説明

単位共振子、単位共振子の調整方法、共振器、発振回路、発振器、送受信回路

【課題】加工後に周波数を調整できる単位共振子、単位共振子の調整方法、共振器、発振器、送受信回路を提供する。
【解決手段】基板と、固有の共振周波数で共振する振動部3と、振動部3において共振時に節領域となる位置を、振動部3の一方の側及び他方の側から支える支持部4a,4bと、支持部4a,4bを基板に固定する固定部5と、振動部3と支持部4a,4bとの接続部に印加される圧力を制御する圧力制御機構とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的な共振を利用した単位共振子、単位共振子の調整方法、そして、この単位共振子を用いた共振器、発振回路、発振器、及び発振回路を備えた送受信回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の軽少短薄化を実現するために、電子機器内部の電子素子を小型化、軽量化するための技術開発が続けられている。例えば電子機器の機器内部の回路をICチップ化することが、一般的かつ効果的な手法として用いられている。そして、薄型TVや携帯電話の内部回路で見られるように、多くのICを利用して回路規模を縮小化することが実現されている。
【0003】
しかし、電子機器の中にはIC化が実現されていない回路があり、それらは電子機器の小型化にとっての足枷となっている。例えば、IF帯フィルターや高精度発振器といった電気−機械エネルギー変換を利用するRF部品は、物理サイズや材料選択範囲が要因となって、その機能をSi基板上に形成したICにすることはできていない。これまでに加工技術や実装技術の発展による小型化が進んでいるものの、市場のニーズに応えるほどではなく、高度に集積化されたLSIやICの外付け部品として、基板上で大きな場所を占めている。
【0004】
これに対して、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術が、部品サイズを一気に小型化薄化できるブレークスルー技術として注目されている。このMEMS技術を用いたMEMS発振器やMEMSフィルターの特徴は、既存の半導体プロセスを基本とした製造ラインで量産可能であることや、MEMS製品は通常のSiチップと同じ形態にできることである。よってMEMS製品は、現行のフィルターや発振器に比較して圧倒的な小型薄化が可能となり、電子機器の小型化に貢献することが期待されている。
【0005】
以下の非特許文献1によって、MEMSフィルターや発振器の基本構成要素であるMEMS共振器の従来技術を説明する。
図30は非特許文献1に記載された、共振器の概略平面構成を示している。図30Aに示す共振器は、共振する振動部(いわゆるビーム)103と、振動部103を支え、かつ共振時の節の位置を決める支持部104と、支持部104を図示しない基板に固定する固定部105と、電気信号と振動部103の共振間のエネルギーを受け渡す場所となる入力電極108、出力電極109とから構成される。振動部103には、所要のDCバイアス電圧Vpが印加される。振動部103は入力側(紙面下側)の入力電極108に印加された入力信号Viの中の共振周波数にのみ感応し、図30Bに示すように振動部103と入力電極108間の静電気力によって共振運動する。同時に出力側(紙面上)の出力電極109には共振周波数の信号のみが透過していくので、当該共振器は電気信号から機械共振、機械共振から電気信号の順でエネルギーを変換しつつ、共振周波数のみを透過する電気素子である。ここで共振周波数は振動部103の長さ、幅、厚み、支持部104の間隔、そして、振動部103の材料であるSiの物性から定まる。このような共振器では、電気的には、図30Cに示すような、抵抗Rx、コンデンサCx、コイルLxが直列接続された直列共振回路が等価回路となる。
【0006】
【非特許文献1】T.C.Nguyen at el.”Higher-Mode Free-Free Beam Micromechanical Resonator,” IEEE International Frequency Control Symposium, pp. 810-818,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のような非特許文献1に示された共振器は、MEMSフィルターも発振器も桁違いに小型化できる他、現状品と同等以上の特性を提供できる技術である。しかし、小型であることと、高い周波数精度を有することを両立させるための技術が確立されていない。
【0008】
例えばppmレベルの範囲で発振周波数を提供している水晶発振器では、水晶振動子に電極を形成した後、実際に共振周波数を計測しつつ振動子表面の電極膜を薄く削ることで周波数を調整し、高い周波数精度を達成する。MEMS共振器にも同様の工程を用いたいが、外形がmm単位の水晶では可能でも、外形が数μmのMEMS共振子素子を加工するような技術は確立されていない。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑み、加工後に周波数を調整できる単位共振子、単位共振子の調整方法、共振器、発振回路、発振器、送受信回路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の単位共振子は、基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、振動部において共振時に節領域となる位置を、振動部の一方の側及び他方の側から支える支持部と、支持部を前記基板に固定する固定部と、振動部と支持部との接続部に印加される圧力を制御する圧力制御機構とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の単位共振子では、振動部は、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支持部に支持されることにより、振動方向と交差する方向に支持部からの圧力が振動部に印加されている。そして、圧力制御機構により、この振動部に振動方向と交差する方向から接続部に印加される圧力が制御される。これにより共振周波数が調整される。
【0012】
また、本発明の単位共振子の調整方法は、基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、振動部を支える、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支持部と、支持部を基板に固定する固定部とから構成される単位共振子の、支持部と振動部との接続部に印加する圧力を制御することにより、振動部の有効質量を変化させ、共振周波数を調整することを特徴とする。
【0013】
本発明の単位共振子の調整方法では、支持部と振動部との接続部に印加する圧力を制御することにより、振動部において、振動に寄与する振動部の体積が変化し、振動部の有効質量が変化する。これにより、共振周波数が調整される。
【0014】
また、本発明の共振器は、基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、振動部を振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、支持部を前記基板に固定する固定部と、振動部と支持部との接続部に印加される圧力を制御する圧力制御機構とを有する複数個の単位共振子から構成されることを特徴とする。
【0015】
本発明の共振器では、共振器を構成する単位共振子において、振動部は、振動方向と交差する方向から支持部により支持される。そして、圧力制御機構により、この振動部の振動方向と交差する方向から接続部に印加される圧力が制御される。これにより、共振器の共振周波数が調整される。
【0016】
また、本発明の発振回路は、基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、支持部を前記基板に固定する固定部とからなり、振動部と支持部との接続部に印加される圧力を制御することにより共振周波数を調整する単位共振子から構成される共振器を用いて構成されることを特徴とする。
【0017】
本発明の発振回路では、発振回路に組み込まれる共振器において、共振周波数の調整が精度良くなされる。
【0018】
また、本発明の送受信回路では、周波数変換のための発振回路を有する送受信回路において、発振回路は、基板と固有の共振周波数で共振する振動部と、振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、支持部を基板に固定する固定部とからなり、振動部と支持部との接続部に印加される圧力が制御されることにより共振周波数を調整する単位共振子から構成される共振器から構成されることを特徴とする。
【0019】
本発明の送受信回路では、送受信回路の発振回路に組み込まれた共振器が、圧力制御機構により、共振周波数を調整される構成を有しているので、送受信回路に組み込まれた状態においても、共振器の共振周波数が調整される。これにより、周波数精度が向上した送受信回路が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、単位共振子及び共振器の共振周波数を高精度に調整することができ、さらに、発振器、発信回路、及び送受信回路に組み込んだ後に、共振周波数の調整が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1〜図29を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
まず、図1〜図4を用いて、本発明の原理を説明する。図1Aに後述する実施の形態が適用される共振器の概略構成図を示し、図1Bには、図1Aの共振器を構成する単位共振子を示す。また、図2に、図1BにおけるA−A線上に沿った断面構成を示す。後述する実施の形態で対象とする共振器は、マイクロスケール、ナノスケールの微小共振器である。図1に示す共振器1は、MEMS技術により形成される共振器である。
【0023】
まず、共振器1を構成する単位共振子2は、図2に示すように、基板6と、固有の共振周波数で共振する振動部3と、前記振動部3において共振時に節領域となる位置を、振動部3の両側から、およそ対称的に支える支持部4a,4bと、振動部3と空間7を介して交差するように基板6上に固定された入力電極8及び出力電極9とから構成される。基板6は、少なくとも下部電極9が形成される表面が絶縁性を有した基板で形成される。例えば半導体基板上に絶縁膜が形成された基板、絶縁性のガラス基板などが用いられる。
【0024】
この複数の単位共振子2が閉じた形状に配列され、かつ互いに隣接する単位共振子2の振動部3が連続して一体に形成されることにより、図1に示す共振器1が構成される。
そして、並列内の全ての単位共振子2は閉じた系の中心に対して点対称になるように、例えば円形をなす環状に配置される。この場合、閉じた形状の連続一体化された振動部3は、図1Aに示すように、円形をなす環状に形成される。
【0025】
各単位共振子2により環状に形成された共振器1においては、各単位共振子2の入力電極8は、円形の振動部3の内側に形成した同心円状の配線(いわゆる入力電極と共に入力信号線となる)10に接続される。各単位共振子2の出力電極8は、円形の振動部3の外側に形成した同心円状の配線(いわゆる出力電極と共に入力信号線となる)11に接続される。このとき、入力電極8の配線10を外側に形成してもよいし、出力電極9の配線11を内側に形成してもよい。
そして、入力側の同心円状の配線10から内側に延長するように、電極パッドいわゆる入力端子t1が導出され、出力側の同心円状の配線11から外側に延長するように、電極パッド、いわゆる出力端子t2が導出される。
【0026】
このような、共振器1において、入力端子t1から入力された交流信号により、直流バイアス電圧Vが印加された振動部3が、静電気力により外力を受ける。そして、振動部3は固有の共振周波数で振動する。振動部3において、振動部3を介して対向する支持部4a,4b間に位置する振動部3は、振動部3の共振時に節領域となる。また、この単位共振子2は2次モードのたわみ振動を利用したものである。複数の単位共振子2は、振動部3における振動の腹、節が交互に並ぶように、円形に配列される。
【0027】
図1に示す共振器1では、複数の単位共振子2が環状に配置されて構成されるので、並列化された共振器1全体と、単位共振子2との位置関係は、全ての単位共振子2において等しくなり、単位共振子2の構造的なばらつきが発生しがたい。また、各単位共振子2の振動部3にかかる応力も全て等しくなる。従って、個々の単位共振子2の特性のばらつきが抑えられ、並列化に伴うQ値の低下を抑えることができる。そして、共振器1において、個々の単位共振子2と同等のQ値を得ることができる。
【0028】
ところで、図1に示す共振器1において、共振器1の加工後において、共振周波数を調整したいという要望がある。本発明者らの鋭意検討の結果、図3に示すように、支持部4a,4bと振動部5とのそれぞれの接続部12に圧力を印加するという方法が見いだされた。
【0029】
図3に、単位共振子2の振動部3が支持部4a,4bにより支持された部分を拡大して示す。振動部3の両側から支持部4a,4bに支持されている振動部3の領域は、節領域となる。振動の節は、図3に示す振動部3と支持部4a,4bが接続するそれぞれの接続部12近傍に広がり、共振時に殆ど振動しない(共振運動に寄与しない)領域である。この振動部12の領域の体積は支持部4a,4bの特性の影響を大きく受け、例えば支持部4a,4bを硬く、かつ、振動部3との接触面積を広く設計すると節領域を大きく取ることができる。
【0030】
本願発明者らは、接続部12を経由して振動部3に印加する支持部4a,4bからの圧力の増減で、共振周波数が増減する物理現象に着目した。
以下の説明において、支持部4a,4bが振動部3を押す力を正の圧力、振動部3が支持部4a,4bに引っ張られる力を負の圧力と定義する。この定義により、接続部が正の圧力を受ける時には共振周波数は上昇し、逆に負の圧力(=引張り)を受けるときには共振周波数は下降する。加圧によって支持部4a,4bに両側から支持された振動部3の節領域の体積が変化し、それに起因して、共振運動に寄与する振動部3の有効質量mが増減することが、この周波数変動の原理である。
【0031】
共振周波数frは、図2に示した共振器1の単位共振子2の励振する共振モードの有効質量mとバネ定数kにより、以下の数1で示される。
【0032】
【数1】

【0033】
ここで、αは、単位共振子の構造と励振した共振のモードによって決まる定数である。
数1によれば、振動部3のバネ定数kは、接続部12に印加される圧力に比例して増大する。理想的な有効質量は、振動部3の密度ρ、長さ、幅、そして厚みから計算されるが、実際の共振運動には振動の節と呼ばれる領域が発生するために、計算値よりも小さい値に定まる。
【0034】
上述した、接続部12に印加される圧力と振動部3の有効質量mの関係と、数1に示される関係から、接続部3に印加される圧力と、共振周波数frの関係は、図4に示すようになる。すなわち、接続部12に印加される圧力に比例して共振周波数frが大きくなる。また、接続部に印加される正の圧力と、有効質量mは反比例の関係にあるので、接続部に印加される正の圧力が大きくなると、振動に寄与する振動部3の有効質量mは減少する関係にある。
【0035】
以下に示す実施の形態においては、この原理をもとに、支持部4a,4bと振動部3に接続部12に圧力を印加するための具体的構成を示す。
【0036】
[第1の実施形態]
図5に、本発明の第1の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図5A,Bは、図2と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図5A,Bにおいて、図1,2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0037】
図5Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4bに対向する基板6面上に電極13が配置されている。そして、この電極13は、電圧制御回路14に接続されている。この電極13と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4bは、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極13とは異なる任意の電位に制御される。
【0038】
図5Aは、電極13に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態である。この初期状態から、電圧制御回路14により、電極13に所望の電圧を供給し、電極13と支持部4a,4b間に電位差を加える。そうすると、支持部4a,4bと、電極13との間に静電引力が発生し、支持部4a,4bがそれぞれ電極13側に引き寄せられる。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3も、図5Bに示すように基板6側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図5Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0039】
このように、電極13と支持部4a,4b間に電位差を加えることで、静電引力により支持部4a,4bを変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0040】
図6に、本実施形態例の単位共振子において、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力に対する共振周波数の関係を示す。図6において、図5Aの初期状態をAで示すと、図5Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される正の圧力が減少するので、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
このように、振動部3の振動方向と交差する方向において、正の圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から電極13に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0041】
[第2の実施形態]
図7に、本発明の第2の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図7A,BCも、図5と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図7A,B,Cにおいて、図2,5に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0042】
図7Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4bに対向する基板面上に、それぞれ複数の電極、本実施形態例では4つの電極15が、固定部5から振動部3方向に順に配置されている。そして、この両側4つずつの電極15は、電圧制御回路14に接続されている。この複数の電極15と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4bは、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極15とは独立に電位を制御する回路を有している。図7においても、支持部4a,4bの電位を制御する回路の図示は省略する。
【0043】
図7Aは、全ての電極15に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態である。この初期状態から、図7Bに示すように、電圧制御回路14により、一部の電極15に所望の電圧を供給し、その電圧が供給された電極15と支持部4a,4b間に電位差を加える。図7Bに示す図においては、それぞれの固定部5側から2つの電極15に電圧が供給されている例とする。そうすると、支持部4a,4bと、電圧が供給された電極15との間に静電引力が発生し、支持部4a,4bが電極15側に引き寄せられる。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3も、図7Bに示すように基板6側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図7Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3には、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0044】
次に、両側4つずつの電極15の全てに電圧を印加し、全ての電極15と支持部4a,4b間に電位差を加える。そうすると、図7Cに示すように、両側4つずつの電極15と、それぞれの支持部4a,4bとの間に、図7Bに示した例よりも大きな静電引力が発生し、支持部4a,4bが電極15側に引き寄せられる。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3も、図7Cに示すように基板6側に引き寄せられる。そして、図7Cに示す例においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部に、矢印p1で示す方向に、図7Bに示す例よりも大きな圧力が印加される。すなわち、振動部3には、両側の支持部4a,4bから、図7Bに示す例よりも絶対値の大きい負の圧力を受け、振動部3の有効質量がさらに増加する。
【0045】
図8に、本実施形態例の単位共振子において、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力に対する共振周波数の関係を示す。図8において、図7Aの初期状態をAで示すと、図7Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が減少するので、振動部3の有効質量が増加し、図8のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。さらに、図7Cにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が、図7Bに示す状態よりも減少するので、振動部3の有効質量がさらに増加し、図8のCに示すように、共振周波数frもさらに減少する。
【0046】
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の励振する共振モードの有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から、供給される電極15の個数を調整することで、接続部に印加される圧力を調整することができ、それに伴って、共振周波数frを調整することができる。
【0047】
本実施形態例においては、例として、両側に4つずつの電極15を配置する構成としたが、電極15の数は4つに限られるものではなく、必要に応じて、電極15の数を複数個に増やすことができる。また、図7Bに示すように、複数の電極のうち一部分の電極に電圧を印加する場合は、振動部3と支持部4a,4bとの接続部に同一の圧力が印加されるようにするため、振動部3に対して対称な位置の電極に、同じ電圧を印加すればよい。
【0048】
本実施形態例によれば、電極に供給する印加電圧の大きさによって、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる他、電圧を印加する電極を選択することで、静電引力を制御することもできる。選択する電極の数を増やすことで静電引力を強くすることができるほか、選択した電極の組合せによっても静電引力を微調整することができる。電圧の大きさ制御との組合せすればさらに精細に静電引力を調整することが可能となり、高精度に周波数を調整することができる。
【0049】
[第3の実施形態例]
図9に、本発明の第3の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図9A,Bは、図2と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図9A,Bにおいて、図1,2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0050】
図9Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4bの上部であって、基板6側とは反対側の対向する位置に、支持部4a,4bと空間を介して電極17が配置されている。そして、この電極17は、電圧制御回路14に接続されている。電極17は、例えば、単位共振子を気密に封止するために設けられる上部基板となる封止膜16に固定されて、形成される。この電極17と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4bは、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極17とは独立に電位を制御する回路を有している。図9においては、支持部4a,4bの電位を制御する回路の図示は省略する。
【0051】
図9Aは、電極17に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態の単位共振子の状態を示している。この初期状態から、電圧制御回路14により、電極17に所望の電圧を供給し、電極17と支持部4間に電位差を加える。そうすると、支持部4a,4bと、電極17との間に静電引力が発生し、支持部4a,4bが電極17側に引き寄せられる。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3も、図9Bに示すように基板6側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図9Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。そして、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0052】
このように、電極17と同支持部4a,4b間に電位差を加えることで、静電引力により支持部4a,4bを変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0053】
本実施形態例においても、図6において、図9Aの初期状態をAで示すと、図9Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が減少するので、接続部に印加される圧力が減少し、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
【0054】
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。また、本実施形態例においても、電圧制御回路14から電極17に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0055】
本実施形態例においては、電極17は、封止膜16に形成される例としたが、これに限られるものでは無く、支持部4a,4bに対向する位置であって、基板6とは反対側の位置に形成される別の上部基板に構成することもできる。封止膜16は、振動部3を気密に保持するために必ず設けられるものであるから、本実施形態例のように、封止膜16に電極17を形成する場合は、工程数を増やすことなく電極を設けることができる。
【0056】
また、本実施形態例によれば、電極17を基板6とは反対側に構成することにより、電極17が、図1に示す入力電極8、出力電極9から距離的に離れた位置となるので、ノイズの低減が図られる。
【0057】
[第4の実施形態]
図10に、本発明の第4の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図10A,Bは、図2と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図10A,Bにおいて、図1,2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0058】
図10Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、両側の固定部5に対向する基板6面上の外側に偏った位置にそれぞれ電極18が配置されている。そして、この電極18は、電圧制御回路14に接続されている。この電極18と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、固定部5は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極18とは異なる任意の電位に制御される。図10においては、固定部5の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0059】
図10Aは、電極18に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態の単位共振子を示している。この初期状態から、電圧制御回路14により、電極18に所望の電圧を供給し、電極18と固定部5間に電位差を加える。そうすると、固定部5と、電極18との間に静電引力が発生し、固定部5が、矢印p2で示されるように電極13側に引き寄せられて変形する。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3は、図10Bに示すように支持部4a,4bに引張られる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図10Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0060】
このように、電極18とそれぞれの固定部5との間に電位差を加えることで、静電引力により固定部5を変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0061】
本実施形態例においても、図6に示すように、図10Aの初期状態をAで示すと、図10Bにおける状態は、接続部に負の圧力がかかるように、支持部4a,4bが振動部3を引っ張るので、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から電極13に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0062】
また、固定部5に対向する基板6上に電極18を形成することにより、電極18が、図1に示す入力電極8、出力電極9から距離的に離れた位置となるので、ノイズの低減が図られ、さらに、印加される圧力の制御範囲を大きくすることができる。これは、バイアス線と信号線との間のカップリングが減ることで、バイアス信号に乗っているノイズの影響が減ることによるものである。ノイズのカップリングの大きさは、線間距離の2乗ないしは3乗に比例して強くなるものである。したがてって、本実施形態例のように、固定部5の下に電極18を配置することは、低ノイズ化に有利となる。
【0063】
[第5の実施形態]
図11に、本発明の第5の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図11A,Bも、図5と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図11A,Bにおいて、図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0064】
図11Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、それぞれの固定部5に対向する基板6面上の外側に偏った位置に、電極19がそれぞれ3つずつ配置されている。そして、この両側3つずつの電極19は、電圧制御回路14に接続されている。この複数の電極19と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、固定部5は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極19とは独立に電位を制御する回路を有している。図11においても、固定部5の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0065】
図11Aは、全ての電極15に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態の単位共振子を示している。この初期状態から、図11Bに示すように、電圧制御回路14により、電極15に所望の電圧を供給し、電極15と固定部5間に電位差を加える。図11Bに示す図においては、3つの電極19全てに電圧が供給されている例とする。そうすると、それぞれの固定部5と、電圧が供給された電極15との間に静電引力が発生し、固定部5が矢印p2で示す電極19側に変形する。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3は、図11Bに示すように支持部4a,4bに引っ張られる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図11Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0066】
このように、電極19とそれぞれの固定部5との間に電位差を加えることで、静電引力により固定部5を変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0067】
本実施形態例においても、図6に示すように、図11Aの初期状態をAで示すと、図11Bにおける状態は、接続部に負の圧力がかかるように、支持部4a,4bが振動部3を引っ張るので、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から電極13に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0068】
さらに、本実施形態例によれば、電極に供給する印加電圧の大きさによって、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる他、電圧を印加する電極を選択することで、静電引力を制御することもできる。本実施形態例においては、図11Bのように、3つの電極19全てに電圧を印加した例を示したが、選択する電極の数を変えることで静電引力を変えることができるほか、選択した電極の組合せによっても静電引力を微調整することができる。電圧の大きさ制御との組合せすればさらに精細に静電引力を調整することが可能となり、高精度に周波数を調整することができる。
【0069】
本実施形態例においては、例として、両側に3つずつの電極19を配置する構成としたが、電極の数は3つに限られるものではなく、必要に応じて、電極15の数を複数個に増やすことができる。また、固定部5に対向する基板6上に電極19を形成することにより、電極19が、図1に示す入力電極8、出力電極9から距離的に離れた位置となるので、ノイズの低減が図られ、さらに、印加される圧力の制御範囲を大きくすることができる。
【0070】
[第6の実施形態]
図12に、本発明の第6の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図12A,B,Cも、図5と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図12A,B,Cにおいて、図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0071】
図12Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、それぞれの固定部5に対向する基板6面上に、電極20がそれぞれ複数、本例では4つずつ配置されている。そして、この両側4つずつ形成された電極20は、電圧制御回路14に接続されている。この複数の電極20と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、固定部5は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極20とは独立に電位を制御する回路を有している。図12においても、固定部5の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0072】
図12Bは、全ての電極20に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態の単位共振子を示している。この初期状態から、図12Aに示すように、電圧制御回路14により、4つの電極20のうち、振動部3側に偏った位置にある2つの電極20に所望の電圧を供給し、電極20と固定部5間に電位差を加える。そうすると、それぞれの固定部5と、電圧が供給された電極20との間に静電引力が発生し、固定部5が電圧が供給された電極20側、すなわち、振動部3側に引き寄せられて変形する。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3は、図12Aに示すように支持部4a,4bから正の圧力を受ける。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図12Aの矢印p3で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから正の圧力を受け、振動部3の有効質量が減少する。
【0073】
次に、図12Cに示すように、電圧制御回路14により、4つの電極20のうち、振動部3から離れた外側に偏った位置にある2つの電極20に所望の電圧を供給し、電極20と固定部5間に電位差を加える。そうすると、それぞれの固定部5と、電圧が供給された電極20との間に静電引力が発生し、固定部5は電圧が供給された電極20側に引き寄せられて変形する。このとき、電圧が印加された電極20は、外側であるから、固定部5は、振動部3に対して反対側に引き寄せられるように変形する。これに起因して、支持部4a,4bに支持された振動部3は、図12Cに示すように支持部4a,4bから負の圧力を受ける。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図12Cの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0074】
このように、電極20とそれぞれの固定部5との間に電位差を加えることで、静電引力により固定部5を変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0075】
本実施形態例の単位共振子においても、図8において、図12Bの初期状態をBで示すと、図12Aにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が、図12Bの状態よりも増加するので、振動部3の有効質量が減少し、図8のAで示すように、共振周波数frは増加する。さらに、図12Cにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が、図12Bに示す状態よりも増加するので、振動部3の有効質量がさらに増加し、図8のCに示すように、共振周波数frが減少する。
【0076】
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から、供給される電極20の選択位置を調整することで、接続部に印加される圧力を調整することができ、それに伴って、共振周波数frを調整することができる。
【0077】
本実施形態例においては、例として、両側に4つずつの電極20を配置する構成としたが、4つに限られるものではなく、必要に応じて、電極20の数を複数個に増やすことができる。
さらに、本実施形態例によれば、電極に供給する印加電圧の大きさによって、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる他、電圧を印加する電極を選択することで、静電引力を制御することもできる。また、選択する電極の数や位置を変えることで静電引力を変えることができるほか、選択した電極の組合せによっても静電引力を微調整することができる。電圧の大きさ制御との組合せすればさらに精細に静電引力を調整することが可能となり、高精度に周波数を調整することができる。
【0078】
また、固定部5に対向する基板6上に電極18を形成することにより、電極20が、図1に示す入力電極8、出力電極9から距離的に離れた位置となるので、ノイズの低減が図られ、さらに、印加される圧力の制御範囲を大きくすることができる。
【0079】
[第7の実施形態]
図13に、本発明の第7の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図13A,Bは、図2と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図13A,Bにおいて、図1,2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0080】
図13Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4b及び振動部3に対向する基板6面上に電極21が配置されている。そして、この電極21は、電圧制御回路14に接続されている。この電極21と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4b、振動部3は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極21とは独立に電位を制御する回路を有している。図13においては、支持部4a,4b及び振動部3の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0081】
図13Aは、電極21に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態である。この初期状態から、電圧制御回路14により、電極21に所望の電圧を供給し、電極21と、支持部4a,4b、及び振動部3との間に電位差を加える。そうすると、支持部4a,4b及び振動部3と、電極13との間に静電引力が発生し、支持部4a,4b及び振動部3が電極21側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図13Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0082】
このように、電極21と支持部4a,4b、及び振動部3との間に電位差を加えることで、静電引力により支持部4a,4b、及び振動部3を変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0083】
本実施形態例においても、図6に示すように、図13Aの初期状態をAで示すと、図13Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が減少するので、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から電極21に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0084】
[第8の実施形態]
図14に、本発明の第8の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図14A,B,Cも、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図14A,B,Cにおいて、図2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0085】
図14Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4b及び振動部3に対向する基板6面上に複数、例えば7つの電極22が、等間隔に配置されている。そして、この7つの電極22は、電圧制御回路14に接続されている。この複数の電極22と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4b及び振動部3は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極22とは独立に電位を制御する回路を有している。図12においても、支持部4a,4b及び振動部3の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0086】
図14Aは、全ての電極22に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態である。この初期状態から、図14Bに示すように、電圧制御回路14により、一部の電極22に所望の電圧を供給し、その電圧が供給された電極22と支持部4a,4b,及び振動部3との間に電位差を加える。図14Bに示す図においては、それぞれの固定部5側、すなわち外側から3つの電極22に電圧が供給されている例とする。そうすると、支持部4a,4b及び振動部3と、電圧が供給された電極22との間に静電引力が発生し、支持部4a,4b及び振動部3が電極22側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図14Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。すなわち、振動部3には、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0087】
次に、7つの電極11の全てに電圧を印加し、全ての電極11と支持部4a,4b間に電位差を加える。そうすると、図14Cに示すように、7つの電極22と、それぞれの支持部4a,4b及び振動部3との間に、図14Bに示した例よりも大きな静電引力が発生し、支持部4a,4b及び振動部3が電極15側に引き寄せられる。そして、図14Cに示す例においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部に、矢印p1で示す方向に、図14Bに示す例よりも大きな圧力が印加される。すなわち、振動部3には、両側の支持部4a,4bから、図14Bに示す例よりも絶対値の大きい負の圧力を受け、振動部3の有効質量がさらに増加する。
【0088】
本実施形態例においては、図8に示すように、図14Aの初期状態をAで示すと、図14Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が減少するので、振動部3の有効質量が増加し、図8のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。さらに、図14Cにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が、図14Bに示す状態よりも減少するので、振動部3の有効質量がさらに増加し、図8のCに示すように、共振周波数frもさらに減少する。
【0089】
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。そして、電圧制御回路14から、供給される電極22の個数を調整することで、接続部に印加される圧力を調整することができ、それに伴って、共振周波数frを調整することができる。
【0090】
本実施形態例においては、例として、両7つの電極15を配置する構成としたが、7つに限られるものではなく、必要に応じて、電極22の数を複数個に増やすことができる。また、図14Bに示すように、複数の電極のうち一部分の電極に電圧を印加する場合は、振動部3と支持部4a,4bとの接続部に同一の圧力が印加されるように、振動部に対して対称な位置の電極に、同じ電圧を印加する。
【0091】
本実施形態例によれば、電極に供給する印加電圧の大きさによって、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる他、電圧を印加する電極を選択することで、静電引力を制御することもできる。選択する電極の数を増やすことで静電引力を強くすることができるほか、選択した電極の組合せによっても静電引力を微調整することができる。電圧の大きさ制御との組合せすればさらに精細に静電引力を調整することが可能となり、高精度に周波数を調整することができる。
【0092】
[第9の実施形態]
図15に、本発明の第9の実施形態に係る単位共振子の概略断面構成を示す。図15A,Bは、図2と同様に、図1の共振器1におけるA−A線上に沿った断面図であり、図2で示す単位共振子2の一部を変形したものである。図15A,Bにおいて、図1,2に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0093】
図15Aに示すように、本実施形態例の単位共振子においては、支持部4a,4b及び振動部3の上部であって、基板6側とは反対側の対向する位置に、支持部4a,4b及び振動部3と空間を介して電極24が配置されている。そして、この電極24は、電圧制御回路14に接続されている。電極24は、例えば、単位共振子を気密に封止するために設けられる封止膜23に固定されて形成される。この電極24と電圧制御回路14により、圧力制御機構が構成される。また、本実施形態例において、支持部4a,4b及び振動部3は、リン(P)をドープした導電性のポリシリコンで形成され、電極24とは独立に電位を制御する回路を有している。図15においては、支持部4a,4b及び振動部3の電位を制御する回路の図示は省略する。
【0094】
図15Aは、電極24に電圧制御回路14から電圧が供給されていない、いわゆる初期状態の単位共振子の状態を示している。この初期状態から、電圧制御回路14により、電極24に所望の電圧を供給し、電極24と支持部4a,4bと振動部3との間に電位差を加える。そうすると、支持部4a,4b及び振動部3と、電極24との間に静電引力が発生し、支持部4a,4b及び振動部3が電極24側に引き寄せられる。このような現象においては、振動部3と支持部4a,4bのそれぞれの接続部には、図15Bの矢印p1で示す方向に圧力が印加される。そして、振動部3は、両側の支持部4a,4bから負の圧力を受け、振動部3の有効質量が増加する。
【0095】
このように、電極24と支持部4a,4b及び振動部3との間に電位差を加えることで、静電引力により支持部4a,4b及び振動部3を変形させ、間接的に接続部への印加圧力を制御することができる。
【0096】
本実施形態例においても、図6において、図15Aの初期状態をAで示すと、図15Bにおける状態は、支持部4a,4bから振動部3へ印加される圧力が減少するので、接続部に印加される圧力が減少し、図6のBで示すように、共振周波数frは初期状態よりも減少する。
【0097】
このように、振動部3の振動方向と交差する方向に圧力が印加されることにより、支持部4a,4b間の節領域である振動部4の有効質量が変化し、共振周波数が変化する。また、本実施形態例においても、電圧制御回路14から電極24に供給される電圧を細かく調整することにより、接続部に印加される圧力を細かく調整することができる。
【0098】
本実施形態例においては、電極24は、封止膜23に形成される例としたが、これに限られるものでは無く、支持部4a,4bに対向する位置であって、基板6とは反対側の位置に形成される別の上部基板に構成することもできる。封止膜23は、振動部3を気密に保持するために必ず設けられるものであるから、本実施形態例のように、封止膜23に電極24を形成する場合は、工程数を増やすことなく電極を設けることができる。
【0099】
また、本実施形態例によれば、電極24を基板6とは反対側に構成することにより、電極24が、図1に示す入力電極8、出力電極9から距離的に離れた位置となるので、ノイズの低減が図られる。
【0100】
上述した第7の実施形態〜第9の実施形態においては、電極は支持部4a,4b及び振動部に対向する位置に形成されたものであった。振動部3の幅が長い場合は、振動部3に対向する位置にのみ電極を構成する例としても、第7の実施形態〜第9の実施形態に記載した効果と同様の効果が得られる。また、上述した第1の実施形態〜第9の実施形態に係る静電駆動型の共振器では、共振部3と支持部4a,4bと、固定部5の少なくとも表面部とが、連続して同一部材、例えば不純物ドープのポリシリコンで一体形成することができる。
【0101】
上述した第1の実施形態〜第9の実施形態の単位共振子からなる共振器は発振回路に用いることができる。以下に、実際に上述の圧力制御機構を有する単位共振子からなる共振器を発振回路に用いる場合について説明する。
【0102】
図16に、第1の実施形態〜第9の実施形態の圧力制御機構を有する単位共振子からなる共振器を発振回路に用いた場合の発振器のブロック図を示す。
図16に示す発振器25は、例えば共振器28、帰還回路29から構成される発振回路30と、周波数調整に必要な電圧を制御して供給する電圧制御回路26と、電圧制御回路26から供給された電圧を共振器28の個体差に応じた周波数調整電圧として取り出して共振器28に供給するトリミング回路27とから構成される。
【0103】
電圧制御回路26は、図示しない電源から供給される電圧を、周波数調整に必要な電圧にまで昇圧または降圧して共振器28に供給するものであり、電源の安定化の役割も担っている。
トリミング回路27は、共振器28の接続部に印加される圧力の圧力制御範囲を調整する回路であり、例えば、ポリシリコン抵抗のアレイ回路で構成される。そして、トリミング回路27においては、電圧制御回路26から提供される電位から共振器28の接続部に印加される圧力を制御するために必要な、実際の圧力制御電圧を取り出す。アレイ回路の抵抗値は製造初期にポリシリコンを選択することで、製造初期の周波数精度の調整回路として機能する。
共振器28には、第1の実施形態〜第9の実施形態で示された単位共振子から構成される共振器が用いられる。共振器28では、トリミング回路27により取り出された実際の圧力制御電圧によりにより精度良く調整され、所望の共振周波数が得られる。
そして、共振器28より精度良く調整された共振周波数による信号が帰還回路29を介して発振回路30から発振される。
このように、トリミング回路27を制御電圧回路26と共振器28との間に介入させて、発振器25を構成すれば、周波数偏差の小さい発振器を提供することができる。
【0104】
また、図17に、第1の実施形態〜第9の実施形態の圧力制御機構を有する単位共振子からなる共振器を、発振回路に用いた場合の発振器の回路ブロック図を示す。この例において発振器32は、例えば共振器28と帰還回路29とにより構成される発信回路30と、共振器28に接続される電圧制御回路26と、電圧制御回路に接続される温度センサ33及びメモリ31とから構成される。図17において、図16に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0105】
温度センサ33は、電圧制御回路26に温度情報を供給するものである。また、メモリ31は、温度センサ33による温度情報と共振周波数特性により決定される必要な制御電圧の値を電圧制御回路26に読み出すものである。
すなわち、電圧制御回路26は、図示しない電源より供給される電圧から共振器28の接続部に印加される圧力を制御するための圧力制御電圧を取り出すと共に、温度センサ33からの値に基づき、メモリ31内の該当情報を読み込んで、共振器28に供給する圧力制御電圧を変化させる機能を有している。これにより、共振器28には、周波数の温度特性が補償された圧力制御電圧が供給され、接続部に印加される圧力が制御される。そして、温度補償されることにより精度良く調整された共振周波数による信号が、帰還回路29を介して発信回路30から発振される。
【0106】
図18に示す回路ブロック図は、図16と図17に示した例を組み合わせた発振器の回路ブロック図である。すなわち、この例における発振器34は、共振器28、帰還回路29とから構成される発振回路30と、メモリ31、温度センサ33が接続される電圧制御回路26と、電圧制御回路26と共振器28との間に接続されるトリミング回路27とから構成される。
図18において、図16及び図17に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0107】
図18に示す例によれば、温度センサ33とトリミング回路27の機能を併せ持つことにより、共振器28に、高い周波数初期精度と、温度変化の補償機能を同時に提供することができる。これにより制御された共振器28から精度良く調整された共振周波数が、帰還回路29を介して発振回路30より発振される。このように、温度センサ33とトリミング回路27の機能を併せることより、TCXOクラスの周波数精度を有する発振器34を実現することが可能である。
【0108】
ところで、共振器などの素子においては、素子の温度上昇に伴い振動部が熱膨張するという問題がある。図19Aに、図1の環状の共振器において、入力電極及び出力電極を省略した平面模式図に示し、図19Bには要部の拡大図を示す。図19A,Bにおいて、図1に対応する部分には、同一符号を付し重複説明を省略する。
環状の共振器において、素子が熱膨張を起こすと、図19Bの破線aで示すように、振動部3が膨張し、これにより、振動部3は図19Aの矢印P4に示す方向に伸びて外側に広がる力が発生する。そうすると、単位共振子のバネ定数が下がって、共振周波数が下がる減少が観測される。このとき、単位共振子において、支持部4a,4bが、振動部3と同材料で形成されている場合、支持部4a,4bも図19Bの破線bで示すような範囲に伸びるので、支持部4a,4bからは、外側に広がった環状を縮める方向に力が働く。しかしながら、このような支持部4a,4bの膨張では、共振周波数の低下をキャンセルさせるほどの圧力は印加されない。
【0109】
以下に説明する実施の形態では、振動部と支持部を、熱膨張係数の異なる材料で形成することにより、共振周波数を調整する例を示す。
【0110】
[第10の実施形態]
図20Aに、本発明の第10の実施形態に係る単位共振器の要部における概略平面を示す。図20Aは、図1に示す共振器1を構成する単位共振子2の構成を一部変えたものであり、図1に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0111】
本実施形態例においては、振動部3は、振動部3の材料よりも熱膨張率の大きい材料で形成された支持部40により両側から支持されている。本実施形態例においては、例えば、振動部3と、振動部3に用いられる材料より熱膨張率の大きい材料により形成された支持部40とにより圧力制御機構が構成される。
【0112】
図20Bに、図20Aで示した構成を有する共振器の概略平面構成を示す。素子が、熱膨張することにより、振動部3が矢印P4方向に広がろうとする。しかしながら、本実施形態例では、支持部40が、振動部3を構成する材料よりも熱膨張率の高い材料で形成されているため、支持部40が熱膨張し、支持部40と振動部3との接続部に対して、矢印P5で示す正の圧力が印加される。そうすると、振動部3の熱膨張により下げられたバネ定数が、支持部40の熱膨張によって接続部に印加された正の圧力により補償される。
このように、支持部40を振動部3より大きな熱膨張係数を有する材料で形成することにより、共振周波数の低下を比較的小さくすることができる。
具体的には、振動部3をポリシリコンで形成した場合は、ポリシリコンの10倍の熱膨張率を有すアルミニウム(Al)で支持部40を形成することで、接続部への印加圧力を高めて、共振周波数を上げる方向に、支持部40の熱膨張を作用させ、共振周波数の減少を抑制することができる。このように、本実施形態例では、振動部3の熱膨張時に対応した振動部3及び支持部40の熱膨張率の差異により、接続部への印加圧力が発生される。
【0113】
本実施形態例では、振動部3を支持する内側の支持部40と、外側の支持部40を同様の構成とした。本実施形態例は、これに限られるものではなく、内側の支持部40と、外側の支持部40の大きさを変えたり、材料を熱膨張係数の異なるものとしたりする等の設計をして支持部40の総合的な熱膨張係数を理想的に構成することができる。
【0114】
次に、振動部の熱膨張時に対応した振動部及び支持部の熱膨張率の差異により、接続部への印加圧力が発生される単位共振子の、他の実施形態例について説明する。
【0115】
[第11の実施形態]
図21に、本発明の第11の実施形態に係る単位共振子の要部における概略平面を示す。図21は、図20と同様に、図1に示す共振器1を構成する単位共振子2の構成を一部変えたものである。図21において、図20に対応する部分には、同一符号を付し重複説明を省略する。
【0116】
本実施形態例の単位共振子は、支持部41の材料を振動部3の材料よりも熱膨張係数の大きい材料で構成し、かつ、支持部41を、支持部41と振動部3の接続面の幅W1より、垂線方向の幅W2が長い直方体としている。このとき、支持部41と、振動部3の接続面の幅W1は図20に示す例と同じである。本実施形態例においては、振動部3と、振動部3に用いられる材料より熱膨張率の大きい材料により形成された支持部41とにより圧力制御機構が構成される。
【0117】
接続面が大きくなることで、共振のQ値は小さくなる傾向があるため、接続面積を小さくすることが共振設計上好ましい。しかし、温度補正のために、接続部に十分な力を印加するためには、面積が広いほうが望ましい。
本実施形態例では、接続面の幅W1を変えずに、接続面に対して垂線方向の幅W2を大きくすることにより、支持部41と、振動部3の接触面積を一定に保ったまま、直方体の長手方向に十分な長さをとった支持部とした。このような構成とすることで、Q値を保ちつつ、支持部41の膨張量を十分に確保し、制御圧力を大きくとることができる。
【0118】
[第12の実施形態]
図22に、本発明の第12の実施形態に係る単位共振子の要部における概略平面を示す。図22は、図20と同様に、図1に示す共振器1を構成する単位共振子2の構成を一部変えたものである。図22において、図20に対応する部分には、同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0119】
本実施形態例の単位共振子は、支持部42の材料が振動部3の材料よりも熱膨張係数の大きい材料で構成され、かつ、支持部42の固定部5側が二股に構成されている。図22Aは、二股部分を湾曲させて支持部42を構成した例であり、図22Bは、二股部分を直線的して支持部43を構成した例である。本実施形態例においては、振動部3と、振動部3に用いられる材料より熱膨張率の大きい材料により形成された支持部42,43とにより圧力制御機構が構成される。
【0120】
図22Aを例にみると、熱膨張時、固定部5から二股に伸びる支持部42の膨張が、股部分で支持部42と振動部3との接続部方向へ促される。したがって、支持部42としての膨張長さを拡大することができ、結果としてより大きな圧力を、接続部分に印加することができる。
また、支持部42が二股に構成されていることにより、バネが振動部3に対して平行に連結されていることになる。このため、支持部42の長さを延長しても、バネ定数を保持することができる。このように、バネ定数を高く保つことができるので、製造中や共振振動時に想定される静電破壊への耐性が得られる。
図22Bにおいても同様である。
【0121】
本実施形態例の構成では、第10、第11の実施形態と同様の効果が得られるほか、第11の実施形態による単位共振子よりも大きな圧力を得られる効果と、共振器の破壊耐性を向上させることができるという効果が得られる。
【0122】
[第13の実施形態]
図23A,Bに本発明の第13の実施形態に係る単位共振子の要部における概略平面及び断面構成を示す。図23Aは、図20と同様に、図1に示す共振器1を構成する谷共振器2の構成を一部変えたものである。図23Aにおいて、図20に対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0123】
本実施形態例の単位共振子においては、支持部43が、熱膨張係数の異なる材料の積層構造とされる。図23Aに示す支持部44のB−B線上に沿う断面構成を図23Bに示す。
【0124】
本実施形態例では、図23Bに示すように、支持部43の下層部分44bに対して、支持部44の上層部分44aの材料を、熱膨張係数の大きな材料とする。例えば、下層部分44bをポリシリコンで形成し、上層部分44aをアルミニウム(Al)で構成する。
このような積層構造とすることにより、支持部44内部で熱膨張率が変わるので、支持部44の膨張時には、図5Bで示したように支持部44が変形する。すなわち、上層部分44aの膨張量が下層部分44bよりも大きいために、支持部44が基板側に曲がるようになる。
【0125】
図24及び図25に、膨張係数の異なる材料の積層構造で形成された支持部の変形例を示す。図24及び図25は、図23Bと同様に、支持部の断面図である。
図24に示す構成は、例えばポリシリコンで形成された支持部本体45bの側面と上面に、ポリシリコンよりも膨張係数の大きな例えばアルミニウム(Al)により被覆膜45aを形成した例である。
また、図25に示す構成は、例えば、SiOからなる下層膜46c上に、例えばポリシリンで形成される支持部本体46bを構成し、その支持部本体46bの側面及び上面を、ポリシリコンよりも膨張係数の大きな例えばアルミニウム(Al)により、被覆膜46aを形成した例である。
図24及び図25に示した例においても、図22と同様の効果が得られる。
【0126】
以上の第1の実施形態〜第13の実施形態においては、図1に示す環状の共振器1を構成する単位共振子2の構成を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、上述の第1の実施形態から第13の実施形態に示した単位共振子では、入出力電極を基板上の下部電極により形成して2次モードで振動する構成とした。単位共振子としては、入出力電極の構成変更により、2次モード以外の駆動モード、たとえば1次モード、3次モードなどで振動するように構成することができる。振動部を入力電極とし、下部電極を出力電極とすれば、1次モードで振動させることができる。
【0127】
図26A,Bに、本発明を応用できる他の共振器の概略平面構成を示す。図26A,Bにおいて、図1に対応する部分には、同一符号を付し重複説明を省略する。
【0128】
図1に示した共振器1は、単位共振子2を環状に構成されていたが、図26Aに示す例では、閉じた系とされていない。図26Aに示す共振器50においても、振動部3が支持部4a,4bにより両側から対称的に支持されており、支持部4a,4bで支持された部分の振動部3が節部となる。この共振器50においても、第1の実施形態〜第13の実施形態を適用することにより、支持部4a,4bと振動部3との接続部に圧力を印加することができるので、共振周波数を調整することができる。
【0129】
図26Bに示す共振器51では、振動の節に対して、振動部3の一方の側、他方の側に交互に支持部4a,4bを構成した例である。このように、対称的な位置から振動部3が支持部により支持されていなくても、支持部4a,4bと振動部3との接続部に、振動方向とは交差する方向に圧力を印加することができる。したがって、図26Bに示すような共振器51においても、第1の実施形態〜第13の実施形態を適用することにより、支持部4a,4bと振動部3との接続部に圧力を印加することができるので、共振周波数を調整することができる。
【0130】
また、第10〜第13の実施形態に示した例は、図27,図28に示す共振器に応用できる。図27は、図20に示す共振器において、環状の振動部3が外側の支持部40のみで支持された共振器である。また、図28は、図20に示す共振器において、環状の振動部3が内側の支持部40のみで支持された共振器である。図27,図28において、図20に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0131】
図27、図28に示すように、振動部3の片側のみで支持された共振器においても、支持部40と振動部3とを、熱膨張係数の異なる材料で形成することにより、支持部40と振動部3との接続部に圧力が印加され、共振周波数の低下を小さくすることができる。そして、図27,図28に示す共振器においても、その支持部40の構成に第10の実施形態〜第13の実施形態に示した支持部の構成例を適用することができる。
【0132】
図27及び図28のように、支持部40を振動部3の片側のみに構成することにより、両側から支持する構造に比べ、構造が単純化するので、製造管理項目が削減され、造りやすくなる。また、構造の単純化により、例えば、振動部3を支持する内側及び外側に支持部40の応力のバランス設計項目等の設計項目が減り、設計が容易になる。
【0133】
次に、上述した第1の実施形態〜第13の実施形態に係る単位共振子を用いて構成された共振器が組み込まれた発振器有する送受信回路の構成例を、図29を参照して説明する。
【0134】
まず、送信系の構成について説明すると、Iチャンネルの送信信号とQチャンネルの送信信号とを、それぞれベースバンドブロック230から乗算器201I及び201Qに供給する。各乗算器201I及び201Qでは、発振器221の発振出力を、移相器202で所定位相シフトさせた2つの信号を乗算させ、その乗算信号を1系統に混合する。混合された信号は、可変増幅器203及びバンドパスフィルタ204を介して、乗算器205に供給し、発振器222の出力を乗算し、送信周波数に周波数変換する。乗算器205の出力は、バンドパスフィルタ206と可変増幅器207とパワーアンプ208を介して、デュプレクサ209に接続されたアンテナ210に供給し、アンテナ210から無線送信させる。バンドパスフィルタ204及び206では、送信信号以外の周波数成分を除去する。デュプレクサ209は、送信周波数の信号を送信系からアンテナ側に供給し、受信周波数の信号をアンテナ側から受信系に供給する分波手段である。
【0135】
受信系としては、アンテナ210で受信した信号を、デュプレクサ209を介してローノイズアンプ211に供給し、ローノイズアンプ211の増幅出力を、乗算器213に供給する。乗算器213では、発振器222の出力を乗算し、受信周波数の信号を中間周波信号に変換する。変換された中間周波数信号は、ハンドパスフィルタ214を介して、2つの乗算器215I及び215Qに供給する。各乗算器215I及び215Qでは、発振器221の発振出力を、移相器216で所定位相シフトさせた2つの信号を乗算させ、Iチャンネルの受信信号とQチャンネルの受信信号とを得る。得られたIチャンネルの受信信号とQチャンネルの受信信号は、ベースバンドブロック230に供給する。バンドパスフィルタ212及び214では、信号以外の周波数成分を除去する。
【0136】
発振器221及び222は、制御部223により発振周波数が制御される構成としてあり、PLL(Phase Locked Loop)回路を構成してある。制御部223内には、PLL回路として必要なフィルタや比較器などが配置してある。
【0137】
このような図29に示す送受信回路において、発振器221及び222に、本例の構成の単位共振子よりなる共振器を用いることが可能である。
【0138】
この送受信回路では、圧力制御機構を有する共振器が用いられているので、共振周波数の調整が可能であるため、送受信回路の信頼性を向上させることができる。
この送受信回路の具体的な例としては、例えば携帯電話機、無線LAN機器、無線トランシーバ、テレビーナ、ラジオチューナ等の電磁波を利用して通信する送受信回路が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】A,B本発明の実施の形態が適用される共振器の概略構成図及びその共振器を構成する単位共振子の概略構成図である。
【図2】図1のA−A線上に沿う断面構成図である。
【図3】本発明の原理を説明するために用いる、単位共振子の要部を示す図である。
【図4】接続部に印加される圧力に対する共振周波数の変化の概略を示す図である。
【図5】A,B本発明の第1の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図6】接続部に印加される圧力に対する共振周波数の変化の概略を示す図である。
【図7】A,B,C本発明の第2の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図8】接続部に印加される圧力に対する共振周波数の変化の概略を示す図である。
【図9】A,B本発明の第3の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図10】A,B本発明の第4の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図11】A,B本発明の第5の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図12】A,B,C本発明の第6の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図13】A,B本発明の第7の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図14】A,B,C本発明の第8の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図15】A,B本発明の第9の実施形態における単位共振子の概略断面構成図である。
【図16】第1〜第9の実施形態に係る単位共振子を用いた共振器が組み込まれた発振器の一例である。
【図17】第1〜第9の実施形態に係る単位共振子を用いた共振器が組み込まれた発振器の一例である。
【図18】第1〜第9の実施形態に係る単位共振子を用いた共振器が組み込まれた発振器の一例である。
【図19】A,B熱膨張により共振周波数が減少する原理を説明するための図である。
【図20】A,B本発明の第10の実施形態における単位共振子の概略構成図である。
【図21】本発明の第11の実施形態における単位共振子の概略構成図である。
【図22】A,B本発明の第12の実施形態における単位共振子の概略構成図である。
【図23】A,B本発明の第13の実施形態における単位共振子の概略構成図及び、支持部の概略断面構成図である。
【図24】第13の実施形態の変形例を示す概略構成図である。
【図25】第13の実施形態の変形例を示す概略構成図である。
【図26】A,B第1〜第13の実施形態が適用できる他の共振器の概略構成図である。
【図27】第10〜第13の実施形態が適用できる他の共振器の概略構成図である。
【図28】第10〜第13の実施形態が適用できる他の共振器の概略構成図である。
【図29】本発明の単位共振子を用いて構成された共振器が組み込まれた発振器を用いた送受信回路の概略構成図である。
【図30】A,B,C従来例における共振器の概略構成図である。
【符号の説明】
【0140】
1・・共振器、2・・単位共振子、3・・振動部、4a,4b・・支持部、5・・固定部、6・・基板、7・・空間、8・・入力電極、9・・出力電極、10,11・・配線、12・・接続部、13,15,17,18,19,20,21,22,24・・電極、14・・電圧制御回路、16,23・・封止膜、26・・電圧制御回路、27・・トリミング回路、28・・共振器、30・・発振回路、31・・メモリ、33・・温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
固有の共振周波数で共振する振動部と、
前記振動部において共振時に節領域となる位置を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、
前記支持部を前記基板に固定する固定部と、
前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御する圧力制御機構と
を有する単位共振子。
【請求項2】
前記圧力制御機構は、前記固定部に対向する前記基板上に形成された電極と、前記電極と前記固定部との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する電圧制御回路とにより構成され、
前記電極と前記固定部間に発生する静電引力により前記圧力が印加される請求項1記載の単位共振子。
【請求項3】
前記圧力制御機構は、前記支持部、及び/又は前記共振部における共振時の節領域に対向する前記基板上に形成された電極と、前記電極と前記支持部、及び/又は前記節領域との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する電圧制御回路とにより構成され、
前記電極と、前記支持部、及び/又は前記節領域との間に発生する静電引力により前記圧力が印加される請求項1記載の単位共振子。
【請求項4】
前記圧力制御機構は、前記支持部、及び/又は前記共振部における共振時の節領域に対向する、前記基板とは反対側の位置に形成された電極と、前記電極と前記支持部、及び/又は前記節領域との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する電圧制御回路とにより構成され、
前記電極と、前記支持部、及び/又は前記節領域との間に発生する静電引力により前記圧力が印加される請求項1記載の単位共振子。
【請求項5】
前記電極は、前記振動部と前記支持部の上部であって前記基板とは反対側の位置に、前記振動部と前記支持部と空間を介して形成された上部基板に形成される請求項4記載の単位共振子。
【請求項6】
前記圧力制御機構は、前記振動部と、一部又は全部が前記振動部に用いられる材料とは熱膨張率の異なる材料により形成された前記支持部とから構成され、
前記振動部の熱膨張時に対応した前記振動部及び支持部の熱膨張率の差異により、前記圧力が印加される請求項1記載の単位共振子。
【請求項7】
前記振動部はポリシリコンで形成され、
前記支持部の一部又は全部はアルミニウムで形成される請求項6記載の単位共振子。
【請求項8】
前記支持部は、長方形である請求項6記載の単位共振子。
【請求項9】
前記支持部は、二股形状である請求項6記載の単位共振子。
【請求項10】
前記支持部は、熱膨張率の異なる材料の積層構造である請求項6記載の単位共振子。
【請求項11】
基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部とから構成される単位共振子の、前記支持部と前記振動部との接続部に印加する圧力を制御することにより、前記振動部の振動の有効質量を変化させ、共振周波数を調整する
単位共振子の調整方法。
【請求項12】
基板と、
固有の共振周波数で共振する振動部と、
前記振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、
前記支持部を前記基板に固定する固定部と、
前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御する圧力制御機構と、から構成される複数個の単位共振子
から構成される共振器。
【請求項13】
基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部とからなり、前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御することにより共振周波数を調整する単位共振子から構成される共振器
を用いて構成される発振回路。
【請求項14】
基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部において共振時に節領域となる位置を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部と、前記固定部に対向する前記基板上に形成された電極と、前記電極と前記固定部との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する為の電圧制御回路とにより、前記前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御する、圧力制御機構と、から構成される複数個の単位共振子により構成される共振器と、
前記電圧制御回路からの電圧の制御範囲を調整するためのトリミング回路と
から構成される発振器。
【請求項15】
基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部において共振時に節領域となる位置を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部と、前記固定部に対向する前記基板上に形成された電極と、前記電極と前記固定部との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する為の電圧制御回路とにより、前記前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御する、圧力制御機構と、から構成される複数個の単位共振子により構成される共振器と、
前記電圧制御回路に温度情報を供給する温度センサと、
前記温度情報と共振周波数特性により決定される制御電圧の値を前記電圧制御回路に読み出す為のメモリと
から構成される発振器。
【請求項16】
基板と、固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部において共振時に節領域となる位置を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部と、前記固定部に対向する前記基板上に形成された電極と、前記電極と前記固定部との間に静電引力を発生させるために前記電極に所望の電圧を供給する為の電圧制御回路とにより、前記前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力を制御する、圧力制御機構と、から構成される複数個の単位共振子により構成される共振器と、
前記電圧制御回路からの電圧の制御範囲を調整するためのトリミング回路と
前記電圧制御回路に温度情報を供給する温度センサと、
前記温度情報と共振周波数特性により決定される制御電圧の値を前記電圧制御回路に読み出す為のメモリ
とから構成される発振器。
【請求項17】
基板と固有の共振周波数で共振する振動部と、前記振動部を、振動部の一方の側及び/又は他方の側から支える支持部と、前記支持部を前記基板に固定する固定部とからなり、前記振動部と前記支持部との接続部に印加される圧力が制御されることにより共振周波数を調整する単位共振子から構成される共振器を用いて構成される発振回路
を有する送受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2009−231968(P2009−231968A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72308(P2008−72308)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】