説明

基板のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】平行平板型プラズマ処理装置において、基板の加工に適したイオンエネルギーを有し、さらにそのイオンエネルギー幅を小さくして、加工形状を精緻に制御することが可能な基板のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供する。
【解決手段】内部が真空に保持されたチャンバー21と、この内部に配置され、主面上において処理すべき基板を保持するように構成されたRF電極22、及びこのRF電極22と対向するように配置された対向電極23と、前記RF電極22に対して所定周波数のRF電圧を印加するためのRF電源27と、前記RF電極22に対して前記RF電圧と重畳するようにして所定のパルス電圧を印加するためのパルス電源29とを有するようにプラズマ処理装置を構成する。前記パルス電源29は、前記パルス電圧の前記印加のタイミングを調整し、前記パルス電圧を印加しない休止時間を設定する制御機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内において、RF電極と対向電極とが互いに対向するように配置され、それらの間に生成されたプラズマによって前記RF電極上に保持された基板を加工する、いわゆる平行平板型プラズマ処理装置及びそのプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハなどの基板に対して配線などを行う際には、前記基板に対して微細な加工処理を施す必要があり、そのため、従来では、プラズマを用いた処理装置が頻繁に用いられていた。
【0003】
従来のプラズマ処理装置においては、予め所定の真空度まで排気された真空チャンバー内に、高周波(RF)電極と対向電極とが互いに対向するようにして配置され、RF電極の、対向電極と対向する主面上に処理に供すべき基板が保持されており、いわゆる平行平板型のプラズマ処理装置を構成している。前記ガス導入管からはプラズマ生成及びそれによって基板の加工に供すべきガスを矢印で示すようにしてチャンバー内に導入するとともに、図示しない真空ポンプを用いて、排気口からチャンバー内を真空排気するようにして構成している。
【0004】
次いで、13.56MHzの商業用RF電源から整合器を介してRF電極にRF(電圧)を印加することにより、RF電極及び対向電極間にプラズマを生ぜしめるようにしている。
【0005】
この際、プラズマ中の正イオンはRF電極上に生じる負の自己バイアス電位VdcによってRF電極上の基板に高速で入射するようになる。その結果、その際の基板入射エネルギーを利用して基板上の表面反応を誘発し、リアクティブイオンエッチング(RIE)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンインプラ等のプラズマ基板処理が行われる。特に、基板を加工するという観点からは、主としてRIEが用いられる。したがって、以下では、特にRIEを用いた基板処理を中心として詳述する。
【0006】
上述のようなプラズマ処理装置においては、RFパワー増大とともにVdc(平均の基板入射エネルギー)は増大するため、処理レート調整、加工形状調整のために主にRFパワーによるVdcの調整が行われている。またVdcが依存する圧力や電極形状でも一部調整することができる。
【0007】
しかしながら、上述のようにして装置内に生成されたプラズマ内のイオンエネルギーは、低エネルギー側ピークと高エネルギー側ピークとの2つに分割され、そのエネルギー幅ΔEはプラズマ発生条件によって数10〜数100[eV]となる。したがって、Vdcを基板処理に最適なエネルギーに調整した場合においても、基板入射するイオンにはエネルギーの高すぎるイオン(高エネルギー側ピーク)と低すぎるイオン(低エネルギー側ピーク)とが存在するようになる。
【0008】
したがって、例えばRIEにおいては、高エネルギー側ピークに相当するエネルギーのイオンで基板処理を実施した場合は、肩削り(肩落ち)を誘発して加工形状を悪化させる傾向がある。一方、低エネルギー側ピークに相当するエネルギーのイオンで基板処理を実施した場合は、表面反応閾値以下で基板処理にまったく寄与しない、あるいは異方性劣化 (イオン入射角度が熱速度で広がる) に伴い加工形状を悪化させる傾向がある。
【0009】
最近の半導体プロセスにおいては、ますますシュリンクしていく半導体デバイス・種々の膜・複合膜のRIEに対応し、加工形状を精緻に制御するため、イオンエネルギーの狭帯域化(小さいΔEの実現)と平均エネルギー値の最適調整(Vdcの最適化)が必要となる。
【0010】
イオンエネルギー狭帯域化のためには、RF周波数の高周波化(特開平2003−234331号公報)やパルスプラズマ化(J.Appl.Phys.Vol86 No2 643(2000))が検討されている。
【0011】
また、プラズマ生成は大きく分けて誘導結合型と容量結合型に大別されるが、加工形状の精密制御の観点から、副次反応を抑制するためにプラズマ体積を小さくして滞留時間を小さくすることが有効であり、このような観点から、体積の大きな誘導結合型プラズマと比較して容量結合型の平行平板型プラズマが有利である。
【0012】
また、Vdcとプラズマ密度の制御性向上を目的に平行平板の電極に2つの異なる周波数のRFを導入し、高い周波数(例えば100MHz)のRFでプラズマ密度を、低い周波数(例えば3MHz)のRFでVdcを独立制御する方法も考案されている(特開平2003−234331号公報)。この場合は、高周波用電源及び高周波用整合器に加えて、低周波用電源及び低周波用整合器とを設け、上述した高周波のRF及び低周波のRFがRF電極に対して重畳出来るようにしている。
【0013】
一方、清浄プロセス、プロセス安定の観点から対向電極は接地電位であることが有利となる。対向電極にRFを引加すると対向電極面で生成するVdcにより対向電極が腐食し、ダスト源、プロセスを不安定化源となる。そのため、2つのRFは基板が設置されたRF電極に重畳されることもある。
【特許文献1】特開平2003−234331号
【非特許文献1】G. Chen, L. L. Raja, J. Appl. Phys. 96, 6073(2004)
【非特許文献2】J.Appl.Phys.Vol86 No2 643(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
イオンエネルギー狭帯域化のために検討されている高周波化技術は、イオンの電界への追従がなくなるためにΔEの狭帯域化に効果は大きいが、エネルギー(Vdc)は小さくなる。例えば100MHz、2.5kW(300mmサセプタ、50mTorr、Arプラズマ)ではVdcの絶対値が酸化膜や窒化膜の閾値(約70eV)以下となり、レートが極端に遅くなり実用範囲を超える。
【0015】
一方、RFパワーを大きくして平均エネルギーを大きくすると、RFパワーによる調整時にはVdcとΔEがほぼ比例するため、エネルギーの狭帯域化効果は小さくなる。さらに、100MHzでVdc100Vを達成するためにおよそ7kWの大きなRFパワーが必要となり、市販の高周波電源の出力上限(5〜10kW)から十分に大きなイオンエネルギーに調整することは困難となる。すなわちRF高周波化技術は、表面反応エネルギー閾値が小さいプラズマ処理には対応できても、閾値エネルギーが大きな(70eV以上)プラズマ処理にはVdc調整が難しく対応が困難である。
【0016】
また2周波RF重畳においては、低い周波数に起因するイオンエネルギー幅ΔEが大きく、狭帯域化は望めない。
【0017】
一方、パルス技術は周期的DC電位によりイオンエネルギーをより直接的に制御するため、エネルギーの狭帯域化及びエネルギー値の調整に有利であるが、急峻な印加電圧変化、電圧OFF時のプラズマ密度低下、再電圧印加時の大電流によってプラズマは不安定となる。特に絶縁物が基板表面にあるプラズマ処理の場合はたまった表面電荷が1周期の間に逃げにくく、プラズマが不安定となり、プラズマ消滅に至る。また、間欠的な大電流流入によりデバイスへの電気的ダメージも発生する。そのため、安定した平行平板型パルスプラズマを生成することは困難である。
【0018】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、真空チャンバー内において、RF電極と対向電極とが互いに対向するように配置され、それらの間に生成されたプラズマによって前記RF電極上に保持された基板を加工する、いわゆる平行平板型プラズマ処理装置において、前記基板の加工に適したイオンエネルギーを有し、さらにそのイオンエネルギー幅を小さくして、加工形状を精緻に制御することが可能な基板のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、
内部が真空に保持可能なチャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、主面上において処理すべき基板を保持するように構成されたRF電極と、
前記チャンバー内において、前記RF電極と対向するように配置された対向電極と、
前記RF電極に対して所定周波数のRF電圧を印加するためのRF電圧印加手段と、
前記RF電極に対して前記RF電圧と重畳するようにして所定のパルス電圧を印加するためのパルス電圧印加手段とを具え、
前記パルス電圧印加手段は、前記パルス電圧の前記印加のタイミングを調整し、前記パルス電圧を印加しない休止時間を設定する制御機構を有することを特徴とする、基板のプラズマ処理装置に関する。
【0020】
また、本発明の一態様は、
内部が真空に保持されたチャンバー内の、RF電極と前記RF電極に対向する対向電極との間に、前記RF電極の主面上において処理すべき基板を保持する工程と、
前記RF電極に対して所定周波数のRF電圧を印加する工程と、
前記RF電極に対して前記RF電圧と重畳するようにして所定のパルス電圧を印加する工程と、
前記パルス電圧の印加のタイミングを調整し、前記パルス電圧を印加しない休止時間を設ける工程と、
を具えることを特徴とする、基板のプラズマ処理方法に関する。
【0021】
本発明の上記態様では、RF電極に対してRF電圧を印加するのみでなく、さらにパルス電圧を印加(重畳)するようにしている。したがって、前記パルス電圧のパルス幅t1や繰り返し時間t2、さらにはパルス電圧値Vpulseを種々制御することによって、従来のようなイオンエネルギーの低エネルギー側ピークを高エネルギー側ピークに比較して、基板加工に寄与しないような極めて低いエネルギー範囲にシフトさせたり、前記低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとを極めて近接させたりすることができるようになる。
【0022】
前者の場合は、特にイオンエネルギーの高エネルギー側ピークのみを最適なエネルギー範囲内に設定することによって、この高エネルギー側ピークに相当するエネルギーのイオンのみを用いて基板の処理(加工)を行うことができる。すなわち、その高エネルギー側ピークが本来的に有する狭帯化特性を利用するとともに、前述したエネルギー範囲の最適化を行えば、基板の加工形状を精緻に制御することができるようになる。
【0023】
また、前記パルス電圧を連続的に印加することなく、所定の休止時間を介して印加するようにしているので、前記基板の加工部位の帯電、特に底面が正に帯電することを抑制でき、前記イオンの入射が前記加工部位の帯電に伴うクーロン力の影響で偏向し、前記イオンが前記加工部位に略垂直に入射しなくなることに起因した加工形状の劣化をも抑制することができ、前記基板の加工形状の精緻さを損なうことがない。さらに、前記帯電などの伴う、前記基板の前記加工部位を基点とした絶縁破壊などをも抑制することができる(第1の加工方法)。
【0024】
後者の場合は、低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとが極めて近接するようになるので、これらを一体化したエネルギーピークと見做すことができる。すなわち、低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとが極めて近接して存在することにより、これらを一括して狭帯化したエネルギー幅を有する単一のエネルギーピークとして取り扱うことができる。したがって、この単一化されたエネルギーピークのエネルギー範囲の最適化、及び前記低エネルギー側ピーク及び前記高エネルギー側ピークの近接度合い、すなわち前記単一化されたエネルギーピークの狭帯化度合いの最適化を行えば、前記単一化されたエネルギーピークに相当するエネルギーを有するイオンを利用して基板の加工形状を精緻に制御することができる。
【0025】
また、前記パルス電圧を連続的に印加することなく、所定の休止時間を介して印加するようにしているので、前記基板の加工部位の帯電、特に底面が正に帯電することを抑制でき、前記イオンの入射が前記加工部位の帯電に伴うクーロン力の影響で偏向し、前記イオンが前記加工部位に略垂直に入射しなくなることに起因した加工形状の劣化をも抑制することができ、前記基板の加工形状の精緻さを損なうことがない。さらに、前記帯電などの伴う、前記基板の前記加工部位を基点とした絶縁破壊などをも抑制することができる(第2の加工方法)。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、真空チャンバー内において、RF電極と対向電極とが互いに対向するように配置され、それらの間に生成されたプラズマによって前記RF電極上に保持された基板を加工する、いわゆる平行平板型プラズマ処理装置において、前記基板の加工に適したイオンエネルギーを有し、さらにそのイオンエネルギー幅を小さくして、加工形状を精緻に制御することが可能な基板のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の基板のプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法について、発明を実施するための最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
本発明の一例においては、前記RF電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記RF電圧の周波数(ωrf/2π)が50MHz以上であり、前記パルス電圧印加手段の前記制御機構は、少なくとも前記パルス電圧のパルス幅t1(s)及びパルス電圧値Vpulse(V)を制御し、この制御機構により、前記パルス幅t1がt1≧2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となり、パルス電圧値Vpulseが|Vp-p|<|Vpulse|(Vp-pは前記RF電圧の電圧値)となるように制御する。これによって、上述した第1の加工方法を簡易かつ良好な状態で実施することができる。
【0029】
また、本発明の一例においては、前記RF電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記RF電圧の周波数(ωrf/2π)が50MHz以上であり、
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構は、少なくとも前記パルス電圧のパルス幅t1(s)及び繰り返し時間t2(s)を制御し、この制御機構により、前記パルス幅t1及び前記繰り返し時間t2が、2π/ωrf<t1<t2<2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となるように制御する。これによって、上述した第2の加工方法を簡易かつ良好な状態で実施することができる。
【0030】
なお、上記いずれの例においても、前記RF電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記RF電圧の周波数(ωrf/2π)を50MHz以上とするのは、RF電圧に起因した平均の基板入射エネルギーVdcを基板処理に影響を与えないような十分に低い値とするためである。換言すれば、本発明の上記態様において、RF電極に対して常にRF電圧を印加するのは、プラズマを効率良く生成すること、及び基板上に絶縁性の膜が堆積された場合においても効率良くプラズマを生成し、このプラズマで基板の加工を実現させるなどのためである。
【0031】
したがって、本発明の上記態様では、基板処理は主としてRF電圧に重畳されたパルス電圧によってなされることになる。
【0032】
また、RF電圧の周波数が増大するにつれて、基板へ入射させるイオンエネルギーの低エネルギー側ピーク及び高エネルギー側ピーク間のイオンエネルギー幅ΔEiが減少する。したがって、RF電圧の周波数を増大させ、特に50MHz以上とすることにより、上述したような、前記低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとを極めて近接させ、狭帯化して単一のエネルギーピークと見做し、この単一化されたエネルギーピークに相当するエネルギーのイオンを用いて基板加工する際に有利となる。
【0033】
なお、本発明において、上記パルス電圧は負のパルス電圧とすることができる。一般に、RF電圧の印加によってプラズマを生成させた場合には、前記RF電圧が印加されたRF電極はセルフバイアスの原理によって負電位となる。したがって、前記RF電極近傍の正イオンは負電位側にシフトした周期的な電圧(RF電圧)の影響を受け、このRF電圧を加速電圧として基板に衝突し、前記基板の加工などの処理を行う。かかる観点より、前記パルス電圧を正電圧としてしまうと、前記RF電圧を部分的にキャンセルしてしまうことになり、前記正イオンに対して良好な加速電圧を形成することができなくなってしまう。
【0034】
したがって、上記パルス電圧を負のパルス電圧とすることにより、上述のような不都合を回避することができる。
【0035】
また、本発明の一例においては、前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の連続印加パルス数nがn<ε0εs/(ZeNt1)x(Vmax/d)(ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、t1はパルス印加時間(s)、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御する。これによって、前記基板の加工部位における特に底部からの絶縁破壊を効果的に抑制することができる。
【0036】
さらに、本発明の一例においては、前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の印加時間t1がt1<ε0εs/(ZeN)x(Vmax/d) (ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御する。これによって、前記基板の加工部位における特に底部からの絶縁破壊を効果的に抑制することができる。
【0037】
なお、上記関係式は以下のようにして導出されたものである。なお、各式で使用される文字は上記関係式の但書きで記したものと同じである。
【0038】
最初に、基板の加工部位、特に底部に帯電する電荷量は、
Q=S×ZeN(t1×n)(S:加工部位の底部の面積)
で表すことができ、前記加工部位の静電容量は、
C=ε0εs×S/d
で表すことができる。したがって、この場合の加工部位底部に付加される電圧Vは、
V=Q/C=ZeN(t1×n)×d/ε0εs
で表すことができる。この結果、前記加工部位の底部が絶縁破壊しないように印加できる電圧の最大値をVmaxとすると、Vmax>Vなる関係を満足しなければならないので、前記関係式を印加されるパルス電圧に着目して、そのパルス数n1及びパルス印加時間t1で整理すると、上述したような関係式が得られることになる。
【0039】
また、本発明の一例においては、前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の電圧値Vpulse(V)が(vtherm/vdc1/2≦0.5L1/L2(イオンの熱速度vthermはvtherm=(8kTi/πMi)/2、vdc=(2eZxVpulse/Mi)1/2、L1は加工するトレンチ幅、L2はトレンチ深さ)となるように制御する。このような要件を満足することにより、前記プラズマ中のイオンは、前記基板の加工部位(溝:トレンチ)に対して、その側壁に衝突することなく、その底部に到達するようになる。したがって、前記基板の加工効率を向上させることができる。
【0040】
さらに、本発明の一例においては、前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス連続印加の後の休止時間t3がn×t1≦t3となるように制御する。この場合、前記パルス電圧の印加時間に比較して、その後の休止時間を長くとるようにしているので、上述したような基板の加工部位の帯電を効果的に抑制することができる。
【0041】
また、上記基板のプラズマ処理装置は、エッチング終点検知及び下地変化検知手段の少なくとも一方を具えることができ、これによって、パルス印加時間t1、パルス休止時間t3、及びパルス電圧Vpulseの少なくとも一つを変更するようにすることができる。これによって、基板の加工状況を即座に加工条件に反映させることができるようになるので、前記基板の加工を精緻かつ効率的に行うことができるようになる。
【0042】
なお、本発明における「RF電圧印加手段」とは、当業者において当然に想到することができる、RFジェネレータ及びインピーダンス整合器を含むことができる。また、必要に応じて適宜増幅器を含むことができる。
【0043】
さらに、本発明における「パルス印加手段」とは、当業者において当然に想到することができるパルスジェネレータの他、適宜増幅器及びローパスフィルターを含むことができる。
【0044】
以上のような本発明の追加の特徴をも鑑み、本発明の基板のプラズマ処理装置及び方法を他の基板のプラズマ処理装置及び方法と対比しながら、説明する。
【0045】
(基板のプラズマ処理装置を用いた比較例)
図1は、従来の基板のプラズマ処理装置の比較例における構成を概略的に示す図である。
【0046】
図1に示す基板のプラズマ処理装置10においては、予め所定の真空度まで排気された真空チャンバー11内に、高周波(RF)電極12と対向電極13とが互いに対向するようにして配置され、RF電極12の、対向電極13と対向する主面上に処理に供すべき基板Sが保持されており、いわゆる平行平板型のプラズマ処理装置を構成している。ガス導入管14からはプラズマ生成及びそれによって基板Sの加工に供すべきガスを矢印で示すようにしてチャンバー11内に導入するとともに、図示しない真空ポンプを用いて、排気口15からチャンバー11内を真空排気するようにして構成している。このとき、チャンバー11内の圧力は例えば約1Pa程度とする。
【0047】
次いで、13.56MHzの商業用RF電源17から整合器16を介してRF電極12にRF(電圧)を印加することにより、RF電極12及び対向電極13間にプラズマPを生ぜしめるようにしている。
【0048】
この際、プラズマP中の正イオンはRF電極12上に生じる負の自己バイアス電位VdcによってRF電極12上の基板Sに高速で入射するようになる。その結果、その際の基板入射エネルギーを利用して基板S上の表面反応を誘発し、リアクティブイオンエッチング(RIE)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング、イオンインプラ等のプラズマ基板処理が行われる。特に、基板を加工するという観点からは、主としてRIEが用いられる。したがって、以下では、特にRIEを用いた基板処理を中心として詳述する。
【0049】
図1に示すようなプラズマ処理装置においては、図2に示すように、RFパワー増大とともにVdc(平均の基板入射エネルギー)は増大するため、処理レート調整、加工形状調整のために主にRFパワーによるVdcの調整が行われている。またVdcが依存する圧力や電極形状でも一部調整することができる。
【0050】
図3、図4は3MHz、Vrf=160V、50mTorr、電極間30mm、300mmウエハサイズの平行平板型Arプラズマを連続体モデルプラズマシミュレータ(G. Chen, L. L. Raja, J. Appl. Phys. 96, 6073(2004))でシミュレーションした結果である。また、図5は、基板Sに対して適したイオンエネルギーの分布状態を示したグラフである。
【0051】
図3に示すように、RF電極電位が周期的に変動するためイオンの基板入射エネルギーも周期的に変動する。ただしイオン質量による電位への追従遅れがあるため、Vrfより小さい振幅Vrf’でイオンエネルギーは時間変動する。イオンエネルギーは正確にはVdcとプラズマポテンシャルVpとの和になるが、Vpの値及び時間変化が相対的に小さいので説明及び図3では省略している。そのため基板Sへの入射エネルギーは、図3に示すグラフを時間積分することにより、図4で示されるような分布となる。
【0052】
図4から明らかなように、図1に示すような装置内に生成されたプラズマ内のイオンエネルギーは、低エネルギー側ピークと高エネルギー側ピークとの2つに分割され、そのエネルギー幅ΔEはプラズマ発生条件によって数10〜数100[eV]となる。したがって、Vdcを基板処理に最適なエネルギーに調整した場合においても、図5に示すように基板入射するイオンにはエネルギーの高すぎるイオン(高エネルギー側ピーク)と低すぎるイオン(低エネルギー側ピーク)とが存在するようになる。
【0053】
したがって、例えばRIEにおいては、高エネルギー側ピークに相当するエネルギーのイオンで基板処理を実施した場合は、肩削り(肩落ち)を誘発して加工形状を悪化させる傾向がある。一方、低エネルギー側ピークに相当するエネルギーのイオンで基板処理を実施した場合は、表面反応閾値以下で基板処理にまったく寄与しない、あるいは異方性劣化 (イオン入射角度が熱速度で広がる) に伴い加工形状を悪化させる傾向がある。
【0054】
(本発明の基板のプラズマ処理装置を用いた具体例)
図6は、本発明の基板のプラズマ処理装置の具体例における構成を概略的に示す図である。図7は、図6に示す装置を用いた場合におけるRF電極に印加される電圧の重畳波形を概略的に示したものである。なお、上記プラズマ処理装置を用いた場合におけるプラズマ処理方法に関しては、主としてRIEを中心に述べる。
【0055】
図6に示すように、本例における基板のプラズマ処理装置20においては、予め所定の真空度まで排気された真空チャンバー21内に、高周波(RF)電極22と対向電極23とが互いに対向するようにして配置され、RF電極22の、対向電極23と対向する主面上に処理に供すべき基板Sが保持されており、いわゆる平行平板型のプラズマ処理装置を構成している。ガス導入管24からはプラズマ生成及びそれによって基板Sの加工に供すべきガスを矢印で示すようにしてチャンバー21内に導入するとともに、図示しない真空ポンプを用いて、排気口25からチャンバー21内を真空排気するようにして構成している。
【0056】
前記ガスとしては、Ar、Kr、Xe、N、O、CO、Hなどのガスの他、適宜SFやCF、C、C、C5、C、Cl、HBr、SiH4、SiFなどのプロセスガスを用いることができる。また、チャンバー21内の圧力は、基板Sに対する加工速度や使用するガスの種類などに応じて適宜に設定することができるが、例えば数Pa程度に保持することができる。
【0057】
次いで、RF電源27から整合器26を介してRF電極22にRF(電圧)を印加するとともに、パルス電源29からローパスフィルター28を介して同じくRF電極22にパルス電圧を印加するようにしている。すると、RF電極22には、図7に示すように、RF電圧とパルス電圧とが重畳された状態で印加されるようになる。これによって、RF電極22及び対向電極23間にはプラズマPが生成されるようになり、このプラズマP中の正イオンがRF電極22上の負電圧(平均エネルギーはVdc)によって加速されて基板Sに高速で入射し、基板Sに対して加工処理を施すようになる。
【0058】
なお、RF電源27内及びパルス電源29内には、必要に応じてこれらの電源から発せされたRF電圧及びパルス電圧を増幅するための増幅器を内蔵することができる。
【0059】
上記パルス電圧は負のパルス電圧とすることが好ましい。上述したように、プラズマP中の正イオンはRF電極22上に生じる負電圧によってRF電極22上の基板Sに高速で入射し、基板Sを加工処理する。また、図7では特に示していないものの、図3にも示すように、RF電極22に印加されるRF電圧は、上記自己バイアス電位によって、主に負の電圧値領域で変化するようになる。したがって、前記パルス電圧を正電圧としてしまうと、前記RF電圧を部分的にキャンセルしてしまうことになり、前記正イオンに対して良好な加速電圧を形成することができなくなってしまう。
【0060】
したがって、上記パルス電圧を負のパルス電圧とすることにより、上述のような不都合を回避することができる。
【0061】
図8は、図6に示す本例のプラズマ処理装置を用いてRFを印加した場合の、Vdc(入射イオン平均エネルギー)のRF周波数依存性を示すグラフであり、図9は、イオンエネルギー幅ΔEi(eV)の、入射イオン平均エネルギーVdc依存性を示すグラフである。なお、基本的に、図8に示すグラフと、図2に示すグラフとは同一である。
【0062】
図8から明らかなように、RF電極22に印加されるRF電圧の周波数が増大するにつれて、入射イオン平均エネルギーVdcは減少し、特にRFパワーが2.2W/cm程度以下では、RF周波数が50MHzを超えると、基板処理に影響を与えないようなしきい値である約50eV以下となる。また、2.2W/cmを超えるようなRFパワーにおいても、VdcのRF周波数依存性が極めて小さくなる。したがって、RF電極22に印加するRF周波数を50MHz以上とすることにより、RF電圧は基板処理に影響を与えず、(負の)パルス電圧の制御のみが基板処理に影響を与えることが分かる。
【0063】
換言すれば、(負の)パルス電圧の制御のみで基板処理の状態を調整することができるようになるため、基板処理に対する操作を簡易化することができ、その操作性を大きく向上させることができる。
【0064】
したがって、本例において、特にRF電極22に対して常にRF電圧を印加するのは、主としてプラズマを効率良く生成すること、及び基板S上に絶縁性の膜が堆積された場合においても効率良くプラズマを生成し、このプラズマで基板Sの加工を実現させることなどが主たる目的となる。
【0065】
また、図9に示すように、同じVdcに対しては、RF電圧の周波数が増大するにつれて、図4に示すような、基板へ入射させるイオンエネルギーの低エネルギー側ピーク及び高エネルギー側ピーク間のイオンエネルギー幅ΔEiが減少する。したがって、RF電圧の周波数を増大させ、特に50MHz以上とすることは、以下に詳述するような、前記低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとを極めて近接させ、狭帯化して単一のエネルギーピークと見做し、この単一化されたエネルギーピークに相当するエネルギーのイオンを用いて基板加工する際に有利となる。
【0066】
図示しない、例えばパルス電源29内に内蔵した所定の制御機構を用いて、パルス電源29から生成したパルス電圧のパルス幅t1(s)及びパルス電圧値Vpulse(V)を、t1≧2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となり、パルス電圧値Vpulseが|Vp-p|<|Vpulse|(Vp-pは前記RF電圧の電圧値)となるように制御する。
【0067】
この場合、パルス電圧に対してイオンが追随できるようになるので、そのイオンエネルギーを時間で積分し、図4に示すようなグラフを得た場合に、低エネルギー側ピークは、処理に影響を及ぼさないような極めて低いエネルギー領域にシフトするようになる。したがって、高エネルギー側ピークのみを最適なエネルギー範囲内に設定することによって、この高エネルギー側ピークのみを用いて基板の処理(加工)を行うことができるようになる。すなわち、その高エネルギー側ピークが本来的に有する狭帯化特性を利用するとともに、前述したエネルギー範囲の最適化を行えば、基板の加工形状を精緻に制御することができるようになる(第1の加工方法)。
【0068】
なお、高エネルギー側ピークのエネルギー値は、パルス電圧の電圧値Vpulseによって制御されることになる。
【0069】
さらに、図示しない、例えばパルス電源29内に内蔵した所定の制御機構を用いて、パルス電源29から生成したパルス電圧のパルス幅t1(s)及び繰り返し時間t2(s)を、2π/ωrf<t1<t2<2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となるように制御する。
【0070】
この場合、パルス電圧に対してイオンが追随できなくなるので、そのイオンエネルギーを時間で積分し、図4に示すようなグラフを得た場合に、低エネルギー側ピークと記高エネルギー側ピークとが極めて近接するようになり、これらを一体化したエネルギーピークと見做すことができる。すなわち、低エネルギー側ピークと前記高エネルギー側ピークとが極めて近接して存在することにより、これらを一括して狭帯化したエネルギー幅を有する単一のエネルギーピークとして取り扱うことができる。
【0071】
したがって、この単一化されたエネルギーピークのエネルギー範囲の最適化、及び前記低エネルギー側ピーク及び前記高エネルギー側ピークの近接度合い、すなわち前記単一化されたエネルギーピークの狭帯化度合いの最適化を行えば、前記単一化されたエネルギーピークを利用して基板の加工形状を精緻に制御することができる(第2の加工方法)。なお、上記単一化エネルギーピークのエネルギー値は、パルス電圧の電圧値Vpulse及び/又はDuty比を制御することによって、適宜調整することができる。
【0072】
一方、上述した第1の加工方法及び第2の加工方法のいずれにおいても、パルス電圧(及びRF電圧)を連続的に印加して連続的な加工を実施すると、基板Sの加工部位、すなわち加工による形成途中である溝(トレンチ)の特に底部が正に帯電するようになる。この結果、溝内に入射するイオンなどが前記帯電に起因したクーロン力の作用を受けて偏向し、前記溝の底部に到達しなくなってしまい、特にアスペクト比の高い溝加工を行うことが困難になってしまう場合がある。さらに、前記溝底部に帯電する電荷量が増大すると、前記溝底部を基点とした絶縁破壊が生じてしまう場合がある。
【0073】
かかる観点より、基板Sを加工して上記溝を形成するような場合には、前記パルス電圧を所定時間印加した後、前記パルス電圧の印加を休止することが好ましい。これによって、前記溝底部の帯電を効果的に抑制することができ、上述した諸問題を除去することができる。
【0074】
図10は、基板Sの加工に際して、パルス電圧休止期間を設けた場合の、時間に対する電圧印加プロファイルを概念的に示すグラフであり、図11は、その際の加工途中にある溝内の帯電の様子を概念的に示すグラフである。なお、いずれの図においても(a)はパルス電圧を休止時間を設けることなく連続的に印加する場合を示しており、(b)はパルス電圧を休止時間を設けながら印加する場合を示している。
【0075】
図10(b)に示すように、本発明においては、上述した第1の加工方法及び第2の加工方法のいずれにおいても、所定時間パルス電圧を印加した後、パルス電圧印加に対する休止時間を設定する。すると、図11(b)に示すように、パルス電圧を印加している最中は加工途中にある溝底部の帯電量は略線形的に増大するが、前記パルス電圧の印加を休止すると、その帯電量は急速に減少するようになる。これは、帯電した正電荷が基板を通じて拡散し、中和されたことに起因する。したがって、加工途中にある溝底部の帯電を効果的に抑制することができ、上述したような加工精度の劣化及び絶縁破壊などを抑制することができる。
【0076】
一方、図10(a)に示すように、パルス電圧を休止時間を設けることなく連続的に印加すると、図11(a)に示すように、加工途中にある溝底部の帯電量は略線形的に増大するようになる。したがって、加工途中にある溝底部の帯電量が増大し、加工に供するイオンが前記溝底部にまで到達しなくなって、精緻な加工が困難となるとともに、さらには絶縁破壊をも生ぜしめてしまう場合がある。
【0077】
なお、加工途中にある溝を基点とする絶縁破壊を効果的に防止するためには、パルス電源29内に設けた前記制御機構によって、前記パルス電圧の連続印加パルス数nがn<ε0εs/(ZeNt1)x(Vmax/d) (ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、t1はパルス印加時間(s)、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御する。同様に、前記パルス電圧の印加時間t1がt1<ε0εs/(ZeN)x(Vmax/d) (ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御する。
【0078】
上記関係式は、前記溝底部に帯電した電荷量から生じる電圧Vを、絶縁破壊しない最大の電圧Vmaxを考慮(V<Vmax)して得たものであり、その導出過程は上記に示した通りである。
【0079】
また、加工に寄与するイオンを加工途中の溝の側面に衝突することなく、その底部にまで到達させ、その加工効率を向上させるとともに、精緻な加工を促進するためには、前記パルス電圧の電圧値Vpulse(V)が(vtherm/vdc1/2≦0.5L1/L2(イオンの熱速度vthermはvtherm=(8kTi/πMi)/2、vdc=(2eZxVpulse/Mi)1/2、L1は加工するトレンチ幅、L2はトレンチ深さ)となるように制御する。なお、この関係式は、図12に示すような溝形状に基づいて導出したものである。
【0080】
また、パルス連続印加の後の休止時間t3がn×t1≦t3となるように制御することが好ましい。この場合、前記パルス電圧の印加時間に比較して、その後の休止時間を長くとるようにしているので、上述したような基板の加工部位の帯電を効果的に抑制することができる。
【0081】
なお、プラズマエッチングを考えたとき、例えばシリコンのエッチングではプロセス始めは自然酸化膜を除去するために200eV程度の大きなイオンエネルギーが必要であり、次のエッチング段階では100eV程度の比較的小さなイオンエネルギーが望ましく、酸化膜等のストッパーが出てきた最終段階では70eV程度のさらに小さなイオンエネルギーでエッチングすることが精密加工の観点から望ましい。これらに必要なイオンエネルギーは、本発明における負パルスのパルス幅t1や繰り返し時間t2、あるいは負パルス電圧Vpulseの少なくとも1つを変更してプロセスの変更とともにイオンエネルギーを制御、切り替えることが可能である。
【0082】
さらに、パルス電圧を印加する際、パルス電源において周期的な充電、放電が実行されることになる。そのため、充電に要する時間以上には周波数を大きくできない。また、Duty比を0.5以上にすることは困難である。このような場合は、2以上のパルス電源を準備するとともにこれらをトリガーで接続し、互いに位相をずらすようにして重畳させるようにすることによって、結果的に、単一のパルス電源では得られなかったような、高い周波数及び/又はDuty比が0.5以上のパルス電圧を得ることができる。
【0083】
さらに、2以上のパルス電源からの電圧Vpulseを変更することにより、Vpulseが周期的に異なるステップ状のパルス電圧を形成することができる。
【0084】
図13は、図6に示すプラズマ処理装置の変形例を示す構成図である。図13に示すプラズマ処理装置は、RF電極22内にエッチング終点検知モニター又は下地変化検知モニター32を設けている。これによって、基板Sの加工状況に基づいて、パルス印加時間t1、パルス休止時間t3、及びパルス電圧Vpulseの少なくとも一つを適宜に変更することができるようになるので、基板Sの加工を精緻かつ効率的に行うことができるようになる。
【0085】
なお、上述したモニターは基板Sの抵抗値などをモニタリングすることによって、基板Sの加工状態を知ることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は当然に以下の内容に限定されるものではない。なお、以下に示す具体的な結果は、総て所定のシミュレーションに基づくものである。
【0087】
(実施例1)
本実施例では、図6に示すプラズマ処理装置を用いた際の、具体的な動作特性について調べた。
【0088】
最初に、チャンバー21内にCガス及び酸素ガスを導入し、その圧力を2〜200mTorrに保持した。次いで、RF電極22に対し、RF電源27から100MHz、電圧Vp-p =80VのRF電圧を印加するとともに、パルス電源29から10MHz、Vpulse=−500Vの負電圧パルスを印加し、互いに重畳させた。プラズマ密度N=5×1016[個/m]のCFイオンの場合、(ωp/5)/2πは約1.7MHzとなるため、パルス電圧のパルス幅t1(s)及び繰り返し時間t2(s)に対して、2π/ωrf<t1<t2 <2π/(ωp/5) を満たし、DCパルス電圧にもイオンは追随できなくない領域となる。
【0089】
したがって、図14、図15に示す通り、DC負パルス重畳印加により2周波(Dual)重畳印加と比較してイオンエネルギー分布は狭帯化する。特に、Duty比(=t1/t2)を小さくすることにより、イオンエネルギー分布はさらに狭帯域化する。すなわち、パルスDuty比を変更することにより、Duty比にほぼ比例する平均エネルギーの制御、変更が可能となる。またイオンの平均エネルギーはパルス負電圧Vpulse、あるいはDuty比と合わせて変更することによる平均エネルギー制御も可能である。
【0090】
なお、加工途中にある溝底部の電圧は約50V程度であった。一般に、前記電圧が約200Vを超えるようになると、絶縁破壊が生じるようになるので、上述のようにして電圧を抑制することにより、上記絶縁破壊を生じることなく、精緻な溝加工が可能となる。
【0091】
(実施例2)
本実施例でも、図6に示すプラズマ処理装置を用いた際の、具体的な動作特性について調べた。
【0092】
本実施例では、RF電源27から100MHz、電圧Vp-p =80VのRF電圧を印加するとともに、パルス電源29から1MHz、Vpulse=−250Vの負電圧パルスを印加し、互いに重畳させた。なお、その他の条件については実施例1と同様とした。
【0093】
本実施例では、パルス幅t1 ≧2π/(ωp/5) を満たすため、パルス電圧に対してイオンは追随できる。そのため、図16に示すように、低エネルギー側ピークと高エネルギー側ピークとは、互いに大きなイオンエネルギー幅を介して存在するようになる。なお、図16に示すように、負電圧パルスのDuty比(=t1/t2)を大きくすることにより、前記イオンエネルギー幅を維持し、互いのエネルギー位置を保ったまま、高エネルギー側ピークの分布状態を増大させることができる。
【0094】
なお、高エネルギー側ピークのエネルギー値は、負パルス電圧の電圧値Vpulseで制御することができる。
【0095】
本実施例では、高エネルギー側ピークのエネルギー幅は8[eV]と極めて狭いため、このようなエネルギーのイオンを用いた基板処理を行うことにより、精緻な加工を行うことができるようになる。
【0096】
また、加工途中にある溝底部の電圧は約50V程度であった。一般に、前記電圧が約200Vを超えるようになると、絶縁破壊が生じるようになるので、上述のようにして電圧を抑制することにより、上記絶縁破壊を生じることなく、精緻な溝加工が可能となる。
【0097】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【0098】
例えば、上記具体例では、RIEを中心として基板加工に対するプラズマ処理装置及び方法について説明してきたが、その他の処理装置及び方法に対しても適宜使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】基板のプラズマ処理装置(比較例)の一例における構成を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す装置を用いた場合の、RFパワーとVdc(平均の基板入射エネルギー)との関係を示すグラフである。
【図3】50mTorrのArガス圧で、電極間30mm、300mmウエハを3MHz、Vrf=160VのRFを用いて加工した場合の平行平板型Arプラズマを連続体モデルプラズマシミュレータ(G. Chen, L. L. Raja, J. Appl. Phys. 96, 6073(2004))でシミュレーションした結果である。
【図4】同じく、50mTorrのArガス圧で、電極間30mm、300mmウエハを3MHz、Vrf=160VのRFを用いて加工した場合の平行平板型Arプラズマを連続体モデルプラズマシミュレータ(G. Chen, L. L. Raja, J. Appl. Phys. 96, 6073(2004))でシミュレーションした結果である。
【図5】基板Sに対して適したイオンエネルギーの分布状態を示したグラフである。
【図6】本発明の基板のプラズマ処理装置の一例における構成を概略的に示す図である。
【図7】図6に示す装置を用いた場合におけるRF電極に印加される電圧の重畳波形を概略的に示したものである。
【図8】図6に示す本例のプラズマ処理装置を用いた場合の、Vdc(入射イオン平均エネルギー)のRF周波数依存性を示すグラフである。
【図9】イオンエネルギー幅ΔEi(eV)の、入射イオン平均エネルギーVdc依存性を示すグラフである。
【図10】基板の加工に際して、パルス電圧休止期間を設けた場合の、時間に対する電圧印加プロファイルを概念的に示すグラフである。
【図11】図10の電圧印加プロファイルに対応した、加工途中にある溝内の帯電の様子を概念的に示すグラフである。
【図12】加工途中にある溝形状を概念的に示す図である。
【図13】図6に示すプラズマ処理装置の変形例を示す構成図である。
【図14】実施例における、イオンエネルギーの分布状態を示すグラフである。
【図15】実施例における、パルス電圧のDuty比と平均イオンエネルギーVdcの関係を示すグラフである。
【図16】同じく、実施例における、イオンエネルギーの分布状態を示すグラフである。
【符号の説明】
【0100】
10,20 (基板の)プラズマ処理装置
11,21 チャンバー
12,22 RF電極
13,23 対向電極
14,24 ガス導入管
15,25 排気口
16,26 整合器
17,27 RF電源
28 ローパスフィルター
29 パルス電源
32 エッチング終点検知モニター又は下地変化検知モニター
S 基板
P プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が真空に保持可能なチャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、主面上において処理すべき基板を保持するように構成されたRF電極と、
前記チャンバー内において、前記RF電極と対向するように配置された対向電極と、
前記RF電極に対して所定周波数のRF電圧を印加するためのRF電圧印加手段と、
前記RF電極に対して前記RF電圧と重畳するようにして所定のパルス電圧を印加するためのパルス電圧印加手段とを具え、
前記パルス電圧印加手段は、前記パルス電圧の前記印加のタイミングを調整し、前記パルス電圧を印加しない休止時間を設定する制御機構を有することを特徴とする、基板のプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記パルス電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記パルス電圧は、負のパルス電圧であることを特徴とする、請求項1に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記RF電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記RF電圧の周波数(ωrf/2π)が50MHz以上であり、
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構は、少なくとも前記パルス電圧のパルス幅t1(s)及びパルス電圧値Vpulse(V)を制御し、この制御機構により、前記パルス幅t1がt1≧2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となり、パルス電圧値Vpulseが|Vp-p|<|Vpulse|(Vp-pは前記RF電圧の電圧値)となるように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記RF電圧印加手段から前記RF電極に印加される前記RF電圧の周波数(ωrf/2π)が50MHz以上であり、
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構は、少なくとも前記パルス電圧のパルス幅t1(s)及び繰り返し時間t2(s)を制御し、この制御機構により、前記パルス幅t1及び前記繰り返し時間t2が、2π/ωrf<t1<t2<2π/(ωp/5)(ωpはプラズマイオン角周波数であって、ωp=(e/εMi)1/2,e:電子素量、ε:真空誘電率、Mi:イオン質量(kg)、N:プラズマ密度(個/m))となるように制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の連続印加パルス数nがn<ε0εs/(ZeNt1)x(Vmax/d) (ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、t1はパルス印加時間(s)、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の印加時間t1がt1<ε0εs/(ZeN)x(Vmax/d) (ε0は真空の誘電率、εsは加工するトレンチ底部の比誘電率、Zはイオン価数、vはボーム速度でv=(kTi/Mi)1/2、dは底部絶縁体膜厚、Vmax/dは絶縁耐圧)となるように制御することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス電圧の電圧値Vpulse(V)が(vtherm/vdc1/2≦0.5L1/L2(イオンの熱速度vthermはvtherm=(8kTi/πMi)/2、vdc=(2eZxVpulse/Mi)1/2、L1は加工するトレンチ幅、L2はトレンチ深さ)となるように制御することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記パルス電圧印加手段の前記制御機構によって、前記パルス連続印加の後の休止時間t3が
×t1≦t3
となるように制御することを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項9】
エッチング終点検知及び下地変化検知手段の少なくとも一方を具え、
前記検知手段によってパルス印加時間t1、パルス休止時間t3、及びパルス電圧Vpulseの少なくとも一つを変更することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の基板のプラズマ処理装置。
【請求項10】
内部が真空に保持されたチャンバー内の、RF電極と前記RF電極に対向する対向電極との間に、前記RF電極の主面上において処理すべき基板を保持する工程と、
前記RF電極に対して所定周波数のRF電圧を印加する工程と、
前記RF電極に対して前記RF電圧と重畳するようにして所定のパルス電圧を印加する工程と、
前記パルス電圧の印加のタイミングを調整し、前記パルス電圧を印加しない休止時間を設ける工程と、
を具えることを特徴とする、基板のプラズマ処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−243568(P2008−243568A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82014(P2007−82014)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】