説明

基板保持装置及び基板加工装置

【課題】基板の自重や端子の接触圧力による基板の歪み・撓みの影響をより低減した状態で基板を保持することを目的とする。
【解決手段】基板下部に接触可能に設けられている可動接触部103を介して基板15を支持する。また、各可動接触部103は、共通の流体によって移動若しくは変形することで、基板15の自重を支える力は可動接触部103間で同一になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用の基板などの各種基板を支持するための基板保持装置、及びその基板保持装置を備える基板加工装置に関する。特に、基板の自重ならびに導通端子の接触圧力による当該基板の歪み・撓みの影響をより低減可能な状態で当該基板を保持するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に半導体デバイスの製造プロセスなど微細加工が要求されるパターンの形成には、レチクルと呼ばれる原版を用い、スキャナーやステッパーと呼ばれる縮小投影露光装置(以下、露光装置と表記)によりウェハにパターンを転写するいわゆるフォトリソグラフィ法が使われている。(レチクルとは、半導体デバイスの製作工程でウェハ上に高集積な電気回路パターンを露光するために使用されるフォトマスクを指す。)
近年、半導体回路の集積度が急激に高まっており、最近はダブル・パターニングと呼ばれる1つの回路パターンを密集度の低い2つのパターンに分割し露光する技術が採用され始めている。具体的には分割されたパターンを使い、2枚のレチクルで1つのウェハ上で2回に分けて露光を行うことで、最終的に密集度が高いパターンを形成することが可能となる。
【0003】
ダブル・パターニングの場合、最初の露光で形成されたパターンの間に新たなパターンを形成していくため、露光装置でのアラインメントだけでなく、回路原版であるフォトマスク(レチクル)に極めて高いパターン寸法・位置精度が求められる。
レチクル上の回路パターンは、導電性を有する遮光膜が形成されたレチクル原版(マスクブランクス)に感光性樹脂(レジスト)を塗布し、一般にフォトマスク描画装置と呼ばれる電子線、レーザー等を光源としたパターニング装置を用いて形成される。
【0004】
現在の先端レチクルのパターニングには、寸法100nm及びそれ以下のパターン形成を要求されるため、その解像性の高さから電子線描画装置が用いられる。ただし、電子線を露光源とした場合、装置を真空に近い減圧条件下にする必要があり、また帯電効果によるビームの軌道ズレを起こさないようにするため、基板上の遮光膜にアースを接続して帯電した電子を放電させる機構が必要となるなどの制約がある。
【0005】
レチクル上のパターン位置精度は、主に電子線描画装置の精度によって決定される。一方で、加工対象であるマスクブランクス自身の形状歪みの影響が無視できなくなっている。その具体的原因は、ブランク自体の歪みや真空チャンバー搬送中の温度変化による膨張伸縮、描画装置内部での外力による歪みおよびブランク自体の自重撓みなどである。
ブランクスの膨張伸縮、基板自体の歪みに関しては、真空チャンバー搬入後の基板放置時間延長、低熱膨張、高精度研磨材料の採用などである程度まで回避可能である。
【0006】
しかし、現状描画時の外力ならびに自重起因のブランク歪みに関しては改善がなされていない。電子線描画装置は精密ステージによって基板15を水平方向に移動させ、上方から電子線が照射される構造であるため、基板15の被描画面を上にして、その反対側を平面が一義的に決まる3箇所の載置部で支持する構造が標準である(図参照)。そのため、水平方向に設置する影響で自重による撓みが生じてしまう。
【0007】
さらに、この状態でアース端子18をレジスト下層の遮光膜に接続する圧力により、遮光膜面に歪みが生じることになる。以上述べた基板撓み、遮光膜歪みの影響により、マスク描画時に位置精度が悪化する問題がある。しかし、遮光膜歪みを抑制する為にアース端子の接触圧力を低下させると、載置部の接触点数の少なさから、ステージが移動する際に、ステージ上のブランクスがスリップを起こす事例も報告されている。
【0008】
ブランクスの自重による撓み防止、ステージ移動の際の摩擦力保持のため、単純に載置部を増やす方法も考えられるが、個々の載置部を数十nmオーダーで高さを揃えることは容易ではない。また、基板底面も上面と同様平面度に分布があり、基板底面部と載置部の高さ分布が同一でないと、描画中のガタツキ、載置部に起因するブランク撓みが生じてしまうことになる。
【0009】
図2は基板の自重による撓みの影響を避けるために基板を縦置き、つまり側面を縦方向にした平面度測定結果であり、図3は、電子線描画装置内で保持された状態での基板平面度測定結果である。図2,3のように、描画時には基板の平坦度が全く異なっていることが確認できる。
過去、レチクルに限らず基板に類似する平坦な物体を高精度に保持する方法に関して、多くの発明がなされてきている(特許文献1及び2参照)。しかし、これらは基板を所望の形状に変形もしくは一義的に固定し、自重撓み等を外力により矯正するものである。この方法では、基板上に形成されるパターンの位置精度は、加工前後で必ず変化してしまうことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−164283号参照
【特許文献2】特開2003−45944号参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の問題に鑑み、移動ステージ上で、被描画基板であるブランクス歪みを最小限な状態で摩擦力により保持し、かつ接地を行ない、レチクルパターニング位置精度を向上させることが可能な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、基板の裏面に接触して当該基板を保持する複数の接触部を備え、前記各接触部は、基板に対し離間接近する方向に移動可能または変形可能となっていることを特徴とする基板保持装置を提供するものである。
次に、請求項2に記載した発明は、供給される流体によって前記各接触部を移動又は変形する機構を有し、各接触部を移動又は変形する機構に対して同一圧の流体を供給する給排手段を備えることを特徴とする。
【0013】
次に、請求項3に記載した発明は、前記複数の接触部が前記基板の裏面に対しそれぞれ同一の接触圧で接触するように、当該複数の接触部を移動又は変形することを特徴とする。
次に、請求項4に記載した発明は、供給される流体によって前記各接触部を移動又は変形し、供給される流体の圧を、基板が配置された雰囲気内の圧力に応じて、調整することを特徴とする。
【0014】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の基板保持装置と、基板に接触し導通を取る端子と、を備えた基板加工装置において、
前記端子は、基板の表面に接触する第1の端子と、基板の裏面に接触する第2の端子とを備え、その第1の端子と第2の端子は、前記基板を挟んで相対する位置で基板に接触し、第1の端子及び第2の端子の少なくとも一方が基板に導通する導通端子となることを特徴とする。
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の基板保持装置と、基板に接触し導通を取る端子と、を備えた基板加工装置において、
端子から基板に負荷される荷重を低減する端子保持機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板の平面度のばらつきを、複数の接触部が離間接近する方向にそれぞれ変形または移動することで吸収する。
また、前記接触部が基板に与える力を均一にすることで、基板が自重により変形することなく、また例えば移動ステージ上においても、多数接触部の摩擦力により保持することが可能となる。
【0016】
さらに、例えば基板上の導電性遮光膜へ接地する際も、端子の自重が外力として基板に働きかけない程度に低減可能な機構を有することで、基板の変形を極限にまで抑えることができ、例えばレチクル上パターン位置精度を向上させることが可能となる。
また請求項4に係る発明によれば、大気圧下に限定されず、加圧、減圧条件下においても上記効果を奏するようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の基板保持方法の一例を示す図である。
【図2】基板の平面度測定結果を示す図である。
【図3】従来の加工装置内での基板の平面度測定結果を示す図である。
【図4】本発明に基づく実施形態に係る加工装置の構成を示す図である。
【図5】本発明に基づく実施形態に係る基板保持装置の説明図である。
【図6】本発明に基づく実施形態に係る基板保持装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図4は、本発明を基板加工装置としてのレチクル作成用電子線描画装置に適用した場合の構成図である。図5は、基板保持装置の基板支持部分を拡大した図である。
図中、1は鏡筒部、2は電子銃、3はウェーネルト電極、4は加速電極、5はブランキング電極、6は第1レンズ、7は第1成形スリット、8は成形偏向器、9は第2レンズ、10は第2成形スリット、11は縮小レンズ、12は位置決め偏向器、13は対物レンズ、14は真空試料室、15は基板、16は基板保持ユニット、17は移動ステージ、18は端子、19は錘、20はアースピン、21は配管、22は圧力センサ、23はバルブ、24は圧力制御部、25は気体や液体などの流体を収容したタンク、26は給排手段、100はレジスト、101は遮光膜、102は基板、103は可動接触部、104はピストン、105は開口部、106は可動部である。
【0019】
そして、非図示の真空排気機構により真空に維持された鏡筒部1内部に電子光学系が格納され、基板保持ユニット16ならびに移動ステージ17が、真空試料室14に格納されている。前記基板保持ユニット16ならびに移動ステージ17は、基板保持装置を構成する。
また、加工対象である基板15が基板保持ユニット16上に設置される。真空試料室14も鏡筒部1と同様、真空排気機構により真空条件下に維持される。
【0020】
図5は、基板保持装置における基板支持部分を拡大したものである。図5に示すように、本実施形態では、複数の可動接触部103によって基板15を支持する。可動接触部103は、供給される流体の給排制御により膨張伸縮または変形する。可動接触部103は基板下部に接触可能に設けられている。
すなわち、各可動接触部103は、以下に説明する給排手段26により制御される。給排手段26は、可動接触部103へ流体の給排を行なうものである。
給排手段26は、図4に示すように媒体が収容されたタンク25、タンク25に接続するバルブ23、圧力センサ22、圧力制御部24、そしてこれらと各可動接触部103とを接続する配管21を備える。
【0021】
そして、圧力センサ22により、基板15ならびに基板保持ユニット16が設置されている真空試料室14(基板が配置された雰囲気)と配管21との差圧を検出し、配管21内が真空試料室14に比べ常に一定の陽圧になるように、圧力制御部24は、圧力センサ22の検出値に基づきバルブ23を制御する。これによって、大気圧下に限定されず、加圧、減圧条件下においても、基板15を支持可能とする。
【0022】
具体的には、配管21内と真空試料室14の差圧が予め設定した差圧値よりも陽圧となる場合は、圧力制御部24がバルブ23を開放し、配管21内の気体を真空試料室14内に逃がす。逆に陰圧となる場合は、圧力制御部24がタンク25より流体を導入し、配管21内を陽圧にする。流体は真空試料室14内に放出しても影響がない、乾燥空気や窒素等の不活性ガスが望ましい。
【0023】
各可動接触部103を可動する機構は、ピストン104を流体によって昇降させるシリンダ機構からなり、各ピストン104に作用する流体圧が同一となるように、各シリンダ部内を配管21に連通する。これによって、各ピストン104に接触する流体は共通であるので、パスカルの原理により各可動接触部103が基板15に与える圧力(接触圧)、すなわち基板15の自重を支える力は可動接触部103間で同一となるように自動調整される。このように、可動接触部103は基板15に対してそれぞれ均一の力が作用するように構成され、かつ、底面の平面度のばらつきに追従して膨張伸縮または変形可能である。
この結果、各可動接触部103から基板15の軸方向の一方の端部に対してそれぞれ均一の力が作用することが可能となり、基板15が自重により変形することがなくなる。
【0024】
また、図5に示すように端子18がレジスト100を介して、導電性を有する遮光膜101に接触しているが、その接触面の相対する裏面にも端子が接触している。これによって、基板15に対する接触力が相殺若しくは低減可能となるため、基板15を変形させないかその変形は小さい。このアースピン20は可動部106を有しており、また、端子18の重さと同じ錘19が接続している為、端子18の自重が基板15に外力を与え、歪ませることがないようになっている。すなわち、端子18に対してカウンタバランスとしての錘19を設けることで、端子18が基板に負荷する力を低減若しくはゼロに近づけることが可能となる。
【0025】
図6にアースピン20を省略した基板保持ユニット16の平面図を示す。可動接触部103の個数および配置位置は特に限定しないが、図6のように保持中に基板15の傾きならびに位置が変動せず、かつ基板15が自重の撓みにより変形しないように、配置の重心が偏りなく複数個配置し、測定物に接触させることが望ましい。
なお、本発明は、前記に例示される半導体用ブランクス用途の基板に限定されるものではなく、圧力(真空、常圧、高圧)や導通の有無に依存せず、被対象物を変形させずに水平方向に保持、搬送することが出来るため、あらゆる基板に対して応用することが出来る。
以上、述べた効果により、平面度をはじめとする正確な基板情報の測定が可能となる。
【符号の説明】
【0026】
1・・・鏡筒部
2・・・電子銃
3・・・ウェーネルト電極
4・・・加速電極
5・・・ブランキング電極
6・・・第1レンズ
7・・・第1成形スリット
8・・・成形偏向器
9・・・第2レンズ
10・・・第2成形スリット
11・・・縮小レンズ
12・・・位置決め偏向器
13・・・対物レンズ
14・・・真空試料室
15・・・基板
16・・・基板保持ユニット
17・・・移動ステージ
18・・・端子
19・・・錘
20・・・アースピン
21・・・配管
22・・・圧力センサ
23・・・バルブ
24・・・圧力制御部
25・・・タンク
26・・・給排手段
100・・・レジスト
101・・・遮光膜
102・・・基板
103・・・可動接触部
104・・・ピストン
105・・・開口部
106・・・可動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の裏面に接触して当該基板を保持する複数の接触部を備え、前記各接触部は、基板に対し離間接近する方向に移動可能または変形可能となっていることを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
供給される流体によって前記各接触部を移動又は変形する機構を有し、各接触部を移動又は変形する機構に対して同一圧の流体を供給する給排手段を備えることを特徴とする請求項1に記載した基板保持装置。
【請求項3】
前記複数の接触部が前記基板の裏面に対しそれぞれ同一の接触圧で接触するように、当該複数の接触部を移動又は変形することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項4】
供給される流体によって前記各接触部を移動又は変形し、供給される流体の圧を、基板が配置された雰囲気内の圧力に応じて、調整することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の基板保持装置と、基板に接触し導通を取る端子と、を備えた基板加工装置において、
前記端子は、基板の表面に接触する第1の端子と、基板の裏面に接触する第2の端子とを備え、その第1の端子と第2の端子は、前記基板を挟んで相対する位置で基板に接触し、第1の端子及び第2の端子の少なくとも一方が基板に導通する導通端子となることを特徴とする基板加工装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の基板保持装置と、基板に接触し導通を取る端子と、を備えた基板加工装置において、
端子から基板に負荷される荷重を低減する端子保持機構を備えることを特徴とする基板加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−79917(P2012−79917A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223602(P2010−223602)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】