説明

多孔質シリコン膜及びその製造方法並びに半導体発光素子

【課題】可視発光が可能で膜厚の均一な多孔質シリコン膜とこの多孔質シリコン膜を簡便かつ再現性よく製造する製造方法とを提供する。また、この多孔質シリコン膜を用いた高発光効率の半導体発光素子を提供する。
【解決手段】酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を処理溶液として使用して、短時間(約1〜15分)の光照射により光アシストエッチングを実施し、シリコン結晶の表面に均一な膜厚の多孔質シリコン膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリコン膜及びその製造方法並びに半導体発光素子に関し、特に、処理溶液中に浸漬したシリコン結晶に光を照射しながらエッチングを行う光アシストエッチングにより多孔質シリコン膜を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン結晶基板表面の多孔質膜が赤色発光するという発見は1990年にCanhamによってなされた(非特許文献1を参照)。従来、多孔質シリコン膜は、半導体基板を電解質溶液中で電気化学エッチング(陽極化成)することにより形成されていた。陽極化成では、p型シリコンの場合はシリコン基板の背面がプラス、水溶液中の白金(Pt)電極がマイナスとなるように電気配線する。電解質溶液としては、普通はフッ化水素酸(HF)水溶液が用いられるが、場合によってはHF水溶液にアルコール類(メタノール、エタノール等)を混合することがある。アルコール類の混合は、均質な多孔質膜を得るためである。
【0003】
しかしながら、陽極化成法は電解装置が必要であるという欠点を有している。第1に、高価なPt(白金)電極や直流電源回路を必要とする。第2に、これら電極や電源回路で試料に電流を流すためには、試料の背面にオーム性電極となる金属を取り付ける必要がある。オーム性電極は、普通は金属をシリコン結晶の背面に真空蒸着し、その後、1000℃近くの温度でシンターリングして作製される。背面電極は、その形成自体が面倒なことはもちろん、試料の平坦性も損ねるため、その後のプロセスの観点、特に微細デバイスを作製するときの大きなマイナス要因となる。
【0004】
また、陽極化成法では、電源回路によって試料表面の電位を制御して適当な濃度の正孔を供給することで、電気化学反応による多孔質化をうながす。したがって、試料表面に電位分布のムラがあれば、このムラを反映して、多孔質膜の厚さにムラが生じることになる。試料表面の電位分布のムラを無くすことは困難で、特に試料サイズが大きい場合は困難である。
【0005】
このため、より簡便に多孔質膜を形成する方法が種々検討されてきた。陽極化成法以外の多孔質膜を形成する方法としてはステイン(腐食)エッチング法がある。ステインエッチング法は、硝酸(HNO)を含有するフッ化水素酸(HF)の水溶液中にシリコン結晶を浸漬して、結晶表面をエッチングで腐食させるだけの極めて簡単なものである。HF:HNO:HO水溶液の組成比は、多くは1:3:5あるいは1:5:10である。
【0006】
ここで、ステインエッチング法で多孔質層が形成される原理を簡単に説明する。先ず、フッ化水素酸水溶液中に含まれる硝酸でシリコン結晶の表面が化学酸化される。次に、この結晶表面の酸化膜(SiO)がエッチング液中のHF成分で除去される。この過程が繰り返して進行することで、結晶表面に凹凸、すなわち多孔質層が形成されるのである。したがって、ステインエッチング用に使われるエッチング液は、通常のシリコン結晶の化学エッチングに使われるものと同じである。ただ、薬品の組成比を通常のシリコン結晶の化学エッチング液と同じにすると、シリコン結晶の表面が鏡面にエッチングされて多孔質膜が形成されないため、適当に変える必要がある。分りやすく言えば、通常のエッチングでは使われないような、表面を荒らす組成比の液が使われることになる。
【0007】
上記のステインエッチング法は簡便性には優れているが、多孔質膜の構造制御はほとんど不可能と言える。表面がただ不均一に荒れただけで、可視発光しない試料が作製されることも多い。ステインエッチング法に類似した方法として、光アシストエッチング法が提案されている。光アシストエッチング法は、フッ化水素酸(HF)水溶液中にシリコン結晶を浸漬し、上部から所定波長の光を照射するものである(非特許文献2を参照)。光アシストエッチング法では、光照射によりエッチング速度を制御することにより、光照射された部分に均一な厚さで多孔質膜が形成される。光照射の波長は590nm以上とされ、これよりも短波長の場合には多孔質膜は形成されない。逆に、波長が1000nm以上の光の場合にも、電子−正孔対が励起されないため、多孔質膜が形成されない。
【0008】
【非特許文献1】L. T. Canham, Appl. Phys. Lett. Vol. 57, p. 1046, 1990年
【0009】
【非特許文献2】N. Noguchi and I. Suemune, Appl. Phys. Lett. Vol. 62, pp. 1429-1431, 1993年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の光アシストエッチング法では、(1)多孔質膜が形成される確率が悪い、(2)多孔質膜の形成に長時間必要である、(3)光照射面とは逆側の背面に多孔質膜が形成される、という問題がある。
【0011】
(1)の多孔質膜形成の再現性の低さは、ステインエッチングの場合と同じく、可視発光多孔質シリコンの最初の発見者であるCanhamらの解説論文[A. G. Cullis, L. T. Canham, and P. D. J. Calcott, J. Appl. Phys. Vol. 82, pp. 909-965, 1997年] でも言及されている。また、(2)の多孔質膜の形成のために長時間の光照射が必要なことは、発明者の近著論文[S. Adachi and K. Tomioka, Electrochem. Solid-State Lett. Vol. 8, p. G251, 2005年]での、He−Neレーザ光(5mW)の3時間連続照射の例や、N. Noguchi と I. Suemuneの論文[Appl. Phys. Lett. Vol. 62, pp. 1429-1431, 1993年]による、He−Neレーザ光(1mW)の1時間照射の例からも明らかである。
【0012】
(3)の光照射面とは全く逆の背面に多孔質膜が形成される事実は、O. K. Adersen, T. Frello, and E. Vejeの論文[J. Appl. Phys. Vol. 78, pp. 6189-6192, 1995年]にも明記されている。この論文の著者は、光アシストエッチング法の再現性を向上させることを目的として、前もって80℃の水酸化カリウム(KOH)水溶液中で30分間ほどエッチングすることを提案している。このエッチングで、その後のHF水溶液中での光アシストエッチングで作製される多孔質シリコンの歩留まりが100%近くに向上するとのことである。
【0013】
ただし、多孔質シリコン膜が、光照射された表面ではなく、反対側の裏面に形成される。なお、多孔質シリコン膜が、表面でなくて裏面(背面)に形成される理由として、表面上のHe−Ne(ヘリウム−ネオン)レーザ照射で生成された少数キャリア(正孔)が、拡散によって背面に到達し、そこで正孔が関与した電気化学反応によって、多孔質膜が形成されると説明されている。結晶の厚さをパラメーターにした実験によって、この事実が裏付けられている。なお、我々の経験によると、多孔質膜が表面に形成されたときの大きさは、He−Neレーザ光のスポットの大きさを反映して直径約1mmの円形である。背面に作製される多孔質膜の場合、形状だけではなく大きさも定まらなかった。
【0014】
上述した光アシストエッチング法の欠点を克服すべく、N. YamamotoとH. Takaiは、エッチング水溶液としてHF水溶液と過酸化水素水(H)との混合液を使用することを提案している[Thin Solid Films Vol. 388, pp.138-142, 2001年]。多孔質膜の作製装置も、片側のみをエッチング液に浸漬させる方式の装置である。この装置は陽極化成法のものと同じである。光励起は、波長633nm(18.4mW/cm出力)のHe−Neレーザが使われている。
【0015】
N. YamamotoとH. Takaiの実施例によれば、HF:H=100:17水溶液中で約30分間エッチングすることで、最大発光強度の多孔質シリコン膜が得られている。多孔質膜作製の再現性については、Hを混合することで向上するかどうかの記述はない。我々の追試実験によれば、Hを混合することによって再現性が向上することは確認できなかった。また、試料背面を空気中にさらすことによって、多孔質膜が形成される確率も低下することが分かった。
【0016】
本発明は上記問題を解決すべく成されたものであり、本発明の目的は、可視発光が可能で膜厚の均一な多孔質シリコン膜とこの多孔質シリコン膜を簡便かつ再現性よく製造する製造方法とを提供することにある。また、本発明の他の目的は、この多孔質シリコン膜を用いた高発光効率の半導体発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明の多孔質シリコン膜の製造方法は、酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸水溶液を処理溶液として用い、シリコン結晶を前記処理溶液に浸漬し、前記シリコン結晶の表面に光を照射して、エッチングによりシリコン結晶の表面に多孔質シリコン膜を形成することを特徴としている。
【0018】
酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸水溶液を処理溶液として用いて、光アシストエッチングを行うことにより、可視発光が可能で膜厚の均一な多孔質シリコン膜を100%の確率で形成することができる。また、光アシストエッチングによれば、電解装置が必要な陽極化成法に比べて簡便に多孔質シリコン膜を形成することができる。
【0019】
また、上記目的を達成するために本発明の半導体発光素子は、本発明の方法により表面に多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶と、多孔質シリコン膜上に形成された表面電極と、シリコン結晶の裏面に形成され、表面電極と共に多孔質シリコン膜に電流を印加する裏面電極と、を備えたことを特徴としている。
【0020】
可視発光が可能で膜厚の均一な多孔質シリコン膜を発光層として用いた半導体発光素子は、電極間に電流を印加することで発光する。特に、多孔質シリコン膜の化学酸化により、多孔質シリコン膜と表面電極との間に酸化ケイ素薄膜を形成した半導体発光素子では、発光効率が顕著に向上する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、可視発光が可能で膜厚の均一な多孔質シリコン膜を、簡便かつ再現性よく製造することができる、という効果がある。また、この多孔質シリコン膜を用いた半導体発光素子では、高い発光効率を達成することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0023】
<多孔質シリコン膜の作製方法>
(光アシストエッチング法)
図1は光アシストエッチング法を説明するための図である。図1に示すように、光アシストエッチング法では、容器10に入れた処理溶液12に平板上のシリコン結晶14を浸漬し、シリコン結晶14の表面14aに所定波長のアシスト(励起)光16を照射することで、シリコン結晶14に多孔質シリコン膜18を形成することができる。アシスト光16としては、波長400nm〜900nmの可視領域から赤外領域の光が好ましい。光アシストエッチング法では、アシスト光16の照射によりシリコン結晶14の表面14a近傍に正孔が生成し、正孔が関与した電気化学反応によって多孔質シリコン膜18が形成される。
【0024】
本発明の特徴は、光アシストエッチング法の処理溶液として、特定の酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用する点にある。特定の酸化剤とは、標準水素電極に対する酸化還元電位(redoxポテンシャル)が+0.4eV〜+1.5eVの酸化剤である。反応制御が容易になる点で、酸化還元電位が+0.5eV〜+1.0eVの範囲の酸化剤がより好ましく、酸化還元電位が+0.5eV近傍の酸化剤が特に好ましい。
【0025】
特定の酸化剤としては、例えば、塩化銅(CuCl,CuCl)、ヨウ素(I)、臭素酸銀(AgBrO)、硝酸銀(AgNO)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、臭素(Br)、二クロム酸カリウム(KCr)、臭素酸カリウム(KBrO)等が挙げられる。この中でも、特に、塩化銅(CuCl,CuCl)、ヨウ素(I)、臭素酸銀(AgBrO)、硝酸銀(AgNO)が好ましい。
【0026】
特定の酸化剤は、HF水溶液に直接溶解させるか、あるいは水溶液にしてHF水溶液に混合してもよい。また、混合割合も微量から固溶限界まで可能であるが、多孔質シリコン膜の光刺激発光(Photoluminescence,PL)強度が大きくなるように、酸化剤の酸化力に応じて混合割合を特定することが好ましい。当然ながら、微量過ぎると混合効果が期待できない。逆に、多量に混合し過ぎると、単に腐食された表面が形成されてしまう。
【0027】
例えば、ヨウ素(I)の場合は、ヨウ素をHF水溶液に飽和するまで溶解した飽和フッ化水素酸溶液でPL強度が最大になる。この飽和溶液では、飽和溶液1リットル中に含まれるヨウ素濃度は約3×10モルとなる。また、ヨウ素酸カリウム(KIO)の場合は、HF水溶液:KIO水溶液(約10−4規定)=1:1の混合液でPL強度が最大になる。この混合液では、混合液1リットル中に含まれるKIO濃度は約1.4×10モルである。
【0028】
上記の例では、処理溶液に含まれる酸化剤の量は、処理溶液1リットル当たり僅か10−4〜10−3モルという少量である。多量の酸化剤を含む場合には、光照射されない部分もエッチングされ、腐食面のみが現れるのである。酸化剤が二クロム酸カリウム(KCr)の場合も同様に、ごく微量のKCrをHF水溶液に添加するだけで大きな効果が確認できた。KCrの最適添加量は、HF水溶液1リットルに対して約1×10モルである。
【0029】
なお、特定の酸化剤の最適な濃度範囲については後述する。
【0030】
(特定の酸化剤の作用原理)
次に、特定の酸化剤の作用原理について考察する。シリコン結晶の電子親和力χsは−4.05eVである。一方、HF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は、標準水素電極電位および真空準位を基準として、下記式(1)で与えられる。
【0031】
χ1(γ)=−4.5+0.059γ(eV) 式(1)
【0032】
式(1)のγは、HF水溶液のpH値である。例えば、濃度50%のHF水溶液のpH値は約2.3であるから、上記式(1)より50%HF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は−4.36eVとなる。なお、HF水溶液の%濃度は、重量%濃度である。
【0033】
図2(A)乃至(C)は、シリコン結晶(右側)と50%HF水溶液(左側)とのポテンシャル・バンド図である。(A)は酸化剤を含有しないHF水溶液(pH=2.3)の場合、(B)はヨウ素(I)を含有するHF水溶液(pH=2.3)の場合、(C)は二クロム酸カリウム(KCr)を含有するHF水溶液(pH=2.3)の場合の各々について、シリコン結晶とHF水溶液とのポテンシャル・バンドを示す。
【0034】
図2(A)より明らかであるが、n型シリコン結晶と50%HF水溶液(処理溶液)との界面は、いわゆる整流性を示すショットキー(Schottky)障壁を形成している。一方、標準水素電極に対する酸化剤の酸化還元電位をEoとすると、酸化剤を含有する50%HF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は、下記式(2)で与えられる。
【0035】
χ1=χ1(γ=2.3)−Eo=−4.36−Eo(eV) 式(2)
【0036】
表1は、各種酸化剤試薬の酸化還元電位(Eo)と、酸化剤を含有する50%HF(pH=2.3)水溶液の電気化学ポテンシャル(χ1)とをまとめたものである。なお、酸化還元電位Eoの値は、“Handbook of Chemistry and Physics (Chemical Rubber, Boca Raton, FL. 1993)”から転載したものである。
【0037】
【表1】

【0038】
例えば、50%HF水溶液にヨウ素(I)を添加したとすると、ヨウ素の酸化還元電位はEo=0.54eVで与えられるから、このヨウ素を含有するHF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は、上記の式(2)よりχ1=−4.90eVとなる。
【0039】
図2(A)のHF水溶液の場合には、電気化学ポテンシャルはχ1=−4.36eVと比較的小さいので、シリコン結晶における同一ポテンシャルは、禁制帯の中ほどに位置する。一方、図2(B)のヨウ素を含有するHF水溶液では、シリコン結晶における同一ポテンシャルは、シリコンの価電子帯頂上の直ぐ上に位置する。さらに、図2(C)の二クロム酸カリウムを含有するHF水溶液では、二クロム酸カリウムの酸化還元電位はEo=+1.23eVで与えられるから、この二クロム酸カリウムを含有するHF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は、上記の式(2)よりχ1=−5.60eVとなり、シリコン結晶における同一ポテンシャルは、完全にシリコンの価電子帯内に位置している。
【0040】
図2(A)乃至(C)で示したバンド図の相違は、光照射によりシリコン結晶の表面に正孔が生成される場合に、界面に蓄積される正孔数の相違として顕著に現れる。即ち、図2(A)の50%HF水溶液の場合は、処理溶液とシリコン結晶との界面に蓄積された正孔数は少ない。しかしながら、図2(B)のヨウ素を含有するHF水溶液では、界面部に存在するポテンシャル井戸のため、正孔がこの部分で比較的多く蓄積されることになる。図2(C)の二クロム酸カリウムを含有するHF水溶液では、二クロム酸カリウムがヨウ素よりも強い酸化作用を有するため、正孔がさらに多く界面に蓄積されることになる。
【0041】
光アシストエッチング法による多孔質シリコン膜の形成機構においては、このようにして界面に蓄積された正孔(h)が重要な役割を担う。即ち、光照射により正孔が生成されると、正孔が関与した以下の電気化学反応が起こり、多孔質シリコン膜が形成されるのである。
【0042】
Si(s)+6HF(aq)+xh+ → SiF62-(aq)+(6-2y)H+(aq)+yH2(g)+ze- 式(3)
【0043】
反応式(3)中、x、y、zはx+2y+z=4を満たす整数であり、sは固体(solid)、aqは液体(aqueous)、そしてgは気体(gas)を意味する。この反応式(3)から分かるように、界面に蓄積される正孔(h)の数が多いほど、多孔質シリコン膜の形成が進む。したがって、特定の酸化剤を含有するHF水溶液中で光アシストエッチングを実施することにより、シリコン結晶の表面に100%の確率で多孔質シリコン膜を形成することが可能となるのである。
【0044】
従来、HF水溶液や過酸化水素(H)を含有するHF水溶液を用いた光アシストエッチングでは、多孔質シリコン膜を再現性よく形成することが困難であった。また、光照射した表面よりむしろ、光照射しなかった裏面(背面)に形成されるような不可解な現象も、頻繁に観測されていた。これに対し、本発明では、シリコン結晶の表面に100%の確率で多孔質シリコン膜を形成することが可能である。また、後述する通り、強くPL発光する多孔質シリコン膜を1〜15分間の光照射で形成することが可能である。これは従来の光アシストエッチングの1/10〜1/100の照射時間である。
【0045】
なお、上記の電気化学反応に伴い水素ガス(H)が発生する。この水素ガスは、反応の激しさに比例して発生することになる。シリコン結晶表面に吸着した水素ガスは、均質な多孔質シリコン膜の形成を阻害するので、超音波洗浄装置などを用いて常に水素ガスを除去しながら多孔質シリコン膜を形成することが好ましい。
【0046】
図2(C)のように酸化作用の強い酸化剤を含有するHF水溶液の場合、反応条件によっては光照射に関係なくシリコン結晶の表面がエッチングされ、水素ガスが激しく発生することがある。そのような条件下では、可視発光が可能な多孔質シリコン膜を形成することは難しい。図2(C)に示すバンド図から理解されるように、酸化作用の強い酸化剤を過剰に含有する処理溶液では、シリコン結晶中の価電子帯電子が処理溶液中に注入されるため、処理溶液からシリコン結晶に正孔が注入される。このため反応の制御が難しくなり、反応条件によっては光照射に関係なくシリコン結晶の表面がエッチングされる。
【0047】
過マンガン酸カリウム(KMnO)の酸化還元電位は+1.51eVである。酸化還元電位がEo=+1.23eVの二クロム酸カリウムを用いた場合(図2(C))と同じ実験条件で、二クロム酸カリウムの代わりに酸化還元電位が+1.5eVより大きな過マンガン酸カリウムを用いた処理溶液でシリコン結晶をエッチングしたところ、光照射に関係なく腐食エッチングが進行し、微視的な凹凸の多孔質膜は形成されず、全面が巨視的に荒れただけのエッチング面が観測された。
【0048】
また、酸化力がそれほど強くない酸化剤であっても、酸化剤の濃度が高くなると、光照射に関係なくシリコン結晶の表面が平坦にエッチングされたり、マクロに荒れた多孔質とは異なる面が形成されることもある。逆に、酸化剤の濃度が低すぎると、図2(A)のHF水溶液単独の場合と同様に、正孔の蓄積効率が悪くなるため、多孔質シリコン膜が形成されなかったり、多孔質シリコン膜の形成に極端に時間がかかったりすることになる。そして、場合によっては、シリコン結晶の表面の正孔が拡散により裏面に到達し、そこで多孔質シリコン膜が形成されることもある。
【0049】
発明者の検討結果によれば、塩化銅(CuCl)、ヨウ素(I)など、酸化還元電位が約+0.5eV附近の酸化剤が、非常に良好な結果を与える。これに対し、二クロム酸カリウム(KCr)、臭素酸カリウム(KBrO)など、酸化還元電位の大きな酸化剤では、1分以下の非常に短時間の光照射でも多孔質シリコン膜の形成が可能であるという利点はあるが、光照射に関係なくシリコン結晶がエッチングされる傾向にあるため、酸化剤の最適な添加量を決定することは容易ではない。
【0050】
ここで、過酸化水素(H)を含有するHF水溶液中では、多孔質シリコン膜を再現性よく形成することが困難である理由を考察する。図3(A)乃至(C)は、シリコン結晶と50%HF水溶液とのポテンシャル・バンド図である。(A)は酸化剤を含有しないHF水溶液(pH=2.3)の場合、(B)は過酸化水素を含有するHF水溶液(pH=5.0)の場合、(C)は過酸化水素を含有するHF水溶液(pH=2.3)の場合の各々について、シリコン結晶とHF水溶液とのポテンシャル・バンドを示す。
【0051】
過酸化水素を含有するHF水溶液が処理溶液として優れていないことは、ポテンシャル・バンド図で簡単に説明される。ここで重要なことは、過酸化水素の酸素(O)の酸化数は−1であり、−1の他にも−2と0の酸化数があるので、この試薬は反応条件に応じて酸化剤又は還元剤として働くということである。図3(B)、図3(C)は、各々、酸化剤、還元剤として働いた場合のバンド図である。また、図3(A)は、図2(A)と全く同じく、50%HF(pH=2.3)水溶液のバンド図である。
【0052】
図3(C)に示すように、過酸化水素が濃(50%)HF水溶液中で還元剤として働くとすると、酸化還元電位は負の値を有することになる。図3(C)ではEo=0.16eVと仮定している。一方、pHが5の希HF水溶液では、過酸化水素は酸化剤として働き、酸化還元電位をEo=+0.3eVと仮定すると、図3(B)に示すバンド図となる。これより各液の電気化学ポテンシャルχ1は、−4.36eV(図3(A))、−4.5eV(図3(B))、−4.2eV(図3(C))となり、いずれの電気化学ポテンシャルも、図2(B)のヨウ素を含有するHF水溶液のχ1=−4.90eVに比べ相当に小さいことが分かる。即ち、HF水溶液に過酸化水素を添加しても、正孔の蓄積に関する顕著な効果が期待できないことが分かる。したがって、多孔質シリコン膜を再現性よく形成することができない。これは実験事実の示す通りである。
【0053】
上述した通り、標準水素電極に対する酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの特定の酸化剤を用いることで、正孔の蓄積効率を向上させることができ、可視発光が可能な多孔質シリコン膜を形成することができる。これに対し、過酸化水素のように酸化剤の酸化還元電位が+0.4eVより小さいと、正孔の蓄積に関する顕著な効果が期待できず、多孔質シリコン膜を再現性よく形成することができない。また、酸化剤の酸化還元電位が+1.5eVより大きいと、光照射に関係なくシリコン結晶の表面がエッチングされ、均一な多孔質シリコン膜を形成できない。反応を制御するためには、処理溶液の電気化学ポテンシャルχ1が−4.8eV〜−5.0eVの範囲にあることが好ましく、HF水溶液の場合には、酸化剤の酸化還元電位は+0.5eV〜+1.0eVの範囲がより好ましく、+0.5eV近傍が特に好ましい。
【0054】
(酸化剤の濃度)
酸化剤がヨウ素(I)の場合は、HF水溶液にヨウ素を直接入れ、その飽和HF水溶液を処理溶液として用いれば丁度よい。飽和HF水溶液といっても、ヨウ素はもともと水に溶解しにくく、HF水溶液にも溶解しにくいため、ごく微量のヨウ素がHF水溶液に溶解しているだけである。もちろん、ヨウ素が未飽和のHF水溶液も処理溶液として使用可能である。同じハロゲン元素の臭素(Br)についても同様であるが、臭素は反応力がヨウ素よりも強いため、臭素の飽和HF水溶液では濃度が高すぎる傾向にある。
【0055】
一方、ヨウ素酸カリウム(KIO)や二クロム酸カリウム(KCr)は水に溶解しやすく、またHF水溶液にも溶解しやすいため、これら試薬を飽和濃度近くまでHF水溶液に溶解すると濃度が高くなりすぎるため、シリコン結晶を激しくエッチングする。したがって、HF水溶液に対するヨウ素酸カリウムや二クロム酸カリウムの最適添加濃度は、きわめて薄い濃度領域にある。
【0056】
上述した通り、酸化剤の濃度は多孔質シリコン膜形成の成否に大きな影響を与える。表2には、多孔質シリコン膜を形成した際の実験条件をまとめた。実験方法の詳細は、後述する実施例1(キセノンランプ使用)又は実施例3(He−Neレーザ使用)と同じであるため、ここでは説明を省略する。また、表3には、表2の実験条件下での、1リットルのエッチング水溶液に対する各種添加酸化剤の最適濃度(モル濃度)をまとめた。
【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
なお、ここで注意を要するのは、酸化剤の最適濃度値は、シリコン結晶の基板面方位、伝導型、抵抗率、溶液の温度、照射光強度など種々の実験条件に依存することである。したがって、最適な濃度範囲は相当の広がりを持つことになり、概ね、処理溶液1リットルあたり1×10〜5×10モルの範囲にある。
【0060】
また、シリコン結晶の基板面方位、伝導型、抵抗率、溶液の温度、照射光強度・波長など、種々の実験条件の好適範囲は以下の通りである。まず、シリコン結晶の基板面方位は、(100)面や(111)面等、あらゆる面方位が可能である。シリコン結晶の伝導型は、光エッチングであるためn型基板を使用する。処理溶液の温度は、10〜30℃の範囲が好ましい。温度が高過ぎると処理溶液の蒸発損失が多くなり、温度が低過ぎると反応が遅くなり多孔質形成に時間がかかる。照射光強度・波長は、光源としてキセノンランプを用いた場合には、150〜250Wの強度が好ましく、0.6〜0.9μmの波長が好ましい。
【0061】
(多孔質シリコン膜の製造装置)
図4乃至図6は光アシストエッチング法により多孔質シリコン膜を製造する製造装置の構成の一例を示す概略図である。図4に示す装置は、処理溶液12を保持する容器10と、アシスト光16を生成する励起光学系20とを備えている。容器10は、上方に開口した有底容器である。励起光学系20は、光源22、波長フィルタ24、及びミラー26から構成されている。この装置では、光源22から射出された光は波長フィルタ24に入射する。波長フィルタ24を選択透過した所定波長の光はミラー26に照射され、シリコン結晶14の方向に反射される。反射された光は、処理溶液12に浸漬されたシリコン結晶14の表面14aにアシスト光16として照射される。
【0062】
光源22としては、タングステン灯、キセノン灯、水銀灯等の白色光源を用いることができる。また、波長フィルタ24の代わりに分光器を設け、分光器により射出光の波長を測定してもよい。白色光源を使用することで、2cm×2cmの大面積多孔質シリコン膜の作製も容易になる。また、白色光源を複数個使用することで、10インチ径など巨大サイズのシリコン基板全面に、均一な多孔質シリコン膜を形成することも、原理的には可能である。
【0063】
図5に示す装置は、処理溶液12を保持する容器28と、アシスト光16を生成する励起光学系20とを備えている。上方に開口した容器28は、容器底部に下方に開口した開口部28aを備えており、開口部28aを塞ぐようにシリコン結晶14を取り付けることで処理溶液12を保持できるように構成されている。即ち、この装置では、シリコン結晶14の片側の表面14aだけが処理溶液12に接触した状態で、シリコン結晶14にアシスト光16が照射される。なお、図4に示す装置と同じ構成部分には同じ符号を付して説明を省略する。
【0064】
図6に示す装置は、処理溶液12を保持する容器10と、アシスト光16を生成する発光ダイオード(LED)30とを備えている。上記の図4及び図5に示す例では、白色光源と波長フィルタとを含む励起光学系を用いてアシスト光16を生成しているが、この構成では光学系が大掛かりになり、光強度の調節も難しい。そこで、図6に示す装置では、特定の波長で発光する発光ダイオード30を用いてアシスト光を生成している。なお、発光ダイオードの代わりに、He−Neレーザなどの気体レーザや半導体レーザを用いることもできる。特定の波長で発光する光源を用いることで、波長フィルタ等が不要となり装置構成が簡単になる。また、光源素子に流す電流量を変えることで、光強度も簡単に制御できる。
【0065】
以上説明した通り、酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用して、光アシストエッチングを実施した場合には、短時間(約1〜15分)の光照射により、シリコン結晶の表面に、均一な膜厚の多孔質シリコン膜を100%の確率で形成することができる。
【0066】
なお、上記では、特定の酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用して光アシストエッチングを実施する場合について説明したが、シリコン結晶の電子親和力χsを−4.05eV、HF水溶液のpH値をγとして定義される電気化学ポテンシャルχ1が−4.8eV〜−5.0eVの範囲にある場合には、適当な量の正孔が蓄積されるので、同様にシリコン結晶の表面に均一な多孔質シリコン膜を形成することができ、可視発光が可能である。例えば、NHF(フッ化アンモニウム塩)等のフッ化物塩の水溶液に酸化剤を添加した水溶液などを、エッチングの処理溶液として用いることができる。この場合、γはNHF水溶液のpHである。
【0067】
<半導体発光素子>
(半導体発光素子の層構成)
次に、上記の多孔質シリコン膜を発光層として用いた半導体発光素子について説明する。
図7(A)は電界注入型の半導体発光素子(EL素子)の層構成の一例を示す断面図である。このEL素子は、表面に多孔質シリコン膜60が形成されたn型シリコン結晶(シリコン基板)62を備えている。多孔質シリコン膜60は、上述した通り、特定の酸化剤を含有する処理溶液中での光アシストエッチングにより形成されたものである。多孔質シリコン膜60上には、ITO電極等の透明電極が表面電極64として所定パターンで設けられている。シリコン結晶基板62の裏面には、金(Au)電極、アルミニウム(Al)電極等の金属電極が裏面電極66として設けられている。
【0068】
このEL素子では、表面電極64と裏面電極66とが交差する領域間において電極間に直流電圧が印加される。表面電極64を正に、裏面電極66を負にしてバイアス電圧を印加することにより順方向の電流が流れ、多孔質シリコン膜60が可視発光する。このEL素子は、従来のショットキー(Schottky)ダイオードタイプのデバイス(従来型デバイス)である。なお、図7(B)はそのエネルギーバンド図である。
【0069】
図8(A)はEL素子の層構成の他の一例を示す断面図である。この例では、多孔質シリコン膜60と表面電極64との間に、多孔質シリコン膜60の表面を化学酸化して形成された酸化ケイ素(SiO)薄膜68が挿入されている。酸化ケイ素薄膜68を設けることで、EL素子の発光効率が顕著に向上する。
【0070】
酸化ケイ素薄膜68は、多孔質シリコン膜60を形成後、n型シリコン結晶62を酸化液中に浸漬することで、多孔質シリコン膜60を化学酸化して形成することができる。酸化液としては、非HF系酸(HCl,HNO,HBr,HSO等)と過酸化水素水(H)との混合液、又はアンモニア水(NHOH)と過酸化水素水(H)との混合液を用いることができる。なお、図8(B)は多孔質シリコン膜60と表面電極64との界面でのエネルギーバンド図である。
【0071】
ここで、酸化ケイ素薄膜68を設けることで発光効率が向上する理由を説明する。従来型デバイスでは、図7(B)に示すように、順方向にバイアスしても、n型裏面電極66側から多数キャリアの電子が多孔質シリコン膜60を介して表面電極64に注入されるのみである。表面電極64側から、少数キャリアの正孔が多孔質シリコン膜60が形成された領域に注入されない限り発光は望めない。このため、従来型デバイスの発光効率を向上させることは難しい。
【0072】
これに対し、図8(B)に示すように、多孔質シリコン膜60と表面電極64との間に酸化ケイ素薄膜68を介在させることで、表面電極64からの正孔が酸化ケイ素薄膜68をトンネル現象で通過して多孔質シリコン膜60領域に注入される。したがって、裏面電極66側から注入された電子と、表面電極64側から注入された正孔とが、多孔質シリコン膜60領域で再結合することで、効率のよい可視発光が観測されるのである。
【0073】
高効率のEL発光を得るためには、厚さ数nmの酸化ケイ素薄膜68を形成することが好ましい。表面電極64からの正孔の注入効率、すなわち正孔の酸化ケイ素薄膜68中でのトンネル確率を高めることで、EL発光効率が向上する。図8(A)及び(B)から分かるように、トンネル確率は、トンネル層厚が薄いほど大きく、またトンネル層の障壁高さ(バンドギャップ)が高いほど大きい。特に、トンネル層厚が重要であり、酸化ケイ素薄膜68が10nm以上になるとトンネル確率が急激に低下する。一方、酸化ケイ素薄膜68が薄すぎるとトンネル現象そのものが起きない。したがって、厚さ数ナノメートル位が最適である。
【0074】
(半導体発光素子の製造方法)
図9(A)乃至(G)は、図8(A)に示すEL素子の製造工程を示す図である。まず、平板状のn型シリコン結晶62を用意する(図9(A))。次に、特定の酸化剤を含有する処理溶液中での光アシストエッチング法により、n型シリコン結晶62の片面に多孔質シリコン膜60を形成する(図9(B))。次に、多孔質シリコン膜60が形成されたn型シリコン結晶62を酸化液中に浸漬し、多孔質シリコン膜60の表面を化学酸化して厚さ数nmの酸化ケイ素薄膜68を形成する(図9(C))。
【0075】
次に、n型シリコン結晶62の裏面に、金(Au)等からなる裏面電極66を形成する(図9(D))。その後、酸化ケイ素薄膜68の表面にフォトレジスト70で電極形成のためのパターニングを行う(図9(E))。そして、酸化インジウム錫(ITO)膜72を真空蒸着する(図9(F))。最後に、リフトオフで表面電極64をパターニングし、表面電極64及び裏面電極66からリード線74を引き出して、半導体発光素子が完成する(図9(G))。以上の製造工程により、可視発光が可能な電界注入型の半導体発光素子を再現性よく作製することができる。
【0076】
上述した通り、高効率のEL発光を得るためには、酸化ケイ素薄膜(酸化膜)68の厚さは数nm(1nm〜10nm)が好ましく、1nm〜5nmの酸化膜厚がより好ましい。数ナノメートルの厚さの酸化膜を再現性よく堆積させることは、スパッタリングなど通常の技術では非常に難しく、コストも高い。しかしながら、化学作用による酸化膜の堆積方法は、簡便かつ低コストである。この方法では、多孔質シリコン膜60を形成後、n型シリコン結晶62を酸化液中に浸漬することで、多孔質シリコン膜60を化学酸化して酸化膜を形成することができる。浸漬時間が長くなっても、酸化膜厚がある値で飽和し、過度に厚くなることはない。飽和酸化膜厚も、化学薬品液の温度を変えることで、簡単に制御することができる。
【0077】
図10は硫酸(HSO)系の酸化液に浸漬して作製した酸化膜の膜厚(酸化膜厚)と浸漬時間との関係を示すグラフである。図10は、シリコン結晶を硫酸(HSO)系の化学薬品(酸化液)に浸漬させた時間に対する、酸化膜厚をプロットしたものである。酸化液の温度は80℃である。図10より明らかであるが、酸化膜厚は浸漬後約2分で飽和値を示す。塩酸(HCl)と過酸化水素(H)との混合液(液温80℃)や、アンモニア(NHOH)と過酸化水素(H)との混合液(液温80℃)でも、図10と同じ傾向を示した。
【0078】
酸化膜の膜厚の飽和値は酸化液の温度と関係し、温度が高ければ高いほど、酸化膜厚が厚くなる。数ナノメートルの厚さの酸化膜を形成するために、酸化液の温度は40〜120℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。なお、ここでの酸化膜厚は、分光エリプソメトリーにより測定した値である。一般に、十数オングストローム(0〜2nm)ほどの薄い酸化膜厚を、正確に測定することは難しい。分光エリプソメトリーは酸化膜だけでなく、試料表面上のミクロな凹凸にも敏感である。したがって、図10に示すグラフ縦軸の酸化膜厚値には若干の誤差がある。
【0079】
以上説明したとおり、特定の酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用して光アシストエッチングを実施し、シリコン結晶の表面に形成した多孔質シリコン膜を発光層として用いた半導体発光素子では、可視発光が可能である。また、多孔質シリコン膜と表面電極との間に厚さ数nmの薄い酸化膜を挿入することで、半導体発光素子の発光効率が顕著に向上する。化学酸化により多孔質シリコン膜上に薄い酸化膜を簡単に堆積可能であり、酸化膜厚の制御も酸化液の温度を変えるだけで簡単にできる。
【実施例】
【0080】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
【0081】
<多孔質シリコン膜の作製装置(1)>
図11に実施例1、2及び比較例1の多孔質シリコン膜の作製に用いた装置の構成を示す。この装置は、処理溶液を保持するテフロン(登録商標)製の有底容器40、最大出力300Wのキセノンランプ42、波長600nm以上の光を透過するシャープカットフィルタ44、及び可視光のみを反射し熱線を透過するコールドミラー46を備えている。この装置では、キセノンランプ42から射出された光はシャープカットフィルタ44に入射する。シャープカットフィルタ44を透過した波長600nm以上の光はコールドミラー46に照射され、可視光のみが処理溶液48に浸漬されたシリコン結晶50の方向に反射される。反射された光は、シリコン結晶50の表面50aにアシスト光52として照射される。
【0082】
(実施例1)
ヨウ素(I)を50%HF水溶液に飽和するまで溶解して飽和フッ化水素酸溶液を調整し、処理溶液として使用した。この飽和溶液では、処理溶液1リットル中に含まれるヨウ素濃度は約3×10モルとなる。ヨウ素の酸化還元電位Eoは0.54eV、ヨウ素を含有するHF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は4.90eVとなる。
【0083】
上述した作製装置(図11)の底面直径が約5.5cmの円筒状容器に、処理溶液を深さ約3cmになるまで容れた。基板面方位を(100)面とする2cm×2cm(厚さ0.4mm)の平板状のn型シリコン単結晶を、片面が容器の底部に接するように処理溶液中に浸漬した。処理溶液の温度は20℃とした。
【0084】
処理溶液中に浸漬したシリコン結晶の表面全面に、キセノンランプから200W出力の光を5分間照射して、光アシストエッチングを行った。シリコン結晶の表面が深い青色に変色し、多孔質シリコン膜の形成が肉眼で確認された。この多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶を、実施例1の試料とした。段差膜厚計(Taylor-Hobson社製)により測定された多孔質シリコン膜の膜厚は約400nmであった。複数箇所について同様の方法で膜厚を測定することにより、多孔質シリコン膜の膜厚がほぼ均一であることが確認された。
【0085】
(比較例1)
過酸化水素(H)を含有するHF水溶液を処理溶液として用いた以外は、実施例1と同じ条件で光アシストエッチングを行った。過酸化水素を含有するHF水溶液は、発明者が見出した多孔質シリコン膜の最適形成条件の、23%HF水溶液:H=40:5の混合液である。過酸化水素の酸化還元電位Eoを−0.16eVとすると、過酸化水素を含有するHF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は−4.2eVとなる。
【0086】
光アシストエッチングによりシリコン結晶の表面が茶色に変色し、多孔質シリコン膜の形成が肉眼で確認された。この多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶を、比較例1の試料とした。段差膜厚計(Taylor-Hobson社製)により多孔質シリコン膜の膜厚を測定した結果、形成された多孔質シリコン膜は約100nm(0.1μm)以下の非常に薄い膜であることが分かった。
【0087】
なお、過酸化水素を含有するHF水溶液では、光照射を長時間(30分〜2時間)行っても多孔質層の厚さが増すことはなく、逆に薄くなったり、あるいは、光照射されていない背面に不規則にできたりすることもあった。
【0088】
<PL強度の測定>
実施例1及び比較例1で得られた試料を用いて、多孔質シリコン膜のPL強度を測定した。
【0089】
PL強度の測定は、波長325nmのHe−Cdレーザ(45mW出力、金門電気(株)製)を励起光源として用い、波長325nmのレーザ光を多孔質シリコン膜に照射して、発光を励起した。回折格子分光器(日本分光(株)製)によりフォトルミネッセンスの発光スペクトルを得て、ペルチェ素子冷却型光電子増倍管(浜松フォトニクス(株)製)を用いてPL強度を測定した。測定は室温(20℃)で行った。
【0090】
図12は多孔質シリコン膜のPL強度を示すグラフである。縦軸は任意目盛でのPL強度を表し、横軸は光エネルギーを表す。実線(a)はヨウ素を含有する50%HF水溶液中で形成した多孔質シリコン膜(実施例1)のPL強度を示し、点線(b)は過酸化水素を含有するHF水溶液中で形成した多孔質シリコン膜(比較例1)のPL強度を示す。両者を比較すれば分かるように、実施例1に係る多孔質シリコン膜のPL強度は、比較例1に係る多孔質シリコン膜のPL強度に比べて約30倍強い。また、実施例1に係る多孔質シリコン膜の発光スペクトルは、一般の陽極化成法で形成された多孔質シリコン膜の発光スペクトルとほぼ同じである。
【0091】
<多孔質シリコン膜表面の観察>
実施例1及び比較例1で得られた試料を用い、多孔質シリコン膜表面の金属顕微鏡写真を下記に示す条件で撮影した。
【0092】
ニコン(株)製の金属顕微鏡「OPTIPHOT」を用い、撮像部にはオリンパス(株)製のディジタルカメラ「CAMEDIA SP-350」を用いて、100倍の倍率で金属顕微鏡写真を撮影した。
【0093】
図13(A)はヨウ素を含有する50%HF水溶液中で作製した多孔質シリコン膜(実施例1)の金属顕微鏡写真であり、図13(B)は過酸化水素を含有するHF水溶液中で作製した多孔質シリコン膜(比較例1)の金属顕微鏡写真である。肉眼でも、実施例1の試料の表面は深い青色であり、比較例1に係る試料の表面はごく薄い茶色であることが確認された。比較例1に係る試料では、多孔質シリコン膜が金属光沢のままでシリコン結晶表面上に堆積しているように見える。これらの相違は、実施例1の試料に形成された多孔質シリコン膜が、比較例1の試料に形成された多孔質シリコン膜より厚いことを示す。なお、図12に示す結果からも分かるように、比較例1で形成された多孔質シリコン膜は薄く、PL強度が弱かった。
【0094】
(実施例2)
ヨウ素酸カリウム(KIO)を含有するHF水溶液を処理溶液として用いた以外は、実施例1と同じ条件で光アシストエッチングを行った。ヨウ素酸カリウムを含有するHF水溶液は、50%HF水溶液:KIO水溶液(3×10−4N)=1:1の混合液である。この飽和溶液では、HF水溶液100ミリリットル中に含まれるヨウ素酸カリウム濃度は約6×104グラムとなる。ヨウ素酸カリウムの酸化還元電位Eoは1.085eV、ヨウ素酸カリウムを含有するHF水溶液の電気化学ポテンシャルχ1は−5.45eVとなる。
【0095】
光アシストエッチングによりシリコン結晶の表面が深い青色に変色し、多孔質シリコン膜の形成が肉眼で確認された。この多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶を、実施例2の試料とした。段差膜厚計(Taylor-Hobson社製)により測定された多孔質シリコン膜の膜厚は約400nmであった。複数箇所について同様の方法で膜厚を測定することにより、多孔質シリコン膜の膜厚がほぼ均一であることが確認された。
【0096】
実施例2に係る多孔質シリコン膜のPL強度及び発光スペクトルは、図12に示した実施例1に係る多孔質シリコン膜のPL強度及び発光スペクトルと略同じであった。また、実施例2に係る試料の表面に形成された多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真を図14に示す。
【0097】
これらの結果から分かるように、酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用して、光アシストエッチングを実施した場合(実施例1、2)には、短時間(約5分)の光照射により、シリコン結晶の表面に均一な厚さの多孔質シリコン膜が100%の確率で形成された。また、形成された多孔質シリコン膜のPL強度は高く、陽極化成法で作製された多孔質シリコン膜とほぼ同じ発光スペクトルを示した。
【0098】
一方、酸化還元電位が+0.4eVより低い過酸化水素を含有するフッ化水素酸(HF)水溶液を使用して、光アシストエッチングを実施した場合(比較例1)には、光照射を長時間行っても多孔質層の厚さが増すことはなく、表面に多孔質シリコン膜が形成されない場合もあった。また、形成された多孔質シリコン膜のPL強度は極めて低かった。
【0099】
<多孔質シリコン膜の作製装置(2)>
図15に実施例3の多孔質シリコン膜の作製に用いた装置の構成を示す。この装置は、処理溶液を保持するテフロン(登録商標)製の有底容器40、及びスポット直径が約1mmのHe−Neレーザ(最大出力2W)54を備えている。この装置では、He−Neレーザ54から射出されたレーザ光が、処理溶液48に浸漬されたシリコン結晶50の表面50aにアシスト光52として照射される。これにより、シリコン結晶50の表面50aに約1mm直径の多孔質シリコン膜が作製される。
【0100】
(実施例3)
ヨウ素酸カリウム(KIO)を50%HF水溶液(pH=2.3)に2種類の濃度で溶解して飽和フッ化水素酸溶液を調整し、第1処理溶液、第2処理溶液として使用した。第1処理溶液は、100ミリリットルの50%HF水溶液に0.6gのKIOを溶解させた溶液である。第2処理溶液は、50%HF水溶液:KIO水溶液(3×10−4N)=1:1の混合液であり、100ミリリットルの溶液中に6×10−4gのKIOを含有している。
【0101】
上述した作製装置(図15)の底面直径が約5.5cmの円筒状容器に、処理溶液を深さ約3cmになるまで容れた。基板面方位を(100)面とする2cm×2cm(厚さ0.4mm)の平板状のn型シリコン単結晶を、片面が容器の底部に接するように処理溶液中に浸漬した。処理溶液の温度は20℃とした。
【0102】
光アシストエッチングによりシリコン結晶の表面が変色し、多孔質シリコン膜の形成が肉眼で確認された。KIOをより多く含有する第1処理溶液を用いて形成されたシリコン結晶を、実施例3の試料(1)とした。この試料の多孔質部の厚さを段差膜厚計(Taylor-Hobson社製)で測定することを試みたが、表面が非常に荒れていて正確には測定できなかった。また、KIO含有量の少ない第2処理溶液を用いて形成されたシリコン結晶を、実施例3の試料(2)とした。段差膜厚計により測定された多孔質シリコン膜の膜厚は約100nmであった。
【0103】
なお、KIOの添加量をさらに増加させた処理溶液では、処理溶液中に浸漬したシリコン結晶の表面全体が強くステインエッチングされ、光照射された部分と他の部分との区別がつかなくなった。このシリコン結晶を、実施例3の試料(3)とした。
【0104】
<多孔質シリコン膜表面の観察>
実施例3で得られた試料(1)及び(2)を用い、多孔質シリコン膜表面の金属顕微鏡写真を下記に示す条件で撮影した。
【0105】
ニコン(株)製の金属顕微鏡「OPTIPHOT」を用い、撮像部にはオリンパス(株)製のディジタルカメラ「CAMEDIA SP-350」を用いて、50倍の倍率で金属顕微鏡写真を撮影した。
【0106】
図16(A)はKIOを多く含有する第1処理溶液中で作製した多孔質シリコン膜(実施例3の試料(1))の金属顕微鏡写真であり、図16(B)はKIO含有量の少ない第2処理溶液中で作製した多孔質シリコン膜(実施例3の試料(2))の金属顕微鏡写真である。
【0107】
試料(1)では、光アシストエッチングによりシリコン結晶の光照射された部分に多孔質シリコン膜が形成されるだけでなく、光照射されなかった部分もステインエッチングされて白濁していることが確認された。一方、試料(2)では、光アシストエッチングによりシリコン結晶の光照射された部分にだけ綺麗な多孔質膜が形成され、光照射されなかった部分はほとんど変化がなかった。
【0108】
<PL発光の観測>
実施例3で得られた試料(1)乃至(3)を用いて多孔質シリコン膜のPL発光を確認した。
【0109】
波長325nmのHe−Cdレーザ(45mW出力、金門電気(株)製)を励起光源として用い、波長325nmのレーザ光を多孔質シリコン膜に照射して、PL発光を励起した。回折格子分光器(日本分光(株)製)によりフォトルミネッセンスの発光スペクトルを得て、ペルチェ素子冷却型光電子増倍管(浜松フォトニクス(株)製)を用いてPL強度を測定した。測定は室温(20℃)で行った。
【0110】
試料(1)及び(2)では、光照射された丸い多孔質部分ではPL発光が観測されたが、光照射されていない部分では発光が全く観測されなかった。KIOを過剰に含有する処理溶液中で作製された試料(3)では、PL発光は全く観測されなかった。
【0111】
実施例3の結果から分かるように、酸化剤の濃度が多孔質シリコン膜形成の成否に大きな影響を与える。ヨウ素酸カリウム(KIO)は水に溶解しやすく、またHF水溶液にも溶解しやすいため、これら試薬を飽和濃度近くまでHF水溶液に溶解すると濃度が高くなりすぎるため、シリコン結晶を激しくエッチングする。したがって、HF水溶液に対するヨウ素酸カリウムの最適添加濃度は、きわめて薄い濃度領域にある。
【0112】
(実施例4)
実施例1と同様にして、ヨウ素(I)の飽和フッ化水素酸溶液を処理溶液として使用し、シリコン結晶の表面に多孔質シリコン膜を形成した。n型シリコン結晶の表面には、膜厚約400nmの略均一な多孔質シリコン膜が形成された。次に、多孔質シリコン膜が形成されたn型シリコン結晶を、温度約65℃の酸化液中に1分間浸漬し、多孔質シリコン膜の表面を化学酸化して酸化ケイ素薄膜を形成した。HSO:H:HO=3:1:1水溶液を調整し、酸化液として使用した。多孔質膜上の酸化膜厚は、分光エリプソメータでの測定は不可能であるが、1〜2nmの間と推定される。
【0113】
n型シリコン結晶の裏面に、インジウム(In)電極をアロイで形成した。酸化ケイ素薄膜の表面にフォトレジストで電極形成のためのパターニングを行い。厚さ8nmの金(Au)膜を真空蒸着して、リフトオフで表面電極をパターニングした。表面電極及び裏面電極からリード線を引き出し、EL素子を作製した。
【0114】
得られたEL素子を用いて、75Hzのパルス電圧を印加し、多孔質シリコン膜のEL発光を確認した。注入電流密度は120mA/cmとした。EL強度の測定は、回折格子分光器(日本分光(株)製)により発光スペクトルを得て、ペルチェ素子冷却型光電子増倍管(浜松フォトニクス(株)製)を用いてEL強度を測定した。測定は室温(20℃)で行った。図17(A)に示すように、このEL素子の発光スペクトルは約2eVに発光ピークを有している。なお、縦軸は任意目盛でのEL発光強度を表し、横軸は光エネルギー(eV)を表す。
【0115】
比較のために、図17(B)に、酸化膜を設けない従来型デバイスでの多孔質シリコン膜のPL発光の様子を示す。この図は、N. YamamotoとH. Takai Thin Solid Films Vol. 388, pp.138-142, 2001年から転載したものである。従来型デバイスの多孔質シリコン膜は、エッチング水溶液としてHF水溶液と過酸化水素水(H)との混合液を使用して形成されたものである。EL光の励起には、波長633nm(18.4mW/cm出力)のHe−Neレーザが使用されている。
【0116】
これらの結果から分かるように、従来型デバイスと、多孔質シリコン膜と表面電極との間に酸化膜を挿入した実施例4に係るEL素子とを比べると、両者のノイズレベルは明確に異なり、実施例4に係るEL素子の方がノイズレベルが小さい。注入電流密度も、従来型デバイスは2300mA/cmであるのに対して、実施例4に係るデバイスの方は、120mA/cmと低電流密度でスペクトル測定が可能であった。発光効率は電流密度と密接に関係しており、実施例4に係るデバイスの方が、従来型デバイスよりも発光効率が明らかに高い。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】光アシストエッチング法を説明するための図である。
【図2】(A)乃至(C)はシリコン結晶とHF水溶液とのポテンシャル・バンド図である。
【図3】(A)乃至(C)はシリコン結晶とHF水溶液とのポテンシャル・バンド図である。
【図4】多孔質シリコン膜を製造する製造装置の構成の一例を示す概略図である。
【図5】多孔質シリコン膜を製造する製造装置の構成の他の一例を示す概略図である。
【図6】多孔質シリコン膜を製造する製造装置の構成の他の一例を示す概略図である。
【図7】(A)は半導体発光素子の層構成の一例を示す断面図であり、(B)はそのエネルギーバンド図である。
【図8】(A)は半導体発光素子の層構成の一例を示す断面図であり、(B)はそのエネルギーバンド図である。
【図9】(A)乃至(G)は半導体発光素子の製造工程を示す図である。
【図10】酸化膜の膜厚(酸化膜厚)と浸漬時間との関係を示すグラフである。
【図11】実施例の多孔質シリコン膜の作製に用いた装置の構成を示す図である。
【図12】多孔質シリコン膜のPL強度を示すグラフである。
【図13】(A)はヨウ素を含有するHF水溶液中で作製した多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真であり、(B)は過酸化水素を含有するHF水溶液中で作製した多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真である。
【図14】ヨウ素酸カリウムを含有するHF水溶液中で作製した多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真である。
【図15】実施例の多孔質シリコン膜の作製に用いた装置の構成を示す図である。
【図16】(A)はヨウ素酸カリウムを多く含有する処理溶液中で作製した多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真であり、図16(B)はヨウ素酸カリウム含有量の少ない処理溶液中で作製した多孔質シリコン膜の金属顕微鏡写真である。
【図17】(A)及び(B)はEL素子の発光スペクトルを示す線図である。
【符号の説明】
【0118】
10 容器
12 処理溶液
14 シリコン結晶
14a 表面
16 アシスト光
18 多孔質シリコン膜
20 励起光学系
22 光源
24 波長フィルタ
26 ミラー
28 容器
28a 開口部
30 発光ダイオード
40 有底容器
42 キセノンランプ
44 シャープカットフィルタ
46 コールドミラー
48 処理溶液
50 シリコン結晶
50a 表面
52 アシスト光
54 He−Neレーザ
60 多孔質シリコン膜
62 シリコン結晶
64 表面電極
66 裏面電極
68 酸化ケイ素薄膜
70 フォトレジスト
72 ITO膜
74 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸水溶液を処理溶液として用い、シリコン結晶を前記処理溶液に浸漬し、前記シリコン結晶の表面に光を照射して、エッチングによりシリコン結晶の表面に多孔質シリコン膜を形成することを特徴とする多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項2】
前記酸化剤の酸化還元電位が+0.5eV〜+1.0eVであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項3】
前記酸化剤の酸化還元電位が+0.5eV近傍であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項4】
前記酸化剤が、塩化銅(CuCl,CuCl)、ヨウ素(I)、臭素酸銀(AgBrO)、硝酸銀(AgNO)、ヨウ素酸カリウム(KIO)、臭素(Br)、二クロム酸カリウム(KCr)、及び臭素酸カリウム(KBrO)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、塩化銅(CuCl,CuCl)、ヨウ素(I)、臭素酸銀(AgBrO)、及び硝酸銀(AgNO)からなる群から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項6】
前記処理溶液は、前記処理溶液1リットルあたり1×10-5〜5×10-2モルの酸化剤を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項7】
前記処理溶液は、前記処理溶液1リットルあたり少なくとも3×10モルのヨウ素(I)を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項8】
前記処理溶液は、前記処理溶液1リットルあたり少なくとも1.4×10モルのヨウ素酸カリウム(KIO)を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項9】
前記処理溶液は、前記処理溶液1リットルあたり少なくとも1×10モルの二クロム酸カリウム(KCr)を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項10】
下記式(1)で与えられる電気化学ポテンシャルχ1が−4.8eV〜−5.0eVの範囲にあるフッ化水素酸水溶液又はフッ化物塩水溶液を処理溶液として用い、シリコン結晶を前記処理溶液に浸漬し、前記シリコン結晶の表面に光を照射して、エッチングによりシリコン結晶の表面に多孔質シリコン膜を形成することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
χ1(γ)=−4.5+0.059γ(eV) 式(1)
式(1)中、γはフッ化水素酸水溶液又はフッ化物塩水溶液のpH値である。
【請求項11】
シリコン結晶の表面に吸着した水素ガスを除去しながら前記多孔質シリコン膜を形成することを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の多孔質シリコン膜の製造方法。
【請求項12】
酸化還元電位が+0.4eV〜+1.5eVの範囲にある酸化剤を含有するフッ化水素酸水溶液を処理溶液として用い、シリコン結晶を前記処理溶液に浸漬し、前記シリコン結晶の表面に光を照射して、エッチングによりシリコン結晶の表面に形成されたことを特徴とする多孔質シリコン膜。
【請求項13】
請求項1記載の方法により表面に多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶と、
前記多孔質シリコン膜上に形成された表面電極と、
前記シリコン結晶の裏面に形成され、前記表面電極と共に前記多孔質シリコン膜に電流を印加する裏面電極と、
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項14】
請求項1記載の方法により表面に多孔質シリコン膜が形成されたシリコン結晶と、
前記多孔質シリコン膜上に形成された酸化ケイ素薄膜と、
前記酸化ケイ素薄膜上に形成された表面電極と、
前記シリコン結晶の裏面に形成され、前記表面電極と共に前記多孔質シリコン膜に電流を印加する裏面電極と、
を備えたことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項15】
前記酸化ケイ素薄膜は、多孔質シリコン膜の表面を化学酸化して形成されたことを特徴とする請求項14に記載の半導体発光素子。
【請求項16】
前記酸化ケイ素薄膜の膜厚が、1nm〜10nmであることを特徴とする請求項14又は15に記載の半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図17】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−305748(P2007−305748A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−131763(P2006−131763)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】