圧電素子駆動回路
【課題】圧電素子によるアクチュエータの、正弦波を用いた長時間の駆動を可能とする。
【解決手段】正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号が、演算増幅回路OP1およびプッシュプル回路PP1からなる緩衝回路を介してトランスT1の一次側に入力される。トランスT1の二次側の出力を駆動信号として圧電素子C4が駆動される。トランスT1の二次側の出力が、直列接続された抵抗R1、R2およびR3で分圧され、分圧信号が差分増幅器を構成する演算増幅回路OP2に入力される。演算増幅回路OP2は、入力された分圧信号の差分を出力する。この差分信号が帰還信号として緩衝回路に入力される。
【解決手段】正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号が、演算増幅回路OP1およびプッシュプル回路PP1からなる緩衝回路を介してトランスT1の一次側に入力される。トランスT1の二次側の出力を駆動信号として圧電素子C4が駆動される。トランスT1の二次側の出力が、直列接続された抵抗R1、R2およびR3で分圧され、分圧信号が差分増幅器を構成する演算増幅回路OP2に入力される。演算増幅回路OP2は、入力された分圧信号の差分を出力する。この差分信号が帰還信号として緩衝回路に入力される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を駆動する圧電素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に対する薬剤の投与を持続的あるいは緩やかに行うためには、一般的に、点滴静脈注射(以下、点滴と略称する)が用いられる。この点滴静脈注射を行うための医療機器を、点滴装置と呼ぶ。点滴装置では、薬液を収容した容器にチューブの一端を接続し、そのチューブの他端に装着された注射針を介して生体内に薬液を注入する。チューブの途中には、薬液の注入速度(単位時間当たりの注入量)を調整するための薬液注入量調整装置が設けられる。従来、薬液注入量調整装置としては、点滴筒およびクランプを有し、看護師などの医療従事者が点滴筒内における薬液の滴下状況を見ながらクランプを操作するものが用いられていた。
【0003】
これに対し、薬液の移送および注入速度の調整を、薬液注入ポンプと呼ばれる装置を用いて行う場合もある。この薬液注入ポンプでは、例えば、回転数を制御する機構を持ったモータにより注射筒を駆動して、所定の注入速度で生体に対して薬液を注入する。このような薬液注入ポンプを用いた場合には、薬液の移送および注入速度の調整を自動的に行うことが可能である。
【0004】
ところで、このような点滴装置を小型軽量化すると共に電池駆動して、携帯可能とする製品の開発が進められている。上述したモータを用いた薬液注入ポンプでは、消費電力が大きく、点滴装置を携帯可能とした際の電池駆動に向いていないと共に、小型化も困難である。そこで、点滴装置に用いる薬液注入ポンプとして、圧電素子によるアクチュエータを用いて薬液の移送を行うマイクロポンプを適用する技術の開発が進められている。
【0005】
この圧電素子をアクチュエータに用いたマイクロポンプは、例えば、薬液が通過する圧力室の片面にアクチュエータが設けられた構造を有する。このようなマイクロポンプでは、圧電素子に対して矩形波や正弦波など所定周期で電圧が変化する信号を印加してアクチュエータを振動させ、この振動よって薬液が通過する圧力室の体積を変化させることで、薬液の移送を行う。薬液の注入速度は、アクチュエータに印加する信号の周波数または振幅を制御することで、調整できる。
【0006】
特許文献1には、正弦波の信号を用いてアクチュエータを駆動する技術が開示されている。また、特許文献2には、矩形波の信号を用いてアクチュエータを駆動する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロポンプに用いるアクチュエータには、ユニモルフやバイモルフと呼ばれる種類の圧電素子が用いられる。これらのアクチュエータは、駆動電圧が例えば100V前後と比較的高く、小型の電子回路を用いての周波数や振幅の制御が困難であるという問題点があった。
【0008】
ここで、圧電素子によるアクチュエータの駆動信号として矩形波を用いれば、チョッパ回路などを利用して比較的容易に高電圧の駆動信号を得ることができる。しかしながら、矩形波の駆動信号は、アクチュエータに不要な振動を発生させ、駆動時の騒音が大きくなってしまうという問題点があった。
【0009】
さらに、圧電素子によるアクチュエータは、板状の圧電素子に対して他の圧電素子や金属板を接着させて形成されるため、この接着構造からくる特性として、駆動信号の電位の正負によって機械的な強度が異なる。そのため、圧電素子によるアクチュエータは、DC成分の無い、振幅が正負対称の正弦波を長時間印加するような駆動方法には適していないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圧電素子によるアクチュエータの、正弦波を用いた長時間の駆動を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、正弦波信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成された正弦波信号が一次側に入力されるトランスと、トランスの二次側の出力を駆動信号として駆動される圧電素子と、駆動信号に対してDCバイアスをかけるバイアス手段と、駆動信号から帰還信号を生成し、帰還信号をトランスの一次側に対して帰還させる帰還手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電素子によるアクチュエータの、正弦波を用いた長時間の駆動が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の各実施形態に適用可能な薬液注入システムの構成を概略的に示す略線図である。
【図2】図2は、マイクロポンプの一例の構造を示す略線図である。
【図3】図3は、マイクロポンプの動作について概略的に説明するための略線図である。
【図4】図4は、薬液注入量調整装置における薬液の流量制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す回路図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施形態に適用可能なマイクロポンプの一例の構成を示す略線図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施形態による圧電素子駆動回路の動作を説明するための略線図である。
【図8】図8は、信号生成回路から出力される信号の波形と、圧電素子に印加される電圧の波形とのシミュレーション結果を示す略線図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<各実施形態に共通の構成>
以下に添付図面を参照して、本発明に係る圧電素子駆動回路の実施形態を詳細に説明する。先ず、本発明の各実施形態に共通の構成について説明する。図1は、本発明の各実施形態に適用可能な薬液注入システム200の構成を概略的に示す。薬液注入システム200は、生体22に注入される薬液LMが収容された容器10と、容器10に一端が接続され、他端に生体22の血管内に一端が刺し入れられる注射針20が取り付け具18を介して設けられ、容器10から生体22内に至る薬液注入管路と、該薬液注入管路の途中に接続された薬液注入量調整装置100とを備えている。
【0015】
容器10は、薬液LMを生体22の一部、例えば血管内に注入する際に、薬液注入量調整装置100の一端すなわちマイクロポンプ12の一端(供給端)にチューブ151を介して接続される。チューブ151としては、弾力性が高く自己拡張性のある可撓性チューブが使用されている。
【0016】
薬液注入量調整装置100の他端すなわち流量センサ14の排出端には、チューブ152の一端が、接続される。チューブ152の他端(先端)には、先端に注射針20が固定された取り付け具18が接続される。薬液LMを血管内に注入する際には、看護師などが、注射針20を生体22の内部に体表面を介して刺し入れ、その先端を血管内に留置させる。その際、看護師などは、注射針20の先端が血管内から抜けないよう、注射針20の根元あるいは取り付け具18を、例えば粘着テープ等を用いて、生体22の体表面に固定する。図1では、この固定後の状態が示されている。
【0017】
チューブ152としては、チューブ151と同様に、可撓性チューブが使用されている。チューブ152が撓むことにより、その先端部が動いても、薬液LMが流れる流路が確保される。
【0018】
薬液注入システム200において、容器10から生体22の血管まで、順に、チューブ151、薬液注入量調整装置100、チューブ152および注射針20により、薬液LMが流れる流路が構成されている。この流路の途中には、薬液注入量調整装置100の構成各部を含め、流路を閉ざす部材は存在しない。したがって、この流路は、容器10から生体22の血管まで通じる1つの開放路を構成している。
【0019】
なお、容器10から注射針20まで通じる流路の途中に、薬液LMの逆流を防止する弁を設けてもよい。ただし、この弁は、薬液LMが順方向(容器10から注射針20に向かう方向)に流れる際には、流体に抵抗力を及ぼさない、あるいは抵抗力を及ぼすが無視できる程度のものを用いるものとする。
【0020】
薬液注入量調整装置100の構成、機能などについて詳細に説明する。薬液注入量調整装置100は、マイクロポンプ12、流量センサ14および制御ユニット16を有する。マイクロポンプ12は、その一端すなわち供給端が上述したチューブ151を介して容器10に接続される。流量センサ14は、マイクロポンプ12の他端すなわち排出端にチューブ150を介して一端すなわち供給端が接続される。制御ユニット16は、マイクロポンプ12および流量センサ14に電気的に接続され、流量センサ14の出力に応じてマイクロポンプ12を制御する。
【0021】
ここで、チューブ150としては、マイクロポンプ12と流量センサ14とを接続し、両者間に薬液LMを流すことができるのであれば、材質、形態を問わず、いかなる管状部材を使用してもよい。
【0022】
本発明の各実施形態では、マイクロポンプ12として、マイクロマシン技術(MEMS技術)で製造された、圧電素子を駆動源とするダイヤフラムポンプを採用する。ダイヤフラムポンプは、容積ポンプの一種であって、ダイヤフラムの容積の変化を利用して薬液LMを移送する。
【0023】
図2は、マイクロポンプ12の一例の構造を示す。図2(A)には、マイクロポンプ12の縦断面図が示され、図2(B)には、図2(A)中のB−B線に沿った断面図が示されている。なお、図2(A)は、図2(B)中のA−A線断面に相当する。
【0024】
図2(A)に示されるように、マイクロポンプ12は、その一部がダイヤフラムの役割を担う板状の第1基板121と、第1基板121の一方の面(−Z側の面)に接合された第2基板122と、第1基板121の他方の面(+Z側の面)の中央部に固定された圧電素子124とを有する。一例として、第1基板121は硼珪酸ガラス、第2基板122はシリコンを用いて構成する。なお、第1基板121の圧電素子124と接する部分を含む部分が、ダイヤフラムの役割を担っている。この部分を、便宜上、ダイヤフラム部DPと呼ぶ。
【0025】
図2(A)および図2(B)に示されるように、第2基板122には、第1基板121に対向する一面から一定の深さの凹部が形成されている。この凹部は、X軸方向の中央部に位置する平面視矩形の圧力室126と、該圧力室126の−X側の端部に連通する凹溝128aと、圧力室126の+X側の端部に連通する凹溝128bとの3つの部分からなる。なお、圧力室126は、実際には、第1基板121が、第2基板122に形成された凹部を覆うように、第2基板122と接合されることで形成される。図2(A)および図2(B)の例では、便宜上、第2基板122に圧力室126が形成されているものとしている。
【0026】
凹溝128aの内部の−X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128aの内部空間とを連通する貫通孔129aが形成されている。また、凹溝128bの内部の+X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128bの内部空間とを連通する貫通孔129bが形成されている。
【0027】
貫通孔129aは、圧力室126を含むマイクロポンプ12の内部空間への薬液LMの入口の役目を果たし、貫通孔129bは、内部空間からの薬液LMの出口の役目を果たす。以下では、貫通孔129aおよび129bを、それぞれ入口129aおよび出口129bと記述する。入口129aおよび出口129bは、それぞれ、マイクロポンプ12の供給口、排出口をそれぞれ構成する管状部材(図示しない)に接続されている。
【0028】
図2(B)に例示されるように、凹溝128aおよび128bは、共に、−X端から+X端に向かって、すなわち入口側から出口側に向かって、徐々にその断面積が広くなっており、ディフューザの役目を兼ねる。以下では、凹溝128aおよび128bを、それぞれディフューザ128aおよび128bと記述する。なお、ディフューザは、流体の持つ運動のエネルギを圧力のエネルギに変換するためのものである。
【0029】
上述のように、本発明の各実施形態に適用可能なマイクロポンプ12は、第2基板122に設けられた入口129aから出口129bまで、順に、ディフューザ128a、圧力室126、ディフューザ128bを介して、1つの流路が形成される。この流路は、その途中に流路を閉ざす部材は設けられていないので、入口129aから出口129bまで通じる1つの開放路を構成する。すなわち、マイクロポンプ12は、バルブレスマイクロポンプである。
【0030】
図3を用いて、マイクロポンプ12の動作について概略的に説明する。圧電素子124に電圧が印加されていない状態では、図3(A)に示されるように、圧電素子124と接合された第1基板121のダイヤフラム部DPは、撓みのない平面状を保っている。この状態の圧力室126は、非収縮状態にある。一方、圧電素子124に電圧が印加されると、図3(B)に示されるように、第1基板121のダイヤフラム部DPは、矢印で示されるように、−Z方向に撓む。これにより、圧力室126は収縮し、収縮状態となる。
【0031】
したがって、圧電素子124に電圧パルスを印加して駆動させてダイヤフラム部DPを振動させることにより、圧力室126に対し、収縮状態と非収縮状態とを繰り返させることができる。このとき、圧力室126の収縮率(ダイヤフラム部DPの撓み量)は、電圧パルスの電圧値に応じて定まり、圧力室126の収縮/膨張の繰り返し数は、電圧パルスの周波数によって定まる。
【0032】
図3(A)に示されるように、圧力室126が収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aと出口129bの両方から流体(薬液LM)が圧力室126に流れ込む。ここで、入口129aと出口129bから流れ込む流体を、それぞれ、矢印f1およびf2を用いて表している。矢印f1およびf2の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流体の量の程度を表す。
【0033】
ここで、流体f1およびf2は、それぞれディフューザ128aおよび128bを通過する。ディフューザ128aおよび128bは、上述したように、何れも、+X方向に向けて断面積が徐々に広くなっている。そのため、ディフューザ128aおよび128bは、+X方向に流れる流体に対し小さい抵抗を、−X方向に流れる流体に対し大きな抵抗を、それぞれ及ぼす。したがって、図3(A)の状態では、流体f1はディフューザ128aにより小さい抵抗を受け、流体f2はディフューザ128bにより大きな抵抗を受けるため、流体f1の流量は、流体f2の流量より大きくなる。
【0034】
一方、図3(B)に示されるように、圧力室126が非収縮状態から収縮状態に遷移すると、圧力室126から入口129aと出口129bの両方へ流体が流れ出る。ここで、入口129aと出口129bへ流れ出る流体を、それぞれ、矢印f3およびf4を用いて表している。矢印f3およびf4の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流量を表す。流体f3はディフューザ128aより大きな抵抗を受け、流体f4はディフューザ128bより小さな抵抗を受けるため、流体f4の流量は、流体f3の流量より大きくなる。
【0035】
圧力室126が1回、収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aから圧力室126に対し、正味|f1−f3|の量の流体が流れ込むと共に、圧力室126から出口129bに対し、正味|f4−f2|の量の流体が流れ出る。したがって、入口129aから出口129bに対し、正味f=|f1−f3|=|f4−f2|の量の流体が流れる。
【0036】
ここで、流体は非圧縮性であることを想定している。なお、圧力室126の容積を容積W、非収縮状態の容積に対する収縮状態の容積の比である収縮率を収縮率βとすると、関係f=W(1−β)が成り立つ。
【0037】
圧力室126が収縮状態および非収縮状態を繰り返すことにより、入口129aから出口129bに対する定常的な流体の流れが発生する。圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数をωとすると、単位時間当たりの体積流量F=ωf=ωW(1−β)の流体が、入口129aから出口129bに流れる。
【0038】
体積流量Fは、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vとパルスの周波数の少なくとも一方を調整することにより、制御することができる。圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを大きくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが大きくなる。同様に、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを小さくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが小さくなる。したがって、圧電素子に印加する電圧パルスの電圧値を変えることによって、圧力室126の収縮率βを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
【0039】
また、パルスの周波数を大きくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが大きくなる。同様に、パルスの周波数を小さくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが小さくなる。したがって、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数を変えることによって、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
【0040】
なお、原理上、電圧パルスの周波数は、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωに等しいので、電圧パルスの周波数を文字ωを用いて表記する。
【0041】
流量センサ14としては、一例として熱質量式センサが用いられている。熱質量式センサでは、その内部に設けられた管路に流体(薬液LM)を流し、管壁を介して流体からセンサへ、あるいはセンサから流体へ伝導する熱量を計測することによって、管路内を流れる流体の流量を計測する。この熱質量式センサを流量センサ14として採用した場合、流体内にプローブを挿入することがないので、流体の流れに障害を与えることなく、その流量を計測することができる。
【0042】
制御ユニット16は、例えばマイクロプロセッサをその中枢部として構成されており、薬液注入量調整装置100全体を統括的に制御する。
【0043】
制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14とは、電気的に接続されている。流量センサ14から制御ユニット16に、薬液LMの流量の計測情報が供給される。制御ユニット16は、その流量の計測情報に基づいて、薬液LMの流量が定められた目標量に一致するように、マイクロポンプ12(正確には、圧電素子124)に印加する電圧パルスの電圧値V及び周波数ωの少なくとも一方を調整する。マイクロポンプ12の制御の詳細については、後述する。
【0044】
なお、制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14の少なくとも一方とを、無線の通信路を介して接続してもよい。
【0045】
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力の監視も行っている。マイクロポンプの動力は、流体(薬液LM)を順方向に流すためにその流体に加える圧力(正確には、圧力のエネルギ)であるが、動力として、実際にマイクロポンプ12が流体(薬液LM)に加えている具体的な圧力を考える必要はなく、その圧力に関係する量を考えれば良い。動力Pは、マイクロポンプ12の構成より、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの関数P(V,ω)となる。
【0046】
例えば、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの積を動力Pと定義することができる。より具体的には、動力Pは、P(V,ω)≡Vωと定義することができる。これに限らず、印加される電圧パルスの電圧値が常に一定値V0であり、周波数ωのみが可変である場合、単にP(V0,ω)≡ωと定義してもよい。また、周波数が常に一定周波数ω0であり、電圧値Vのみが可変である場合、単にP(V,ω0)≡Vと定義してもよい。
【0047】
ここで、制御ユニット16は、記憶装置(図示しない)を備えており、所定の時間(Δtとする)毎に、動力Pの監視結果を記憶装置に記憶する。記憶された監視結果は、記憶されてから一定時間後に消去される。従って、記憶装置内には、常に現在から一定時間内の監視結果(一定数の最新の監視結果)が保存される。
【0048】
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力Pの監視情報に基づいて、後述する方法により薬液LMの投薬状況を診断する。そして、制御ユニット16は、投薬状況の異常を検知した際には、薬液LMの注入を停止したり、警報を発する、といった緊急処置を実行する。そして、正常に、定められた量(目標注入量)の薬液LMの注入が完了した際に、薬液LMの注入を停止する、といった終了処置を実行する。
【0049】
その他、制御ユニット16には、操作者が薬液の(目標)注入量と(目標)注入時間などを入力するための図示されない操作パネル、薬液LMの注入状況を表示する図示されない表示パネル、注入状況の異常を伝える図示されない警報装置などのインターフェースが備えられている。
【0050】
次に、図4のフローチャートを用いて、薬液注入量調整装置100における薬液LMの流量制御の一例について説明する。図4のフローチャートの各処理は、制御ユニット16内のマイクロプロセッサの制御により実行される。
【0051】
薬液LMの注入開始に先立って、操作者が、操作パネル上から、生体22に注入する薬液LMの総量(目標注入量)W0とその量の薬液LMの注入を完了する目標注入時間T0を入力する。その後、操作者が操作パネルを操作して、注入開始の指示を入力すると、図4のフローチャートの処理が開始される。
【0052】
ステップS202で、先ず、制御ユニット16は、入力された目標注入量W0と目標注入時間T0とを記憶装置に記憶すると共に、目標注入量W0と目標注入時間T0とに基づいて、単位時間当たりの薬液LMの目標流量(目標量)F0を決定する。そして、次のステップS204で、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を開始する。
【0053】
次のステップS206〜ステップS212で、制御ユニット16は、流量センサ14から供給される薬液LMの流量Fと、先に決定された目標量F0との比較結果に基づき、流量Fが目標量F0に一致するように、マイクロポンプ12の動力P(V,ω)を調整する。すなわち、制御ユニット16は、ステップS206で流量Fと目標量F0とを比較し、流量Fと目標量F0とが異なっているか否かを判定する。若し、異なっていない、すなわち流量Fと目標量F0とが等しいと判定されたら、処理はステップS214に移行される。
【0054】
一方、ステップS206で、流量Fと目標量F0とが異なっていると判定されたら、処理はステップS208に移行され、流量Fが目標量F0を超えているか否かが判定される。若し、超えていると判定されたら、処理がステップS210に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を弱める。一方、流量Fが目標量F0以下であると判定されたら、処理はステップS212に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を強める。ステップS210またはステップS212の処理が行われると、処理はステップS214に移行される。
【0055】
ここで、制御ユニット16は、流体の流量Fの調整のため、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数ωを一定に保ちつつ電圧値Vを調整しても良いし、電圧値Vを一定に保ちつつ周波数ωを調整しても良いし、あるいは電圧値Vと周波数ωとの両方を調整してもよい。
【0056】
ステップS214で、制御ユニット16は、薬液LMの注入量F0・t(tは経過時間)と目標注入量W0とを比較し、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったか否かを判定する。若し、注入量F0・tが目標注入量W0未満、すなわち、注入量F0・tが目標注入量W0に満たない場合、処理がステップS206に戻され、ステップS206〜212の処理を再び行う。
【0057】
一方、ステップS214で、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったと判定されたら、処理はステップS216に移行される。この場合には、薬液LMの注入が正常に終了したと判断することができる。ステップS216では、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を停止する。それと共に、警報を発するなどの終了処置を実行する。そして、図4のフローチャートによる一連の処理が終了される。
【0058】
<第1の実施形態>
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。本第1の実施形態では、マイクロポンプ12の圧力室126を収縮状態および非収縮状態にさせる圧電素子を、正弦波による駆動信号で駆動する。このとき、信号生成手段で生成された正弦波信号の電圧を、圧電素子を駆動可能な電圧まで昇圧させるために、トランスを用いる。本第1の実施形態では、昇圧された正弦波信号が取り出されるトランスの二次側から、正弦波信号が入力されるトランスの一次側に向けて、直流結合を用いて帰還をかけることで、圧電素子の駆動を安定化し、圧電素子の長時間の駆動を可能とする。
【0059】
図5は、本第1の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す。信号生成器IC1は、基本矩形波を生成し、コンデンサC1による交流結合を介して正弦波変換器IC2に供給する。また、信号生成器IC1は、当該基本矩形波に同期した、矩形波によるクロックCLKを生成し、正弦波変換器IC2に供給する。
【0060】
正弦波変換器IC2は、例えばスイッチトキャパシタ(SWC)回路からなり、制御ユニット16の制御に従い、信号生成器IC1から供給された基本矩形波とクロックCLKとから正弦波信号を生成する。正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号は、抵抗Rsaを介して演算増幅器OP1の反転入力端に入力される。演算増幅回路OP1の非反転入力端は接地され、反転増幅回路が構成される。なお、図5および後述する図9において、演算増幅器OP1およびOP2に付随する電源回路、オフセット調整回路、位相補償回路などは、省略されている。
【0061】
演算増幅回路OP1の出力は、プッシュプル回路PP1に供給される。プッシュプル回路PP1は、供給された信号をトランスT1を駆動するのに十分な電流に電流増幅して、トランスT1の一次側の端子1に入力する。すなわち、演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1とで、緩衝回路が構成される。
【0062】
トランスT1の端子2は、接地される。トランスT1の二次側には、二次側の巻き線の例えば両端に端子3および端子5がそれぞれ設けられると共に、当該端子3および端子5の中点から引き出されるセンタータップ4が設けられる。センタータップ4は、図示されない高抵抗を介して接地されると共に、ダイオードD1のアノードに接続される。ダイオードD1のカソードがダイオードD2のカソードに接続されると共に、コンデンサC3の一方の電極に接続される。コンデンサC3の他方の電極がダイオードD3のアノードに接続されると共に、圧電素子C4の一方の電極と、コンデンサC5の一方の電極との共通接続点に接続される。なお、圧電素子は、等価回路的にはキャパシタと見做せるため、回路図において圧電素子をキャパシタとして表現している。コンデンサC5の他方の電極は、トランスT1の端子3に接続される。一方、圧電素子C4の他方の電極は、ダイオードD3のカソード、ダイオードD2のアノードおよびトランスT1の端子5にそれぞれ接続される。
【0063】
図5において、ダイオードD2およびD3は、それぞれ整流に用いられる。また、ダイオードD1は、コンデンサC3に蓄積された電荷のトランスT1側へのリークを防止する役目を担う。これらダイオードD1、D2およびD3、ならびに、コンデンサC3により、圧電素子C4に印加される駆動信号に対してDCバイアスをかけるDCバイアス回路が構成される。
【0064】
すなわち、コンデンサC3は、トランスT1の端子3および端子5から出力される正弦波における両極値電圧Vppの1/2の電圧を保持し続ける。このコンデンサC3に保持される電圧が、圧電素子C4とコンデンサC5との共通接続点の電圧に対して、正電位側のDCバイアスとなって作用する。したがって、トランスT1の二次側全体の電位が、センタータップ4の電位に対して正電位側にシフトされることになり、圧電素子C4は、コンデンサC5との共通接続点を基準として、正弦波による駆動信号が、正電位側に当該正弦波の振幅の1/2だけDCバイアスを掛けられた電圧の信号として印加されることになる。
【0065】
トランスT1は、例えば、一次側の±3V程度の入力に対して、二次側で±80V乃至±200V程度の出力が得られる巻数比のものが用いられる。また、圧電素子C4は、4nF(ナノファラド)程度の静電容量を有する。コンデンサC1は、圧電素子C4の静電容量よりは大きな、例えば5nF乃至10nFの静電容量とする。
【0066】
また、コンデンサC5は、静電容量が圧電素子C4よりも十分大きなものが選択される。例えば、コンデンサC5は、圧電素子C4の静電容量の100倍程度の静電容量を持つものが用いられる。トランスT1の二次側における正弦波信号の電圧は、全て圧電素子C4に対して印加されるのが望ましい。コンデンサC5の静電容量を、圧電素子C4の静電容量よりも十分大きくすることで、トランスT1の二次側に発生する正弦波信号の電圧成分(すなわち、トランスT1の端子3および端子5間で発生する電圧)を、略全て圧電素子C4に印加させることが可能となる。
【0067】
なお、コンデンサC5の静電容量を調整することで、圧電素子C4に印加される正弦波信号の電圧を調整することが可能である。コンデンサC5の静電容量を調整した場合であっても、圧電素子C4に印加される正弦波信号の下限値が略0Vに収束するように、圧電素子C4に対するDCバイアスが作用する。
【0068】
図5において、さらに、トランスT1の二次側から一次側に向けて、帰還回路が設けられる。すなわち、直列接続された抵抗R1、R2およびR3により端子3および端子5間の電圧が分圧される。演算増幅回路OP2は、抵抗R2の両端の電圧の差分を抽出して、帰還信号として演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1とからなる緩衝回路の入力に供給する。このように、本第1の実施形態では、トランスT1の二次側の電圧から、抵抗R1、R2およびR3による直流結合を用いて帰還信号を取り出し、トランスT1の一次側に帰還させる。
【0069】
具体的には、端子5および端子3の間に、端子5側から、抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3の順に3個の抵抗が直列接続される。ここで、抵抗R1の抵抗値と抵抗R3の抵抗値は、略等しいものとする。抵抗R2の抵抗R1側の端が抵抗Rsbを介して演算増幅回路OP2の反転入力端に接続される。抵抗R2の抵抗R3側の端が抵抗Rtを介して演算増幅回路OP2の非反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の出力は、抵抗Rfaを介して演算増幅回路OP1の反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の非反転入力端が抵抗Rgを介して接地されると共に、演算増幅回路OP2の反転入力端が抵抗Rfbを介して演算増幅回路OP2の出力に接続され、演算増幅回路OP2による差動増幅器が構成される。
【0070】
抵抗R2の抵抗値は、例えば下記の式(1)に従い設定する。抵抗R1、R2およびR3それぞれの抵抗値をR1、R2、R3とし、トランスT1における端子1および端子2間の巻数をT1-2、端子3および端子5間の巻数をT3-5とし、T3-5/T1-2>1であるものとする。
T1-2/T3-5≒R2/(R1+R2+R3) …(1)
【0071】
このように抵抗R2の抵抗値を設定することで、抵抗R2の両端から取り出される分圧信号の電圧を、トランスT1の一次側の電圧と略等しくすることができる。ここで、分圧抵抗を抵抗R1、R2およびR3の3個を用い、その中央の抵抗R2から帰還信号を取り出すのは、圧電素子C4の一方の電極による遮蔽のために、トランスT1のセンタータップ4を図示されない高抵抗を介して接地することに対応している。すなわち、二次側の電圧を、抵抗R2により電位差を小さくして取り出して、演算増幅回路OP2による差動増幅器を動作させる。
【0072】
なお、例えば端子3を高抵抗を介して接地させるなどして、遮蔽のための接地位置をセンタータップ4以外とすることも考えられる。この場合であっても、接地位置に近い分圧抵抗の両端から分圧信号を取り出すことが可能である。図5の例のように、トランスT1のセンタータップ4を接地している場合は、接地位置に対応する位置の分圧抵抗から分圧信号を取り出すようにすると、正弦波を取り出し易い。そのため、本第1の実施形態では、3個の抵抗R1、R2およびR3を用い、中央の抵抗R2の両端から分圧信号を取り出すようにしている。
【0073】
図6は、本第1の実施形態に適用可能なマイクロポンプ12の一例の構成を示す。図6の各図において、上述の図2と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図6(A)は、マイクロポンプ12の外観図、図6(B)は、上述した図2(B)に対応する断面図である。また、図6(C)は、圧力室126の両面に設けられる圧電素子124a1および124a2の電気的な接続を示す。この例では、図5における圧電素子C4を2個、並列接続して用いる。すなわち、図6(A)、図6(B)および図6(C)において、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2が、並列接続された2個の圧電素子C4にそれぞれ対応する。
【0074】
図6(A)に例示されるように、これら第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2は、同相の正弦波電圧を印加したときに互いに逆方向に振動するように、圧力室126の両面に配置される。例えば、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2は、上述した、接着構造から規定される第1の面あるいは第2の面を互いに対向させて、第1基板121および第2基板122にそれぞれ固定される。
【0075】
図6(B)に例示されるように、第1の圧電素子124a1の第1の面の電極が端子300に接続され、第2の面の電極が端子301に接続される。また、第2の圧電素子124a2の第2の面の電極が端子302に接続され、第1の面の電極が端子303に接続される。さらに、端子300と端子303とが接続され、端子301と端子302とが接続される。端子300と端子303との接続点が、図5における圧電素子C4の一方の電極に対応し、端子301と端子302との接続点が、他方の電極に対応する。
【0076】
このようにして、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2の圧力室126への配置および図5の回路への接続を行うことで、1の正弦波電圧により、例えば第1の圧電素子124a1が圧力室126の内側に向けて撓むタイミングで、第2の圧電素子124a2も、圧力室126の内側に向けて撓むことになる。したがって、圧力室126の片面のみに圧電素子を設けた場合に比べ、収縮状態における圧力室126の収縮率を高くすることができる。
【0077】
図7を用いて、図5の回路における動作について、概略的に説明する。図7は、図5のトランスT1の一次側に対して、周波数が1200Hz、振幅が±2.1Vの正弦波信号を入力した場合のシミュレーション結果を示す。トランスT1の巻数比を1:25とし、演算増幅回路OP1の利得を2とした場合、2次側の出力は、2.1Vpp×2×25=105Vppとなる。
【0078】
図7(A)は、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号を示し、図7(B)は、圧電素子C2に印加される電圧を示す。図7(B)に示されるように、圧電素子C4に印加される電圧は、若干、負電位側にも印加される。DCバイアス電圧が安定して以降は、圧電素子C4に印加される電圧は、上述の105Vppに近い値で安定する。
【0079】
図8は、信号生成器IC1から出力される信号の波形と、圧電素子C4に印加される電圧の波形とのシミュレーション結果を示す。波形330および331は、それぞれ、信号生成回路IC1から出力される基本矩形波およびクロックCLKの例である。これら基本矩形波およびクロックCLKは、信号生成回路IC1において、ハード的またはプロセッサなどの制御に従いソフトウェア的に生成される。
【0080】
波形332は、定常状態において圧電素子C4に印加される正弦波電圧を示す。信号生成回路IC1から出力されたこれら基本矩形波およびクロックCLKに基づき、正弦波変換回路IC2で正弦波が生成され、この正弦波がトランスT1で昇圧されて、波形332に例示されるような正弦波電圧とされる。図8によれば、この正弦波電圧は、ピーク間電圧Vppが略105Vであるのに対し、最低電圧が略0Vとなっているのが分かる。
【0081】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図9は、本第2の実施形態による圧電素子駆動回路の一例を示す。なお、図9において、上述した図5と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0082】
図9から分かるように、本第2の実施形態では、トランスT1の二次側から一次側への帰還を、他のトランスT2を介した交流結合により行っている。すなわち、トランスT1の二次側の端子3および端子5が、それぞれトランスT2の一次側の端子6および端子7に接続される。トランスT2の二次側の端子8および端子9は、それぞれ演算増幅回路OP2の反転入力端および非反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の非反転入力端は、接地され、演算増幅回路OP2は、反転増幅回路を構成する。
【0083】
本第2の実施形態では、高電圧となる圧電素子駆動側の回路を、正弦波生成側の回路に対してトランスT1およびトランスT2とで直流的に分離することで、正弦波生成側の回路における接地を圧電素子駆動側と分離できる。そのため、正弦波生成側における信号生成器IC1や正弦波変換器IC2、演算増幅回路OP1といった、比較的高電圧に弱い回路を保護することができる。
【0084】
なお、図9の構成では、トランスT1の二次側から一次側への帰還回路を、トランスT2を用いた交流結合により構成しているため、トランスT1の一次側と二次側とが直流的に分離される。そのため、演算増幅回路OP2が反転増幅回路として用いられている。
【0085】
トランスT2は、次式(2)に示されるように、一次側の端子6および端子7間と、二次側の端子8および端子9間との巻線比が、トランスT1の二次側の端子3および端子5と、一次側の端子1および端子2との巻線比と略等しくなるように選択するのが望ましい。すなわち、トランスT2の二次側の巻数に対する一次側の巻数の割合と、トランスT1の一次側の巻数に対する二次側の巻数の割合とを略等しくする。式(2)において、トランスT1における端子1および端子2間の巻数をT1-2、端子3および端子5間の巻数をT3-5とし、トランスT2における端子6および端子7間の巻数をT6-7、端子8および端子9間の巻数をT8-9とする。また、T3-5/T1-2>1、T6-7/T8-9>1とする。
T3-5/T1-2≒T6-7/T8-9 …(2)
【0086】
トランスT1とトランスT2との関係を、式(2)のようにすることで、演算増幅回路OP2に対する入力信号の電圧を、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号の電圧と略等しくでき、帰還による制御を効率よく行うことができる。
【0087】
なお、トランスT2の巻数比は、上述の式(2)の関係には限られない。この場合、演算増幅回路OP1への帰還量、抵抗Rsaによる演算増幅回路OP1の増幅率、抵抗Rfaおよび抵抗Rfbによる演算増幅回路OP2の増幅率、あるいは、プッシュプル回路PP1を含めた帰還系全体での帰還量を考慮して、トランスT2の巻数比を決定する。
【0088】
以上説明したように、本発明の第1および第2の実施形態では、圧電素子C4の駆動側回路であるトランスT1の二次側から、圧電素子C4を駆動するための正弦波信号を生成する信号生成回路側であるトランスT1の一次側に対して、帰還をかけている。このように、帰還信号を圧電素子C4の駆動側回路であるトランスT1の二次側から直接的に取得しているため、圧電素子C4の駆動系を全体的に安定させることができ、圧電素子C4を長時間に亘って安定的に駆動させることが可能となる。
【0089】
また、一般的に、トランスにはヒステリシス損失があるので、トランスT1の一次側の入力波形に対する二次側の出力波形の再現性が良くない場合がある。本発明の第1および第2の実施形態では、トランスT1の二次側から一次側に対して帰還をかけているので、二次側における出力信号の再現性を向上させることができる。またこれにより、トランスT1のダイナミックレンジを効率的に利用することができる。
【0090】
なお、上述では、圧電素子駆動回路が1個若しくは複数個が並列接続された圧電素子C4を駆動するように説明したが、これはこの例に限定されない。例えば、図5または図9の構成において、コンデンサC5の代わりに他の圧電素子(圧電素子C4’とする)を挿入する。これにより、圧電素子C4と圧電素子C4’とを互いに逆相で駆動することが可能となる。この場合、圧電素子C4’として、圧電素子C4と静電容量が略等しいものを用いることで、圧電素子C4と圧電素子C4’とに対して略等しい駆動電圧を印加させることができる。この駆動方法は、ポンプの構造上、2つの圧電素子の電極が共通電極にならざるを得ないような場合で、且つ、その共通電極を挟んで、2つの圧電素子に印加される電圧が、バイアスが同方向で、正弦波としては逆位相の駆動を行う場合に、有効である。
【0091】
また、上述では、正弦波信号の生成を、基本矩形波に基づきスイッチトキャパシタ回路により行うように説明したが、これはこの例に限定されない。例えば、プロセッサなどで正弦波信号を構成するための正弦波データを生成し、この生成はデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することで、正弦波信号を生成してもよい。
【0092】
さらに、上述では、生成された正弦波信号を、トランスT1の駆動を可能にするように電流増幅する緩衝回路として、演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1を用いていたが、これはこの例に限定されない。例えば、増幅率が同一の複数の緩衝回路を並列接続してもよい。また、正弦波変換器IC2の出力を接地電位から浮かせ、それぞれの信号線を2の緩衝回路にそれぞれ接続して、これら2の緩衝回路で互いに逆位相、同じ増幅率で増幅してもよい。この場合、実質的に倍の電圧の正弦波信号を得ることができる。さらにまた、エミッタフォロアの接地側の負荷としてトランスT1の一次側を接続して緩衝回路としてもよいし、電圧増幅を行うために、エミッタ接地回路などを緩衝回路として用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1,2,3,5,6,7,8,9 端子
4 センタータップ
IC1 信号生成器
IC2 正弦波変換器
T1,T2 トランス
D1,D2,D3 ダイオード
C1,C3,C5 コンデンサ
C4 圧電素子
OP1,OP2 演算増幅回路
R1,R2,R3,Rfa,Rfb,Rg,Rsa,Rsb,Rt 抵抗
PP1 プッシュプル回路
12 マイクロポンプ
16 制御ユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【特許文献1】特開平8−109945号公報
【特許文献2】特開2002−218772号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を駆動する圧電素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
生体に対する薬剤の投与を持続的あるいは緩やかに行うためには、一般的に、点滴静脈注射(以下、点滴と略称する)が用いられる。この点滴静脈注射を行うための医療機器を、点滴装置と呼ぶ。点滴装置では、薬液を収容した容器にチューブの一端を接続し、そのチューブの他端に装着された注射針を介して生体内に薬液を注入する。チューブの途中には、薬液の注入速度(単位時間当たりの注入量)を調整するための薬液注入量調整装置が設けられる。従来、薬液注入量調整装置としては、点滴筒およびクランプを有し、看護師などの医療従事者が点滴筒内における薬液の滴下状況を見ながらクランプを操作するものが用いられていた。
【0003】
これに対し、薬液の移送および注入速度の調整を、薬液注入ポンプと呼ばれる装置を用いて行う場合もある。この薬液注入ポンプでは、例えば、回転数を制御する機構を持ったモータにより注射筒を駆動して、所定の注入速度で生体に対して薬液を注入する。このような薬液注入ポンプを用いた場合には、薬液の移送および注入速度の調整を自動的に行うことが可能である。
【0004】
ところで、このような点滴装置を小型軽量化すると共に電池駆動して、携帯可能とする製品の開発が進められている。上述したモータを用いた薬液注入ポンプでは、消費電力が大きく、点滴装置を携帯可能とした際の電池駆動に向いていないと共に、小型化も困難である。そこで、点滴装置に用いる薬液注入ポンプとして、圧電素子によるアクチュエータを用いて薬液の移送を行うマイクロポンプを適用する技術の開発が進められている。
【0005】
この圧電素子をアクチュエータに用いたマイクロポンプは、例えば、薬液が通過する圧力室の片面にアクチュエータが設けられた構造を有する。このようなマイクロポンプでは、圧電素子に対して矩形波や正弦波など所定周期で電圧が変化する信号を印加してアクチュエータを振動させ、この振動よって薬液が通過する圧力室の体積を変化させることで、薬液の移送を行う。薬液の注入速度は、アクチュエータに印加する信号の周波数または振幅を制御することで、調整できる。
【0006】
特許文献1には、正弦波の信号を用いてアクチュエータを駆動する技術が開示されている。また、特許文献2には、矩形波の信号を用いてアクチュエータを駆動する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロポンプに用いるアクチュエータには、ユニモルフやバイモルフと呼ばれる種類の圧電素子が用いられる。これらのアクチュエータは、駆動電圧が例えば100V前後と比較的高く、小型の電子回路を用いての周波数や振幅の制御が困難であるという問題点があった。
【0008】
ここで、圧電素子によるアクチュエータの駆動信号として矩形波を用いれば、チョッパ回路などを利用して比較的容易に高電圧の駆動信号を得ることができる。しかしながら、矩形波の駆動信号は、アクチュエータに不要な振動を発生させ、駆動時の騒音が大きくなってしまうという問題点があった。
【0009】
さらに、圧電素子によるアクチュエータは、板状の圧電素子に対して他の圧電素子や金属板を接着させて形成されるため、この接着構造からくる特性として、駆動信号の電位の正負によって機械的な強度が異なる。そのため、圧電素子によるアクチュエータは、DC成分の無い、振幅が正負対称の正弦波を長時間印加するような駆動方法には適していないという問題点があった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、圧電素子によるアクチュエータの、正弦波を用いた長時間の駆動を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、正弦波信号を生成する信号生成手段と、信号生成手段で生成された正弦波信号が一次側に入力されるトランスと、トランスの二次側の出力を駆動信号として駆動される圧電素子と、駆動信号に対してDCバイアスをかけるバイアス手段と、駆動信号から帰還信号を生成し、帰還信号をトランスの一次側に対して帰還させる帰還手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圧電素子によるアクチュエータの、正弦波を用いた長時間の駆動が可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の各実施形態に適用可能な薬液注入システムの構成を概略的に示す略線図である。
【図2】図2は、マイクロポンプの一例の構造を示す略線図である。
【図3】図3は、マイクロポンプの動作について概略的に説明するための略線図である。
【図4】図4は、薬液注入量調整装置における薬液の流量制御の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す回路図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施形態に適用可能なマイクロポンプの一例の構成を示す略線図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施形態による圧電素子駆動回路の動作を説明するための略線図である。
【図8】図8は、信号生成回路から出力される信号の波形と、圧電素子に印加される電圧の波形とのシミュレーション結果を示す略線図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<各実施形態に共通の構成>
以下に添付図面を参照して、本発明に係る圧電素子駆動回路の実施形態を詳細に説明する。先ず、本発明の各実施形態に共通の構成について説明する。図1は、本発明の各実施形態に適用可能な薬液注入システム200の構成を概略的に示す。薬液注入システム200は、生体22に注入される薬液LMが収容された容器10と、容器10に一端が接続され、他端に生体22の血管内に一端が刺し入れられる注射針20が取り付け具18を介して設けられ、容器10から生体22内に至る薬液注入管路と、該薬液注入管路の途中に接続された薬液注入量調整装置100とを備えている。
【0015】
容器10は、薬液LMを生体22の一部、例えば血管内に注入する際に、薬液注入量調整装置100の一端すなわちマイクロポンプ12の一端(供給端)にチューブ151を介して接続される。チューブ151としては、弾力性が高く自己拡張性のある可撓性チューブが使用されている。
【0016】
薬液注入量調整装置100の他端すなわち流量センサ14の排出端には、チューブ152の一端が、接続される。チューブ152の他端(先端)には、先端に注射針20が固定された取り付け具18が接続される。薬液LMを血管内に注入する際には、看護師などが、注射針20を生体22の内部に体表面を介して刺し入れ、その先端を血管内に留置させる。その際、看護師などは、注射針20の先端が血管内から抜けないよう、注射針20の根元あるいは取り付け具18を、例えば粘着テープ等を用いて、生体22の体表面に固定する。図1では、この固定後の状態が示されている。
【0017】
チューブ152としては、チューブ151と同様に、可撓性チューブが使用されている。チューブ152が撓むことにより、その先端部が動いても、薬液LMが流れる流路が確保される。
【0018】
薬液注入システム200において、容器10から生体22の血管まで、順に、チューブ151、薬液注入量調整装置100、チューブ152および注射針20により、薬液LMが流れる流路が構成されている。この流路の途中には、薬液注入量調整装置100の構成各部を含め、流路を閉ざす部材は存在しない。したがって、この流路は、容器10から生体22の血管まで通じる1つの開放路を構成している。
【0019】
なお、容器10から注射針20まで通じる流路の途中に、薬液LMの逆流を防止する弁を設けてもよい。ただし、この弁は、薬液LMが順方向(容器10から注射針20に向かう方向)に流れる際には、流体に抵抗力を及ぼさない、あるいは抵抗力を及ぼすが無視できる程度のものを用いるものとする。
【0020】
薬液注入量調整装置100の構成、機能などについて詳細に説明する。薬液注入量調整装置100は、マイクロポンプ12、流量センサ14および制御ユニット16を有する。マイクロポンプ12は、その一端すなわち供給端が上述したチューブ151を介して容器10に接続される。流量センサ14は、マイクロポンプ12の他端すなわち排出端にチューブ150を介して一端すなわち供給端が接続される。制御ユニット16は、マイクロポンプ12および流量センサ14に電気的に接続され、流量センサ14の出力に応じてマイクロポンプ12を制御する。
【0021】
ここで、チューブ150としては、マイクロポンプ12と流量センサ14とを接続し、両者間に薬液LMを流すことができるのであれば、材質、形態を問わず、いかなる管状部材を使用してもよい。
【0022】
本発明の各実施形態では、マイクロポンプ12として、マイクロマシン技術(MEMS技術)で製造された、圧電素子を駆動源とするダイヤフラムポンプを採用する。ダイヤフラムポンプは、容積ポンプの一種であって、ダイヤフラムの容積の変化を利用して薬液LMを移送する。
【0023】
図2は、マイクロポンプ12の一例の構造を示す。図2(A)には、マイクロポンプ12の縦断面図が示され、図2(B)には、図2(A)中のB−B線に沿った断面図が示されている。なお、図2(A)は、図2(B)中のA−A線断面に相当する。
【0024】
図2(A)に示されるように、マイクロポンプ12は、その一部がダイヤフラムの役割を担う板状の第1基板121と、第1基板121の一方の面(−Z側の面)に接合された第2基板122と、第1基板121の他方の面(+Z側の面)の中央部に固定された圧電素子124とを有する。一例として、第1基板121は硼珪酸ガラス、第2基板122はシリコンを用いて構成する。なお、第1基板121の圧電素子124と接する部分を含む部分が、ダイヤフラムの役割を担っている。この部分を、便宜上、ダイヤフラム部DPと呼ぶ。
【0025】
図2(A)および図2(B)に示されるように、第2基板122には、第1基板121に対向する一面から一定の深さの凹部が形成されている。この凹部は、X軸方向の中央部に位置する平面視矩形の圧力室126と、該圧力室126の−X側の端部に連通する凹溝128aと、圧力室126の+X側の端部に連通する凹溝128bとの3つの部分からなる。なお、圧力室126は、実際には、第1基板121が、第2基板122に形成された凹部を覆うように、第2基板122と接合されることで形成される。図2(A)および図2(B)の例では、便宜上、第2基板122に圧力室126が形成されているものとしている。
【0026】
凹溝128aの内部の−X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128aの内部空間とを連通する貫通孔129aが形成されている。また、凹溝128bの内部の+X端部に対応する第2基板122の底壁には、第2基板122の外部と凹溝128bの内部空間とを連通する貫通孔129bが形成されている。
【0027】
貫通孔129aは、圧力室126を含むマイクロポンプ12の内部空間への薬液LMの入口の役目を果たし、貫通孔129bは、内部空間からの薬液LMの出口の役目を果たす。以下では、貫通孔129aおよび129bを、それぞれ入口129aおよび出口129bと記述する。入口129aおよび出口129bは、それぞれ、マイクロポンプ12の供給口、排出口をそれぞれ構成する管状部材(図示しない)に接続されている。
【0028】
図2(B)に例示されるように、凹溝128aおよび128bは、共に、−X端から+X端に向かって、すなわち入口側から出口側に向かって、徐々にその断面積が広くなっており、ディフューザの役目を兼ねる。以下では、凹溝128aおよび128bを、それぞれディフューザ128aおよび128bと記述する。なお、ディフューザは、流体の持つ運動のエネルギを圧力のエネルギに変換するためのものである。
【0029】
上述のように、本発明の各実施形態に適用可能なマイクロポンプ12は、第2基板122に設けられた入口129aから出口129bまで、順に、ディフューザ128a、圧力室126、ディフューザ128bを介して、1つの流路が形成される。この流路は、その途中に流路を閉ざす部材は設けられていないので、入口129aから出口129bまで通じる1つの開放路を構成する。すなわち、マイクロポンプ12は、バルブレスマイクロポンプである。
【0030】
図3を用いて、マイクロポンプ12の動作について概略的に説明する。圧電素子124に電圧が印加されていない状態では、図3(A)に示されるように、圧電素子124と接合された第1基板121のダイヤフラム部DPは、撓みのない平面状を保っている。この状態の圧力室126は、非収縮状態にある。一方、圧電素子124に電圧が印加されると、図3(B)に示されるように、第1基板121のダイヤフラム部DPは、矢印で示されるように、−Z方向に撓む。これにより、圧力室126は収縮し、収縮状態となる。
【0031】
したがって、圧電素子124に電圧パルスを印加して駆動させてダイヤフラム部DPを振動させることにより、圧力室126に対し、収縮状態と非収縮状態とを繰り返させることができる。このとき、圧力室126の収縮率(ダイヤフラム部DPの撓み量)は、電圧パルスの電圧値に応じて定まり、圧力室126の収縮/膨張の繰り返し数は、電圧パルスの周波数によって定まる。
【0032】
図3(A)に示されるように、圧力室126が収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aと出口129bの両方から流体(薬液LM)が圧力室126に流れ込む。ここで、入口129aと出口129bから流れ込む流体を、それぞれ、矢印f1およびf2を用いて表している。矢印f1およびf2の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流体の量の程度を表す。
【0033】
ここで、流体f1およびf2は、それぞれディフューザ128aおよび128bを通過する。ディフューザ128aおよび128bは、上述したように、何れも、+X方向に向けて断面積が徐々に広くなっている。そのため、ディフューザ128aおよび128bは、+X方向に流れる流体に対し小さい抵抗を、−X方向に流れる流体に対し大きな抵抗を、それぞれ及ぼす。したがって、図3(A)の状態では、流体f1はディフューザ128aにより小さい抵抗を受け、流体f2はディフューザ128bにより大きな抵抗を受けるため、流体f1の流量は、流体f2の流量より大きくなる。
【0034】
一方、図3(B)に示されるように、圧力室126が非収縮状態から収縮状態に遷移すると、圧力室126から入口129aと出口129bの両方へ流体が流れ出る。ここで、入口129aと出口129bへ流れ出る流体を、それぞれ、矢印f3およびf4を用いて表している。矢印f3およびf4の向きが流体の移送される向きを表し、太さが流量を表す。流体f3はディフューザ128aより大きな抵抗を受け、流体f4はディフューザ128bより小さな抵抗を受けるため、流体f4の流量は、流体f3の流量より大きくなる。
【0035】
圧力室126が1回、収縮状態から非収縮状態に遷移すると、入口129aから圧力室126に対し、正味|f1−f3|の量の流体が流れ込むと共に、圧力室126から出口129bに対し、正味|f4−f2|の量の流体が流れ出る。したがって、入口129aから出口129bに対し、正味f=|f1−f3|=|f4−f2|の量の流体が流れる。
【0036】
ここで、流体は非圧縮性であることを想定している。なお、圧力室126の容積を容積W、非収縮状態の容積に対する収縮状態の容積の比である収縮率を収縮率βとすると、関係f=W(1−β)が成り立つ。
【0037】
圧力室126が収縮状態および非収縮状態を繰り返すことにより、入口129aから出口129bに対する定常的な流体の流れが発生する。圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数をωとすると、単位時間当たりの体積流量F=ωf=ωW(1−β)の流体が、入口129aから出口129bに流れる。
【0038】
体積流量Fは、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vとパルスの周波数の少なくとも一方を調整することにより、制御することができる。圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを大きくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが大きくなる。同様に、圧電素子124に印加する電圧パルスの電圧値Vを小さくすれば、圧電素子124の伸縮量、すなわち、ダイヤフラム部DPの撓みが小さくなる。したがって、圧電素子に印加する電圧パルスの電圧値を変えることによって、圧力室126の収縮率βを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
【0039】
また、パルスの周波数を大きくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが大きくなる。同様に、パルスの周波数を小さくすれば、ダイヤフラム部DPの振動数、すなわち、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωが小さくなる。したがって、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数を変えることによって、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωを調整することができる。それにより、流量F=ωW(1−β)を制御することができる。
【0040】
なお、原理上、電圧パルスの周波数は、圧力室126の収縮状態および非収縮状態の単位時間の繰り返し回数ωに等しいので、電圧パルスの周波数を文字ωを用いて表記する。
【0041】
流量センサ14としては、一例として熱質量式センサが用いられている。熱質量式センサでは、その内部に設けられた管路に流体(薬液LM)を流し、管壁を介して流体からセンサへ、あるいはセンサから流体へ伝導する熱量を計測することによって、管路内を流れる流体の流量を計測する。この熱質量式センサを流量センサ14として採用した場合、流体内にプローブを挿入することがないので、流体の流れに障害を与えることなく、その流量を計測することができる。
【0042】
制御ユニット16は、例えばマイクロプロセッサをその中枢部として構成されており、薬液注入量調整装置100全体を統括的に制御する。
【0043】
制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14とは、電気的に接続されている。流量センサ14から制御ユニット16に、薬液LMの流量の計測情報が供給される。制御ユニット16は、その流量の計測情報に基づいて、薬液LMの流量が定められた目標量に一致するように、マイクロポンプ12(正確には、圧電素子124)に印加する電圧パルスの電圧値V及び周波数ωの少なくとも一方を調整する。マイクロポンプ12の制御の詳細については、後述する。
【0044】
なお、制御ユニット16と、マイクロポンプ12および流量センサ14の少なくとも一方とを、無線の通信路を介して接続してもよい。
【0045】
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力の監視も行っている。マイクロポンプの動力は、流体(薬液LM)を順方向に流すためにその流体に加える圧力(正確には、圧力のエネルギ)であるが、動力として、実際にマイクロポンプ12が流体(薬液LM)に加えている具体的な圧力を考える必要はなく、その圧力に関係する量を考えれば良い。動力Pは、マイクロポンプ12の構成より、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの関数P(V,ω)となる。
【0046】
例えば、印加される電圧パルスの電圧値Vと周波数ωとの積を動力Pと定義することができる。より具体的には、動力Pは、P(V,ω)≡Vωと定義することができる。これに限らず、印加される電圧パルスの電圧値が常に一定値V0であり、周波数ωのみが可変である場合、単にP(V0,ω)≡ωと定義してもよい。また、周波数が常に一定周波数ω0であり、電圧値Vのみが可変である場合、単にP(V,ω0)≡Vと定義してもよい。
【0047】
ここで、制御ユニット16は、記憶装置(図示しない)を備えており、所定の時間(Δtとする)毎に、動力Pの監視結果を記憶装置に記憶する。記憶された監視結果は、記憶されてから一定時間後に消去される。従って、記憶装置内には、常に現在から一定時間内の監視結果(一定数の最新の監視結果)が保存される。
【0048】
制御ユニット16は、マイクロポンプ12の動力Pの監視情報に基づいて、後述する方法により薬液LMの投薬状況を診断する。そして、制御ユニット16は、投薬状況の異常を検知した際には、薬液LMの注入を停止したり、警報を発する、といった緊急処置を実行する。そして、正常に、定められた量(目標注入量)の薬液LMの注入が完了した際に、薬液LMの注入を停止する、といった終了処置を実行する。
【0049】
その他、制御ユニット16には、操作者が薬液の(目標)注入量と(目標)注入時間などを入力するための図示されない操作パネル、薬液LMの注入状況を表示する図示されない表示パネル、注入状況の異常を伝える図示されない警報装置などのインターフェースが備えられている。
【0050】
次に、図4のフローチャートを用いて、薬液注入量調整装置100における薬液LMの流量制御の一例について説明する。図4のフローチャートの各処理は、制御ユニット16内のマイクロプロセッサの制御により実行される。
【0051】
薬液LMの注入開始に先立って、操作者が、操作パネル上から、生体22に注入する薬液LMの総量(目標注入量)W0とその量の薬液LMの注入を完了する目標注入時間T0を入力する。その後、操作者が操作パネルを操作して、注入開始の指示を入力すると、図4のフローチャートの処理が開始される。
【0052】
ステップS202で、先ず、制御ユニット16は、入力された目標注入量W0と目標注入時間T0とを記憶装置に記憶すると共に、目標注入量W0と目標注入時間T0とに基づいて、単位時間当たりの薬液LMの目標流量(目標量)F0を決定する。そして、次のステップS204で、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を開始する。
【0053】
次のステップS206〜ステップS212で、制御ユニット16は、流量センサ14から供給される薬液LMの流量Fと、先に決定された目標量F0との比較結果に基づき、流量Fが目標量F0に一致するように、マイクロポンプ12の動力P(V,ω)を調整する。すなわち、制御ユニット16は、ステップS206で流量Fと目標量F0とを比較し、流量Fと目標量F0とが異なっているか否かを判定する。若し、異なっていない、すなわち流量Fと目標量F0とが等しいと判定されたら、処理はステップS214に移行される。
【0054】
一方、ステップS206で、流量Fと目標量F0とが異なっていると判定されたら、処理はステップS208に移行され、流量Fが目標量F0を超えているか否かが判定される。若し、超えていると判定されたら、処理がステップS210に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を弱める。一方、流量Fが目標量F0以下であると判定されたら、処理はステップS212に移行され、制御ユニット16は、動力P(V,ω)を強める。ステップS210またはステップS212の処理が行われると、処理はステップS214に移行される。
【0055】
ここで、制御ユニット16は、流体の流量Fの調整のため、圧電素子124に印加する電圧パルスの周波数ωを一定に保ちつつ電圧値Vを調整しても良いし、電圧値Vを一定に保ちつつ周波数ωを調整しても良いし、あるいは電圧値Vと周波数ωとの両方を調整してもよい。
【0056】
ステップS214で、制御ユニット16は、薬液LMの注入量F0・t(tは経過時間)と目標注入量W0とを比較し、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったか否かを判定する。若し、注入量F0・tが目標注入量W0未満、すなわち、注入量F0・tが目標注入量W0に満たない場合、処理がステップS206に戻され、ステップS206〜212の処理を再び行う。
【0057】
一方、ステップS214で、注入量F0・tが目標注入量W0以上になったと判定されたら、処理はステップS216に移行される。この場合には、薬液LMの注入が正常に終了したと判断することができる。ステップS216では、制御ユニット16は、マイクロポンプ12の稼働を停止する。それと共に、警報を発するなどの終了処置を実行する。そして、図4のフローチャートによる一連の処理が終了される。
【0058】
<第1の実施形態>
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。本第1の実施形態では、マイクロポンプ12の圧力室126を収縮状態および非収縮状態にさせる圧電素子を、正弦波による駆動信号で駆動する。このとき、信号生成手段で生成された正弦波信号の電圧を、圧電素子を駆動可能な電圧まで昇圧させるために、トランスを用いる。本第1の実施形態では、昇圧された正弦波信号が取り出されるトランスの二次側から、正弦波信号が入力されるトランスの一次側に向けて、直流結合を用いて帰還をかけることで、圧電素子の駆動を安定化し、圧電素子の長時間の駆動を可能とする。
【0059】
図5は、本第1の実施形態に適用可能な圧電素子駆動回路の一例を示す。信号生成器IC1は、基本矩形波を生成し、コンデンサC1による交流結合を介して正弦波変換器IC2に供給する。また、信号生成器IC1は、当該基本矩形波に同期した、矩形波によるクロックCLKを生成し、正弦波変換器IC2に供給する。
【0060】
正弦波変換器IC2は、例えばスイッチトキャパシタ(SWC)回路からなり、制御ユニット16の制御に従い、信号生成器IC1から供給された基本矩形波とクロックCLKとから正弦波信号を生成する。正弦波変換器IC2から出力された正弦波信号は、抵抗Rsaを介して演算増幅器OP1の反転入力端に入力される。演算増幅回路OP1の非反転入力端は接地され、反転増幅回路が構成される。なお、図5および後述する図9において、演算増幅器OP1およびOP2に付随する電源回路、オフセット調整回路、位相補償回路などは、省略されている。
【0061】
演算増幅回路OP1の出力は、プッシュプル回路PP1に供給される。プッシュプル回路PP1は、供給された信号をトランスT1を駆動するのに十分な電流に電流増幅して、トランスT1の一次側の端子1に入力する。すなわち、演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1とで、緩衝回路が構成される。
【0062】
トランスT1の端子2は、接地される。トランスT1の二次側には、二次側の巻き線の例えば両端に端子3および端子5がそれぞれ設けられると共に、当該端子3および端子5の中点から引き出されるセンタータップ4が設けられる。センタータップ4は、図示されない高抵抗を介して接地されると共に、ダイオードD1のアノードに接続される。ダイオードD1のカソードがダイオードD2のカソードに接続されると共に、コンデンサC3の一方の電極に接続される。コンデンサC3の他方の電極がダイオードD3のアノードに接続されると共に、圧電素子C4の一方の電極と、コンデンサC5の一方の電極との共通接続点に接続される。なお、圧電素子は、等価回路的にはキャパシタと見做せるため、回路図において圧電素子をキャパシタとして表現している。コンデンサC5の他方の電極は、トランスT1の端子3に接続される。一方、圧電素子C4の他方の電極は、ダイオードD3のカソード、ダイオードD2のアノードおよびトランスT1の端子5にそれぞれ接続される。
【0063】
図5において、ダイオードD2およびD3は、それぞれ整流に用いられる。また、ダイオードD1は、コンデンサC3に蓄積された電荷のトランスT1側へのリークを防止する役目を担う。これらダイオードD1、D2およびD3、ならびに、コンデンサC3により、圧電素子C4に印加される駆動信号に対してDCバイアスをかけるDCバイアス回路が構成される。
【0064】
すなわち、コンデンサC3は、トランスT1の端子3および端子5から出力される正弦波における両極値電圧Vppの1/2の電圧を保持し続ける。このコンデンサC3に保持される電圧が、圧電素子C4とコンデンサC5との共通接続点の電圧に対して、正電位側のDCバイアスとなって作用する。したがって、トランスT1の二次側全体の電位が、センタータップ4の電位に対して正電位側にシフトされることになり、圧電素子C4は、コンデンサC5との共通接続点を基準として、正弦波による駆動信号が、正電位側に当該正弦波の振幅の1/2だけDCバイアスを掛けられた電圧の信号として印加されることになる。
【0065】
トランスT1は、例えば、一次側の±3V程度の入力に対して、二次側で±80V乃至±200V程度の出力が得られる巻数比のものが用いられる。また、圧電素子C4は、4nF(ナノファラド)程度の静電容量を有する。コンデンサC1は、圧電素子C4の静電容量よりは大きな、例えば5nF乃至10nFの静電容量とする。
【0066】
また、コンデンサC5は、静電容量が圧電素子C4よりも十分大きなものが選択される。例えば、コンデンサC5は、圧電素子C4の静電容量の100倍程度の静電容量を持つものが用いられる。トランスT1の二次側における正弦波信号の電圧は、全て圧電素子C4に対して印加されるのが望ましい。コンデンサC5の静電容量を、圧電素子C4の静電容量よりも十分大きくすることで、トランスT1の二次側に発生する正弦波信号の電圧成分(すなわち、トランスT1の端子3および端子5間で発生する電圧)を、略全て圧電素子C4に印加させることが可能となる。
【0067】
なお、コンデンサC5の静電容量を調整することで、圧電素子C4に印加される正弦波信号の電圧を調整することが可能である。コンデンサC5の静電容量を調整した場合であっても、圧電素子C4に印加される正弦波信号の下限値が略0Vに収束するように、圧電素子C4に対するDCバイアスが作用する。
【0068】
図5において、さらに、トランスT1の二次側から一次側に向けて、帰還回路が設けられる。すなわち、直列接続された抵抗R1、R2およびR3により端子3および端子5間の電圧が分圧される。演算増幅回路OP2は、抵抗R2の両端の電圧の差分を抽出して、帰還信号として演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1とからなる緩衝回路の入力に供給する。このように、本第1の実施形態では、トランスT1の二次側の電圧から、抵抗R1、R2およびR3による直流結合を用いて帰還信号を取り出し、トランスT1の一次側に帰還させる。
【0069】
具体的には、端子5および端子3の間に、端子5側から、抵抗R1、抵抗R2、抵抗R3の順に3個の抵抗が直列接続される。ここで、抵抗R1の抵抗値と抵抗R3の抵抗値は、略等しいものとする。抵抗R2の抵抗R1側の端が抵抗Rsbを介して演算増幅回路OP2の反転入力端に接続される。抵抗R2の抵抗R3側の端が抵抗Rtを介して演算増幅回路OP2の非反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の出力は、抵抗Rfaを介して演算増幅回路OP1の反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の非反転入力端が抵抗Rgを介して接地されると共に、演算増幅回路OP2の反転入力端が抵抗Rfbを介して演算増幅回路OP2の出力に接続され、演算増幅回路OP2による差動増幅器が構成される。
【0070】
抵抗R2の抵抗値は、例えば下記の式(1)に従い設定する。抵抗R1、R2およびR3それぞれの抵抗値をR1、R2、R3とし、トランスT1における端子1および端子2間の巻数をT1-2、端子3および端子5間の巻数をT3-5とし、T3-5/T1-2>1であるものとする。
T1-2/T3-5≒R2/(R1+R2+R3) …(1)
【0071】
このように抵抗R2の抵抗値を設定することで、抵抗R2の両端から取り出される分圧信号の電圧を、トランスT1の一次側の電圧と略等しくすることができる。ここで、分圧抵抗を抵抗R1、R2およびR3の3個を用い、その中央の抵抗R2から帰還信号を取り出すのは、圧電素子C4の一方の電極による遮蔽のために、トランスT1のセンタータップ4を図示されない高抵抗を介して接地することに対応している。すなわち、二次側の電圧を、抵抗R2により電位差を小さくして取り出して、演算増幅回路OP2による差動増幅器を動作させる。
【0072】
なお、例えば端子3を高抵抗を介して接地させるなどして、遮蔽のための接地位置をセンタータップ4以外とすることも考えられる。この場合であっても、接地位置に近い分圧抵抗の両端から分圧信号を取り出すことが可能である。図5の例のように、トランスT1のセンタータップ4を接地している場合は、接地位置に対応する位置の分圧抵抗から分圧信号を取り出すようにすると、正弦波を取り出し易い。そのため、本第1の実施形態では、3個の抵抗R1、R2およびR3を用い、中央の抵抗R2の両端から分圧信号を取り出すようにしている。
【0073】
図6は、本第1の実施形態に適用可能なマイクロポンプ12の一例の構成を示す。図6の各図において、上述の図2と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図6(A)は、マイクロポンプ12の外観図、図6(B)は、上述した図2(B)に対応する断面図である。また、図6(C)は、圧力室126の両面に設けられる圧電素子124a1および124a2の電気的な接続を示す。この例では、図5における圧電素子C4を2個、並列接続して用いる。すなわち、図6(A)、図6(B)および図6(C)において、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2が、並列接続された2個の圧電素子C4にそれぞれ対応する。
【0074】
図6(A)に例示されるように、これら第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2は、同相の正弦波電圧を印加したときに互いに逆方向に振動するように、圧力室126の両面に配置される。例えば、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2は、上述した、接着構造から規定される第1の面あるいは第2の面を互いに対向させて、第1基板121および第2基板122にそれぞれ固定される。
【0075】
図6(B)に例示されるように、第1の圧電素子124a1の第1の面の電極が端子300に接続され、第2の面の電極が端子301に接続される。また、第2の圧電素子124a2の第2の面の電極が端子302に接続され、第1の面の電極が端子303に接続される。さらに、端子300と端子303とが接続され、端子301と端子302とが接続される。端子300と端子303との接続点が、図5における圧電素子C4の一方の電極に対応し、端子301と端子302との接続点が、他方の電極に対応する。
【0076】
このようにして、第1の圧電素子124a1および第2の圧電素子124a2の圧力室126への配置および図5の回路への接続を行うことで、1の正弦波電圧により、例えば第1の圧電素子124a1が圧力室126の内側に向けて撓むタイミングで、第2の圧電素子124a2も、圧力室126の内側に向けて撓むことになる。したがって、圧力室126の片面のみに圧電素子を設けた場合に比べ、収縮状態における圧力室126の収縮率を高くすることができる。
【0077】
図7を用いて、図5の回路における動作について、概略的に説明する。図7は、図5のトランスT1の一次側に対して、周波数が1200Hz、振幅が±2.1Vの正弦波信号を入力した場合のシミュレーション結果を示す。トランスT1の巻数比を1:25とし、演算増幅回路OP1の利得を2とした場合、2次側の出力は、2.1Vpp×2×25=105Vppとなる。
【0078】
図7(A)は、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号を示し、図7(B)は、圧電素子C2に印加される電圧を示す。図7(B)に示されるように、圧電素子C4に印加される電圧は、若干、負電位側にも印加される。DCバイアス電圧が安定して以降は、圧電素子C4に印加される電圧は、上述の105Vppに近い値で安定する。
【0079】
図8は、信号生成器IC1から出力される信号の波形と、圧電素子C4に印加される電圧の波形とのシミュレーション結果を示す。波形330および331は、それぞれ、信号生成回路IC1から出力される基本矩形波およびクロックCLKの例である。これら基本矩形波およびクロックCLKは、信号生成回路IC1において、ハード的またはプロセッサなどの制御に従いソフトウェア的に生成される。
【0080】
波形332は、定常状態において圧電素子C4に印加される正弦波電圧を示す。信号生成回路IC1から出力されたこれら基本矩形波およびクロックCLKに基づき、正弦波変換回路IC2で正弦波が生成され、この正弦波がトランスT1で昇圧されて、波形332に例示されるような正弦波電圧とされる。図8によれば、この正弦波電圧は、ピーク間電圧Vppが略105Vであるのに対し、最低電圧が略0Vとなっているのが分かる。
【0081】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図9は、本第2の実施形態による圧電素子駆動回路の一例を示す。なお、図9において、上述した図5と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0082】
図9から分かるように、本第2の実施形態では、トランスT1の二次側から一次側への帰還を、他のトランスT2を介した交流結合により行っている。すなわち、トランスT1の二次側の端子3および端子5が、それぞれトランスT2の一次側の端子6および端子7に接続される。トランスT2の二次側の端子8および端子9は、それぞれ演算増幅回路OP2の反転入力端および非反転入力端に接続される。演算増幅回路OP2の非反転入力端は、接地され、演算増幅回路OP2は、反転増幅回路を構成する。
【0083】
本第2の実施形態では、高電圧となる圧電素子駆動側の回路を、正弦波生成側の回路に対してトランスT1およびトランスT2とで直流的に分離することで、正弦波生成側の回路における接地を圧電素子駆動側と分離できる。そのため、正弦波生成側における信号生成器IC1や正弦波変換器IC2、演算増幅回路OP1といった、比較的高電圧に弱い回路を保護することができる。
【0084】
なお、図9の構成では、トランスT1の二次側から一次側への帰還回路を、トランスT2を用いた交流結合により構成しているため、トランスT1の一次側と二次側とが直流的に分離される。そのため、演算増幅回路OP2が反転増幅回路として用いられている。
【0085】
トランスT2は、次式(2)に示されるように、一次側の端子6および端子7間と、二次側の端子8および端子9間との巻線比が、トランスT1の二次側の端子3および端子5と、一次側の端子1および端子2との巻線比と略等しくなるように選択するのが望ましい。すなわち、トランスT2の二次側の巻数に対する一次側の巻数の割合と、トランスT1の一次側の巻数に対する二次側の巻数の割合とを略等しくする。式(2)において、トランスT1における端子1および端子2間の巻数をT1-2、端子3および端子5間の巻数をT3-5とし、トランスT2における端子6および端子7間の巻数をT6-7、端子8および端子9間の巻数をT8-9とする。また、T3-5/T1-2>1、T6-7/T8-9>1とする。
T3-5/T1-2≒T6-7/T8-9 …(2)
【0086】
トランスT1とトランスT2との関係を、式(2)のようにすることで、演算増幅回路OP2に対する入力信号の電圧を、トランスT1の一次側に入力される正弦波信号の電圧と略等しくでき、帰還による制御を効率よく行うことができる。
【0087】
なお、トランスT2の巻数比は、上述の式(2)の関係には限られない。この場合、演算増幅回路OP1への帰還量、抵抗Rsaによる演算増幅回路OP1の増幅率、抵抗Rfaおよび抵抗Rfbによる演算増幅回路OP2の増幅率、あるいは、プッシュプル回路PP1を含めた帰還系全体での帰還量を考慮して、トランスT2の巻数比を決定する。
【0088】
以上説明したように、本発明の第1および第2の実施形態では、圧電素子C4の駆動側回路であるトランスT1の二次側から、圧電素子C4を駆動するための正弦波信号を生成する信号生成回路側であるトランスT1の一次側に対して、帰還をかけている。このように、帰還信号を圧電素子C4の駆動側回路であるトランスT1の二次側から直接的に取得しているため、圧電素子C4の駆動系を全体的に安定させることができ、圧電素子C4を長時間に亘って安定的に駆動させることが可能となる。
【0089】
また、一般的に、トランスにはヒステリシス損失があるので、トランスT1の一次側の入力波形に対する二次側の出力波形の再現性が良くない場合がある。本発明の第1および第2の実施形態では、トランスT1の二次側から一次側に対して帰還をかけているので、二次側における出力信号の再現性を向上させることができる。またこれにより、トランスT1のダイナミックレンジを効率的に利用することができる。
【0090】
なお、上述では、圧電素子駆動回路が1個若しくは複数個が並列接続された圧電素子C4を駆動するように説明したが、これはこの例に限定されない。例えば、図5または図9の構成において、コンデンサC5の代わりに他の圧電素子(圧電素子C4’とする)を挿入する。これにより、圧電素子C4と圧電素子C4’とを互いに逆相で駆動することが可能となる。この場合、圧電素子C4’として、圧電素子C4と静電容量が略等しいものを用いることで、圧電素子C4と圧電素子C4’とに対して略等しい駆動電圧を印加させることができる。この駆動方法は、ポンプの構造上、2つの圧電素子の電極が共通電極にならざるを得ないような場合で、且つ、その共通電極を挟んで、2つの圧電素子に印加される電圧が、バイアスが同方向で、正弦波としては逆位相の駆動を行う場合に、有効である。
【0091】
また、上述では、正弦波信号の生成を、基本矩形波に基づきスイッチトキャパシタ回路により行うように説明したが、これはこの例に限定されない。例えば、プロセッサなどで正弦波信号を構成するための正弦波データを生成し、この生成はデータをD/A変換器でアナログ信号に変換することで、正弦波信号を生成してもよい。
【0092】
さらに、上述では、生成された正弦波信号を、トランスT1の駆動を可能にするように電流増幅する緩衝回路として、演算増幅回路OP1とプッシュプル回路PP1を用いていたが、これはこの例に限定されない。例えば、増幅率が同一の複数の緩衝回路を並列接続してもよい。また、正弦波変換器IC2の出力を接地電位から浮かせ、それぞれの信号線を2の緩衝回路にそれぞれ接続して、これら2の緩衝回路で互いに逆位相、同じ増幅率で増幅してもよい。この場合、実質的に倍の電圧の正弦波信号を得ることができる。さらにまた、エミッタフォロアの接地側の負荷としてトランスT1の一次側を接続して緩衝回路としてもよいし、電圧増幅を行うために、エミッタ接地回路などを緩衝回路として用いることができる。
【符号の説明】
【0093】
1,2,3,5,6,7,8,9 端子
4 センタータップ
IC1 信号生成器
IC2 正弦波変換器
T1,T2 トランス
D1,D2,D3 ダイオード
C1,C3,C5 コンデンサ
C4 圧電素子
OP1,OP2 演算増幅回路
R1,R2,R3,Rfa,Rfb,Rg,Rsa,Rsb,Rt 抵抗
PP1 プッシュプル回路
12 マイクロポンプ
16 制御ユニット
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【特許文献1】特開平8−109945号公報
【特許文献2】特開2002−218772号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正弦波信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成された前記正弦波信号が一次側に入力されるトランスと、
前記トランスの二次側の出力を駆動信号として駆動される圧電素子と、
前記駆動信号に対してDCバイアスをかけるバイアス手段と、
前記駆動信号から帰還信号を生成し、該帰還信号を前記トランスの一次側に対して帰還させる帰還手段と
を有する
ことを特徴とする圧電素子駆動回路。
【請求項2】
前記帰還手段は、
前記駆動信号から直流結合を用いて前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項3】
前記帰還手段は、
前記トランスの二次側の出力を分圧した分圧信号から前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項4】
前記帰還手段は、
前記分圧信号の電圧が前記トランスの一次側の電圧と略等しくなるように、該トランスの二次側の出力を分圧する
ことを特徴とする請求項3に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項5】
前記トランスは、前記二次側の出力の中点が接地され、
前記帰還手段は、
前記トランスの二次側の出力に対して直列接続される複数の抵抗を備え、
前記複数の抵抗のうち略中央の電位に対応する抵抗から前記分圧信号を取り出す
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項6】
前記帰還手段は、
前記駆動信号から交流結合を用いて前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項7】
前記帰還手段は、
一次側に前記トランスの二次側の出力が入力される他のトランスを備え、
該他のトランスの二次側の出力から前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または請求項6に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項8】
前記他のトランスは、二次側の巻数に対する一次側の巻数の割合が、前記トランスの一次側の巻数に対する二次側の巻数の割合と略等しい
ことを特徴とする請求項7に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項9】
前記トランスの二次側の第1の端子には、前記圧電素子の一方の電極が接続され、
一方の電極が前記圧電素子の他方の電極に接続され、他方の電極が前記トランスの二次側の第2の端子に接続される第1のキャパシタをさらに有し、
前記バイアス手段は、
アノードが前記トランスの前記第1の端子および前記第2の端子の中点から引き出される第3の端子に接続される第1のダイオードと、
カソードが前記第1のダイオードのアノードに接続され、アノードが前記第1の端子と前記圧電素子の一方の電極との共通接続点に接続される第2のダイオードと、
一方の電極が前記第1のダイオードのカソードと前記第2のダイオードのカソードとの共通接続点に接続され、他方の電極が前記圧電素子の他方の電極と前記第1のキャパシタの一方の電極との共通接続点に接続される第2のキャパシタと、
カソードが前記第2のダイオードのアノードと前記第1の端子と前記圧電素子の一方の電極との共通接続点に接続され、アノードが前記第2のキャパシタの他方の電極と前記圧電素子の他方の電極と前記第1のキャパシタの一方の電極との共通接続点に接続される第3のダイオードと
からなる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項1】
正弦波信号を生成する信号生成手段と、
前記信号生成手段で生成された前記正弦波信号が一次側に入力されるトランスと、
前記トランスの二次側の出力を駆動信号として駆動される圧電素子と、
前記駆動信号に対してDCバイアスをかけるバイアス手段と、
前記駆動信号から帰還信号を生成し、該帰還信号を前記トランスの一次側に対して帰還させる帰還手段と
を有する
ことを特徴とする圧電素子駆動回路。
【請求項2】
前記帰還手段は、
前記駆動信号から直流結合を用いて前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項3】
前記帰還手段は、
前記トランスの二次側の出力を分圧した分圧信号から前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項4】
前記帰還手段は、
前記分圧信号の電圧が前記トランスの一次側の電圧と略等しくなるように、該トランスの二次側の出力を分圧する
ことを特徴とする請求項3に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項5】
前記トランスは、前記二次側の出力の中点が接地され、
前記帰還手段は、
前記トランスの二次側の出力に対して直列接続される複数の抵抗を備え、
前記複数の抵抗のうち略中央の電位に対応する抵抗から前記分圧信号を取り出す
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項6】
前記帰還手段は、
前記駆動信号から交流結合を用いて前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項7】
前記帰還手段は、
一次側に前記トランスの二次側の出力が入力される他のトランスを備え、
該他のトランスの二次側の出力から前記帰還信号を生成する
ことを特徴とする請求項1または請求項6に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項8】
前記他のトランスは、二次側の巻数に対する一次側の巻数の割合が、前記トランスの一次側の巻数に対する二次側の巻数の割合と略等しい
ことを特徴とする請求項7に記載の圧電素子駆動回路。
【請求項9】
前記トランスの二次側の第1の端子には、前記圧電素子の一方の電極が接続され、
一方の電極が前記圧電素子の他方の電極に接続され、他方の電極が前記トランスの二次側の第2の端子に接続される第1のキャパシタをさらに有し、
前記バイアス手段は、
アノードが前記トランスの前記第1の端子および前記第2の端子の中点から引き出される第3の端子に接続される第1のダイオードと、
カソードが前記第1のダイオードのアノードに接続され、アノードが前記第1の端子と前記圧電素子の一方の電極との共通接続点に接続される第2のダイオードと、
一方の電極が前記第1のダイオードのカソードと前記第2のダイオードのカソードとの共通接続点に接続され、他方の電極が前記圧電素子の他方の電極と前記第1のキャパシタの一方の電極との共通接続点に接続される第2のキャパシタと、
カソードが前記第2のダイオードのアノードと前記第1の端子と前記圧電素子の一方の電極との共通接続点に接続され、アノードが前記第2のキャパシタの他方の電極と前記圧電素子の他方の電極と前記第1のキャパシタの一方の電極との共通接続点に接続される第3のダイオードと
からなる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の圧電素子駆動回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−183357(P2011−183357A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54324(P2010−54324)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]