説明

固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極及びその製造方法

【課題】アノードにおける反応で発生した酸素によって白金触媒が酸化されて触媒能が低下することを抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことができる製造方法を提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜1の両面に、白金イオンの還元により析出した白金を含む触媒層2が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に金層3が形成されている固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極とする。アノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に、酸化還元電位の高い金層が形成されているので、触媒層に含まれる白金の酸化を効果的に抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の電気分解装置、燃料電池、湿度調整素子等に用いられる固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、水の電気分解装置、燃料電池、湿度調整素子等の分野で用いられている。固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、通常、固体高分子電解質膜と、その両面に形成された触媒層とから構成される。
このような固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、例えば、固体高分子電解質と触媒金属とを含むペースト状の触媒層形成材料を樹脂フィルム上で成膜し、これを固体高分子電解質膜の両面に接合して固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極母体とし、次いで無電解めっきにより両電極の表面に触媒金属を担持させるか、又は両電極の表面に触媒金属のイオンを吸着させた後、還元処理することにより触媒金属を担持させることにより製造される(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−217688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このように構成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極において、水が存在する状態で両電極間に直流電圧を印加して連続運転を行うと、固体高分子電解質膜の内部に蓄えられたプロトンが膜内部を移動し、触媒作用によりアノードの表面では酸素が生成されるとともに、カソード電極の表面では水素が生成される。
しかしながら、上記した従来の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極では、生成した酸素や水素によって、触媒層に含まれる触媒金属が酸化あるいは還元されて電極の寿命が短くなるという問題があり、特に、アノードでは、酸化力の強い酸素ラジカルが触媒金属を酸化して触媒能を著しく低下させるという問題があった。
従って、本発明は、アノードにおける反応で生成した酸素により触媒金属が酸化されて触媒能が低下することを抑制し、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、白金イオンの還元により析出させた白金を含む触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に金層を形成した固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を解決するに至った。
【0006】
即ち、本発明に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜の両面に、白金イオンの還元により析出した白金を含む触媒層が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に金層が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、固体高分子電解質膜を白金イオンを含む水溶液に浸漬して固体高分子電解質膜に白金イオンを吸着させた後、還元処理することにより固体高分子電解質膜の両面に白金を析出させて触媒層を形成し、次いでアノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に無電解めっき法又は電解めっき法により金層を形成することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アノードにおける反応で生成した酸素により白金が酸化されて触媒能が低下することを効果的に抑制することができ、それにより固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図である。
【図2】図1のII−II矢視断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図である。
【図4】図3のIV−IV矢視断面図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図である。
【図6】図5のVI−VI矢視断面図である。
【図7】本発明の実施の形態4に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図である。
【図8】図7のVIII−VIII矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図であり、図2は、図1のII−II矢視断面図である。図1及び2において、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の両面に形成された白金を含む触媒層2と、触媒層2の表面上の給電体接触部となる箇所に形成された金層3とから構成されている。実施の形態1における白金を含む触媒層2は、白金イオンの還元により固体高分子電解質膜1の表面に析出させたものであり、金層3は、電解めっき又は無電解めっき法により形成されたものである。
【0011】
実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の寿命が延びる作用機構について簡単に説明する。一例として、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を湿度調整素子として大気中で利用する場合について説明する。
【0012】
通常、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極において、アノードとなる触媒層とカソードとなる触媒層との間に直流電圧を印加すると、以下の反応式で表されるように、アノード側(正極側)では、水が水素イオンと酸素とに分解され、この水素イオンは固体高分子電解質膜1を介してアノード側からカソード側に移動する。一方、カソード側(負極側)では、固体高分子電解質膜を介してアノード側から移動してきた水素と大気中の酸素とが反応し、水が生成する。
アノード反応:H2O→2H++1/2O2+2e-
カソード反応:2H++1/2O2+2e-→H2
更に、アノード反応時には、白金の表面で水が水素イオンと酸素ラジカルとに分解され、この酸素ラジカルが白金と反応して白金酸化物を形成することがある。これらの反応は、以下の反応式で表される。
2O→2H++O・+2e-
O・+Pt→PtO
【0013】
触媒層に含まれる白金が酸化されて失活すると、アノード反応は進まなくなる。また、白金の酸化は、アノード電圧が高くなるに従って進行しやすくなる。本発明者らは、湿度調整素子の寿命は白金の酸化の有無に依存することはもちろんであるが、他の因子として給電方法にも依存していることを発見した。上述した通り、アノード電圧が高くなると白金の酸化は進行しやすい。白金の酸化は給電体との接触抵抗を増加させる主因子となるため、結果的にアノード電圧の増加につながる。そのため、白金の酸化が一旦発生すると、加速度的に白金の酸化が進行しやすい。その結果、白金の酸化は、触媒層全体で均一に進行するのではなく、給電体との接触部において進行しやすいことが判明した。このように給電体との接触部において白金の酸化が進行すると、白金触媒層と給電体との接触抵抗が増大し、最終的には給電不能となる。つまり、白金触媒層の他の箇所が酸化されていなくても素子として機能しなくなる可能性がある。
【0014】
しかし、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極のように、白金を含む触媒層2の表面上の給電体接触部に酸化還元電位の高い金層3を形成することで、給電体と白金触媒とが直接接触することがなくなり、給電体接触部における白金の酸化が抑制され、接触抵抗の増大も抑制される。これにより、給電体から素子全体への通電性を確保でき、上記原因による素子能力の低下を抑制可能となり、素子寿命を延ばすことができる。
【0015】
次に、実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法について説明する。実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、固体高分子電解質膜1に白金イオンを吸着させる工程と、白金イオンを還元処理することにより固体高分子電解質膜1の両面に白金を析出させて触媒層2を形成する工程と、還元析出した白金を含む触媒層2の表面上の給電体接触部に金層3を選択的に形成する工程とを備えることを特徴とする。以下、各工程について詳細に説明する。
【0016】
実施の形態1に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法では、まず、固体高分子電解質膜1を白金イオンを含む水溶液に浸漬することにより、固体高分子電解質膜1に白金イオンを吸着させる(白金イオン吸着工程)。吸着条件は、通常、白金イオンを含む水溶液の温度として15℃〜40℃であり、浸漬時間として10分〜60分である。固体高分子電解質膜1としては、表面から内部にかけてプロトンを保持・透過させることのできる微細経路を有するナフィオン(登録商標)等のプロトン交換基含有フッ素系ポリマーが挙げられる。このナフィオン(登録商標)は、希硫酸水溶液と同様の電解質としての振る舞いをする。固体高分子電解質膜1の微細経路には空気中の有機物や無機物が吸着しやすいので、固体高分子電解質膜1の表面にのみ白金イオンを吸着させるには、固体高分子電解質膜1の表面及び微細経路内を清浄にしておくことが好ましい。そのため、吸着工程に先立ち、必要に応じて、固体高分子電解質膜1を清浄化処理してもよい。清浄化処理方法としては、固体高分子電解質膜1を60℃〜80℃の希塩酸で5分〜20分煮沸すればよい。固体高分子電解質膜1をより清浄にするには、希塩酸の代わりに塩酸と過酸化水素水との混合液(好ましくは塩酸と過酸化水素水とが等量の混合液)を用いることが好ましい。清浄化処理後、固体高分子電解質膜1中に残留する塩素イオンを完全に除去するため水洗する。水洗条件は、25℃程度の純水若しくはイオン交換水に15分以上とすればよい。白金イオンを含む水溶液としては、テトラアンミン白金塩ジクロライドを水に溶解させたもの、四塩化白金をアンモニア水溶液に溶解させたもの等が挙げられる。水溶液中の白金イオン濃度は、1.5×10-4mol/L〜2×10-3mol/Lであることが望ましい。白金イオン濃度が上記範囲外であると、白金イオンが吸着しにくくなったり、吸着した白金イオンが脱離する場合がある。
【0017】
次に、吸着工程を経た固体高分子電解質膜1を還元剤を含む水溶液に浸漬することにより、固体高分子電解質膜1の両面に白金2を析出させて触媒層を形成する(白金イオン還元工程)。還元条件は、通常、還元剤を含む水溶液のpHとして11.5〜12.5であり、還元剤を含む水溶液の温度として40℃〜60℃であり、浸漬時間として1時間〜4時間である。白金の析出量は、0.3mg/cm2〜1.0mg/cm2であることが望ましい。なお、白金の析出量は、吸着工程で使用する白金イオン濃度、吸着工程における温度及び浸漬時間、還元工程で使用する還元剤の濃度、還元工程における温度及び浸漬時間等を変えることにより、任意に制御することが可能である。還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン等が挙げられる。還元剤の濃度は、2×10-2mol/L〜1×10-1mol/Lであることが望ましい。還元剤の濃度が上記範囲外であると、白金触媒が未着となったり、付着した白金触媒が剥離する場合がある。還元されずに残った白金イオンを除去して白金触媒の安定化を図るために、必要に応じて、還元工程を経た固体高分子電解質膜1を清浄化処理してもよい。清浄化処理は、吸着工程に先立って行う固体高分子電解質膜1の清浄化処理と同様の方法で行うことができる。
【0018】
次に、触媒層2と給電体とが接触する箇所以外の触媒層2表面を汎用のソルダーレジスト等でマスキングした後、金層3を形成する(金層形成工程)。その後、触媒層2の表面からマスキングを除去する。金層3を形成する方法としては、無電解めっき法及び電解めっき法のどちらでも構わない。金めっき液としては、公知のものを使用でき、例えば、亜硫酸金錯体等を含み、pHが8程度に調整された亜硫酸系金めっき液が挙げられる。金層3の膜厚は、金めっき液への浸漬時間、液温等を変えることにより制御することができる。金層3の好ましい膜厚は、0.25μm〜0.75μmである。金層3の膜厚が0.25μm未満の場合、通電による触媒層2及び給電体への拡散により、金層3が損失する恐れがあり、一方、0.75μm超の場合、金層3が剥離する場合がある。また過剰な膜厚の増大はコストの面から考えても好ましくない。亜硫酸系の金めっき液を使用した場合の電解めっき条件としては、通常、液温として55℃〜65℃、電流密度として0.2A/dm2〜0.7A/dm2、めっき時間として1.5分〜3.0分である。
【0019】
実施の形態1によれば、給電体と接触する箇所に白金よりも酸化還元電位が高い金層が形成されているため、触媒層に含まれる白金の酸化が効果的に抑制されて触媒能の低下が防止される。このような固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を湿度調整素子等の素子として利用すれば、触媒層と給電体との接触不良(接触抵抗の増加)を抑制でき、給電体から素子全体に安定して通電性を確保できるため、素子能力の低下を抑制でき、素子寿命を延ばすことができる。
【0020】
実施の形態2.
図3は、実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図であり、図4は、図3のIV−IV矢視断面図である。図3及び4において、実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の両面に形成された白金を含む触媒層2と、触媒層2の表面において格子状に形成された金層3とから構成されており、金層3の一部は、給電体接触部となる箇所に形成されている。つまり、実施の形態2では、実施の形態1のように給電体接触部となる箇所全体に金層3が形成されているのではなく、給電体接触部となる箇所の一部に金層3が形成されている。このように構成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、素子寿命を延ばすことができる上に、素子全体に安定した通電性を確保することができるという効果を奏する。
【0021】
実施の形態2に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、触媒層2の表面において格子状の金層3が形成されるように、金層3の形成が不要な箇所を汎用のソルダーレジスト等でマスキングすること以外は実施の形態1と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0022】
実施の形態2によれば、触媒層に含まれる白金の酸化が抑制されて触媒能の低下が防止されるので、素子寿命を延ばすことができる上に、触媒層の表面において白金よりも酸化還元電位が高い金層が格子状に形成されているため、素子全体に安定した通電性を確保することができる。
【0023】
実施の形態3.
図5は、実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図であり、図6は、図5のVI−VI矢視断面図である。図5及び6において、実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の両面に形成された白金を含む触媒層2と、触媒層2の表面上の給電体接触部となる箇所に形成されると共にそれ以外の箇所において格子状に形成された金層3とから構成されている。つまり、実施の形態3では、給電体接触部となる箇所以外の箇所にも金層3が格子状に形成されている点が実施の形態1と異なる。このように構成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、通電による給電体接触部の触媒の酸化、通電不良が抑制でき、素子全体に安定した通電性を確保することができるという効果を奏する。
【0024】
実施の形態3に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、触媒層2の表面をマスキングする箇所が異なること以外は実施の形態1と同じであるため、ここでの説明は省略する。
【0025】
実施の形態3によれば、触媒層の表面上の給電体接触部となる箇所に白金よりも酸化還元電位が高い金層が形成されると共にそれ以外の箇所にも金層が格子状に形成されているため、通電による給電体接触部の触媒の酸化、通電不良が抑制でき、素子全体に安定した通電性を確保することができる。
【0026】
実施の形態4.
図7は、実施の形態4に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の上面図であり、図8は、図7のVIII−VIII矢視断面図である。図7及び8において、実施の形態4に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、固体高分子電解質膜1と、固体高分子電解質膜1の両面に形成された白金を含む触媒層2と、触媒層2の表面上の給電体接触部となる箇所に形成されると共にそれ以外の箇所において格子状に形成された金層3と、給電体接触部となる箇所以外の触媒層2表面と金層3とを被覆する白金めっき層4とから構成されている。つまり、実施の形態4では、給電体接触部となる箇所以外の触媒層2表面と金層3とが白金めっき層4で被覆されている点が実施の形態3と異なる。このように構成された固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、実施の形態3よりも金層3と白金との接触面積が増大し、また大気中の汚染物質等の影響を受け難いため、触媒層2への通電性が更に向上するという効果を奏する。
【0027】
次に、実施の形態4に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法について説明する。実施の形態4に係る固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法は、金層3を形成するまでの工程は実施の形態3と同じであるのでその説明は省略する。
触媒層2の表面上に金層3を形成して、触媒層2の表面からマスキングを除去した後、給電体接触部となる箇所にマスキングを行い、給電体接触部となる箇所以外の触媒層2表面と金層3上とに白金めっき層4を形成する(白金めっき層形成工程)。その後、給電体接触部となる箇所からマスキングを除去する。白金めっき層4を形成する方法としては、無電解めっき法及び電解めっき法のどちらでも構わない。白金めっき液としては、公知のものを使用でき、例えば、ヘキサヒドロキシ白金酸等を含み、pHを7程度に調整された白金めっき液が挙げられる。白金めっき層4の膜厚は、白金めっき液への浸漬時間、液温等を変えることにより制御することができる。白金めっき層4の膜厚は、白金めっき層4が金層3を被覆していれば特に限定されないが、通常、0.25μm〜0.75μmである。ヘキサヒドロキシ白金酸を含む白金めっき液を使用した場合の電解めっき条件としては、通常、液温として25℃〜35℃、電流密度として1.0A/dm2〜2.0A/dm2、めっき時間として5.5分〜11分である。
【0028】
実施の形態4によれば、白金触媒として作用する白金めっき層中に金層3が形成されているため、触媒層2上のみに金層3が形成されている場合よりも金層3と白金との接触面積が増大し、また、大気中の汚染物質等の影響を受け難いため、触媒への通電安定性を更に向上させることができる。
【0029】
なお、実施の形態1〜4では、アノードとなる触媒層の表面及びカソードとなる触媒層の表面の両方に、金層を形成した場合について説明したが、少なくともアノードとなる触媒層の表面に金層が形成されていれば本発明の効果が得られる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
固体高分子電解質膜としてのナフィオン(登録商標)117(大きさ15mm×11mm、厚さ170μm、デュポン製)を70℃の30%希塩酸に浸漬し、20分程度煮沸した。続いて、固体高分子電解質膜をイオン交換水に15分以上浸漬して塩素イオンを除去した。清浄化された固体高分子電解質膜をテトラアンミン白金ジクロライド水溶液(テトラアンミン白金ジクロライド濃度は7.49×10-4mol/L(0.25g/L)である)に40℃で10分間浸漬し、膜表面に白金イオンを吸着させた。次に、固体高分子電解質膜を水素化ホウ素ナトリウム水溶液(水素化ホウ素ナトリウム濃度は5.29×10-2mol/L(2.0g/L)であり、水酸化ナトリウムでpHを12に調整したもの)に50℃で2時間浸漬し、膜表面に吸着させた白金イオンを還元して白金を析出させた。
【0031】
次に、固体高分子電解質膜を70℃の30%希塩酸に浸漬し、10分程度煮沸して、余分な白金イオンを除去した。続いて、固体高分子電解質膜をイオン交換水に15分以上浸漬して塩素を除去した。このようにして作製した固体高分子電解質膜の両面には、約1.1mg/cm2の白金触媒層がそれぞれ形成されていた。
【0032】
次に、白金触媒層が形成された固体高分子電解質膜の両面の給電体接触部以外をソルダーレジストでマスキングした後、亜硫酸金めっき液(ミクロファブ(登録商標)Au1101、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)に浸漬し、液温60℃、電流密度0.5A/dm2、通電時間90秒の条件で電解金めっきを行い、図1及び2に示すような0.5μmの金めっき層を形成した。電解金めっき後、固体高分子電解質膜をイオン交換水にて水洗した後、100℃の真空電気炉中で乾燥させ、マスキングを除去した。
【0033】
[実施例2]
実施例1と同様にして、両面に約1.1mg/cm2の白金触媒層が形成された固体高分子電解質膜を作製した。次に、白金触媒層が形成された固体高分子電解質膜の両面に金めっき層が図3及び4に示すように形成されるようにソルダーレジストでマスキングした後、実施例1と同様の条件で電解金めっきを行い、図3及び4に示すような0.5μmの金めっき層を形成した。電解金めっき後、固体高分子電解質膜をイオン交換水にて水洗した後、100℃の真空電気炉中で乾燥させ、マスキングを除去した。
【0034】
[実施例3]
実施例1と同様にして、両面に約1.1mg/cm2の白金触媒層が形成された固体高分子電解質膜を作製した。次に、白金触媒層が形成された固体高分子電解質膜の両面に金めっき層が図5及び6に示すように形成されるようにソルダーレジストでマスキングした後、実施例1と同様の条件で電解金めっきを行い、図5及び6に示すような0.5μmの金めっき層を形成した。電解金めっき後、固体高分子電解質膜をイオン交換水にて水洗した後、100℃の真空電気炉中で乾燥させ、マスキングを除去した。
【0035】
[実施例4]
実施例3と同様にして、金めっき層の形成までを行い、イオン交換水にて水洗後、固体高分子電解質膜を100℃の真空電気炉中で乾燥させ、マスキングを除去した。次に、給電体接触部にソルダーレジストでマスキングを施した後、白金めっき液(プラチュナN1、ミコアジャパン株式会社製)に浸漬し、液温30℃、電流密度1.5A/dm2、通電時間7.5分の条件で電解白金めっきを行い、図7及び8に示すような0.5μmの白金めっき層を形成した。電解白金めっき後、固体高分子電解質膜をイオン交換水にて水洗後、100℃の真空電気炉中で乾燥させ、マスキングを除去した。
【0036】
[比較例1]
実施例1から電解金めっきプロセスを省略し、固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を作製した。
【0037】
得られた実施例1〜4及び比較例1の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極を、電極の面積16.5cm2の湿度調整素子として組み立て、触媒層間に直流電圧を印加することにより素子特性を評価した。電流0.5A及び電流密度3A/dm2の条件で運転し、初期の除湿能力と3500時間の連続運転を実施した後の除湿能力を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から分かるように、実施例1〜4の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極は、比較例1のものと比較して、長寿命化されていることが確認できた。
【符号の説明】
【0040】
1 固体高分子電解質膜、2 触媒層、3 金層、4 白金めっき層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両面に、白金イオンの還元により析出した白金を含む触媒層が形成され、且つアノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に金層が形成されていることを特徴とする固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極。
【請求項2】
前記金層は、アノードとなる前記触媒層の表面において格子状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極。
【請求項3】
前記給電体接触部以外が、白金めっき層で被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極。
【請求項4】
固体高分子電解質膜を白金イオンを含む水溶液に浸漬して固体高分子電解質膜に白金イオンを吸着させた後、還元処理することにより固体高分子電解質膜の両面に白金を析出させて触媒層を形成し、次いでアノードとなる触媒層の表面上の少なくとも給電体接触部に無電解めっき法又は電解めっき法により金層を形成することを特徴とする固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法。
【請求項5】
前記金層形成後、前記給電体接触部以外を無電解めっき法又は電解めっき法により白金めっき層で被覆することを特徴とする請求項4に記載の固体高分子電解質膜・触媒金属複合電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−1980(P2013−1980A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136349(P2011−136349)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】