説明

半導体材料の改質方法,薄膜および半導体素子

【課題】 導電性を向上させたP型有機半導体材料の改質方法及びその薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】 銅フタロシアニン(化式1)、もしくはポリチオフェン(化式3)とサリチル酸亜鉛を混合し溶解させた後、基板上にスピンコート法により薄膜をし、その後オーブンで加熱し溶媒を除去した。もしくはポリチオフェン薄膜を形成後、ポリチオフェンに溶解性のあるクロロホルムを適量含む混合溶媒で用いたサリチル酸亜鉛溶液を滴下して半導体薄膜を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子、有機トランジスタ素子、光電変換素子等の有機エレクトロニクス、もしくはオプトエレクトロニクス材料に関する。特に、ウェットプロセスに対応する有機薄膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、薄型軽量・高速応答性などの特性から、発光層やキャリア輸送層などの有機材料を積層した有機EL素子が実用化され、次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注目されている。更に、有機半導体材料を用いた有機太陽電池や有機トランジスタなどの研究が盛んに行なわれている。このような有機エレクトロニクス、もしくはオプトエレクトロニクス分野において、有機材料と電極として用いられる金属との接合抵抗を如何に下げられるかが大きな課題の一つとなっている。
【0003】
例えば、有機トランジスタ素子において、有機半導体層とソース電極またはドレイン電極との接合抵抗を低減すれば、キャリアの注入効率が良くなるため、トランジスタのオン電流値が向上し、且つ素子特性が安定化することが期待される。そのための一つの方法として、有機半導体中へ電荷移動錯体を導入する方法が知られており、実際に、特許文献1(特開2002−204012)では、ソース電極もしくはドレイン電極と有機半導体層との間に導電性を有する電荷移動錯体を中間層として設けることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2(特開平5−55568)では、半導体層として用いた縮合多環芳香族化合物薄膜にドナーもしくはアクセプタをドーピングすることにより半導体特性を改良することを提案している。
【特許文献1】特開2002−204012号公報
【特許文献2】特開平5−55568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のドーピング方法は、ヨウ素などのドーピング材料の蒸気と接触させる、もしくはドナー性を有する材料とアクセプタ性を有する材料を共蒸着することによって作製している。また、導電性を有する電荷移動錯体の場合には、結晶や粉末結晶の形態であるため成膜にするにはバインダーと混合する等の方法が用いられる。従って、ドーピングされた材料を塗布法のような簡便な方法で成膜することは困難であった。
【0006】
また、有機材料を用いた素子の製造方法として、真空蒸着法のようなドライプロセスでは生産性やコストという観点から好ましいものではない。有機材料を用いるメリットを活かすために、スピンコート、印刷方法、インクジェット法などの簡便で安価なウェットプロセスを用いることが強く望まれている。
【0007】
本発明の目的は、塗布可能で、導電性を向上させたP型有機半導体材料の作製方法及びその薄膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合した溶液を塗布するだけで、導電性が向上した有機薄膜を簡便に形成することが可能であることを見出した。
【0009】
本発明は、P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合または接触することにより導電性を向上させるP型有機半導体材料の改質方法であり、またこの方法により導電率が向上したP型有機半導体からなる半導体薄膜である。また本発明は、P型半導体薄膜にサリチル酸金属錯体を含有させたことを特徴とする有機薄膜である。
さらに本発明は、これらの有機薄膜を用いた半導体素子であり、特にこれらの有機薄膜をキャリア注入層として用いることが好ましい。
有機材料または薄膜の導電性の向上は、サリチル酸金属錯体との混合比よって制御でき、最大では導電率にして100倍以上あることが好ましい。
【0010】
本発明で用いられるP型有機半導体材料は特に限定するものはないが、アントラセン、テトラセン、ペンタセン、コロネン等の縮合多環芳香族化合物、フタロシアニン系化合物、アゾ系化合物、ペリレン系化合物、カルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体、チオフェンオリゴマー誘導体、フルオレン誘導体等が挙げられる。
【0011】
また、本発明で用いられるサリチル酸金属錯体は特に限定するものはないが、金属は亜鉛であることが好ましい。また、溶解性を調整するために側鎖等を導入するの好ましく、具体的にはアルコキシカルボニルアミノ基やt−ブチル基などが挙げられる。
【0012】
更に、P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体の混合比は、特に限定するものはないが、サリチル酸金属錯体の添加量に応じて導電性は向上するが、より大きな効果を得るためには薄膜全体におけるサリチル酸金属錯体の量が5〜95質量%、更には20〜80質量%の範囲で添加することが好ましい。一方、本発明の薄膜を半導体層として用いる場合には、P型有機半導体材料に対してサリチル酸金属錯体をごく微量だけドープすることが好ましい。また、その他の機能向上にためにP型有機半導体材料及びサリチル酸金属錯体以外の材料を添加しても良い。
【0013】
有機材料とサリチル酸金属錯体の混合方法は、両方の材料に可溶な溶媒中で混合すれば良い。成膜方法として、上記P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合した溶液を一般的に知られるスピンコート、印刷方法、インクジェット法などの方法で成膜することが可能である。いずれの成膜方法においても、極めて薄い有機薄膜を低コストで形成することが可能である。もしくは、先にP型有機半導体材料を成膜した後、前記P型有機半導体材料に対して僅かに溶解性のある溶媒に溶かしたサリチル酸金属錯体を含む溶液を前記P型有機半導体薄膜上から接触させることにより、薄膜中にサリチル酸金属錯体が侵食し、その薄膜の表面の一部のみ、もしくは全体を改質することも可能である。
【0014】
この有機薄膜は、半導体素子の中で金属と有機材料との界面抵抗を下げるためのキャリア注入層として用いても良い。図1にその1例を示す。表面を熱酸化処理して熱酸化膜を形成したシリコン基板1をゲート電極、その表面の熱酸化膜2を絶縁層、半導体層3を形成し、そのうえに間隙をおいてこの導電性有機薄膜4を設け、その上に金をそれぞれソース電極5とドレイン電極6として設けることにより、トランジスタが形成される。この場合、ソース電極とドレイン電極の間にこの導電性有機薄膜層が形成されると、注入されたキャリアが半導体層よりも前記導電性有機薄膜層に主に流れるため、ソース電極だけ、もしくはソース及びドレイン電極の両方と半導体層の間に挿入することが特に好ましい。
【0015】
ただし、塗布プロセスでは、電極部分といった微小領域だけに薄膜を形成することは容易ではない。本発明の有機薄膜にUV(紫外線)を照射することにより導電性が低下することを見出した。そこでこの有機薄膜に所望の個所だけUVで露光することによりUV照射部の導電性を低下させ、導電性の高い部分と低い部分の領域を任意に形成できることがわかった。
【0016】
また、有機半導体層へサリチル酸金属錯体のドープ量を調整し導電性を制御することでキャリア密度を上げ、キャリア移動度を向上させた半導体層としても良い。更には、電極として用いることも可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可溶性のP型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合し、その溶液を一般的に知られる塗布方法により導電性が向上したP型有機半導体材料薄膜を容易に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業(株)製)中に側鎖を導入した銅フタロシアニン(化式1)(CuPC)にサリチル酸亜鉛(化式2)(ZnSa)を質量比で7:3となるように混合し溶解させた後、更に前記1−メトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)に対して1,2−ジメチルシクロヘキサン(和光純薬工業(株)製)を体積比で3倍の量を加えそれぞれトータルで25g/lの濃度となるようにした。この溶液を用いて、ガラス基板上にスピンコート法により塗布して薄膜を形成し、その後80℃のオーブンに10分間保持し、溶媒を除去した。この薄膜の厚みは150nmであった。この薄膜の吸収スペクトルを測定したところ、図2に示す通り、800nm付近にCuPCとZnSaを混合したことによる新たなピークが出現した。比較のためにCuPc単独で上記と同様に薄膜化したものの吸収スペクトルも示す。
【0019】
次に、上記のCuPc単独溶液、及びCuPCとZnSaと上記の割合で混合した溶液をそれぞれ用いて、パターンニングされたITOガラス基板上に、スピンコート法により厚さが150nmとなるようにそれぞれの薄膜を形成し、その後90℃のオーブンに10分間保持し、溶媒を除去した。更に、図3に示すような、それぞれの有機薄膜8上に基板のITO電極7と2mm角の大きさで重なるようにマスクを密着するように被せ約20nm程度の厚さの金9を真空蒸着した。この素子の電流−電圧(I-V)特性を測定したところ、図4に示す通り、CuPCとZnSaの混合膜の方が電流量の増大しており、これは金から有機薄膜へのキャリア注入が良くなっていることを示している。このようにCuPcを改質できたことがわかった。
【0020】
【化1】

・・(化式1)
【0021】
【化2】

・・(化式2)
【0022】
(実施例2)
クロロホルム(和光純薬工業(株)製)中にレジオレギュラ・ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT:アルドリッチ社製)(化式3)単独、及びP3HTにZnSaを重量比で7:3で混合し、15g/lの濃度となるように調整した溶液を用いて、薄膜を形成し、その後60℃のオーブンに10分間保持し、溶媒を除去した。更に、実施例1と同様の素子を作製し、この素子の電流−電圧(I-V)特性を比較したところ、図5に示す通り、実施例1と同じく、ZnSaを混合した薄膜の電流量の方が増大していた。
【化3】

・・(化式3)
【0023】
(実施例3)
まずP3HT単独の薄膜をITOガラス基板上に厚さが150nmとなるように形成した。次に、1−エトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)とクロロホルムを体積比で7:3、の混合溶媒を用いて、それぞれ20g/lの濃度となるようにZnSa単独を溶解させた。これらの溶液を、前記P3HT薄膜に滴下した後、実施例1と同様の素子を作製した。この素子の電流−電圧(I-V)特性を測定した。
【0024】
(実施例4)
1−エトキシ−2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)とクロロホルムを体積比で5:5の混合溶媒を用いた以外は実施例3と同様の素子を作成して電流−電圧(I-V)特性を測定した。結果を実施例3とあわせて図6に示す。P3HTにZnSa溶液を滴下した薄膜の電流量の方が大きくなり、実施例3および4の方法でもドーピングできることを確認した。また、P3HTに対して溶解性のあるクロロホルムを多く含んだ混合比5:5の溶液を滴下した薄膜(実施例4)の電流量の方が大きく、P3HTとZnSaが重量比で約7:3で混合した溶液から形成した薄膜(実施例2)とほぼ同程度の性能が得られた。これは、P3HT薄膜にZnSa単独溶液を接触させることで、P3HTとZnSaを混合した溶液から作製した薄膜と同等性能の有機薄膜を作製できることを表している。
【0025】
(実施例5)〜(実施例10)
実施例1及び2と同様に、CuPCもしくはP3HTに対するZnSaの混合比を変えた溶液を各種調整し、ガラス基板上に薄膜を作製した。これらの薄膜上にマスクを密着するように被せ、金を電極として真空蒸着法により20nm程度の厚さの膜となるよう横に50μmの間隔で2箇所形成した。この素子における電流−電圧(I-V)特性を測定し、基板上に作製した有機薄膜の導電率を評価した。図7に示す通り、CuPC薄膜では2×10-8S/cm、ZnSa薄膜では7×10-9S/cmとどちらも絶縁に近い導電性しか有しておらず、P3HT薄膜の場合には7×10-6S/cmであった。図7に示したプロットを実施例5から実施例10として表1にまとめた。ZnSaを加えたことにより導電率が顕著に向上したことがわかる。
【表1】

【0026】
(実施例11)
実施例4と同様に、P3HT薄膜を形成後、1−エトキシ−2−プロパノールとクロロホルムを体積比で5:5からなる混合溶媒を用いたZnSa溶液を滴下した薄膜をガラス基板上に形成した。金を電極として50μmの間隔で2箇所形成した。この素子に照射強度が470mW/cm2のメタルハライドランプを用いてUV光を照射し、UV光照射時間(エネルギー)に対する前記金電極間の電流量の変化を測定した。図8に示す通り、ZnSa滴下することにより増大した電流量が、UV照射パワーと共に低下させることができた。即ち、所望の箇所だけをUV露光することによってその箇所の導電性を低下させ、形状的なパターニングを行なわなくても導電性の高い箇所と低い箇所を作り分けることができる。比較のためP3HT単体でもUVを照射したが、このような現象は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
有機EL素子、有機トランジスタ素子、光電変換素子等の有機エレクトロニクス、もしくはオプトエレクトロニクス分野でのウェットプロセスに対応する導電性有機薄膜を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の有機導電性薄膜を用いたトランジスタ素子の1例。
【図2】実施例1で得られた有機薄膜の吸収スペクトル図。
【図3】実施例3,4、実験例で用いた素子構造 (a)斜視図,(b)断面図。
【図4】実施例1で得られた電流−電圧特性図。
【図5】実施例2で得られた電流−電圧特性図。
【図6】実施例3で得られた電流−電圧特性図。 ( )内はZnSa溶液で用いた溶媒の混合比 (1−エトキシ2−プロパノール:クロロホルム)
【図7】実験例で得られたZnSa添加量に対する導電率変化図。
【図8】実施例4で得られたUV照射パワーに対する電流量変化図。
【符号の説明】
【0029】
1: シリコン基板、 2: 熱酸化膜、 3:半導体層、
4: 導電性有機薄膜 5:ソース電極 6:ドレイン電極
7:ITO電極 8:有機薄膜 9:金


【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合または接触することにより、前記P型有機半導体材料の導電性を向上させることを特徴とするP型有機半導体材料の改質方法。
【請求項2】
P型有機半導体材料とサリチル酸金属錯体を混合した溶液を塗布することにより得られ、その導電率が前記P型有機半導体の導電率よりも高いことを特徴とする有機薄膜。
【請求項3】
P型半導体薄膜にサリチル酸金属錯体を含む溶液を接触させることにより得られ、その導電率が前記P型有機半導体の導電率よりも高いことを特徴とする有機薄膜。
【請求項4】
P型半導体薄膜にサリチル酸金属錯体を含有させたことを特徴とする有機薄膜。
【請求項5】
請求項2乃至4に記載の有機薄膜を用いた半導体素子。
【請求項6】
請求項2乃至4に記載の有機薄膜をキャリア注入層として用いた半導体素子。
【請求項7】
請求項2乃至4に記載の有機薄膜にUV露光することにより、その導電性を制御することを特徴とする有機導電性薄膜の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−19673(P2006−19673A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−252839(P2004−252839)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】