説明

可変分布定数線路、可変フィルタ、および通信モジュール

【課題】MEMSデバイスにおける可動電極の駆動のための駆動電極の面積をさらに大きくすることができ、駆動の安定性を一層向上させること。
【解決手段】基板11と、基板上に設けられ、互いに対向する第1の線路部12aおよび第2の線路部12bを含む信号線路12と、基板の上方に設けられ、第1の線路部および第2の線路部の両者を跨いで対向する可動電極33と、基板上に可動電極33に対向して設けられ、可動電極33との間に印加される電圧によって可動電極33を引き付けて信号線路12と可動電極33との距離を変化させるための駆動電極35とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高周波信号のための伝送線路などとして用いられる可変分布定数線路、また例えば高周波信号の帯域通過フィルタなどとして用いられる可変フィルタ、および通信モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、携帯電話をはじめとする移動体通信(モバイル通信)の市場が拡大するとともに、そのサービスの高機能化が進展している。これにともなって、移動体通信に利用される周波数帯は次第にギガヘルト(GHz)以上の高い周波数帯にシフトし、しかも多チャンネル化される傾向がある。また、ソフトウエア無線(SDR:Software-Defined-Radio)技術の将来的な導入の可能性も盛んに検討されている。
【0003】
ところで、MEMS技術を用いたチューナブルな高周波デバイスが注目されている。MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用したMEMSデバイス(マイクロマシンデバイス)は、高いQ(クオリティファクタ)が得られ、高い周波数帯域の可変フィルタなどへの適用が可能である(特許文献1、非特許文献1〜3)。また、MEMSデバイスは、小型でありかつ低損失であるため、CPW(Coplanar Waveguide)分布定数共振器にしばしば用いられる。
【0004】
非特許文献3には、三段の分布定数線路をMEMSデバイスによる複数の可変キャパシタが跨ぐ構造のフィルタが開示されている。このフィルタにおいて、MEMSデバイスの駆動電極に制御電圧Vbを印加して可変キャパシタを変位させ、分布定数線路との間のギャップを変化させ、静電容量を変化させる。静電容量の変化によって、フィルタの通過帯域が変化する。例えば制御電圧Vbを0−80Vの間で変化させることにより、フィルタの通過帯域が約21.5−18.5GHzの範囲で変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−278147
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. Peroulis et al,“Tunable Lumped Components with Applications to Reconfigurable MEMS Filters”, 2001 IEEE MTT-S Digest, p341-344
【非特許文献2】E. Fourn et al, “MEMS Switchable Interdigital Coplanar Filter”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 51, NO.1 p320-324, January 2003
【非特許文献3】A. A. Tamijani et al, “Miniature and Tunable Filters Using MEMS Capacitors ”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 51, NO.7, p1878-1885, July 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上に述べた従来のフィルタは、MEMSデバイスを用いることによって通過帯域の中心周波数を可変することが可能であるが、通過帯域幅を可変することはできない。これに関連して、本発明者らは、MEMSによる可変キャパシタを信号線路に設け、通過帯域幅を調整することのできる可変フィルタを提案している。
【0008】
すなわち、図6に示すように、可変フィルタ3Gは、共振線路12Ga〜12Gd、カップリング部14G、および可変キャパシタ17Ga〜17Geを備える。
【0009】
各共振線路12Ga〜12Gdは、それぞれ伝搬長L1 、L2 、L3 、L4 を有する。共振線路12Gaおよび12Gcの伝搬長L1 ,L3 、共振線路12Gbおよび12Gdの伝搬長L2 ,L4 を、それぞれ同じとすることにより、2つの共振線路対ZTG1,2は同じ通過損失特性を持つ。それらを互いに異ならせ、2つの共振線路対ZTG1,2が異なる通過損失特性を持つようにすることにより、所望の通過損失特性が得られる。
【0010】
図7に示されるように、各可変キャパシタ17Ga〜17Geは、それぞれの共振線路12Ga〜12Gdに対し、所定の間隙を有して跨ぐように配置された複数の可動電極33Gを備える。可動電極33Gが共振線路12Gaに近づくと、静電容量が増加し、伝搬長Lが長くなり、共振する波長λが長くなる。
【0011】
可変キャパシタ17Ga〜eをそれぞれ独立して動作させてそれぞれの静電容量を調整することにより、通過中心波長λ0 、減衰ピークの波長λL 、λH 、および通過帯域幅λTを、種々の値に調整し設定することができる。
【0012】
図6および図7に示される可変フィルタでは、共振線路12Ga〜12Gdの両側がフリーエリアとなっているので、可変キャパシタの駆動のための駆動電極を自由に配置することが可能である。したがって、駆動電極の面積を大きくとることができ、これにより駆動の安定性を向上させることができる。
【0013】
本発明は、可変キャパシタなどにおける可動電極の駆動のための駆動電極の面積をさらに大きくすることができ、駆動の安定性を一層向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本実施形態に開示される可変分布定数線路は、基板と、前記基板上に設けられ、互いに対向する第1の線路部および第2の線路部を含む信号線路と、前記基板の上方に設けられ、前記第1の線路部および前記第2の線路部の両者を跨いで対向する可動電極と、前記基板上に前記可動電極に対向して設けられ、前記可動電極との間に印加される電圧によって前記可動電極を引き付けて前記信号線路と前記可動電極との距離を変化させるための駆動電極と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、可動電極の駆動のための駆動電極の面積をさらに大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態による可変分布定数線路の例を示す平面図である。
【図2】図1の可変分布定数線路の断面図である。
【図3】第2の実施形態による可変分布定数線路の例を示す平面図である。
【図4】第3の実施形態による可変フィルタの例を示す平面図である。
【図5】図4の可変フィルタの斜視図である。
【図6】参考のために示す可変フィルタの平面図である。
【図7】図6の可変フィルタの一部を拡大して示す図である。
【図8】通信モジュールの構成の例を示す図である。
【図9】通信装置の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1の実施形態〕
図1において、第1の実施形態の可変分布定数線路4は、基板11、線路12、および可変キャパシタ17を備える。
【0018】
基板11として、例えば、多層の内部配線を有する低温同時焼成セラミック基板(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics ) が用いられる。基板11の表面に、MEMS技術を用いて線路12および可変キャパシタ17が形成される。また、低温同時焼成セラミック基板を有するウエハ上、その他の適当な基板上に、線路12および可変キャパシタ17を形成してもよい。
【0019】
線路12は、基板11上にミアンダ(meander)状に曲がりくねって設けられ、互いに対向する第1の線路部12aおよび第2の線路部12bを含む。第1の線路部12aおよび第2の線路部12bは、図に示すように互いに並列して迂回しながら延びている。
【0020】
すなわち、線路12は、直線状に延びる第1の線路部12a、および、第1の線路部12aの先端から折り返され、第1の線路部12aとは間隔をあけて平行に延びる第2の線路部12bを含む。第2の線路部12bの先端は、電気的に開放された開放端KTとなっている。しかし、開放端KTとするのではなくグランドに接続してもよい。
【0021】
可変キャパシタ17は、複数の可動電極33および複数の駆動電極35を有する。
【0022】
各可動電極33は、基板11の上方に設けられ、第1の線路部12aおよび第2の線路部12bの両者を跨いで対向する。各駆動電極35は、基板11上に各可動電極33に対向して設けられ、可動電極33との間に印加される電圧による静電引力によって可動電極33を引き付け、線路12と可動電極33との距離を変化させる。
【0023】
また、駆動電極35は、第1の電極35a、第2の電極35b、および第3の電極35cを有する。
【0024】
第1の電極35aは、第1の線路部12aと第2の線路部12bとの間に配置される。第2の電極35bは、第1の電極35aとの間に第1の線路部12aを挟み込むように配置される。第3の電極35cは、第1の電極35aとの間に第2の線路部12bを挟み込むように配置される。
【0025】
これら第1の電極35a、第2の電極35b、および第3の電極35cには、可動電極33に対して、互いに同じ電圧(制御電圧)Vbが印加される。
【0026】
また、第2の電極35bおよび第3の電極35cに、互いに同じ電圧Vb1が印加され、第1の電極35aに、第2の電極35bおよび第3の電極35cとは異なる電圧Vb2が印加されるようにしてもよい。例えば、第1の電極35aに印加する電圧Vb2を第2の電極35bおよび第3の電極35cに印加する電圧Vb1よりも大きくする。または、その逆に電圧Vb2を電圧Vb1よりも小さくする。
【0027】
以下、可変分布定数線路4についてさらに詳しく説明する。
【0028】
図2をも参照して、基板11は、複数層の絶縁層31a,31a…を互いに接合することにより形成されている。図2に示す例では、絶縁層31aは4層である。各絶縁層31aには、一方の主面から他方の主面に至るように貫通孔が形成され、その貫通孔内に導電部を備えたビア31bが形成されている。また、絶縁層31aにおける少なくとも1つの層間には、配線パターン31cが内部配線として形成されている。配線パターン31cの一部が、グランド接続されたグランド層31dとなっている。
【0029】
グランド層31dは、絶縁層31aを挟むことにより、所定の間隙を介して線路12と対向し、これによってマイクロストリップライン構造(Microstrip-line configuration)が形成される。
【0030】
また、配線パターン31cの相互間、配線パターン31cとパッド部38a〜fとの間、および、配線パターン31cと線路12との間は、必要な箇所がビア31bによって接続されている。なお、絶縁層31aは、例えばLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics ) で実現することが可能である。LTCC材料は、SiO2 を含有する場合がある。しかし、絶縁層31aは、LTCCに限ることなく、他の誘電体で形成することもできる。
【0031】
基板11の表側の表面に、線路12、駆動電極35(第1〜第3の電極35a〜35c)、およびアンカー部37a,37bが形成される。基板11の裏側の表面に、パッド部38a〜38fが形成される。線路12は、例えばCu、Ag、Au、Al、W、Moなどの低抵抗金属材料で形成される。線路12の厚さは、例えば0.5〜20μm程度である。
【0032】
グランド層31d、駆動電極35、およびアンカー部37a,37bは、基板11の内部配線およびビア31bなどを経由して、パッド部38a〜fなどのいずれかに電気的に接続される。なお、駆動電極35の表面に誘電体膜を形成してもよい。
【0033】
可動電極33は、アンカー部37a,37bにより支持される。可動電極33とアンカー部37a,37bとは電気的に接続されている。可変電極33は、弾性変形可能な低抵抗金属材料、例えばAu、Cu、Alなどの金属や、Au、Cu、Alのいずれかを含有する合金、またはこれらの金属や合金を有する多層膜で形成される。可変電極33には、その中央部に厚肉の可動キャパシタ電極33aが形成され、その両側が薄肉のバネ電極33b,33bとなっている。
【0034】
これら、可変電極33、駆動電極35、およびアンカー部37a,37bなどによって、可変キャパシタ17が形成される。
【0035】
なお、可動キャパシタ電極33aによって、線路12に静電容量Cgが付加されることになる。可動キャパシタ電極33a、または可動キャパシタ電極33aと線路12とで構成される部分を、「ロードキャパシタ(Load-Capacitor) 」ということがある。また、可動電極33と駆動電極35とで構成される部分を「平行平板アクチュエータ」ということがある。
【0036】
線路12の上面と可動キャパシタ電極33aの下面との間は、自由状態で所定の間隙(ギャップ)GP1を有し、それに応じた静電容量Cgを有する。間隙GP1の大きさは、例えば0.1〜10μm程度である。
【0037】
なお、線路12の表面に誘電体ドットを設けてもよい。誘電体ドットを設けることにより、線路12と可動キャパシタ電極33aとの間の静電容量Cgが増大し、可変キャパシタ17による周波数可変範囲が大きくなる。また、誘電体ドットは、可動キャパシタ電極33aが線路12側に引き込まれた場合の短路防止の役割をも果たす。
【0038】
また、図には示していないが、基板11の上側の表面において、線路12および可変電極33などを含む可変分布定数線路4の全体がパッケージング部材によって覆われ、これによって可変分布定数線路4の全体が封止されている。
【0039】
このように構成された可変分布定数線路4は、パッド部38a〜fを利用して図示しないプリント基板の表面に半田付けすることができ、これによって表面実装を行うことが可能である。なお、線路12への接続は、パッド部38a〜fを利用するようにしてもよく、また線路12に直接に高周波信号が入力されるように接続してもよい。
【0040】
パッド部38a〜fなどを介して駆動電極35に電圧(制御電圧)Vbを印加することにより、駆動電極35と可動電極33との間に静電引力が発生する。制御電圧Vbの大きさつまり静電引力の大きさに応じて、可動電極33が撓み、間隙GP1の大きさが変化する。間隙GP1の大きさの変化に応じて、線路12の表面と可動電極33との間の静電容量Cgが変化する。
【0041】
これに応じて、線路12が共振線路である場合に、その伝搬長Lが変化する。電圧Vbの大きさを調整することによって、線路12の伝搬長Lすなわち共振波長λを調整することができる。
【0042】
また、可変分布定数線路4では、基板11の内部のグランド層31dと表面に形成される線路(信号線)12とによって、マイクロストリップ型の伝送線路が構成される。マイクロストリップ型の伝送線路では、線路12が形成された基板上の面にはグランド層が形成されないので、線路12の両側に広いフリーエリアが設けられることとなる。そのため、そのフリーエリアに駆動電極35を比較的自由に配置することができる。
【0043】
本実施形態の可変分布定数線路4においては、線路12をミアンダ状にし、第1の線路部12aおよび第2の線路部12bが可動電極33と対向するので、静電容量Cgを大きくし、また可変キャパシタ17による周波数可変範囲を大きくすることができる。
【0044】
また、線路12をミアンダ状に折り返し、折り返されたそれぞれの部分の両側に駆動電極35を配置する。つまり、各線路部12a,12bの両側にもフリーエリアが設けられ、そこに3つの電極(第1〜第3の電極35a〜35c)を設けて平行平板アクチュエータを形成することができる。これにより、駆動電極35の面積をさらに大きくすることができる。
【0045】
したがって、電圧Vbが同じであっても駆動力を増大することができる。そのため、可動電極33のバネ定数を大きくすることができ、高周波信号による自己作動現象(Self-Actuation 現象) を抑制することが可能である。
【0046】
また、駆動電極35の面積を可動電極33の面積に比較して十分に大きくできるので、線路12に供給される高周波信号による可動電極33との間のクーロン力を無視できるようになる。したがって、これによっても可動電極33の変位動作が安定し、自己作動現象を抑制することが可能となる。
【0047】
また、可動電極33に対して同じ駆動力を得るのであれば、電圧Vbを低くすることができる。
【0048】
このように、可動電極33の動作の安定性を一層向上させることができる。これにより、可変分布定数線路4の信頼性が向上する。また、線路12および駆動電極35などの配置を容易に効率的に行うことができ、可変分布定数線路4の全体のサイズを小さくすることが可能である。
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態の可変分布定数線路4Bについて説明する。
【0049】
なお、第2の実施形態の可変分布定数線路4Bは、第1の実施形態の可変分布定数線路4に対して、線路12Bの形状、駆動電極35Bの個数および配置などが異なるが、基本的な動作などは同じである。したがって、以下において、第1の実施形態の可変分布定数線路4と同様な機能を有する部分は、同じ符号を付しまたは符号に「B」を付加し、説明を省略しまたは簡略化する。以下同様である。
【0050】
図3において、第2の実施形態の可変分布定数線路4Bは、基板11、線路12B、および可変キャパシタ17Bを備える。
【0051】
線路12Bは、基板11上に、直線状部12Btが設けられ、直線状部12Btの両側に2つの線路部12Bsが対称に設けられている。
【0052】
直線状部12Btは、その一端が入力端子15aであり、他端が出力端子15bとなっている。
【0053】
各線路部12Bsは、スパイラル(spiral) 状に巻かれて設けられ、互いに対向する第1の線路部12Ba、第2の線路部12Bb、および第3の線路部12Bcを含む。これら第1〜第3の線路部12Ba〜12Bcは、図3に示すように互いに並列して延びている。第3の線路部12Bcの先端は開放端KTとなっているが、グランドに接続してもよい。
【0054】
可変キャパシタ17Bは、線路12Bにおける左右の線路部12Bsに対応して、可変キャパシタ部17Bsが左右に設けられている。可変キャパシタ部17Bsは、複数の可動電極33Bおよび複数の駆動電極35Bを有する。
【0055】
可動電極33Bは、基板11の上方に設けられ、第1〜第3の線路部12Ba〜12Bcのいずれかを跨いで対向する。各駆動電極35Bは、基板11上に可動電極33Bに対向して設けられ、可動電極33Bとの間に印加される電圧によって可動電極33Bを引き付け、線路12Bと可動電極33Bとの距離を変化させる。
【0056】
また、駆動電極35Bは、第1〜第3の線路部12Ba〜12Bcの両側において、第1〜第3の線路部12Ba〜12Bcを挟み込むように配置された複数の電極35Ba〜35fを有する。
【0057】
すなわち、例えば、電極35Baは、第1の線路部12Baと第3の線路部12Bcとの間に配置されている。電極35Bbは、電極35Baとの間に第1の線路部12Baを挟み込むように配置されている。電極35Bcは、電極35Baとの間に第3の線路部12Bcを挟み込むように配置されている。電極35Bdは、電極35Bcとの間に第2の線路部12Bbを挟み込むように配置されている。電極35Beおよび35Bfは、第1の線路部12Baおよび第2の線路部12Bbを挟み込むように配置されている。
【0058】
いずれにおいても、可動電極33Bは、複数の電極35Ba〜fと対向しており、平行平板アクチュエータにおける駆動電極35Bの面積を大きくすることができる。
【0059】
したがって、可変分布定数線路4Bにおいては、可動電極33Bに対する駆動力が増大し、また可動電極33Bのバネの強さを大きくすることができ、セルフアクチュエーションの発生を抑制できる。これにより、可動電極33Bの駆動の安定性を一層向上させ、信頼性の一層の向上を図ることができる。
〔第3の実施形態〕
次に、第3の実施形態として、可変フィルタ3Cについて説明する。
【0060】
図4および図5において、可変フィルタ3Cは、基板11、共振線路12Ca〜12Cd、カップリング部14C、入力端子15Ca、出力端子15Cb、および可変キャパシタ17Cを備える。
【0061】
共振線路12Ca,12Ccは第1の共振線路であり、共振線路12Cb,12Cdは第2の共振線路である。第1の共振線路12Caと第2の共振線路12Cbとは1つの共振線路対ZTC1を形成し、第1の共振線路12Ccと第2の共振線路12Cdとは他の1つの共振線路対ZTC2を形成する。
【0062】
各共振線路12Ca〜12Cdは、それぞれ伝搬長L1 、L2 、L3 、L4 を有する。共振線路12Caおよび12Ccの伝搬長L1 ,L3 、共振線路12Cbおよび12Cdの伝搬長L2 ,L4 を、それぞれ同じとすることにより、2つの共振線路対ZTC1,2は同じ通過損失特性を持つ。それらを互いに異ならせ、2つの共振線路対ZTC1,2が異なる通過損失特性を持つようにすることにより、所望の通過損失特性を持った帯域通過フィルタとすることができる。
【0063】
共振線路12Ca〜12Cdは、それぞれ、直線状に延びる第1の線路部22a、および、第1の線路部22aの先端から折り返され、第1の線路部22aとは間隔をあけて平行に延びる第2の線路部22bを含む。第2の線路部22bの先端は、グランドに接続されているが、電気的に開放された開放端としてもよい。
【0064】
カップリング部14Cは、共振線路対ZTC1 で共振している高周波信号の位相を90度(λ/4)回転し、反射無しに次の共振線路対ZTC2に伝送する役割を持つ。つまり、入力される高周波信号について、特定の周波数成分に対する選択性を有して出力し、インピーダンス整合を行って次の入力点に伝送する役割を持つ。
【0065】
カップリング部14Cは、伝搬長L14がλ14/4の分布定数線路の役割を果している。ここでの波長λ14は、共振線路12Caと12Cbとの合計の伝搬長L0 に等しくしてもよく、または共振線路12Ccと12Cdとの合計の伝搬長L0 に等しくしてもよく、またはそれらの中間の伝搬長L0 としてもよい。つまり、カップリング部14Cは、可変フィルタ3Cにおける通過中心波長λ0 に対して、λ0 /4の伝搬長L14を持つ分布定数線路としてよい。このようにすることによって、通過中心波長λ0 の高周波信号を損失なく伝送し、通過損失特性の急峻性を高めることができる。
【0066】
カップリング部14Cは、上に述べたような可変キャパシタを備えており、可変キャパシタによって伝搬長または通過周波数を可変し調整することが可能である。また、カップリング部14Cに、上に述べたような可変キャパシタとは異なる可変キャパシタ素子を備えてもよい。また、可変キャパシタまたは可変キャパシタ素子に代えて、またはこれとともに、可変インダクタンス素子を設けてもよい。
【0067】
また、カップリング部14Cとして、π型カップリング、T型カップリング、その他のカップリング部を用いることが可能である。
【0068】
また、カップリング部14Cとして、可変分布定数線路を用いてもよく、また集中定数回路を用いてもよい。
【0069】
可変キャパシタ17Ca〜17Cdは、各共振線路12Ca〜12Cdに対して設けられる。これらの可変キャパシタ17Ca〜17Cdは、互いに同じ形状かまたは対称な形状であり、機能は互いに同じであるので、1つの可変キャパシタ17Ccのみについて説明する。
【0070】
可変キャパシタ17Ccは、共振線路12Ccに対して設けられている。
【0071】
なお、可変キャパシタ17Ca〜17Cdまたは共振線路12Ca〜12Cdの全部または一部を指して、「可変キャパシタ17C」または「共振線路12C」と記載することがある。
【0072】
可変キャパシタ17Cは、複数の可動電極33Cおよび複数の駆動電極35Cを有する。
【0073】
各可動電極33Cは、基板11の上方に設けられ、第1の線路部22aおよび第2の線路部22bの両者を跨いで対向する。各駆動電極35Cは、基板11上に各可動電極33Cに対向して設けられ、可動電極33Cとの間に印加される電圧によって可動電極33Cを引き付けて共振線路12Cと可動電極33Cとの距離を変化させる。
【0074】
また、駆動電極35Cは、第1の電極35Ca、第2の電極35Cb、および第3の電極35Ccを有する。
【0075】
第1の電極35Caは、第1の線路部22aと第2の線路部22bとの間に配置される。第2の電極35Cbは、第1の電極35Caとの間に第1の線路部22aを挟み込むように配置される。第3の電極35Ccは、第1の電極35Caとの間に第2の線路部22bを挟み込むように配置される。
【0076】
また、図5において破線で示されるように、基板11の内部にグランド層31Cが設けられている。グランド層31Cは、共振線路12Cおよび可変キャパシタ17Cの全体を含んでそれらと対向するよう、それらに対して共通に設けられている。
【0077】
これら、共振線路12C、カップリング部14C、入力端子15Ca、出力端子15Cb、可変キャパシタ17C、およびグランド層31Cなどは、基板11の内部配線およびビアなどを経由して、基板11の下面などに設けられたパッド部などに電気的に接続されている。
【0078】
可変フィルタ3Cでは、各駆動電極35Cに印加する電圧Vbを調整することにより、可変キャパシタ17Ca〜dを可変駆動し、通過中心波長λ0 、減衰ピークの波長λL 、λH 、および通過帯域幅λTを、種々の値に調整し設定することができる。
【0079】
可変フィルタ3Cにおいて、各可動電極33Cは、複数の電極35Ca〜cと対向しているので、平行平板アクチュエータにおける駆動電極35Cの面積を大きくすることができる。
【0080】
したがって、可動電極33Cに対する駆動力が増大し、また可動電極33Cのバネの強さを大きくすることができ、セルフアクチュエーションの発生を抑制できる。これにより、可動電極33Cの駆動の安定性を一層向上させ、可変フィルタ3Cの信頼性の一層の向上を図ることができる。
【0081】
また、可変フィルタ3において、基板11として多層の内部配線を有する低温同時焼成セラミック基板を用いたので、基板11の内部配線をグランド層31Cとして利用することができる。したがって、線路12を容易にマイクロストリップ型の伝送線路とすることができる。
【0082】
因みに、基板11として多層の内部配線を有する低温同時焼成セラミック基板を用いなかった場合には、マイクロストリップ型の伝送線路を形成するためにグランド層を別途設ける必要がある。その場合に、駆動電極35への配線などがグランド層と線路12Cとの間を通過したりする可能性があり、インピーダンス整合をとるのが困難となるおそれがでてくる。
【0083】
なお、本実施形態の可変フィルタ3においては、各可変キャパシタ17Ca〜dが、1つの共振線路12Ca〜12Cdに対し4つの可動電極33Cを有する例を示したが、可動電極33Cは1つないし3つ、または5つ以上であってもよい。また、各可動電極33Cの面積を異ならせたり、共振線路との間の間隙の大きさを異ならせてもよい。
〔通信モジュール〕
上に述べた実施形態の可変フィルタ3Cおよび可変分布定数線路4,4Bは、通信モジュールTMとして構成することが可能である。
【0084】
図8において、通信モジュールTMは、送信フィルタ51および受信フィルタ52からなる。送信フィルタ51および受信フィルタ52として、上に述べた可変フィルタ3Cを適用することが可能である。
【0085】
可変フィルタ3Cを用いた場合に、各可変フィルタ3Cに制御電圧Vbが与えられ、その時々の通信に合うように、通過中心周波数f0 、減衰周波数fL 、fH 、および通過損失特性が決定される。したがって、この場合には、送信フィルタ52または受信フィルタ53におけるフィルタの数を減らすことができ、通信装置TSの小型化を図ることができる。また、フィルタの数を減らすことによって回路が簡素化され、回路損失や回路ノイズなどを低減することが可能であり、通信モジュールTMの性能の向上を図ることが可能である。
【0086】
なお、通信モジュールTMは、図8に示した以外の種々の構成とすることが可能である。
〔通信装置〕
本実施形態の可変フィルタ3Cは、携帯電話機、携帯端末機などの移動体通信装置、Base−station(基地局)装置、固定通信装置など、種々の通信装置に適用することができる。
【0087】
ここでは、可変フィルタ3Cを適用した通信装置の一例について説明する。
【0088】
図9において、通信装置TSは、制御処理部60、送信部61、送信フィルタ62、受信フィルタ63、受信部64、およびアンテナATなどを有する。
【0089】
処理制御部60は、通信装置TSに必要なデジタル処理およびアナログ処理を行い、またユーザとの間のヒューマンインタフェ−スを行うなど、通信装置TSの全体を制御する。
【0090】
送信部61は、変調などを行って高周波信号S11を出力する。高周波信号S11には、互いに異なる周波数帯域の信号が含まれる。
【0091】
送信フィルタ62は、送信部61から出力される高周波信号S11に対し、処理制御部60により指定された周波数帯域のみを通過させるようフィルタリングを行う。送信フィルタ62からは、フィルタリングされた高周波信号S12が出力される。送信フィルタ62として、上の可変フィルタ3Cまたはその変形されたものを用いることができる。
【0092】
受信フィルタ63は、アンテナATで受信した高周波信号S13の中から、処理制御部60により指定された周波数帯域のみを通過させるようフィルタリングを行う。受信フィルタ63からは、フィルタリングされた高周波信号S14が出力される。受信フィルタ63として、上の可変フィルタ3Cまたはその変形されたものを用いることができる。
【0093】
受信部64は、受信フィルタ63から出力される高周波信号S14に対し、増幅および復調などを行い、得られた受信信号S15を処理制御部60に出力する。
【0094】
アンテナATは、送信フィルタ62から出力される高周波信号S12を電波として空中に輻射し、また図示しない無線局などから送信された電波を受信する。
【0095】
送信フィルタ62または受信フィルタ63として可変フィルタ3Cを用いた場合には、制御処理部60からの指令によって制御電圧Vbが与えられ、その時々の通信に合うように、通過中心周波数f0 、減衰周波数fL 、fH 、および通過損失特性が決定される。したがって、この場合には、送信フィルタ62または受信フィルタ63におけるフィルタの数を減らすことができ、通信装置TSの小型化を図ることができる。また、フィルタの数を減らすことによって回路が簡素化され、回路損失や回路ノイズなどを低減することが可能であり、通信装置TSの性能の向上を図ることが可能である。
【0096】
なお、上に述べた通信装置TSの構成において、フィルタは、送信フィルタ62および受信フィルタ63以外の回路素子として、例えば中間周波数用の帯域通過フィルタとして、設けられることがある。また、送信時と受信時とにおいて、アンテナAT、送信フィルタ62、または受信フィルタ63を切り換えるためのスイッチが必要に応じて設けられる。送信フィルタ62および受信フィルタ63として、上に述べた通信モジュールTMを用いることも可能である。
【0097】
また、通信装置TSには、低ノイズ増幅器、パワー増幅器、デュプレクサ、AD変換器、DA変換器、周波数シンセサイザ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit ) 、DSP(Digital Signal Processor) 、電源装置などが必要に応じて設けられる。
【0098】
通信装置TSが携帯電話機である場合には、通信方式に応じた構成とし、送信フィルタ62または受信フィルタ63についても通信方式に応じた周波数帯域が選択される。例えば、GSM(Global System for Mobile Communications )通信方式の場合には、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応するように設定される。また、2GHz帯以上、例えば6GHz帯、10GHz帯などにも、本実施形態の可変フィルタ3Cなどを適用して通信装置TSを構成することが可能である。
【0099】
上に述べた種々の実施形態において、基板11、線路12,12B,12C、第1の線路部12a、第2の線路部12b、可変キャパシタ17,17B,17C、可動電極33,33B,33C、駆動電極35,35B,35C、可変分布定数線路4,4B、可変フィルタ3C、通信モジュールTM、および通信装置TSの全体または各部の構成、構造、形状、寸法、材料、成形方法、製作方法、配置、個数、位置などは、上に述べた以外に種々変更することができる。
【符号の説明】
【0100】
3C 可変フィルタ(可変分布定数線路)
4,4B 可変分布定数線路
11 基板
12,12B 線路(信号線路)
12Ca,12Cc 第1の共振線路(共振線路、信号線路)
12Cb,12Cd 第2の共振線路(共振線路、信号線路)
12a,12Ba,12Ca 第1の線路部
12b,12Bb,12Cb 第2の線路部
12Bc 第3の線路部(第1の線路部、第2の線路部)
14C カップリング部
17,17B,17C 可変キャパシタ
33,33B,33C 可動電極
35,35B,35C 駆動電極
35a,35Ca 第1の電極
35b,35Cb 第2の電極
35c,35Cc 第3の電極
35Ba〜f 電極(第1〜第3の電極) ZTC1,2 共振線路対
TM 通信モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、互いに対向する第1の線路部および第2の線路部を含む信号線路と、
前記基板の上方に設けられ、前記第1の線路部および前記第2の線路部の両者を跨いで対向する可動電極と、
前記基板上に前記可動電極に対向して設けられ、前記可動電極との間に印加される電圧によって前記可動電極を引き付けて前記信号線路と前記可動電極との距離を変化させるための駆動電極と、
を備えることを特徴とする可変分布定数線路。
【請求項2】
前記駆動電極は、
前記第1の線路部と前記第2の線路部との間に配置された第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記第1の線路部を挟み込むように配置された第2の電極と、
前記第1の電極との間に前記第2の線路部を挟み込むように配置された第3の電極と、を含む、
請求項1記載の可変分布定数線路。
【請求項3】
前記第2の電極および前記第3の電極には、互いに同じ電圧が印加され、
前記第1の電極には、前記第2の電極および前記第3の電極とは異なる電圧が印加される、
請求項2記載の可変分布定数線路。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に設けられ、高周波信号が入力される入力点から延びて互いに対向する第1の線路部と第2の線路部とを含む共振線路と、
前記基板の上方に設けられ、前記第1の線路部および第2の線路部の両者を跨いで対向する可動電極と、
前記基板上に設けられ、前記可動電極との間に印加される電圧によって前記可動電極を引き付けて前記信号線路と前記可動電極との距離を変化させるための駆動電極と、
を備える可変フィルタ。
【請求項5】
前記駆動電極は、
前記第1の線路部と前記第2の線路部との間に配置された第1の電極と、
前記第1の電極との間に前記第1の線路部を挟み込むように配置された第2の電極と、
前記第1の電極との間に前記第2の線路部を挟み込むように配置された第3の電極と、を含む、
請求項4記載の可変フィルタ。
【請求項6】
前記共振線路は、互いに反対側に延びる第1の共振線路および第2の共振線路を含み、
前記可動電極は、前記第1の共振線路に対向する第1の可動電極と前記第2の共振線路に対向する第2の可動電極とを含み、
前記駆動電極は、前記第1の可動電極に対向する第1の駆動電極と前記第2の可動電極に対向する第2の駆動電極とを含む、
請求項4または5記載の可変フィルタ。
【請求項7】
前記第1の共振線路および前記第2の共振線路からなる共振線路対が複数設けられ、
前記複数の共振線路対は、カップリング部によって順次接続されている、
請求項6のいずれかに記載の可変フィルタ。
【請求項8】
前記基板は、多層の内部配線を有する低温同時焼成セラミック基板である、
請求項4ないし7のいずれかに記載の可変フィルタ。
【請求項9】
請求項4ないし8のいずれかの可変フィルタを備えた通信モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−101227(P2011−101227A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254925(P2009−254925)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「立体構造新機能集積回路(ドリームチップ)技術開発/複数周波数対応通信三次元デバイス技術」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】