説明

半導体基板の超臨界乾燥方法及び装置

【課題】超臨界乾燥処理時に、半導体基板上の金属材料がエッチングされることを防止する。
【解決手段】半導体基板の超臨界乾燥方法は、半導体基板を洗浄して純水リンスする工程と、前記半導体基板の表面を純水からアルコールに置換する工程と、前記アルコールで濡れた前記半導体基板をチャンバに導入する工程と、前記チャンバ内から酸素を排出する工程と、前記アルコールを超臨界状態にする工程と、前記チャンバ内の圧力を下げ、超臨界状態の前記アルコールを気体に変化させて、前記チャンバから排出する工程と、を備える。前記チャンバは、SUSによって形成され、内壁面に電解研磨処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体基板の超臨界乾燥方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、リソグラフィ工程、ドライエッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、ウェーハ表面に残存した不純物や残渣を除去してウェーハ表面を清浄にするための洗浄工程、洗浄後の薬液残渣を除去するリンス工程、及び乾燥工程が実施されている。
【0003】
例えば、エッチング工程後のウェーハの洗浄処理では、ウェーハの表面に洗浄処理のための薬液が供給され、その後に純水が供給されてリンス処理が行われる。リンス処理後は、ウェーハ表面に残っている純水を除去してウェーハを乾燥させる乾燥処理が行われる。
【0004】
乾燥処理を行う方法としては、例えば回転による遠心力を利用してウェーハ上の純水を排出させる回転乾燥、ウェーハ上の純水をイソプロピルアルコール(IPA)に置換し、IPAを気化させてウェーハを乾燥させるIPA乾燥等が知られている。しかし、これら一般的な乾燥処理では、ウェーハ上に残る液体の表面張力により、ウェーハ上に形成された微細パターン同士が乾燥時に互いに接触し、閉塞してしまう問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、表面張力がゼロとなる超臨界乾燥が提案されている。超臨界乾燥では、ウェーハの洗浄処理後に、一旦、超臨界乾燥溶媒にて最終置換する別溶媒、例えばIPA、でウェーハ上の液体を置換し、表面がIPAで濡れている状態のままウェーハを超臨界チャンバへ導入する。その後、超臨界状態として二酸化炭素(超臨界CO流体)をチャンバ供給し、IPAと超臨界CO流体とを置換し、徐々にウェーハ上のIPAが超臨界CO流体に溶解し、排出される超臨界CO流体と共にウェーハから排出される。すべてのIPAが排出された後、チャンバ内を降圧し、超臨界CO流体を気体COに相変化させて、ウェーハの乾燥が終了する。
【0006】
また、乾燥溶媒に超臨界CO流体を用いるのではなく、薬液洗浄後のリンス純水との置換液であるIPA等のアルコール自体を超臨界状態にし、気化排出することで乾燥する手法も知られている。この手法はアルコールが常温常圧で液体であるため扱い易く、臨界圧力がCOより低いといった利点がある。しかし、高温高圧下では、アルコールの分解反応が起こり、この分解反応により生成されたエッチャントが、半導体基板上の金属材料をエッチングし、半導体デバイスの電気的特性を劣化させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−332215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、半導体基板上の金属材料のエッチングを抑制し、半導体デバイスの電気的特性の劣化を防止することができる半導体基板の超臨界乾燥方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態によれば、半導体基板の超臨界乾燥方法は、薬液を用いて半導体基板を洗浄する工程と、前記洗浄後に、純水を用いて前記半導体基板をリンスする工程と、前記リンス後に、前記半導体基板の表面にアルコールを供給して、前記半導体基板の表面を覆う液体を純水から前記アルコールに置換する工程と、SUSを含み、内壁面に電解研磨処理が施されたチャンバ内に、表面が前記アルコールで濡れた前記半導体基板を導入する工程と、前記チャンバ内に不活性ガスを供給し、前記チャンバ内から酸素を排出する工程と、酸素の排出後に、前記チャンバ内の温度を前記アルコールの臨界温度以上に昇温して、前記アルコールを超臨界状態にする工程と、前記チャンバ内の圧力を下げ、超臨界状態の前記アルコールを気体に変化させて、前記チャンバから排出する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る超臨界乾燥装置の概略構成図である。
【図3】電解研磨処理によるSUS表面の金属組成の変化を示すグラフである。
【図4】同第1の実施形態に係る超臨界乾燥方法を説明するフローチャートである。
【図5】IPAの蒸気圧曲線を示すグラフである。
【図6】電解研磨処理及び不活性ガスパージの有無とタングステンのエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図7】SUS表面の酸化膜の変化を示す図である。
【図8】チャンバに対する超臨界IPA処理時間とタングステンのエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)まず、超臨界乾燥について説明する。図1は、圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。超臨界乾燥に用いられる超臨界流体の機能物質には、三態と称される気相(気体)、液相(液体)、固相(固体)の3つの存在状態がある。
【0013】
図1に示すように、上記3つの相は、気相と液相との境界を示す蒸気圧曲線(気相平衡線)、気相と固相との境界を示す昇華曲線、固相と液相との境界を示す溶解曲線で区切られる。これら3つの相が重なったところが三重点である。この三重点から蒸気圧曲線が高温側に延びると、気相と液相が共存する限界である臨界点に達する。この臨界点では、気相と液相の密度が等しくなり、気液共存状態の界面が消失する。
【0014】
そして、臨界点より高温、高圧の状態では、気相、液相の区別がなくなり、物質は超臨界流体となる。超臨界流体とは、臨界温度以上で高密度に圧縮された流体である。超臨界流体は、溶媒分子の拡散力が支配的である点においては気体と類似している。一方、超臨界流体は、分子の凝集力の影響が無視できない点においては液体と類似しているため、種々の物質を溶解する性質を有している。
【0015】
また、超臨界流体は、液体に比べ非常に高い浸潤性を有し、微細な構造にも容易に浸透する特徴がある。
【0016】
また、超臨界流体は、超臨界状態から直接気相に転移するように乾燥させることで、気体と液体の界面が存在しないように、すなわち毛管力(表面張力)が働かないようにして、微細構造を破壊することなく乾燥することができる。超臨界乾燥とは、このような超臨界流体の超臨界状態を利用して基板を乾燥することである。
【0017】
次に、図2を用いて、半導体基板の超臨界乾燥を行う超臨界乾燥装置について説明する。図2に示すように、超臨界乾燥装置10は、ヒータ12が内蔵されたチャンバ11を備えている。チャンバ11は、所定の耐圧性が確保された高圧容器であり、SUS(Steel Use Stainless:ステンレス鋼)で形成されている。ヒータ12は、チャンバ11内の温度を調整することができる。図2では、ヒータ12がチャンバ11に内蔵されている構成を示しているが、ヒータ12をチャンバ11の外周部に設ける構成にしてもよい。
【0018】
また、チャンバ11には、超臨界乾燥処理の対象となる半導体基板Wを保持するリング状の平板であるステージ13が設けられている。
【0019】
チャンバ11には配管14が連結されており、窒素やアルゴン等の不活性ガスをチャンバ11内へ供給できるようになっている。また、チャンバ11には配管16が連結されており、チャンバ11内の気体や超臨界流体を、この配管16を介して外部へ排出することができる。
【0020】
配管14、配管16は例えばチャンバ11と同じ材料(SUS)で形成される。配管14、配管16にはそれぞれバルブ15、バルブ17が設けられており、バルブ15及びバルブ17を閉じることで、チャンバ11内を密閉状態にすることができる。
【0021】
チャンバ11の表面(内壁面)には電解研磨処理が施されている。電解研磨処理によるチャンバ11表面部の金属組成の変化を図3に示す。金属組成は、XPS(X線光電子分光分析)により分析した。2つのチャンバに対して電解研磨処理を施し、一方のチャンバをN=1、他方のチャンバをN=2として、図3に分析結果を示す。
【0022】
図3から分かるように、電解研磨処理により、チャンバ11表面部におけるクロム(Cr)濃度が増加した。これは、電解研磨処理によって、SUS表面の鉄(Fe)が選択的に電解液に溶解するためである。研磨量によらず、電解研磨処理によりチャンバ11表面部におけるCr濃度は35%以上になった。ここでチャンバ11表面部とは、表面から5nm程度の深さまでの領域をいう。
【0023】
チャンバ11の表面部はFeやCrを含む酸化膜になっている。CrはFeより化学的に安定な物質である。従って、電解研磨処理によりクロム(Cr)濃度を増加させることで、チャンバ11表面の耐腐食性を向上させることができる。
【0024】
また、配管14のうち、少なくともチャンバ11とバルブ15との間の内壁面、及び配管16のうち、少なくともチャンバ11とバルブ17との間の内壁面に対しても電解研磨処理が施されている。すなわち、後述する超臨界乾燥処理の際に超臨界流体が接触する箇所に電解研磨処理が施される。
【0025】
次に、図4に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係る半導体基板の洗浄及び乾燥方法を説明する。
【0026】
(ステップS101)処理対象の半導体基板が図示しない洗浄チャンバに搬入される。そして、半導体基板の表面に薬液が供給され、洗浄処理が行われる。薬液には、例えば、硫酸、フッ酸、塩酸、過酸化水素等を用いることができる。
【0027】
ここで、洗浄処理とは、レジストを半導体基板から剥離するような処理や、パーティクルや金属不純物を除去する処理や、基板上に形成された膜をエッチング除去する処理等を含むものである。半導体基板には、タングステン膜等の金属膜を含む微細パターンが形成されている。この微細パターンは、洗浄処理前から形成されているものでもよいし、この洗浄処理により形成されるものでもよい。
【0028】
(ステップS102)ステップS101の洗浄処理の後に、半導体基板の表面に純水が供給され、半導体基板の表面に残留していた薬液を純水によって洗い流す純水リンス処理が行われる。
【0029】
(ステップS103)ステップS102の純水リンス処理の後に、表面が純水で濡れている半導体基板を水溶性有機溶媒に浸漬させ、半導体基板表面の液体を純水から水溶性有機溶媒に置換する液体置換処理が行われる。水溶性有機溶媒はアルコールであり、ここではイソプロピルアルコール(IPA)を使用するものとする。
【0030】
(ステップS104)ステップS103の液体置換処理の後に、半導体基板を、表面がIPAで濡れた状態のまま、自然乾燥しないように、洗浄チャンバから搬出し、図2に示すチャンバ11に導入し、ステージ13に固定する。
【0031】
(ステップS105)チャンバ11の蓋を閉じ、バルブ15及びバルブ17を開ける。そして、配管14を介してチャンバ11内に窒素等の不活性ガスを供給し、配管16を介してチャンバ11内の酸素を追放(パージ:purge)する。
【0032】
チャンバ11内への不活性ガスの供給時間は、チャンバ11の容量やチャンバ11内のIPAの量によって決定する。または、チャンバ11に設けられたグローブボックス(図示せず)からの排気中の酸素濃度を監視し、この酸素濃度が所定値(例えば100ppm)以下になるまで不活性ガスの供給を行ってもよい。
【0033】
(ステップS106)チャンバ11内の酸素を追放した後、バルブ15及びバルブ17を閉じてチャンバ11の内部を密閉状態にする。そして、ヒータ12を用いて、密閉状態のチャンバ11内において、半導体基板の表面を覆っているIPAを加熱する。加熱されて気化したIPAの増加により、密閉されて一定容積となっているチャンバ11内の圧力は、図5に示されるIPAの蒸気圧曲線に従って増加する。
【0034】
ここで、チャンバ11内の実際の圧力は、チャンバ11内に存在する全ての気体分子の分圧の総和となるが、本実施形態では、気体IPAの分圧をチャンバ11内の圧力として説明する。
【0035】
図5に示すように、チャンバ11内の圧力がIPAの臨界圧力Pc(≒5.4MPa)に達した状態で、IPAを臨界温度Tc(≒235.6℃)以上に加熱すると、チャンバ11内の気体IPA及び液体IPAは、超臨界状態となる。これにより、チャンバ11内は超臨界IPA(超臨界状態のIPA)で充填され、半導体基板の表面は、超臨界IPAに覆われた状態となる。
【0036】
なお、IPAが超臨界状態となるまで、半導体基板の表面を覆う液体IPAが全て気化しないように、すなわち半導体基板が液体IPAで濡れ、チャンバ11内に気体IPAと液体IPAが共存しているようにする。
【0037】
気体の状態方程式(PV=nRT;Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは温度)に、温度Tc、圧力Pc、チャンバ11の容積を代入することで、IPAが超臨界状態になる時に、チャンバ11内に気体状態で存在するIPAの量nc(mol)が求められる。
【0038】
従って、ステップS105で不活性ガスの供給を開始する前に、チャンバ11内にはnc(mol)以上の液体IPAが存在する必要がある。チャンバ11に導入される半導体基板上のIPAの量がnc(mol)未満である場合は、図示しない薬液供給部からチャンバ11内に液体IPAを供給し、チャンバ11内にnc(mol)以上の液体IPAを存在させるようにする。
【0039】
半導体基板上の金属膜は、チャンバ11内に酸素が存在している場合、その酸素によって酸化される。チャンバ内のIPAがチャンバ11を形成するSUSの鉄(Fe)を触媒として分解反応を起こすと、分解反応により生成されたエッチャントが、半導体基板上の酸化された金属膜をエッチングする。
【0040】
しかし、本実施形態では、ステップS105において不活性ガスを供給することで、チャンバ11内の酸素濃度を極めて低くしている。そのため、乾燥処理の際に、半導体基板上の金属膜が酸化されることを防止することができる。
【0041】
また、超臨界IPAが接触するチャンバ11、配管14、及び配管16の内壁は、電解研磨処理によりCr濃度の高い化学的に安定な表面になっている。そのため、チャンバ11表面を触媒としたIPAの分解反応の発生を防止することができる。
【0042】
このように、半導体基板上の金属膜の酸化及びIPAの分解反応の発生を防止することで、半導体基板上の金属膜がエッチングされることを防止できる。
【0043】
(ステップS107)ステップS106の加熱後、バルブ17を開いて、チャンバ11内の超臨界IPAを排出し、チャンバ11内を降圧する。チャンバ11内の圧力がIPAの臨界圧力Pc以下になると、IPAは超臨界流体から気体に相変化する。
【0044】
(ステップS108)チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、チャンバ11を冷却し、半導体基板をチャンバ11から搬出する。
【0045】
または、チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、半導体基板を高温のまま冷却チャンバ(図示せず)に搬送して冷却してもよい。この場合、チャンバ11を常にある程度の高温状態に保つことができるので、半導体基板の乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0046】
このように、本実施形態では、リンス純水との置換液であるIPA等のアルコール自体を超臨界状態にする超臨界乾燥処理の際に、半導体基板上の金属材料がエッチングされることを防止し、半導体デバイスの電気的特性の劣化を防止することができる。
【0047】
図6は、SUSで形成したチャンバへの電解研磨処理の有無、不活性ガスの供給によるチャンバからの酸素追放(図4のステップS105に相当)の有無を変えた場合の、超臨界乾燥処理時の金属膜のエッチングレートの違いを実験により求めた結果を示している。
【0048】
本実験では、半導体基板上に厚さ100nmのタングステン膜を形成し、この半導体基板を、チャンバ内の温度を250℃まで昇温して超臨界状態にしたIPA中に6時間置いた。また、電解研磨処理によるチャンバの研磨量は1.5μmとした。また、不活性ガスには窒素を使用した。
【0049】
チャンバに電解研磨処理を施さなかった場合、酸素追放の有無によらず、超臨界乾燥処理により、半導体基板上のタングステン膜は全て除去された。タングステンのエッチングレートは定量不能な極めて大きい値となった。
【0050】
チャンバに電解研磨処理を施し、酸素追放(図4のステップS105)を行わなかった場合、タングステンのエッチングレートは約0.17nm/分となった。チャンバに電解研磨処理を施さなかった場合と比較して、タングステンのエッチングレートを大きく低減できることが分かる。これは、上述したように、チャンバ表面が電解研磨処理によりCr濃度の高い化学的に安定な状態になったことで、チャンバ表面を触媒としたIPAの分解反応の発生を防止したためと考えられる。
【0051】
チャンバに電解研磨処理を施し、さらに酸素追放(図4のステップS105)を行った場合、半導体基板上のタングステン膜はほとんどエッチングされず、エッチングレートはほぼ0nm/分となった。これは、上述したように、チャンバ表面が電解研磨処理によりCr濃度の高い化学的に安定な状態になったことで、チャンバ表面を触媒としたIPAの分解反応の発生を防止したことに加えて、チャンバ内の酸素濃度を極めて低くしたことで、乾燥処理中のタングステン膜の酸化を防止したためと考えられる。
【0052】
図6に示す実験結果からも分かるように、電解研磨処理を施したチャンバを使用し、IPAの加熱前にチャンバ内の酸素を不活性ガスによりパージすることで、超臨界乾燥処理中の半導体基板上の金属材料のエッチングを防止することができる。
【0053】
このように、本実施形態に係る超臨界乾燥方法によれば、半導体基板上の金属材料のエッチングを抑制し、半導体デバイスの電気的特性の劣化を防止することができる。
【0054】
(第2の実施形態)上記第1の実施形態では、図7(a)に示すように、電解研磨処理によりチャンバ11を形成するSUSの表層部分の酸化膜のCr濃度を増加させ、チャンバ11表面を化学的に安定な状態にしたが、図7(b)に示すように、チャンバ11表層部分の酸化膜を厚膜化することで、チャンバ11表面を化学的に安定な状態にしてもよい。
【0055】
チャンバ11内にIPAを供給し、このIPAを超臨界状態にして、チャンバ11を超臨界IPAに所定時間曝すことで、チャンバ11表層部分の酸化膜を厚膜化することができる。例えば、チャンバ11内を250℃に昇温し、チャンバ11の内壁を超臨界IPAに約6時間曝すことで、チャンバ11表層部分の酸化膜の膜厚を約3nmから約7nmに厚膜化できる。
【0056】
図8は、超臨界IPAに曝していない(酸化膜を厚膜化していない)チャンバを利用した場合、超臨界IPAに6時間曝したチャンバを利用した場合、超臨界IPAに12時間曝したチャンバを利用した場合、超臨界IPAに18時間曝したチャンバを利用した場合の各々について、超臨界乾燥処理時の半導体基板上の金属膜のエッチングレートを実験により求めた結果を示している。超臨界乾燥処理は図4に示す処理と同様である。
【0057】
本実験では、半導体基板上に厚さ100nmのタングステン膜を形成し、この半導体基板を、チャンバ内の温度を250℃まで昇温して超臨界状態にしたIPA中に6時間置いた。また、不活性ガスには窒素を使用した。
【0058】
超臨界IPAに曝していない(酸化膜を厚膜化していない)チャンバを利用した場合、超臨界乾燥処理により、半導体基板上のタングステン膜は全て除去された。タングステンのエッチングレートは定量不能な極めて大きい値となった。
【0059】
超臨界IPAに6時間曝したチャンバを利用した場合、タングステンのエッチングレートは約0.17nm/分となった。超臨界IPAに曝していないチャンバを利用した場合と比較して、タングステンのエッチングレートを大きく低減できることが分かる。これは、上述したように、チャンバ表面の酸化膜を膜厚7nm程度に厚膜化したことで化学的に安定な状態になり、チャンバ表面を触媒としたIPAの分解反応の発生を防止したためと考えられる。
【0060】
超臨界IPAに12時間曝したチャンバを利用した場合、タングステンのエッチングレートはさらに低下した。これは、チャンバ表面の酸化膜がさらに厚膜化し、さらに化学的に安定な状態になったためと考えられる。また、超臨界IPAに18時間曝したチャンバを利用した場合、半導体基板上のタングステン膜はほとんどエッチングされず、エッチングレートはほぼ0nm/分となった。
【0061】
このように、表面部分の酸化膜を厚膜化したチャンバを使用し、IPAの加熱前にチャンバ内の酸素を不活性ガスによりパージすることで、超臨界乾燥処理中の半導体基板上の金属材料のエッチングを防止することができる。
【0062】
上記第2の実施形態では、チャンバ11を超臨界IPAに曝すこと、言い換えれば超臨界乾燥処理のダミーラン(Dummy Run)により表層部分の酸化膜を厚膜化したが、他の方法を用いてもよい。例えば、オゾンガスを用いた酸化処理により、チャンバ11を形成するSUSの表層部分の酸化膜を厚膜化することができる。
【0063】
上記実施形態では、半導体基板に形成される金属膜がタングステン膜である場合について説明したが、タングステンと電気化学的な性質の近いモリブデン等による金属膜が形成されている場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0064】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 超臨界乾燥装置
11 チャンバ
12 ヒータ
13 ステージ
14 配管
15 バルブ
16 配管
17 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を用いて半導体基板を洗浄する工程と、
前記洗浄後に、純水を用いて前記半導体基板をリンスする工程と、
前記リンス後に、前記半導体基板の表面にアルコールを供給して、前記半導体基板の表面を覆う液体を純水から前記アルコールに置換する工程と、
SUSを含み、内壁面に電解研磨処理が施されたチャンバ内に、表面が前記アルコールで濡れた前記半導体基板を導入する工程と、
前記チャンバ内に不活性ガスを供給し、前記チャンバ内から酸素を排出する工程と、
酸素の排出後に、前記チャンバ内の温度を前記アルコールの臨界温度以上に昇温して、前記アルコールを超臨界状態にする工程と、
前記チャンバ内の圧力を下げ、超臨界状態の前記アルコールを気体に変化させて、前記チャンバから排出する工程と、
を備える半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項2】
前記不活性ガスの供給前に、前記アルコールの臨界温度、臨界圧力、及び前記チャンバの容量に基づく液量の前記アルコールを前記チャンバ内に供給する工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項3】
前記半導体基板上にはタングステン又はモリブデンを含む金属膜が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項4】
SUSを含み、内壁面に電解研磨処理が施されているチャンバを備えることを特徴とする半導体基板の超臨界乾燥装置。
【請求項5】
前記チャンバに連結され、前記チャンバ内に不活性ガスを供給する第1配管と、
前記第1配管に設けられた第1バルブと、
前記チャンバに連結され、前記チャンバから超臨界流体又は気体を排出する第2配管と、
前記第2配管に設けられた第2バルブと、
をさらに備え、
前記第1配管及び前記第2配管はSUSを含み、前記第1配管のうち、少なくとも前記第1バルブと前記チャンバとの間の部分の内壁面と、前記第2配管のうち、少なくとも前記第2バルブと前記チャンバとの間の部分の内壁面は電解研磨処理が施されていることを特徴とする請求項4に記載の半導体基板の超臨界乾燥装置。
【請求項6】
前記チャンバの内壁の表面部のクロム濃度は35%以上であることを特徴とする請求項4又は5に記載の半導体基板の超臨界乾燥装置。
【請求項7】
SUSを含み、内壁の表面部に膜厚7nm以上の酸化膜が設けられているチャンバを備えることを特徴とする半導体基板の超臨界乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221986(P2012−221986A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82753(P2011−82753)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】