説明

同一表面上に異なる親水性及び親油性を呈する領域を有する基板の製造方法

【課題】可撓性基板に十分にぬれ性の異なる領域を適切に形成することができる基板製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、表面にぬれ性差異を有する可撓性基板に関する。当該ぬれ性差異は、異なる親水性及び/或は親油性を呈する隣接領域によって構成されている。また、本発明は、このような基板の製造方法、及びこのような基板に電気機能材料が堆積されたマイクロ電子部品の製造方法に関する。
本発明によれば、ぬれ性差異を有する可撓性基板の製造方法を提供する。当該製造方法は、基板を形成するため無機材料からなる第一の領域を基板前駆物質上に形成する工程を有し、前記無機材料は少なくともその一部が基板表面上で露出し、前記第一の領域は前記基板前駆物質上でパターンを形成していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一表面上に異なる親水性及び/又は親油性を呈する領域を有する可撓性基板を製造する方法に関する。このような基板は、例えば、マイクロ電子デバイスを作成する際の溶液処理などの分野で用いられる。
【背景技術】
【0002】
導体、半導体及び絶縁体などの電気的な機能を有する物質は、現代技術において多種多様に用いられている。特に、トランジスタ(薄膜トランジスタ:TFT)やダイオード(LED)などのマイクロ電子デバイス部品の製造において、これらの物質は有用である。これらマイクロ電子部品の製造においては、銅元素、ケイ素元素、二酸化ケイ素などの無機物が物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)などにより堆積された形で用いられてきた。近年、新たに導体、半導体及び絶縁体の性質を調合した新材料及び調合する方法が開発され、マイクロ電子産業の分野で採用されている。
【0003】
この電気的な機能を有する新しい種の材料の一つとして、有機半導体材料が挙げられる。他にも、無機金属からなるコロイドが液体溶媒中に分散されたものなどがある。前者は最近開発された種の材料である一方、後者は、近年開発された材料調合方法ではあるが、従来から用いられてきた材料を採用している。これら近年開発された材料及び材料調合方法は、マイクロ電子デバイスの製造において、従来の材料に比して有益な点がいくつかある。一つは、このような材料は、非常に様々な方法で処理可能であるという点である。例えば、溶液処理法によれば、材料がコロイドの形態で溶媒に溶解もしくは分散されている溶液を、マイクロ電子部品等を製造するのに用いる。溶液処理法は費用効率の良い製造方法であるので有利である。特に、製造工場を立ち上げる際に高い設備投資費を必要とする、例えばシリコン半導体製造設備等を用いてマイクロ電子部品を製造する場合に比べて、溶液処理法は非常に安い費用で済む。
【0004】
TFTや発光ダイオード(LED)などのマイクロ電子部品を構成する半導体の製造において特に期待されている技術の一つに、インクジェット印刷法がある。インクジェット印刷法によれば、自動化された装置を用いて半導体溶液を比較的正確に基板上に堆積することが可能である。このインクジェットによって導体、半導体及び絶縁体の溶液を適当な基板に印刷することにより、工業生産規模でマイクロ電子半導体部品を製造できるようになることが望まれている。
【0005】
しかしながら、実施するには原理的な問題がいくつかある。一番の問題点は、マイクロ電子デバイスを製造するには、通常、高精細な電気機能材料のパターンを基板上に作成する必要があるということである。現在の所、インクジェット印刷法では、適切なパターンを素の基板に直接印刷することが可能な程度までに高精細なパターニングをすることはできない。この問題が生じるのを回避する策として、現時点で二つの方法がある。
【0006】
一つは、全面に堆積された電気機能材料の不必要な部分をフォトリソグラフィーによって取り除く方法である。この方法により非常に高精細なパターンを得ることができる。しかしながら、フォトリソグラフィーは、材料を取り除く技術であり、また、費用のかかる製造方法でもある。高価なフォトリソグラフィー装置を導入するには大きな初期投資費用がかかり、また、フォトリソグラフィーは工程数が比較的多いことから、エネルギー消費も大きく、廃棄される材料の量も多くなってしまう。
【0007】
素の基板上に電気機能材料をインクジェット法でパターニングする際のパターニング精細度に関する問題を回避する二つ目の方法として、プリパターニングという方法がある。これは、電気機能材料を堆積する前に、基板に前もってパターニングを行うことにより、インクジェットにより放出される液体を特定の領域に向かわせそこに落ち着かせるようにするというものである。このプリパターニングでは通常、ぬれ性の異なる領域を基板表面に作成する処理が行われる。この処理では、後から印刷される電気機能インクとのぬれ性が異なるような領域を形成するため、異なる親水性及び/又は親油性をもつ領域が基板上に形成される。すなわち、基板上にはインクを受け入れる領域と、インクを弾く領域とが形成される。これにより、基板上のインク受容領域に着弾したインクの液滴が、隣接するインク撥液領域に濡れ広がるのを防ぐことができる。インク受容領域とインク撥液領域両方に接触するようにまたがって着弾したインク滴も弾かれて、インク受容領域に押し出される。このようにして、インクジェット印刷法によるパターニングの精細度を上げることができ、マイクロ電子デバイスの製造に必要なパターニングの精細度を得ることが可能である。この第二の方法をより効果的に実行するために、基板上の該二つの領域は、より大きく異なる親水性及び/又は親油性をもつことが望ましい。
【0008】
現時点では、この基板上に隣接するインク受容領域とインク撥液領域とを形成する第二の方法は、ITO基板や酸化シリコン(ガラス)基板などの無機物からなる基板でのみ実現されている。このような基板が用いられる場合、通常、光架橋可能な高分子(例えばポリイミド)のコート剤(ネガレジスト)を無機酸化物の基板に塗布する。そして、UV照射することにより高分子を架橋結合させると共に、フォトマスクで覆われた部分の高分子塗布膜を選択的に溶解して下にある無機酸化物を露出させる。次に基板全面に対して行われる処理、例えばCF4プラズマ処理によって、露出した無機酸化物に親水性を付与する一方、高分子膜の表面は疎水性及び親油性が付与される。以上のようにして、ぬれ性の異なる領域が形成される。引き続いて、水性の導電体のインクを、露出されたガラス部分に吐出する工程が行われるが、この水性導電体インク滴が疎水性及び親油性の高分子膜の領域に着弾したとしても弾かれて親水性のガラス領域に押し出されるため、高精細なパターニングが可能となる。このように、通常のインクジェット印刷による精細度よりも高い精細度でパターニングすることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
インクジェット法により電気機能材料の溶液を印刷する場合、上記のようにインク受容領域とインク撥液領域とを隣接するように基板上に形成する方法によって、得られる精細度を向上させることが可能ではあるが、この技術を商業規模で実際に採用するには、以下のような問題がある。
【0010】
生産コストを下げるためには、いわゆるリールツーリール(R2R)生産方式によってマイクロ電子デバイスを印刷するのが望ましい。R2R生産方式では、第1のリールに巻かれた基板が引き出され、処理された後、第2のリールに巻き取られる。このような生産方式を採用する前提条件として、基板は可撓性を有さなければならない。現在、可撓性を有する基板として、ポリマー箔が最も多く用いられている。しかしながら、今のところ利用可能な可撓性基板には、商業的に実用化可能となるような適切なぬれ性のコントラストを作成するのに適した基板が存在しない。
【0011】
例えば、基板のある部分をO2プラズマに晒すことによってその部分を親水性にし、他の部分をCF4プラズマに晒すことによってその部分を疎水性または親油性にすることにより、ポリマー基板上にぬれ性の異なる領域を作ることは可能である。しかしながら、CF4処理は、元のポリマー基板表面とO2プラズマに晒された表面の両方に影響を与えてしまうため、CF4処理後も親水性を保つべき表面パターン部分は、CF4プラズマ処理が行われている間、フォトレジストマスクにより保護されている必要がある。しかし、このフォトレジストマスクによる保護は、あまり望ましくない。その理由の一つとして、製造工程が二つ(マスクの塗布及び除去)増えてしまい製造コストがかさむことが挙げられるが、大きな理由は、親水性が付与された領域の親水性がマスクの除去の際に減少してしまうということである。これは、マスクのフォトレジスト材が残留してしまうことで起こる。論理的には、製造工程の順番を逆にすることで後者に述べた問題を多少解決することができるかもしれないが、フォトレジスト材がフッ素化された表面に付着してしまうのを防ぐことはできない。このように、マイクロ電子部品を製造するため、インクジェット印刷法によって電気機能材料を印刷する際に、その機能を十分発揮できるようなぬれ性の異なる領域、すなわち隣接する領域が十分に異なる親水性及び/又は親油性を持つ領域を有する可撓性基板を生産することは不可能である。
【0012】
以上述べたように、TFTやLEDなどのマイクロ電子デバイスを製造する際、基板に電気機能材料インクをインクジェット印刷することによって製造する場合、そのパターニングの精細度を上げるため、ぬれ性の十分異なる領域を可撓性ポリマー箔上に形成できるようにすることが必要である。
【0013】
そこで本発明に係る一つの態様は、上記の問題を解決し、ガラスやITO等の無機酸化物から成る剛体基板のみに限定されることなく、あらゆる基板に十分にぬれ性の異なる領域を適切に形成することができる商業レベルで実用可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の態様に係る可撓性基板の製造方法は、異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する表面を有する可撓性基板の製造方法であって、
(ia)基板を形成するため、無機材料からなる第一の領域を基板前駆物質上に形成する工程を有し、前記無機材料は少なくともその一部が基板表面上で露出し、前記第一の領域は前記基板前駆物質上でパターンを形成していることを特徴とする。
【0015】
本発明の第二の態様に係る可撓性基板の製造方法は、異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する可撓性基板の製造方法であって、
(ib)第一の構成物を可撓性基板前駆物質上に堆積することにより、無機材料からなる第一の領域を形成する工程を有し、前記無機材料は少なくともその一部が基板表面上で露出し、
(ic)前記第一の領域と親水性及び/或は親油性が異なる第二の領域を形成するために、前記第一の領域上にポリマーからなる第二の構成物のパターンを形成する工程とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の第三の態様に係る可撓性基板の製造方法は、異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する可撓性基板の製造方法であって、
(id)少なくともその一部が表面で露出している無機材料からなる可撓性基板前駆物質を配置する工程と、
(ie)前記基板前駆物質と親水性及び/或は親油性が異なる構成物のパターンを前記基板前駆物質上に形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第四の態様に係る可撓性基板の製造方法は、 異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する可撓性基板の製造方法であって、
(if)無機材料が表面にほぼ存在しないように、前記無機材料からなる層を可撓性基板前駆物質上に形成する工程と、
(ig)前記処理された前記基板前駆物質表面上に前記無機材料を露出させるように、前記層からなる前記基板前駆物質をパターニングする工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の第五の態様に係る基板の製造方法は、 異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する表面を有する改良された基板(A)を製造する方法であって、
(i)上記いずれかに記載の基板製造方法によって基板を製造する工程を有し、前記基板の表面は無機材料が存在する領域とポリマーが存在する領域とを有し、
(ii)前記改良された基板(A)を形成するために、前記基板表面を化学処理する工程を有し、前記改良された基板(A)の隣接する表面領域が、化学処理が行われる前の同領域と比較して大きな親水性及び/或は親油性差異を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の第六の態様に係る基板の製造方法は、疎水性及び親油性を呈する第一の領域と、隣接する疎水性及び疎油性を呈する第二の領域とを有する表面を有する改良された基板(B)を製造する方法であって、
(i)上記いずれかに記載の製造方法によって基板または改良された基板(A)を製造する工程を有し、前記隣接する領域はそれぞれ疎水性及び親水性を呈し、
(ii)前記基板または前記改良された基板(A)をフッ化アルキルシランで処理する工程を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の第七の態様に係るマイクロ電子部品の製造方法は、(i)前記に記載された方法によって、異なる親水性及び/或は親油性を呈する隣接領域を同一表面に有する基板、改良基板(A)または改良基板(B)を製造する工程と、
(ii)第一の電気機能材料からなる領域を形成するために、第一の溶液を前記基板、改良基板(A)または改良基板(B)上に堆積する工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の第八の態様に係る可撓性基板は、同一表面上異なる親水性及び/或は親油性を呈する隣接領域を有する可撓性基板であって、当該基板は、その表面に少なくとも一箇所以上無機材料が存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明よれば、ガラスやITO等の無機酸化物から成る剛体基板のみに限定されることなく、可撓性基板を含むあらゆる基板に十分にぬれ性の異なる領域を適切に形成することができる商業レベルで実用可能な製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の発明者は、ぬれ性の異なる領域を有する可撓性基板を製造することが可能な方法について研究した。ぬれ性の異なる領域とは、異なる親水性または親油性を呈する領域である。本発明の目的とするところから、基板表面における親水性は水の接触角によって測定され、また、親油性はヘキサンの接触角によって測定される。接触角とは、所定の表面と所定量の液体の液滴とがなす角度を指す。接触角の測定は、周知の方法で行うことができ、例えば、ゴニオメーター(接触角測定装置)を用いて、対象とする表面上にある1‐5μlの液滴を測定することで行われる。本発明の基板上のぬれ性の異なる領域は、基板表面に、水またはヘキサンの接触角が60°より大きく異なるような隣接領域を有することが望ましい。より好ましくは、80°以上、最も好ましくは、100°以上接触角が異なることが望ましい。
【0024】
本発明において、「親水性である」とは、その表面における水接触角が60°より小さい状態を指す。また、「非常に親水性である」とは、その表面における水接触角が20°より小さい状態を指す。そして、「超親水性である」とは、その表面における水接触角が5°より小さい状態を指す。
【0025】
また、本発明において、「疎水性である」とは、その表面における水接触角が60°より大きい状態を指す。また、「非常に疎水性である」とは、その表面における水接触角が90°より大きい状態を指す。そして、「超疎水性である」とは、その表面における水接触角が120°より大きい状態を指す。
【0026】
また、本発明において、「親油性である」とは、その表面におけるヘキサンの接触角が60°より小さい状態を指す。また、「非常に親油性である」とは、その表面におけるヘキサン接触角が20°より小さい状態を指す。そして、「超親油性である」とは、その表面におけるヘキサン接触角が5°より小さい状態を指す。
【0027】
また、本発明において、「疎油性である」とは、その表面におけるヘキサンの接触角が60°より大きい状態を指す。また、「非常に疎油性である」とは、その表面におけるヘキサン接触角が90°より大きい状態を指す。そして、「超疎油性である」とは、その表面におけるヘキサン接触角が120°より大きい状態を指す。
【0028】
本発明の発明者は、研究を重ね、親水性もしくは親油性が大きく異なる隣接領域からなる良好なぬれ性の異なる領域を形成するのに簡便な方法として、可撓性ポリマー箔の少なくとも一部にガラスのような化学特性を付与する方法を発見した。この方法によれば、従来の剛体の無機酸化物からなる基板のぬれ性差異を大きくするための処理で行われていた化学処理を用いることができ、可撓性基板上であっても上記のような異なる親水性もしくは親油性を呈する領域を形成することができる。ゆえに、本発明の最も単純な形態は、無機酸化物を可撓性ポリマー基板の前躯物質に確実に接着させ、前躯物質の撓みに耐えられるような形で、前記無機酸化物を可撓性ポリマー基板の前躯物質の少なくとも一部に塗布することにより実現される。具体的には、例えば、蒸着や化学堆積法により、基板の前躯物質上に無機酸化物の薄膜を堆積する。もしくは、無機粒子とポリマーの基質とからなる混合物を基板前駆物質上に形成した後、下にある無機材料を露出させるように表面のポリマーを(例えばプラズマエッチングで)取り除くことにより、実現することも可能である。他にも、粒子状の無機材料を基板前駆物質の表面に付着させることにより実現するという方法もある。
【0029】
また、本発明者は上記発見にとどまらず、基板表面に露出される無機材料の濃度を変えることにより(例えば、無機酸化物の粒子とポリマー基質との混合物が用いられた場合、該無機粒子がポリマー基質に含まれる容量パーセントを変化させることにより)、様々な化学処理に対して当該表面がどの程度ポリマー及び無機物としての反応を示すかを変化させることが可能であるという事実を発見した。無機材料が高い濃度で表面に存在する場合(この技術が用いられる場合、高い濃度とは、例えば、ポリマーと無機粒子の総量に対して無機材料が40‐60容量パーセントポリマー基質の混合物中に含まれている場合に相当する)、当該表面はより無機表面に近い反応を示す。一方、無機材料が低い濃度で表面に存在する場合(この技術が用いられる場合、低い濃度とは、例えば、ポリマーと無機粒子の総量に対して無機材料が0‐20容量パーセントポリマー基質の混合物中に含まれている場合に相当する)、当該表面はよりポリマー表面に近い反応を示す。無機材料が中程度の濃度で表面に存在する場合(この技術が用いられる場合、中程度の濃度とは、例えば、ポリマーと無機粒子の総量に対して無機材料が20‐40容量パーセントポリマー基質の混合物中に含まれている場合に相当する)、当該表面は無機表面でもポリマー表面でもなく、その中間のような反応を示す。
【0030】
特に、ポリマー基質が相対的に少量の無機粒子を含んでいるものが用いられた場合には、表面の化学特性を制御することが可能である。そのような純粋な基質の場合、ほんの僅かな量の無機物しか基板表面に存在しなくなるため、該表面はポリマーのみ存在している場合の表面のような化学的反応を示すようになる。プラズマエッチングや他の処理により表面のポリマーを取り除くと、下に存在する無機材料が露出するので、最終的には、この無機材料の化学特性が基板表面の特性をほぼ支配する状態となる。
【0031】
表面に存在する無機材料の反応特性を制御できるだけでなく、様々な種類のポリマーの基板前駆体を選択することが可能である。異なる種のポリマーは、様々な化学処理に対して異なる反応を示す。
【0032】
また、基板の無機材料領域の一部にさらにポリマー層を堆積しても良いし、化学処理に晒す前に基板の一部をマスクで覆っても良い。このようにすることで、基板の選択された領域のみ化学修飾されるようにすることが可能である。
【0033】
上記のような方法を用いて、所望のぬれ性の異なる領域を有する基板を製造することが可能である。
【0034】
下に示す表1には、様々な基板の親水性及び親油性が示されている。また、同表1には、様々な化学処理によって達成可能な親水性及び/又は親油性の変化も示されている。
【0035】
【表1】

【0036】
以下の段落では、様々なぬれ性差異を有する領域をもつ基板を製造する際に用いることのできる基板前駆物質、無機酸化物質及び他の無機材料、ポリマー基質、酸化蒸着法、基板の可撓性、及び様々なぬれ性差異を形成する基板の様々な化学的処理方法を詳述する。さらに、マイクロ電子部品を製造する際の基板の利用法について説明する。その次に、具体的な本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
[実施例]
<基板、基板前駆物質及び改良された基板>
【0037】
本発明において、基板は、ぬれ性の異なる領域(例えば、二つの異なる親水性及び/又は親油性を呈する隣接した表面領域)を有している。
【0038】
本発明における「基板」とは、例えば、半導体素子の製造に用いられるような基板そのものに限られない。本発明における「基板」は、その上に電気機能素子などの素子が形成される物全てを含む。例えば、トランジスタのような電子デバイスの製造工程で形成されるような中間生成物、例えば、導体、半導体もしくは絶縁体がパターニング及び/又はコーティングされた表面を有するものなども、本発明の「基板」に含まれる。
【0039】
また、基板前駆物質とは、処理されて基板を形成する物質となる材料である。
【0040】
改良された基板とは、何も処理されていない基板の同様な場所と比較して、隣接領域における親水性及び/又は親油性の差が大きくなるような化学的処理を施された基板をいう。
【0041】
リールツーリール生産方式で前記基板または前記改良された基板を用いるには、これら基板が可撓性を有する必要がある。したがって、基板前駆物質も可撓でなければならない。可撓性である必要がある以外は、基板前駆物質の他の性質に関して特に制限はなく、特に前記基板または前記改良された基板の表面に基板前駆物質が残らない場合は、当該基板前駆物質の他の性質は重要ではない。一方、基板前駆物質が前記基板または前記改良された基板全体を覆っていないような場合、該基板前駆物質の化学的性質や、特に、該基板前駆物質の親水性及び/又は親油性、或は様々な化学処理による親水性及び/又は親油性の変化のしやすさは重要な性質となる。
【0042】
本発明に用いることが可能な基板前駆物質の具体例としては、金属箔(例えば、アルミニウムや鉄)や、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)からなるポリマー箔などがある。
【0043】
親水性の前駆物質を使用する場合は、例えば、薄い金属層(例えばアルミニウムや鉄)、再生セルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール(PVP)、もしくはポリビニルピロリドン等で覆われたもの或はこれらの箔が用いられる。
【0044】
疎水性の前駆物質を使用する場合は、例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等のポリマーが用いられる。
<基板の可撓性>
【0045】
上述したように、本発明の基板、改良された基板、及び基板前駆物質は、可撓性を有さなければならない。すなわち、本発明において、例えばリールツーリール生産方式を採用できるよう、基板は丸めることが可能である必要がある。本発明の基板は、直径10m以下のロールを形成するように丸めることが可能であることが望ましい。好ましくは、直径5m以下のロール、より好ましくは直径2m以下のロール、最も好ましくは直径1m以下のロールを形成できるよう、当該物質を丸めることが可能であることが望ましい。
<無機材料>
【0046】
本発明において、所望のぬれ性差異を得ることが可能な適切な特性を有している限り、原則的にどのような無機材料を使用してもよい。好ましくは、無機材料として無機酸化物が用いられる。本発明において、「無機酸化物」とは、常温常圧で固体であり酸素原子を有する無機物を指す。したがって、本発明においては、酸素原子を含む鉱物も無機酸化物に含まれる。固体の金属酸化物(例えば、アルミニウムやチタン)や固体の半金属の酸化物(例えばシリコン)も同様に、本発明においては無機酸化物に含まれる。本発明において使用可能な無機酸化物としては、二元系酸化物(二酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)、五酸化タンタル(Ta25)など)、三元系酸化物(ITOや灰チタン石(例えばCaTiO3或はBaTiO3))、及びゼオライト(Mn+x/n[(AlO2x(SiO2y].mH2O)などの四元系酸化物が挙げられる。
【0047】
上記の酸化物の以外にも、O2プラズマ及び/或はCF4プラズマ処理によって(ヒドロキシ終端表面を形成するために水と反応するフッ素終端表面を最初に形成する処理によって)親水性となる物質、もしくは親水性となるような物質の組み合わせを用いてもよい。そのような物質の具体例としては、アルミニウム、スズ、チタン、アルミニウム‐銅合金、シリコン及びゲルマニウムのような金属元素及び半導体、硫化スズ及びセレン化タングステンのような金属カルコゲニド、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化シリコン及び窒化チタンなどの窒化金属、リン化インジウムなどの金属リン化物、炭化タングステンなどの金属炭化物、そしてケイ化銅などの金属シリサイドなどが挙げられる。
<堆積方法>
【0048】
本発明においては、前記基板前駆物質の表面上にどのような方法で前記無機材料を堆積するかは、さほど重要ではない。本発明で用いることのできる堆積方法としては、蒸着、化学堆積、もしくは、例えばポリマー基質を用いて無機材料の粒子を表面に封じ込める方法などがある。基板が損傷することなく撓むことができるようにすることが重要であるという観点から、前記無機材料は粒子の形態で少なくとも該当表面に存在するように包含されるのが望ましい。これは、例えば、処理後基板となる基板前駆物質中に無機材料の粒子を分布させることによって実現できる。
【0049】
あるいは、前記無機材料の粒子を含むポリマー基質で基板前駆物質をコーティングするようにしてもよい。この場合、ポリマー基質をスピンコーティングした後、表面下に存在する無機材料の粒子を露出するようにポリマー表面が一部エッチングにより取り除かれ、目的とする基板が得られる。この技術を用いる際には、ポリマーと無機材料があらかじめ溶媒と混合されたコート材を使用することが望ましい。溶媒としては、例えばブチル酢酸等、適当な溶媒を用いる。また、コーティングされた前駆物質のエッチングは、例えばプラズマエッチングによって行ってもよい。この技術が用いられる場合、マイクロ電子部品用の基板の作成に従来用いられてきた材料のなかから選択して前記ポリマー基質を構成することが望ましい。これは、当業者であれば、このような材料を熟知しているからである。現在用いられているこのような材料としては、ポリイミド(PI)、ベンゾシクロブテン(BCB)、エポキシ系ネガレジスト(例えば、SU‐8)、光硬化性アクレート(例えば、デローフォトボンド)、ポリアクリレート(例えば、ポリメチルメタクリレート:PMMA)、ポリメチルグルタルイミド(PMGI)、及びポリビニルフェノール等がある。また、ポリマー基質、無機粒子及び溶媒の混合液を調合するには、例えば、機械的混合や超音波を用いて混合してもよい。ここで、無機粒子が混合液の10−70容量パーセント含まれていることが望ましい。好ましくは、20−60容量パーセント、最も好ましくは30−40容量パーセント、ポリマー及び無機粒子の総量に対して無機粒子が含まれていることが望ましい。
【0050】
基板製造方法の細かな工程内容によっては、相対的に少量の無機粒子を含む混合液で基板をコーティングすることにより得られる基板先駆物質を用いる方が望ましい場合もある。例えば、ポリマー及び無機粒子の総量に対して無機粒子が10−30容量パーセント、好ましくは、15−25容量パーセント含まれているような混合液を用いた方がよい場合もある。反対に、相対的に無機粒子が多く含まれる混合液、例えば、ポリマー及び無機粒子の総量に対して無機粒子が40−60容量パーセント、好ましくは、45−55容量パーセント含まれているような混合液を用いて、基体をコーティングすることにより得られる基板先駆物質を用いる方が望ましい場合もある。先に述べたように、ポリマー基質における無機粒子の濃度によって決定される因子の一つは、表面がよりガラス基板に近い反応を示すのか、それともポリマー表面に近い反応を示すのかが制御できるという点であり、さらにもう一つの因子として、下にある無機粒子を露出するためのエッチングにおいて、ポリマー表面がどのくらい削られるかという点も無機粒子の濃度に依存する。
【0051】
無機粒子を含むポリマー基質で基板前駆物質をコーティングする方法以外にも、無機粒子を基板上に直に形成する方法も本発明では可能である。これは、例えば、無機粒子が形成されるような物質を基板前駆物質上に堆積することで行われる。無機粒子の形成は、例えば、乾燥工程や特定の試薬に晒すことによって引き起こされる。この本発明における基板生成方法は、特に無機粒子の層をインクジェット印刷によって堆積しようとする場合に有効である。比較的大きいミクロンサイズ(75ミクロン)粒子が、インクジェットによって吐出されるインク液に含まれている場合は、この粒子によってプリンターのヘッドを詰まらせる傾向があるため、問題になることが多い。無機粒子を基板上で直接形成する方法の具体的な例としては、ポリマー基質(例えばPMMA)、化学式Si(OR)4で示される化合物(ここで、Rはエチル基のようなC1−C6のアルキル基を表す)及びブチルアセテートのような適当な溶媒を混合した溶液を堆積する。このポリマー溶液は、上記のような粒子を含まないが、例えば、ポリマーとシリコン化合物の混合物が水蒸気雰囲気状の水に晒された場合にSiO2粒子が形成される。基板前駆物質に無機粒子を堆積する別の方法としては、粘着性のある基板前駆物質の表面に、粒子状の無機材料を分布させる方法がある。例えば、接着剤を塗布した後、無機材料を表面に塗布する、もしくは、基板前駆物質の表面を加熱して溶かした後、溶解した表面に無機粒子を分布させ、その後冷却して無機粒子を表面に固定するという方法がある。
【0052】
無機材料は粒子の形態で用いられるのが望ましい。これは、得られる基板が頑丈になり、曲げたときにより折れにくくなるという理由の他、基板表層の化学的特性を左右する無機材料の表面における濃度を制御しやすくなるからである。また、粒子形態の無機材料を用いることにより基板表面に凹凸が形成されるので、基板の表面積を増やすことができる。これによって基板表面の性質を変えることも可能であり、ある特定の溶媒に対して基板がそれを受け付け易くする、或は受け付け難くすることができる。したがって、表面を粗くすることにより、親水性の表面はより親水性となり、疎水性の表面はより疎水性となり、親油性の表面はより親油性となり、疎油性の表面はより疎油性となる。これは、親水性及び/或は親油性の大きく異なる領域を有するぬれ性の異なる領域を基板上に形成したい場合に有効な方法である。
【0053】
粒子状の無機材料を使用する場合、透過型電子顕微鏡で測定した場合のその平均粒径が、5μmより小さいことが望ましい。より好ましくは、0.5μmより小さいことが望ましく、最も好ましくは、0.05μmより小さいことが望ましい。もしくは、粒子は、平均サイズが5−1000nmの範囲にあるナノ粒子であることが望ましい。より好ましくは、5−100nmの大きさであり、最も好ましくは10−20nmの大きさであることが望ましい。このように小さい粒子が望ましいのには、いくつかの理由がある。
【0054】
第一に、小さい粒子を用いる方が、得られる基板の光学的品質が優れたものとなる。粒子のサイズが可視光の波長よりも小さければ、光が散乱される透明なポリマー粒子複合膜を得ることができる。これは、基板がディスプレイとして使用される場合、重要な点となる。
【0055】
第二に、小さい粒子の方が、適切な表面の凹凸を作れる。ミクロンサイズの粒子よりは、ナノ粒子の方が望ましい。これは、ミクロンサイズの粒子を用いた場合、生成される膜表面の凹凸の大きさが粒子の大きさに対応するためである。一般的には、上記に述べた理由から、基板は粗い表面を有するのが望ましいが、表面の粗さにも限度があり、また最終製品(例えば、マイクロ電子部品)にとって適切な許容できる粗さがある。マイクロ電子製品に用いられる基板の場合、要求されるパターンサイズより表面の凹凸が小さい必要がある。したがって、ナノサイズの粒子を使用すれば、さらなる凹凸を得るために難しい処理を行う必要なく、基板表面の表面領域を大きくすることが可能である。
【0056】
第三に、基板との化学的均一性の観点から、小さい粒子の方が好ましい。インクジェット法による高精細なパターニングを実現するためには、表面組成の水平変化が、要求されるパターニングサイズよりも小さいことが望ましい。これは、表面組成の水平変化が、表面エネルギーの変化と一致することになるからである。
<化学処理>
【0057】
本発明の基板に様々な化学処理を施すことにより、表面に存在する様々な材料の親水性及び/或は親油性を変化させることが可能である。これにより、目的の用途に応じた適切なぬれ性差異を得た基板に改良することができる。原理的には、多くの種類の化学処理が可能であるが、(1)フッ素化処理(2)酸化処理(3)フッ化アルキルシラン処理の三つの化学処理についてのみ、以下詳述する。
(1)フッ素化処理
【0058】
例えば、SF6プラズマ処理或はCF4プラズマ処理などの化学処理によって基板をフッ素化することができる。CF4プラズマに基板を晒す処理によれば、基板表面に存在する比較的反応し難い部分でさえもフッ素化できる。例えば、アルキル成分が表面に存在していたとしても、その部分はフッ化される。過フッ化炭化水素成分は疎水性及び疎油性であるから、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのよく用いられるポリマーをフッ素化すると、それらポリマーは疎水性及び疎油性となる。
【0059】
一方、無機表面をフッ素化すると、通常、水分子等の求核剤に対する反応性をもつ無機フッ化物が形成される。そして、水に晒すことにより、親水性の水酸基末端表面となる。例えば、SiO2をフッ素化すると、Si‐F結合が形成される。Si‐F結合は相対的に不安定な結合であるので、蒸気や水に晒されるとSi‐OH基に変換される。
【0060】
無機材料を含むポリマー基質がCF4プラズマに晒される場合、表面における無機粒子の濃度によって表面が親水性となるか疎水性或は疎油性となるかが決まるため、無機粒子が表面に含有される割合が重要な要素となる。表面における無機粒子濃度が高い場合、材料はより無機材料に近いふるまいをするようになり基質材料から遠い反応をするようになるので、フッ素化により親水性の表面となる。反対に、表面における無機粒子濃度が低い場合、材料はより基質材料に近いふるまいをするようになるので、フッ素化により疎水性及び疎油性の表面となる。低濃度の無機粒子を含む基質を長時間CF4プラズマに晒すと、基質材料がプラズマによって削られて無機粒子が広い表面領域で露出するようになるため、表面はより親水性が高くなる。水酸基をCF4プラズマで処理すると、‐OH部分が‐Fで効率的に置き換えられる。これは、恐らくOH結合を含む表面層が削られてF終端表面が新しく形成されることによると考えられる。無機基板にぬれ性の差異を形成するために、CF4プラズマ処理は実験室ではよく用いられるが、プラズマ処理を行う真空室が必要となるため、商業生産規模でこのような処理工程を採用するのは望ましくない。工場にこのような設備を置くのは一般的には現実的でなく、また費用もかさむ。
(2)酸化処理
【0061】
例えば、O2プラズマ処理、オゾン/UV処理、及び大気中におけるコロナ放電処理等の化学処理により、表面を酸化することができる。
【0062】
2プラズマに基板表面を晒す処理は、基板表面にある比較的反応し難い部分でさえも酸化する。例えば、アルキル成分が表面に存在していたとしても、その部分は酸化され、水酸基、カルボニル基、及びカルボン酸基が形成される。水酸基及びカルボン酸成分は親水性であるから、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などよく用いられるポリマーを酸化すると、これらポリマーは親水性となる。
【0063】
無機材料をO2プラズマ処理し、水蒸気や水に晒すと、同様に親水性の水酸基が形成される。
【0064】
したがって、O2プラズマに晒す等酸化処理を行うと、無機材料もポリマーも親水性となる。すなわち、無機材料及びポリマー基質を含む表面を晒すと、無機材料がどの程度表面に含まれているかに関わらず、親水性の表面となる。無機基板にぬれ性の差異を形成するために、O2プラズマ処理は実験室ではよく用いられるが、プラズマ処理を行う真空室が必要となるため、商業生産規模でこのような処理工程を採用するのは望ましくない。工場にこのような設備を置くのは一般的に現実的でなく、また費用もかさむ。O2プラズマの替わりに、UV‐オゾン処理またはコロナ(電気放電)処理を用いてもよい。
(3)フッ化アルキルシラン処理
【0065】
例えば、ヘキサン中のヘプタデカフルオロデシル‐トリクロロシラン(CF3(CF27CH2CH2SiCl3)等の物質に基板を晒す処理によって、基板上に存在する例えば水酸基などの反応体とフッ化アルキルシランとを接合することができる。すなわち、ヘキサン中の例えばヘプタデカフルオロデシル‐トリクロロシラン(CF3(CF27CH2CH2SiCl3)で無機表面を処理することにより、無機表面の表層にある酸素原子とフッ化アルキルシラン分子とが接合される。この処理により、表面は、超疎水性及び疎油性となる。無機材料がフッ化アルキルシランと反応する部分を持たない場合、フッ化アルキルシランに晒す処理を行う前に、酸化処理が必要となる場合もある。
【0066】
純粋なポリマーをフッ化アルキルシランに晒す処理を行っても、何も起こらない。これは、通常のシラン化処理で用いられているような反応条件の下では、C‐H結合はトリクロロシランと無反応であるからである。ヒドロキシル部位を有する酸化されたポリマー、例えばO2プラズマに晒されて酸化したポリマーであれば、フッ化アルキルシランと接合可能である。しかしながら、形成されるC‐O‐Si結合は、加水分解、もしくは他の求核剤との反応によって簡単に開裂されてしまう。このことから、ポリマーの表面を疎水性或は疎油性にするのに、通常フッ化アルキルシラン処理を用いることはない。実際のところ、フッ化アルキルシラン処理は無機酸化基板を改良するのに用いられている。
【0067】
無機粒子を含むポリマー基質のフッ化アルキルシランによるシラン化の効果は、表面における無機水酸基の濃度に依存する。したがって、濃度が高い場合には、表面は超疎水性及び疎油性となり、表面に存在する無機水酸基の濃度が低い場合には、疎水性及び疎油性が小さくなる。
【0068】
<親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板の製造>
【0069】
本発明は、親水性対疎水性及び/或は疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板の具体的な製造方法をいくつか提供する。
【0070】
図1に概略的に示された本発明の第一の方法によれば、親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板を製造するため、まず、可撓性ポリマー基板前駆物質1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、ポリマー2(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10‐20nmのナノ粒子)及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、ポリマー及び当該無機粒子の総量に対して、例えば20容量パーセントとなるように混合され、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、1μmの厚さのポリマー基質及び無機粒子の層となるように基板前駆物質上に塗布される。そして、塗布された基板前駆物質は乾燥させるために放置された後、基板となる。
【0071】
次に、基板をフォトレジスト剤3(例えば、Shipley製フォトレジストS1800シリーズ)でコーティングする(B工程)。そして所望のパターンになるように取り除かれ(例えば、フォトマスクを通してUV照射した後、MF319現像液を用いてフォトレジストを現像する)、下にあるポリマーと無機材料の層のパターンを露出させる(C工程)。その次には、基板表面が比較的長い表面酸化処理(例えば、出力200W、流量200毎分mlのO2プラズマに20秒間晒す)にさらされ、無機粒子を包んでいたポリマー基質の一部が剥ぎ取られる。その結果、表面に存在する無機粒子が露出され、処理された基板部分は親水性となる(D工程)。次に、フォトレジスト3が取り除かれる(例えば、Microposit製の剥離剤1165を用いて)(E工程)。最後に、基板の全表面に比較的短いCF4プラズマ処理(例えば、出力200W、流量200毎分mlに7秒間)を行う(F工程)。この処理により、表面において無機材料の分布濃度の高いパターニングされた領域の親水性を保ちながら、同表面において無機材料の分布濃度の低いパターニングされていない領域に疎水性及び疎油性を付与する。
【0072】
図2に概略的に示された本発明の第二の方法によれば、親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板を製造するため、まず、可撓性ポリマー基板前駆物質1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、ポリマー2(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10−20nmのナノ粒子)及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、ポリマー及び当該無機粒子の総量に対して、例えば50容量パーセントとなるように混合され、1μmの厚さのポリマー基質と無機粒子との層となるように、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、基板前駆物質上に塗布される。そして、塗布された基板前駆物質は乾燥させるために放置された後、基板となる。
【0073】
次に、架橋剤(例えば、ジビニルベンゼンのようなUV架橋剤)を含むポリマー4(例えばポリビニルピロリドン)で基板をコーティングする(B工程)。架橋剤は、例えば2‐5重量パーセントでポリマーに含まれていてもよく、ポリマーは、例えば2μmの厚さになるように塗布される。次いで、パターニングされる領域の架橋条件(例えばUV架橋剤が用いられた場合はUV照射)に、コーティングされたポリマーが選択的に晒される(C工程)。そして、架橋結合処理されなかった領域のポリマーを取り除くため、表面を適切な溶媒(例えばポリビニルピロリドンが使用された場合は、水)で基板を洗浄する(D工程)。この処理により、この領域の下にあったポリマー2及び無機材料の層が露出される。引き続いて、表面がフッ化されて(例えば出力200W、流量毎分200mlのCF4プラズマに7秒間晒すことにより)、架橋結合されたポリマー領域4は疎水性/疎油性となり、ポリマー2と無機材料の層は親水性となる(E工程)。
【0074】
図3に概略的に示された本発明の第三の方法によれば、親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板を製造するため、まず、可撓性ポリマー基板前駆物質1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、光架橋可能なポリマー2(例えば、ポリスチレン)、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10−20nmのナノ粒子)、架橋剤(例えば、ジビニルベンゼンのようなUV架橋剤)及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、ポリマー及び当該無機粒子の総量に対して、例えば50容量パーセントとなるように混合される。また、架橋剤は、例えば混合液の5重量パーセントとなるように混合される。2μmの厚さのポリマー基質と無機粒子との層となるように、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、基板前駆物質上に塗布される。そして、塗布された基板前駆物質は乾燥させるために放置された後、基板となる。
【0075】
次いで、パターニングされる領域の架橋条件(例えばUV架橋剤が用いられた場合はUV照射)に、基板が選択的に晒される(B工程)。そして、架橋結合処理されなかった領域のポリマー2及び無機材料を取り除くため、表面を適切な溶媒(例えばポリスチレンが使用された場合は、メシチレン)で基板を洗浄する(C工程)。この処理により、この領域の下にあったポリマー基板前駆物質1が露出される。引き続いて、表面がCF4プラズマ処理(例えば出力200W、流量200毎分mlのCF4プラズマに7秒間晒すことにより)によりフッ化されて、ポリマー前駆物質領域1は疎水性及び疎油性が付与される一方、無機材料を含んだポリマー2の層からポリマーの最上層が取り除かれ、表面に存在する無機粒子が露出されその部分は親水性となる(D工程)。
【0076】
図4に概略的に示された本発明の第四の方法によれば、可撓性基板を製造するため、まず、可撓性ポリマー基板前駆物質1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、ポリマー2(例えば、PMMA)、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10−20nmのナノ粒子)、及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、例えば50容量パーセントとなるように混合される。そして、2μmの厚さのポリマー基質と無機粒子との層となるように、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、基板前駆物質上に塗布される。そして、塗布された基板前駆物質は乾燥させるために放置された後、基板となる。
【0077】
次いで、ポリマー層2が圧縮されパターニングされた領域を形成するため、基板にマイクロエンボス加工が施される(B工程)。この処理は、ポリマー基質のガラス転移温度以上の温度で、例えば硬い刻印機を用いることにより行うことができる。そして、表面が酸化(例えば出力200W、流量200毎分mlのO2プラズマに7秒間晒すことにより)されて、表面全体に親水性が付与される(C工程)。次にエンボス加工されていない表面領域にフッ化アルキルシラン(例えば、ヘプタデカフルオロデシル‐トリクロロシラン)を塗布する(D工程)。この塗布は、例えばパターニングされていない(平坦な)ポリヂメチルシロキサン(PDMS)スタンプによって行われる。この処理により、エンボス加工されていない(表面)領域に疎水性及び疎油性が付与される。
【0078】
図5に概略的に示された本発明の第五の方法によれば、親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する可撓性基板を製造するため、まず、可撓性ポリマー基板前駆物質1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、ポリマー2(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10−20nmのナノ粒子)及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、ポリマー及び無機粒子の総量に対して、例えば50容量パーセントとなるように混合され、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、2μmの厚さのポリマー基質と無機材料の層となるように基板前駆物質上に塗布される。そして、塗布された基板前駆物質は乾燥させるために放置された後、基板となる。
【0079】
次いで、ポリマー層2が圧縮されパターニングされた領域を形成するため、基板にマイクロエンボス加工(ポリマー基質のガラス転移温度以上の温度で、例えば硬い刻印機を用いて)が施される(B工程)。そして、表面が酸化(例えば出力200W、流量200毎分mlのO2プラズマに7秒間晒すことにより)されて、表面全体に親水性が付与される(C工程)。次に、ポリマー2及び無機材料の層をエンボス加工された領域から取り除き(例えば、出力200W、流量200毎分mlのO2/CF4プラズマ処理の組み合わせを一分間行うことで膜を取り除く)、エンボス加工された領域の基板前駆物質を露出させる(D工程)。ついで、基板がCF4プラズマに晒されることにより、露出された前駆物質に疎水性及び疎油性が付与されると同時に、エンボス加工されていない領域には親水性が付与される(E工程)。
<親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する基板の製造>
【0080】
図6に概略的に示された本発明の第六の方法によれば、親水性対疎水性及び疎油性のぬれ性コントラストを有する基板を製造するため、まず、基体1(例えば、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC),ポリノルボルネン(PNB)、或はポリエーテルサルフォン(PES)等からなる厚さ100‐150μmのA4サイズ(210×297mm)の薄板)を、ポリマー2(例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA))、無機材料(例えばSiO2)の粒子(例えば、平均粒径が10−20nmのナノ粒子)及び溶媒(例えばブチルアセテート)の混合液でコーティングする(A工程)。無機材料は、ポリマー及び無機粒子の総量に対して、例えば50容量パーセントとなるように混合され、スピンコート法もしくはドクターブレード法により、例えば1μmの厚さのポリマー基質と無機材料の層となるように基体上に塗布される。そして、塗布された基体は乾燥させるために放置され、基板前駆物質となる。
【0081】
次に、基板前駆物質をフォトレジスト剤3(例えば、Shipley製フォトレジストS1800シリーズ)でコーティングする(B工程)。そして所望のパターンになるように取り除かれ(例えば、フォトマスクを通してUV照射した後、MF319現像液を用いてフォトレジストを現像する)、下にあるポリマーと無機材料の層のパターンを露出させる(C工程)。次いで、基板表面が表面酸化処理(例えば、出力200W、流量200毎分mlのO2プラズマに7秒間)にさらされ、無機粒子を包んでいたポリマー基質の一部が剥ぎ取られる。その結果、表面に存在する無機材料が露出され、処理された表面部分は親水性となる(D工程)。次に、フォトレジスト3が取り除かれ(例えば、マイクロポジット製の剥離剤1165を用いて)基板が形成される(E工程)。
【0082】
このようにして得られた基板には、基板の表面層のエッチングされた領域とエッチングされなかった領域との間で良好なぬれ性差異が形成されている。この領域間での親水性及び/或は親油性の差異は、従来の技術を用いて(フッ化表面を避けた場合)得ることのできる差異よりも、非常に大きい差異となる。これは、エッチングされた領域及びされなかった領域の両方の基板表面直下に存在する無機粒子によって形成された表面の凹凸の効果によるものである。よって、この方法は、フッ化した表面を有する基板を使用したくない場合に有効な方法である。
<マイクロ電子部品の製造方法>
【0083】
本発明の方法によって得られる基板及び本発明の基板の最も重要な用途は、インクジェット印刷もしくは他の堆積方法によって、電気機能インクを本発明の基板に堆積することによりマイクロ電子部品を製造することである。特に、薄膜トランジスタやLEDなどのマイクロ電子部品は、基板上に適切な電気機能インクを順々に堆積していくことにより製造することができる。ぬれ性差異は、電気機能インクが基板上の適切な領域に向かうのを助ける働きをする。マイクロ電子部品の製造工程においては、必ずしも全ての構成素子がインクジェット印刷法によって形成されるわけではない。構成素子のいくつか或は全てが、他の堆積方法によって形成されるのが普通である。しかしながら、マイクロ電子部品を構成する全ての基板上の要素をインクジェット印刷法により堆積できるのが、最も望ましい。特に、半導体層を堆積させるのにインクジェット法を用いるのが望ましい。
【0084】
例えば、本発明の基板は、インクジェット法(もしくは、他の堆積法)で薄膜トランジスタを製造するのに用いることができる。導体の溶液を基板上にインクジェット印刷することによりソース及びドレインを形成するが、この時、電極を正確な位置に堆積させるのにぬれ性差異を活用する。導体溶液が乾燥され電極が形成された後、半導体を含む溶液を電極が形成された基板上にさらに堆積し(例えばインクジェット印刷により)、その後乾燥させる。その次に、乾燥された半導体材料の上に絶縁体が堆積される(例えばインクジェット法で)。絶縁体材料が乾いたところで、ソース及びドレイン電極に対して適切な位置に配置されるようにゲート電極が絶縁体材料の上に形成される。以上のようにして、薄膜トランジスタが形成される。
【0085】
本発明の基板は、例えばLEDを製造するのにも用いることができる。まず、電極が形成された(例えば、基板上に導体材料をインクジェット印刷することにより電極を形成する)基板上に、インクジェット印刷或は他の堆積方法により、半導体材料を堆積する。この時にぬれ性差異を活用する。そして、堆積したインクを乾燥させ、電荷注入層を形成する。電荷注入層が乾いたところで、発光半導体材料を電荷注入層の上に堆積させる(例えば、インクジェット印刷で)。発光半導体材料が乾いたら、陰極を発光半導体材料の上に形成する。
<実験例>
【0086】
以下に示す実験例は、本発明者らによって行われたものであり、無機材料に関連して基板表面に形成されたぬれ性差異を有する可撓性基板は、親水性及び/或は親油性が大きく異なる隣接する領域を表面に形成できるという点において有利であるという本発明者らの発見を裏付けるものである。以下の実験例においては、剛体のガラス基板が使用されているが、以下に示す技術は可撓性基板前駆物質に対しても同様に適用可能であり、良好なぬれ性差異を有する可撓性基板を製造することが可能である。
【0087】
<実験例1:プラズマ処理による表面特性の改良>
【0088】
I.基板準備
【0089】
参照基板
0.93gのポリメチルメタクリレート(PMMA)(Sigma:Aldrich社製)を30mlのブチルアセテートに溶解して、ブチルアセテートに溶解した3%PMMA溶液を用意する。次に、大気中で1500rpmのスピンコートを30秒間行い、0.5mlのこの溶液をガラス基板(12×12mm)前駆物質(7059:コーニング社製)にスピンコートする。そして、コーティングされた前駆物質に、大気中で100℃のアニール処理が10分間施され、参照基板が形成される。
【0090】
基板1
0.028gのSiO2ナノ粒子(ヘキサメチルジシラザン処理された大きさ10−20nmのシリカ粒子:ABCR社製)を、1mlの6%PMMAが溶解されたブチルアセテート(Aldrich社製)と1mlのブチルアセテート(Aldrich社製)中に分散させる。そしてこの混合液は、磁気攪拌器によって攪拌された後、5分間の超音波浴で最終的に完全混合されて、17.3容量パーセントSiO2溶液となる。大気中で1600rpmのスピンコートを30秒間行い、0.5mlの前記溶液を、前記ガラス基板前駆物質(12×12mmの大きさの基板、7059ガラス:コーニング社製)にスピンコートする。スピンコートされた前駆物質に、大気中で100℃12分間のアニール処理を施し、基板1が形成される。
【0091】
基板2
0.056gのSiO2が使用されることを除いて、前記基板1と同様の処理が行われる。得られる溶液は、29.5容量パーセントのSiO2溶液となる。そして、例1と同様、この溶液が前駆物質上にスピンコートされるが、その回転速度は2000rpmである。
【0092】
基板3
0.085gのSiO2が使用されること、及び1mlではなく1.5mlのブチルアセテートが用いられる点を除いて、前記基板1と同様の処理が行われる。得られる溶液は、38.6容量パーセントのSiO2溶液となる。そして、例1と同様、この溶液が前駆物質上にスピンコートされるが、その回転速度は2000rpmである。
【0093】
基板4
0.110gのSiO2が使用されること、及び1mlではなく2mlのブチルアセテートが用いられる点を除いて、前記基板1と同様の処理が行われる。得られる溶液は、44.9容量パーセントのSiO2溶液となる。そして、例1と同様、この溶液が前駆物質上にスピンコートされるが、その回転速度は2000rpmである。
【0094】
基板5
0.136gのSiO2が使用されること、及び1mlではなく2mlのブチルアセテートが用いられる点を除いて、前記基板1と同様の処理が行われる。得られる溶液は、50.4容量パーセントのSiO2溶液となる。そして、例1と同様、この溶液が前駆物質上にスピンコートされるが、その回転速度は2000rpmである。
【0095】
II.プラズマ処理及び測定
【0096】
基板1‐5及び参照基板を水で洗浄したのち、ゴニオメーター(接触角測定装置)を用いて、1‐5μlの水の液滴による接触角をこれら六つの基板についてそれぞれ測定する。
【0097】
引き続いて、出力200W、ガス流量毎分200mlのO2プラズマ処理(ブランソン/IPC製:S2100シリーズプラズマストリッパーシステム装置を用いて)を7秒間、六つの基板それぞれに施す。基板処理後の接触角は、上記同様の測定装置を用いて同様に測定する。
【0098】
次に、ブランソン/IPC製S2100シリーズプラズマストリッパーシステムを用いて、出力200W、ガス流量毎分200mlのCF4プラズマ処理を7秒間、六つの基板それぞれに施す。処理後、それぞれの基板を、脱イオン水で洗浄する(エリックス社製10DIDI純水洗浄装置)。基板処理後の接触角は、上記同様の測定装置を用いて同様に測定する。
【0099】
最後に、デクタック8表面形状測定器を用いて六つの基板それぞれの膜厚を計測する
その結果を以下表2に示す
【表2】

【0100】
<実験例2:フッ化アルキルシランを用いたシラン化による表面特性の改良>
【0101】
I.基板準備
参照基板及び基板1−5を上記の実験例1と同様な方法で準備する。
【0102】
II.プラズマ処理及び測定
【0103】
基板1‐5及び参照基板を水で洗浄したのち、ゴニオメーター(接触角測定装置)を用いて、1‐5μlの水の液滴による接触角をこれら六つの基板についてそれぞれ測定する。
【0104】
次に、Branson/IPC製S2100シリーズプラズマストリッパーシステムを用いて、出力200W、ガス流量毎分200mlのCF4プラズマ処理を7秒間、六つの基板それぞれに施す。基板処理後の接触角は、上記と同じ測定装置を用いて同様に測定する。酸化物含有量が多い基板(B4及びB5)では、長時間にわたる測定の間に、最初、急激な接触角の減少を見せ、その後にゆっくりと接触角が安定していくのが観察された。したがって、下記の表3における酸化物含有量の多い基板の測定値は、初期値及び5分経過後における値を示している。
【0105】
そして、フッ化された六つの基板をもう一度、ブランソン/IPC製S2100シリーズプラズマストリッパーシステムを用いて、出力200W、ガス流量毎分200mlのCF4プラズマ処理を7秒間行う。基板処理後の接触角は、上記と同じ測定装置を用いて同様に測定する。基板B4及びB5では再び、長時間にわたる測定の間、最初急激な接触角の減少を見せ、その後にゆっくりと接触角が安定していくのが観察された。しかしながら今回は、二回目のCF4プラズマ処理の後、高い初期反応率を示したため、初期接触角の値を正確に計測することができなかった。よって、下の表3には、5分経過時に計測した接触角の値のみが示されている。
【0106】
次いで、それぞれの基板を、脱イオン水で洗浄し(Elix社製10DI純水洗浄装置)、水接触角を再び測定する。
【0107】
最後に、洗浄後の基板をオクタン溶媒中のヘプタデカフルオロデシル‐トリクロロシラン(CF3(CF27CH2CH2SiCl3)で処理する。そして、窒素ガスを吹き付けて基板を乾燥させ、水接触角を再び測定する。
その結果を以下表2に示す
【0108】
【表3】

【0109】
III.データ分析
【0110】
上記のデータから、表面に二酸化シリコンを有する基板から親水性及び疎水性の高い表面を形成することが可能であることがわかった。可撓性基板前駆物質が用いられた場合、これらの基板は可撓性を有することから、例えば、リールツーリール生産方式の工程の一部としてインクジェット印刷を採用する場合に有効である。したがって、表面に無機材料を有する基板を利用して、上記1−6の方法を実行することにより、或は当業者にとって周知の他の方法により、良好なぬれ性差異を有する可撓性基板を製造することが可能である。これらの基板は、インクジェット印刷法によるマイクロ電子デバイスの製造に用いることができると説明したが、もちろんぬれ性差異を有する可撓性基板を必要とする製品であれば、他の製品にも本発明の基板を用いることが可能であることは容易に予想されてしかるべきことである。
【0111】
<本発明の最良の態様>
【0112】
本発明の最良の態様は、上記四番目に記載した本発明の方法により、基板を用意することである。この方法によれば、製造工程中にプラズマ処理を用いることなく可撓性基板を製造することができるので、有利である。プラズマ処理は、真空槽中でのみ行うことが可能であり、真空チャンバーは安価にそして容易に設置することができないものである。さらに、本発明の第四の方法は、洗浄工程を必要とせず、簡単な数工程のみでぬれ性差異を有する基板を製造することが可能である。本発明の第四の方法によれば、ポリマー及び無機材料のポリマー溶液で基板前駆物質をコーティングし、基板を形成するためにコーティングされた基板前駆物質を乾燥させた後、その基板をマイクロエンボス加工し、当該基板のマクロエンボス加工されていない領域をフッ化シランに晒すという少ない工程によって所望の基板を形成できる。これらの工程は全て、リールツーリール生産方式で容易に実施される。
【0113】
本発明の第四の方法は、以下に記す態様で実施されるのが望ましい。
【0114】
図4に概略的に示された本発明の第四の方法によれば、可撓性基板を製造するため、まず、可撓性を有し前処理された透明なポリエステル基板前駆物質(熱安定性、厚さ125μm、大きさ45×45mm、イタリアコベーム社製)を、ブチルアセテート中にPMMAが含まれた溶液でコーティングする。溶液には、ポリマーと無機粒子の総量に対して50容量パーセントとなるようにSiO2粒子(ヘキサメチルジシラザン処理された大きさ10−20nmのシリカ粒子:ABCR社製)が含まれている。そして、1mlのこの溶液が基板前駆物質上に、大気中で2000rpmのスピンコートで30秒間スピンコートされる。そして、大気中100℃で12分間アニール処理を施し、コーティングされた基板前駆物質は、基板となる。
【0115】
次に、20barの圧力、温度140℃で20分間シリコンモールドにより、基板にマイクロエンボス加工を施して、ポリマー層が圧縮されパターニングされた領域を形成する。そして、大気中でコロナ処理を行い、基盤を酸化して、表面全体を親水性にする。次に(エンボス加工されていない)基板表面にヘプタデカフルオロデシル‐トリクロロシランを、パターニングされていないポリヂメチルシロキサン(PDMS)の柔らかいスタンプで塗布する(D工程)。この処理によって、エンボス加工された領域は親水性を保ったまま、他の基板表面は疎水性及び疎油性となる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、TFTやLEDなどのマイクロ電子デバイスを製造する際、基板に電気機能材料インクをインクジェット印刷することによって製造するのに用いる基板に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の方法を実現するための第一の方法を概略的に示した図。
【図2】本発明の方法を実現するための第二の方法を概略的に示した図。
【図3】本発明の方法を実現するための第三の方法を概略的に示した図。
【図4】本発明の方法を実現するための第四の方法を概略的に示した図。
【図5】本発明の方法を実現するための第五の方法を概略的に示した図。
【図6】本発明の方法を実現するための第六の方法を概略的に示した図。
【符号の説明】
【0118】
1・・・可撓性ポリマー基板前駆物質、基体
2、4・・・ポリマー
3・・・フォトレジスト剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域からなる表面を有する可撓性基板の製造方法であって、
(ia)基板を形成するため、無機材料からなる第一の領域を基板前駆物質上に形成する工程を有し、前記無機材料は少なくともその一部が基板表面上で露出し、前記第一の領域は前記基板前駆物質上でパターンを形成していることを特徴とする可撓性基板の製造方法。
【請求項2】
異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域からなる表面を有する可撓性基板の製造方法であって、
(ib)第一の構成物を可撓性基板前駆物質上に堆積することにより、無機材料からなる第一の領域を形成する工程を有し、前記無機材料は少なくともその一部が基板表面上で露出し、
(ic)前記第一の領域と親水性及び/或は親油性が異なる第二の領域を形成するために、前記第一の領域上にポリマーからなる第二の構成物のパターンを形成する工程とを有する可撓性基板の製造方法。
【請求項3】
異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する可撓性基板の製造方法であって、
(id)少なくともその一部が表面で露出している無機材料からなる可撓性基板前駆物質を配置する工程と、
(ie)前記基板前駆物質と親水性及び/或は親油性が異なる構成物のパターンを前記基板前駆物質上に形成する工程とを有する可撓性基板の製造方法。
【請求項4】
異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する可撓性基板の製造方法であって、
(if)無機材料が表面にほぼ存在しないように、前記無機材料からなる層を可撓性基板前駆物質上に形成する工程と、
(ig)前記処理された前記基板前駆物質表面上に前記無機材料を露出させるように、前記層からなる前記基板前駆物質をパターニングする工程と、を有する可撓性基板の製造方法。
【請求項5】
前記第一の構成物はポリマー基質中の無機粒子を含むことを特徴とする前記請求項1、2または4のいずれかに記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項6】
前記無機粒子はその平均粒子サイズが0.2mmよりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項7】
前記第一の構成物は、前記基板前駆物質上に蒸着法によって堆積されることを特徴とする請求項1または2に記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項8】
前記第一の領域は、前記基板前駆物質の表面上に材料を化学堆積することによって形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項9】
前記無機材料は、二酸化シリコンであり、当該無機材料は前記基板前駆物質の表面上に堆積された有機シリコンを酸化することにより形成されていることを特徴とする請求項8に記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項10】
前記無機材料は、二酸化シリコンであり、当該無機材料は堆積されたオルトケイ酸化合物を水酸化することにより形成されていることを特徴とする請求項8に記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項11】
前記無機材料は、無機酸化物であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項12】
前記隣接する領域間の親水性及び/或は親油性の差異は、ヘキサン接触角が60°以上及び/或は水接触角が80°以上異なるように形成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の可撓性基板の製造方法。
【請求項13】
異なる親水性及び/或は親油性を有する隣接する領域を有する表面を有する改良された基板(A)を製造する方法であって、
(i)上記請求項1乃至12のいずれかに記載の基板製造方法によって基板を製造する工程を有し、前記基板の表面は無機材料が存在する領域とポリマーが存在する領域とを有し、
(ii)前記改良された基板(A)を形成するために、前記基板表面を化学処理する工程を有し、前記改良された基板(A)の隣接する表面領域が、化学処理が行われる前の同領域と比較して大きな親水性及び/或は親油性差異を有することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項14】
前記化学処理は、基板の表面フッ化処理を含むことを特徴とする請求項13に記載の基板の製造方法。
【請求項15】
前記フッ化処理は、基板表面をCF4プラズマまたはSF6プラズマ処理することにより行われることを特徴とする請求項14に記載の基板の製造方法。
【請求項16】
前記化学処理は、前記表面のフッ化処理以前に、表面を酸化パターニングする工程を含むことを特徴とする請求項14に記載の基板の製造方法。
【請求項17】
前記酸化処理は、表面に前記無機材料を含む前記基板の一部をO2プラズマ処理、UV‐オゾン処理、或はコロナ処理することによって行われることを特徴とする請求項16に記載の基板の製造方法。
【請求項18】
前記化学処理は、表面に前記無機材料を含む前記基板の一部をフッ化アルキルシランで処理する工程を含むことを特徴とする請求項13乃至17のいずれかに記載の基板の製造方法。
【請求項19】
前記化学処理は、前記フッ化アルキルシランで処理する工程の前に、前記表面を選択的に酸化する工程をさらに含むことを特徴とする請求項18に記載の基板の製造方法。
【請求項20】
前記フッ化アルキルシランで処理する工程の前に行われる前記酸化処理は、O2プラズマ処理、UV‐オゾン処理、或はコロナ処理のいずれかによって行われることを特徴とする請求項19に記載の基板の製造方法。
【請求項21】
前記基板または前記改良された基板(A)の表面の一部は親水性であり、一部は疎水性及び/或は疎油性であることを特徴とする請求項1乃至20のいずれかに記載の基板の製造方法。
【請求項22】
疎水性及び親油性を呈する第一の領域と、隣接する疎水性及び疎油性を呈する第二の領域とを有する表面を有する改良された基板(B)を製造する方法であって、
(i)上記請求項1乃至20のいずれかに記載の製造方法によって基板または改良された基板(A)を製造する工程を有し、前記隣接する領域はそれぞれ疎水性及び親水性を呈し、
(ii)前記基板または前記改良された基板(A)をフッ化アルキルシランで処理する工程を有することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項23】
(i)前記請求項1乃至20に記載された方法によって、異なる親水性及び/或は親油性を呈する隣接領域を同一表面に有する基板、改良基板(A)または改良基板(B)を製造する工程と、
(ii)第一の電気機能材料からなる領域を形成するために、第一の溶液を前記基板、改良基板(A)または改良基板(B)上に堆積する工程と、を有することを特徴とするマイクロ電子部品の製造方法。
【請求項24】
前記マイクロ電子部品は薄膜トランジスタであって、
前記第一の電気機能材料は半導体材料であるマイクロ電子部品の製造方法であって、
(iii)前記(ii)の工程で形成された領域の下にソース及びドレイン電極を形成するために、前記(ii)の工程の前に、第二の溶液を前記基板、改良基板(A)または改良基板(B)上に堆積する工程と、
(iv)前記半導体材料の上に絶縁層を形成するために第三の溶液を堆積する工程と、
(v)前記ソース及びドレイン電極と適切な位置関係となるようゲート電極を前記絶縁層上に形成する工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項23に記載のマイクロ電子部品の製造方法。
【請求項25】
前記マイクロ電子部品は発光ダイオードであって、
前記第一の電気機能材料は電荷注入層を構成する半導体材料であって、
前記基板、前記改良された基板(A)、または前記改良された基板(B)が陽極を有するマイクロ電子部品の製造方法であって、
(iii)第2の発光半導体材料を含む領域を形成するために、前記第一の半導体材料の上に第四の溶液を堆積する工程と、
(iv)前記第二の半導体材料の上に陰極を形成する工程と、をさらに有することを特徴とする請求項23に記載のマイクロ電子部品の製造方法。
【請求項26】
前記溶液の堆積は、インクジェット印刷によっておこなわれることを特徴とする請求項23乃至25のいずれかに記載のマイクロ電子部品の製造方法。
【請求項27】
前記製造は、リール ツー リール生産方式によって実施されることを特徴とする請求項23乃至26のいずれかに記載のマイクロ電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−83723(P2007−83723A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254972(P2006−254972)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】