説明

塗工装置

【課題】フレークや粒状などの形状に加工された固形分濃度の高い塗料を用いる場合でも、塗工時の塗膜厚と膜密度を安定させることができる塗工装置を提供する。
【解決手段】本発明の塗工装置は、塗料12を塗工するための二つのロール18、19と、二つのロール18、19の隙間に塗料12を供給するホッパー14と、ホッパー14内における塗料12の上面の高さを測定するセンサ15とを備え、ホッパー14内における塗料12の上面の高さをセンサ15で測定した結果に応じて、二つのロール18、19の周速度の比を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の二次電池やキャパシタなどのデバイスを製造するに際し、ロールを用いてシート状の基材の表面に塗料を塗工する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池やキャパシタなどのデバイスの源泉工程においては、Roll to Roll方式で搬送されるシート状の基材の表面に塗料が塗工される。詳しくは、塗工が行われるシート状の基材は、巻き出し機から塗工機、乾燥炉を経た後、プレスにて圧縮される。塗工機では、シート状の基材の表面に塗料が塗工されて塗膜が形成される。乾燥炉では、シート状の基材の表面に形成された塗膜から水分が除去される。また、プレスによる圧縮時には、シート状の基材の表面に形成された塗膜の最終的な塗膜厚が調整される。
【0003】
プレス後に、安定した塗膜厚と膜密度を得るには、塗工時に膜密度と塗膜厚を一定にする必要がある。したがって、液体の塗料を用いる場合は、濃度が一定の液体状の塗料を用いるとともに塗工時の塗膜厚を一定にして、塗工時の膜密度と塗膜厚を安定させることにより、プレス後に、安定した塗膜厚と膜密度を実現できるので、シート状の基材の表面に塗料を塗工する塗工装置として、塗工時の塗膜厚を調整可能な構成のものが使用される。
【0004】
塗工時の塗膜厚を調整できる構成としては、一般的に、回転軸を平行にして配置された二つのロールの外周面の間に形成される隙間によって塗膜厚を調整する構成が採用されている。このような構成を有する塗工装置が、例えば特許文献1に開示されている。図7は特許文献1に記載された従来の塗工装置を示す図である。
【0005】
図7に示す塗工装置は、ウェブ1を支持して回転する第一のロール2と、そのロール2の外周面上に支持されて走行中のウェブ1に、塗布液を過剰に供給するノズル(図示せず)と、第一のロール2に平行に且つ隙間をあけて配置された第二のロール3とを備え、ウェブ1上に供給された塗布液を第二のロール3で掻き取ることで、ウェブ1上に一定厚さの塗膜を形成する構造となっている。
【0006】
この塗工装置によれば、二つのロール2、3間の隙間によって、塗工時の塗膜厚を調整することができる。
【0007】
加えて、この塗工装置は、塗布液掻き取り用のロール3の両端をそれぞれロール位置調整装置4に保持させ、各ロール位置調整装置4によってロール3の回転中心位置を制御して、二つのロール2、3間の間隔を所望の値に調整できる構造となっている。
【0008】
詳細には、各ロール位置調整装置4は、ロール3の軸を軸受を介して支持した支持台5を、他方のロール2に対して接近及び離間方向に移動可能に保持する直動ガイド6と、その支持台5を移動させるアクチュエータ7とを備えており、そのアクチュエータ7によってロール3の軸の位置を変位させ、二つのロール2、3間の間隔を所望の値に調整する構造となっている。
【0009】
さらに、この塗工装置には、ロール位置調整装置4を制御するために、二つのロール2、3のそれぞれの回転位置を検出するロータリーエンコーダ8、9と、二つのロール2、3のそれぞれの回転位置とロール外周面の回転振れ量との関係を示すデータをあらかじめ記憶しておき、定期的に、ロータリーエンコーダ8、9で検出した二つのロール2、3のそれぞれの回転位置から回転振れ量を読み出して二つのロール2、3間の隙間の寸法を求め、その隙間の寸法を所定の設定値に保つためのロール回転中心位置の調整量を算出する記憶・演算装置10と、その記憶・演算装置10が算出したロール回転中心位置の調整量に応じてロール位置調整装置4を制御するコントローラ11とが設けられている。
【0010】
以上の構成によれば、塗工動作中にロールの回転に伴う回転振れが生じても、第二のロール3の両端に配置されたノズル位置調整装置4が、ロールの回転に伴う回転振れに応じてロール3の両端位置を制御することで、二つのロール2、3間の隙間が一定に保たれるので、塗工時の塗膜厚を均一化できる。
【0011】
詳細には、記憶・演算装置10が、定期的に、各ロール2、3に連結しているロータリーエンコーダ8、9からの信号を基に各ロール2、3の回転位置を割り出し、その回転位置での回転振れ量を、あらかじめ記憶させているデータから読み出し、次いで、その回転振れ量からその時点での二つのロール2、3間の隙間の寸法を求める。次に、その隙間の寸法を所定の設定値に等しくするために可動側のロール3のロール回転中心位置を移動させるべき距離、すなわちロール回転中心位置の調整量を算出する。このロール回転中心位置の調整量は、ロール3の両端についてそれぞれ算出する。次に、コントローラ11が、ロール3の回転中心位置を、先に算出した調整量だけ移動させるように、ロール位置調整装置4に指令値(調整量)を出力し、各ロール位置調整装置4がそれぞれ指令値に応じて支持台5の位置を調整する。これにより、ロール3の両端においてそれぞれ、ロール回転中心位置が、演算して求めた調整量だけ移動し、二つのロール2、3間の隙間の寸法が所望の値になる。
【0012】
以上説明した従来の塗工装置によれば、塗工時の塗膜厚を所定値に制御することができる。したがって、濃度が一定の液体状の塗料を用いることにより、プレス後に、安定した塗膜厚と膜密度を得ることができる。
【0013】
しかしながら、液体状の塗料では、乾燥に必要な時間をとるために乾燥炉を長くする必要があり、場所と設備コストがかかるという問題がある。
【0014】
そこで、固形分濃度の高い塗料による塗工が検証されている。カーボンなどの素材を主成分とする塗料は、塗料に含まれる液体の割合を少なくして固形分濃度を高くした場合、固形になるため、フレークや粒状などの形状に加工されて塗工装置へ搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006−035179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように、液体状の塗料に代えて、液体の割合を少なくして固形分濃度を高くした塗料をフレークや粒状などの形状に加工して塗工装置へ搬送し、シート状の基材の表面に塗工を行うことが検証されているが、固形分濃度が高くフレーク状や粒状などの形状に加工された塗料には、以下で説明する問題がある。
【0017】
フレークや粒状などの形状に加工された固形分濃度の高い塗料を用いる場合には、塗工装置に、塗料をストックするホッパーを設け、回転軸を平行にして配置された二つのロールの外周面の間に形成される隙間へ塗料をその自重によりホッパーから供給する構成が考えられる。
【0018】
このような構成において、プレス後に、安定した塗膜厚と膜密度を得るには、二つのロール間の隙間を一定に制御するとともに、ホッパーへの塗料の搬送量を精密に制御して、ホッパー内における塗料の上面の高さ(塗料面の高さ)を一定に保つ必要がある。
【0019】
ホッパー内における塗料面の高さを一定に保つのは、塗工時の膜密度が、ホッパー内の塗料面の高さと相関関係にあるためである。詳しくは、ホッパー内の塗料は、その自重によって二つのロール間の隙間へ供給されるため、ホッパー内の塗料面の高さが高いと、二つのロール間の隙間への塗料の供給量が増加して塗工時の膜密度が高くなり、逆に塗料面の高さ低いと膜密度が低くなる。そのため、塗工時の膜密度を安定させるには、ホッパー内の塗料面の高さを一定に保つ必要がある。
【0020】
しかしながら、固形分濃度の高い塗料の搬送には、搬送量を精密に制御可能なフィーダーやニーダーを用いることができない。これは、フィーダーやニーダーでは、搬送中に塗料に圧縮力がかかるためである。すなわち、カーボンなどの素材に液体を混ぜた固形分濃度の高い塗料は、圧縮されると液体がにじみ出て固形分濃度が変化するため、ホッパーへの搬送時に塗料が圧縮されると、塗工時の膜密度が安定しない。そのため、搬送中に圧縮力がかかるフィーダーやニーダーでは、塗工時の膜密度が安定しない。加えて、フィーダーで搬送すると、その搬送軸に塗料が付着により残留し、その残留した塗料が乾燥して剥がれるおそれがある。また、ニーダーで搬送した場合も同様に、その円筒内部に塗料が付着により残留し、その残留した塗料が乾燥して剥がれるおそれがある。搬送手段に残留していた塗料が乾燥してはがれると、塗工時の塗膜の密度に偏りが発生して不良の原因になる。したがって、フィーダーやニーダーは、固形分濃度の高い塗料の搬送に用いることができない。
【0021】
よって、固形分濃度の高い塗料を搬送する際は、開放型のコンベアを用いて、搬送後にコンベア表面を洗浄することで塗料の残留を防止する構成が考えられる。
【0022】
しかしながら、コンベアでは、ホッパーへの搬送量を精密に制御することができず、ホッパー内の塗料面の高さが変動する。したがって、上記したように、塗工時の膜密度は、ホッパー内の塗料面の高さと相関関係にあり、ホッパー内の塗料面の高さが高いと塗工時の膜密度が高くなり、塗料面の高さが低いと膜密度が低くなるので、ホッパーへの搬送量を精密に制御できないコンベアを用いた場合、塗工時の膜密度が安定しない。
【0023】
よって、固形分濃度の高い塗料を用いると、塗工時の膜密度が安定せず、乾燥後のプレスにて塗膜厚を均一にする際に、塗膜厚は安定するが膜密度が安定せず、品質上の問題が発生する。
【0024】
本発明は、フレークや粒状などの形状に加工された固形分濃度の高い塗料を用いる場合でも、塗工時の塗膜厚と膜密度を安定させることができる塗工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本発明の塗工装置は、塗料を塗工するための二つのロールと、前記二つのロールの隙間に塗料を供給するホッパーと、前記ホッパー内における塗料の上面の高さを測定するセンサとを備え、前記ホッパー内における塗料の上面の高さを前記センサで測定した結果に応じて、前記二つのロールの周速度の比を変化させることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の塗工装置は、前記二つのロールが離れる方向に予圧を加える予圧部をさらに備えてもよい。予圧部は、前記各ロールの軸心まわりの2箇所に配置してもよい。また、前記予圧部による加圧にバネを用いてもよい。また、前記各ロールの端部に段差部を設け、その段差部に予圧をかける構成としてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、塗工時の塗膜厚と膜密度を安定させることができ、プレス後に、安定した塗膜厚と膜密度を持つ塗膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態における塗工装置の一構成例の概略を示す側面図
【図2】本発明の実施の形態における塗工時のホッパー内の塗料面の高さと膜密度の関係を表したグラフを示す図
【図3】本発明の実施の形態における塗工時の塗工ロールと転写ロールの周速度の比と膜密度の関係を表したグラフを示す図
【図4】本発明の実施の形態における塗工ロールの軸受け部の一構成例の概略を示す図
【図5】本発明の実施の形態における予圧部の一構成例の概略を示す側面図
【図6】本発明の実施の形態における予圧部の一構成例の概略を示す平面図
【図7】従来の塗工装置の構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。但し、同じ構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する場合もある。また、図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示している。また図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は図面作成の都合上から、実際とは異なる。
【0030】
図1は本発明の実施の形態における塗工装置の一構成例の概略を示す側面図である。
【0031】
図1に示すように、前工程でフレーク状もしくは粒状に加工された固形分濃度の高い塗料12は、コンベア13によってホッパー14に搬送される。ホッパー14は、回転軸を平行にして配置された塗工ロール18と転写ロール19の外周面の間に形成される隙間である塗工部17の上部に配置されており、コンベア13によって搬送された塗料12をストックする。ホッパー14に搬送された塗料12は、その自重により塗工部17に供給される。
【0032】
この塗工装置には、ホッパー14内における塗料12の上面の高さ(塗料面の高さ)を測定するセンサ15が設けられており、コンベア13は、センサ15で測定された塗料面の高さが所定の上限値に達すると塗料12の搬送を停止する。塗料12の搬送停止後は、ホッパー14内の塗料12が、その自重により塗工部17に供給される。ホッパー14内の塗料面の高さが所定値まで低下すると、塗料12の搬送が再開される。センサ15には、例えばレーザ式変位センサ等を用いることができる。
【0033】
塗料12の搬送に使われたコンベア13の表面は、新たな塗料12が接触する前に、清掃手段16によって清掃される。清掃手段16には、例えばフライトスクレーパ等を用いることができる。この清掃手段16により、コンベア13の表面に付着した塗料12の残留を防止することができる。残留した塗料は、乾燥して剥がれ、塗膜の密度に偏りを生じさせるおそれがある。
【0034】
よって、この実施の形態によれば、コンベア13の表面に付着した塗料12の残留を清掃手段16によって防止できるので、塗膜の密度の偏りを低減させることができる。
【0035】
塗工ロール18と転写ロール19はそれぞれ、図示しない駆動装置によって、塗工部17に供給された塗料12を巻き込む方向に回転する(図1に示す矢印を参照。)。シート状の基材20(以下、シート20と称す。)は、塗工ロール18の外周面上で支持されて、塗工ロール18の回転方向と同じ方向へ、塗工ロール18の周速度と同じ速度で搬送される。塗工ロール18と平行に隙間を開けて配置された転写ロール19の周速度は、塗工ロール18の周速度よりも低く設定されており、塗工ロール18の外周面の離型性と、塗工ロール18上に支持されているシート20の表面の離型性と、転写ロール19の外周面の離型性が同じであれば、剪断力によって、転写ロール19よりも周速度が速い塗工ロール18上に支持されているシート20の表面に塗料12が塗工されるとともに、塗工ロール18の外周面にも、シート20からはみ出した塗料12が塗工される。離型性は、表面粗さや材質等によって異なる。なお、塗工ロール18とシート20に塗料12がより塗工されやすい状態となるように、塗工ロール18の外周面とシート20の表面の離型性に比べて、転写ロール19の外周面の離型性を高くしてもよい。離型性を高くするには、離型材を塗布したり、特殊なコーティングを施すなどすればよい。また、塗工ロール18の外周面にシート20を嵌めることが可能なガイド溝を設けて、シート20の横ずれを防止してもよい。
【0036】
この塗工装置には、塗工ロール18の外周面を清掃する清掃手段21が設けられている。清掃手段21には、例えばフライトスクレーパ等を用いることができる。この清掃手段21により、塗工の際にシート20からはみ出て塗工ロール18の外周面上に塗工されて付着した塗料12が残留するのを防止できる。
【0037】
以上のように、この塗工装置によれば、回転軸を平行にして配置された二つのロール18、19の外周面の間に形成される隙間によって、塗工時の塗膜厚を調整することができる。
【0038】
なお、図示しないが、この塗工装置は、その全体の動作を制御するための制御部と記憶部を備えており、コンベア13や、塗工ロール18、転写ロール19等の動作は、記憶部に事前に記憶されたプログラムに従って制御部により制御される。
【0039】
続いて、塗工時における膜密度を一定にする構成について説明する。
【0040】
塗料12はコンベア13によってホッパー14に搬送されるが、コンベア13では塗料12を精密な量で搬送することができず、ホッパー14内で塗料面の高さが変動するため、このままでは塗工時の膜密度も変動する。これは、塗工ロール18と転送ロール19の周速度が一定の場合、ホッパー14内の塗料面の高さと塗工時の膜密度に、図2に示すような相関関係があるためである。すなわち、図2に示すとおり、塗料面が高くなるにつれて、ホッパー14内の塗料12の自重が大きくなって、塗工部17への塗料12の供給量が増加し、塗工時の膜密度は大きくなる。
【0041】
一方、塗工ロール18の周速度が一定の場合、図3に示すとおり、塗工ロール18の周速度に対して転写ロール19の周速度が遅くなるにつれて塗工時の膜密度は小さくなり、逆に、塗工ロール18の周速度に転写ロール19の周速度が近づくにつれて塗工時の膜密度は高くなる。これは、塗料12がホッパー14から自重で塗工部17に供給され、塗工ロール18と転写ロール19の回転に巻き込まれることで塗工が行われるので、塗工ロール18の周速度に対し、転写ロール19の周速度が遅くなれば、塗工部17に巻き込まれる塗料12の量が少なくなり、逆に、塗工ロール18の周速度に転写ロール19の周速度が近づけば、塗工部17に巻き込まれる塗料12の量が多くなるためである。
【0042】
そこで、この実施の形態における塗工装置は、塗工ロール18の設定した周速度の下での、ホッパー14内の塗料面の高さと塗工時の膜密度との相関関係、および、塗工ロール18と転写ロール19の周速度の比と塗工時の膜密度との相関関係を事前にプログラムしておき、それら2種類の相関関係にもとづいて、センサ14によって測定したホッパー14内の塗料面の高さに応じて転写ロール19の周速度を可変させることで、塗工時の膜密度を一定にする構成としている。
【0043】
この構成によれば、塗工ロール18の設定した周速度の下で、塗工時の膜密度を一定に保つことができる。したがって、回転軸を平行にして配置された二つのロール18、19の外周面の間に形成される隙間によって、塗工時の塗膜厚を安定させる効果と相俟って、プレス後の塗膜厚と膜密度を安定させることができる。
【0044】
上記した構成でも、プレス後の膜密度を一定にできるが、粘度が高く、塗工時に、より強い圧力がかかる塗料を用いる場合や、リチウムイオン二次電池やキャパシタなどのデバイスの製造において、より高容量かつより安定した出力の製品を製造する場合には、プレス後に、より精密な膜密度が必要となる。
【0045】
そこで、この実施の形態における塗工装置では、プレス後の膜密度をより精密に制御するために、塗工ロール18と転写ロール19とが離れる方向に予圧を与えている。
【0046】
以下、予圧を加えることにより、プレス後に、より精密な膜密度を得ることができる理由について説明する。
【0047】
固形分濃度の高い塗料を用いると、塗工ロール18と転写ロール19との間の隙間に固体が入り込むため、液体状の塗料を用いる場合に比べて、塗工ロール18と転写ロール19とを離す方向に強い力がかかる。一方、塗工ロール18と転写ロール19のそれぞれの軸受け部には、ロールのシャフトと、ベアリングと、ベアリングホルダとの間のはめ合いによる隙間が存在する。図4に、塗工ロール18の軸受け部に存在する隙間を示す。図4に示すとおり、塗工ロール18の軸受け部には、ロールのシャフト18aと、ベアリング23と、ベアリングホルダ24との間のはめ合いによる隙間25が存在する。転写ロール19の軸受け部についても同様に隙間が存在する。そのため、回転している塗工ロール18と転写ロール19との間の隙間に固形分濃度の高い塗料12が入り込むことで発生する圧力によって、塗工ロール18と転写ロール19は離れる方向に移動する。さらに、コンベア13による塗料12の搬送量が不均一であり、塗料12の形状も一定でないため、連続して塗工を行っている間に塗工ロール18と転写ロール19にかかる力の大きさは変動する。したがって、塗工時に、塗工ロール18と転写ロール19との間の間隔に変動が生じて、塗膜厚が不均一となる。
【0048】
このように、塗工ロール18と転写ロール19の軸受け部に隙間が存在することにより、塗工時の塗膜厚が不均一となって、プレス後の膜密度の均一性が悪化する。
【0049】
これに対して、塗工ロール18と転写ロール19とが離れる方向に、あらかじめ予圧を加えると、その方向に存在する軸受け部の隙間をなくすことができ、塗工時に、塗工ロール18と転写ロール19との間の間隔が変動するのを防ぐことができる。したがって、塗工時の塗膜厚を精密に制御できるので、プレス後に、より精密な膜密度を得ることができる。
【0050】
以下、塗工ロール18と転写ロール19とが離れる方向に予圧を与える予圧部の構成について説明する。
【0051】
この実施の形態では、予圧部として、図1に示すように、予圧ロール22が設けられている。予圧ロール22は、回転している塗工ロール18と転写ロール19との間の隙間に固形分濃度の高い塗料12が入り込むことで発生する圧力によって、塗工ロール18と転写ロール19が移動する方向に、あらかじめ予圧を与えている。
【0052】
予圧部の構成を転写ルール19を用いてより詳細に説明すると、図5に示すとおり、この実施の形態では、予圧ロール22は、転写ロール19の軸心まわりの2箇所に、塗工時の圧力によって転写ロール19が移動する方向に予圧のベクトルが作用するように配置されている。塗工ロール18に対しても同様に予圧ロール22を設ける。なお、図5において、符号19aは、転写ロール19のシャフトである。これにより、塗工ロール18と転写ロール19とを離す方向に予圧が加わる。
【0053】
この予圧部の構成によれば、塗工ロール18と転写ロール19とが離れる方向に、あらかじめ予圧を加えて、その方向に存在する軸受け部の隙間をなくすことができるので、塗工ロール18と転写ロール19の位置が定まり、塗工時の圧力による塗工ロール18と転写ロール19の移動を防止することができる。よって、塗工時の塗工ロール18と転写ロール19との間の間隔を安定させることができるので、塗工時の膜厚を均一にできる。
【0054】
また、この実施の形態では、ホッパー14内の塗料面の高さに応じて転写ロール19の周速度を変化させている。そのため、塗工ロール18と転写ロール19の軸受け部に隙間が存在することにより、転写ロール19の周速度の変化の影響で、塗工ロール18と転写ロール19の隙間が最も少ない部分における、塗工ロール18と転写ロール19の外周の接線方向(塗工部17において塗料12が巻き込まれる方向)にも、塗工ロール18と転写ロール19が移動して、その結果、塗工ロール18と転写ロール19との間の間隔が変動するおそれがある。
【0055】
これに対して、この実施の形態では、塗工ロール18と転写ロール19のそれぞれの軸心まわりの2箇所に予圧ロール22を配置して予圧を作用させているので、塗工ロール18と転写ロール19の上下方向の位置も規正される。したがって、転写ロール19の周速度の変化によって、塗工部17において塗料12が巻き込まれる方向に塗工ロール17と転写ロール18が移動することによる、塗工ロール18と転写ロール19との間の間隔の変動を防止することができる。つまり、塗工ロール18と転写ロール19との間隔を安定して一定に保つことができ、塗工時の塗膜厚を均一にすることができる。
【0056】
また、この実施の形態では、図5に示すとおり、予圧の力を発生させる部材にバネ26を用いている。また、塗工ロール18に対しても同様にバネを用いている。これにより、バネ係数を選択して予圧の力を調整することで、ロール18、19の軸受け部に過大な負荷がかかるのを防ぐことができる。さらに、塗工のプロセスにおいて、塗工ロール18および転写ロール19を加熱する必要がある場合、加熱の際の軸受け部の熱膨張をバネ26で吸収して、軸受け部の損傷によるがたつきをなくし、塗工時の膜厚を安定させることができる。
【0057】
また、この実施の形態では、塗工ロール18と転写ロール19のそれぞれの両端部に、ロール18、19よりも直径が小さい段差部を設け、その段差部に予圧ロール22から予圧をかける構成としている。図6に、転写ルール19に設けた段差部27を示す。図6に示すとおり、転写ロール19の両端部に、転写ロール19よりも直径が小さい段差部27を設け、この段差部27に予圧ロール22から予圧をかける構成としている。塗工ロール18に対しても同様に段差部27を設けている。
【0058】
この構成によれば、予圧ロール22の接触によってロール外周面に傷や損耗が発生するのを防止することができ、その結果、傷や損耗が塗膜に転写されることによる、塗工時の塗膜厚の変動を防止して、塗膜厚を安定させることができる。
【0059】
以上のように、この実施の形態によれば、ホッパー14内の塗料面の高さに応じて、転写ロール19の回転速度を制御するとともに、塗工ロール18と転写ロール19の軸受け部におけるクリアランスによるがたつきを予圧ロール22にて無くすことができるので、固形分濃度の高い塗料12を用いた塗工プロセスにおいて、ホッパー14内の塗料面の高さによる膜密度のばらつきと、2つのロール18、19間の間隔の変動による塗膜厚の変動をなくすことができる。したがって、塗工時の膜密度と膜厚を均一に安定させることができるので、プレス後の膜密度を一定にすることができ、安定した塗膜厚と膜密度を持つ塗工膜を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明にかかる塗工装置は、固形分濃度の高い塗料を塗工する分野において、塗膜厚と膜密度の安定した製品の生産を図ることができ、二次電池やキャパシタなどのRoll to Roll方式を用いて製造されるデバイスの分野に適応できる。
【符号の説明】
【0061】
1 ウェブ
2 第一のロール
3 第二のロール
4 ロール位置調整装置
5 支持台
6 直動ガイド
7 アクチュエータ
8、9 ロータリーエンコーダ
10 記憶・演算装置
11 コントローラ
12 塗料
13 コンベア
14 ホッパー
15 センサ
16 清掃手段
17 塗工部
18 塗工ロール
18a シャフト
19 転写ロール
19a シャフト
20 シート状の基材
21 清掃手段
22 予圧ロール
23 ベアリング
24 ベアリングホルダ
25 隙間
26 バネ
27 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料を塗工するための二つのロールと、前記二つのロールの隙間に塗料を供給するホッパーと、前記ホッパー内における塗料の上面の高さを測定するセンサとを備え、前記ホッパー内における塗料の上面の高さを前記センサで測定した結果に応じて、前記二つのロールの周速度の比を変化させることを特徴とする塗工装置。
【請求項2】
前記二つのロールが離れる方向に予圧を加える予圧部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の塗工装置。
【請求項3】
前記予圧部は、前記各ロールの軸心まわりの2箇所に配置されることを特徴とする請求項2記載の塗工装置。
【請求項4】
前記予圧部による加圧にバネを用いることを特徴とする請求項2もしくは3のいずれかに記載の塗工装置。
【請求項5】
前記各ロールの端部に段差部を設け、その段差部に予圧をかけることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の塗工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−254422(P2012−254422A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129658(P2011−129658)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】