説明

基板保持機構、半導体基板の分離処理装置および半導体基板の分離方法

【課題】 極めて簡単な構成で液中でも半導体基板を安全かつ確実に保持でる半導体基板の保持機構を提供し、さらに、ウエット状態で密着した半導体基板同士を破損することなく自動的に、高速で分離し、保持して搬送することが可能な半導体基板の保持装置とこれを用いた分離装置および分離方法を提供する
【解決手段】チャック本体110に2以上の液体流入口113とこの液体流入口に接続されている中空円筒状のノズル本体120とを有し、前記ノズル本体にはその前端を閉鎖する蓋121とこの蓋から僅かに離れた位置に径方向に向けて開口形成された吐出口122を有し、吐出口から排出された流体の流路に所定角度に傾斜した斜面を有する液流規制部119を有し、前記液流規制部の外周に基板面と平行な平坦部118を有し、前記平坦部の一部領域に半導体基板に接するように突出した保持部材125が配置されている構成の基板保持機構とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光発電などの光起電力発電装置などに用いられる半導体基板の液体を用いた保持機構、これを用いた分離装置および分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在太陽電池等の用途に用いられる光起電力用基板は使用材料の種類によって結晶系、アモルファス系、化合物系等に分類される。これらの中でも、従来高効率であることから、ほとんどの場合単結晶系シリコンが用いられていた。一方、高効率化が難しいという弱点はあるものの、低コストで製造できるというメリットから近年多結晶型シリコンも徐々に市場に受け入れられてきている。しかし、依然として現時点での主流は結晶系シリコンである。
【0003】
結晶系シリコン基板は、品質の優劣はあるものの一般的な半導体デバイスに使用されている半導体基板と同様なプロセスにより製造される。一般に半導体基板(ウエーハ)は、引上げ法(チョクラルスキー法、CZ法)で育成されたインゴットブロックを鏡面状の薄板に加工することで製造される。
【0004】
この、CZ法により製造されたシリコン単結晶インゴットは研削され、所定の寸法とされ、さらに所定の長さに切断される。柱状に加工されたインゴットは、例えばエポキシ系の接着剤でカーボン製のベースホルダに固定され、マルチワイヤーソーによってスライスされる。スライスされたインゴットはベースホルダに接着されたまま、ベースホルダを上向きにして吊り下げられ、洗浄タンクへと導入され、粗洗浄、若しくは前工程洗浄と称する洗浄処理が行われる。
【0005】
その後、仕上げ洗浄や後工程でのエッチング等の必要な処理が行われ半導体基板ができあがる。
【0006】
ところで、前記粗洗浄の後、次工程に移すためにスライスされた半導体基板を所定の規格のトレー・カセット内に納めたり、整列させる必要がある。しかし、洗浄タンクから取り出された粗洗浄後の半導体基板は、各基板が濡れた状態で密着しており、これを1枚ずつ分離したり整列させる作業は非常に困難である。従来、この行程は作業員の手作業により行われていたため、製造工程全体の自動化や、低コスト化を図る上で大きな障害になっていた。また、ウエット状態で密着した脆弱な半導体基板同士を無理矢理引き剥がそうとすると容易に破損してしまい、自動化を妨げる大きな要因となっていた。
【0007】
ところで、特開平9−129587号公報には、ベルヌーイ保持具にてシリコンウエハを保持する試料保持方法、試料回転方法及び試料表面の液体処理方法並びにそれらの装置が開示されている。また、ベルヌーイ保持具に用いられるのは流体と記載され、流体の一例として液体も記載されている。しかし、この文献に開示されているベルヌーイ保持具は、単にシリコンウエハの洗浄処理を行う際に非接触でウエハを保持するために用いられるものであり、ウエハを保持したまま移動する機構に用いられるものではない。このため、この文献のベルヌーイ保持具は、洗浄、エッチングのための装置、機構と一体となっていて、チャッキング装置に転用することは困難である。また、実施例でベルヌーイ保持具に用いられているのは気体だけであり、流体として液体を用いた実施例も液中での使用に関する示唆もない。
【0008】
特開2005−340522号公報には、吸着対象のウェーハの変形やワレを防止し、該ウェーハの主表面にキズを発生させたり、パーティクルを付着させたりせずに良好な主表面状態を保つとともに、ハンドリングが簡単で、高いガス圧力がかかるようなことがあっても破壊されることがないベルヌーイチャックを提供することを目的として、ウェーハを支持する円盤状のウェーハ吸着盤4を有するとともに、ウェーハ吸着盤4は、ウェーハ吸着面の幾何学的中心位置とは異なる位置に、ベルヌーイ効果によってウェーハを吸着するためのガスを流出する複数のガス流出口5が該中心位置に対する径方向に分散配置され、かつウェーハ吸着面側へガスを供給するガス供給配管から、複数のガス流出口5のそれぞれに直接至るガス供給分岐配管が設けられることを特徴とするベルヌーイチャックが開示されている。
【0009】
しかし、この文献のベルヌーイチャックも媒体として利用しているのは気体であり、液体を用いる記述はない。また、このベルヌーイチャックはガス流出口自体が傾斜しているため、加工が困難でコストが上昇する。しかも、1つの供給口からガス流出口が分岐しているため、媒体として液体を用いた場合、各流出口での流速や流量を一定にすることが困難である。なお、ピン6はウェーハがベルヌーイチャックCから飛び出すのを防止する機能しか果たしていない。
【0010】
特開2006−181682号公報には、真空圧を正確に計測できるようにすることを目的として、基体21に流体を噴出する噴出ノズル23を設け、この噴出ノズル23から噴出された流体を、コアンダ効果を利用して基体あるいは被吸着物体に沿ってガイドする一方、この流体の流れによって、ベルヌーイの定理による真空層を生じさせ、流体の流出経路から外れた箇所に、真空圧検出ポート29を設けるとともに、この真空圧検出ポート29に真空圧計測器30を接続している吸着装置が開示されている。また、段落0005,0006には、「噴出口3aから凹部2の斜面2aに向かって勢いよく噴出される。噴出口3aから勢いよく噴出された流体は、凹部2の斜面2aに当たるとともに、コアンダ効果によって矢印a1で示すようにその斜面2aに沿って流れる。そして、斜面2aに沿って流れた流体は、そのまま水平面4に沿って基体1の外側から流出することになる。」と記載され、径方向に開口した噴出口噴出して流体が斜面によって偏向される点も記載されている。
【0011】
しかし、この文献の圧力流体は「エアやガス等」と定義され、真空圧を計測することからも液体は除外されている。しかも、この文献図2の接続口3bは単独であり、図1においては接続口23bは複数あるが、それぞれ別個に噴出口23aと接続され、別個に基体21の表面に開口して供給ライン25と接続されている。このため構造が複雑で高コストになり、メンテナンスも困難である。さらに基体の平坦部分には被吸着物体を規制する部材もない。
【0012】
以上のように、従来の半導体製造工程で用いられる保持装置は、液体を用いて半導体基板を保持することを想定していないため、液体をベルヌーイ効果の媒体としたり、液中での使用は困難である。しかも、近年薄型化傾向が加速する太陽電池用途の半導体基板を損傷することなく扱うことができる保持機構や装置の検討も不十分である。さらに、液中で半導体基板を適切に分離したり保持したり移動するための装置も十分な検討がなされているとはいえず、多くの場合複雑かつ高価な装置でしか実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−129587号公報
【特許文献2】特開2005−340522号公報
【特許文献3】特開2006−181682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
解決しようとする課題は、極めて簡単な構成で液中でも半導体基板を安全かつ確実に保持でき、流体の使用量も少ない半導体基板の保持機構を提供することである。
また、ウエット状態で密着した半導体基板同士を破損することなく自動的に、高速で分離し、保持して搬送することが可能な半導体基板の保持装置とこれを用いた分離装置および分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来の真空式吸着機構、ベルヌーイ式吸着機構は何れも気体を流体として用いることが前提で、殆どのものは液体を流体として用いることは考慮されていない。また、真空式吸着機構や機械式チャックは板厚の薄い半導体基板に与えるダメージが大きく実用的ではない。ロボットハンドは、動作機構に防水性を与えればある程度転用することも可能であるが、装置や制御が複雑で、装置全体のコストを大きく引き上げてしまう。
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成とした。
(1)液体を用いてベルヌーイ原理により半導体基板を保持する基板保持機構であって、
チャック本体には2以上の液体流入口とこの液体流入口に接続されている中空円筒状のノズル本体とを有し、
前記ノズル本体にはその前端を閉鎖するように配置された蓋とこの蓋から僅かに離れた位置に径方向に向けて開口形成された吐出口を有し、
前記ノズル本体の周囲には前記吐出口から排出された流体の流路に所定角度に傾斜した斜面を有する液流規制部を有し、
前記液流規制部の外周に保持した基板面と平行な平坦部を有し、
前記平坦部の一部領域に半導体基板に接触するように突出した保持部材が配置されている基板保持機構。
(2)前記保持部材は平坦部に対して0.05〜0.3mm突出している前記(1)の基板保持機構。
(3)前記半導体基板は、その板厚が180ミクロン以下である上記(1)または(2)の基板保持機構。
(4)前記流体規制部の傾斜面は保持した基板面であるチャック面に対して30〜60°である上記(1)〜(3)のいずれかの基板保持機構。
(5)前記吐出口は径方向に等間隔に形成された複数の丸孔である上記(1)〜(4)のいずれかの基板保持機構。
(6)前記ノズル本体に形成された吐出口は径方向にスリット状に開口した形状である上記(1)〜(4)のいずれかの基板保持機構。

(7)ウエット状態で密着配列した複数の半導体基板を液中に収納・配置するローダー部と、
前記ローダー部の最前列に配置されている半導体基板を液中で保持して液外のアンローダー部に搬送する搬送部と、
半導体基板を液外で載置し取り出し部まで搬送するアンローダー部とを有し、
前記搬送部は、回転駆動する回転軸に連結され所定半径の回転円運動を行う駆動部材と、この駆動部材に一端側が回動自在に固定されたリンクアームと、このリンクアームの他端側が摺動しかつその軌道を規定する軌道路と、前記リンクアームの他端側に固定されている上記(1)〜(6)の基板保持機構とを有する半導体基板の分離処理装置。
(8)密着配置された半導体基板を液中に浸漬し、次いで基板面と平行な方向から液体を吹き付けて半導体基板同士を分離し、上記(1)〜(6)の基板保持機構により半導体基板を保持する半導体基板の分離方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の保持機構は、極めて簡単な構成で液中でも半導体基板を安全かつ確実に保持でき、流体の使用量も少ない半導体基板の保持機構を提供することができる。
また、ウエット状態で密着した半導体基板同士を破損することなく自動的に、高速で分離し、保持して搬送することが可能な半導体基板の保持装置とこれを用いた分離装置および分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の保持機構の基本構成を示す横断面図である。
【図2】図2は本発明の保持機構の基本構成を示す平面図である。
【図3】図3は本発明の保持機構の基本構成を示す縦断面図である。
【図4】図4は本発明の保持機構の基本構成を示す背面図である。
【図5】図5は本発明の保持機構における液体の流れを示す横断面図である。
【図6】図6は、搬送装置の一実施例を示す断面図である。(実施例3)
【図7】図7は、搬送装置の一実施例を示す平面図である。(実施例3)
【図8】図8は、ローダー部と搬送部の詳細構造を示す側面図である。(実施例3)
【図9】図9は、搬送部の詳細構造を示す側面図である。(実施例3)
【図10】図10は、搬送部の軌道路における動作を示す側面図である。(実施例3)
【図11】図11は、搬送部の軌道路における各部材の軌跡を示す模式図である。(実施例3)
【図12】図12は、本発明装置、方法の動作順序を示したフローチャートである。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0019】
従来の真空式吸着機構、ベルヌーイ式吸着機構は何れも気体を流体として用いることが前提で、液体を流体として用いることは考慮されていないものが殆どである。また、真空式吸着機構や機械式チャックは板厚の薄い半導体基板に与えるダメージが大きく現実的ではない。ロボットハンドは、動作機構に防水性を与えればある程度転用することも可能であるが、装置や制御が複雑で、装置全体のコストを大きく引き上げてしまう。
【0020】
そこで本発明では以下の構成のチャックつまり保持機構を、保持した基板の搬送経路が一部液中に存在するような環境でも使用可能なベルヌーイ原理を応用した保持機構として用いる。この保持機構は、チャック本体に2以上の液体流入口とこの液体流入口に接続されている円筒状のノズル本体とを有する。また、前記ノズル本体にはその前端を閉鎖するように配置された蓋とこの蓋から僅かに離れた位置に径方向に複数形成された吐出口を有し、前記ノズル本体の周囲には前記吐出口から排出された流体の流路に所定角度に傾斜した斜面を有する液流規制部を有する。なお、本明細書において、チャック本体の前部、ノズル本体の前部とは、半導体基板をチャックする部位の方向を意味する。
【0021】
さらに、前記液流規制部の外周には保持した基板面であるチャック面と平行な平坦部を有する。この平坦部の一部領域には、半導体基板に接触するように突出した保持部材が配置されていて、この保持部材と半導体基板とが接触しながら吸着保持することで薄い基板を安全かつ確実に保持することができる。
【0022】
前記ノズル本体の吐出口からは保持した基板面であるチャック面に対して概ね水平方向の範囲に液体が噴出される。そして、前記チャック本体に形成された液流規制部によりチャック面の垂直方向に向けてある程度偏向され、チャック面に対して鋭角となる10〜60°程度の角度で流れるようになる。このため、チャック面に対して垂直方向に流体の流れが形成される従来の方式に比べて液体の流速を早くすることができ、ベルヌーイ効果による吸着力を高めることができる。
【0023】
また、本発明の保持機構は、2つ以上の液体流入口を有する。ベルヌーイ効果によるチャッキングを行う媒体として液体を用いる場合、基体と異なりノズル本体内での液体の挙動が問題になる。液体流入口が単独の場合、流入した液体の流れが安定せず、特に複数の吐出口から排出される液体の流速や流量が安定せず、結果として吸着力が著しく低下してしまう。ところが、液体流入口を2つ以上にすることで、吐出口から排出される液体の流速や流量が安定する。これは、恐らくチャック本体内に流入した液体が渦流を形成して、ノズル内の圧力分布が一様になり、吐出口から排出される液体の流速や流量が安定するものと考えられる。また、流入口の数が増えることで、流量を確保しやすくなるという効果もある。
【0024】
本発明の保持機構は、チャック本体とノズル本体とからなる。チャック本体は保持機構全体の構造を支持する基体であり、ノズル本体はこのチャック本体に取り付けられる。ノズル本体は中空円筒状の構造をなし、チャック行う円筒の前部は蓋材により閉鎖されている。ノズル本体を円筒状の部材としたのは液体を径方向、つまり円形状に一様に噴出する形状として最適だからである。
【0025】
チャック本体には取り付けられたノズル本体の内部と連続した空間を形成する液体流路を備え、この液体流路は液体流入口に連結して液体流入口から供給される液体が円滑にノズル本体内部に導かれるようになっている。液体流入口は、通常液体を供給するホースが接続できるような継ぎ手を備えている。
【0026】
ノズル本体には、円筒状の胴部の前記蓋から僅かに離れた位置、つまり前面から僅かに後退した位置に径方向に液体を噴出できるような吐出口が形成されている。この吐出口は複数の丸孔ないし角穴を径方向に均等に配置してもよいし、径方向に開口したスリットを形成してもよい。何れにしても径方向、つまり円筒の断面方向に一様に液体を噴出できる構造であればよい。ここで、一様に液体を噴出とは完全に均一な液流が得られるような構造でなくてもよく、詳細に確認すれば疎らでもある程度一様であると認められるような状態になればよい。また、後述するように基板と接触する部材を設ける場合、このような部材をある程度避けて流れるような液流にしてもよい。大切なことは、半導体基板を保持するため必要な吸着力が基板に対して均一に作用できる程度の流れであればよい。
【0027】
ノズルの吐出口の大きさとしては特に限定されるものではなく、十分な吸着量が得られる水流を形成できる大きさにすればよい。具体的には、丸孔の口径の場合0.1〜1mm程度である。角穴や変形した形状でも前記大きさに準じたものにすればよい。大きさが小さすぎると、不純物による目詰まりの原因となり、大きすぎると吸着動作に悪影響がある。また、前記大きさの穴を設ける場合には複数を一定間隔に配列することが好ましく、例えばノズルの中心に対する振り分け角度で5〜45°、特に10〜40°間隔の範囲で配置するとよい。
【0028】
前記ノズル本体は、好ましくはその周囲がチャック本体に覆われるように取り付けられる。つまり、チャック本体に埋設するようにノズル本体が取り付けられる。そして、チャック本体の前記吐出口周囲はホーン状に傾斜した開口形状を有し、この部分が液流規制部となって突出口から排出された液体の流れを偏向し、規制する。液流規制部傾斜角としては、保持した基板面であるチャック面に対する角度で10〜60°、特に20〜45°程度が好ましい。
【0029】
前記チャック本体の液流規制部周囲は、チャック面に対して平行な面を有する平坦部が形成されている。平坦部は少なくともノズル本体を囲むようにドーナツ状の円形領域を有する。この平坦部と半導体基板の間を液体が流れることでベルヌーイ効果による吸着力が生じ、半導体基板はチャック本体側に吸着される。このとき平坦部の一部領域に配置された保持部材が半導体基板と接触して半導体基板をチャック面と垂直方向に支持すると共に局所的な吸着力を緩和して基板の変形による損傷を防止する。さらに、チャック面と平行方向において摩擦力による保持効果を生じ、基板保持効果を高めることができる。
【0030】
平坦部前面と蓋前面は、略同一面にあることが望ましい。また、保持部材の厚み、つまり高さtは、前記平坦部前面(上面)に対して好ましくは0.05〜0.9mm、より好ましくは0.1〜0.6mm、特に0.2〜0.5mm程度である。保持部材は、平坦部の少なくとも一部領域に配置され、好ましくは複数個が分散配置されている。その大きさとしては特に限定されるものではないが、好ましくは1つあたり平坦部のドーナツ状の円形領域面積の1/20〜1/8程度である。その形状も円形でも四角状でもよく、これらを変形した形状でもよい。保持部材は、好ましくは平坦部のドーナツ状の円形領域において、好ましくは2〜8箇所、より好ましくは3〜6箇所に均等に配置される。
【0031】
保持部材の材質としては、弾性部材が好ましく、具体的には天然ゴム、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂等のエラストマーが好ましく、その他一般的な樹脂材や、紙、パルプ、木質繊維を用いた天然系の材料などを用いることもできる。また、これらの材料に、摩擦係数を増加させるために無機微粒子を混合してもよいが、保持する半導体基板に悪影響が出ないように配慮する必要がある。保持部材は通常、フィルム状、シート状の部材を適当な大きさと形状に加工して、前記平坦部に貼り付けて配置する。貼り付けは接着剤、溶着などの公知の手段を用いればよい。また、突出量の調整は部材の膜厚、板厚を変更することで容易に調整することができる。
【0032】
保持機構の大きさは、取り扱う半導体基板の大きさに応じて最適な大きさに設定すればよい。具体的には、前記平坦部のドーナツ状領域の最大径が、円形のウエーハの場合で直径の50〜100%、好ましくは60〜80%程度である。四角状の基板では内接円の直径が、前記範囲にあればよい。
【0033】
保持機構に供給する液体の圧力は、特に規制されるものではなく、吸着動作が問題なく行われる圧力に設定すればよい。具体的には水圧として5〜1000Kpa、好ましくは10〜100KPa程度である。また、液体の流量は、水流にして0.5〜10L/min程度である。
【0034】
本発明における保持対象は、半導体基板であり、好ましくは光起電力装置に用いられる半導体基板である。本発明の保持装置を用いることで、このような半導体基板を、液体を用いて保持することができ、水中でのチャック動作が可能になる。しかも、板厚の薄基板でも安全かつ確実に保持することができる。具体的には180ミクロン以下、好ましくは160ミクロン以下、特に140ミクロン以下の基板を取り扱うことができる。基板の板厚の下限としては特に規制されるものではないが、120ミクロン程度である。
【0035】
本発明の保持装置は種々の応用変形が可能であり、様々な装置の保持機構として用いることができる。特に、180ミクロン以下の薄板の半導体基板を扱う装置で、液体が搬送路中に存在する等、処理に液体が関与する装置に好適に用いることができる。以下に装置の具体例を挙げて説明する。
【0036】
本発明の保持機構を使用する装置は、図6に示すような構成が例示される。この装置は、ウエット状態で密着配列した複数の半導体基板を液中に収納・配置するローダー部(10)と、前記ローダー部(10)の最前列に配置されている半導体基板(2)を液中で保持して液外のアンローダー部(30)に搬送する搬送部(20)と、半導体基板を液外で搬送部から受け取り、載置し取り出し部まで搬送するアンローダー部(30)とを有し、前記ローダー部の前列近傍には、半導体基板(2)に基板面と水平方向から液体を吹き付けて基板同士を剥離する剥離部が配置されている。
【0037】
上記構成により、ウエット状態で密着配列、または積層された半導体基板を自動的に安全かつ確実に分離し、個別に取り出すことができ、これまで人手によって行われていた行程を自動化でき、しかも高速に処理することができる。
【0038】
ローダー部は、ウエット状態で密着し、配列または積層された半導体基板を収納し、基板を1枚ずつチャック位置に搬送する。このように基板を搬送する方法としては、公知の種々の機構を用いることができる。
【0039】
ローダー部の基板列ないし基板積層体は、液中に浸漬することにより基板同士が剥離しやすくなり、分離が容易になる。このため、本発明のような液体を流体とした基板保持機構を用いることで、液中でそのまま分離することも可能である。しかし、基板列の先頭部分に、密着した基板同士をある程度分離する分離機構を設けると、さらに分離が容易になり、その後の基板の保持、搬送が極めて容易になる。
【0040】
基板分離機構としては、種々の方式が考えられるが、本発明では密着配置された半導体基板の分離位置周囲に液体吐出口を配置する分離構造が推奨される。そして、この液体吐出口から半導体基板に対し基板面と平行な方向に液体を吹き付ける。吹き付けられた液体は、基板面と平行方向から半導体基板端部に当たるから、密着した基板同士の僅かな隙間に入り込み、隙間を拡大する。そして同様な作用により、さらに隙間が拡大し半導体基板同士が分離した状態になる。このように、単に流体を半導体基板に基板面と平行な方向から吹き付けるだけなので、基板に余計な力を加えることなく容易に分離でき、基板に物理的ダメージを与えることもない。設ける流体吐出口の数は特に限定されるものではなく、1つまたは2つ以上であり、分離に必要な数を設けるとよい。
【0041】
搬送部は、ローダー部の基板最前列から1枚毎に基板を保持し、液中から液上まで搬送した後、アンローダーの所定の位置に基板を載置する。このような動作を行う機構としては、半導体搬送装置として公知のベルト機構やロボットアーム等が挙げられる。
【実施例1】
【0042】
〔実施例1〕
次に、図を参照しつつ本発明の具体的な構成について説明する。図1〜4は本発明の保持装置の一実施例を示した図であり、図1は図2のA−A’断面図、図2は平面図、図3は図2のB−B’断面図、図4は背面図である。なお、これらの図の説明において、前方ないし前部とは図1では下方ないし下部、図3では上方ないし上部に相当する。
【0043】
各図において本発明の保持機構100はチャック本体110と、ノズル本体120とを有する。図2,4に示されるように、チャック本体110は大きな円形を中心から等距離な平行線で切断した如き平面形状をなし、その中央部分は前記大きな円と同心の円形に突出して構造体を形成している。構造体を形成する中央部以外の領域は厚板の部材からなり、この部分に取付孔117が中央部を挟んで一対形成され、図示しない装置に取り付けられるようになっている。
【0044】
中央部の構造体は、有底の中空円筒状に突出するように形成され、この円筒内部にノズル本体120が装着される。さらに、装着されたノズル本体120を固定する環状部材110aがチャック本体110前面に取り付けられ、チャック本体110と一体になる。この環状部材110aは、外周が中央部内周と同一形状の円形であり、その中央部分にノズル本体120前部を収納できる大きさの逃げ穴が形成されたドーナツ状の平板部材である。前記環状部材110aの内周から前面にかけてホーン状に開口した傾斜面が形成され、液流規制部119を構成している。前記傾斜面の角度は上記の範囲で調整される。また、傾斜面外周から環状部材外周にかけての前方端が平坦部118を構成する。
【0045】
前記環状部材110aにはネジ穴115が等間隔に形成され、ネジ116によりノズル本体110に固定される。また、チャック本体110の内周とノズル本体120の外周との間にはO−リング130が配置されてチャック本体内部を封止し、液体の漏出を防止している。
【0046】
ノズル本体120は、中空円筒状の部材で形成され、その前方が蓋材121により閉鎖されると共に後部に大きく開口した構造になっている。ノズル本体120の胴部周面には前記蓋材121の後面から僅かに後部方向に離れた位置に複数の吐出口122が径方向に向けて所定間隔で形成されている。この吐出口122は、所定口径の丸孔で、径方向に一定の間隔、つまり円筒の円中心から一定角度毎に形成されている。このように複数の吐出口122を所定間隔に形成することで、均一な液流が得られる。吐出口122の形状は特に限定されるものではないが、加工が容易な点では丸孔が好ましい。
【0047】
また、後述する保持部材125を回避するように液流方向を設定することが可能であり、保持部材125を平坦部118に配置することで生じる液流を妨げる悪影響を最小限にすることができる。つまり、この実施例では隣接する2つの吐出口122の間、好ましくは中間位置に対応する場所に保持部材125が配置されるように設定している。
【0048】
ノズル本体120後部には前記O−リング130の厚み相当に拡径したフランジ部があって、のフランジ部の外周がチャック本体110の内周と接し、さらにフランジ部後端がチャック本体内部に形成されて段差部に当接して固定されるようになっている。前記拡径したフランジ部の開口からノズル本体120の内周面にかけては傾斜面が形成され、流入した液体が円滑にノズル本体内部に導かれるようになっている。
【0049】
チャック本体後部には、1対の液体流入口となる継ぎ手取付孔113が形成されている。この継ぎ手取付孔113はチャック本体内部に貫通してノズル本体内部140に至る流路を形成すると共に、内周に形成された雌ネジにより継ぎ手150の雄ネジ部と螺合して継ぎ手150を容易に固定できるようになっている。継ぎ手150本体には6角ナットの外形が施され、前記螺合作業が容易に行えるようになっている。またその後端部にはホースジョイント152が設けられ、図示しない液体供給ホースが公知の手法により接続できるようになっている。
【0050】
前記継ぎ手150に接続された液体供給ホースから液体が供給されると、図5に示すように水などの液体101は継ぎ手150を通り、供給口130に連通するチャック本体110内部空間に導入される。このとき、2つの流入口から導入された流体は渦流のように回転しながらノズル本体120内の先端部に達し、吐出口122から噴出する。噴出した液体101aは、環状体110aに形成された斜面に規制されて方向を変え、前記斜面に沿った斜め方向に向けて流れるようになる。そして、保持する半導体基板表面に当接すると、基板面と平行な方向に流れ、ベルヌーイ効果によりチャック本体110に吸着される。
【0051】
チャック本体110の前端面となる平滑面には、保持部材125が複数配置されている。図示例において、保持部材125は円形のシート状部材であり、その直径は環状部材110aの幅に等しく、3箇所に等間隔もしくは等しい振り分け角度になるように配置されている。また、その配置位置は前記吐出口122と対向する位置を避けるように、隣接する吐出口122の中間位置に対応する位置に配置され、極力噴出された流体の妨げにならないようになっている。このような配置により、保持部材を設けたことによる吸着力の低下は殆ど無視できる値にすることができる。
【0052】
本発明の保持機構に加える液体の流量や圧力は、好ましくは以下の範囲で調整するとよい。全流量:1〜5L/min、特に2〜4L/min、圧力:0.1〜1.0Kgf/m2、特に0.3〜0.8Kgf/m2
【0053】
〔実施例2〕
図1〜5に示した構造の保持機構100と、流入口113をノズル中央に相当するチャック本体裏面に1箇所形成した以外同様の構造の保持機構100’とを用意し、半導体基板の吸着試験を行った。半導体基板としては一般的な太陽電池用の四角い基板を用いた。
【0054】
吸着力の試験方法としては、吸着面が垂直になるよう、保持装置を縦に固定し、水圧と流量を変化させて半導体基板を吸着させ、この基板に対して垂直方向に荷重をかけ、基板が下に移動し始めたときの加重を記録した。このとき、吐出口付近での流速も併せて測定した。なお、流入口が1つのサンプルは吸着不能であったため、流入口2個のサンプルについてのみ計測した。結果を表1に示す。
【0055】

【0056】
表1から明らかなように、水圧と流量を調整することで500g程度の加重まで保持することがでる。このことから、半導体基板を確実に保持することができ、さらにある程度の負荷が加えられても対応できることが分かる。
【0057】
以上のように、簡単な構成で液体を媒体としたチャックでも半導体基板を安全かつ確実に保持することができる。このため、液中でも半導体基板のチャッキング作業を行わせることが可能になり、種々の装置への応用が可能になる。
【0058】
〔実施例3〕
本発明の保持機構を備えた装置として、図6〜9に示すような搬送装置を用意した。図6は、本発明の保持機構を使用する搬送装置の1実施例の断面図、図7は平面図、図8はローダー部と搬送部の詳細を示す側面図、図9は搬送部の詳細を示す側面図である。図に示すように、搬送装置1は、ローダー10と、搬送部20と、アンローダー30とを有する。前記ローダー10と、搬送部20は、筐体50に取り付けられた水槽40内に配置されている。水槽40には、通常水などの液体が満たされ、半導体基板同士の剥離を容易にしている。前記ローダー10は水槽40内の水面下に位置し、搬送部20はその一部が水面上に露出するように配置されている。
【0059】
ローダー部10は、図8にも示すように、水槽40内の所定の高さにトレー11を配置する台座41と、この台座41上にあって、トレー11内に収納されている半導体基板2を後述するチャッキング位置まで搬送するベルト13と、搬送される半導体基板2の後端を支持する支え12を備えている。
【0060】
トレー11には、粗洗浄後等の複数の半導体基板2がウエット状態で収納されている。このため、各半導体基板2は水等の液体成分により密着し、所定枚数が基板面に対して垂直方向に配列している。このトレー11が台座41上に配置されると、水槽40に満たされた液体中に水没する。
【0061】
台座41上には、その前後端部に配置されたプーリー15,14間に張り渡されたベルト13が配置されている。トレー11には長穴ないし切り欠き状のベルト13の逃げ穴、ないし開口が設けられていて、トレー11をセットしたときに丁度この部分にベルト13が入り込むようになっている。このとき、トレー11の下端部よりベルト13の上部が僅かに上方に位置するようになる。このため、ベルト13は半導体基板2の下端部と接触し、ベルト13の動作が半導体基板2の下端部に伝達される。つまり、ベルト13を動作させることで半導体基板2をベルト13の動作方向に移動させることができる。
【0062】
ベルト13は、ステッピングモータ等の駆動装置19により駆動される。このモータ19は、カバー192を有する支持部材191に固定され、さらにマスト193により液面上に配置されている。そして、図示しないシャフトを介してプーリー15を駆動している。あるいは、駆動専用のローラーを設けてもよい。そして、通常半導体基板2が、後述するチャッキング位置から一枚搬送される毎に、前記チャッキング位置方向に基板2一枚分移動するように制御される。このため、駆動装置は、ステッピングモータ(パルスモータ)、サーボモータのように、微細移動の制御が可能なものが好ましい。
【0063】
台座41には、トレー11の後部側に支え12が配置されている。この支え12は、半導体基板2がベルト13で搬送される際にその後部を支持し、転倒するのを防止する。つまり、半導体基板2の下端部は、ベルト13により前方に向けて移動するが、それだけでは、基板上部が取り残され、次第に基板全体が傾いて転倒してしまう。そこで、ベルト13の移動に伴い、ベルト13の移動分だけ基板の後部を支持しながら同期移動し、半導体基板2全体が移動できるようにしている。このため、トレー11後部には、支えが入り込むための穴、もしくは切り下記が形成されている。
【0064】
支えの駆動機構としては、前記ベルト13と同様のものでよいし、ベルト13の駆動機構を兼用したり、ベルト13自体により駆動するようにしてもよい。また、ベルト13および支え12の搬送位置は、チャッキング位置より半導体基板1枚分手前までにするとよい。最後の1枚はその前の1枚がチャックされて搬送された後、自重で搬送位置より僅かに低いチャッキング位置に落ち込むようにして移動し、自立して姿勢を保ちチャックされる。これにより、ベルト13や支え12とチャッキング機構などが干渉したり、接触するといった事故やこれらの機構に巻き込まれる半導体基板の破損が防止できる。
【0065】
前記チャッキング位置の近傍には、図8に示すように密着した半導体基板2を分離するための基板分離機構18が設けられている。図示例では、トレー11の両脇に液体を噴出するノズル18を備えた基板分離機構が設けられ、これにより密着していた基板同士が剥離し、1枚ずつ取り出すことが可能になる。
【0066】
基板分離機構18は、所定の流量の流体、すなわち液体を所定の圧力で送出することができる吐出口やノズル状のものであれば、特に限定されるものではなく、市販品の中から好適なものを選択して用いることができる。基板分離機構から送出された液体は基板面の水平方向から半導体基板に当たり、基板間に流入しようとする。基板に当たる液体がある一定の圧力以上になると、基板間にも液体が進入し、密着した基板に隙間が生じ、さらに液体が進入して基板同士が完全に分離された状態になる。
【0067】
基板分離機構18の具体的な設置位置としては、分離する半導体基板2の基板面と略平行な方向から液体を吹き付けることができる位置にする必要である。具体的には、基板面の法線方向の位置としては、配列、積層されている半導体基板のチャッキング側最前列、あるいは最上位列から好ましくは1〜20枚、より好ましくは5〜10枚程度の中間位置に配置するとよい。また、基板面に平行な位置としては基板の長さの1/4〜3/4、好ましくは2/5〜3/5の間の中央部付近であり、特に本発明の装置のように、液中に立てた基板を配置して分離する場合には、長さ1/2の中央から上部の長さ1/4までの間に配置するとよい。また、基板端部からある程度離間させることが望ましい。具体的には、トレー等と干渉しない位置であって、2〜20mm程度の範囲内にあるとよい。
【0068】
搬送部20は、図6、図8,図9に示すように、図示しない回転駆動装置に回動自在に連結されている回転軸21と、この回転軸21の回転力をリンクアーム23に伝達する駆動部材22と、この駆動部材22により駆動され、チャックに保持した半導体基板を搬送するリンクアーム210を有する。回転軸21は、図9に示すように、その中心が液面Sより僅かに液中になるように配置されている。なお、駆動部材22は、図6に示すようなアーム状でもよいし、図8、9に示すようなディスク状でもよい。駆動部材22は、所定の半径の円軌道を描いてリンクアーム210の一端を回転駆動させることができればよい。
【0069】
リンクアーム210は、その一端側にある支持軸211により回動自在に駆動部材22に固定され、その他端側にある軌道軸212がチャック支持体220に回動自在に固定されている。また、チャック支持体220には、ガイドローラー111が前記軌道軸212と同心状に固定されている。このチャック支持体220には、他のガイドローラー112が固定されていて、2つのガイドローラー111,112により2点で固定されている。
【0070】
軌道路201は、搬送路を規定するものであり、前記リンクアーム210の他端側が摺動してその軌道を規定する。従って、軌道路を搬送路に沿った形状にすれば、リンクアーム210の他端が、搬送を行えるようになる。そして、リンクアームの他端側に半導体基板を保持できる本発明の保持機構を配置すれば、基板を保持して搬送が行える。軌道路は、その内部に摺動用のガイドローラー等を収容し、摺動可能な空間と軌跡を形成できるものであればよく、板状の部材に軌道路に相当する部分を切り欠いたり、板状、棒状の部材を摺動路を空けて配置し得たりして構成してもよい。また、棒状、パイプ状の部材を2本平行にレール状に配置して軌道路とし、これを挟持ないし把持しながチャック支持部材とこれに付属する部材が摺動するようにしてもよい。
【0071】
ガイドローラー111,112は、軌道路201内に配置されている。この軌道路201は、終端が無い連続して形成された環状の長穴であり、リンクアームの他端側の動きを規制し、所定の軌道を描くように矯正するものである。つまり、軌道路201により形成される軌道の形状や大きさは、リンクアーム210によって動作するガイドローラー111が摺動可能な範囲で、搬送路に求められる軌跡により決められる。軌道路201を形成するには、1枚の板の軌道路201に相当する部分を切り欠いてもよいし、2つの板状もしくは棒状の部材を一定の間隙で対向させ、軌道路201としてもよい。軌道路201を構成する部材の形状や大きさは、必要な強度を有し、ガイドローラー111,112と係合可能な形状、大きさにすればよい。
【0072】
図10,11は、このような軌道路201と、リンクアーム210の支持軸211a、軌道軸212a、およびチャック100、チャック支持体220の関係を示した図である。図示例のように移動する各支持軸211aの円回転動作に伴い軌道路201内の移動する各軌道軸212aが、軌道路201に沿って動いていることが解る。つまり、支持軸211aの円回転動作が、リンク-アーム210により、軌道路201に沿った軌跡の動作に変換される。このため、軌道路の大きさと支持軸211が描く円軌道の大きさとは、そのずれがリンクアームで吸収できる所定の範囲内ある必要がある。
【0073】
そして、図9に示すようにチャック開始位置(a)で、ワークをチャックし、半導体基板面と平行に移動して、液面上の位置(b)まで搬送し、さらにそこから方向を90°転換してアンローダー3の方向に搬送し、アンローダー部30上の位置(c)でチャックを解除し、緩やかに下方に移動しながら半導体基板2をアンローダー上に載置する。このように、軌道路201の軌道を最適なものに設定することで、複雑な機構や制御を必要としないで、半導体基板を搬送することができる。
【0074】
前記チャック支持体220には、保持機構100が配置されている。保持機構100は、上記実施例1で示したとおりである。なお、継ぎ手230のみL字状の継ぎ手に変更されているが実施例1の直管状の継ぎ手150であっても他の継ぎ手であってもよい。
【0075】
なお、リンクアームや保持機構は、必要とされるタクトタイムや、搬送するワーク、その他要求される性能に応じて、装着する数が決められ、1個あるいは2個以上設けてもよく、通常、3,4個設けられる。複数設ける場合には、個数に応じた等角度に配置すると制御が容易になる。
【0076】
搬送部により搬送される半導体基板は、液中を搬送する際、液の抵抗を少なくするため、進行方向に対する投影面積が最小になるような姿勢を保持して搬送される。つまり、基板を搬送するときに、基板面と平行な方向に向けて移動する。搬送方向は基板面と平行な方向に対して多少傾斜していてもよいが、搬送開始位置での基板面に対して20度以内であることが望ましい。
【0077】
具体的には、基板面が垂直方向に向いたスタック状態で配列された基板は、チャッキングした後そのまま垂直方向に搬送移動される。これは、搬送部の回転動作の一部を直線状に矯正することで実現できる。液上まで搬送されると、今度はローダーに載置するため、姿勢を90°転換し基板面が水平方向になる。これは、搬送部の回転動作により容易に行わせることができる。そして、そのままの指定でアンローダー部にまで搬送することで、搬送動作は完了する。このとき、アンローダー上における基板の姿勢は、搬送方向に対して僅かに下方を向いた状態にすることが望ましい。具体的には、搬送方向に対して0.5〜10°、好ましくは1〜5°程度である。このような姿勢を取ることで、アンローダ上にソフトランディングして、基板を安全かつスムーズに載置できる。
【0078】
アンローダー30には、両端部、つまり搬送部側プーリー34と、取り出し部側プーリー35の間に張り渡されたベルト33が配置されている。ベルト33は、前記プーリー34,35により駆動される。また、駆動専用のプーリーを設けてもよい。さらに、これらのプーリーは、図示しない駆動装置により駆動される。駆動装置としては、上記ローダー部で挙げたものと同様なものでよい。なお、アンローダー部ではベルトの駆動速度や動作/丁巳などの制御にそれ程の制度を要求されないため、ローダー側より簡易な駆動装置を用いることができる。
【0079】
アンローダー30では、図4の(c)位置が、図1における載置位置31に相当し、搬送部2からこの位置に供給されたワークは、2本のベルト33により取り出し部32にまで搬送される。搬送されたワークは、作業員により取り出されたり、その後の行程に用いられる装置により自動的に取り出されたりする。
【0080】
アンローダー30の下部には筐体から張り出したアンローダー支持部材54が設けられ、前記プーリー35等を支持している。このアンローダー支持部材54は、アンローダーから落下する液体を受ける機能も有している。また、このアンローダー30下部の水槽40と筐体50の後端部との間には、ドレン領域57が形成され、搬送されるワークから滴下した液体や、水槽からオーバーフローした液体、前記アンローダー支持部材54が受けた液体を収容できるようになっている。なお、収容した液体は、フィルターなどにより濾過され、再度液体循環システムに戻すこともできる。
【0081】
筐体50には、制御卓52がローダー側に設けられ、操作スイッチなどが配置されている。また、筐体側部57には、各部を駆動するためのモータ等の駆動装置、液体循環用のポンプ、これらの制御装置、電源装置などが収納、配置されている。なお、筐体50の下部には、固定脚55と、移動用のキャスター56とが取り付けられ、搬送時にはキャスター56により容易に移動でき、設置時には固定脚55により強固に固定できるようになっている。
【0082】
搬送装置は、ローダー部と搬送部の一部が液中に存在した状態になる。このため、液密性のある水槽内にこれらの構成要素が収納される。また、扱う半導体基板の性質から、金属汚染を極力防止することが大事である。従って、好ましくは、液中に存在するか、液に接触する構成要素は、水槽も含めて好ましくはその90%以上、より好ましくは98%以上を樹脂材料により形成するとよい。具体的な樹脂材料としては特に限定されるものではなく、耐食性、耐温度性など、必要な特性を有し、装置として強度が維持できるものであればよい。具体的には、半導体装置で通常使用されれている樹脂、例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン,polyetheretherketone)樹脂、PVC(塩化ビニール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。
【0083】
搬送装置を制御する制御装置としては、特別な機構やタイミングでの動作を行わせる必要はないので、通常の自動機等に用いられている制御装置を用いることができる。例えば、シーケンサーやマイコンなどで容易に制御することができる。また、処理枚数やエーラー情報など処理に必要な情報を他の装置や、PC等の主制御装置と有線または無線などの通信手段により送受信してもよい。
【0084】
また、本発明では、上記保持機構を用いたチャッキング動作を行わせるとき、吸着/分離の液体の制御を、上記のような制御装置により電磁弁等を用いて電気的に行うことも可能であるが、機械的な処理、構造により制御を行わせることもできる。搬送装置の搬送部は、駆動装置の回転動作により作動する。このため、駆動軸などの回転機構において、所定の回転位置、回転角とチャックの位置は相対的に規定できる。そして、チャックの吸着開始の位置と終了の位置も決まっている。従って、特定の回転位置で流体を流出し、別の特定の回転位置で流出を止めればよく、これは機械的に規定できる。このため、上記回転駆動装置の回転軸に連動してロータリー式の制御弁を設け、特定の回転位置で流体を制御するようにすればよい。このように、特別な制御を行うことなく、機械的に吸着動作を行わせることができ、制御装置の負担を減らし、制御が簡単になり、コストを低減することができ、メンテナンスも容易になる。
【0085】
次に、搬送装置の動作について説明する。図14は搬送装置の動作を示すフローチャートである。先ず、水槽40内のローダー部10の台座41に半導体基板2が収納されたトレー11をセットする(S1)。次いで、制御卓52上のスタートスイッチをONにして、装置を起動させる(S2)。
【0086】
装置が起動すると、ローダー部10が動作し、ベルト13と支え12により、半導体基板を送り出し、基板をチャッキング開始位置まで搬送する。このとき、分離機構18も動作し、半導体基板2の側面から液体を吹き付けて、基板同士を分離する(S3)。そして、半導体基板の最前列が、チャッキング位置まで来たか否か監視し(S4)、チャッキング位置まで来たときには搬送装部20のチャック100が基板を吸着してチャッキング動作を行う(S5)。一方、それ以外の時には再度ローダー10を動作させ、半導体基板2をチャッキング位置まで搬送する(S3)。
【0087】
前記チャッキング位置にて半導体基板をチャックした場合には、搬送部20が動作し、先ず半導体基板2を液中で垂直方向に液面上まで搬送する。そして、液面上で回転し約90°向きを変えて気中で水平方向にやや下降しながらアンローダー部まで搬送する(S6)。次いで、アンローダーの載置部31まで半導体基板を搬送すると、チャッキング動作を解除する(S7)。そのまま、チャック100が僅かに下降しながら移動すると、半導体基板2はアンローダー30のベルト33上に乗り移り、搬送部20から脱荷する(S8)。
【0088】
アンローダーに乗り移った半導体基板2は、取り出し部において作業員により取り出され、次工程に移動するためのカセットなどの収納具に収納されるか、次工程の装置により自動的に収容されたりする(S9)。一方、ローダー部10ではトレー内の半導体基板の有無を検出し、基板がまだある場合には再び上記動作(S3)を繰り返す(S10)。そして、基板が無くなった場合には装置を停止し、処理を終了する(S11)。
【0089】
このように、搬送経路の一部が液体中に存在する搬送装置に本発明の保持機構を取り付け動作させても、安定して基板を保持することができ、確実に搬送を行えることが確認できた。また、現時点で最薄の板厚、具体的には180ミクロン以下の太陽電池用半導体基板を用いても破損することなく搬送できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明装置および方法は、半導体製造工程において密着配置、積層された半導体基板同士の分離、特にウエット状態で密着配置された半導体基板の分離、および搬送に適している。また、必要に応じてドライ状態での分離、搬送も可能である。また、本発明の装置、機構、ノズルは、半導体基板のみならず、種々の部材のチャック機構として用いることが可能であり、流体を吹き付けるノズルとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0091】
1 半導体分離装置
2 半導体基板
10 ローダー部
12 支え
13 ベルト
14 プーリー
15 プーリー
18 基板分離機構(ノズル)
20 搬送部
30 アンローダー部
31 載置部
32 取り出し部
33 ベルト
40 水槽
41 台座
50 筐体
52 制御卓
100 保持機構
110 チャック本体
120 ノズル本体
201 軌道路
210 リンクアーム
220 チャック支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を用いてベルヌーイ原理により半導体基板を保持する基板保持機構であって、
チャック本体には2以上の液体流入口とこの液体流入口に接続されている中空円筒状のノズル本体とを有し、
前記ノズル本体にはその前端を閉鎖するように配置された蓋とこの蓋から僅かに離れた位置に径方向に向けて開口形成された吐出口を有し、
前記ノズル本体の周囲には前記吐出口から排出された流体の流路に所定角度に傾斜した斜面を有する液流規制部を有し、
前記液流規制部の外周に保持した基板面と平行な平坦部を有し、
前記平坦部の一部領域に半導体基板に接触するように突出した保持部材が配置されている基板保持機構。
【請求項2】
前記保持部材は平坦部に対して0.05〜0.3mm突出している請求項1の基板保持機構。
【請求項3】
前記半導体基板は、その板厚が180ミクロン以下である上記(1)または請求項2の基板保持機構。
【請求項4】
前記流体規制部の傾斜面は保持した基板面であるチャック面に対して30〜60°である請求項1〜3のいずれかの基板保持機構。
【請求項5】
前記吐出口は径方向に等間隔に形成された複数の丸孔である請求項1〜4のいずれかの基板保持機構。
【請求項6】
前記ノズル本体に形成された吐出口は径方向にスリット状に開口した形状である請求項1〜4のいずれかの基板保持機構。
【請求項7】
ウエット状態で密着配列した複数の半導体基板を液中に収納・配置するローダー部と、
前記ローダー部の最前列に配置されている半導体基板を液中で保持して液外のアンローダー部に搬送する搬送部と、
半導体基板を液外で載置し取り出し部まで搬送するアンローダー部とを有し、
前記搬送部は、回転駆動する回転軸に連結され所定半径の回転円運動を行う駆動部材と、この駆動部材に一端側が回動自在に固定されたリンクアームと、このリンクアームの他端側が摺動しかつその軌道を規定する軌道路と、前記リンクアームの他端側に固定されている請求項1〜6の基板保持機構とを有する半導体基板の分離処理装置。
【請求項8】
密着配置された半導体基板を液中に浸漬し、次いで基板面と平行な方向から液体を吹き付けて半導体基板同士を分離し、請求項1〜6の基板保持機構により半導体基板を保持する半導体基板の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−30654(P2013−30654A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166411(P2011−166411)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(510178220)
【出願人】(511185232)
【Fターム(参考)】