説明

印刷ヘッド及び吐出装置並びに印刷ヘッドの振動部形成方法

【課題】各吐出口から均一の吐出量で液滴を吐出でき、かつ意図しない吐出口からの液滴吐出を防止できる印刷ヘッド及び吐出装置並びに印刷ヘッドの振動部形成方法を提供する。
【解決手段】
印刷ヘッド1の各圧力発生室9の上部にはそれぞれ異なる弾性部材5が配置され、各弾性部材5にはそれぞれ異なる圧電振動子4の端部が当接されている。弾性部材5は接着特性を有する樹脂からなり、各圧電振動子4の端部は弾性部材5の厚みを超えない範囲で弾性部材5に埋没した状態で接着されている。そのため、各圧電振動子4が振動すると弾性部材5を介して圧力発生室9内の吐出液に均一の押圧力が印加され、吐出口10から吐出液が均一の吐出量で吐出される。また、各弾性部材5は各圧電振動子4ごとに分離されているので、圧電振動子4の振動が他の圧力発生室9に伝播するというクロストークの問題が生じない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷ヘッド及び吐出装置並びに印刷ヘッドの振動部形成方法に関し、特に圧電振動子を用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、液晶表示装置のカラーフィルタや有機EL表示装置の製造にインクジェット方式の吐出装置が用いられている。
図3(a)、(b)の符号101は、そのような従来の吐出装置の印刷ヘッドの一例を示しており、図3(a)は内部構造を説明するための概略正面図、図3(b)は同概略側面図である。
【0003】
印刷ヘッド101は筐体102とノズルプレート106と弾性板105とを有している。筐体102は略直方体の形状であり、一面を下方に向けて底面にされている。弾性板105は筐体102の底面に上方を向いた面が密着され固定されている。ノズルプレート106は弾性板105の下方を向いた面に上方を向いた面が密着され固定されている。
【0004】
ノズルプレート106の下方を向いた面には複数の吐出口110が設けられ、ノズルプレート106の内部には複数の圧力発生室109が互いに離間して設けられている。各圧力発生室109内は吐出流路114によりそれぞれ異なる吐出口110に接続されている。
弾性板105の下方を向いた面は、ノズルプレート106の上方を向いた面に設けられた各圧力発生室109の開口から各圧力発生室109内に部分的に露出されている。
【0005】
筐体102の側面には凹形状の窪みが設けられ、筐体102の底面の各圧力発生室109の真上位置には窪み171の内側とそれぞれ連結するように、鉛直方向に複数の貫通孔107が設けられている。弾性板105の上方を向いた面は各貫通孔107を介して窪み171の内側に部分的に露出されている。
窪み171の内側には複数の圧電振動子104と固定板103とが配置されている。
固定板103は窪み171の底面に固定されている。
【0006】
各圧電振動子104は棒形状であり、長手方向を鉛直方向と平行にして、それぞれ異なる圧力発生室109の真上位置に、水平方向に一列に並んで配置されている。各圧電振動子104の下端はそれぞれ異なる貫通孔107内に挿入され、弾性板105の上方を向いた面に当接されている。また各圧電振動子104は弾性板105から離間した一部で固定板103に固定されている。
【0007】
筐体102の内部には共通インク室108が設けられている。各圧力発生室109内は接続流路115により共通インク室108内に接続されている。
印刷ヘッド101の外部には、図示しないインクタンクが配置されており、インクタンクは供給流路117により共通インク室108内に接続されている。
【0008】
吐出液の蓄液されたインクタンクから共通インク室108内に吐出液が供給されると、吐出液は接続流路115を介して各圧力発生室109内にそれぞれ流入し、各圧力発生室109内はそれぞれ吐出液で充満される。
各圧力発生室109内が吐出液で充満された状態で、圧電振動子104に直流電圧が印加されると、圧電振動子104の下端部は長手方向に振動し、弾性板105を介して圧力発生室109内の吐出液に押圧力が印加され、吐出液は吐出口110から吐出される。
【0009】
前記従来構造の印刷ヘッド101においては、一般的に、弾性板105は薄い金属箔や有機高分子のフィルム等の材質で構成された板状構造体であり、弾性板105と各圧電振動子104とはそれぞれ接着剤等による貼り付けで当接される。従って、各圧電振動子104と弾性板105との当接状態が均一にならずに、圧電振動子104に同じ電圧が印加されても、該圧電振動子104から弾性板105を介して吐出液に印加される押圧力に差が生じ、各吐出口110から吐出される吐出液量が変動するという不具合が生じる虞があった。
【0010】
また、弾性板105はヘッド全体に対して連続した一体構造であるため、取付状態によっては、直流電圧が印加された圧電振動子104に当接する部分の弾性板105の振動が、弾性板105を介して周辺に伝播し、他の吐出口110から吐出液が吐出されるというクロストークの問題が生じる虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3675436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は前記弾性板に起因する問題を解決するために創作されたものであり、その目的は、各吐出口から均一の吐出量で液滴を吐出でき、かつ意図しない吐出口からの液滴吐出を防止できる印刷ヘッド及び吐出装置並びに印刷ヘッドの振動部形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明は、複数の圧力発生室が内部に形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートに形成された各前記圧力発生室の開口をそれぞれ塞ぐように設けられた振動部と、前記ノズルプレートの外側から前記振動部に当接された複数の圧電振動子と、前記ノズルプレートに形成され、各前記圧力発生室にそれぞれ接続された複数の吐出口と、を有する印刷ヘッドであって、
前記振動部は樹脂からなり、各前記圧電振動子の端部は前記振動部の厚みを超えない範囲で前記振動部に埋没して接触した状態で接着された印刷ヘッドである。
本発明は、前記振動部は、タイプAデュロメータ硬さ試験で測定された硬さが35以上である印刷ヘッドである。
本発明は、前記ノズルプレートには板状部が固定され、前記振動部は前記板状部に固定された印刷ヘッドである。
本発明は、前記板状部の各前記圧力発生室の開口と対面する部分には貫通孔部が設けられ、前記振動部の周囲は前記貫通孔部の内周に接着された印刷ヘッドである。
本発明は、前記貫通孔部は複数の貫通孔で構成され、前記振動部は複数の弾性部材で構成され、各前記圧電振動子の端部はそれぞれ異なる前記弾性部材に接着され、各前記弾性部材の周囲はそれぞれ異なる前記貫通孔の内周に接着された印刷ヘッドである。
本発明は吐出装置であって、前記印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドと相対的に水平移動可能に構成された基板ステージと、を有し、前記印刷ヘッドから吐出された吐出液が前記基板ステージに載置された吐出対象物の表面に着弾するように構成された吐出装置である。
本発明は、複数の圧力発生室が内部に形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートに固定された板状部と、前記板状部に固定され、前記ノズルプレートに形成された各前記圧力発生室の開口をそれぞれ塞ぐように設けられた振動部と、前記ノズルプレートの外側から前記振動部に当接された複数の圧電振動子と、前記ノズルプレートに形成され、各前記圧力発生室にそれぞれ接続された複数の吐出口と、前記板状部と前記ノズルプレートとが分離された状態で、各前記圧電振動子の端部を、前記板状部の各前記圧力発生室の開口と対面する部分に設けられた貫通孔部内に、前記板状部の前記ノズルプレートを固定する面とは逆側から挿入する圧電振動子配置工程と、接着特性を有する液状の樹脂を前記貫通孔部内に、前記板状部の前記ノズルプレートを固定する面側から押し込み、各前記圧電振動子の端部を前記樹脂に埋没させたのち前記樹脂を硬化させて、各前記圧電振動子の端部に接着され、かつ周囲が前記貫通孔部の内周に接着された前記振動部を形成する樹脂充填工程と、を有する印刷ヘッドの振動部形成方法である。
【0014】
本発明は印刷ヘッドであって、前記インク室から各前記圧力発生室に吐出液が供給され、前記弾性部材は前記吐出液と接触し、前記圧電振動子が振動すると、前記弾性部材を介して前記圧力発生室内の吐出液に振動が伝達され、振動が伝達された前記吐出液が前記吐出口から吐出される印刷ヘッドである。
なお、タイプAデュロメータ硬さ試験の試験方法はJIS K6253:2006に規定されている。
【発明の効果】
【0015】
各圧電振動子の端部と弾性部材との当接状態を均一にできるので、各圧力発生室内の吐出液に印加される押圧力は均一になり、各吐出口から吐出される吐出液量は変動しなくなる。
弾性部材の振動が他の圧力発生室に伝播しないので、意図しない吐出口から液滴が吐出されるというクロストークの問題が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明である吐出装置の立体図
【図2】(a)本発明である印刷ヘッドの概略正面図 (b)同概略側面図
【図3】(a)従来の印刷ヘッドの概略正面図 (b)同概略側面図
【図4】(a)〜(f)本発明である印刷ヘッドの組み立て工程を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明である吐出装置の構造の一例を説明する。
図1は吐出装置50の立体図を示している。
吐出装置50は台座51と基板ステージ53と印刷ヘッド1とを有している。
台座51の上方を向いた面は水平にされ、その面には互いに平行な2本の直線状の主レール52a、52bが設けられている。
【0018】
基板ステージ53は主レール52a、52b上に両方のレールに架かるように配置されている。基板ステージ53の下方を向いた面の、主レール52a、52bと向かい合う部分にはそれぞれ主レール上移動機構61a、61bが設けられている。主レール上移動機構61a、61bにはそれぞれモーターが備えられ、制御装置65から制御信号を受けると、基板ステージ53を主レール52a、52bの長手方向に沿って往復移動可能に構成されている。
基板ステージ53の上方を向いた面には基板保持面58が設けられ、真空吸着等により吐出対象物である基板を保持可能に構成されている。
【0019】
台座51上の基板ステージ53よりも高い位置には、棒形状のブリッジ54が、その長手方向が主レール52a、52bの長手方向と垂直で水平になるように配置されている。
ブリッジ54の両端部は、台座51上の2本の主レール52a、52bのそれぞれの外側に設けられた支柱55a、55bの上端部にそれぞれ固定されている。
印刷ヘッド1は、台座51上の基板ステージ53よりも高い位置で、ブリッジ54の側面上に配置されている。
【0020】
ブリッジ54の印刷ヘッド1と向かい合う方の側面には、その長手方向に沿って直線状の副レール56が設けられ、印刷ヘッド1の側面の、副レール56と向かい合う部分には副レール上移動機構62が設けられている。副レール上移動機構62にはモーターが備えられ、制御装置65から制御信号を受けると、印刷ヘッド1を副レール56の長手方向に沿って往復移動可能に構成されている。
【0021】
従って、基板ステージ53を主レール52a、52bの長手方向に沿って移動させ、ブリッジ54の下方を通過させながら、印刷ヘッド1を副レール56の長手方向に沿って往復移動させることにより、印刷ヘッド1を基板ステージ53上の所望位置の上方に位置させることが可能であり、その状態で印刷ヘッド1から吐出液を吐出させると、基板ステージ53の基板保持面58上に載置された吐出対象物表面の所望位置に吐出液を着弾させることができる。
【0022】
本発明の吐出装置50における移動機構は、印刷ヘッド1が基板ステージ53上を相対的に水平移動可能に構成されている限りでは上記の構造に限定されず、台座51に対して静止した基板ステージ53の上方を印刷ヘッド1が水平で互いに垂直な2方向に移動可能に構成されていてもよいし、台座51に対して静止した印刷ヘッド1の下方を基板ステージ53が水平で互いに垂直な2方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0023】
図2(a)は印刷ヘッド1の内部構造を説明するための概略正面図を示し、図2(b)は同概略側面図を示している。
印刷ヘッド1は、筐体(ヘッド本体)2とノズルプレート6と複数の圧力発生モジュール70とを有している。
【0024】
筐体2は略直方体の形状であり、ノズルプレート6は略方形平板の形状である。筐体2は一面を下方に向けて底面にされており、ノズルプレート6は筐体2の底面に固定されている。
ノズルプレート6の下方を向いた面には複数の吐出口10が設けられ、ノズルプレート6の内部には複数の圧力発生室9が互いに離間して設けられている。各圧力発生室9内は吐出流路14によりそれぞれ異なる吐出口10に接続されている。
【0025】
筐体2の側面には凹形状の窪み71が設けられ、筐体2の底部には窪み71の下方の側面と筐体2の底面とから2面が構成された板状部29が形成されている。
板状部29には鉛直方向に貫通孔部が設けられている。
ここでは貫通孔部は圧力発生室9と同数の複数の貫通孔7から構成され、各貫通孔7はノズルプレート6の上方を向いた面に形成されたそれぞれ異なる圧力発生室9の開口と相対するように、開口と同じ配置かつ同じ中心間距離で設けられている。
【0026】
ノズルプレート6の上方の面に形成された各圧力発生室9の開口から各前記圧力発生室9内に部分的に露出するように振動部が設けられている。
ここでは振動部は圧力発生室9と同数の複数の弾性部材5から構成され、各弾性部材5はそれぞれ異なる貫通孔7内に配置されている。
【0027】
各圧力発生モジュール70は筐体2の窪み71の内側にそれぞれ配置されている。各圧力発生モジュール70はそれぞれ固定板3と複数の圧電振動子4とを有している。
各固定板3は窪み71の底面にそれぞれ固定されている。
【0028】
各圧電振動子4は棒形状であり、長手方向を鉛直方向と平行にして、それぞれ異なる圧力発生室9の真上位置に、水平方向に一列に並んで配置されている。各圧電振動子4の下端はそれぞれ異なる貫通孔7を介して弾性部材5に当接されている。
各弾性部材5は樹脂からなり、各圧電振動子4の下端は各弾性部材5の厚みを超えない範囲で各弾性部材5に埋没して接触した状態で接着され、各弾性部材5の周囲は各貫通孔7の内周に接着されている。
【0029】
各圧電振動子4は弾性部材5から離間した一部でそれぞれ異なる固定板3に固定されている。各固定板3の当該固定部分より下部には切り欠きが形成され、各圧電振動子4の下端と固定板3とは離間されている。
各圧電振動子4の一側面には第一の電極層24が設けられ、それと反対側の側面には第二の電極層23が、第一の電極層24とは絶縁して設けられている。
【0030】
第一の電極層24と第二の電極層23の間に直流電圧が印加されると、圧電振動子4の固定板3に固定されていない下端部は長手方向に伸長又は収縮のいずれかの形状変化を起こし、弾性部材5を介して、圧力発生室9内に押圧力を印加可能に構成されている。
【0031】
弾性部材5はタイプAデュロメータ硬さ試験で測定された硬さが35以上のものが望ましい。
また弾性部材5は吐出液の溶媒に対して耐性を有する必要があり、望ましい材質の例としては、シーリングやポッティング等で使用されるシリコーン系のペースト状ゴム素材が挙げられる。
本発明の印刷ヘッド1は、複数枚の固定板3が設けられた構造に限定されず、一枚の固定板3が設けられ、各圧電振動子4はこの固定板3に固定されている構造でもよい。
【0032】
上述したような印刷ヘッド1の組み立て工程を、図4(a)〜(f)を参照して説明する。図4(a)〜(c)は各工程での印刷ヘッド1の側面図を示し、図4(d)〜(f)は図4(a)〜(c)の各工程において筐体2の底面を下方から見上げた平面図を示している。
【0033】
図4(a)、(d)は印刷ヘッド1の組み立て前の状態を示している。印刷ヘッド1は筐体2とノズルプレート6と複数の圧力発生モジュール70とにそれぞれ分離されている。
筐体2の底部の板状部29には上述したように、筐体2の底面がノズルプレート6の上方を向いた面と固定される際に、それぞれ異なる圧力発生室9の上部の開口と連通するように複数の貫通孔7が設けられている。
【0034】
各圧力発生モジュール70の構造を説明する。
各固定板3は略方形平板の形状であり、一端を下方に向けられている。各固定板3の一方の面は一面平坦に形成されている。他方の面は下部に切り欠きが形成され、切り欠きの厚みは切り欠きより上部の厚みよりも薄くされている。
各固定板3の切り欠きより上部には接着剤層25が配置されている。
各圧電振動子4の第一の電極層24が設けられた側面の上部は接着剤層25を介して各固定板3のいずれかに固定されている。このとき各圧電振動子4の下端は固定板3の下端より下方に突き出すようにされている。
【0035】
まず、図4(b)、(e)に示すように、各圧電振動子4の下端がそれぞれ異なる貫通孔7の内側に挿入されるようにして、各圧力発生モジュール70をそれぞれ窪み71の内側に移動させる。各固定板3の上端に設けられた凸部が窪み71の上方の側壁に設けられた凹部と嵌合するように位置合わせして各圧力発生モジュール70を静止させる(図2(a)の正面図を参照)。このとき、それぞれ異なる貫通孔7の内側に挿入された各圧電振動子4の下端は、それぞれ貫通孔7の長さの範囲内であって、筐体2の底面から突き出さないような位置に静止している。また各固定板3の平坦な面はそれぞれ窪み71の底面に接触され、各固定板3の下端はそれぞれ窪み71の下方の側面に接触される。
【0036】
各固定板3の上部を主ネジ42により筐体2の所定位置にそれぞれネジ止めする(図2(a)の正面図を参照)。
各固定板3の切り欠きとその固定板3に固定された圧電振動子4の下部との間には隙間16が形成されている。
各圧電振動子4の列の長さよりも長い押さえ板11を、隙間16に配置し、押さえ板11の両端部を副ネジ41により筐体2の所定位置にネジ止めする(図2(a)の正面図を参照)。
【0037】
各固定板3の押さえ板11と向かい合う面には凹部が設けられており、押さえ板11の各固定板3と向かい合う面には凸部が設けられている。押さえ板11の両端部を筐体2の所定位置にネジ止めすると、押さえ板11の凸部は各固定板3の凹部と嵌合するように構成されている。
【0038】
このようにして、各固定板3は筐体2に対して相対的に所定の位置関係で位置合わせされ、それぞれ固定される。接着剤層25と固定板3とはそれぞれ導電性を有しており、各圧電振動子4の第一の電極層24は接着剤層25と固定板3とを介して筐体2に電気的に接続される。
【0039】
次いで、接着特性を有する液状の樹脂が表面に一様に塗布された剥離フィルムを筐体2の下方から、板状部29の貫通孔7が設けられた部分に剥離フィルムの樹脂面が接触するように押し当てると、各貫通孔7と向かい合う部分の樹脂は各貫通孔7内に押し込まれる。このとき各貫通孔7の内側に挿入されている圧電振動子4の下端は、筐体2の底面から突き出さないように位置しているので、樹脂を貫通せず、樹脂の下方を向いた面には露出しない。
【0040】
次いで、樹脂を硬化させると、圧電振動子4の下端は押し込まれた樹脂に、樹脂の厚みを超えない範囲で埋没した状態で接着され、押し込まれた樹脂の周囲は各貫通孔7の内周に接着され、各貫通孔7内は樹脂により密に塞がれる。
剥離フィルムを筐体2から剥がすと、図4(c)、(f)に示すように、各貫通孔7内にそれぞれ一つずつ弾性部材5が形成される。各弾性部材5は、互いに離間されている。
【0041】
次いで、一面に複数の回路電極22が設けられた回路基板21を、窪み71の開口付近に配置し、各回路電極22をそれぞれ異なる圧電振動子4の第二の電極層23に接触させ、電気的に接続させる。
回路基板21は不図示の制御装置に接続され、制御装置から制御信号を受けると、制御信号により選択された一つの回路電極22と自身の入力端子とを電気的に接続するように構成されている。
回路基板21の入力端子と筐体2とは、筐体2の外部に配置された直流電源69のそれぞれ異なる出力端子に接続されている。
【0042】
制御信号により回路基板21上で一つの回路電極22が選択された状態で、直流電源69から回路基板21と筐体2との間に直流電圧が印加されると、選択された回路電極22と接触する圧電振動子4に直流電圧が印加される。
【0043】
筐体2の内部には共通インク室8が設けられ、筐体2の側面にはインクタンク接続口18が設けられている。共通インク室8内は供給流路17によりインクタンク接続口18に接続されている。共通インク室8の下部には底壁が設けられておらず、共通インク室8の内部は筐体2の底面に露出されている。
【0044】
次いで、図2(b)に示すように、各圧力発生室9の上部の開口と筐体2の底面のそれぞれ異なる貫通孔7とが相対し、各圧力発生室9内が接続流路15により共通インク室8内に接続するようにノズルプレート6と筐体2とを位置合わせした状態で、ノズルプレート6の上方を向いた面を筐体2の底面に固定させる。このようにして、印刷ヘッド1は組み上がる。
【0045】
ここでは筐体2の内部には、各圧力発生室9に共通の共通インク室8が設けられているが、本発明はこれに限定されず、各圧力発生室9にそれぞれ別個のインク室が設けれられていてもよい。
インクタンク接続口18は、印刷ヘッド1の外部に配置されたインクタンク57に接続されている(図1参照)。
【0046】
インクタンク57には吐出液が蓄液されており、インクタンク57から共通インク室8内に吐出液が供給されると、吐出液は接続流路15を通って各圧力発生室9内にそれぞれ流入する。
圧力発生室9内に流入した吐出液は、吐出流路14を通って吐出口10に到達するが、吐出口10における吐出液の背圧が吐出液の重量による下向きの力とつりあい、吐出液に他の下向きの力が追加されない限り、吐出液は吐出口10から吐出されず、従って、吐出液が圧力発生室9内に充満した状態が維持される。
【0047】
各圧力発生室9内に充満した吐出液は弾性部材5と接触する。
各圧力発生室9内に吐出液が充満した状態で、制御装置により選択された一つの圧電振動子4に直流電圧が印加されると、その圧電振動子4の下端が振動し、その下端に接着された弾性部材5が振動して、その弾性部材5と接触する圧力発生室9内の吐出液に押圧力が印加され、吐出液はその圧力発生室9に接続された吐出口10から外部に吐出される。
【0048】
各圧電振動子4の端部が所定の厚みの弾性部材5に所定の埋没長で埋没して、接着剤等を使わずに直接接触された状態で接着されることにより、両者の当接状態が均一になり、各圧電振動子4からそれぞれ弾性部材5を介して吐出液に印加される押圧力に差は生じなくなる。従って、押圧力の差に起因する各吐出口10からの吐出量の変動は発生しない。
【0049】
また、各圧電振動子4の端部に当接する弾性部材5は、各圧電振動子4ごとに離間されているため、電圧が印加された圧電振動子4で発生する振動は、これと当接する弾性部材5のみに伝播するが、他の弾性部材5には伝播せず、弾性部材5を介した振動伝播により他の吐出口10から吐出液が吐出されるというクロストークの問題は発生しない。
【0050】
各固定板3は上述したような取付構造により筐体2に固定されているため、筐体2からそれぞれ別個に着脱可能に構成されている。
従って、印刷ヘッド1の一つの圧電振動子4が損傷した際には、印刷ヘッド1全体を交換しなくても、複数の固定板3のうち損傷した圧電振動子4が固定された一枚だけをそれに固定された複数の圧電振動子4と一緒に筐体2から取り外し、他の固定板3は筐体2に固定された状態で、修理することができる。
【0051】
弾性部材5は上方を向いた面が各圧電振動子4の下端に接着されると同時に、周囲が各貫通孔7の内周に直接接着されているため、各固定板3を筐体2から取り外す際には、その固定板3に固定された複数の圧電振動子4の各下端に接着された弾性部材5は破壊されるが、各貫通孔7内から破壊された弾性部材5を除去したのち、上述した方法で弾性部材5を再作成することが可能である。
【0052】
弾性部材5の厚みと、圧電振動子4端部の弾性部材5に対する埋没長が修復前後で変化しなければ、弾性部材5と圧電振動子4との当接状態は修復前後で同一となるため、修復前後で吐出性能は変化しない。
各固定板3と各圧電振動子4との接着は、筐体2と各固定板3と各圧電振動子4との相互の位置関係が変化しないように考慮された不図示の貼付治具を用いて行う。筐体2に対する圧電振動子4の相対的な位置関係は変化しないので、修復による吐出性能の変化は発生しない。
【実施例】
【0053】
圧電振動子4の端部が弾性部材5に埋没する長さは、吐出液の吐出性能に影響する。
実施例として、弾性部材5の厚み0.50mmに対して圧電振動子4の先端部の埋没長を0.48mmとして上記のような印刷ヘッド1を製造した。
このとき、入力電圧50Vに対して平均速度4m/s、一滴あたりの平均吐出量40plの吐出性能が得られた。
【符号の説明】
【0054】
1……印刷ヘッド
2……筐体(ヘッド本体)
3……固定板
4……圧電振動子
5……弾性部材
6……ノズルプレート
7……貫通孔
9……圧力発生室
10……吐出口
29……板状部
50……吐出装置
53……基板ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の圧力発生室が内部に形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートに形成された各前記圧力発生室の開口をそれぞれ塞ぐように設けられた振動部と、
前記ノズルプレートの外側から前記振動部に当接された複数の圧電振動子と、
前記ノズルプレートに形成され、各前記圧力発生室にそれぞれ接続された複数の吐出口と、
を有する印刷ヘッドであって、
前記振動部は樹脂からなり、各前記圧電振動子の端部は前記振動部の厚みを超えない範囲で前記振動部に埋没して接触した状態で接着された印刷ヘッド。
【請求項2】
前記振動部は、タイプAデュロメータ硬さ試験で測定された硬さが35以上である請求項1記載の印刷ヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートには板状部が固定され、
前記振動部は前記板状部に固定された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の印刷ヘッド。
【請求項4】
前記板状部の各前記圧力発生室の開口と対面する部分には貫通孔部が設けられ、
前記振動部の周囲は前記貫通孔部の内周に接着された請求項3記載の印刷ヘッド。
【請求項5】
前記貫通孔部は複数の貫通孔で構成され、
前記振動部は複数の弾性部材で構成され、
各前記圧電振動子の端部はそれぞれ異なる前記弾性部材に接着され、各前記弾性部材の周囲はそれぞれ異なる前記貫通孔の内周に接着された請求項4記載の印刷ヘッド。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドと相対的に水平移動可能に構成された基板ステージと、
を有し、
前記印刷ヘッドから吐出された吐出液が前記基板ステージに載置された吐出対象物の表面に着弾するように構成された吐出装置。
【請求項7】
複数の圧力発生室が内部に形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートに固定された板状部と、
前記板状部に固定され、前記ノズルプレートに形成された各前記圧力発生室の開口をそれぞれ塞ぐように設けられた振動部と、
前記ノズルプレートの外側から前記振動部に当接された複数の圧電振動子と、
前記ノズルプレートに形成され、各前記圧力発生室にそれぞれ接続された複数の吐出口と、
前記板状部と前記ノズルプレートとが分離された状態で、
各前記圧電振動子の端部を、前記板状部の各前記圧力発生室の開口と対面する部分に設けられた貫通孔部内に、前記板状部の前記ノズルプレートを固定する面とは逆側から挿入する圧電振動子配置工程と、
接着特性を有する液状の樹脂を前記貫通孔部内に、前記板状部の前記ノズルプレートを固定する面側から押し込み、各前記圧電振動子の端部を前記樹脂に埋没させたのち前記樹脂を硬化させて、各前記圧電振動子の端部に接着され、かつ周囲が前記貫通孔部の内周に接着された前記振動部を形成する樹脂充填工程と、
を有する印刷ヘッドの振動部形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−83705(P2011−83705A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238672(P2009−238672)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】