説明

固体表面の酸素除去方法、結晶成長方法、半導体製造方法及び半導体装置

【課題】方向性電磁鋼板等の固体表面の酸化物を除去する事ができる固体表面の酸素除去方法、結晶成長方法、並びに、方向性電磁鋼板等上にGaN膜が成膜された半導体を製造する半導体製造方法及び半導体装置を提供する。
【解決手段】パルスレーザ堆積(PLD)装置10を用いて、超高真空(10−10torr)に減圧されたチャンバ11内に電磁鋼板12(Fe0.97%Si0.03%)を配置し、当該電磁鋼板12を800℃に加熱する。このような条件下で、Ga又はIn金属からなるターゲット13に対してエキシマレーザを出射する。すると、ターゲット13からプルームが発生し、そのプルームが電磁鋼板12に照射される。電磁鋼板12に照射されたGa又はInは電磁鋼板12の表面の酸素と結合して、気化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置等に用いる電磁鋼板等の固体基板の表面を平坦化及び清浄化する方法に関し、特に、固体基板表面の酸化物を除去する方法、並びに、この方法を用いた半導体製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN等のIII族窒化物は、主にサファイア(Al203)上にエピタキシャル成長させて生成している。
【0003】
しかし、サファイア基板は、III族窒化物との格子ミスマッチが大きい、絶縁体である、高価である、大面積が得られない、といった数々の問題がある。
【0004】
これに対して、例えばNi板、Cu板、方向性電磁鋼板等の金属板は、超低コスト、メートルオーダーまでの大面積単結晶が得られる、導電性である、高い結晶配向性を有する、といった多くの利点を有している。
【0005】
従って、GaN等のIII族窒化物を方向性電磁鋼板上にエピタキシャル成長させることができれば、高発光率の素子、大面積ディスプレイ等を低コストに作成することが可能となる。
【0006】
【非特許文献1】Davydov V.Yu et al.,Phys.Stat.Solidi.(b),229(2002)
【非特許文献2】E.S.Hellman et al.,MRS Internet J.Nitride Semicond.Res.1,16(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、方向性電磁鋼板上にGaNを成膜しても、結晶性の良いエピタキシャル成長膜を作ることができない。
【0008】
図14は、FeSi(Fe=97%含有)で構成される方向性電磁鋼板上にGaN膜をPLD法によりエピタキシャル成長させ、そのGaN膜を反射光速電子線回折(RHEED)により観察して得られた画像である。なお、図14の左側の図は、RHEED像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。GaN膜の結晶が良質であれば、本来、シャープな縞の形状(ストリーキーパターン)が観察されるはずであるが、図14は、そうなっておらず、GaN膜が良質な結晶となっていないことがわかる。
【0009】
この原因として、本発明者は、方向性電磁鋼板の表面に局所的に存在する酸化鉄のパーティクルによるものと考えた。
【0010】
図15は、上記FeSi(Fe=97%含有)で構成される方向性電磁鋼板の表面をCMP(Chemical Mechanical Polishing)法で平坦化した後の原子間力顕微鏡(AFM)による観察画像である。なお、図15の左側の図は、AFM観察画像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。
【0011】
この図15の例えばXで示す部分が酸化鉄のパーティクルである。この図15に示すような酸化鉄のパーティクルが方向性電磁鋼板上にGaN膜が良質な結晶とならない原因であると考えられる。
【0012】
本発明は、以上のような課題を解決し、例えば方向性電磁鋼板等の固体表面の酸化物を除去することができる固体表面の酸素除去方法、結晶成長方法、並びに、方向性電磁鋼板等上にGaN等が成膜された半導体を製造する半導体製造方法及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る固体表面の酸素除去方法は、固体表面に結合している酸素を除去する固体表面の酸素除去方法であって、所定の圧力に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度に加熱し、酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射する。
【0014】
本発明に係る結晶成長方法は、基板の表面を平坦化する平坦化工程と、前記平坦化した基板の表面の酸素除去する酸素除去工程と、酸素が除去された基板の表面に対して、結晶をエピタキシャル成膜させる成膜工程とを備え、前記酸素除去工程では、所定の圧力以下に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度以上に加熱し、酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る半導体製造方法は、電磁鋼板の表面を平坦化する平坦化工程と、 前記平坦化した電磁鋼板の表面の酸素除去する酸素除去工程と、酸素が除去された電磁鋼板の表面に対して半導体層を成膜する成膜工程とを備え、前記酸素除去工程では、所定の圧力に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度に加熱し、酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射する。
【0016】
また、本発明に係る半導体製造装置は、電磁鋼板と、前記電磁鋼板上に成膜された半導体層とを備え、前記電磁鋼板は、所定の圧力に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度に加熱し、酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射することにより、表面の酸素が除去されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る固体表面の酸素除去方法では、固体表面から酸素を除去することができ、固体表面に形成されている酸化物を無くすことができる。
【0018】
また、本発明に係る結晶成長方法では、固体基板上に、良質な結晶を形成することができる。
【0019】
また、本発明に係る半導体製造方法では、電磁鋼板上に、良質な結晶構成の半導体層を形成することができる。
【0020】
また、本発明に係る半導体装置は、表面の酸素が除かれた電磁鋼板が用いられているとともに、良質な結晶の半導体層が形成されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
本発明は、図1に示すような、電磁鋼板である基板2上にAlN膜3が成膜され、AlN膜3の上にGaN膜4が成膜された半導体装置1を製造する半導体製造方法に適用される。以下、この半導体装置1を製造する方法について説明をする。
【0023】
PLD装置
まず、本実施形態の半導体製造方法に共通して用いられるPLD装置10について説明をする。
【0024】
図2は、PLD装置10の構成図である。
【0025】
PLD装置10は、パルスレーザ堆積法(以下、PLD法)により、基板上に半導体層をエピタキシャル成長させて堆積させる装置である。
【0026】
PLD装置10は、内部に充填されたガスの圧力及び温度を一定に保つために密閉空間を形成するチャンバ11を備えている。チャンバ11内には、基板12とターゲット13とが対向して配置される。基板12は、本実施の形態の場合、電磁鋼板等の金属基板となる。ターゲット13は、本実施の形態の場合、例えば、Ga金属やIn金属等となる。
【0027】
また、PLD装置10は、波長が248nmの高出力のパルスレーザを出射するKrFエキシマレーザ14を備えている。KrFエキシマレーザ14から出射されたパルスレーザ光は、レンズ15により焦点位置がターゲット13の近傍となるようにスポット調整され、チャンバ11の側面に設けられた窓11aを介してチャンバ11内に配設されたターゲット13の表面に対して約30°の角度で入射する。
【0028】
また、PLD装置10は、チャンバ11内へ窒素ガスを注入するためのガス供給部16と、その窒素ガスをラジカル化するラジカル源17とを備えている。窒素ラジカル源17は、ガス供給部16から排出された窒素ガスを、高周波を用いて一旦励起することにより窒素ラジカルとし、その窒素ラジカルをチャンバ11内に供給する。なお、チャンバ11とガス供給部16との間には、窒素ラジカルガス分子とパルスレーザ光の波長との関係において基板12への吸着状態を制御すべく、ガスの濃度を制御するための調整弁17aが設けられている。
【0029】
また、PLD装置10は、チャンバ11内の圧力を制御するための圧力弁18と真空ポンプ19とを備えている。チャンバ11内の圧力は、真空ポンプ19により例えば窒素雰囲気中において所定の圧力となるように制御される。また、チャンバ11内は、真空ポンプ19により10−10torrを超える超高真空状態となるようにも制御することができる。
【0030】
また、PLD装置10は、パルスレーザ光が照射されている点を移動するために、ターゲット13を回転させる回転軸20を備えている。
【0031】
以上のPLD装置10では、チャンバ11内に窒素ガスを充満させた状態でターゲット13を回転軸20を介して回転駆動させつつ、パルスレーザ光を断続的に照射する。このことにより、ターゲット13(例えばGa金属又はIn金属等)の表面の温度を急激に上昇させ、Ga原子若しくは分子、又は、In原子若しくは分子が含まれたアブレーションプラズマを発生させることができる。このアブレーションプラズマ中に含まれるGa又はInは、気相中や基板12の表面で窒素と反応し、格子整合性の最も安定な状態で薄膜化されることになる。
【0032】
また、以上のPLD装置10では、チャンバ11を超高真空(例えば、10−7Torr乃至10−10Torr程度、或いはそれ以上の真空度)とすることもできる。超高真空条件の下で、ターゲット13(Ga原子又はIn原子)にパルスレーザ光を断続的に照射すると、図3に示すように、ターゲット13からプルーム21が発生し、そのプルーム21が基板12に向けて照射される。
【0033】
プルームとは、ターゲット13(Ga金属又はIn金属)に対して高出力レーザ光を照射することによって、ターゲット13が固体状態のままで分子レベル(Ga原子又はIn原子)に分解し、ターゲット13から離脱して分子流となったものである。ターゲット13としてGa金属又はIn金属を用いた場合、そこから発生するプルームは、Ga原子又はIn原子がプラズマ中に含まれた状態のものとなる。
【0034】
なお、プルームは、超高真空に限らず、低真空であっても発生する。
【0035】
半導体装置1の製造プロセス
半導体装置1の製造は、図4のフローチャートに示すように、電磁鋼板の平坦化処理(S1)、超高真空アニール処理(S2)、III族金属プルームによる表面クリーニング処理(S3)、AlNの成膜処理(S4)、GaNの成膜処理(S5)を順次行うことにより行われる。以下、各ステップS1〜S5までの各処理について説明をする。
【0036】
(電磁鋼板の平坦化処理S1)
半導体装置1の製造では、まず、電磁鋼板の平坦化処理(S1)を行う。
【0037】
電磁鋼板の平坦化処理(S1)では、FeSi(Fe=97%,Si=3%含有)で構成される電磁鋼板2の表面を、CMP(Chemical Mechanical Pokishing)法により平坦化する。
【0038】
(超高真空アニール処理S2)
続いて、超高真空アニール処理(S2)を行う。
【0039】
超高真空アニール処理(S2)では、CMP法により平坦化された電磁鋼板2を、PLD装置10のチャンバ11内に基板12として配置し、超高真空条件下においてアニール処理を行う。例えば、真空度を10−10Torrとし、電磁鋼板2を800℃で30分加熱する。
【0040】
(III族金属プルームによる表面クリーニング処理S3)
続いて、III族金属プルームによる表面クリーニング処理(S3)を行う。
【0041】
III族金属プルームによる表面クリーニング処理(S3)では、超高真空アニール処理(S2)に続け、そのままPLD装置10内で超高真空条件下でのアニール処理を行いながら、図5(A)に示すように、エキシマレーザ光をGa又はIn金属からなるターゲット13に出射し、当該ターゲット13から発生したGa原子又はIn原子を含むプルームを基板12(電磁鋼板2)の表面上に照射する。
【0042】
このように、Ga又はInのプルームを電磁鋼板2に照射すると、電磁鋼板2の表面に局在していた酸化物のパーティクルを除去することができる。
【0043】
電磁鋼板2の表面から酸化物パーティクルが除去できる理由は、次の通りである。
【0044】
酸化鉄(Fe)の自由エネルギーと、酸化ガリウム(Ga)及び酸化インジウム(In)の自由エネルギーとを比べると、下式の数1のように、酸化ガリウム及び酸化インジウムの方が安定である。
【0045】
【数1】

Gibbsの自由エネルギー (800℃)
Fe:−918.0(kJmol−1
Ga:−1180 (kJmol−1
Ga:−1180 (kJmol−1
また、過去の文献(Steve Wright and Herbert Croemer, Appl. Phys. Lett. 36, 210 (1980))によると、下式の数2のように、シリコン酸化膜にGaの分子線を照射すること酸化膜が還元されることが報告されている。
【0046】
【数2】

SiO+4Ga→2GaO+2Si (800℃)
このことから、図5(A)に示すように、プルーム21に含まれている固体のGa原子又はIn原子が電磁鋼板2の表面に到達すると、電磁鋼板2の表面に酸化物として局在している酸素と結合する。このため、酸化ガリウム(Ga)及び酸化インジウム(In)が生成され、それとともに電磁鋼板2から酸素が除去される。
【0047】
更に、酸化ガリウム(Ga)及び酸化インジウム(In)は、蒸気圧が非常に高く、800℃の時には気体となり、図5(B)に示すように蒸発する。
【0048】
ここで、チャンバ11内は超高真空状態となっており、酸化ガリウム(Ga)及び酸化インジウム(In)の蒸気圧と比べて、圧力が非常に低い。そのため、気化した酸化ガリウム及び酸化インジウムはすぐさま気化して蒸発するとともに、ポンプによりチャンバ11の外部へ排出され、再度、電磁鋼板2の表面に結合することはない。また、プルームとして照射したGa原子及びIn原子も、電磁鋼板2の表面に残存することもない。
【0049】
以上のように、表面クリーニング処理(S3)では、所定の圧力以下に減圧されたチャンバ11内に所定の温度以上に加熱した電磁鋼板2を配置しておき、Ga金属及びIn金属からなるターゲット13にエキシマレーザを照射することにより、Ga原子及びIn原子が固体状態で含まれたプルームを発生させる。このことにより、電磁鋼板2に対して当該プルームが照射され、電磁鋼板2の表面の酸化物のパーティクルが除去できる。
【0050】
なお、本発明では、酸化物の除去対象となる基板は、電磁鋼板2に限られず、金属基板、半導体基板、絶縁体基板等の固体であればどのようなものでもよい。
【0051】
また、照射する物質は、Ga原子及びIn原子に限らない。すなわち、酸素と結合し、且つ、装置のチャンバ内の圧力及び基板2の温度の条件下で、酸素と結合したときに気化する物質であれば、どのようなものであってもよい。また、酸素と結合したときの自由エネルギーが大きい方が望ましい。
【0052】
また、蒸気圧は、装置のチャンバ内において達成できる温度(通常、1400℃以下)で、酸化物の蒸気圧が充分高く、例えば1(Pa)以上であることが望ましい。このような条件を有する物質としては、Ga及びIn以外に、As,S,Se,P,Sb,Re,Si,Ge,B,Li,Pb等が挙げられる。これらの酸化物の蒸気圧は、次の表1の通りである。
【0053】
【表1】

また、さらに、Ga及びIn等の物質を照射する方法は、レーザビームを用いたプルームに限らず、PED(パルスエレクトロンビームデポジション)法により照射する方法、加熱処理で照射する方法、MBEと同様に電子ビームを物質に出射して照射する方法がある。また、スパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)等も応用可能であると考えられる。
【0054】
(AlNの成膜処理S4)
半導体装置1の製造では、クリーニング処理(S3)が終了すると、続いて、AlNの成膜処理(S4)を行う。
【0055】
AlNの成膜処理(S4)では、電磁鋼板2をPLD装置10内に配置した状態のままで、続けて、PLD法により、AlN層を電磁鋼板2の表面上に成膜する。
【0056】
具体的には、基板温度を400℃、チャンバ11内の雰囲気をNガス、ターゲット13をAlN焼結体とし、KrFエキシマレーザ14を3J/cm,20Hzという条件に設定した。
【0057】
そして、電磁鋼板2の表面上に、20nmのAlN膜3を成膜した。
【0058】
AlN膜3を成膜する理由は、GaNとFeとの界面反応の抑制及びFe原子の拡散の防止すること、GaNの成長核を生成することにある。
【0059】
(GaNの成膜処理S5)
続いて、GaNの成膜処理(S5)を行う。
【0060】
GaNの成膜処理(S5)では、電磁鋼板2をPLD装置10内に配置した状態のままで、続けて、PLD法により、AlN層を電磁鋼板2の表面上に成膜する。
【0061】
具体的には、基板温度を700℃、チャンバ11内の雰囲気を窒素ラジカルガス、ターゲット13をGa金属とし、KrFエキシマレーザ14を3J/cm,20Hzという条件に設定した。
【0062】
そして、電磁鋼板2の表面上に、400nmのGaN膜4を成膜した。
【0063】
効果
以上のステップS1からステップS5までの処理を行うことによって、電磁鋼板2上に、AlN膜3及びGaN膜4が成膜された半導体装置1を製造することができる。
【0064】
以上の製造プロセスでは、に電磁鋼板2上の酸化物パーティクルを除去した後に、半導体層を形成しているので、電磁鋼板2上に良質な結晶の半導体層を形成することができる。
【0065】
なお、本発明は、基板2上に形成される層はAlN層やGaN層に限らず、他の半導体層であってもよい。また、半導体に限らず、金属又は絶縁体をエピタキシャル成長させることもできる。
【0066】
評価結果
つぎに、各工程における評価結果について説明をする。
【0067】
なお、表面クリーニング処理(S3)では、真空度を10−10Torrとし、電磁鋼板2を800℃に加熱し、KrFエキシマレーザ14を3J/cm,1Hzという条件に設定し、このような条件下でのプルーム照射を行っている。
【0068】
(電磁鋼板2の表面についての評価)
図6(A),(B)は、電磁鋼板2の表面を反射光速電子線回折(RHEED)により観察した結果得られた像を示している。図6(A)は、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合の電磁鋼板2の表面のRHEED像であり、図6(B)は、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後の電磁鋼板2の表面のRHEED像である。なお、図6において、左側の図は、RHEED像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。
【0069】
図6に示すように、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合には明瞭なRHEED像が得られていないが、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合にはシャープなより明瞭な縞の形状(ストリーキーパターン)のRHEED像が得られ、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理により良質な結晶となったことがわかる。
【0070】
図7(A),(B)は、電磁鋼板2の表面の原子間力顕微鏡(AFM)の画像を示している。図7(A)は、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合の電磁鋼板2の表面のAFM画像であり、図7(B)は、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後の電磁鋼板2の表面のAFM画像である。なお、図7において、左側の図は、AFM画像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。
【0071】
表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合には図7(A)のようにパーティクルが存在しているが、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後には図7(B)に示すようにパーティクルが消滅していることがわかる。
【0072】
また、AFMによって検出された表面粗さを表すRMS値は、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合では4.2nmであるが、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後では2.1nmとなり、電磁鋼板2の表面がより平坦となることもわかる。
【0073】
図8(A),(B)は、電磁鋼板2の表面のAFMの画像を示している。図8(A)は、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合の電磁鋼板2の表面のAFM画像であり、図8(B)は、Inプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後の電磁鋼板2の表面のAFM画像である。なお、図8において、左側の図は、AFM画像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。
【0074】
表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合には図8(A)のようにパーティクルが存在しているが、Inプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後には図8(B)に示すようにパーティクルが消滅していることがわかる。
【0075】
また、AFMによって検出された表面粗さを表すRMS値は、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合では4.2nmであるが、Inプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後では0.67nmとなり、電磁鋼板2の表面がより平坦となることもわかる。
【0076】
図9は、X線光電子分光(XPS)による光電子の放出の解析結果を示した図であり、横軸が検出された光電子の結合エネルギであり、縦軸が検出値である。図9のXが表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合の電磁鋼板2の表面のXPS表面解析結果であり、図9のYがGaを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後の電磁鋼板2の表面のXPS表面解析結果である。
【0077】
もし、電磁鋼板2の表面にGa原子が存在していた場合、Ga原子に対応するエネルギー値(図9中矢印で示した位置(Ga2p3/2))に検出値のピークが発生するはずである。しかしながら、図9を参照すると、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のグラフ(X)にも、Gaを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後のグラフ(Y)にも、そのピークは存在しない。
【0078】
従って、図9から、Gaを用いた表面クリーニング処理(S3)後に、Ga原子が電磁鋼板2上に残存しないことがわかる。
【0079】
図10は、XPSによる光電子の放出の解析結果を示した図である。図10のXが表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合の電磁鋼板2の表面のXPS表面解析結果であり、図10のYがInを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後の電磁鋼板2の表面のXPS表面解析結果である。
【0080】
もし、電磁鋼板2の表面にIn原子が存在していた場合、In原子に対応するエネルギー値(図10中矢印で示した位置(In3d5/2))に検出値のピークが発生するはずである。しかしながら、図10を参照すると、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のグラフ(X)にも、Inを用いた表面クリーニング処理(S3)をした後のグラフ(Y)にも、そのピークは存在しない。
【0081】
従って、図10から、Inを用いた表面クリーニング処理(S3)後に、In原子が電磁鋼板2上に残存しないことがわかる。
【0082】
(GaN膜についての評価)
図11(A),(B),(C)は、GaN膜4の表面のRHEED像を示している。図11(A)は、電磁鋼板2に対して表面クリーニング処理(S3)をせずにGaN膜4を成膜した場合のRHEED像であり、図11(B)は、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をしてGaN膜4を成膜した場合のRHEED像であり、図11(C)は、Inプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をしてGaN膜4を成膜した場合のRHEED像である。なお、図11において、左側の図は、RHEED像の写真に基づく図面であり、右側の図はその模式図である。
【0083】
図11に示すように、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合には明瞭なRHEED像が得られていないが、Gaプルーム及びInプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合にはシャープなより明瞭な縞の形状(ストリーキーパターン)のRHEED像が得られ、良質なGaN単結晶となることがわかる。
【0084】
図12は、GaN膜4のX線の0002回折の測定の結果(ロッキングカーブ)を示すグラフを示す図である。図12のXは、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のロッキングカーブであり、図12のYは、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合のロッキングカーブである。なお、図12のグラフは、横軸が回転角度(2θ/ω)で、縦軸が検出値である。
【0085】
X線の0002回折測定では、結晶の構造評価が可能である。測定対象物を回転させ、その回転角に対する回折したX線量を測定するとピーク波形が得られる。そのピーク波形が鋭ければ、GaNの面直方向の結晶のばらつきが少なく、より結晶性がよいと判断できる。
【0086】
表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のロッキングカーブ(図12のX)では、ピーク波形の半値幅が1.12°であるのに対して、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合のロッキングカーブ(図12のY)では、ピーク波形の半値幅が0.68°であり、面直方向の結晶性が大きく改善されていることがわかる。
【0087】
図13は、GaN膜4のX線の11-24回折の測定の結果(ロッキングカーブ)を示すグラフを示す図である。図13のXは、表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のロッキングカーブであり、図13のYは、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合のロッキングカーブである。なお、図13のグラフは、横軸が回転角度(2θ/ω)で、縦軸が検出値である。
【0088】
X線の11-24回折測定では、結晶の構造評価が可能である。測定対象物を回転させ、その回転角に対する回折したX線量を測定するとピーク波形が得られる。そのピーク波形が鋭ければ、GaNの面内方向の結晶のばらつきが少なく、より結晶性がよいと判断できる。
【0089】
表面クリーニング処理(S3)をしなかった場合のロッキングカーブ(図13のX)では、ピーク波形の半値幅が1.24°であるのに対して、Gaプルームを用いた表面クリーニング処理(S3)をした場合のロッキングカーブ(図13のY)では、ピーク波形の半値幅が0.82°であり、面内方向の結晶性が大きく改善されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施形態の半導体装置の模式的な断面図である。
【図2】PLD装置の構成を示す図である。
【図3】ターゲットから発生されたプルームを表した模式図である。
【図4】上記半導体装置の製造プロセスを示すフローチャートである。
【図5】プルームを照射することにより、電磁鋼板の表面から酸素が除去される状態を示した図である。
【図6】電磁鋼板の表面のRHEED像を表した図である。
【図7】Gaプルームを用いた表面クリーニング処理を行った場合の電磁鋼板の表面のAFM像を示した図である。
【図8】Inプルームを用いた表面クリーニング処理を行った場合の電磁鋼板の表面のAFM像を示した図である。
【図9】Gaを用いた表面クリーニング処理をした場合のXPSによる光電子の放出の解析結果を示した図である。
【図10】Inを用いた表面クリーニング処理をした場合のXPSによる光電子の放出の解析結果を示した図である。
【図11】GaN膜の表面のRHEED像を表した図である。
【図12】GaN膜のX線の0002回折の測定の結果(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図13】GaN膜のX線の11-24回折の測定の結果(ロッキングカーブ)を示す図である。
【図14】電磁鋼板上にGaN膜をPLD法によりエピタキシャル成長させ、そのGaN膜のRHEED像を示す図である。
【図15】電磁鋼板の表面をCMP法で平坦化した後のAFMによる観察画像を示す図である。
【符号の説明】
【0091】
1 半導体装置、2 基板(電磁鋼板)、3 AlN層、4 GaN層、10 PLD装置、11 チャンバ、12 基板、13 ターゲット、21 プルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面に結合している酸素を除去する固体表面の酸素除去方法において、
所定の圧力以下に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度以上に加熱し、
酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射すること
を特徴とする固体表面の酸素除去方法。
【請求項2】
前記物質をプラズマ中に含んで前記固体表面に対して照射すること
を特徴とする請求項1記載の固体表面の酸素除去方法。
【請求項3】
レーザ光を照射して発生したプルームを、前記固体表面に対して照射すること
を特徴とする請求項2記載の固体表面の酸素除去方法。
【請求項4】
前記チャンバ内で前記固体を加熱実現可能な温度条件における酸素と結合後の蒸気圧が1(Pa)以上である物質を、前記固体表面に対して照射すること
を特徴とする請求項1記載の固体表面の酸素除去方法。
【請求項5】
Ga又はInを前記固体表面に対して照射すること
を特徴とする請求項4記載の固体表面の酸素除去方法。
【請求項6】
基板の表面を平坦化する平坦化工程と、
前記平坦化した基板の表面の酸素除去する酸素除去工程と、
酸素が除去された基板の表面に対して、結晶をエピタキシャル成膜させる成膜工程とを備え、
前記酸素除去工程では、
所定の圧力以下に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度以上に加熱し、
酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射すること
を特徴とする結晶成長方法。
【請求項7】
電磁鋼板の表面を平坦化する平坦化工程と、
前記平坦化した電磁鋼板の表面の酸素除去する酸素除去工程と、
酸素が除去された電磁鋼板の表面に対して半導体層を成膜する成膜工程とを備え、
前記酸素除去工程では、
所定の圧力以下に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度以上に加熱し、
酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射すること
を特徴とする半導体製造方法。
【請求項8】
前記成膜工程では、前記電磁鋼板上にAlN層を成膜し、前記AlN層上にGaN層を成膜すること
を特徴とする請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
電磁鋼板と、
前記電磁鋼板上に成膜された半導体層とを備え、
前記電磁鋼板は、
所定の圧力以下に減圧されたチャンバ内に前記固体を配置し、前記固体を所定の温度以上に加熱し、
酸素と結合し、前記所定の圧力及び前記所定の条件の下で酸素と結合すると気化する物質を、前記固体表面に対して固体の状態で照射することにより、表面の酸素が除去されていること
を特徴とする半導体装置。
【請求項10】
前記半導体層は、前記電磁鋼板上に成膜されたAlN層と、前記AlN層上に成膜されたGaN層とから構成されていること
を特徴とする請求項9記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−253500(P2006−253500A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69721(P2005−69721)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】