説明

単結晶トランスデューサを用いた多重超音波ビーム送信

超音波撮像システムは広い帯域幅のトランスデューサを用いて、同時に多重ビームを送信する。これらビームはトランスデューサの帯域幅の異なる周波数帯域を占め、異なるビーム方向に操舵される。受信したビームは、異なる周波数帯域に同調されたバンドパスフィルタにより分離される。これら異なる周波数帯域が重複する場合、これら2つのビーム間のクロストークは、送信ビームに符合化されたパルスと、同時ビームの受信されるエコー信号を分離するために、整合フィルタとを用いることにより減少してもよい。単結晶トランスデューサは広い帯域幅のトランスデューサとして用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断撮像に関し、特に同時に多重ビームを送信することが可能である超音波撮像システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断撮像システムは、リアルタイムの撮像を行う能力のために、例えば心臓のような器官の医療診断にしばしば好まれる。このリアルタイム機能は、超音波が例えば鼓動する心臓及びその弁の運動を捕捉することを可能にする。超音波を用いて血流がリアルタイムで視覚化されることも可能である。例えば子供の心臓のような、非常に素早く動いている器官の運動を捕捉するために、その運動をスムースに撮像することが可能である高いフレームレートを持つことが望ましい。しかしながら、高いフレームレートを妨げる制限は、送信される超音波が身体において必要な深さだけ進行し、結果生じるエコーがトランスデューサに戻ってくるのに必要な時間である。このような送信−受信サイクルは、画像を作成するのに用いられる各ラインを走査する場合に必要であるため、一般的には所望する画像の深さの関数である、各ラインに対するエコーを集めるのに必要な時間及び画像フレームに必要なライン数は、ディスプレイのフレームレートに制限を課すことができる。この制限を克服しようと、幾つかの送信及び受信技術が開発されてきた。受信側において、単一の送信ビームから多重ラインを受信することは、フレームレートを増加させることになるが、送信ビームの中心に対する各受信ビームの関係に関するアーチファクトをもたらし、空間分解能の損失を示す。ディスプレイラインは、実際に受信されるライン間にディスプレイラインを補間することにより実際に作成される。送信側において、同時に多重ビームを送信させる試みが行われる。同時にビームを送信する難しさは、これら多重送信ビームからのエコーがトランスデューサにより同時に入力されていることであり、受信した後、明確にセグメント化又は分離されなければならない。多重ビーム間にあるクロストークの問題を扱うための努力は、B. B. Lee及びE. S. Furgasonによる論文“Golay Codes For Simultaneous Multi-mode Operation In Phased Arrays”1982年超音波シンポジウムの議事録821頁等、並びに米国特許番号US 5,276,654及びUS 6,221,022に記載されている。これら出版物は、各ビームに対する異なる符合化方式又は開口形状、及び異なる焦点領域において同時にビームを送信することを提案する。これら取り組みがこの問題を解決する一方、各ビームからのエコーの分離度合いが満足行かないまま残っている。従って、これらの取り組みをエコーの分離問題に対する他の解決法に補う又は追加することが望ましい。
【0003】
本発明の原理によれば、多重ビームは広い帯域幅のトランスデューサの異なる周波数帯域を用いて同時に送信される。好ましい実施例において、この広域な帯域幅のトランスデューサは、単結晶トランスデューサである。異なるコードが受信時に別々に識別されることができるように、前記異なる周波数帯域を用いて送信されたビームが符合化される。これら異なる周波数帯域の使用は、符合化方式がほぼ直交にさせることができ、故に、多重ビームからの別々のエコーは、周波数分離のために、完全に分離して認識可能とすることができる。同時に多重ビームを送信することにより、より少ない送信−受信サイクルが所与のボリューム又はエリアを操作するのに必要とされ、表示のフレームレートが改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
最初に図1を参照すると、従来のPZT圧電超音波トランスデューサの通過帯域60が示されている。この実施例において、2から5MHzにわたる通過帯域が示されている。この従来の設計の1つのようなトランスデューサが2つのビームを同時に送信する場合、結果生じるエコーがそれらの異なる受信周波数により識別されることができるように、異なるビームに対し異なる周波数帯域を用いてこれらビームを周波数符合化することが望ましい。しかしながら、結果生じる入力ビームが良好な軸分解能を示すように、各ビームの送信帯域幅が幅広であることも望ましい。従って、これら2つの異なるビームに対し2つの異なる通過帯域62及び64が用いられる。良好な軸分解能をもたらすために各通過帯域が望ましくは幅広である一方、これら通過帯域の各帯域A及びBは、互いにかなり重複している。これら通過帯域のこの重複は、受信したエコーにかなりのクロストークを示させ、ある送信方向のあるビームから受信されるエコーは、他の方向へ同時に送信された他の送信ビームからの成分を含んでいる。
【0005】
このクロストーク問題を改善する1つの方法は、図2に示されるような通過帯域66及び68を使用することであり、ここで帯域A及びBはトランスデューサの通過帯域60の中心において僅かしか重複していないように見える。このことがクロストーク問題を緩和させる一方、各送信ビームの帯域を狭めるという結果にもなる。これは、受信するエコー信号の軸分解能を望ましくなく劣化させる。
【0006】
本発明による2つの問題の解決法が図3に示される。これは広い通過帯域70を持つトランスデューサを使用することである。この実施例において、1.5MHzから6.5MHzにわたる通過帯域70が示される。この幅広な通過帯域70は、別々の送信ビームの通過帯域72及び74により用いられることができ、これら帯域の各々は、良好な軸分解能のためにかなり広い帯域幅を表している。これら2つの帯域A及びBの中央の重複エリアはかなり小さい。
【0007】
マルチビームの幅広な通過帯域のトランスデューサに使用される好ましいトランスデューサは、単結晶製造処理により作成されたものである。単結晶トランスデューサの実施例は、PMN−PT及び/又はPZN−PTから構成されるトランスデューサである。本発明の目的のために、単結晶と言う用語は、この結晶が(全てが同一方向に並べられる)ごく僅かな粒子からなる配向された多結晶と、前記結晶が単一の粒子材料だけで構成する単一の粒子結晶とを述べるのに用いられる。これらの要素を製造するために、化学用のPbO、MgO、ZnO、Nb及びTがPMN−PT及びPZN−PT組成物を形成するのに用いられる。これら組成物が一度形成されると、PMN−PT及びPZN−PTの単結晶はブリッジマン(Bridgman)及びフラックス(flux)技法を用いて成長されてもよく、ラウエ後方反射法(Laue back reflection method)を介して配向されてもよい。次いで、この単結晶は、IDソー(inter-dimensional saw)を用いて、(001)、(011)及び(111)平面に平行に、約1mmの厚さにスライスされる。
【0008】
表1から、幾つかの異なる厚さ/幅のカット方位が広帯域のトランスデューサを作成する際に有利に用いられ得ることが分かる。<001>及び<011>の厚さ方位を持つ単結晶ウェハーから得られる特に望ましい特徴のために、これらウェハーは、トランスデューサを構成する際に用いられる結晶に対し好ましい方位を示している。一度スライスされると、これらウェハーは次にラッピングされ、研磨される。金コーティングがこれらウェハーの両面に施され、電極を形成する。単結晶ウェハーは次いで、ダイシングソー(dicing saw)においてダイシングされ、様々な幅の方位カットを持つスリヴァー(sliver)にする。これらスリヴァーは棒で支えられ、室温で測定される。
【0009】
トランスデューサ材料の製造を完了した後、様々な単結晶スリヴァーの電気機械特性が評価される。表1は、様々なスリヴァーに対する圧電及び誘電特性をリストにしたものである。この表に示されるように、上記記載に従って構成されるスリヴァーに対し非常に高い有効結合定数(effective coupling constant)(k33’=84%から90%)が得られる。
【表1】

【0010】
1D(one-dimensional)トランスデューサの応用に対し、単結晶の要素は、1D又は擬似1Dのスリヴァー形状にダイシングされ、ここでは長さ>高さ>幅である。厚さ方位だけでなく、幅の方位もこれらスリヴァーの電気機械特性に影響を与える。表1に説明されるように、有効結合定数(スリヴァーに対してk33’)は、このスリヴァーの長さ寸法からのクランピング効果のために、長軸方向の結合定数(バーに対してk33)に置き換える。厚さ及び幅の方位を有効に選択することにより、スリヴァーサンプルに対して非常に高いk33’(0.70から0.90)が得られ、このスリヴァーサンプルのk33の値に非常に近い。
【0011】
例えば多重整合レイヤ、電圧バイアス及び多重レイヤ設計のような追加の改良と共に、PMN−PT及びPZN−PTの上記単結晶を用いて得ることができる大きな結合定数k33を利用する場合、単結晶のトランスデューサは極端に広い帯域幅で設計される。特に、単結晶のトランスデューサを使用することで達成される追加の帯域幅は、多重送信される送信ビームのための異なる通過帯域に分離されることが可能である総合的な帯域幅を供給する。当業者により理解されるように、この追加の帯域幅は、従来のトランスデューサでは不可能だったり、又は上記トランスデューサの制限によりとうてい有用ではなかったりした幾つかの利用可能性を生み出す。
【0012】
超音波トランスデューサを製造する際、PMN−PT及びPZN−PT単結晶を使用することに関する1つの欠点は、音響整合に関連する問題に関係している。しかしながら、この音響整合の問題は、整合レイヤを使用することで克服することが可能である。特に、多重整合レイヤの利用は、トランスデューサから身体への音響エネルギーを効果的に結合でき、これにより帯域幅が大幅に改善される。
【0013】
これに関して、これら材料からなる単結晶要素のスリヴァーを有する超音波トランスデューサは、多重整合レイヤも含んでいる。一般的な単結晶トランスデューサは、バッキング(backing)及び音響レンズを有する。単結晶スリヴァーと音響レンズとの間に例えば3つの整合レイヤが挿入される。3つの上記整合レイヤを単結晶スリヴァーと組み合わせて使用することは、広帯域の超音波トランスデューサ特性において思いがけない有利な結果を提供する。
【0014】
表2は、様々な数の整合レイヤを持つPMN−PT単結晶トランスデューサ(<001>/<010>又は<011>/<110>w50−75°をカット)のモデル化した帯域幅データを説明する。表2に示されるように、−6dBの帯域幅の約105%が3つの整合レイヤを用いることにより可能であると判断されている。
【表2】

【0015】
一般的な広帯域のフェーズドアレイトランスデューサは、素子間のピッチが254μmである80個のアクティブ素子を用いて作成されていた。PMN−PT単結晶の単一レイヤ(<001>/<010>及び<011>/<110>w50−75°をカット)は、音響インピーダンスの整合を改善するために、3つの整合レイヤと共に圧電レイヤとして用いられていた。室温で加硫処理された音響レンズは、音響焦点を得るために、整合レイヤの前に追加されていた。トランスデューサは、直列インダクタ及び6フィートの長さのケーブルを介して以下に記載されるような超音波撮像システムに組み込まれていた。
【0016】
<001>/<010>のスリヴァー方位を持つ31%のPMN−PTがトランスデューサを作成するのに用いられていた。このスリヴァーの有効結合定数(k33’)は、0.88であり、クランピング誘電率Kは1200である。PMN−PT単結晶プレート(<001>方位)及び整合レイヤは、エポキシ樹脂で接着され、1Dアレイにダイシングされる。前記スリヴァーの厚さと幅とのアスペクト比(t/w)は約0.5である。前記素子の99%以上は、トランスデューサの構造を耐え抜く。実験において、中心周波数は2.7MHzであり、低周波数側(下方コーナー周波数)は1.15MHz、高周波数側(上方コーナー周波数)は4.1MHzの−6dBの帯域端を持つ。結果として、トランスデューサに対し合計−6dBの帯域幅が以下に示されるように計算される。
【数1】

このトランスデューサに対する−20dBの帯域幅は130%である。上記データは、非常に広い(−6dBの帯域幅の100%より大きい)帯域幅が最適化した電気及び音響設計を用いて、単結晶トランスデューサにおいて得られることを示している。多重整合レイヤの単結晶トランスデューサから達成される追加の帯域幅は、同時に多重送信ビームに対する通過帯域に分離するための幅広な範囲を提供することができる。単結晶トランスデューサを製造する方法の詳細は、米国特許US6,425,869に見ることができ、その内容は参照することによりここに編入される。
【0017】
図4を参照すると、本発明の原理に従う多重ビームトランスデューサのプローブ10を操作するための超音波システムがブロック図形式で示される。このプローブ10は、上述したように製造される単結晶アレイのトランスデューサ12を含んでいる。このプローブは、異なる方向Θ及びΘに操舵される2つのビームA及びBを同時に送信し、ターゲットT1及びT2に問合せをする(interrogated)ように操作される。ここで用いられる同時という用語は、先行又は並行して送信されるビームからエコーの受信を完了する前に、ビームを送信されることを意味している。これら2つのビームは、FMチャープ(FM chirp)符合化、ゴレイ(Golay)コード又はバーカー(barker)コードのような符合化手段を用いて符合化された、別々に符号化された送信パルスを用いて送信される。これら送信されたビームは、送信ビーム形成器26の制御下で送信され、このビーム形成器は、所望のパルス特性からなり、適当な時に送信パルスをアレイトランスデューサ12の素子に供給する。送信ビームのある特性は、ユーザインタフェース42を用いてシステムの操作者により選択されてもよい。ユーザにより選択された特性は、送信波形発生器28に入力される。この送信波形発生器28は、必要とされる送信パルスを計算し、形成するか、パルス波形書庫からそれらパルスを選択してもよいし、若しくはこれらビームの帯域及び帯域幅(BW)、これらビームの操舵角(Θ)及び必要なパルス波形を製造するためにこれらパラメタを使用するであろう送信ビーム形成器26に用いられる如何なる符合化(Coding)のような制御パラメタを転送してもよい。送信されたビームに応答して、各ビーム方向に沿って同時にエコーが受信される。これら受信されたエコー信号は、各トランスデューサの素子に対するA/Dコンバータ14によりデジタルサンプルに変換され、マルチラインビーム形成器16の個々のチャンネルに結合される。異なるビーム方向の多重ラインA及びBに加え、各送信ビームは、所望するのであれば、多重の密に離間した受信ラインをインソニファイ(insonify)することができる。従って、例えば4倍のマルチラインの場合、2つのビームの送信は、単一の送信間隔から8つ(2×4=8)のマルチラインとなり、これにより、フレームレートをさらに増加させる。ビーム形成器16は、本実施例において、2つの受信ビームA’及びB’を製造する。これら受信ビームは、整合フィルタ(matched filter)20によりフィルタリングされ、符号化したエコーを圧縮する。これにより、所望の受信ビームA及びB(並びにビーム形成器により製造される場合、各ビームの関連するマルチライン)を製造する。受信したビームは、信号プロセッサ30において信号処理、及び画像プロセッサ40において画像処理にかけられ、ディスプレイ50に表示される2又は3次元画像を製造する。
【0018】
前記フィルタ20の詳細が図5に示される。送信した信号は、トランスデューサの通過帯域内にあると共に、表示される信号のダイナミックレンジ内にもある完全に分離した帯域を占めている場合、符合化されていない送信パルスからのエコーは、バンドパスフィルタリングにより簡単に分離される。この場合、前記フィルタ20はバンドパスフィルタA(22)及びバンドパスフィルタB(24)を有する。つまり、これらエコーが完全に分離した通過帯域A及びBにあるので、符合化された送信パルスは必要とされない。しかしながら、多くの応用において、設計者は、軸分解能を最大にするために、できる限り幅広な帯域幅を所望して、異なるビームの通過帯域が重複するだろう。このような場合、他の送信ビームと周波数に関して重複する第1の送信ビームからの信号成分は、第2の送信ビームから形成される前記受信したラインにクロストークを生じさせる。クロストークは、前記受信したラインにおけるゴーストアーチファクト(ghosting artifact)又はクラッター(clutter)として現れる。この状態において、バンドパスフィルタリング単独では各送信ビームの周波数の中身を分離するには不十分であり、符合化した送信パルスが好ましく、ビーム形成器16からの出力信号は整合フィルタ22及び24を用いて分離される。図5に示されるように、バンドパスフィルタ単独で、ビームBから幾らかのクロストーク“b”を持つビームAを製造し、ビームAから幾らかのクロストーク“a”を持つビームBも製造する。受信したエコー信号は従って、整合フィルタA(22)及び整合フィルタB(24)により処理され、各A及びB信号から多くのクロストークを削除する。
【0019】
ここで用いられるように、“整合フィルタ”と言う用語は、例えば所与の信号Xに対してはこの信号Xの時間反転であるインパルス応答を持つフィルタを指している。整合フィルタ92の実施例は図6に示されている。この実施例において、符合化した受信信号は波形90により表されるような時間領域の波形を有する。上記信号に対する整合フィルタは、ボックス92で示される波形により表されるように、この信号の時間反転であるインパルス応答を有する。波形90がこの特徴からなるフィルタにより処理される場合、圧縮された符合化されていないパルス94が製造される。
【0020】
整合フィルタシステムの一般的な振幅及び位相特性が図7a及び図7bに示されている。図7aにおける第1の応答特性80は、符合化された受信信号の振幅応答特性である。整合フィルタは、整合振幅応答82を有する。結果として、フィルタ出力信号は、振幅応答特性84を示す。このフィルタは前記信号に整合されるので、全ての特性はaからbに及ぶ帯域幅を持つ。
【0021】
この信号は、図7bに表されるように、位相応答102も示している。前記整合フィルタは相補的な位相応答104を示す。結果として、この整合フィルタの出力信号は線形の位相応答106を示す。
【0022】
幾つかの場合、帯域幅を改善するために信号対ノイズ比を犠牲にすることにより、フィルタリングされた出力信号の軸分解能を高めることが望ましい。このような場合、図8a及び図8bの応答特性により表されるように、不整合フィルタが用いられる。この受信した信号は再び、図8aに示されるように周波数aと周波数bとの間に及ぶ振幅応答特性80を有する。この不整合フィルタは、周波数a’と周波数b’との間に及ぶとみられる幅広な応答特性86を有する。符合化された受信信号は、図8bに示されるように位相応答102を示す。不整合フィルタは、密接な相補的な位相応答特性108を表す。結果として、フィルタ出力信号は、不整合フィルタの帯域幅を通る、密接する相補的な位相応答特性110を示す。不整合フィルタの拡張された帯域幅により、受信した信号は、改善した軸分解能を提供する幅広な帯域幅を有するが、減少した信号対ノイズ比を犠牲にしている。整合フィルタ及び不整合フィルタの通過帯域は、所望するのであれば、エコーの受信中により深い深さから受信したエコー信号の劣化する周波数を追従するように、時間で変化することができる。
【0023】
サイドローブに対するエコーのメインローブの強調比を提供する符号化方式は、バーカーコードである。図9は、符号化された送信パルス、例えばバーカーコード化されたパルスからの受信エコー120を説明する。整合フィルタリング(matched filtering)後、圧縮されたエコー122は、矢印124で示されるように、サイドローブに対する前記メインローブの強調比を示す。しかしながら、バーカーコード化されたパルスは、フィルタリングされた出力信号122において126に示されるような残存するレンジサイドローブ(range sidelobe)に影響されやすいままである。これらアーチファクトが問題である場合、これらアーチファクトは、ゴレイコード化された送信パルスを使用することにより減少する。ゴレイコードは、2つの関連する符合化の自己相関関数が追加される場合、レンジサイドローブが打ち消されるという特徴を示す対の相補的な擬似ランダム符合化を選択する(MJE Golay, “Complementary Series,” IRE Trans. In Info Theory, Vol. IT-7m No.4, pp.82-82, April, 1961)。例えば、図10aは、第1のゴレイコード#1により符合化された第1の送信パルス130を表す。この符合化されたパルスが送信され、復号後にメインローブ132及びサイドローブ133を表すエコーが受信される。前記第1のパルスと同じ形式の第2の送信パルス130は、第2のゴレイコード#2により符号化され、送信される。フィルタリング後、受信したエコーはメインローブ134及びサイドローブ135を示す。この相補的符合化の結果として、前記レンジサイドローブ133及び135は、組み合わされる場合、それらを打ち消して、2つの符合化された送信から最終的な受信信号136となるように、互いに補完的である。この最終的な受信信号は、打ち消されたアーチファクトが無いように見える。しかしながら、ゴレイコードは、符合化方式の選択が、設計者により必要とされる最も望ましい特質を考慮して選択されるので、バーカーコードがそうであるほど、好ましいメインローブ対サイドローブの比を一般的には示さない。
【0024】
本発明の構成される実施例において、幅広な帯域幅のトランスデューサにより提供される周波数の分離は、同時に受信されるビームの約10から15dBのクロストークの低減を提供すると予想することができる。送信したパルスに符合化方式を使用することは、さらに10から12dBのクロストークの低減を提供することができる。空間的に分離した送信及び受信ビームを操舵するビーム形成器は、さらに10から15dBのクロストークの低減を提供すると予想される。結果として、あるビームから他のビームへのアーチファクトのゴーストは、3つのクロストーク低減技法全てを用いることにより、30から42dBまで低減することができる一方、依然として同時に送信及び受信したビームの良好な軸分解能をもたらしている。
【0025】
同時に送信したビームが2次元の撮像にしばしば好ましくない一方、3次元撮像の応用が同時に送信したビーム、例えば送信方式がボリューム取得時間を減少させ、それによりディスプレイのボリュームフレームレートを改善させる恩恵を受ける。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来のトランスデューサの異なる周波数帯域を説明する。
【図2】従来のトランスデューサを用いて異なる周波数帯域を得るための他の手法を説明する。
【図3】本発明の原理に従って構成されるトランスデューサの異なる周波数帯域を説明する。
【図4】本発明の原理に従って構成される超音波撮像システムをブロック図形式で説明する。
【図5】図4のフィルタをより詳細に説明する。
【図6】整合フィルタを用いて符号化したエコー信号の受信を説明する。
【図7a】整合フィルタシステムの帯域幅及び位相特性を説明する。
【図7b】整合フィルタシステムの帯域幅及び位相特性を説明する。
【図8a】不整合フィルタシステムの帯域幅及び位相特性を説明する。
【図8b】不整合フィルタシステムの帯域幅及び位相特性を説明する。
【図9】符合化したエコーの受信及び符合化したエコーの後続する圧縮を説明する。
【図10a】マルチパルスシステムにおける異なるゴレイコードの使用から実現される利点を説明する。
【図10b】マルチパルスシステムにおける異なるゴレイコードの使用から実現される利点を説明する。
【図10c】マルチパルスシステムにおける異なるゴレイコードの使用から実現される利点を説明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−トランスデューサの帯域を示す単結晶トランスデューサアレイを含むプローブ、
−前記トランスデューサアレイの素子に結合されると共に、前記プローブに同じ送信期間中に2つ以上のビームを異なるビーム方向に送信させるように制御する送信ビーム形成器であり、各ビームは前記トランスデューサの帯域の殆ど異なる帯域幅を占めている送信ビーム形成器、
−前記同じ受信期間中に、前記送信したビームに応答して、2つ以上の受信ビームを処理するために結合される受信ビーム形成器であり、前記受信ビームは前記送信したビームの方向に対応する操舵方向を示している受信ビーム形成器、
−前記受信ビームをフィルタリングするように動作する前記ビーム形成器に結合されるフィルタ、
−前記フィルタに結合される信号プロセッサ、
−前記信号プロセッサに結合される画像プロセッサ、及び
−前記受信ビームの成分から形成される画像を表示する前記画像プロセッサに結合されるディスプレイ
を有する超音波撮像システム。
【請求項2】
前記送信ビーム形成器はさらに、前記プローブに、別々に符号化した送信パルスを前記異なるビーム方向に送信させるように動作するパルス符号化器を有する請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項3】
前記パルス符号化器は、チャープパルス符号化器、バーカーコード符号化器、ゴレイコード符号化器のうちの1つを有する請求項2に記載の超音波撮像装置。
【請求項4】
前記フィルタは、前記異なる帯域幅に対応する通過帯域を示すバンドパスフィルタを有する請求項1に記載の超音波撮像装置。
【請求項5】
前記フィルタは、前記送信ビームの特性に合った2つ以上の整合フィルタを有する請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項6】
前記フィルタは、前記符合化した送信パルスの特性に合った2つ以上の整合フィルタを有する請求項2に記載の超音波撮像システム。
【請求項7】
前記整合フィルタは、予想される受信信号の帯域幅に特に合った通過帯域を示し、前記予想される受信信号の位相特性の個々の補完形である位相応答特性を示す請求項5に記載の超音波撮像システム。
【請求項8】
前記フィルタは、前記予想される受信信号の前記特性を考慮して選択される特性を示す2つ以上の不整合フィルタを有する請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項9】
前記ビームの帯域幅は、周波数に関し殆ど重複していない請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項10】
前記フィルタは、バンドパスフィルタを有する請求項9に記載の超音波撮像システム。
【請求項11】
前記ビームの帯域幅は、周波数に関し僅かに重複している請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項12】
前記送信ビーム形成器は、別々に符合化したパルスを使用して前記ビームを送信し、前記フィルタは、前記ビームの符合化に合った整合フィルタを有する請求項11に記載の超音波撮像システム。
【請求項13】
前記ビーム形成器は、マルチラインのビーム形成器を有する請求項1に記載の超音波撮像システム。
【請求項14】
前記マルチラインのビーム形成器は、前記送信ビームの操舵方向の各々に略一直線に並べられる2つ以上のビームを製造するように動作する請求項13に記載の超音波撮像システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【公表番号】特表2007−510450(P2007−510450A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537475(P2006−537475)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003569
【国際公開番号】WO2005/043188
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】