説明

多孔質複合材料及びその製造方法、複合材料及びその製造方法

【課題】カーボンナノファイバーが分散された多孔質複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる多孔質複合材料は、エラストマーと、第1の粒子41と、第2の粒子42と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、炭素繊維複合材料を熱処理し、エラストマーを分解気化させて中間複合材料を得る工程(b)と、中間複合材料を加圧して、多孔質複合材料を得る工程(c)と、を含む。第2の粒子42は、第1の粒子41よりも高い硬度を有し、かつ、炭素繊維複合材料中の重量割合が第1の粒子41よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質複合材料及びその製造方法、複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノファイバーを用いた複合材料が注目されている。このような複合材料は、カーボンナノファイバーを含むことで、機械的強度などの向上が期待されている。
【0003】
また、金属の複合材料の鋳造方法として、酸化物系セラミックスからなる多孔質成形体内にマグネシウム蒸気を浸透、分散させ、同時に窒素ガスを導入することで、多孔質成形体内に金属溶湯を浸透させるようにした鋳造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、カーボンナノファイバーは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることが非常に困難とされている。そのため、現状では、所望の特性を有するカーボンナノファイバーの複合材料を得ることが難しく、また、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用することができない。そこで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用するため、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合させた炭素繊維複合材料を用いた炭素繊維複合金属材料の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−183269号公報
【特許文献2】特開2005−97534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが分散された多孔質複合材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、カーボンナノファイバーが均一に分散された複合材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法は、
エラストマーに、第1の粒子と、第2の粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、
前記炭素繊維複合材料を熱処理し、該炭素繊維複合材料中に含まれるエラストマーを分解気化させて中間複合材料を得る工程(b)と、
前記中間複合材料を加圧して、多孔質複合材料を得る工程(c)と、
を含み、
前記第2の粒子は、前記第1の粒子よりも高い硬度を有し、かつ、前記炭素繊維複合材料中の重量割合が前記第1の粒子よりも小さい。
【0007】
本発明にかかる多孔質複合材料は、前記製造方法によって得られる。
【0008】
本発明の製造方法の工程(a)によれば、剪断力によってカーボンナノファイバーをエラストマーに分散させ、工程(b)及び(c)によってカーボンナノファイバーが均一に分散された多孔質複合材料を得ることができる。工程(b)によって得られた中間複合材料は、エラストマーが分解気化されてできた空孔のサイズにバラツキがあるが、工程(c)によって例えば100μm以上のボイド(空孔)を押しつぶし、空孔のサイズが一様で全体に均質な多孔質複合材料を得ることができる。しかも、第2の粒子は、第1の粒子よりも高い硬度を有しているため、工程(c)の加圧によって粒子間の隙間をつぶすことなく適度な多孔質の構造を維持することができる。また、第2の粒子は、炭素繊維複合材料中の重量割合が第1の粒子よりも小さいので、多孔質複合材料の材料特性に与える影響が少ない。さらに、このカーボンナノファイバーが均一に分散し、かつ、空孔サイズが均一な多孔質複合材料を一般的な金属加工、例えば非加圧浸透法などの加工に容易に利用することができる。
【0009】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記第2の粒子の硬度は、前記第1の粒子の硬度の2倍〜150倍とすることができる。
【0010】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記第1の粒子に対する前記第2の粒子の重量割合は、0.1重量%〜10重量%とすることができる。
【0011】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記第1の粒子と第2の粒子とを合わせた配合量は、前記エラストマー100重量部に対して、300重量部〜600重量部とすることができる。
【0012】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記第1の粒子は、前記カーボンナノファイバーの平均直径よりも大きな平均粒径を有し、
前記第2の粒子は、前記第1の粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を有することができる。
【0013】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記第1の粒子は、アルミニウムであり、
前記第2の粒子は、アルミナとすることができる。
【0014】
本発明にかかる多孔質複合材料の製造方法において、
前記エラストマーは、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有することができる。
【0015】
本発明にかかる複合材料の製造方法は、
前記多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯を浸透させる。
【0016】
本発明にかかる複合材料は、前記製造方法によって得られる。
【0017】
このような複合材料の製造方法によれば、前述したようにカーボンナノファイバーが分散された多孔質複合材料を用いることによって、カーボンナノファイバーが均一に分散された複合材料を得ることができる。また、このような製造方法によれば、多孔質複合材料は、工程(c)の加圧によって空孔のサイズにバラツキがないので、特に多孔質複合材料に浸透したマトリクス材料のみで形成された100μm以上の大きな筋状欠陥がない。しかも、第2の粒子を含むことで、多孔質複合材料の空孔は工程(c)によってつぶれることなく多孔質の構造を維持することができるので、溶湯を多孔質複合材料中に容易に浸透させることができる。
【0018】
また、このようにして得られた複合材料は、第1の粒子の粒子間にマトリクス材料が均質に満たされ、かつ、カーボンナノファイバーが良好に分散している。したがって、複合材料は、全体に均質な機械的性質を有する。
【0019】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよいが、工程(b)でエラストマーを容易に分解気化させるためには未架橋体が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態にかかる多孔質複合材料の製造方法は、エラストマーに、第1の粒子と、第2の粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、前記炭素繊維複合材料を熱処理し、該炭素繊維複合材料中に含まれるエラストマーを分解気化させて中間複合材料を得る工程(b)と、前記中間複合材料を加圧して、多孔質複合材料を得る工程(c)と、を含み、前記第2の粒子は、前記第1の粒子よりも高い硬度を有し、かつ、前記炭素繊維複合材料中の重量割合が前記第1の粒子よりも小さい。
【0022】
本実施の形態にかかる多孔質複合材料は、前記製造方法によって得られる。
【0023】
本実施の形態にかかる複合材料の製造方法は、前記多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯を浸透させる。
【0024】
本実施の形態にかかる複合材料は、前記製造方法によって得られる。
【0025】
本実施の形態に用いられるエラストマーは、例えば、カーボンナノファイバーと親和性が高いことの他に、分子長がある程度の長さを有すること、柔軟性を有すること、などの特徴を有することが望ましい。また、エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、できるだけ高い剪断力で混練されることが望ましい。
【0026】
(A)まず、エラストマーについて説明する。
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0027】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバー相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、カーボンナノファイバーを分散させることが困難となる。
【0028】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0029】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0030】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0031】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバー、特にその末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0032】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。
【0033】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。本発明者の研究によって、特にエチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)においてカーボンナノファイバーを分散させにくいことが判っている。
【0034】
(B)次に、第1の粒子及び第2の粒子について説明する。
第1の粒子は、複合材料を製造する際の原料となるものであると共に、エラストマー中に混合し、分散させておいて、カーボンナノファイバーを混合させるときにカーボンナノファイバーをさらに良好に分散させるものである。第1の粒子は、多孔質複合材料及び複合材料における主な構成物質であり、用途に合わせて適宜選択できる。第1の粒子としては、アルミニウム(硬度:HV27)、マグネシウム(硬度:HV35)、チタン(硬度:HV150)、鉄(硬度:HV300)、金(硬度:HV80)、銀(硬度:HV80)、銅(硬度:HV100)、ニッケル(硬度:HV100)、セレン(硬度:HV30)、スズ(硬度:HV10)、亜鉛(硬度:HV70)(これらの合金を含む)などの金属粒子を単体でもしくは組み合わせて用いることができる。
【0035】
第2の粒子は、第1の粒子よりも高い硬度を有し、かつ、炭素繊維複合材料中の重量割合が第1の粒子よりも小さい。第2の粒子の硬度が第1の粒子の硬度よりも高いことで、工程(c)を経ても、多孔質複合材料の適度な空孔を維持しつつ、多孔質複合材料全体の空孔サイズを一様にできるため、多孔質複合材料を均質化させることができる。第2の粒子の硬度は、第1の粒子の硬度の2倍〜150倍であることが好ましく、さらに好ましくは25倍〜90倍である。第2の粒子の硬度が第1の粒子の硬度の2倍未満では、工程(c)における加圧によって第1の粒子と共に第2の粒子も圧縮変形し、第1の粒子の粒子間に空孔を維持することができない。また、第2の粒子の硬度が第1の粒子の硬度の150倍を超えるような粒子の種類の選択は一般的に高価であるため工業的に困難である。ここで硬度は、各粒子を構成する金属のビッカース硬度(HV)を示す。
【0036】
第2の粒子としては、第1の粒子が純金属であれば硬度の高い同じ金属の合金であってもよいし、さらに硬度の高いセラミックス、例えばアルミナ(Al2O3)(硬度:HV1800)、ジルコニア(ZrO2)(硬度:HV1300)、マグネシア(MgO)(硬度:HV1000)、ムライト(3Al2O3・2SiO2)(硬度:HV900)、ジルコン(ZrSiO4)(硬度:HV1500)などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素(Si2N2)(硬度:HV1400)、窒化アルミニウム(AlN)(硬度:HV1000)、窒化チタン(TiN)(硬度:HV2200)、窒化ジルコニウム(ZrN)(硬度:HV2000)、窒化タンタル(TaN)(硬度:HV2000)などの窒化物系セラミックス、炭化ケイ素(SiC)(硬度:HV2200)、炭化チタン(TiC)(硬度:HV3200)、炭化ホウ素(B4C)(硬度:HV3300)、炭化タングステン(WC)(硬度:HV2400)などの炭化物系セラミックス、複合酸化物及びこれらの混合物をセラミックスを用途に合わせて適宜選択することができる。特に、アルミナ粒子または炭化ケイ素粒子を用いることが好ましく、第1の粒子がアルミニウムであれば、第2の粒子としてはアルミナが好ましく、第1の粒子がケイ素であれば炭化ケイ素が好ましい。
【0037】
第2の粒子は、工程(c)を経ても緻密な空孔を維持することができればよく、したがって、第2の粒子の配合量は、多孔質複合材料または複合材料の不純物程度が好ましく、多孔質複合材料または複合材料の物性にあまり影響を与えない程度が好ましい。工程(a)において配合される第1の粒子に対する第2の粒子の重量割合は、例えば、0.1重量%〜10重量%であることが好ましい。第1の粒子に対する第2の粒子の重量割合が0.1重量%より少ないと、工程(c)の加圧によって空孔がつぶれてしまい、マトリクス材料が容易に浸透することができない。また、第1の粒子に対する第2の粒子の重量割合が10重量%より多いと、多孔質複合材料及び複合材料の物性に与える影響が大きくなり好ましくない。
【0038】
第1の粒子は、カーボンナノファイバーの平均直径よりも大きな平均粒径を有し、第2の粒子は、第1の粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を有することが好ましい。第1の粒子の平均粒径がカーボンナノファイバーの平均粒径よりも大きいことで、工程(a)において、カーボンナノファイバーの分散性を良好にすることができる。第2の粒子の平均粒径が第1の粒子の平均粒径よりも大きくすることで、工程(c)の加圧による応力を緩和させ、多孔質複合材料の全体を均質化させることができる。例えば、第1の粒子の平均粒径は好ましくは10μm〜100μmであり、第2の粒子の平均粒径は好ましくは0.1μm〜100μmである。また、第1の粒子及び第2の粒子の形状は、球形粒状に限らず、多孔質複合材料の際に第1の粒子の粒子間に空孔サイズが一様になればよい。
【0039】
(C)次に、カーボンナノファイバーについて説明する。
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましいく、複合材料の強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0040】
カーボンナノファイバーの配合量は、特に限定されず、用途に応じて設定できる。本実施の形態の炭素繊維複合材料は、架橋体エラストマー、未架橋体エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーをそのままエラストマー系材料として用いることができる。本実施の形態の炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーを0.01〜50重量%の割合で含むことができる。かかる炭素繊維複合材料のエラストマーを分解気化させた多孔質複合材料は、マトリクス材料を浸透させる際に、カーボンナノファイバーの供給源としてのいわゆるマスターバッチとして用いることができる。
【0041】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0042】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0043】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0044】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0045】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0046】
カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0047】
(D)次に、エラストマーに、第1の粒子と、第2の粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)について説明する。
本実施の形態では、工程(a)として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
【0048】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に第1の粒子41及び第2の粒子42を加えて、さらに第1,第2のロール10,20を回転させることにより、エラストマー30と、第1の粒子41と、第2の粒子42と、を混合する工程が行われる。ついで、このエラストマー30と第1の粒子41及び第2の粒子42とが混合されたバンク32内にカーボンナノファイバー40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させる。さらに、第1,第2のロール10,20の間隔を狭めて前述した間隔dとし、この状態で第1,第2ロール10,20を所定の表面速度比で回転させる。これにより、エラストマー30に高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していたカーボンナノファイバーが1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。さらに、第1の粒子41及び第2の粒子42が粒子状であるため、ロールによる剪断力はエラストマー内に分散された第1の粒子41及び第2の粒子42のまわりに乱流状の流動を発生させる。この複雑な流動によってカーボンナノファイバーはさらにエラストマー30に分散される。なお、第1の粒子41及び第2の粒子42の混合前に、エラストマー30とカーボンナノファイバー40とを先に混合すると、カーボンナノファイバー40にエラストマー30の動きが拘束されてしまうため、第1の粒子及び第2の粒子を混合することが難しくなる。したがって、エラストマー30にカーボンナノファイバー40を加える前に第1の粒子41及び第2の粒子42を混合する工程を行うことが好ましい。
【0049】
また、この工程(a)において、多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯を浸透させる工程で還元剤として作用する金属粒子として例えばマグネシウム粒子を少量例えばエラストマー100重量部に対して10重量部程度加えて混合することが好ましい。
【0050】
第1の粒子41と第2の粒子42とを合わせた配合量は、エラストマー100重量部に対して、300重量部〜600重量部であることが好ましい。第1の粒子41と第2の粒子42とを合わせた配合量が300重量部より少ないと、分解気化させるエラストマーが多すぎて生産性が悪く好ましくない。第1の粒子41と第2の粒子42とを合わせた配合量が600重量部より多いと、工程(a)における加工が困難となり好ましくない。
【0051】
また、この工程(a)では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃することで、カーボンナノファイバーの表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルがカーボンナノファイバーの表面を攻撃するので、カーボンナノファイバーの表面が活性化する。活性化されたカーボンナノファイバーは、雰囲気中の酸素などと結合し、マトリクス材料例えばアルミニウムとの濡れ性も良好となる。
【0052】
さらに、この工程(a)では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。オープンロール法を用いた場合には、ロールの温度を上記の温度に設定することが望ましい。第1,第2ロール10,20の間隔dは、もっとも狭めた状態においても第1の粒子41及び第2の粒子42の平均粒径よりも広く設定することで、エラストマー30中のカーボンナノファイバー40の分散を良好に行うことができる。
【0053】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用などの特徴を有することによってカーボンナノファイバーの分散を容易にするので、分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0054】
また、エラストマー中に所定量の第1の粒子が含まれていることで、第1の粒子のまわりに発生するエラストマーの乱流のような幾通りもの複雑な流動によって、個々のカーボンナノファイバー同士を引き離す方向にも剪断力が働くことになる。したがって、直径が約30nm以下のカーボンナノファイバーや湾曲繊維状のカーボンナノファイバーであっても、個々に化学的相互作用によって結合したエラストマー分子のそれぞれの流動方向へ移動するため、エラストマー中に均一に分散されることになる。
【0055】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。
【0056】
上述したエラストマーに第1の粒子、第2の粒子及びカーボンナノファイバーを分散させて両者を混合させる工程(a)によって得られた炭素繊維複合材料は、架橋剤によって架橋させて成形するか、もしくは架橋させずに成形することができる。このときの成形方法は、例えば圧縮成形工程や押出成形工程などを採用することができる。圧縮成形工程は、カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料を、所定温度(例えば175℃)に設定された所望形状を有する成形金型内で所定時間(例えば20分)加圧状態で成形する工程を有する。
【0057】
エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0058】
(E)次に、上記方法によって得られた炭素繊維複合材料について述べる。
本実施の形態の炭素繊維複合材料は、基材であるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されている。このことは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなる。特に、金属粒子を含むエラストマーにカーボンナノファイバーを混合した場合には、カーボンナノファイバーを含むエラストマーの場合より、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)が短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0059】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。特に、第1の粒子及び第2の粒子を含むエラストマーにカーボンナノファイバーを混合した場合には、カーボンナノファイバーを含むエラストマーの場合より、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は小さくなる。
【0060】
以上のことから、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0061】
すなわち、未架橋体において、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0062】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0063】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、動的粘弾性の温度依存性測定における流動温度が、原料エラストマー単体の流動温度より20℃以上高温であることが好ましい。本実施の形態の炭素繊維複合材料は、エラストマーに第1、第2の粒子とカーボンナノファイバーとが良好に分散されている。このことは、上述したように、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、流動性が低下する。このような流動温度特性を有することにより、本実施の形態の炭素繊維複合材料は、動的粘弾性の温度依存性が小さくなり、その結果、優れた耐熱性を有する。
【0064】
カーボンナノファイバーは、通常、相互に絡み合って媒体に分散しにくい性質を有する。しかし、本実施の形態の炭素繊維複合材料のエラストマーを分解気化させた多孔質複合材料を、例えば金属の複合材料の原料として用いると、カーボンナノファイバーがエラストマーに既に分散した状態で存在するので、この原料と金属などのマトリクス材料とを混合することでカーボンナノファイバーをマトリクス材料に容易に分散することができる。また、カーボンナノファイバーの表面は活性化し、あるいは酸素などと反応して、金属との濡れ性が向上しているため、複合材料のマトリクス材料とも濡れ性がよい。
【0065】
(F)次に、炭素繊維複合材料を熱処理し、該炭素繊維複合材料中に含まれるエラストマーを分解気化させて中間複合材料を得る工程(b)について説明する。
工程(b)は、炭素繊維複合材料を熱処理することで、エラストマーを分解気化させ、第1の粒子及び第2の粒子の周りにカーボンナノファイバーが分散した、中間複合材料を得ることができる。
【0066】
このような熱処理は、使用されるエラストマーの種類によって種々の条件を選択することができる。工程(b)は、不活性気体雰囲気中において、エラストマーの分解気化温度以上であって、かつ第1の粒子の融点未満で熱処理されることが好ましい。不活性気体としては、窒素、5%以下の酸素を含んだ窒素、アルゴンなどを用いることができる。不活性気体雰囲気を採用するのは、大気中で工程(b)の熱処理を行なうと、カーボンナノファイバーが酸化分解(燃焼)してしまうためである。
【0067】
不活性気体雰囲気の熱処理炉に炭素繊維複合材料を配置し、炉内をエラストマーの分解気化する温度以上に加熱して熱処理する。この加熱によって、エラストマーは分解気化し、第1の粒子及び第2の粒子の周りにカーボンナノファイバーが分散した中間複合材料が製造される。
【0068】
エラストマーが例えば天然ゴム(NR)であり、第1の粒子が例えばアルミニウム粒子である場合、工程(b)の熱処理温度は、300ないし650℃とすることが好ましい。熱処理温度が300℃以上であれば、天然ゴムが分解されて分解気化し、熱処理温度が650℃以下であれば、アルミニウム粒子が溶融することなく中間複合材料を得ることができる。なお、熱処理時間は、熱処理温度が高いほど短時間となるが、エラストマーが分解されて分解気化するためには1分〜100時間である。
【0069】
このようにして得られた中間複合材料は、第1の粒子及び第2の粒子間に分散したカーボンナノファイバーが存在している。カーボンナノファイバーと第1の粒子との濡れ性はよいので、カーボンナノファイバーはエラストマー中に分散した状態に近い状態で第1の粒子の周りに分散している。しかしながら、このようにして得られた中間複合材料は、エラストマーが分解気化した際に第1の粒子の間隔を押し広げた比較的大きな空孔があり、第1の粒子間の空孔が均一ではない。
【0070】
(G)次に、中間複合材料を加圧して、多孔質複合材料を得る工程(c)について説明する。
工程(c)は、工程(b)で得られた中間複合材料を型内で圧縮して多孔質材を得る。工程(c)の加圧によって中間複合材料は比較的大きな空孔例えば100μm以上の空孔が除去され、第1の粒子間の空孔のサイズが均一化した多孔質複合材料が得られる。
【0071】
図2は、工程(c)の概略説明図である。工程(b)で得られた中間複合材料250は、金型80内に配置され、上方から押しコマ90によって圧力Pで加圧される。中間複合材料250は、加圧され、圧縮されて金型80からノックアウトして取り出され、全体に均一な多孔質複合材料に成型される。
【0072】
図3は、多孔質複合材料300の構造を説明する模式図である。図3に示すように、多孔質複合材料300は、第1の粒子41と第2の粒子42が工程(c)の加圧によって密着し、第1の粒子41及び第2の粒子42の間に形成された空孔46のサイズは、全体にほぼ均一な大きさに形成される。これは、高硬度の第2の粒子が中間複合材料250中にランダムに配置されることで、加圧による応力を緩和させ、適度な多孔質の構造のままで形状を維持するものと考えられる。
【0073】
図4は、中間複合材料中に第2の粒子がない場合の多孔質複合材料(参考例)310の構造を説明する参考模式図である。図4に示すように、多孔質複合材310の中心部分及び中心から多孔質複合材の角部へ向かう方向には圧力がかかりにくく、筋状の比較的大きな例えば100μm以上の空孔48が形成され易い。大きな空孔48は、マトリクス材料が浸透すると補強されていないマトリクス材料のみの相を形成し、複合材料の強度など物性に影響を与える。また、第1の粒子41は圧力によって押しつぶされて第1の粒子41の間に形成される空孔46が小さくなり、マトリクス材料の浸透を困難とさせてしまう場合がある。したがって、図3を用いて前述したように、第1の粒子よりも硬度の高い第2の粒子が重要な役割を果たすのである。
【0074】
工程(c)は、中間複合材料を後工程で取り扱う際に少なくとも形状を維持できる程度に押し固められることが好ましく、浸透工程において少なくともマトリクス金属材料の浸透が困難にならない程度に気孔を残すことが好ましい。そのため、工程(c)においては、中間複合材料を0.5MPa〜10MPaで加圧することが好ましい。加圧力が0.5MPa未満であると、成型された多孔質材が形状を維持することができないことがある。また、充填材の材質にもよるが、加圧力が10MPaを超えると、成型された多孔質材の気孔が小さくなりすぎ、多孔質材にマトリクス材料が浸透しないことがある。
【0075】
また、工程(c)は、第1の粒子同士が結合し易いように、熱処理雰囲気中で行なうことが好ましい。熱処理雰囲気の温度は、用いられる第1の粒子の種類によって適宜選択することができるが、例えばアルミニウム粒子を用いた場合には、400℃程度の雰囲気中で工程(c)を行なうことが好ましい。
【0076】
工程(c)で得られた多孔質複合材料は、カーボンナノファイバーが第1の粒子の間に分散した状態のままの形態を維持することができ、さらに、微細な多孔質構造を維持したまま保管、搬送などで容易にハンドリングすることができる。
【0077】
(H)最後に、多孔質複合材料を用いて複合材料を得る製造方法について説明する。
本実施の形態における複合材料を得る製造方法は、上記工程(c)で得られた多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯を浸透させることで、カーボンナノファイバーが分散した複合材料を得ることができる。本実施の形態では、多孔質複合材料に溶湯を浸透させるいわゆる非加圧浸透法を用いて鋳造する工程について、図5及び図6を用いて詳細に説明する。
【0078】
図5及び図6は、非加圧浸透法によって複合材料を製造する装置の概略構成図である。図5において、密閉された容器1内には、あらかじめ成形された多孔質複合材料300が入れられる。その多孔質複合材料300の上方にマトリクス材料の塊5が配置される。次に、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、容器1内に配置された多孔質複合材料300及びマトリクス材料の塊5をマトリクス材料の融点以上に加熱する。加熱されたマトリクス材料の塊5は、溶融して溶湯となり、多孔質複合材料300中の空孔に浸透する。
【0079】
本実施の形態の多孔質複合材料300は、工程(c)の加圧工程によって適度な空孔サイズが全体に一様に形成されているため、毛細管現象によって溶湯をより早く全体に浸透させることができる。また、本浸透工程に先立って、例えば工程(a)において、多孔質複合材料300にマグネシウム粒子を加えて混合させておくことで、容器1内を還元雰囲気としてもよい。第1の粒子及びマトリクス材料として例えばアルミニウムを用いた際に、アルミニウムが還元されることで濡れ性の改善され、第1の粒子間に毛細管現象によって溶湯が浸透し多孔質複合材料の内部まで完全にアルミニウム溶湯が満たされる。そして、容器1の加熱手段による加熱を停止させ、溶湯を冷却・凝固させ、カーボンナノファイバーが均一に分散された複合材料400を製造することができる。本実施の形態にかかるマトリクス材料は、第1の粒子間に形成された空孔46内に浸透し、第1の粒子同士を結合させるバインディング材として用いられる。したがって、本浸透工程に用いられる多孔質複合材料300は、あらかじめ浸透工程で使用されるマトリクス材料の溶湯と同じ材料の第1の粒子を用いて成形されていることが好ましい。このようにすることで、溶湯と第1の粒子とが混ざりやすく均質な複合材料を得ることができる。マトリクス材料としては、アルミニウム、マグネシウム、チタン、鉄、金、銀、銅、ニッケル、クロム、ゲルマニウム、セレン、スズ、亜鉛及びこれらの合金などの金属粒子や、セラミックス、ガラス、シリコンなどの非金属粒子を単体でもしくは組み合わせて用いることができる。
【0080】
また、容器1を加熱する前に、容器1の室内を容器1に接続された減圧手段2例えば真空ポンプによって脱気してもよい。さらに、容器1に接続された不活性ガス注入手段3例えば窒素ガスボンベから窒素ガスを容器1内に導入してもよい。
【0081】
また、上記実施の形態においては非加圧浸透法について説明したが、浸透法であればこれに限らず例えば不活性ガスなどの雰囲気の圧によって加圧する加圧浸透法を用いることもできる。
【0082】
上述したように、多孔質複合材料中のカーボンナノファイバーの表面は活性化しているため、マトリクス材料との濡れ性が向上しており、複合材料は全体に機械的性質のばらつきが低減され、均質な複合材料が得られる。しかも、多孔質複合材料は工程(c)によって比較的大きな空孔が除去されたため、複合材料にはマトリクス材料のみで形成された大きな相が存在せず、全体に均質である。また、中間複合材料中に含まれる少量の高硬度第2の粒子によって工程(c)による加圧で多孔質の構造が大きく崩れることが無く、多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯が全体に均等に浸透することができる。そのため、本実施の形態にかかる複合材料は、溶湯の浸透不良によるボイドもほとんどなく、全体に均質である。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜4、比較例1)
(1)サンプルの作製
(a)炭素繊維複合材料の作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す所定量(100g)の天然ゴム(表1では「NR」と記載する)を100重量部(phr)投入して、ロールに巻き付かせた。
第2の工程:天然ゴムに対して表1に示す量(重量部)の第1の粒子、第2の粒子及び還元剤を天然ゴムに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
第3の工程:次に、天然ゴムに対して表1に示す量(重量部)のカーボンナノファイバー(表1では「CNT13」と記載する)を投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
第4の工程:カーボンナノファイバーを投入し終わったら、混合物をロールから取り出した。
第5の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、前記混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
第6の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
【0084】
このようにして、実施例1〜4及び比較例1の未架橋の炭素繊維複合材料サンプルを得た。なお、第1の粒子のアルミニウム粉として平均粒径30μmの純アルミニウム粒子(99.7%がアルミニウム、硬度:HV27)と、平均直径(繊維径)が約13nmのマルチウォールカーボンナノファイバーと、還元剤としての平均粒径50μmのマグネシウム粒子と、を用いた。また、第2の粒子としては、アルミナ粉Aとして平均粒径0.4μmのアルミナ粒子(Al2O3、硬度:HV1800)と、アルミナ粉Bとして平均粒径30μmのアルミナ粒子(Al2O3、硬度:HV1800)と、炭化ケイ素粉として平均粒径30μmの炭化ケイ素粒子(SiC、硬度:HV2200)と、を用いた。
【0085】
(b)中間複合材料の作製
上記(a)で得られた炭素繊維複合材料を窒素雰囲気の炉内でエラストマーの分解気化温度以上(500℃)で2時間分間熱処理して、エラストマーを分解気化させ、中間複合材料を得た。
【0086】
(c)多孔質複合材料の作製
上記(b)で得られた中間複合材料を成形ダイ内に配置させ、400℃の雰囲気中でパンチに荷重Pとして約5MPaの圧縮応力で上から加圧して圧縮成型し、50×50×10mmの大きさの多孔質複合材料を得た。
【0087】
(d)複合材料の作成
上記(c)で得られた多孔質複合材料を非加圧浸透法によって複合材料として得た。より詳細には、上記(c)で得られた多孔質複合材料を容器(炉)内に配置させ、マトリクス材料であるアルミニウム塊(純アルミニウムインゴット)をその上に置き、不活性ガス(窒素)雰囲気中でアルミニウムの融点以上の温度(800℃)まで加熱した。アルミニウム塊は溶融し、アルミニウム溶湯となり、多孔質複合材料の空孔を満たすように溶湯が浸透した。アルミニウムの溶湯を浸透させた後、これを自然放冷して凝固させ、複合材料を得た。
【0088】
(2)顕微鏡による観察
実施例1〜4及び比較例1の複合材料サンプルの電子顕微鏡(SEM)及び金属顕微鏡による観察結果を表1に示す。表1において、電子顕微鏡で複合材料にカーボンナノファイバーの凝集が観察されなかったサンプルはCNT分散状態の欄に「良」と記載し、金属顕微鏡でアルミニウムの筋(幅が100μm以上)が複合材料に観察されなかったサンプルはアルミの筋の欄に「無し」と記載し、アルミニウムの筋が観察されたサンプルは「有り」と記載した。図7は実施例1の複合材料サンプルの切断面を撮影した写真であり、図8は比較例1の複合材料サンプルの切断面を撮影した写真である。図8の白い筋状の部分がアルミニウムの筋Aである。なお、ここで確認されたアルミニウムの筋は、EDSやXPSを用いた元素分析によってアルミニウムの単独相であることがわかった。
【0089】
(3)圧縮耐力の測定
複合材料サンプルについて、圧縮耐力(MPa)の最大値、最小値及び平均値を測定した。圧縮耐力の測定は、10×10×5(厚さ)mmの試料を0.01mm/minで圧縮したときの0.2%耐力(σ0.2)とした。その結果を表1に示す。
【0090】
(4)良品率
複合材料サンプルから、10×10×10(厚さ)mmの試料を100個切り出し、その比重を測定した。試料の比重が2.6未満であれば不良品とし、比重が2.6以上であれば良品として、複合材料サンプル毎の良品率(%)を計算し、その結果を表1に示した。
【0091】
【表1】

【0092】
表1から、本発明の実施例1〜4によれば、以下のことが確認された。すなわち、第2の粒子を含む複合材料においては、アルミニウムの筋が観察されなかったことから、工程(c)によって比較的大きな空孔を除去できたことがわかった。また、第2の粒子を含まない比較例1の複合材料の観察では、アルミニウムの筋が観察された。なお、実施例1〜4及び比較例1の複合材料は、カーボンナノファイバーの凝集はほとんど観察されず良好であった。
【0093】
さらに、実施例1〜4の複合材料の圧縮耐力が最大値、最小値及び平均値の全てにおいて、比較例1の複合材料の圧縮耐力の値より大きくなっていることから、実施例1〜4の複合材料は機械的性質のばらつきが低減されて全体に均質であることがわかった。また、実施例1〜4の複合材料の良品率(%)が、比較例1の約2倍であり、100%に近いことから、工業的な生産が可能であることがわかった。
【0094】
以上のことから、本発明によれば、一般に基材への分散が難しいカーボンナノファイバーがエラストマーに均一に分散することができ、第2の粒子を含むことで、複合材料を効率よく生産できることが明らかとなった。また、本発明によれば、全体に均質な機械的性質を有する複合材料が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーとカーボンナノファイバーとの混練法を模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態の工程(c)の概略説明図である。
【図3】本実施の形態の多孔質複合材料の構造を説明する模式図である
【図4】第2の粒子を用いない多孔質複合材料の構造を説明する参考模式図である。
【図5】非加圧浸透法によって複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【図6】非加圧浸透法によって複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【図7】実施例1の複合材料サンプルの切断面を撮影した写真である。
【図8】比較例1の複合材料サンプルの切断面を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0096】
1 容器
2 減圧手段
3 注入手段
5 マトリクス材料の塊
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 カーボンナノファイバー
41 第1の粒子
42 第2の粒子
46 空孔
48 大きな空孔
80 金型
90 押しコマ
250 中間複合材料
300 多孔質複合材料
310 多孔質複合材料(参考例)
400 複合材料
A アルミニウムの筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに、第1の粒子と、第2の粒子と、カーボンナノファイバーと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて炭素繊維複合材料を得る工程(a)と、
前記炭素繊維複合材料を熱処理し、該炭素繊維複合材料中に含まれるエラストマーを分解気化させて中間複合材料を得る工程(b)と、
前記中間複合材料を加圧して、多孔質複合材料を得る工程(c)と、
を含み、
前記第2の粒子は、前記第1の粒子よりも高い硬度を有し、かつ、前記炭素繊維複合材料中の重量割合が前記第1の粒子よりも小さい、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2の粒子の硬度は、前記第1の粒子の硬度の2倍〜150倍である、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1の粒子に対する前記第2の粒子の重量割合は、0.1重量%〜10重量%である、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記第1の粒子と第2の粒子とを合わせた配合量は、前記エラストマー100重量部に対して、300重量部〜600重量部である、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記第1の粒子は、前記カーボンナノファイバーの平均直径よりも大きな平均粒径を有し、
前記第2の粒子は、前記第1の粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径を有する、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、
前記第1の粒子は、アルミニウムであり、
前記第2の粒子は、アルミナである、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、カーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を有する、多孔質複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかにおいて得られた前記多孔質複合材料にマトリクス材料の溶湯を浸透させる、複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記マトリクス材料は、アルミニウムである、複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって得られた多孔質複合材料。
【請求項11】
請求項8または9に記載の製造方法によって得られた複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−154282(P2007−154282A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−353539(P2005−353539)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】