説明

圧縮機及び該圧縮機を備えた過給機

【課題】ガイドベーンを備えた圧縮機の組み立ての作業性を高める。
【解決手段】コンプレッサインペラ3の外周部に連通する吸込口5を備えたハウジング2の内部に、吸込口5から拡径されてコンプレッサインペラ3と離反する方向へ延びる円筒状の段部8を形成し、段部8には内面に吸込口5の延長部5aを有するガイドベーンユニット9が嵌合しており、ガイドベーンユニット9は、対向面10a,10bで軸方向で分割した軸受リング11と押えリング12とを有し、軸受リングと押えリングの対向面には環状溝13,14が形成される共に複数のガイドベーン19の軸20,20'を受ける軸受凹部21が形成され、環状溝13にはガイドベーンの軸に備えたピニオン18と噛合するリングギヤ25が配置され、ハウジングの段部に挿入したガイドベーンユニットを固定するための止め輪35を有し、ハウジングには、ガイドベーンユニットのガイドベーンの軸の1つに外部から回動軸を挿入して接続するための軸孔41を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧縮機、特に可変ガイドベーンを備えた圧縮機及び該圧縮機を備えた過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンへの過給を行う過給機は、タービンインペラとコンプレッサインペラを同軸上に備え、エンジンの排気によりタービンインペラを回転し、回転軸を介してコンプレッサインペラを回転することにより、吸気を取り入れて圧縮し得られた圧縮空気をエンジンに供給する遠心圧縮機(圧縮機)を備えている。
【0003】
上記したような過給機で用いる圧縮機においては、圧縮機に取り入れる空気量が減少してくると、圧縮機の特性曲線がサージ線を越えてサージング領域に入るという特性がある。従って、上記サージ線を低流量側へ移動させてサージング領域を狭めることができれば、エンジンの運転範囲をワイドレンジとすることができて有益となる。
【0004】
このため、従来、サージング領域に入るような低流量容量の運転状況下でも、サージング領域に入らないようにサージ線を低流量側へ移動させるようにした圧縮機としては、コンプレッサインペラの入口上流側に可変ガイドベーン(VIGV=以下、単にガイドベーンと略称する)を設けて、コンプレッサインペラに向かう空気の傾きを調整するようにしたものが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1では、コンプレッサインペラに空気を導く空気入口管(ハウジング)内側の周方向には複数のガイドベーンが放射状に配置されており、各ガイドベーンの各軸はハウジングを貫通して外部に導かれている。ハウジングの外部には前記各軸に対応して回転駆動装置を設けている。各回転駆動装置は前記各軸を同時に回転することで各ガイドベーンの回動角度を一斉に調整するようにしている。
【0006】
一方、特許文献2では、コンプレッサインペラに空気を導くハウジング内側の周方向には複数のガイドベーンが放射状に配置されており、該各ガイドベーンの各軸はハウジングの内部に設けた空間に導かれ、該空間内部におけるガイドベーンの各軸には軸と直交方向に延びるアームが取り付けられ、該アームの端部は他のアームを介してリングに接続している。各ガイドベーンの1つの軸に接続された回転軸がハウジングを貫通して外部に導かれている。前記回動軸を回動させると、アームと他のアームを介してリングが回転し、リングが回転すると前記他のアームとアームを介して前記各軸が同時に回動して各ガイドベーンの回動角度が一斉に調整されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−023792号公報
【特許文献2】特開2004−190557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した特許文献1に記載の圧縮機においては、ガイドベーンの各軸をハウジングを貫通して外部に導き、各軸に対応して設けた回転駆動装置が各軸を別個に回転駆動するようにしているので、ハウジング内部の構成は比較的簡単となる。
【0009】
しかし、特許文献1では、複数のガイドベーンの各軸に対応した複数の回転駆動装置をハウジングの外部に備える必要があるため、ハウジング外部の構造が複雑となり、しかも複数の回転駆動装置を備えることにより装置価格が増加する問題がある。又、ハウジングの外部に複数の回転駆動装置が設置されると、外部からの衝撃等により回転駆動装置が損傷する可能性が高まる。更に、前記複数の回転駆動装置を同期して運転するための制御が必要になるという問題がある。
【0010】
一方、特許文献2に記載の圧縮機では、ハウジングに設けた空間に、リングと、ガイドベーンの各軸との間を接続するためのアーム及び他のアームを備え、ガイドベーンの1つの軸を回動軸としてハウジングの外部に導いているので、この回動軸を回動させるための1つの駆動装置を備えることで、全てのガイドベーンの回動角度を一斉に調整できる利点があり、ハウジング外部の構成を簡略化することができる。
【0011】
しかし、特許文献2では、ガイドベーンの各軸とリングとの間に備えるアーム及び他のアームを、狭い空間内部で接続する必要があり、組立作業が非常に困難であるという問題がある。又、軸とリングとの間の力の伝達を前記アーム及び他のアームを介して行う構成では、各部の製作精度のバラツキ等によって各ガイドベーンの回動に誤差を生じる可能性がある。
【0012】
又、特許文献2には説明されていないが、ガイドベーンの各軸はハウジングの空間を形成する内壁の孔を貫通し、この孔の軸受によって回動可能に支持する必要があるが、前記したように軸に予めアームが備えられている場合には、前記アームが障害となって軸を内壁の孔に貫通させることができない。
【0013】
このような組立性の問題を解消するためには、前記ガイドベーンの各軸をハウジングの外部に導き、この各軸を一斉に回動させるための回動リング機構をハウジングの外部に設けることも考えられる。しかし、このようにハウジングの外部に回動リング機構を設けた場合には、圧縮機の外形形状が大型化する問題があると共に、外部からの衝撃等によって回動リング機構が損傷する可能性が高まる。
【0014】
従って、上記観点から、圧縮機のガイドベーンを一斉に回動するための機構はハウジング内部に設けられることが好ましいが、一斉に回動させるための機構をハウジング内に設けた場合には、組み立て等の作業性が非常に低下するという問題がある。特に、車載用の過給機に備えられる圧縮機は、近年、小型・軽量化が進められており、このような小型の圧縮機においては、組み立て作業性に優れた技術の出現が望まれている。
【0015】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなしたもので、組み立て作業性に優れた圧縮機及び該圧縮機を備えた過給機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、コンプレッサインペラの外周部に連通する吸込口を備えたハウジングの内部に、前記吸込口から拡径されて前記コンプレッサインペラと離反する方向へ延びる円筒状の段部が形成され、該段部には内面に前記吸込口の延長部が形成されたガイドベーンユニットが嵌合しており、
前記ガイドベーンユニットは、対向面によって前後に分割された軸受リングと押えリングとを有し、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方には環状溝が形成されると共に、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方には周方向に等間隔で且つ半径方向に延びて配置される複数のガイドベーンの軸を受けるための複数の軸受凹部が形成され、
前記環状溝には、前記ガイドベーンの軸に備えたピニオンと噛合するリングギヤが配置され、
前記ハウジングの段部に挿入したガイドベーンユニットを固定するための固定手段を有し、
前記ハウジングには、前記ガイドベーンユニットのガイドベーンの軸の1つに外部から回動軸を挿入して接続するための軸孔が形成された
ことを特徴とする圧縮機
である。
【0017】
請求項2に係る発明は、前記軸受リングと押えリングの対向面に、互に嵌合して前記軸受リングと押えリングの位置決めを行うための凸部と凹部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機である。
【0018】
請求項3に係る発明は、前記軸受リングの後端面とハウジングの段部の底面に、ピンを挿入して前記軸受リングとハウジングの回転方向の位置決めを行うためのピン孔を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮機である。
【0019】
請求項4に係る発明は、前記環状溝の底部に、前記リングギヤを前記各ガイドベーンのピニオンに押し付けるための押付手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機である。
【0020】
請求項5に係る発明は、前記ガイドベーンユニットを組み立てた際に軸受リングと押えリングを一体に保持しておくための仮止め手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機である。
【0021】
請求項6に係る発明は、前記軸受凹部に嵌合した各ガイドベーンの各軸の端部には前記段部の内面に接しない長さで接続凸部が形成してあり、前記軸孔から挿入する回動軸に備えた接続凹部が前記ガイドベーンの軸の接続凸部に嵌合するようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧縮機である。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか1つに記載の圧縮機を備えたことを特徴とする過給機である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複数のガイドベーンと各ガイドベーンを一斉に回動するための機構を備えたガイドベーンユニットをハウジングの外部で組み立てることができるため、圧縮機の組み立ての作業性を大幅に高められるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の圧縮機の実施例における組み立て状態を説明するための切断側面図である。
【図2】本発明の圧縮機の実施例における組み立てられた状態を示す切断側面図である。
【図3】図2をIII−III方向から見た平面図である。
【図4】(a)はガイドベーンユニットを組み立てた状態を示す側面図、(b)は軸受リングを上方から見た斜視図である。
【図5】(a)はガイドベーンの一例を示す切断側面図、(b)は(a)のガイドベーンをV−V方向から見た平面図である。
【図6】(a)はリングギヤの正面図、(b)は(a)のリングギヤをVI−VI方向から見た断面図である。
【図7】(a)は波ワッシャの正面図、(b)は(a)の波ワッシャをVII−VII方向から見た側面図である。
【図8】本発明における押付け手段の他の例を説明するためのガイドベーンユニットの断面図である。
【図9】止め輪の正面図である。
【図10】軸受リングの軸受凹部にガイドベーンを嵌合配置する状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。
【0026】
図1〜図3を用いて、自動車用エンジンに備えられる過給機の圧縮機に適用した実施例を説明する。図1〜図3に示す圧縮機1のハウジング2の内部にはコンプレッサインペラ3が備えてあり、該コンプレッサインペラ3は、自動車用エンジンの排気によって回転する図示しないタービンインペラと同軸の回転軸4によって回転される。前記ハウジング2の内側には、前記コンプレッサインペラ3の外周部からコンプレッサインペラ3に対して離反する方向へ延びた吸込口5が形成されており、又、コンプレッサインペラ3によって速度が高められた空気を圧力に換えてハウジング2内部のスクロール6に導くディフューザ7が形成されている。
【0027】
前記圧縮機1のハウジング2の内部には、前記吸込口5から拡径されて前記コンプレッサインペラ3に対して離反する方向へ延びる円筒状の段部8を設ける。この段部8は切欠底面8aと切欠内周面8bとからなる。一方、該段部8の切欠内周面8bにはガイドベーンユニット9が嵌合しており、該ガイドベーンユニット9の内面には前記吸込口5の延長部5aが形成されている。
【0028】
前記ガイドベーンユニット9は、図4(a)にも示すように、軸線に対して交差(直交)する方向の対向面10a,10bによって、コンプレッサインペラ3の空気取り入れ方向に対して後側の軸受リング11と、空気取り入れ方向に対して前側の押えリング12とに分割されている。前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bの夫々には、図4(b)にも示すように、環状溝13,14が形成してあり、従って、この前記環状溝13,14によって、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bには夫々内側壁15と外側壁16が形成されている。
【0029】
図4の前記内側壁15と外側壁16の対向面10a,10bには、図5に示すように羽根部17とピニオン18を備えたガイドベーン19の軸20,20'を受けるための複数の軸受凹部21を形成している。軸受凹部21は周方向に等間隔で且つ半径方向に延びるように放射状に形成されている。図4では、軸受リング11の対向面10aにガイドベーン19の軸20を収容できる深さのU字状の軸受凹部21を形成した場合を示しており、前記軸受リング11に備えた軸受凹部21に対向する押えリング12の対向面10bは平坦面となっている。図5のガイドベーン19の外側の軸20は外側壁16に備えた軸受凹部21に嵌合し、ガイドベーン19の内側の軸20'は内側壁15に備えた軸受凹部21に嵌合している。この時、前記ガイドベーン19の内側の軸20'には、内側壁15を挟むことによってガイドベーン19が軸方向へ移動するのを拘束するための突部20a',20b'を備えている。尚、図示例に代えて、前記U字状の軸受凹部21を押えリング12の対向面10bに備えるようにしてもよい。又、前記軸受リング11の対向面10aと押えリング12の対向面10bの両方に半円形状の軸受凹部21を形成するようにしてもよい。
【0030】
更に、前記軸受リング11と押えリング12の外側壁16の対向面10a,10bには、互に嵌合して前記軸受リング11と押えリング12の位置決めを行うための係合凸部22と係合凹部23を備えている。図4(b)では前記軸受リング11の外側壁16の対向面10aの3個所に係合凹部23が形成し、前記押えリング12の外側壁16の対向面10bには前記係合凹部23に嵌合する3個の係合凸部22を形成している。前記係合凸部22と係合凹部23が嵌合することによって、前記軸受リング11と押えリング12は回転方向と半径方向への移動が拘束されるようになっている。尚、図示例に代えて、軸受リング11の対向面10aに係合凸部22を設け、押えリング12の対向面10bに係合凹部23を設けてもよい。
【0031】
前記環状溝13,14の一方には、押付手段24を介してリングギヤ25を挿入する。図4の例では、U字状の軸受凹部21を備えた軸受リング11の環状溝13の底部に、押付手段24とリングギヤ25を挿入している。ここで、前記とは反対に、押えリング12にU字状の軸受凹部21を備えた場合には、押えリング12の環状溝14に押付手段24とリングギヤ25を挿入し、又、前記軸受リング11の対向面10aと押えリング12の対向面10bの両方に半円形状の軸受凹部21を形成した場合には、前記環状溝13,14のいずれか一方に押付手段24とリングギヤ25を挿入する。
【0032】
リングギヤ25は、図6に示すように、短い筒状の端面にギヤ歯25aが形成してあり、リングギヤ25のギヤ歯25aは前記軸受凹部21に嵌合したガイドベーン19のピニオン18と噛合する。図6のリングギヤ25は全周に亘ってギヤ歯25aを形成した場合を示しているが、前記ガイドベーン19のピニオン18が噛合する部分のみにギヤ歯25aを形成してもよく、又、図5のガイドベーン19の軸20に備えたピニオン18は軸20の周方向におけるガイドベーン19が回動する範囲内のみに備えたセクターピニオンの場合を示しているが、全周に歯を有する円板状のピニオン18を備えてもよい。
【0033】
前記押付手段24は前記リングギヤ25を前記ガイドベーン19のピニオン18に確実に噛合させるためのものであり、前記押付手段24には、図7に示すように環状に形成された波ワッシャ26を用いることができる。この波ワッシャ26は図7(b)に示すように、周方向3個所で突出及びへこむように波打った形状を有しており、前記リングギヤ25を3個所で押してリングギヤ25をガイドベーン19のピニオン18に噛合させるようになっている。尚、押付手段24としては、前記波ワッシャ26に代えて、図8に示すようなコイルバネ27を用いることができる。コイルバネ27を用いる場合は、環状溝13の底面と前記リングギヤ25の後端面とに、コイルバネ27を位置決めするための溝27a等を設けることが好ましい。
【0034】
図1、図2に示す如く、前記軸受リング11の後端面11aとハウジング2の段部8の切欠底面8aには、ピン28を挿入して前記軸受リング11(ガイドベーンユニット9)とハウジング2との回転方向の位置決めを行うためのピン孔29,30を形成している。
【0035】
前記ガイドベーンユニット9は、前記軸受リング11と押えリング12を組み立てた際に一体に保持しておくための仮止め手段を有している。仮止め手段としては、例えば前記軸受リング11と押えリング12とに備える係合凸部22と係合凹部23が塑性変形を起こしてきつく嵌合されるように予め設計しておくことで達成することができ、又、前記係合凸部22と係合凹部23との間に少量の接着剤を用いて嵌合し接着させることでも達成できる。更に、図4(b)に示すように、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bにピン孔31(図示では2個)を設けておき、このピン孔31にきつく嵌合するピン32を挿入することによっても、軸受リング11と押えリング12を一体に保持することができる。上記仮止め手段は、組み立てられたガイドベーンユニット9をハウジング2の段部8に挿入する際に分解しないように保持しておくためのものであり、強度が要求されるものではない。
【0036】
前記ガイドベーンユニット9は、固定手段33によって前記ハウジング2の段部8に固定されている。図1、図2では、前記段部8に挿入したガイドベーンユニット9の前端面に対応する位置の切欠内周面8bには環状の係止溝34が形成してあり、該係止溝34には、図9に示す弾性材(バネ材)からなる止め輪35(固定手段33)が配置されている。前記止め輪35は、縮めた状態で係止溝34に挿入し、弾撥力を開放することで係止溝34に係合する。前記係止溝34の前側内面には、半径方向内側から外側に向かって後方へ傾斜した傾斜面35aが形成してあり、且つ、前記止め輪35の前側面には、前記傾斜面35aと一致する傾斜面35bが形成してある。従って、前記係止溝34に止め輪35を係合させると、前記止め輪35は拡径すると共に傾斜面35a,35bの作用によって後方(ガイドベーンユニット2側)へ移動する。従って、前記止め輪35は前記ガイドベーンユニット2を段部8の内奥部へ押し込むように付勢し、ガイドベーンユニット2は段部8に固定される。
【0037】
図1、図2に示す如く、前記段部8の切欠底面8aに近い切欠内周面8bの位置には、ガイドベーンユニット9が緊密に嵌合して固定するための嵌合部37(固定手段33)が形成してある。嵌合部37による固定手段33は、焼嵌めのためのインローを構成している。前記嵌合部37よりも前方の切欠内周面8bは前記嵌合部37よりも径が大きくなっている。このため、切欠内周面8bと前記ガイドベーンユニット9の外周面との間には隙間38を有している。前記固定手段33としては、前記止め輪35と前記嵌合部37の一方を備えてもよく、又、その両方を備えてもよい。
【0038】
前記固定手段33としては、前記ガイドベーンユニット9が段部8から抜け出ないように固定ボルト等を用いてハウジング2に固定する方式を用いてもよい。又、固定手段33としては、前記ガイドベーンユニット9と段部8との間に少量の接着剤を用いて嵌合し接着させることで前記ハウジング2とガイドベーンユニット9を固定してもよい。
【0039】
図5に示すガイドベーン19の外側の軸20の端部には、直径方向の中心のみが突出した接続凸部36が形成してあり、前記ガイドベーン19の軸20,20'を前記軸受リング11の外側壁16と内側壁15の軸受凹部21に嵌合させて前記ガイドベーンユニット9を組み立てた際に、前記接続凸部36の先端はハウジング2の段部8の切欠内周面8bに接しない長さを有している。図1では、前記接続凸部36の先端は隙間38に突出する長さを有している。尚、前記ガイドベーン19の接続凸部36の先端はガイドベーンユニット9の外径内に収まる長さとしてもよく、この場合には、前記隙間38を設けることなく、切欠内周面8bとガイドベーンユニット9とを焼嵌めによって固定するようにしてもよい。
【0040】
ハウジング2の段部8にガイドベーンユニット9を挿入した際に前記ガイドベーン19の軸20の1つが対応するハウジング2の位置には、前記ガイドベーン19の軸20を回動する回動軸40を外部から挿入するための1つの軸孔41を設けている。前記回動軸40の先端には、前記ガイドベーン19の軸20に備えた接続凸部36に嵌合する接続凹部39が設けてある。前記回動軸40の他端には、図1、図3に示す如く、アーム42を介して前記回動軸40と平行な作動ピン43がクランク状に取り付けてある。図示しないアクチュエータによって前記作動ピン43が図3の矢印A方向に回動するように押し引きすると、前記回動軸40が回動され、前記接続凹部39と接続凸部36を介して1つのガイドベーン19の軸20が回動する。1つのガイドベーン19の軸20の回動はピニオン18を介してリングギヤ25に伝えられ、リングギヤ25が回転する。該リングギヤ25が回転すると、ピニオン18を介して全てのガイドベーン19は一斉に回動する。
【0041】
前記ハウジング2、軸受リング11、押えリング12、リングギヤ25及びガイドベーン19からなる構成部材は、焼結金属、アルミダイカスト、樹脂等によって製作することができるが、このような構成部材を樹脂によって製作した場合には、製作が比較的容易で安価に製造することができると共に、軽量化が可能になる。
【0042】
次に、上記実施例の圧縮機を組み立てる手順について説明する。
【0043】
前記ガイドベーンユニット9の組み立ては、ハウジング2の外部において行うことができる。ガイドベーンユニット9の組み立てに当たっては、図4(b)、図10に示すように、軸受凹部21が上側を向いた状態になるように軸受リング11を机上等に載置する。
【0044】
この状態で、前記軸受リング11の環状溝13に、図7に示す波ワッシャ26を挿入し、続いて、波ワッシャ26の上側に図6に示すリングギヤ25を挿入する。
【0045】
次に、図10に示すように、軸受リング11の外側壁16の対向面10aに備えた軸受凹部21にガイドベーン19の外側の軸20が嵌合し、内側壁15の対向面10aに備えた軸受凹部21にガイドベーン19の内側の軸20'が嵌合するようにガイドベーン19を配置し、この時、ガイドベーン19のピニオン18が前記リングギヤ25のギヤ歯25aに噛合して、ガイドベーン19の羽根部17が所定の傾きになるように調整する。続いて、図10における別の軸受凹部21にも別のガイドベーン19の軸20,20'を嵌合させて配置し、この時、別のガイドベーン19の羽根部17の傾きが前記ガイドベーン19の羽根部17の傾きと等しくなるように調整する。ここで、前記リングギヤ25のギヤ歯25aとガイドベーン19のピニオン18との噛み合いは予め設定されているので、正しい位置にガイドベーン19を配置すると、各ガイドベーン19の羽根部17の傾きは同じになり、ギヤ歯25aとピニオン18が正規の位置からずれて噛み合わされたときは、ガイドベーン19の羽根部17の傾きは大きく異なったものとなる。従って、全ての軸受凹部21に対し、ガイドベーン19の羽根部17の傾きが同一になるように容易且つ高能率に嵌合配置することができる。
【0046】
続いて、図4(a)に示すように、前記軸受リング11の対向面10aの上部に前記押えリング12の対向面10bが対向するようにし、相互間に設けた係合凸部22と係合凹部23を嵌合させて対向面10a,10bを当接させることでガイドベーンユニット9を組み立てる。
【0047】
尚、前記ガイドベーンユニット9の組み立て時には、前記軸受リング11と押えリング12を一体に保持しておくための仮止め手段を介して組み立てる。例えば、図4(b)に示すように、前記軸受リング11と押えリング12の対向面10a,10bに備えたピン孔31にきつく嵌合するピン32を挿入して組み立てることにより、軸受リング11と押えリング12は一体に保持される。又、前記軸受リング11と押えリング12に備える係合凸部22及び係合凹部23が塑性変形を起こしてきつく嵌合されるように予め設計しておくことでも前記軸受リング11と押えリング12は一体に保持される。又、前記係合凸部22と係合凹部23とを少量の接着剤を介して嵌合することでも前記軸受リング11と押えリング12は一体に保持される。
【0048】
上記したように、軸受リング11と押えリング12を組み立てた状態では、ガイドベーン19のピニオン18がリングギヤ25を介して波ワッシャ26を弾力的に押す状態となり、これによってリングギヤ25とピニオン18は確実に噛合した状態に保たれる。
【0049】
次に、図1に示すように、軸受リング11の後端面11aに設けたピン孔30にピン28を挿入した後、前記したように組み立てたガイドベーンユニット9は前記ハウジング2の段部8に挿入し、前記軸受リング11の後端面11aに固定した前記ピン28を、ハウジング2の段部8の切欠底面8aに形成したピン孔29に合致させるようにして、ガイドベーンユニット9を嵌合部37に嵌合させる。前記ハウジング2に対するガイドベーンユニット9の回転方向の位置は前記ピン28によって規定され、前記1つのガイドベーン19の羽根部17の軸20が、ハウジング2に形成した軸孔41に一致するようになる。
【0050】
前記ガイドベーンユニット9は、固定手段33により前記ハウジング2の段部8に固定する。
【0051】
前記ハウジング2及びガイドベーンユニット9が、焼結金属、アルミダイカスト等の金属で製作されている場合には、前記ハウジング2を加熱した状態で該ハウジング2の嵌合部32にガイドベーンユニット9を嵌合することで焼嵌めにより固定することができる。従って、前記嵌合部37はインローとしての固定手段33を形成する。又、前記ハウジング2及びガイドベーンユニット9が、樹脂等で製作されている場合には、少量の接着材を用いた固定手段によって前記ハウジング2とガイドベーンユニット9を固定してもよい。
【0052】
又、前記切欠内周面8bに形成した環状の係止溝34に、図9に示す止め輪35(固定手段33)を縮めた状態で挿入して開放させることで弾撥力により止め輪35を係合させる。前記係止溝34に係合した止め輪35は、拡径すると共に傾斜面35a,35bの作用によって後方(段部8の内奥側)へ移動する。従って、前記止め輪35は前記ガイドベーンユニット2を段部8の内奥部へ押し込むように付勢して、ガイドベーンユニット2を段部8に固定する。
【0053】
続いて、回動軸40をハウジング2に設けた軸孔41から挿入し、回動軸40の先端に設けた接続凹部39を前記ガイドベーン19の軸20の接続凸部36に嵌合させる。これにより、圧縮機1は組み立てられる。
【0054】
本発明の圧縮機では、前記したように、複数のガイドベーン19及び各ガイドベーン19を一斉に回動するためのリングギヤ25を備えたガイドベーンユニット9を、ハウジング2の外部において組み立てることができるので、小型の圧縮機1においても、容易且つ高能率に組み立てることができる。
【0055】
更に、各ガイドベーン19を一斉に回動するための構造が、ガイドベーン19に備えたピニオン18と該ピニオン18に噛合するリングギヤ25によって構成されているため、構成が簡単であり組み立てが更に容易になると共に、ガイドベーン19の回動に誤差を生じる問題は防止できる。
【0056】
従って、前記圧縮機1を備えた過給機の組立性が向上することにより、過給機の生産量の増加及びコストの低減化が図れる。
【0057】
尚、本発明の圧縮機及び該圧縮機を備えた過給機は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0058】
1 圧縮機
2 ハウジング
3 コンプレッサインペラ
5 吸込口
5a 延長部
8 段部
8a 切欠底面
8b 切欠内周面
9 ガイドベーンユニット
10a,10b 対向面
11 軸受リング
11a 後端面
12 押えリング
13,14 環状溝
15 内側壁
16 外側壁
18 ピニオン
19 ガイドベーン
20,20' 軸
21 軸受凹部
22 係合凸部
23 係合凹部
24 押付手段
25 リングギヤ
26 波ワッシャ(押付手段)
27 コイルバネ(押付手段)
28 ピン
29,30 ピン孔
31 ピン孔(仮止め手段)
32 ピン(仮止め手段)
33 固定手段
34 係止溝(固定手段)
35 止め輪(固定手段)
36 接続凸部
39 接続凹部
40 回動軸
41 軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサインペラの外周部に連通する吸込口を備えたハウジングの内部に、前記吸込口から拡径されて前記コンプレッサインペラと離反する方向へ延びる円筒状の段部が形成され、該段部には内面に前記吸込口の延長部が形成されたガイドベーンユニットが嵌合しており、
前記ガイドベーンユニットは、対向面によって前後に分割された軸受リングと押えリングとを有し、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方には環状溝が形成されると共に、前記軸受リングと押えリングの対向面の少なくとも一方には周方向に等間隔で且つ半径方向に延びて配置される複数のガイドベーンの軸を受けるための複数の軸受凹部が形成され、
前記環状溝には、前記ガイドベーンの軸に備えたピニオンと噛合するリングギヤが配置され、
前記ハウジングの段部に挿入したガイドベーンユニットを固定するための固定手段を有し、
前記ハウジングには、前記ガイドベーンユニットのガイドベーンの軸の1つに外部から回動軸を挿入して接続するための軸孔が形成された
ことを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記軸受リングと押えリングの対向面に、互に嵌合して前記軸受リングと押えリングの位置決めを行うための凸部と凹部を備えたことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記軸受リングの後端面とハウジングの段部の底面に、ピンを挿入して前記軸受リングとハウジングの回転方向の位置決めを行うためのピン孔を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記環状溝の底部に、前記リングギヤを前記各ガイドベーンのピニオンに押し付けるための押付手段を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ガイドベーンユニットを組み立てた際に軸受リングと押えリングを一体に保持しておくための仮止め手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記軸受凹部に嵌合した各ガイドベーンの各軸の端部には前記段部の内面に接しない長さの接続凸部が形成してあり、前記軸孔から挿入する回動軸に備えた接続凹部が前記ガイドベーンの軸の接続凸部に嵌合するようにしたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の圧縮機を備えたことを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−246767(P2012−246767A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116544(P2011−116544)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】