を利用し供給することにより、有機金属のような液体材料ガスを再液化させず、パーティクルを抑制し安定に供給することが可能であると推測される。
【0082】
た、その時の気化器上流及び下流の圧力差は10倍以上であることが良いことが分かる。
【0083】
また、圧力差を利用し供給するため、流量制御器は圧力制御式のものが最適である。
【0084】
さらに、今回の実験により、減圧に排気されている流量制御器の下流では、気化器上流圧が気化器下流の10倍以下であっても再液化、パーティクルは確認できなかったため、気化部と流量制御器一体型の気化器であれば、流量制御に必要な圧力は気化器上流の圧力となるため、再液化防止が可能であり、排気側の圧力を気化部上流の圧力の1/10に設定し、設定流量に必要な1次圧力の制御、もしくは気化部の圧力減少の制御が可能になれば、安定に液体材料ガスを流量制御し供給することが可能であると推測される。
【0085】
(実施例6)実施例1の実験系を用い、FT−IRにより通常の流量制御時、流量制御器の設定流量以上の濃度のガスを流した時、及び過剰流量のガスを流すと同時に排気側のポンプを連動させた時の液体材料ガス供給時のガス流量、及び流量調整器下流の圧力を調査した。
【0086】
尚、有機金属溶媒の圧送圧力(気化器上流圧力)は30kg/cm2、流量制御器上流圧力は1.5kg/cm2、流量制御器下流圧力は100Torrにて調査を行った。
【0087】
図11に結果を示す。図11(a)は、通常の流量制御時のガス濃度及び圧力を示す。バルブを開けた瞬間ガスは流始め、約10秒間後に所定の濃度で一定となっている。
【0088】
図11(b)は、バルブ開時には約1.5秒通常の1.3倍のガスを流通させた後設定流量で制御したときのガス濃度及び圧力を示す。バルブを開けた瞬間ガスは流れ始め、図11(a)に比べ瞬時に(約2秒)所定の濃度になっていることが確認された。しかし、バルブ開時に過剰のガスが導入されるため、圧力上昇が急峻に起こっていることが確認された。これでは、ガス濃度は瞬時に安定するが、圧力が揺らぐため、再現性のある高品質な半導体形成は不可能であると推測される。
【0089】
図11(c)は、過剰流量のガスを流すと同時に排気側のポンプの排気速度を向上させた時のガス濃度及び圧力を示す。図11(b)と同様にガス濃度は瞬時に安定し、さらにポンプの排気速度を連動させ、過剰流量のガスを過剰に排気しているため圧力変動も起きていないことが確認された。
【0090】
以上のことより、ガス供給時に過剰のガスを供給することによりガス濃度の瞬時安定を可能にし、さらに圧力変動の問題を克服するために、ガス供給時にポンプを連動させ排気速度を向上させることにより、ガス濃度の瞬時安定、圧力のゆらぎのない半導体製造が可能となり、高速で信頼性が高く、高品質な半導体製造が可能であると推測される。
【0091】
尚、本実施例では、過剰流量流した時の流量および時間、排気速度の設定値などは代表例で表しているが、ガスの流易さ及びポンプによる引かれ易さはガス種依存であるため、ガス種別に設定値を検討する必要性があると推測される。
【符号の説明】
【0092】
101 流量調整器、
102 流体制御バルブ、
103 装置(チャンバ)、
104 圧力計、
105 流量調整器連動流体制御バルブ、
106 ポンプ、
107 FT−IR用覗き窓、
108 反射板、
201 流量調整バルブ、
202 圧力制御式流量調整器、
203 ガス供給システム、
204 電気回路、
205 圧力計1、
206 流量調整器、
207 圧力計2、
208 装置(チャンバ)M、
209 ポンプ1、
210 ポンプ2、
301 液体材料ガス溶媒用ボトル、
302 流体制御器(バルブ)、
303 液体材料ガス溶媒圧送用ボンベ、
304 液体材料ガス溶媒シリンダ、
305 流体気化器、
306 圧力制御式流量制御器、
307 フランジ、
308a シリコンウェハ(気化器下流側)、
308b シリコンウェハ(流量制御器下流側)、
309 ポンプ、
310 減圧弁、
311 圧力センサ(高圧用)、
312 圧力センサ(低圧用)、
313 FT−IR。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体材料ガスを流体気化器内に導入し、液体材料を気化させる方法において、
前記流体気化器の上流と下流との間に圧力差を設けることを特徴とする液体材料ガスの気化方法。
【請求項2】
前記流体気化器の上流側圧力を下流側圧力の10倍以上とすることを特徴とする請求項1記載の液体材料ガスの気化方法

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−161392(P2010−161392A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40549(P2010−40549)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【分割の表示】特願平10−337999の分割
【原出願日】平成10年11月27日(1998.11.27)
【出願人】(000173658)財団法人国際科学振興財団 (31)
【Fターム(参考)】