説明

基板処理装置

【課題】電力負荷を軽減することができ、キャリアガスを用いることなく圧力差で溶剤蒸気を供給させることにより溶剤濃度を高くすることができるとともに、処理液の置換・乾燥に溶剤蒸気を効率的に寄与させて乾燥効率を高めることができる。
【解決手段】制御部67は、チャンバ27内を減圧し、圧力計55によって検出された圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合に、真空時排気ポンプ19及び排気ポンプ52による減圧を停止させるとともに、リフタ31を処理位置から乾燥位置に上昇させる。蒸気圧曲線以下になるまで減圧され、溶剤が気体になりやすい状態とされるので、ヒータ41の容量が小さくても充分に溶剤蒸気を発生させることができ、電力負荷を軽減できる。また、圧力差によって溶剤蒸気をチャンバ27内に導入させるので、キャリアガスが不要となって溶剤濃度を高くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハや液晶表示装置用のガラス基板(以下、単に基板と称する)等の基板に対して、処理液により洗浄、エッチング等の処理を行った後、溶剤蒸気により基板を乾燥させる基板処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置として、処理液を貯留する処理槽と、処理槽の周囲を囲うチャンバと、基板を支持して昇降可能なリフタと、溶剤を貯留し、付設された加熱ヒータによって溶剤蒸気を発生させる蒸気発生ユニットと、溶剤蒸気を圧送するためのキャリアガスとして不活性ガスを蒸気発生ユニットに対し供給するキャリアガス供給部と、チャンバ内の気体を排出してチャンバ内を減圧する真空ポンプとを備えたものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このような構成の基板処理装置では、予め過熱ヒータによって溶剤を加熱して蒸気発生ユニット内で溶剤蒸気を発生させておく。そして、処理槽内の処理液に基板を浸漬させて洗浄処理を行った後、蒸気発生ユニットにキャリアガスを供給して、溶剤蒸気をチャンバ内に圧送する。チャンバ内に溶剤蒸気雰囲気が形成された後、リフタを上昇させて処理液中の基板を溶剤蒸気雰囲気中に移動させる。その後、真空ポンプを作動させてチャンバ内を減圧し、その状態を所定時間だけ維持する。基板に付着した処理液の液滴が溶剤蒸気で置換され、乾燥が促進される。
【特許文献1】特開2003−31543号公報
【特許文献2】特開2007−46838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、従来の装置は、蒸気発生ユニットにおいて溶剤を加熱によってのみ蒸気を生成させるので、気化熱と同じ熱量を溶剤に加える必要がある関係上、溶剤の蒸気量を増やすためには大容量の加熱ヒータが必要になって電力負荷が大きくなるという問題がある。
【0005】
また、チャンバへ溶剤蒸気を圧送するために、窒素ガス(N)などのキャリアガスを使用しているので、チャンバ内における溶剤の濃度を高くするのが困難であり、乾燥効率の向上に限界がある。
【0006】
さらに、キャリアガスを含む溶剤蒸気の容量が多く、その状態で真空ポンプを作動させると負荷が過大となるので、溶剤蒸気の供給時はチャンバ内を減圧していない。そのため、溶剤蒸気が過剰にチャンバ内で凝縮しやく、基板に付着した処理液の置換・乾燥に有効に寄与しない溶剤蒸気が多くなる。その結果、溶剤蒸気の容量のわりに乾燥効率が高くできないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、減圧環境下で溶剤蒸気を発生させることにより電力負荷を軽減することができ、キャリアガスを用いることなく圧力差で溶剤蒸気を供給させることにより溶剤濃度を高くすることができるとともに、処理液の置換・乾燥に溶剤蒸気を効率的に寄与させて乾燥効率を高めることができる基板処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、処理液により処理された基板を溶剤蒸気により乾燥させる基板処理装置において、処理液を貯留する処理槽と、前記処理槽の周囲を囲うチャンバと、基板を支持し、前記処理槽内の処理位置と、前記処理槽の上方にあたる乾燥位置とにわたって昇降可能な基板支持機構と、溶剤を貯留する蒸気発生タンクと、前記蒸気発生タンク内の溶剤を加熱するための加熱手段と、前記蒸気発生タンク内の溶剤の温度を検出する温度検出手段と、前記蒸気発生タンクと前記チャンバとを連通接続し、前記チャンバ内に溶剤蒸気を供給する供給管と、前記チャンバ内を減圧する減圧手段と、前記チャンバ内の圧力を測定する圧力検出手段と、前記加熱手段により溶剤を加熱した状態で、前記減圧手段で前記チャンバ内を減圧し、前記圧力検出手段によって検出された圧力が、前記温度検出手段によって検出された温度における溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合には、前記減圧手段による減圧を停止させるとともに、前記基板支持機構とを処理位置から乾燥位置に上昇させる制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、制御手段は、加熱手段により溶剤を加熱した状態で、減圧手段でチャンバ内を減圧し、圧力検出手段によって検出された圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合には、減圧手段による減圧を停止させるとともに、基板支持機構を処理位置から乾燥位置に上昇させる。チャンバ内が減圧されていることで蒸気発生タンク内も減圧され、しかも。圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下になるまで減圧され、溶剤が気体になりやすい状態とされるので、加熱手段の容量が小さくても充分に溶剤蒸気を発生させることができ、電力負荷を軽減することができる。また、蒸気発生タンクで発生した蒸気を、チャンバと蒸気発生タンクとの圧力差によってチャンバ内に導入させることができるので、キャリアガスが不要となって溶剤濃度を高くすることができる。また、チャンバ内が減圧された状態で溶剤蒸気がチャンバ内に導入されるので、溶剤蒸気の過剰な凝縮が抑制でき、基板に付着した処理液の置換・乾燥に効率的に寄与させることができる。
【0010】
本発明において、溶剤の種類に応じた蒸気圧曲線を予め記憶した記憶手段をさらに備え、前記制御手段は、前記記憶手段を参照し、前記蒸気発生タンクに貯留されている溶剤の種類に応じた蒸気圧曲線に基づいて、減圧停止のタイミングを判断することが好ましい(請求項2)。蒸気圧曲線は溶剤の種類によって異なるので、予め記憶手段に記憶された蒸気圧曲線を参照することにより、減圧停止のタイミングを正確なものとすることができる。
【0011】
また、本発明において、前記供給管に設けられ、前記供給管を流れる溶剤蒸気の流量を制御する蒸気弁を備え、前記制御手段は、前記基板支持機構を乾燥位置に上昇させる直前に、前記蒸気弁を開放させることが好ましい(請求項3)。蒸気弁が開放されると蒸気発生タンクから急速に溶剤蒸気が発生して、蒸気弁で設定された流量で溶剤蒸気がチャンバ内に導入される。したがって、チャンバ内に導入された溶剤蒸気を効率的に基板の乾燥に寄与させることができる。
【0012】
また、本発明において、前記供給管は、前記蒸気弁の下流側にインラインヒータを備えていることが好ましい(請求項4)。発生された溶剤蒸気が供給管で凝縮することを軽減でき、溶剤濃度が低下することを防止できる。
【0013】
また、本発明において、前記加熱手段による加熱温度が72℃以上である場合、前記蒸気発生タンクは、3.7リットル以上の容量のイソプロピルアルコール(IPA)を貯留してあることが好ましい(請求項5)。ここで、安全の観点から、1気圧下の沸点−10℃を温調温度=72℃とし、発生させている蒸気量を、液体の状態にて毎分100ミリリットルと仮定する。また、種々の実験の結果から、減圧時の蒸気発生タンクの圧力は、0.5気圧と仮定する。イソプロピルアルコールの気化熱=158.4[cal]/g≒663[J/g]、イソプロピルアルコール液体の比重=0.79、イソプロピルアルコールの0.5気圧時の沸点≒65[℃]、イソプロピルアルコール液体の比熱=2550[J/Kg℃]とする。この条件により、100ミリリットルのイソプロピルアルコールを気化させるのに必要な熱量[J]=663×100×0.79=52.377[J]となる。蒸気発生タンクの貯留量が3.7リットルの場合に、気化に使えるイソプロピルアルコール液体に蓄えられる熱量は、(72[℃]−65[℃])×2.55[KJ/Kg℃]×3.8[l]×0.79=53.58[KJ]となり、気化に必要な熱量を越えることになる。したがって、イソプロピルアルコールは、3.7リットル以上の容量を貯留しておくことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る基板処理装置によれば、制御手段は、加熱手段により溶剤を加熱した状態で、減圧手段でチャンバ内を減圧し、圧力検出手段によって検出された圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合に、減圧手段による減圧を停止させるとともに、基板支持機構を処理位置から乾燥位置に上昇させる。チャンバ内が減圧されていることで蒸気発生タンク内も減圧され、しかも。溶剤が気体になりやすい状態とされるので、加熱手段の容量が小さくても充分に蒸気を発生させることができ、電力負荷を軽減できる。また、蒸気発生タンクで発生した蒸気を、チャンバと蒸気発生タンクとの圧力差によってチャンバ内に導入させるので、キャリアガスが不要となって溶剤濃度を高くすることができる。また、チャンバ内が減圧された状態で溶剤蒸気がチャンバ内に導入されるので、溶剤蒸気の過剰な凝縮が抑制でき、基板に付着した処理液の置換・乾燥に効率的に寄与させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。
図1は、実施例に係る基板処理装置の概略構成を示したブロック図である。
【0016】
本実施例に係る基板処理装置は、処理液を貯留する処理槽1を備えている。この処理槽1は、処理液を貯留し、起立姿勢とされた複数枚の基板Wを収容可能に構成されている。処理槽1の底部には、複数枚の基板Wが整列されている方向(紙面方向)に沿って長軸を有し、処理液を供給するための二本の供給・排気管7が配設されている。各供給・排気管7には、配管9の一端側が接続され、配管9の他端側は、供給管11と吸引管13に分岐されている。供給管11は、処理液供給源15に連通接続されており、その流量が供給管11に設けられた制御弁からなる処理液弁17で制御される。吸引管13は、真空時排気ポンプ19に接続され、吸引管13に設けられた排気弁21により開閉される。処理液供給源15は、フッ化水素酸や、硫酸・過酸化水素水の混合液などの薬液や、純水などを処理液として供給管11に供給する。
【0017】
処理槽1は、その周囲がチャンバ27で囲われている。チャンバ27は、上部に開閉自在の上部カバー29を備えている。起立姿勢で複数枚の基板Wを保持するリフタ31は、図示しない駆動機構によりチャンバ27の上方にあたる「待機位置」と、処理槽1の内部にあたる「処理位置」と、処理槽1の上方であってチャンバ27の内部にあたる「乾燥位置」とにわたって移動可能に構成されている。
【0018】
なお、上記のリフタ31が本発明における基板支持機構に相当する。
【0019】
上部カバー29の下方であってチャンバ27の上部内壁には、一対の溶剤ノズル33と、一対の不活性ガスノズル34とが配設されている。溶剤ノズル33には、供給管35の一端側が連通接続されている。その他端側は、蒸気発生タンク37に連通接続されている。この供給管35には、その上流側から順に、溶剤蒸気の流量を調整するための制御弁からなる蒸気弁38と、溶剤蒸気を加熱するためのインラインヒータ40とが配設されている。なお、供給管35は、従来装置の供給管よりも大径(9.52mm程度)で構成され、供給管35の中における溶剤蒸気の流路抵抗を小さくして溶剤ノズル33への溶剤蒸気の供給が円滑に行われる。供給管35が溶剤蒸気を加熱するインラインヒータ40を備えていることにより、発生された溶剤蒸気が供給管35で凝縮することを軽減でき、溶剤濃度が低下することを防止できる。
【0020】
蒸気発生タンク37は、蒸気発生空間である内部空間を所定温度に温調したり、加熱して溶剤の蒸気を発生させたりするためのヒータ41が付設されている。蒸気発生タンク37の内部空間には、溶剤を供給するための溶剤供給源43が連通接続されている。この例では、溶剤としてイソプロピルアルコール(IPA)が利用されている。なお、溶剤としては、IPAの他に、例えば、HFE(ハイドロフルオロエーテル)がある。また、蒸気発生タンク37の内部空間には、溶剤の温度を測定するための温度検出器42が配設されている。この蒸気発生タンク37は、溶剤がイソプロピルアルコールである場合、3.7リットル以上の容量を貯留されていることが好ましい。また、ヒータ41は、溶剤がイソプロピルアルコールである場合、72℃以上に加熱することが好ましい。
【0021】
なお、上述した温度検出器42が本発明における温度検出手段に相当する。
【0022】
上述した溶剤の容量と温度とすることが好ましいとする根拠は以下の通りである。
すなわち、安全の観点から、1気圧下の沸点−10℃を温調温度=72℃とし、発生させている蒸気量を、液体の状態にて毎分100ミリリットルと仮定する。また、種々の実験の結果から、減圧時の蒸気発生タンク37の圧力は、0.5気圧と仮定する。イソプロピルアルコールの気化熱=158.4[cal]/g≒663[J/g]、イソプロピルアルコール液体の比重=0.79、イソプロピルアルコールの0.5気圧時の沸点≒65[℃]、イソプロピルアルコール液体の比熱=2550[J/Kg℃]とする。
【0023】
上述した条件の下、100ミリリットルのイソプロピルアルコールを気化させるのに必要な熱量[J]は、663×100×0.79=52.377[J]となる。蒸気発生タンク37の貯留量が3.7リットルの場合に、気化に使えるイソプロピルアルコール液体に蓄えられる熱量は、(72[℃]−65[℃])×2.55[KJ/Kg℃]×3.8[l]×0.79=53.58[KJ]となり、気化に必要な熱量を越えることになる。したがって、イソプロピルアルコールは、3.7リットル以上の容量を蒸気発生タンク37に貯留しておくことが好ましい。
【0024】
不活性ガスノズル34には、供給管45の一端側が連通接続されている。その他端側は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給源47に連通接続されている。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス(N)が挙げられる。不活性ガス供給源47からの不活性ガスの供給量は、不活性ガス弁49によって調整される。不活性ガス弁49の下流側には、インラインヒータ50が取り付けられている。このインラインヒータ50は、不活性ガス供給源47からの不活性ガスを所定温度に加熱する。
【0025】
チャンバ27には、その内部から気体を排出可能な排気管51が接続されており、この排気管51には排気ポンプ52が配設されている。また、チャンバ27には、減圧状態を解消するための制御弁からなる呼吸弁53が取り付けられている。さらに、チャンバ27には、内部の圧力を検出するための圧力計55が配設されている。
【0026】
なお、上述した真空時排気ポンプ19及び排気ポンプ52が本発明における減圧手段に相当する。また、圧力計55が本発明における圧力検出手段に相当する。
【0027】
処理槽1の底部には、排出口57が配設されている。この排出口57には、QDR弁59が取り付けられている。このQDR弁59から処理槽1内の処理液を排出すると、処理液がチャンバ27内の底部に一旦排出される。チャンバ27の底部には、気液分離部61に連通接続された排出管63が取り付けられ、ここには排液弁65が取り付けられている。気液分離部61は、排気管51及び排出管63から気体と液体を取り込むとともに、それらを分離して排出する。
【0028】
上述した処理液弁17、真空時排気ポンプ19、排気弁21、上部カバー29、リフタ31、蒸気発生タンク37、蒸気弁38、インラインヒータ40、ヒータ41、不活性ガス弁49、インラインヒータ50、排気ポンプ52、呼吸弁53、QDR弁59、排液弁65などの動作は、本発明における制御手段に相当する制御部67によって統括的に制御される。制御部67は、各部を制御するとともに、本発明における記憶手段に相当する記憶部69を参照し、圧力計55からの圧力信号が蒸気圧曲線以下となった場合に、減圧を停止する動作を行う。
【0029】
この記憶部69は、制御部67が実行する制御プログラムの他、処理手順を規定したレシピや、蒸気発生タンク37に貯留されている溶剤の種類に応じた蒸気圧曲線を予め記憶してある。この蒸気圧曲線の一例を図2に示す。なお、図2は、イソプロピルアルコールの蒸気圧曲線の一例である。
【0030】
この蒸気圧曲線から、溶剤に次のような挙動を生じさせ得ることがわかる。
すなわち、例えば、溶剤が72℃に加熱された状態であって、チャンバ27が減圧されていない大気圧の状態である場合、溶剤はほぼ液体の状態である。その状態で、温度を維持したまま、真空時排気ポンプ19と排気ポンプ52を作動させてチャンバ27を減圧してゆき、圧力計55が0.63[atm]以下になると、溶剤が沸騰して活発に蒸気化される。換言すると、チャンバ27内の圧力が、加熱された溶剤の温度における蒸気圧曲線以下になると、連通された蒸気発生タンク37内の溶剤の状態が液体から気体へと変わる。
【0031】
上述した制御部67は、記憶部69を参照し、チャンバ27の圧力が、溶剤の実温度(温度検出器42の出力)における蒸気圧曲線以下になったことを検出した場合には、減圧を停止する動作を行わせる。
【0032】
次に、図3を参照する。なお、図3は、基板処理装置の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、本願発明の主要部だけを記載しており、その他の動作については省略してある。
【0033】
まず、主要動作の前の動作について説明する。
制御部67は、上部カバー29を開放し、未処理の基板Wを複数枚保持しているリフタ31を「待機位置」から「乾燥位置」に搬入させる。このとき、排液弁65は開放されたままである。次に、制御部67は、チャンバ27内の酸素濃度低減処理を行う。具体的には、上部カバー29を閉止するとともに、不活性ガス49を開放し、不活性ガス供給源47からチャンバ27内に不活性ガスを供給させる。これにより、チャンバ27及び処理槽1の内部にある空気が不活性ガスによってパージされて、その結果、チャンバ27内の酸素濃度が低減される。さらに、制御部67は、リフタ31を「乾燥位置」から「処理位置」にまで下降させる。
【0034】
処理槽1及びチャンバ27内の酸素濃度が低減されると、制御部67は、処理液弁17を開放する。これにより、処理液供給源15から処理液(例えば、常温の純水)が処理槽1に供給され、処理槽1の上部から溢れた処理液がチャンバ27の底部で回収される。回収された処理液は、排出管63を通して気液分離部61で回収され、図示しない廃液処理部に排出される。このようにして処理液が処理槽1に供給された後、制御部67は、リフタ31を「処理位置」に所定時間だけ維持して、基板Wに対して処理液による処理を行う。
【0035】
処理液による処理を開始して所定時間が経過すると、制御部67は、リフタ31を「処理位置」に維持させたまま、排水ポンプ51を作動させて、チャンバ27底部に排出された処理液を排出するとともに、QDR弁59を開放して処理液をチャンバ27に急速排出させる。処理槽1の処理液が完全に排出された後、不活性ガス弁49を閉止するとともに呼吸弁53を閉止してチャンバ27の内部を閉塞させる。
【0036】
ステップS1
制御部67は、蒸気発生タンク37における蒸気発生の準備を行わせる。具体的には、溶剤を加熱するために、加熱温度(例えば72℃)でヒータ41への供給電力を制御する。溶剤の実温度は、温度検出器42からの出力によって判断する。このとき、蒸気弁38は閉止されたままである。なお、このステップS1は、上述した主要動作の前の動作中に開始するようにしてもよい。
【0037】
ステップS2
チャンバ27内の減圧を開始する。
具体的には、排液弁65を閉止するとともに、排気弁21を開放し、排水ポンプ51及び真空時排気ポンプ19による減圧を行う。このとき、チャンバ27内部の圧力は、圧力計55によって逐次測定され、その圧力信号が制御部67に与えられる。
【0038】
ステップS3
制御部67は、記憶部69の蒸気圧曲線を参照し、圧力信号が、加熱温度における蒸気圧曲線以下になるまで、排水ポンプ51及び真空時排気ポンプ19による減圧を行う。
【0039】
ステップS4
上記の条件が満たされると、排気弁21及び排液弁65を閉止するとともに、真空時排気ポンプ19及び排水ポンプ51を停止させる。これによりチャンバ27内の圧力が減圧状態に維持される。
【0040】
ステップS5
制御部67は、インラインヒータ40を作動させて、溶剤の加熱温度(例えば、72℃以上)に合わせて昇温させておくとともに、蒸気弁38を開放する。すると、蒸気発生タンク37がチャンバ27に連通され、蒸気発生タンク37内において溶剤が沸騰して大量の溶剤蒸気が発生する。さらに、チャンバ27内の圧力は、蒸気発生タンク37内の圧力よりも低いので、その圧力差に応じて溶剤蒸気が蒸気発生タンク37からチャンバ27内に流入する。チャンバ27内に圧力差で流入した溶剤蒸気により、チャンバ27内は溶剤蒸気雰囲気とされる。このとき、常温の処理液から露出され、温度が溶剤蒸気に比較して非常に低い基板Wの全面に主として凝結する。そして、基板Wの表面に付着している処理液の液滴が溶剤によって置換される。また、このとき、基板Wは、処理槽1内の小さな体積内に収容された状態で乾燥処理が行われるので、効率的に乾燥処理が行われる。
【0041】
なお、溶剤蒸気がチャンバ27内に大量に流入するので、チャンバ27内の圧力が上昇することが考えられるが、発明者の実験によると、溶剤蒸気が、温度差の大きな基板Wに凝結することにより、チャンバ27内の圧力が溶剤蒸気の流入に起因して極端に上昇することはなかった。したがって、減圧を停止した状態であっても、蒸気発生タンク37からの溶剤蒸気の流入をある程度維持させることが可能である。
【0042】
ステップS6,S7
制御部67は、上記の処理を所定時間だけ行った後、リフタ31を「処理位置」から「乾燥位置」へと上昇させる。そして、この状態を維持したまま、所定時間だけ維持して、乾燥処理の仕上げを行う。
【0043】
ステップS8
制御部67は、所定時間が経過した時点で、呼吸弁53を開放するとともに、不活性ガス弁49を開放して不活性ガスをチャンバ27内に導入し、チャンバ27内の圧力を大気圧に戻す。これにより、蒸気発生タンク37との圧力差がなくなるので、溶剤蒸気の発生が止まる。その後、蒸気弁38を閉止する。
【0044】
上述した処理の後、制御部67は、上部カバー29を開放するとともに、リフタ31を「乾燥位置」から「待機位置」へと移動させる。
【0045】
上述したように、制御部67は、ヒータ41により溶剤を加熱した状態で、真空時排気ポンプ19及び排気ポンプ52でチャンバ27内を減圧し、圧力計55によって検出された圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合には、真空時排気ポンプ19及び排気ポンプ52による減圧を停止させるとともに、リフタ31を処理位置から乾燥位置に上昇させる。チャンバ27内が減圧されていることで蒸気発生タンク37内も減圧され、しかも、チャンバ27内の圧力が、溶剤の温度に対応する溶剤の蒸気圧曲線以下になるまで減圧され、溶剤が気体になりやすい状態とされるので、ヒータ41の容量が小さくても充分に溶剤蒸気を発生させることができ、電力負荷を軽減することができる。また、蒸気発生タンク37で発生した蒸気を、チャンバ27と蒸気発生タンク37との圧力差によって溶剤蒸気をチャンバ27内に導入させることができるので、キャリアガスが不要となって溶剤濃度を高くすることができる。また、チャンバ27内が減圧された状態で溶剤蒸気がチャンバ27内に導入されるので、溶剤蒸気の過剰な凝縮が抑制でき、基板Wに付着した処理液の置換・乾燥に効率的に寄与させることができる。
【0046】
また、制御部67は、記憶部69の溶剤に応じた蒸気圧曲線を参照して、チャンバ27内の圧力が、現在の蒸気発生タンク37の加熱温度における蒸気圧曲線以下となったか否かを判断しているので、記憶部69に記憶する蒸気圧曲線を溶剤の種類に応じて変えることにより、種々の溶剤に対応させることが可能となる。したがって、上述したイソプロピルアルコールとは異なるHFE(ハイドロフルオロエーテル)を利用して処理を行う場合には、記憶部69に予めHFEの蒸気圧曲線を記憶させておけばよく、柔軟な処理に対応可能である。
【0047】
また、本実施例では、リフタ31を上昇させる直前に蒸気弁38を開放するようにしているので、基板W以外の箇所での溶剤蒸気の凝縮を抑制して、チャンバ27内に導入された溶剤蒸気を効率的に基板Wの乾燥に寄与させることができる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0049】
(1)上述した実施例では、蒸気弁35の開放タイミングを、リフタ31を乾燥位置に移動させる直前としているが、本発明はその開放タイミングに限定されるものではない。具体的には、処理槽1から処理液を排出する時点で蒸気源35を開放するように、早めに溶剤蒸気の供給を開始するようにしてもよい。
【0050】
(2)上述した実施例では、供給管35にインラインヒータ40を備えているが、供給管35における溶剤蒸気の凝縮の影響が小さい場合には、インラインヒータ40を備える必要はない。
【0051】
(3)上述した実施例では、蒸気発生タンク37にイソプロピルアルコールを貯留させた場合には、加熱温度が72℃である場合、3.7リットル以上の容量のイソプロピルアルコールを貯留するようにしているが、溶剤の種類によってその条件は異なる。したがって、本発明は上記の条件に限定されるものではない。
【0052】
(4)上述した実施例では、供給・排出管7からも減圧を行うようにしているが、排出管63だけから減圧を行う構成としてもよい。このようにすると、供給・排出管7を処理液の供給だけに使用することができ、配管構成を簡単化することができる。
【0053】
(5)上述した実施例では、処理槽1が外槽を備えていないが、これに代えて内槽と外槽とからなる処理槽1を備えるようにしてもよい。その場合には、排出管63を外槽に備えるようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例に係る基板処理装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】イソプロピルアルコールの蒸気圧曲線の一例である。
【図3】基板処理装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
W … 基板
1 … 処理槽
7 … 供給・排気管
9 … 配管
11 … 供給管
19 … 真空時排気ポンプ
17 … 処理液弁
19 … 真空時排気ポンプ
21 … 排気弁
27 … チャンバ
33 … 溶剤ノズル
35 … 供給管
37 … 蒸気発生タンク
38 … 蒸気弁
40 … インラインヒータ
41 … ヒータ
42 … 温度検出器
52 … 排気ポンプ
55 … 圧力計
67 … 制御部
69 … 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液により処理された基板を溶剤蒸気により乾燥させる基板処理装置において、
処理液を貯留する処理槽と、
前記処理槽の周囲を囲うチャンバと、
基板を支持し、前記処理槽内の処理位置と、前記処理槽の上方にあたる乾燥位置とにわたって昇降可能な基板支持機構と、
溶剤を貯留する蒸気発生タンクと、
前記蒸気発生タンク内の溶剤を加熱するための加熱手段と、
前記蒸気発生タンク内の溶剤の温度を検出する温度検出手段と、
前記蒸気発生タンクと前記チャンバとを連通接続し、前記チャンバ内に溶剤蒸気を供給する供給管と、
前記チャンバ内を減圧する減圧手段と、
前記チャンバ内の圧力を測定する圧力検出手段と、
前記加熱手段により溶剤を加熱した状態で、前記減圧手段で前記チャンバ内を減圧し、前記圧力検出手段によって検出された圧力が、前記温度検出手段によって検出された温度における溶剤の蒸気圧曲線以下となった場合には、前記減圧手段による減圧を停止させるとともに、前記基板支持機構とを処理位置から乾燥位置に上昇させる制御手段と、
を備えていることを特徴とする基板処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理装置において、
処理液の種類に応じた蒸気圧曲線を予め記憶した記憶手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記記憶手段を参照し、前記蒸気発生タンクに貯留されている溶剤の種類に応じた蒸気圧曲線に基づいて、減圧停止のタイミングを判断することを特徴とする基板処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の基板処理装置において、
前記供給管に設けられ、前記供給管を流れる溶剤蒸気の流量を制御する蒸気弁を備え、
前記制御手段は、前記基板支持機構を乾燥位置に上昇させる直前に、前記蒸気弁を開放させることを特徴とする基板処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の基板処理装置において、
前記供給管は、前記蒸気弁の下流側にインラインヒータを備えていることを特徴とする基板処理装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の基板処理装置において、
前記加熱手段による加熱温度が72℃以上である場合、前記蒸気発生タンクは、3.7リットル以上の容量のイソプロピルアルコール(IPA)を貯留してあることを特徴とする基板処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−4694(P2009−4694A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−166339(P2007−166339)
【出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】