説明

変速機の制御装置

【課題】駆動力不足を抑制する。
【解決手段】ECUは、アップシフト条件が満たされると(S100にてYES)、アップシフトするようにトランスミッションを制御するステップ(S102)と、ダウンシフト条件が満たされると(S104にてYES)、ダウンシフトするようにトランスミッションを制御するステップ(S106)と、アップシフトが完了する前に(S108にてYES)、アップシフト条件が満たされなくなると(S110にてYES)、ダウンシフト条件が満たされずとも、アップシフトが中止されてトランスミッションの変速比を維持するステップ(S114)とを備える、プログラムを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の制御装置に関し、特に、変速機のアップシフトを中止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動的に変速を行なう変速機が知られている。変速機の変速比は、燃費とともに、運転者が要求する加速度などを勘案して定められる。たとえば、特開平7−35228号公報の図7に示されるように、スロットル開度(もしくはアクセル開度)および車速をパラメータとして有する変速線図に従って変速が行なわれる。
【0003】
特開平7−35228号公報の図7においてはダウンシフト条件を定めたダウンシフト線のみが示されているが、一般的な変速線図では、ダウンシフト線との間にヒステリシスを有するように、アップシフト条件を定めたアップシフト線がダウンシフト線に加えて定められる。
【特許文献1】特開平7−35228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変速線図に従って変速が行なわれる変速機においては、たとえば、アップシフト条件が満たされた直後にアクセル開度もしくはスロットル開度が増加すると、アップシフトが完了する前にアップシフト条件が満たされなくなる場合があり得る。
【0005】
このような場合、運転者が加速を要求しているにもかかわらずアップシフトが継続され得る。そのため、運転者が要求する加速度を満たすために必要な駆動力を得ることができなくなり得る。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、駆動力不足を抑制することができる変速機の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係る変速機の制御装置は、アップシフト条件が満たされた場合に、アップシフトをするように変速機を制御するための第1の制御手段と、ダウンシフト条件が満たされた場合に、ダウンシフトをするように変速機を制御するための第2の制御手段と、アップシフト条件が満たされた後であってアップシフトが完了する前に、ダウンシフト条件が満たされない状態でアップシフト条件が満たされなくなると、アップシフトを中止して変速機の変速比を維持するための中止手段とを備える。
【0008】
この構成によると、アップシフト条件が満たされた場合に、アップシフトが実行される。ダウンシフト条件が満たされた場合に、ダウンシフトが実行される。アップシフト条件が満たされた後であってアップシフトが完了する前に、アップシフト条件が満たされなくなると、ダウンシフト条件が満たされなくとも、アップシフトが中止されて変速機の変速比が維持される。これにより、アップシフト条件が満たされた後に、たとえばアクセル開度が微増することによってアップシフト条件が満たされなくなった場合には、現状の変速比を維持することによって駆動力が低下しないようにすることができる。そのため、駆動力不足を抑制することができる変速機の制御装置を提供することができる。
【0009】
第2の発明に係る変速機の制御装置は、第1の発明の構成に加え、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合にアップシフトの中止を許可し、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅い場合にアップシフトの中止を禁止するための手段をさらに備える。
【0010】
この構成によると、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合は、アップシフトの中止が許可される。アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅い場合は、アップシフトの中止が禁止される。これにより、アップシフトの中止と継続とのうち、駆動力が途切れる時間がより短い方を選択することができる。そのため、駆動力不足をより効果的に抑制することができる。
【0011】
第3の発明に係る変速機の制御装置においては、第1の発明の構成に加え、変速機は、係合状態と解放状態とを切換え可能な係合要素を介して駆動源に連結される。係合要素は、アップシフトの実行中に解放される。制御装置は、係合要素が解放される前である場合にアップシフトの中止を許可し、係合要素が解放された後である場合にアップシフトの中止を禁止するための手段をさらに備える。
【0012】
この構成によると、変速機は、係合状態と解放状態とを切換え可能であり、かつアップシフトの実行中に解放される係合要素を介して駆動源に連結される。係合要素が解放される前である場合は、アップシフトの中止が許可される。これにより、駆動力が途切れる前であれば、アップシフトを中止することによって駆動力が途切れないようにすることができる。一方、係合要素が解放された後である場合は、アップシフトの中止が禁止される。これにより、駆動力が途切れた後であれば、アップシフトを継続することによって駆動力が途切れた時間が長くならないようにすることができる。そのため、駆動力不足をより効果的に抑制することができる。
【0013】
第4の発明に係る変速機の制御装置は、第1〜3のいずれかの発明の構成に加え、アップシフト条件は、アクセル開度が大きいほどより大きい変速比を要求し、かつ車速が高いほどより小さい変速比を要求するという第1の規則を満たすように定められる。制御装置は、アップシフトが中止された後において、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトを制限するための手段と、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトが制限されている場合において、予め定められた時間が経過する度により小さい変速比を要求するという第2の規則に基づいて変速比を要求するための手段と、第2の規則に基づいて要求される変速比が第1の規則に基づいて要求される変速比以上である間は、第2の規則に基づいて要求される変速比になるように、変速機を制御するための手段と、第2の規則に基づいて要求される変速比が第1の規則に基づいて要求される変速比より小さくなった場合、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトの制限を解除するための手段とをさらに備える。
【0014】
この構成によると、アクセル開度が大きいほどより大きい変速比を要求し、かつ車速が高いほどより小さい変速比を要求するという第1の規則を満たすようにアップシフト条件が定められる。アップシフトが中止された後においては、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトが制限される。アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトが制限されている状態では、予め定められた時間が経過する度により小さい変速比を要求するという第2の規則に基づいて変速比が要求される。第2の規則に基づいて要求される変速比が第1の規則に基づいて要求される変速比以上である間は、第2の規則に基づいて要求される変速比になるように、変速機が制御される。その後、第2の規則に基づいて要求される変速比が第1の規則に基づいて要求される変速比より小さくなると、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトの制限が解除される。これにより、アップシフトが中止された後は、アップシフト条件が満たされても、予め定められた時間だけ変速比を維持してからアップシフトを行なうようにすることができる。そのため、ビジーシフトを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同一である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
<第1の実施の形態>
図1を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る制御装置を搭載した車両について説明する。車両100は、FF(Front drive Front engine)車両である。なお、本発明に係る制御装置を搭載した車両は、FF車両に限られない。
【0017】
車両100は、従来のマニュアルトランスミッションと同じ形式の常時噛合式歯車変速機およびクラッチをアクチュエータにより作動させ、所望のギヤ段を形成するクラッチペダルレスの車両である。なお、遊星歯車機構から構成される自動変速機やCVT(Continuously Variable Transmission)を搭載するようにしてもよい。
【0018】
車両100は、エンジン200と、クラッチ300と、トランスミッション400と、デェファレンシャルギヤ(以下、デフと略して記載する)500と、ECU(Electronic Control Unit)600とを含む。本実施の形態に係る制御装置は、たとえばECU600により実行されるプログラムにより実現される。
【0019】
エンジン200は、インジェクタ(図示せず)により噴射された燃料と空気との混合気を、気筒内で爆発させてピストン(図示せず)を押し下げ、クランクシャフト202を回転させる内燃機関である。エンジン200は、駆動源として車両100に搭載されている。車両100は、エンジン200からの駆動力により走行する。なお、エンジン200の代わりに、その他、モータなどの動力機関を搭載してもかまわない。
【0020】
クラッチ300は、乾式単板式の摩擦クラッチである。図2に示すように、クラッチ300は、クラッチ出力軸302と、クラッチ出力軸302に配設されたクラッチディスク304と、クラッチハウジング306と、クラッチハウジング306に配設されたプレッシャプレート308と、ダイヤフラムスプリング310と、クラッチレリーズシリンダ312と、レリーズフォーク314と、レリーズスリーブ316とを含む。
【0021】
ダイヤフラムスプリング310が、プレッシャプレート308を図2において右方向に付勢することにより、クラッチディスク304が、エンジン200のクランクシャフト202に取り付けられたフライホイール204に押付けられ、クラッチが係合される。
【0022】
クラッチレリーズシリンダ312が、レリーズフォーク314を介して図2において右方向へ、レリーズスリーブ316を移動させることにより、ダイヤフラムスプリング310の内端部が図2において右方向へ移動する。ダイヤフラムスプリング310の内端部が図2において右方向へ移動すると、プレッシャプレート308が図2において左方向に移動し、クラッチディスク304とフライホイール204とが離れてクラッチが解放される。
【0023】
クラッチレリーズシリンダ312は、油圧回路(図示せず)によって油圧が供給されることにより作動する。クラッチレリーズシリンダ312は、ECU600により制御される。クラッチ300は、周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではさらなる説明は繰返さない。なお、クラッチ300を、電力により断接するようにしてもよい。
【0024】
図1に戻って、トランスミッション400は、インプットシャフト402と、アウトプットシャフト404と、ハウジング406とを含む。トランスミッション400は、デフ500と共に、ハウジング406内に収容されている。トランスミッション400は、常時噛合式歯車変速機である。
【0025】
インプットシャフト402とアウトプットシャフト404とは、平行に設けられている。インプットシャフト402とアウトプットシャフト404との間には、ギヤ比が異なる複数の変速ギヤ対411〜415と、後進ギヤ対416とが配設されている。
【0026】
各変速ギヤ対を構成する2つのギヤのうち、一方はインプットシャフト402に設けられており、他方はアウトプットシャフト404に設けられている。また、各変速ギヤ対を構成する2つのギヤのうち、一方は、設けられているシャフトに対して空転可能であり、他方は、設けられているシャフトと一体的に回転する。各変速ギヤ対を構成する2つのギヤは、常に噛合っている。
【0027】
各変速ギヤ対411〜415には、それぞれと対応したクラッチギヤ421〜425が設けられている。シャフトとクラッチギヤ421〜425との間には、シャフトの回転数と、クラッチギヤ421〜425の回転数とを同期させて、連結するシンクロメッシュ機構431〜433が設けられている。いずれかのクラッチギヤ421〜425が、シンクロメッシュ機構431〜433のいずれかによりシャフトに連結されて、1速から5速のいずれかのギヤ段が成立する。すべてのクラッチギヤがシャフトに連結されていなければ、トランスミッション400はニュートラル状態となる。
【0028】
後進ギヤ対416は、カウンタシャフト(図示せず)に配設された後進用アイドル歯車と噛合わされる。後進ギヤ対416が後進用アイドル歯車と噛合わされることにより、後進ギヤ段が成立させられる。
【0029】
シンクロメッシュ機構431〜433は、フォークシャフト440を介して、ECU600により制御されるアクチュエータ442により作動される。シンクロメッシュ機構431〜433は、キー式シンクロメッシュ機構である。なお、キー式シンクロメッシュ機構の代わりに、その他、ダブルコーンシンクロメッシュ機構などを用いてもかまわない。
【0030】
インプットシャフト402は、スプライン450によってクラッチ300のクラッチ出力軸302に連結されているとともに、アウトプットシャフト404には出力歯車460が配設されてデフ500のリングギヤ502と噛合わされている。
【0031】
デフ500は、一対のサイドギヤ504、506を含む。サイドギヤ504、506にはそれぞれドライブシャフト508、510がスプライン嵌合などによって連結されている。ドライブシャフト508、510を介して、左右の前輪512,514に動力が伝達される。
【0032】
ECU600には、アクセル開度センサ602、ポジションスイッチ604、回転数センサ606、温度センサ608、入力回転数センサ610、出力回転数センサ612およびストロークセンサ614が接続されている。
【0033】
アクセル開度センサ602は、アクセル開度を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。
【0034】
ポジションスイッチ604は、シフトレバーの位置を検出し、検出結果を表わす信号をECU600に送信する。シフトレバーの位置と対応したレンジ(たとえばDレンジ)に応じて、トランスミッション400のギヤ段が自動で形成される。また、運転者の操作に応じて、運転者が任意のギヤ段を選択できるマニュアルシフトモードを選択することができる。
【0035】
回転数センサ606は、エンジン200の回転数を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。温度センサ608は、エンジン200の冷却水の温度を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。
【0036】
入力回転数センサ610はインプットシャフト402の回転数を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。出力回転数センサ612はアウトプットシャフト404の回転数を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。アウトプットシャフト404の回転数から車速が算出される。たとえば、アウトプットシャフト404の回転数をデファレンシャルギヤ500のギヤ比で除算し、前輪512、514の円周を乗算することによって、車速が算出される。なお、車速を算出する方法には周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではその詳細な説明は繰返さない。
【0037】
ストロークセンサ614は、アクチュエータ442のストローク量(レリーズスリーブ316の移動量)を検出し、検出結果を表す信号をECU600に送信する。
【0038】
ECU600は、これらのセンサおよびスロットル開度センサ(図示せず)などから送られた信号と、ROM(Read Only Memory)に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両100が所望の走行状態となるように、機器類を制御する。
【0039】
本実施の形態において、ECU600は、通常の変速制御において、図3に示す変速線図に基づいて、成立すべきギヤ段を決定する。変速線図においては、車速とアクセル開度とにより成立すべきギヤ段が決定される。アクセル開度が大きいほど、より低速側のギヤ段が要求される。すなわち、アクセル開度が大きいほどより大きい変速比が要求される。また、車速が高いほど、より高速側のギヤ段が要求される。すなわち、車速が高いほどより小さい変速比が要求される。
【0040】
図3において、実線はアップシフト線を示す。アップシフト線は、アップシフト条件、すなわちアップシフトを行なう車速ならびにアクセル開度を定める。破線はダウンシフト線を示す。ダウンシフト線は、ダウンシフト条件、すなわちダウンシフトを行なう車速ならびにアクセル開度を定める。図3に示すように、アップシフト線とダウンシフト線との間にはヒステリシスが設けられる。
【0041】
たとえば、車速ならびにアクセル開度の組合せにより定まる車両の運転状態が、アップシフト線よりも左側の領域から右側の領域に移動した場合、アップシフト条件が満たされたと判断される。逆に、車速ならびにアクセル開度の組合せにより定まる車両の運転状態が、アップシフト線よりも右側の領域から左側の領域に移動した場合、アップシフト条件が満たされなくなったと判断される。アップシフト条件が満たされたか、満たされなくなったかは、変速の種類(アップシフト前のギヤ段とアップシフト後のギヤ段との組合せ)毎に判断される。
【0042】
同様に、車速ならびにアクセル開度の組合せにより定まる車両の運転状態が、ダウンシフト線よりも右側の領域から左側の領域に移動した場合、ダウンシフト条件が満たされたと判断される。逆に、車速ならびにアクセル開度の組合せにより定まる車両の運転状態が、ダウンシフト線よりも左側の領域から右側の領域に移動した場合、ダウンシフト条件が満たされなくなったと判断される。ダウンシフト条件が満たされたか、満たされなくなったかは、変速の種類(ダウンシフト前のギヤ段とダウンシフト後のギヤ段との組合せ)毎に判断される。
【0043】
変速線図上では、アクセル開度が大きいほどより大きい変速比を要求し、かつ車速が高いほどより小さい変速比を要求するという規則を満たすようにアップシフト条件ならびにダウンシフト条件が定められる。
【0044】
なお、変速線図については周知の一般的な技術を利用すればよいため、ここではそれらの詳細な説明は繰り返さない。
【0045】
図4を参照して、ECU600についてさらに説明する。なお、以下に説明するECU600の機能は、ソフトウエアにより実現するようにしてもよく、ハードウエアにより実現するようにしてもよい。また、ECU600は複数のECUに分割するようにしてもよい。
【0046】
ECU600は、第1制御部701と、第2制御部702と、中止部704と、許可部706と、禁止部708とを備える。
【0047】
第1制御部701は、アップシフト条件が満たされた場合に、アップシフトをするようにトランスミッション400を制御する。アップシフトする場合、クラッチ300の解放、トランスミッション400のギヤ段の変更およびクラッチ300の係合が順番に行なわれる。
【0048】
第2制御部702は、ダウンシフト条件が満たされた場合に、ダウンシフトをするようにトランスミッション400を制御する。ダウンシフトする場合、アップシフトする場合と同様に、クラッチ300の解放、トランスミッション400のギヤ段の変更およびクラッチ300の係合が順番に行なわれる。
【0049】
中止部704は、アップシフト条件が満たされた後であってアップシフトが完了する前に(アップシフト中に)、図5において矢印で示すようにアップシフト条件が満たされなくなると、アップシフトを中止してトランスミッション400の変速比、すなわちギヤ段を維持する。すなわち、アップシフトするように制御される前に形成されたギヤ段を再度形成するようにトランスミッション400が制御される。
【0050】
中止部704は、図5に示すように、ダウンシフト条件が満たされない状態であっても、アップシフト条件が満たされなくなると、アップシフトを中止してトランスミッション400の変速比を維持する。なお、アップシフト条件が満たされなくなるとともに、ダウンシフト条件が満たされた場合においても、アップシフトが中止されてトランスミッション400の変速比が維持される。
【0051】
許可部706は、アップシフトのためにクラッチ300が解放される前である場合、もしくはアップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合にアップシフトの中止を許可する。
【0052】
ここで、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期とは、アップシフト条件を満たす前に形成されていたギヤ段への復帰が完了する時期を意味する。アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期とは、アップシフトが完了する時期を意味する。
【0053】
アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期、ならびにアップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期は、アップシフトの進行度合い、トランスミッション400の入力軸回転数の変化率などを変数として用いた演算もしくはマップなどを用いて算出される。
【0054】
アップシフトの進行度合いは、たとえば、アップシフト前のギヤ段における同期回転数とアップシフト後のギヤ段における同期回転数との差ならびにトランスミッション400の入力軸回転数とアップシフト後のギヤ段における同期回転数との差の比を用いて表わされる。
【0055】
なお、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期、ならびにアップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期を算出する方法はこれらに限らない。
【0056】
禁止部708は、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅く、かつアップシフトのためにクラッチ300が解放された後である場合にアップシフトの中止を禁止する。
【0057】
なお、クラッチ300の状態および駆動力が得られる時期のうちのいずれか一方のみを考慮してアップシフトの中止を許可するか禁止するかを判断するようにしてもよい。
【0058】
すなわち、アップシフトのためにクラッチ300が解放される前である場合にアップシフトの中止を許可し、クラッチ300が解放された後である場合にアップシフトの中止を禁止するようにしてもよい。
【0059】
また、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合にアップシフトの中止を許可し、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅い場合にアップシフトの中止を禁止するようにしてもよい。
【0060】
図6を参照して、ECU600が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは、予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0061】
ステップ(以下、ステップをSと略す)100にて、ECU600は、アップシフト条件が満たされた否かを判断する。アップシフト条件が満たされると(S100にてYES)、処理はS102に移される。もしそうでないと(S100にてNO)、処理はS104に移される。S102にて、ECU600は、アップシフトするようにトランスミッション400を制御する。
【0062】
S104にて、ECU600は、ダウンシフト条件が満たされたか否かを判断する。ダウンシフト条件が満たされると(S104にてYES)、処理はS106に移される。もしそうでないと(S104にてNO)、この処理は終了する。S106にて、ECU600は、ダウンシフトするようにトランスミッション400を制御する。
【0063】
S108にて、ECU600は、アップシフトが完了する前であるか否か、すなわちアップシフト中であるか否かを判断する。アップシフトが完了する前であると(S108にてYES)、処理はS110に移される。もしそうでないと(S108にてNO)、この処理は終了する。
【0064】
S110にて、ECU600は、アップシフト条件が満たされなくなったか否かを判断する。アップシフト条件が満たされなくなると(S110にてYES)、処理はS112に移される。もしそうでないと(S110にてNO)、処理はS108に戻される。
【0065】
S112にて、ECU600は、アップシフトのためにクラッチ300が解放される前であるか、もしくはアップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早いかを判断する。
【0066】
アップシフトのためにクラッチ300が解放される前であるか、もしくはアップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合(S112にてYES)、処理はS114に移される。もしそうでないと(S112にてNO)、処理はS118に移される。
【0067】
S114にて、ECU600は、アップシフトの中止を許可する。S116にて、ECU600は、アップシフトを中止してトランスミッション400の変速比、すなわちギヤ段を維持する。ダウンシフト条件が満たされずとも、アップシフトが中止されてトランスミッション400の変速比が維持される。なお、ダウンシフト条件が満たされた場合においても、アップシフトが中止されてトランスミッション400の変速比が維持される。
【0068】
S118にて、ECU600は、アップシフトの中止を禁止する。すなわち、アップシフトが継続される。その後、この処理は終了する。
【0069】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態における変速動作について説明する。
【0070】
車両の走行中、アップシフト条件が満たされると(S100にてYES)、アップシフトするようにトランスミッション400が制御される(S102)。同様に、ダウンシフト条件が満たされると(S104にてYES)、ダウンシフトするようにトランスミッション400が制御される(S106)。
【0071】
ところで、変速線図に従ってアップシフトする場合、図7に示す時間T1においてアップシフト条件が満たされた直後にアクセル開度が増加すると、アップシフトが完了する前に、時間T2においてアップシフト条件が満たされなくなる場合があり得る。
【0072】
このような場合、運転者が加速を要求しているにもかかわらず、アップシフトが継続され得る。そのため、図8に示すように、運転者が要求する加速度を満たすために必要な駆動力を得ることができなくなり得る。
【0073】
そこで、アップシフトが完了する前に(S108にてYES)、アップシフト条件が満たされなくなると(S110にてYES)、ダウンシフト条件が満たされずとも、図9に示すようにアップシフトが中止されてトランスミッション400の変速比が維持される(S114)。これにより、時間T3においてアップシフト条件が再び満たされてアップシフトが実行されるまでは、駆動力が低下しないようにすることができる。そのため、駆動力不足を抑制することができる。
【0074】
ただし、アップシフトのためにクラッチ300が解放される前であるか、もしくはアップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早いと(S112)、アップシフトの中止が許可される(S114)。そのため、アップシフトが中止されてトランスミッション400の変速比が維持される(S114)。
【0075】
一方、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅く、かつアップシフトのためにクラッチ300が解放された後である場合(S116)、アップシフトの中止が禁止される(S118)。そのため、アップシフトが継続される。
【0076】
これにより、アップシフトの中止と継続とのうち、駆動力が途切れる時間をより短い方を選択することができる。また、そのため、駆動力不足をより効果的に抑制することができる。
【0077】
<第2の実施の形態>
以下、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態は、アップシフトを中止した後においてアップシフトを制限する点で前述の第1の実施の形態と相違する。その他の構成については前述の第1の実施の形態と同じである。したがって、ここではそれらの詳細な説明は繰返さない。
【0078】
図10を参照して、本実施の形態におけるECU600の機能について説明する。ECU600は、第1制御部701と、第2制御部702と、中止部704と、許可部706と、禁止部708とに加えて、制限部710と、要求部712と、第3制御部714と、解除部716とを備える。
【0079】
なお、第1制御部701と、第2制御部702と、中止部704と、許可部706と、禁止部708の機能は前述の第1の実施の形態と同じであるため、ここではそれらの詳細な説明は繰返さない。
【0080】
制限部710は、アップシフトが中止された後において、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトを制限する。すなわち、アップシフト条件が満たされた場合であっても、変速線図に基づいて要求される(定められる)ギヤ段へのアップシフトが制限される。
【0081】
要求部712は、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトが制限されている場合において、予め定められた時間が経過する度により小さい変速比を要求するという規則に基づいて変速比を要求する。
【0082】
より具体的には、要求部712は、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になる度に、現在の成立しているギヤ段よりも1段だけ高速側のギヤ段が要求する。
【0083】
なお、カウント時間のしきい値は、しきい値に対応した間隔で連続してアップシフトを行なった場合に運転者がビジーシフトであると感じない程度の値に設定される。1段アップ許可判定タイマは、現在の成立しているギヤ段よりも1段だけ高速側のギヤ段を要求する度にリセットされる。
【0084】
第3制御部714は、要求部712から要求される変速比が変速線図に基づいて要求される変速比以上である間は、要求部712から要求される変速比になるように、トランスミッション400を制御する。
【0085】
すなわち、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段が、変速線図に基づいて要求されるギヤ段以下である間は、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段を形成するようにトランスミッション400が制御される。
【0086】
解除部716は、要求部712から要求される変速比が第1の規則に基づいて要求される変速比より小さくなった場合、アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトの制限を解除する。
【0087】
すなわち、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段が、変速線図に基づいて要求されるギヤ段より高くなると(高速側のギヤ段になると)アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトの制限が解除される。
【0088】
図11を参照して、本実施の形態に係る制御装置であるECU600が実行するプログラムの制御構造について説明する。なお、以下に説明するプログラムは、予め定められた周期で繰り返し実行される。
【0089】
ステップ(以下、ステップをSと略す)200にて、ECU600は、オフアップ禁止制御実行フラグがオンであるか否かを判別する。オフアップ禁止制御実行フラグがオンであると(S200にてYES)、処理はS208に移される。もしそうでないと(S200にてNO)、処理はS202に移される。
【0090】
S202にて、ECU600は、アップシフトが中止されたか否かを判別する。アップシフトが中止されると(S202にてYES)、処理はS204に移される。もしそうでないと(S202にてNO)、この処理は終了する。
【0091】
S204にて、ECU600は、オフアップ禁止制御実行フラグをオンにする。S206にて、ECU600は、オフアップ禁止制御を実行する。オフアップ禁止制御が実行されることにより、変速線図に基づいて要求されるギヤ段へのアップシフトが禁止される。
【0092】
S208にて、ECU600は、1段アップ許可判定タイマのカウントを開始する。1段アップ許可判定タイマをカウントすることにより、経過時間が計測される。
【0093】
S210にて、ECU600は、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になったか否かを判別する。ここで、カウント時間のしきい値は、しきい値に対応した間隔で連続してアップシフトを行なった場合に運転者がビジーシフトであると感じない程度の値に設定される。1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になると(S210にてYES)、処理はS212に移される。もしそうでないと(S210にてNO)、処理はS210に戻される。
【0094】
S212にて、ECU600は、現在の成立しているギヤ段よりも1段だけ高速側のギヤ段を要求する。S214にて、ECU600は、1段アップ許可判定タイマをリセットする。
【0095】
S216にて、ECU600は、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段が、変速線図に基づいて要求されるギヤ段よりも高いか否か(高速側のギヤ段であるか否か)を判別する。すなわち、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求される変速比が、変速線図に基づいて要求される変速比よりも小さいか否かが判別される。1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段が、変速線図に基づいて要求されるギヤ段よりも高いと(S216にてYES)、処理はS218に移される。もしそうでないと(S216にてNO)、処理はS222に移される。
【0096】
S218にて、ECU600は、アップシフトを行なわずにオフアップ禁止制御を終了する。S220にて、ECU600は、オフアップ禁止制御実行フラグをオフにする。その後、この処理は終了する。S222にて、ECU600は、1段だけアップシフトするように、トランスミッション400を制御する。その後、この処理は終了する。
【0097】
以上のような構造およびフローチャートに基づく、本実施の形態における変速動作について説明する。
【0098】
通常走行時は、変速線図に基づいて要求されるギヤ段が成立するようにトランスミッション400が制御される。この場合、オフアップ禁止制御実行フラグがオフである(S200にてNO)。
【0099】
一方、アップシフトが中止されると(S202にてYES)、オフアップ禁止制御実行フラグがオンにされ(S204)、オフアップ禁止制御が実行される(S206)。オフアップ禁止制御が実行されると、1段だけ高速側へのアップシフトを行なうための1段アップ許可判定タイマのカウントが開始される(S208)。
【0100】
また、オフアップ禁止制御が実行されると、図12の時間T3においてアップシフト条件が再び満たされることによって、変速線図に基づいて要求されるギヤ段がより高速側のギヤ段に変化しても、アップシフトが禁止される。この点が、前述の第1の実施の形態と異なる。
【0101】
図12の時間T4において、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になると(S210にてYES)、1段だけ高速側のギヤ段が要求され(S212)、1段アップ許可判定タイマがリセットされる(S214)。図12に示すように実際のギヤ段が1速ギヤ段であれば、2速ギヤ段が要求される。
【0102】
1段だけ高速側のギヤ段が要求された場合において、要求されたギヤ段が変速線図に基づいて要求されるギヤ段以下であると(S216にてNO)、図12に示すように1段だけアップシフトされる(S222)。
【0103】
これにより、アップシフトが中止された後は、アップシフト条件が満たされても、しきい値に対応する時間だけ変速比を維持してからアップシフトを行なうようにすることができる。そのため、ビジーシフトを抑制することができる。
【0104】
一方、1段アップ許可判定タイマのカウント時間がしきい値以上になることにより要求されるギヤ段が、変速線図に基づいて要求されるギヤ段よりも高くなると(S216にてYES)、アップシフトは行なわれずに、オフアップ禁止制御が終了される(S218)。よって、オフアップ禁止制御実行フラグがオフにされる(S220)。
【0105】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】車両を示す概略構成図である。
【図2】クラッチを示す断面図である。
【図3】変速線図を示す図である。
【図4】第1の実施の形態におけるECUの機能ブロック図である。
【図5】車両の運転状態の推移を変速線図上において示す図である。
【図6】第1の実施の形態においてECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図7】アップシフト条件が満たされた時間T1ならびにアップシフト条件が満たされなくなった時間T2を示す図である。
【図8】駆動力の推移を示す図(その1)である。
【図9】駆動力の推移を示す図(その2)である。
【図10】第2の実施の形態におけるECUの機能ブロック図である。
【図11】第2の実施の形態においてECUが実行するプログラムの制御構造を示すフローチャートである。
【図12】駆動力の推移を示す図(その3)である。
【符号の説明】
【0107】
100 車両、200 エンジン、300 クラッチ、400 トランスミッション、500 デファレンシャルギヤ、600 ECU、701 第1制御部、702 第2制御部、704 中止部、706 許可部、708 禁止部、710 第制限部、712 要求部、714 第3制御部、716 解除部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の制御装置であって、
アップシフト条件が満たされた場合に、アップシフトをするように前記変速機を制御するための第1の制御手段と、
ダウンシフト条件が満たされた場合に、ダウンシフトをするように前記変速機を制御するための第2の制御手段と、
前記アップシフト条件が満たされた後であってアップシフトが完了する前に、前記ダウンシフト条件が満たされない状態で前記アップシフト条件が満たされなくなると、アップシフトを中止して前記変速機の変速比を維持するための中止手段とを備える、変速機の制御装置。
【請求項2】
アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも早い場合にアップシフトの中止を許可し、アップシフトを中止することによって駆動力が得られる時期が、アップシフトを継続することによって駆動力が得られる時期よりも遅い場合にアップシフトの中止を禁止するための手段をさらに備える、請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
前記変速機は、係合状態と解放状態とを切換え可能な係合要素を介して駆動源に連結され、
前記係合要素は、アップシフトの実行中に解放され、
前記係合要素が解放される前である場合にアップシフトの中止を許可し、前記係合要素が解放された後である場合にアップシフトの中止を禁止するための手段をさらに備える、請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項4】
前記アップシフト条件は、アクセル開度が大きいほどより大きい変速比を要求し、かつ車速が高いほどより小さい変速比を要求するという第1の規則を満たすように定められ、
アップシフトが中止された後において、前記アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトを制限するための手段と、
前記アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトが制限されている場合において、予め定められた時間が経過する度により小さい変速比を要求するという第2の規則に基づいて変速比を要求するための手段と、
前記第2の規則に基づいて要求される変速比が前記第1の規則に基づいて要求される変速比以上である間は、前記第2の規則に基づいて要求される変速比になるように、前記変速機を制御するための手段と、
前記第2の規則に基づいて要求される変速比が前記第1の規則に基づいて要求される変速比より小さくなった場合、前記アップシフト条件が満たされることにより行われるアップシフトの制限を解除するための手段とをさらに備える、請求項1〜3のいずれかに記載の変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−96211(P2010−96211A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265410(P2008−265410)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】