説明

半導体装置及びその製造方法

【課題】はんだ直接付けとワイヤボンディングとを両立できるアルミ電極を半導体チップ上に具備した半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体チップ1に設けられたAl電極4上に生成したAl酸化皮膜5の適当な箇所に、該皮膜5を貫通してAl電極4まで届く微小金属11を形成させており、酸化物貫通微少金属を具備した一種類のAl電極をはんだ直接付け及びワイヤボンディング両用とすることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ上にAl電極を具備した半導体装置(半導体デバイス)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力制御やエネルギー変換等を行うパワーエレクトロニクス用のパワー素子として、たとえば図1に例示したように、半導体チップ1上にTi/W等の接合金属3を介して”表面”電極としてのAl電極4を作製したものが知られている。Al電極4に使われるAl金属は、低電気抵抗、高性能、AlとAuワイヤボンドが可能、及び低コストという優れた性能を有している。Al電極4の作製については、一般的に、真空中においてスパッタリング又は蒸着により、Si、SiC又はGaN等の半導体ウェハにTi/W、Crなどの接合・拡散バリヤ層を作製し、その上にスパッタリング又は蒸着方法によりAl電極4を作製する(非特許文献1、2参照)。一方、スパッタリング又は蒸着により、チップの”裏面”つまりダイボンド面には、Ni/Ag電極2が作製される。
【0003】
Al金属4は酸素との親和力が非常に高いので、常温でも空気中に曝露されると、たとえば図2aに例示したようにその表面に薄いAl酸化皮膜5が自然的に生成する。このAl酸化皮膜5は絶縁体であり、導電性がほぼない。そこで、たとえば図2bに例示したように、超音波又は熱圧接によりこのAl酸化皮膜5を破り、Al又はAuワイヤ6をその下のAl電極4(Al金属)と接合させて、導電性を得る。しかし、このAl酸化皮膜5ははんだとの濡れ性が不良で、ワイヤボンディングは可能であっても、はんだ接合は不可能である(非特許文献3参照)。
【0004】
そこで、従来、たとえば図3に例示したように、Ar等を用いたスパッタリングによりAl酸化皮膜5を除去し、半田付け性を持つTiN,NiCr等の金属を拡散バリヤ層7として蒸着する方法が採用されている。拡散バリヤ層7の上にはさらにAu酸化防止層8が形成される。
【0005】
また、たとえば図4に例示したように、亜鉛置換処理および無電解Ni(P)めっきによる方法も知られている。亜鉛置換処理では、Al酸化皮膜5がなくなり、Al電極4の表面に多くのZn粒子9が析出する。無電解Ni(P)めっきでは、Ni(P)層が析出する。
【0006】
しかしながら、これら従来の方法で処理したAl電極4は直接はんだ付けできるが、Alワイヤボンディングは困難である。そして、両方とも電極処理のプロセスが複雑になり、コストも上がる(非特許文献3−6参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Randall Kirschman, "High-Temperature Electronics", IEEE Press, NY, 1999, pp.734,740.
【非特許文献2】Jau-Jiun Chen, Soohhwan Jang, and F. Ren.et.al, “Comparison of Ti/Al/Pt/Au and Ti/Au/ Ohmic Contacts n-type ZnCdO”, Appl. Phys.Lett. 88 012109 (2006).
【非特許文献3】J. H. Lau,”Flip Chip Technologies”, McGraw-Hill, NY, 1995, pp.226.
【非特許文献4】John H. Lau, C. P. Wong, “Electronics Manufacturing with Lead-Free, Halogen-Free, and Conductive-Adhesive Materials", McGraw-Hill, NY, 2003, pp2.1-2.6.
【非特許文献5】Haijing Lu, Cheah Li Kang, Stephen C K Wong and Hao Gong,”Evaluation of Commercial Electroless Nickel Chemical for a Low Cost Wafer Bumping Process”, Semicond. Sci. Technol. 17 (2002) 911-917.
【非特許文献6】牧野 豊、渡辺 英二、児玉 邦夫、水越 正孝、山田 光孝、“無電解NiめっきUBM形成と実用性に関する検討”、第10回マイクロエレクトロニクスシンポジウム(MES’98)Dec. 1998、埼玉県大宮市。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、以上のとおりの事情に鑑み、本発明は、はんだ直接付けとワイヤボンディングとを両立できるアルミ電極を半導体チップ上に具備した半導体装置(半導体デバイス)を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の半導体装置は、半導体チップに設けられたAl電極上のAl酸化皮膜に、該皮膜を貫通してAl電極に届く微小金属を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、Al酸化皮膜に形成された貫通孔に微小金属が設けられていること、微小金属がAl電極を貫通すること、微小金属が、Al電極を貫通し、さらに半導体チップとAl電極との間に介在する接合金属を貫通すること、微小金属が、Al電極を貫通し、さらに半導体チップとAl電極との間に介在する接合金属を貫通し、そして半導体チップを貫通すること、微小金属が、不動態皮膜生成し難く、かつはんだと濡れ性がある金属であること、微小金属が、Au、Ag、Pt、Pd、またはNiであることなどを特徴とする。
【0011】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、半導体チップに設けられたAl電極上のAl酸化皮膜に、該皮膜を貫通してAl電極に届く微小金属を形成することを特徴とする。
【0012】
また、Al酸化皮膜に貫通孔を形成し、該貫通孔に微小金属を設けること、微小金属を含むAl酸化皮膜の表面にはんだを塗布すること、Al酸化皮膜の貫通孔にワイヤ形状の金属を埋め込むことにより、微小金属を形成すると同時にワイヤボンディングを行うことなどを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来の半導体装置の一例を示した図。
【図2】従来の半導体装置の一例を示した図。
【図3】従来のはんだ付けのための電極処理の一例について説明する図。
【図4】従来のはんだ付けのための電極処理の一例について説明する図。
【図5】本発明による半導体装置の一例を示した図。
【図6】本発明によるはんだ付けの一例について説明する図。
【図7】図6に続くはんだ付けの一例について説明する図。
【図8】微小金属の各種形態を示した図。
【図9】微小金属の作製方法の一例について説明する図。
【図10】図9に続く微小金属の作製方法の一例について説明する図。
【図11】図10に続く微小金属の作製方法の一例について説明する図。
【図12】微小金属の作製方法の一例について説明する図。
【図13】Al電極へのワイヤボンディングの一例について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図5は、本発明による一実施形態を示したものである。この実施形態では、Al電極4上に生成したAl酸化皮膜5の適当な箇所に、該皮膜を貫通してAl電極4まで届く微小金属11を形成させており、この微小金属11の存在により、後述するはんだ直接付け及びワイヤボンディングの両立が可能になる。すなわち、はんだ直接付け用のAl電極4、ワイヤボンディング用のAl電極4を別々に用意する必要がなく、酸化物貫通微小金属11を具備した一種類のAl電極4をはんだ直接付け及びワイヤボンディング両用とすることができる。
【0016】
図6および図7は、上記微小金属11の存在により可能となるはんだ直接付けについて説明する図である。微小金属11が形成されたAl電極4の表面全体にはんだ12を塗布し、リフローすると、はんだ12が微小金属11と反応して(図中13は微小金属原子)、さらにAl電極4のAlとも反応する(図6参照)。はんだ13とAl原子14との反応に伴い、Al酸化皮膜5が破壊されて、はんだ13が徐々に周囲へ広がっていく(図7参照)。この広がり速度は、リフロー温度が高いほど、またはんだ量が多くほど、早くなる。これにより、Al電極4へのはんだ直接付けが実現し、たとえば半導体チップ1上に、セラミックス基板の表裏面に銅板が張り合わされたDBC基板15を良好にはんだ接合することができるようになる。
【0017】
微小金属11については、図8に例示したように、様々な形状や貫通方法がある。たとえば、左枠内に例示したように、微小金属11を、Al酸化皮膜5に設けられた貫通孔16内にてAl酸化皮膜5の表面と面一となるように埋める形態(上段図)、貫通孔16内のある程度の高さまで埋め込む形態(中段図)、逆にAl酸化皮膜5の表面から突出するように形成される形態(下段図)が考えられる。これらの形態では、微小金属11の直径は貫通孔16の直径と等しくなるように設けられる。
【0018】
また、微小金属11の高さがAl酸化皮膜5の高さと等しい、あるいはそれより低い又は高い場合のいずれにおいても、同図右枠内に例示したように、貫通孔16を覆う構造(上段図)、貫通孔16の直径よりも小さな直径を持つ構造(下段図)も可能である。
【0019】
また、微小金属11の直径が貫通孔16の直径より小さい又は等しい場合であっても、微小金属11の高さがAl酸化皮膜5の厚さと等しい、あるいは低い又は高い場合であっても、同図下枠内に例示したように、貫通孔16をAl酸化皮膜5からさらにAl電極4をも貫通させる形状とさてもよい。たとえば、Al電極4の途中まで貫通させる形態(左端図)、Al電極4を全て貫通してその下の接合金属3まで届く形態(左中央図)、接合金属3をも貫通して半導体チップ1の表面まで届く形態(右中央図)、そしてさらに半導体チップ1をもある程度貫通する形態(右端図)などが考えられる。
【0020】
なお、接合金属3については、Ti−Wの他に、Ti,Ti−W,Ti−Pd,Ti−Pt,Cr,Cr−Cu,Cr−Cu−Au,Ni,Ni−Cu,Ni−Au,TiW−Cu,Ti−V−Cuなども採用できる。
【0021】
以上のとおりの微小金属11は、たとえば図9〜10に例示したような方法により作製することができる。
【0022】
まず、図9に例示したように、Al酸化皮膜5の表面全体を覆うようにフォトレジスト17を塗布し、フォトリソグラフィによって貫通孔16を形成させたい位置および形状パターンにフォトレジスト17を露光、現像する。続いて、Ar+イオンミリングやRIE(塩素系ガス)エッチングなどのドライエッチング、あるいはアルカリNaOH、KOH、酸等のウェットエッチングにより、Al酸化皮膜5に貫通孔16を形成する。次に、図10に例示したように、スパッタリングや蒸着などの真空蒸着、あるいはめっきにより、貫通孔16内に微小金属11を埋め込む、後は図11に例示したように、アセトンなどの有機溶剤等を用いたリフトオフにより、フォトレジストを除去する。以上により、Al酸化皮膜5を貫通してAl電極4に届く微小金属11を作製することができる。
【0023】
また、プラズマエッチング及びプラズマスパッタリングを利用して微小金属11を作製することもできる。具体的には、例えば、アルゴンプラズマにより、所望形状及び寸法の孔を持つメタルマスクを介してAl酸化皮膜5をエッチングして貫通孔16を形成し、アルゴンプラズマ雰囲気下で貫通孔16にAgを蒸着する。
【0024】
その他、たとえば図12に例示したように、加熱及び圧接によって、Al酸化皮膜5を破って微小金属11を打ち込むちという方法も考えられる。また超音波によっても、Al酸化皮膜5に微小金属11を埋め込むことができる。
【0025】
以上の微小金属11の材料は、不動態皮膜生成し難く、かつはんだと濡れ性がある金属材料が好ましく、たとえばAu,Ag、Pt、Pd、Niなどを用いることができる。
【0026】
ワイヤボンディングについては、たとえば図13に例示したように、超音波などによって、Auワイヤ6(ワイヤ形状の金属)をAl電極4に直接埋め込むことによって、微小金属11の形成と同時にワイヤボンディングを実現することができる。
【0027】
ここで、実際にプラズマエッチング(アルゴンプラズマ〜0.5Pa Ar、エッチング時間約10分)及びプラズマスパッタリング(アルゴンプラズマ雰囲気)によりAg微小金属を形成後、Au−Sn共晶はんだを塗布して、窒素リフローを行った場合の接合強度評価及び破面分析を行った。その結果、Ag微小金属とAl電極との界面での良好な接合が確認された。また、Al電極とはんだとの接合強度についても50MPa以上が得られた。
【0028】
リフローについては、リフロー時にはんだが微小金属の部分からAl電極と反応して、Al原子がはんだに固溶しており、リフロー温度が高いほどはんだとAl電極との反応速度が速くなり、一方リフロー温度が一定の場合ははんだの接合面積がはんだ量の増加に伴い増加した。
【符号の説明】
【0029】
1 半導体チップ
2 Ni/Ag電極
3 接合金属
4 Al電極
5 Al酸化皮膜
6 ワイヤ
7 拡散バリヤ層
8 Au酸化防止層
9 Zn粒子
10 Ni(P)層
11 微小金属
12 はんだ
13 微小金属原子
14 Al原子
15 DBC基板
16 貫通孔
17 フォトレジスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体チップに設けられたAl電極上のAl酸化皮膜に、該皮膜を貫通して微小金属を備えた、半導体装置。
【請求項2】
Al酸化皮膜に形成された貫通孔に微小金属が設けられている、請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
微小金属がAl電極を貫通する、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項4】
微小金属が、Al電極を貫通し、さらに半導体チップとAl電極との間に介在する接合金属を貫通する、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項5】
微小金属が、Al電極を貫通し、さらに半導体チップとAl電極との間に介在する接合金属を貫通し、そして半導体チップを貫通する、請求項1または2記載の半導体装置。
【請求項6】
微小金属が、不動態皮膜生成し難く、かつはんだと濡れ性がある金属である、請求項1ないし5のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項7】
微小金属が、Au、Ag、Pt、Pd、またはNiである、請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
半導体チップに設けられたAl電極上のAl酸化皮膜に、該皮膜を貫通してAl電極に届く微小金属を形成する、半導体装置の製造方法。
【請求項9】
Al酸化皮膜に貫通孔を形成し、該貫通孔に微小金属を設ける、請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
微小金属を含むAl酸化皮膜の表面にはんだを塗布する、請求項8または9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
Al酸化皮膜の貫通孔にワイヤ形状の金属を埋め込むことにより、微小金属を形成すると同時にワイヤボンディングを行う、請求項8または9記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−171421(P2010−171421A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295970(P2009−295970)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発/高効率・高密度インバータ革新的高度化基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】