説明

可変抵抗内蔵形配線基板

【課題】耐摩耗性、耐久性並びに抵抗特性に優れた可変抵抗内蔵形配線基板を提供するこ
とを目的とする。
【解決手段】本配線基板は第1絶縁基板2の一主面に第1配線層3が形成された第1配線基板1と、第2絶縁基板6の一主面に第2配線層7が形成された第2配線基板5と、第1、第2配線基板を各一主面を向かい合わせ相互間に空間部を形成して平行にする支持部10と、第1配線基板の一主面に配置され一端部が第1配線層の第1ランド部に接続された長矩形状の第1抵抗層4と、第1抵抗層の長手方向に沿って対面配置された第2配線層を含む通電路層9とを備え第1、第2絶縁基板は可撓性フィルムからなり、第1抵抗層の長手方向に沿う任意の位置において可撓性フィルムの外面から押圧子Pによる押圧操作を加えて、前記第1抵抗層と通電路層とを部分的に接触させて回路抵抗長を任意に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可変抵抗内蔵形配線基板、特にメンブレン配線基板分野に好適する可変抵抗内蔵形配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やデジタルカメラなどの各種電子機器に組み込まれる回路配線基板は、小形化、薄形化、軽量化及び多機能化並びに部品コストの低減などが益々要求されてきている。特に、前述の部品コストの低減に有利なものとしてメンブレンタイプの回路配線基板が、例えば感圧センサ、ドームクリックスイッチ或いは電子部品(例えばLED)実装タイプ基板などの広い応用分野に亘って利用されている。
【0003】
また、電子部品実装タイプの配線基板には、抵抗素子、容量素子或いはインダクタ素子などの受動素子部品を内蔵したものがある。抵抗素子については、回路機能の向上のために可変抵抗素子を内蔵させることも行われてきている。
【0004】
そこで、メンブレン配線基板の一部に可変抵抗素子を形成した従来技術の一例について、図5(概略平面図)を参照して説明する。
【0005】
即ち、この種の配線基板は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)のような比較的安価な可撓性絶縁基板50の一主面に銀ペースト(インク)を印刷し、乾燥することによって回路パターン化された配線層が形成されている。前記配線層のうち互いに平行な横並びの第1配線層51及び第2配線層52が部分的に図示されているように、前記第2配線層52は、第1配線層51の先端部よりも長尺に延長された長矩形又は帯状にパターニングされている。
【0006】
そして、前記各配線層51及び52にそれぞれ電気的に接続された長矩形状の第1、第2カーボン層53、54が、共にカーボンペーストを長矩形パターン状にスクリーン印刷し、焼成(乾燥)することによって形成されている。前記第1カーボン層53は、その長矩形の一端部が第1配線層51の先端部(ランド部)上に重ねられ、その他端部側を含む大部分が抵抗層として前記フレキシブル絶縁基板50の一主面に直接印刷されている。
【0007】
一方、第2カーボン層54は、前記第2配線層52の表面上に、その先端部から根元に至るまでの全体に亘って印刷されている。前記第1、第2配線層51、52は、前記第1、第2カーボン層53、54から露出する部分(根元部分)において、例えばソルダーレジストを印刷することによって形成された絶縁保護膜55によって被覆されている。
【0008】
そして、前記第1カーボン層53は、その一端部以外の大部分が第1配線層51と重ならず、長手方向の抵抗長成分からなる抵抗層として作用する。そこで、前記第1、第2カーボン層53、54間に跨がらせた二股状の導電性摺動子56を、前記長矩形状パターンの長手方向に沿って左右に摺動することによって、抵抗層としての前記第1カーボン層53の抵抗長(抵抗値)が可変できるようにされている。
【0009】
ところが、前記導電性摺動子56の二股の各先端部は、前記第1、第2カーボン層53、54表面に直接接触して摺動され、また、これら相互の安定した接触を維持するために摺動子56にある程度の荷重をかける必要がある。そのために、前記摺動子56の各先端部および前記第1、第2カーボン層53、54が過度に摩耗したり破損したりして耐久性が低下し、抵抗特性の低下や導通不良を起こす。また、前記第1、第2カーボン層53、54は横並びに配置されているために、配線基板に対する占有面積が大きくなり電子部品の実装密度を高めるには不利であるなどの問題がある。
【0010】
ところで、例示する特許文献1には、抵抗層をスクリーン印刷により形成する技術が示されているが、この技術を可変抵抗に適用しても、前記従来技術と同様に抵抗層の耐久性や抵抗特性の低下や導通不良などの問題がある。
【0011】
また、特許文献2には、所定の方向に向かって徐々に幅が狭くなるウリ型や菱形パターンの開口部を有するスペーサの両面に、各々が内面に直線的に延びる導電(抵抗体)パターンを有する一対の可撓性シートを重ね合わせた着座状態検出等のメンブレンスイッチ技術が開示されている。この技術は着座者の体重検出を可能としたスイッチを対象とするものであり、回路特性を可変/調整するための可変抵抗としての技術思想はない。
【0012】
そして、この技術では、回路抵抗を制御するには接点部分の接触面積を制御せざるを得ず、外部荷重の押込量に対して二次曲線状に抵抗値が変化してしまうので、繰り返し性のある回路抵抗管理を行うことができず、また、回路抵抗値をリニアに制御することができない。従って、特許文献2の技術は、オン/オフスイッチとしての用途に限られ用途拡大に限界があり、回路特性を正確に可変/調整するための可変抵抗素子には適用できない。
【特許文献1】特開2006−339489号公報
【特許文献2】特開2001−067981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記問題点を解決するものであり、耐摩耗性、耐久性並びに抵抗特性に優れた可変抵抗内蔵形配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の本発明の可変抵抗内蔵形配線基板は、第1絶縁基板の一主面に第1配線層が形成された第1配線基板と、第2絶縁基板の一主面に第2配線層が形成された第2配線基板と、前記第1、第2配線基板を前記各一主面を向かい合わせた状態で相互間に空間部を形成して平行に支持する支持部と、前記第1配線基板の一主面に配置され一端部が第1配線層の第1ランド部に接続された長矩形状の第1抵抗層と、前記第1抵抗層の長手方向に沿って平行に対面配置された前記第2配線層を含む通電路層とを備え、前記第1、第2絶縁基板の少なくとも一方は可撓性フィルムからなり、前記第1抵抗層の長手方向に沿う任意の位置において、前記可撓性フィルムの外面から押圧子による押圧操作を加えることによって、前記第1抵抗層と通電路層とを部分的に接触させて回路抵抗長を任意に設定できるようにしたことを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の可変抵抗内蔵形配線基板において、前記通電路層は前記第1抵抗層の長手方向に沿って平行に対面配置された長矩形状の第2抵抗層からなり、前記第1、第2抵抗層の長手方向の各一端部側において、前記支持部を境にして前記第1ランド部に対向する第2ランド部が前記第2配線層に形成され、前記第1、第2抵抗層の各一端部が前記第1、第2ランド部にそれぞれ接続され、前記第1、第2抵抗層の長手方向の各他端部は電気的に自由端として同一方向に延在していることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の本発明は、請求項1または請求項2に記載の可変抵抗内蔵形配線基板において、前記支持部は、前記第1抵抗層の形状に対応した空間部を形成するための長矩形状の貫通孔を有し両面に粘着材が付着された絶縁フィルムからなるスペーサを用いて構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の本発明は、請求項1〜請求項3のうちいずれか1つに記載の可変抵抗内蔵形配線基板において、前記第1、第2絶縁基板のうち、前記押圧子により押圧操作を受ける絶縁基板は、押圧面に沿う方向の張力を吸収するために設けられた弛緩部を有することを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の本発明は、請求項1〜請求項4のうちいずれか1つに記載の可変抵抗内蔵形配線基板において、前記第1、第2配線基板は、前記第1、第2絶縁基板を間隔をおいて並置できる面積を有する一枚の絶縁性の可撓性フィルムの一主面に、パターニングされた前記第1、第2配線層を形成し、前記一枚の絶縁性の可撓性フィルムを、前記一主面を内側にして、前記通電路層と第1抵抗層とを対向させた状態に折り返して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の可変抵抗内蔵形配線基板によれば、抵抗層は長矩形状であるために、その層幅を長手方向に沿った均一幅にできるので、前記抵抗層の長手方向に沿った実効的な回路抵抗層長を任意に設定でき、前記抵抗層の実効的な抵抗値を線形的かつ精確に可変及び調整することができる。
【0020】
前記抵抗層及び平行に対面配置された通電路層は、前記第1、第2絶縁基板の各内側の一主面に設けられているために、押圧操作により任意の位置においてこれら両層を互いに直接接触させて回路抵抗長を可変及び調整することができる。
【0021】
その際、押圧子は、前記絶縁基板の外面には接触するが、前記抵抗層及び通電路層に対して直接的に接触及び摺動することがないので、前記抵抗層及び通電路層の摩耗が著しく軽減され耐久性(長寿命化)に優れた状態で抵抗特性を高精度に維持することができる。
【0022】
前記通電路層と抵抗層は可変抵抗内蔵形配線基板の厚さ方向に重ねられた形態となっているので、一枚の配線基板に対する面積占有率を下げることができ、より多くの電子部品を可変抵抗内蔵形配線基板に実装することができるなどの効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の可変抵抗内蔵形配線基板の一実施形態について、図1及び図2を参照して説明する。図1(a)は本発明の可変抵抗内蔵形配線基板の一実施形態を示す一部切欠平面図、図1(b)は図1aのA−A線に沿う断面図である。図2(a)〜(c)は前記可変抵抗内蔵形配線基板を分解して示す図であり、(a)は第1配線基板の上面図、(b)はスペーサの上面図、(c)は第2配線基板の下面図である。
【0024】
第1配線基板1は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)のような可撓性の絶縁フィルムからなる第1絶縁基板2の一主面に、銀ペースト(インク)をスクリーン印刷し、乾燥することによって回路パターン化された第1配線層3を設けて形成されている。前記第1配線層3は、例えば、層幅0.7μm、層厚10μmの帯状パターンとされていて、その先端部は右側(図1(b)参照)に終端したランド部(第1ランド部)を有する。
【0025】
前記第1配線層3先端のランド部に接続される第1抵抗層4は、図2(a)に示されているように、前記ランド部に重ね合わせ接続された一端部4aから中心軸Xに沿って長手方向に遠く離れた位置にあって、電気的に自由端となる他端部4bに亘って一定の均一層幅750μm、層厚10μmをもって帯状に延びる長矩形状のパターンを有する。
【0026】
前記第1抵抗層4は、前記長矩形状となるようなパターニング条件のもとで抵抗材料としてのカーボンペーストをスクリーン印刷し、乾燥(焼成)することによって形成され、一端部4aのランド部との重ね合わせ部分以外の大部分の長矩形状部分が、前記第1絶縁基板2の一主面に直接印刷された形態となっている。
【0027】
一方、前記第1配線基板1に対して厚さ方向に所定の間隔で離間して対向配置された第2配線基板5は、例えばPETのような可撓性の絶縁フィルムからなる第2絶縁基板6の一主面に、銀ペースト(インク)をスクリーン印刷し、乾燥することによって回路パターン化された第2配線層7を設けて形成されている。
【0028】
前記第2配線層7は、例えば、層幅0.7mm、層厚10μmの帯状パターンとされていて、図1の右側に位置する根元部分7aから左側に位置する先端部7bに亘って図2(c)に示すように中心軸Xに沿って長手方向に一定層幅をもって帯状に延びている。前記第2配線層7は、先端部7b端縁が前記第1配線層3先端部のランド部端縁に比較して中心軸Xに沿う方向に4mm又は4mm程度長く延びている。従って、前記第1抵抗層4の製品設計上の抵抗層長は4mm又は4mm程度となっている。
【0029】
前記第2配線層7表面を覆うカバー層8は、前記第1抵抗層4と同等の形状及び寸法の長矩形状のパターンを有し、前記第2配線層7の根元部7aから先端部7bに亘って第2配線層7の周囲を覆うように、カーボンペーストをスクリーン印刷し、乾燥(焼成)することによって例えば層厚10μmの厚さに形成されている。
【0030】
前記カバー層8のカーボンペーストは、第1抵抗層4と同一材料を用いてもよい。なぜならば、その長手方向の全長に亘って良導電性の第2配線層7が存在するので、前記第1抵抗層4に対する通電路としての回路抵抗成分は厚さ方向の極めて小さな成分であり、実効的にはその抵抗成分を無視することができる。
【0031】
従って、カバー層8は、第2配線層7の銀成分によるマイグレーションを防止し機械的保護を果たす導電層として作用する。従って、カバー層8とこれに重なる第2配線層7との二重層は、前記第1抵抗層4に対する通電路層9を構成する。
【0032】
前記第1及び第2配線基板1、5の周辺部の相互間に設けられた支持部10は、前記第1配線基板1上の第1抵抗層4と第2配線基板5上の通電路層9とを直接対面させるための空間部10Aが形成され、これら相互を所定の間隔で厚さ方向に離間させて平行に支持する。
【0033】
前記支持部10は、可撓性の絶縁フィルムからなるスペーサ10aの両面に前記第1、第2配線基板1、5を接着固定するための粘着材10b及び10cをそれぞれ有し、図2(b)に示すように、前記スペーサ10aに、中心軸Xに沿って長手方向に平行する長矩形状の空間部10Aに相当する貫通孔が形成されている。
【0034】
そして、図2(a)の第1配線基板1上面に、図2(b)のスペーサ10aを、更にその上面に図2(c)の第2配線基板5を紙面に対して裏返して、各中心軸Xを平行にして重ね合わせ、図1に示すように粘着材10b及び10cで相互に接着することによって可変抵抗内蔵形配線基板が組立てられる。
【0035】
なお、図1(b)に示すように、押圧子Pが第2配線基板5の外方に配置されていて、前記押圧子Pは、図示されていないアクチェータによって、上下方向及び横方向に移動可能及び所定の位置に停止保持可能に操作することができるようになっている。
【0036】
次に、図1(a)及び図2を参照して、前記通電路層9に係わる層間接続の一例について説明する。図2(a)に示すように、第1絶縁基板2の一主面に、第1配線層3に対して所定の間隔で横並びに印刷された第3配線層30が設けられ、図2(c)に示すように、前記第2配線層7の根元部7aが、中心軸Xから前記第3配線層30のコンタクト部30a(図2(a)の破線丸印)に達する長さをもって横方向に延長させたパターンとなるように形成される。
【0037】
そして、前記根元部7aの延長パターン先端部において、前記第2絶縁基板6に、前記第3配線層30のコンタクト部30aに対応する貫通孔31が形成されている。また、前記図2(b)に示すスペーサ10aの前記コンタクト部30aに対応する部分に貫通孔32が形成されている。
【0038】
そこで、前記コンタクト部30a、貫通孔31及び32が同軸的に重ね合わされ、各貫通孔31及び32に導電ペースト33(図1参照)を充填することによって前記第3配線層30と第2配線層7とが電気的に層間接続される。
【0039】
前記第1、第2配線基板1、5は互いに厚さ方向の立体配置となるが、このようにして、共通の第1配線基板1上に並置した前記第1配線層3及び第3配線層30を通じて、第1配線基板1側の周辺回路から前記第1抵抗層4及び通電路層9に通電できるようになされている。もちろん、前記第2配線層7を周辺回路に直接接続して前記通電路層9への通電を第2配線基板5側から直接行えるようにしてもよい。
【0040】
ここで、前記各部材の具体例について説明する。前記第1、第2絶縁基板2、6としては、いずれも例えば帝人デュポンフィルム(株)社製の型番HSLのPETフィルムを用い、前記第1絶縁基板2は厚さ100μm、前記第2絶縁基板2は厚さ50μmのものとした。
【0041】
前記第1、第2及び第3配線層3、7及び30の銀ペーストとしては、いずれも東洋紡(株)社製の型番DX−351H−30の銀を主成分とする導電性インクを用いた。第1抵抗層4及びカバー層8用のカーボンペーストとしては、いずれもモリテックス(株)社製の型番581SSの導電性カーボンペーストを用いた。
【0042】
前記粘着材10b及び10cとしては、テサテープ(株)製の型番4983の両面粘着材を用いており、他にもホットメルト或いは、熱硬化性接着剤を用いることもできる。なお、図5の従来技術における保護膜55用のソルダーレジストとしては、日立化成工業(株)社製の型番SN9000のものを用いた。
【0043】
次に、本実施形態における可変抵抗内蔵形配線基板の抵抗可変操作について、図3を参照して説明する。押圧子Pの先端を希望する任意の位置において、下方に押し下げて押圧操作し、通電路層9(直接的にはカバー層8)を第1抵抗層4に部分的に接触させた後、その状態を維持することによって、第1抵抗層4の長手方向の実効的な回路抵抗長Lnを定め、これに比例した所望の回路抵抗値Rnを設定する。そして、押圧子Pの押し下げを解除し、図2に示す中心軸Xに沿う長手方向に移動させて、押し下げ−解除−移動の押圧操作を繰り返すことによって、希望する回路抵抗値を任意に可変して設定することができる。
【0044】
前記押圧操作は、押し下げ−解除−移動の繰り返し操作に限らず、前記押圧子Pにより前記第2絶縁基板6の外面を直接押圧しつつ中心軸Xに沿う長手方向の任意の位置に連続的に摺動させて行うこともできる。
【0045】
また、前記押圧操作は、前記通電路層9を有する第2配線基板5側に代わって、第1抵抗層4を有する第1配線基板1の第1絶縁基板2の外面側から行ってもよいし、第1、第2配線基板1、5を挟む両側から行ってもよい。両側からの押圧操作の場合は、第1、第2絶縁基板2、6の各撓み量が片側の場合よりも1/2程度に少なくて済むので、第1、第2絶縁基板2、6の面に沿う方向の引っ張り応力が軽減され、押圧操作の印加圧力が小さくて済み、第1、第2配線基板1、5の損傷要因を軽減できる。
【0046】
なお、図1(b)、図3に示された可変抵抗内蔵形配線基板の断面図は、見やすくするために誇張して表現されている。しかし、前記第1、第2配線基板1、5相互の間隔は、例えば50μmであり前記第1、第2絶縁基板2、6の面に沿う方向の張力による押圧操作を妨げない程度の小さい値とされている。
【0047】
次に、本発明の前記一実施形態及び図5に示された従来技術による可変抵抗内蔵形配線基板の摺動試験について、図4を参照して比較説明する。
【0048】
ここで、本発明及び従来技術の可変抵抗内蔵形配線基板につきそれぞれ4つのサンプル(N=1〜N=4)を用意した。各サンプルにおいて、従来技術の第1配線層51、第2配線層52、第1カーボン層53及び第2カーボン層54と、それぞれに対応する本発明の第1配線層3、第2配線層7、第1抵抗層4及びカバー層8とは、本発明の一実施形態にて説明した材料、製造条件並びにパターン形状/寸法などについて同一条件にて形成されている。
【0049】
そして、従来技術の各サンプルに対しては、第1、第2カーボン層53、54の両方に摺動子56先端部を接圧100gfで押し当てた状態で各層の長手方向に往復移動させる。本発明の各サンプルに対しては、図3に示すように、第1抵抗層4とカバー層8とが接触するように押圧子P先端部を第2絶縁基板6の外面に接圧100gfで押し当てた状態で第1抵抗層4の長手方向に往復移動させる。前記摺動子56及び押圧子Pの往復移動は、いずれのサンプルにおいても20mm/secのスピードで10万回の往復移動で行われた。
【0050】
このような摺動試験の結果、図4に示されているように、従来技術のいずれのサンプルにおいても第1、第2カーボン層53、54に対して20μmの削れ量が発生しているが、本発明の各サンプルにおいては2〜4μmの極めて小さな削れ量程度となっている。
【0051】
以上のように、本発明に係わる一実施形態の可変抵抗内蔵形配線基板によれば、押圧操作や摺動操作に際して、押圧子Pが第1配線層3、第1抵抗層4、第2配線層7及びカバー層8に直接接触することがないために、これら部材の摩耗が著しく軽減され耐久性(長寿命化)に富んでおり、電気特性を長期間に亘って高精度に維持することができる。
【0052】
前記通電路層と抵抗層は可変抵抗内蔵形配線基板の厚さ方向に重ねられた形態となっているので、配線基板の面積占有率を下げることができ、より多くの電子部品を可変抵抗内蔵形配線基板に実装することができる。
【0053】
また、従来技術の摺動子56は、導電性の材料に限られ、第1、第2カーボン層53、54の表面がPETに比して硬く粗面となっているために摩耗し易いために、その材質選択などに制約がある。しかし、本発明の押圧子Pは、比較的に柔らかく滑らかな表面を有するPETに押圧されるために、摩耗し難く、特別にその材質を問わないことから製造工数やコストを摺動子に比して低減できる。
【0054】
そして、本発明の可変抵抗の主要部材は第1、第2絶縁基板の内側に設けられているために、従来技術の保護膜(ソルダーレジスト)55のような別個の保護手段を格別に設ける必要がない。
【0055】
ところで、本発明の一実施形態においては、第1抵抗層4を可変抵抗の主要部としているが、前記第2配線層7の先端部7bを根元部分7aの位置まで短縮し、その短縮された先端部(結局根元部分7a)をランド部(第2ランド部)に、前記カバー層8の一端部のみを重ね合わせて接続すれば、前記カバー層8は第2抵抗層として機能させることができる。
【0056】
この場合、前記第1配線層3の前記第1ランド部と前記第2配線層7の前記第2ランド部とは、前記支持部10を境にして厚さ方向に重なるように対向配置されており、第1、第2抵抗層は4、8の各一端部が前記第1、第2ランド部にそれぞれ接続され、前記第1、第2抵抗層の長手方向の各他端部は電気的に自由端として同一方向に延在した形態となっている。
【0057】
即ち、前記カバー層8は、前記第2ランド部との接続部以外は第2絶縁基板6に直接印刷され、第1抵抗層4と同様なパターンを有する第2抵抗層となる。このように、第2抵抗層8が追加されることにより、第1抵抗層4のみの抵抗層長に比してほぼ2倍の抵抗層長を構成できるので、抵抗値の可変範囲を拡大することができる。
【0058】
逆に、第1抵抗層4のみの抵抗層長と同等にする場合は、第1抵抗層4及び第2抵抗層(カバー層)8を共にほぼ1/2の抵抗層としてもよく、可変抵抗素子の矩形長を短縮できるので、一枚の配線基板に対する面積占有率を小さくでき、他の電子部品のための実装面積を増やすことができる。
【0059】
ところで、前記第1抵抗層4及び第2抵抗層(カバー層)8との関係において、前記第1、第2抵抗層4、8は、押圧子Pの押圧によって任意の位置で互いに接触させられると、前記第1、第2配線層3、7間に直列抵抗回路を構成する。従って、電気的には、前記第1抵抗層4は第2抵抗層8に対する通電路として、第2抵抗層8は逆に第1抵抗層4に対する通電路としてそれぞれ機能するから、前記第1、第2抵抗層4、8は、各抵抗層であると同時に相手に対する互いの通電路層となる。
【0060】
また、前記支持部10は、本実施形態で示すようにスペーサ10aを用いると、第1、第2配線基板1、5の厚さ方向の間隔を精確に保って組み立てることができるなどの利点がある。しかし、材料コストをより一層低減したい場合は、支持部10からスペーサ10aを除外し粘着材(10b、10c)のみを用い、その厚さを厚くすることによって両配線基板の間隔を保持するようにしてもよい。
【0061】
前記第1、第2絶縁基板2、6のうち、前記押圧子Pにより押圧操作を受ける絶縁基板に、押圧面に沿う方向の張力を吸収するための弛緩部(図示せず)を設けることによって、前記押圧子Pの押圧操作を円滑にすると共に、絶縁基板の損傷を防止することができる。前記弛緩部は、押圧操作を受ける絶縁基板の図2(b)に示された空間部(貫通孔)10aの矩形状の周縁に沿った部分に環状に設けられ、前記環状の部分の断面は屈曲或いは彎曲形状を有する。
【0062】
また、本発明の可変抵抗内蔵形配線基板の前記第1、第2配線基板1、5を形成するために、前記第1、第2絶縁基板2、6を間隔をおいて並置できる面積を有する一枚の絶縁性の可撓性フィルムを用いることができる。その場合、前記可撓性フィルムの一主面に、パターニングされた前記第1、第2配線層3、7を形成し、前記一枚の絶縁性の可撓性フィルムを、一主面を内側にして、前記通電路層9と第1抵抗層4とを対向させた状態に折り返す方法を採用することができる。そして、一枚の前記可撓性フィルムに、第1、第2配線基板1、5の多数組を同時にパターニングする工程を取り込むことによって、可変抵抗内蔵形配線基板の量産化を図り、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態に係る可変抵抗内蔵形配線基板を説明するための図であり、(a)はその一部切欠平面図、(b)は(a)のA−A線に沿う断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る可変抵抗内蔵形配線基板の分解平面図であり、(a)は第1配線基板の上面図、(b)はスペーサの上面図、(c)は第2配線基板の下面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る可変抵抗内蔵形配線基板における抵抗可変操作を説明するための断面図である。
【図4】本発明の一実施形態及び従来技術にそれぞれ係る可変抵抗内蔵形配線基板の摺動試験における削れ量を比較説明するための図である。
【図5】従来技術に係る可変抵抗内蔵形配線基板の平面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 第1配線基板
2 第1絶縁基板
3 第1配線層
4 第1抵抗層
5 第2配線基板
6 第1絶縁基板
7 第2配線層
8 カバー層(第2抵抗層)
9 通電路層
10 支持部
10a スペーサ
10b、10c 粘着材
10A 空間部(貫通孔)
30 第3配線層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1絶縁基板の一主面に第1配線層が形成された第1配線基板と、第2絶縁基板の一主面に第2配線層が形成された第2配線基板と、前記第1、第2配線基板を前記各一主面を向かい合わせた状態で相互間に空間部を形成して平行に支持する支持部と、前記第1配線基板の一主面に配置され一端部が第1配線層の第1ランド部に接続された長矩形状の第1抵抗層と、前記第1抵抗層の長手方向に沿って平行に対面配置された前記第2配線層を含む通電路層とを備え、前記第1、第2絶縁基板の少なくとも一方は可撓性フィルムからなり、前記第1抵抗層の長手方向に沿う任意の位置において、前記可撓性フィルムの外面から押圧子による押圧操作を加えることによって、前記第1抵抗層と通電路層とを部分的に接触させて回路抵抗長を任意に設定できるようにしたことを特徴とする可変抵抗内蔵形配線基板。
【請求項2】
前記通電路層は前記第1抵抗層の長手方向に沿って平行に対面配置された長矩形状の第2抵抗層からなり、前記第1、第2抵抗層の長手方向の各一端部側において、前記支持部を境にして前記第1ランド部に対向する第2ランド部が前記第2配線層に形成され、前記第1、第2抵抗層の各一端部が前記第1、第2ランド部にそれぞれ接続され、前記第1、第2抵抗層の長手方向の各他端部は電気的に自由端として同一方向に延在していることを特徴とする請求項1に記載の可変抵抗内蔵形配線基板。
【請求項3】
前記支持部は、前記第1抵抗層の形状に対応した空間部を形成するための長矩形状の貫通孔を有し両面に粘着材が付着された絶縁フィルムからなるスペーサを用いて構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の可変抵抗内蔵形配線基板。
【請求項4】
前記第1、第2絶縁基板のうち、前記押圧子により押圧操作を受ける絶縁基板は、押圧面に沿う方向の張力を吸収するために設けられた弛緩部を有することを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか1つに記載の可変抵抗内蔵形配線基板。
【請求項5】
前記第1、第2配線基板は、前記第1、第2絶縁基板を間隔をおいて並置できる面積を有する一枚の絶縁性の可撓性フィルムの一主面に、パターニングされた前記第1、第2配線層を形成し、前記一枚の絶縁性の可撓性フィルムを、前記一主面を内側にして、前記通電路層と第1抵抗層とを対向させた状態に折り返して形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか1つに記載の可変抵抗内蔵形配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−146802(P2010−146802A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321048(P2008−321048)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】