説明

回転体及びロッカーアーム

【課題】回転抵抗の低減、及び、部品数の削減が可能となる回転体及びロッカーアームを提供する。
【解決手段】ローラ軸4を有しているロッカーアーム本体2と、ローラ軸4の中心線C回りに回転する回転体7とを備えている。回転体7は、ローラ軸4にすべり接触する径方向内側のすべり軸受部12と、このすべり軸受部12と一体回転する径方向外側のローラ本体部11とを有している。すべり軸受部12の内周面13に、回転体7が回転した際に、すべり軸受部12の内周面13とローラ軸4の外周面9との間で潤滑油による動圧を生じさせるラジアル動圧発生溝15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体及び回転体を備えたロッカーアームに関する。
【背景技術】
【0002】
軸に対して回転する回転体を備えた部品として、例えば、エンジンのバルブ開閉機構に用いられるロッカーアームがある(例えば、特許文献1参照)。ロッカーアームは、エンジンのシリンダヘッドに設けられた吸気用(又は排気用)のバルブを、カムの回転によって開閉するために、カムとバルブとの間に設けられている。
このようなロッカーアームは、ロッカーアーム本体と、ロッカーアーム本体を揺動可能に支持する支持軸と、ロッカーアーム本体に取り付けられカムに接触するローラ(回転体)とを備えている。ロッカーアーム本体は、一対の対向する壁と、これら壁間にわたって設けられ前記ローラを支持するローラ軸とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−56928号公報(図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このロッカーアームでは、カムの回転に伴って前記ローラは高速で回転することから、ローラとローラ軸との間における回転抵抗を低減するのが望ましい。そこで、従来では、ローラとローラ軸との間に複数のニードル(針状ころ)を設けることにより転がり軸受部を構成したロッカーアームが広く用いられている。
【0005】
この転がり軸受部を備えているロッカーアームの場合、ローラ軸に対するローラの回転抵抗を低減することが可能となる反面、複数のニードルが必要となって部品数が多くなる他に、各ニードルは高い寸法精度が要求されることから、コスト高となるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明は、回転抵抗を低減することが可能でありながら、部品数を削減することが可能となる回転体、及び、この回転体を備えたロッカーアームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のロッカーアームは、ローラ軸を有しているロッカーアーム本体と、前記ローラ軸の中心線回りに回転する回転体とを備え、前記回転体は、前記ローラ軸にすべり接触する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部とを有し、前記すべり軸受部の内周面又は前記ローラ軸の外周面に、前記回転体が回転した際に、前記すべり軸受部の内周面と前記ローラ軸の外周面との間で潤滑油による動圧を生じさせるラジアル動圧発生溝が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、回転体がローラ軸の中心線回りに回転すると、すべり軸受部の内周面とローラ軸の外周面との間において、潤滑油の動圧による油膜圧力が効率良く生じ、当該回転体は支持される。このため、従来のようなニードルを有する転がり軸受部を有していなくても、ローラ軸に対する回転体の回転抵抗を低減することが可能となり、また、ニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。
【0009】
また、前記すべり軸受部の側周面には、前記回転体が回転した際に、当該側周面側に存在している潤滑油を、当該すべり軸受部の内周面側へと誘導する誘導溝が複数形成されているのが好ましい。
この場合、回転体の周囲において潤滑油が少ない環境であっても、回転体が回転すると、すべり軸受部の側周面側に存在している潤滑油を、すべり軸受部とローラ軸との間に供給することが可能となり、前記油膜圧力の発生に貢献することができる。
【0010】
また、前記ラジアル動圧発生溝は、前記誘導溝と同数であって周方向に間隔をあけて前記すべり軸受部の内周面に形成されたV字状の溝からなるV溝列によって構成され、前記V字状の溝の軸方向端部と前記誘導溝の径方向内側端部とが、周方向について同じ位相で設けられているのが好ましい。
この場合、回転体が回転した際に、すべり軸受部の側周面側に存在している潤滑油が、前記誘導溝によってすべり軸受部の内周面側へと供給されると、その供給された潤滑油をV字状の溝に取り入れやすくすることができる。
【0011】
また、前記すべり軸受部の軸方向幅は、前記ローラ本体部の軸方向幅よりも大きいのが好ましい。
この場合、回転体の軸方向両側にロッカーアーム本体の壁があっても、当該壁と接触する部分は、すべり軸受部の側周面のみとすることが可能となり、回転体と壁との接触面積を減らすことで回転抵抗をさらに低減することができる。
【0012】
また、前記ラジアル動圧発生溝が形成されている面に、当該ラジアル動圧発生溝と交差し周方向に連続している周方向溝が形成されているのが好ましい。
この場合、回転体が静止した状態で、すべり軸受部とローラ軸との間に存在していた潤滑油を、周方向溝に溜めておくことができ、再び回転体が回転を開始した際に、この溜めておいた潤滑油を用いることが可能となる。したがって、潤滑油が少ない環境においても、すべり軸受部とローラ軸との間において潤滑油不足となるのを防ぐことが可能となる。
【0013】
また、前記ラジアル動圧発生溝は、周方向に間隔をあけて前記すべり軸受部の内周面に形成された複数のV字状の溝からなるV溝列によって構成され、当該V溝列は、少なくとも2列設けられ、軸方向両側にある前記V溝列における前記V字状の溝それぞれは、軸方向外側に位置し周方向一方へ向かって延びる第1溝部と、当該第1溝から周方向他方へ折り返して延び軸方向中央側に位置している第2溝部とを有し、前記第1溝部は前記第2溝部よりも長く構成されているのが好ましい。
この場合、軸方向両側にあるV溝列におけるV字状の溝それぞれにおいて、軸方向外側に位置している第1溝部が長く構成されていることから、すべり軸受部とローラ軸との間の潤滑油が、当該第1溝部を通じて外部へ排出されにくくなり、すべり軸受部とローラ軸との間で潤滑油が保持される。
【0014】
また、前記ロッカーアーム本体は、前記回転体を隙間をあけて軸方向に挟んでいると共に、前記ローラ軸を両端支持している一対の対向する壁を有し、前記すべり軸受部の側周面には、前記回転体が回転した際に、前記壁との間の隙間において、潤滑油による動圧を生じさせるスラスト動圧発生溝が形成されているのが好ましい。
この場合、すべり軸受部の内周面とローラ軸の外周面との間では、上記のとおり、前記ラジアル動圧発生溝により、回転抵抗を低減することが可能となり、そして、すべり軸受部の側周面とロッカーアーム本体の壁との間では、スラスト動圧発生溝により、潤滑油の動圧による油膜圧力を生じさせ、回転抵抗を低減することが可能となる。
【0015】
また、前記すべり軸受部の内周面と側周面とのうちの少なくとも一方に、ダイヤモンドライクカーボンによる薄膜が形成されているのが好ましい。
潤滑油によって回転体が潤滑される場合であっても、回転始動時の回転数が小さい状態では、潤滑油による油膜が形成されにくく、摩擦抵抗が大きい状態となるが、すべり軸受部にダイヤモンドライクカーボンによる薄膜が形成されることによって、回転始動時においても、摩擦抵抗を低減することが可能となる。
【0016】
また、本発明の回転体は、ローラ軸にすべり接触して当該ローラ軸の中心線回りに回転する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部とを備え、前記すべり軸受部の内周面に、当該すべり軸受部が回転した際に、前記ローラ軸の外周面との間で潤滑油による動圧を生じさせるラジアル動圧発生溝が形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、回転体がローラ軸の中心線回りに回転すると、ローラ軸の外周面とすべり軸受部の内周面との間において、潤滑油の動圧による油膜圧力が効率良く生じ、当該回転体は支持される。このため、従来のようなニードルを有する転がり軸受部を有していなくても、ローラ軸に対する回転抵抗を低減することが可能となり、また、ニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。
【0018】
また、本発明の回転体は、ローラ軸にすべり接触して当該ローラ軸の中心線回りに回転する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部とを備え、前記すべり軸受部の側周面には、当該すべり軸受部が回転した際に、当該側周面側に存在している潤滑油を、当該すべり軸受部の内周面側へと誘導する誘導溝が複数形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、回転体がローラ軸の中心線回りに回転すると、すべり軸受部の側周面側に存在している潤滑油を、すべり軸受部とローラ軸との間に供給することが可能となり、この潤滑油の動圧により、ローラ軸の外周面とすべり軸受部の内周面との間に油膜圧力が生じて、当該回転体が支持される。このため、従来のようなニードルを有する転がり軸受部を有していなくても、回転体のローラ軸に対する回転抵抗を低減することが可能となり、また、ニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の回転体によれば、従来のようなニードルを有する転がり軸受部を有していなくても、ローラ軸に対する回転抵抗を低減することが可能となり、また、ニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。
また、本発明のロッカーアームによれば、回転体において、ローラ軸に対する回転抵抗を低減することが可能となり、また、部品点数を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のロッカーアームの実施の一形態を示す側面図である。
【図2】ロッカーアームの断面図であり、図1のII−II矢視の断面図である。
【図3】回転体の斜視図である。
【図4】展開した状態のすべり軸受部の内周面の説明図である。
【図5】すべり軸受部の側面図である。
【図6】すべり軸受部の一部を示す拡大図であり、図5のA部を示した図である。
【図7】回転体(すべり軸受部)の変形例を説明する側面図である。
【図8】本発明の回転体の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のロッカーアームの実施の一形態を示す側面図である。このロッカーアーム1は、自動車のエンジンのバルブ開閉機構に用いられるものであり、カム(図示せず)の回転によってエンジンのシリンダヘッドに設けられた吸気用(又は排気用)のバルブ(図示せず)を開閉するために、カムとバルブとの間に設けられる。
【0023】
図2は、ロッカーアーム1の断面図である。図1と図2とにおいて、このロッカーアーム1は、ロッカーアーム本体2と、このロッカーアーム本体2を揺動可能に支持する支持軸3と、回転体7とを備えている。
ロッカーアーム本体2は、図2に示しているように、一対の対向する壁5,6と、これら壁5,6間にわたって設けられているローラ軸4とを有している。壁5,6は、回転体7を隙間をあけて軸方向に挟んでいると共に、ローラ軸4を両端支持している。本実施形態では、ローラ軸4は、壁5,6に固定した状態にあり、回転しない。
【0024】
ローラ軸4は、ロッカーアーム本体2の長手方向一方側(図1では左側)に設けられており、回転体7は、このローラ軸4の中心線C回りに回転自在である。そして、この回転体7に、エンジンの駆動によって回転するカム(図示せず)が接触し、このカムの回転によって回転体7は一方向に高速で回転する。この回転体7には、スラスト荷重よりも大きなラジアル荷重が作用する。
そして、ロッカーアーム本体2の長手方向他方側(図1では右側)には、エンジンのバルブ開閉機構のバルブ(図示せず)と接触する接触部8が設けられている。
前記支持軸3は、ロッカーアーム本体2の長手方向中央部に設けられている。
【0025】
図2において、本実施形態のローラ軸4は、中空軸であって図外の管路と繋がっており、内部に潤滑油が流れる。また、このローラ軸4の管壁には、貫通孔4aが形成されており、内部の潤滑油が回転体7とローラ軸4との間に供給される。
【0026】
また、本発明の回転体7は、ロッカーアーム1が備えたものであることから、潤滑油に浸された環境で用いられるものではない。つまり、例えば潤滑油が容器内に封入された軸受装置内で用いられるものではなく、エンジンのバルブ開閉機構室などの空間に設置されて用いられるものである。このように、回転体7及びロッカーアーム1は、大気中に露出した状態で用いられるものであり、前記ローラ軸4の内部からの給油と共に、周囲から降りかかる潤滑油によって潤滑が行われる外部潤滑型式のものである。なお、ローラ軸4の内部からの給油は無くてもよい。
【0027】
図2において、一対の対向する壁(側壁)5,6間に位置して回転体7は、ローラ軸4に隙間を有して外嵌している径方向内側のすべり軸受部12と、径方向外側のローラ本体部11とを備えている。そして、すべり軸受部12が、壁5,6間にわたって設けられているローラ軸4にすべり接触し、ローラ本体部11が前記カム(図示せず)と接触する。 また、本実施形態では、ローラ本体部11とすべり軸受部12とは別部材から構成されており、環状のすべり軸受12が環状のローラ本体部11の内周面に嵌合している。すべり軸受12とローラ本体部11とは締め代を有した状態で嵌合して固定されており、すべり軸受部12とローラ本体部11とはローラ軸4の中心線C回りに一体回転する。
【0028】
さらに、本実施形態では、すべり軸受部12の軸方向幅Bは、ローラ本体部11の軸方向幅bよりも大きく設定されており、軸方向両側において、すべり軸受部12の側周面14は、ローラ本体部11の側周面19よりも軸方向外側へ突出している。
したがって、回転体7のうち壁5(6)と接触する部分は、すべり軸受部12の側周面14のみとなり、回転体7と壁5(6)との接触面積を減らすことで回転抵抗(回転摩擦抵抗)を低減することができる。
【0029】
ローラ本体部11は、例えば、アルミニウム合金製、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)等の鋼材からなる。すべり軸受部12は、アルミニウム合金製、樹脂製とすることができ、この場合、加工性が良く精度の高い加工(後に説明する溝の加工)が可能となる。
図3は、回転体7の斜視図であり、ローラ本体部11を二点鎖線(仮想線)で示し、すべり軸受部12を実線で示している。すべり軸受部12の、内周側及び外周側の軸方向角部は、面取りがされており、内周側の面取り部を符号25で示している。
【0030】
すべり軸受部12の内周面13には、ラジアル動圧発生溝15が形成されている。ラジアル動圧発生溝15は、すべり軸受部12がローラ本体部11と一体回転した際に、ローラ軸4の外周面9(図2参照)との間(隙間)で潤滑油による動圧を生じさせる機能を有している。なお、回転体7の回転方向は一方向であり、図3では矢印Rの方向が回転方向となる。
【0031】
ラジアル動圧発生溝15は、周方向に間隔をあけて形成された複数のV字状の溝(へリングボーン溝)16からなるV溝列によって構成されており、本実施形態では、このV溝列は、すべり軸受部12の内周面13に、軸方向に並んで、3列設けられている。V字状の溝16の断面は凹形であり、溝16は凹溝である。図4は、すべり軸受部12の内周面13の説明図であり、すべり軸受部12を展開した状態として示している。
【0032】
V字状の溝16それぞれは、周方向一方(回転方向Rと反対の方向)へ向かって延びる第1溝部21と、この第1溝21から周方向他方(回転方向R)へ折り返している第2溝部22とを有している。第1溝21と第2溝22とは、図4のように展開した状態で、直線的に形成されており、丸みを有して折り返し形状である折り返し溝23を介して連続している。周方向で隣り合う折り返し溝23を結ぶ周方向の仮想線をLとすると、この仮想線Lに対する、第1溝21の角度θ1と、第2溝22の角度θ2とは同じである。
【0033】
このラジアル動圧発生溝15によれば、回転体7がローラ軸4の中心線C回りに回転すると、各V字状の溝16のポンピング作用によって、潤滑油が、すべり軸受部12の内周面13とローラ軸4の外周面9との隙間(すべり軸受隙間)に保持され、これらの間において、潤滑油の動圧によって油膜圧力(ラジアル動圧)が効率良く生じ、回転体7は支持される。このため、ローラ軸4に対する回転体7の回転抵抗(回転摩擦抵抗)を低減することが可能となる。なお、潤滑油は、ポンピング作用によって前記仮想線Lに沿った領域において特に保持される。
【0034】
3列のラジアル動圧発生溝15(V溝列)のうち、中央のラジアル動圧発生溝15(V溝列)では、第1溝21と第2溝22とは同じ長さである。
しかし、軸方向両側にあるラジアル動圧発生溝15(V溝列)それぞれでは、軸方向外側に位置する第1溝部21と、軸方向中央側に位置する第2溝部22とでは、溝長さが異なっており、第1溝部21は第2溝部22よりも長く構成されている(図4においてX1>X2)。
第1溝部21は、内周面13の軸方向端部13a(13b)から周方向一方(回転方向Rと反対の方向)へ向かって延びている部分であり、第2溝部22は、この第1溝21から周方向他方(回転方向R)へ折り返し内周面13の軸方向中央側へ延びている部分である。
【0035】
すなわち、図4に示しているように、軸方向両側にあるラジアル動圧発生溝15(V溝列)は、軸方向中央側に偏って設けられている。このようにラジアル動圧発生溝15を中央側に偏って設けることにより、V字状の溝16それぞれにおいて、潤滑油が第1溝部21を通じて軸方向外側へ(外部へ)排出されにくくなる。この結果、潤滑油が少ない環境でロッカーアーム1が使用される場合であっても、潤滑油がローラ軸4とすべり軸受部12との間で保たれる。
【0036】
また、このすべり軸受部12の内周面13には、周方向に連続している周方向溝17,18が形成されている。周方向溝17,18それぞれは、ラジアル動圧発生溝15(V字状の溝16)の端部と交差しており、V字状の溝16の溝同士、及び、V字状の溝16と周方向溝17(18)とが繋がっている。言い換えると、軸方向で隣り合うV字状の溝16,16同士は、周方向溝17(又は18)を介して繋がっている。このため、周方向溝17(18)とV字状の溝16との間を、潤滑油は流れることが可能となる。
【0037】
この周方向溝17,18によれば、回転体7が静止した状態で、すべり軸受部12とローラ軸4との間に残った潤滑油を、周方向溝17,18で溜めておくことができる。このため、再び回転体7が回転を開始した際に、この溜めておいた潤滑油を潤滑に用いることが可能となる。したがって、潤滑油が少ない環境においても、すべり軸受部12とローラ軸4との間において潤滑油不足となるのを防ぐことが可能となる。
【0038】
図5は、すべり軸受部12の側面図である。図3と図5とに示しているように、すべり軸受部12の軸方向両側の側周面14,14それぞれには、誘導溝31が複数形成されている。誘導溝31は周方向で等間隔に形成されており、誘導溝31それぞれは、側周面14の径方向外側から径方向内側へ連続した凹溝である。誘導溝31は、径方向外側から内側に進むにつれて反回転方向(矢印Rの回転方向と反対の方向)に向かう溝として形成されている。
【0039】
したがって、回転体7が矢印R方向に回転した際に、これら誘導溝31によって、側周面14と、図2に示している壁5(6)の内側面5a(6a)との間(隙間)に介在している潤滑油が、回転によって誘導溝31に沿って流れ、誘導溝31を伝ってすべり軸受部12の内周面13側へと流れることができる。つまり、誘導溝31は、潤滑油をすべり軸受部12の内周面13側へと誘導する機能を有している。
このため、回転体7の周囲において潤滑油が少ない環境であっても、すべり軸受部12の内周面13において潤滑油を確保させることができ、前記ラジアル動圧発生溝15による油膜圧力(ラジアル動圧)の発生に貢献することができる。
【0040】
また、上記のとおり、すべり軸受部12の内周面13に形成されているラジアル動圧発生溝15は、周方向に間隔をあけて形成されたV字状の溝16からなるV溝列によって構成されている。そして、本実施形態では、このV字状の溝16と誘導溝31とは同数であり、図6に示しているように、一つのV字状の溝16の軸方向端部16aと、一つの誘導溝31の径方向内側端部31aとは、周方向について同じ位相で設けられている。
そして、これら軸方向端部16aと径方向内側端部31aとは、前記面取り部25に位置しており、両者は接近した配置にある。
【0041】
このため、回転体7が矢印R方向(図3参照)に回転した際に、すべり軸受部12の側周面14とロッカーアーム本体2の前記壁5(6)と間に介在している潤滑油が、誘導溝31によって、すべり軸受部12の内周面13側へと供給されると、この供給された潤滑油をV字状の溝16に取り入れやすくすることができる。
したがって、すべり軸受部12とローラ軸4との間に潤滑油が少ない環境であっても、すべり軸受部12と壁5(6)との間に介在していた潤滑油を、すべり軸受部12とローラ軸4との間に効率良く供給することが可能となる。この結果、V字状の溝16に潤滑油が取り入れられ、取り入れられた潤滑油の動圧によって油膜圧力(ラジアル動圧)を発生させ、ローラ本体部11を支持することが可能となる。
【0042】
図7は、回転体7のすべり軸受部12の変形例を説明する側面図である。このすべり軸受部12では、その軸方向両側の側周面14,14それぞれに、前記誘導溝31の他に、スラスト動圧発生溝32が形成されている。なお、この図7のすべり軸受部12は、側周面14の溝形態が異なる他は、前記実施形態に係るすべり軸受12と同じであり、その説明を省略する。
【0043】
スラスト動圧発生溝32は、周方向に間隔をあけて形成された複数のV字状の溝(へリングボーン溝)33からなるV溝列によって構成され、これら溝33は、同心円に沿って形成されている。そして、誘導溝31とV字状の溝33とが、周方向で交互に形成されている。
このスラスト動圧発生溝32は、回転体7が回転した際に、図2に示した壁5(6)の内側面5a(6a)との間の隙間で、潤滑油による動圧(スラスト動圧)を生じさせる機能を有している。
【0044】
つまり、各V字状の溝33のポンピング作用によって、潤滑油(の一部)が、すべり軸受部12の側周面14と前記壁5(6)との隙間に保持され、これらの間において、潤滑油の動圧によって油膜圧力(スラスト動圧)が効率良く生じて、回転体7は支持される。このため、ロッカーアーム本体2に対する回転体7の回転抵抗(回転摩擦抵抗)を低減することが可能となる。
【0045】
この図7の実施形態によれば、すべり軸受部12の内周面13とローラ軸4の外周面9との間では、当該内周面13に形成されたラジアル動圧発生溝15により、回転抵抗を低減することが可能となり、さらに、すべり軸受部12の側周面14と壁5(6)との間では、当該側周面14に形成されたスラスト動圧発生溝32により、回転抵抗を低減することが可能となる。
なお、従来のロッカーアームの場合、ロッカーアーム本体が有する一対の対向する壁(壁)と、回転体(ローラ)との間における摩耗を抑制するために、スラストワッシャーを設けている。この場合、部品数が多くなり、コスト高となるという問題点がある。しかし、前記スラスト動圧発生溝32によれば、スラストワッシャーを不要とすることが可能となる。
【0046】
以上の前記各実施形態に係るロッカーアーム1によれば、回転体7が中心線C回りに回転すると、ラジアル動圧発生溝15によって、ローラ軸4の外周面9とすべり軸受部12の内周面13との間に潤滑油の動圧によって油膜圧力が生じて、回転体7はローラ軸4に支持される。このため、従来のようなニードル(針状ころ)を有する転がり軸受部を有していなくても、回転体7とローラ軸4との間の回転抵抗を低減することが可能となり、また、従来のようなニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。この結果、ロッカーアーム1は、長寿命でありながら、低コストとすることができる。
【0047】
図8は、回転体の他の実施形態を示す斜視図である。この回転体107は、前記各実施形態と同様に、(図2を参考にして説明すると)ローラ軸4にすべり接触して当該ローラ軸4の中心線C回りに回転する径方向内側のすべり軸受部112と、このすべり軸受部112と一体回転する径方向外側のローラ本体部111とを有している。
そして、図8のすべり軸受部112は、前記実施形態(図3)のすべり軸受部12と比べると、内周面113の形態が異なるが、それ以外は同じである。同じ点については、図8に示すすべり軸受部112にそのまま適用される。
【0048】
また、図8のすべり軸受部112の径方向外側に位置するローラ本体部111についても、前記実施形態(図3)と同じである。そして、この回転体107においても、図1と図2とに示すロッカーアーム1に組み入れることができる。
【0049】
図8に示す回転体107では、すべり軸受部112の側周面114に、誘導溝131が複数形成されている。誘導溝131は、回転体107が回転した際に、側周面114とロッカーアーム本体2(図2参照)の壁5(6)との間に介在している潤滑油を、すべり軸受部112の内周面113側へと誘導する機能を有している。
【0050】
誘導溝131は周方向で等間隔に形成されており、誘導溝131それぞれは、側周面114の径方向外側から径方向内側へ連続した凹溝である。誘導溝131は、径方向外側から内側に進むにつれて反回転方向に向かう溝として形成されている。
なお、この誘導溝131の形状及び機能は、前記実施形態における誘導溝31(図3及び図5参照)と同じである。
【0051】
このすべり軸受部112を有する回転体107によれば、ローラ軸4の中心線C回りに回転すると、すべり軸受部112と壁5(6)との間に介在している潤滑油が、回転によって誘導溝131に沿って流れ、誘導溝131を伝ってすべり軸受部112の内周面113側へと流れることができる。
このため、回転体7の周囲において潤滑油が少ない環境であっても、潤滑油をできるだけすべり軸受部112とローラ軸4との間に供給することが可能となり、この供給された潤滑油の動圧によって、ローラ軸4の外周面9とすべり軸受部112の内周面113との間において、油膜圧力を生じさせ、当該回転体107は支持される。
このため、従来のようなニードルを有する転がり軸受部を有していなくても、ローラ軸4に対する回転体107の回転抵抗を低減することが可能となり、また、従来のようなニードルが不要であることから、部品点数を削減することが可能となる。
【0052】
また、図8に示したすべり軸受部112においても、図7に示した実施形態と同様に、周方向で隣り合う誘導溝131の間にV字状の溝を形成し、このV字状の溝によってスラスト動圧発生溝が形成されていてもよい。この場合、すべり軸受部112の側周面114と壁5(6)との間では、当該側周面114に形成されたスラスト動圧発生溝により、壁5(6)に対する回転抵抗を低減することが可能となる。
【0053】
また、前記各実施形態において、(図3を代表して説明すると)すべり軸受部12の内周面13と側周面14とのうちの少なくとも一方は、その素材の表面よりも摩擦抵抗を小さくする表面処理を施したものであってもよい。たとえば、表面処理として、めっきやコーティングがあり、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)による薄膜を形成するのが好ましい。
回転体7が静止している場合、及び、回転始動時の回転数が小さい場合、ローラ軸4の外周面9とすべり軸受部12の内周面13との間には、潤滑油による油膜が形成されにくく、摩擦抵抗が大きい状態となる。しかし、すべり軸受部12の内周面13にこのような表面処理を行うことによって、回転始動時においても、摩擦抵抗を低減することが可能となり、耐摩耗性が向上する。また、すべり軸受部12の側周面14に表面処理を行うと、ロッカーアーム本体2の壁5,6との間における摩擦抵抗を低減することが可能となり、耐摩耗性が向上する。
この結果、ロッカーアーム1の寿命の向上に貢献することができる。
【0054】
また、本発明の回転体7(107)、及び、この回転体7(107)を備えたロッカーアーム1は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
前記実施形態では(図3を代表して説明すると)、ローラ本体部11とすべり軸受部12とが別部材から構成されている場合を説明した。つまり、すべり軸受部12をブッシュとしてローラ本体部11に圧入して回転体7を得た構成である。しかし、ローラ本体部11とすべり軸受部12とを単一の素材から製造してもよく、同一素材からなる回転体であってもよい。
【0055】
また、前記実施形態では、図3の場合、ラジアル動圧発生溝15は、周方向に間隔をあけて形成された複数のV字状の溝16からなるV溝列によって構成され、当該V溝列は、すべり軸受部12の内周面13に3列設けられた場合を説明したが、その列数に制限がなく、少なくとも2列設けられるのが好ましい。
【0056】
また、図1に示したロッカーアーム本体2は、その他の形状であってもよい。図1では、ロッカーアーム本体2の長手方向一方側(左側)から、回転体7、支持軸3及び接触部8が配置されているが、これに限らず、図示しないが、長手方向一方側から、支持軸3、回転体7及び接触部8の順であってもよい。
【0057】
さらに、回転体7(107)は、ロッカーアーム1以外にも適用することができ、ローラ軸の周りをすべり接触して回転する機器(部品)に適用することができる。特に、回転体は、一対の対向する壁の間に位置し、これら壁間に設けられているローラ軸回りに回転する機器(部品)に適用することができる。
【0058】
また、前記実施形態のロッカーアーム1では、ラジアル動圧発生溝15が、すべり軸受部12の内周面13に形成されている場合を説明したが、このラジアル動圧発生溝15を、ローラ軸4の外周面9に形成してもよい。この場合、図4に示した内周面13における溝構造を、そのまま、ローラ軸4の外周面9に適用すればよい。
【符号の説明】
【0059】
1 ロッカーアーム
2 ロッカーアーム本体
3 支持軸
4 ローラ軸
5,6 壁
7,107 回転体
9 ローラ軸の外周面
11,111 ローラ本体部
12,112 すべり軸受部
13,113 内周面
13a,13b 内周面の軸方向端部
14,114 側周面
15 ラジアル動圧発生溝
16 V字状の溝
16a 軸方向端部
17,18 周方向溝
21 第1溝部
22 第2溝部
31,131 誘導溝
31a 径方向内側端部
32 スラスト動圧発生溝
B すべり軸受の軸方向幅
b ローラ本体部の軸方向幅
C ローラ軸の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ軸を有しているロッカーアーム本体と、前記ローラ軸の中心線回りに回転する回転体と、を備え、
前記回転体は、前記ローラ軸にすべり接触する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部と、を有し、
前記すべり軸受部の内周面又は前記ローラ軸の外周面に、前記回転体が回転した際に、前記すべり軸受部の内周面と前記ローラ軸の外周面との間で潤滑油による動圧を生じさせるラジアル動圧発生溝が形成されていることを特徴とするロッカーアーム。
【請求項2】
前記すべり軸受部の側周面には、前記回転体が回転した際に、当該側周面側に存在している潤滑油を、当該すべり軸受部の内周面側へと誘導する誘導溝が複数形成されている請求項1に記載のロッカーアーム。
【請求項3】
前記ラジアル動圧発生溝は、前記誘導溝と同数であって周方向に間隔をあけて前記すべり軸受部の内周面に形成されたV字状の溝からなるV溝列によって構成され、
前記V字状の溝の軸方向端部と前記誘導溝の径方向内側端部とが、周方向について同じ位相で設けられている請求項2に記載のロッカーアーム。
【請求項4】
前記すべり軸受部の軸方向幅は、前記ローラ本体部の軸方向幅よりも大きい請求項1〜3のいずれか一項に記載のロッカーアーム。
【請求項5】
前記ラジアル動圧発生溝が形成されている面に、当該ラジアル動圧発生溝と交差し周方向に連続している周方向溝が形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載のロッカーアーム。
【請求項6】
前記ラジアル動圧発生溝は、周方向に間隔をあけて前記すべり軸受部の内周面に形成された複数のV字状の溝からなるV溝列によって構成され、当該V溝列は、少なくとも2列設けられ、
軸方向両側にある前記V溝列における前記V字状の溝それぞれは、軸方向外側に位置し周方向一方へ向かって延びる第1溝部と、当該第1溝から周方向他方へ折り返して延び軸方向中央側に位置している第2溝部と、を有し、
前記第1溝部は前記第2溝部よりも長く構成されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のロッカーアーム。
【請求項7】
前記ロッカーアーム本体は、前記回転体を隙間をあけて軸方向に挟んでいると共に、前記ローラ軸を両端支持している一対の対向する壁を有し、
前記すべり軸受部の側周面には、前記回転体が回転した際に、前記壁との間の隙間において、潤滑油による動圧を生じさせるスラスト動圧発生溝が形成されている請求項1〜6のいずれか一項に記載のロッカーアーム。
【請求項8】
前記すべり軸受部の内周面と側周面とのうちの少なくとも一方に、ダイヤモンドライクカーボンによる薄膜が形成されている請求項1〜7のいずれか一項に記載のロッカーアーム。
【請求項9】
ローラ軸にすべり接触して当該ローラ軸の中心線回りに回転する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部と、を備え、
前記すべり軸受部の内周面に、当該すべり軸受部が回転した際に、前記ローラ軸の外周面との間で潤滑油による動圧を生じさせるラジアル動圧発生溝が形成されていることを特徴とする回転体。
【請求項10】
ローラ軸にすべり接触して当該ローラ軸の中心線回りに回転する径方向内側のすべり軸受部と、当該すべり軸受部と一体回転する径方向外側のローラ本体部と、を備え、
前記すべり軸受部の側周面には、当該すべり軸受部が回転した際に、当該側周面側に存在している潤滑油を、当該すべり軸受部の内周面側へと誘導する誘導溝が複数形成されていることを特徴とする回転体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−241774(P2012−241774A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111276(P2011−111276)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(390003665)株式会社日進製作所 (32)
【Fターム(参考)】