説明

大気中電子放出特性を有する電子放出素子とその製造方法、および、この素子を使用した電子放出方法

【課題】 大気中でも安定に作動する電子放出素子とその製造方法、および、前記素子を使用した電界電子の放出方法を実現する。
【解決手段】 アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成し、基板を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式BNで示され、sp3結合、sp2結合、あるいはその混合物を含む材料からなり、電界電子放出特性に優れた表面形状を有している、大気中で電界電子放出動作が可能な電界電子放出素子とその製造方法、および、この素子を使用した電界電子放出方法に関する。
さらに詳しくは、本発明は、電界放出電子源を用いたランプ型光源デバイス、フィールドエミッション型ディスプレイ等の分野に応用される目的・用途をもつ、破格の電界電子放出特性(電流密度が従来比1000倍以上)を有する前記特有な構成をしてなる電子放出部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子放出材料に係る技術分野においては、各種電子放出材料が提案されている。その開発の動向としては、高い耐電圧強度、大きな電流密度を有するものが求められている。その一つに近年注目されている、カーボンナノチューブが挙げられるが、この材料に基づいて電子放出材料を設計するにおいては、さらに電子放出性を高め、電流密度を向上させる工夫が必要である。そのため、ナノチューブをパターン化して薄膜成長させたり、プリント転写技術を利用して、電子放出性に適った形状に形成したりするなどの加工を施したりするなどの試みがなされている。
【0003】
しかしながら、カーボンナノチューブは、その製造方法自体が、完全に確立されているとは言えず、その加工技術に至っては、研究はまだ緒についたばかりで極めて困難な状況にある。また、このような手間のかかる困難な加工を施しても、その結果得られる性能は、電流密度がせいぜいmA/cm2オーダーにとどまっているにすぎないものであった。
そこには使用電界強度には限界があり、これを超えたところでは、材料の劣化、剥落が生じ、高電圧、長時間にわたる使用には耐えられないものであった。一方、この種電界電子放出技術が今後、ますます盛んになることが予想され、高い耐電界強度を有し、長時間使用して電子を大きな電流密度で安定して放出することができ、しかも材料の劣化、損傷のない安定した高い電界電子放出を可能とする材料が求められていた。
【0004】
本発明者らにおいては、上記要請に応えるべく研究した。すなわち、耐熱、耐摩耗性材料として使用され、また最近では新規創生材料として注目を浴びている窒化ホウ素について着目し、この材料に基づいて電子放出材料を設計すべく鋭意研究した結果、特定の条件下で製作した窒化ホウ素の中には、電界電子放出特性に優れた表面形状を呈してなるものが生成し、強い耐電界強度を有することを見いだした。
【0005】
すなわち、窒化ホウ素を気相からの反応によって基板上に生成堆積する場合、基板近傍にエネルギの高い紫外光を照射すると基板上に窒化ホウ素が膜状に形成され、且つ膜表面上には、先端が尖った状態を呈した形状のsp3結合性窒化ホウ素が適宜間隔を置いて光
方向に自己組織的に生成、成長すること、そしてその得られてなる膜は、これに電界をかけると容易に電子を放出し、しかもこれまでのこの種材料から考えると、破格といってもいい大電流密度を保ちながら、材料の劣化、損傷、脱落のない極めて安定した状態、性能を維持し得る、極めて優れた電子放出材料であることを確認、知見し、その成果を先に特許出願した(特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−35301号公報
【特許文献2】特願2003−209489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記先の特許出願に係る発明を先行技術とし、これをさらに発展させ、大気中でも安定に作動する電子放出素子とその製造方法、および、前記素子を使用した電界電子の放出方法を実現し、提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため、本発明者らにおいては鋭意研究した結果、特有な物理的表面状態を有し、これにより電子放出性能に優れてなる性質を発現する窒化ホウ素を利用し、大気中でも安定に電子放出しうる電子放出素子を開発することに成功した。本発明は、以上の一連の知見に基づいてなされたものであり、その構成は、以下(1)〜(10)に記載したとおりの要件事項からなる。
【0009】
(1) 先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が素子基板に形成されてなり、電圧を印加することによって大気中でも安定に電子放出性を発現する、電界電子放出素子。
(2) 前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、電子放出に適した間隔、密度で素子基板に自己造形的に形成されている、(1)項に記載する電界電子放出素子。
(3) 前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、sp3結合性
BN、または、sp3結合性BNとsp2結合性BNとの混合物からなる、(1)又は(2)項に記載する電界電子放出素子。
(4) 前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、紫外光によって励起され、気相からの反応によって形成されてなる、(1)ないし(3)の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
(5) 前記電子放出素子が発光表示装置に使用される電子放出素子である、(1)ないし(4)の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
(6) 前記電子放出素子が照明装置に使用される電子放出素子である、(1)ないし(4)の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
【0010】
(7) アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成する、電界電子放出素子の製造方法。
【0011】
(8) 前記(1)ないし(6)の電子放出素子に電圧を印加して電子を放出させる、電子放出方法。
(9) 前記電子放出素子に電圧を印加して電子を放出させる際、該電子放出素子を極性ガスを含んだ雰囲気と接触させることにより、該電子放出素子の電子放出性を向上させる、(8)項に記載する電子放出方法。
(10) 極性ガスが、水、アルコールである、(9)項に記載する電子放出方法。
【発明の効果】
【0012】
従来、電子を物質中から引き出すためには、冷陰極型においては真空中において大きな電圧を印加する、あるいは、熱電子型においては真空中において2000℃以上の高温加熱を行うことが不可決であり、さらにまた、空間に引き出された電子を利用する機器では
、装置・デバイスの真空封入を要する等、何れも電子放出させるには、コストのかかる特別の構成を必要としていたところ、本発明は、電子部材を構成する基板に、紫外光を照射することによって、先端の尖った形状を自己造形的に生成し、有してなる、BNで示され、sp3結合、またはこれとsp2結合との混合物による電界電子放出特性に優れた薄膜であって、未加工(as grown)のままでも、電圧を印加するだけで大気中でも安定して電界電子を放出しうるという、特有且つ格別な性質を発現する薄膜を提供することができる。
【0013】
ここに、本発明において、電界電子放出特性に優れた表面形状が自己造形的に形成されるためには、気相からの反応の際、紫外光の照射が必要である。このことは、本発明者らの発明になる先の特許出願においてすでに明らかにしているところである。そして、その理由としては、前示先の特許出願でも言及しているが、次のように考えることができる。すなわち、自己組織化による表面形態形成はイリヤ・プロゴジン(ノーベル賞受賞者)等による指摘によれば、「チューリング構造」として把握され、前駆体物質の表面拡散と表面化学反応とが競合するある種の条件において出現する。ここでは、紫外光照射がその両者の光化学的促進に関わり、初期核の規則的な分布に影響していると考えられる。紫外光照射により表面での成長反応が促進されるが、これは光強度に反応速度が比例することを意味する。初期核が半球形であると仮定すると、頂点付近では光強度が大きく、成長が促進されるのに対して、周縁部分では光強度が弱まり成長が遅れる。これが先端の尖った表面形成物の形成要因の一つであると考えられる。何れにしても紫外光照射が極めて重要な働きをなしており、これが重要なポイントであることは否定できない。
【0014】
さらにまた、本発明において、大気中で安定に電子放出性を発現する、なる事項は、本発明の電界電子放出素子の使用条件、使用態様を専ら大気中で使用することに限定することを意味するものでもなく、規定するものでもない。その記載事項の意味、意義は、従来の電界電子放出素子は、大気中では安定に作動することが困難であること、通常は素子を真空容器に保持し、真空下で作動するように設定されているのに対し、本発明の素子は、真空容器に保持しなくても作動しえる性能を有していることを意味しているものであって、ことさら大気中で使用することに限定することを意味するものではない。すなわち、大気中で使用する態様以外に、従来と同様に、真空容器に設定して使用する態様も含むものである。
【0015】
したがって、先端の尖ったBNで示される結晶が素子基板に形成された段階で、電子放出素子としての機能を十分に有するものであり、電子放出素子が成立しており、本発明は、この段階のものも電子放出素子として含むものである。勿論、前記結晶を含む窒化ホウ素材料が形成された素子基板をさらに他の手段と一体にして素子化したもの、モジュール化したものも含むものである。さらには、これらを、容器内に一体に取り付けた状態のもの、その容器内の雰囲気、圧力を、真空状態にすることも含め、調整した状態のものも、含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を、図面および実施例に基づいて詳細に説明する。
本発明の電界電子放出特性に優れたsp3結合、またはこれとsp2結合との混合物を得るためには、図1に示す構造のCVD反応容器を使用することができる。
図1において、反応容器1は、反応ガス及びその希釈ガスを導入するためのガス導入口2と、導入された反応ガス等を容器外へ排気するためのガス流出口3とを備え、真空ポンプに接続され、大気圧以下に減圧維持されている。容器内のガスの流路には窒化ホウ素析出基板4が設定され、その基板に面した反応容器の壁体の一部には光学窓5が取り付けられ、この窓を介して基板に紫外光が照射されるよう、エキシマ紫外光レーザー装置6が設定されている。
【0017】
反応容器に導入された反応ガスは、基板表面において照射される紫外光によって励起され、反応ガス中の窒素源とホウ素源とが気相且つ又は表面反応し、電子部材を構成する基板上に、一般式;BNで示され、sp3結合、またはこれとsp2結合との混合物が生成し、膜状に成長する。その場合の反応容器内の圧力は、0.001〜760Torrの広い範囲において実施可能であり、また、反応空間に設置された基板の温度は、室温〜1300℃の広い範囲で実施可能であることが実験の結果明らかとなったが、目的とする反応生成物を高純度で得るためには、圧力は低く、高温度で実施した方が好ましい。なお、基板表面ないしその近傍空間領域に対して紫外光を照射して励起する際、プラズマを併せて照射する態様も一つの実施の態様である。図1において、プラズマトーチ7は、この態様を示すものであり、反応ガス及びプラズマが基板に向けて照射されるよう、反応ガス導入口と、プラズマトーチとが基板に向けて一体に設定されている。
【0018】
この出願の発明は、以上の反応容器を用いて実施されるが、以下さらに図面及び具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、以下に開示する実施例は、あくまでも本発明を容易に理解するための一助として開示するものであって、これによって本発明は限定されるものではない。すなわち、本発明のねらいとするところは電界電子放出特性に優れた表面形状が自己造形的に形成されてなる、電界電子放出特性に優れたsp3結合性窒化ホウ素
を主体とし、あるいは、これにsp2結合との混合物を含む電界電子放出素子とその製造
方法を提供し、さらに、前記素子を使用した電子放出方法を提供するものであり、その目的が達成しうる限りで、反応条件等は適宜変更、設定することができることはいうまでもない。
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただしこれらの実施例は、発明を容易に理解しうるために開示するものであって、発明を限定する趣旨ではない。
【0020】
実施例1;
アルゴン流量3SLMの希釈ガス流中にジボラン流量5sccm及び、アンモニア流量10sccmを導入し、同時にポンプにより排気することで圧力10Torrに保った雰囲気中にて、加熱により900℃に保持した直径25mmの円盤状のニッケル基板上に、エキシマレーザー紫外光を照射した(図1参照)。この際、上記ガスは、図のように、13.56MHzの電界により誘導結合的にプラズマ化されている(プラズマ化されない場合にも同様なモルフォロジーが得られ、優れた電界電子放出特性が得られることがわかっているが、成長速度などに差が出る)。60分の合成時間により、目的とする物質を得た。X線回折法により決定したこの試料の結晶系は六方晶であり、sp3結合による5H型
多形構造で、格子定数は、a=2.50Å、c=10.40Åであった。
【0021】
その結果、走査型電子顕微鏡像(図2)に示すとおり、得られた物質薄膜は電界集中の生じやすい先端の尖った円錐状の突起構造物(数ミクロンから数十ミクロンメーターの長さ)に覆われた特異な表面形状が自己造形的に形成されていることが確認された。
【0022】
この薄膜の電界電子放出特性を調べるため、ITOガラスを陽極、試料側を陰極として両者の間隔を約40マイクロメータ離して、この間に電圧を印可し、大気中で電子放出量を測定した。この際、伝導性のITO側が試料側表面と向かい合う配置になる。結果を図3に示す。図に示されるとおり、閾値無しで、初めから電流の放出が見られ、約10V/μmの電界強度において、1μAの電流が大気中動作で得られている。約60分の測定の間、電流値の揺動はあるが、平均的な電流値の減少は見られなかった。なお、ここでは、ITO電極に多量の電流が流れるのを防ぐために、測定デバイスと直列に1MΩの抵抗を挿入して行った。この抵抗値の変更により、電流値の調整が可能である。
【0023】
また、参考のために、図4に、上と同様の実験を、真空中で行った場合の、Fowler−Nordheim プロットを示す。これは、横軸に 1/V、縦軸にLog[I/V^2]を取ったもの(Vはデバイス電圧、Iは電流値)で、測定点が直線に乗っており、量子力学的トンネル効果による電界電子放出が真空中では起きていることが理解される。
【0024】
実施例2;
実施例1で得られた試料面に10μm程度の厚さでZnO:Zn蛍光体を塗布し、さらにその表面から40μm程離して、ITOガラスを陽極として対面させて電界放出ディスプレイFED(Field Emission Display)を作製した。試料を陰極として電圧をかけ、大気中、1気圧の下で電子放出量を測定した。ここでも、ITO電極に多量の電流が流れるのを防ぐために、測定デバイスと直列に1MΩの抵抗を挿入した。その結果を図5に示す。図4と同程度に大気中でも良好な電子放出が見られる。
【0025】
実施例3;
実施例2と同様の実験を大気中、1気圧で行った。ただし、ここでは、密閉された測定チャンバー内に水で濡れたスポンジを置き、測定チャンバー内の空気の湿度が90%近くになるよう調整した。結果を図6に示す。作動雰囲気の湿度調整により電子放出量、電流値が実施例1、2に比較して、200倍近く増加していることが分かる。これは表面吸着水による表面電気双極子層の形成に起因する電子放出閾値の低下によるものと、本発明者らにおいては考えているが、学問的な詳細な検討は今後の研究に待つ。しかし、経験的・実験的事実としては、ここに湿度調整による電子放出特性の向上が確立された。なお、上記実施例に置いて、陽極・陰極間の絶縁が保たれていたことは、テスターなどにより確認されている。
【0026】
実施例4;
実施例2と同様の実験を大気中、1気圧で行った。ただし、ここでは、密閉された測定チャンバー内にエチルアルコール又はメチルアルコールで濡れたスポンジを置き、測定チャンバー内にアルコールを含む空気が満ちるよう調整した。結果を図7に示す。作動雰囲気のアルコール添加により電子放出量・電流値が実施例1・2に比較して、300倍近く増加していることが分かる。これは表面吸着水による表面電気双極子層の形成による電子放出閾値の低下により、電子放出特性の増大につながったものと推測している。即ち、水と同様にアルコールは分極性であり、BN表面への物理吸着特性があり、吸着層が表面電荷二重層を形成することにより、電子放出が容易になったものと考えられる。学問的な詳細な検討は今後の研究に待つ。しかし、経験的・実験的事実としては、ここに作動雰囲気のアルコール添加による電子放出特性の向上が確立された。
【0027】
以上述べたとおり、本発明は、電界電子放出特性に優れた表面形状、すなわち、先端の尖った状態を呈した形状が自己造形的に形成されてなる特異な構成を有してなるsp3
結合、あるいはこれとsp2結合との混合物を含む材料からなる、電界電子放出素子とそ
の製造方法、および、この素子を使用した電子放出方法を提供するものであって、これによって、電界電子放出閾値が低く、電流密度の高い、また、電子放出寿命の長い極めて良好な電界電子放出素子を、提供することが可能としたもので、その意義は極めて大きい。その応用範囲は極めて多様で、表示装置、照明装置を始めとして、電子放出現象を利用する分野において、今後大いに利用され、以って産業の発展に寄与することが期待される。
【0028】
すなわち、従来の1000倍以上の電流密度で電子線を放出することにより超高輝度かつ高効率な照明システムの構築、微少電子放出面積で十分な電流値が得られることを利用した超高精細ディスプレイ等の実現(携帯電話、ウアラブルコンピューターなどへの応用)、成長時における紫外光照射面のみが電子放出特性に優れることを利用した、特有な電子放出パターンの形成、あるいは、超高輝度ナノ電子源としての利用、さらにまた、超小型電子ビーム源、等等への道を実際に示したものである。
【0029】
その結果、本発明は、照明、ディスプレイをはじめ現代の日常生活の隅々に行き渡っている各種電気機器・デバイスの革新につながることが考えられ、そのため、その利用可能性は極めて広く、総じて人間生活のあらゆる範囲に関係し、その技術的、経済的効果はグローバルかつ膨大である。
【0030】
さらに述べると、本発明は、光照射下の薄膜の自己組織的成長現象において特有な形状のものが自然に発現すると言う特有な現象を見いだし、かつこの現象を利用したもので、成長薄膜自体が未加工(as grown)のままでも、電界電子放出特性の著しい促進効果のある表面形態を持つものであり、しかも、薄膜材料自体の物理的特性により、大電流密度を保ちながら、材料の放電による損傷がほとんど無く、上記目的に応用される場合の機能の寿命が半永久的であることを考慮すると、これを電界電子放出に適った形状やパターンにする工程を要していたこれまでの水準と比較するとその意義は、単にプロセスの違いだけでは済まされない、本質的に大きな違いによる意義が認められる。すなわち、本発明によって表面形状の自己造形効果と材料自体の卓越した物理的特性の相乗効果により、電界電子放出の電流密度が、定常的に従来の1000倍以上のA/cm2オーダーであり、かつ耐久性に優れた薄膜と、その製造方法及びその用途を提供したことは、現状の技術水準に対してその壁を一気に越える画期的とも言える意義、作用効果をもたらしたものと確信する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、前述した構成によって、電界電子放出閾値の低い、(2)電流密度の高い、そして、(3)電子放出寿命の長い電界電子放出素子を提供したものであり、その動作は、大気中でも十分に機能し、可能であることからもきわめて優れ、従来水準をはるかに超える。その中でも特に(2)及び(3)において際だった優秀な特性(従来の1000倍以上の電流密度とBNに特有の極めて優れた構造的強度・耐久性)を有するため、高輝度発光が求められる、長時間の激しい使用に条件においても材料劣化のない、安定した作動が求められる各種ランプ型光源デバイス、フィールドエミッション型ディスプレイ等に画期的な技術的ブレークスルーをもたらすことが予測され、その意義は極めて大きい。今後、これらの電子機器分野をはじめ、各種応用技術分野に大いに利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】反応装置の概略図と概要を示す図。
【図2】実施例1で作製した、先端の尖ったBN結晶を含む窒化ホウ素材料が薄膜を背景に適宜密度、分散状態で析出し、特有な表面形状を呈している様子を示した走査型電子顕微鏡像。
【図3】実施例1で得られた素子の大気中、1気圧における電界電子放出特性を示す図。
【図4】実施例1における真空中での電界電子放出特性のFowler−Nordheim プロット図。
【図5】実施例2で作製された素子の大気中、1気圧における電界電子放出特性を示す図。
【図6】実施例3で作製された素子の大気(加湿雰囲気)中における電界電子放出特性を示す図。
【図7】実施例4で作製された素子の大気(エチルアルコール添加雰囲気)中における電界電子放出特性を示す図。
【符号の説明】
【0033】
1. 反応容器(反応炉)
2. ガス導入口
3. ガス流出口
4. 窒化ホウ素析出基板
5. 光学窓
6. エキシマ紫外レーザー装置
7. プラズマトーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が素子基板に形成されてなり、電圧を印加することによって大気中でも安定に電子放出性を発現する、電界電子放出素子。
【請求項2】
前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、電子放出に適した間隔、密度で素子基板に自己造形的に形成されている、請求項1項に記載する電界電子放出素子。
【請求項3】
前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、sp3結合性BN、ま
たは、sp3結合性BNとsp2結合性BNとの混合物からなる、請求項1又は2項に記載する電界電子放出素子。
【請求項4】
前記先端の尖ったBNで示される結晶を含む窒化ホウ素材料が、紫外光によって励起され、気相からの反応によって形成されてなる、請求項1ないし3の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
【請求項5】
前記電子放出素子が発光表示装置に使用される電子放出素子である、請求項1ないし4の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
【請求項6】
前記電子放出素子が照明装置に使用される電子放出素子である、請求項1ないし4の何れか1項に記載する電界電子放出素子。
【請求項7】
アルゴン、ヘリウム等の希ガス、水素の単独またはこれらの混合希釈ガスを用いて、0.001〜760Torrの圧力のもとで、希釈ガスに対して、0.0001〜100体積%のホウ素源及び窒素源原料ガスを導入した雰囲気中にて、プラズマを発生し、あるいは発生せずして、室温〜1300℃に保持した電子放出素子基板に紫外光を照射することにより、BNで示されsp3結合性BN、またはこれとsp2結合性BNとの混合物からなる材料を含み、電圧を印加することによって大気中で安定に電子放出する先端の尖った表面形状を自己造形的に形成する、電界電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記請求項1ないし6の電子放出素子に電圧を印加して電子を放出させる、電子放出方法。
【請求項9】
前記電子放出素子に電圧を印加して電子を放出させる際、該電子放出素子を極性溶媒ガスを含んだ作動雰囲気と接触させることによって、該電子放出素子の電子放出性を向上させる、請求項8に記載する電子放出方法。
【請求項10】
前記極性溶媒ガスが、水、アルコールである、請求項9に記載する電子放出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−172796(P2006−172796A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361146(P2004−361146)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】