説明

基板上に多数のナノシリンダーを有する部材の製造方法および該部材の使用

本発明は、多数のナノシリンダーがその上に施与されており、その際、それぞれのナノシリンダーは少なくとも4の上下に重なって存在している、1〜10原子層からなる層を有する基板からなる部材の製造方法に関する。該層は、交互に磁性の元素の原子Mと非磁性の元素の原子Xとからなり、その際、有利にはM=Fe、CoまたはNi、およびX=Pd、Pt、RhまたはAuが選択される。層の数および厚さは、ナノシリンダーの磁気特性に影響を与える。このために、まず準備した基板を、Al23からなるナノポーラス膜により被覆する。引き続き、該ナノポーラス膜により覆われた基板に交互に磁性の元素の原子Mと非磁性の元素の原子Xとを蒸着させる。最後に、膜の細孔の箇所にナノシリンダーが残るよう膜を除去する。本発明により製造された部材は、磁気メモリー媒体として、回路素子として、またはセンサーとして使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数のナノシリンダーがその上に施与されている基板を有する部材の製造方法、および磁気メモリー媒体、回路素子またはセンサーとしての該部材の使用に関する。
【0002】
金属成分からなり、適切な基板上に存在する薄い合金フィルムが、磁気メモリー媒体として、回路素子として、またはセンサーとして使用されるが、その際、メモリー応用にとって層表面に対する磁気モーメントの配向は、重要な意味を有する。
【0003】
ビットメモリーサイズの縮小は、その中に情報が貯蔵される磁気体積を低減することによって行うことができる。しかしこのような低減は必然的に、貯蔵された情報の熱安定性における損失をもたらし(超常磁性限界、特徴的な温度より高い温度での磁化方向制御プロセスの熱による励起)、このことによって目下達成可能なメモリー密度は限定されている。
【0004】
適切な材料クラスの選択により、および構造化法により、メモリー密度を著しく高めることができる。このために、垂直な結晶磁気異方性を示す系を使用する必要がある。目下、このためには、高価な製造法で導入しなくてはならず、かつ熱処理が必要なCo−Cr−Ptのような三成分の材料組み合わせが使用されている。
【0005】
Yong LeiおよびWai−Kin Chim著の、Shape and Size Control of Regularly Arrayed Nanodots Fabricated Using Ultrathin Alumina Masks、Chem. Mater.2005年、17、第580〜585頁から、調整可能なサイズと形状とを有するナノ粒子からなる高配向性の半導体および金属構造の製造が公知である。これらの構造は、Al23からなる、超薄型アルミニウムマスクまたはUTAMとも呼ばれるナノポーラス膜により、Si基板およびSi/SiO2基板上に施与される。該構造のサイズおよび形状は、この膜の貫通している細孔の開口部のアスペクト比により、ならびに材料の量により調整される。これらのマスクは、比較的高い温度でもエピタキシャル成長のために使用することができる。この方法により従来は、20nmまでの大きさを有する半導体ナノ粒子からなる規則的な構造を製造することができた。
【0006】
M.Kroell、W.J.Blau、D.Grandjean、R.E.Benfield、F.Luis、P.M.PaulusおよびL.J.de Jonghは、Magnetic properties of ferromagnetic nanowires embedded in nanoporous alumina membranes、Journal of Magnetism and Magnetic Materials 249(2002年)、第241〜245頁に、Al23からなるナノポーラス膜により製造された鉄、ニッケルおよびコバルトのワイヤを記載している。これらは直径(5〜250nm)および長さ(数百マイクロメートルまで)に関して調整することができる。
【0007】
S.Kavita、V.R.Reddy、A.GuptaおよびM.Guptaは、Preparation of Fe/Pt Films with Perpendicular Magnetic Anisotropy、Hyperfine Interactions(2005年)160、第157〜163頁において、イオン線スパッタリングおよびその後の熱処理により製造された、L10規則化された薄い等原子FePtフィルムの構造およびその磁気特性を記載している。
【0008】
US2002/0158342A1は、多数のナノシリンダーがその上に施与されている基板を有する部材を開示しており、その際、それぞれのナノシリンダーは、上下に重なって存在している層を有しており、該層は、交互に、1の磁性の元素の原子と、1の非磁性の元素の原子とからなる。その製造はジブロックコポリマーにより行われ、その上に金属層が少なくとも部分的に堆積され、該層は配向およびジブロックコポリマーの成分の除去の後にナノシリンダーを構成する。
【0009】
しかし選択された二成分合金系は、同様に、所望の特性、たとえばFe−Pt系、Fe−Au系またはCo−Pt系のような特性を有していてもよい。有利には蒸着法により実施される材料合成の際に、運動力学的な妨害によって、垂直な結晶磁気異方性を有する所望のL10相の有効な規則化の調整が妨げられる。むしろ該系は、室温で格子位置のランダムな占有を有する、不規則なfcc相中で結晶化する。しかし適切な蒸着パラメータによって、所望の配向を調整することができる。このことによって、L10規則構造が熱力学的に安定した配置ではない材料組み合わせを人工的に製造することができる。このための1例は、FeおよびAuの単層の堆積である。
【0010】
これを出発点として本発明の課題は、前記の欠点を有しておらず、かつ制限のない、このような部材の製造方法およびその使用を提案することである。特にこの方法は、個々の構造要素の十分なデカップリングにおいて、構造のできる限り完全な、横方向の配置を有し、数cm2の範囲の広面積の配列を有し、ほぼ垂直な結晶磁気異方性を示し、かつ構造サイズのできる限り単分散性の分布を有し、その際、構造サイズが約10nmのサイズオーダーに存在する部材の製造を可能にすべきである。
【0011】
前記課題は、その方法に関して請求項1の方法工程により解決され、かつその使用に関して、請求項10に記載の使用によって解決される。従属請求項は、本発明の有利な実施態様を記載している。
【0012】
本発明による方法は、a)〜d)の方法工程を有している。
【0013】
方法工程a)によれば、まず以下の基準により選択される基板を準備する:基板材料として、以下の両方の材料群に属している限りは、全ての材料が適切である:
− 非晶質系、たとえばガラス、有利にはFe−PdならびにFe−Auのために適切非晶質ガラス、および
− 磁化の垂直な配向を可能にする成長方向におけるMXフィルムの成長を媒介するために適切な格子定数を有する結晶質系。Fe−Ptに関して特に適切であるのは、MgO(001)、GaAs(001)またはSrTiO3(001)である。
【0014】
引き続き、方法工程b)により基板を、Al23からなるナノポーラス膜により被覆し、その際、Al23膜中の細孔の直径、間隔および配置は、ナノシリンダーの所望のパラメーターに相応して選択される。
【0015】
これに引き続く方法工程c)において、ナノポーラス膜により被覆された基板を、ナノシリンダーの高さの所望の値と、層の数とが達成されるまで、磁性の元素の原子Mと、非磁性の元素の原子Xとの1もしくは複数の原子層をそれぞれ交互に堆積させる。有利には原子をそのつど電子線蒸発装置を用いて堆積させる(分子線エピタキシー)。このために必要な、250℃〜400℃の範囲の中程度の蒸着温度により、堆積層のほぼ完全な配向が可能となる。この方法で製造される層は、ほぼ完全なL10規則構造を有している。
【0016】
最後に、方法工程d)により、Al23膜を有利にはこのために適切な溶剤、たとえば水またはアルコールによって、基板上で膜の細孔の箇所にナノシリンダーが残留するように、基板の表面から除去する。
【0017】
本発明による方法により製造される部材は、その上に多数の、ナノドット、ナノポイントまたはナノカラムとも呼ばれるナノシリンダーが施与されている基板からなる。この場合、それぞれのナノシリンダーが、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上の、上下に重なって存在している層を有している。ナノシリンダーを構成している層はこの場合、それぞれ交互に磁性の元素の原子Mと、非磁性の元素の原子Xとからなる。
【0018】
有利な実施態様では、磁性の元素の原子としてM=Fe、CoまたはNiが選択され、かつ非磁性の元素の原子としてX=Pd、Pt、RhまたはAuが選択される。この場合、特に有利であるのは、Fe−Pt、Fe−Au、Co−Pt、Co−Au、Co−NiおよびCo−Pdの組み合わせである。
【0019】
有利にはそれぞれの層は、1〜10原子層を有しており、その際、特に有利な実施態様では、それぞれの層が、その隣の隣の層であるそれぞれの層と同じ数の原子層を有する。
【0020】
層の数および厚さは、ナノシリンダーの磁気特性に影響を及ぼす。たとえばFe−Pt系のL10規則相は、交互にFeおよびPtからなる原子層を特徴としており、かつ極だって大きい結晶磁気異方性に基づいて、極めて大きな保磁力も有している。しかしこの効果は、メモリー媒体中での磁化方向制御にとって極めて大きな磁化電界強度(>500mT)を必要とし、これは数ナノメートルのサイズオーダーの構造サイズに適用することが極めて困難である。
【0021】
このような際だった結晶磁気異方性の原因は、Fe原子とPt原子との間の強力な相互作用にある。しかしこの分極を利用することによって保磁力を調整することができる。このために、Fe層の厚さは変化し、たとえば2つのFe単層を使用すると、極端な電界および熱による励起に対する貯蔵された情報の安定性は一定に維持されるが、実用的な範囲での保磁力(250mT)が著しく低下する。層厚さおよび蒸着パラメータを適切に選択することにより、50〜1000mTの保磁力を調整することができる。上限は、完全に配列された層の飽和磁化により生じる。このような構造の望ましい副作用は、層平面からの約15°の磁化ベクトルの傾きである。この傾きにより、簡素化された磁化方向制御プロセスが可能となり、かつ本発明による部材を磁気メモリー媒体として使用する際に、より高い読み出し信頼性が可能になる。
【0022】
有利にはナノシリンダーは、10nm〜100nm、特に有利には20nm〜50nmの直径、および10nm〜100nm、特に有利な20nm〜50nmの間隔を有する。有利にはナノシリンダーは、二次元の立方形または六角形の構造の形で基板上に配置されている。横方向の構造サイズは、Al23膜中の細孔の直径、間隔および配置により調整される。
【0023】
さらにナノシリンダーは、有利には2〜500nm、特に有利には5nm〜100nmの高さを有する。ナノシリンダーの高さの所望の値は、配置される材料の量を変えることによって、この広い範囲で調整される。
【0024】
本発明による方法により製造される部材は、磁気メモリー媒体として、回路素子として、またはセンサーとして使用することができる。
【0025】
本発明は特に、以下に記載する利点を有する。
【0026】
自己組織化ナノポーラスAl23マスクを使用することにより、生じるFe−Ptナノシリンダーの高い完全性が得られる。基板からマスクを除去した後に、使用されるAl23マスク中の細孔の直径に依存した直径を有するL10規則化されたFe−Ptナノシリンダーからなる、極めて規則的な配置が残る。これはAFM試験によって証明されており、ここで、L10規則化された、15〜50nmの直径を有するFe−Ptナノシリンダーが検出された。Fe−Ptナノシリンダーの直径のさらなる低減は、Al23マスクのさらなる最適化によって達成することができる。
【0027】
従来、ナノシリンダーの広面積の配置は、約500×500μm2の範囲にわたって達成されていた。マスクの更なる最適化は、数cm2のサイズオーダーにおける配列で製造することができる。
【0028】
垂直な異方性は、Fe−Pt系のL10相の固有の特性である。磁化ベクトルの配向は、選択される製造条件(蒸着速度、基板温度および層厚さ)によって、ほぼ任意に調整することができる。磁化の垂直な配向は、深さ選択的なメスバウアーの分光分析(原子レベルでの磁気特性の測定)により、およびSQUIM測定(磁化方向制御プロセスの特性決定)により検出された。
【0029】
本発明を実施例に基づいて以下に詳細に説明する。
【0030】
Fe−Ptナノシリンダーからなる部材(アレイ)を本発明により製造するために、MgO(001)単結晶からなる基板を準備した。層の堆積前に、基板はそれぞれナノポーラスのAl23マスクを備えていた。細孔径は、20nmであり、細孔の平均間隔は、25nmであった。
【0031】
これに引き続き、Fe原子またはPt原子(純度はそのつど99.95%よりも良好)を、分子線エピタキシーにより定義された基板温度で基板上に堆積させた。
【0032】
加熱フィラメントにより、基板温度ひいては堆積温度を調整することができた。材料源と基板との間隔は、約0.3mであった。規則化されたL10相を得るために、堆積温度350℃および堆積速度0.3nm/分(Fe)もしくは0.01nm/分(Pt)で堆積させた。全層厚さは、約4nmであった。原子層毎の堆積を実施するために、試験体ホルダーおよび材料源はそれぞれシャッターを備えており、該シャッターはそのつど、所望の層厚さが達成された後に閉鎖された。第二の元素を堆積するために、相応するシャッターを開き、かつ該当する元素を堆積させた。
【0033】
層の堆積および周囲雰囲気での基板の冷却を行った後で、ナノポーラスのAl23マスクを、水またはアルコール(イソプロパノール)による洗浄によって除去した。
【0034】
ここに紹介した例に関して、交互に2つの単層の鉄と、2つの単層の白金とからなる合計して8または12の上下に重なって存在している層が堆積するまで、MgO(001)単結晶からなる基板上に、順次、それぞれ2つの単層の鉄および2つの単層の白金を蒸着した。
【0035】
本発明により製造された、FePtナノシリンダーからなる部材は、層法線に対して約10°〜20°のわずかな傾きで、全ての製造された粒径(25nm、50nm)に関して、磁化の垂直な配向を示す。これより高い成長温度を使用することにより、層系の完全な配向ひいては完全な配列調整を達成することができる。しかしわずかな傾きは、メモリー媒体としての適用のために有利である。というのも、一方では高い結晶磁気異方性によって所望の情報が貯蔵され、他方では、たとえば記録ヘッドにおける外部からの電界による所望の磁化方向制御プロセスが容易になるからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のナノシリンダーがその上に施与されている基板を有する部材であって、その際、それぞれのナノシリンダーは、少なくとも4の、上下に重なって存在する層を有しており、該層は交互に磁性の元素の原子Mと、非磁性元素の原子Xとからなっている部材の製造方法であって、方法工程
a)基板を準備する工程
b)前記基板を、Al23からなるナノポーラス膜により被覆する工程
c)前記ナノポーラス膜により被覆された前記基板に、磁性の元素の原子Mおよび非磁性の元素の原子Xとを交互に蒸着させる工程、その際、前記原子は、250℃〜400℃の範囲の蒸着温度で堆積され、
d)膜の細孔の箇所において、ナノシリンダーが前記基板上に残るように、膜を除去する工程
を有する、多数のナノシリンダーがその上に施与されている基板を有する部材の製造方法。
【請求項2】
M=Fe、CoまたはNi、およびX=Pd、Pt、RhまたはAuを選択する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
それぞれの層が、1〜10原子層を有するように蒸着を行う、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
それぞれの層が、その一つおいて隣の層と同じ数の原子層を有するように蒸着を行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
10nm〜100nmの直径および2〜100nmの高さを有するナノシリンダーを製造する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
10nm〜100nmの間隔を置いて配置されているナノシリンダーを製造する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
立方形または六角形の構造で基板上に配置されているナノシリンダーを製造する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
原子をそのつど電子線蒸着により堆積する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
膜を溶剤によって基板から除去する、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
磁気メモリー媒体として、回路素子として、またはセンサーとしての、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法により製造された部材の使用。

【公表番号】特表2009−536688(P2009−536688A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508189(P2009−508189)
【出願日】平成19年4月28日(2007.4.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003792
【国際公開番号】WO2007/131617
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(591004618)フォルシュングスツェントルム カールスルーエ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (50)
【氏名又は名称原語表記】Forschungszentrum Karlsruhe GmbH
【住所又は居所原語表記】Weberstrasse 5, D−76133 Karlsruhe,Germany
【Fターム(参考)】