説明

圧電振動子、圧電振動子の製造方法

【課題】小型化と低消費電力化と、周波数温度変化が小さい高精度の水晶振動子を提供す
る。
【解決手段】水晶振動子10は、基部21と、基部21から平行に延在される少なくとも
一対の振動腕30,40と、振動腕30,40それぞれの表面31,41または裏面32
,42または外側側面33と内側側面44とに電極51〜54,56〜59と、を有する
水晶振動片20と、水晶振動片20と直列接続され、振動腕30,40それぞれの表面3
1,41に設けられる圧電体薄膜71,72と、圧電体薄膜71,72の表面に形成され
る電極55,60とを含む圧電体薄膜素子100,101と、圧電体薄膜71,72それ
ぞれの表面に設けられ、圧電体薄膜71,72の一次温度係数とは逆の一次温度係数を有
する温度補償膜110,111と、が備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電体薄膜と温度補償膜とを有する圧電振動子と、この圧電振動子の製造方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子機器等に搭載される時間標準やセンサとして低周波の圧電振動子が用いら
れている。電子機器の小型化に対応してこれらの圧電振動子の小型化が要求されている。
圧電振動子を単純に小型化していくとCI値が上昇しQ値が低下する。CI値を上昇さ
せない構造としては、振動片に圧電体膜を形成し、この圧電体膜を駆動する方法がある。
【0003】
具体的には、シリコンからなる音叉の振動腕の主面上の中心線より内側及び外側に第1
、第2の電極と、これら電極上それぞれに設けられた第1、第2の圧電体膜と、これら圧
電体膜上のそれぞれに設けられた第3、第4の電極とを備え、第3、第4の電極に互いに
逆相の交流電圧を印加することにより音叉が屈曲振動する薄膜微小機械式共振子が提案さ
れている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、周波数温度特性がよい恒弾性金属材料に圧電体薄膜としてZnO薄膜を形成した
音叉型振動子というものも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−227719号公報(第9頁、図1,2)
【非特許文献1】川端昭著、エレクトロニクス、昭和54年3月号、297頁〜301頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1や非特許文献1では、圧電体膜に電圧を印加して金属またはシリコ
ン等からなる音叉を励振している。このような構造では、音叉を駆動する駆動力を得るた
めに圧電体薄膜の厚さを数μm程度にしなければならず、コンデンサ容量が大きくなり、
常に信号を発生させるクロック信号用途等では、消費電力が大きくなってしまうという課
題を有している。
【0007】
また、特許文献1や非特許文献1に例示されている圧電体薄膜は、ZnOやチタン酸ジ
ルコン酸塩等の圧電性材料であって、これらの圧電体材料は周波数温度変化量が大きい。
従って、金属またはシリコン、あるいは周波数温度変化量が小さい水晶に圧電体薄膜を付
加する構造が考えられる。しかしながら、圧電体薄膜が有する一次温度係数の影響により
周波数温度変化量が大きくなるという課題を有している。
【0008】
本発明の目的は、小型で消費電力が小さく周波数温度変化量が小さい高精度の圧電振動
子と、この圧電振動子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の圧電振動子は、基部と、該基部から平行に延在される少なくとも一対の振動腕
と、前記一対の振動腕それぞれの対向する主面または側面に設けられる互いに異極となる
励振電極と、を有する圧電振動片と、前記圧電振動片と直列接続され、前記対向する主面
または側面の少なくとも一つの表面に設けられる圧電体薄膜と、該圧電体薄膜の表面に形
成される励振電極と、を含む圧電体薄膜素子と、前記圧電体薄膜の表面に形成される励振
電極表面に設けられ、前記圧電体薄膜の一次温度係数とは逆の一次温度係数を有する温度
補償膜と、が備えられていることを特徴とすることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、圧電振動片と圧電体薄膜からなる圧電体薄膜素子とを直列に接続し
、圧電振動片と圧電体薄膜素子とを同一励振信号で励振することから、圧電振動片と圧電
体薄膜素子とが相互に振動を補完し合うことによって、低周波領域において圧電振動子の
小型化を実現できる。
【0011】
また、圧電振動片と圧電体薄膜素子とを直列に接続していることから、圧電振動片と圧
電体薄膜素子との総合コンデンサ容量を小さくすることができ、このことから消費電力を
増加させずに、圧電振動子の小型化を図ることができる。
【0012】
さらに、圧電体薄膜の表面に、圧電体薄膜とは逆の一次温度係数を有する温度補償膜を
設け、圧電体薄膜の一次温度係数を打ち消しているので、圧電体薄膜を設けることによる
圧電振動子の一次の周波数温度変化量への影響を低減することができ、高精度な圧電振動
子を実現できる。
【0013】
さらに、温度補償膜を、圧電体薄膜の表面に形成される励振電極の表面に設ける構成で
は、詳しくは後述する実施形態で説明するが、温度補償膜の厚さに対する一次の周波数温
度変化量が鈍感なため、一次の周波数温度変化量の微調整を容易に行えるという利点があ
る。また、温度補償膜の成膜が容易であり、量産安定性に優れる。
【0014】
また、本発明の圧電振動子は、基部と、該基部から平行に延在される少なくとも一対の
振動腕と、前記一対の振動腕それぞれの対向する主面または側面に設けられる互いに異極
となる励振電極と、を有する圧電振動片と、前記圧電振動片と直列接続され、前記対向す
る主面または側面の少なくとも一つの表面に設けられる圧電体薄膜と、該圧電体薄膜の表
面に設けられ、前記圧電体薄膜の一次温度係数とは逆の一次温度係数を有する温度補償膜
と、該温度補償膜の表面に設けられる励振電極とを有する圧電体薄膜素子と、が備えられ
ていることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、圧電振動片は温度補償膜を有する圧電体薄膜素子を備えているため
に、詳しくは後述する実施形態で説明するが、前述したような励振電極の上面に温度補償
膜を形成する構造よりも温度補償膜の厚さに対する一次の周波数温度変化量が敏感となる
ため、より薄い成膜で広い範囲の一次の周波数温度変化量の調整が可能であり、成膜の生
産性が高いという利点ある。
【0016】
また、前記圧電振動片が、水晶振動片であることが好ましい。
【0017】
水晶振動片は、他の圧電材料からなる圧電振動片よりも周波数温度特性に優れている。
従って、圧電体薄膜を用いる構造であっても、上述したような温度補償膜を設けることに
より、水晶が本来有する優れた周波数温度特性を活用することができる。
【0018】
また、前記振動腕にバランス質量が付加されていることが望ましい。
【0019】
振動腕の表面に圧電体薄膜及び温度補償膜を設けることにより、振動のバランスが僅か
ではあるがくずれることが予測される。そこで、圧電体薄膜及び温度補償膜の付加質量に
対応したバランス質量を付加することにより、振動腕の振動バランスをとり、高精度な振
動特性を維持することができる。
【0020】
また、本発明の圧電振動子の製造方法は、圧電基板の表面に圧電体薄膜を形成する工程
と、前記圧電体薄膜の表面に温度補償膜を形成する工程と、前記温度補償膜の膜厚さを調
整して一次温度係数を調整する工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
圧電体薄膜を有する圧電振動子の一次温度係数は、温度補償膜の厚さに影響される。従
って、温度補償膜の厚さを増減することにより、圧電振動子を適正な一次温度係数に合わ
せ込むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図7は本発明の実施形態1に係る圧電振動子を示し、図8〜図10は実施形態2
、図11は実施形態3、図12は実施形態4、図13は実施形態5を示している。
なお、以下の説明で参照する図は、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺は実際
のものとは異なる模式図である。
(実施形態1)
【0023】
図1は、本発明の実施形態1に係る圧電振動子の構造を示す斜視図、図2は、図1のA
−A切断面を示す断面図及び各電極の接続説明図である。なお、本発明の圧電振動子の材
質としては、圧電性能を有するものであれば限定されずに適合できるが、以下の実施形態
では、圧電振動子として周波数温度特性に優れる水晶振動子を例示して説明する。図1、
図2において、水晶振動子10は、水晶振動片20の表面に複数の電極と、圧電体薄膜素
子100,101と、圧電体薄膜素子100,101それぞれの上面に設けられる温度補
償膜110,111と、を有して構成されている。
【0024】
水晶振動片20は、基部21の一辺から、Y軸方向に平行に延在された一対の振動腕3
0,40を有した音叉型振動子である。そして、基部21の振動腕30,40の延在方向
とは逆方向に支持部22が設けられている。振動腕30,40は、中心線C0に対して対
称形である。また、水晶振動片20は、結晶軸方向をX軸方向にして切り出されている。
【0025】
振動腕30には、一方の主面31(以降、表面31と表す)を2分して、振動腕30の
中心線C1に対して結晶軸方向(振動腕の内側方向)に圧電体薄膜71、外側方向に電極
51が形成され、表面31に対向する主面32(以降、裏面32と表す)に電極53が形
成されている。なお、電極53は、圧電体薄膜71及び電極51にそれぞれ対向するよう
に2分割する構成としてもよく、省略することもできる。
【0026】
また、振動腕30の外側側面33には電極52が、内側側面34には電極54が形成さ
れている。さらに、圧電体薄膜71の表面には電極55が形成され、電極55の上面には
温度補償膜110が設けられている。
【0027】
振動腕40には、一方の主面41(以降、表面41と表す)を2分して、振動腕40の
中心線C2に対して結晶軸方向(振動腕の外側方向)に圧電体薄膜72、内側方向に電極
56が形成され、他方の主面42(以降、裏面42と表す)に電極58が形成されている
。なお、電極58は、圧電体薄膜72及び電極56に対向するように2分割する構成とし
てもよく、省略してもよい。
【0028】
また、振動腕40の外側側面43には電極59が、内側側面44には電極57が形成さ
れている。さらに、圧電体薄膜72の表面には電極60が形成され、電極60の上面には
温度補償膜111が設けられている。
【0029】
圧電体薄膜71,72の材質としては、ZnO、AlN、GaN、PZT(登録商標)
、KN、LN、LT等から選択することができ、本実施形態では、水晶よりも誘電率が大
きく、しかもその差が大きい材料、ヤング率が大きい材料、電気機械結合係数K2が大き
い材料を選択する。
【0030】
また、温度補償膜110,111の材質としては、Ni−鉄合金、酸化シリコン、酸化
テリル、酸化ジルコニウム等を採用でき、圧電体薄膜71,72の一次温度係数に対して
逆の一次温度係数を有するものから選択する。具体的には、圧電体薄膜71,72が負の
一次温度係数を有するとき、温度補償膜110,111は正の一次温度係数を有する。
【0031】
電極55,51,53,57,59及び接続端子93は、接続電極91によって接続さ
れる。また、これらの電極とは互いに異極となる電極52,54,58,60,56及び
接続端子94は、接続電極92によって接続されている。そして、接続端子93,94に
それぞれ互いに逆相の交流電圧を印加することで、振動腕30,40がX軸方向に屈曲振
動する。従って、電極51〜60は、水晶振動片20の励振電極である。
【0032】
図3は、水晶振動子を特定の振動モードで励振する発振回路に接続した状態を示す等価
回路図である。図3において、発振器80は、増幅回路81と帰還回路82とを含んでい
る。
【0033】
増幅回路81は、増幅器83と帰還抵抗84とを含んで構成されている。帰還回路82
は、ドレイン抵抗85とコンデンサ86,87と水晶振動子10を含んで構成されている
。水晶振動子10は、水晶振動片20と圧電体薄膜素子100,101とが直列に接続さ
れている(図2も参照する)。
【0034】
ここで、増幅器83はCMOSインバータを用いることができる。このような構成によ
り、水晶振動片20と圧電体薄膜素子100,101とが同一振動モードで振動する発振
器80を形成することができる。
【0035】
続いて、本実施形態に係る水晶振動子の駆動について図面を参照して説明する。
図4は、水晶振動子の駆動について模式的に示す説明図である。なお、図4は、図1の
A−A切断面を表している。
図4(a)を参照して第1の状態を説明する。電極51,53,55,57,59には
マイナス(−)電位を印加し、電極52,54,56,58,60にはプラス(+)電位
を印加する。ここで、振動腕30,40の水晶の結晶軸方向を矢印Dで表し、圧電体薄膜
71,72の分極方向を矢印P0で表している。
【0036】
まず、振動腕30について説明すると、圧電体薄膜71は、電極55と電極54によっ
て挟まれた圧電体薄膜素子100が形成された状態であり(水晶を一部介在する)、電極
55にマイナス電位、電極54にプラス電位を印加すると厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(
X軸)方向及び長さ(Y軸)方向に伸びる。
【0037】
従って、圧電体薄膜71は、水晶の結晶軸方向の偏った位置に設けられているために、
振動腕30を矢印F1方向に変位しようとする。振動腕30は、電極それぞれに電圧を印
加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢印F1方向に変位しようとするため、振動
腕30は圧電体薄膜素子100と共に、矢印F1方向に変位する。
【0038】
次に、振動腕40について説明する。圧電体薄膜72は、電極60と電極59によって
挟まれた圧電体薄膜素子101が形成された状態であり(水晶を一部介在する)、電極6
0にプラス電位、電極59にマイナス電位を印加すると厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X
軸)方向及び長さ(Y軸)方向に縮む。
【0039】
従って、圧電体薄膜72は、水晶の結晶軸方向の偏った位置に設けられているために、
振動腕40を矢印F2方向に変位しようとする。振動腕40は、電極それぞれに電圧を印
加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢印F2方向に変位しようとするため、振動
腕40は圧電体薄膜素子101と共に、矢印F2方向に変位する。
このようにして、振動腕30,40は共に、図4(b)に示すように外側方向に変位す
る。
【0040】
次に、第2の状態を説明する(図示は省略する)。第2の状態は、上述した第1の状態
に対して、各電極に逆相の電圧を印加した状態を示している。つまり、電極51,53,
55,57,59にはプラス(+)電位を印加し、電極52,54,56,58,60に
はマイナス(−)電位を印加する。
【0041】
まず、振動腕30について説明する。電極55にプラス電位、電極54にマイナス電位
を印加すると、圧電体薄膜71は厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y
軸)方向に縮む。
【0042】
従って、圧電体薄膜71は、振動腕30を矢印F3方向に変位しようとする。振動腕3
0は、電極それぞれに電圧を印加すると第1の状態(図4(a)、参照)とは逆方向に電
界が発生し、やはり矢印F3方向に変位しようとするため、振動腕30は圧電体薄膜素子
100と共に、矢印F3方向に変位する。
【0043】
次に、振動腕40について説明する。電極60にマイナス電位、電極59にプラス電位
を印加すると、圧電体薄膜72は厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向及び長さ(Y
軸)方向に伸びる。従って、圧電体薄膜72は、矢印F4方向に変位しようとする。振動
腕40は、電極それぞれに電圧を印加すると第1の状態(図4(a)、参照)とは逆方向
に電界が発生し、やはり矢印F4方向に変位しようとするため、振動腕40は圧電体薄膜
素子101と共に、矢印F4方向に変位する。
【0044】
上述した第1の状態と第2の状態を繰り返す(つまり、交流電圧を印加する)と振動腕
30,40は、X軸方向に屈曲振動を繰り返す。
【0045】
なお、上述した実施形態1では、圧電体薄膜素子100,101を振動腕30,40の
それぞれの表面31,41に形成する構造を例示したが、圧電体薄膜素子100,101
を、裏面32,42に形成する構造としてもよい。この際、電極51と電極53、電極5
6と電極58とを入れ替える構成とする。
【0046】
続いて、温度補償膜110,111について説明する。
図5は、温度補償膜110,111の温度と一次の周波数温度変化量との関係、つまり
、一次温度係数を模式的に表すグラフである。ここで、圧電体薄膜71,72の一次温度
係数df/fは負の傾き(具体的には−40ppm/deg)を有している。従って、温
度補償膜110,111の一次温度係数df/fを正の傾き(具体的には+40ppm/
deg)にすれば、圧電体薄膜の一次温度係数df/fを“0”にすることが可能となる

【0047】
次に、圧電体薄膜71,72の一次温度係数が水晶振動子に与える影響について説明す
る。
図6は、水晶振動子の温度変化に対する周波数変化量(周波数温度特性)を模式的に表
すグラフである。図6において、水晶振動子10の周波数温度特性(図中、実線で表す)
は、頂点温度T0とする二次曲線で表される。ここで、水晶振動子10に圧電体薄膜71
,72を付加下場合に、周波数温度特性は、頂点温度T0がマイナス方向に移動して頂点
温度T1を有する二次曲線(図中、破線で表す)で表される。従って、本来の水晶振動子
周波数温度特性(頂点温度T1の二次曲線)に補償する必要が生じ、温度補償膜110,
111を設ける。なお、温度補償膜の一次温度係数は、材質とその膜厚さによって変化す
る。
【0048】
図7は、水晶振動片20に温度補償膜110,111を設けたときの温度補償膜の膜厚
さhと一次の周波数温度変化量df/fの関係を表すグラフである。ここでは、温度補償
膜110,111の材質を酸化シリコン(SiO2)とする。図7において、温度補償膜
110、111の膜厚さhが増加するに従い一次の周波数温度変化量df/fが増加する
。従って、一次の周波数温度変化量が“0”となる膜厚さh(具体的には550nm近傍
)とすれば、圧電体薄膜71,72の一次温度係数の影響を排除することができ、図6に
示す頂点温度T0の周波数温度特性を得ることができる。
【0049】
従って、上述した実施形態1によれば、水晶振動片20と圧電体薄膜素子100,10
1とを直列に接続し、水晶振動片20と圧電体薄膜素子100,101とを同一励振信号
で励振することにより、水晶振動片20と圧電体薄膜素子100,101とが相互に振動
を補完し合い、低周波領域において水晶振動子10の小型化を実現できる。
【0050】
ここで、消費電力に影響を与える水晶振動子10のコンデンサ容量について考察する。
コンデンサ容量Cは、誘電体の面積S、厚さ(電極間距離)d、誘電率をεとすれば、C
=ε・S/dで表される。圧電体薄膜71,72の誘電率εz、水晶の誘電率εqの関係
は、それぞれの材料をεz≫εq、圧電体薄膜71,72の厚さdzと水晶振動片20の
厚さdqの関係を、dq≫dzとなるように設定している。従って、水晶振動片20のコ
ンデンサ容量Cqと圧電体薄膜71,72のコンデンサ容量Czの関係は、Cz≫Cqと
なる。
【0051】
本実施形態では、発振器80の等価回路において、水晶振動片20と圧電体薄膜素子1
00,101とを直列に接続している。従って、水晶振動子10の総コンデンサ容量Cは
、1/C=1/Cq+1/Czで表される。ここで、Cz≫Cqとしているため、C≒C
qと考えることができる。このことから、水晶振動子10の総コンデンサ容量Cを小さく
することができ、消費電力を増加させずに、水晶振動子の小型化を実現できる。
【0052】
また、圧電体薄膜素子100,101の電気機械結合係数K2は、水晶振動片20の電
気機械結合係数よりも大きい。性能指数MはM≒K2・Qで表すことができ、圧電体薄膜
素子100,101の電気機械結合係数(K2で表される)を水晶よりも大きくすること
で、圧電体薄膜素子100,101の性能指数Mが高くなる。従って、電気機械結合係数
が大きいほど振動しやすいので、薄い圧電体薄膜71,72により水晶振動片20の振動
を高効率化することができる。
【0053】
また、本実施形態では、圧電振動片として水晶振動子を採用し、圧電体薄膜71,72
の表面に、圧電体薄膜71,72とは逆の一次温度係数を有する温度補償膜110,11
1を設けることによって、圧電体薄膜71,72の一次温度係数を打ち消すので、圧電体
薄膜を用いる構造であっても、水晶振動子10が本来有する優れた周波数温度特性を活用
することができる。
(実施形態2)
【0054】
続いて、本発明の実施形態2について図面を参照して説明する。実施形態2は、前述し
た実施形態1に対して、温度補償膜を圧電体薄膜と電極との間(つまり、圧電体薄膜素子
の上面)に設けることを特徴としている。従って、相違部分を中心に説明し、実施形態1
と同じ符号を附して説明する。
図8は、実施形態2に係る水晶振動子の断面図(図1のA−A切断面に相当する)及び
各電極の接続説明図である。図8において、振動腕30の表面31には圧電体薄膜71、
圧電体薄膜71の表面に温度補償膜110、温度補償膜110の表面に電極55が設けら
れている。
【0055】
従って、圧電体薄膜71と温度補償膜110とは積層された状態で振動腕30の一部を
介在して電極55と電極54との間に挟まれた圧電体薄膜素子100を構成している。
【0056】
また、振動腕40の表面41には圧電体薄膜72、圧電体薄膜72の表面に温度補償膜
111、温度補償膜111の上面に電極60が設けられている。
【0057】
従って、圧電体薄膜72と温度補償膜111とは積層された状態で振動腕40の一部を
介在して電極60と電極59との間に挟まれた圧電体薄膜素子101を構成している。
【0058】
なお、電極51〜60及び接続端子93,94の接続は、前述した実施形態1と同様に
行われており、接続端子93,94に交流電圧を印加することで、振動腕30,40が屈
曲振動する。
【0059】
図9は、水晶振動子の駆動について模式的に示す説明図である。図9(a)を参照して
第1の状態を説明する。電極51,53,55,57,59にはマイナス(−)電位を印
加し、電極52,54,56,58,60にはプラス(+)電位を印加する。ここで、振
動腕30,40の水晶の結晶軸方向を矢印Dで表し、圧電体薄膜71,72の分極方向を
矢印P0で表している。
【0060】
まず、振動腕30について説明すると、電極55にマイナス電位、電極54にプラス電
位を印加すると厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸)方向に伸びる

【0061】
従って、圧電体薄膜素子100が、水晶の結晶軸方向の偏った位置に設けられているた
めに、振動腕30を矢印F1方向に変位しようとする。振動腕30は、電極それぞれに電
圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢印F1方向に変位しようとするため
、振動腕30は圧電体薄膜素子100と共に、矢印F1方向に変位する。
【0062】
次に、振動腕40について説明する。電極60にプラス電位、電極59にマイナス電位
を印加すると厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸)方向に縮む。
【0063】
従って、圧電体薄膜素子101が、水晶の結晶軸方向の偏った位置に設けられているた
めに、振動腕40を矢印F2方向に変位しようとする。振動腕40は、電極それぞれに電
圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢印F2方向に変位しようとするため
、振動腕40は圧電体薄膜素子101と共に、矢印F2方向に変位する。
このようにして、振動腕30,40は共に、図9(b)に示すように外側方向(矢印F
1,F2方向)に変位する。
【0064】
次に、第2の状態を説明する(図示は省略する)。第2の状態は、上述した第1の状態
に対して、各電極に逆相の電圧を印加した状態を示している。つまり、電極51,53,
55,57,59にはプラス(+)電位を印加し、電極52,54,56,58,60に
はマイナス(−)電位を印加する。
【0065】
まず、振動腕30について説明する。電極55にプラス電位、電極54にマイナス電位
を印加すると、圧電体薄膜71は厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y
軸)方向に縮む。
【0066】
従って、圧電体薄膜素子100は、振動腕30を図9に示す矢印F3方向に変位しよう
とする。振動腕30は、電極それぞれに電圧を印加すると図9の矢印Eとは逆方向に電界
が発生し、やはり矢印F3方向に変位しようとするため、振動腕30は圧電体薄膜素子1
00と共に、矢印F3方向に変位する。
【0067】
次に、振動腕40について説明する。電極60にマイナス電位、電極59にプラス電位
を印加すると、圧電体薄膜72は厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向及び長さ(Y
軸)方向に伸びる。
【0068】
従って、圧電体薄膜素子101は、矢印F4方向に変位しようとする。振動腕40は、
電極それぞれに電圧を印加すると図9の矢印Eとは逆方向に電界が発生し、やはり矢印F
4方向に変位しようとするため、振動腕40は圧電体薄膜素子101と共に、矢印F4方向
に変位する。
【0069】
接続端子93,94に交流電圧を印加し、上述した第1の状態と第2の状態を繰り返す
と振動腕30,40は、図9(b)に示すようにX軸方向に屈曲振動を繰り返す。
【0070】
次に、温度補償膜110,111それぞれが電極55,60と圧電体薄膜71,72の
間に設けられる実施形態2の構成による温度補償について説明する。このような構成にお
いても温度補償膜110,111の一次温度係数は、材質とその膜厚さによって変化する

【0071】
図10は、水晶振動片20に温度補償膜110,111を設けたときの温度補償膜の膜
厚さhと一次の周波数温度変化量df/fの関係を表すグラフである。ここでは、温度補
償膜110の材質を酸化シリコン(SiO2)とする。なお、実施形態1の構成との比較
を表している。図10において、温度補償膜110,111の膜厚さhが増加するに従い
一次の周波数温度変化量が増加する。
【0072】
ここで、実施形態2の構成(上層から電極−温度補償膜−圧電体薄膜の構成)では、実
施形態1の構成(上層から温度補償膜−電極−圧電体薄膜の構成)よりも、膜厚さに対し
て一次の周波数温度変化量(df/f)が敏感に変化する。そして、一次の周波数温度変
化量が“0”となる膜厚さh(具体的には50nm近傍)とすれば、圧電体薄膜の一次温
度係数の影響を排除することができることを示している。
【0073】
図10を参照して実施形態1と実施形態2の構成による特性の相違を比較する。実施形
態1によれば、膜厚さhに対して一次の周波数温度変化量df/fが鈍感であり、膜厚さ
hが変化しても一次の周波数温度変化量df/fが小さいので、量産安定性に優れるとい
う効果がある。
【0074】
また、実施形態2によれば、膜厚さhに対して一次の周波数温度変化量df/fが敏感
であり、膜厚さhも50nmと薄くてよい。従って、成膜時間が短縮できる他、成膜によ
る膜応力も小さくて済むため、圧電振動片の反り等の変形が発生しにくいという効果もあ
る。
【0075】
また、実施形態1及び実施形態2による構造では共に温度補償膜110,111の膜厚
さhを増減することで、図10に示すように、一次の周波数温度変化量df/f(つまり
、一次温度係数)を調整することができる。ここで、温度補償膜110,111の膜厚さ
hの調整方法を含む水晶振動子の製造方法について説明する。図示は省略する。
【0076】
まず、大判の圧電基板としての水晶基板(水晶ウエハと呼称することがある)に、フォ
トリソグラフィ技術によって複数の水晶振動片20を形成する。この際、水晶振動片の基
部21または支持部22(図1、参照)を水晶基板に接続しておく。
【0077】
続いて、圧電体薄膜71,72を形成する。実施形態1の構造では、振動腕30,40
のそれぞれの表面31,41の所定位置に第1圧電体薄膜を形成する。第1圧電体薄膜の
形成方法は、RFスパッタリング法等のPVD(Physical Vapor Dep
osition)法であてもよいし、CVD(Chemical Vapor Depo
sition)法であってもよい。また、第1圧電体薄膜の厚さは、5nm〜100nm
が好ましい。
【0078】
続いて、第1圧電体薄膜の熱処理を行い、熱処理後の第1圧電体薄膜を形成する。熱処
理は、ランプ加熱、レーザー光加熱であってもよいが、400℃以下での熱処理は、温度
管理ができ温度を低温から上昇できる熱処理方法が好ましい。具体的には、より安定した
温度管理ができる熱処理炉、ホットプレート、真空チャンバ中での熱処理が好ましい。こ
の熱処理後の第1圧電体薄膜は結晶化が進んだ状態である。
【0079】
続いて、熱処理後の第1圧電体薄膜上に第2圧電体薄膜を形成する。第2圧電体薄膜は
、結晶化が進んだ熱処理後の第1圧電体薄膜上において結晶生長する材料であればどのよ
うな圧電体薄膜でもよいが、本実施形態では、第1圧電体薄膜と同じ材料を採用している

【0080】
第2圧電体薄膜も、PVD法、CVD法等の成膜法で形成することが可能で、その厚さ
は数μmである。この第2圧電体薄膜は、熱処理後の第1圧電体薄膜を含めて圧電体薄膜
71,72となる。
【0081】
このようにして圧電体薄膜71,72を形成した後、電極51〜60を形成する。圧電
体薄膜71,72それぞれの上面に形成する電極55,60は他の電極と同時形成しても
よいし、別工程で形成してもよい。
【0082】
電極51〜60を形成した後、温度補償膜110,111を形成する。温度補償膜11
0,111はチャンバ内でPVD法またはCVD法等の成膜法で形成する。この成膜工程
の際、チャンバ内に周波数計測モニタを備え、一次温度係数をモニタしながら、一次の周
波数温度変化量が“0”になる膜厚さhを調整する。
【0083】
または、予め膜厚さを厚い方向に形成しておき、温度補償膜の表面をエッチング等によ
り研削して一次の周波数温度変化量df/fが“0”になる膜厚さhを得る方法としても
よい。
【0084】
そして、温度補償膜110,111を形成した後、水晶基板11をダイシング等で切断
して、水晶振動子10を切り離し個片化する。
【0085】
また、実施形態2の構造では、圧電体薄膜71,72を形成後、温度補償膜110,1
11を形成し、温度補償膜110,111の上面に電極55,60を形成する。圧電体薄
膜71,72及び温度補償膜110,111の形成方法は、上述した実施形態1の方法と
同じである。また、温度補償膜110,111の成膜工程において、一次温度係数をモニ
タする。
【0086】
なお、圧電体薄膜の結晶性を高める方法として、圧電体薄膜を金属薄膜の表面に形成す
る方法が採用できる。この方法は、振動腕30,40のそれぞれの表面31,41の所定
位置にPtまたはTiの金属薄膜を形成し、金属薄膜の表面に圧電体薄膜71,72を形
成する。圧電体薄膜71,72は、金属薄膜が存在するために良好な結晶性を有する。
【0087】
圧電体薄膜の振動特性は、圧電体薄膜の結晶性が良好なほどよい。従って、水晶基板の
表面に第1圧電体薄膜を形成し、この第1圧電体薄膜を熱処理した後、熱処理された前記
第1圧電体薄膜の表面に、第1圧電体薄膜と同一材料の第2圧電体薄膜を形成して結晶性
を改善している。その結果、優れた振動性能を得ることができる。
【0088】
また、水晶基板の表面にPtまたはTiの少なくとも一方の金属薄膜を形成し、この金
属薄膜の表面に圧電体薄膜71,72を形成することで、圧電体薄膜71,72の結晶性
を高めることができる他、圧電体薄膜71,72と水晶振動片20との密着性を高めるこ
とができるという効果がある。
【0089】
また、温度補償膜110,111の成膜工程の際、チャンバ内に周波数計測モニタを備
え、チャンバ内にて一次温度係数をモニタしながら、一次の周波数温度変化量が“0”に
なる膜厚さhを得る方法により、生産性が高い水晶振動子を実現できる。
(実施形態3)
【0090】
続いて、本発明の実施形態3に係る水晶振動子について図面を参照して説明する。実施
形態3は、振動腕30,40の表裏両面それぞれに圧電体薄膜素子を形成しているところ
に特徴を有している。従って、実施形態1との相違部分を中心に説明し、同じ部位には同
じ符号を附している。
図11は、実施形態3に係る水晶振動子の構成と駆動について模式的に示す断面図であ
る。なお、図11では、前述した実施形態1にて説明した圧電体薄膜−電極−温度補償膜
の構成を例示している。
図11において、振動腕30の裏面32には、圧電体薄膜素子100に対向して圧電体薄
膜素子102が形成されている。
【0091】
圧電体薄膜素子102の構成は、圧電体薄膜素子101と同じであり、振動腕30の裏
面32から圧電体薄膜73、電極61、温度補償膜112の順に積層形成されている。
従って、圧電体薄膜73は、電極61,54によって挟まれた圧電体薄膜素子102を構
成する。
【0092】
一方、振動腕40の裏面42には、圧電体薄膜素子101に対向して圧電体薄膜素子1
03形成され、電極56に対向して電極58が形成されている。従って、圧電体薄膜74
は、電極62,59によって挟まれた圧電体薄膜素子103を構成する。
なお、圧電体薄膜71〜74は実施形態1と同様な材料としての条件を満たし、厚さ、
平面形状も同じとする。
【0093】
次に、水晶振動片20の駆動について説明する。電極51,53,55,57,59,
61にはマイナス(−)電位を印加し、電極52,54,58,62,60,56にはプ
ラス(+)電位を印加する。
【0094】
まず、振動腕30について説明する。圧電体薄膜71,73は、電極55,61にマイ
ナス電位、電極54にプラス電位を印加すると厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向
及び長さ(Y軸)方向に伸びる。
【0095】
従って、圧電体薄膜71,73は、振動腕30の水晶の結晶軸方向に偏った位置に設け
られていることから、それぞれ同じように振動腕30を矢印F1方向に変位しようとする
。振動腕30は、電極それぞれに電圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢
印F1方向に変位しようとするため、振動腕30は圧電体薄膜素子100,102と共に
、矢印F1方向に変位する。
【0096】
次に、振動腕40について説明する。圧電体薄膜72は、電極60にプラス電位、電極
59にマイナス電位を印加すると厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y
軸方向)に縮む。
【0097】
また、圧電体薄膜74は、電極59にマイナス電位、電極62にプラス電位を印加する
と厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸方向)に縮む。
【0098】
従って、圧電体薄膜72,74は、振動腕40の水晶の結晶軸方向に偏った位置に設け
られていることから、それぞれ同じように振動腕40を矢印F2方向に変位しようとする
。振動腕40は、電極それぞれに電圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり矢
印F2方向に変位しようとするため、振動腕40は圧電体薄膜素子101,103と共に
、矢印F2方向に変位する。
このようにして、振動腕30,40は、図9(b)に示すように外側方向(矢印F1
2方向)に変位する。
【0099】
次に、図11で示した状態に対して各電極に逆相の電位を印加した場合について説明す
る。図示は省略するが。電極52,54,58,62,60,56にはマイナス電位、電
極51,53,61,55,57,59にはプラス電位の電圧を印加する。こうすること
で、圧電体薄膜71〜74の伸縮方向が図11(a)にあらわす状態とは逆方向となり、
振動腕30,40は図11(a)にて表す矢印F3,F4方向に変位する。
従って、接続端子93,94に交流電圧を印加することで、振動腕30,40は図11
(b)に表すようにX軸方向に屈曲振動を継続する。
【0100】
従って、上述したように、振動腕30,40それぞれの表裏両面に圧電体薄膜71,7
3、及び圧電体薄膜72,74を設けることにより、水晶振動片20と圧電体薄膜素子1
00〜103とが、より一層強く相互に振動を補完し合うことができる。また、一方の主
面(表裏面のどちらか一方)に圧電体薄膜を形成する場合よりも振動バランスをとること
ができ、捩れ等の不用振動を低減することができる。
【0101】
また、実施形態3の構造においても、温度補償膜110〜113を設けているので、圧
電体薄膜71〜74を設けることによる一次の周波数温度変化量df/fの影響を排除す
ることができる。
(実施形態4)
【0102】
次に、本発明の実施形態4について図面を参照して説明する。実施形態4は、前述した
実施形態3に対して、振動腕の側面にも圧電体薄膜素子を設けていることに特徴を有して
いる。従って、実施形態3との相違部分を中心に説明し、共通部位には実施形態3と同じ
符号を附している。
図12は、実施形態4に係る水晶振動子の構成と駆動について模式的に示す断面図である
。なお、図12では、前述した実施形態1にて説明した圧電体薄膜−電極−温度補償膜の
構成を例示している。
図12において、振動腕30の外側側面33には、圧電体薄膜素子104が形成されてい
る。
【0103】
圧電体薄膜素子104の構成は、圧電体薄膜素子100〜103と同じであり、振動腕
30の外側側面33から圧電体薄膜75、電極63、温度補償膜114の順に積層形成さ
れている。
従って、圧電体薄膜75は、電極63と電極51,53によって挟まれた圧電体薄膜素子
104を構成する。
【0104】
一方、振動腕40の内側側面44には、圧電体薄膜素子105が形成されている。圧電
体薄膜素子105の構成は、圧電体薄膜素子104と同じであり、振動腕40の内側側面
44から圧電体薄膜76、電極64、温度補償膜115の順に積層形成されている。従っ
て、圧電体薄膜76は、電極64と電極56,58によって挟まれた圧電体薄膜素子10
5を構成する。
なお、圧電体薄膜71〜76は実施形態1と同様な材料としての条件を満たし、厚さ、
平面形状も同じとする。
【0105】
次に、水晶振動片20の駆動について説明する。電極51,53,55,61,59,
64にはマイナス(−)電位を印加し、電極54,63,58,62,60,56にはプ
ラス(+)電位を印加する。
【0106】
まず、振動腕30について説明すると、圧電体薄膜71,73の伸縮は、前述した実施
形態3と同じであり、厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸)方向に
伸びる。
【0107】
また、圧電体薄膜75は、電極51,53にマイナス電位、電極63にプラス電位を印
加すると厚さ(Z軸)方向に縮み、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸)方向に伸びる。
【0108】
従って、圧電体薄膜71,73,75は、振動腕30を矢印F1方向に変位しようとす
る。振動腕30は、電極それぞれに電圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり
矢印F1方向に変位しようとするため、振動腕30は圧電体薄膜素子100,102,1
04と共に、矢印F1方向に変位する。
【0109】
次に、振動腕40について説明する。圧電体薄膜72,74の伸縮は、前述した実施形
態3と同じであり、厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸方向)に縮
む。
【0110】
また、圧電体薄膜76は、電極64にマイナス電位、電極56,58にプラス電位を印
加すると厚さ(Z軸)方向に伸び、幅(X軸)方向及び長さ(Y軸方向)に縮む。
【0111】
従って、圧電体薄膜72,74,76は、振動腕40を矢印F2方向に変位しようとす
る。振動腕40は、電極それぞれに電圧を印加すると矢印E方向に電界が発生し、やはり
矢印F2方向に変位しようとするため、振動腕40は圧電体薄膜素子101,103,1
05と共に、矢印F2方向に変位する。
このようにして、振動腕30,40は、図12(b)に示すように外側方向に変位する

【0112】
次に、図12(a)で示した状態に対して各電極に逆相の電位を印加する。図示は省略
するが、電極51,53,61,55,59,64にはプラス電位、電極54,63,5
6,58,62,60にはマイナス電位の電圧を印加する。こうすることで、圧電体薄膜
71〜76の伸縮方向が図12(a)に表す方向とは逆方向となり、振動腕30,40は
矢印F3,F4方向に変位する。
従って、接続端子93,94に交流電圧を印加することで、振動腕30,40は図12
(b)に示すようにX軸方向に屈曲振動を継続する。
【0113】
従って、上述した実施形態4によれば、水晶の厚さ方向(Z軸方向、振動腕の側面)に
も圧電体薄膜75,76を設けることにより、さらに強く相互に振動を補完し合うことが
でき、水晶振動子の振動効率を高めることができる。
【0114】
また、実施形態4の構造においても、温度補償膜110〜115を設けているので、圧
電体薄膜71〜76を設けることによる一次の周波数温度変化量の影響を排除することが
できる。
(実施形態5)
【0115】
続いて、本発明の実施形態5について図面を参照して説明する。前述した実施形態1,
2では圧電体薄膜素子100,101、実施形態3では圧電体薄膜素子100〜103、
実施形態4では圧電体薄膜素子100〜105をそれぞれ備えている。
【0116】
しかしながら、圧電体薄膜素子を設けることにより、水晶振動片20の中心線C0に対
して振動腕30と振動腕40との質量バランス、あるいは、振動腕30,40それぞれの
中心線C1,C2に対する質量バランスがくずれることがある。そのことによって僅かであ
るが振動バランスがくずれることが考えられる。実施形態5では、そのような課題を解決
するためにバランス質量を付加することを特徴としている。なお、実施形態1〜実施形態
4と同じ部位には同じ符号を附している。また、バランス質量としては、圧電体薄膜と同
材質のものを採用する。
【0117】
図13(a)〜(c)は、実施形態5に係る水晶振動子を示す断面図である。なお、図
13(a)〜(c)に図示する構造は、実施形態1にて説明した温度補償膜の構成を例示
している。
図13(a)は、実施形態1(図2、参照)にて説明した構造に対してバランス質量を
付加した例を示している。図13(a)において、振動腕30には、中心線C1に対して
圧電体薄膜素子100と対称となるバランス質量77aが設けられている。つまり、バラ
ンス質量77aは、温度補償膜110と電極55と圧電体薄膜71の質量総和が、バラン
ス質量77aと電極51の質量総和と等しい。従って、振動腕30内において質量バラン
スがとれる。
【0118】
振動腕40においても同様に、バランス質量77bを設けることにより、付加されたバ
ランス質量77bと電極56との積層体の質量総和は、圧電体薄膜72と電極60と温度
補償膜111の積層体の質量総和と等しく中心線C2に対して対称となり、振動腕40内
において質量バランスがとれている。
【0119】
このように、バランス質量77a,77bを設けることにより、振動腕30,40が、
中心線C0に対しても質量バランスがとれ、振動バランスをとることができる。
【0120】
図13(b)は、実施形態3(図11、参照)に対してバランス質量を付加した例を示
している。実施形態3は、振動腕30,40の表裏両面それぞれに、圧電体薄膜素子10
0,102、圧電体薄膜素子101,103が設けられている構造である。振動腕30に
は中心線C1に対して圧電体薄膜素子100,102に対称なバランス質量77a,78
aを設け、振動腕40には中心線C2に対して圧電体薄膜素子101,103に対称とな
るバランス質量77b,78bを設けている。
【0121】
このようにバランス質量77a,77b及びバランス質量78a,78bを設けること
により、振動腕30及び振動腕40内において質量バランスがとれると共に、振動腕30
と振動腕40との質量バランスがとれ、そのことにより振動バランスがとれる。
【0122】
図13(c)は、実施形態4(図12、参照)に対してバランス質量を付加した例を示
している。実施形態4は、振動腕30の表裏両面と側面それぞれに圧電体薄膜素子100
,102,104が設けられている構造であるので、振動腕30には中心線C1に対して
圧電体薄膜素子100,102,104それぞれに対称なバランス質量77a,78a,
79aを設ける。
【0123】
また、振動腕40の表裏両面と側面それぞれには、圧電体薄膜素子101,103,1
05が設けられている構造であるので、中心線C2に対して圧電体薄膜素子101,10
3,105それぞれに対称なバランス質量77b,78b,79bを設けている。
【0124】
このようにバランス質量77a,77b及びバランス質量78a,78b及びバランス
質量79a,79bを設けることにより、振動腕30及び振動腕40内において質量バラ
ンスがとれると共に、振動腕30と振動腕40との質量バランスがとれ、そのことにより
振動バランスがとれる。
【0125】
なお、前述した実施形態2は、温度補償膜110,111それぞれが電極55,60と
圧電体薄膜71,72との間に設けられる構造であり、図13(a)、図13(b)、図
13(c)で表すバランス質量77a,77b及びバランス質量78a,78b及びバラ
ンス質量79a,79bを付加することで、質量バランスをとることができる。
【0126】
従って、上述した実施形態5によれば、圧電体薄膜素子100〜105に対応したバラ
ンス質量を付加することにより、振動腕30,40のに振動バランスをとり、高精度な振
動特性を得ることができる。
また、バランス質量を圧電体薄膜と同材質で形成すれば、圧電体薄膜と同じ装置でバラ
ンス質量を構成することができるので、高精度のバランス質量を付加することができる。
【0127】
なお、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき
る範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前述した実施形態1では、圧電体薄膜71,72を振動腕30,40のそれぞ
れの表面31,41に形成する構造、及び圧電体薄膜71,72を裏面32,42に形成
する構造を説明したが、振動腕30の表面31に圧電体薄膜71を形成し、振動腕40の
裏面42に圧電体薄膜72を形成してもよく、その逆にしてもよい。
【0128】
また、前述した実施形態5では、付加するバランス質量を圧電体薄膜と同材質を用いて
いるが、バランス質量は、中心線C0,C1,C2に対して質量バランス(つまり振動バラ
ンス)がとれれば、同材質でなくてもよく、圧電体でなくてもよい。
【0129】
従って、前述した実施形態1〜実施形態5によれば、水晶振動片に圧電体薄膜素子を設
けることにより水晶振動子の小型化と低消費電力化を実現し、さらに温度補償膜を設ける
ことにより、周波数温度変化量が小さい高精度の水晶振動子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】本発明の実施形態1に係る圧電振動子の構造を示す斜視図。
【図2】図1のA−A切断面を示す断面図及び各電極の接続説明図。
【図3】本発明の実施形態1に係る水晶振動子を特定の振動モードで励振する発振回路に接続した状態を示す等価回路図。
【図4】本発明の実施形態1に係る水晶振動子の駆動について模式的に示す説明図。
【図5】本発明の実施形態1に係る温度補償膜の温度と一次の周波数変化量との関係を示すグラフ。
【図6】本発明の実施形態1に係る水晶振動子の温度変化に対する周波数変化量を模式的に表すグラフ。
【図7】本発明の実施形態1に係る水晶振動子の温度補償膜の膜厚さhと一次の周波数温度変化量の関係を表すグラフ。
【図8】本発明の実施形態2に係る水晶振動子の断面図及び各電極の接続説明図。
【図9】本発明の実施形態2に係る水晶振動子の駆動について模式的に示す説明図。
【図10】本発明の実施形態2に係る水晶振動子の温度補償膜の膜厚さhと一次の周波数温度変化量の関係を表すグラフ。
【図11】本発明の実施形態3に係る水晶振動子の構成と駆動について模式的に示す断面図。
【図12】本発明の実施形態4に係る水晶振動子の構成と駆動について模式的に示す断面図。
【図13】本発明の実施形態5に係る水晶振動子を示す断面図。
【符号の説明】
【0131】
10…水晶振動子、20…水晶振動片、21…基部、30,40…振動腕、31,41
…水晶振動片の表面、32,42…水晶振動片の裏面、51〜60…電極、71,72…
圧電体薄膜、110,111…温度補償膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、該基部から平行に延在される少なくとも一対の振動腕と、前記一対の振動腕そ
れぞれの対向する主面または側面に設けられる互いに異極となる励振電極と、を有する圧
電振動片と、
前記圧電振動片と直列接続され、前記対向する主面または側面の少なくとも一つの表面
に設けられる圧電体薄膜と、該圧電体薄膜の表面に形成される励振電極と、を含む圧電体
薄膜素子と、
前記圧電体薄膜の表面に形成される励振電極表面に設けられ、前記圧電体薄膜の一次温
度係数とは逆の一次温度係数を有する温度補償膜と、
が備えられていることを特徴とする圧電振動子。
【請求項2】
基部と、該基部から平行に延在される少なくとも一対の振動腕と、前記一対の振動腕そ
れぞれの対向する主面または側面に設けられる互いに異極となる励振電極と、を有する圧
電振動片と、
前記圧電振動片と直列接続され、前記対向する主面または側面の少なくとも一つの表面
に設けられる圧電体薄膜と、該圧電体薄膜の表面に設けられ、前記圧電体薄膜の一次温度
係数とは逆の一次温度係数を有する温度補償膜と、該温度補償膜の表面に設けられる励振
電極とを有する圧電体薄膜素子と、
が備えられていることを特徴とする圧電振動子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の圧電振動子において、
前記圧電振動片が、水晶振動片であることを特徴とする圧電振動子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の圧電振動子において、
前記振動腕にバランス質量が付加されていることを特徴とする圧電振動子。
【請求項5】
圧電基板の表面に圧電体薄膜を形成する工程と、
前記圧電体薄膜の表面に温度補償膜を形成する工程と、
前記温度補償膜の膜厚さを調整して一次温度係数を調整する工程と、
を含むことを特徴とする圧電振動子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−199438(P2008−199438A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34391(P2007−34391)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】