説明

周期構造体およびその製造方法

【課題】 可視域に対応するバンドギャップ中心波長を有するフォトニック結晶の形成に有用な周期構造体を提供する。
【解決手段】 第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域とを少なくとも含む周期構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォトニック結晶を作製する際に有用な周期構造体に関し、より詳しくは、可視域に対応するバンドギャップ中心波長を有するフォトニック結晶作製に好適な周期構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明のフォトニック結晶の応用可能な対象は特に制限されないが、例えば、フォトニック結晶デバイス、波長変換素子、和差周波発生素子、第二・第三・第四高調波発生素子、OPA素子、四波混合素子、誘導ラマン散乱素子、パルス圧縮、レーザー光源、光変調素子、光スイッチング素子、光応答素子、光双安定素子、光論理演算素子、有機非線形光学材料加工等に好適に利用可能である。
【0003】
社会・経済活動の発展に伴い、情報通信・情報処理の分野における大容量の通信を可能とする光エレクトロニクスの重要性は、益々増大している。他方、近年の伝達すべき情報の更なる大容量化、高速化の進行により、既存の光技術のみを用いた情報通信・情報処理では限界が近くなって来ている。このような限界を打破する可能性を有する技術の一つとして、光の進路を自在に制御することが可能なフォトニック結晶が近年、脚光を浴びている。このフォトニック結晶は、屈折率が異なる媒質(それらの一方は空気であってもよい)を、光の波長と同様のレベルの間隔で周期的に組み合わせたものである。
【0004】
このようなフォトニック結晶に入射する光は、反射・屈折・干渉などが絡み合い、独特の光学現象(例えば、「分散」「異方性」「フォトニック・バンドキャップ」という特徴的な光の伝搬特性に基づく)を生じるのみならず、フォトニック結晶を用いた場合には、従来の光学材料に比べて10倍以上の光の伝搬特性の改善が期待されている。このため、フォトニック結晶は、光フィルタ、光導波路、バンドフイルター、ディスプレイ用デバイス等としての種々の光応用分野に適用が期待される。更には、フォトニック結晶は、面積比10分の1以下の超小型光回路や、スーパープリズム、零閾値レーザ;および輻射場、伝播特性を制御し得る光機能素子(例えば、急角度曲げの光導波路、極小サイズの光共振器、光変調器、波長分波器、極低しきい値レーザーアレイ等)など革新的光デバイスの実現に途を開く可能性を秘めている。
【0005】
上記したように、フォトニック結晶は周期的に変化する屈折率を有する新しい光学材料であって、将来的な種々の光学技術の重要なカギとなる材料である。しかしながら、従来より現実的に開発・提案されたフォトニック結晶は、動作の効率の点では、必ずしも充分な特性を発揮しているとは言い難かった。
【0006】
近年のフォトニック結晶技術として、非特許文献1(S. Noda, K. Tomoda, N. Yamamoto, A. Chutinan, ”Full Three-Dimensional Photonic Bandgap Crystals at Near-Infrared Wavelengths,” Science, 289,604(2000))においては、いわゆるウッドパイル構造を、一層ずつロッドを積み重ねることにより作製している。この際、フォトニックバンドギャップが生じるためには「1段目と3段目」、および「2段目と4段目」のロッドは、互いに半周期ずれていることが必要なため、各層ごとに精密な位置合わせが必要となる。また層数が増えるほどフォトニック結晶の性能は良くなるが、本論文で用いられている位置合わせの技術は、層数が増えるほど困難になる傾向にある。この文献におけるバンドギャップ中心波長は1.3〜1.55μmである。
【0007】
非特許文献2(M. Qi, E. Lidorikis, P. T. Rakish, S. G. Johnson, J. D. Joannopoulos, E. P. Ippen and H. I. Smith, “A three-dimensional optical photonic crystal with designed point defects,” Nature, 429,538−542(2004))に開示されている3次元構造は、電子ビームリソグラフィーによるパターンニングとドライエッチングの組み合わせ及びそれらの積層により作製されているが、上記の非特許文献1の場合と同様に、フォトニックバンドギャップが生じるためには各層ごとに精密な位置合わせが必要である。その位置合わせは本論文の場合各層ごとに電子ビームリソグラフィーを用いて行っている。作製された構造は7層構造で、バンドギャップ中心波長は1.3−1.5μである。中心波長を800nm付近にするには、現状の電子ビームリソグラフィー技術で位置合わせ可能なスケールの限界に近く、またその積層はさらに困難である。
【0008】
非特許文献3(S. Matthias, F. Mueller, C. Jamois, R. B. Wehrspohn and U. Goesele, “Large-Area Three-Dimensional Structuring by Electrochemical Etching and Lithography,” Advanced Materials, DOI 10.1002/adma. 200400436(2004))においては、陽極酸化の手法を用い、電流密度を変調することで周期的孔構造を作製し、その後の酸化とHFによる酸化膜除去を繰り返すことで孔径を拡大し、最終的に隣り合う孔同士を連結させることで所定の3次元構造を作製している。この手法では、プロセス上の制約から上面と側面のパターンは必ず同位相になるが、そのような構造では理論上フォトニックバンドギャップは生じない。また酸化とHFによる酸化膜除去を繰り返すことで孔径は大きくならざるを得ないため短波長化は望めない。
【0009】
更に、非特許文献4(J. Schilling, J. White, A. Scherer, G. Stupian, R. Hillebrand and U. Goesele, “Three-dimensional macroporous silicon photonic crystal with large photonic band gap,” Appl. Phys. Lett. 86,011101(2005))では、光電気化学エッチングによる表面からの垂直エッチングと、FIB(focued ion beam)を用いた側面からの穴あけ(drilling)という2つの手法を組み合わせることで所定の次元構造を作製している。しかしながら、2つの手法が別々であるため2方向の位置合わせが困難であり、本論文ではフォトニックバンドギャップが生じる理論的最適値から60nm位置がずれており、光学測定においても反射率は60%程度にとどまっている。(理想値は反射率100%)。なお、本構造のバンドギャップ波長域は1.25〜1.66μmである。
【0010】
前述の先行研究のポイントをまとめると、フォトニック結晶の性能の決定要因であるバンドギャップ幅、中心波長および積層数などを制限しているのは層間ないし異手法間の位置合わせの困難さにあると言える。またバンドギャップ中心波長に関して言えば、3次元構造で実現しているものはすべて1.2μm以上であり、可視域のものはまだ実現していない。
【0011】
更に、フォトニック結晶の応用分野の一つである半導体集積回路分野に関する背景技術について述べる。すなわち、近年の高度情報化社会の到来に伴って、これを支える通信やエレクトロニクスの基盤技術であるCMOSを中心とした半導体集積回路は、これまで飛躍的な高集積化・高速化を遂げてきたが、今日ゲート長100nm時代を迎え、トランジスタ自体の微細化限界、配線遅延の問題、クロック信号の伝送限界などの集積化限界に達しつつある。このような現状を打開するため、従来のチップ間電気配線を光配線に置き換えたチップ間光インターコネクト技術が、新しいブレークスルー技術として有力視されている。
【0012】
近年のSiレーザ研究の流れは、こういった光・電子集積によるチップ内光配線、光コンピュータの実現という明確な動機に裏打ちされており、その応用範囲はATM交換機やスーパーコンピュータ、将来的には一般のコンピュータにいたるまで、多岐にわたる。これらの応用においては、光集積技術がその根幹を担っており、その意味で従来型の単体の発光素子の開発においては考慮されてこなかった、電子集積回路とのプロセス上の整合性、光素子の小型化・高集積化・低消費電力化等が重要な技術課題となる。
【0013】
このような課題を実現するためには、最大のネックである、CMOSプロセスと両立可能な高性能シリコン系発光素子を作製することが極めて好ましい。
【0014】
【非特許文献1】S. Noda, K. Tomoda, N. Yamamoto, A. Chutinan, ”Full Three-Dimensional Photonic Bandgap Crystals at Near-Infrared Wavelengths,” Science, 289,604(2000)
【非特許文献2】M. Qi, E. Lidorikis, P. T. Rakish, S. G. Johnson, J. D. Joannopoulos, E. P. Ippen and H. I. Smith, “A three-dimensional optical photonic crystal with designed point defects,” Nature, 429,538−542(2004)
【非特許文献3】S. Matthias, F. Mueller, C. Jamois, R. B. Wehrspohn and U. Goesele, “Large-Area Three-Dimensional Structuring by Electrochemical Etching and Lithography,” Advanced Materials, DOI 10.1002/adma. 200400436(2004)
【非特許文献4】J. Schilling, J. White, A. Scherer, G. Stupian, R. Hillebrand and U. Goesele, “Three-dimensional macroporous silicon photonic crystal with large photonic band gap,” Appl. Phys. Lett. 86,011101(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消することが可能なフォトニック結晶の形成に有用な周期構造体を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、可視域に対応するバンドギャップ中心波長を有するフォトニック結晶の形成に有用な周期構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は鋭意研究の結果、互いに半周期だけ位相がシフトした第1および第2の周期で配置された凹部を含む2つの領域を組み合わせることが、上記目的の達成のために極めて効果的なことを見出した。
【0018】
本発明の周期構造体は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域と、を少なくとも含むことを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、更に、被処理基材上に、第1の周期で配置されるべき凹部に対応するパターンを含む第1の領域パターンと、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置されるべき凹部に対応するパターンを含む第2の領域パターンとを少なくとも有するレジストのパターンを形成し、前記被処理基材を選択的にエッチングして、前記レジストのパターンに対応する凹部を形成する周期構造体の製造方法であって;前記周期構造体が、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域とを少なくとも含む周期構造体であることを特徴とする周期構造体の製造方法が提供される。
【0020】
上記構成を有する本発明の周期構造体を利用することにより、例えば、ひとつのアプローチとしてのシリコン系発光材料の究極の光制御を目指した3次元フォトニック結晶構造Si量子ドットレーザの作製が可能となり、これにより、CMOSプロセスと両立可能な高性能シリコン系発光素子を作製することが可能となる。
【0021】
加えて、本発明により、すなわち「可視域における」「100%の精度の位置合わせ」を可能にする3次元フォトニック結晶構造を作製することができる。このうち前者は既存のフォトニック結晶作製技術の限界を超える可能性を、後者は必然的に多層構造作製可能性、およびそれに伴う結晶性能の向上を包含する。
【0022】
上述したように、たった一回の位置合わせの不完全さが結晶の性質に大きく関わる可能性があることから、理想的には位置合わせ回数が0であることが望ましい。しかしながら、上面と側面に別々にパターン形成する限りは、最低でも一回は位置合わせが必要になることとなる。したがって、本発明においてパターン形成回数を1回とすることにより、位置合わせ回数が0回で構造を作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように本発明によれば、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域と、を少なくとも含む周期構造体を得ることができる。
【0024】
3次元フォトニック結晶は、素子の小型化、低消費電力化、面発光型素子の形成とその高集積化、チップ内光導波路の形成などの面で重要な役割を果たす。一方、本発明室で開発されたサイズ制御可能なSi量子ドットは、高次元のキャリアの閉じ込めによる状態密度の先鋭化とそれに伴う閾値電流の低減、キャリアの局在による波数空間での広がりを利用した遷移確率の増大、Si量子ドットのサイズ制御とそれに伴う発光波長の制御等の効果を得ることができる。
【0025】
本発明によれば、更に、(1)Si基板上への3次元フォトニック結晶の作製、(2)Si量子ドットのサイズ制御、(3)それらを組み合わせた実際のデバイス作製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
【0027】
(周期構造体)
本発明の周期構造体は、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域と、を少なくとも含む。
【0028】
(周期構造体の一態様)
本発明の周期構造体の一態様を、図1の模式斜視図に示す。図1を参照して、本発明の周期構造体は、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域1aと、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部2を含む第2の領域2aとを少なくとも含む。
【0029】
(被処理基材)
本発明において、上記した特定の周期構造体を形成(すなわち、周期的構造を有する凹部を形成)することが可能な限り、該周期構造体形成に使用すべき被処理基材は特に制限されない。
【0030】
(被処理基材の例示)
本発明においては、例えば、下記のような被処理基材を使用することができる。
(1)半導体材料
半導体回路との適合性(compatibility)の点からは、被処理基材として半導体材料を使用することが好ましい。このような半導体材料としては、例えば、シリコン、ゲルマニュウム、III−V族化合物等が使用可能である。集積回路、製造技術との整合性の点からは、シリコンを被処理基材として使用することが好ましい。
【0031】
(2)半導体材料以外の材料
例えば、種々の酸化物材料、アルミニウム等が被処理基材として使用可能である。
【0032】
(凹部)
本発明において、周期的構造を構成する「凹部」のサイズ、形態、製法等は特に制限されない。該凹部は、貫通孔でもよく、また非貫通孔でもよい。構造の機械的安定性の点からは、非貫通孔の方が好ましい。
【0033】
(凹部のサイズ・周期)
本発明において好適な凹部のサイズ、ないし周期は以下の通りである。
(1)凹部の好適な平面的サイズ:200nm以下
(2)凹部の好適な垂直的サイズ:50μm以上
(3)凹部の好適な周期:400nm程度
【0034】
(凹部の形成方法)
本発明において、周期的構造を形成すべき方法は特に制限されない。加工精度の点からは、異方性エッチング法を使用することが好ましい。異方性エッチング法としては、湿式エッチング、乾式エッチングのいずれも使用可能であるが、高アスペクト比深堀エッチングの点からは、湿式エッチングが好ましい。
【0035】
このような湿式エッチング法としては、例えば、陽極酸化、異方性アルカリエッチング等が使用可能である。高アスペクト比深堀エッチングの点からは、陽極酸化(特に、磁場印加下における陽極酸化)を使用することが好ましい。このような陽極酸化ないし磁場印加下における陽極酸化に関しては、必要に応じて、文献V. Lehmann, H. Foell, J. Electrochem. Soc., 1990, 137, 653-659、T. Nakagawa, H. Sugiyama, N. Koshida, Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 7186を参照することができる。
【0036】
(パターン形成方法)
本発明において、周期的構造に対応するパターン形成方法は特に制限されない。1μm径以下の微細パターン形成の点からは、リソグラフィー(特に電子ビームリソグラフィー)によるパターン形成を使用することが好ましい。
【0037】
(斜め方向への切り出し)
本発明の周期構造体は、必要に応じて、前記第1および/又は第2の領域の少なくとも一部を、斜め方向に切り出すことができる。このように第1および/又は第2の領域の少なくとも一部を斜め方向に切り出すことにより、精密な位置合わせ技術なしで斜面への(サブミクロンスケールの)パターン形成が可能となる。
【0038】
この「斜め方向への切り出し」の方法、角度、広さ等は特に制限されないが、異方性アルカリエッチングの利用の点からは、前記斜め方向が(111)面に沿っていることが好ましい。
【0039】
(斜め切り出し方法)
本発明において、このような斜め切り出し方法は特に制限されない。任意角度の傾斜面を切り出す点からは、化学機械研磨(CMP)を利用することが好ましい。このような斜め切り出し方法の詳細に関しては、例えば文献Patrick. W. et al. "Applications of chemical mechanical polishing to the fabrication of VLSI circuit interconnections" J. Electrochem. Soc. 138, 1778-1784 (1991) を参照することができる。
【0040】
(周期構造体製造方法の一態様)
以下、上記した構成を有する本発明の周期構造体を好適に製造可能な、製造方法の一態様について述べる。
【0041】
図2の模式斜視図を参照して、まず始めに、STEP1(図2(a))で電子ビームリソグラフィーによるパターン形成を行う。この際、中央部の境界を境にして、第1の領域1aと、第2の領域2aとで、凹部1および凹部2の周期パターンを半周期分ずらして形成する。図中では、左右のパターン(第1および第2の領域)と、線4との位置関係によってそれが示されている。
【0042】
次にSTEP2(図2(b))で陽極酸化により、このパターンに沿った垂直エッチングを行う。この際エッチングの方向に磁場を印加することで、シリコン溶解反応に関わるホールの運動を制御することにより、より小さなパターンの深堀エッチングが可能となる。この際に使用すべき磁場印加下の陽極酸化に関しては、必要に応じて、文献T. Nakagawa, H. Sugiyama, N. Koshida, Jpn. J. Appl. Phys. 37 (1998) 7186を参照することができる。
【0043】
図3(a)の模式斜視図を参照して、STEP3では、STEP2で形成した構造に対しパターンの境界(線3)を境にしてアルカリ溶液による異方性エッチングないし化学機械研磨(CMP)の手法により斜面を切り出す。
【0044】
STEP4(図3(b))では、STEP3で切り出された斜面のパターンに沿った水平方向のエッチングを行う。この際も、エッチングの指向性を確保するためエッチング方向に磁場を印加する。
【0045】
STEP4において留意すべき点は、斜面においてすでに形成されている縦穴の影響で、水平方向のエッチングが斜面パターンどおりに進まない可能性があることである。これを回避するため、本発明ではSTEP4の図中に示すように、水平方向に光を照射してエッチングを行う。水平方向から光を当てると、斜面パターンが光によって縦穴の壁に投影され、局所的に光励起されたホールが投影パターンを反映して生成されそこから選択的にエッチングが進むため、上述の問題は起こらないと考えられる。光励起されたホールは、斜面の縦穴の壁だけでなく斜面自体にも生じるが、(111)面は、化学反応機構上溶解反応がもっとも進みにくいため、溶解反応の選択性は確保される。これが、斜面にパターンを形成することのもつ優位性である。それに加え、本手法では常にエッチング進行部に光が照射されるため、斜面における水平方向の深堀エッチングに適した手法と言える。
【0046】
上述の手法の最も特徴的な点は、斜面の切り出しによる斜面パターンを利用した側面のエッチングを行う点である。これにより上面および側面の2方向エッチングを位置合わせなし(パターン形成は1回のみ)で行うことができる。また、従来技術のボトルネックとなっていた層数については、最初に上面に形成するパターンおよび境界の位置を決めるだけで、自在に制御することが可能である。
【0047】
(本発明の応用可能性)
(3次元フォトニック結晶のバンドエンジニアリング)
最初の上面パターン形成時に、互いに半周期ずらした2種類のパターンを形成することで、最終的に作製される3次元構造のフォトニックバンドギャップを理論的に最大にすることが可能である。一方、最初の上面パターン形成時に1種類のパターンのみ形成することで、逆に意図的にバンドギャップが生じない3次元構造を作製することも可能であり、従来の(課題が山積する)位置合わせの技術を全く用いることなく、電子ビームリソグラフィーの描画パターンを変えるだけで、3次元フォトニック結晶のバンドエンジニアリングが可能となる。
【0048】
図4(a)の模式斜視図にバンドギャップが最大となる構造(i)を、図4(b)の模式斜視図にバンドギャップが最小となる構造(ii)の例を示す。更に、図5(a)の模式斜視図に、上記構造(i)の斜面を切り落とした構造を、図4(b)の模式斜視図に上記構造(ii)の斜面を切り落とした構造の例を示す。
【0049】
(WDM(波長多重)光源への応用)
さらに、上面パターンの孔径のみを変えることで、図6に示すようにフォトニックバンドギャップの中心波長を制御することができる。このことから、電子ビームリソグラフィーの描画パターンを変えるだけで、多波長光源の作製が可能となる。
【0050】
(ナノ結晶シリコン発光デバイスへの応用)
上記手法により作製した3次元フォトニック結晶に対し、上面側の孔にシリコンナノクリスタルを垂直に配列することで、3次元フォトニック結晶に電子放出素子としての機能を付加することが可能となる。本発明室で開発されたパルスガスプラズマCVD法により作製した粒径10nm程度のサイズ均一シリコン量子ドットを用いることで、構造制御された弾道電子放出層を形成することが可能であり、また従来技術では実現できなかったナノクリスタルシリコンの縦型配列を行うことで電子放出特性の大幅な向上が見込まれる。さらに、図6に示すように本構造に対し発光層としてのナノクリスタルシリコンを組み合わせることで、電子放出による励起機構を導入することが可能となる。最終的に、上面からも同様の3次元フォトニック結晶で発光層を挟みこむことにより、3次元的な光閉じ込めを利用したフォトニックバンド端レーザ発振を実現する。
【0051】
3次元的な光閉じ込めのためには、フォトニックバンド端における群速度異常を利用することを念頭に置いているが、3次元フォトニック結晶の上面側の孔にシリコンナノクリスタルを垂直に配列することにより、フォトニックバンドギャップがどの程度変化するかを理論計算により見積もってみた。ナノクリスタルシリコンに酸化処理を施す前の孔中の屈折率(1.83)と、完全に酸化後の孔中の屈折率(1.45)の間で、規格化フォトニックバンドギャップ幅は4%から10%の間で推移することが分かった。これは、本デバイス構造において実用の範囲内でフォトニックバンドギャップ特性が利用できることを示している。
【0052】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0053】
実施例1
[1]基板洗浄
(1)N型Si(100)基板(CZ 0.04−0.06Ω・cm)をダイヤモンドカッターで2cm角に切り出す
【0054】
(2)純粋が入ったビーカーに切り出したサンプルを入れ、超音波洗浄 を1分間行う
(3)ビーカーにアセトンをサンプルの高さまで入れ、ヒーターで100℃でboiling する。沸騰し始めてから3〜5分放置する。
【0055】
(4)純水で超音波洗浄 を1分間行った後、ビーカーに硫酸(96%)とHを1:1でサンプルの高さまで入れ、10分間放置する。
【0056】
(5)純水で超音波洗浄 を1分間行った後、ビーカーに[HF(50%)+純水 = 3:100]の溶液をサンプルの高さまで入れる。この工程はほとんど一瞬で疎水性を確認した後サンプルを取り出す。
【0057】
(6)最後に純水で超音波洗浄を1分間行う。
[2]レジスト塗布
(1)サンプルをスチール製シャーレに入れ、オーブンで170℃10分間ベイク(乾燥)する。
【0058】
(2)EBレジストZEP520Aを試料表面に数滴滴下し、1000回転/分で5秒間、4000回転/分で60秒間スピンコーティングする。
【0059】
(3)その後再びオーブンで170℃10分間ベイクする。
[3]電子ビーム露光(使用した装置はJOEL JBX−5FE)
(1)図8のパターンを記述したプログラムのファイルをコンバージョンする。
(2)試料室温度21.7℃、室温22.8℃、湿度44.1%、EOS MODE7, TABLE 2, FEG A1 CURRENT 182.3μA, 2nd LENS 48189 (電流1000pA)、ASPEL 2, FOCUS(5thLENS)の条件下で露光を行う。
【0060】
[4]レジストの現像
(1)MIBK:IPA=1:1 を100mlのビーカーに30ml入れて、試料がすべて溶液に漬かるようにして45秒間静止した状態で現像を行う。
【0061】
(2)2−プロパノールを100mlのビーカーに30ml入れ、(1)の処理直後に試料をこちらのビーカーに移動し、試料がすべて溶液に漬かるようにして20秒間静止した状態でリンスする。
【0062】
[5]ECRエッチング(使用した装置はALELVA社製ECRエッチング装置)
(1)エッチング条件
Back Pressure 5.7×10−7[Torr], Reactive Pressure 1.0×10−4[Torr], Gas CF
Mass Flow 2.93sccm, Orifice 18, μ-Wave controller (Incident 200[W],Reflected 0[W]), H.V.Power Supply 0.2[kV](0.11[A]), Magnet Power Supply 13[A](76[V]),
Faraday Cup Current 0.4[mA]
【0063】
(2)エッチング時間 3分間
陽極酸化以前のプロセス全体の流れを、図9の模式断面図に示す。
[6]陽極酸化I
(1)図10に示すように、試料の両面をテフロン(登録商標)テープで覆い、表面側は1mm角のパターン形成部に窓を開ける。試料の裏面は、均一に電界がかかるよう電線を一本ずつ広げてテフロン(登録商標)テープで押さえるようにする。
【0064】
(2)図11のように格子状の白金線電極を形成して電源のマイナス極につなぎ、(1)で作製した試料の銅線の先を電源のプラス極につなぐ。
【0065】
(3)遮光性テフロン(登録商標)製容器の中にHF(50%)とエタノールを1:5の割合で混合した溶液(10%HF溶液)を入れ、その後(2)の白金電極および試料を入れる。
【0066】
(4)(3)の容器全体を電磁石のN極とS極の間に置き、1.9Tの磁界をかける。
(5)電源を定電流モードにしてスイッチを入れ、17mA/cmで10分間陽極酸化を行う。
【0067】
図12に本実施例を模式的に示す。左図中の線3は、境界を境に上下のパターンが半周期ずれていることを示しており、右図は800nmにフォトニックバンドギャップの中心波長をもつ構造の設計パラメータと同等のものが作製できていることを示している。
【0068】
[7]異方性エッチングによる(111)面の切り出し(図13)
(1)陽極酸化後サンプルからテフロン(登録商標)テープおよび銅線を取り除く(I)。
(2)SAMCO社製PECVD装置を用いサンプル上に約1ミクロン厚のSiO2膜を作製する(II)。作製条件は、RFパワー250W、放電時間700秒間、圧力120Pa、基板温度300℃、流量O:300 sccm, TEOS:7sccmで行う。
【0069】
(3)1mm角のパターンの端にダイヤモンドカッターで直線状の傷をつける(III)。
【0070】
(4)サンプルをKOH溶液につけて異方性エッチングを行いパターン上に斜面を形成する(IV)。
【0071】
まずビーカーに濃度20%のKOH溶液(KOH:純水=1:4)を入れ、処理温度80℃でホットプレートで加熱しながらエッチングを行う。
【0072】
[8]陽極酸化II(図14)
(1)1mm角のパターンの端(Vの線3)に沿ってダイアモンドカッターで試料を劈開する(VI)。
【0073】
(2)斜面のみ外界にさらすようにし、それ以外(上面および下面)はテフロン(登録商標)テープで厳重に覆い、HFによるエッチングを防ぐと同時に外界からの光を遮断する(VII)。
【0074】
(3)図15に示すように試料の側面(斜面と反対側)に銅線をつけてテフロン(登録商標)テープで押さえ、銅線の逆側の端を電源のプラス極につなぎ、格子状の白金線電極を電源のマイナス極につなぐ。この際、試料表面が磁界に平行になるようにあらかじめ銅線を折り曲げておく。
【0075】
(4)導光性テフロン(登録商標)製容器の中にHF(50%)とエタノールを1:5の割合で混合した溶液(10%HF溶液)を入れ、その後(3)の白金電極および試料を入れる。
【0076】
(6)上記(4)の容器全体を電磁石のN極とS極の間に置き、1.9Tの磁界をかける。
【0077】
(7)図15のように電磁石とテフロン(登録商標)容器の間に強度可変ランプを設置し、スイッチを入れる。
【0078】
(8)電源を定電流モードにしてスイッチを入れ、17mA/cmで10分間陽極酸化を行う。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の周期構造体の一態様を示す模式斜視図である。
【図2】本発明の周期構造体形成方法の一態様を示す模式斜視図である。
【図3】本発明の周期構造体形成方法の一態様を示す模式斜視図である。
【図4】本発明の周期構造体におけるバンドギャップと構造との関係の一例を示す模式斜視図である。
【図5】本発明の周期構造体におけるバンドギャップと構造との関係の他の例を示す模式斜視図である。
【図6】本発明の周期構造体において、フォトニックバンドギャップの中心波長を制御する方法の一例を示す模式斜視図である。
【図7】本発明の周期構造体の、ナノ結晶シリコンデバイスへの応用可能性を示す模式図である。
【図8】実施例において用いた電子線(EB)パターンの例を示す模式平面図である。
【図9】実施例において用いた陽極酸化以前のプロセス全体の流れを示す模式断面図である。
【図10】実施例において用いた陽極酸化法を説明するための模式平面図である。
【図11】実施例において用いた磁場印加下における陽極酸化法を説明するための模式平面図である。
【図12】(a)実施例において得られた周期構造体上面のSEM(走査電子顕微鏡)写真、(b)該周期構造体断面のSEM写真、および(c)該周期構造体の模式斜視図である。
【図13】(a)実施例において得られた異方性エッチングによる(111)面の切り出しの一例を説明するための模式平面(上面)図、および(b)模式斜視図である。
【図14】(a)実施例において得られた異方性エッチングによる(111)面の切り出しの一例を説明するための模式平面(上面)図、および(b)模式斜視図である。
【図15】実施例において用いた磁場印加下における陽極酸化法を説明するための模式平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域と、を少なくとも含むことを特徴とする周期構造体。
【請求項2】
シリコンからなる請求項1に記載の周期構造体。
【請求項3】
前記凹部が、陽極酸化により形成されたものである請求項1または2に記載の周期構造体。
【請求項4】
前記第1および/又は第2の領域の少なくとも一部が斜め方向に切り出されている請求項1〜3のいずれかに記載の周期構造体。
【請求項5】
前記斜め方向への切り出しが(111)面に沿っている請求項4に記載の周期構造体。
【請求項6】
被処理基材上に、第1の周期で配置されるべき凹部に対応するパターンを含む第1の領域パターンと、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置されるべき凹部に対応するパターンを含む第2の領域パターンとを少なくとも有するレジストのパターンを形成し、
前記被処理基材を選択的にエッチングして、前記レジストのパターンに対応する凹部を形成する周期構造体の製造方法であって;
前記周期構造体が、第1の周期で配置された凹部を含む第1の領域と、該第1の周期より半周期だけ位相がシフトした第2の周期で配置された凹部を含む第2の領域とを少なくとも含む周期構造体であることを特徴とする周期構造体の製造方法。
【請求項7】
前記選択的エッチングが、湿式エッチングにより行われる請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記湿式エッチングが、陽極酸化により行われる請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記陽極酸化が、磁場の印加下で行われる請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−343671(P2006−343671A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171213(P2005−171213)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】