説明

固定砥粒ワイヤーソー装置

【課題】従来の固定砥粒ワイヤーソー装置においては、高速走行している固定砥粒ワイヤーに向けて高圧流体や超音波振動を与えた流体を噴射する噴射手段を設け、ワイヤー表面に詰まったスラッジ等を吹き飛ばす技術や、高速走行するワイヤー列に空気あるいは加工液を介して超音波振動を付加する装置があるが、いずれも十分な洗浄効果が得られないという問題がある。
【解決手段】固定砥粒ワイヤーの走行路中に超音波振動発生装置を配置し、その超音波振動発生装置に設けた印加子を、走行する固定砥粒ワイヤーに接触させて超音波振動を固定砥粒ワイヤーに直接印加させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料、磁性材料、セラミック等の脆性材料を切断することに用いることができる固定砥粒ワイヤーソー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコン、ガラス、セラミック、脆い金属等のインゴットをウェハーに切断する装置の一つに固定砥粒ワイヤーソーがある。
【0003】
この固定砥粒ワイヤーソーは、ワイヤーの表面にCBNやダイヤモンド等の砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤーによってワイヤー列を形成し、このワイヤー列を高速走行させ、それに被加工体であるインゴットを押し当てることにより、そのインゴットをウェハーにスライスすることができる。
このような固定砥粒ワイヤーソーでインゴットを切断する際に、一番の問題となるのは、固定砥粒ワイヤーに生じる目詰まりである。
【0004】
この目詰まりを防止する対策として、固定砥粒ワイヤーに向けて高圧流体を噴射する噴射手段を設け、ワイヤー表面に詰まったスラッジ等を吹き飛ばす技術があり、さらには、この高圧流体に超音波振動を与えてさらに効率よくスラッジ等を吹き飛ばそうとする技術がある(例えば、特許文献1参照)。
また、高速走行する固定砥粒ワイヤーに空気あるいは加工液を介して超音波振動を付加する装置もある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−70456号公報
【特許文献2】特開2001−62700公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の技術においては、前者は、高速走行している固定砥粒ワイヤーに対しては十分な洗浄効果が得られず、さらに、流体に超音波振動を与えても固定砥粒ワイヤーに十分な振動が伝わらず、洗浄効果が少なく、しかも加工の最終段階になって加工性が悪くなるという問題がある。
【0007】
また、上記の後者においては、空気または加工液を介して超音波振動を固定砥粒ワイヤーに伝えるために、十分な振動が固定砥粒ワイヤーに伝わらず、洗浄効果が少なく加工向上にならないのという問題がある。さらに、空気または加工液を介して固定砥粒ワイヤーに超音波振動を与える装置は極めて大がかりな装置となるという問題がある。
本発明は、このような問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明は、ワイヤーの表面に砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤーを複数個の加工用ロールに巻き付けてワイヤー列を構成し、この固定砥粒ワイヤーを往復走行させながら被加工物を押し当てることにより、被加工物をウェハーに切断する固定砥粒ワイヤーソー装置において、固定砥粒ワイヤーの走行路中に超音波振動発生装置を配置し、その超音波振動発生装置に設けた金属または合成樹脂製の薄板等による印加子を、走行する固定砥粒ワイヤーに接触させて15kHz以上の超音波振動を固定砥粒ワイヤーに直接印加させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
さらに、固定砥粒ワイヤーの走行路中にワイヤー洗浄装置を配置し、被加工物通過後のワイヤーを洗浄するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このようにした本発明は、超音波振動発生装置に設けた印加子によって走行する固定砥粒ワイヤーに15kHz以上の超音波振動を直接印加することにより、被加工物の切断加工によって固定砥粒ワイヤーの表面に残留しているスラッジ等を超音波振動によって確実に除去することができることになる。さらに、直接印加された超音波振動によって超音波切削と同等な切削性が得られ、ウェハーの切断効果が向上することになる。
【0011】
また、被加工物を加工した後にワイヤー洗浄装置によって固定砥粒ワイヤー表面に残留しているスラッジ等を洗浄除去することにより、固定砥粒ワイヤーの消耗を抑制することができ、ひいては、固定砥粒ワイヤーの断線を防止して固定砥粒ワイヤーの寿命を延ばすことができることになる。特に、固定砥粒ワイヤーを往復させて使用する場合には、被加工物の切断加工が多く、このような場合には、固定砥粒ワイヤーの長寿命化が大きな効果となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例を示す説明図
【図2】ワイヤー列の構成図
【図3】超音波発生装置の説明図
【図4】超音波発生装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は実施例を示す説明図である。
固定砥粒ワイヤーソー装置1の固定砥粒ワイヤー2は、一対のワイヤーリール3A、3Bに巻かれており、この一対のワイヤーリール3A、3B間に配置した複数のガイドローラ4にガイドされて往復走行するようになっている。
【0014】
つまり、上記一対のワイヤーリール3A、3Bは図示しないモータに連結されており、この一対のワイヤーリール3A、3Bが回転することにより、固定砥粒ワイヤー2は一対のワイヤーリール3A、3B間を往復走行する。
【0015】
往復走行する固定砥粒ワイヤー2は、図2に示す如く、一対のワイヤーリール3A、3B間に配置した複数、本実施例では3本の主軸ローラ5A、5B、5Cを各軸が三角形を形成するように平行に配置したそのそれぞれの主軸ローラに巻き掛けてある。この主軸ローラ5A、5B、5Cの各ローラの周面には所定のピッチのらせん状の溝が形成してあり、その溝に固定砥粒ワイヤー2が巻き掛けられてワイヤー列6が形成される。
【0016】
上記主軸ローラ5A、5B、5Cと、ワイヤーリール3A、3Bの間に、ローラをその軸方向に移動可能にして固定砥粒ワイヤー2の走行を安定させるトラバース装置7があり、さらに、そのトラバース装置7とワイヤー列6の間に走行する固定砥粒ワイヤー2が一定の張力となるように調節するダンサーローラ8が配置してある。なお、上記ではトラバース装置7をワイヤーリール3A、3Bの間のそれぞれに配置したが、その一方のみの配置でもよい。
【0017】
上記ワイヤー列6に沿って被加工品であるインゴット9を装着するワークテーブル10が配置してある。このワークテーブル10は、図示しないテーブル送り装置によって駆動され、ワイヤー列6に対してインゴット9を移動させる。
【0018】
つまり、ワイヤーリール3A、3Bを連結した図示しないモータを駆動して固定砥粒ワイヤー2を走行させ、固定砥粒ワイヤー2の走行が安定したところで、インゴット9を取り付けたワークテーブル10をワイヤー列6に向けて移動させる。これによって、インゴット9を走行するワイヤー列6に押し当てる。ワイヤー列6に押し当てられたインゴット9は、そのワイヤー列6を構成する固定砥粒ワイヤー2によって研削されてウェハー状に複数切断することができる。
【0019】
上記主軸ローラ5B、5Cの間には1個もしくは複数個(本実施例では2個)の超音波振動発生装置である超音波振動用ホーン11を配置し、その各超音波振動用ホーン11には取り外して交換が可能な金属または合成樹脂製の薄板等による印加子12が取り付けられている。
【0020】
この印加子12をワイヤー列6の走行している固定砥粒ワイヤー2に接触させて15kHz以上の超音波振動を固定砥粒ワイヤー2に直接印加させることにより、固定砥粒ワイヤー2の表面に付着したスラッジ等を振り落とすことができ、これによって表面の目詰まりをなくして切削性の劣化を防ぐようにしてある。なお、超音波振動用ホーンにおける振動子13の取り付け位置は、図3、図4に示す如く、超音波振動用ホーン本体の側面や上面等任意の位置でよい。
【0021】
また、ワイヤーリール3Aと主軸ローラ5Aとの間およびワイヤーリール3Bと主軸ローラ5Aとの間にはそれぞれワイヤー洗浄装置14を設け、往復走行する固定砥粒ワイヤー2をそのワイヤー洗浄装置内を通過させることにより、固定砥粒ワイヤー2の表面に残留しているスラッジ等を洗浄液によって除去する。これによって、固定砥粒ワイヤー2の断線を防止し、耐久性の向上を図る。なお、このワイヤー洗浄装置14内に超音波振動発生装置15を配置しておくことにより、一層の洗浄効果を高めることが可能となる。
以上によって、本実施例の固定砥粒ワイヤーソー装置が構成される。
【0022】
以下に上記構成による固定砥粒ワイヤーソー装置の使用例を説明する。
使用例
ワイヤー列の固定砥粒ワイヤーソーに、超音波振動用ホーンの薄板を介して超音波振動を直接印加しながらインゴットを切断し、切断使用後ワイヤー洗浄槽で超音波洗浄を行った後の切断面の粗さおよび固定砥粒ワイヤーの線径を測定した。切断条件は、平均速度300m/min、テーブル速度0.3m/min、ワイヤー径φ0.14mmである。
【0023】
比較例
固定砥粒ワイヤーでインゴットを切断した後、固定砥粒ワイヤーの切断面の粗さと固定砥粒ワイヤーの線径を測定した。切断条件は、上記使用例と同様で平均速度300m/min、テーブル速度0.3m/min、ワイヤー径φ0.14mmである。
【0024】
【表1】

【符号の説明】
【0025】
1 固定砥粒ワイヤーソー装置
2 固定砥粒ワイヤー
3A、3B ワイヤーリール
4 ガイドローラ
5A、5B、5C 主軸ローラ
6 ワイヤー列
7 トラバース装置
8 ダンサーローラ
9 インゴット
10 ワークテーブル
11 超音波振動用ホーン
12 印加子
13 振動子
14 ワイヤー洗浄装置
15 超音波振動発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーの表面に砥粒を固着させた固定砥粒ワイヤーを往復走行させ、それに被加工物を押し当てることにより、被加工物をウェハーに切断する固定砥粒ワイヤーソー装置において、
固定砥粒ワイヤーの走行路中に超音波振動発生装置を配置し、その超音波振動発生装置に設けた印加子を、走行する固定砥粒ワイヤーに接触させて超音波振動を固定砥粒ワイヤーに直接印加させるようにしたことを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー装置。
【請求項2】
請求項1において、固定砥粒ワイヤーの走行路中にワイヤー洗浄装置を配置し、被加工物通過後のワイヤーを洗浄するようにしたことを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー装置。
【請求項3】
請求項1もしく請求項2において、固定砥粒ワイヤーに直接印加する超音波振動を15kHz以上としたことを特徴とする固定砥粒ワイヤーソー装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−45682(P2012−45682A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191547(P2010−191547)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【Fターム(参考)】