説明

圧電体薄膜の評価方法

【課題】測定誤差の少ない圧電体薄膜の変位量を得ることができる圧電体薄膜の評価方法を提供する。
【解決手段】圧電体薄膜31の評価方法は、まず、圧電体薄膜31を含む試料12を試料固定治具20に固定する。試料12には、圧電体薄膜31に電圧を印加するために圧電体薄膜31を挟むように、第1電極42と第2電極43とが形成されている。次に、探針33を圧電体薄膜31の電界方向に対して交差する方向にある測定面に直接接触させる。そのあと、圧電体薄膜31に電圧を印加しながら、探針33を測定領域に直接走査させることにより、圧電体薄膜31の圧電特性(第1変位量)を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、圧電体薄膜の圧電特性を測定する圧電体薄膜の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した圧電体薄膜の圧電特性は、例えば、特許文献1に記載のような、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて測定する。圧電体薄膜には、圧電体薄膜に電圧を印加するために、圧電体薄膜の上側に上部電極が形成され、下側に下部電極が形成されている。圧電特性とは、圧電体薄膜に電圧を加えたときに変位する変位量である。例えば、上部電極と下部電極とに電圧を印加したことによって発生する圧電体薄膜の電界方向に対して、交差する方向にある第1面が変位する第1変位量(伸縮量)を測定する。なお、圧電体薄膜において、電界方向にある面を第2面とし、第2面が変位する変位量を第2変位量とする。圧電体薄膜は、第2面上の上部電極が上面になるようにして固定される。
【0003】
圧電体薄膜の評価方法は、固定された圧電体薄膜の側面にあたる第1面を直接測定する方法がないことから、上部電極を介して測定した第2面の第2変位量を基に、第1変位量を予測(換算)で求める。まず、第2変位量を測定するために、原子間力顕微鏡に設けられたプローブを上部電極に接触させる。次に、上部電極と下部電極とに電圧を印加して、圧電体薄膜の電界方向の変位量である第2変位量を、プローブを介して測定する。そのあと、第2変位量を基に、電界方向に対して垂直方向の変位量である第1変位量に変換することにより求められる。
【0004】
【特許文献1】特開平6−258072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、第1変位量を直接測定せずに予測(第2変位量を基に換算)で求めていることから、実際に変位する変位量と比較して、第1変位量の値が大きく異なったりバラツキが生じたりするという問題があった。
【0006】
本発明は、測定誤差の少ない圧電体薄膜の変位量を得ることができる圧電体薄膜の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る圧電体薄膜の評価方法は、圧電体薄膜にかかる電界方向に対して交差する方向にある前記圧電体薄膜における第1面の変位量を測定するために、前記第1面に探針を接触させる接触工程と、前記圧電体薄膜に電圧を印加したときに変位する前記第1面の変位量を、前記探針を介して測定する測定工程と、を有する。
【0008】
この方法によれば、測定工程によって、接触工程により第1面に探針を直接接触させて、求める面である第1面の変位量を測定するので、第1面以外の面の変位量を基に予測で求めることなく、直接、第1面の変位量を得ることができる。その結果、第1面以外の面の変位量を基に予測(換算)で求めることと比較して、測定誤差の少ない第1面の変位量を得ることができる。
【0009】
本発明に係る圧電体薄膜の評価方法では、前記圧電体薄膜は、前記圧電体薄膜に電圧を印加すべく第1電極と第2電極とによって挟まれて形成されている。
【0010】
この方法によれば、第1電極と第2電極とによって圧電体薄膜に電圧を印加することが可能となり、圧電体薄膜に電界を発生させることが可能となる。これにより、第1電極と第2電極とが形成されていない第1面(圧電体薄膜の電界方向と交差する方向の面)に探針を直接接触させることにより、第1電極や第2電極を介すことなく、第1面の変位量を直接測定することができる。その結果、第1電極や第2電極の影響を受けることなく、より誤差の少ない第1面の変位量を得ることができる。
【0011】
本発明に係る圧電体薄膜の評価方法では、前記測定工程は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて前記第1面の変位量を測定する。
【0012】
この方法によれば、圧電体薄膜の変位量を原子間力顕微鏡を用いて測定するので、より微少な変位量の圧電特性を測定することができる。
【0013】
本発明に係る圧電体薄膜の評価方法では、前記測定工程は、前記探針と前記圧電体薄膜とが相対的にずれた位置を、正規の位置に補正するドリフトキャンセル工程を更に有することが望ましい。
【0014】
この方法によれば、ドリフトキャンセル工程によって、探針と圧電体薄膜との相対位置がずれた高さデータを正規の位置に修正するので、より測定誤差の少ない圧電体薄膜の変位量を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る圧電体薄膜の評価方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、圧電体薄膜の評価装置の構成を示す模式図である。以下、評価装置の構成を、図1を参照しながら説明する。
【0017】
図1に示すように、評価装置11は、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscopy)の一つである、例えば、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)が用いられる。評価装置11は、試料12の表面12aの三次元形状をデジタルデータとして数値化し、微少な凹凸形状を把握することが可能となっている。評価装置11は、プローブ13と、ピエゾスキャナ14と、顕微鏡15と、光源16と、位置検出素子17と、位置検出信号処理回路18と、制御機構19と、試料固定治具20と、ステージ21と、電源22とを有する。
【0018】
プローブ13は、圧電体薄膜31の圧電特性を測定すべく試料12に物理的に接触させるために用いられ、カンチレバー(片持ち梁部材)32と、探針33とを有する。
【0019】
カンチレバー32は、探針33を支持するために用いられる。カンチレバー32は、探針33と試料12の表面12aとの間に作用する相互作用(物理量)により、上下方向に撓む。また、カンチレバー32は、ピエゾスキャナ14に取り付けられている。
【0020】
探針33は、カンチレバー32の一端に取り付けられており、その先端が鋭く尖って形成されている。探針は、例えば、絶縁性の材料により構成されている。探針33がカンチレバー32の一端(先端)に取り付けられていることにより、顕微鏡15がカンチレバー32の上方に配置されていたとしても、探針33の先端及び圧電体薄膜31の測定領域を観察することが可能となっている。また、探針33は、試料12の測定面31a(図2参照)に対し、垂直方向から接触させることが可能に設けられている。
【0021】
ピエゾスキャナ14は、プローブ13を、例えば、試料12におけるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向(図2参照)に移動させるために用いられる。ピエゾスキャナ14は、例えば、電圧を印加することによりピエゾ素子が伸縮する原理を利用して、プローブ13をそれぞれの方向に移動させることが可能となっている。例えば、プローブ13を、X軸方向やY軸方向に移動させることにより、探針33の位置を試料12の測定領域に合わせることができる。また例えば、プローブ13をZ軸方向に移動させることにより、探針33を試料の測定面31a(図2参照)に接触させることができる。
【0022】
顕微鏡15は、測定領域や探針33の位置を観察するために、試料固定治具20の上方に設けられている。例えば、顕微鏡15を用いて、図示しない表示モニタに測定面31a(図2参照)と探針33とを映し出すことによって、測定領域と探針33との位置合わせを補助することができる。
【0023】
光源16は、レーザー光34を照射するために用いられ、試料固定治具20の上方に設けられている。詳しくは、カンチレバー32の上面(背面)32aに、レーザー光34が照射される。カンチレバー32の上面32aに照射されたレーザー光34は、反射光レーザー35として反射する。
【0024】
位置検出素子17は、例えば、フォトダイオードであり、カンチレバー32の上面32aを介して反射した反射光レーザー35のずれ量(変位量)を検出するために用いられる。詳しくは、試料12が伸縮することによってカンチレバー32が撓む量(カンチレバー32と試料12との間に作用する変位量)を、反射光レーザー35のずれ量に代えて検出することが可能となっている。なお、変位量は、試料12の表面12aの凹凸に相当する。これにより、探針33と試料12との間に作用する力(原子間力)を検出することができる。位置検出素子17によって読み取られたずれ量は、出力信号として出力される。また、光源16と位置検出素子17とは、反射光レーザー35が位置検出素子17の中心に入射できるように、それぞれの位置を調整することが可能に設けられている。
【0025】
位置検出信号処理回路18は、位置検出素子17によって検出されたずれ量の出力信号を変位量として変換すると同時に、ピエゾスキャナ14をフィードバック制御するための電圧値を制御機構19に入力する。
【0026】
制御機構19は、例えば、カンチレバー32が変位する物理量の所定の関数が一定に保たれるように、位置検出信号処理回路18から入力された電圧値を基に、ピエゾスキャナ14のZ軸方向の移動量を補正するフィードバック制御を行う。このときのZ軸方向の補正値が、試料12の表面12aの高さ情報である。位置検出信号処理回路18と制御機構19によるフィードバック制御機構とには、例えば、図示しないコンピュータが接続されている。コンピュータは、例えば、得られた試料12の表面12aの高さデータから三次元形状データ(画像)に処理する。また、コンピュータには、例えば処理して得られた画像を表示する、図示しない表示モニタが接続されている。
【0027】
試料固定治具20は、圧電体薄膜31を含む試料12を固定するために用いられる。試料固定治具20を用いることにより、圧電体薄膜31の電界方向に対して交差する方向にある測定面31a(図2参照)が、探針33と接触させることが可能な上面になるように、試料12を固定することができる。
【0028】
ステージ21は、試料固定治具20を載置するために用いられる。ステージ21は、試料12の位置を移動させるために、例えば、平面方向に移動させることが可能となっている。また、ステージ21は、外的振動を避けるために、図示しない除振台上に設置されている。
【0029】
電源22は、試料12に電圧を印加するために用いられる。詳しくは、試料12を構成する第1電極42及び第2電極43に直流電圧を印加する。電源22の一極側には、例えば、第1端子36が接続されている。電源22の他極側には、例えば、第2端子37が接続されている。この電源22を用いて、第1電極42及び第2電極43に電圧を印加したり遮断したりすることにより、圧電体薄膜31を変位させたり元の状態に戻したりすることが可能となっている。
【0030】
図2は、試料の構成を示す斜視図である。以下、試料の構成を、図2を参照しながら説明する。
【0031】
図2に示すように、試料12は、基板41と、第1電極42と、圧電体薄膜31と、第2電極43とを有する。
【0032】
基板41は、圧電体薄膜31や第1電極42及び第2電極43がそれぞれ非常に薄く(例えば、トータルの厚みが120μm)強度が弱いことから、これらを支持するために用いられる。基板41は、例えば600μmである。
【0033】
第1電極42は、基板41上に、例えば、スパッタ法を用いて形成される。第1電極42は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される。第1電極42は、圧電体薄膜31の上部(測定領域W近傍)に安定した状態で電圧を印加するために、圧電体薄膜31の第1面である測定面31aに揃えて形成されている。
【0034】
圧電体薄膜31は、第1電極42上に、例えば、ゾルゲル法を用いて形成される。圧電体薄膜31は、第1電極42に電圧を印加するために、一部の領域(第1電極42の斜線部に相当する領域)が、例えば、エッチングによってカットされている。これにより、第1電極42における一部の領域(第1電極印加領域44)が表面に露出し、第1電極42と第1接続電極56(図3参照)とが電気的に接続することが可能となっている。なお、圧電体薄膜31の一部の領域をカットすることに代えて、基板41の一部をカットすることにより、第1電極42と第1接続電極56とを電気的に接続するようにしてもよい。また、第1電極42と電気的に接続されたパッド電極を取出し、このパッド電極と第1接続電極56とを接続するようにしてもよい。
【0035】
第2電極43は、圧電体薄膜31上に、例えば、マスクを用いたスパッタ法によって形成される。第2電極43は、例えば、イリジウム(Ir)で構成されている。第2電極43は、第1電極42と同様に、圧電体薄膜31の上部(測定領域W近傍)に安定した状態で電圧を印加するため、圧電体薄膜31の測定面31aに揃えて形成されている。また、第2電極43は、第1電極42と第2電極43との間にリーク電流が流れることを抑えるために、圧電体薄膜31の形成領域に対し一部の領域に形成されている。なお、第2電極43は、マスクを用いたスパッタ法に限定されず、例えば、圧電体薄膜31の形成領域と同じ大きさに形成された第2電極から、マスクを用いてエッチングすることにより、所望の大きさの第2電極43を形成するようにしてもよい。
【0036】
なお、圧電体薄膜31の測定面31aにおける測定領域W(矢印)の範囲が、例えば、第1変位量を得るために必要な測定範囲である。また、圧電体薄膜31に電圧を印加したとき、圧電体薄膜31の電界方向に対して交差する方向にある測定面31aが変位する変位量(凹凸量)を第1変位量とよぶ。交差する方向は、例えば、電界方向に対して垂直の方向である。また測定範囲は、例えば1μmである。この測定領域Wの部分に、探針33を複数回往復させることにより(電圧を印加しながら)、第1変位量を求めることが可能となる。
【0037】
ここで、試料12の形成方法について説明する。詳しくは、圧電体薄膜31の測定面31aに揃えて、第1電極42と第2電極43とを形成する方法を説明する。まず、基板上に第1電極、圧電体薄膜、第2電極を順に形成した試料を準備する。なお、ここで準備する試料は、例えば、図2に示す試料12の測定面31a(ハッチング領域)をミラー面と仮定して、もう一つ同じ形状の試料を複写して合わせたものである。
【0038】
次に、図2に示す試料12の形状になるように、準備した試料において基板41の矢印Aの部分に、例えば、断面形成機で溝(傷)を形成する。溝を形成する場所は、例えば、圧電体薄膜31の配光に沿って決める。
【0039】
次に、試料を液体窒素の中に数秒間入れる。そのあと、試料を液体窒素の中からすばやく引き上げると同時に、溝を形成した位置Aの部分を支点に、専用治具で試料の両端に力を加えて試料を半分に割る。以上により、圧電体薄膜31の断面(測定面31a)に揃えて、第1電極42及び第2電極43の断面を揃えて形成することができる。
【0040】
図3は、試料固定治具の構造を示す模式図である。以下、試料固定治具の構造を、図3を参照しながら説明する。
【0041】
図3に示すように、試料固定治具20は、試料12を固定するために用いられ、固定台51と、第1固定板52と、第2固定板53と、固定ネジ54とを有する。
【0042】
固定台51は、一対の固定板である第1固定板52と第2固定板53とを支持するために用いられる。固定台51には、第1固定板52と第2固定板53との間隔を調整するべく、第1固定板52を摺動させることが可能な摺動溝が形成されている。
【0043】
第1固定板52と第2固定板53とは、例えば、アルミニウムで構成されており、互いの間隔を接離させることが可能に設けられている。第1固定板52は、例えば、摺動溝を介して矢印方向に摺動させることが可能となっている。一方、第2固定板53は、固定台51に固着されている。また、第1固定板52及び第2固定板53は、試料12を安定して固定するために、試料12全体を覆うことが可能な大きさに形成されている。詳述すると、第1固定板52及び第2固定板53は、試料12の長さより長く形成されている。
【0044】
固定ネジ54は、第1固定板52及び第2固定板53を介して、試料12を締め付けて固定するために用いられる。試料12を固定するために、摺動可能な第1固定板52には、固定ネジ54を挿入するための貫通孔が形成されている。また、固定台51に固着されている第2固定板53には、固定ネジ54のネジ溝と嵌合するネジ孔が形成されている。以上のように構成された試料固定治具20によって、試料12の測定面31aとステージ21の上面とが平行になるように固定される。
【0045】
また、第1固定板52と第2固定板53との間には、第1電極42及び第2電極43に電圧を印加するために、試料12と第1端子36及び第2端子37とが挟まれた状態で固定される。詳述すると、第1端子36は、例えば、一端に電源22の(+)電極が接続されており、他端に第1電極42と接続される第1接続電極56が設けられている。第1接続電極56は、第1電極42と接する状態で、第1電極42と第2固定板53との間に挟まれて固定される。一方、第2端子37は、例えば、一端に電源22の(−)電極が接続されており、他端に第2電極43と接続される第2接続電極57が設けられている。第2接続電極57は、第2電極43と接する状態で、第2電極43と第2固定板53との間に挟まれて固定される。
【0046】
また、第1端子36及び第2端子37は、例えば、テープ状をなす銅箔テープで構成されている。また、第1端子36(第1接続電極56)と試料固定治具20との絶縁性、及び、第2端子37(第2接続電極57)と試料固定治具20との絶縁性を確保するために、例えば、ポリイミドからなる絶縁フィルムが用いられる。詳しくは、第1端子36(第1接続電極56)と第2固定板53との間、及び、第2端子37(第2接続電極57)と第2固定板53との間に、絶縁フィルムを挟むことにより、絶縁性を確保することが可能となっている。なお、絶縁フィルムを挟むことにより、絶縁性を確保することに代えて、例えば、第2固定板53(試料固定治具20全体)にアルマイト処理を施すことにより、絶縁性を確保するようにしてもよい。
【0047】
以上のような試料固定治具20によって、圧電体薄膜31の測定面31aが上面になるように試料12を固定することにより、測定面31aに直接探針33を接触させることが可能となる。つまり、圧電体薄膜31に電圧を印加することによって形成される電界方向に対して、交差する方向にある測定面31aの圧電特性を、直接探針33を介して測定することが可能となる。
【0048】
図4は、圧電体薄膜の評価方法を示す工程図である。以下、圧電体薄膜の評価方法を、図4を参照しながら説明する。なお、圧電体薄膜31を構成する複数の層のうち、特定の層の第1変位量を求める例を以下に説明する。
【0049】
図4に示すように、まず工程11では、試料12を試料固定治具20に固定する。詳しくは、試料12を構成する第1電極42に第1接続電極56を接触させながら、及び、第2電極43に第2接続電極57を接触させながら、第1固定板52と第2固定板53との間に試料12を挟み、固定ネジ54で固定する。これにより、第1電極42及び第2電極43に電圧を印加させることが可能となり、圧電体薄膜31に電圧を印加させることができる。
【0050】
工程12では、レーザー光34及び反射光レーザー35の光路調整を行う。光路調整は、プローブ13をピエゾスキャナ14にセットした状態で行う。詳述すると、光路調整は、カンチレバー32の上面32aにレーザー光34が照射するように調整する。更に、反射光レーザー35が位置検出素子17の中心に入射するように、光源16、レンズ、位置検出素子17の位置をそれぞれ調整する。
【0051】
工程13では、探針33を圧電体薄膜31の測定面31aに移動及び接触させる。まず、ピエゾスキャナ14によってプローブ13をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向(図2参照)に移動させ、探針33を圧電体薄膜31の測定面31aにおける、測定領域に移動させる。このとき、顕微鏡15を介して表示モニタに映し出された画像を観察しながら、探針33が圧電体薄膜31のおおよその測定位置にくるように、ステージ21及びカンチレバー32を移動させて調整する。そのあと、探針33を測定面31a(測定位置)に接触させる(接触工程)。
【0052】
工程14では、圧電体薄膜31の測定面31aにおける測定領域W(図2参照)を特定する。詳しくは、探針33を用いて圧電体薄膜31を構成する複数の層全体を測定し、測定画像を確認しながら走査する場所を決め、探針33を任意の位置に移動する。測定領域の測定距離は、例えば、1μmである。
【0053】
工程15(測定工程)では、工程14で特定した測定領域Wの第1変位量を求める。まず、探針33を測定領域Wの範囲で同一個所を往復させながら、第1電極42及び第2電極43に直流電圧の印加(ON)又は遮断(OFF)を所定回数繰り返す。圧電体薄膜31に電圧を印加することにより圧電体薄膜31が伸縮し、圧電体薄膜31と接触している探針33(カンチレバー32)が撓む。これにより、カンチレバー32の上面32aを反射した反射光レーザー35の光路がずれる。この反射光レーザー35のずれ量は、位置検出素子17によって検出され、位置検出信号処理回路18によってずれ量を電気信号に変換し、単位電圧あたりの第1変位量として求められる。更に、ピエゾスキャナ14のZ方向を補正するフィードバック信号として制御機構19に入力される。
【0054】
また、第1変位量を測定するときのプローブ13の走査スピードは、例えば1Hzであり、印加する電圧は、例えば10Vである。また、直流電圧の「ON」と「OFF」とを切り替える間隔は、例えば、30秒である。なお、圧電体薄膜31に印加する電圧は、直流電圧に限定されず、圧電体薄膜31の第1変位量を求めることが可能であればよく、交流電圧を印加するようにしてもよい。
【0055】
図5は、測定データのデータ処理方法を示すフローチャート図である。以下、データ処理方法を、図5を参照しながら説明する。なお、ここで行うデータ処理は、測定データの信頼性を向上させることを目的に行う。
【0056】
図5に示すように、まず、ステップS11では、圧電体薄膜31の測定面31aの第1変位量を求めるべく測定を開始する。これにより得られた画像データ(測定面31aの凹凸の状態)が、図示しない表示モニタに表示される。
【0057】
ステップS12では、ステップS11によって得られた画像データを、256×256の高さデータ(数値データ)に変換する。
【0058】
ステップS13では、位置検出信号処理回路18に接続されたコンピュータに、ステップS12で変換された高さデータを読み込ませる。
【0059】
ステップS14では、高さデータのうち信頼性の低い高さデータを削除する。詳しくは、測定領域Wのうち、例えばノイズが多く含まれやすい測定エリアの端部近傍の高さデータを削除する。
【0060】
ステップS15では、測定した高さデータの使用可否に用いる、代表データを抽出する。詳しくは、測定領域Wにおいて、両端部近傍を除く範囲内で3つの場所を参照ライン(ポイント)とする。この3つのポイントで測定された高さデータが代表データとして抽出される。
【0061】
ステップS16では、ステップS15によって抽出された代表データが、使用可能な測定データか否かを判断する。使用可能な高さデータであれば、ステップS17に移行する。使用可能でない高さデータであれば、ステップS11に移行して、再度測定を開始する。
【0062】
ステップS17では、解析する個所を指定する。詳しくは、ステップS15で指定した参照ラインを基に、「ON」状態、及び、「OFF」状態における、変位状態が比較的安定している解析するライン(ポイント)を決める。例えば、解析ラインには246点のデータを含む列を複数とる。解析ラインは、「ON」状態の解析ラインと「OFF」状態の解析ラインを一組として三組の解析ラインを指定する。
【0063】
ステップS18では、解析ラインに含まれるノイズを低減する。ノイズを低減する方法として、例えば、それぞれの解析ラインに含まれる列データを平均化し、246点×1列のデータを生成する。
【0064】
ステップS19では、変位量を計算する(ドリフト補正前)。変位量は、各測定場所において、「ON」状態の高さデータと「OFF」状態の高さデータとの差である。なお、探針33が測定領域Wを往復したとき、探針33と試料12との相対位置がずれることにより、ドリフト現象が発生する場合がある。
【0065】
ステップS20(ドリフトキャンセル工程)では、ドリフト補正を行う。ドリフト補正は、各測定場所毎の「ON」状態の高さデータと「OFF」状態の高さデータとの差の標準偏差が最も小さくなるように、「ON」状態の高さデータを1ポイント(測定点)づつずらしていく。これにより、「ON」状態の高さデータ、及び、「OFF」状態の高さデータの差が、全体を通して小さくすることが可能となる。つまり、探針33と試料12とが相対的にずれたことによる位置ずれの量を少なくすることができる。
【0066】
ステップS21では、ドリフト補正した結果の高さデータが良いか否かを判断する。この判定は、例えばドリフト補正量が10point未満、補正後残値が10%未満、σ/av(標準偏差を平均値で割ったもの)が5%、などの閾値を設けることにより行う。良いと判断すれば、ステップS22に移行する。良くないと判断すれば、ステップS11に移行し、再度測定を開始する。
【0067】
ステップS22では、ドリフト補正後の第1変位量を計算する。第1変位量は、ドリフト補正後の各測定点の、「ON」状態の高さデータと、「OFF」状態の高さデータとの差を平均化する。これにより、圧電体薄膜31の第1変位量として1つのデータを得ることができる。
【0068】
以上のように、ドリフト現象によりノイズが含まれた高さデータから、ドリフト補正でノイズを除去することにより、信頼性の高い第1変位量を得ることができる。
【0069】
以上詳述したように、本実施形態の圧電体薄膜の評価方法によれば、以下に示す効果が得られる。
【0070】
(1)本実施形態によれば、測定工程(工程15)によって、接触工程(工程13)で求めるべく測定面31aに探針33を直接接触させて、第1変位量を測定するので、測定面31a以外の面の変位量を基に予測で求めることなく、直接、第1変位量を得ることができる。その結果、測定面31a以外の面の変位量を基に予測で求めることと比較して、測定誤差の少ない第1変位量を得ることができる。
【0071】
(2)本実施形態によれば、測定工程(工程15)で得られた測定面31aの高さデータにドリフト補正(ステップS20)を加えるので、測定のときに探針33と試料12との相対位置がずれたとしても、得られた高さデータを正規の位置になるように修正することにより、測定誤差の少ない第1変位量を得ることができる。
【0072】
(3)本実施形態によれば、圧電体薄膜31における第1電極42や第2電極43が形成されていない測定面31aに探針33を直接当てて第1変位量を測定するので、第1電極42や第2電極43を介すことなく、測定面31aの第1変位量を測定することが可能となる。これにより、第1電極42や第2電極43の影響を受けることなく、より誤差の少ない第1変位量を求めることができる。
【0073】
なお、本実施形態は上記に限定されず、以下のような形態で実施することもできる。
【0074】
(変形例1)上記したように、圧電体薄膜31の一部をカットすることにより第1電極42と第1端子36(第1接続電極56)とを電気的に接続していることに限定されず、圧電体薄膜31の一部をカットしなくとも、第1電極42と第1接続電極56とが電気的に接続可能な接続方法であればよい。
【0075】
(変形例2)上記したように、第1電極42と第2電極43との間でリーク電流が流れることを抑えるために、第2電極43の大きさを圧電体薄膜31の大きさと比較して小さくすることに限定されず、第1電極42と第2電極43との間でリーク電流が流れないような処置が施されていれば、例えば、第2電極43と圧電体薄膜31との大きさを同じにするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】一実施形態における、評価装置の構造を示す模式図。
【図2】試料の構成を示す模式図。
【図3】試料固定治具の構造を示す模式図。
【図4】圧電体薄膜の評価方法を示す工程図。
【図5】測定データのデータ処理方法を示すフローチャート図。
【符号の説明】
【0077】
11…評価装置(原子間力顕微鏡)、12…試料、12a…表面、13…プローブ、14…ピエゾスキャナ、15…顕微鏡、16…光源、17…位置検出素子、18…位置検出信号処理回路、19…制御機構、20…試料固定治具、21…ステージ、22…電源、31…試料を構成する圧電体薄膜、31a…測定面、32…プローブを構成するカンチレバー(片持ち梁部材)、32a…上面(背面)、33…プローブを構成する探針、34…レーザー光、35…反射光レーザー、36…第1端子、37…第2端子、41…試料を構成する基板、42…試料を構成する第1電極、43…試料を構成する第2電極、44…第1電極印加領域、51…試料固定治具を構成する固定台、52…試料固定治具を構成する第1固定板、53…試料工程治具を構成する第2固定板、54…試料固定治具を構成する固定ネジ、56…第1接続電極、57…第2接続電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体薄膜にかかる電界方向に対して交差する方向にある前記圧電体薄膜における第1面の変位量を測定するために、前記第1面に探針を接触させる接触工程と、
前記圧電体薄膜に電圧を印加したときに変位する前記第1面の変位量を、前記探針を介して測定する測定工程と、
を有することを特徴とする圧電体薄膜の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電体薄膜の評価方法であって、
前記圧電体薄膜は、前記圧電体薄膜に電圧を印加すべく第1電極と第2電極とによって挟まれて形成されていることを特徴とする圧電体薄膜の評価方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電体薄膜の評価方法であって、
前記測定工程は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて前記第1面の変位量を測定することを特徴とする圧電体薄膜の評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の圧電体薄膜の評価方法であって、
前記測定工程は、前記探針と前記圧電体薄膜とが相対的にずれた位置を、正規の位置に補正するドリフトキャンセル工程を更に有することを特徴とする圧電体薄膜の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−155423(P2007−155423A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348814(P2005−348814)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】