説明

回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアーム

【課題】新しい駆動方式により高い生産性で装置の組み立てを行うことができ、かつバックラッシュのない回転駆動装置を提供する。
【解決手段】回転駆動装置100は、駆動モータ2よって回転駆動される初段歯車4と、主面が偏平な円形に形成されて初段歯車4とともに回転する回転部材8と、回転部材8の外周面に配置されて回転部材8の外周面の周方向に沿い間隔をおいて配列されるローラ12を多数有するローラ環状体10と、回転部材8の長径箇所に位置するローラ環状体10のローラ12の下側部位12aに噛み合う固定内歯歯車13と、固定内歯歯車13と異なる歯数とされて回転部材8の長径箇所に位置するローラ環状体10のローラ8の上側部位12bに噛み合う可動内歯歯車と、可動内歯歯車に固定された出力部材7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアーム等に適用されて、駆動モータとこの駆動モータの回転を減速させる減速機とを備えた回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回転駆動装置としては、例えば特許文献1に開示されているように、所謂不思議遊星歯車機構を利用した減速機と太陽歯車を回転駆動させる駆動モータとを備えて構成されたものが提案されている。不思議遊星歯車機構は、太陽歯車と、この太陽歯車と噛み合うとともにこの太陽歯車の中心軸を中心として公転する遊星歯車と、この遊星歯車の外方に噛み合うとともに太陽歯車と同軸上に固定配置された固定内歯歯車と、この固定内歯歯車と歯数が異なり、遊星歯車に噛み合うとともに太陽歯車と同軸上に回転可能に配置された可動内歯歯車とを有しており、この可動内歯歯車には、中心軸の同軸上に回転駆動される出力軸が設けられている。
【0003】
太陽歯車が回転すると、遊星歯車は自転しつつこの太陽歯車の中心軸周りに公転する。ここで、遊星歯車と夫々噛み合う固定内歯歯車と可動内歯歯車とは歯数が異なるように構成されているので、遊星歯車の自転及び公転によって固定内歯歯車と可動内歯歯車との回転方向の相対位置がずらされていき、可動内歯歯車が中心軸周りに回転するようになっている。そして、このように構成される不思議遊星歯車機構を用いた減速機を駆動モータで駆動させ、可動内歯歯車の出力軸若しくは出力軸に連結される部材を回転駆動させる。
【0004】
このような不思議遊星歯車機構を用いた回転駆動装置では、遊星歯車と可動内歯歯車及び固定内歯歯車との間には予めバックラッシュが設定されており、このバックラッシュにより各歯車同士が円滑に駆動するようになっている。
【特許文献1】特開2000−274495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、遊星歯車と可動内歯歯車及び固定内歯歯車とを互いに精度よく位置決めすることは難しく、歯車の噛み合い不良による装置の停止,破損を防止するため、前述のバックラッシュは予め若干大きめに設定されるようになっている。
また、この回転駆動装置をロボットアームの関節構造に用いた場合には、減速機には駆動モータからの駆動力が常時伝達されているわけではない。すなわち、作業に合わせ駆動モータが停止されることがあるが、このように駆動モータからの駆動力が付与されていない状態では、各歯車間に大きめに設定されるバックラッシュに起因して出力軸若しくは出力軸側に連結される部材の先端部分が中心軸の回転方向にふら付いて、作業精度を低下させる虞があった。
【0006】
このような出力軸の回転方向のふら付きを防止するために、遊星歯車、可動内歯歯車、固定内歯歯車の各歯車の噛み合い部分の歯形の加工精度を向上し、バックラッシュを低減する方法が考えられるが、そのための精密加工に要する費用は非常に高価となり、また加工に時間がかかる。よって生産性が悪く、大幅なコストアップとなる。
【0007】
本発明は、上記のような事情を鑑みてなされたもので、遊星歯車を使用しない新しい駆動方式により高い生産性で装置の組み立てを行うことができ、かつバックラッシュのない回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアームでは、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明に係る回転駆動装置は、駆動モータによって回転駆動される初段歯車と、主面が偏平な円形に形成され、前記初段歯車と同軸上に配置されて前記初段歯車とともに回転する回転部材と、前記回転部材の外周面に配置され、前記初段歯車と平行な軸線を中心としてそれぞれが回転自在とされかつ前記回転部材の外周面の周方向に沿い間隔をおいて配列されるローラを多数有し、前記ローラが前記外周面に沿って転動することによって前記回転部材の周方向に相対回転自在とされるローラ環状体と、前記初段歯車と同軸上に固定配置されるとともに前記回転部材の長径箇所に位置するローラ環状体のローラの一端側に噛み合う固定内歯歯車と、前記固定内歯歯車と異なる歯数とされ、前記初段歯車と同軸上に回転可能に配置されるとともに前記回転部材の長径箇所に位置するローラ環状体のローラの他端側に噛み合う可動内歯歯車と、前記可動内歯歯車に固定された出力部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記のように構成された回転駆動装置では、駆動モータによって初段歯車が回転駆動されると、初段歯車とともに主面が偏平な円形に形成された回転部材も回転する。さらに、回転部材が回転すると、回転部材の外周面に配置されているローラ環状体の多数のローラが、回転部材の外周面に沿って転動し、これによって、回転部材がローラ環状体に対して相対回転する。
一方、回転部材の長径箇所に位置するローラ環状体の多数のローラの一端側は固定内歯歯車に、他端側は可動内歯歯車の内歯とそれぞれ噛み合っており、このとき、固定内歯歯車と可動内歯歯車と噛み合うローラ環状体のローラの噛み合い箇所は、回転部材の長径部分の回転に伴い、周方向に順次移動する。そして、このとき、ローラの一端側に噛み合う固定内歯歯車の歯数と、ローラの他端側に噛み合う可動内歯歯車の歯数には差があることから、その差分だけ、固定内歯歯車に対して可動内歯歯車が回転し、その回転駆動力が可動内歯歯車に固定される出力部材から取り出されることになる。
すなわち、上記回転駆動装置では、駆動モータのピニオンと初段歯車との減速比、及び固定内歯歯車と可動内歯歯車の歯数の差分に基づく減速比に応じて、駆動モータの回転が減速された後、その回転駆動力が出力部材に伝達されることになる。
また、上記のように構成された回転駆動装置では、従来のような遊星歯車を使用しない減速が可能となるので、遊星歯車、可動内歯歯車、固定内歯歯車の各歯車の噛み合い部分の歯形の加工精度を向上させるなどの作業が簡素化され、高い生産性で装置の組み立てを行うことができる。
また、従来のような歯車によらず、回転部材に多数配置されたローラを、可動内歯歯車及び固定内歯歯車の各歯車に噛み合せることで、回転部材の回転を可動内歯歯車及び固定内歯歯車に伝達するようにしたのでバックラッシュがなく、したがって、高い作業精度を必要とするバックラッシュの加工も不要となり、この点においても加工時及び組み立て時の作業性向上を図ることができる。
【0010】
また、本発明の回転駆動装置では、前記回転部材のローラに噛合される前記固定内歯歯車及び可動内歯歯車の各内歯間を、前記ローラの円柱形状に応じて円曲面に形成することを特徴とする。
【0011】
上記のように構成された回転駆動装置では、回転部材のローラに噛合される固定内歯歯車及び可動内歯歯車の各内歯間を、ローラの円柱形状に応じて円曲面に形成したので、ローラと固定内歯歯車及び可動内歯歯車との噛合を円滑に行うことができる。
【0012】
本発明の回転駆動装置では、前記ローラ環状体は、前記多数のローラと弾性材により環状に形成されたリテーナとから構成され、前記リテーナは、前記ローラの中央部分を回転自在かつ前記回転部材の外周面の周方向に沿い間隔をおいて保持し、前記ローラは、前記リテーナを挟んで、一端が前記固定内歯歯車の内歯に噛み合うと共に他端が前記可動内歯歯車の内歯に噛み合うことを特徴とする。
【0013】
上記のように構成された回転駆動装置では、ローラをリテーナに回転自在に多数保持するローラ環状体を、回転部材の外周面に取り付けるだけで、従来の遊星歯車機構に代わる構成が実現できる。すなわち、非常に簡易な組み立てにより回転駆動装置を構成することができ、この点においても、加工時及び組み立て時の作業性向上を図ることができる。また、リテーナは弾性材により構成されているので、その内部で回転部材が回転駆動されて変形が生じたとしても、これを吸収してその形状を維持することができる。
【0014】
第2の発明に係るロボットの関節構造では、上述した回転駆動装置を2つ備え、これら2つの回転駆動装置を、一の回転駆動装置の前記駆動モータと他の回転駆動装置の前記駆動モータとを互いに交差するように、かつ、一の回転駆動装置の前記中心軸と他の回転駆動装置の前記中心軸とを互いに交差するように組み付け、2軸方向に回転可能に構成することを特徴とする。
【0015】
本発明のロボットの関節構造によれば、2つの回転駆動装置によって2軸の関節構造が構成されているので、複雑な動作を行うことができるとともに、この関節構造の先端に取り付けられる例えば把持機構からなる作業部等の精度が向上する。また、2つの回転駆動装置の駆動モータを互いに交差するように近接して配置することができ、従って両回転駆動装置を近接して構成できるので、関節構造の小型化を図ることができる。
【0016】
第3の発明は、本発明のロボットのアームでは、第2の発明に係るロボットの関節構造を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明のロボットアームは、前述のロボットの関節構造を備えることを特徴としている。この場合、回転駆動装置が減速比の大きな減速機を備えているので、小型の駆動モータであっても比較的大きなトルクを出力することができ、小型、かつ高出力のロボットアームを構成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば以下の効果を得ることができる。
回転駆動装置では、従来のような歯車によらず、主面が偏平な円形に形成された回転部材に多数配置されたローラを、可動内歯歯車及び固定内歯歯車の各歯車の噛み合せることで、回転部材の回転を可動内歯歯車及び固定内歯歯車に伝達するようにしたので、バックラッシュが発生することがない。また、高い減速比を得ることができる。更に、ローラ環状体のうち弾性材により環状に形成されたリテーナのみが弾性変形するので、金属疲労による破断等の不具合発生の虞がなく、耐久性に優れる。
また、従来のような遊星歯車機構を使用しない減速が可能となるので、遊星歯車機構、可動内歯歯車、固定内歯歯車の各歯車の噛み合い部分の歯形の加工精度を向上させるなどの作業が簡素化され、高い生産性で装置の組み立てを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係る回転駆動装置、ロボットの関節構造及びロボットアームの実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る回転駆動装置の全体斜視図、図2は回転駆動装置の平面図、図3は図2のIII−III線に沿う正断面図である。
【0020】
図1〜図3に示すように、本実施形態に係る回転駆動装置100は、取付プレート1と、駆動モータ2と、減速機3と、を備えている。
取付プレート1は略矩形平板状をなしており、図2に示すように3つのコーナ部に取付用のボルト孔1aが穿設されるとともに、その中央部に、駆動モータ2の駆動軸2aと平行となる位置関係に比較的大径の筒状部材1b、残りのコーナ部に駆動モータ2の駆動軸2aを貫通させるための貫通孔1cが設けられている。
また、この取付プレート1の一方側(図1〜図3において上側)には減速機3が配置され、他方側(図1〜図3において下側)には駆動モータ2が配置されている。
【0021】
また、図3に示すように、駆動モータ2は、その駆動軸2aの回転中心が後述する初段歯車4の中心軸Oに対して平行な位置関係となるように配置されている。また駆動軸2aの先端には、初段歯車4に噛み合うピニオン2bが設けられている。
【0022】
また、減速機3は、中心軸Oを中心として回転可能に配置された初段歯車4を備えている。この初段歯車4は、図3の断面図、図4〜図6の分解斜視図に示されるように、環状をなしておりその外周面に歯形が形成されている。また初段歯車4は、後述する回転部材8とともにその内周側に配設された環状のボールベアリング5により支持されている。
このボールベアリング5は、取付プレート1の筒状部材1bの外周面に取り付けられており、さらに、この筒状部材1bの内周面には、ボールベアリング6を介して出力部材7が回転自在に設けられている。
この出力部材7は、ボールベアリング6内に回転自在に支持される筒状の出力軸7aと、この出力軸7aの一端部に設けられた出力プレート7bとを有するものであって、出力軸7aの内周面は中心軸O方向に貫通する貫通孔7cとされている。
【0023】
駆動モータ2のピニオン2bによって回転駆動される初段歯車4には、同軸上に回転部材8が固定されている。
この回転部材8は、上面(主面)側から見ると、楕円に形成されている。また、回転部材8は、図6に示されるように、上下に分割可能でその外周面8a,8bが楕円状に形成された一対の環状体8A,8Bによって構成されるものであって、この環状体8A,8Bが一体化された場合には、環状体8A,8Bの外周面8a,8bには溝部が形成され、この溝部内にローラ環状体10(後述)が配置される。
そして、このような回転部材8は、この溝部内にローラ環状体10を保持した状態で、取付ボルト8cを、環状体8A,8Bの取付孔8dに貫通させた後、初段歯車4のボルト孔4aに螺合させることによって、初段歯車4上に固定されるようになっている。
【0024】
この回転部材8の外周面8a,8bに配置されるローラ環状体10は、回転部材8の外周面8a,8bに沿うように配置されかつ樹脂により環状(リング状)に形成されたリテーナ11と、このリテーナ11によってその中央部分が回転自在に保持される多数のローラ12とから構成される。
各ローラ12は、初段歯車4と平行な軸線を中心としてそれぞれが回転自在に保持され、かつ、回転部材8の外周面8a,8bの周方向に沿い間隔をおいて多数配列されるものであって、リテーナ11の下側(一端側)に位置する下側部位12aが、固定内歯歯車13の内歯に噛み合うとともに、リテーナ11の上側(他端側)に位置する上側部位12bが、可動内歯歯車14の内歯に噛み合う。
【0025】
そして、このような構成により、初段歯車4の回転駆動に伴って回転部材8が回転すると、回転部材8の外周面8a,8bに配置されているローラ環状体10のローラ12が、回転部材8の外周面8a,8bに沿って転動し、これによって、回転部材8が、ローラ環状体10に対して相対回転する。
【0026】
図9に固定内歯歯車13の内歯の円曲面13aを示す。なお、可動内歯歯車14も同様の円曲面を形成する。
一方、回転部材8の長径箇所に位置するローラ環状体10の下側部位12aは可動内歯歯車14に、上側部位12bは可動内歯歯車14の内歯にそれぞれ噛み合っており、これら内歯歯車13,14と噛み合うローラ環状体10のローラ12の噛み合い箇所(図8、図9に符号Mで示す)は、上述した回転部材8の長径部分の回転に伴い、周方向に順次移動する。
なお、上記ローラ環状体10において、リテーナ11に保持されるローラ12の本数は、例えば74本である。
また、上記ローラ環状体10では、図9に示すように、ローラ12の円筒面よりも環状のリテーナ11が外周側及び内周側に突出するように形成されている。回転部材8の外周面8a,8bの接合部分には、リテーナ11の突出部分よりも深い溝が形成されており、また、内歯歯車13,14との間にもリテーナ11の突出部分よりも深い隙間が形成されることから、リテーナ11は、回転部材8、固定内歯歯車13、可動内歯歯車14に対して衝突、摺動することがない。
【0027】
固定内歯歯車13及び可動内歯歯車14は、中心軸O方向に重なるようにして配置されるものであって、固定内歯歯車13が取付プレート1に設けられたフランジ部1d内に固定され、可動内歯歯車14が、出力部材7の出力プレート7bに設けられたフランジ部7d内に固定されている。
これら固定内歯歯車13及び可動内歯歯車14は歯数が異なるように設けられるものであり(例えば、固定内歯歯車13の歯数が80、可動内歯歯車14の歯数が82)、それぞれの内歯間の形状は、噛合されるローラ12の円柱形状に合致するように円曲面に形成されている。
【0028】
また、これら内歯歯車13,14は、固定内歯歯車13がローラ12の下端側12a(一端側)に螺合され、可動内歯歯車14がローラ12の上端側12b(他端側)に螺合されている。
そして、このような構成により、内歯歯車13,14と噛み合うローラ環状体10のローラ12の噛み合い箇所Mが、回転部材8の長径部分の回転に伴い、周方向に順次移動した場合に、ローラ12の一端側に噛み合う可動内歯歯車14の歯数と、ローラ12の他端側に噛み合う可動内歯歯車14の歯数とに差があることから、その差分だけ、固定内歯歯車13に対して可動内歯歯車14が回転し、その回転駆動力が可動内歯歯車14に固定される出力部材7から取り出されることになる。
【0029】
なお、上述した構成では、回転部材8及びこの回転部材8の外周面8a,8bに配置されるローラ環状体10を楕円としているが、これ以外の歯車(ピニオン2b、初段歯車4、内歯歯車13,14)は真円である。
また、回転部材8は、主面の形状が楕円の場合の他、例えば長円形であってもよい。つまり、偏平な円形に形成されていればよい。
【0030】
上述した減速機3の減速比は、例えば次のように計算される。
駆動モータ2のピニオン2dの歯数を10、初段歯車4の歯数を70とすれば、ここで生じる減速比は7(=70/10)であり、また、固定内歯歯車13の歯数を80、可動内歯歯車14の歯数を82とすれば、ここで生じる減速比は40(=80/2)となる。
したがって、全体の減速比は、これらを掛け合わせて280となる。
なお、このような歯数は一例であって、適宜設定可能である。
【0031】
次に、この回転駆動装置100の動作について説明する。
まず、駆動モータ2の駆動軸2aの回転に伴って、この駆動軸2aに固定されるピニオン2bを介して、初段歯車4が中心軸O周りに回転する。
そして、中心軸Oを中心として、初段歯車4の回転とともにこの初段歯車4と一体に固定される回転部材8が回転すると、この回転部材8の外周面8a,8bに配置されているローラ環状体10のローラ12が、回転部材8の外周面8a,8bに沿って転動し、これによって回転部材8が、ローラ環状体10に対して相対回転する。
一方、回転部材8の長径箇所に位置するローラ環状体10のローラ12の一端側は可動内歯歯車14に、他端側は可動内歯歯車14の内歯とそれぞれ噛み合っているので、これら内歯歯車13,14と噛み合うローラ環状体10のローラ12の噛み合い箇所Mは、回転部材8の長径部分の回転に伴い、周方向に順次移動する。
【0032】
このとき、下側の下側部位12aに噛み合う可動内歯歯車14の歯数と、上側の上側部位12bに噛み合う可動内歯歯車14の歯数とに差があることから、その差分だけ、固定内歯歯車13に対して可動内歯歯車14が回転し、その回転駆動力がこの可動内歯歯車14に固定される出力部材7から取り出されることになる。
すなわち、上記回転駆動装置100では、駆動モータ2のピニオン2bと初段歯車4との減速比、及び可動内歯歯車14と可動内歯歯車14の歯数の差分に基づく減速比に応じて、駆動モータ2の回転が減速された後、その回転駆動力が出力部材7に伝達されることになる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る回転駆動装置100では、駆動モータ2のピニオン2bと初段歯車4との減速比、及び固定内歯歯車13と可動内歯歯車14の歯数の差分に基づく減速比に応じて、駆動モータ2の回転が減速された後、駆動モータ2の回転駆動力が出力部材7に伝達されることになる。
したがって、上記の回転駆動装置100では、従来のような遊星歯車を使用しない減速が可能となるので、遊星歯車、可動内歯歯車、固定内歯歯車の各歯車の噛み合い部分の歯形の加工精度を向上させるなどの作業が簡素化され、高い生産性で装置の組み立てを行うことができる。
また、従来のような歯車によらず、回転部材8に多数配置された円柱状でかつ回転自在なローラ12を、可動内歯歯車14及び固定内歯歯車13の各歯車の噛み合せることで、回転部材8の回転を、可動内歯歯車14及び固定内歯歯車13に伝達するようにしたので、バックラッシュが発生することがない。したがって、高い作業精度を必要とするバックラッシュの加工が不要となり、この点においても、加工時及び組み立て時の作業性向上を図ることができる。
【0034】
また、上記のように構成された回転駆動装置100では、回転部材8のローラ12に噛合される固定内歯歯車13及び可動内歯歯車14の各内歯間を、ローラ12の円柱形状に応じて円曲面(図9参照)に形成したので、ローラ12と固定内歯歯車13及び可動内歯歯車14との噛合を円滑に行うことができる。
【0035】
また、上記のように構成された回転駆動装置100では、ローラ12を多数有するローラ環状体10を、回転部材8の外周面に取り付けるだけで、従来の遊星歯車に代わる構成が実現できる。すなわち、非常に簡易な組み立てにより回転部材8を形成することができ、この点においても、加工時及び組み立て時の作業性向上を図ることができる。
また、リテーナ11は弾性材により構成されているので、その内部で回転部材8が回転駆動されて変形が生じたとしても、これを吸収してその形状を維持することができる。また、リテーナ11の弾性材として樹脂を使用することにより、金属を使用した場合の金属疲労も生じず、その耐久性を向上させることも可能となる。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係るロボットの関節構造20と、これを備えたロボットアーム30とについて説明する。
図10は本発明の実施形態に係るロボットの関節構造を示す斜視図、図11は本発明の実施形態に係るロボットアームを示す説明図である。
【0037】
図10に示すように、このロボットの関節構造20は、前述の実施形態に係る回転駆動装置100を2つ組み合わせることで構成されている。このロボットの関節構造20は、一の回転駆動装置100A(図10において右側)に備える駆動モータ2と他の回転駆動装置100B(図10において左側)に備える駆動モータ2とが夫々の中心軸Oa、Obに対して直交するように配置されており、互いの駆動モータ2同士が交差するようにして近接して配置されている。
そして、一の回転駆動装置100Aの中心軸Oaは、他の回転駆動装置の100Bの中心軸Obに対し直交するように配置され、直交2軸方向に夫々の出力軸7aを回転可能な関節構造とされている。
【0038】
また、図11に示すように、ロボットアーム30は、第1構成部材31と第2構成部材32とを接続する第1関節部21と、第2構成部材32と第3構成部材33とを接続する第2関節部22と、第3構成部材33の先端に配設された第3関節部23と、を有している。
また、このロボットアーム30は、第1関節部21が肩関節、第2関節部22が肘関節、第3関節部23が手首関節に相当するものとされており、これら各関節部が前述のロボットの関節構造20によって構成されている。
【0039】
第1関節部21においては、第1構成部材31の端部から上方に向け突出された取付軸34が一の回転駆動装置100Aの略円筒状をなす出力軸7aに接続され、第2構成部材32の基端側から突出された取付軸35が他の回転駆動装置100Bの略円筒状をなす出力軸7aに接続されている。
【0040】
第2関節部22においては、一の回転駆動装置100Aの出力軸7aの内周側にヒンジ軸36が挿通されて接続されている。また第2構成部材32の先端にはコの字状をなす接続部材37が設けられており、この接続部材37によってヒンジ軸36の両端が軸支されている。また、他の回転駆動装置100Bの出力軸7aには、第3構成部材33の基端部が接続されている。
【0041】
第3関節部23においては、一の回転駆動装置100Aの出力軸7aの内周側にヒンジ軸38が挿通されて接続されている。また第3構成部材33の先端にはコの字状をなす接続部材39が設けられており、この接続部材39によってヒンジ軸38の両端が軸支されている。
【0042】
このような構成とされたロボットアーム30においては、2つの回転駆動装置100A、100Bが、それぞれの中心軸Oa,Obが互いに直交するようにして配置されているので、直交2軸の関節構造が構成され、複雑な動作を行うことができる。
また、これらの回転駆動装置100A、100Bが減速比の大きな減速機3を備えて構成されているので、小型の駆動モータ2であっても比較的大きなトルクを出力することができ、従って、小型かつ高出力のロボットアーム30を構成することができる。
【0043】
さらに、2つの回転駆動装置100A、100Bの駆動モータ2が互いに交差するように近接して配置されているので、この関節構造のさらなる小型化を図ることができる。また、回転駆動装置100A、100Bの出力軸7aの貫通孔を通じて電源ケーブルや信号ケーブルを配線することにより、複雑な動作をした場合でもこれらケーブル等が大きく移動せず、断線等のトラブルを防止できる。
【0044】
以上、本発明の実施形態である回転駆動装置、この回転駆動装置によって構成されるロボットの関節構造及びロボットアームについて説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0045】
例えば、上述した実施形態においては、駆動モータ2の駆動軸2aにピニオン2bが設けられ、このピニオン2bが初段歯車4に噛合っているが、これに限らない。ピニオン2bを設けずに、駆動モータ2により初段歯車4を直接回転駆動する場合であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態に係る回転駆動装置の全体斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う正断面図である。
【図4】回転駆動装置を上方から見た場合の分解斜視図である。
【図5】回転駆動装置を下方から見た場合の分解斜視図である。
【図6】回転部材の分解斜視図である。
【図7】出力部材を外した回転駆動装置の全体斜視図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】図8のIV部の拡大平面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るロボットの関節構造を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態に係るロボットアームを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
2…駆動モータ、 2b…ピニオン、 3…減速機、 4…初段歯車、 7…出力部材、 8…回転部材、 8a,8b…回転部材の外周面、 10…ローラ環状体、 11…リテーナ、 12…ローラ、 12a…下側部位(一端側)、 12b…上側部位(他端部)、 13…固定内歯歯車、 14…可動内歯歯車、 20…ロボットの関節構造、 30…ロボットアーム、 100…回転駆動装置、 100A…回転駆動装置、 100B…回転駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータによって回転駆動される初段歯車と、
主面が偏平な円形に形成され、前記初段歯車と同軸上に配置されて前記初段歯車とともに回転する回転部材と、
前記回転部材の外周面に配置され、前記初段歯車と平行な軸線を中心としてそれぞれが回転自在とされかつ前記回転部材の外周面の周方向に沿い間隔をおいて配列されるローラを多数有し、前記ローラが前記外周面に沿って転動することによって前記回転部材の周方向に相対回転自在とされるローラ環状体と、
前記初段歯車と同軸上に固定配置されるとともに前記回転部材の長径箇所に位置するローラ環状体のローラの一端側に噛み合う固定内歯歯車と、
前記固定内歯歯車と異なる歯数とされ、前記初段歯車と同軸上に回転可能に配置されるとともに前記回転部材の長径箇所に位置するローラ環状体のローラの他端側に噛み合う可動内歯歯車と、
前記可動内歯歯車に固定された出力部材と、
を備えることを特徴とする回転駆動装置。
【請求項2】
前記固定内歯歯車及び前記可動内歯歯車の各内歯間は、前記ローラの円柱形状に応じて円曲面に形成されることを特徴とする請求項1に記載の回転駆動装置。
【請求項3】
前記ローラ環状体は、前記多数のローラと弾性材により環状に形成されたリテーナとから構成され、
前記リテーナは、前記ローラの中央部分を回転自在かつ前記回転部材の外周面の周方向に沿い間隔をおいて保持し、
前記ローラは、前記リテーナを挟んで、一端が前記固定内歯歯車の内歯に噛み合うと共に他端が前記可動内歯歯車の内歯に噛み合うことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の回転駆動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の回転駆動装置を2つ備え、
これら2つの回転駆動装置が、一の回転駆動装置の前記駆動モータと他の回転駆動装置の前記駆動モータとを互いに交差するように、かつ、一の回転駆動装置の前記中心軸と他の回転駆動装置の前記中心軸とを互いに交差するように組み付けられ、
2軸方向に回転可能に構成されることを特徴とするロボットの関節構造。
【請求項5】
請求項4に記載のロボットの関節構造を備えることを特徴とするロボットアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−236193(P2009−236193A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81591(P2008−81591)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】