説明

反応性スパッタリング方法及び反応性スパッタリング装置

【課題】連続基板処理時の温度の変動による膜質変化を抑制すること。
【解決手段】本発明の一実施形態では、スパッタ空間に臨む構造部材の温度に応じて、反応性ガスの流量を調整しながら、反応性スパッタリングを行う。具体的にはシールド120に温度センサ121を設け、温度に応じた流量に調整する。これにより、シールドに付着した膜の脱ガス量が変化しても、反応性ガスの分圧を所定にできる。ReRAMを構成する抵抗変化層、PrCaMnO3(PCMO)、LaSrMnO3(LSMO)、GdBaCoxOy(GBCO)等のペロブスカイト材料や、ニッケル酸化物(NiO)、バナジウム酸化物(V2O5)等の化学量論からずれた組成を有する2元系の遷移金属酸化物材料等が扱われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜質安定性に優れた反応性スパッタリング方法及び反応性スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル機器の高機能化には使用されるメモリの大容量化、高速化、低消費電力化、長寿命化等が必要不可欠である。中でもフラッシュメモリは様々な用途において使用されており、さらなる高性能化が期待されている。しかしながら、現在主流であるフローテイングゲートを用いたフラッシュメモリは、メモリセルの微細化に従い、隣接するセル同士のフローテイングゲート間の容量結合による干渉によって、閾値電圧の変動が生じるという課題を抱えており、微細化の限界が一般的に知られている。
【0003】
そこでフラッシュメモリの置き換えとして注目されているのが、微細化に適した記録原理方式を有する金属酸化物を備えるReRAMである。ReRAMとはResistivity Random Access Memoryの略であり、パルス電圧によって金属酸化物の状態(具体的には抵抗値)を変化させることができ、その情報は再度パルス電圧を印加しない限り保持することが可能な不揮発性メモリである。また、ReRAMは素子構造及び動作上の単純さから低コスト化も可能であり、50ns以下のオーダーで動作するとも言われており、これを用いた様々な提案がされている。
【0004】
ReRAMが備える抵抗変化層としては、PrCaMnO3(PCMO)、LaSrMnO3(LSMO)、GdBaCoxOy(GBCO)等のペロブスカイト材料や、ニッケル酸化物(NiO)、バナジウム酸化物(V2O5)、亜鉛酸化物(ZnO)、ニオブ酸化物(Nb2O5)、チタン酸化物(TiO2)、コバルト酸化物(CoO)、タンタル酸化物(Ta2O5)タングステン酸化物(WO2)等の化学量論からずれた組成を有する2元系の遷移金属酸化物材料等が扱われている。
【0005】
金属酸化物層等の金属化合物を作製する手段の一つとして、金属ターゲットを酸素ガス、窒素ガスなどの反応性ガスを用いてスパッタリングを行う反応性スパッタリングが挙げられており、制御性・再現性に優れたプロセスが生産に向けて必要とされている。
【0006】
しかしながら、反応性スパッタを用いて連続成膜を行う場合、処理回ごとに膜特性が異なるという問題がある。この現象を図8に示す。図8のデータはDCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、金属ターゲットTaの酸素反応性スパッタリングによって処理したときの処理枚数に対する、基板に成膜された膜(ここでは、Ta酸化物)の比抵抗値の変化を表したものである。このデータによると処理枚数が増えるにつれて比抵抗値が増加しており、1枚目から50枚目にかけて26%の比抵抗値の増加が確認される。
【0007】
比抵抗値が増加する原因としては、スパッタ装置内に設けられたシールドに付着した金属化合物がゲッタリング(取り込む)する酸素ガスの量が、場合によって変化することが挙げられている。上記ゲッタリングする酸素ガスの量が変化する理由としては、シールド温度の変化が挙げられる。処理枚数が少ない段階ではシールド表面温度が低く、シールドに付着した金属化合物からのDegas量(放出ガス量)が少ないため、該金属化合物における酸素のゲッタリング効果が大きい。ところが、処理枚数が増えるにつれてプラズマ熱をシールドが蓄熱し、該蓄熱によりシールド温度が上昇し、上記Degas量が増加する。このDegas量の増加によって酸素のゲッタリング効果が徐々に少なくなる結果、処理枚数の増加に伴い比抵抗値が増加する。
【0008】
処理枚数ごとの反応度の変化を抑制させる手段として、連続的な処理の前にシールドがスパッタリングプロセス中に達する温度になるまで十分なダミーランを行う方法がある。しかし、ターゲット・シールドライフの短縮、スループットの低減につながるため十分な対策にはなり得ない。
【0009】
また、特許文献1では、ヒータ加熱及びガス加熱等を用いてシールドをあらかじめ加熱(200℃乃至500℃)させることが提案されている。これは、あらかじめスパッタリングチャンバー内の熱平衡状態を実現させ、スパッタリングプロセス中の熱変動を小さくすることで、反応度の安定化を図ることを狙いとしている。しかし、チャンバー内を200℃以上に加熱させるため、十分に冷却された雰囲気での成膜ができない上、上述の場合と同様にシールド表面が熱平衡に達するまでに時間がかかってしまう。また、Al酸化物のように低温・高温とで結晶状態が変わる(γアルミナ・αアルミナ等)材料やTa酸化物のように酸素との結合状態を様々に形成する(TaO2・Ta2O5等)材料を用いる場合、上記方法では成膜時における緻密な反応の制御を行うことは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−175157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述のように、反応性スパッタリングの連続成膜における膜質変動をターゲット・シールドライフ及びスループットを損なうことなく抑制することが可能な反応性スパッタリング方法及び反応性スパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、成膜処理室内に配置されたターゲットをスパッタし、該成膜処理室内に反応性ガスを供給して、反応性スパッタリングにより前記成膜処理室内に配置された被処理基板上に成膜物を形成する反応性スパッタリング方法であって、前記成膜処理室内に設けられた、スパッタ空間に臨む構成部材の温度を測定する工程と、前記測定された温度の上昇に応じて、前記成膜処理室内に供給される反応性ガスの流量を低減させるように前記反応性ガスの流量を調整しながら、前記反応性スパッタリングを行う工程とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、反応性スパッタリングにより、被処理基板上に成膜物を形成する反応性スパッタリング装置であって、容器と、前記容器内に設けられ、ターゲットを取り付け可能な電極と、前記容器内に設けられ、前記被処理基板を保持可能な基板ホルダと、前記容器内に設けられ、前記反応性スパッタリングにおけるスパッタ空間に臨むように設けられたシールドと、前記容器内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段と、前記シールドの温度を測定可能な温度センサと、前記温度センサからの出力に応じて、前記シールドの温度の上昇に応じて、前記容器内に供給される反応性ガスの流量を低減させるように前記反応性ガス導入手段を制御する制御装置とを備えることを特徴とする。
【0014】
これらにより、温度に応じた反応性ガスの分圧(例えば、酸素分圧)を制御することが可能であり、真空容器内の構成部材のDegas量の影響を低減しつつ、連続成膜における安定性を確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ターゲット・シールドライフ、及びスループットを損なうことなく、反応性スパッタの連続成膜において処理枚数に依存した膜特性のばらつきを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態にかかわる反応性スパッタにおける比抵抗値のばらつきを抑制する処理装置の概略を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る、各シールド温度の酸素流量に対する比抵抗値特性を示すグラフである。
【図3】本発明の第2実施形態にかかる反応性スパッタ装置を示す図である。
【図4A】本発明の第3実施形態にかかる反応性スパッタ装置を示す図である。
【図4B】本発明の第3実施形態にかかる反応性スパッタ装置を示す図である。
【図5】本発明の第4実施形態における反応性制御機構の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第4実施形態における温度推定方法を説明する図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るReRAMの断面構造を示す概略図である。
【図8】従来の処理枚数と比抵抗値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明を用いて膜特性のばらつきを抑制する反応性スパッタの連続成膜方法を説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の方法の実施に適したスパッタ装置の概略図である。成膜処理室100はヒータ101によって所定の温度に加熱できるように構成されている。また、成膜処理室(容器)100は、被処理基板102を、基板支持台103に組み込まれた、サセプタ104を介して、ヒータ105によって所定の温度に加熱できるように構成されている。基板を保持可能な基板ホルダーとしての基板支持台103は、膜厚の均一性の観点から所定の回転数で回転できることが好ましい。成膜処理室内には、ターゲット106が被処理基板102を臨む位置に設置されている。ターゲット106は、Cu等の金属から出来ているバックプレート107を介してターゲットホルダー108に設置されている。なお、ターゲット106とバックプレート107を組み合わせたターゲット組立体の外形を一つの部品としてターゲット材料で作製し、これをターゲットとして取り付けても構わない。つまり、ターゲットがターゲットホルダーに設置された構成でも構わない。
【0019】
Cu等の金属製のターゲットホルダー108には、スパッタ放電用電力を印加する直流電源110が接続されており、絶縁体109により接地電位の成膜処理室100の壁から絶縁されている。スパッタ面から見たターゲット106の背後には、マグネトロンスパッタリングを実現するためのマグネット111が配設されている。マグネット111は、マグネットホルダー112に保持され、図示しないマグネットホルダー回転機構により回転可能となっている。ターゲットのエロージョンを均一にするため、放電中には、このマグネット111は回転している。ターゲット106は、基板102に対して斜め上方のオフセット位置に設置されている。すなわち、ターゲット106のスパッタ面の中心点は、基板102の中心点の法線に対して所定の寸法ずれた位置にある。ターゲット106と処理基板102の間には、遮蔽板116が配置され、電力が供給されたターゲット106から放出されるスパッタ粒子による被処理基板102上への成膜を制御している。スパッタリングは金属ターゲット106に、それぞれ直流電源110より、ターゲットホルダー108およびバックプレート107を介して電力を供給することにより実施される。
【0020】
この際、不活性ガスが、不活性ガス源201から、バルブ202、マスフローコントローラ203、バルブ204を介してターゲット付近から処理室100に導入される。また、反応性ガスは、反応性ガス源205から、バルブ206、マスフローコントローラ207、バルブ208を介して処理室100内の基板付近に導入される。よって、反応性ガス源205、バルブ206、マスフローコントローラ207、およびバルブ208は、反応性ガス導入に関わる機構として機能する。導入された不活性ガスおよび反応性ガスは、コンダクタンスバルブ117を介して、排気ポンプ118によって排気される。スパッタ時の成膜処理室側壁への膜の付着を防止、ないしは低減するために、シールド支持棒119を介して、処理空間を取り囲む形状のシールド120が設置されている。該シールド120は、成膜処理室100内に形成されるスパッタ空間の周囲において、該スパッタ空間を臨むように設けられている。
【0021】
シールド120の側壁(シールド120の被処理基板側)には、シールド120の温度(以下、“シールド温度”とも呼ぶ)を測定可能な熱電対などを備えたシールド温度センサ121が備え付けられている。なお、シールド温度センサ121は基板周辺の構成部材(被処理基板102基板以外の部材であって、成膜処理室が備える構成部材)の温度変化を正確に把握するために被処理基板102側に取り付けられているのが好ましいが、装置運用の観点から、シールド120の裏側などの膜が付着しない箇所に取り付けてもよい。また、シールド温度センサ121は、シールド120の複数箇所に設けてもよく、例えば、それらの平均を取ったり、膜が付着しやすい部分と膜が付着しにくい部分に設けこれらの温度データに重み付けを行い、制御に用いるシールド温度(あるいは、Degas量や反応性ガス分圧)を算出するようにしたりしてもよい。また、シールドに直接設けることなく、シールド近傍の部材に設けて、シールド温度を推定するようにしてもよい。
【0022】
シールド温度センサ121からの出力をフィードバックさせる反応性ガス制御機構209がマスフローコントローラ207を制御するように構成されている。
【0023】
反応性ガス制御機構209は、例えば、図2に示すような、各シールド温度における反応性ガス流量に対する、成膜処理室100に設けられたターゲット106からスパッタされた粒子と上記反応性ガスとにより被処理基板102に成膜される膜(成膜対象の成膜物)の比抵抗値の関係を予め規定したマップを記憶する。図2に示すのは、温度一定の状態で、各成膜回で反応性ガス流量を変化させ、各成膜物の比抵抗値を測定することによって得た、各温度における酸素流量に対する比抵抗値特性である。図2の例では、シールド温度が28℃、37℃の各温度において反応性ガスに酸素、ターゲット材料にTaを用いて測定した結果を示している。温度の高い方において、酸素流量に対する比抵抗値が、シールド120に付着した金属化合物のDegasの影響によって高くなっていることが分かる。
【0024】
すなわち、本実施形態では、様々な温度に対して、処理回数毎に、反応性ガス流量を所定の範囲で変化させ、各反応性ガス流量において成膜物の比抵抗を測定する。従って、例えば、連続処理を100回行う場合、処理回数1〜100の各々について、所定の温度範囲内の各温度で図2に示すような酸素流量(反応性ガス流量)と成膜物の比抵抗とを予め求めておき、それら関係を示すデータをマップとして反応性ガス制御機構209に保持させる。従って、反応性ガス制御機構209は、現在の処理回数における、シールド温度センサ121によって検知された温度に対応する、反応性ガス流量と成膜物の比抵抗との関係を取得することができる。
【0025】
反応性ガス制御機構209は、上述のマップと、シールド温度センサ121からのシールド温度のデータ(例えば、各成膜開始時のシールド温度)に基づいて、所定の比抵抗値を得るための反応性ガス流量を演算し、マスフローコントローラを介し反応性ガスの流量を該算出した流量に制御する。なお、反応性ガス制御機構209が、シールド温度に基づき、反応性ガス流量を制御するのに用いる情報は、図2に示すようなものに限定されない。例えば、もっと多くの温度帯について反応性ガス流量と成膜物の比抵抗値との関係を規定してもよい。あるいは、所望の比抵抗値の値が決まっている場合は、シールド温度と反応性ガス流量との対応のみを規定していてもよいし、シールド温度と反応性ガス流量との関係式を規定した算出式等によって、反応性ガス流量を求める形態であってもよい。また、シールド温度に基づきDegas量や反応性ガス分圧を推定し、これに基づき反応性ガス流量を制御するものであってもよい。また、基本的には、反応性ガスの分圧が基板処理回毎に一定となるような反応性ガス流量に制御するが、目標の反応性ガス分圧自体を変動させてもよい。
【0026】
このように、シールド120の温度によって該シールド120に付着した金属化合物のDegas量が変化し、被処理基板上での反応度が異なるので、各シールド温度帯において、予め取得した反応性ガス流量に対する比抵抗値のデータをフィードバックさせることで、成膜処理室100の熱変動による上記Degas量の変動による影響を受けずに、所望の比抵抗値の膜特性を得ることができる。
【0027】
本実施形態では、シールド120の温度の上昇に応じて、成膜処理室100内に供給される反応性ガスの流量を低減させるように反応性ガス流量を調整しながら、反応性スパッタリングを行う。すなわち、本実施形態では、シールド120の温度をモニタしながら、該シールド120の温度に応じて、成膜処理室100内(容器内)の反応性ガス分圧(例えば、反応性ガスが酸素の場合は、酸素分圧)が所定範囲内になるように、反応性ガスの流量を調節して、比処理基板102上に所望の成膜物を形成している。具体的には、反応性ガス制御機構209は、上記モニタの結果、シールド温度が高い場合は、反応性ガス流量を小さくし、シールド温度が高い場合は反応性ガス流量を大きくするように、マスフローコントローラ207を制御する。従って、シールド温度が変化してシールド120に付着した金属化合物の温度が変化し、該付着した金属化合物のDegas量が変化しても、該Degas量の変化による成膜処理室100内の反応性ガスの分圧(例えば、酸素分圧)の変動を相殺するように、反応性ガス(例えば、酸素)の供給を制御することができる。例えば、シールド温度が上昇し温度T1になり、上記Degas量が増加することにより、上記付着した金属化合物の酸素のゲッタリング効果が小さくなっても、上記温度T1に対する反応性ガス流量を、温度T1よりも低い温度T2の反応性ガス流量に比べて小さくしている。よって、成膜処理室100内の反応性ガスの分圧を温度T1および温度T2においても略同一にすることができる。すなわち、シールド温度が変化した場合であっても、該シールド温度において所望の成膜物の比抵抗が実現される反応性ガス流量を選択することができ、該成膜物が所望の比抵抗となるような反応性ガスの分圧(例えば、酸素分圧)を常に維持できる。よって、反応性スパッタリングの連続成膜によってシールド温度が変動して、上記Degas量が変動しても、被処理基板102における反応性ガスとスパッタ粒子との反応度の変動を低減することができ、成膜物の比抵抗の変動を低減することができる。
【0028】
さて、本実施形態では、反応性スパッタリングにより、成膜処理室内の、被処理基板102以外の構成部材のうち、スパッタ空間に臨む部材であり、該ターゲット106から発生したスパッタ粒子により金属化合物が形成されてしまう部材(以降、“付着部材”とも呼ぶ)の温度変化により、該付着部材のDegas量の変動に起因する、成膜処理室100内の反応性ガスの分圧の変動を低減することが重要である。上記Degas量は、付着部材の温度によって変動するので、本実施形態では、付着部材の温度を測定し、該付着部材の温度に応じて、反応性ガス流量を制御して、成膜処理室100内の反応性ガスの分圧の一定化を図っている。
【0029】
このように、本実施形態では、用いる反応性ガスの種類や流量をどのようにするのか、ということを本質とするものでは無く、上記付着部材の温度に応じて、成膜処理室100内の反応性ガスの分圧を許容範囲内に収めることが本質である。従って、反応性ガスやターゲットの材質は酸素やTaに限らず、いずれの材料であっても良い。
【0030】
また、本実施形態では、スパッタ空間に臨むことでターゲット106からのスパッタ粒子由来の金属化合物のDegas量に着目するものであり、該金属化合物の形成箇所に着目するものではない。従って、上記付着部材としては、シールド120に限らず、スパッタ空間に臨む構成部材であれば、いずれの部材を採用しても良い。この場合は、該採用された部材の温度を測定し、該測定温度に応じて、反応性ガス流量を制御すれば良い。
【0031】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。
【0032】
図3に、第2実施形態にかかる反応性スパッタ装置を示す。第2実施形態の反応性スパッタ装置は、上記第1実施形態の反応性スパッタ装置と略同様の構成であるが、シールド120がなく、赤外線や可視光線の強度をモニターする放射温度計122を用いている点で異なる。また、遮蔽板116は、ターゲット106に対向する貫通孔131のみでなく、放射温度計122に対向する貫通孔(開口部)132も有しており、その貫通孔132を介して基板周辺の空間を観測可能である。すなわち、放射温度計122は、貫通孔132を介して、被処理基板102周辺の該被処理基板102以外の部材であって、スパッタ空間に臨む部材(付着部材)の温度を測定するように構成されている。放射温度計122用の貫通孔132は、スパッタ粒子等が付着するのを防ぐ、ないしは低減するために、ターゲット106用の貫通孔よりも小さく形成されている。
【0033】
反応性ガス制御機構209は、放射温度計122からの温度情報の入力に基づいて、必要な反応性ガス流量を算出し、算出した値に制御する。測定タイミングは特に限定されないが、放射温度計122を用いる場合、成膜の合間に実施すると、基板周りの温度を正確に観測できるので好ましい。
【0034】
このように、放射温度計を用いると、装置の構成によらず、基板周辺の構造部材の温度を測定でき、特に成膜特性に影響を与える基板周辺における反応性ガスの分圧を正確に推定できる。
【0035】
なお、本実施形態では、その他の温度センサと併用してもよいことは言うまでもない。
【0036】
[第3実施形態]
次に、図4を参照して、第3実施形態について説明する。
【0037】
第3実施形態にかかる反応性スパッタリング装置は、ほぼ第2実施形態にかかる構成と同様であるが、遮蔽板116の構成が異なっている。第3実施形態では、遮蔽板116は、ターゲット106と略同径の貫通孔131を有し、反応性ガス制御機構209からの指令に基づいて回転可能に構成されており、回転により、貫通孔131が放射温度計122に対向する位置、及び、ターゲット106に対向する位置の夫々に移動可能である。
【0038】
成膜の合間(例えば、成膜後、成膜前)には放射温度計122に貫通孔131を対向させ、温度測定を可能にすると共に(図4A)、成膜中は貫通孔131をターゲット106に対向する位置に移動させ、成膜を実行する(図4B)。本実施形態では、遮蔽板116にはスパッタ粒子が通過可能な貫通孔131が設けられているので、貫通孔131がターゲット106に対向する場合は、ターゲット106が貫通孔131を介してスパッタ空間に開放され、貫通孔131が放射温度計122に対向する場合は、放射温度計122が貫通孔131を介してスパッタ空間に開放される。このように構成することで、成膜の合間のターゲットを利用しないときに貫通孔131を利用することができ、かつ、成膜中は使用しない放射温度計122を遮蔽板116で覆うことができるので、放射温度計122へのパーティクルの発生等を有効に防止できる。
【0039】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態について説明する。
【0040】
第4実施形態にかかる反応性スパッタリング装置は、第1実施形態にかかるものと略同様の構成であるが、反応性ガス制御機構209の動作、特に温度推定動作が異なっている。図5は本実施形態における反応性制御機構209の動作フローであり、図6に温度推定方法を説明するために、連続成膜処理中における温度推移のイメージを示す図である。
【0041】
本実施形態では、基板処理中は反応性ガスの目標流量を変更することなく所定の値を保ち、基板を交換したときに必要な目標流量の変更を行うような場合に、好適に用いることができるシールド温度推定値の算出方法を示している。
【0042】
具体的には、複数回(例えば、成膜処理前と成膜処理後)に渡ってシールド温度のサンプリングを行い、成膜処理中の温度上昇量Tuと、処理の合間の温度降下量Tdとに基づいて、各回の目標流量の算出に用いるシールド温度推定値TMを算出する。つまり、図6に示すように、成膜中にプラズマからの入熱により温度が上昇する際の温度上昇の関数、及び、成膜の合間の基板搬送等に伴い温度が降下する際の温度降下の関数に基づいて、シールド温度推定値TMを算出する。
【0043】
図5によれば、まず、成膜前(例えば、基板搬送後の真空排気の完了後)にシールド温度を測定し(ステップS102)、成膜開始温度Ts(x)を取得する(xは基板処理回数)。そして、シールド温度推定値TMを算出し(ステップS103)、その算出値に基づいて目標の反応性ガス流量を算出して、反応性ガスの流量を当該値に調整する(ステップS104)。成膜終了後(例えば、基板搬出前の排気完了後)、成膜終了温度Td(x)を取得する(ステップS106)。ステップS101〜S107の動作は、所定数の基板処理が完了するまで繰り返す。
【0044】
ステップS103では、x回目の基板処理時におけるシールド温度推定値TMを下記式(1)により算出する。
TM=Ts(x)+1/2*Tu(x−1)*Td(x)/Td(x−1) …式(1)
式中、Tu(x−1)は、x−1回目(前回)の成膜処理中の温度上昇量であり、Td(x)はx−1回目の処理後x回目の処理開始まで間の温度降下量である。
【0045】
このように、成膜中にプラズマからの入熱により温度が上昇する際の温度上昇の関数、及び、成膜の合間の基板搬送等に伴い温度が降下する際の温度降下関数の双方を加味することで、温度上昇と温度降下が断続的に続く連続成膜処理においても、高精度にシールド
温度を推定でき、これに基づき適切な反応性ガスの目標流量を算出できる。
【0046】
例えば、別の方法として、各処理回のある処理時刻におけるシールド温度の測定値Tm(x)の近似関数f(t)に基づいて、算出対象の処理回におけるシールド温度推定値TMを算出してもよい。しかし、この場合、例えば、推定に用いることができるのは、前回の処理回における温度測定値Tm(x−1)であり、最新の温度情報を反映させることができない。この点、成膜の合間の温度降下量を用いる方法では、最新の情報となる今回の成膜前の情報を反映させることができ、シールド温度推定値TMを精度よく算出することができる。
【0047】
なお、シールド温度推定値TMの算出式は上記式(1)に限定されない。例えば、温度上昇の関数及び温度変化の関数は、温度上昇量や温度降下量のように温度上昇時間帯、温度降下時間帯における温度変化の関数のみでなく、例えば、温度上昇時間帯、温度降下時間帯のある時刻におけるシールド温度の関数又は近似関数s(t)、e(t)であってもよい。また、例えば、温度上昇が急激な連続成膜開始後しばらくの間は、上述の温度上昇関数及び温度降下関数を用いる推定方法により、安定状態に入ってからは推定方法を変更し、例えば、上述のf(t)も用いるようにしてもよい。
【0048】
[製造方法]
図7は、本発明の一実施形態に係るReRAMの断面構造を示す概略図である。一般的なReRAMの抵抗変化素子(メモリ素子)311は、下部電極312と上部電極314の間に、抵抗変化膜(たとえば遷移金属酸化物膜)313を挟み込んだ平行平板型積層構造をしている。上部電極314と下部電極312の間に電圧を印加すると、抵抗変化膜313の電気抵抗が変化して、2つの異なる抵抗状態(リセット状態、セット状態)をとる。使用される電極材料には、Pt、Ru、Ti、Al、Ta、Cu、WおよびNiから選ばれる少なくとも1種の元素を含む材料を用いることが記載されている。
【0049】
抵抗変化素子311の動作メカニズムは、まず2つの抵抗状態間を遷移可能にするための初期動作として、フォーミング電圧を印加する。フォーミング電圧の印加によって、抵抗変化膜313に電流パスとなるフィラメントが形成され得る状態にする。その後、動作電圧(セット電圧及びリセット電圧)の印加によって、該フィラメントの発生状態を変化させて、セット/リセット動作、即ち、書込みと消去を実行する。抵抗変化素子311の動作領域の面積が大きいほどフィラメント数も増加するが、フィラメント数が増加するとリセット電流の制御にばらつきが生じ、その結果、メモリとしての動作もばらつく。高密度化の要請からだけではなく、安定した信頼性の高い動作を実現するには、抵抗変化素子311の動作面積は小さい方が望ましい。しかし、上述のように、従来の構造では、フォトリソグラフィ技術の加工精度によって微細化が制限される。
【0050】
また、APPLIED PHYSICS LETTERS 86,093509(2005)には、上下電極としてPtを用い、抵抗変化層がNiOからなる不揮発性記憶装置が提案されており、Ni酸化物中にフィラメントと称される電流経路が形成され、抵抗が変化すると述べられている。また、International electron devices meeting technical digest,2008,P293〜P296には、上下電極としてPtを用い、抵抗変化層がTaOxからなる不揮発性記憶装置が提案されており、Pt電極とTaOxの界面層における酸素原子の移動により抵抗が変化すると述べられている。
【0051】
また、電極材料としてエッチング加工が容易な窒化チタン電極を用いた抵抗変化素子に関する技術が注目されている。Symposium on VLSI technology digest of technical papers, 2009.p30〜P31には下部電極としてPtを用い、抵抗変化層としてHfOxやHfAlOxを用い、上部電極としてTiNからなる不揮発性記憶装置が提案されており、抵抗変化層としてHfAlOxを用いることにより、動作電圧のバラツキが抑制できると述べられている。また、International electron devices meeting technical digest,2008,P297〜P300には、TiN/Ti/HfO/TiN積層構造を酸素アニールによりTiN/TiOx/HfOx/TiNからなる積層構造を作製することで、抵抗変化動作が実現できると述べられている。
【0052】
抵抗変化素子311の抵抗変化膜313には、酸素欠損を有する絶縁膜といった、化学量論からずれた組成を持つ酸化物が用いられ、該抵抗変化膜313を、本発明の一実施形態に係る反応性スパッタリング方法により成膜することができる。すなわち、上記抵抗変化膜313の成膜の際に、Ta、Ni、V、Zn、Nb、Ti、Co、W、Hf、Alの少なくとも1つを用いた反応性スパッタ方法を用いたReRAM作製工程において本発明の効果を得ることができる。
【0053】
(実施例1)
表1に示すのは、反応性スパッタの連続成膜を、シールド温度を考慮して酸素流量制御を行った結果である。下記成膜条件で50回の成膜を行った。
成膜条件;
ターゲット Ta
ターゲット投入パワー DC1000W
Arガス流量 20sccm
反応性ガス 酸素
成膜時圧力 0.06Pa
評価基板 熱酸化膜付きSi基板
膜厚 30nm
比抵抗 20mohm・cm程度
【0054】
上記成膜条件で実施例及び比較例を実施し、途中、実施例ではシールド温度に応じ酸素流量を制御したが、比較例では酸素流量は一定とした。
【0055】
結果、1枚目から50枚目にかけて、比抵抗値が2%程度の変動に抑制できることを確認された。
【0056】
【表1】

【符号の説明】
【0057】
100 成膜処理室
102 被処理基板
103 基板支持台
106 金属ターゲット
108 ターゲットホルダー
110 直流電源
117 コンダクタンスバルブ
118 排気ポンプ
119 シールド支持棒
120 シールド
121 温度センサ
122 放射温度計
201 不活性ガス源
202,204,206,208 バルブ
203,207 マスフローコントローラ
134,205 反応性ガス源
209 反応性ガス流量制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理室内に配置されたターゲットをスパッタし、該成膜処理室内に反応性ガスを供給して、反応性スパッタリングにより前記成膜処理室内に配置された被処理基板上に成膜物を形成する反応性スパッタリング方法であって、
前記成膜処理室内に設けられた、スパッタ空間に臨む構成部材の温度を測定する工程と、
前記測定された温度の上昇に応じて、前記成膜処理室内に供給される反応性ガスの流量を低減させるように前記反応性ガスの流量を調整しながら、前記反応性スパッタリングを行う工程と
を有することを特徴とする反応性スパッタリング方法。
【請求項2】
前記反応性スパッタリングを行う工程は、前記測定された温度に応じて、前記成膜処理室内の前記反応性ガスの分圧が所定範囲内となるように前記成膜処理室内に供給される反応性ガスの流量を調整しながら、前記反応性スパッタリングを行うことを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項3】
前記反応性スパッタリングを行う工程は、各温度における反応性ガスの流量に対する、前記成膜物の比抵抗値の関係を予め規定したマップと、前記測定された温度の測定値とに基づいて、前記成膜物の比抵抗値が所定の比抵抗値となるような反応性ガスの流量を演算し、前記成膜処理室内に供給する前記反応性ガスの流量を、該算出した反応性ガスの流量に制御することを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項4】
前記スパッタ空間は、前記ターゲットと前記被処理基板との間に形成され、
前記スパッタ空間の周囲に設けられるシールドの前記被処理基板側の位置に、該シールドの温度を測定可能な温度センサが取り付けられており、
前記温度センサによって前記構成部材の温度を測定することを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項5】
前記温度センサは、熱電対または放射温度計であることを特徴とする請求項3に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項6】
前記成膜物は、酸素欠損を有する絶縁膜であることを特徴とする請求項1に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項7】
前記絶縁膜に含まれる元素がTa、Ni、V、Zn、Nb、Ti、Co、W、Hf、Alの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項5に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項8】
前記絶縁膜が、Ti、W、Pt、Ti、Al、Ru、Ta、Cuの少なくとも一つを含む金属で挟まれた積層構造を有することを特徴とする請求項5に記載の反応性スパッタリング方法。
【請求項9】
反応性スパッタリングにより、被処理基板上に成膜物を形成する反応性スパッタリング装置であって、
容器と、
前記容器内に設けられ、ターゲットを取り付け可能な電極と、
前記容器内に設けられ、前記被処理基板を保持可能な基板ホルダと、
前記容器内に設けられ、前記反応性スパッタリングにおけるスパッタ空間に臨むように設けられたシールドと、
前記容器内に反応性ガスを導入する反応性ガス導入手段と、
前記シールドの温度を測定可能な温度センサと、
前記温度センサからの出力に応じて、前記シールドの温度の上昇に応じて、前記容器内に供給される反応性ガスの流量を低減させるように前記反応性ガス導入手段を制御する制御装置と
を備えることを特徴とする反応性スパッタリング装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記容器内の前記反応性ガスの分圧が所定範囲内となる流量で前記反応性ガスを導入するように前記反応性ガス導入手段を制御するように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の反応性スパッタリング装置。
【請求項11】
前記温度センサは、放射温度計であり、
前記基板ホルダと前記電極との間に設けられ、前記ターゲットからのスパッタ粒子が通過可能な開口部を有する遮蔽板をさらに備え、
前記遮蔽板は、前記開口部が前記ターゲットに対向する場合に、前記放射温度計が前記遮蔽板により前記スパッタ空間に対して遮蔽されるように構成されており、
前記制御装置は、成膜処理の合間に前記開口部を介してスパッタ空間に対して前記放射温度計を開放し、成膜処理中は前記開口部を介してスパッタ空間に対して前記電極を開放させるように構成されていることを特徴とする請求項9に記載の反応性スパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−149091(P2011−149091A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253640(P2010−253640)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】