説明

塩基を使用する、溶媒中における可溶化レチノイドの化学的安定化方法

本発明は、製薬組成物中における可溶化レチノイドの化学的安定化方法、及びこの方法によって得られる水性組成物に関する。本発明はさらに、化粧品及び皮膚科分野における前記水性組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可溶化レチノイドの塩化のための塩基の添加による、製薬組成物中における前記レチノイドの化学的安定化方法、及びこの方法によって得られる水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種のレチノイドが難溶性であり、製薬用または化粧品組成物中に可溶化した形態での安定性に欠けることは既知である(Szuts, "Solubility of retinoids in water", Arch. Biochem. Biophys. 1991, 287: 297-304)。この問題に対する一つの可能な解決策は、これを溶解させるために分散形態で該有効成分を導入することである。しかしながら、分散した有効成分は、可溶化した有効成分よりも、局所用製剤から放出されにくい。然るに、前記有効成分の放出を増大させるためには、可溶化形態で前記有効成分を処方するための努力には確かな利点がある。
【0003】
さらにまた、最終製品は、特に製薬用または化粧品組成物である場合には、その製薬または化粧品品質が保証できるように、その耐用期間に亘って適切な物理化学的基準を保持せねばならない。これらの基準の中でも、レオロジー特性が保存されねばならない。これは、適用時の組成物の作用及びテクスチャーを定義すると共に、有効成分の放出特性をも定義する。
【0004】
とりわけ、ゲルまたは水中油型エマルジョンとしてのレチノイドの処方は、局所的治療、例えば挫瘡の治療のために有利であるが、なぜならこれは皮膚表面に脂ぎった感触を残すことがないためである。油中水型エマルジョンとしての処方は、乾癬の治療に好ましい。
【特許文献1】WO 85/02767
【非特許文献1】Szuts, "Solubility of retinoids in water", Arch. Biochem. Biophys. 1991, 287: 297-304
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本発明によるレチノイドは、油性溶媒媒体中にも、またゲル若しくはエマルジョンタイプの局所用組成物の処方と適合性である水性溶媒中にも、容易には溶解せず、かつ前記溶媒中での安定性に欠ける。
【0006】
Janssen Pharmaceuticaによる"Pharmaceutical compositions containing drugs which are unstable or sparingly soluble in water and methods for their preparation"と題される特許出願WO 85/02767は、「分子が酸性または塩基性の基を有するならば、塩の形成によりその水中での溶解性が増大する可能性があるが、これは有効性の低下または化学的安定性の低下をもたらす」旨を記載している。然るに、この先行技術に照らして、当業者が化学的安定性を付与するために有効成分を塩化することは、奨励されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、驚くべきことに、本発明者等は、可溶化レチノイドを塩化するための塩基の添加による、前記レチノイドの化学的安定化方法であって、前記レチノイドがゲルまたはエマルジョンタイプの水性組成物中で溶解または化学的に安定化される方法を開発した。本発明の方法によって得られる組成物は、かくして優れた化学的安定性を有する少なくとも1つの可溶化レチノイドを含む。すなわちこれは、4乃至40℃の温度にて経時的に有効成分の変質を示さない。該組成物は、優れた物理学的安定性をさらに有し、即ちこれは、4乃至40℃の温度にて経時的に粘度の低下を示さず、より高温でも経時的に相分離または滲出を示さない。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、塩基の添加によって水性組成物中の原位置にて可溶化レチノイドを塩化することによる、前記レチノイドのこの上ない化学的安定化をもたらす方法を見出した。
【0009】
従って、本発明は、塩基の添加による水性組成物中の可溶化レチノイドの化学的安定化方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって得られる、生理学的に許容される媒質中に少なくとも1つのレチノイドと、これを可溶化して化学的安定性を付与することが可能な、前記有効成分を塩化するための少なくとも一つの塩基とを含む水性組成物にも関する。
【0010】
望ましくは、本発明による水性組成物は、レチノイドと、共溶媒と、前記レチノイドを塩化するための塩基とを含む活性相、水と任意に別の溶媒と、ゲル化剤と、添加剤と、エマルジョンの場合には乳化剤とを含むを含む水性相、さらにエマルジョンの場合には油性相を含み、これはさらに共乳化剤及び添加時を含む。「本発明による水性組成物」とは、理想的には50%を超える高割合(%)の水を含む組成物を意味すると解される。
【0011】
本発明による組成物、より正確には前記活性相は、少なくとも1つのレチノイド、一つのレチノイド前駆体、または一つのレチノイド誘導体を含む。
【0012】
「レチノイド」とは、塩基と共に塩を形成することのできる基を含むRAR及び/またはRXRレセプターに結合するあらゆる化合物を意味すると理解される。「レチノイドレセプター」は、その直近の生物学的前駆体または基質、並びにその化学的前駆体を意味すると解される。「レチノイド誘導体」は、その代謝誘導体とその化学的誘導体との両方を意味すると解される。
【0013】
前記レチノイドは、好ましくはプロパルギルアルコール誘導体であり、とりわけ好ましくはラセミ化合物または下式:
【化1】

のエナンチオマーの一方、すなわち、2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸、S-(+)-2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸、またはR-(-)-2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸である。
【0014】
本発明の目的のためには、これら化合物の個別のエナンチオマー、またはラセミ混合物を含むこれらの混合物を使用して良い。
【0015】
むろん、本発明による組成物中のレチノイドの量は、特に問題とするレチノイドに依存し、また所望の治療の質に依存するであろう。
【0016】
好ましいレチノイド濃度は、組成物全重量に基づいて0.0001乃至20重量%である。
【0017】
本発明による組成物の活性相は、グリコールタイプの共溶媒または水性媒質との親和性を有する別の共溶媒をさらに含む。これらの親水性溶媒は、共溶媒として作用し、塩基の量を低減することを可能にし、然るにグリコールを含まない組成物と比較してpHを低下させることを可能にする。したがって、得られるpHは、皮膚のものに近い。さらにまた、グリコールは有効成分の浸透を改善することが既知である。
【0018】
挙げて良い共溶媒の非限定的な例は、PEG-6カプリル/カプリングリセリド (Softigen 767)、ノノキシノール-10 (Renex 690)、Tween 60、Polysorbate 60、Cremophore RH 60、PEG-35ヒマシ油、Arlasolve、ジメチルイソソルビッド、Labrasol、PEG-8/カプリングリセリド、フェノキシエタノール、またはプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール400(PEG-400)、及びエトキシジグリコール等のグリコールである。本発明による好ましい共溶媒は、プロピレングリコール及びジプロピレングリコールである。
【0019】
本発明による組成物中の共溶媒の濃度は、5乃至50%、好ましくは10乃至20%である。
【0020】
本発明による組成物の活性相は、前記レチノイドを塩化することのできる少なくとも1つの塩基を含む。
【0021】
挙げて良い塩基の非限定的な例は、無機塩基、例えば水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化リチウム(LiOH)、有機塩基、例えばN-メチル-D-グルカミンまたはトロメタモール、アンモニア水(NH4OH)、塩基性アミノ酸、例えば、L-リシン、L-アルギニン、L-オルニチン、またはグリシン、あるいは様々な塩基、例えばD-グルコサミンまたはN-メチルグルコサミンである。
【0022】
本発明による好ましい塩基は、水酸化ナトリウムまたはL-リシンである。
【0023】
前記塩基は、前記レチノイドに基づいて0.5乃至10モル等量の濃度で使用することが好ましい。
【0024】
前記レチノイドは、前記塩基の存在下で、即ち、
a) 共溶媒及び塩基から成る活性相中にて(単に磁気撹拌によって)、
b) 溶媒、共溶媒、及び塩基から成る水性相中にて(該水性相が本発明の明細書中に記載したもの等の添加剤を含むことが可能である)、
可溶化され、また塩化される。
【0025】
本発明による組成物の水性相は、水、コーンフラワーウォーター等のフローラルウォーター、または例えばVittel水、Vichy源水、Uriage水、Roche Posay水、Bouboule水、Enghien-les-Bains水、Saint Gervais-les-Bains水、Neris-les-Bains水、Allevard-les-Bains水、Digne水、Maizieres水、Neyrac-les-Bains水、Lons-le-Saunier水、Bonnes水、Rochefort水、Saint Christau水、Fumades水、Tercis-les-Bains水、 Avene水、及びAix-les-Bains水から選択される天然の温泉もしくは鉱泉水、エタノールなどのアルコール、あるいは別の親水性溶媒などの溶媒を含む。
【0026】
好ましい溶媒は水であり、これはゲル形態中に好ましくは50%より高い濃度、特に好ましくは75%より高い濃度で存在する。
本発明による組成物は、好ましくは水性ゲルの形態である。
【0027】
「水性ゲル」とは、水性相中に、コロイド懸濁物からなる粘弾性物質(ゲル化剤)を含む組成物を意味すると解される。
【0028】
挙げて良いゲル化剤の非限定的な例は、Carbopolタイプ(製造元:Noveon)またはSepigel 305タイプ(製造元:SEPPIC)のアクリル系誘導体、Natrosolタイプ(製造元:Aqualon)またはMethocelタイプ(製造元:Dow Chemical)のセルロース系誘導体、Keltrolタイプのキサンタンガム(製造元:KELCO)、あるいはこれらの混合物である。
【0029】
好ましいゲル化剤は、Carbopol 980等のアクリル系誘導体の群から誘導される。
【0030】
上記ゲル化剤は、好ましくは0.05乃至15%、特に好ましくは0.1乃至5%の範囲の濃度で使用可能である。
【0031】
本発明による別の組成物はエマルジョンであり、これは然るに水性相中に乳化剤を含み、さらに油性相を含む。
【0032】
挙げて良い乳化剤の非限定的な例は、ICI社によりArlacel 165の名で、またはSEPPIC社によりSimulsol 165の名で市販のグリセリル(及び)PEG-100ステアレート、ICI社製のArlatone 983等のポリエトキシル化脂肪酸エステル、ICI社によりBrij 721の名で市販のポリエトキシル化(21)ステアリルアルコールと共にBrij 72の名で市販のポリエトキシル化 (2)ステアリルアルコール、ICI社によりArlacel 80の名で、またはCroda社によりCrill 4の名で市販のソルビタンオレエートなどのソルビタンエステル、ICI 社によりArlacel 83の名で市販の、またはSEPPIC社によりMontane 83の名で市販のソルビタンセスキオレエート、あるいはソルビタンイソステアレート、高いHLB、即ち7以上のHLBを有する脂肪アルコールエーテル、例えばCognis社によりEumulgin B2の名で市販のセテアレス-20、またはCognis社によりEumulgin B1の名で市販のセテアレス-12、あるいは低いHLB、即ち7未満のHLBを有する脂肪アルコールエーテル、例えばセテアレス-2である。
【0033】
本発明による好ましい乳化剤は、セテアレス-20である。
【0034】
本発明による組成物は、組成物全重量に基づいて、適切な乳化系を15重量%まで、好ましくは0.05乃至8重量%、特に好ましくは0.1乃至2重量%含むことが有利である。
【0035】
挙げて良い油性相成分の例は、オイル、特に鉱物オイル(流動パラフィン)、植物由来のオイル(アボカドオイル、大豆油)、動物由来のオイル(ラノリン)、合成オイル(ペルヒドロスクアレン)、シリコーンオイル(シクロメチコーン)、及びフッ化オイル(ペルフルオロポリエーテル)である。使用可能な別の脂肪物質は、脂肪アルコール、例えばセチルアルコール、脂肪酸、ワックス、及びゴム、特にシリコーンゴムである。
流動パラフィンを使用することが好ましい。
【0036】
本発明の組成物は、化粧品または製薬品の分野で通常使用されるあらゆる添加剤、例えばシクロデキストリン、共乳化剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、日光遮断剤、保存料、フィラー、電解質、湿潤剤、着色剤、通常の無機または有機の塩基または酸、香料、精油、化粧品活性成分、水和剤、ビタミン、必須脂肪酸、スフィンゴ脂質、人工日焼け化合物、例えばDHA、並びに皮膚の滑化及び保護剤、例えばアラントインをさらに含有可能である。むろん当業者であれば、本発明の組成物の有利な特性が影響を受けることのないように、または実質的に影響を受けることのないように、これらの任意の補足的化合物及び/またはその量を注意深く選択するであろう。
【0037】
前記添加剤は、前記組成物中に、組成物全重量に基づいて0乃至20重量%の量で存在することが可能である。
【0038】
挙げて良いシクロデキストリンの例は、β-シクロデキストリンまたはヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンである。
【0039】
挙げて良い金属封鎖剤の例は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその誘導体または塩、ジヒドロキシエチルグリシン、クエン酸、酒石酸、またはこれらの混合物である。
【0040】
挙げて良い刺激防止剤の例は、アロエベラ、アラントイン、オートミールもしくはトコレロールアセテートである。
【0041】
挙げて良い保存料の例は、ベンズアルコニムクロライド、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、ジアゾリジニルウレア、パラベン、またはこれらの混合物である。
【0042】
挙げて良い湿潤剤の例は、グリセリン及びソルビトールである。
【0043】
本発明の組成物にとって好ましいpH値は、皮膚のpHに近いpH、すなわち5乃至7、好ましくは5.5乃至6である。
【0044】
したがって、本発明はレチノイドを塩化するための塩基の添加による、製薬組成物中の可溶化レチノイドの化学的安定化方法に関する。
【0045】
特に、本発明は、製薬組成物中に、式(Ia):
【化2】

の可溶化レチノイドを、前記レチノイドを塩化するための塩基の添加によって化学的に安定化する方法に関する。
【0046】
本発明はさらに、本発明の方法によって得られる製薬用または化粧用の水性組成物に関する。
【0047】
特に、本発明は、本発明の方法によって得られる、皮膚、外皮、または粘膜への局所適用に適合性である生理学的に許容される媒質中に、下記:
a)0.01乃至5%の、下式:
【化3】

のレチノイド;
b)1乃至10モル等量の、前記レチノイドを塩化するための無機塩基;
c)0.01乃至5%の、ゲル化剤としてのアクリル誘導体;
d)40乃至80%の、主溶媒としての水;及び
e)5乃至20%の、共溶媒としてのグリコール;
を含むことを特徴とする、水性ゲルの形態の、皮膚、外皮、または粘膜への局所適用のための製薬用または化粧用の水性組成物に関する。
【0048】
本発明による好ましい水性組成物は、
a)0.1%のS-(+)-2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸;
b)2モル当量の、前記レチノイドを塩化するための水酸化ナトリウム;
c)0.5%のCarbopol 980;
d)65乃至75%の水;及び
e)15%のプロピレングリコール;
を含むことを特徴とする。
【0049】
本発明はさらに、薬剤としての上述の組成物に関する。
【0050】
本発明はさらに、化粧品及び皮膚科における上述の新規組成物の使用に関する。
【0051】
本発明による組成物が特に皮膚科用途を意図することから、重要なパラメータは有効成分の放出及び浸透であり、これについても本発明者等は、本発明の処方による改善を提供している。
【0052】
驚くべきことに、発明者等は、上述の好ましい処方が皮膚を通過する放出及び浸透に関して非常に優れた結果を奏し、これが、浸透促進性グリコールを高濃度で含む単純ゲルによる結果よりもさらに優れていることを見出した。従って、本発明によって得られる組成物は、前記レチノイドの優れた化学的安定性に加えて、有効成分の優れた放出/浸透をもたらす。
【0053】
細胞分化及び増殖の分野でのレチノイドの著しい活性のため、本発明の組成物は特に以下の治療分野:
1)分化及び増殖に関する角質化障害を伴う皮膚科病訴の治療、特に尋常性挫瘡、面ぽう、多形挫瘡、しゅさ、胆嚢リンパ節挫瘡、集簇性挫瘡、老年性挫瘡、二次性挫瘡、例えば日光挫瘡、薬物性挫瘡、または挫瘡ケロイド、及び汗腺膿瘍の治療;
2)別のタイプの角質化障害の治療、特に魚鱗癬、魚鱗癬様状態、ダリエ病、掌蹠角皮症、白斑症及び白斑症様状態、並びに皮膚又は粘膜(口腔内)苔癬の治療;
3)炎症性及び/または免疫アレルギー性要素を有する角質化障害を伴う、別の皮膚科病訴の治療、特に、皮膚、粘膜、爪のいずれかによらない全形態の乾癬、さらには乾癬性リューマチ、あるいはアトピー性皮膚炎、例えば湿疹、または呼吸性アトピー、あるいは歯肉肥大の治療(該化合物は、角質化障害を示さない所定の炎症性病訴、例えば毛包炎等にも使用可能である);
4)良性か悪性かによらず、またウィルス由来であるか否かによらない、全ての表皮または真皮増殖、例えば尋常性ゆうぜい、扁平いぼ、伝染性軟属腫、及びゆうぜい状表皮発育異常症、並びに口腔もしくは葉状乳頭腫症、及び紫外線によって誘発されうる増殖、特に光線角化症の治療;
5)光誘発性であるか経時性であるかによらない皮膚老化の修復またはこれとの対抗、あるいは色素沈着または経時的もしくは化学線による老化に関するあらゆる病理症状の低減;
6)予防または治療向け効力における治癒障害または皮膚潰瘍の治療、線状皮膚萎縮症の予防または修復、あるいは治癒の促進;
7)皮脂腺障害、例えば挫瘡様過剰脂漏症または単純脂漏症との対抗;
8)真菌由来のあらゆる皮膚病訴、例えば足部白癬及び癜風の治療;
9)免疫要素を有する皮膚科病訴の治療;
10)UV光線への曝露による皮膚障害の治療;
11)毛包周囲の組織の炎症または感染に関連する皮膚科病訴、特に微生物増殖または感染によるもの、特にインペチゴ、脂漏性皮膚炎、毛包炎、須毛毛瘡、あるいは他のあらゆる微生物または真菌因子に関するものの治療;
に適当である。
【0054】
本発明の組成物は、特に尋常性挫瘡または乾癬の予防的または治療的処置に特に適当である。
【0055】
本発明による組成物は、化粧品の分野、特に挫瘡傾向の皮膚の処置のため、髪の再生促進または髪の喪失予防のため、皮膚または髪の脂っぽい外観に対抗するため、日光の有害は影響からの保護を提供するため、生理学乾燥肌の処置において、あるいは光誘発性または経年性老化の予防のため及び/またはこれとの対抗のためにも応用される。
【0056】
本発明の組成物はまた、身体及び髪の衛生にも応用される。
【0057】
本発明は、少なくとも1つのレチノイド、主溶媒、及び共溶媒を含む製薬組成物中における、可溶化レチノイドの塩化による化学的安定化のための、塩基の使用にも関する。
【0058】
下記の処方例は、本発明の方法及びこの方法によって得られる組成物を、その範囲を限定することなく詳説するものである。物理的及び化学的安定性並びに有効成分の放出及び浸透についての結果もまた、詳説のために記載する。
【実施例】
【0059】
(実施例1:本発明の製薬組成物中における可溶化レチノイドの化学的安定化方法)
レチノイドを塩基の存在下で、すなわち、
a) 共溶媒及び塩基から成る活性相中にて(単に磁気撹拌によって)、
b) 溶媒、共溶媒、及び塩基から成る水性相中にて(該水性相が本発明の明細書中に記載したもの等の添加剤を含むことが可能である)、
可溶化及び塩化する。
下記の実施例は、その活性相及び/または水性相が記載の方法によって調製された方法によって調製された組成物についてのものである。
【0060】
(実施例2:水性ゲル)
【表1】

【0061】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:熱(80℃)の作用下にて、メチルパラベン、グリセリン、アラントイン、及びEDTAの完全な可溶化を確認する。
その後、この相中におけるCarbopolの完全な分散を確認する。ゲルを中和し、ここに活性相を導入する。
【0062】
(実施例3:シクロデキストリンを含む水性ゲル)
【表2】

【0063】
操作:この場合は水性相でもある活性相を、実施例1b)の方法により、水酸化ナトリウム水溶液、プロピレングリコール、及びシクロデキストリンの存在下でのレチノイドの可溶化によって調製する。
【0064】
(実施例4:水中油型エマルジョン)
【表3】

【0065】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:水、グリセリン、及びアラントインを計量して処方ビーカーに仕込み、温度を80℃に上昇させる。
Carbopol及びPemulenの完全な可溶化を、Rayneri撹拌をして確認する。
・油性相:Marcol 172、Eumulgin B2、BHT、及びプロピルパラベンを含む油性相を計量し、温度を80℃に上昇させる。
80℃にて20分間、Rayneri撹拌をしつつ乳化を行い、その後徐々に50℃に冷却する。
50℃にて、ゲル化剤を中和し、撹拌しつつ活性相を加える。
【0066】
(実施例5:水中油型エマルジョン)
【表4】

【0067】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、ジプロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:水、グリセリン、及びフェノキシエタノールを計量して処方ビーカーに仕込み、温度を80℃に上昇させる。
Carbopol及びPemulenの完全な可溶化を、Rayneri撹拌をして確認する。
・油性相:Marcol 172、Eumulgin B2、及びBHTを含む油性相を計量し、温度を80℃に上昇させる。
80℃にて20分間、Rayneri撹拌をしつつ乳化を行い、その後徐々に50℃に冷却する。
50℃にて、ゲル化剤を中和し、撹拌しつつ活性相を加える。
【0068】
(実施例6:水性ゲル)
【表5】

【0069】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:熱(80℃)の作用下にて、メチルパラベン、グリセリン、アラントイン、及びBHTの完全な可溶化を確認する。その後、この相中におけるCarbopolの完全な分散を確認する。ゲルを中和し、ここに活性相を導入する。
【0070】
(実施例7:水性ゲル)
【表6】

【0071】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、ジプロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:熱(80℃)の作用下にて、メチルパラベン、グリセリン、アラントイン、及びBHTの完全な可溶化を確認する。その後、この相中におけるCarbopolの完全な分散を確認する。ゲルを中和し、ここに活性相を導入する。
【0072】
(実施例8:水性ゲル)
【表7】

【0073】
操作:
・活性相:これは、実施例1a)の方法により、ジプロピレングリコール、水酸化ナトリウム、及びレチノイドの磁気可溶化によって調製される。
・水性相:熱(80℃)の作用下にて、メチルパラベン、グリセリン、アロエベラ、BHT、及び水の完全な可溶化を確認する。その後、この相中におけるCarbopolの完全な分散を確認する。ゲルを中和し、ここに活性相を導入する。
【0074】
(実施例9:安定性)
9.A. 単純グリコールゲル中における、塩化した及び塩化していない、2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸(これ以降、本実施例の有効成分と呼称)の化学的安定性
塩化した、またはしていない前記有効成分の化学的安定性を確認する目的で、5つの単純組成物を調製した。前記処方の組成物の詳細は下記の通り。
【0075】
【表8】

【0076】
前記有効成分の濃度は、0、15、及び28日後の時点で測定し、下記の表にまとめた。
【0077】
【表9】

【0078】
該結果は、前記有効成分が塩化形態で存在する場合の、この上ない化学的安定性を示す。
【0079】
9.B. 実施例2の物理的及び化学的安定性:水性ゲル
【表10】

【0080】
9.C. 実施例3の物理的及び化学的安定性:シクロデキストリンゲル
【表11】

【0081】
9.D. 実施例5の物理的及び化学的安定性:水中油型エマルジョン
【表12】

【0082】
本発明による、上記の全組成物が、可溶化有効成分の非常に優れた物理的及び化学的安定性を有する。
【0083】
(実施例8:有効成分の放出/浸透についての結果)
実施例6及び7の二つのゲルを、本発明による好ましい処方中での前記有効成分の放出及び浸透のレベルを評価するために、浸透促進グリコールを豊富に含む下記の処方を有する単純グリコールゲルとの比較によって試験した。
【0084】
プロトコル:
本発明の組成物中における、生体外での前記有効成分の放出/浸透を、ヒトの全皮膚に対して評価することができる。試験処方を、ガラス拡散セル(3ml;1cm2)に16時間に亘って適用する。皮膚腫のない全皮膚を用いた。前記皮膚を拡散セルに固定し、前記皮膚を0.25%(w/w)の乳化剤(受容液体)を補足した生理食塩水と接触させておく。前記系を静的モード(受容液体の経時的更新を行わない)に維持した。
【0085】
美容外科手術由来の腹部及び/または乳部の皮膚弁を使用した。前記処方を、これら3つの異なる皮膚種に、1cm2当たりに処方10mgの割合で適用する。前記適用は、閉塞無しに行った。前記適用を二重に行ったので、処方は全体で6回適用した。
【0086】
適用が完了した時点で、各拡散セルについて表面の過剰分を除去し、受容液体及び皮膚をサンプリングする。表皮(角質層を含む)を真皮から分離させる。各試験処方について、過剰分並びに皮膚中及び受容液体中に見られる量を考慮に入れて、前記有効成分の全残量を算出する。前記有効成分の濃度を、APCl/MS/MS検出を用い、HPLCによって測定する(検出限界:1ng.ml-1)。
【0087】
単純グリコールゲル:
【表13】

【0088】
放出/浸透結果:
【表14】

【0089】
結果は、前記有効成分の化学的安定化に加えて、本発明による最適化処方は、皮膚中での前記有効成分の生体有効性を(参照ゲルと比較して、それぞれ2倍から3倍の割合で)増大させることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのレチノイド、主溶媒、及び共溶媒を含む製薬組成物中における可溶化レチノイドの化学的安定化方法であって、前記レチノイドを塩化するために塩基が添加されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記レチノイドが、式(Ia):
【化1】

を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも下記:
(a)プロパルギルアルコールから誘導されるレチノイド;
(b)前記レチノイドを塩化するための塩基;
(c)主溶媒;及び
(d)共溶媒;
を含む、局所用途のための、請求項1または2に記載の方法によって得られる水性組成物。
【請求項4】
前記レチノイドが、式(Ia):
【化2】

を有することを特徴とする、請求項3に記載の水性組成物。
【請求項5】
前記レチノイドを塩化するための塩基が、無機及び有機の塩基並びに塩基性アミノ酸から選択されることを特徴とする、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
前記レチノイドを塩化するための塩基が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記塩基が、有効成分に基づいて1乃至10モル当量の濃度で存在することを特徴とする、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
(a)0.01乃至5重量%の、式:
【化3】

のレチノイド;
(b)1乃至10モル当量の、前記レチノイドを塩化するための無機塩基;
(c)0.01乃至5重量%の、ゲル化剤としてのアクリル誘導体;
(d)40乃至80重量%の、主溶媒としての水;及び
(e)5乃至20重量%の、共溶媒としてのグリコール;
を含むことを特徴とする、局所適用のためのゲルの形態の、請求項3乃至7のいずれか一項に記載の水性組成物。
【請求項9】
(a)0.1%のS-(+)-2-ヒドロキシ-4-[3-ヒドロキシ-3-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチルナフタレン-2-イル)-1-プロピニル]安息香酸;
(b)2モル当量の、前記レチノイドを塩化するための水酸化ナトリウム;
(c)0.5%のCarbopol 980;
(d)65乃至75%の水;及び
(e)15%のプロピレングリコール;
を含むことを特徴とする、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
薬剤としての、請求項3乃至9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
細胞分化及び/または増殖障害及び/または角質化障害を伴う皮膚科病訴の予防または治療のための製薬調剤の製造のための、請求項3乃至10のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
尋常性挫瘡または乾癬の予防または治療のための製薬調剤の製造のための、請求項3乃至11のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
挫瘡傾向の皮膚の治療のため、髪を再生させるためもしくは髪の喪失防止のため、皮膚もしくは髪の脂ぎった外観に対抗するため、日光の有害な作用からの保護の提供における、生理学的乾燥肌の治療における、あるいは光誘発性または経時的老化の予防のため及び/またはこれに対抗するための、請求項3乃至12のいずれか一項に記載の組成物の美容のための使用。
【請求項14】
少なくとも1つのレチノイド、主溶媒、及び共溶媒を含む製薬組成物中における、可溶化レチノイドの塩化による化学的安定化のための塩基の使用。

【公表番号】特表2006−511547(P2006−511547A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560489(P2004−560489)
【出願日】平成15年12月16日(2003.12.16)
【国際出願番号】PCT/EP2003/015041
【国際公開番号】WO2004/054543
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント・エス・エヌ・セ (117)
【Fターム(参考)】