反射防止膜及び反射防止膜を有する光学部材
【課題】波長400〜700nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有し、製造の際にも安定した分光反射特性が得られる反射防止膜を提供する。
【解決手段】波長400〜700nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100〜150nmの光学膜厚を有し、前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、1.48≦N3≦1.94、及び1.15≦N4≦1.27を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【解決手段】波長400〜700nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100〜150nmの光学膜厚を有し、前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、1.48≦N3≦1.94、及び1.15≦N4≦1.27を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関し、詳しくは製造ごとの反射防止性能の変動が小さな反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等に使用される反射防止膜は、可視域の波長400〜700 nmにおける反射率を低減させる働きを有するものである。
【0003】
写真用カメラや放送用カメラ等に広く用いられている高性能な単焦点レンズやズームレンズは、多数枚(10〜40枚)からなるレンズ構成を有しており、これらレンズの表面には、基板の屈折率と異なる大小の屈折率を有する誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定し、干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0004】
例えば、光学ガラスBSC7(nd=1.516)基板に、基板側から順に光学膜厚69.7nmのZrO2(nd=2.05)層、光学膜厚37.3nmのMgF2(nd=1.38)層、光学膜厚88.2nmのZrO2(nd=2.05)層、及び光学膜厚142.1nmのMgF2(nd=1.38)層を形成した4層構成の反射防止膜は、図24に示す反射防止特性を有し、波長400〜700 nmの中心波長付近での最大反射率は0.6%近くに達する。
【0005】
このような反射率が0.6%程度の反射防止膜を20枚のレンズからなるレンズ群に施した場合、レンズの面数は40面であるからその透過率は79%となり、21%分の反射損失が生じてしまう。しかも、その反射光が多重反射を繰り返すことによりフレア、ゴースト等が発生し、光学特性が著しく劣化し撮影画像に大きな弊害を引起す。このため、可視光(400〜700 nm)の波長域で最大反射率0.1%程度を達成すべく検討が進められてきた。
【0006】
特開2001-100002号(特許文献1)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、Al2O3層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、可視域の波長帯域(270 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。
【0007】
しかしながら、特開2001-100002号に記載の反射防止膜は、400〜700 nmの可視波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある上に、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第3層及び第6層、実施例2の第2層、第3層及び第6層等)を有しているため、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、製品ごとの反射防止特性の変動が大きいという問題がある。
【0008】
特開2002-107506号(特許文献2)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、Al2O3層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、実施例2においては可視域の波長帯域(300 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。
【0009】
しかしながら、特開2002-107506号に記載の反射防止膜も、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層、第2層及び第4層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくいという問題があり、実際には400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えないように膜厚精度を保つのは容易なことではない。
【0010】
特開2007-213021号(特許文献3)は、光学基板上に設けられた10層からなる多層膜であって、第1層、第4層及び第9層が1.35〜1.50の屈折率を有する低屈折率材料により構成され、第3層、第5層、第7層及び第10層が1.55〜1.85の屈折率を有する中間屈折率材料により構成され、第2層、第6層及び第8層が1.70〜2.50の高屈折率材料により構成された反射防止膜を開示しており、波長400〜700 nmで最大反射率が0.05〜0.15%程度の反射防止特性が得られると記載している。
【0011】
しかしながら、特開2007-213021号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1-1の第7層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある。
【0012】
近年、反射防止性能を向上する目的で膜の密度を低くしたナノ多孔質膜やナノ粒子膜を利用した反射防止膜が開示されている。例えば、特開2007-94150号(特許文献4)は、基板上に、屈折率及び光学膜厚を規定した5層又は6層の膜を積層してなり、最上層がMgF2、SiO2、Al2O3及びフッ素樹脂の群から選ばれた少なくとも1材料からなる多孔質層である反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は可視光の波長領域400〜700 nmにおいて、反射率0.05%以下の反射防止効果を得ることができると記載している。
【0013】
しかしながら、特開2007-94150号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層目の光学膜厚は12.4 nmである。)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【0014】
特開2008-225210号(特許文献5)は、基板上に、屈折率及び光学膜厚を規定した9層を積層してなり、最上層がMgF2、SiO2、Al2O3及びフッ素樹脂の群から選ばれた少なくとも1材料からなる多孔質層である反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は紫外〜可視域(例えば310〜700 nm)又は可視〜近赤外域(例えば400〜900 nm)の広帯域において、反射率0.1%以下の反射防止効果を得ることができると記載している。
【0015】
しかしながら、特開2008-225210号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例2の第1層目の光学膜厚は27.8 nmである。)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると前記波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【0016】
特開2009-8901号(特許文献6)は、基板上に隣接する層同士の屈折率が異なるようにして8層以上の層が積層されてなり、前記媒質と接する最表層の屈折率n1が設計中心波長λ0において1.30以下であり、且つ、波長範囲がλ0±120 nmの範囲にある入射光に対する反射率Rが、光線入射角0〜10度の範囲において0.1%以下であり、最表層が、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム及びフッ化アルミニウムナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む多孔質構造の層である反射防止膜を開示している。
【0017】
しかしながら、特開2009-8901号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層[例えば、実施例1の第5層目の光学膜厚は0.042λ0(λ0=550 nmにおいて23.1 nm)である。]を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると前記波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001-100002号公報
【特許文献2】特開2002-107506号公報
【特許文献3】特開2007-213021号公報
【特許文献4】特開2007-94150号公報
【特許文献5】特開2008-225210号公報
【特許文献6】特開2009-8901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記課題を解決するために提案されたもので、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有し、製造の際にも安定した分光反射特性が得られる反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、基板上に、精度良く膜厚を制御できる厚さである100 nm以上の光学膜厚の層を4層積層して反射防止膜を構成することにより、製造での膜厚変動が反射防止特性へ与える影響がきわめて小さくなり、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0021】
すなわち、本発明の反射防止膜は、波長400〜700 nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、
前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100 nm以上の光学膜厚を有し、
前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすことを特徴とする。
【0022】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に190 nm以下であるのが好ましい。
【0023】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜150 nmであるのが好ましい。
【0024】
前記第1層〜第3層は、それぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されているのが好ましく、前記第4層は、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であるのが好ましい。
【0025】
前記第1層〜第3層は物理成膜法により形成された層であり、前記第4層が湿式法により形成された層であるのが好ましい。
【0026】
前記物理成膜法が反応性スパッタリング法であり、前記湿式法がゾル-ゲル法であるのが好ましい。
【0027】
本発明の光学部材は、前記反射防止膜を、1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に形成してなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の反射防止膜は、各層の光学膜厚を、膜厚制御性が良い100 nm以上で設計し、良好な反射防止性能が得られるように各層の屈折率を最適化したものであるため、製造ごとの膜厚のばらつきに起因する反射率のばらつきが小さく、安定した分光反射特性が得られる。このため、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下を実現することができ、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される光学素子の反射防止膜としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】基板上に形成された本発明の4層構成の反射防止膜の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第1層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図3】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第2層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図4】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第3層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図6】実施例2の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図7】実施例3の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図8】実施例4の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図9】実施例5の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図10】実施例6の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図11】実施例7の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図12】実施例8の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図13】実施例9の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図14】実施例10の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図15】実施例10の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図16】実施例11の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図17】実施例11の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図18】実施例12の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図19】実施例12の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図20】実施例13の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図21】実施例13の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図22】比較例1の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図23】比較例1の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図24】従来の4層構成の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[1]反射防止膜
本発明の反射防止膜1は、図1に示すように、基板2上に、前記基板2側から順に第1層〜第4層の膜を順に積層してなり、
各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100 nm以上であり、
前記基板2が1.45〜2.12の屈折率N0を有し、
前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、及び
1.48≦N3≦1.94
1.15≦N4≦1.27
を満たす。
なお、本願において屈折率は、特に断りのない限り550 nmの波長における値である。
【0031】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜190 nmであるのが好ましい。反射防止膜は、波長の1/4の光学膜厚を有するときに最も高い反射防止効果を発揮する。つまり、反射防止膜は、その光学膜厚の4倍の波長の光の反射を効果的に防止するので、100〜190 nmの光学膜厚を有する反射防止膜は、400〜760 nmの光、すなわちほぼ可視域(400〜760 nm)の光の反射防止に特に有効である。前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜150 nmであるのがより好ましく、105〜145 nmであるのが最も好ましい。すなわち、可視光の全域で高い反射防止効果を得るためには、400〜700 nmの範囲の中心付近[振動数で考えた中心であり、(1/400+1/700)/2=1/509から、510 nm付近が中心である。]の波長の光の反射を効果的に防止するような光学膜厚に設定するのが好ましい。
【0032】
100 nmより薄い膜を形成する場合、製造ごとのばらつきが大きくなり、膜厚が薄くなればなるほど安定した反射防止性能が得られなくなる。100 nmより薄い厚さの膜を精度良く形成するためには、膜厚を1 nm以下の精度で制御することが必要となり、製造コストの上昇を招いてしまう。一方、190 nmよりも厚い膜を形成するには、厚くなればなるほど長い成膜時間が必要となり、やはり製造コストが上昇してしまう。さらに、膜が厚くなることにより、膜が基板に与える応力が増し、基板から剥れやすくなるというデメリットも生じる。
【0033】
前記第1層〜第3層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されているのが好ましい。これらの材料を単独で使用するか、2種以上を混合して使用することにより、1.42〜2.30の範囲で屈折率を調節した膜を形成することが可能である。特にTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料、並びにAl2O3又はSiO2の中屈折率材料をそれぞれ単独、又は混合して使用するのが好ましい。
【0034】
前記第4層は低屈折率層であり、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であるのが好ましい。
【0035】
基板2は、屈折率が1.45〜2.12であり、好ましくは1.46〜2.10である。屈折率がこのような範囲にある基板2を用いて前記反射防止膜1を形成することにより、波長領域400〜700 nmにおいて優れた反射防止性能を得ることができる。
【0036】
基板2の形状は特に限定されず、板、レンズ、プリズム等の光学部材の基板となるような形状であればどのようなものでも良い。基板2は石英ガラス、光学ガラス(BaSF2、SF5、SK16、LaSF01、LaSF09、LaSF016、BK7、FK5、PK1、LaF2、LaF3、LaSK01、LAK7、LAK14等)、光学結晶(LBO、CLBO、BBO、KTP、KDP、DKDP等)、セラミックス(ルミセラ(登録商標)等)等からなるのが好ましい。
【0037】
[2]製造方法
(1) 第1層〜第3層
第1層〜第3層は反応性スパッタリング法、イオンビームアシスト蒸着法、反応性イオンプレーティング法のいずれかの方法で成膜するのが好ましく、中でも反応性スパッタリング法が最も好ましい。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせて用いても良い。これらの方法は膜厚制御性が良い成膜法なので、製造ごとの膜厚の変動が小さくなり、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られる。また、これらの方法で形成される膜は従来の真空蒸着法に比べて高い硬度を有するので耐久性に優れた反射防止膜が得られる。
【0038】
各層は、異なる屈折率を有する2種以上の材料を混合することによってそれぞれ所望の屈折率に調節することができる。例えば反応性スパッタリング法により各層を形成する場合、少なくとも2種以上の異種金属からなる各ターゲットをそれぞれに独立にスパッタリングして形成した複合金属からなる超薄膜に、電気的に中性な酸素ガスの活性種を照射し、複合金属と酸素ガスの活性種とを反応させて複合金属の酸化物に変換することによって所望の屈折率を有する混合膜を形成することができる。超薄膜の形成と、超薄膜の複合金属の酸化物への変換とを順次繰り返すことで、混合膜の厚さの調節が可能である。
【0039】
形成される混合膜の屈折率は、前記2種以上の異種金属からなるターゲットをスパッタリングする際に、ターゲットに印加する電力量を変え各金属のスパッタ量を調節することにより設定することができる。例えば、2種の金属をターゲットとして用いる場合、混合膜の屈折率は前記2種の金属酸化物の各屈折率の間の任意の屈折率に調節することが可能である。各ターゲットへの印加電力量と形成される混合膜の屈折率との関係は、予備実験により検量線を作成することで求めておくのが好ましい。
【0040】
(2) 第4層
第4層のナノ多孔質膜又はナノ粒子膜は、例えば、国際公開第2002/018982号、国際公開第2006/030848号、特開2006-3562号、特開2006-215542号、特開2007-094150号、特開2008-225210号、特開2008-233403号公報、及び「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載の方法により得ることができる。
【0041】
シリカを主成分とする多孔質層は、湿式法により形成するのが好ましく、特にゾル-ゲル法が好ましい。すなわち、アルコキシシラン等のシリカ骨格形成化合物からなる湿潤ゲルを、必要に応じて有機修飾し、バインダーとして紫外線硬化性の樹脂を混合し、得られた塗工液を塗布、乾燥及び焼成することにより形成する。シリカを主成分とする多孔質層は、特開2006-3562号、特開2006-215542号、特開2007-094150号、特開2008-225210号、特開2008-233403号公報、及び「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載の方法により形成することができる。以下に、「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載のアルカリ及び酸を用いた2段階反応によるナノポーラスシリカ膜の形成方法について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
2段階反応によるナノポーラスシリカ膜の形成は、(i)アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解及び縮重合して調製したアルカリ性ゾルに、さらに酸性触媒を添加して第一のゾルを得る工程、(ii) 第一のゾルにアルコキシシランと水の混合物を添加し、さらに加水分解及び縮重合を進め第二のゾルを調製する工程、(iii)得られた第二のゾルを基板上に塗布及び乾燥(熱処理)する工程、(iv)アルカリ処理工程、及び(vi)洗浄工程により行う。
【0043】
(i) 第一のゾルを調製する工程
(a) アルコキシシラン
第一のゾルを生成するためのアルコキシシランはテトラアルコキシシランのモノマー又はオリゴマー(縮重合物)が好ましい。4官能のアルコキシシランを用いた場合、比較的大きな粒径を有するコロイド状シリカ粒子のゾルを得ることができる。テトラアルコキシシランは、Si(OR)4[Rは炭素数1〜5のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、又は炭素数1〜4のアシル基(アセチル等)]により表されるものが好ましい。テトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン等が挙げられる。中でもテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲で、テトラアルコキシシランに少量の3官能以下のアルコキシシランを配合しても良い。
【0044】
(b) 塩基性触媒の存在下での加水分解及び縮重合
アルコキシシランに有機溶媒、塩基性触媒及び水を添加することにより、加水分解及び縮重合が進行する。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、ブタノール等のアルコールが好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましい。塩基性触媒としては、アンモニア、アミン、NaOH又はKOHが好ましい。好ましいアミンは、アルコールアミン又はアルキルアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン、n-プロピルアミン等)である。
【0045】
有機溶媒とアルコキシシランとの量比は、アルコキシシランの濃度がSiO2換算で0.1〜10質量%(シリカ濃度)となるように設定するのが好ましい。シリカ濃度が10質量%超であると、得られるゾル中のシリカ粒子の粒径は大きくなり過ぎる。一方シリカ濃度が0.1未満であると、得られるゾル中のシリカ粒子の粒径は小さくなり過ぎる。なお有機溶媒/アルコキシシランのモル比としては5×102〜5×104の範囲が好ましい。
【0046】
塩基性触媒/アルコキシシランのモル比は1×10-4〜1にするのが好ましく、1×10-4〜0.8にするのがより好ましく、3×10-4〜0.5にするのが特に好ましい。塩基性触媒/アルコキシシランのモル比が1×10-4未満であると、アルコキシシランの加水分解反応が十分に起こらない。一方モル比が1を超えて塩基を添加しても触媒効果は飽和する。
【0047】
水/アルコキシシランのモル比は1〜40が好ましい。水/アルコキシシランのモル比が40超であると、加水分解反応が速く進行し過ぎるため反応の制御が難しく、均一なシリカエアロゲル膜が得られにくくなる。一方1未満であると、アルコキシシランの加水分解が十分に起こらない。
【0048】
塩基性触媒及び水を含有するアルコキシシランの溶液は、15〜25℃で約30分〜10時間静置又はゆっくり撹拌することにより熟成させるのが好ましい。熟成により加水分解及び縮重合が進行し、アルカリ性ゾルが生成する。アルカリ性ゾルは、コロイド状シリカ粒子の分散液の他、コロイド状シリカ粒子がクラスター状に凝集した分散液も含む。
【0049】
(c) 酸性触媒の存在下での加水分解及び縮重合
得られたアルカリ性ゾルに酸性触媒、並びに必要に応じて水及び有機溶媒を添加し、pHを約1まで下げ、酸性状態で加水分解及び縮重合をさらに進行させる。酸性触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、酢酸等が挙げられる。有機溶媒は上記と同じものを使用できる。有機溶媒/アルコキシシランのモル比及び水/アルコキシシランのモル比は上記と同じで良い。酸性触媒を含有するゾルは10〜90℃で約15分〜24時間静置又はゆっくり撹拌して熟成するのが好ましい。熟成により加水分解及び縮重合が進行し、第一のゾルが生成する。
【0050】
第一のゾル中のシリカ粒子のメジアン径は100 nm以下であり、好ましくは10〜50 nmである。メジアン径は動的光散乱法により測定することができる。
【0051】
(ii) 第二のゾルを調製する工程
(a) アルコキシシラン
第一のゾルにアルコキシシラン及び水の混合物を添加し、加水分解及び縮重合をさらに進行させ、第二のゾルを調製する。アルコキシシランとしてはSi(OR1)x(R2)4-x[xは2〜4の整数である。]により表される2〜4官能のものを用いるのが好ましい。R1は炭素数1〜5のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、又は炭素数1〜4のアシル基(アセチル等)が好ましい。R2は炭素数1〜10の有機基が好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、デシル、フェニル、ビニル、アリル等の炭化水素基、及びγ-クロロプロピル、CF3CH2-、CF3CH2CH2-、C2F5CH2CH2-、C3F7CH2CH2CH2-、CF3OCH2CH2CH2-、C2F5OCH2CH2CH2-、C3F7OCH2CH2CH2-、(CF3)2CHOCH2CH2CH2-、C4F9CH2OCH2CH2CH2-、3-(パーフルオロシクロヘキシルオキシ)プロピル、H(CF2)4CH2OCH2CH2CH2-、H(CF2)4CH2CH2CH2-、γ-グリシドキシプロピル、γ-メルカプトプロピル、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル、γ-メタクリロイルオキシプロピル等の置換炭化水素基が挙げられる。
【0052】
2官能のアルコキシシランの具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジメチルジアルコキシシランが挙げられる。3官能のアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン、及びフェニルトリエトキシシラン等のフェニルトリアルコキシシランが挙げられる。4官能のアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン等が挙げられる。アルコキシシランは3官能以上が好ましく、メチルトリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランがより好ましい。
【0053】
水/アルコキシシランのモル比は、1〜5が好ましい。アルコキシシラン及び水の混合物を第一のゾルに添加後、15〜25℃で約1〜20日間静置又ゆっくり撹拌することにより熟成させる。熟成により加水分解及び縮重合がさらに進行し、第二のゾルが生成する。熟成時間が20日を超えると、ゾル中のシリカ粒子のメジアン径が大きくなり過ぎる。
【0054】
第二のゾル中のコロイド状シリカ粒子のメジアン径は1〜100 nmであり、好ましくは10〜50 nmである。
【0055】
(iii) 塗布及び乾燥工程
(a) 塗布
第二のゾルを基材の表面に塗布する方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、印刷法等が挙げられる。レンズのような三次元構造物に塗布する場合、ディッピング法が好ましい。ディッピング法における引き上げ速度は約0.1〜3 mm/秒であるのが好ましい。
【0056】
第二のゾルの濃度及び流動性を調整し塗布適性を高めるため、分散媒として前記有機溶媒を加えても良い。塗布時の第二のゾル中のシリカの濃度は0.1〜20質量%が好ましい。必要に応じて、第二のゾルを超音波処理しても良い。超音波処理によってコロイド粒子の凝集を防止できる。超音波の周波数は10〜30 kHzが好ましく、出力は300〜900 Wが好ましく、処理時間は5〜120分間が好ましい。
【0057】
(b) 乾燥(熱処理)
塗布膜の乾燥条件は基材の耐熱性に応じて適宜選択する。縮重合反応を促進するために、水の沸点未満の温度で15分〜24時間熱処理した後、100〜200℃の温度で15分〜24時間熱処理しても良い。熱処理することによりナノポーラスシリカ膜は高い耐擦傷性を発揮する。
【0058】
(iv) アルカリ処理工程
ナノポーラスシリカ膜をアルカリで処理することにより耐擦傷性がいっそう向上する。アルカリ処理は、アルカリ溶液を塗布、又はアンモニア雰囲気中に放置することにより行うのが好ましい。アルカリ溶液の溶媒はアルカリに応じて適宜選択でき、水、アルコール等が好ましい。アルカリ溶液の濃度は、1×10-4〜20 Nが好ましく、1×10-3〜15 Nがより好ましい。
【0059】
前記アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機アルカリ;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アルカリ塩;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、n-アミルアミン、n-ヘキシルアミン、ラウリルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピリジン、イミダゾール、グアニジン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、コリン等の有機アルカリ;蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸モノメチルアミン、酢酸ジメチルアミン、酢酸アニリン、乳酸ピリジン、グアニジノ酢酸等の有機酸アルカリ塩等を用いることができる。
【0060】
アルカリ溶液の塗布によりアルカリ処理する場合、ナノポーラスシリカ膜1cm2当たり10〜200 mL塗布するのが好ましい。塗布はナノポーラスシリカ膜を塗布する場合と同様の方法ででき、スピンコート法が好ましい。スピンコート法における基材回転速度は、1,000〜15,000 rpm程度にするのが好ましい。アルカリ溶液を塗布後の膜は、好ましくは1〜40℃、より好ましくは10〜30℃で保存する。保存時間は、0.1〜10時間が好ましく、0.2〜1時間がより好ましい。
【0061】
アンモニア雰囲気中に放置してアルカリ処理する場合、1×10-1〜1×105 Paのアンモニアガス分圧中で処理するのが好ましい。処理温度は、1〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。処理時間は、1〜170時間が好ましく、5〜80時間がより好ましい。
【0062】
必要に応じて、アルカリ処理したナノポーラスシリカ膜を乾燥する。乾燥は、100〜200℃の温度で15分〜24時間行うのが好ましい。
【0063】
(v) 洗浄工程
アルカリ処理後のナノポーラスシリカ膜は、必要に応じて洗浄してもよい。洗浄は、水及び/又はアルコールに浸漬する方法、シャワーする方法、又はこれらの組み合わせにより行うのが好ましい。浸漬しながら超音波処理してもよい。洗浄の温度は1〜40℃が好ましく、時間は0.2〜15分が好ましい。ナノポーラスシリカ膜1 cm2当たり0.01〜1,000 mLの水及び/又はアルコールで洗浄するのが好ましい。洗浄後のナノポーラスシリカ膜は、100〜200℃の温度で15分〜24時間乾燥するのが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0064】
[3]光学部材
本発明の反射防止膜を、前述の1.45〜2.12の屈折率を有する基板に形成することにより、400〜700 nmの可視光帯域において、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止効果を有する光学部品が得られる。本発明の光学部品は、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載されるレンズ、プリズム、回折素子等に好適である。特に本発明の反射防止膜は耐久性に優れているので、カメラの対物レンズや接眼レンズ等の手に触れやすい部分のレンズに好適である。
【実施例】
【0065】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0066】
参考例1
屈折率1.45、1.52、1.72、1.92及び2.12の各基板上に、各層の光学膜厚が全て125 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率がそれぞれ1.15、1.18、1.21、1.24及び1.27としたときに、400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を光学薄膜計算シミュレーションにより最適化した。結果を表1〜表5に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
これらの最適化した第1層〜第3層の各屈折率を、基板屈折率に対してプロットしたグラフをそれぞれ図2〜図4に示す。これらのグラフから、屈折率1.45〜2.12の基板を用いて、各層の光学膜厚が全て125 nmとなるように第1層〜第3層及び屈折率1.15〜1.27の第4層を順に積層してなる反射防止膜を形成したときに、400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるような第1層〜第3層の屈折率(N1〜N3)は、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、及び
1.48≦N3≦1.94
を満たす範囲に入ることが分かる。
【0073】
実施例1
本発明の反射防止膜の例として、屈折率1.450の基板上に、可視光の全域で高い反射防止効果を得るため各層の光学膜厚が全て波長510 nmの1/4程度となるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.220に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表6に示し、その分光反射率の計算結果を図5に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
実施例2
基板の屈折率を1.770に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表7に示し、その分光反射率の計算結果を図6に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
実施例3
基板の屈折率を2.120に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表8に示し、その分光反射率の計算結果を図7に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
実施例4
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表9に示し、その分光反射率の計算結果を図8に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
実施例5
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例2と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表10に示し、その分光反射率の計算結果を図9に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
実施例6
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例3と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表11に示し、その分光反射率の計算結果を図10に示す。
【0084】
【表11】
【0085】
実施例7
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表12に示し、その分光反射率の計算結果を図11に示す。
【0086】
【表12】
【0087】
実施例8
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表13に示し、その分光反射率の計算結果を図12に示す。
【0088】
【表13】
【0089】
実施例9
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表14に示し、その分光反射率の計算結果を図13に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
図5〜図13から、屈折率1.45〜2.12の基板に形成した本発明の4層構成の反射防止膜は、可視光の全域で高い反射防止効果を得るため各層の光学膜厚を全て波長510nmの1/4程度に設定して最適化を施した場合、前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすとき、波長400〜700 nmにおいて最大反射率が0.1%以下となり、優れた反射防止効果を発揮することが分かる。
【0092】
上記の関係式より、基板の屈折率N0が1.450の場合、第1層の屈折率N1は1.531〜1.751、第2層の屈折率N2は1.635〜2.165となり、基板の屈折率N0が1.770の場合、第1層の屈折率N1は1.781〜2.001、第2層の屈折率N2は1.731〜2.261となり、基板の屈折率N0が2.120の場合、第1層の屈折率N1は2.054〜2.274、第2層の屈折率N2は1.836〜2.366となり、実施例1〜9の最適化されたこれらの層の屈折率は全てこの範囲に含まれる。
【0093】
実施例10
BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表15に示し、その分光反射率の計算結果を図14に示す。
【0094】
【表15】
【0095】
このようにして求めた表15に示す構成の反射防止膜を、以下のようにして作製した。
【0096】
(1)第1層〜第3層の形成
第1層(屈折率1.698)、第2層(屈折率1.910)及び第3層(屈折率1.688)は、BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、シンクロン社製RAS-1100Cを用いた反応性スパッタリング法で、それぞれ所望の屈折率になるようにNb2O5(屈折率2.243)及びSiO2(屈折率1.480)の比率を変えた混合膜として成膜した。反応性スパッタリング法は、金属Nbと金属Siとをターゲットにして、アルゴンガスによるスパッタで1 nm以下の超薄膜を形成した後に、ラジカルガンで発生させた酸素ガスの活性種を照射することにより混合金属を酸化し、Nb2O5とSiO2とからなる混合膜を形成する方法である。このスパッタリングと酸素ガスの活性種の照射とを光学膜厚が125.0 nmになるまで繰り返した。
【0097】
各層の混合膜の屈折率は、NbターゲットとSiターゲットとにそれぞれ印加する電力を変えることにより調節した。予備実験により、[(Nbターゲットへの印加電力)/(Nbターゲット+Siターゲットへの印加電力)]と屈折率との間にはほぼ直線関係が得られることが分かったため、この関係から各ターゲットの印加電力を調整することによって、屈折率を1.48〜2.24の範囲で任意に設定することができた。スパッタリング条件及び酸素ガスの活性種の発生条件は以下の通りであった。
【0098】
(a)Nbスパッタリング条件
投入電力:0〜1.6 kW
基板温度:室温
アルゴン導入量:200 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0099】
(b)Siスパッタリング条件
投入電力:0〜2.5 kW
基板温度:室温
アルゴン導入量:400 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0100】
(c)酸素ガスのラジカル条件
投入電力:2.0 kW
酸素導入量:80 sccm
※ なお成膜は、真空度2.0×10-4Paまで排気してから開始した。
【0101】
(2)第4層の形成
第4層(屈折率1.23)のナノ多孔質膜は、以下のようにして、ゾル/ゲル法により得られたゾルをスピンコートで塗布して形成した。
【0102】
テトラエトキシシラン1質量部とエタノール40質量部とを混合した後、アンモニア水(1 N)3質量部を加えて室温(25℃)で10時間撹拌し、アルカリ性ゾルを調製した。このアルカリ性ゾル40質量部に、エタノール4質量部と塩酸(12 N)4質量部とを添加してpHを約1にして室温で30分撹拌し、第一のゾルを調製した。この第一のゾル100質量部に、テトラエトキシシランと水とをモル比で1:3に混合した液を1質量部加え、室温(25℃)で15日間静置し、第二のゾルを調製した。
【0103】
前記第1層〜第3層を形成した後の第3層の上に、得られた第二のゾルをスピンコートにより塗布し、80℃で30分間乾燥した後、160℃で60分間熱処理した。さらに常温常圧でアンモニア/水蒸気中に3日間処理し、屈折率1.23及び光学膜厚125.0 nmのナノ多孔質膜(ナノポーラスシリカ膜)を成膜した。
【0104】
この反射防止膜を同じ方法で20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図15に示す。
【0105】
実施例11
TAF1(Nd=1.773)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表16に示し、その分光反射率の計算結果を図16に示す。
【0106】
【表16】
【0107】
このようにして求めた表16に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図17に示す。
【0108】
実施例12
FD60(Nd=1.805)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て100〜150 nmの範囲に入るように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表17に示し、その分光反射率の計算結果を図18に示す。
【0109】
【表17】
【0110】
このようにして求めた表17に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図19に示す。
【0111】
実施例13
LAC14(Nd=1.697)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て100〜190 nmの範囲に入るように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表18に示し、その分光反射率の計算結果を図20に示す。
【0112】
【表18】
【0113】
このようにして求めた表18に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図21に示す。
【0114】
比較例1
特開2002-14203を参考にして、BSC7(nd=1.516)ガラス基板に、表19に示すように各層の光学膜厚を最適化したTiO2及びSiO2からなる14層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図22に示す。
【0115】
【表19】
【0116】
表19に示す反射防止膜を、反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図23に示す。
【0117】
実施例10〜13及び比較例1の比較から明らかなように、本発明の実施例10〜13(図15、図17、図19及び図21)の反射防止膜は、比較例1(図23)に比べて、400〜700 nmの波長域において高い反射防止性能を有し、かつ反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0118】
1・・・反射防止膜
2・・・基板
【技術分野】
【0001】
本発明はテレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関し、詳しくは製造ごとの反射防止性能の変動が小さな反射防止膜、及びこの反射防止膜を有する光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ等に使用される反射防止膜は、可視域の波長400〜700 nmにおける反射率を低減させる働きを有するものである。
【0003】
写真用カメラや放送用カメラ等に広く用いられている高性能な単焦点レンズやズームレンズは、多数枚(10〜40枚)からなるレンズ構成を有しており、これらレンズの表面には、基板の屈折率と異なる大小の屈折率を有する誘電体膜を組み合わせ、各誘電体膜の光学膜厚を中心波長λに対して1/2λや1/4λに設定し、干渉効果を利用した多層膜による反射防止処理が施されている。
【0004】
例えば、光学ガラスBSC7(nd=1.516)基板に、基板側から順に光学膜厚69.7nmのZrO2(nd=2.05)層、光学膜厚37.3nmのMgF2(nd=1.38)層、光学膜厚88.2nmのZrO2(nd=2.05)層、及び光学膜厚142.1nmのMgF2(nd=1.38)層を形成した4層構成の反射防止膜は、図24に示す反射防止特性を有し、波長400〜700 nmの中心波長付近での最大反射率は0.6%近くに達する。
【0005】
このような反射率が0.6%程度の反射防止膜を20枚のレンズからなるレンズ群に施した場合、レンズの面数は40面であるからその透過率は79%となり、21%分の反射損失が生じてしまう。しかも、その反射光が多重反射を繰り返すことによりフレア、ゴースト等が発生し、光学特性が著しく劣化し撮影画像に大きな弊害を引起す。このため、可視光(400〜700 nm)の波長域で最大反射率0.1%程度を達成すべく検討が進められてきた。
【0006】
特開2001-100002号(特許文献1)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、Al2O3層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、可視域の波長帯域(270 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。
【0007】
しかしながら、特開2001-100002号に記載の反射防止膜は、400〜700 nmの可視波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある上に、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第3層及び第6層、実施例2の第2層、第3層及び第6層等)を有しているため、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、製品ごとの反射防止特性の変動が大きいという問題がある。
【0008】
特開2002-107506号(特許文献2)は、表面から順にMgF2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、Al2O3層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層、SiO2層、ZrO2/TiO2層及びAl2O3層からなる10層構造を有し、実施例2においては可視域の波長帯域(300 nm)において最大反射率が設計値0.1%以下の反射防止膜を開示しており、製造誤差を加味しても0.2%以下の反射率特性が確保できると記載している。
【0009】
しかしながら、特開2002-107506号に記載の反射防止膜も、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層、第2層及び第4層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくいという問題があり、実際には400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えないように膜厚精度を保つのは容易なことではない。
【0010】
特開2007-213021号(特許文献3)は、光学基板上に設けられた10層からなる多層膜であって、第1層、第4層及び第9層が1.35〜1.50の屈折率を有する低屈折率材料により構成され、第3層、第5層、第7層及び第10層が1.55〜1.85の屈折率を有する中間屈折率材料により構成され、第2層、第6層及び第8層が1.70〜2.50の高屈折率材料により構成された反射防止膜を開示しており、波長400〜700 nmで最大反射率が0.05〜0.15%程度の反射防止特性が得られると記載している。
【0011】
しかしながら、特開2007-213021号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1-1の第7層等)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.2%を越えてしまうことがある。
【0012】
近年、反射防止性能を向上する目的で膜の密度を低くしたナノ多孔質膜やナノ粒子膜を利用した反射防止膜が開示されている。例えば、特開2007-94150号(特許文献4)は、基板上に、屈折率及び光学膜厚を規定した5層又は6層の膜を積層してなり、最上層がMgF2、SiO2、Al2O3及びフッ素樹脂の群から選ばれた少なくとも1材料からなる多孔質層である反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は可視光の波長領域400〜700 nmにおいて、反射率0.05%以下の反射防止効果を得ることができると記載している。
【0013】
しかしながら、特開2007-94150号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例1の第1層目の光学膜厚は12.4 nmである。)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると400〜700 nmの波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【0014】
特開2008-225210号(特許文献5)は、基板上に、屈折率及び光学膜厚を規定した9層を積層してなり、最上層がMgF2、SiO2、Al2O3及びフッ素樹脂の群から選ばれた少なくとも1材料からなる多孔質層である反射防止膜を開示しており、この反射防止膜は紫外〜可視域(例えば310〜700 nm)又は可視〜近赤外域(例えば400〜900 nm)の広帯域において、反射率0.1%以下の反射防止効果を得ることができると記載している。
【0015】
しかしながら、特開2008-225210号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層(例えば、実施例2の第1層目の光学膜厚は27.8 nmである。)を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると前記波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【0016】
特開2009-8901号(特許文献6)は、基板上に隣接する層同士の屈折率が異なるようにして8層以上の層が積層されてなり、前記媒質と接する最表層の屈折率n1が設計中心波長λ0において1.30以下であり、且つ、波長範囲がλ0±120 nmの範囲にある入射光に対する反射率Rが、光線入射角0〜10度の範囲において0.1%以下であり、最表層が、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化アルミニウム及びフッ化アルミニウムナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む多孔質構造の層である反射防止膜を開示している。
【0017】
しかしながら、特開2009-8901号に記載の反射防止膜は、光学膜厚が非常に薄い層[例えば、実施例1の第5層目の光学膜厚は0.042λ0(λ0=550 nmにおいて23.1 nm)である。]を有しており、これらの薄い層の膜厚が変動することにより、反射特性が大きな影響を受けるため、製品ごとの反射防止特性の変動が大きくなるという問題があり、製造誤差を加味すると前記波長域での最大反射率が0.1%を越えてしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2001-100002号公報
【特許文献2】特開2002-107506号公報
【特許文献3】特開2007-213021号公報
【特許文献4】特開2007-94150号公報
【特許文献5】特開2008-225210号公報
【特許文献6】特開2009-8901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記課題を解決するために提案されたもので、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有し、製造の際にも安定した分光反射特性が得られる反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、基板上に、精度良く膜厚を制御できる厚さである100 nm以上の光学膜厚の層を4層積層して反射防止膜を構成することにより、製造での膜厚変動が反射防止特性へ与える影響がきわめて小さくなり、400〜700 nmの波長域で製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0021】
すなわち、本発明の反射防止膜は、波長400〜700 nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、
前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100 nm以上の光学膜厚を有し、
前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすことを特徴とする。
【0022】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に190 nm以下であるのが好ましい。
【0023】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜150 nmであるのが好ましい。
【0024】
前記第1層〜第3層は、それぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されているのが好ましく、前記第4層は、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であるのが好ましい。
【0025】
前記第1層〜第3層は物理成膜法により形成された層であり、前記第4層が湿式法により形成された層であるのが好ましい。
【0026】
前記物理成膜法が反応性スパッタリング法であり、前記湿式法がゾル-ゲル法であるのが好ましい。
【0027】
本発明の光学部材は、前記反射防止膜を、1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に形成してなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の反射防止膜は、各層の光学膜厚を、膜厚制御性が良い100 nm以上で設計し、良好な反射防止性能が得られるように各層の屈折率を最適化したものであるため、製造ごとの膜厚のばらつきに起因する反射率のばらつきが小さく、安定した分光反射特性が得られる。このため、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下を実現することができ、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等に使用される光学素子の反射防止膜としてきわめて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】基板上に形成された本発明の4層構成の反射防止膜の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第1層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図3】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第2層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図4】参考例1の反射防止膜の基板屈折率と第3層の最適屈折率との関係を示すグラフである。
【図5】実施例1の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図6】実施例2の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図7】実施例3の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図8】実施例4の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図9】実施例5の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図10】実施例6の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図11】実施例7の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図12】実施例8の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図13】実施例9の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【図14】実施例10の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図15】実施例10の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図16】実施例11の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図17】実施例11の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図18】実施例12の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図19】実施例12の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図20】実施例13の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図21】実施例13の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図22】比較例1の反射防止膜の分光反射率の設計値を示すグラフである。
【図23】比較例1の反射防止膜の分光反射率の製造変動を示すグラフである。
【図24】従来の4層構成の反射防止膜の分光反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[1]反射防止膜
本発明の反射防止膜1は、図1に示すように、基板2上に、前記基板2側から順に第1層〜第4層の膜を順に積層してなり、
各層の光学膜厚がそれぞれ独立に100 nm以上であり、
前記基板2が1.45〜2.12の屈折率N0を有し、
前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、及び
1.48≦N3≦1.94
1.15≦N4≦1.27
を満たす。
なお、本願において屈折率は、特に断りのない限り550 nmの波長における値である。
【0031】
前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜190 nmであるのが好ましい。反射防止膜は、波長の1/4の光学膜厚を有するときに最も高い反射防止効果を発揮する。つまり、反射防止膜は、その光学膜厚の4倍の波長の光の反射を効果的に防止するので、100〜190 nmの光学膜厚を有する反射防止膜は、400〜760 nmの光、すなわちほぼ可視域(400〜760 nm)の光の反射防止に特に有効である。前記第1層〜第4層の光学膜厚は、それぞれ独立に100〜150 nmであるのがより好ましく、105〜145 nmであるのが最も好ましい。すなわち、可視光の全域で高い反射防止効果を得るためには、400〜700 nmの範囲の中心付近[振動数で考えた中心であり、(1/400+1/700)/2=1/509から、510 nm付近が中心である。]の波長の光の反射を効果的に防止するような光学膜厚に設定するのが好ましい。
【0032】
100 nmより薄い膜を形成する場合、製造ごとのばらつきが大きくなり、膜厚が薄くなればなるほど安定した反射防止性能が得られなくなる。100 nmより薄い厚さの膜を精度良く形成するためには、膜厚を1 nm以下の精度で制御することが必要となり、製造コストの上昇を招いてしまう。一方、190 nmよりも厚い膜を形成するには、厚くなればなるほど長い成膜時間が必要となり、やはり製造コストが上昇してしまう。さらに、膜が厚くなることにより、膜が基板に与える応力が増し、基板から剥れやすくなるというデメリットも生じる。
【0033】
前記第1層〜第3層までの各層はそれぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されているのが好ましい。これらの材料を単独で使用するか、2種以上を混合して使用することにより、1.42〜2.30の範囲で屈折率を調節した膜を形成することが可能である。特にTiO2、Nb2O5、Ta2O5、CeO2、ZrO2、HfO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3及びSb2O3からなる群から選ばれた1種の高屈折率材料、並びにAl2O3又はSiO2の中屈折率材料をそれぞれ単独、又は混合して使用するのが好ましい。
【0034】
前記第4層は低屈折率層であり、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であるのが好ましい。
【0035】
基板2は、屈折率が1.45〜2.12であり、好ましくは1.46〜2.10である。屈折率がこのような範囲にある基板2を用いて前記反射防止膜1を形成することにより、波長領域400〜700 nmにおいて優れた反射防止性能を得ることができる。
【0036】
基板2の形状は特に限定されず、板、レンズ、プリズム等の光学部材の基板となるような形状であればどのようなものでも良い。基板2は石英ガラス、光学ガラス(BaSF2、SF5、SK16、LaSF01、LaSF09、LaSF016、BK7、FK5、PK1、LaF2、LaF3、LaSK01、LAK7、LAK14等)、光学結晶(LBO、CLBO、BBO、KTP、KDP、DKDP等)、セラミックス(ルミセラ(登録商標)等)等からなるのが好ましい。
【0037】
[2]製造方法
(1) 第1層〜第3層
第1層〜第3層は反応性スパッタリング法、イオンビームアシスト蒸着法、反応性イオンプレーティング法のいずれかの方法で成膜するのが好ましく、中でも反応性スパッタリング法が最も好ましい。また必要に応じてこれらの方法を組み合わせて用いても良い。これらの方法は膜厚制御性が良い成膜法なので、製造ごとの膜厚の変動が小さくなり、波長400〜700 nmで製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止特性を有する反射防止膜が得られる。また、これらの方法で形成される膜は従来の真空蒸着法に比べて高い硬度を有するので耐久性に優れた反射防止膜が得られる。
【0038】
各層は、異なる屈折率を有する2種以上の材料を混合することによってそれぞれ所望の屈折率に調節することができる。例えば反応性スパッタリング法により各層を形成する場合、少なくとも2種以上の異種金属からなる各ターゲットをそれぞれに独立にスパッタリングして形成した複合金属からなる超薄膜に、電気的に中性な酸素ガスの活性種を照射し、複合金属と酸素ガスの活性種とを反応させて複合金属の酸化物に変換することによって所望の屈折率を有する混合膜を形成することができる。超薄膜の形成と、超薄膜の複合金属の酸化物への変換とを順次繰り返すことで、混合膜の厚さの調節が可能である。
【0039】
形成される混合膜の屈折率は、前記2種以上の異種金属からなるターゲットをスパッタリングする際に、ターゲットに印加する電力量を変え各金属のスパッタ量を調節することにより設定することができる。例えば、2種の金属をターゲットとして用いる場合、混合膜の屈折率は前記2種の金属酸化物の各屈折率の間の任意の屈折率に調節することが可能である。各ターゲットへの印加電力量と形成される混合膜の屈折率との関係は、予備実験により検量線を作成することで求めておくのが好ましい。
【0040】
(2) 第4層
第4層のナノ多孔質膜又はナノ粒子膜は、例えば、国際公開第2002/018982号、国際公開第2006/030848号、特開2006-3562号、特開2006-215542号、特開2007-094150号、特開2008-225210号、特開2008-233403号公報、及び「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載の方法により得ることができる。
【0041】
シリカを主成分とする多孔質層は、湿式法により形成するのが好ましく、特にゾル-ゲル法が好ましい。すなわち、アルコキシシラン等のシリカ骨格形成化合物からなる湿潤ゲルを、必要に応じて有機修飾し、バインダーとして紫外線硬化性の樹脂を混合し、得られた塗工液を塗布、乾燥及び焼成することにより形成する。シリカを主成分とする多孔質層は、特開2006-3562号、特開2006-215542号、特開2007-094150号、特開2008-225210号、特開2008-233403号公報、及び「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載の方法により形成することができる。以下に、「ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(Journal of Sol-Gel Science and Technology)」,2000年,第18巻,219〜224頁に記載のアルカリ及び酸を用いた2段階反応によるナノポーラスシリカ膜の形成方法について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
2段階反応によるナノポーラスシリカ膜の形成は、(i)アルコキシシランを塩基性触媒下で加水分解及び縮重合して調製したアルカリ性ゾルに、さらに酸性触媒を添加して第一のゾルを得る工程、(ii) 第一のゾルにアルコキシシランと水の混合物を添加し、さらに加水分解及び縮重合を進め第二のゾルを調製する工程、(iii)得られた第二のゾルを基板上に塗布及び乾燥(熱処理)する工程、(iv)アルカリ処理工程、及び(vi)洗浄工程により行う。
【0043】
(i) 第一のゾルを調製する工程
(a) アルコキシシラン
第一のゾルを生成するためのアルコキシシランはテトラアルコキシシランのモノマー又はオリゴマー(縮重合物)が好ましい。4官能のアルコキシシランを用いた場合、比較的大きな粒径を有するコロイド状シリカ粒子のゾルを得ることができる。テトラアルコキシシランは、Si(OR)4[Rは炭素数1〜5のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、又は炭素数1〜4のアシル基(アセチル等)]により表されるものが好ましい。テトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン等が挙げられる。中でもテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲で、テトラアルコキシシランに少量の3官能以下のアルコキシシランを配合しても良い。
【0044】
(b) 塩基性触媒の存在下での加水分解及び縮重合
アルコキシシランに有機溶媒、塩基性触媒及び水を添加することにより、加水分解及び縮重合が進行する。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、ブタノール等のアルコールが好ましく、メタノール又はエタノールがより好ましい。塩基性触媒としては、アンモニア、アミン、NaOH又はKOHが好ましい。好ましいアミンは、アルコールアミン又はアルキルアミン(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン、n-プロピルアミン等)である。
【0045】
有機溶媒とアルコキシシランとの量比は、アルコキシシランの濃度がSiO2換算で0.1〜10質量%(シリカ濃度)となるように設定するのが好ましい。シリカ濃度が10質量%超であると、得られるゾル中のシリカ粒子の粒径は大きくなり過ぎる。一方シリカ濃度が0.1未満であると、得られるゾル中のシリカ粒子の粒径は小さくなり過ぎる。なお有機溶媒/アルコキシシランのモル比としては5×102〜5×104の範囲が好ましい。
【0046】
塩基性触媒/アルコキシシランのモル比は1×10-4〜1にするのが好ましく、1×10-4〜0.8にするのがより好ましく、3×10-4〜0.5にするのが特に好ましい。塩基性触媒/アルコキシシランのモル比が1×10-4未満であると、アルコキシシランの加水分解反応が十分に起こらない。一方モル比が1を超えて塩基を添加しても触媒効果は飽和する。
【0047】
水/アルコキシシランのモル比は1〜40が好ましい。水/アルコキシシランのモル比が40超であると、加水分解反応が速く進行し過ぎるため反応の制御が難しく、均一なシリカエアロゲル膜が得られにくくなる。一方1未満であると、アルコキシシランの加水分解が十分に起こらない。
【0048】
塩基性触媒及び水を含有するアルコキシシランの溶液は、15〜25℃で約30分〜10時間静置又はゆっくり撹拌することにより熟成させるのが好ましい。熟成により加水分解及び縮重合が進行し、アルカリ性ゾルが生成する。アルカリ性ゾルは、コロイド状シリカ粒子の分散液の他、コロイド状シリカ粒子がクラスター状に凝集した分散液も含む。
【0049】
(c) 酸性触媒の存在下での加水分解及び縮重合
得られたアルカリ性ゾルに酸性触媒、並びに必要に応じて水及び有機溶媒を添加し、pHを約1まで下げ、酸性状態で加水分解及び縮重合をさらに進行させる。酸性触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、酢酸等が挙げられる。有機溶媒は上記と同じものを使用できる。有機溶媒/アルコキシシランのモル比及び水/アルコキシシランのモル比は上記と同じで良い。酸性触媒を含有するゾルは10〜90℃で約15分〜24時間静置又はゆっくり撹拌して熟成するのが好ましい。熟成により加水分解及び縮重合が進行し、第一のゾルが生成する。
【0050】
第一のゾル中のシリカ粒子のメジアン径は100 nm以下であり、好ましくは10〜50 nmである。メジアン径は動的光散乱法により測定することができる。
【0051】
(ii) 第二のゾルを調製する工程
(a) アルコキシシラン
第一のゾルにアルコキシシラン及び水の混合物を添加し、加水分解及び縮重合をさらに進行させ、第二のゾルを調製する。アルコキシシランとしてはSi(OR1)x(R2)4-x[xは2〜4の整数である。]により表される2〜4官能のものを用いるのが好ましい。R1は炭素数1〜5のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、ブチル等)、又は炭素数1〜4のアシル基(アセチル等)が好ましい。R2は炭素数1〜10の有機基が好ましく、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、デシル、フェニル、ビニル、アリル等の炭化水素基、及びγ-クロロプロピル、CF3CH2-、CF3CH2CH2-、C2F5CH2CH2-、C3F7CH2CH2CH2-、CF3OCH2CH2CH2-、C2F5OCH2CH2CH2-、C3F7OCH2CH2CH2-、(CF3)2CHOCH2CH2CH2-、C4F9CH2OCH2CH2CH2-、3-(パーフルオロシクロヘキシルオキシ)プロピル、H(CF2)4CH2OCH2CH2CH2-、H(CF2)4CH2CH2CH2-、γ-グリシドキシプロピル、γ-メルカプトプロピル、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル、γ-メタクリロイルオキシプロピル等の置換炭化水素基が挙げられる。
【0052】
2官能のアルコキシシランの具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジメチルジアルコキシシランが挙げられる。3官能のアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン、及びフェニルトリエトキシシラン等のフェニルトリアルコキシシランが挙げられる。4官能のアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン等が挙げられる。アルコキシシランは3官能以上が好ましく、メチルトリアルコキシシラン及びテトラアルコキシシランがより好ましい。
【0053】
水/アルコキシシランのモル比は、1〜5が好ましい。アルコキシシラン及び水の混合物を第一のゾルに添加後、15〜25℃で約1〜20日間静置又ゆっくり撹拌することにより熟成させる。熟成により加水分解及び縮重合がさらに進行し、第二のゾルが生成する。熟成時間が20日を超えると、ゾル中のシリカ粒子のメジアン径が大きくなり過ぎる。
【0054】
第二のゾル中のコロイド状シリカ粒子のメジアン径は1〜100 nmであり、好ましくは10〜50 nmである。
【0055】
(iii) 塗布及び乾燥工程
(a) 塗布
第二のゾルを基材の表面に塗布する方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、印刷法等が挙げられる。レンズのような三次元構造物に塗布する場合、ディッピング法が好ましい。ディッピング法における引き上げ速度は約0.1〜3 mm/秒であるのが好ましい。
【0056】
第二のゾルの濃度及び流動性を調整し塗布適性を高めるため、分散媒として前記有機溶媒を加えても良い。塗布時の第二のゾル中のシリカの濃度は0.1〜20質量%が好ましい。必要に応じて、第二のゾルを超音波処理しても良い。超音波処理によってコロイド粒子の凝集を防止できる。超音波の周波数は10〜30 kHzが好ましく、出力は300〜900 Wが好ましく、処理時間は5〜120分間が好ましい。
【0057】
(b) 乾燥(熱処理)
塗布膜の乾燥条件は基材の耐熱性に応じて適宜選択する。縮重合反応を促進するために、水の沸点未満の温度で15分〜24時間熱処理した後、100〜200℃の温度で15分〜24時間熱処理しても良い。熱処理することによりナノポーラスシリカ膜は高い耐擦傷性を発揮する。
【0058】
(iv) アルカリ処理工程
ナノポーラスシリカ膜をアルカリで処理することにより耐擦傷性がいっそう向上する。アルカリ処理は、アルカリ溶液を塗布、又はアンモニア雰囲気中に放置することにより行うのが好ましい。アルカリ溶液の溶媒はアルカリに応じて適宜選択でき、水、アルコール等が好ましい。アルカリ溶液の濃度は、1×10-4〜20 Nが好ましく、1×10-3〜15 Nがより好ましい。
【0059】
前記アルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機アルカリ;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アルカリ塩;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、n-ブチルアミン、ジ-n-ブチルアミン、n-アミルアミン、n-ヘキシルアミン、ラウリルアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、アニリン、メチルアニリン、エチルアニリン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、ピリジン、イミダゾール、グアニジン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロオキサイド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、コリン等の有機アルカリ;蟻酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、蟻酸モノメチルアミン、酢酸ジメチルアミン、酢酸アニリン、乳酸ピリジン、グアニジノ酢酸等の有機酸アルカリ塩等を用いることができる。
【0060】
アルカリ溶液の塗布によりアルカリ処理する場合、ナノポーラスシリカ膜1cm2当たり10〜200 mL塗布するのが好ましい。塗布はナノポーラスシリカ膜を塗布する場合と同様の方法ででき、スピンコート法が好ましい。スピンコート法における基材回転速度は、1,000〜15,000 rpm程度にするのが好ましい。アルカリ溶液を塗布後の膜は、好ましくは1〜40℃、より好ましくは10〜30℃で保存する。保存時間は、0.1〜10時間が好ましく、0.2〜1時間がより好ましい。
【0061】
アンモニア雰囲気中に放置してアルカリ処理する場合、1×10-1〜1×105 Paのアンモニアガス分圧中で処理するのが好ましい。処理温度は、1〜40℃が好ましく、10〜30℃がより好ましい。処理時間は、1〜170時間が好ましく、5〜80時間がより好ましい。
【0062】
必要に応じて、アルカリ処理したナノポーラスシリカ膜を乾燥する。乾燥は、100〜200℃の温度で15分〜24時間行うのが好ましい。
【0063】
(v) 洗浄工程
アルカリ処理後のナノポーラスシリカ膜は、必要に応じて洗浄してもよい。洗浄は、水及び/又はアルコールに浸漬する方法、シャワーする方法、又はこれらの組み合わせにより行うのが好ましい。浸漬しながら超音波処理してもよい。洗浄の温度は1〜40℃が好ましく、時間は0.2〜15分が好ましい。ナノポーラスシリカ膜1 cm2当たり0.01〜1,000 mLの水及び/又はアルコールで洗浄するのが好ましい。洗浄後のナノポーラスシリカ膜は、100〜200℃の温度で15分〜24時間乾燥するのが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0064】
[3]光学部材
本発明の反射防止膜を、前述の1.45〜2.12の屈折率を有する基板に形成することにより、400〜700 nmの可視光帯域において、製造ばらつきを考慮しても最大反射率が0.1%以下の反射防止効果を有する光学部品が得られる。本発明の光学部品は、テレビカメラ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、車載カメラ、顕微鏡、望遠鏡等の光学機器に搭載されるレンズ、プリズム、回折素子等に好適である。特に本発明の反射防止膜は耐久性に優れているので、カメラの対物レンズや接眼レンズ等の手に触れやすい部分のレンズに好適である。
【実施例】
【0065】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0066】
参考例1
屈折率1.45、1.52、1.72、1.92及び2.12の各基板上に、各層の光学膜厚が全て125 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率がそれぞれ1.15、1.18、1.21、1.24及び1.27としたときに、400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を光学薄膜計算シミュレーションにより最適化した。結果を表1〜表5に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
これらの最適化した第1層〜第3層の各屈折率を、基板屈折率に対してプロットしたグラフをそれぞれ図2〜図4に示す。これらのグラフから、屈折率1.45〜2.12の基板を用いて、各層の光学膜厚が全て125 nmとなるように第1層〜第3層及び屈折率1.15〜1.27の第4層を順に積層してなる反射防止膜を形成したときに、400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるような第1層〜第3層の屈折率(N1〜N3)は、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、及び
1.48≦N3≦1.94
を満たす範囲に入ることが分かる。
【0073】
実施例1
本発明の反射防止膜の例として、屈折率1.450の基板上に、可視光の全域で高い反射防止効果を得るため各層の光学膜厚が全て波長510 nmの1/4程度となるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.220に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表6に示し、その分光反射率の計算結果を図5に示す。
【0074】
【表6】
【0075】
実施例2
基板の屈折率を1.770に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表7に示し、その分光反射率の計算結果を図6に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
実施例3
基板の屈折率を2.120に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表8に示し、その分光反射率の計算結果を図7に示す。
【0078】
【表8】
【0079】
実施例4
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表9に示し、その分光反射率の計算結果を図8に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
実施例5
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例2と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表10に示し、その分光反射率の計算結果を図9に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
実施例6
第4層膜の屈折率を1.270に変更した以外は、実施例3と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表11に示し、その分光反射率の計算結果を図10に示す。
【0084】
【表11】
【0085】
実施例7
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表12に示し、その分光反射率の計算結果を図11に示す。
【0086】
【表12】
【0087】
実施例8
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表13に示し、その分光反射率の計算結果を図12に示す。
【0088】
【表13】
【0089】
実施例9
第4層膜の屈折率を1.150に変更した以外は、実施例1と同様にして、反射防止膜を設計し、第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表14に示し、その分光反射率の計算結果を図13に示す。
【0090】
【表14】
【0091】
図5〜図13から、屈折率1.45〜2.12の基板に形成した本発明の4層構成の反射防止膜は、可視光の全域で高い反射防止効果を得るため各層の光学膜厚を全て波長510nmの1/4程度に設定して最適化を施した場合、前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20) ≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすとき、波長400〜700 nmにおいて最大反射率が0.1%以下となり、優れた反射防止効果を発揮することが分かる。
【0092】
上記の関係式より、基板の屈折率N0が1.450の場合、第1層の屈折率N1は1.531〜1.751、第2層の屈折率N2は1.635〜2.165となり、基板の屈折率N0が1.770の場合、第1層の屈折率N1は1.781〜2.001、第2層の屈折率N2は1.731〜2.261となり、基板の屈折率N0が2.120の場合、第1層の屈折率N1は2.054〜2.274、第2層の屈折率N2は1.836〜2.366となり、実施例1〜9の最適化されたこれらの層の屈折率は全てこの範囲に含まれる。
【0093】
実施例10
BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表15に示し、その分光反射率の計算結果を図14に示す。
【0094】
【表15】
【0095】
このようにして求めた表15に示す構成の反射防止膜を、以下のようにして作製した。
【0096】
(1)第1層〜第3層の形成
第1層(屈折率1.698)、第2層(屈折率1.910)及び第3層(屈折率1.688)は、BSC7(Nd=1.516)ガラス基板に、シンクロン社製RAS-1100Cを用いた反応性スパッタリング法で、それぞれ所望の屈折率になるようにNb2O5(屈折率2.243)及びSiO2(屈折率1.480)の比率を変えた混合膜として成膜した。反応性スパッタリング法は、金属Nbと金属Siとをターゲットにして、アルゴンガスによるスパッタで1 nm以下の超薄膜を形成した後に、ラジカルガンで発生させた酸素ガスの活性種を照射することにより混合金属を酸化し、Nb2O5とSiO2とからなる混合膜を形成する方法である。このスパッタリングと酸素ガスの活性種の照射とを光学膜厚が125.0 nmになるまで繰り返した。
【0097】
各層の混合膜の屈折率は、NbターゲットとSiターゲットとにそれぞれ印加する電力を変えることにより調節した。予備実験により、[(Nbターゲットへの印加電力)/(Nbターゲット+Siターゲットへの印加電力)]と屈折率との間にはほぼ直線関係が得られることが分かったため、この関係から各ターゲットの印加電力を調整することによって、屈折率を1.48〜2.24の範囲で任意に設定することができた。スパッタリング条件及び酸素ガスの活性種の発生条件は以下の通りであった。
【0098】
(a)Nbスパッタリング条件
投入電力:0〜1.6 kW
基板温度:室温
アルゴン導入量:200 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0099】
(b)Siスパッタリング条件
投入電力:0〜2.5 kW
基板温度:室温
アルゴン導入量:400 sccm
基板ホルダ回転数:100 rpm
超薄膜の厚さ:1 nm以下
【0100】
(c)酸素ガスのラジカル条件
投入電力:2.0 kW
酸素導入量:80 sccm
※ なお成膜は、真空度2.0×10-4Paまで排気してから開始した。
【0101】
(2)第4層の形成
第4層(屈折率1.23)のナノ多孔質膜は、以下のようにして、ゾル/ゲル法により得られたゾルをスピンコートで塗布して形成した。
【0102】
テトラエトキシシラン1質量部とエタノール40質量部とを混合した後、アンモニア水(1 N)3質量部を加えて室温(25℃)で10時間撹拌し、アルカリ性ゾルを調製した。このアルカリ性ゾル40質量部に、エタノール4質量部と塩酸(12 N)4質量部とを添加してpHを約1にして室温で30分撹拌し、第一のゾルを調製した。この第一のゾル100質量部に、テトラエトキシシランと水とをモル比で1:3に混合した液を1質量部加え、室温(25℃)で15日間静置し、第二のゾルを調製した。
【0103】
前記第1層〜第3層を形成した後の第3層の上に、得られた第二のゾルをスピンコートにより塗布し、80℃で30分間乾燥した後、160℃で60分間熱処理した。さらに常温常圧でアンモニア/水蒸気中に3日間処理し、屈折率1.23及び光学膜厚125.0 nmのナノ多孔質膜(ナノポーラスシリカ膜)を成膜した。
【0104】
この反射防止膜を同じ方法で20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図15に示す。
【0105】
実施例11
TAF1(Nd=1.773)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て125.0 nmとなるように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率を最適化した。最適化された屈折率を表16に示し、その分光反射率の計算結果を図16に示す。
【0106】
【表16】
【0107】
このようにして求めた表16に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図17に示す。
【0108】
実施例12
FD60(Nd=1.805)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て100〜150 nmの範囲に入るように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表17に示し、その分光反射率の計算結果を図18に示す。
【0109】
【表17】
【0110】
このようにして求めた表17に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図19に示す。
【0111】
実施例13
LAC14(Nd=1.697)ガラス基板に、各層の光学膜厚が全て100〜190 nmの範囲に入るように第1層〜第4層まで順に積層してなる反射防止膜を設計し、第4層膜の屈折率を1.230に固定して、光学薄膜計算シミュレーションにより400〜700 nmの波長域で反射率が最も小さくなるように第1層〜第3層の屈折率及び第1層〜第4層の光学膜厚を最適化した。最適化された屈折率及び光学膜厚を表18に示し、その分光反射率の計算結果を図20に示す。
【0112】
【表18】
【0113】
このようにして求めた表18に示す構成の反射防止膜を、実施例10と同様にして20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの5度入射分光反射率測定値の重ね書き結果を図21に示す。
【0114】
比較例1
特開2002-14203を参考にして、BSC7(nd=1.516)ガラス基板に、表19に示すように各層の光学膜厚を最適化したTiO2及びSiO2からなる14層の反射防止膜を設計した。その分光反射率の計算結果を図22に示す。
【0115】
【表19】
【0116】
表19に示す反射防止膜を、反応性スパッタリング法により20回繰り返して作製した。得られた20サンプルの分光反射率の重ね書きを図23に示す。
【0117】
実施例10〜13及び比較例1の比較から明らかなように、本発明の実施例10〜13(図15、図17、図19及び図21)の反射防止膜は、比較例1(図23)に比べて、400〜700 nmの波長域において高い反射防止性能を有し、かつ反射防止性能の製造安定性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0118】
1・・・反射防止膜
2・・・基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長400〜700 nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、
前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100 nm以上の光学膜厚を有し、
前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜において、前記第1層〜第4層の光学膜厚が、それぞれ独立に190 nm以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1に記載の反射防止膜において、前記第1層〜第4層の光学膜厚が、それぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第1層〜第3層が、それぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されており、前記第4層が、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第1層〜第3層が物理成膜法により形成された層であり、前記第4層が湿式法により形成された層であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項6】
請求項5に記載の反射防止膜において、前記物理成膜法が反応性スパッタリング法であり、前記湿式法がゾル-ゲル法であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止膜を、1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に形成してなる光学部材。
【請求項1】
波長400〜700 nmの光において1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に、前記基板から順に第1層〜第4層を形成してなる4層構成の反射防止膜であって、
前記第1層〜第4層が、それぞれ独立に100 nm以上の光学膜厚を有し、
前記基板の屈折率N0、及び前記第1層〜第4層の屈折率N1〜N4が、
(0.78×N0+0.40)≦N1≦(0.78×N0+0.62)、
(0.30×N0+1.20)≦N2≦(0.30×N0+1.73)、
1.48≦N3≦1.94、及び
1.15≦N4≦1.27
を満たすことを特徴とする反射防止膜。
【請求項2】
請求項1に記載の反射防止膜において、前記第1層〜第4層の光学膜厚が、それぞれ独立に190 nm以下であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項3】
請求項1に記載の反射防止膜において、前記第1層〜第4層の光学膜厚が、それぞれ独立に100〜150 nmであることを特徴とする反射防止膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第1層〜第3層が、それぞれTiO2、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2、HfO2、CeO2、SnO2、In2O3、ZnO、La2O3、Sb2O3、Al2O3、SiO2からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料で構成されており、前記第4層が、MgF2、SiO2、Al2O3からなる群から選ばれた少なくとも1種の材料を主成分とするナノ多孔質膜又はナノ粒子膜であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の反射防止膜において、前記第1層〜第3層が物理成膜法により形成された層であり、前記第4層が湿式法により形成された層であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項6】
請求項5に記載の反射防止膜において、前記物理成膜法が反応性スパッタリング法であり、前記湿式法がゾル-ゲル法であることを特徴とする反射防止膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の反射防止膜を、1.45〜2.12の屈折率を有する基板上に形成してなる光学部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2012−78597(P2012−78597A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224333(P2010−224333)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(311015207)ペンタックスリコーイメージング株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(311015207)ペンタックスリコーイメージング株式会社 (81)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]