説明

塗装金属板

【課題】Cr系の防錆顔料を用いなくても、耐食性を有し、かつ、レーザー光で照射した部分の表示を鮮明にすることができる、レーザー印字性に優れた塗装金属板の提供。
【解決手段】シリカを含有する処理剤によって下地処理が施されためっき金属板の少なくとも片面に、下層塗膜及び上層塗膜を有するCrフリーの塗装金属板であって、下層塗膜がシリカ及びリン酸系防錆顔料並びに着色顔料を含有するとともに下層塗膜と上層塗膜の色差ΔEが30以上であることを特徴とする、レーザー印字性に優れた塗装金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や屋内外の建材等に使用するのに適した、レーザー印字性に優れた塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
金属板を使用した製品において、人の目に触れる外板は、耐食性や意匠性の向上を目的として、何らかの塗装が施されて使用されることがほとんどである。
【0003】
そのような塗装は、従来は製品の組立終了後に塗装するアフターコート方式で行ってきたが、最近は予め塗装を施した塗装金属板(プレコート金属板)の使用が増加してきている。
【0004】
このような塗装金属板は、主に、冷蔵庫、洗濯機、照明器具などの家電製品や、屋根用折板、建物外壁などの建材に用いられる。そして、これらの製品には、商品名、会社名や製造番号等が表示されるが、従来は印刷されたシールを塗装金属板の表面に貼付することによって表示をしていた。
【0005】
しかしながら、シール貼り工程の手間がかかる上に、貼付したシールが剥がれ易いという問題点があった。
【0006】
このため、シール貼り工程の省略とともに部品点数の削減のために、シール貼付による表示に代えて、レーザーによって塗装金属板に印字するレーザー印字法が、次のとおり、提案されている。
【0007】
特許文献1には、モスグリーン色の下層塗膜と白色の上層塗膜からなる2層の塗膜を有する塗装鋼板に、表示したい文字や図形の形をなぞるようにしてレーザー光を照射することが記載されている。このレーザー光の照射によってなぞった文字や図形の部分が白色の上層塗膜から除去されるので、レーザー光で照射した部分は文字や図形の形でモスグリーン色の下層塗膜が露出し、その文字や図形が白色を背景としてモスグリーン色で表示される。このようにして、塗装金属板の塗膜に直接にレーザーで印字することができるので、その表示も鮮明となる。
【0008】
この特許文献1に記載されたレーザー印字法を用いると、その文字や図形は上層塗膜の白色を背景として下層塗膜のモスグリーン色で表示されるので鮮明な印字が得られるものの、モスグリーン色を発現するためには、下層塗膜にCr系の顔料を含有させる必要がある。しかしながら、このようなCr系の顔料を含有する塗装鋼板は、環境を汚染する原因となる。
【0009】
したがって、このようなCr系の顔料を含有する塗装鋼板は、環境への配慮から、極力使用しない方向にあり、レーザー印字に用いる塗装鋼板についてもCr系の顔料を含有しないものが求められている。
【0010】
一方、Cr系の防錆顔料を含有しないCrフリーの塗装金属板自体は、次の特許文献2及び特許文献3に開示されている。いずれもCr系の防錆顔料を含有することなく、優れた耐食性が得られている。
【0011】
特許文献2には、水溶性若しくは水分散性有機高分子又は酸素酸塩からなる結合剤によってシリカ微粒子の化学処理被膜を形成した後に、Ca系顔料とシリカとリン酸を樹脂に含有させてなる下層塗膜を形成し、さらに上層塗膜を形成してなる塗装鋼板が記載されている。
【0012】
また、特許文献3には、多孔質シリカ粒子にCaイオンをイオン交換により結合させた腐食抑制剤をポリリン酸塩とともに樹脂に含有させてなる塗膜を有する塗装鋼板が記載されている。
【0013】
【特許文献1】特開2000−308983号公報
【特許文献2】特許第3514198号公報
【特許文献3】特許第3389191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載されたモスグリーン色の下層塗膜と白色の上層塗膜からなる2層の塗膜を有する塗装鋼板に対してレーザー光の照射をすると、塗装金属板の塗膜に直接にレーザーで印字することができるので、その表示も鮮明となるが、モスグリーン色を発現するために下層塗膜にCr系の顔料を含有させる必要がある。しかしながら、このようなCr系の顔料を含有する塗装鋼板は、環境を汚染する原因となる。
【0015】
一方、上記特許文献2及び3に記載されたように、Cr系の防錆顔料を用いないCrフリーの塗装鋼板自体は知られているものの、いずれも、その塗膜は白色のものしか得られていない。したがって、このようなCrフリーの塗装鋼板を用いてレーザー印字しても、
レーザー光で照射した部分の表示が不鮮明となり、レーザー印字された部分がどのような文字や図形を表示しているのか読み取り難いという問題がある。
【0016】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、Cr系の防錆顔料を用いなくても、優れた耐食性を有し、かつ、レーザー光で照射した部分の表示を鮮明にすることができる、レーザー印字性に優れた塗装金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、このようなCrフリーのレーザー印字性に優れた塗装金属板について種々検討した結果、次の(a)〜(e)の知見を得た。
【0018】
(a)Crフリーの耐食性に優れた塗装金属板は、シリカを含有する処理剤による下地処理の後、シリカ及びリン酸系防錆顔料を含有する塗膜を塗布することで得ることができる。
【0019】
(b)塗装金属板にレーザー光を照射したときにその印字部分の表示を鮮明にするためには、塗装金属板の塗膜を少なくとも2層とし、それらの塗膜の色差ΔEを30以上にすればよく、そのためには着色顔料を塗膜に含有させればよい。
【0020】
(c)印字部分の表示が目立つようにするためには、印字された文字や図形が白色を背景として表示するのが好ましい。したがって、たとえば、淡色の上層塗膜と、その淡色とは30以上の色差ΔEを有する下層塗膜からなる塗装金属板とするのが好ましい。
【0021】
(d)白色とは30以上の色差ΔEを有する下層塗膜とするための顔料としては、レーザー印字の際に、上層塗膜だけでなく下層塗膜までもレーザーによって除去されてしまって下地処理膜が露出し、耐食性が低下することがないように、レーザー波長に対して吸収率が大きくないものが好ましい。着色顔料としては、黒色であればカーボンブラック、マンガン鉄系酸化物やNi酸化物、青色であればフタロシアニンブルーや酸化コバルト、赤色や黄色であれば鉄酸化物が好ましい。ただし、カーボンブラックは安価でしかもΔEを大きくすることができるが、多量に含有させると、レーザー波長に対して吸収率が大きくなりすぎて下地処理膜が露出するおそれがあるとともに、下層塗膜の電気伝導性を増加させて耐食性を低下させるおそれがあるため、カーボンブラックの添加量の上限は、塗料の樹脂100質量部に対して0.5質量部以下とするのが好ましい。
【0022】
(e)下層塗膜が薄すぎると、レーザー印字の際に、上層塗膜だけでなく下層塗膜までもレーザーによって除去されてしまって下地処理膜が露出し、もって耐食性が低下するおそれがあるので、下層塗膜の厚みは3μm以上とするのが好ましい。
【0023】
本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、次の(1)〜(3)の塗装金属板をその要旨とする。
【0024】
(1)シリカを含有する処理剤によって下地処理が施されためっき金属板の少なくとも片面に、下層塗膜及び上層塗膜を有するCrフリーの塗装金属板であって、下層塗膜がシリカ及びリン酸系防錆顔料並びに着色顔料を含有するとともに下層塗膜と上層塗膜の色差ΔEが30以上であることを特徴とする、レーザー印字性に優れた塗装金属板。
【0025】
(2)下層塗膜に添加される着色顔料としてカーボンブラックを用いることを特徴とする上記(1)のレーザー印字性に優れた塗装金属板。
【0026】
(3)下層塗膜の厚みが3μm以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)のレーザー印字性に優れた塗装金属板。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、Cr系の防錆顔料を用いなくても、優れた耐食性を有し、かつ、レーザー光で照射した部分の表示を鮮明にすることができる、レーザー印字性に優れた塗装金属板を提供することができる
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の塗装金属板及びその製造方法について説明する。
【0029】
(1)塗装金属板の基材となる金属板:
塗装金属板の基材となる金属板としては、特に限定されるものではなく、例えば、冷延鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板などを挙げることができる。
【0030】
屋内や屋外建材用、家電機器用として使用される塗装金属板であれば、亜鉛系やアルミ系のめっき鋼板が耐食性や経済性の面から好適である。
【0031】
めっき金属板は、溶融めっき、電気めっき、気相めっき等のいずれの方法によりめっきしたものでもよく、めっき金属種は亜鉛、錫、アルミニウム等とそれらの合金が用いられる。具体的には、溶融亜鉛めっき金属板、5%Alを含有した溶融Zn−Al合金めっき金属板、溶融アルミニウムめっき金属板、55%Alを含有した溶融Al−Zn合金めっき金属板等が挙げられる。
【0032】
(2)下地処理について:
塗装金属板の基材となる金属板は、基材金属板と塗膜との密着性の向上を図るために、金属板表面にシリカを含有する処理剤によって下地処理が施される。
【0033】
下地処理に使用するのに好ましい下地処理剤の一例を挙げると、シリカ及びバインダーからなるシリカ系下地処理液である日本ペイント(株)製「サーフコート EC2000」である。これは、6価クロムも3価クロムも含有しないので、環境上の問題が発生しない。
【0034】
(3)下層塗膜について:
塗装金属板の基材となる金属板に、シリカを含有する下地処理剤を介して、塗装される下層塗膜の塗料は、例えば、エポキシ系、ポリエステル系およびウレタン系の樹脂が使用できる。シリカを含有する下地処理剤に対して密着性に優れ、加工性も良好な塗膜を形成することができる樹脂が好ましい。また、レーザー印字の際に分解しにくい樹脂が好ましい。使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0035】
エポキシ系塗料は各種のものが市販されており、それらを適宜、使用すればよい。例えば、メラミン、アミン、またはイソシアネートを架橋剤として含有するエポキシ系塗料でよい。エポキシ樹脂種としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
ポリエステル系塗料の例として、熱可塑性ポリエステル樹脂にメラミンやイソシアネートを架橋剤として配合したものが挙げられる。ポリエステルとしては、分子量が5千から2万程度のいわゆる高分子量ポリエステル樹脂が、加工性の観点から好適である。架橋剤としては、エチルアルコールやブチルアルコールで変性したメラミンを使用することができ、場合によってパラトルエンスルホン酸やドデシルベンゼンスルホン酸等を触媒として適宜使用することができる。
【0037】
ウレタン系塗料の例としては、ポリエステルポリオールを黄変型ポリイソシアネートまたは無黄変型ポリイソシアネートで架橋反応させるものが挙げられる。架橋剤の例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等が使用できる。この場合も、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)等の触媒を適宜使用してもよい。
【0038】
下層塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。下層塗膜は1層でもよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。
【0039】
下層塗膜の厚みは、乾燥膜厚として3μm以上の厚みとすることが好ましい。塗膜厚みを3μm以上にすると、耐食性が良好であるとともに、レーザー印字の際に下層塗膜がレーザーによって除去され難くなる。なお、塗膜厚みが15μmを上回ると、耐食性が飽和する一方、コストが増加するだけであり、また、塗膜厚みが15μm以下のとき加工性が良好であるので、塗膜厚みは15μm以下とするのが好ましい。
【0040】
下層塗膜の塗料は、下地処理を施した金属板の上に、ロールコータ等の適当な塗布装置を使用して、塗装される。塗装は、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。
【0041】
下層塗膜には、シリカ及びリン酸系防錆顔料並びに着色顔料を含有させる。
【0042】
シリカは、通常の乾性シリカやカルシウム交換シリカを用いることができる。
【0043】
リン酸系防錆顔料は、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウムなどを用いることができる。
【0044】
シリカとリン酸系防錆顔料の添加量は、塗料の樹脂100質量部に対して、合計で、10〜100質量部とするのが好ましい。10質量部以上にすると耐食性が良好となり、また100質量部以下にすると加工性が良好となり、折り曲げ加工してもクラックが生じにくくなる。
【0045】
着色顔料は、Crを含有しないものを用いる。そして、レーザー印字の際に、過度に塗膜が除去されないように、レーザー波長に対して吸収率が大きくないものが好ましい。たとえば、黒色であればカーボンブラック、青色であればフタロシアニンブルーや酸化コバルト、赤色や黄色であれば酸化鉄が好ましい。
【0046】
着色顔料の添加量は、塗料の樹脂100質量部に対して、3〜20質量部とするのが好ましい。ただし、カーボンブラックの場合は、多量に含有させると、レーザー波長に対して吸収率が大きくなりすぎて下層塗膜が除去されてしまうおそれがあるとともに、下層塗膜の電気伝導性を増加させて耐食性を低下させるおそれがあるため、カーボンブラックの添加量は、塗料の樹脂100質量部に対して0.5質量部以下とするのが好ましい。
【0047】
塗装後、加熱して焼き付けがなされる。焼付けは、金属板の最高到達温度が約150〜250℃となるように約30〜60秒の焼付けにより行うことができ、従来の熱風吹き付け型オーブンや、誘導加熱、赤外線加熱などの加熱方法が利用できる。
【0048】
(4)上層塗膜について:
上層塗膜の塗料は、塗装金属板が使用される製品の部位に応じて適宜、選択することが可能であるが、下層塗膜との間で優れた密着性を有する塗料を用いるのが好ましい。また、レーザー印字の際に分解し易い樹脂が好ましい。
【0049】
上層塗膜の塗料に使用される樹脂種としては、下層塗膜の塗料に関して上述した樹脂種に加えて、フッ素系樹脂も使用できる。耐候性や加工性が求められる場合には、ポリエステル系、ウレタン系及びフッ素系の樹脂が好ましい。エポキシ系、ポリエステル系及びウレタン系の樹脂種の具体的な態様については、上述の(3)下層塗膜において説明したものと同様である。
【0050】
フッ素系樹脂塗料としては、例えば、アクリル樹脂とPVdF(ポリフッ化ビニリデン)樹脂の混合物が挙げられる。質量比で50:50から10:90の混合比のものが好ましい。フッ素系樹脂塗料は、特に耐候性が要求される用途に好適である。
【0051】
使用する塗料の溶媒は水性系と有機溶剤系のいずれでもよいし、溶媒を使用しない粉体塗料でもよい。
【0052】
上層塗膜の塗料は、2種以上の樹脂種を含有してもよい。上層塗膜は1層でもよいが、用途に応じて2層以上としてもよい。上層塗膜は、色彩のニーズによって適宜着色顔料を含有させる。
【0053】
上層塗膜の塗料の塗装は、下地処理を施した後に、下層塗膜の塗料の塗膜を介して、なされる。ロールコータ等の適当な塗布装置を使用するのが好ましいが、塗布だけでなく、スプレーコータを用いた静電塗装や電着塗装によってもよい。なお、上層塗膜の塗料の塗装は、下層塗膜の塗料が未乾燥の状態で行ってもよいが、下層塗膜の塗料を乾燥、硬化した後に行うのが好ましい。
【0054】
上層塗膜の厚みは、乾燥膜厚として、好ましいのは10〜30μmである。塗膜厚みが10μm以上のとき下層塗膜の隠蔽性が良好であるが、塗膜厚みが30μmを上回ると、ワキ等の塗膜欠陥が生じる場合があり、また密着性が飽和するので、コストが増加するだけである。塗膜厚みは、さらに好ましいのは12〜18μmである。
【0055】
通常の塗装金属板では、上層塗膜を1層だけ形成させるので十分であるが、目的に応じて、上層塗膜を2層又はそれ以上の層とすることも可能である。
【0056】
上層塗膜には、下層塗膜との色差ΔEが30以上となるように、着色顔料を含有させる。
【0057】
着色顔料は、Crを含有しないものを用いる。着色顔料の添加量は、塗料の樹脂100質量部に対して、50〜120質量部とするのが好ましい。そして、レーザー印字の際に、上層塗膜が分解し易くなるように、レーザー波長に対して吸収率が大きいものが好ましい。たとえば、白色であれば酸化チタンが好ましい。上層塗膜に含有させる顔料が白色であれば、印字された文字や図形が白色を背景として表示されることになる。このとき、下層塗膜との色差ΔEが30以上となるようにする必要があり、下層塗膜の色相によっては、白色以外の顔料を用いてもよい。いずれにしても、下層塗膜との色差ΔEが30以上となるように、上層塗膜に含有させる着色顔料を選択する必要がある。
【0058】
上層塗膜の塗料の焼付けは、下層塗膜の塗料について説明したのと同様に実施できる。上層塗膜の焼付けは、金属板の最高到達温度が150〜250℃となるように約30〜70秒の焼付けで行うことができる。
【0059】
(5)下層塗膜と上層塗膜との色差ΔEについて:
下層塗膜と上層塗膜との色差ΔEは、下層塗膜の色値E(D)と上層塗膜の色値E(U)の差であり、次式で表される。
ΔE=|E(D)―E(U)|
色相を数値化する方法としては、JIS Z8729によれば、Lab表色系とLuv表色系の2種類が認められているが、以下では、Lab表色系によって説明する。
【0060】
Lab表色系では、ある地点における色値を、一つの明度L(白〜黒)並びに色相と彩度を示す2つの色度a(赤〜緑)及びb(黄〜青)という、3つの座標の数値で表わすことができる。したがって、ある地点における色値のLab表色系測定結果を、(L,a,b)という座標で表すことができる。
【0061】
そして、2つの地点のLab表色系による色差ΔEは、JIS Z8730によって、次式で表される。
ΔE=[(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)21/2
したがって、下層塗膜と上層塗膜との色差ΔEは、下層塗膜上の一地点の座標を(L1,a1,b1)、上層塗膜上の一地点の座標を(L2,a2,b2)とすれば、次式で表される。
ΔE=[(L1−L22+(a1−a22+(b1−b221/2
本発明においては、レーザー印字性の観点から、印字部分の表示を鮮明にするために、上層塗膜と下層塗膜との色差ΔEを30以上に規定する必要がある。
【0062】
(6)塗装金属板の耐食性について
塗装金属板の耐食性は、JIS Z2371の塩水噴霧試験に従って、120時間経過後の切断端面の塗膜膨れ幅を測定した。
【0063】
塗膜膨れ幅が2.0mm以下のときは耐食性良好(○)と評価し、2.0mmを上回るとき耐食性不良(×)と評価した。
(7)レーザー印字性の評価方法について:
レーザー印字は、炭酸ガスレーザーを使用して、塗装金属板の表面に焦点を合わせて、5Wの電力かつ1000m/secのスキャン速度によって、実施した。レーザー印字によって、縦5mm、横20mmの「レーザー」という文字を描いた。線幅は約0.6mmであった。
【0064】
レーザー印字性は、(i)レーザーによる塗膜の除去の程度、すなわち、レーザー印字の先端が下層塗膜内に止まっているか否か、そして、(ii)視力1.0を有する人が、100cm離れた場所から、レーザー印字後の塗装金属板を眺めた際に、レーザーによる印字部分が鮮明であって「レーザー」という文字を判読することができるか否かの2つの判断の組合せによって、3段階の評価を行った。
【0065】
すなわち、
○:レーザー印字の先端が下層塗膜内に止まっており、かつ文字が鮮明で判読できる。
△:レーザー印字の先端が下層塗膜内に止まっているが、文字が不鮮明で判読できない。
×:レーザー印字の先端が下層塗膜内に止まらず、素材の金属板にまで到達している。
【実施例1】
【0066】
供試材の作製方法:
Al:55質量%、Zn:44質量%及びSi:1質量%のめっき組成を有する55%Al−Zn合金めっき金属板(金属板厚み0.5mm)を素材とし、この素材の片面に次の下地処理を施した。
【0067】
シリカ系下地処理液(日本ペイント(株)製「サーフコート EC2000」)を、Si付着量が20mg/m2となるようにバーコータで塗布し、最高到達温度が100℃となるように5秒間加熱して、乾燥させた。
【0068】
こうして下地処理を施した55%Al−Zn合金めっき金属板の面に、下層塗膜の塗料として、エポキシ変性ポリエステル塗料(日本ファインコーティング(株)製「TN651」)に表1に示す着色顔料を、塗料の樹脂100質量部に対して表1に示すとおりの量を添加して、バーコータで塗布し、焼き付け時間40秒で、最高到達温度が210℃になるように焼き付けをおこなって、表1に示す膜厚(乾燥時厚み)の下層塗膜を得た。ここで、上記の「TN651」は、塗料の樹脂100質量部に対して、シリカ10質量部とトリポリリン酸アルミニウム25質量部を含有する塗料である。なお、比較例として、着色顔料を添加しない塗料を用いて下層塗膜を形成した供試材も作製した。
【0069】
別途、上層塗膜に使用する塗料として、ポリエステル塗料(関西ペイント(株)製「KP1510」)を用意し、これに着色顔料として酸化チタンを、塗料の樹脂100質量部に対して65質量部添加して、バーコータで塗布し、焼き付け時間60秒で、最高到達温度が240℃になるように焼き付けをおこなって、乾燥時の厚みが20μmの上層塗膜を得た。
【0070】
【表1】

【0071】
このようにして得られた模様塗装金属板について、耐食性とレーザー印字性を評価した結果を表1に示す。なお、下層塗膜と上層塗膜の色差ΔEをLab表色系により測定した結果も併せて表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のとおり、本発明に係る塗装金属板は、Cr系の防錆顔料を用いることなく、耐食性を有し、かつ、レーザー光で照射した部分の表示を鮮明にすることができるので、家電製品や屋内外の建材等に、商品名、会社名や製造番号等をレーザー印字によって表示することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含有する処理剤によって下地処理が施されためっき金属板の少なくとも片面に、下層塗膜及び上層塗膜を有するCrフリーの塗装金属板であって、下層塗膜がシリカ及びリン酸系防錆顔料並びに着色顔料を含有するとともに下層塗膜と上層塗膜の色差ΔEが30以上であることを特徴とする、レーザー印字性に優れた塗装金属板。
【請求項2】
下層塗膜に添加される着色顔料としてカーボンブラックを用いることを特徴とする、請求項1に記載のレーザー印字性に優れた塗装金属板。
【請求項3】
下層塗膜の厚みが3μm以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のレーザー印字性に優れた塗装金属板。

【公開番号】特開2007−230114(P2007−230114A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55808(P2006−55808)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】