説明

回転体のアンバランス修正方法、アンバランス修正装置および真空ポンプ

【課題】回転体のアンバランス修正作業を効率良く行うことができるアンバランス修正方法の提供。
【解決手段】本発明によるアンバランス修正方法では、被膜材料を含む電極の一部を放電により溶融して回転体に堆積させ、回転体のアンバランスを修正するものであって、回転体の動的不釣り合いを測定するアンバランス測定工程(S10)と、測定された動的不釣り合いに基づいて放電時間および回転体に対する電極の移動範囲を制御して、被膜材料から成るアンバランス修正用被膜を回転体に形成する被膜形成工程(S40)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体のアンバランスを修正するアンバランス修正方法、そのアンバランス修正方法により修正された回転体を有する真空ポンプ、およびアンバランス修正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転体が高速回転するターボ分子ポンプでは、ポンプ組み立て製造段階において回転体のバランス取りを行う必要がある。バランス取りの際のバランス修正は、一般に、ロータの外周面や内周面の一部をドリル等により削り取ることにより行われている。
【0003】
また、半導体製造に用いられるドライエッチング装置やCVD装置等においては、プロセスガスとして塩素系やフッ素系の腐食性ガスが用いられることが多い。これらの装置のプロセスチャンバ排気には、一般的にターボ分子ポンプが用いられている。ターボ分子ポンプのロータは高速回転され、通常はアルミ合金で形成されている。そのため、上述した装置で用いられるターボ分子ポンプにおいては、腐食性ガスに対するロータの耐食性を向上させるために、ロータ表面に例えばニッケルリン合金メッキのような耐食処理が施されている。
【0004】
このように腐食性ガスを排気するターボ分子ポンプの場合には、ロータ表面には腐食防止被膜が形成されているため、ロータ表面を削り取った際に腐食防止被膜まで削り取られてしまうことになる。そのため、腐食防止被膜が削り取られた領域に熱硬化性樹脂を塗布して、ロータの腐食を防止するようにしたターボ分子ポンプが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−21092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ロータをドリルで切削して不釣り合い量の修正を行う場合、切削作業は手作業で行われることが多く、切削量を調整することが難しく作業に熟練度を要する。そのため、1回の切削作業で不釣り合いを修正するのは難しく、不釣り合い量を許容値以下に修正するためには、切削作業とその後の不釣り合い測定とを複数回繰り返す必要があった。また、熱硬化性樹脂を塗布する場合、膜厚管理が難しく、膜厚の薄い部分から腐食が生じ易い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、被膜材料を含む電極の一部を放電により溶融して回転体に堆積させ、真空ポンプの回転体のアンバランスを修正するアンバランス修正方法であって、回転体の動的不釣り合いを測定するアンバランス測定工程と、測定された動的不釣り合いに基づいて放電の時間および回転体に対する電極の移動範囲を制御して、被膜材料から成るアンバランス修正用被膜を回転体に形成する被膜形成工程と、を有することを特徴とする。
請求項2の発明による真空ポンプは、請求項1に記載のアンバランス修正方法によりアンバランス修正用被膜が形成された回転体を備えることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の真空ポンプにおいて、転体には耐腐食性被膜が予め形成されており、耐腐食性被膜の上に耐腐食性のアンバランス修正用被膜が形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明による真空ポンプ用回転体のアンバランス修正装置は、回転体の動的不釣合いを測定するアンバランス測定ユニットと、被膜材料を含む電極の回転体に対して移動させつつ放電を行い、電極の一部を放電により溶融して回転体に堆積させることによりアンバランス修正用被膜を形成する放電表面処理ユニットと、アンバランス測定ユニットから放電表面処理ユニットへ回転体を搬送する搬送ユニットと、アンバランス測定ユニットおよび搬送ユニットを制御して、動的不釣合いの測定および回転体の搬送を行わせるとともに、アンバランス測定ユニットで測定された動的不釣合いに基づいて、放電表面処理ユニットにおける放電時間および電極の移動を制御する制御ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転体に対するアンバランス修正用被膜の形成を高精度に行うことができ、アンバランス修正作業の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ターボ分子ポンプのポンプ本体を示す断面図である。
【図2】ターボ分子ポンプの回転体を示す図である。
【図3】バランサ90を模式的に示したブロック図である。
【図4】修正装置の概略構成を示す図である。
【図5】放電表面処理により被膜を形成する方法の原理を説明する図である。
【図6】アンバランス修正手順を説明するフローチャートである。
【図7】ロータ3の内周面の2箇所の修正位置に、付加質量として被膜200a,200bが形成された回転体を示す図である。
【図8】第2の実施の形態におけるアンバランス修正装置を示すブロック図である。
【図9】アンバランス修正装置300による修正動作手順を示すフローチャートである。
【図10】削除修正用の被膜500a,500bが予め形成されたロータ3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
本実施の形態のバランス修正方法は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプにおける回転体のバランス修正に用いられる。図1は、磁気軸受式ターボ分子ポンプにおけるポンプ本体の概略構成を示す断面図である。このターボ分子ポンプは,例えば半導体製造装置等において、チャンバ内の真空排気に用いられる。
【0011】
ターボ分子ポンプのポンプ本体Tは、ベース1と、ベース1の上面に載置される略円筒形状のケーシング2と,ケーシング2内に回転可能に設けられたロータ3とを備えている。ベース1とケーシシグ2とは、Oリングを介してボルト52によって締結されている。ケーシング2の上端に設けられた吸気口フランジ部2aは、図示しない半導体製遣装置側の真空チャンバのフランジに、ボルトによって締結される。
【0012】
高速回転されるロータ3は,遠心カに耐えられるように比強度の高いアルミニウム合金によって構成されている。ロータ3の釣鐘状筒部30の外周面には、軸方向に間隔をあけて複数段の回転翼31が形成されている。さらに、釣鐘状筒部30の下部には、略円筒形状の回転円筒部32が延設されている。すなわち、高真空側に回転翼31が,低真空側に回転円筒部32が設けられている。図1に示す例では、回転円筒部32の外径は、釣鐘状筒部30の外径よりも大きく設定されている。
【0013】
ロータ3は、ベース1の内部に回転可能に支持された回転軸部3aに締結されている。回転軸部3aは、上下一対のラジアル磁気軸受4およびアキシャル磁気軸受5により非接触支持され、モータ6により回転駆動される。アキシャル磁気軸受5は、回転軸3aの下部に設けられたロータディスク42を上下から挟むように配置されている。ロータディスク42は、固定用ナット43により回転軸部3aに取り付けられている。モータ6には、例えばDCブラシレスモ−タが用いられる。その場合、回転軸部3a側には永久磁石を内蔵するモータロータが装着され、ベース1側には回転磁界を形成するためのモータステータが設けられる。なお、ベース1側には、磁気軸受4、5の故障時に機能する非常用のメカニカルベアリング7が設けられている。
【0014】
ロータ3に形成された回転翼31の各段の間には、固定翼21が交互に挿設されている。これらの回転翼31および固定翼21によりタービン翼部が構成される。各段の固定翼21はスペーサ22を介して積層され、これら固定翼21とスペーサ22とにより積層体が形成されている。スペーサ22は略リング形状を成し、固定翼21は周方向に2分割した半割れ形状を成している。固定翼21とスペーサ22から成る積層体は、ボルト52の締結力により、ベース1の上端とケーシング2の上端の間に挟持されている。積層体の周囲はケーシング2で覆われている。
【0015】
回転円筒部32の周囲には、回転円筒部32の外周面に対向して固定円筒24が配設されている。固定円筒24の内周面には螺旋状溝が形成されており、回転円筒部32と固定円筒24との隙間が、上下方向のガス通路を形成している。これらの回転円筒部32および固定円筒24はモレキュラードラッグポンプ部を構成する。このようなターボ分子ポンプにおいて、ロータ3をモータ6により高速回転させると、ケーシング上端の吸気口8から流入したガス分子は、ターピン翼部およびモレキュラードラッグポンプ部の各ガス通路を経て、排気口9から排気される。このガス分子の流れにより吸気口8側が高真空状態となる。
【0016】
図2は回転体のみを示したものであり、回転体は、ロータ3、回転軸部3a、ロータディスク42および固定用ナット43により構成される。回転体のアンバランス修正を行う際には、図2に示すような横向きの姿勢で動釣合い試験装置(以下ではバランサと称する)に装着して不釣り合いの計測を行う。
【0017】
図3は、バランサ90の概略構成を模式的に示したブロック図である。軸受機構901a,901bにワークWを載置し、モータ902によりベルト903を駆動してワークWを回転すると、ワークWの不釣り合いに起因する振動が発生する。それらの振動は検出器904によりそれぞれ検出され、検出器904からはワークWの振動に応じた検出信号が出力される。それらの検出信号は、バランサ90に設けられた演算装置910にそれぞれ入力される。各検出信号は演算装置910に設けられた増幅器911により増幅された後に、演算回路912にそれぞれ入力される。演算回路912では、入力された検出信号に基づいてワークWのアンバランス量(不釣り合い量および不釣り合い位置)を演算する。アンバランス量は軸受機構901a,901b毎に算出される。算出されたアンバランス量は、演算装置910の表示部913に表示される。
【0018】
一般的に、回転体のアンバランス修正を行う場合には2面修正と呼ばれる方法が用いられ、回転軸方向の2カ所で不釣合いの修正が行われる。図2に示すような形状のロータ3の場合、符号A,Bで示す箇所(修正面)においてアンバランス修正が行われる。従来のアンバランス修正方法では、バランサで計測された不釣り合い量の大きい方向をドリル等で削るようにしている。そのため、精度の高い修正を行うのが難しく、修正とアンバランス測定とを何回か繰り返し行うことで、不釣り合い量が許容値以下となるように修正していた。
【0019】
そこで、本実施の形態では、不釣り合いの修正をより高精度に行うことで、アンバランス修正を繰り返し行うことなく不釣り合い量を許容値以下に収めるようにした。そのような修正方法として、本実施の形態では、放電を利用した表面処理により被膜を付加する方法を採用した。放電による表面処理方法としては、例えば、特開平7−89050号公報に記載の方法が知られている。
【0020】
図4は、放電により被膜を形成してアンバランスを修正する修正装置の、概略構成を示すブロック図である。図5は、放電表面処理による被膜形成方法の原理を説明する模式図である。まず、図5を参照して、被膜形成原理について説明する。この被膜形成方法においては、放電により電極101を消耗させて、電極材料を被加工物100に堆積して被膜を形成するようにしている。電極101は、ミクロンサイズの材料粒子を仮焼結して作成したC/B(Coating Block)からなる。仮焼結する粉末の材料は被膜の種類に応じて選ばれる。この放電表面処理では金属またはセラミックスの被膜を形成することができる。
【0021】
電極101の位置は、電極101と被加工物100との間が、数十μm程度の一定の隙間となるようにサーボ制御される。その隙間は、絶縁性の加工液(油)104によって満たされている。電極101と被加工物100との間に電圧を印加してパルス状の放電を発生させると、放電が発生した部分の電極101および被加工物100の表面は、放電の熱によって溶融する。電極101に形成された溶融域101aの材料101bは、被加工物100の溶融域100aに移動し、パルス放電が終了すると再凝固して被膜となる。このようなパルス状の放電は数十kHzで繰り返し発生され、厚さ数十μm〜数百μmの被膜が形成される。被膜の厚さは放電時間に応じて決まるので、放電時間を高精度に制御することで所望の厚さの被膜をミクロンオーダーで形成することができる。
【0022】
図4に示す修正装置110では、ロータ3へのアンバランス修正用の被膜形成は、加工液104が満たされた容器115内で行われる。電極101は支持部114によって容器115内に支持されている。電極101が設けられた支持部114は駆動部113により駆動され、電極101が移動される。電極101は支持部114を介して電源112に接続され、電源112の電圧は電極101とロータ3との間に印加される。
【0023】
修正装置110の制御部111には、バランサ90により計測された不釣り合い量と不釣り合い位置とが入力される。制御部111の演算回路111aは、入力された不釣り合い量および不釣り合い位置に基づいて、修正面A,Bにおける修正量(被膜形成位置、被膜形成量)を演算する。制御部111は、演算回路111aの演算結果に基づいて電源112の電圧印加時間および駆動装置113による電極101の移動を制御する。
【0024】
本実施の形態では、バランサによりアンバランスを計測し、その計測結果に基づいて、図4に示した修正装置110により被膜を形成してアンバランス修正を行うようにした。図6は、一連のアンバランス修正手順を説明するフローチャートである。ステップS10では、作業者は回転体をバランサ90に装着し、アンバランス測定を行う。ステップS20では、作業者は、バランサ90の表示部913に表示された不釣り合い量が、許容される基準値以下であるか否かを判定する。不釣り合い量が基準値以下であった場合にはアンバランス修正が必要ないので、アンバランス修正作業を終了する。
【0025】
一方、ステップS20において不釣り合い量が基準値より大きいと判定された場合には、ステップS30へ進む。ステップS30では、作業者は回転体を修正装置110に載せ替え、アンバランス測定の結果得られたアンバランス量(不釣り合い量および不釣り合い位置)を修正装置110に入力する。
【0026】
ステップS40では、修正装置110において、入力されたアンバランス量に基づく被膜形成範囲および放電時間が算出され、その算出結果に基づいて電極101が回転体の不釣り合い位置に移動され被膜形成動作が行われる。被膜は電極101と対向する面に形成されるので、被膜形成範囲に応じて電極101を移動させる。また、被膜の厚さは放電時間により制御される。図7は被膜が形成された回転体を示す図であり、ロータ3の内周面の2箇所の修正位置に、付加質量として被膜200a,200bが形成されている。ステップS40の処理が終了したならば、一連のアンバランス修正作業を終了させる。
【0027】
上述したように、作業者がドリルで回転体を削ってアンバランスを修正する場合には、修正精度にばらつきが生じやすい。そのため、1回の修正作業で許容値以下にならない場合が多く、測定作業および修正作業を何回か繰り返すのが一般的である。しかし、修正装置110によりアンバランス修正用の被膜を形成する場合には、被膜形成範囲や放電時間を制御することにより被膜量の制御を高精度(例えば、30mg程度のオーダーで)に行うことができるので、1回の修正作業で許容値以下に修正することが可能となる。その結果、アンバランス修正(測定作業+修正作業)に要する時間を短縮することができる。
【0028】
また、ターボ分子ポンプのロータ3は一般的にアルミ合金で形成されているため、腐食性ガスが使用される半導体製造装置に用いられるターボ分子ポンプでは、ロータ3の耐食性向上のために、ロータ表面にニッケルリン合金メッキ等による腐食防止皮膜が施される。そのため、アンバランス修正のためにロータ3の一部をドリル等で削除すると、腐食防止皮膜も削除されてアルミ合金の素地が露出してしまうことになる。
【0029】
一方、本実施の形態では、放電による表面処理により被膜を付加するようにしているので、ロータ3の耐食性能に影響を与えることがない。また、電極101の材料として耐食性の高い材料を選ぶことにより、被膜自体に耐食性を付与することができる。例えば、ステンレスやセラミックス等の被膜を形成する。
【0030】
−第2の実施の形態−
上述した第1の実施の形態では、バランサと修正装置とが別個の独立した装置として設けられ、装置間における回転体の載せ替えや修正装置へのデータの入力を作業者が手作業で行うようにしている。一方、以下に述べる第2の実施の形態では、バランサと修正装置とを一体化したアンバランス修正装置とし、アンバランスの測定からアンバランス修正までを自動的に行うことで、作業員による回転体の載せ替えやデータの入力等を行わなくても良いように省力化した。
【0031】
図8はアンバランス修正装置を模式的に示したブロック図である。アンバランス修正装置300は、アンバランスを計測する計測ユニット310と、アンバランスを修正する修正ユニット330と、ワークを計測ユニット310と修正ユニット330との間で搬送する搬送ユニット320と、制御装置340とを備えている。計測ユニット310は図3に示したバランサ90に対応しており、軸受機構901a,901b、検出器904および増幅器911を備えている。なお、ワークを回転させる装置(図3のモータ902,ベルト903)については、図示を省略した。
【0032】
修正ユニット330は図4に示した修正装置110に対応しており、電極101、駆動部113、支持部114および加工液104が満たされた容器115を備えている。搬送ユニット320には、例えばロボットアームが用いられる。制御装置340は計測ユニット310,搬送ユニット320および修正ユニット330を統括的に制御しており、制御部341,演算部342,表示部343および電源部344を備えている。
【0033】
計測ユニット310ではワークの不釣り合いに起因する振動が検出器904により検出され、検出器904の検出信号は増幅器911により増幅されて計測ユニット310から出力される。検出信号は制御装置340の演算部342に入力され、演算部342においてワークのアンバランス量(不釣り合い量および不釣り合い位置)が算出される。算出されたアンバランス量(不釣り合い量および不釣り合い位置)は、修正ユニット330による修正動作を制御するためのデータとして制御部341に入力される。また、算出結果は、表示部343に表示される。制御部341は、アンバランス量に基づいて電源部344および修正ユニット330の駆動部113を制御して、修正ユニット330によるロータ3へのアンバランス修正用被膜形成を行わせる。
【0034】
図9は、アンバランス修正装置300による修正動作手順を示したものであり、修正動作に関する制御プログラムは制御部341で実行される。ステップS110では、搬送ユニット320によりワーク(回転体)を計測ユニット310に搬送し、軸受機構901a,901b上にワークを装着する。ステップS120では、回転体のアンバランス計測を行う。計測結果は制御装置340の演算部342に入力される。ステップS130では、演算部342において、計測結果に基づくアンバランス量(不釣り合い位置および不釣り合い量)が算出される。ステップS140では、算出された不釣り合い量が基準値以下か否かを判定する。
【0035】
なお、演算部342は、軸受機構901a,901b毎に算出されたアンバランス量を、図2に示す修正面A,Bにおけるアンバランス量に変換し、その変換されたアンバランス量を制御部341に入力する。このアンバランス量(不釣り合い位置、不釣り合い量)および判定結果は表示部343に表示される。
【0036】
不釣り合い量が基準値以下であった場合には、ステップS140からステップS170へ進んで、ワークを搬出する。一方、不釣り合い量が基準値よりも大きかった場合には、ステップS150へ進み、搬送ユニット320を駆動してワークを計測ユニット310から修正ユニット330へ搬送し、容器115内にセットする。次いで、ステップS160において、修正ユニット330による修正作業、すなわち、ワーク(回転体)への被膜形成が行われる。ステップS160におけるアンバランス修正が終了したならば、ステップS170へと進んでワーク搬出が行われ、一連の処理が終了する。
【0037】
上述したように、第1,2の実施形態では、放電による金属表面処理方法を用いた被膜形成により重量を付加しているので、放電時間や被膜形成範囲を数値的に制御することができる。その結果、重量付加による不釣合い量の修正を高精度に行うことができ、作業効率の向上を図ることができる。さらに、放電による金属表面処理方法では、電極の材料を変更することで種々の被膜を形成することができ、例えば、比重の大きな金属の被膜を形成することで被膜の体積をより小さくでき、放電時間短縮による修正時間の短縮を図ることができる。また、耐食性のある被覆材料を選定することで、耐食性を劣らせることなく不釣合いを修正できるので.腐食による故障の危険性がなくなり,安全性が向上する。
【0038】
なお、上述した第1,2の実施形態では、被膜を形成して質量付加によりアンバランス修正をしたが、図10に示すようにロータ3の修正面A,Bに予め被膜500a,500bを形成しておき、不釣り合い量の大きい方の修正面の被膜500a,500bを削り取ってアンバランス修正を行うようにしても良い。この場合、予め付加した被膜500a,500bのみを削り取るので、従来のように耐腐食用に形成されているメッキ層が削り取られるのを防止することができる。
【0039】
さらに、第2の実施の形態では、計測ユニット310,搬送ユニット320および修正ユニット330を一体とし、アンバランス計測からアンバランス修正までを自動的に行うようにしたので、作業性の更なる向上を図ることができる。
【0040】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。例えば、ターボ分子ポンプの回転体に限らず、モレキュラードラッグポンプ等の回転体のアンバランス修正にも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:ベース、2:ケーシング、3:ロータ、90:バランサ、101:電極、110:修正装置、113:駆動部、200a,200b、500a、500b:被膜、300:アンバランス修正装置、310:計測ユニット、320:搬送ユニット、330:修正ユニット、340:制御装置、T:ポンプ本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被膜材料を含む電極の一部を放電により溶融して回転体に堆積させ、真空ポンプの回転体のアンバランスを修正するアンバランス修正方法であって、
前記回転体の動的不釣り合いを測定するアンバランス測定工程と、
測定された前記動的不釣合いに基づいて前記放電の時間および前記回転体に対する前記電極の移動範囲を制御して、前記被膜材料から成るアンバランス修正用被膜を前記回転体に形成する被膜形成工程と、を有することを特徴とするアンバランス修正方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアンバランス修正方法により前記アンバランス修正用被膜が形成された回転体を備える真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記回転体には耐腐食性被膜が予め形成されており、前記耐腐食性被膜の上に耐腐食性の前記アンバランス修正用被膜が形成されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項4】
回転体の動的不釣合いを測定するアンバランス測定ユニットと、
被膜材料を含む電極の前記回転体に対して移動させつつ放電を行い、前記電極の一部を放電により溶融して前記回転体に堆積させることによりアンバランス修正用被膜を形成する放電表面処理ユニットと、
前記アンバランス測定ユニットから前記放電表面処理ユニットへ前記回転体を搬送する搬送ユニットと、
前記アンバランス測定ユニットおよび前記搬送ユニットを制御して、前記動的不釣合いの測定および前記回転体の搬送を行わせるとともに、前記アンバランス測定ユニットで測定された動的不釣合いに基づいて、前記放電表面処理ユニットにおける放電時間および前記電極の移動を制御する制御ユニットと、を備えたことを特徴とする真空ポンプ用回転体のアンバランス修正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−12611(P2011−12611A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158107(P2009−158107)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】