回転電機制御装置
【課題】可変磁束型の回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することを可能としつつ、界磁調整のためのロータ間位相の調整量を少なく抑えることができる技術を提供する。
【解決手段】第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置を示す位相指令γ*が、目標トルクT*及び回転速度ωに応じて規定された位相マップ70として、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された位相範囲内で位相指令γ*が規定された低回転速度域位相マップ7Lと、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された位相範囲内で位相指令γ*が規定された高回転速度域位相マップ7Hとを有する。相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えて参照し、位相指令γ*を決定して、相対位置を調整する。
【解決手段】第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置を示す位相指令γ*が、目標トルクT*及び回転速度ωに応じて規定された位相マップ70として、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された位相範囲内で位相指令γ*が規定された低回転速度域位相マップ7Lと、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された位相範囲内で位相指令γ*が規定された高回転速度域位相マップ7Hとを有する。相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えて参照し、位相指令γ*を決定して、相対位置を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、当該ロータユニットに備えられた永久磁石により生じてステータコイルに鎖交する界磁磁束を、相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、永久磁石型の回転電機(PMSM:permanent magnet synchronous motor)が広く用いられている。PMSMでは、通常、永久磁石はロータコアに固定されているため、ロータから発生する磁束は一定である。このため、PMSMでは、ロータの回転速度が上昇するに従ってステータコイルに発生する誘起電圧が高くなるが、この誘起電圧が駆動電圧を超えないように制御する必要がある。このため、ある回転速度以上では、トルクに寄与しない電流をステータコイルに流して永久磁石からの磁束を相殺し、ロータからの磁界を実質的に弱める弱め界磁制御が行われる。但し、弱め界磁制御を行うと回転電機から出力されるトルクに対してステータコイルに流れる電流が大きくなるため、銅損が大きくなり効率が低下する。また、永久磁石からステータに到達する磁束が一定のままでは、ロータの回転速度が高い領域において、ステータコアに生じる鉄損も大きくなり効率が低下する。そこで、ロータが備える永久磁石からステータに到達する磁束をロータの回転速度に応じて変化させる可変磁束型の回転電機が提案されている。特開2007−159219号公報(特許文献1)には、同軸に配置された内周側ロータ(11)、外周側ロータ(12)、遊星歯車機構(14)とにより構成した可変磁束型の回転電機(10)が開示されている(図1〜図4、要約等参照。括弧内の符号は、特許文献1のもの。)。
【0003】
ところで、埋込磁石型の回転電機(IPMSM : interior PMSM)では、ロータ表面の磁気抵抗がロータ回転方向の位置によって異なることが多い。このためIPMSMでは、ステータコイルを流れる電流により生じる電機子磁束と永久磁石の界磁磁束との吸引反発力によるマグネットトルクの他、電機子磁束とロータの鉄心との吸引反発力によるリラクタンストルクも回転電機のトルクとして利用することができる。可変磁束型ではない回転電機では、ロータ表面の磁気抵抗の分布がほぼ一定であるが、可変磁束型の回転電機では、ロータ表面の磁気抵抗の分布が変化する。つまり、可変磁束型の回転電機では、界磁磁束の調整によって、マグネットトルクだけではなくリラクタンストルクも変化することになる。従って、可変磁束型の回転電機の界磁磁束を調整するに際しては、リラクタンストルクに影響するロータ表面の磁気抵抗も考慮することが好ましい。また、回転電機は、電動機(力行運転)及び発電機(回生運転)として機能させることが可能であり、界磁磁束の調整に際しては、回転電機の運転状態(力行運転状態又は回生運転状態)なども考慮されることが好ましい。
【0004】
しかし、単純にトルク及び回転速度に応じて界磁磁束の調整を行なうだけでは、このような回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することができない場合がある。また、これらを考慮して界磁磁束の調整を行なう際に、2つのロータ間の位相の調整量が大きくなる状況が生じると、必要な界磁磁束を得られるまでの時間が長くなり、応答性が悪化したり、機械損の増加によって回転電機の損失が増加したりする可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−159219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、可変磁束型の回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することを可能としつつ、界磁調整のためのロータ間位相の調整量を少なく抑えることができる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、前記ロータユニットに備えられた永久磁石により生じて前記ステータコイルに鎖交する界磁磁束を、前記相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
前記界磁磁束を調整するための前記相対位置を示す位相指令が目標トルク及び回転速度に応じて規定された位相マップに基づいて、前記位相指令を決定して、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位置を調整する相対位相制御部を備え、
前記位相マップは、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で前記位相指令が規定された低回転速度域位相マップと、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップとを有し、
前記相対位相制御部は、前記回転速度に基づいて、前記低回転速度域位相マップと前記高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、前記位相指令を決定する点にある。
【0008】
上述したように、PMSMでは、ロータの回転速度が上昇するに従ってステータコイルに発生する誘起電圧が高くなるが、この誘起電圧が駆動電圧を超えないように制御する必要がある。このため、回転速度に応じてロータからの界磁磁界が調整される。但し、界磁磁束の調整によってロータ表面の磁気抵抗も変化するため、界磁磁束の調整はマグネットトルクだけでなく、リラクタンストルクにも影響を与える。このため、本特徴構成のように、目標トルクと回転速度とに応じて規定された位相マップに基づいて、第1ロータと第2ロータとの相対位置を示す位相指令が決定されると好適である。ここで、回転電機が低回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が大きく制限されていない可能性が高いので、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令が規定された低回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定されると好適である。一方、回転電機が高回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が大きく制限されている可能性が高くなるので、界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定されると好適である。本特徴構成によれば、相対位相制御部は、回転速度に基づいて低回転速度域位相マップと高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、位相指令を決定する。これにより、相対位相制御部は、それぞれの回転速度域に応じて、ロータ間位相の調整量が抑制された位相指令を決定することが可能となる。このように、本特徴構成によれば、位相マップを用いることによって、可変磁束型の回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することを可能としつつ、界磁調整のためのロータ間位相の調整量を少なく抑えることが可能となる。
【0009】
ところで、回転電機の回転速度が低回転速度域から高回転速度域に移行した場合、力行運転状態であれば逆起電力を抑制するために、回生運転状態であれば発電量を調整するために、界磁磁束を制限する必要が生じる可能性が高くなる。一方、回転電機の回転速度が高回転速度域から低回転速度域に移行した場合は、逆に界磁磁束を制限する必要性が低下する可能性が高くなる。従って、上述したように、各回転速度域に適した位相マップが回転速度に基づいて参照され、位相指令が決定されると好ましい。ここで、回転速度が高回転速度域から低回転速度域に移行する場合の1つの形態を考えると、高回転速度域での力行運転を休止して、慣性力による回生運転を行っている際に回転速度が低下して低回転速度域に移行する場合がある。例えば、回転電機が車両の駆動力源などの場合、アクセルペダルなどの加速手段をゆるめることによって回転電機の運転状態が回生運転状態となり、回転速度が低下するような事例である。この際、再び加速手段が操作されることによって、回転電機が力行運転状態に切り替わる場合がある。そして、力行運転が再開されると回転速度が上昇し、再び低回転速度域から高回転速度域へと回転速度が移行する可能性がある。このような場合には、回転速度及び目標トルクの双方が変化し、例えば、力行運転状態で高回転速度域から、回生運転状態で高回転速度域、回生運転状態で低回転速度域、力行運転状態で低回転速度域、そして、力行運転状態で高回転速度域と、運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わる可能性がある。一方、単純に回転速度が上昇する場合には、力行運転状態で低回転速度域から、力行運転状態で高回転速度域への切り替わりや、回生運転状態で低回転速度域から、回生運転状態で高回転速度域への切り替わりとなるから、運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わる可能性は比較的低い。運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わると、制御の安定性が低下したり、両ロータの相対位置の調整量が増加して損失が増加したりする可能性がある。
【0010】
このように運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わることをできるだけ抑制し、高い安定性及びできるだけ少ない調整量で相対位置の制御を実行するために、本発明に係る回転電機制御装置が以下のように構成されると好適である。つまり、1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記相対位相制御部は、前記回転速度が低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値以上となった場合には、参照先の前記位相マップを前記低回転速度域位相マップから前記高回転速度域位相マップに切り変え、前記回転速度が高回転速度から低回転速度へ変化して前記回転速度しきい値未満となった場合には、さらに前記回転電機が力行運転状態であることを条件として、参照先の前記位相マップを前記高回転速度域位相マップから前記低回転速度域位相マップに切り変える構成とするとよい。
【0011】
上述したように、回転電機が低回転速度域で動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性は低い。一方、回転電機が高速で動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性が比較的高くなる。従って、上述したように、低回転速度域に対応する低回転速度域位相マップは、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令が規定されていると好ましい。一方、高回転速度域に対応する回転速度域位相マップは、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令が規定されていると好ましい。さらに、これら第1位相範囲及び第2位相範囲は、界磁磁束が最大となる相対位置や界磁磁束が最小となる相対位置などを基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記第1位相範囲が、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定され、前記第2位相範囲が、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定されていると好適である。
【0012】
上述したように、回転電機が高回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令が規定された高回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定される。界磁磁束が最小となる相対位置は、回転電機の力行運転状態及び回生運転状態でのトルクが最小となる相対位置である。第2位相範囲は、この相対位置をほぼ中央として、一方の外縁へ行くほど回転電機の力行運転状態の時のトルクが大きくなり、他方の外縁へ行くほど回生運転状態でのトルクが大きくなるように設定されると、回転電機の運転状態に応じて最適な位相指令が規定できて好適である。つまり、第2位相範囲が、力行運転状態及び回生運転状態でのトルクに応じた相対位置を基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。
【0013】
ところで、可変磁束型ではない回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗に変化は生じないが、可変磁束型の回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗も変化する。そして、このようなロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗が変化する回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面において永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束のロータ(ロータユニット)の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となる場合がある。回転電機を制御する手法として、永久磁石により構成される磁極の中心を通る軸と、この軸に対して電気的に直交する軸とを、永久磁石基準の直交軸としたベクトル空間におけるベクトル制御が知られている。しかし、ロータ(ロータユニット)の表面において永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束のロータ(ロータユニット)の表面における磁束密度最大位置とが異なる場合には、このような永久磁石基準のベクトル空間に対して電気角上の回転偏差を有した回転ベクトル空間においてベクトル制御が実施される場合がある。この回転ベクトル空間において回転電機を制御すると、回転偏差の影響により、例えばマグネットトルクの一部に回生側のトルクが生じるような現象も生じる。これは、回転電機に対する損失ともなる。従って、特に界磁磁束を制限する場合の多い高回転速度域での動作に対応する第2位相範囲は、力行運転状態及び回生運転状態でのトルクや損失の少なさに応じて定量的に設定されると好適である。このような定量的な設定は、例えば、第1ロータ及び第2ロータの周方向の相対位置を示す位相の可変範囲の全域を、原点を中心とする360°の描画範囲で表すグラフにおける位相範囲によって規定することができる。力行運転に適した位相範囲、回生運転に適した位相範囲は、当該グラフにおける90°の描画範囲ごとに現れるので、これらの位相範囲は、当該グラフに適切な直交軸を設定した場合における象限として規定されてもよい。
【0014】
具体的な1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記回転電機が、前記相対位置の調整により、前記ロータユニットの表面において前記永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、前記ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束の前記ロータユニットの表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものであり、前記第2位相範囲が、前記回転電機の力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置から、前記力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置及び回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置を順に経由して、前記回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置までの範囲に設定されていると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】可変磁束型の回転電機の構成の一例を示すスケルトン図
【図2】電気角1周期分における磁極及び突極の関係の一例を示す図
【図3】界磁磁束が最大となる相対位相(0度)の磁束分布の一例を示す図
【図4】界磁磁束が最小となる相対位相(90度)の磁束分布の一例を示す図
【図5】相対位相90度の電機子磁束の磁束分布の一例を示す図
【図6】相対位相45度の電機子磁束の磁束分布の一例を示す図
【図7】回転電機制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
【図8】ベクトル空間の相対関係を示す図
【図9】第1位相範囲及び第2位相範囲の一例を示す図
【図10】低回転速度域位相マップの一例を示す図
【図11】高回転速度域位相マップの一例を示す図
【図12】界磁磁束調整時の相対位置の調整幅(位相差)の一例を示す図
【図13】相対位相0度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図14】相対位相45度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図15】相対位相67度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図16】第1位相範囲及び第2位相範囲の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、可変磁束型の回転電機を制御対象とする回転電機制御装置を例として説明する。はじめに、図1〜図6を利用して、本実施形態において例示する可変磁束型の回転電機の構造、及び電気的な特性(特に、ロータの非対称突極性)について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態で例示する可変磁束型の回転電機100は、回転機構部20と、相対位置調整機構50とを有して構成される。回転機構部20は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ41及び第2ロータ42を有するロータユニット40と、ステータコイル32を有するステータ30とを備えて構成されている。本例では、回転機構部20は、相対的にステータ30の内側にロータユニット40が備えられたインナーロータ型の構造である。ロータユニット40は、相対的に内側に配置される内側ロータ(第1ロータ41)と相対的に外側に配置される外側ロータ(第2ロータ42)とを有して構成されている。第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置は、相対位置調整機構50により調整可能である。ステータコイル32に鎖交する界磁磁束は、この相対位置の調整により、つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向(ロータ回転方向)の相対位置に応じて変化する。即ち、回転電機100は、ロータユニット40に備えられた永久磁石により生じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束を、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機である。
【0018】
ロータユニット40を構成する第1ロータ41及び第2ロータ42の少なくとも一方には永久磁石が備えられる。本実施形態では、第1ロータ41のみに永久磁石が備えられる。図2、図3等に示すように、第1ロータ41は、ロータコア(第1ロータコア43)の内部に埋め込まれて、ステータコイル32と鎖交する界磁磁束を提供する永久磁石24(24N,24S)を備えて構成される。一方、第2ロータ42は、界磁磁束に対して磁気抵抗となる磁気抵抗部としての空隙48をロータコア(第2ロータコア44)に備えて構成される。これら2つのロータ41,42の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化し、可変磁束型の回転機構部20が実現される。図1に示すように、回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向の相対位置を調整する相対位置調整機構50と共に可変磁束型の回転電機100を構成する。回転電機100の駆動力(トルクと同義)は出力軸Xに伝達可能に構成されている。
【0019】
回転機構部20の電機子を構成するステータ30は、ステータコア31とステータコア31に巻装されたステータコイル32とを備えている。ステータコア31は、本例では、複数枚の電磁鋼板を積層して構成されており、円筒状に形成されてケース(図示は省略)に固定されている。界磁を構成するロータユニット40は、ステータ30の径内方向R1側において、ステータ30に対して回転軸周りに回転可能に上記ケースに支持されている(図示は省略)。第1ロータ41の第1ロータコア43及び第2ロータ42の第2ロータコア44は、本例では、ステータコア31と同様に複数枚の電磁鋼板を積層して構成されている。ロータユニット40を構成する第2ロータ42は、一定の径方向厚さを有する円筒状に形成され、内側に第1ロータ41を備えている。第1ロータ41と第2ロータ42とは、同軸に配置される。図1に示すように、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は、径方向R視において重複するように配置されている。本例では、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は、軸方向Lに同じ長さ(軸方向長さ)を有し、径方向R視において完全に重複するように配置されている。第1ロータ41は、第1ロータコア43を支持すると共に第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45を備えている。また、第2ロータ42は、第2ロータコア44を支持すると共に第2ロータコア44と一体回転する、第2ロータコア支持部材46を備えている。
【0020】
本実施形態では、図2及び図3に示すように、第2ロータコア44は、両ロータ41,42の相対位置が所定の基準位置(相対位相γ=0度)にある状態で、周方向に隣接する磁極Fの磁極端部FTの間(即ち、磁極間)に配置され、界磁磁束に対して磁気抵抗となる空隙(磁極間空隙、磁気抵抗部)48を備えている。この空隙48により、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に到達する鎖交磁束が変化する。
【0021】
図3及び図4は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置(相対位相γ)に応じた、マグネットトルクに関係する界磁磁束(d軸磁束)を破線により例示している。相対位相γは、電気角で示されている。図3及び図4は、ロータユニット40の軸直交断面を示しており、おおよそ電気角の1周期に相当する部分断面図である。例えば、図3は、永久磁石24から第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が抑制されてステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態を例示している。一方、図4は、第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が多くなってステータ30に到達する磁束が少なくなる状態を例示している。このように、永久磁石24及び空隙48は、ステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態(図3:γ=0度)と、ステータ30に到達する磁束が少なくなる状態(図4:γ=90度)との間で遷移可能に配置されている。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整することによって、ステータコイル32に到達する鎖交磁束が調整可能である。
【0022】
図1に示すように、相対位置調整機構50は、第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45と、第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整する機構である。本実施形態では、相対位置調整機構50は、第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52の2つの差動歯車装置(差動歯車機構)を備えて構成される。第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52は、本実施形態では、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第1差動歯車装置51は、複数のピニオンギヤを支持する第1キャリヤ51bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第1サンギヤ51a及び第1リングギヤ51cとを回転要素として有している。また、第2差動歯車装置52は、複数のピニオンギヤを支持する第2キャリヤ52bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第2サンギヤ52a及び第2リングギヤ52cとを回転要素として有している。
【0023】
第1サンギヤ51aは、第1ロータコア支持部材45と一体回転するように駆動連結され、第2サンギヤ52aは、第2ロータコア支持部材46と一体回転するように駆動連結されている。第1キャリヤ51b及び第2キャリヤ52bは、出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。これにより、第1ロータコア支持部材45及び第2ロータコア支持部材46は、相対位置調整機構50を介して出力軸Xに駆動連結される。即ち、本例では、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との双方が、相対位置調整機構50を介して共通の出力軸Xに駆動連結されている。また、第2リングギヤ52cは、リング状部材を介してケースの内壁80に固定されている。
【0024】
第1リングギヤ51cの外周面(径外方向R2を向く面、以下同様)にはウォームホイール54bが設けられている。このウォームホイール54bは、第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を調整するためのウォームギヤ54aと噛み合っている。ウォームギヤ54aは、モータなどの駆動力源(アクチュエータ)56と接続されている(図7参照)。この駆動力源56によりウォームギヤ54aを回転させることで、ウォームホイール54bを介して第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を変えることができる。第1リングギヤ51cの回転位置の調整時には駆動力源56によりウォームギヤ54aが回転駆動され、調整時以外では停止した駆動力源56を介してウォームギヤ54aが固定される。つまり、第1リングギヤ51cは、回転位置の調整時を除いて固定された状態となる。
【0025】
本実施形態では、第1キャリヤ51bと第2キャリヤ52bとは一体的に一体キャリヤ53を構成しており、一体キャリヤ53が出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。また、本実施形態では、第1差動歯車装置51と第2差動歯車装置52とは互いに同径に構成され、第1差動歯車装置51の歯数比(=第1サンギヤ51aの歯数/第1リングギヤ51cの歯数)と第2差動歯車装置52の歯数比(=第2サンギヤ52aの歯数/第2リングギヤ52cの歯数)とは互いに等しく設定されている。そして、第1リングギヤ51cの回転位置の調整時を除いて、第1リングギヤ51c及び第2リングギヤ52cの双方は固定された状態となる。よって、第1サンギヤ51aに駆動連結された第1ロータコア支持部材45と、第2サンギヤ52aに駆動連結された第2ロータコア支持部材46とは、互いに同じ回転速度(ロータ回転速度)で回転する。本実施形態では、出力軸Xの回転速度は、ロータ回転速度に対して減速されたものとなり、出力軸Xには、回転機構部20のトルクが増幅されて伝達される。
【0026】
上述したように、本実施形態では、第2リングギヤ52cがケースの内壁80に固定されているのに対し、第1リングギヤ51cは回転位置が調整可能となっている。即ち、キャリヤが一体的に形成された2つの遊星歯車機構において、一方のリングギヤを他方のリングギヤに対して周方向に相対移動(すなわち相対回転)させることが可能となっている。この相対回転に伴い、一方のサンギヤが他方のサンギヤに対して相対回転する。よって、第1リングギヤ51cの回転位置を調整することで、第1サンギヤ51aと第2サンギヤ52aとの間の周方向の相対位置を調整することができる。その結果、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整することができる。
【0027】
上述したように、本実施形態の回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整して、ステータコイル32に到達する鎖交磁束を調整することが可能である。回転機構部20を制御する好適な手法として、永久磁石の磁束(界磁磁束)の方向であるd軸と、このd軸に対して電気角で直交する方向であるq軸とのd−qベクトル空間を用いたベクトル制御が知られている。図2に示すように、d軸は、ロータユニット40の回転軸心からロータユニット40の表面における磁極Fの中心の位置である磁極中心位置PDへ向かう方向に沿った磁極中心軸FC(磁極軸)である。q軸は、ロータユニット40の回転軸心から、ロータユニット40の表面において磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置である磁極中心直交位置PQへ向かう方向に沿った磁極中心直交軸FXである。
【0028】
図5及び図6は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置に応じた電機子磁束(q軸磁束)を破線により例示している。つまり、図示される磁束は、ステータコイル32を流れる電流によって励磁されたものである。尚、図5及び図6も、界磁磁束を例示する図3及び図4と同様に、おおよそ電気角の1周期に相当するロータユニット40の軸直交方向の部分断面図である。図5に示す相対位置は、図4と同様に基準位置に対して電気角で90度ずれた相対位置(γ=90度)であり、図6に示す相対位置は、基準位置に対して電気角で45度ずれた相対位置(γ=45度)である。γ=90度の場合、空隙48はほぼ磁極中心位置PDに位置する。隣接する磁極Fの間のいわゆる突極、例えば図2の符号M2あるいはM3の範囲には空隙48が存在せず、磁性体の第1ロータコア43及び第2ロータコア44でほぼ満たされている。従って、ステータ30と対向する側であるロータユニット40の表面における突極のロータ回転方向の中心に対して対称に電機子磁束が分布する。
【0029】
ロータユニット40の表面における突極のロータ回転方向の中心は、磁極Fの間(突極)における電機子磁束の磁束密度最大位置(電機子磁束最大位置PL)に相当する。そして、電機子磁束最大位置PLは、上述した磁極中心直交位置PQに一致する。上述したように、界磁磁束を基準とした場合のd軸は、磁極中心位置PDを通る磁極中心軸FCであり、q軸は、磁極中心直交位置PQを通る磁極中心直交軸FXである。電機子磁束を基準とした場合のq軸は、ロータユニット40の回転軸心から電機子磁束最大位置PLへ向かう方向に沿った磁束密度最大軸(電機子磁束最大軸FL)である。図5に示すように、γが90度となる相対位置の場合には、界磁磁束を基準とした場合のq軸(磁極中心直交軸FX)と、電機子磁束を基準とした場合のq軸(電機子磁束最大軸FL)とが一致し、両軸の偏差δはゼロとなる。
【0030】
一方、図6に示すように、γ=45度の場合には、空隙48が突極の一部において磁気抵抗となる。このため、ロータユニット40の表面における電機子磁束の分布は、突極のロータ回転方向の中心に対して非対称となる。つまり、電機子磁束最大位置PLは、上述した磁極中心直交位置PQと一致しなくなる。従って、電機子磁束を基準とした場合のq軸である電機子磁束最大軸FLと、界磁磁束を基準とした場合のq軸である磁極中心直交軸FXとの間には、図6に示すように偏差δが生じる。
【0031】
本発明の回転電機制御装置は、このようにロータユニット40の表面において、磁極Fの中心(磁極中心位置PD)に対して電気的に直交する位置PQと、ステータコイル32を流れる電流により励磁される電機子磁束の隣接する磁極F間における電機子磁束最大位置PLとが異なり、非対称突極性を有する可変磁束型の回転電機を制御対象とする。そして、本発明の回転電機制御装置は、このような回転機構部20をロータユニット40と同速度で回転する回転座標系に設定された直交ベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する。また、本発明の回転電機制御装置は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ41及び第2ロータ42を有するロータユニット40の、当該相対位置を制御する。以下、図7〜図15も利用して、そのような回転電機制御装置の好適な実施形態について説明する。
【0032】
図7に示すように、回転電機制御装置は、主として相対位置調整機構50を制御する機能部として、相対位相制御部7と、γマップ70(位相マップ)と、座標偏差マップ7aとを備えて構成されている。そして、駆動回路75を介して駆動力源56が駆動されることによって差動歯車装置51,52(特に第1差動歯車装置51)が駆動制御される。また、回転電機制御装置は、主として回転機構部20を制御する機能部として、トルク制御部(電流指令演算部)1と、電流指令マップ1aと、空間座標変換部2と、電流制御部(電圧指令演算部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えて構成されている。そして、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。尚、本実施形態では、相対位相制御部7により演算された直交ベクトル空間の偏差δを用いて回転機構部20が駆動制御され、相対位置を示す相対位相γに基づいて電流指令マップ1aから電流指令が取得されるので、相対位相制御部7も回転機構部20を制御する機能部に含めてよい。
【0033】
回転機構部20及び相対位置調整機構50を制御する各機能部は、好適にはマイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などのハードウェアと、当該ハードウェア上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって実現される。従って、各機能部は、一部又は全てにおいて、同一のハードウェアや、同一のプログラムモジュールが兼用されるものであってよい。
【0034】
ここで、本実施形態の回転電機制御装置におけるベクトル制御に用いられるベクトル空間について説明する。図8に示すα軸及びβ軸は、ステータ30に設定される固定軸であり、α−βベクトル空間は固定座標系である。ステータ30に対するロータユニット40の位置が所定の基準位置である場合、α軸はd軸と一致し、β軸はq軸と一致する。つまり、固定座標系のα−βベクトル空間と、回転座標系のd−qベクトル空間とが一致する。本実施形態の場合、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γが変動するので、何れかのロータ、例えば第1ロータ41の位置を基準としてd軸及びq軸を規定する。ここでは、永久磁石24を備える第1ロータ41の回転軸心から磁極Fの中心に向かう方向をdM軸とし、dM軸に対して電気的に90度進んだ方向をqM軸とする。このdM軸とqM軸とを直交軸とする直交ベクトル空間を、第1ベクトル空間とする。つまり、第1ベクトル空間は、ロータユニット40の回転軸心から磁極Fの中心(磁極中心位置PD)に向かう方向に設定された磁極軸(磁極中心軸FC)に沿った方向を一方の軸(dM軸)とし、磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置(磁極中心直交位置PQ)に向かう方向を他方の軸(qM軸)とした空間である。
【0035】
ロータユニット40がステータ30に対して回転すると、固定座標系のα軸と回転座標系のdM軸との間には、電気角における回転角度θが生じる(β軸とqM軸との間も同様)。ロータユニット40の回転角度θは、レゾルバなどの回転センサ92を利用して計測され、位置検出部93においてα軸とdM軸との角度として検出される(図7参照)。当然ながら、回転センサ92が回転角度θを出力するように構成されていてもよい。この回転角度θを用いて、3相のステータコイル32と、2相のベクトル空間との間における電気信号の座標変換が行われる。
【0036】
dM軸及びqM軸により規定される第1ベクトル空間に対して、図8に示すdL軸及びqL軸により規定されるベクトル空間を第2ベクトル空間とする。第2ベクトル空間も回転座標系であり、第1ベクトル空間と同じ速度で同じ方向に回転する。図8に示すように、dL軸及びqL軸は、それぞれdM軸及びqM軸に対して偏差δを有する。図6に基づいて上述したように、電機子磁束を基準とした場合のq軸に相当する電機子磁束最大軸FLと、界磁磁束を基準とした場合のq軸に相当する磁極中心直交軸FXとの間には、偏差δが生じる場合がある。第2ベクトル空間は、第1ベクトル空間に対して、この偏差δが補正され、dL軸及びqL軸を直交軸とするベクトル空間である。つまり、第2ベクトル空間は、ロータユニット40の回転軸心から磁束密度最大位置(電機子磁束最大位置PL)に向かう方向に沿った方向を一方の軸(qL軸)とし、当該軸(qL軸)に直交する方向(ここでは、電気的に90度遅れた方向)を他方の軸(dL軸)とした空間である。本実施形態においては、この偏差δは、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γに応じて定まる。後述するように、相対位相制御部7は、相対位相γと偏差δとの関係が実験やシミュレーションによって予め設定された座標偏差マップ7aに基づいて偏差δを演算する。
【0037】
以下、図7のブロック図を参照しながら、回転電機制御装置の各機能部について説明する。相対位相制御部7は、界磁磁束を調整するための相対位置(相対位相γ)を示す位相指令γ*が目標トルクT*及び回転速度ωに応じて規定されたγマップ70(位相マップ)に基づいて、位相指令γ*を決定して、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置を調整する機能部である。このγマップ70は、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ)を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令γ*が規定された低回転速度域位相マップ7Lと、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ)を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令γ*が規定された高回転速度域位相マップ7Hとを有している。相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えて参照し、位相指令γ*を決定する。
【0038】
図9は、上述した第1位相範囲及び第2位相範囲の概念を示しており、ロータユニット40における電気角に対応した相対位相γを示している。γ=0°の軸は、図3に示した第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γ(=0°)に対応している。同様に、γ=90°の軸は、図4に示した第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γ(=90°)に対応している。図3及び図4を参照して上述したように、γ=0°は、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ)であり、γ=90°は、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ)である。例えば、図9において、γ=0°を内部に含むように設定された位相範囲(符号YLで示す位相範囲)は、第1位相範囲に相当する。同様に、図9において、γ=90°を内部に含むように設定された位相範囲(符号YHで示す位相範囲)は、第2位相範囲に相当する。第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが図9において破線部分を含む位相範囲に設定される場合、第1ロータ41及び第2ロータ42は、少なくとも相対位相γ=−90°(270°)〜+180°の範囲を周方向の一定の範囲として、この一定の範囲内で相対位置を調整可能に構成されている。
【0039】
例えば、回転電機100が低回転速度域で力行動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性は比較的低い。一方、回転電機100が高回転速度域で力行動作している場合には、逆起電力を抑制する観点から、界磁磁束を大きく制限する必要性が比較的高くなる。従って、低回転速度域に対応する低回転速度域位相マップ7Lは、界磁磁束が最大となる相対位置を内部に含むように設定された第1位相範囲YL内で位相指令γ*が規定されると好ましい。一方、高回転速度域に対応する高回転速度域位相マップ7Hは、界磁磁束の制限を優先して、界磁磁束が最小となる相対位置を内部に含むように設定された第2位相範囲YH内で位相指令γ*が規定されると好ましい。尚、本実施形態では、図9に破線で示した部分も含めて、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれ約180°の位相範囲を有する例を示しているが、当然ながら180°未満の範囲に設定されていてもよい。つまり、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定されていれば充分であり、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定されていれば充分である。
【0040】
但し、これら第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、界磁磁束が最大となる相対位置や界磁磁束が最小となる相対位置などを基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。好適な態様として、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ=0°)を中心として設定されると好適である。また、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°)を中心として設定されると好適である。このように、中心位置を定めて位相範囲を設定する場合においても、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、それぞれ約180°の位相範囲を有することなく、180°未満の範囲に設定されていてもよい。尚、本実施形態では、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれγ=0°及び90°を中心として設定される例を示したが、当然ながらこれらの角度からずれた角度(5°及び95°など)を中心として設定してもよい。
【0041】
但し、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれ約180°の位相範囲を有していれば、低回転速度域位相マップ7L及び高回転速度域位相マップ7Hの何れを用いても、界磁磁束の調整範囲の全てをカバーすることが可能となる。つまり、隣接する磁極Fは、逆極性であるから、隣接する磁極Fの間隔は電気角の半周期、即ち180°に相当する。従って、例えば、相対位相γ=180°は、図4に示した例からさらに90°相対回転して、空隙48が実質的に図3に示した例と同じ相対位置に達した状態に対応する。従って、冗長性を持たせることによるフェールセーフ機能の付加や、制御の柔軟性を考慮すれば、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHのそれぞれが、約180°の位相範囲を有していることが好適である。さらに、上述したように、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、再現性や展開性を考慮すれば、定量的な基準を定めて設定されることが好ましい。従って、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、1つの態様として、以下のように設定されると好適である。
【0042】
即ち、1つの態様として、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ=0°)を中心として、周方向の両側における界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°及び−90°)を外縁とする範囲に設定されているとよい。図9において破線部分を含む第1位相範囲YLは、この範囲に対応する。尚、電気角の一周期は360°であるから、図9における相対位相γ=270°は、−90°に相当する。また、相対位相γ=−90°は、図4に示した例とは逆方向へ90°相対回転した場合を示している。後述するように、相対位相γ=0°〜90°の位相範囲Y1は、位相範囲Y4に比べて回転電機100が力行動作する際に損失(鉄損、銅損、機械損などを総合した損失、以下同様。)が少ない位相範囲である。回転電機100が力行動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。また、相対位相γ=−90°〜0°の位相範囲Y4は、位相範囲Y1に比べて回転電機100が回生動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が回生動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。
【0043】
同様に好適な態様として、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°)を中心として、周方向の両側における界磁磁束が最大となる相対位置相対位相(γ=0°及び180°)を外縁とする範囲に設定されているとよい。図9において破線部分を含む第2位相範囲YHは、この範囲に対応する。上述したように、相対位相γ=180°は、図4に示した例からさらに90°相対回転して、空隙48が実質的に図3に示した例と同じ相対位置に達した状態に対応する。上述したように、相対位相γ=0°〜90°の位相範囲Y1は、位相範囲Y2に比べて回転電機100が力行動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が力行動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。また、相対位相γ=90°〜180°の位相範囲Y2は、位相範囲Y1に比べて回転電機100が回生動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が回生動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。
【0044】
ここで、図9に示す相対位相γのグラフにおける各象限S1〜S4と、回転電機100の運転状態との関係について補足する。図9に示す相対位相γのグラフは、第1ロータ41及び第2ロータ42の周方向の相対位置を示す相対位相γの可変範囲の全域を、原点を中心とする360°の描画範囲で表す位相範囲によって規定したものとも言える。図8を参照して説明したように、ロータユニット40の表面の磁気抵抗が変化する場合、ロータユニット40の表面において永久磁石24により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイル32を流れる電流により誘起される電機子磁束のロータユニット40の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となる場合がある。つまり、永久磁石24を基準とした第1ベクトル空間と、後述するように実際に電流フィードバック制御が実施される空間である第2ベクトル空間との間に偏差δが生じる場合がある。この偏差δの影響により、例えば回転電機100が力行運転状態でのトルクの一部に回生側のトルクが生じるような現象も生じる。これは、回転電機100に対する損失となる。このため、図9に示す相対位相γのグラフにおける各象限S1〜S4は、力行又は回生の運転状態との関係で他の象限に比べて損失が少なくなる象限という観点から、力行運転と回生運転との何れに適しているかによって分類することが可能である。本実施形態においては、第1象限S1及び第3象限S3は、力行運転に適した象限(位相範囲)であり、第2象限S2及び第4象限S4は、回生運転に適した象限(位相範囲)である。
【0045】
このような各象限S1〜S4と回転電機100の運転状態との関係から導かれる1つの好適な態様として、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは下記のように設定されてもよい。ここで、回転電機100は、相対位置の調整により、ロータユニット40の表面において永久磁石24により構成される磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイル32を流れる電流により誘起される電機子磁束のロータユニット40の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものである。そして、第1位相範囲YLは、回転電機100の回生運転に適した位相範囲(第4象限S4)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=−90°)から、回生運転に適した位相範囲(第4象限S4)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)及び力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)を順に経由して、力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)までの範囲に設定されると好適である。また、第2位相範囲YHは、回転電機100の力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)から、力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)及び回生運転に適した位相範囲(第2象限S2)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)を順に経由して、回生運転に適した位相範囲(第2象限S2)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=180°)までの範囲に設定されると好適である。
【0046】
図10は低回転速度域位相マップ7Lの一例を示しており、図11は高回転速度域位相マップ7Hの一例を示している。それぞれ、正方向のトルクは力行運転状態におけるトルクを示し、負方向のトルクは回生運転状態におけるトルクを示している。上述したように、低回転速度域位相マップ7Lには、γ=−90°〜90°を第1位相範囲YLとして位相指令γ*が規定されている。また、高回転速度域位相マップ7Hには、γ=0°〜180°を第2位相範囲YHとして位相指令γ*が規定されている。
【0047】
図10及び図11における符号THは、高回転速度域と低回転速度域との境界となる回転速度ω(所定の回転速度しきい値)を示している。つまり、実質的に、回転速度しきい値TH以上の回転速度ωにおいては高回転速度域位相マップ7Hが選択され、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいては低回転速度域位相マップ7Lが選択される。これ以外の選択、例えば、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいて高回転速度域位相マップ7Hが選択される場合も有り得るが、これについては後述する。基本的には、相対位相制御部7は、回転速度ωが低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値TH以上となった場合には、参照先のγマップ70(位相マップ)を低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hに切り変える。また、回転速度ωが高回転速度から低回転速度へ変化して回転速度しきい値TH未満となった場合には、相対位相制御部7は、参照先のγマップ70(位相マップ)を高回転速度域位相マップ7Hから低回転速度域位相マップ7Lに切り変える。
【0048】
図10と図11とを比較すれば、回転速度しきい値TH未満の回転速度域において、低回転速度域位相マップ7Lの方が高回転速度域位相マップ7Hに比べて相対位相γの変化が緩やかである。例えば矢印A1の回転速度ωにおいて、図11の高回転速度域位相マップ7Hに比べて、図10の低回転速度域位相マップ7Lの方が相対位相γの変化を示す線数が少なく、相対位相γの変化が緩やかである。従って、低回転速度域においては、低回転速度域位相マップ7Lに基づいて、相対位置調整機構50が制御されると好適である。一方、回転速度しきい値TH以上の回転速度域においては、高回転速度域位相マップ7Hの変化が連続的であるのに対して、低回転速度域位相マップ7Lの変化には不連続点が生じる。例えば矢印A2の回転速度ωにおいて、図11の高回転速度域位相マップ7Hに比べて、図10の低回転速度域位相マップ7Lの方が相対位相γの変化を示す線数が多くなっている。詳細な相対位相γの値の変化を全て図10の図中に表現することができていないが、特にトルクが0[Nm]の近傍において、相対位相γの変化が不連続となる場合がある。例えば、図10の低回転速度域位相マップ7Lでは、矢印A2の回転速度ωにおいて、正トルクから0[Nm]を挟んで負トルクへ移行する際に、相対位相γがγ=60°からγ=−60°へと不連続に変化する。
【0049】
このような相対位相γの変化の緩やかさや、連続性は、位相調整の応答性や相対位置調整機構50を駆動する際の機械損にも影響する。従って、回転速度しきい値TH以上の回転速度ωにおいては高回転速度域位相マップ7Hが選択され、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいては低回転速度域位相マップ7Lが選択されると、位置調整の応答性の悪化や、回転電機100の損失(鉄損、銅損、機械損などを総合した損失)を効果的に抑制することができて好適である。
【0050】
図12は、本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合と、回転速度ωに関係なく共通した1種類のγマップ70を用いた場合との、界磁磁束調整時の相対位置の調整幅(位相差)の一例を示している。図12のグラフは、シミュレーション結果であり、回転速度とトルクとを定義した動作パターンを与えて、適時最適な相対位相γを演算した場合の調整幅(位相差)の変化を調べたものである。図12の下段の実線は、本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合を示しており、破線は、回転速度ωに関係なく共通した1種類のγマップ70を用いた場合を示している。本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合の方が、位相の変化が少なく、より低損失な制御が実現可能であることが判る。損失をシミュレーションにより演算した結果によると、1種類のγマップ70を用いた場合の損失を100%として、2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合の損失は96.5%に低減された。
【0051】
ところで、回転電機100の主たる用途が発電機の場合には、界磁磁束を制限して発電量を抑制する必要性は比較的低い。このため、可変磁束型の回転電機は、相対的に主たる用途が電動機であって、力行運転を休止した際の機械的な慣性力を利用して回生運転を行い、発電機として機能させる場合が多くなる。このような用途では、回生動作中には回転速度が上昇する可能性は高くなく、回転速度ωが上昇するのは専ら力行動作中となる。上述したように、相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて参照するγマップ70(位相マップ)を切り換える。例えば、回転速度ωが上昇し、低回転速度域から高回転速度域に移行する際には、力行運転状態である可能性が高い。従って、回転速度のさらなる上昇に伴って界磁磁束を制限する必要が生じる可能性も高くなる。このため、回転速度ωが上昇している状況では、速やかに低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hへと参照するγマップ70が切り換えられることが好ましい。
【0052】
一方、回転速度ωが高回転速度域から低回転速度域に移行する場合の1つの形態としては、上述したように、高回転速度域での力行運転を休止して、慣性力による回生運転を行っている際に回転速度が低下して低回転速度域に移行した場合が考えられる。この場合、休止した力行運転が再開されると回転速度ωが上昇して、再び低回転速度域から高回転速度域へ回転速度ωが移行する可能性がある。例えば、回転電機100が車両の駆動力源などの場合、アクセルペダルなどの加速手段をゆるめることによって回転電機100の運転状態が回生運転状態となり、再び加速手段が操作されることによって、力行運転状態に切り替わる場合がある。つまり、運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わる可能性がある。これに対して、回転電機100が力行運転している状態で回転速度ωが低下し、高回転速度域から低回転速度域に移行した場合には、回転電機100は意図的に回転速度ωを低下させる制御を施されている可能性が高い。この状態から再度回転速度ωが上昇しても運転状態は同一であるから、運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わることはない。
【0053】
このように運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わることをできるだけ抑制し、高い安定性で相対位置の制御を実行するための1つの好適な態様として、相対位相制御部7が以下のように、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えられるとよい。つまり、回転速度ωが低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値TH以上となった場合、相対位相制御部7は、参照先のγマップ70を低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hに切り変える。一方、回転速度ωが高回転速度から低回転速度へ変化して回転速度しきい値TH未満となった場合は、相対位相制御部7は、さらに回転電機100が力行運転状態であることを条件として、参照先のγマップ70を高回転速度域位相マップ7Hから低回転速度域位相マップ7Lに切り変える。
【0054】
尚、図9から明らかなように、本実施形態においては、第1位相範囲YLと、第2位相範囲YHとは、力行動作状態において第2象限S2及び第4象限S4に比べて低損失な象限である第1象限S1を共通に含んでいる。当然ながら、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、第1象限S1〜第4象限S4の何れを共通な象限としても設定可能である。しかし、上述したように、γマップ70の切換は、力行運転状態であることも条件として実施される場合がある。本実施形態においては、低回転速度域位相マップ7Lも、高回転速度域位相マップ7Hも、力行運転状態においては共に第1象限S1における相対位相γが位相指令γ*として規定されているから、円滑な切換及び円滑な制御が実現でき、損失も低減される。尚、力行動作状態においてより低損失な象限を共通に含むという観点からは、第3象限S3を共通な象限として、第1位相範囲YLが第2象限S2及び第3象限S3に設定され、第2位相範囲YHが第3象限S3及び第4象限S4に設定されてもよい。
【0055】
相対位相制御部7は、このようにして設定した位相指令γ*に基づいて、好適にはフィードバック制御により駆動力源56を制御し、相対位置調整機構50を駆動制御する。相対位置調整機構50の実際の移動量は、センサ等によって検出された実際の相対位相、あるいは駆動回路75に与えた駆動信号から予測される推測値として、相対位相制御部7により取得される。相対位相制御部7は、検出された相対位相や推測値としての相対位相を、相対位相γとしてトルク制御部1に伝達する。
【0056】
トルク制御部1(電流指令演算部)は、目標トルクT*及び回転速度ωに基づき、相対位相γに対応するトルクマップ(電流指令マップ1a)を参照してステータコイル32に流す電流の指令である電流指令id_M*,iq_M*を演算する。これらの電流指令id_M*,iq_M*は、dM軸及びqM軸によって規定される第1ベクトル空間において演算される。電流指令マップ1aは、図13〜図15に例示するようなトルク特性(トルクマップ)に基づいて予め生成されたマップである。尚、必要に応じてトルク制御部1は、直流電圧源8の正極Pと負極Nとの間の直流電圧に対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIも用いて電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0057】
可変磁束型である回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって界磁磁束の特性が変化する。このため、回転電機制御装置は、図13〜図15に例示するように、相対位置(相対位相γ)に応じた複数のトルクマップを有している。図13は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γが0度の状態での両ベクトル空間でのトルク特性の一例を示している。同様に、図14は相対位相γが45度の状態、図15は相対位相γが67度の状態でのトルク特性を示している。図13〜図15の各分図(a)は、第1ベクトル空間におけるトルク特性を示しており、図13〜図15の各分図(b)は第2ベクトル空間におけるトルク特性を示している。トルク制御部1は、相対位相制御部7から伝達された相対位相γに対応するトルクマップ(電流指令マップ1a)を用いて電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0058】
本実施形態の回転機構部20(回転電機100)のような可変磁束型の回転電機は、界磁磁束を電気的に増減するためにトルクに寄与しないd軸電流を流すことによる効率低下を抑制することを1つの目的として採用される。しかし、実際には、相対位置調整機構50を用いた構造的な界磁磁束の調整と、弱め界磁制御や強め界磁制御などの電気的な界磁磁束の調整とが併用される場合も多い。弱め界磁制御や強め界磁制御などの界磁調整制御においては、界磁磁束と同方向の磁束を発生させるd軸電流を増減させることによって、電気的に界磁磁束が調整される。後述するように、電気的な界磁調整制御に際して、第1ベクトル空間においては、ほぼd軸電流のみを考慮すれば充分であるが、第2ベクトル空間では、d軸電流とq軸電流との双方を考慮する必要が生じる。このため、制御が容易な第1ベクトル空間において電気的な界磁調整制御を行うことが好ましく、トルク制御部(電流指令演算部)1は、第1ベクトル空間において電流指令を演算する。
【0059】
図13〜図15において、細い実線は所定のトルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す等トルク線である。点線は、ロータユニット40の回転速度ωと直流電圧に応じて設定され、設定可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す電圧制限楕円(電圧速度楕円)である。MTで示す太い実線は、最も高い効率で各トルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す最大トルク線である。尚、この最大トルク線は一例であり、電圧制限楕円の内側で実行される標準的な基本制御の際の電流指令として設定され、トルクに応じた基本制御の際のベクトル軌跡を示したもの(基本制御線)であれば、最大トルク線に限定されるものではない。LTで示す太い実線は、各等トルク線が電圧制限楕円の接線となる際の接点のベクトル軌跡に相当し、各トルクを出力可能な限界のd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡である限界トルク線である。
【0060】
図13〜図15に示すトルク特性において、電気的な界磁調整制御が不要な場合には、標準的な基本制御が実施され、電流指令は、トルク指令T*に応じた等トルク線と最大トルク線(基本制御線)との交点のd軸電流及びq軸電流の値となる。電気的に界磁磁束を調整する場合、例えば弱め界磁制御を実施する際には、等トルク線と最大トルク線MTとの交点から限界トルク線に向かって等トルク線上を進む点におけるd軸電流及びq軸電流の値が電流指令となる。
【0061】
図13〜図15の各分図(a)を参照すれば、第1ベクトル空間においては、相対位相γに拘わらず、弱め界磁制御の際に電流はd軸に沿って変化して電流量が増加するが、q軸電流はほぼ一定で変化しない。一方、図13〜図15の各分図(b)を参照すれば、第2ベクトル空間においては、弱め界磁制御の際に、相対位相γが大きくなると、d軸電流のみでなくq軸電流も変化する。例えば、図13(b)に示すように相対位相γが0度の場合には、第2ベクトル空間においても第1ベクトル空間と同様に、ほぼd軸電流のみが変化してq軸電流は一定であるが、相対位相γが45度の図14(b)では、第1ベクトル空間に比べてq軸電流の変化が大きい。相対位相γが67度の図15(b)では、さらにq軸電流の変化が大きくなっている。
【0062】
このように、弱め界磁制御など、界磁磁束を調整するために変化させる電流指令が2つの軸を対象とすると、電流指令を決定するための演算が煩雑となる。第1ベクトル空間では、ほぼd軸電流のみを考慮することで、電気的な界磁調整制御を含めて電流指令を決定することができるので、本実施形態では、トルク制御部1は、第1ベクトル空間における電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0063】
一方、後段の電流制御部(電圧指令演算部)3では、第2ベクトル空間において電流フィードバック制御を行って電圧指令vd_L*,vq_L*が演算される。上述したように、第1ベクトル空間と第2ベクトル空間とは、その座標軸に偏差δが存在する。電流制御部3は、第2ベクトル空間において電圧指令を演算するので、電流指令も第2ベクトル空間の指令に変換する必要がある。そこで、空間座標変換部2は、公知の座標変換演算によって、第1ベクトル空間において演算された電流指令id_M*,iq_M*を、偏差δを用いて、第2ベクトル空間における電流指令id_L*(=id_M*・cosδ+iq_M*・sinδ),iq_L*(=iq_M*・cosδ−id_M*・sinδ)に座標変換する。
【0064】
電流制御部3は、第2ベクトル空間において電流フィードバック制御を行って電圧指令vd_L*,vq_L*を演算する。具体的には、電流センサ91によって測定された、実際にステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwをフィードバックし、電流指令id_L*,iq_L*との偏差を取って比例積分(PI)制御や比例微積分(PID)制御を実施する。尚、本実施形態では、ホール効果を利用してバスバーなどの電流配線に近接して非接触で電流を検出する電流センサ91を例示している。また、本実施形態では、3相全ての電流を検出する例を示しているが、3相は平衡しているので、2相のみを検出して残りの1相は演算により求めてもよい。
【0065】
uvw相の3相のステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwは、3相交流であるからフィードバック電流座標変換部4において2相のフィードバック電流に変換される。フィードバック電流を用いる電流制御部3は、第2ベクトル空間においてPI制御やPID制御を実施するので、フィードバック電流座標変換部4は、公知の変換式を用いて、3相電流を第2ベクトル空間における2相のフィードバック電流id_L,iq_Lに変換する。一般的には、3相から2相への変換に際しては、固定座標系であるα−βベクトル空間と回転座標系との角度、例えば、図8に示すロータユニット40の回転角度θに基づいて座標変換される。しかし、図8に示すように回転角度θは第1ベクトル空間に対する回転角度であり、第2ベクトル空間に対する回転角度φは、(θ+δ)となる。フィードバック電流座標変換部4は、一例として、3相フィードバック電流iu,iv,iwをα−β軸ベクトル空間の2相電流iα,iβに変換し、さらに第2ベクトル空間のフィードバック電流id_L,iq_Lに変換する。
【0066】
電流制御部3では、第2ベクトル空間における電圧方程式(下記に示す式(1))に基づいて電流フィードバック制御を実施する。ここで、vdL:dL軸電圧、vqL:qL軸電圧、idL:dL軸電流、iqL:qL軸電流、Ra:ステータコイルの抵抗成分、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Ψa:ステータコイルの鎖交磁束、ω:ロータの回転速度、p:微分演算子である。
【0067】
【数1】
【0068】
電流制御部3による電流制御は、変化させたい電流にインダクタンスを乗じて電圧(電圧指令)を得ることによって実現される。上記式(1)から、電流変化を生じさせるための電圧指令の変化量のみを取り出して変形すると、下記式(2)となる。ここで、KL及びKMは、PI制御やPID制御におけるゲイン係数である。
【0069】
【数2】
【0070】
詳細な説明は省略するが、第2ベクトル空間における電圧方程式を用いると、d軸(dL軸)とq軸(qL軸)との2つの軸が独立する。つまり、d軸電流はd軸電圧のみで変化し、q軸電流はq軸電圧のみで変化する。これに対して、第1ベクトル空間における電圧方程式では、d軸(dM軸)及びq軸(qM軸)が独立しておらず、d軸電流及びq軸電流は、d軸電圧とq軸電圧との双方の影響で変化する。このため、電圧指令を決定するための演算が煩雑となり、演算負荷も増大することになる。本実施形態では、電流を変化させるために、第2ベクトル空間における電圧指令vd_L*及びvq_L*を演算するので、非対称突極性を有する回転電機であっても演算負荷を軽減することが可能となる。
【0071】
電圧制御部(駆動指令演算部)5は、電圧指令vd_L*及びvq_L*に基づいてインバータ6を構成するIGBTなどのスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成して、インバータ6をスイッチング制御する。インバータ6は、よく知られているように、3相それぞれに対応する3レッグのブリッジ回路により構成される。直流電圧源8の正極Pと負極Nとの間に2つのIGBTが直列に接続され、この直列回路が3回線並列接続される。つまり、モータのu相、v相、w相に対応するステータコイル32のそれぞれに1組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。対となる各相のIGBTによる直列回路の中間点、つまり、IGBTの接続点はステータコイル32にそれぞれ接続される。尚、IGBTには、それぞれフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。フリーホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形で、IGBTに対して並列に接続される。
【0072】
駆動信号は、例えば各IGBTのゲート駆動信号として生成される。一般的に、インバータを駆動するパワー系の電気回路と、マイクロコンピュータなどの電子回路とは、電源電圧が大きく異なる。このため、低電圧の電子回路により生成されたIGBTのゲート駆動信号は、ドライバ回路を介して高電圧のパワー系の電気回路に配置された各IGBTに供給される。図7では、このドライバ回路もインバータ6に含むものとして図示している。尚、電圧制御部5における演算は、第1ベクトル空間及び第2ベクトル空間の何れで実施してもよい。
【0073】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0074】
(1)上記実施形態においては、一定の範囲内(例えばγ=−90°〜180°)で周方向の相対位置を調整する場合を例として説明したが、360°を超えて相対位置を調整するようにしてもよい。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42とが、周方向の両方向に際限なく相対回転可能な場合には、一定の範囲を無限域に設定してもよい。例えば、現在の相対位置がγ=30°であり、目標となる相対位置がγ=170°の場合、この目標となる相対位置をγ=−10°と読み替える。30°と170°とでは、調整幅(位相差)が140°であるが、30°と−10°とでは、調整幅は40°となり、少ない調整幅による相対位置の調整が可能となる。同様に、目標となる相対位置はγ=170°のままで、現在の相対位置をγ=210°と読み替えてもよい。これにより、位相調整の応答性を向上させ、相対位置調整機構50の機械損などの損失を低減することが可能となる。但し、リミッタが無いために、調整に誤差が生じた場合には、その誤差が累積されてしまう可能性がある。従って、このように一定の範囲を無限域に設定する場合には、リセット機構などが付加されると好適である。
【0075】
(2)上記実施形態では、可変磁束型の回転機構部20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられてもよい。また、第2ロータ42のみに永久磁石24が備えられ、第1ロータ41に空隙が形成された構成とすることもできる。また、それぞれのロータ41,42が、永久磁石を備えると共に空隙を有していてもよい。当然ながら、永久磁石24の配置方向及び形状、空隙の方向及び形状等も、本実施形態に限定されるものではない。尚、界磁磁束を変更するための機構は、上記各形態に限定されることなく、様々な形態及び方式を用いることが可能である。例えば、ロータ内の永久磁石の位置や向きを変更することによって可変磁束型の回転電機が実現されてもよい。
【0076】
(3)上述した本発明の実施形態では、回転機構部20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられており、界磁磁束が最大の相対位置と界磁磁束が最小の相対位置との位相差は、電気角で90°である。しかし、上述したように、回転機構部20は、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられる構成であってもよい。例えば、特許文献1の図4には、そのような回転機構部の一例が示されている。この場合には、特許文献1の図4からも明らかなように、界磁磁束が最大の相対位置と界磁磁束が最小の相対位置との位相差が、電気角で180°となる。上述した本発明の実施形態の回転機構部20のように、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている場合には、2つのロータの相対位置は、図9に例示したように電気角360°で元の相対位置と等価な相対位置となる。しかし、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられる構成の場合には、図16に例示するように、2つのロータの相対位置は、電気角720°で元の相対位置と等価な相対位置となる。従って、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHも、この関係に基づいて、例えばそれぞれ360°の範囲に設定される。中心となる相対位相γなどについては、上述した本発明の実施形態を適用可能であるから、詳細な説明は省略する。
【0077】
(4)上記実施形態においては、ロータユニットとステータとが径方向に重複して設置される構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、ロータユニットとステータとが軸方向に重複して設置されるアキシャル型の回転電機であってもよい。また、上記実施形態では、インナロータ型の回転電機を例として説明したが、当然ながらアウタロータ型の回転電機に適用することもできる。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本発明及び本発明と均等な構成を備え、発明の要旨を逸脱しなければ、上記実施形態の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、当該ロータユニットに備えられた永久磁石により生じてステータコイルに鎖交する界磁磁束を、相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
γ :相対位相(相対位置)
7 :相対位相制御部
7H :高回転速度域位相マップ
7L :低回転速度域位相マップ
24 :永久磁石
30 :ステータ
32 :ステータコイル
40 :ロータユニット
41 :第1ロータ
42 :第2ロータ
70 :γマップ(位相マップ)
100 :回転電機
F :磁極
PD :磁極中心位置
PL :電機子磁束最大位置
PQ :磁極中心直交位置
YH :第2位相範囲
YL :第1位相範囲
【技術分野】
【0001】
本発明は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、当該ロータユニットに備えられた永久磁石により生じてステータコイルに鎖交する界磁磁束を、相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、永久磁石型の回転電機(PMSM:permanent magnet synchronous motor)が広く用いられている。PMSMでは、通常、永久磁石はロータコアに固定されているため、ロータから発生する磁束は一定である。このため、PMSMでは、ロータの回転速度が上昇するに従ってステータコイルに発生する誘起電圧が高くなるが、この誘起電圧が駆動電圧を超えないように制御する必要がある。このため、ある回転速度以上では、トルクに寄与しない電流をステータコイルに流して永久磁石からの磁束を相殺し、ロータからの磁界を実質的に弱める弱め界磁制御が行われる。但し、弱め界磁制御を行うと回転電機から出力されるトルクに対してステータコイルに流れる電流が大きくなるため、銅損が大きくなり効率が低下する。また、永久磁石からステータに到達する磁束が一定のままでは、ロータの回転速度が高い領域において、ステータコアに生じる鉄損も大きくなり効率が低下する。そこで、ロータが備える永久磁石からステータに到達する磁束をロータの回転速度に応じて変化させる可変磁束型の回転電機が提案されている。特開2007−159219号公報(特許文献1)には、同軸に配置された内周側ロータ(11)、外周側ロータ(12)、遊星歯車機構(14)とにより構成した可変磁束型の回転電機(10)が開示されている(図1〜図4、要約等参照。括弧内の符号は、特許文献1のもの。)。
【0003】
ところで、埋込磁石型の回転電機(IPMSM : interior PMSM)では、ロータ表面の磁気抵抗がロータ回転方向の位置によって異なることが多い。このためIPMSMでは、ステータコイルを流れる電流により生じる電機子磁束と永久磁石の界磁磁束との吸引反発力によるマグネットトルクの他、電機子磁束とロータの鉄心との吸引反発力によるリラクタンストルクも回転電機のトルクとして利用することができる。可変磁束型ではない回転電機では、ロータ表面の磁気抵抗の分布がほぼ一定であるが、可変磁束型の回転電機では、ロータ表面の磁気抵抗の分布が変化する。つまり、可変磁束型の回転電機では、界磁磁束の調整によって、マグネットトルクだけではなくリラクタンストルクも変化することになる。従って、可変磁束型の回転電機の界磁磁束を調整するに際しては、リラクタンストルクに影響するロータ表面の磁気抵抗も考慮することが好ましい。また、回転電機は、電動機(力行運転)及び発電機(回生運転)として機能させることが可能であり、界磁磁束の調整に際しては、回転電機の運転状態(力行運転状態又は回生運転状態)なども考慮されることが好ましい。
【0004】
しかし、単純にトルク及び回転速度に応じて界磁磁束の調整を行なうだけでは、このような回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することができない場合がある。また、これらを考慮して界磁磁束の調整を行なう際に、2つのロータ間の位相の調整量が大きくなる状況が生じると、必要な界磁磁束を得られるまでの時間が長くなり、応答性が悪化したり、機械損の増加によって回転電機の損失が増加したりする可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−159219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記背景に鑑みて、可変磁束型の回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することを可能としつつ、界磁調整のためのロータ間位相の調整量を少なく抑えることができる技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みた本発明に係る回転電機制御装置の特徴構成は、
一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、前記ロータユニットに備えられた永久磁石により生じて前記ステータコイルに鎖交する界磁磁束を、前記相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
前記界磁磁束を調整するための前記相対位置を示す位相指令が目標トルク及び回転速度に応じて規定された位相マップに基づいて、前記位相指令を決定して、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位置を調整する相対位相制御部を備え、
前記位相マップは、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で前記位相指令が規定された低回転速度域位相マップと、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップとを有し、
前記相対位相制御部は、前記回転速度に基づいて、前記低回転速度域位相マップと前記高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、前記位相指令を決定する点にある。
【0008】
上述したように、PMSMでは、ロータの回転速度が上昇するに従ってステータコイルに発生する誘起電圧が高くなるが、この誘起電圧が駆動電圧を超えないように制御する必要がある。このため、回転速度に応じてロータからの界磁磁界が調整される。但し、界磁磁束の調整によってロータ表面の磁気抵抗も変化するため、界磁磁束の調整はマグネットトルクだけでなく、リラクタンストルクにも影響を与える。このため、本特徴構成のように、目標トルクと回転速度とに応じて規定された位相マップに基づいて、第1ロータと第2ロータとの相対位置を示す位相指令が決定されると好適である。ここで、回転電機が低回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が大きく制限されていない可能性が高いので、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令が規定された低回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定されると好適である。一方、回転電機が高回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が大きく制限されている可能性が高くなるので、界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定されると好適である。本特徴構成によれば、相対位相制御部は、回転速度に基づいて低回転速度域位相マップと高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、位相指令を決定する。これにより、相対位相制御部は、それぞれの回転速度域に応じて、ロータ間位相の調整量が抑制された位相指令を決定することが可能となる。このように、本特徴構成によれば、位相マップを用いることによって、可変磁束型の回転電機の運転状態や界磁磁束の調整によるロータ表面の磁気抵抗の変化などを考慮して界磁磁束の調整を最適に制御することを可能としつつ、界磁調整のためのロータ間位相の調整量を少なく抑えることが可能となる。
【0009】
ところで、回転電機の回転速度が低回転速度域から高回転速度域に移行した場合、力行運転状態であれば逆起電力を抑制するために、回生運転状態であれば発電量を調整するために、界磁磁束を制限する必要が生じる可能性が高くなる。一方、回転電機の回転速度が高回転速度域から低回転速度域に移行した場合は、逆に界磁磁束を制限する必要性が低下する可能性が高くなる。従って、上述したように、各回転速度域に適した位相マップが回転速度に基づいて参照され、位相指令が決定されると好ましい。ここで、回転速度が高回転速度域から低回転速度域に移行する場合の1つの形態を考えると、高回転速度域での力行運転を休止して、慣性力による回生運転を行っている際に回転速度が低下して低回転速度域に移行する場合がある。例えば、回転電機が車両の駆動力源などの場合、アクセルペダルなどの加速手段をゆるめることによって回転電機の運転状態が回生運転状態となり、回転速度が低下するような事例である。この際、再び加速手段が操作されることによって、回転電機が力行運転状態に切り替わる場合がある。そして、力行運転が再開されると回転速度が上昇し、再び低回転速度域から高回転速度域へと回転速度が移行する可能性がある。このような場合には、回転速度及び目標トルクの双方が変化し、例えば、力行運転状態で高回転速度域から、回生運転状態で高回転速度域、回生運転状態で低回転速度域、力行運転状態で低回転速度域、そして、力行運転状態で高回転速度域と、運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わる可能性がある。一方、単純に回転速度が上昇する場合には、力行運転状態で低回転速度域から、力行運転状態で高回転速度域への切り替わりや、回生運転状態で低回転速度域から、回生運転状態で高回転速度域への切り替わりとなるから、運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わる可能性は比較的低い。運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わると、制御の安定性が低下したり、両ロータの相対位置の調整量が増加して損失が増加したりする可能性がある。
【0010】
このように運転状態と回転速度域とが複合的に切り替わることをできるだけ抑制し、高い安定性及びできるだけ少ない調整量で相対位置の制御を実行するために、本発明に係る回転電機制御装置が以下のように構成されると好適である。つまり、1つの好適な態様として、本発明に係る回転電機制御装置の前記相対位相制御部は、前記回転速度が低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値以上となった場合には、参照先の前記位相マップを前記低回転速度域位相マップから前記高回転速度域位相マップに切り変え、前記回転速度が高回転速度から低回転速度へ変化して前記回転速度しきい値未満となった場合には、さらに前記回転電機が力行運転状態であることを条件として、参照先の前記位相マップを前記高回転速度域位相マップから前記低回転速度域位相マップに切り変える構成とするとよい。
【0011】
上述したように、回転電機が低回転速度域で動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性は低い。一方、回転電機が高速で動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性が比較的高くなる。従って、上述したように、低回転速度域に対応する低回転速度域位相マップは、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令が規定されていると好ましい。一方、高回転速度域に対応する回転速度域位相マップは、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令が規定されていると好ましい。さらに、これら第1位相範囲及び第2位相範囲は、界磁磁束が最大となる相対位置や界磁磁束が最小となる相対位置などを基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記第1位相範囲が、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定され、前記第2位相範囲が、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定されていると好適である。
【0012】
上述したように、回転電機が高回転速度域で動作している場合には、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令が規定された高回転速度域位相マップに基づいて位相指令が決定される。界磁磁束が最小となる相対位置は、回転電機の力行運転状態及び回生運転状態でのトルクが最小となる相対位置である。第2位相範囲は、この相対位置をほぼ中央として、一方の外縁へ行くほど回転電機の力行運転状態の時のトルクが大きくなり、他方の外縁へ行くほど回生運転状態でのトルクが大きくなるように設定されると、回転電機の運転状態に応じて最適な位相指令が規定できて好適である。つまり、第2位相範囲が、力行運転状態及び回生運転状態でのトルクに応じた相対位置を基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。
【0013】
ところで、可変磁束型ではない回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗に変化は生じないが、可変磁束型の回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗も変化する。そして、このようなロータ(ロータユニット)の表面の磁気抵抗が変化する回転電機では、ロータ(ロータユニット)の表面において永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束のロータ(ロータユニット)の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となる場合がある。回転電機を制御する手法として、永久磁石により構成される磁極の中心を通る軸と、この軸に対して電気的に直交する軸とを、永久磁石基準の直交軸としたベクトル空間におけるベクトル制御が知られている。しかし、ロータ(ロータユニット)の表面において永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束のロータ(ロータユニット)の表面における磁束密度最大位置とが異なる場合には、このような永久磁石基準のベクトル空間に対して電気角上の回転偏差を有した回転ベクトル空間においてベクトル制御が実施される場合がある。この回転ベクトル空間において回転電機を制御すると、回転偏差の影響により、例えばマグネットトルクの一部に回生側のトルクが生じるような現象も生じる。これは、回転電機に対する損失ともなる。従って、特に界磁磁束を制限する場合の多い高回転速度域での動作に対応する第2位相範囲は、力行運転状態及び回生運転状態でのトルクや損失の少なさに応じて定量的に設定されると好適である。このような定量的な設定は、例えば、第1ロータ及び第2ロータの周方向の相対位置を示す位相の可変範囲の全域を、原点を中心とする360°の描画範囲で表すグラフにおける位相範囲によって規定することができる。力行運転に適した位相範囲、回生運転に適した位相範囲は、当該グラフにおける90°の描画範囲ごとに現れるので、これらの位相範囲は、当該グラフに適切な直交軸を設定した場合における象限として規定されてもよい。
【0014】
具体的な1つの態様として、本発明に係る回転電機制御装置は、前記回転電機が、前記相対位置の調整により、前記ロータユニットの表面において前記永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、前記ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束の前記ロータユニットの表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものであり、前記第2位相範囲が、前記回転電機の力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置から、前記力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置及び回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置を順に経由して、前記回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置までの範囲に設定されていると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】可変磁束型の回転電機の構成の一例を示すスケルトン図
【図2】電気角1周期分における磁極及び突極の関係の一例を示す図
【図3】界磁磁束が最大となる相対位相(0度)の磁束分布の一例を示す図
【図4】界磁磁束が最小となる相対位相(90度)の磁束分布の一例を示す図
【図5】相対位相90度の電機子磁束の磁束分布の一例を示す図
【図6】相対位相45度の電機子磁束の磁束分布の一例を示す図
【図7】回転電機制御装置の構成の一例を模式的に示すブロック図
【図8】ベクトル空間の相対関係を示す図
【図9】第1位相範囲及び第2位相範囲の一例を示す図
【図10】低回転速度域位相マップの一例を示す図
【図11】高回転速度域位相マップの一例を示す図
【図12】界磁磁束調整時の相対位置の調整幅(位相差)の一例を示す図
【図13】相対位相0度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図14】相対位相45度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図15】相対位相67度の時のトルク特性の一例を示すグラフ
【図16】第1位相範囲及び第2位相範囲の他の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を、可変磁束型の回転電機を制御対象とする回転電機制御装置を例として説明する。はじめに、図1〜図6を利用して、本実施形態において例示する可変磁束型の回転電機の構造、及び電気的な特性(特に、ロータの非対称突極性)について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態で例示する可変磁束型の回転電機100は、回転機構部20と、相対位置調整機構50とを有して構成される。回転機構部20は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ41及び第2ロータ42を有するロータユニット40と、ステータコイル32を有するステータ30とを備えて構成されている。本例では、回転機構部20は、相対的にステータ30の内側にロータユニット40が備えられたインナーロータ型の構造である。ロータユニット40は、相対的に内側に配置される内側ロータ(第1ロータ41)と相対的に外側に配置される外側ロータ(第2ロータ42)とを有して構成されている。第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置は、相対位置調整機構50により調整可能である。ステータコイル32に鎖交する界磁磁束は、この相対位置の調整により、つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向(ロータ回転方向)の相対位置に応じて変化する。即ち、回転電機100は、ロータユニット40に備えられた永久磁石により生じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束を、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機である。
【0018】
ロータユニット40を構成する第1ロータ41及び第2ロータ42の少なくとも一方には永久磁石が備えられる。本実施形態では、第1ロータ41のみに永久磁石が備えられる。図2、図3等に示すように、第1ロータ41は、ロータコア(第1ロータコア43)の内部に埋め込まれて、ステータコイル32と鎖交する界磁磁束を提供する永久磁石24(24N,24S)を備えて構成される。一方、第2ロータ42は、界磁磁束に対して磁気抵抗となる磁気抵抗部としての空隙48をロータコア(第2ロータコア44)に備えて構成される。これら2つのロータ41,42の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に鎖交する界磁磁束が変化し、可変磁束型の回転機構部20が実現される。図1に示すように、回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との周方向の相対位置を調整する相対位置調整機構50と共に可変磁束型の回転電機100を構成する。回転電機100の駆動力(トルクと同義)は出力軸Xに伝達可能に構成されている。
【0019】
回転機構部20の電機子を構成するステータ30は、ステータコア31とステータコア31に巻装されたステータコイル32とを備えている。ステータコア31は、本例では、複数枚の電磁鋼板を積層して構成されており、円筒状に形成されてケース(図示は省略)に固定されている。界磁を構成するロータユニット40は、ステータ30の径内方向R1側において、ステータ30に対して回転軸周りに回転可能に上記ケースに支持されている(図示は省略)。第1ロータ41の第1ロータコア43及び第2ロータ42の第2ロータコア44は、本例では、ステータコア31と同様に複数枚の電磁鋼板を積層して構成されている。ロータユニット40を構成する第2ロータ42は、一定の径方向厚さを有する円筒状に形成され、内側に第1ロータ41を備えている。第1ロータ41と第2ロータ42とは、同軸に配置される。図1に示すように、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は、径方向R視において重複するように配置されている。本例では、第1ロータコア43及び第2ロータコア44は、軸方向Lに同じ長さ(軸方向長さ)を有し、径方向R視において完全に重複するように配置されている。第1ロータ41は、第1ロータコア43を支持すると共に第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45を備えている。また、第2ロータ42は、第2ロータコア44を支持すると共に第2ロータコア44と一体回転する、第2ロータコア支持部材46を備えている。
【0020】
本実施形態では、図2及び図3に示すように、第2ロータコア44は、両ロータ41,42の相対位置が所定の基準位置(相対位相γ=0度)にある状態で、周方向に隣接する磁極Fの磁極端部FTの間(即ち、磁極間)に配置され、界磁磁束に対して磁気抵抗となる空隙(磁極間空隙、磁気抵抗部)48を備えている。この空隙48により、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置に応じてステータコイル32に到達する鎖交磁束が変化する。
【0021】
図3及び図4は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置(相対位相γ)に応じた、マグネットトルクに関係する界磁磁束(d軸磁束)を破線により例示している。相対位相γは、電気角で示されている。図3及び図4は、ロータユニット40の軸直交断面を示しており、おおよそ電気角の1周期に相当する部分断面図である。例えば、図3は、永久磁石24から第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が抑制されてステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態を例示している。一方、図4は、第2ロータコア44内を通る漏れ磁束が多くなってステータ30に到達する磁束が少なくなる状態を例示している。このように、永久磁石24及び空隙48は、ステータ30に到達する磁束(界磁磁束)が多くなる状態(図3:γ=0度)と、ステータ30に到達する磁束が少なくなる状態(図4:γ=90度)との間で遷移可能に配置されている。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整することによって、ステータコイル32に到達する鎖交磁束が調整可能である。
【0022】
図1に示すように、相対位置調整機構50は、第1ロータコア43と一体回転する第1ロータコア支持部材45と、第2ロータコア44と一体回転する第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整する機構である。本実施形態では、相対位置調整機構50は、第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52の2つの差動歯車装置(差動歯車機構)を備えて構成される。第1差動歯車装置51及び第2差動歯車装置52は、本実施形態では、3つの回転要素を備えたシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。第1差動歯車装置51は、複数のピニオンギヤを支持する第1キャリヤ51bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第1サンギヤ51a及び第1リングギヤ51cとを回転要素として有している。また、第2差動歯車装置52は、複数のピニオンギヤを支持する第2キャリヤ52bと、これらピニオンギヤにそれぞれ噛み合う第2サンギヤ52a及び第2リングギヤ52cとを回転要素として有している。
【0023】
第1サンギヤ51aは、第1ロータコア支持部材45と一体回転するように駆動連結され、第2サンギヤ52aは、第2ロータコア支持部材46と一体回転するように駆動連結されている。第1キャリヤ51b及び第2キャリヤ52bは、出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。これにより、第1ロータコア支持部材45及び第2ロータコア支持部材46は、相対位置調整機構50を介して出力軸Xに駆動連結される。即ち、本例では、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との双方が、相対位置調整機構50を介して共通の出力軸Xに駆動連結されている。また、第2リングギヤ52cは、リング状部材を介してケースの内壁80に固定されている。
【0024】
第1リングギヤ51cの外周面(径外方向R2を向く面、以下同様)にはウォームホイール54bが設けられている。このウォームホイール54bは、第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を調整するためのウォームギヤ54aと噛み合っている。ウォームギヤ54aは、モータなどの駆動力源(アクチュエータ)56と接続されている(図7参照)。この駆動力源56によりウォームギヤ54aを回転させることで、ウォームホイール54bを介して第1リングギヤ51cの回転位置(周方向位置)を変えることができる。第1リングギヤ51cの回転位置の調整時には駆動力源56によりウォームギヤ54aが回転駆動され、調整時以外では停止した駆動力源56を介してウォームギヤ54aが固定される。つまり、第1リングギヤ51cは、回転位置の調整時を除いて固定された状態となる。
【0025】
本実施形態では、第1キャリヤ51bと第2キャリヤ52bとは一体的に一体キャリヤ53を構成しており、一体キャリヤ53が出力軸Xと一体回転するように駆動連結されている。また、本実施形態では、第1差動歯車装置51と第2差動歯車装置52とは互いに同径に構成され、第1差動歯車装置51の歯数比(=第1サンギヤ51aの歯数/第1リングギヤ51cの歯数)と第2差動歯車装置52の歯数比(=第2サンギヤ52aの歯数/第2リングギヤ52cの歯数)とは互いに等しく設定されている。そして、第1リングギヤ51cの回転位置の調整時を除いて、第1リングギヤ51c及び第2リングギヤ52cの双方は固定された状態となる。よって、第1サンギヤ51aに駆動連結された第1ロータコア支持部材45と、第2サンギヤ52aに駆動連結された第2ロータコア支持部材46とは、互いに同じ回転速度(ロータ回転速度)で回転する。本実施形態では、出力軸Xの回転速度は、ロータ回転速度に対して減速されたものとなり、出力軸Xには、回転機構部20のトルクが増幅されて伝達される。
【0026】
上述したように、本実施形態では、第2リングギヤ52cがケースの内壁80に固定されているのに対し、第1リングギヤ51cは回転位置が調整可能となっている。即ち、キャリヤが一体的に形成された2つの遊星歯車機構において、一方のリングギヤを他方のリングギヤに対して周方向に相対移動(すなわち相対回転)させることが可能となっている。この相対回転に伴い、一方のサンギヤが他方のサンギヤに対して相対回転する。よって、第1リングギヤ51cの回転位置を調整することで、第1サンギヤ51aと第2サンギヤ52aとの間の周方向の相対位置を調整することができる。その結果、第1ロータコア支持部材45と第2ロータコア支持部材46との間の周方向の相対位置を調整することができる。
【0027】
上述したように、本実施形態の回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との間の周方向の相対位置を調整して、ステータコイル32に到達する鎖交磁束を調整することが可能である。回転機構部20を制御する好適な手法として、永久磁石の磁束(界磁磁束)の方向であるd軸と、このd軸に対して電気角で直交する方向であるq軸とのd−qベクトル空間を用いたベクトル制御が知られている。図2に示すように、d軸は、ロータユニット40の回転軸心からロータユニット40の表面における磁極Fの中心の位置である磁極中心位置PDへ向かう方向に沿った磁極中心軸FC(磁極軸)である。q軸は、ロータユニット40の回転軸心から、ロータユニット40の表面において磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置である磁極中心直交位置PQへ向かう方向に沿った磁極中心直交軸FXである。
【0028】
図5及び図6は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置に応じた電機子磁束(q軸磁束)を破線により例示している。つまり、図示される磁束は、ステータコイル32を流れる電流によって励磁されたものである。尚、図5及び図6も、界磁磁束を例示する図3及び図4と同様に、おおよそ電気角の1周期に相当するロータユニット40の軸直交方向の部分断面図である。図5に示す相対位置は、図4と同様に基準位置に対して電気角で90度ずれた相対位置(γ=90度)であり、図6に示す相対位置は、基準位置に対して電気角で45度ずれた相対位置(γ=45度)である。γ=90度の場合、空隙48はほぼ磁極中心位置PDに位置する。隣接する磁極Fの間のいわゆる突極、例えば図2の符号M2あるいはM3の範囲には空隙48が存在せず、磁性体の第1ロータコア43及び第2ロータコア44でほぼ満たされている。従って、ステータ30と対向する側であるロータユニット40の表面における突極のロータ回転方向の中心に対して対称に電機子磁束が分布する。
【0029】
ロータユニット40の表面における突極のロータ回転方向の中心は、磁極Fの間(突極)における電機子磁束の磁束密度最大位置(電機子磁束最大位置PL)に相当する。そして、電機子磁束最大位置PLは、上述した磁極中心直交位置PQに一致する。上述したように、界磁磁束を基準とした場合のd軸は、磁極中心位置PDを通る磁極中心軸FCであり、q軸は、磁極中心直交位置PQを通る磁極中心直交軸FXである。電機子磁束を基準とした場合のq軸は、ロータユニット40の回転軸心から電機子磁束最大位置PLへ向かう方向に沿った磁束密度最大軸(電機子磁束最大軸FL)である。図5に示すように、γが90度となる相対位置の場合には、界磁磁束を基準とした場合のq軸(磁極中心直交軸FX)と、電機子磁束を基準とした場合のq軸(電機子磁束最大軸FL)とが一致し、両軸の偏差δはゼロとなる。
【0030】
一方、図6に示すように、γ=45度の場合には、空隙48が突極の一部において磁気抵抗となる。このため、ロータユニット40の表面における電機子磁束の分布は、突極のロータ回転方向の中心に対して非対称となる。つまり、電機子磁束最大位置PLは、上述した磁極中心直交位置PQと一致しなくなる。従って、電機子磁束を基準とした場合のq軸である電機子磁束最大軸FLと、界磁磁束を基準とした場合のq軸である磁極中心直交軸FXとの間には、図6に示すように偏差δが生じる。
【0031】
本発明の回転電機制御装置は、このようにロータユニット40の表面において、磁極Fの中心(磁極中心位置PD)に対して電気的に直交する位置PQと、ステータコイル32を流れる電流により励磁される電機子磁束の隣接する磁極F間における電機子磁束最大位置PLとが異なり、非対称突極性を有する可変磁束型の回転電機を制御対象とする。そして、本発明の回転電機制御装置は、このような回転機構部20をロータユニット40と同速度で回転する回転座標系に設定された直交ベクトル空間におけるベクトル制御によって制御する。また、本発明の回転電機制御装置は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ41及び第2ロータ42を有するロータユニット40の、当該相対位置を制御する。以下、図7〜図15も利用して、そのような回転電機制御装置の好適な実施形態について説明する。
【0032】
図7に示すように、回転電機制御装置は、主として相対位置調整機構50を制御する機能部として、相対位相制御部7と、γマップ70(位相マップ)と、座標偏差マップ7aとを備えて構成されている。そして、駆動回路75を介して駆動力源56が駆動されることによって差動歯車装置51,52(特に第1差動歯車装置51)が駆動制御される。また、回転電機制御装置は、主として回転機構部20を制御する機能部として、トルク制御部(電流指令演算部)1と、電流指令マップ1aと、空間座標変換部2と、電流制御部(電圧指令演算部)3と、フィードバック電流座標変換部4と、電圧制御部(駆動指令演算部)5と、位置検出部93と、速度検出部94とを備えて構成されている。そして、直流電圧源8とステータコイル32との間で直流交流変換を行うインバータ6が駆動制御される。尚、本実施形態では、相対位相制御部7により演算された直交ベクトル空間の偏差δを用いて回転機構部20が駆動制御され、相対位置を示す相対位相γに基づいて電流指令マップ1aから電流指令が取得されるので、相対位相制御部7も回転機構部20を制御する機能部に含めてよい。
【0033】
回転機構部20及び相対位置調整機構50を制御する各機能部は、好適にはマイクロコンピュータやDSP(digital signal processor)などのハードウェアと、当該ハードウェア上で実行されるプログラムなどのソフトウェアとの協働によって実現される。従って、各機能部は、一部又は全てにおいて、同一のハードウェアや、同一のプログラムモジュールが兼用されるものであってよい。
【0034】
ここで、本実施形態の回転電機制御装置におけるベクトル制御に用いられるベクトル空間について説明する。図8に示すα軸及びβ軸は、ステータ30に設定される固定軸であり、α−βベクトル空間は固定座標系である。ステータ30に対するロータユニット40の位置が所定の基準位置である場合、α軸はd軸と一致し、β軸はq軸と一致する。つまり、固定座標系のα−βベクトル空間と、回転座標系のd−qベクトル空間とが一致する。本実施形態の場合、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γが変動するので、何れかのロータ、例えば第1ロータ41の位置を基準としてd軸及びq軸を規定する。ここでは、永久磁石24を備える第1ロータ41の回転軸心から磁極Fの中心に向かう方向をdM軸とし、dM軸に対して電気的に90度進んだ方向をqM軸とする。このdM軸とqM軸とを直交軸とする直交ベクトル空間を、第1ベクトル空間とする。つまり、第1ベクトル空間は、ロータユニット40の回転軸心から磁極Fの中心(磁極中心位置PD)に向かう方向に設定された磁極軸(磁極中心軸FC)に沿った方向を一方の軸(dM軸)とし、磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置(磁極中心直交位置PQ)に向かう方向を他方の軸(qM軸)とした空間である。
【0035】
ロータユニット40がステータ30に対して回転すると、固定座標系のα軸と回転座標系のdM軸との間には、電気角における回転角度θが生じる(β軸とqM軸との間も同様)。ロータユニット40の回転角度θは、レゾルバなどの回転センサ92を利用して計測され、位置検出部93においてα軸とdM軸との角度として検出される(図7参照)。当然ながら、回転センサ92が回転角度θを出力するように構成されていてもよい。この回転角度θを用いて、3相のステータコイル32と、2相のベクトル空間との間における電気信号の座標変換が行われる。
【0036】
dM軸及びqM軸により規定される第1ベクトル空間に対して、図8に示すdL軸及びqL軸により規定されるベクトル空間を第2ベクトル空間とする。第2ベクトル空間も回転座標系であり、第1ベクトル空間と同じ速度で同じ方向に回転する。図8に示すように、dL軸及びqL軸は、それぞれdM軸及びqM軸に対して偏差δを有する。図6に基づいて上述したように、電機子磁束を基準とした場合のq軸に相当する電機子磁束最大軸FLと、界磁磁束を基準とした場合のq軸に相当する磁極中心直交軸FXとの間には、偏差δが生じる場合がある。第2ベクトル空間は、第1ベクトル空間に対して、この偏差δが補正され、dL軸及びqL軸を直交軸とするベクトル空間である。つまり、第2ベクトル空間は、ロータユニット40の回転軸心から磁束密度最大位置(電機子磁束最大位置PL)に向かう方向に沿った方向を一方の軸(qL軸)とし、当該軸(qL軸)に直交する方向(ここでは、電気的に90度遅れた方向)を他方の軸(dL軸)とした空間である。本実施形態においては、この偏差δは、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γに応じて定まる。後述するように、相対位相制御部7は、相対位相γと偏差δとの関係が実験やシミュレーションによって予め設定された座標偏差マップ7aに基づいて偏差δを演算する。
【0037】
以下、図7のブロック図を参照しながら、回転電機制御装置の各機能部について説明する。相対位相制御部7は、界磁磁束を調整するための相対位置(相対位相γ)を示す位相指令γ*が目標トルクT*及び回転速度ωに応じて規定されたγマップ70(位相マップ)に基づいて、位相指令γ*を決定して、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置を調整する機能部である。このγマップ70は、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ)を含むように設定された第1位相範囲内で位相指令γ*が規定された低回転速度域位相マップ7Lと、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ)を含むように設定された第2位相範囲内で位相指令γ*が規定された高回転速度域位相マップ7Hとを有している。相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えて参照し、位相指令γ*を決定する。
【0038】
図9は、上述した第1位相範囲及び第2位相範囲の概念を示しており、ロータユニット40における電気角に対応した相対位相γを示している。γ=0°の軸は、図3に示した第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γ(=0°)に対応している。同様に、γ=90°の軸は、図4に示した第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γ(=90°)に対応している。図3及び図4を参照して上述したように、γ=0°は、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ)であり、γ=90°は、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ)である。例えば、図9において、γ=0°を内部に含むように設定された位相範囲(符号YLで示す位相範囲)は、第1位相範囲に相当する。同様に、図9において、γ=90°を内部に含むように設定された位相範囲(符号YHで示す位相範囲)は、第2位相範囲に相当する。第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが図9において破線部分を含む位相範囲に設定される場合、第1ロータ41及び第2ロータ42は、少なくとも相対位相γ=−90°(270°)〜+180°の範囲を周方向の一定の範囲として、この一定の範囲内で相対位置を調整可能に構成されている。
【0039】
例えば、回転電機100が低回転速度域で力行動作している場合には、界磁磁束を大きく制限する必要性は比較的低い。一方、回転電機100が高回転速度域で力行動作している場合には、逆起電力を抑制する観点から、界磁磁束を大きく制限する必要性が比較的高くなる。従って、低回転速度域に対応する低回転速度域位相マップ7Lは、界磁磁束が最大となる相対位置を内部に含むように設定された第1位相範囲YL内で位相指令γ*が規定されると好ましい。一方、高回転速度域に対応する高回転速度域位相マップ7Hは、界磁磁束の制限を優先して、界磁磁束が最小となる相対位置を内部に含むように設定された第2位相範囲YH内で位相指令γ*が規定されると好ましい。尚、本実施形態では、図9に破線で示した部分も含めて、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれ約180°の位相範囲を有する例を示しているが、当然ながら180°未満の範囲に設定されていてもよい。つまり、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置を含むように設定されていれば充分であり、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置を含むように設定されていれば充分である。
【0040】
但し、これら第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、界磁磁束が最大となる相対位置や界磁磁束が最小となる相対位置などを基準として定量的に設定されると、再現性も良く、種々の品種の回転電機への展開も容易となる。好適な態様として、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ=0°)を中心として設定されると好適である。また、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°)を中心として設定されると好適である。このように、中心位置を定めて位相範囲を設定する場合においても、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、それぞれ約180°の位相範囲を有することなく、180°未満の範囲に設定されていてもよい。尚、本実施形態では、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれγ=0°及び90°を中心として設定される例を示したが、当然ながらこれらの角度からずれた角度(5°及び95°など)を中心として設定してもよい。
【0041】
但し、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHが、それぞれ約180°の位相範囲を有していれば、低回転速度域位相マップ7L及び高回転速度域位相マップ7Hの何れを用いても、界磁磁束の調整範囲の全てをカバーすることが可能となる。つまり、隣接する磁極Fは、逆極性であるから、隣接する磁極Fの間隔は電気角の半周期、即ち180°に相当する。従って、例えば、相対位相γ=180°は、図4に示した例からさらに90°相対回転して、空隙48が実質的に図3に示した例と同じ相対位置に達した状態に対応する。従って、冗長性を持たせることによるフェールセーフ機能の付加や、制御の柔軟性を考慮すれば、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHのそれぞれが、約180°の位相範囲を有していることが好適である。さらに、上述したように、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、再現性や展開性を考慮すれば、定量的な基準を定めて設定されることが好ましい。従って、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、1つの態様として、以下のように設定されると好適である。
【0042】
即ち、1つの態様として、第1位相範囲YLは、界磁磁束が最大となる相対位置(相対位相γ=0°)を中心として、周方向の両側における界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°及び−90°)を外縁とする範囲に設定されているとよい。図9において破線部分を含む第1位相範囲YLは、この範囲に対応する。尚、電気角の一周期は360°であるから、図9における相対位相γ=270°は、−90°に相当する。また、相対位相γ=−90°は、図4に示した例とは逆方向へ90°相対回転した場合を示している。後述するように、相対位相γ=0°〜90°の位相範囲Y1は、位相範囲Y4に比べて回転電機100が力行動作する際に損失(鉄損、銅損、機械損などを総合した損失、以下同様。)が少ない位相範囲である。回転電機100が力行動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。また、相対位相γ=−90°〜0°の位相範囲Y4は、位相範囲Y1に比べて回転電機100が回生動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が回生動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。
【0043】
同様に好適な態様として、第2位相範囲YHは、界磁磁束が最小となる相対位置(相対位相γ=90°)を中心として、周方向の両側における界磁磁束が最大となる相対位置相対位相(γ=0°及び180°)を外縁とする範囲に設定されているとよい。図9において破線部分を含む第2位相範囲YHは、この範囲に対応する。上述したように、相対位相γ=180°は、図4に示した例からさらに90°相対回転して、空隙48が実質的に図3に示した例と同じ相対位置に達した状態に対応する。上述したように、相対位相γ=0°〜90°の位相範囲Y1は、位相範囲Y2に比べて回転電機100が力行動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が力行動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。また、相対位相γ=90°〜180°の位相範囲Y2は、位相範囲Y1に比べて回転電機100が回生動作する際に損失が少ない位相範囲である。回転電機100が回生動作する際には、この範囲から位相指令γ*が選択される。
【0044】
ここで、図9に示す相対位相γのグラフにおける各象限S1〜S4と、回転電機100の運転状態との関係について補足する。図9に示す相対位相γのグラフは、第1ロータ41及び第2ロータ42の周方向の相対位置を示す相対位相γの可変範囲の全域を、原点を中心とする360°の描画範囲で表す位相範囲によって規定したものとも言える。図8を参照して説明したように、ロータユニット40の表面の磁気抵抗が変化する場合、ロータユニット40の表面において永久磁石24により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイル32を流れる電流により誘起される電機子磁束のロータユニット40の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となる場合がある。つまり、永久磁石24を基準とした第1ベクトル空間と、後述するように実際に電流フィードバック制御が実施される空間である第2ベクトル空間との間に偏差δが生じる場合がある。この偏差δの影響により、例えば回転電機100が力行運転状態でのトルクの一部に回生側のトルクが生じるような現象も生じる。これは、回転電機100に対する損失となる。このため、図9に示す相対位相γのグラフにおける各象限S1〜S4は、力行又は回生の運転状態との関係で他の象限に比べて損失が少なくなる象限という観点から、力行運転と回生運転との何れに適しているかによって分類することが可能である。本実施形態においては、第1象限S1及び第3象限S3は、力行運転に適した象限(位相範囲)であり、第2象限S2及び第4象限S4は、回生運転に適した象限(位相範囲)である。
【0045】
このような各象限S1〜S4と回転電機100の運転状態との関係から導かれる1つの好適な態様として、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは下記のように設定されてもよい。ここで、回転電機100は、相対位置の調整により、ロータユニット40の表面において永久磁石24により構成される磁極Fの中心に対して電気的に直交する位置と、ステータコイル32を流れる電流により誘起される電機子磁束のロータユニット40の表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものである。そして、第1位相範囲YLは、回転電機100の回生運転に適した位相範囲(第4象限S4)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=−90°)から、回生運転に適した位相範囲(第4象限S4)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)及び力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)を順に経由して、力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)までの範囲に設定されると好適である。また、第2位相範囲YHは、回転電機100の力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=0°)から、力行運転に適した位相範囲(第1象限S1)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)及び回生運転に適した位相範囲(第2象限S2)での界磁磁束が最小となる相対位置(例えばγ=90°)を順に経由して、回生運転に適した位相範囲(第2象限S2)での界磁磁束が最大となる相対位置(例えばγ=180°)までの範囲に設定されると好適である。
【0046】
図10は低回転速度域位相マップ7Lの一例を示しており、図11は高回転速度域位相マップ7Hの一例を示している。それぞれ、正方向のトルクは力行運転状態におけるトルクを示し、負方向のトルクは回生運転状態におけるトルクを示している。上述したように、低回転速度域位相マップ7Lには、γ=−90°〜90°を第1位相範囲YLとして位相指令γ*が規定されている。また、高回転速度域位相マップ7Hには、γ=0°〜180°を第2位相範囲YHとして位相指令γ*が規定されている。
【0047】
図10及び図11における符号THは、高回転速度域と低回転速度域との境界となる回転速度ω(所定の回転速度しきい値)を示している。つまり、実質的に、回転速度しきい値TH以上の回転速度ωにおいては高回転速度域位相マップ7Hが選択され、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいては低回転速度域位相マップ7Lが選択される。これ以外の選択、例えば、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいて高回転速度域位相マップ7Hが選択される場合も有り得るが、これについては後述する。基本的には、相対位相制御部7は、回転速度ωが低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値TH以上となった場合には、参照先のγマップ70(位相マップ)を低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hに切り変える。また、回転速度ωが高回転速度から低回転速度へ変化して回転速度しきい値TH未満となった場合には、相対位相制御部7は、参照先のγマップ70(位相マップ)を高回転速度域位相マップ7Hから低回転速度域位相マップ7Lに切り変える。
【0048】
図10と図11とを比較すれば、回転速度しきい値TH未満の回転速度域において、低回転速度域位相マップ7Lの方が高回転速度域位相マップ7Hに比べて相対位相γの変化が緩やかである。例えば矢印A1の回転速度ωにおいて、図11の高回転速度域位相マップ7Hに比べて、図10の低回転速度域位相マップ7Lの方が相対位相γの変化を示す線数が少なく、相対位相γの変化が緩やかである。従って、低回転速度域においては、低回転速度域位相マップ7Lに基づいて、相対位置調整機構50が制御されると好適である。一方、回転速度しきい値TH以上の回転速度域においては、高回転速度域位相マップ7Hの変化が連続的であるのに対して、低回転速度域位相マップ7Lの変化には不連続点が生じる。例えば矢印A2の回転速度ωにおいて、図11の高回転速度域位相マップ7Hに比べて、図10の低回転速度域位相マップ7Lの方が相対位相γの変化を示す線数が多くなっている。詳細な相対位相γの値の変化を全て図10の図中に表現することができていないが、特にトルクが0[Nm]の近傍において、相対位相γの変化が不連続となる場合がある。例えば、図10の低回転速度域位相マップ7Lでは、矢印A2の回転速度ωにおいて、正トルクから0[Nm]を挟んで負トルクへ移行する際に、相対位相γがγ=60°からγ=−60°へと不連続に変化する。
【0049】
このような相対位相γの変化の緩やかさや、連続性は、位相調整の応答性や相対位置調整機構50を駆動する際の機械損にも影響する。従って、回転速度しきい値TH以上の回転速度ωにおいては高回転速度域位相マップ7Hが選択され、回転速度しきい値TH未満の回転速度ωにおいては低回転速度域位相マップ7Lが選択されると、位置調整の応答性の悪化や、回転電機100の損失(鉄損、銅損、機械損などを総合した損失)を効果的に抑制することができて好適である。
【0050】
図12は、本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合と、回転速度ωに関係なく共通した1種類のγマップ70を用いた場合との、界磁磁束調整時の相対位置の調整幅(位相差)の一例を示している。図12のグラフは、シミュレーション結果であり、回転速度とトルクとを定義した動作パターンを与えて、適時最適な相対位相γを演算した場合の調整幅(位相差)の変化を調べたものである。図12の下段の実線は、本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合を示しており、破線は、回転速度ωに関係なく共通した1種類のγマップ70を用いた場合を示している。本発明のように2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合の方が、位相の変化が少なく、より低損失な制御が実現可能であることが判る。損失をシミュレーションにより演算した結果によると、1種類のγマップ70を用いた場合の損失を100%として、2種類のγマップ70を切り換えて用いた場合の損失は96.5%に低減された。
【0051】
ところで、回転電機100の主たる用途が発電機の場合には、界磁磁束を制限して発電量を抑制する必要性は比較的低い。このため、可変磁束型の回転電機は、相対的に主たる用途が電動機であって、力行運転を休止した際の機械的な慣性力を利用して回生運転を行い、発電機として機能させる場合が多くなる。このような用途では、回生動作中には回転速度が上昇する可能性は高くなく、回転速度ωが上昇するのは専ら力行動作中となる。上述したように、相対位相制御部7は、回転速度ωに基づいて参照するγマップ70(位相マップ)を切り換える。例えば、回転速度ωが上昇し、低回転速度域から高回転速度域に移行する際には、力行運転状態である可能性が高い。従って、回転速度のさらなる上昇に伴って界磁磁束を制限する必要が生じる可能性も高くなる。このため、回転速度ωが上昇している状況では、速やかに低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hへと参照するγマップ70が切り換えられることが好ましい。
【0052】
一方、回転速度ωが高回転速度域から低回転速度域に移行する場合の1つの形態としては、上述したように、高回転速度域での力行運転を休止して、慣性力による回生運転を行っている際に回転速度が低下して低回転速度域に移行した場合が考えられる。この場合、休止した力行運転が再開されると回転速度ωが上昇して、再び低回転速度域から高回転速度域へ回転速度ωが移行する可能性がある。例えば、回転電機100が車両の駆動力源などの場合、アクセルペダルなどの加速手段をゆるめることによって回転電機100の運転状態が回生運転状態となり、再び加速手段が操作されることによって、力行運転状態に切り替わる場合がある。つまり、運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わる可能性がある。これに対して、回転電機100が力行運転している状態で回転速度ωが低下し、高回転速度域から低回転速度域に移行した場合には、回転電機100は意図的に回転速度ωを低下させる制御を施されている可能性が高い。この状態から再度回転速度ωが上昇しても運転状態は同一であるから、運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わることはない。
【0053】
このように運転状態と参照先のγマップ70とが複合的に切り替わることをできるだけ抑制し、高い安定性で相対位置の制御を実行するための1つの好適な態様として、相対位相制御部7が以下のように、低回転速度域位相マップ7Lと高回転速度域位相マップ7Hとを切り換えられるとよい。つまり、回転速度ωが低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値TH以上となった場合、相対位相制御部7は、参照先のγマップ70を低回転速度域位相マップ7Lから高回転速度域位相マップ7Hに切り変える。一方、回転速度ωが高回転速度から低回転速度へ変化して回転速度しきい値TH未満となった場合は、相対位相制御部7は、さらに回転電機100が力行運転状態であることを条件として、参照先のγマップ70を高回転速度域位相マップ7Hから低回転速度域位相マップ7Lに切り変える。
【0054】
尚、図9から明らかなように、本実施形態においては、第1位相範囲YLと、第2位相範囲YHとは、力行動作状態において第2象限S2及び第4象限S4に比べて低損失な象限である第1象限S1を共通に含んでいる。当然ながら、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHは、第1象限S1〜第4象限S4の何れを共通な象限としても設定可能である。しかし、上述したように、γマップ70の切換は、力行運転状態であることも条件として実施される場合がある。本実施形態においては、低回転速度域位相マップ7Lも、高回転速度域位相マップ7Hも、力行運転状態においては共に第1象限S1における相対位相γが位相指令γ*として規定されているから、円滑な切換及び円滑な制御が実現でき、損失も低減される。尚、力行動作状態においてより低損失な象限を共通に含むという観点からは、第3象限S3を共通な象限として、第1位相範囲YLが第2象限S2及び第3象限S3に設定され、第2位相範囲YHが第3象限S3及び第4象限S4に設定されてもよい。
【0055】
相対位相制御部7は、このようにして設定した位相指令γ*に基づいて、好適にはフィードバック制御により駆動力源56を制御し、相対位置調整機構50を駆動制御する。相対位置調整機構50の実際の移動量は、センサ等によって検出された実際の相対位相、あるいは駆動回路75に与えた駆動信号から予測される推測値として、相対位相制御部7により取得される。相対位相制御部7は、検出された相対位相や推測値としての相対位相を、相対位相γとしてトルク制御部1に伝達する。
【0056】
トルク制御部1(電流指令演算部)は、目標トルクT*及び回転速度ωに基づき、相対位相γに対応するトルクマップ(電流指令マップ1a)を参照してステータコイル32に流す電流の指令である電流指令id_M*,iq_M*を演算する。これらの電流指令id_M*,iq_M*は、dM軸及びqM軸によって規定される第1ベクトル空間において演算される。電流指令マップ1aは、図13〜図15に例示するようなトルク特性(トルクマップ)に基づいて予め生成されたマップである。尚、必要に応じてトルク制御部1は、直流電圧源8の正極Pと負極Nとの間の直流電圧に対するステータコイル32の3相交流電圧の実効値の比率であり、変換率を示す変調率MIも用いて電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0057】
可変磁束型である回転機構部20は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位置によって界磁磁束の特性が変化する。このため、回転電機制御装置は、図13〜図15に例示するように、相対位置(相対位相γ)に応じた複数のトルクマップを有している。図13は、第1ロータ41と第2ロータ42との相対位相γが0度の状態での両ベクトル空間でのトルク特性の一例を示している。同様に、図14は相対位相γが45度の状態、図15は相対位相γが67度の状態でのトルク特性を示している。図13〜図15の各分図(a)は、第1ベクトル空間におけるトルク特性を示しており、図13〜図15の各分図(b)は第2ベクトル空間におけるトルク特性を示している。トルク制御部1は、相対位相制御部7から伝達された相対位相γに対応するトルクマップ(電流指令マップ1a)を用いて電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0058】
本実施形態の回転機構部20(回転電機100)のような可変磁束型の回転電機は、界磁磁束を電気的に増減するためにトルクに寄与しないd軸電流を流すことによる効率低下を抑制することを1つの目的として採用される。しかし、実際には、相対位置調整機構50を用いた構造的な界磁磁束の調整と、弱め界磁制御や強め界磁制御などの電気的な界磁磁束の調整とが併用される場合も多い。弱め界磁制御や強め界磁制御などの界磁調整制御においては、界磁磁束と同方向の磁束を発生させるd軸電流を増減させることによって、電気的に界磁磁束が調整される。後述するように、電気的な界磁調整制御に際して、第1ベクトル空間においては、ほぼd軸電流のみを考慮すれば充分であるが、第2ベクトル空間では、d軸電流とq軸電流との双方を考慮する必要が生じる。このため、制御が容易な第1ベクトル空間において電気的な界磁調整制御を行うことが好ましく、トルク制御部(電流指令演算部)1は、第1ベクトル空間において電流指令を演算する。
【0059】
図13〜図15において、細い実線は所定のトルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す等トルク線である。点線は、ロータユニット40の回転速度ωと直流電圧に応じて設定され、設定可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す電圧制限楕円(電圧速度楕円)である。MTで示す太い実線は、最も高い効率で各トルクを出力可能なd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡を示す最大トルク線である。尚、この最大トルク線は一例であり、電圧制限楕円の内側で実行される標準的な基本制御の際の電流指令として設定され、トルクに応じた基本制御の際のベクトル軌跡を示したもの(基本制御線)であれば、最大トルク線に限定されるものではない。LTで示す太い実線は、各等トルク線が電圧制限楕円の接線となる際の接点のベクトル軌跡に相当し、各トルクを出力可能な限界のd軸電流とq軸電流との組み合わせのベクトル軌跡である限界トルク線である。
【0060】
図13〜図15に示すトルク特性において、電気的な界磁調整制御が不要な場合には、標準的な基本制御が実施され、電流指令は、トルク指令T*に応じた等トルク線と最大トルク線(基本制御線)との交点のd軸電流及びq軸電流の値となる。電気的に界磁磁束を調整する場合、例えば弱め界磁制御を実施する際には、等トルク線と最大トルク線MTとの交点から限界トルク線に向かって等トルク線上を進む点におけるd軸電流及びq軸電流の値が電流指令となる。
【0061】
図13〜図15の各分図(a)を参照すれば、第1ベクトル空間においては、相対位相γに拘わらず、弱め界磁制御の際に電流はd軸に沿って変化して電流量が増加するが、q軸電流はほぼ一定で変化しない。一方、図13〜図15の各分図(b)を参照すれば、第2ベクトル空間においては、弱め界磁制御の際に、相対位相γが大きくなると、d軸電流のみでなくq軸電流も変化する。例えば、図13(b)に示すように相対位相γが0度の場合には、第2ベクトル空間においても第1ベクトル空間と同様に、ほぼd軸電流のみが変化してq軸電流は一定であるが、相対位相γが45度の図14(b)では、第1ベクトル空間に比べてq軸電流の変化が大きい。相対位相γが67度の図15(b)では、さらにq軸電流の変化が大きくなっている。
【0062】
このように、弱め界磁制御など、界磁磁束を調整するために変化させる電流指令が2つの軸を対象とすると、電流指令を決定するための演算が煩雑となる。第1ベクトル空間では、ほぼd軸電流のみを考慮することで、電気的な界磁調整制御を含めて電流指令を決定することができるので、本実施形態では、トルク制御部1は、第1ベクトル空間における電流指令id_M*,iq_M*を演算する。
【0063】
一方、後段の電流制御部(電圧指令演算部)3では、第2ベクトル空間において電流フィードバック制御を行って電圧指令vd_L*,vq_L*が演算される。上述したように、第1ベクトル空間と第2ベクトル空間とは、その座標軸に偏差δが存在する。電流制御部3は、第2ベクトル空間において電圧指令を演算するので、電流指令も第2ベクトル空間の指令に変換する必要がある。そこで、空間座標変換部2は、公知の座標変換演算によって、第1ベクトル空間において演算された電流指令id_M*,iq_M*を、偏差δを用いて、第2ベクトル空間における電流指令id_L*(=id_M*・cosδ+iq_M*・sinδ),iq_L*(=iq_M*・cosδ−id_M*・sinδ)に座標変換する。
【0064】
電流制御部3は、第2ベクトル空間において電流フィードバック制御を行って電圧指令vd_L*,vq_L*を演算する。具体的には、電流センサ91によって測定された、実際にステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwをフィードバックし、電流指令id_L*,iq_L*との偏差を取って比例積分(PI)制御や比例微積分(PID)制御を実施する。尚、本実施形態では、ホール効果を利用してバスバーなどの電流配線に近接して非接触で電流を検出する電流センサ91を例示している。また、本実施形態では、3相全ての電流を検出する例を示しているが、3相は平衡しているので、2相のみを検出して残りの1相は演算により求めてもよい。
【0065】
uvw相の3相のステータコイル32を流れる実電流iu,iv,iwは、3相交流であるからフィードバック電流座標変換部4において2相のフィードバック電流に変換される。フィードバック電流を用いる電流制御部3は、第2ベクトル空間においてPI制御やPID制御を実施するので、フィードバック電流座標変換部4は、公知の変換式を用いて、3相電流を第2ベクトル空間における2相のフィードバック電流id_L,iq_Lに変換する。一般的には、3相から2相への変換に際しては、固定座標系であるα−βベクトル空間と回転座標系との角度、例えば、図8に示すロータユニット40の回転角度θに基づいて座標変換される。しかし、図8に示すように回転角度θは第1ベクトル空間に対する回転角度であり、第2ベクトル空間に対する回転角度φは、(θ+δ)となる。フィードバック電流座標変換部4は、一例として、3相フィードバック電流iu,iv,iwをα−β軸ベクトル空間の2相電流iα,iβに変換し、さらに第2ベクトル空間のフィードバック電流id_L,iq_Lに変換する。
【0066】
電流制御部3では、第2ベクトル空間における電圧方程式(下記に示す式(1))に基づいて電流フィードバック制御を実施する。ここで、vdL:dL軸電圧、vqL:qL軸電圧、idL:dL軸電流、iqL:qL軸電流、Ra:ステータコイルの抵抗成分、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Ψa:ステータコイルの鎖交磁束、ω:ロータの回転速度、p:微分演算子である。
【0067】
【数1】
【0068】
電流制御部3による電流制御は、変化させたい電流にインダクタンスを乗じて電圧(電圧指令)を得ることによって実現される。上記式(1)から、電流変化を生じさせるための電圧指令の変化量のみを取り出して変形すると、下記式(2)となる。ここで、KL及びKMは、PI制御やPID制御におけるゲイン係数である。
【0069】
【数2】
【0070】
詳細な説明は省略するが、第2ベクトル空間における電圧方程式を用いると、d軸(dL軸)とq軸(qL軸)との2つの軸が独立する。つまり、d軸電流はd軸電圧のみで変化し、q軸電流はq軸電圧のみで変化する。これに対して、第1ベクトル空間における電圧方程式では、d軸(dM軸)及びq軸(qM軸)が独立しておらず、d軸電流及びq軸電流は、d軸電圧とq軸電圧との双方の影響で変化する。このため、電圧指令を決定するための演算が煩雑となり、演算負荷も増大することになる。本実施形態では、電流を変化させるために、第2ベクトル空間における電圧指令vd_L*及びvq_L*を演算するので、非対称突極性を有する回転電機であっても演算負荷を軽減することが可能となる。
【0071】
電圧制御部(駆動指令演算部)5は、電圧指令vd_L*及びvq_L*に基づいてインバータ6を構成するIGBTなどのスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成して、インバータ6をスイッチング制御する。インバータ6は、よく知られているように、3相それぞれに対応する3レッグのブリッジ回路により構成される。直流電圧源8の正極Pと負極Nとの間に2つのIGBTが直列に接続され、この直列回路が3回線並列接続される。つまり、モータのu相、v相、w相に対応するステータコイル32のそれぞれに1組の直列回路(アーム)が対応したブリッジ回路が構成される。対となる各相のIGBTによる直列回路の中間点、つまり、IGBTの接続点はステータコイル32にそれぞれ接続される。尚、IGBTには、それぞれフリーホイールダイオード(回生ダイオード)が並列に接続される。フリーホイールダイオードは、カソード端子がIGBTのコレクタ端子に接続され、アノード端子がIGBTのエミッタ端子に接続される形で、IGBTに対して並列に接続される。
【0072】
駆動信号は、例えば各IGBTのゲート駆動信号として生成される。一般的に、インバータを駆動するパワー系の電気回路と、マイクロコンピュータなどの電子回路とは、電源電圧が大きく異なる。このため、低電圧の電子回路により生成されたIGBTのゲート駆動信号は、ドライバ回路を介して高電圧のパワー系の電気回路に配置された各IGBTに供給される。図7では、このドライバ回路もインバータ6に含むものとして図示している。尚、電圧制御部5における演算は、第1ベクトル空間及び第2ベクトル空間の何れで実施してもよい。
【0073】
〔その他の実施形態〕
以下、本発明のその他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0074】
(1)上記実施形態においては、一定の範囲内(例えばγ=−90°〜180°)で周方向の相対位置を調整する場合を例として説明したが、360°を超えて相対位置を調整するようにしてもよい。つまり、第1ロータ41と第2ロータ42とが、周方向の両方向に際限なく相対回転可能な場合には、一定の範囲を無限域に設定してもよい。例えば、現在の相対位置がγ=30°であり、目標となる相対位置がγ=170°の場合、この目標となる相対位置をγ=−10°と読み替える。30°と170°とでは、調整幅(位相差)が140°であるが、30°と−10°とでは、調整幅は40°となり、少ない調整幅による相対位置の調整が可能となる。同様に、目標となる相対位置はγ=170°のままで、現在の相対位置をγ=210°と読み替えてもよい。これにより、位相調整の応答性を向上させ、相対位置調整機構50の機械損などの損失を低減することが可能となる。但し、リミッタが無いために、調整に誤差が生じた場合には、その誤差が累積されてしまう可能性がある。従って、このように一定の範囲を無限域に設定する場合には、リセット機構などが付加されると好適である。
【0075】
(2)上記実施形態では、可変磁束型の回転機構部20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている構成を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられてもよい。また、第2ロータ42のみに永久磁石24が備えられ、第1ロータ41に空隙が形成された構成とすることもできる。また、それぞれのロータ41,42が、永久磁石を備えると共に空隙を有していてもよい。当然ながら、永久磁石24の配置方向及び形状、空隙の方向及び形状等も、本実施形態に限定されるものではない。尚、界磁磁束を変更するための機構は、上記各形態に限定されることなく、様々な形態及び方式を用いることが可能である。例えば、ロータ内の永久磁石の位置や向きを変更することによって可変磁束型の回転電機が実現されてもよい。
【0076】
(3)上述した本発明の実施形態では、回転機構部20として、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられており、界磁磁束が最大の相対位置と界磁磁束が最小の相対位置との位相差は、電気角で90°である。しかし、上述したように、回転機構部20は、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられる構成であってもよい。例えば、特許文献1の図4には、そのような回転機構部の一例が示されている。この場合には、特許文献1の図4からも明らかなように、界磁磁束が最大の相対位置と界磁磁束が最小の相対位置との位相差が、電気角で180°となる。上述した本発明の実施形態の回転機構部20のように、第1ロータ41のみに永久磁石24が備えられている場合には、2つのロータの相対位置は、図9に例示したように電気角360°で元の相対位置と等価な相対位置となる。しかし、第1ロータ41及び第2ロータ42の双方に永久磁石24が備えられる構成の場合には、図16に例示するように、2つのロータの相対位置は、電気角720°で元の相対位置と等価な相対位置となる。従って、第1位相範囲YL及び第2位相範囲YHも、この関係に基づいて、例えばそれぞれ360°の範囲に設定される。中心となる相対位相γなどについては、上述した本発明の実施形態を適用可能であるから、詳細な説明は省略する。
【0077】
(4)上記実施形態においては、ロータユニットとステータとが径方向に重複して設置される構成を例示した。しかし、この構成に限定されることなく、ロータユニットとステータとが軸方向に重複して設置されるアキシャル型の回転電機であってもよい。また、上記実施形態では、インナロータ型の回転電機を例として説明したが、当然ながらアウタロータ型の回転電機に適用することもできる。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、本発明及び本発明と均等な構成を備え、発明の要旨を逸脱しなければ、上記実施形態の一部を適宜改変した構成も、当然に本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、当該ロータユニットに備えられた永久磁石により生じてステータコイルに鎖交する界磁磁束を、相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
γ :相対位相(相対位置)
7 :相対位相制御部
7H :高回転速度域位相マップ
7L :低回転速度域位相マップ
24 :永久磁石
30 :ステータ
32 :ステータコイル
40 :ロータユニット
41 :第1ロータ
42 :第2ロータ
70 :γマップ(位相マップ)
100 :回転電機
F :磁極
PD :磁極中心位置
PL :電機子磁束最大位置
PQ :磁極中心直交位置
YH :第2位相範囲
YL :第1位相範囲
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、前記ロータユニットに備えられた永久磁石により生じて前記ステータコイルに鎖交する界磁磁束を、前記相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
前記界磁磁束を調整するための前記相対位置を示す位相指令が目標トルク及び回転速度に応じて規定された位相マップに基づいて、前記位相指令を決定して、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位置を調整する相対位相制御部を備え、
前記位相マップは、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で前記位相指令が規定された低回転速度域位相マップと、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップとを有し、
前記相対位相制御部は、前記回転速度に基づいて、前記低回転速度域位相マップと前記高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、前記位相指令を決定する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記相対位相制御部は、前記回転速度が低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値以上となった場合には、参照先の前記位相マップを前記低回転速度域位相マップから前記高回転速度域位相マップに切り変え、前記回転速度が高回転速度から低回転速度へ変化して前記回転速度しきい値未満となった場合には、さらに前記回転電機が力行運転状態であることを条件として、参照先の前記位相マップを前記高回転速度域位相マップから前記低回転速度域位相マップに切り変える請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記第1位相範囲は、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定され、
前記第2位相範囲は、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定されている請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記回転電機は、前記相対位置の調整により、前記ロータユニットの表面において前記永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、前記ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束の前記ロータユニットの表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものであり、
前記第2位相範囲は、前記回転電機の力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置から、前記力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置及び回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置を順に経由して、前記回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置までの範囲に設定されている請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【請求項1】
一定の範囲内で周方向の相対位置を調整可能な第1ロータ及び第2ロータを有するロータユニットと、ステータコイルを有するステータとを備え、前記ロータユニットに備えられた永久磁石により生じて前記ステータコイルに鎖交する界磁磁束を、前記相対位置に応じて調整可能な可変磁束型の回転電機を制御する回転電機制御装置であって、
前記界磁磁束を調整するための前記相対位置を示す位相指令が目標トルク及び回転速度に応じて規定された位相マップに基づいて、前記位相指令を決定して、前記第1ロータと前記第2ロータとの相対位置を調整する相対位相制御部を備え、
前記位相マップは、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を含むように設定された第1位相範囲内で前記位相指令が規定された低回転速度域位相マップと、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を含むように設定された第2位相範囲内で前記位相指令が規定された高回転速度域位相マップとを有し、
前記相対位相制御部は、前記回転速度に基づいて、前記低回転速度域位相マップと前記高回転速度域位相マップとを切り換えて参照し、前記位相指令を決定する回転電機制御装置。
【請求項2】
前記相対位相制御部は、前記回転速度が低回転速度から高回転速度へ変化して所定の回転速度しきい値以上となった場合には、参照先の前記位相マップを前記低回転速度域位相マップから前記高回転速度域位相マップに切り変え、前記回転速度が高回転速度から低回転速度へ変化して前記回転速度しきい値未満となった場合には、さらに前記回転電機が力行運転状態であることを条件として、参照先の前記位相マップを前記高回転速度域位相マップから前記低回転速度域位相マップに切り変える請求項1に記載の回転電機制御装置。
【請求項3】
前記第1位相範囲は、前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定され、
前記第2位相範囲は、前記界磁磁束が最小となる前記相対位置を中心として、前記周方向の両側における前記界磁磁束が最大となる前記相対位置を外縁とする範囲に設定されている請求項1又は2に記載の回転電機制御装置。
【請求項4】
前記回転電機は、前記相対位置の調整により、前記ロータユニットの表面において前記永久磁石により構成される磁極の中心に対して電気的に直交する位置と、前記ステータコイルを流れる電流により誘起される電機子磁束の前記ロータユニットの表面における磁束密度最大位置とが異なる状態となるものであり、
前記第2位相範囲は、前記回転電機の力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置から、前記力行運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置及び回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最小となる前記相対位置を順に経由して、前記回生運転に適した位相範囲での界磁磁束が最大となる前記相対位置までの範囲に設定されている請求項1から3の何れか一項に記載の回転電機制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−239302(P2012−239302A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106508(P2011−106508)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】
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