説明

多層被覆粒子及びその製造方法並びにそれを含有する皮膚外用剤

【課題】薬効成分を製剤中に長期間安定となるように配合させ、かつ薬効成分を徐放させるべく、その放出性を制御できる技術の提供。
【解決手段】平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体・積層膜により被覆された多層被覆粒子を用いる。該重合体・積層膜はその多孔性粒子を保護するシェルとしての機能を有しており、積層膜の厚さや密度を変化させることにより、その薬効成分の加水分解等に対する経時安定性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層被覆粒子及びその製造方法並びにそれを含有する皮膚外用剤、さらに詳しくは交互積層法を用いて作製した重合体積層膜を含む多層被覆粒子及びその製造方法並びにそれを含有する皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、化粧品分野においては、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、外用液等の皮膚外用剤には、これらに所定の薬効を付与することを目的として種々の薬効成分が添加されている。例えば、皮膚のくすみ、シミ、ソバカス、老人性色素斑及び肝斑などの色素沈着や、シワ、タルミの予防及び改善等の皮膚老化の防止を目的として、アスコルビン酸及びその誘導体や、レチノール及びその誘導体などに代表されるレチノイド類や、アスタキサンチンなどに代表されるカロテノイド等の薬効成分が添加されている。
【0003】
しかしながら、これらの薬効成分を単に含有した皮膚外用剤では、製剤中における薬剤の安定性に欠けたり使用感が悪くなる場合があり、その改善が望まれていた。特に、レチノール及びその誘導体などに代表されるレチノイド類や、アスタキサンチンなどに代表されるカロテノイド等は、製剤中に安定に配合することが難しく、これら成分を皮膚外用剤の配合成分として利用する上での大きな課題となっていた。これらは、光、空気中の酸素、水、熱、金属イオンにより酸化分解や加水分解を受け、容易に分解してしまう。
また、レチノールに代表されるレチノイド類を配合した皮膚用外用剤は、その配合量が多いと皮膚刺激が問題となり、配合量が限定されその効果が十分に発揮されない場合があるなどの課題が存在していた。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献1には、ゲル形成剤、キトサン及び活性成分からなるマトリックスを調製し、そのマトリックスをアニオン性ポリマーの水溶液に滴下導入して調製したマイクロカプセルを化粧品製剤に用いることが提案されている。また、特許文献2には、内包油滴となる内油相と、親水性高分子ゲル化剤を含有する水相とからO/Wエマルジョンを調製し、これを外油相中に分散乳化してO/W/Oエマルジョンとし、そのO/W/Oエマルジョンの水相を固化してカプセル化し、その内油相に薬効成分を含有させたマイクロカプセルが提案されている。
【特許文献1】特表2003−503433号公報
【特許文献2】特開2001−97819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、未だその効果は十分とは言えず、薬効成分を効果的に徐放させ、且つ製剤中に長期間安定となるように配合させることができる技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、薬効成分を含有させた多孔性粒子を交互吸着法により形成した重合体積層膜で被覆することにより、薬効成分の安定性を向上させるとともに、放出性を制御することができることを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明の多層被覆粒子は、平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体積層膜により被覆されてなることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の多層被覆粒子の製造方法は、薬効成分を含有する多孔性粒子を調製し、該多孔性粒子を正電荷を有する多糖重合体を含む溶液と負電荷を有するアクリル酸系重合体を含む溶液とに交互に浸漬し、該多糖重合体と該アクリル酸系重合体とからなる重合体積層膜により該多孔性粒子を被覆することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の皮膚用外用剤は、平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体積層膜により被覆されてなる多層被覆粒子を含有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明で用いる重合体積層膜は、正電荷を有する重合体と負電荷を有する重合体とを粒子表面に交互に吸着させて形成する、いわゆる交互吸着法により作製するものである(例えば、表面科学、2004年、第25巻、第1号、p.10−15)。この交互吸着法の被覆対象としては、平板上の固体基板がほとんどであり、被覆対象を多孔性粒子とし、さらにその多孔性粒子に薬効成分を担持させた多層被覆粒子とした例は少なく、化粧品等の皮膚外用剤への配合という点で、十分な効果を有するものは得られていなかった。本発明によれば、薬効成分を担持させた多孔性粒子を重合体積層膜で被覆するが、重合体積層膜はその多孔性粒子を保護するシェルとしての機能を有しており、積層膜の厚さや密度を変化させることにより、その薬効成分の加水分解等に対する経時安定性を向上できることが可能になり、さらにその薬効成分の徐放性を制御できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の多層被覆粒子は、平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体積層膜により被覆されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明で用いる薬効成分には、抗酸化作用、皮膚薬理作用、紫外線吸収作用、酵素作用を有する物質が含まれる。
抗酸化作用を有する物質(抗酸化剤)は、酸化反応を阻害するか、酸素又は過酸化物によって促進される反応を抑制する物質であり、特に脂溶性抗酸化剤は細胞膜中に吸収されて酸素ラジカルを中和することができるので好ましい。本発明において好ましい抗酸化剤としては、カロテノイド、レチノイド(レチノール及びその誘導体)、スーパーオキサイドディスムターゼ、マンニトール、クエルセチン、カテキン及びその誘導体、ルチン及びその誘導体、ボタンピ抽出物、ヤシャジツ抽出物、メリッサ抽出物、羅漢果抽出物、チアミンおよびその誘導体、リボフラビンおよびその誘導体、ピリドキシンおよびその誘導体、ニコチン酸およびその誘導体等のビタミンB類、トコフェロール及びその誘導体等のビタミンE類、ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。さらに、好ましくはアスタキサンチンや、レチノール、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、そしてリノール酸レチニルを挙げることができる。
【0012】
皮膚薬理作用としては、美白作用、抗炎症作用、細胞賦活作用等が上げられる。
美白剤は日焼け等により生じる皮膚の黒化、色素沈着により生ずるシミ、ソバカス等の現象を防止する目的で用いられ、アルブチン、ハイドロキノン、エラグ酸、リノール酸、ビタミンC及びその誘導体、AMP、ビタミンE及びその誘導体、4-メトキシサリチル酸カリウム塩、グリチルリチン酸及びその誘導体、トラネキサム酸、4-n-ブチルレゾルシノール、5,5’-ジプロピル-ビフェニル-2,2’-ジオールなどのビフェニル誘導体、胎盤抽出物、カミツレ抽出物、カンゾウ抽出物、エイジツ抽出物、オウゴン抽出物、海藻抽出物、クジン抽出物、ケイケットウ抽出物、ゴカヒ抽出物、コメヌカ抽出物、小麦胚芽抽出物、サイシン抽出物、サンザシ抽出物、サンペンズ抽出物、シラユリ抽出物、シャクヤク抽出物、センプクカ抽出物、大豆抽出物、茶抽出物、糖蜜抽出物、ビャクレン抽出物、ブドウ抽出物、ホップ抽出物、マイカイカ抽出物、モッカ抽出物、ユキノシタ抽出物、ヨクイニン抽出物等が挙げられる。
【0013】
抗炎症剤は、日焼け後の皮膚のほてりや紅斑等の炎症を抑制する目的で用いられ、イオウ及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、アロエ抽出物、アルテア抽出物、アシタバ抽出物、アルニカ抽出物、インチンコウ抽出物、イラクサ抽出物、オウバク抽出物、オトギリソウ抽出物、カミツレ抽出物、キンギンカ抽出物、クレソン抽出物、コンフリー抽出物、サルビア抽出物、シコン抽出物、シソ抽出物、シラカバ抽出物、ゲンチアナ抽出物等が挙げられる。
【0014】
細胞賦活剤は、肌荒れの改善等の目的で用いられ、カフェイン、鶏冠抽出物、貝殻抽出物、貝肉抽出物、ローヤルゼリー、シルクプロテイン及びその分解物又はそれらの誘導体、ラクトフェリン又はその分解物、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等のムコ多糖類またはそれらの塩、コラーゲン、酵母抽出物、乳酸菌抽出物、ビフィズス菌抽出物、醗酵代謝抽出物、イチョウ抽出物、オオムギ抽出物、センブリ抽出物、タイソウ抽出物、ニンジン抽出物、ローズマリー抽出物、カルニチン、塩化レボカルニチンなどのカルニチン誘導体、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0015】
また紫外線防御剤としては、パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−硫酸ナトリウム、4−ブチル−4‘−メトキシジベンゾイルメタン、2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−硫酸等が挙げられる。
【0016】
更に他には、酵素作用を有する物質などを、配合することができる。
【0017】
本発明で用いる重合体積層膜は、正電荷を有する重合体と負電荷を有する重合体とを多孔性粒子表面に交互に吸着させて形成する、交互吸着法により作製することができる。本発明で用いる重合体積層膜は、少なくとも、1層の正電荷を有する重合体と1層の負電荷を有する重合体とが積層された2層構造を有する。さらに必要に応じ、正電荷を有する重合体と負電荷を有する重合体とを交互に積層させて多層構造とすることができ、最外層は正電荷を有する重合体及び負電荷を有する重合体のいずれであっても良い。本発明における重合体積層膜はその多孔性粒子を保護するシェルとしての機能を有しており、重合体積層膜の厚さや密度を変化させることによりその薬効成分の徐放性を制御することができるとともに、その薬効成分の経時安定性を向上できる。
なお、本発明においては、1層とは多孔性粒子の概ね全面を覆う重合体の集合膜を言い、多層構造とはその集合膜が正電荷を有する重合体と負電荷を有する重合体とでポリイオンコンプレックスを形成し、積層された構造を言い、ゼータ電位等の方法により確認することができる。
【0018】
多孔性粒子には、無機粒子あるいは有機粒子を用いることができる。無機粒子には、シリカ、アルミナ、セリア、チタニア、イットリア等の無機酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩化合物、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、フッ化アパタイト等のリン酸塩化合物、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩化合物、そしてシリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、マグネシア−シリカ、マグネシア−アルミナ等の複合酸化物を用いることができる。好ましくは、無機酸化物、さらに好ましくはシリカである。
【0019】
また、有機粒子には、スチレン樹脂やアクリル樹脂を用いることができる。さらに詳しくは、以下の単官能性モノマーと多官能性モノマーとを用いて重合したポリマー粒子を用いることができる。すなわち、単官能性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の極性基含有(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステルの中から選択された1種以上を用いることができる。好ましくは、アルキル(メタ)アクリレート及び/又は芳香族ビニルモノマーである。また、多官能性モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコーリジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物を挙げることができる。
【0020】
多孔質粒子とは、無数の穴が存在している粒子を指し、表面積が大きいことにより、粒子自体に薬剤などを担持させることができる粒子である。多孔質の範囲は、特に限定されないが、比表面積は50〜1000m/g、より好ましくは100〜750m/gである。また、レーザー回折式粒度分布測定等により得られる平均粒径は、50nm〜1mm、より好ましくは500nm〜0.1mmである。50nmより小さいと粒子が凝集するため重合体で被覆するのが困難になり、一方1mmより大きいと皮膚へのなめらかな塗布性を妨げるからである。また、粒子の形状は、球状、針状、板状、鱗片状等のものを用いることができ、特に限定されない。また、多孔質粒子の材質としては、例えばシリカ、アルミナ、シリコーン樹脂、結晶セルロース、ナイロン、ポリメタクリル酸メチル、スチレン、ウレタン等、それらの複合体が挙げられるが、中でも薬剤担持のしやすさ及び使用性において、シリカが好ましい。
【0021】
本発明において、重合体積層膜の作製に用いる重合体としては、水溶性のアクリル酸系重合体と、そのアクリル酸系重合体とポリイオンコンプレックスを形成する水溶性の多糖重合体との組み合わせを用いることができる。
【0022】
アクリル酸系重合体としては、カルボキシル基含有アクリルモノマーの単独重合体又はその共重合体を用いることができる。カルボキシル基含有アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸及びこれらの塩、例えばアルカリ金属塩を用いることができる。好ましいアクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸及びそのアルカリ金属塩である。さらにアルカリ金属塩としては、Li、Na又はKの金属塩を用いることができる。
【0023】
上記カルボキシル基含有アクリルモノマーから成る重合体に、さらに、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の極性基含有(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン等の芳香族ビニルモノマーを共重合させることもできる。なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を、「(メタ)アクリル酸」の表記は、「アクリル酸および/またはメタクリル酸」を表す。
【0024】
アクリル酸系重合体は、より好ましくは、(メタ)アクリル酸及びそのアルカリ金属塩と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合体である。すなわち、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である。そのアルキルエステルのアルキル基の炭素数は1〜30、より好ましくは16〜24である。
【0025】
また、アクリル酸系重合体の分子量は、重量平均分子量で5000〜500万、より好ましくは10000〜300万である。
【0026】
多糖重合体としては、デンプン、グアーガム、セルロース、キチン、キトサン、グルカン、ガラクタン、ペクチン、マンナン、デキストリン及びこれらの混合物であって、カチオン性基を有するものを用いることができる。好ましくはカチオン化グアーガム又はカチオン化セルロースである。カチオン性基には、三級アミノ基又は四級アンモニウム基を用いることができるが、四級アンモニウム基が好ましい。
【0027】
また、多糖重合体の分子量は、重量平均分子量で5000〜500万、より好ましくは10000〜300万である。
【0028】
以下、本発明の多層被覆粒子の製造方法を説明する。
本発明の多層被覆粒子の製造方法は、薬効成分を含有する多孔性粒子を調製し、その多孔性粒子を正電荷を有する多糖重合体を含む溶液と負電荷を有するアクリル酸系重合体を含む溶液とに交互に浸漬し、その多糖重合体とそのアクリル酸系重合体とからなる重合体積層膜により多孔性粒子を被覆するものである。
【0029】
薬効成分を含有する多孔性粒子を調製するには、薬効成分を溶解させた溶媒に多孔性粒子を添加し、エバポレーター等により溶媒を除去して、薬効成分を多孔性粒子に担持させることができうる。また、多孔性粒子を容器内で減圧脱気した後、薬効成分を溶解させた溶液をその容器内に導入する真空含浸法を用いることもできる。例えば、薬効成分にアスタキサンチンを用い、多孔性粒子にシリカ粒子を用いる場合、溶媒にエタノールを用いて濃度が0.01〜5.0質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%のアスタキサンチン溶液を調製し、その溶液100mlに対し、平均粒径が2.0〜5.0μmのシリカ粒子を1.0〜20.0g添加した後、溶媒を除去してシリカ粒子を回収する。
【0030】
交互吸着の際に用いる多糖重合体溶液中の多糖重合体の濃度は、0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。この濃度より薄すぎると、多孔性粒子への重合体吸着が不十分であり、濃すぎると粒子同士が凝集してしまう。また、多糖重合体溶液のpHは、1.0〜5.0、より好ましくは2.0〜4.0である。pHがこの範囲であると、重合体の溶解状態が良好であり、均一に粒子に吸着させることができる。また、浸漬時の溶液の温度は、10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。温度がこの範囲であると、重合体の分散状態が良好であり、均一に粒子に吸着させることができる。また、溶液には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等のアルカリ金属塩化物を電解質として添加することができる。その濃度は0.001〜1M、より好ましくは0.01〜0.5Mである。添加剤量がこの範囲であると、重合体自身が適度に凝集し、絡まりあうことで、効率よく吸着膜を作成することができる。
【0031】
交互吸着の際に用いるアクリル酸系重合体溶液中のアクリル酸系重合体の濃度は、0.001〜10質量%、より好ましくは0.01〜1質量%である。この濃度より薄すぎると、多孔性粒子への重合体吸着が不十分であり、濃すぎると粒子同士が凝集してしまう。また、アクリル酸系重合体溶液のpHは、1.0〜5.0、より好ましくは2.0〜4.0である。pHがこの範囲であると、重合体が溶解状態が良好であり、均一に粒子に吸着させることができる。また、浸漬時の溶液の温度は、10〜40℃、より好ましくは20〜30℃である。温度がこの範囲であると、重合体の分散状態が良好であり、均一に粒子に吸着させることができる。また、溶液には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム等のアルカリ金属塩化物を電解質として添加することができる。その濃度は0.001〜1M、より好ましくは0.01〜0.5Mである。添加剤量がこの範囲であると、重合体自身が適度に凝集し、絡まりあうことで、効率よく吸着膜を作成することができる。
【0032】
本発明においては、多孔性粒子に多糖重合体とアクリル酸系重合体を吸着させる交互吸着を2回以上行うが、2〜10回が好ましい。10回より多くなると、重合体積層膜の厚みが厚くなりすぎて、薬効成分の放出が阻害されるからである。
【0033】
本発明の多層被覆粒子は、重合体積層膜の厚さや密度を変化させることによりその薬効成分の徐放性を制御することができる。重合体積層膜の厚さを変化させるには、重合体積層膜を構成する重合体の交互吸着の回数を変化させることにより調整することができる。また、電解質添加により、溶液のイオン強度を変化させて重合体積層膜の厚さや密度を変化させることもできる。
【0034】
本発明の多層被覆粒子における積層膜は、系のイオン強度変化によって、その存在状態が変化する。積層膜は、系のイオン強度が高くなる条件で凝集、収縮を起こし、最終的には崩壊する。この原理を利用し、内包した薬効成分の放出性をコントロールすることができる。薬効成分の徐放性を促進する電解質としては、アルカリ金属塩化物、さらに好ましくは塩化ナトリウムである。
【0035】
本発明の多層被覆粒子は、通常の皮膚用外用剤に使用される種々の形態の基剤に配合し、製剤化して皮膚用外用剤として用いることができる。これら基剤には、例えば、通常、化粧料や医薬部外品、外用医薬品等の製剤に使用される成分、例えば水、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、植物・動物・微生物由来の抽出物、血行促進剤、美白剤、細胞活性剤、紫外線吸収剤、抗炎症剤、抗酸化剤、収斂剤、抗脂漏剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等を添加することができる。
【0036】
また、本発明の皮膚用外用剤の剤型は特に限定されず、乳液、クリーム、化粧水、パック、洗浄料、メーキャップ化粧料、軟膏等の種々の剤型として、化粧料や外用医薬品として用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(多層被覆シリカ粒子の作製)
(実施例1)
アスタキサンチンの5質量%トリ(カプリル/カプリン酸)トリグリセリル溶液1.0gをエタノール200mlに溶解させた溶液に多孔性シリカ粒子(平均粒径3μm、比表面積約500m/g)15.0gを添加した後、エバポレーターにて溶媒を除去して、アスタキサンチンをシリカ粒子に含有させた。
【0039】
一方、負電荷を有する重合体(以下、重合体Aという。)にはアクリル酸−アクリル酸C18〜24アルキルエステル共重合体(Lubrizol Advanced Materials製)を用い、正電荷を有する重合体(以下、重合体Bという。)にはカチオン化グアーガム(ローディア日華社製)を用いた。この重合体を用い、塩化ナトリウムを含む重合体A水溶液(濃度0.2質量%、pH3.0、NaCl濃度0.1M)と重合体B水溶液(濃度0.2質量%、pH3.0、NaCl濃度0.1M)を調製した。
【0040】
アスタキサンチンを含有させたシリカ粒子1gを重合体B水溶液50gに浸漬させ、15分間静置した後、遠心分離を行い、上澄みを除去した後に、溶液から取り出したシリカ粒子を純水で洗浄した(重合体B吸着工程)。次いで、そのシリカ粒子を重合体A溶液50gに浸漬後、15分間静置した後、遠心分離を行い、上澄みを除去した後に、溶液から取り出したシリカ粒子を純水で洗浄した(重合体A吸着工程)。この重合体B吸着工程と重合体A吸着工程とを交互に2回、計4回繰り返し、シリカ粒子に重合体B−A−B−A層からなる重合体積層膜で被覆した多層被覆シリカ粒子1を得た。
【0041】
(実施例2)
アスタキサンチンの5質量%トリ(カプリル/カプリン酸)トリグリセリル溶液1.0gをエタノール200mlに溶解させた溶液に多孔性シリカ粒子(平均粒径3μm、比表面積約500m/g)15.0gを添加した後、エバポレーターにて溶媒を除去して、アスタキサンチンをシリカ粒子に含有させた。
【0042】
一方、重合体Aにはアクリル酸−アクリル酸アルキルC−18〜24エステル共重合体(Lubrizol Advanced Materials製)を用い、重合体Bにはカチオン化セルロース(東邦化学工業社製)を用いた。この重合体を用い、塩化ナトリウムを含む重合体A水溶液(濃度0.3質量%、pH2.0、NaCl濃度0.5M)と重合体B水溶液(濃度0.3質量%、pH2.0、NaCl濃度0.5M)を調製した。
【0043】
アスタキサンチンを含有させたシリカ粒子1gを重合体B水溶液50gに浸漬させ、15分間静置した後、遠心分離を行い、上澄みを除去した後に、溶液から取り出したシリカ粒子を純水で洗浄した(重合体B吸着工程)。次いで、そのシリカ粒子を重合体A溶液50gに浸漬後、15分間静置した後、遠心分離を行い、上澄みを除去した後に、溶液から取り出したシリカ粒子を純水で洗浄した(重合体A吸着工程)。この重合体B吸着工程と重合体A吸着工程とを交互に2回、計4回繰り返し、シリカ粒子に重合体B−A−B−A層からなる重合体積層膜で被覆した多層被覆シリカ粒子2を得た。
【0044】
(比較例1)
アスタキサンチンの5質量%トリ(カプリル/カプリン酸)トリグリセリル溶液1.0gをエタノール200mlに溶解させた溶液に多孔性シリカ粒子(平均粒径3μm、比表面積約500m/g)15.0gを添加した後、エバポレーターにて溶媒を除去して、アスタキサンチンを担持させたシリカ粒子3を得た。
【0045】
(多層被覆シリカ粒子の特性評価)
1.放出性評価
実施例1及び2の多層被覆シリカ粒子0.1gを精製水、2質量%塩化ナトリウム水溶液2mlにそれぞれ添加し室温に放置した。一定時間経過後(直後、1時間後、3時間後、5時間後)、遠心分離により溶媒を取り除き、そこへエタノール1ml添加することで、アスタキサンチンを抽出し、吸光光度計UV−2500PC(島津製作所社製)を用いて475.8nmにおける吸光光度を測定した。一定時間経過後のエタノール中のアスタキサンチン量Xsolを多層被覆シリカ粒子からの放出量とし、多層被覆シリカ粒子によるアスタキサンチンの初期担持量をXとし、以下の式により放出率を算出して、放出性を評価した。比較例のシリカ粒子についても、同様の方法により評価した。
【0046】
放出率(%)=(Xsol/X)×100 (1)
【0047】
(結果)
図1は、多層被覆シリカ粒子1の放出率と時間との関係を示すグラフである。また、表1に放出率の値を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
溶液浸漬直後では、重合体積層膜のない比較例のシリカ粒子3では約100%の放出率であったのに対し、実施例のシリカ粒子1は20%前後の放出率となり、重合体積層膜でシリカ粒子を被覆することにより、アスタキサンチンの放出率を抑制できることがわかった。また、多層被覆シリカ粒子1は、塩化ナトリウムの添加により、アスタキサンチンの放出率が増加することがわかった。さらに、塩化ナトリウムを添加した場合、内包したアスタキサンチンは時間とともに徐々に増加することがわかった。
【0050】
2.安定性評価
実施例1の多層被覆シリカ粒子1と比較例1のシリカ粒子3を用い、50℃における経時安定性を、以下の方法により評価した。
【0051】
(評価方法)
実施例1の多層被覆シリカ粒子1と比較例1のシリカ粒子3の0.1gに精製水2mlを添加し、水分散物を作成し、50℃で24時間静置した。その後、サンプルを遠心分離し溶媒を取り除き、そこへエタノールを1ml添加することで、アスタキサンチンを抽出し、吸光光度計UV−2500PC(島津製作所社製)を用いて475.8nmにおける吸光光度を測定した。24時間後のエタノール中のアスタキサンチン量とアスタキサンチンの初期担持量より、アスタキサンチン残存率を算出した。
【0052】
(結果)
アスタキサンチンを単にシリカに担持させた場合は残存率が27.5%であった。これに対し、多層被覆シリカ粒子では残存率が61.2%であり、アスタキサンチンの経時安定性が向上した。
【0053】
(実施例3)乳液
以下に示した成分1〜8をそれぞれの割合で加えて80℃に加温した。さらに、成分9〜18をそれぞれの割合で加えたものを80℃に加温し、攪拌しながら乳化した。続いて、攪拌しながら冷却し、乳液を調製した(%は質量%を表す)。
【0054】
1.モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20EO) 1.0%
2.テトラオレイン酸ポリオキシプロピレンソルビトール(40PO) 1.5%
3.親油型モノステアリン酸グリセリル 1.0%
4.ステアリン酸 0.5%
5.ベヘニルアルコール 1.5%
6.スクワラン 5.0%
7.2−エチルヘキサン酸セチル 5.0%
8.メチルポリシロキサン 0.5%
9.(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体 0.1%
10.キサンタンガム 0.1%
11.水酸化ナトリウム 0.05%
12.乳酸ソーダ 0.3%
13.クエン酸 0.01%
14.リン酸一水素ナトリウム 0.1%
15.1,3−ブチレングリコール 7.0%
16.多層被覆シリカ粒子1 3.0%
17.防腐剤 適量
18.精製水 合計で100%となる割合
【0055】
(実施例4)美容液
以下に示した成分1〜12をそれぞれの割合で常温にて混合溶解し、攪拌しながら粘稠性液体とし、美容液を調製した(%は質量%を表す)。
【0056】
1.(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体 0.2%
2.水酸化ナトリウム 0.08%
3.リン酸L−アスコルビン酸マグネシウム 3.0%
4.クエン酸ナトリウム 0.5%
5.エデト酸4ナトリウム 0.1%
6.1,3−ブチレングリコール 7.0%
7.グリセリン 8.0%
8.精製水 合計で100%となる割合
9.グリシン 0.1%
10.多層被覆シリカ粒子2 5.0%
11.防腐剤 適量
12.エタノール 5.0%
【0057】
上記実施例の乳液及び美容液は、アスタキサンチンの安定性に優れ、なめらかでみずみずしい使用感、エモリエント効果に優れる化粧料であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施例1の多層被覆粒子を用いたアスタキサンチンの放出率と時間の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1の多層被覆粒子を用いたアスタキサンチンの残存率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体積層膜により被覆されてなる多層被覆粒子。
【請求項2】
前記アクリル酸系重合体が(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である請求項1記載の多層被覆粒子。
【請求項3】
前記多糖重合体がカチオン化セルロース及び/又はカチオン化グアーガムである請求項1又は2に記載の多層被覆粒子。
【請求項4】
前記多孔性粒子がシリカ粒子である請求項1から3のいずれか一つに記載の多層被覆粒子。
【請求項5】
前記薬効成分がレチノイド類及び/又はカロテノイド類である請求項1から4のいずれか一つに記載の多層被覆粒子。
【請求項6】
薬効成分を含有する多孔性粒子を調製し、該多孔性粒子を正電荷を有する多糖重合体を含む溶液と負電荷を有するアクリル酸系重合体を含む溶液とに交互に浸漬し、該多糖重合体と該アクリル酸系重合体とからなる重合体積層膜により該多孔性粒子を被覆する多層被覆粒子の製造方法。
【請求項7】
平均粒径が50nm〜1mmで薬効成分を含有する多孔性粒子が、正電荷を有する多糖重合体と負電荷を有するアクリル酸系重合体とを交互に吸着させて形成した重合体積層膜により被覆されてなる多層被覆粒子を含有する皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−116373(P2010−116373A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292283(P2008−292283)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【出願人】(000244143)
【Fターム(参考)】