説明

圧力調整弁

【課題】本発明は、低流量域における圧力調整弁の振動を防止することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る圧力調整弁は、ダイヤフラム15によって仕切られた制御圧室Cと圧力調整室Pと、ダイヤフラム15と共に軸方向に変位するバルブ本体17と、バルブ本体17が接離するバルブシート23とを備え、圧力調整室P内の流体によるダイヤフラム押圧力が制御圧室C側からのダイヤフラム押圧力よりも大きいときに、ダイヤフラム15がバルブ本体17をリフトさせて流体排出通路22を開く構成の圧力調整弁であって、バルブシート23に対するバルブ本体17のリフト量Xが150[μm]よりも小さい範囲では、流体排出通路22を流れる流体流量Q[リットル/時間]とリフト量X[μm]との関係が、Q÷X<0.46となるように、バルブ本体17とバルブシート23との形状、及び流体排出通路22の径寸法が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラムに取付けられたバルブ本体をバルブシートに対して変位させる構成の圧力調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した圧力調整弁としては種々のものが提案されている。
例えば、図9に示す特許文献1に記載の圧力調整弁100は、ダイヤフラム111によって仕切られた制御圧室112と圧力調整室113とを備えている。ダイヤフラム111には、そのダイヤフラム111が制御圧室112と圧力調整室113との差圧により変形する際に、共に軸方向に変位するバルブ本体115が取付けられている。また、圧力調整室113は、その圧力調整室113内の流体を排出する流体排出管117と連通しており、流体排出管117の開口周縁にバルブシート116がバルブ本体115と同軸に形成されている。
圧力調整室113内の流体圧力が上昇して、圧力調整室113内の流体のダイヤフラム押圧力が制御圧室112側からのダイヤフラム押圧力よりも大きくなると、ダイヤフラム111がバルブ本体115をバルブシート116から離隔する方向(上方)に変位させて流体排出管117の開口が開かれる。これによって、圧力調整室113内の流体の一部が流体排出管117によって排出され、圧力調整室113内の流体圧力が低下する方向に調整される。即ち、圧力調整室113内の流体圧力は、その流体によるダイヤフラム押圧力が制御圧室112からのダイヤフラム押圧力とバランスするように調整される。
【0003】
【特許文献1】特表平11−501388号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した圧力調整弁100では、流体排出管117から排出される流体流量が小さい場合、バルブ本体115がバルブシート116から上方に変位する量(リフト量)は小さくなる。バルブ本体115のリフト量が小さいと、流体の流量変化により、バルブ本体115がバルブシート116に対して短時間内に接離を繰り返し、圧力調整弁100が振動することがある。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、低流量域においてバルブ本体が流路の開閉を短時間で繰り返すことによる圧力調整弁の振動を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、ダイヤフラムによって仕切られた制御圧室と圧力調整室と、前記ダイヤフラムに取付けられて、そのダイヤフラムが前記制御圧室と圧力調整室との差圧により変形する際に、前記ダイヤフラムと共に軸方向に変位するバルブ本体と、前記圧力調整室内の流体を排出する流体排出通路の開口周縁に形成されており、前記バルブ本体が軸方向に変位することにより、そのバルブ本体が接離するバルブシートとを備え、前記圧力調整室内の流体によるダイヤフラム押圧力が前記制御圧室側からのダイヤフラム押圧力よりも大きいときに、前記ダイヤフラムが前記バルブ本体を前記バルブシートから離隔する方向に変位させて前記流体排出通路の開口を開く構成の圧力調整弁であって、前記バルブシートに対する前記バルブ本体の離隔距離Xが150[μm]よりも小さい範囲では、前記流体排出通路を流れる流体流量Q[リットル/時間]と前記離隔距離X[μm]との関係が、Q÷X<0.46となるように、前記バルブ本体と前記バルブシートとの形状、及び前記流体排出通路の径寸法が設定されていることを特徴とする。
【0007】
本発明によると、バルブシートに対するバルブ本体の離隔距離Xが150[μm]よりも小さい範囲では、流体流量Q[リットル/時間]と前記離隔距離X[μm]との関係が、Q÷X<0.46となるように、バルブ本体とバルブシートとの形状、及び前記流体排出通路の径寸法が設定されている。
例えば、流体流量Qが一定のときには、離隔距離Xが所定値よりも大きい場合に、上記したQ÷X<0.46の条件を満足する。したがって、流体流量Qが小さい場合でも、バルブシートに対するバルブ本体の離隔距離Xが比較的大きくなり、前記バルブ本体がバルブシートに対して短時間で接離を繰り返す不具合が起こり難くなる。これにより、圧力調整弁の振動を抑制できる。
なお、バルブ本体の離隔距離Xが150[μm]以上である場合には、流体流量Qが変動してもバルブ本体がバルブシートに対して短時間で接離することはなく、圧力調整弁の振動はほとんど生じない。
【0008】
請求項2の発明によると、バルブ本体の突出部がバルブシート側から流体排出通路の内側に入り込んでいることを特徴とする。
このように、バルブ本体の突出部がバルブシート側から流体排出通路の内側に入り込んでいるため、流体排出通路の径寸法が比較的大きな場合でも、流路面積を小さくできる。このため、流体排出通路に所定流量の流体を流す際に、バルブシートに対するバルブ本体の離隔距離を大きく取ることができる。さらに、バルブ本体がバルブシートから離れて、そのバルブ本体の突出部が流体排出通路から抜けた後は、その流体排出通路を流れる流体の流量を増大させることができる。
【0009】
請求項3の発明によると、バルブシートには、バルブ本体の凸テーパ面が当接可能な凹テーパ面が形成されており、前記バルブシートの軸心に対する凹テーパ面の成す角αと、流体排出通路の径寸法R1との関係が、R1<73×α-0.92となるように設定されていることを特徴とする。
請求項4の発明によると、バルブシートには、バルブ本体の凸球面が当接可能な凹テーパ面が形成されており、バルブシートの軸心に対する凹テーパ面の成す角αと、前記凸球面における前記凹テーパ面との当接部分の直径寸法R2との関係が、R2<75×α-0.95となるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、流体流量が小さい場合にも、バルブシートに対するバルブ本体の離隔距離が比較的大きくなり、バルブ本体がバルブシートに対して短時間で接離を繰り返すことによる振動を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施形態1]
以下、図1から図4に基づいて本発明の実施形態1に係る圧力調整弁の説明を行なう。本実施形態の圧力調整弁は、主として自動車等の燃料供給装置の燃料調圧機構に使用される圧力調整弁であり、図1にその圧力調整弁の縦断面図等が示されている。図2、図3は圧力調整弁のリターン流量と制御圧力等との関係を表すグラフであり、図4は圧力調整弁のリターン流量とバルブ本体のリフト量との関係を表すグラフである。
【0012】
<圧力調整弁10の構成について>
本実施形態の圧力調整弁10は、燃料ポンプから吐出された燃料圧力を調整するための弁であり、燃料タンク内の燃料をエンジンのインジェクタ(燃料噴射弁)まで圧送する燃料供給装置に使用されている。
圧力調整弁10は、図1(A)に示すように、上側ケース11と下側ケース12とからなる弁ケース13を備えている。上側ケース11は、天井部11uと筒部11tとを備えており、前記筒部11tの下端の開口周縁にフランジ部11fが形成されている。そして、上側ケース11の天井部11uと筒部11tとにそれぞれ燃料通路11hが形成されている。下側ケース12は、上から順番に同軸に形成された大径部12r、中径部12m、小径部12sを備えており、大径部12rの上端の開口周縁にフランジ部12fが形成されている。また、下側ケース12の大径部12rと中径部12mとの境界にはリング段差部12dが形成されており、そのリング状段差部12dに燃料流入路12hが形成されている。また、下側ケース12の小径部12sの先端には、中央に燃料排出口12pが形成されている。
上側ケース11と下側ケース12とは、互いのフランジ部11f,12fの間にダイヤフラム15の周縁部を挟んで固定した状態で、下側ケース12のフランジ部12fの周縁が上側ケース11のフランジ部11fを上から押えるように折り返されている。これにより、弁ケース13の内部には、ダイヤフラム15によって仕切られた制御圧室Cと圧力調整室Pとが形成される。
制御圧室Cには、上側ケース11の燃料通路11hを介して一定圧力の燃料が供給されるようになっている。また、圧力調整室Pは、下側ケース12の燃料流入路12hを介して前記インジェクタに燃料を供給する圧送流路(図示省略)と連通している。
【0013】
ダイヤフラム15の中心にはバルブ本体17が取付けられている。バルブ本体17は、後記する流体排出管20の中央流路22を圧力調整室P内で開閉する部材であり、ダイヤフラム15が制御圧室Cと圧力調整室Pとの差圧により変形する際に、そのダイヤフラム15と共に軸方向(図1の上下方向)に変位できるように構成されている。バルブ本体17の先端(図1において下端)には、流体排出管20の上端に形成されたバルブシート23に対し、接離可能な円板状の弁体17vが設けられている。
弁ケース13の圧力調整室P内、即ち、下側ケース12内には、ダイヤフラム15と同軸に上記した流体排出管20が設けられている。流体排出管20は、直管状に形成されており、下側ケース12の中径部12m内に圧入固定されている。これにより、流体排出管20の内部軸方向に形成された中央流路22は下側ケース12の中径部12mの内部空間、小径部12sの内部空間を介して燃料排出口12pと連通するようになる。前記中央流路22は、流体排出管20の上端位置で開口しており、その開口の周縁にバルブ本体17の弁体17vが当接するバルブシート23がリング状に形成されている。
【0014】
バルブシート23は、図1(B)に示すように、平面状に形成されており、そのバルブシート23に合わせて弁体17vの先端面17fも平面状に形成されている。そして、バルブシート23に対して弁体17vの先端面17fが面接触した状態で(図1(B)参照)、流体排出管20の中央流路22は閉鎖される。また、バルブ本体17が上方に変位して弁体17vの先端面17fがバルブシート23から離隔した状態で、流体排出管20の中央流路22が開放される。これにより、圧力調整室P内の燃料の一部は、流体排出管20の中央流路22、下側ケース12の中径部12mの内部空間、小径部12sの内部空間を通って燃料排出口12pから燃料タンク内に戻される。
即ち、流体排出管20の中央流路22、下側ケース12の中径部12mの内部空間、小径部12sの内部空間、及び燃料排出口12pが本発明の流体排出通路に相当する。
また、弁ケース13の制御圧室C内には、バルブ本体17が流体排出管20の中央流路22を閉鎖する方向にそのバルブ本体17を押圧するコイルバネ19がダイヤフラム15と同軸状態で収納されている。
以後、本明細書では、バルブシート23に対する弁体17vの先端面17fの離隔距離をバルブ本体17のリフト量(リフト量X)と呼び、バルブシート23の内径寸法、即ち、流体排出管20の中央流路22の内径寸法をシート内径R1と呼ぶ。また、流体排出管20の中央流路22等により燃料タンク内に戻される燃料流量をリターン流量Qと呼ぶことにする。
【0015】
<圧力調整弁10の動作について>
次に、圧力調整弁10の動作について説明する。
例えば、圧力調整弁10の制御圧室C側から燃料がダイヤフラム15を押圧する力と、圧力調整室P側から燃料がダイヤフラム15を押圧する力とがバランスしている状態で、圧力調整室P内の燃料圧力が低下した場合を考える。即ち、圧力調整室P内の燃料圧力が低下して、圧力調整室P側からダイヤフラム15を押圧する力が制御圧室C側からダイヤフラム15を押圧する力よりも小さくなると、ダイヤフラム15が下方に撓む。これにより、バルブ本体17の弁体17vがバルブシート23に当接して流体排出管20の中央流路22が塞がれる。この結果、圧力調整室Pから燃料の流出が規制されて、圧力調整室P及びその圧力調整室Pと連通する圧送流路(図示省略)の燃料圧力が上昇する。そして、圧力調整室P側からダイヤフラム15を押圧する力が制御圧室C側からダイヤフラム15を押圧する力を超えると、ダイヤフラム15が上方に撓み、バルブ本体17の弁体17vがバルブシート23から離隔(リフト)して流体排出管20の中央流路22が開放される。これにより、圧力調整室P内の燃料が流体排出管20、下側ケース12の中径部12mの内部空間、小径部12sの内部空間を介して燃料排出口12pから燃料タンク内に戻される。この結果、圧力調整室P、及びその圧力調整室Pと連通する流路の燃料圧力が低下する。そして、再び、圧力調整室P側からダイヤフラム15を押圧する力が制御圧室C側からダイヤフラム15を押圧する力よりも小さくなると、ダイヤフラム15が下方に撓み、バルブ本体17により流体排出管20の中央流路22が塞がれる。このように、バルブ本体17による流体排出管20の中央流路22の開閉が繰り返されることで、圧力調整室P、及びその圧力調整室Pと連通する圧送流路内の燃料圧力は、制御圧室C内の燃料圧力値に基づいて所定圧力に調整される。
また、圧力調整弁10の制御圧室Cから燃料が流出して、ダイヤフラム15が制御圧室C内のコイルバネ19の押圧力を受けるようになると、圧力調整室P内の燃料圧力は制御圧室C内のコイルバネ19の押圧力にバランスする圧力まで低下する。
ここで、本実施形態に係る圧力調整弁10では、圧力調整室P内の燃料圧力は、一般的に約250kPa、あるいは300kPaに調整される。
【0016】
<圧力調整弁10のリターン流量と振動発生との関係について>
図2(A)は、シート内径R1(流体排出管20の中央流路22の内径寸法)を2mmとし、下側ケース12の燃料排出口12pの内径Rxを1mmに設定した場合のリターン流量Q(流体排出管20を流れる燃料流量Q)と振動発生との関係を表している。即ち、シート内径R1が2mm、燃料排出口12pの内径Rxが1mmの場合、圧力調整室P内の燃料圧力が250kPa、あるいは300kPaのときに、リターン流量Qが約47[リットル/時間]以下で振動が発生している。
ここで、圧力調整弁10のリターン流量Qは、シート内径R1、燃料排出口12pの内径Rxと、バルブシート23に対するバルブ本体17のリフト量Xとによって決まる。例えば、シート内径R1等を小さくすると、バルブシート23とバルブ本体17(弁体17v)との間の流路面積(管状面積)が小さくなり、リターン流量Qは小さくなる。逆に、シート内径R1等を大きくすると、リターン流量Qは大きくなる。また、バルブ本体17のリフト量Xが小さくなると、バルブシート23とバルブ本体17(弁体17v)との間の流路面積が小さくなり、リターン流量Qは小さくなる。逆に、リフト量Xを大きくすると、リターン流量Qは大きくなる。このため、リターン流量Qが一定の場合には、シート内径R1等を小さくすることで、バルブ本体17のリフト量Xを大きく設定することができる。
圧力調整弁10の振動は、リターン流量Qの低流量域、即ち、バルブ本体17のリフト量Xが小さいときに、流体の流量変化により、バルブ本体17がバルブシート23に対して短時間に接離を繰り返すことにより発生する。このため、リターン流量Qが小さいときに、バルブ本体17のリフト量Xを比較的大きく設定すれば、振動を抑制することができる。
ここで、シート内径R1が2mm、燃料排出口12pの内径Rxが1mmの場合、図2(A)に示すように、リターン流量Qが47[リットル/時間]のときのリフト量Xは、約105μmである。
【0017】
図2(B)は、シート内径R1を1.5mmとし、燃料排出口12pの内径Rxを2mmに設定した場合、リターン流量Qと振動発生との関係を表している。この場合、圧力調整室P内の燃料圧力が250kPa、あるいは300kPaのとき、リターン流量Qが約53[リットル/時間](リフト量X=約120μm)以下で振動が発生している。
図3(A)は、シート内径R1を2mmとし、燃料排出口12pの内径Rxを2mmに設定した場合、リターン流量Qと振動発生との関係を表している。この場合には、リターン流量Qが約87[リットル/時間](リフト量X=約140μm)以下で振動が発生している。
図3(B)は、シート内径R1を3mmとし、燃料排出口12pの内径Rxを2mmに設定した場合、リターン流量Qと振動発生との関係を表している。この場合には、リターン流量Qが約130[リットル/時間](リフト量X=約150μm)以下で振動が発生している。
【0018】
図4は、図2(A)(B)、図3(A)(B)に基づいて作成されたグラフであり、圧力調整室P内の燃料圧力が250kPa、あるいは300kPaのときのリターン流量Qとバルブ本体17のリフト量Xとの関係、及び振動発生領域を表している。ここで、図中の特性1は、シート内径R1が2mm、燃料排出口12pの内径Rxが1mmのときのリターン流量Qとリフト量Xとの関係を表している。特性2は、シート内径R1が1.5mm、燃料排出口12pの内径Rxが2mmのときのリターン流量Qとリフト量Xとの関係、特性3は、シート内径R1が2mm、燃料排出口12pの内径Rxが2mmのときのリターン流量Qとリフト量Xとの関係を表している。また、特性4は、シート内径R1が3mm、燃料排出口12pの内径Rxが2mmのときのリターン流量Qとリフト量Xとの関係を表している。
図4に示すように、リフト量Xが150μm以上では、特性1〜特性4のいずれの場合にも、圧力調整弁10で振動はほとんど発生しない。また、リフト量Xが150μmよりも小さい場合であっても、Q=0.46Xの直線を境界にして、リターン流量Qが0.46Xよりも小さくなる範囲、即ち、Q<0.46X(Q÷X<0.46)となる範囲で振動はほとんど発生しない。このため、本実施形態に係る圧力調整弁10では、リフト量Xが150μmより小さい場合に、リターン流量Q÷リフト量X<0.46となるように、シート内径と燃料排出口12pの内径、及びバルブシート23とバルブ本体17の形状が設定されている。
リターン流量Q÷リフト量X<0.46を満足する範囲は、Q=0.46Xで表される直線よりも下の範囲(斜線部分の下側)であり、特性1(シート内径R1が2mm、燃料排出口12pの内径Rxが1mm)、特性2(シート内径R1が1.5mm、燃料排出口12pの内径Rxが2mm)が条件を満足している。なお、低流量域における振動防止だけを考慮すれば、特性1が有利であるが、リフト量Xが150μmより大きい範囲でリターン流量Qを大きくしたい場合には特性2が有利である。
【0019】
<本実施形態に係る圧力調整弁10の長所>
本実施形態に係る圧力調整弁10によると、バルブシート23に対するバルブ本体17のリフト量Xが150[μm]よりも小さい範囲では、リターン流量Q[リットル/時間]とリフト量X[μm]との関係が、Q÷X<0.46となるように、バルブ本体23とバルブシート17との形状、及びシート内径R1と燃料排出口12pの内径Rxが設定されている。
例えば、リターン流量Qが一定のときには、リフト量Xが所定値よりも大きい場合に、上記したQ÷X<0.46の条件を満足する。
したがって、リターン流量Qが小さい場合に、バルブシート23に対するバルブ本体17のリフト量Xを比較的大きくでき、バルブ本体17がバルブシート23に対して短時間で接離を繰り返す不具合が起こり難くなる。これにより、圧力調整弁10の振動を抑制できる。
なお、バルブ本体17のリフト量Xが150[μm]以上である場合には、リターン流量Qが変動してもバルブ本体17がバルブシート23に対して短時間で接離することはなく、圧力調整弁10の振動はほとんど生じない。
【0020】
[実施形態2]
以下、図5、図6に基づいて本発明の実施形態2に係る圧力調整弁40の説明を行なう。本実施形態に係る圧力調整弁40は、実施形態1で説明した圧力調整弁10のバルブ本体17とバルブシート23の形状を変更したものであり、その他の構造については実施形態1に係る圧力調整弁10と同様である。
本実施形態に係る圧力調整弁40のバルブ本体17は、弁体17vの先端面に円錐形の凸テーパ部41(突出部)が形成されている。また、バルブシート23には、弁体17vの凸テーパ部41のテーパ面41tが面接触する凹テーパ面23tが形成されている。そして、バルブシート23の凹テーパ面23tの面取り角度αが30°に設定されている。
ここで、面取り角度α[°]とシート内径R1[mm](中央流路22の内径寸法R1)とが、R1<73×α-0.92 の関係を満足するときに、リターン流量Q[リットル/時間]とリフト量X[μm]とが、Q÷X<0.46の関係を満足するようになる。
図6(B)は、R1=73×α-0.92 のグラフを表しており、斜線部分が
R1<73×α-0.92 の関係を満足する範囲を表している。前述のように、面取り角度αが30°であるため、シート内径R1は、73×α-0.92=73×30-0.92=3.194よりも小さければ、上記関係を満足する。したがって、図6(A)に示すように、シート内径R1を3mm、あるいは2mmに設定すれば、圧力調整弁40の振動はほとんど生じない。
このように、本実施形態に係る圧力調整弁40によると、弁体17vの凸テーパ部41がバルブシート23側から中央流路22の内側に入り込んでいるため、中央流路22の径寸法(シート内径)が比較的大きな場合でも、流路面積を小さくできる。このため、リターン流量Qが一定のときに、バルブシート23に対するバルブ本体17のリフト量Xを大きく取ることができる。さらに、バルブ本体17がバルブシート23から離れて、そのバルブ本体17の凸テーパ部41が凹テーパ面23t、中央流路22から抜けた後は、リターン流量Qを増大させることができる。
即ち、凹テーパ面23tが本発明の流体排出通路の一部を構成している。
【0021】
以下、図7、図8に基づいて本発明の実施形態3に係る圧力調整弁50の説明を行なう。本実施形態に係る圧力調整弁50は、実施形態2で説明した圧力調整弁40のバルブ本体17の形状を変更したものであり、その他の構造については実施形態2に係る圧力調整弁40と同様である。
本実施形態に係る圧力調整弁50のバルブ本体17は、弁体17vの先端面に凸球部51(突出部)が形成されている。なお、バルブシート23には、弁体17vの凸球部51の球面51rが当接する凹テーパ面23tが形成されている。なお、バルブシート23の凹テーパ面23tの面取り角度αは30°に設定されている。
ここで、弁体17vの球面51rが凹テーパ面23tに当接した状態で、その球面51rの当接部分の直径寸法をR2とすると、その直径寸法をR2[mm]と面取り角度α[°]とが、R2<75×α-0.95 の関係を満足するときに、リターン流量Q[リットル/時間]とリフト量X[μm]とが、Q÷X<0.46の関係を満足するようになる。
図7(C)は、R2=75×α-0.95 のグラフを表しており、斜線部分が
R2<75×α-0.95 の関係を満足する範囲を表している。前述のように、面取り角度αが30°であるため、当接部分の直径寸法R2は、75×α-0.95 =75×30-0.95=2.96よりも小さければ、上記関係を満足する。したがって、図7(B)に示すように、直径寸法R2を2.9mm、あるいは2mmに設定すれば、圧力調整弁40の振動はほとんど生じない。
【0022】
図8(A)は、弁体17vの球面51rが凹テーパ面23tに当接する位置T(当接位置T)をバルブシート23の上面23uに極力近づけた例を示している。本実施形態に係る圧力調整弁50では、当接位置Tとバルブシート23の上面23uとの間の距離D(接触深さD)を0〜0.1mmに設定している。これにより、弁体17vのリフト量が150μmより大きいときに、燃料がバルブシート23の部分を流れ易くなる。即ち、図8(B)に示すように、接触深さDが0に近づくにつれて、燃料がバルブシート23の部分を流れ易くなる。
【0023】
<変更例>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、実施形態2では、弁体17vの先端の凸テーパ部41を円錐形に成形する例を示したが、円錐台状に成形することも可能であるし、角錐状、あるいは角錐台状に形成することも可能である。また、バルブシート23の凹テーパ面23tの面取り角度αを30°に設定する例を示したが、面取り角度αは適宜変更可能である。
また、実施形態3では、バルブシート23に凹テーパ面23tを形成する例を示したが、実施形態1に示すように、バルブシート23を平坦に形成してその開口を球面51rで直接的に開閉する構成でも可能である。また、弁体17vの突出部を球面51rで形成する例を示したが、球面51rの代わりに楕円状の面で形成することも可能である。
また、本実施形態では、圧力調整弁を燃料供給装置に使用する例を示したが、圧力調整する流体の種類は適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態1に係る圧力調整弁の縦断面図(A図)、及びA図の弁体とバルブシート部分の詳細図である(B図)。
【図2】圧力調整弁のリターン流量と振動発生等との関係を表すグラフである。
【図3】圧力調整弁のリターン流量と振動発生等との関係を表すグラフである。
【図4】圧力調整弁のリターン流量とバルブ本体のリフト量との関係を表すグラフである。
【図5】本発明の実施形態2に係る圧力調整弁の弁体とバルブシート部分を表す詳細図である(A図、B図)。
【図6】圧力調整弁のリターン流量とバルブ本体のリフト量との関係を表すグラフ(A図)、及びバルブシートのシート内径と面取り角度との関係を表すグラフ(B図)である。
【図7】本発明の実施形態3に係る圧力調整弁の弁体とバルブシート部分を表す詳細図(A図)、リターン流量とバルブ本体のリフト量との関係を表すグラフ(B図)、及びバルブシートの弁体当接部分の直径寸法と面取り角度との関係を表すグラフ(C図)である。
【図8】本発明の実施形態3に係る圧力調整弁の弁体とバルブシート部分を表す詳細図(A図)、リターン流量とバルブ本体のリフト量との関係を表すグラフ(B図)である。
【図9】従来の圧力調整弁の縦断面図である。
【符号の説明】
【0025】
C 制御圧室
P 圧力調整室
12p 燃料排出口(流体排出通路)
15 ダイヤフラム
17 バルブ本体
17v 弁体
41 凸テーパ部(突出部)
51 凸球部(突出部)
20 流体排出管
22 中央流路(流体排出通路)
23 バルブシート
23t 凹テーパ面(流体排出通路)
Q リターン流量(流体排出通路を流れる流体流量)
X リフト量(離隔距離)
α 凹テーパ面の面取り角度(バルブシートに対する凹テーパ面の成す角)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤフラムによって仕切られた制御圧室と圧力調整室と、前記ダイヤフラムに取付けられて、そのダイヤフラムが前記制御圧室と圧力調整室との差圧により変形する際に、前記ダイヤフラムと共に軸方向に変位するバルブ本体と、前記圧力調整室内の流体を排出する流体排出通路の開口周縁に形成されており、前記バルブ本体が軸方向に変位することにより、そのバルブ本体が接離するバルブシートとを備え、前記圧力調整室内の流体によるダイヤフラム押圧力が前記制御圧室側からのダイヤフラム押圧力よりも大きいときに、前記ダイヤフラムが前記バルブ本体を前記バルブシートから離隔する方向に変位させて前記流体排出通路の開口を開く構成の圧力調整弁であって、
前記バルブシートに対する前記バルブ本体の離隔距離Xが150[μm]よりも小さい範囲では、前記流体排出通路を流れる流体流量Q[リットル/時間]と前記離隔距離X[μm]との関係が、
Q÷X<0.46
となるように、前記バルブ本体と前記バルブシートとの形状、及び前記流体排出通路の径寸法が設定されていることを特徴とする圧力調整弁。
【請求項2】
請求項1に記載された圧力調整弁であって、
バルブ本体の突出部がバルブシート側から流体排出通路の内側に入り込んでいることを特徴とする圧力調整弁。
【請求項3】
請求項2に記載された圧力調整弁であって、
バルブシートには、バルブ本体の凸テーパ面が当接可能な凹テーパ面が形成されており、
前記バルブシートの軸心に対する凹テーパ面の成す角αと、流体排出通路の径寸法R1との関係が、
R1<73×α-0.92
となるように設定されていることを特徴とする圧力調整弁。
【請求項4】
請求項2に記載された圧力調整弁であって、
バルブシートには、バルブ本体の凸球面が当接可能な凹テーパ面が形成されており、
前記バルブシートの軸心に対する凹テーパ面の成す角αと、前記凸球面における前記凹テーパ面との当接部分の直径寸法R2との関係が、
R2<75×α-0.95
となるように設定されていることを特徴とする圧力調整弁。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−57721(P2008−57721A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237536(P2006−237536)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】