説明

多層塗工膜の製造装置及び多層塗工膜の製造方法

【課題】複数の塗工液を一括で塗布する、簡便であり且つ生産性の良い多層塗工膜の製造装置、及び該製造装置を用いた多層塗工膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる手段を有する多層塗工膜の製造装置であって、
(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段、及び
(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段
を有する、多層塗工膜の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層塗工膜の製造装置及び該製造装置を用いた多層塗工膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、複数の塗工液を一括で塗布する、簡便であり且つ生産性の良い多層塗工膜の製造装置、及び該製造装置を用いた多層塗工膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行する基材上に1回の塗布プロセスにより多層を形成する多層塗工方式があり、写真フィルム等の塗工プロセスに広く利用されている。この方式による塗工方法は、図1に示すように、塗布ヘッド1における複数の狭いスリットから塗工液A及びBを押し出し、傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、重なりあった塗工液A及びBをロール3によって、走行する基材4上に転移させて多層塗工膜を形成するものである。
このような方法は、水系塗工液を使用する場合に有効であり、ゼラチンをバインダーとするハロゲン化乳化剤を同時多層塗布し、その後冷却する方法が知られている。この方法は、ゼラチンのゾル−ゲル変換特性を利用して多層膜をゲル化させて超高粘状態にし、層間の混合を起こりにくくした上で熱風乾燥等により塗膜(塗工膜)を形成するものである。
【0003】
一方、有機溶剤系塗工液は、水系塗工液と比較して表面張力が低いため、拡散混合が起こりやすく、また有機溶剤において有効なゾル−ゲル変換物質は見出されていない。従って、有機溶剤系では、1層ずつ逐次塗布し、乾燥する方法がとられていた。このような逐次塗布乾燥方法は、多大な製造コストと製造時間を要するため、これまで、有機溶剤系塗工液を使用する場合においても、1回の塗布プロセスにより多層を形成する方法が提案されている。
例えば、増粘剤等の粘度調整成分を添加することにより、接する2層の界面における流動性や、混合の度合いを制御する方法が提案されている(特許文献1参照)。この方法では、粘度調整用に、一定量の増粘剤が必要であり、これら添加物は、一般に低分子量有機材料であり、多層塗工、積層体形成後に層中、層間を移動し、機械的特性の低下が想定され、用途によっては適用できない場合があった。
【0004】
また、スライドホッパー塗布法において、外気の影響により塗工液中の有機溶剤が揮発することを抑制するためにスライド面を蒸発防止板で覆う方法(特許文献2参照)、塗工液が塗布された支持体を乾燥した後、支持体の両面からエアーの吹き付けを行う方法(特許文献3参照)、塗工液を支持体に塗布した後、多層化された塗工液の温度を低下させる方法(特許文献4参照)等による多層塗工膜の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−20584号公報
【特許文献2】特開平9−225380号公報
【特許文献3】特開2000−117183号公報
【特許文献4】特表2007−508929号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の検討によると、複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造において、特許文献2〜4に記載の方法をそれぞれ単独で実施すると、多層化させた各塗工液が部分的に又はほとんど混合する等の問題が発生することが判明した。また、特許文献2〜4に記載の方法を組み合わせたとしても、同様の問題が発生する傾向にあることが判明した。なお、特許文献3に記載の方法は、乾燥工程を経た後に支持体の両面からエアーを吹き付けてさらに乾燥させる方法であり、本発明で採用する、塗工液を支持体に塗布する際又は塗布した直後に塗工膜の表面のみにエアーを吹き付ける方法とは異なる。
本発明は、このような状況下になされたものであり、複数の塗工液を一括で塗布する方法によって、簡便に且つ生産性良く多層塗工膜を形成し得る多層塗工膜の製造装置、及び該製造装置を用いた多層塗工膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段、及び多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段を有する多層塗工膜の製造装置により、揮発性が高くて均一な膜質を得るのが困難な有機溶剤系塗工液を一括で塗布する方法にて多層塗工膜を得ることが可能となること、及び該製造装置によれば、多層塗工膜を簡便に且つ生産性良く製造し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記[1]〜[7]に関する。
[1]複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる手段を有する多層塗工膜の製造装置であって、
(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段、及び
(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段
を有する、多層塗工膜の製造装置。
[2]さらに、(iii)多層化された塗工液を基材に転移するまでの間、該塗工液の温度を6〜15℃に保持する手段を有する、上記[1]に記載の多層塗工膜の製造装置。
[3]乾燥ガスが、水含有率1質量%以下、酸素含有率3体積%以下及び温度0〜20℃である、上記[1]又は[2]に記載の多層塗工膜の製造装置。
[4]多層化した塗工液の表面へ吹き付ける乾燥ガスの流速が0.5〜20リットル/分である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造装置。
[5]スライドコーティング方式を用いた、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の多層塗工膜の製造装置。
[6]スライドコーティング方式が、複数の塗工液をあらかじめ多層化する際に傾斜したスライド面を使用するものであって、該スライド面の傾斜角度が、水平方向に対して5〜40度である、上記[5]に記載の多層塗工膜の製造装置。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造装置を用いて、複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法であって、
(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う工程、及び
(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける工程
を有する、多層塗工膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塗工液の成分を追加又は変更するなどして工夫せずとも、多層塗工膜を簡便に且つ生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の多層塗工膜の製造装置を示す模式図である。
【図2】本発明の多層塗工膜の製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の多層塗工膜の製造装置について、詳細に説明する。なお、2層の同時多層塗工膜の製造装置を中心に説明することがあるが、本発明は2層に限定されるものではなく、3層以上の同時多層塗工膜の製造装置にも適用可能である。
【0012】
[多層塗工膜の製造装置]
本発明の多層塗工膜の製造装置は、複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる手段を有する多層塗工膜の製造装置であって、(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段、及び(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段を有する、多層塗工膜の製造装置である。
複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化する方法に特に制限は無いが、例えば(1)傾斜したスライド面上にて多層化させる方法(スライドコーティング方式)、(2)水平な平面状にて多層化させる方法、(3)円形シリンダー上にて多層化させる方法、(4)傾斜した放物面上にて多層化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、通常、方法(1)が好ましく利用される。
【0013】
上記方法(1)を利用する場合、塗工液を流動させるための、傾斜したスライド面を有するものとしては、例えば図1や図2に示すようなスライドコーターが好ましく挙げられる。
スライド面の傾斜角度は、水平方向に対して5〜40度が好ましく、10〜35度がより好ましく、15〜35度がさらに好ましい。また、スライド面上への塗工液の吐出口の中心と、隣り合う塗工液の吐出口の中心との距離は、8〜30cmが好ましく、10〜28cmがより好ましく、12〜26cmがさらに好ましい。さらに、複数のスライド面上への塗工液の吐出口の内、塗工液を基材へ転移する部位に最も近い吐出口の中心と、基材との距離は、2〜14cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、4〜11cmがさらに好ましい。特に、このように設計されたスライドコーターを使用した場合に、層分離構造がより良好に形成される傾向にある。また、以上のようなスライドコーターでは、塗工液の走行速度が好ましくは10〜10,000mm/秒、より好ましくは100〜1,000mm/秒となる。
【0014】
(手段(i))
本発明の多層塗工膜の製造装置は、少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段を有する。
塗工液をカバーによって覆うことにより、外気流の影響による有機溶剤系塗工液中の有機溶剤の揮発を防ぐことができ、且つカバー内に揮発した有機溶剤が飽和状態となることなどにより、急激な有機溶剤系塗工液中の有機溶剤の揮発を抑制することができる。これにより、多層化した塗工液をスムーズに基材へ転移することができ、各層の混合を抑制できる。
カバーの材質は、有機溶剤系塗工液中の有機溶剤の蒸気で変形しないものであれば特に制限は無い。カバーは、塗工液が外気流の影響を受けないように塗工液を覆うことが好ましく、少なくとも、多層化した塗工液を基材上に転移するまでの間、塗工液の上面(基材が無い方の面)及び側面を覆っていることが好ましい。
カバーの形状に特に制限は無いが、多層化した塗工液の上面とカバーとの間隔は、有機溶剤系塗工液中の有機溶剤の急激な揮発を抑制する観点から、好ましくは5〜100mm、より好ましくは10〜70mm、さらに好ましくは10〜60mmである。
なお、多層化した塗工液を基材上に転移させた後においても、多層化した塗工液をカバーで覆っていてもよい。但し、その際、後述する乾燥ガスの注入口を設ける必要がある。
【0015】
(手段(ii))
本発明の多層塗工膜の製造装置は、多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段を有する。本発明の製造装置では、各層の混合を抑制するために、この手段(ii)と前記手段(i)とを組み合わせることが重要である。手段(ii)と手段(i)とを組み合わせることにより、各層の混合度合いを20体積%未満に抑制することができる。
基材に転移する際又は転移した直後に乾燥ガスを吹き付けることにより、多層化した塗工液の上層から乾燥を促し、各層の混合を抑制する。ここで、「転移する際」とは、あらかじめ多層化した塗工液を基材へ転移する瞬間から、該塗工液が基材に接するまでを意味する。また、「転移した直後」とは、基材に転移してから3秒以内を意味し、1秒以内であることが好ましく、0.5秒以内であることがより好ましい。
乾燥ガスとしては、空気でもよいが、塗工膜の酸化抑制の観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガスが好ましく、窒素がより好ましい。なお、不活性ガスの酸素含有率は、好ましくは3体積%以下、より好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは1体積%以下である。乾燥ガスの水含有率は、乾燥効率の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.001質量%以下である。乾燥ガスの温度は、乾燥効率及び塗工液の粘度の観点から、好ましくは0〜20℃、より好ましくは3〜18℃、さらに好ましくは5〜18℃である。
乾燥ガスの流速は、乾燥効率の観点及び層を乱さないようにする観点から、好ましくは0.5〜20リットル/分、より好ましくは0.7〜10リットル/分である。さらに、乾燥ガスは、乾燥効率の観点及び層を乱さないようにする観点から、前記流速にて、塗工液から5〜30cm(好ましくは10〜20cm)離れた所から吹き付けることが好ましい。
乾燥ガスは、多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ吹き付けている限り、その後、複数の箇所で同様にして塗工液の表面へ吹き付けてもよい。
【0016】
(手段(iii))
さらに、本発明の多層塗工膜の製造装置は、各層の混合を抑制する観点から、多層化された塗工液を、基材に転移するまでの間、該塗工液の温度を6〜15℃(好ましくは8〜13℃)に保持する手段を有することが好ましい。前記手段(i)及び(ii)と共に手段(iii)を有することにより、各層の混合を極めて高い水準で抑制(各層の混合度合い:5体積%未満)することができる。
基材に転移するまでの間に保持する温度が6℃未満又は15℃を超えると、各層の混合の抑制効果に乏しい。なお、塗工液の温度を6〜15℃に保持する方法に特に制限は無いが、カバー内の温度を6〜15℃に調節することにより、容易に制御できる。
【0017】
(有機溶剤)
有機溶剤系塗工液に用いる有機溶剤としては、特に制限されるものではないが、例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン系溶剤;酢酸エチル等のエステル系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル系溶剤;エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶剤等を挙げることができる。
【0018】
(塗工液の主成分−被膜形成成分)
塗工液の主成分(被膜形成成分)としては、該塗工液に用いられる溶剤に溶解し、且つ被膜形成性を有する樹脂であれば、特に制限されない。該被膜形成成分としては、例えばポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、変性アクリル系樹脂、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは数万〜数百万であり、より好ましくは3万〜50万である。
また、塗工液の主成分として、後述する活性エネルギー線硬化型化合物を用いることもできる。
【0019】
活性エネルギー線硬化型化合物は、電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線等を照射することにより、架橋、硬化する化合物である。この活性エネルギー線硬化型化合物としては、以下の活性エネルギー線硬化型オリゴマー及び/又はモノマーを用いることができる。
【0020】
活性エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエーテルアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、シリコーンアクリレート系のオリゴマー等が挙げられる。
ここで、ポリエステルアクリレート系オリゴマーとしては、例えば多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、あるいは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシアクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量(例えば5000未満)のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応させてエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシアクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシアクリレートオリゴマーも用いることができる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができ、ポリオールアクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
上記オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定した標準ポリスチレン換算の値で、好ましくは500〜100,000、より好ましくは1,000〜70,000、さらに好ましくは3,000〜40,000の範囲で選定される。
このオリゴマーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
一方、活性エネルギー線硬化型モノマーとしては、例えばジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコールアジペートエステル、ジ(メタ)アクリル酸ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステル、ジ(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジシクロペンテニル、ジ(メタ)アクリル酸エチレンオキシド変性リン酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸アリル化シクロヘキシル、ジ(メタ)アクリル酸イソシアヌレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパンエステル、トリ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル[ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート]、トリ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトールエステル、トリ(メタ)アクリル酸プロピオンオキシド変性トリメチロールプロパンエステル、イソシアヌル酸トリス(アクリロキシエチル)、ペンタ(メタ)アクリル酸プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトールエステル、ヘキサ(メタ)アクリル酸カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールエステル等が挙げられる。これらのモノマーは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
また、前記活性エネルギー線硬化型化合物と共に、光重合開始剤を用いることができる。この光重合開始剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p−ジメチルアミン安息香酸エステル、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−プロペニル)フェニル]プロパノン)等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この光重合開始剤の使用量は、用いる活性エネルギー線硬化型化合物の種類に応じて適宜選定すればよいが、通常、活性エネルギー線硬化型化合物に対して0.001〜0.5倍質量の範囲で使用する。
【0023】
(添加剤)
当該塗工液には、さらに各種添加剤を含有させてもよい。該添加剤としては、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤等が挙げられる。
なお、本発明における塗工液の固形分濃度及び粘度については、塗工可能な濃度及び粘度であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。
【0024】
(基材)
多層化した塗工液を転移する基材に特に制限はなく、多層塗工膜を有する部材の用途によって適宜選択することができる。特に本発明により得られる多層塗工膜を光学用部材に用いる場合、光学用フィルムの基材として、公知のプラスチックフィルムの中から適宜選択して用いることができる。このようなプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。
【0025】
これらの基材は、透明、半透明のいずれであってもよく、また、着色されていてもよいし、無着色のものでもよく、用途に応じて適宜選択すればよい。例えば液晶表示体の保護用として用いる場合には、無色透明のフィルムが好ましい。
これらの基材の厚さに特に制限はなく、状況に応じて適宜選定されるが、通常、15〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、この基材は、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法等により表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性等の面から、好ましく用いられる。
【0026】
(多層塗工膜の製造方法)
以下に、図2のスライドコーターを参照して、本発明の製造装置を用いた多層塗工膜の製造方法の一例を説明する。
塗布ヘッド1における2つのスリット状の吐出口から、それぞれ塗工液A及びBを押し出し、カバー5で覆われた傾斜したスライド面2上を重力の作用により自然流下させ、適宜塗工液の温度を6〜15℃に保持しながら、塗工液A及びBを多層化する。多層化した塗工液(塗工膜)は、ロール3によって走行する基材4上に転移させる。転移の際又は転移した直後に、基材4上に転移した塗工液の表面へ、乾燥ガス注入口6から乾燥ガスを吹き付ける。
【0027】
塗工液中の被膜形成成分が、前述した熱可塑性樹脂である場合、前記のようにして塗工液を基材上に多層塗工した後、適宜さらに加熱乾燥させることにより、多層塗工膜を形成することができる。加熱乾燥させる場合、その温度は、通常40〜150℃、好ましくは50〜120℃、より好ましくは60〜90℃である。加熱・乾燥時間に特に制限は無いが、通常1〜5分間程度である。
一方、塗工液中の被膜形成成分が、前述した活性エネルギー線硬化型化合物である場合には、前記のように加熱乾燥させた後、活性エネルギー線を照射して硬化処理を行い、多層塗工膜を形成する。活性エネルギー線としては、例えば紫外線や電子線等が挙げられる。上記紫外線は、高圧水銀ランプ、ヒュージョンHランプ、キセノンランプ等で得られる。一方、電子線は、電子線加速器等によって得られる。この活性エネルギー線の中では、特に紫外線が好適である。なお、電子線を使用する場合は、光重合開始剤を添加することなく、硬化膜を得ることができる。
活性エネルギー線が紫外線の場合、その光量は、50〜200mJ/cm2程度であることが好ましい。
以上のようにして形成された多層塗工膜の厚さは、通常、0.1μm〜10μm程度、好ましくは1μm〜5μmであり、各塗工液からなる塗工膜の層が分離している。この層分離構造は、例えばスラブ型光導波路分光法を利用した界面紫外可視分光測定装置を用いて確認することができる。また、断面の走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡によっても確認することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例において、多層化した塗工液相互の混合度合いを、以下の様にして評価した。
【0029】
(塗工液相互の混合度合いの評価方法)
目視にて、多層化した塗工液相互の識別用着色剤(赤色、青色)の混合度合いを確認し、以下の評価基準に従って評価した。
A:各層の混合がほとんど確認されず(混合が各塗工液の5体積%未満。)、きれいな層分離構造を有する。
B:各層が若干混合している(混合が各塗工液の5体積%以上20体積%未満。)が、層分離構造を確認できる。
C:各層がかなり混合しており(混合が各塗工液の20体積%以上80体積%未満。)、層分離構造を有するとは言えない。
D:各層がほとんど混合しており(混合が各塗工液の80体積%以上。)、層分離構造を有さない。
【0030】
<製造例1>
表1に示す成分を室温で混合し、下層用の赤色の塗工液1を得た。
【表1】

【0031】
<製造例2>
表2に示す成分を室温で混合し、上層用の青色の塗工液2を得た。
【表2】

【0032】
<実施例1〜4及び比較例1〜4>
表3に示す手段を有する製造装置を用い、且つ上層塗工液(塗工液A)として製造例2で調製した塗工液2を、下層塗工液(塗工液B)として製造例1で調製した塗工液1を用い、図2に示すスライドコーター(但し、スライド面の傾斜角度;水平方向に対して25度、隣り合う吐出口の距離;8cm、塗工液を基材へ転位する部位に最も近い吐出口の中心と基材との距離;10cm)を使用してあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム「コスモシャイン(登録商標)A4100」(東洋紡績株式会社製)上に転移した。転移した後、10秒後に層分離構造の有無を調査した。塗工液相互の混合度合いの評価結果を表3に示す。
層分離構造を有しているものについては、さらに90℃のオーブン中で3分間加熱乾燥した後、露光量100mJ/cm2で紫外線照射し、PETフィルムを基材とした多層塗工膜を製造した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3より、本発明の製造装置を用いると、複数の塗工液を一括で塗布する方法によっても、各層間の混合を抑制することができ、多層塗工膜を製造することができた。なお、実施例1〜3と実施例4を比較すると、多層化された塗工液を基材に転移するまでの間、該塗工液の温度を6〜15℃に保持することで、各層間の混合を極めて高い水準で抑制できたことがわかる。
一方、比較例1、2及び4のように、手段(i)を有さない製造装置であると、手段(ii)を有しているか否かに関わらず各層の混合度合いが大きく、多層塗工膜を製造することが困難であった。また、比較例3のように、手段(ii)を有さない製造装置の場合も、各層の混合度合いが大きく、多層塗工膜を製造することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造装置により、複数の塗工液を一括で塗布する方法にて、簡便に且つ生産性良く多層塗工膜を製造することができるため、本発明の製造装置は、光学フィルム等の多層フィルムの製造に有用である。また、本発明の製造装置により得られる多層塗工膜は、光学フィルム等の多層フィルム用として有用である。
【符号の説明】
【0036】
1:塗布ヘッド
2:スライド面
3:ロール
4:基材
5:カバー(側面も覆っている)
6:乾燥ガスの注入口
A:上層塗工液
B:下層塗工液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる手段を有する多層塗工膜の製造装置であって、
(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う手段、及び
(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける手段
を有する、多層塗工膜の製造装置。
【請求項2】
さらに、(iii)多層化された塗工液を基材に転移するまでの間、該塗工液の温度を6〜15℃に保持する手段を有する、請求項1に記載の多層塗工膜の製造装置。
【請求項3】
乾燥ガスが、水含有率1質量%以下、酸素含有率3体積%以下及び温度0〜20℃である、請求項1又は2に記載の多層塗工膜の製造装置。
【請求項4】
多層化した塗工液の表面へ吹き付ける乾燥ガスの流速が0.5〜20リットル/分である、請求項1〜3のいずれかに記載の多層塗工膜の製造装置。
【請求項5】
スライドコーティング方式を用いた、請求項1〜4のいずれかに記載の多層塗工膜の製造装置。
【請求項6】
スライドコーティング方式が、複数の塗工液をあらかじめ多層化する際に傾斜したスライド面を使用するものであって、該スライド面の傾斜角度が、水平方向に対して5〜40度である、請求項5に記載の多層塗工膜の製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造装置を用いて、複数の有機溶剤系塗工液をあらかじめ多層化し、多層化した塗工液を基材上に転移させる工程を有する多層塗工膜の製造方法であって、
(i)少なくとも、前記塗工液を多層化してから多層化した塗工液を基材上に転移させるまでの間、塗工液をカバーによって覆う工程、及び
(ii)多層化した塗工液を基材に転移する際又は転移した直後に、多層化した塗工液の表面へ乾燥ガスを吹き付ける工程
を有する、多層塗工膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−104571(P2011−104571A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265546(P2009−265546)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】