説明

回路基板用樹脂組成物、プリプレグおよび積層板

【課題】誘電率、誘電正接が低く、優れた耐熱性および密着性を有する回路基板用樹脂組成物、及び、これを用いたプリプレグと積層板を提供すること。
【解決手段】分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物(A)と、分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物(B)と、を含有し、前記化合物(A)は、N−フェニルマレイミドであり、また、前記回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電率が、2.3以上、3.3以下であることを特徴とする回路基板用樹脂組成物、及び、これを用いたプリプレグと積層板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板用樹脂組成物、プリプレグおよび積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パーソナルコンピューターや携帯電話等の情報処理機器は高速化が要求されておりCPUクロック周波数が高くなっている。そのため信号伝搬速度の高速化が要求されており、高速化に誘電率および誘電正接の低いプリント板であることが必要とされる。
【0003】
誘電率および誘電正接を低減するために、分子内に1個のマレイミド基を含有する化合物を熱硬化性樹脂の分子構造に組み込むことは一般におこなわれている。分子内に1個のマレイミド基を含有する化合物を熱硬化性樹脂に組み込む方法としては、シアネート樹脂と共重合させる方法、エポキシ樹脂と共重合させる方法などがあげられる。しかし、シアネート樹脂と共重合させた場合、誘電率および誘電正接は優れるが、吸水率が大きいため、吸湿後の誘電特性が劣り、また半田耐熱性が十分でない欠点がある。
また、エポキシ樹脂と共重合させた場合、硬化後に極性基を生じるため誘電率や誘電正接が大きくなる欠点がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−345864 号公報
【特許文献2】特開平10−95898 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、誘電率、誘電正接が低く、優れた耐熱性および密着性を有する回路基板用樹脂組成物、及び、これを用いたプリプレグと積層板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(6)に記載の本発明により達成される。
(1)分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物(A)と、分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物(B)と、を含有することを特徴とする回路基板用樹脂組成物。
(2)前記化合物がN−フェニルマレイミドである上記(1)に記載の回路基板用樹脂組成物。
(3)前記回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電率が、2.3以上、3.3以下である上記(1)ないし(2)のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物。
(4)前記回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電正接が、0.005以上、0.018以下である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
(6)上記(5)に記載のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とする積層板。
【発明の効果】
【0007】
誘電率、誘電正接が低く、優れた耐熱性および密着性を有する回路基板用樹脂組成物、及び、これを用いたプリプレグと積層板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の回路基板用樹脂組成物、プリプレグおよび積層板について説明する。
【0009】
本発明の回路板用樹脂組成物は、基材として金属箔に直接樹脂組成物を形成し、樹脂付き銅箔として用いたり、基材としてガラス繊維基材に樹脂組成物を含浸させプリプレグとして、多層基板の層間絶縁材として用いたり、プリプレグと金属箔を積層し加熱加圧して積層板として用いることができる。
【0010】
本発明の回路基板用樹脂組成物は、分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物と分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物とを含有することを特徴とするものである。
また、本発明のプリプレグは、上述の回路基板用樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするものである。
また、本発明の積層板は、上述のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とするものである。
【0011】
まず、本発明の回路基板用樹脂組成物について説明する。
【0012】
本発明の回路基板用樹脂組成物は、分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物(A)を含む。これにより、積層板の誘電率、誘電正接を向上させることができ、耐熱性を有する。
【0013】
上記化合物(A)としては、特に限定されないが、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−1−ナフチルマレイミド、N−ピレニルマレイミド、N−ベンゾオキサゾ−ルイルフェニルマレイミドなどがあげられる。耐熱性などを考慮すると、N−フェニルマレイミドが特に好ましい。
【0014】
上記化合物(A)は、1種類もしくは2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
本発明の回路基板用樹脂組成物は、分子内に1つ以上のスチリル基を含有する化合物(B)を含む。これにより、低吸水率を維持したまま誘電率や誘電正接を低減することができる。
【0016】
上記化合物(B)としては、特に限定されないが、4,4’−ビス(2−メチルスチリル)ビフェニル、4,4‘−ビス(2−メトキシスチリル)ビフェニル、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス(4−メチルスチリル)ベンゼン、1,3−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン、1,4−ビス[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]ベンゼンなどがあげられる。
【0017】
上記化合物(B)を使用することで低吸水率を維持したまま誘電率、誘電正接を低減することができる。
上記化合物(A)のマレイミド基の2重結合は、2つのカルボニル基によって、電子不足状態の2重結合となっている。これに対し、化合物(B)のスチリル基の2重結合は、フェニル部分からの電子の流れ込みにより、電子過剰状態の2重結合となっている。このため、マレイミド基の2重結合とスチリル基の2重結合は加熱により、容易に反応する。
【0018】
化合物(B)を用いることで、反応点が2箇所以上となり、網目構造をとり、耐熱性が向上する。
【0019】
また、マレイミド基の二重結合とスチリル基の二重結合の反応によって、水酸基などの極性基が生じないため、低吸水率を有したまま、誘電率、誘電正接を低減することができる。本発明の回路基板用樹脂組成物は、分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物を使用した場合においても、その低誘電率、低誘電正接とともに、低吸水率を有することができるものである。
【0020】
化合物(A)と化合物(B)の当量比は0.8〜1.2が好ましい。この当量比が0.8未満もしくは1.2を超えると、未反応の化合物が残存し、耐熱性が低下し好ましくない。
【0021】
本発明の回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電率が、2.3以上、3.3以下であり、また、1GHzにおける誘電正接が、0.005以上、0.018以下であることが好ましい。
【0022】
上記回路基板用樹脂組成物の硬化物とは、回路基板用樹脂組成物を構成する硬化性樹脂組成物中の硬化性樹脂成分が有する官能基の反応が実質的に完結した状態を意味し、例えば、示差走査熱量測定(DSC)装置により発熱量を測定することにより評価することができ、具体的には、この発熱量がほとんど検出されない状態を指すものである。
このような樹脂材料の硬化物を得る条件としては、例えば、120〜220℃で、30〜180分間処理することが好ましく、特に、150〜200℃で、45〜120分間処理することが好ましい。
【0023】
本発明の回路基板用樹脂組成物は、上述した化合物(A)と化合物(B)を必須成分として含有するが、本発明の目的に反しない範囲において、その他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂など、また、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、カップリング剤、フィラー、その他の成分を添加することは差し支えない。
【0024】
次に、プリプレグについて説明する。
【0025】
本発明のプリプレグは、上述の回路基板用樹脂組成物を基材に含浸させてなるものである。これにより、耐熱性等の各種特性に優れたプリプレグを得ることができる。
本発明のプリプレグで用いる基材としては、例えばガラス繊布、ガラス不繊布等のガラス繊維基材、あるいはガラス以外の無機化合物を成分とする繊布又は不繊布等の無機繊維基材、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等の有機繊維で構成される有機繊維基材等が挙げられる。これら基材の中でも強度、吸水率の点でガラス織布に代表されるガラス繊維基材が好ましい。
【0026】
本発明で得られる回路基板用樹脂組成物を基材に含浸させる方法には、例えば、回路基板用樹脂組成物を溶媒に溶解して樹脂ワニスを調製し、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法、各種コーター装置により樹脂ワニスを基材に塗布する方法、樹脂ワニスをスプレー装置により基材に吹き付ける方法等が挙げられる。これらの中でも、基材を樹脂ワニスに浸漬する方法が好ましい。これにより、基材に対する回路基板用樹脂組成物の含浸性を向上させることができる。なお、基材を樹脂ワニスに浸漬する場合、通常の含浸塗布装置を使用することができる。
【0027】
前記樹脂ワニスに用いられる溶媒は、前記回路基板用樹脂組成物に対して良好な溶解性を示すことが望ましいが、悪影響を及ぼさない範囲で貧溶媒を使用しても構わない。良好な溶解性を示す溶媒としては、例えばN−メチルピロリドン等が挙げられる。
前記樹脂ワニス中の固形分は、特に限定されないが、前記回路基板用樹脂組成物の固形分40〜80重量%が好ましく、特に50〜65重量%が好ましい。これにより、樹脂ワニスの基材への含浸性を更に向上できる。
前記基材に前記回路基板用樹脂組成物を含浸させ、所定温度、例えば80〜200℃で乾燥させることによりプリプレグを得ることができる。
【0028】
次に、積層板について説明する。
【0029】
本発明の積層板は、上述のプリプレグを少なくとも1枚成形してなるものである。これにより、優れた耐熱性と密着性を有し、誘電率や誘電正接が低い積層板を得ることができる。
プリプレグ1枚のときは、その上下両面もしくは片面に金属箔あるいはフィルムを重ねる。
また、プリプレグを2枚以上積層することもできる。プリプレグ2枚以上積層するときは、積層したプリプレグの最も外側の上下両面もしくは片面に金属箔あるいはフィルムを重ねる。
次に、プリプレグと金属箔等とを重ねたものを加熱、加圧して成形することで積層板を得ることができる。
前記加熱する温度は、特に限定されないが、150〜240℃が好ましく、特に180〜220℃が好ましい。
また、前記加圧する圧力は、特に限定されないが、2〜5MPaが好ましく、特に2.5〜4MPaが好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(1)樹脂ワニスの調製
N−フェニルマレイミドを38重量部、4,4‘−ビス(2−メトキシスチリル)ビフェニルを62重量部にN−メチル−2−ピロリドンを加え、100℃で加熱し不揮発分50%となるように調整し、樹脂ワニスを得た。
【0032】
(2)プリプレグの製造
上述の樹脂ワニスを用いて、ガラス繊布(厚さ0.18mm、日東紡績社製)100重量部に対して、樹脂ワニスを固形分で80重量部含浸させて、190℃の乾燥炉で5分間乾燥させ、樹脂含有量44.4重量%のプリプレグを作製した。
【0033】
(3)積層板の製造
上記プリプレグを6枚重ね、上下に厚さ35μmの電解銅箔を重ねて、圧力4MPa、温度220℃で180分間加熱加圧成形を行い、厚さ1.2mmの両面銅張積層板を得た。
【0034】
(実施例2)
N−フェニルマレイミドを20重量部、4,4‘−ビス(2−メトキシスチリル)ビフェニルを80重量部とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0035】
(実施例3)
N−フェニルマレイミドを50重量部、4,4‘−ビス(2−メトキシスチリル)ビフェニルを50重量部とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0036】
(実施例4)
N−シクロヘキシルマレイミドを34重量部、4,4‘−ビス(2−メトキシスチリル )ビフェニルを66重量部とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、 プリプレグ及び積層板を得た。
【0037】
(実施例5)
N−フェニルマレイミドを60重量部、1,4−ビス(2−メチルスチリルベンゼン)を40重量部とした以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0038】
(比較例1)
N−フェニルマレイミドを20重量部、分子内に1つ以上のスチリル基を含有する化合物を用いず、代わりにシアネート樹脂(チバガイギー社製B−40S)を80重量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0039】
(比較例2)
N−フェニルマレイミドを50重量部、分子内に1つ以上のスチリル基を含有する化合物を用いず、代わりにクレゾールノボラックエポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製N−690)を15重量部、フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト社製PR−51470)を35重量部用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを調製し、プリプレグ及び積層板を得た。
【0040】
各実施例および比較例により得られた積層板について、次の各評価を行った。各評価を、評価方法と共に以下に示す。得られた結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
1.評価方法
(1)樹脂の1GHzでの誘電特性測定
樹脂の1GHzでの誘電特性測定は、回路基板用樹脂組成物をキャリアフィルムに塗工し、加熱し、プレスした後にキャリアフィルムを除去したものを、トリプレート共振器法で測定した。
【0043】
(2)積層板の1GHzでの誘電特性測定
積層板の1GHzでの誘電特性測定は、トリプレート共振器法で測定した。
【0044】
(3)積層板の吸湿後の1GHzでの誘電特性測定
積層板の吸湿後の1GHzでの誘電特性測定は、積層板を23℃の水に24時間浸漬物した後にトリプレート共振器法で測定した。
【0045】
(4)半田耐熱性
半田耐熱性は、JIS C 6481に準拠して測定した。測定は、煮沸2時間の吸湿処理を行った後、288℃の半田槽に120秒間浸漬した後で外観の異常の有無を調べた。
【0046】
(5)ピール強度
ピール強度は、JIS C 6481に準拠して測定した。
【0047】
表から明らかなように、実施例1〜5は、分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物と分子内に2つ以上のスチリル基を含有する本発明の回路基板用樹脂組成物を用いた積層板であり、耐熱性、密着性に優れており、誘電率、誘電正接も十分低い値であった。
これに対して比較例1は分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物の代わりに、シアネート樹脂を用いたが、吸湿後の誘電特性が悪化し、吸湿後半田耐熱性も悪化した。十分に誘電率、誘電正接が低くならなかった。また、比較例2は分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物の代わりにエポキシ樹脂とフェノールノボラック樹脂を用いたので、十分に誘電率、誘電正接が低くならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の回路基板用樹脂組成物、プリプレグ、積層板は、小型軽量化に対応でき、高度な耐熱性、密着性および信号伝搬速度の高速化に必要なプリント配線板に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1つのマレイミド基を含有する化合物(A)と、
分子内に2つ以上のスチリル基を含有する化合物(B)と、
を含有することを特徴とする回路基板用樹脂組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)は、N−フェニルマレイミドである請求項1に記載の回路基板用樹脂組成物。
【請求項3】
前記回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電率が、2.3以上、3.3以下である請求項1ないし2のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物。
【請求項4】
前記回路基板用樹脂組成物の硬化物の、1GHzにおける誘電正接が、0.005以上、0.018以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の回路基板用樹脂組成物を基材に含浸させてなることを特徴とするプリプレグ。
【請求項6】
請求項5に記載のプリプレグを1枚以上成形してなることを特徴とする積層板。

【公開番号】特開2009−267201(P2009−267201A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116789(P2008−116789)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】