説明

可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法

【課題】プレス加工時等の加工性を良好に保ちつつ、接点の繰り返し開閉動作においても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられて長寿命の可動接点が得られ、さらに製品の歩留まりの飛躍的な向上を図ることができる、可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】可動接点用銀被覆複合材料100は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材110と、基材110の表面に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地領域120と、下地領域120の上に形成された銅または銅合金からなる中間層130と、中間層130の上に形成された銀または銀合金からなる最表層140とを備え、中間層130が基材110の表面と直接接するように、下地領域120の一部に下地欠落部121が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動接点に用いられる銀被覆複合材料およびその製造方法に関し、特に長寿命の可動接点が得られる銀被覆複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタ、スイッチ、端子などの電気接点部には皿バネ接点、ブラシ接点、クリップ接点などが用いられている。これら接点には、比較的安価で、耐食性、機械的性質などに優れる銅合金やステンレス鋼をはじめとする鉄・ニッケル合金などの基材上にニッケルを下地めっきし、その上に導電性と半田付け性に優れる銀を被覆した銀被覆複合材料が多用されている(特許文献1参照)。
【0003】
特にステンレス鋼基材を用いた銀被覆複合材料は、銅合金基材を用いたものより機械的性質、疲労寿命などに優れるため接点の小型化に有利であり、また動作回数の増加も可能なため長寿命のタクティルプッシュスイッチや検出スイッチなどの可動接点に使用されている。
【0004】
しかしながら、ステンレス鋼基材上にニッケルを下地めっきし、その上に銀を被覆した銀被覆複合材料は、スイッチの接点圧力が大きいため、繰り返しの接点開閉動作において、接点部の銀被覆層が剥離し易いという問題があった。この現象は以下のような理由で起こると理解されている。
【0005】
図6に例示する銀被覆複合材料900は、ステンレス鋼からなる基材901の上に、下地層902及び最表層903が形成されている(同図(a))。下地層902を形成するニッケルと最表層903を形成する銀とが互いに固溶しない性質を持っており、かつ最表層903には大気から酸素が浸入して拡散する現象が起こる。そのため、最表層903に浸入し拡散した酸素が下地層902と最表層903との界面に到達し、ここでニッケルの酸化物904を生成するために、下地層902と最表層903との間の密着力が低下する(同図(b))。
【0006】
上述した問題点を解決する手段として、ステンレス鋼基材上に下地層(ニッケル層)、中間層(銅層)、最表層(銀層)をこの順に電気めっきした銀被覆複合材料(特許文献2〜5参照)が提案されている。これらの技術を用いて形成された銀被覆複合材料の一例を図7に示す。銀被覆複合材料910は、互いに固溶しないニッケルと銀とでそれぞれ形成された下地層912と最表層914との間に、ニッケルと銀の両方と互いに固溶する銅で形成された層を中間層913として設けている(図7)。これにより、中間層913と各層912、914との間で相互拡散させるようにすることで、各層間の密着性を高めることができる。さらに、大気から浸入して最表層914中を拡散する酸素を、中間層113から最表層114に固溶してきた銅に捕獲させることで、界面での酸素の蓄積による密着性の低下を防ぐ効果があり、密着性の低下を防止することができる。
【特許文献1】特開昭59−219945号公報
【特許文献2】特開2004−263274号公報
【特許文献3】特開2005− 2400号公報
【特許文献4】特開2005−133169号公報
【特許文献5】特開2005−174788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記技術には以下の欠点があることが明らかとなった。即ち、従来のニッケル層と銀層をこの順に電気めっきして形成した銀被覆複合材料にくらべ、銅からなる中間層を形成した場合には、長期間使用したときの接触抵抗の上昇がより早くなるという問題がある。また、下地層(ニッケル層)または中間層(銅層)の少なくとも一方が厚すぎると、これらの層の屈曲性が低下する結果、プレス加工時などに下地層または中間層の少なくとも一方にクラックが入るなどの不具合の原因となることも分かってきた。さらに、下地層と中間層との界面における密着性の向上には限界があり、プレス加工性を良好に保つことまで考慮すると、製品化する際の歩留まりがきわめて悪化するという課題が新たに発生することがわかった。
【0008】
本発明は、プレス加工等に対する高い加工性を有し、可動接点に用いて開閉動作を繰り返し行っても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられて長寿命の可動接点が得られ、さらに層間の密着性を飛躍的に向上できる、可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはこのような状況に鑑み鋭意研究を行った結果、中間層から最表層中に固溶した銅が最表層の表面に達し、そこで酸化して高電気抵抗の酸化物を生成するために接触抵抗の上昇が発生することを突き止めた(図8)。このような課題の解決手段として、中間層の厚さを小さくして最表層の表面に到達する銅の量を少なくすることで接触抵抗の上昇を防止できることを見出した。また、下地層および中間層を薄くすることで、プレス加工時のひび割れを抑制し、接点の繰り返し開閉動作における接触抵抗の上昇を抑制できることを見出した。さらに、中間層が基材に直接接するように下地層(下地領域)を欠落させた部分(以下では下地欠落部という)を形成し、この下地欠落部で中間層と基材とが直接接するようにすることで、下地層(下地領域)と中間層との界面における密着性を大幅に向上できることを見出した。なお、下地が層として形成されなくなることから、本明細書では下地層を下地領域と表現することとする。この発明は上述した知見に基づきなされたものである。
【0010】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第1の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地領域と、前記下地領域の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、前記中間層が前記基材の表面と直接接するように、前記下地領域の複数個所に欠落部が形成されていることを特徴とする。
【0011】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第2の態様は、前記下地領域の厚さと前記中間層の厚さの合計が0.025〜0.20μmの範囲となっていることを特徴とする。
【0012】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の第3の態様は、前記基材はステンレス鋼からなっていることを特徴とする。
【0013】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第1の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる金属条の基材を電解脱脂し、塩酸で酸洗して活性化する第1工程と、次いで、前記基材上に、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で電解してニッケルめっきを施すか、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加してニッケル合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して、欠落部を有する下地領域を形成する第2工程と、次いで、前記下地領域上に、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して中間層を形成する第3工程と、次いで、前記中間層上に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して最表層を形成する第4工程を含む工程により、銀被覆複合材料を製造することを特徴とする。
【0014】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第2の態様は、前記銅めっきまたは前記銅合金めっきのいずれかのめっき処理を施した後、前記銀めっきまたは前記銀合金めっきのいずれかのめっき処理を施す前に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀ストライクめっきを施して、銀被覆複合材料を製造することを特徴とする。
【0015】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第3の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成され、ニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなり、複数個所に欠落部を有する下地領域と、該下地領域の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えた可動接点用銀被覆複合材料の製造方法であって、前記基材を電解脱脂し、その後ニッケルイオンとコバルトイオンの少なくとも一方を含有する酸性溶液で酸洗して活性化する活性化処理により、前記下地領域を形成することを特徴とする。
【0016】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第4の態様は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材を電解脱脂し、その後ニッケルイオンとコバルトイオンの少なくとも一方を含有する酸性溶液で酸洗して活性化する活性化処理により、ニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなり、複数個所に欠落部を有する下地領域を前記基材上に形成する第1工程と、次いで、前記下地領域上に、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して中間層を形成する第2工程と、次いで、前記中間層上に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して最表層を形成する第3工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第5の態様は、前記活性化処理時の陰極電流密度を2.0〜3.5(A/dm)の範囲内とすることを特徴とする。
【0018】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第6態様は、前記基材は金属条であることを特徴とする。
【0019】
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第7の態様は、前記基材はステンレス鋼からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、プレス加工等に対する高い加工性を有し、可動接点に用いて開閉動作を繰り返し行っても銀被覆層が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられて長寿命の可動接点が得られ、層間の密着性を飛躍的に向上できる、可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法を提供することができる。
【0021】
本発明によれば、中間層と最表層との界面に凹凸を形成し、中間層の少なくとも一部が下地領域の外縁部以外の箇所で前記基材の表面と接するように凹凸を大きくしているため、下地領域と中間層との接触面積が増大し、下地領域と中間層との間の相互拡散による両者の密着性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法について、望ましい実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
(可動接点用銀被覆複合材料の一実施形態)
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の実施の形態を、図1に示す断面図を用いて説明する。本実施形態の可動接点用銀被覆複合材料100は、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材110と、基材110の表面に形成された下地領域120と、下地領域120の上に形成された中間層130と、中間層130の上に形成された最表層140とを備えている。
【0024】
本実施形態では、鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材110としてステンレス鋼を使用する。ここで、鉄またはニッケルを主成分とする合金とは、鉄またはニッケルの少なくとも一方の質量比が50質量%以上である合金を意味する。可動接点の機械的強度を担う基材110に用いるステンレス鋼として、応力緩和特性および耐疲労破壊特性に優れるSUS301、SUS304、SUS305、SUS316などの圧延調質材またはテンションアニール材が好適である。
【0025】
ステンレス鋼の基材110上に形成される下地領域120は、ニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金のいずれか1つで形成される。下地領域120は、基材110に用いられるステンレス鋼と中間層130との密着性を高めるために配置される。中間層130は、銅または銅合金で形成され、下地領域120と最表層140との密着性を高めるために配置される。なお、下地領域120と基材110との間に特定の目的でさらに別の層を設けてもよい。
【0026】
下地領域120を形成する金属として、ニッケル、コバルト、またはこれらを主成分(全体の質量比として50質量%以上)とする合金が用いられるが、なかでもニッケルを用いるのが好ましい。この下地領域120は、ステンレス鋼からなる基材110を陰極にして、例えば塩化ニッケル及び遊離塩酸を含む電解液を用いて電解することにより形成することができる。下地領域の厚さについては、平均値を0.001〜0.04μmとすることが好ましい。さらに好ましくは、0.001〜0.009μmである。なお、以下では、下地領域120の金属としてニッケルを用いた例について説明するが、ニッケルに限らず、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金のいずれを用いた場合でも、以下の説明と同様の効果が得られる。
【0027】
従来の銀被覆複合材料における加工性悪化の原因は、下地層または中間層の少なくとも一方が厚すぎるためにこれらの層の屈曲性が低下することによるものであった。その対策として、本実施形態では基材110の表面と下地領域120、下地領域120と中間層130、中間層130と最表層140の各層間の密着性が維持される範囲で、下地領域120および中間層130を薄くすることが有効である。下地領域120の厚さの最大値を0.04μm以下とした場合には、下地領域120によって加工性を低下させるおそれがなくなる。
【0028】
本実施形態では、下地領域120と中間層130との密着性を高めるために、下地領域120の一部に下地欠落部(欠落部)121を形成し、下地欠落部121で中間層130と基材110とが直接接するようにしている。そして、その下地欠落部121を設けることで、下地領域120と中間層130との接触面積を増大させている。これにより、下地領域120と中間層130との間の相互拡散による密着性の向上を図ることができる。図1に示す可動接点用銀被覆複合材料100では、下地領域120と中間層130との界面を波状の凹凸に形成し、下地欠落部121で中間層130が基材110の表面と直接接するようにしている。
【0029】
一方、従来の接触抵抗上昇の原因は、最表層の銀被覆層中に拡散した中間層の銅が最表層の表面に達し、これが酸化することによるものであった。すなわち、図8に一例を示すように、中間層913から最表層914中に固溶した銅が最表層914の表面に達し、これが酸化して高電気抵抗の酸化物915を生成するために接触抵抗の上昇が発生していた。
【0030】
このような課題を解決するために、本実施形態では基材110の表面と下地領域120、下地領域120と中間層130、中間層130と最表層140の各層間の密着性が維持される範囲で、中間層130の銅が最表層140の表面に達しないような中間層130の好適な厚さを決定している。また、本実施形態では、下地領域120の平均厚さD1に中間層130の平均厚さD2を加えた合計の平均厚さDTが0.025〜0.20μmの範囲となるようにしている。
【0031】
これにより、各層間で高い密着性を維持しつつ、最表層140の表面への銅の拡散及びそれに伴う酸化を抑えることができる。最表層として最も望ましい形態は、中間層近傍にのみ銅を含み、表面付近には銅を含まない銀または銀合金層が形成されている構成である。最表層の厚さD3は、0.5〜1.5μmであることが望ましい。
【0032】
加工性を改善する観点からは、下地領域120および中間層130を薄くするのが好ましいが、下地領域120の平均厚さと中間層130の平均厚さの合計DTに下限値0.025μmを設けているのは、この値を下回ると、基材110の表面と下地領域120、下地領域120と中間層130、中間層130と最表層140の各層間の密着性を高める効果が低下することによるものである。また、下地領域120の平均厚さと中間層130の平均厚さの合計DTに上限値0.20μmを設けているのは、この値を上回ると、使用環境における接触抵抗の上昇が起こりやすくなることによるものである。また、下地領域120の平均厚さD1および中間層130の平均厚さD2を上述した範囲内にすることによって、プレス加工時の各層の割れを防止することができる。
【0033】
本実施形態の可動接点用銀被覆複合材料100の下地領域120、中間層130、および最表層140の各層は、電気めっき法、無電解めっき法、物理・化学的蒸着法など任意の方法を用いて形成できるが、中でも電気めっき法が生産性およびコストの面から最も有利である。上述した各層のうち、中間層130および最表層140は、ステンレス鋼の基材110の全面に形成してもよいが、接点部のみに限定して形成するのがより経済的である。また、各層間の密着強度を向上させるために、加熱処理などの公知の方法を適用することもできる。
【0034】
なお、銅または銅合金で形成された中間層130以外の領域、具体的には下地領域120や最表層140に銅を合金化させるようにしてもよい。また、下地領域120の下にさらに他の下地領域(図示せず)を設けてもよい。この場合、下地領域120の下に形成した図示しない下地領域の中に銅が含まれていても、下地領域120の下に形成された図示しない下地領域の銅は、最表層140への拡散にはほとんど寄与しない。
【0035】
(可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第1実施形態)
この発明の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の一実施形態について、図2に示す流れ図を用いて以下に説明する。図2では、本実施形態の製造方法を、可動接点用銀被覆複合材料100を例に説明している。
【0036】
本実施形態の製造方法は、第1の工程として、基材110となるステンレス条をオルトケイ酸ソーダまたは苛性ソーダなどのアルカリ性溶液中で陰極電解脱脂し、その後塩酸で酸洗して活性化(図2のS1)する。
【0037】
次の第2工程では、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で、陰極電流密度(2〜5A/dm)で電解して基材110となるステンレス条の表面の一部にニッケルめっきを施すことで、下地領域120を形成する(図2のS2)。ここで、例えば基材110に流れる電流の電流密度をコントロールして、基材110の表面の一部にのみニッケルめっきを施すことが可能となる。それ以外の方法、例えばめっき液の流れを制御するなどの方法でも基材110の表面の一部にのみニッケルめっきを施すことは可能であり、どのような方法によっても、下地領域120の最大厚さが0.04μm以下の場合に再現性が高まる。この場合の下地領域120の表面粗さ(最大粗さ:Rmax)は、下地領域120の最大厚さの値以下の値となる。なお、上記のニッケルめっきの電解液として、スルファミン酸ニッケル(100〜150g/リットル)とホウ素(20〜50g/リットル)を添加し、pHを2.5〜4.5の範囲で調整した電解液を用いてもよい。
【0038】
次の第3工程では、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で、陰極電流密度(2〜6A/dm)で電解して銅めっきを施すことで、中間層130を形成する(図2のS3)。
【0039】
最後の第4工程では、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で、陰極電流密度(2〜15A/dm)で電解して銀めっきを施すことで最表層140を形成する(図2のS4)。このような第1工程S1から第4工程S4までの処理により、可動接点用銀被覆複合材料100を製造することができる。
【0040】
なお、下地領域120を形成する第2工程S2において、上記のニッケルめっきの代わりに、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加し、陰極電流密度(2〜5A/dm)で電解することでニッケル合金(ニッケル−コバルト合金)めっきを施してもよい。また、中間層130を形成する第3工程S3において、上記の銅めっきの代わりに、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて陰極電流密度(2〜5A/dm)で電解して銅合金(銅−亜鉛合金または銅−スズ合金)めっきを施してもよい。また、第3工程S3に先立って、または第3工程S3の代替工程として、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で、陰極電流密度(1〜3A/dm)で電解して銅ストライクめっきを施してもよい。中間層130のうち少なくとも下地領域120と接する部分について銅ストライクめっきを施すことにより、下地領域120と中間層130との密着性が向上するほか、中間層130が緻密に形成されるため、その後に形成される最表層140も緻密に形成され、各層の界面における表面粗さが、プレス加工時などに割れを引き起こすほどに大きくなることを防ぐことができる。すなわち、銅ストライクめっきを施すことにより、プレス加工時の各層の割れを防止する効果がより一層発揮されることになる。
【0041】
さらに、最表層140を形成する第4工程S4において、上記の銀めっきの代わりに、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加し、陰極電流密度(2〜5A/dm)で電解して銀合金(銀−アンチモン合金)めっきを施してもよい。あるいは、第3工程S3の銅めっきまたは銅合金めっきの後に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で、陰極電流密度(1〜5A/dm)で電解して銀ストライクめっきを施し、その後、前述の銀めっきまたは銀合金めっきを施してもよい。
【0042】
(第1実施形態に係る製造方法の実施例1)
上記一実施形態の可動接点用銀被覆複合材料100を製造する上記第1実施形態に係る製造方法について、実施例を用いて更に詳細に説明する。
【0043】
以下の実施例では、基材110として条形状のステンレス鋼SUS301(以下ではSUS301条と記す)を用い、SUS301条の寸法を、厚さ0.06mm、条幅100mmとする。SUS301条を連続的に通板して巻き取るめっきラインにおいて、SUS301条を電解脱脂し、水洗し、電解活性化し、かつ水洗する第1工程、ニッケルめっき(又はニッケル−コバルトめっき)および水洗の処理を行う第2工程、銅めっきおよび水洗の処理を行う第3工程、および銀ストライクめっき、銀めっき、水洗および乾燥の各処理を行う第4工程、のそれぞれが実施される。
【0044】
各工程の処理条件は次のとおりである。
1.第1工程(電解脱脂、電解活性化)
ステンレス条をオルトケイ酸ソーダ70〜150g/リットル(本実施例では100g/リットル)または苛性ソーダ50〜100g/リットル(本実施例では70g/リットル)の水溶液で陰極電解脱脂し、10%塩酸で酸洗して活性化する。
【0045】
2.第2工程
(1)ニッケルめっきの場合
塩化ニッケル六水和物10〜50g/リットル(本実施例では25g/リットル)と遊離塩酸30〜100g/リットル(本実施例では50g/リットル)とを含む電解液で陰極電流密度2〜5A/dm(本実施例では3A/dm)で電解してめっきする。
【0046】
(2)ニッケル合金めっきの場合
上述しためっき液に、塩化コバルト六水和物または第二塩化銅二水和物を、めっき液中のコバルトイオン濃度または銅イオン濃度が、ニッケルイオンとコバルトイオンまたは銅イオンとを加えた濃度の5〜20%に相当する濃度(本実施例では10%)となるように添加してめっきする。
【0047】
3.第3工程
(1)銅ストライクめっきの場合
硫酸銅五水和物10〜30g/リットル(本実施例では15g/リットル)と遊離硫酸50〜150g/リットル(本実施例では100g/リットル)とを含む電解液で陰極電流密度1〜3A/dm(本実施例では2A/dm)で電解してめっきする。
【0048】
(2)銅めっきの場合
硫酸銅五水和物20〜60g/リットル(本実施例では40g/リットル)と遊離硫酸50〜150g/リットル(本実施例では100g/リットル)とを含む電解液で陰極電流密度2〜6A/dm(本実施例では5A/dm)で電解してめっきする。
【0049】
(3)銅合金めっきの場合
シアン化銅30〜70g/リットル(本実施例では50g/リットル)、シアン化カリウム50〜100g/リットル(本実施例では75g/リットル)、水酸化カリウム30〜50g/リットル(本実施例では40g/リットル)を基本とし、シアン化亜鉛0.2〜0.4g/リットル(本実施例では0.3g/リットル)またはスズ酸カリウム0.5〜2g/リットル(本実施例では1g/リットル)を加えて陰極電流密度2〜5A/dm(本実施例では3A/dm)で電解してめっきする。
【0050】
4.第4工程
(1)銀ストライクめっきの場合
シアン化銀3〜7g/リットル(本実施例では5g/リットル)とシアン化カリウム30〜70g/リットル(本実施例では50g/リットル)とを含む電解液で陰極電流密度1〜3A/dm(本実施例では2A/dm)で電解してめっきする。
【0051】
(2)銀めっきの場合
シアン化銀30〜100g/リットル(本実施例では50g/リットル)とシアン化カリウム30〜100g/リットル(本実施例では50g/リットル)とを含む電解液で陰極電流密度2〜15A/dm(本実施例では5A/dm)で電解する。なお、必要に応じて炭酸カリウム20〜40g/リットル(本実施例では30g/リットル)を加えてもよい。
【0052】
(3)銀合金めっきの場合
上記電解液に酒石酸アンチモニルカリウム0.3〜1g/リットル(本実施例では0.6g/リットル)を添加して電解してめっきする。
【0053】
実施例のサンプルとして、下地領域120の厚さ、中間層130の厚さ、最表層140の厚さをそれぞれ種々に変化させたサンプルを表1に示す。ここで、基材110の表面に被覆された下地領域120の割合(面積比)を被覆率とし、この被覆率が80%となるように基材110に流れる電流の電流密度をコントロールした。被覆率の値を表1にあわせて示す。なお、表1に示す実施例のサンプルNo.49〜52の試料については、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で250℃、2時間の熱処理を行った。
【0054】
上記の処理条件で製造された表1の可動接点用銀被覆複合材料を用いて、図3および図4に示す構造のスイッチ200を製造した。図3は、スイッチ200の平面図であり、図4は、図3に示すA−A線におけるスイッチ200の断面図を示している。
【0055】
同図に示すドーム型可動接点210は、表1に示した実施例の可動接点用銀被覆複合材料を用いて直径4mmφに加工して形成したものであり、固定接点220a、220bは、黄銅条に銀を1μm厚さにめっきして形成したものである。ドーム型可動接点210は樹脂の充填材230で被われ、固定接点220とともに樹脂ケース240に収納されている。スイッチ200は、図4(a)に示すドーム型可動接点210が上に凸状態のときがオフの状態であり、図4(b)に示すように、ドーム型可動接点210が押下されて固定接点220aと220bとが電気的に接続されたときがオンの状態となる。
【0056】
上記のようなスイッチ200を用い、図4に示したオン/オフ状態を繰り返すことで打鍵試験を行った。打鍵試験では、接点圧力:9.8N/mm、打鍵速度:5Hzで最大200万回の打鍵を行っている。ドーム型可動接点210について、打鍵試験中の接触抵抗の経時変化を測定した結果を、初期値、100万回の打鍵後(打鍵後1)、200万回の打鍵後(打鍵後2)について、それぞれ表2に示している。また、200万回の打鍵試験を終了した後、ドーム型可動接点210に対しクラックの有無等の状況を観察し、その結果も表2に記している。なお、接触抵抗の値は、100mΩ以下であれば実用上差し支えないとされる。
【0057】
加熱試験は、すべてのサンプルについて、85℃のエアバスで1000時間の加熱を行って、接触抵抗の変化を測定し、その結果を表2に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表1に示した実施例のサンプルNo.1〜52は、表2に示すように、何れも200万回の打鍵試験を行っても接触抵抗の増加は少なく、200万回打鍵後の接点部には下地領域120及び中間層130の露出は見られなかった。さらに、1000時間の加熱後も接触抵抗の上昇は小さく、すべてのサンプルについて接触抵抗の値が100mΩ以下となり、実用上問題のない値であった。
【0061】
これに対して、下地領域120の厚さと中間層130の厚さの合計が0.025μmを下回る比較例のサンプルNo.101では、各層の密着性が低下することに起因する加工性の劣化がみられ、下地領域120の厚さが本発明の範囲の上限よりも大きい(0.05μm以上の)比較例のサンプルNo.102〜108では、加工性が劣る傾向がみられた。また、比較例のサンプルNo.101〜108において、加工性が劣ることに起因すると思われる接触抵抗の上昇(具体的には、接触抵抗の値が100mΩを超える状態)が200万回の打鍵後に検知された。
【0062】
さらに、比較例のサンプルNo.101〜108において、接点部のクラックが発見され、下地領域120の厚さが0.3μmの比較例のサンプルNo.105〜108においては、接点部の最表層が剥離し、下地層が露出していた。
【0063】
一方、中間層120の厚さが0.3μmのサンプル103、105、108では、加熱試験後に接触抵抗の大幅な上昇(具体的には、接触抵抗の値が100mΩを超える状態)が見られ、打鍵試験後にクラックや下地層の露出が確認された。
【0064】
(第1実施形態に係る製造方法の実施例2)
ここで、上記可動接点用銀被覆複合材料100を製造する第1実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の実施例2について説明する。
【0065】
下地領域120について:ニッケルのうち10質量%を銅またはコバルトに置き換えたニッケル合金めっきとした場合について、表1のサンプルNo.1〜52およびNo.101〜108と同様の試験を実施したが、その試験結果は表2に示された結果と実質的に差異がなかった。ニッケルを完全にコバルトに置き換えた例についても同様であった。
【0066】
中間層130について:銅のうち0.5質量%をスズまたは亜鉛に置き換えた銅合金めっきとした場合について、表1のサンプルNo.1〜52およびNo.101〜108と同様の試験を実施したが、その試験結果は表2に示された結果と実質的に差異がなかった。
【0067】
最表層140について:銀のうち1質量%をアンチモンに置き換えた銀合金めっきとした場合について、表1のサンプルNo.1〜52およびNo.101〜108と同様の試験を実施したが、その試験結果は表2に示された結果と実質的に差異がなかった。
【0068】
また、上記の変形例を適宜組み合わせたが、その試験結果は表2に示された結果と実質的に差異がなかった。
【0069】
(可動接点用銀被覆複合材料の製造方法の第2実施形態)
次に、図1に示す可動接点用銀被覆複合材料100を製造する可動接点用銀被覆複合材料の他の実施形態について説明する。
本実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法は、次の工程を有する。
【0070】
(第1工程) 鉄またはニッケルを主成分とする合金からなるステンレス条である基材(金属条の基材)110を電解脱脂し、その後ニッケルイオンを含有する酸性溶液で酸洗して活性化する活性化処理により、ニッケルからなり、複数個所に下地欠落部121を有する下地領域120を基材110上に形成する。
この第1工程では、基材110を活性化する活性化処理を、例えば、次の条件で行う。
【0071】
(1)ニッケルイオンを含有する酸性溶液として、遊離塩酸を120g/リットル、塩化ニッケル六水和物を12g/リットル添加した酸性溶液を使用する。なお、ニッケルイオンを含有する酸性溶液として、遊離塩酸を80〜200g/リットル(より好ましくは100〜150g/リットル)、塩化ニッケル六水和物を5〜20g/リットル(より好ましくは10〜15g/リットル)の範囲で添加することが好ましい。遊離塩酸および塩化ニッケル六水和物の添加量が上記範囲外の場合は、いずれも基材と下地領域との密着性が低下する傾向がある。
【0072】
(2)活性化処理時の陰極電流密度を2.5(A/dm)とする。なお、活性化処理時の陰極電流密度は2.0〜3.5(A/dm)の範囲内とすることが好ましく、下限より低いと基材と下地領域との密着性が低下する傾向があり、好ましくない。なお、上限より高くなると、下地領域に欠落部が形成されなくなり、さらに陰極電流密度が5.0(A/dm)を超えると、基材がステンレス鋼の場合は基材の発熱による影響が出る場合があり、あまり好ましいとはいえない。
【0073】
このような条件で図5(a)に示す基材110の活性化処理を行うことにより、基材110の表面全体に、下地領域120となるニッケル(Ni)の核120cが所定の間隔ででき(図5(b)参照)、さらに、基材110の表面全体に下地欠落部121を有する下地領域120が形成される(図5(c)参照)。
【0074】
(第2工程) 下地領域120上に、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で、陰極電流密度(5A/dm)で電解して銅めっきを施すことで、中間層130を形成する。
【0075】
(第3工程) 中間層130上に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施して最表層140を形成する。
【0076】
このように、本実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法では、基材110の活性化処理時に、基材110の表面全体に下地欠落部121を有する下地領域120を形成するようにしている。このため、図2を用いて説明した上記一実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法における、下地領域120を形成するためのニッケルめっき或いはニッケル合金めっきの工程(図2のS2)が不要になる。従って、製造工程が簡略され、作業時間が短縮されるので、可動接点用銀被覆複合材料を低コストで製造することができる。
【0077】
また、鉄またはニッケルを主成分とする合金、例えばステンレス鋼からなる基材110の表面の一部が下地欠落部121の箇所で露出するが、基材110は、上記第1工程で電解脱脂され、ニッケルイオンを含有する酸性溶液で酸洗して活性化されているので、銅または銅合金で形成された中間層130との密着性が低下しない。
【0078】
また、ステンレス鋼からなる基材110の活性化処理時に、複数個所に下地欠落部121を有する下地領域120を基材110上に形成することができる。このように下地領域120を形成すると、基材110と下地領域120との密着性が向上する。
【0079】
また、下地領域120の複数個所に下地欠落部(欠落部)121を形成し、下地欠落部121で中間層130と基材110とが直接接するようにしているので、下地領域120と中間層130との密着性を高めることができ、さらに長寿命の可動接点用銀被覆複合材料を得ることができる。
【0080】
上記第2実施形態に係る製造方法で製造したサンプルとして、下地領域120の厚さ、中間層130の厚さ、最表層140の厚さをそれぞれ表1に示す実施例の試料と同様に種々に変化させたものを作成し、これらをサンプルNo.201〜252(表3参照)とした。なお、表3に示した実施例のサンプルNo.249〜252の試料については、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中で250℃、2時間の熱処理を行った。また、比較例として、サンプルNo.301〜308(表3参照)を作成した。なお、表3のサンプルNo.201〜252は、表1のサンプルNo.1〜52とそれぞれ層構造が同一のサンプルであり、表3に示した比較例のサンプルNo.301〜308は、表1に示した比較例のサンプルNo.101〜108とそれぞれ層構造が同一のサンプルである。対応関係は、表1に示した実施例のサンプルNo.に200を加えたサンプルNo.が、表3に示した実施例のサンプルNo.となる。
【0081】
上記の処理条件で製造されたサンプルNo.201〜252およびサンプルNo.301〜308の可動接点用銀被覆複合材料を用いて、図3および図4に示す構造のスイッチ200と同様のスイッチを製造した。その他の条件は、前述のサンプルNo.1〜52およびサンプルNo.101〜108の可動接点用銀被覆複合材料を用いた場合と同様とした。
【0082】
上記のようなスイッチを用い、図4に示したオン/オフ状態を繰り返すことで打鍵試験を行なった。打鍵試験では、接点圧力:9.8N/mm、打鍵速度:5Hzで最大200万回の打鍵を行っている。ドーム型可動接点210について、打鍵試験中の接触抵抗の経時変化を測定した結果を、初期値、100万回の打鍵後(打鍵後1)、200万回の打鍵後(打鍵後2)について、それぞれ表3に示している。また、200万回の打鍵試験を終了した後、ドーム型可動接点210に対しクラックの有無等の状況を観察し、その結果も表3に示している。
【0083】
加熱試験は、すべてのサンプルについて、85℃のエアバスで1000時間の加熱を行って、接触抵抗の変化を測定し、その結果を表3に示した。
【0084】
【表3】

【0085】
表3に示した実施例のサンプルNo.201〜252は、表3に示すように、何れも200万回の打鍵試験を行っても接触抵抗の増加は少なく、200万回打鍵後の接点部には下地領域120及び中間層130の露出は見られなかった。さらに、1000時間の加熱後も接触抵抗の上昇は小さかった。特に、表3に示す実施例のサンプルNo.201〜252は、表1に示す実施例のサンプルNo.1〜52と比較して、200万回の打鍵試験における接触抵抗の増加および1000時間の加熱後の接触抵抗の増加が少なく、すべてのサンプルについて接触抵抗の値が30mΩ以下となり、接点材料としての性能がきわめて優れていることがわかった。なお、上記第1実施形態に係る製造方法の実施例1、2で説明した各種変形例は、上記第2実施形態に係る製造方法でも適用することができる。
【0086】
上述したように、この発明によれば、接点の繰り返し開閉動作においても最表層(銀被覆層)が剥離せず、かつ長期間の使用においても接触抵抗の上昇が抑えられ、さらに製品の歩留まりを飛躍的に向上させることができる、可動接点用銀被覆複合材料およびその製造方法を提供することができる。本発明の可動接点用銀被覆複合材料を用いて長寿命の可動接点を製造することができ、産業上の利用可能性が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の一実施形態の可動接点用銀被覆複合材料の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法を示す流れ図である。
【図3】表1に示す実施例の可動接点用銀被覆複合材料を用いて形成したスイッチの平面図である。
【図4】(a)は図3に示したスイッチのA−A断面図でオフ状態を示す図、(b)は同スイッチのオン状態を示す断面図である。
【図5】(a)〜(c)は本発明の第2実施形態に係る可動接点用銀被覆複合材料の製造方法を説明するための模式図である。
【図6】(a),(b)は従来の銀被覆複合材料を示す断面図である。
【図7】従来の別の銀被覆複合材料を示す断面図である。
【図8】従来の別の銀被覆複合材料で形成される酸化物を示す断面図である。
【符号の説明】
【0088】
100 可動接点用銀被覆複合材料
110 基材
120 下地領域
121 下地欠落部
130 中間層
140 最表層
200 スイッチ
210 ドーム型可動接点
220 固定接点
230 充填材
240 樹脂ケース
900、910 銀被覆複合材料
901 ステンレス鋼基材
902、912 下地層
903、914 最表層
904、915 酸化物
913 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部に形成されたニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなる下地領域と、
前記下地領域の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、
前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備え、
前記中間層が前記基材の表面と直接接するように、前記下地領域の複数個所に欠落部が形成されていることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項2】
前記下地領域の厚さと前記中間層の厚さの合計が0.025〜0.20μmの範囲となっていることを特徴とする請求項1に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項3】
前記基材はステンレス鋼からなっていることを特徴とする請求項1または2に記載の可動接点用銀被覆複合材料。
【請求項4】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる金属条の基材を電解脱脂し、塩酸で酸洗して活性化する第1工程と、
次いで、前記基材上に、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液で電解してニッケルめっきを施すか、塩化ニッケルと遊離塩酸とを含む電解液に塩化コバルトを添加してニッケル合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して、複数個所に欠落部を有する下地領域を形成する第2工程と、
次いで、前記下地領域上に、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して中間層を形成する第3工程と、
次いで、前記中間層上に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して最表層を形成する第4工程を含む工程により、銀被覆複合材料を製造することを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記銅めっきまたは前記銅合金めっきのいずれかのめっき処理を施した後、前記銀めっきまたは前記銀合金めっきのいずれかのめっき処理を施す前に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀ストライクめっきを施して、銀被覆複合材料を製造することを特徴とする請求項4に記載の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項6】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材と、該基材の表面の少なくとも一部に形成され、ニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなり、複数個所に欠落部を有する下地領域と、該下地領域の上に形成された銅または銅合金からなる中間層と、前記中間層の上に形成された銀または銀合金からなる最表層とを備えた可動接点用銀被覆複合材料の製造方法であって、
前記基材を電解脱脂し、その後ニッケルイオンとコバルトイオンの少なくとも一方を含有する酸性溶液で酸洗して活性化する活性化処理により、前記下地領域を形成することを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項7】
鉄またはニッケルを主成分とする合金からなる基材を電解脱脂し、その後ニッケルイオンとコバルトイオンの少なくとも一方を含有する酸性溶液で酸洗して活性化する活性化処理により、ニッケル、コバルト、ニッケル合金およびコバルト合金の何れか1つからなり、複数個所に欠落部を有する下地領域を前記基材上に形成する第1工程と、
次いで、前記下地領域上に、硫酸銅と遊離硫酸とを含む電解液で電解して銅めっきを施すか、シアン化銅、シアン化カリウムを基本とし、シアン化亜鉛またはスズ酸カリウムを加えて電解して銅合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して中間層を形成する第2工程と、
次いで、前記中間層上に、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液で電解して銀めっきを施すか、シアン化銀とシアン化カリウムとを含む電解液に酒石酸アンチモニルカリウムを添加して銀合金めっきを施すかのいずれかのめっき処理を施して最表層を形成する第3工程と、を備えることを特徴とする可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記活性化処理時の陰極電流密度を2.0〜3.5(A/dm)の範囲内とすることを特徴とする請求項7または8に記載の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記基材は金属条であることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の可動接点用銀被覆複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記基材はステンレス鋼からなることを特徴とする請求項9に記載の可動接点用銀被覆合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−99549(P2009−99549A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240327(P2008−240327)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】