説明

太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物

【課題】太陽電池の光劣化よる透光性・絶縁性低下を防ぐ太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】下記平均組成式:R1a(OX)bSiO(4-a-b)/2(式中、R1は独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、Xは式:−SiR234(ここで、R2、R3及びR4は独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基である。)で表される基と、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはアシル基又はこれらの二種以上の基との組み合わせであり、aは1.00〜1.5の数であり、bは0<b<2を満たす数であり、但し、a+bは1.00<a+b<2である。)で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上であるシリル化オルガノポリシロキサンと、縮合触媒と、を含有することを特徴とする太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性、耐熱性、耐紫外線性、光学的透明性、強靭性、絶縁性、可撓性および接着性に優れ、さらに複屈折率が小さい硬化物を与える太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光起電力素子である太陽電池は安全性の高いクリーンなエネルギー源として期待されている。太陽電池の素材としては、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、または化合物半導体であるカドミウムセレン/カドミウムテルル、銅インジウムセレナイドが挙げられる。太陽電池は、例えば、これら半導体の光照射側に透明電極、集電電極を、裏面に裏面電極を形成した太陽電池と該太陽電池を封止・固定する材料層と透明な表面層とから構成される太陽電池モジュールとして用いられている。
【0003】
太陽電池モジュールを屋外で長期使用する場合、その光電変換機能が経時的に低下することが問題とされている。そこで、太陽電池モジュールに対しては、初期の光電変換機能が高いことだけでなく、屋外環境の中で長期的に光電変換機能を維持することも重要な課題として求められており、また、普及のために、安価であること、軽いことも求められている。光電変換機能の低下原因としては、バインダー樹脂として使用されているEVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体)の耐候性不足による変色や透光性、絶縁性の低下が指摘されている。これらの問題を解決するために、EVA樹脂の改良組成や、表面被覆材として、例えば、ガラス、セラミックスなどの透明無機化合物、ポリエステルなどの有機樹脂、透明無機化合物を気相法で表面にコーティングしたフッ素樹脂フィルムなどを用いた太陽電池モジュールが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、EVA樹脂の耐候性不足による変色や透光性、絶縁性の低下は、EVA樹脂の本質的な構造に起因するものであり、これまでに提案されてきたEVA樹脂の改良組成や改良表面被覆材では十分な結果が得られていない。現在、EVA樹脂に代わる材料として、耐候性、絶縁性、可撓性、接着性等に優れた保護膜材料が求められている。本発明は従来技術の問題点を解決することを目的になされたもので、太陽電池の光劣化よる透光性・絶縁性低下を防ぐ太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究の結果、本発明を成すに至った。即ち、本発明は第一に、
(イ)下記平均組成式(1):
1a(OX)bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、Xは式:−SiR234(ここで、R2、R3およびR4は独立に、非置換または置換の1価炭化水素基である。)で表される基と、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはアシル基またはこれらの二種以上の基との組み合わせであり、aは1.00〜1.5の数であり、bは0<b<2を満たす数であり、但し、a+bは1.00<a+b<2である。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上であるシリル化オルガノポリシロキサン、および
(ロ)縮合触媒
を含有することを特徴とする太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物、を提供する。
【0006】
本発明は第二に、太陽電池と、該太陽電池を封止する上記組成物の硬化物とを有してなる太陽電池モジュール、を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物は、耐候性、耐熱性、耐紫外線性、光学的透明性、強靭性、絶縁性、可撓性および接着性に優れ、さらに複屈折率が小さい硬化物の作製に有用である。その上、本発明の組成物は保存安定性も著しく優れている。したがって、太陽電池用として特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「室温」とは、24±2℃を意味する。また、「ポリスチレン換算の重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析による分子量分布における重量平均分子量であり、この分子量分布においてピークが2個以上ある分布形状を示す場合には、該分布形状における最大分子量のピークについての重量平均値を意味する。
【0009】
<組成物>
本発明の組成物は、(イ)成分および(ロ)成分を含有してなるものである。以下、本発明の組成物に配合される成分について詳述する。
【0010】
〔(イ)シリル化オルガノポリシロキサン〕
(イ)成分は、上記平均組成式(1)で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上、典型的には1×105〜6×105、より典型的には2×105〜5×105であるシリル化オルガノポリシロキサンである。重量平均分子量が5×104未満の場合には、高分子量オルガノポリシロキサンを後述の縮合触媒と混合して被膜を作製した際にクラックが入りやすく、50μm以上の厚さの被膜が得られないことがある。
【0011】
上記平均組成式(1)中、R1で表されるアルキル基、アルケニル基およびアリール基は、炭素原子数が1〜6のものである。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、アリル基、ビニル基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。R1としては、メチル基が特に好ましい。
【0012】
上記平均組成式(1)中、R2、R3およびR4は独立に、非反応性の置換または非置換の1価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数が1〜6、より好ましくは1〜3のものである。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、アリル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、それらの基の水素原子の一部または全部をハロゲン置換したもの等が例示される。また、Xで表されるアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基およびアシル基は、炭素原子数が1〜6のものである。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、アリル基、ビニル基等が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、エトキシエチル基、ブトキシエチル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。
【0013】
上記平均組成式(1)中、Xで表される[式:−SiR234(ここで、R2、R3およびR4は上述のとおりである。)で表される基]:[炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはアシル基またはこれらの二種以上の基]の割合は、モル比で、1:1〜8:1が好ましく、2:1〜4:1がより好ましい。かかる範囲を満たすと、硬化物組成として硬化性に優れ、さらに得られた硬化物の皮膜特性として良好な接着性が得られる。
【0014】
上記平均組成式(1)中、aは1.00〜1.5の数であり、好ましくは1.05〜1.3、特に好ましくは1.1〜1.2の数であり、bは0<b<2を満たす数であり、好ましくは0.01〜1.0、特に好ましくは0.05〜0.3の数である。aが1.00未満である場合には、被膜はクラックが入り易いものとなることがあり、1.5を超える場合には、被膜は強靭性がなく、脆くなり易いものとなることがある。bが0である場合には、被膜の基材に対する接着性が劣ることがあり、2以上の場合には、硬化被膜が得られないことがある。また、a+bは1.00<a+b<2を満たす数であり、好ましくは1.00〜1.5、特に好ましくは1.1〜1.3の数である。
【0015】
(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサンは、得られる硬化物の耐熱性がより優れたものとなるので、該シリル化オルガノポリシロキサン中のメチル基等に代表されるR1の比率(質量基準)を少なくすることが好ましく、具体的には32質量%以下、典型的には15〜30質量%、より典型的には20〜27質量%とすることが好ましい。また、(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。なお、(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサンは、UV照射等の用途に適用されるものである場合には、分子中にフェニル基等のアリール基を含有すると、UVによる劣化が大きくなる場合があるため、上記平均組成式(1)中のR1、Xあるいは後述の一般式(2)中のR5、R6としてはフェニル基等のアリール基以外のものであることが好ましい。
【0016】
−製造方法−
(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサンは、如何なる方法で製造されたものであってもよいが、例えば、通常の加水分解縮合で得られたオルガノポリシロキサンをシリル化することによって製造することができる。
【0017】
・シリル化に付すオルガノポリシロキサンの製造方法
シリル化に付すオルガノポリシロキサンは、具体的には、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物、好ましくは下記一般式(2):
SiR5c(OR6)4-c (2)
(式中、R5は独立に、前記で定義したR1と同じであり、R6は独立に、前記で定義したXのうち式:−SiR234で表される基を除くものと同じであり、cは0〜3の整数である。)
で表されるシラン化合物(c=1〜3)ならびにシリケート(c=0)および該シリケートの縮重合物(即ち、ポリシリケート)(以下、シリケートとポリシリケートを併せて「(ポリ)シリケート」という。)を、加水分解および縮合させることにより得られる。上記加水分解性基を有するシラン化合物は、好ましくは上記一般式(2)で表されるシラン化合物のみであるか、上記一般式(2)で表されるシラン化合物と上記(ポリ)シリケートとの組み合わせである。これらの一般式(2)で表されるシラン化合物および(ポリ)シリケートは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0018】
上記一般式(2)で表されるシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0019】
上記一般式(2)で表されるシリケートしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロピルオキシシラン等のテトラアルコキシシラン(即ち、アルキルシリケート)等が挙げられ、好ましくはメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシランである。また、上記ポリシリケートとしては、例えば、アルキルシリケートの重縮合物(アルキルポリシリケート)である、メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等が挙げられる。
【0020】
上記加水分解性基を有するシラン化合物は、加水分解性基を一分子中に3個有するシラン化合物(即ち、上記一般式(2)で表されるシラン化合物の場合にはc=1のシラン化合物)を合計で50モル%以上、特に70〜95モル%、とりわけ75〜85モル%含有するものであることが好ましい。加水分解性基を一分子中に3個有するシラン化合物の具体例としては、上記オルガノトリアルコキシシラン等のオルガノトリヒドロカルビルオキシシラン等が挙げられる。前記加水分解性基を一分子中に3個有するシラン化合物は、オルガノトリアルコキシシランであることが特に好ましい。
【0021】
特に、硬化物の耐クラック性および耐熱性が優れたものとなるので、上記のシリル化に付すオルガノポリシロキサンは、メチルトリメトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン50〜100モル%とジメチルジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン50〜0モル%とからなるものが好ましく、メチルトリメトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン75〜85モル%とジメチルジメトキシシラン等のジオルガノジアルコキシシラン25〜15モル%とからなるものがより好ましい。
【0022】
・シリル化に付すオルガノポリシロキサンの製造方法(好ましい実施形態)
好ましい実施形態では、上記シリル化に付すオルガノポリシロキサンは、加水分解性基を有するシラン化合物を一次加水分解縮合と二次加水分解縮合の二段階の加水分解縮合反応を行うことにより得ることができる。例えば、以下の条件を適用することができる。
【0023】
具体的には、例えば、
(i)加水分解性基を有するシラン化合物を第一次の加水分解および縮合に供してオルガノポリシロキサンを得ること(工程(i))と、
(ii)該オルガノポリシロキサンをさらに第二次の加水分解および縮合に供すること(工程(ii))と、
を含む工程により製造することが好ましい。
【0024】
工程(i)で出発物質として用いる加水分解性基を有するシラン化合物の詳細は、上記で加水分解性基を有するシラン化合物として説明・例示したとおりである。
【0025】
工程(i)の加水分解性基を有するシラン化合物の加水分解および縮合は、通常の方法で行えばよいが、例えば、酢酸、塩酸、硫酸等の酸触媒の存在下で行うことが好ましい。酸触媒を使用する場合の使用量は、例えば、加水分解性基を有するシラン化合物中の加水分解性基の合計1モル当り、0.0001〜0.01モル、好ましくは0.0005〜0.005モル程度とすることができる。上記範囲を満足する使用量の場合、目的とする適切な分子量の加水分解縮合物を得ることができる。
【0026】
工程(i)の加水分解および縮合の際に添加される水の量は、上記加水分解性基を有するシラン化合物中の加水分解性基(通常、アルコキシ基等のヒドロカルビルオキシ基)の合計量1モル当り、通常、0.9〜1.5モルであり、好ましくは1.0〜1.2モルである。この添加量が0.9〜1.5モルの範囲を満たすと、組成物は作業性が優れ、その硬化物は強靭性が優れたものとなる。
【0027】
上記加水分解性基を有するシラン化合物は、通常、アルコール類、ケトン類、エステル類、セロソルブ類、芳香族化合物類等の有機溶剤に溶解して使用することが好ましい。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類が好ましく、組成物の硬化性および硬化物の強靭性が優れたものとなるので、イソブチルアルコールがより好ましい。
【0028】
工程(i)の加水分解および縮合の反応温度は、好ましくは40〜120℃、より好ましくは60〜80℃である。反応温度がかかる範囲を満たすと、ゲル化することなく、次の工程に使用可能な分子量の加水分解縮合物が得られる。
【0029】
こうして工程(i)で目的とするオルガノポリシロキサンが得られる。このオルガノポリシロキサンは、上記有機溶剤を使用した場合には溶液の状態で得られ、溶液の状態で工程(ii)に用いても、溶剤を留去して不揮発分のみとしてから工程(ii)に用いてもよいが、通常、工程(ii)に供するには、溶剤等による揮発分が5質量%以上であることが好ましく、10〜35質量%であることがより好ましい。揮発分が5質量%未満ではゲル化し易くなることがあり、35質量%を超えると反応性が低下することがある。工程(i)で得られるオルガノポリシロキサンのポリスチレン換算の重量平均分子量は、好ましくは5×103〜6×104、より好ましくは1×104〜5×104、特に好ましくは2×104〜4×104である。かかる範囲を満たすと、工程(ii)において、高分子量化し易くなり、目的とする適切な高分子量のオルガノポリシロキサンを得ることができる。
【0030】
工程(ii)は、工程(i)で得られた上記オルガノポリシロキサンをさらに第二次の加水分解および縮合に供するものである。
【0031】
この第二次の加水分解および縮合は加水分解縮合触媒である陰イオン交換樹脂の存在下で行われることが好ましい。この陰イオン交換樹脂としては、ポリスチレン系陰イオン交換樹脂が好ましい。この陰イオン交換樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。ポリスチレン系陰イオン交換樹脂としては、商品名で、ダイヤイオン(三菱化学(株)製)が好適に使用される。具体的な商品名としては、ダイヤイオンSAシリ−ズ(SA10A,SA11A,SA12A,NSA100,SA20A,SA21A)、ダイヤイオンPAシリ−ズ(PA308,PA312,PA316,PA406,PA412,PA418)、ダイヤイオンHPAシリ−ズ(HPA25)、ダイヤイオンWAシリ−ズ(WA10,WA20,WA21J,WA30)等が挙げられる。
【0032】
前記陰イオン交換樹脂の中でも、下記構造式(3):
【0033】
【化1】

(3)
で表される分子構造を有する水分含有系のポリスチレン系陰イオン交換樹脂が好ましく、この樹脂中に30〜70質量%、とりわけ40〜50質量%の水分を含有するポリスチレン系陰イオン交換樹脂が特に好ましい。上記具体例のうち、SA10Aは上記構造式(3)で表される分子構造を有し、樹脂中に43〜47質量%の水分を含有するポリスチレン系陰イオン交換樹脂であるので、特に好適に使用される。水分含有系のポリスチレン系陰イオン交換樹脂等の陰イオン交換樹脂を用いた場合には、該触媒中の水分が作用して反応が進行する。なお、水分含有系のポリスチレン系陰イオン交換樹脂とは、最も一般的には、ゲル型のイオン交換樹脂であり、該樹脂粒子内部が均一な架橋高分子で構成されているもので、透明感のある外観である。該樹脂粒子の内部は橋架けされた高分子が均一な網目状の構造となっており、この網目の隙間を通って水分等が粒子内部まで自由に拡散しているものである。水分含有系の陰イオン交換樹脂を用いない場合には、別途、水を添加する必要がある。その際の水の使用量は、樹脂中に30〜70質量%の割合となるように添加することが好ましく、水がない場合や少なすぎる場合には陰イオンの塩基性が弱くなり、反応性が低下する場合があり、上記適切な割合の水分が存在することによって塩基性が強くなり、反応が良好に進行する。
【0034】
この陰イオン交換樹脂の使用量は、工程(ii)の出発物質であるオルガノポリシロキサンの不揮発分に対して、通常、1〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。かかる範囲を満たすと、反応速度が良好であり、かつシリル化に付すオルガノポリシロキサンとしてより安定したものが得られる。
【0035】
工程(ii)の加水分解および縮合の反応温度は、0〜40℃が好ましく、特に15〜30℃であるとより良好に反応が進行する。反応温度がかかる範囲を満たすと、反応速度が良好であり、かつシリル化に付すオルガノポリシロキサンとしてより安定したものが得られる。
【0036】
工程(ii)の加水分解および縮合は、溶剤中で行うことが好ましく、有機固形成分の濃度が、特には50〜95質量%、とりわけ65〜90質量%の条件で行うことが好ましい。かかる範囲を満たすと、反応速度が良好であり、かつシリル化に付すオルガノポリシロキサンとしてより安定したものが得られる。
【0037】
前記溶剤としては、特に限定されないが、沸点が64℃以上であるものが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒;メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶媒;オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられ、更にセロソルブアセテート、シクロヘキサノン、ブチロセロソルブ、メチルカルビトール、カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチルカルビトール、シクロヘキサノール、ジグライム、トリグライム等の沸点150℃以上の有機溶媒等が挙げられ、好ましくはキシレン、イソブチルアルコール、ジグライム、トリグライム、特に好ましくはイソブチルアルコールである。これらの溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0038】
こうして工程(ii)の目的とする上記のシリル化に付すオルガノポリシロキサンが得られる。ここで得られたシリル化に付すオルガノポリシロキサンは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上であることが好ましく、典型的には1×105〜6×105、より典型的には2×105〜5×105であることがより好ましい。工程(ii)の加水分解および縮合を溶剤中で行った場合には、該シリル化に付すオルガノポリシロキサンは溶液の状態で得られるものであり、溶液の状態でシリル化に付してもよいし、溶媒を留去して不揮発分のみとしてからシリル化に付してもよいが、溶媒がない状態では、容易にゲル化する傾向が強くなるため、保存安定性の点から、溶液の状態で保存することが好ましく、特に、溶液の状態で5℃以下の温度で保存することがより好ましい。
【0039】
・オルガノポリシロキサンのシリル化
上記のいずれの方法によって得られたシリル化に付すオルガノポリシロキサンも、高分子量であるため、残存する水酸基の縮合により、容易にゲル化しやすい。そこで、このオルガノポリシロキサン中に残存する水酸基をシリル化(即ち、シリル化反応)することにより、安定化することができる。このシリル化反応の反応温度は、通常、0〜150℃であり、好ましくは0〜60℃である。
【0040】
その方法としては、例えば、非反応性の置換基と結合したシリル基を有する化合物と反応させる方法が挙げられ、具体的には、トリアルキルハロシランと反応させる方法、ヘキサアルキルジシラザン、N,N-ジエチルアミノトリアルキルシラン、N-(トリアルキルシリル)アセトアミド、N-メチル(トリアルキルシリル)アセトアミド、N,O-ビス(トリアルキルシリル)アセトアミド、N,O-ビス(トリアルキルシリル)カーバメート、N-トリアルキルシリルイミダゾール等の窒素含有シリル化剤を用いる方法、トリアルキルシラノールと反応させる方法、ヘキサアルキルジシロキサンと弱酸性下で反応させる方法等が挙げられる。トリアルキルハロシランを用いる場合には、塩基を共存させて、副生するハロゲン化水素を中和してもよい。窒素含有シリル化剤を用いる場合はトリメチルクロロシラン、硫酸アンモニウム等の触媒を添加してもよい。具体的には、トリメチルクロロシランがトリエチルアミン共存下でシリル化剤として使用される方法が好適である。
【0041】
これらのシリル化反応は溶媒中で行ってもよいが、溶媒を使用せずに行ってもよい。溶媒を使用する場合には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、クロロホルム、トリクロロエチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が使用できる。
【0042】
こうして本発明の目的とする、上記平均組成式(1)で表され、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上、典型的には1×105〜6×105、より典型的には2×105〜5×105であるシリル化オルガノポリシロキサンが得られる。シリル化反応を溶媒中で行った場合には、シリル化オルガノポリシロキサンは溶液の状態で得られるが、溶液の状態で保存・使用してもよいし、溶媒を留去して不揮発分のみとしてから保存・使用してもよい。
【0043】
〔(ロ)縮合触媒〕
(ロ)成分の縮合触媒は、(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサンを硬化させるために必要とされる成分である。縮合触媒としては、特に限定されないが、シリル化オルガノポリシロキサンの安定性、得られる硬化物の硬度、無黄変性等に優れるので、通常、有機金属系触媒が用いられる。この有機金属系触媒としては、例えば、亜鉛、アルミニウム、チタン、錫、コバルト等の原子を含有するものが挙げられ、好ましくは、錫、亜鉛、アルミニウム、チタンの原子、またはこれらの原子の組み合わせを含有するものである。より具体的には、例えば、有機酸亜鉛、ルイス酸触媒、アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物等が好適に用いられ、特に、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、p-tert-ブチル安息香酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムアセチルアセトナート、アルミニウムブトキシビスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスエチルアセトナ−ト、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、オクチル酸錫、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸錫等が例示されるが、これらの中でも、アルミニウムアセチルアセトナート、アセチルアセトン変性アルミニウム化合物(例えば、市販品では、商品名:アセトープ Al-MX3としてホ−プ製薬(株)から入手できる。)が好ましく使用される。
【0044】
縮合触媒の添加量は、(イ)成分のシリル化オルガノポリシロキサン100質量部に対して、通常、0.05〜10質量部であり、好ましくは0.1〜5質量部である。かかる範囲を満たすと、組成物の硬化性が良好であり、安定したものとなる。(ロ)成分の縮合触媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0045】
〔その他の任意成分〕
本発明の組成物には、上記(イ)成分および(ロ)成分以外にも、本発明の作用・効果を損なわない範囲において、その他の任意成分を配合することができる。その他の任意成分としては、例えば、無機フィラー、無機蛍光体、老化防止剤、ラジカル禁止剤、紫外線吸収剤、接着性改良剤、難燃剤、界面活性剤、保存安定性改良剤、オゾン劣化防止剤、光安定剤、増粘剤、可塑剤、カップリング剤、酸化防止剤、熱安定剤、導電性付与剤、帯電防止剤、放射線遮断剤、核剤、リン系過酸化物分解剤、滑剤、顔料、金属不活性化剤、物性調整剤、有機溶媒等が挙げられる。これらの任意成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0046】
無機フィラーを配合すると、得られる硬化物の光の散乱や組成物の流動性が適切な範囲となったり、該組成物を利用した材料が高強度化されたりする等の効果がある。無機フィラーとしては、特に限定されないが、光学特性を低下させない微粒子状のものが好ましく、例えば、アルミナ、水酸化アルミニウム、溶融シリカ、結晶性シリカ、超微粉無定型シリカ、疎水性超微粉シリカ、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0047】
〔組成物の調製〕
最も単純な実施形態において、本発明の組成物は、前記(イ)成分および(ロ)成分を含有し、シリカ充填剤等の無機フィラーを含有しない組成物であり、特には前記(イ)成分および(ロ)成分のみから実質的になる組成物である。
【0048】
本発明の組成物は、前記(イ)成分、(ロ)成分、および場合により含有される任意成分を任意の方法により混合して調製することができる。具体的には、例えば、(イ)成分、(ロ)成分、および場合によっては含まれる任意成分を、通常、市販の攪拌機(例えば、THINKY CONDITIONING MIXER((株)シンキー製)等)に入れて、1〜5分間程度、均一に混合することによって、本発明の組成物を調製することができる。
【0049】
本発明の組成物は、無溶剤の状態でフィルム状等に成形してもよいが、該組成物を有機溶媒に溶解してワニスとしてもよい。前記有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、上記工程(ii)の加水分解縮合で用いてもよい溶剤として例示・説明したものが挙げられる。
【0050】
〔硬化物の作製〕
前記組成物を硬化させることにより透明な硬化物を作製することができる。この硬化物の厚さとしては、特に限定されないが、下限が好ましくは10μm、特に好ましくは50μmであり、上限が好ましくは3mm(3000μm)、特に好ましくは1mm(1000μm)であり、典型的には10μm〜3mmである。
【0051】
硬化条件としては、例えば、前記組成物を25〜180℃で1〜12時間程度加熱すればよいが、25〜180℃の範囲でステップキュアすることが好ましい。ステップキュアは、例えば、2段階または3段階以上を経て、好ましくは以下の3段階を経て行うことができる。まず、組成物を25〜60℃で低温硬化させる。硬化時間は0.5〜2時間程度の範囲でよい。次いで、低温硬化させた組成物を60〜150℃で加熱硬化させる。硬化時間は0.5〜2時間程度の範囲でよい。最後に、加熱硬化させた組成物を160〜180℃でさらに加熱硬化させる。硬化時間は1〜10時間程度の範囲でよい。より具体的には、該組成物を60℃で1時間低温硬化させ、次いで150℃で1時間加熱硬化させ、さらに180℃で4時間加熱硬化させることが好ましい。これらの段階を経たステップキュアにより、硬化物は硬化状態が良好となり、気泡の発生も適切に抑制される。更に、ステップキュアにより、上記の厚さを有する無色透明の硬化物を得ることができる。特に、100℃以上の温度で加熱硬化させる工程を含む方法により厚さ10μm〜3mmの硬化物を作製することが可能であり、残存するシリル基、アルコキシ基等の反応性の差に従って硬化させるため、硬化ひずみ(内部応力)が少ないので好ましい。
【0052】
本発明の組成物を硬化させてなる硬化物は、高強度で、かつ可撓性、接着性が良好であり、更に厚膜(例えば、50μm以上)の作製が可能な優れた特性を有する。
【0053】
本発明の組成物を硬化させてなる硬化物のガラス転移点(Tg)は、通常、市販の測定器(例えば、真空理工(株)製の熱機械試験器(商品名:TM-7000、測定範囲:25〜200℃))では検出されないほど高いので、硬化物は極めて耐熱性に優れたものである。
【0054】
〔組成物の用途〕
本発明の太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、太陽電池の被覆、封止、接着、保護等の用途に有用である。即ち、本発明の組成物の硬化物を用いて、太陽電池の被覆、封止、接着、保護等を行うことができる。よって、本発明の組成物の硬化物は、太陽電池用のバインダー樹脂、コーティング材等として用いることができる。具体的には、例えば、組成物を太陽電池に塗布することと、該太陽電池に塗布された組成物を硬化させることとを有する方法で太陽電池の被覆、封止、接着、保護等を行うことができる。組成物の塗布は、例えば、スプレー、ロールコーター、スピンコート、バーコーター、フローコ−ター、ハケ、スキージングおよびデイッピングなどにより実施することができる。また、圧縮成型、トランスファー成型、インジェクション成型なども可能である。塗布された組成物は、例えば、上記のステップキュアを用いて硬化させることができる。
【0055】
本発明における太陽電池(光起電力素子)は、光電変換機能を発現するかぎりにおいて、その形状、材質が限定されることはない。太陽電池の形状としては、例えば、薄膜等の平面状、単結晶状、粉体等の粒子状、繊維状が挙げられ、これらを二つ以上組み合わせたり、集合体、分散体として用いたりしてもよい。太陽電池の材質としては、均質の無機化合物、有機化合物、有機金属化合物およびこれらの混合物が挙げられる。
【0056】
太陽電池の被覆、封止、接着、保護等を行う場合、本発明の組成物の硬化物の厚みは、通常、0.01〜1000μmであり、特に、太陽電池の形状が平面状である場合には1〜1000μmであり、太陽電池の形状が非平面状、例えば、粉体等の粒子状、単結晶状である場合には0.01〜10μmである。該厚みが0.01μm未満では実質的保護効果は低くなりやすく、該厚みが1000μmを越えると、得られる硬化物の柔軟性が低下する場合がある。
【0057】
〔太陽電池モジュール〕
本発明の太陽電池モジュールは、太陽電池と、該太陽電池を封止する本発明組成物の硬化物とを有するものである。図1は、本発明の太陽電池モジュールの一例を示す縦断面図である。図1の太陽電池モジュール1において、ガラス板2、硬化物層3、太陽電池4(N型半導体5およびP型半導体6からなる。)、硬化物層7ならびに背面材8が光照射面側からこの順番で配置されている。
【0058】
図1において、ガラス板2は、太陽電池モジュール1の光照射面を保護し、太陽電池モジュール1の外側から内側へ光を導く役割を果たす。硬化物層3および7は、本発明組成物の硬化物からなり、太陽電池4を支持・固定するとともに外部からの衝撃、水分の侵入を防ぐ役割を有する。また、ガラス板2および背面材8を太陽電池モジュール1に接着させる接着剤としての役割も果たしている。ガラス板2を透過してきた光は更に硬化物層3および7を透過して太陽電池4に到達するので、硬化物層3および7は、300nm以上の波長領域で光透過率が80%以上であり、また、入射光の反射による損失を防ぐため、屈折率は1.4から2.0の範囲であることが望ましい。また、硬化物層3および7には必要に応じて架橋剤、紫外線吸収材を添加してもよい。太陽電池4は、N型半導体5およびP型半導体6からなる。太陽電池4は、単独で用いても、1種を複数で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。背面材8は、硬化物層3および7で封止された太陽電池4を支持・固定し、背面からの物理的衝撃による破損を防止する材料である。背面材8としては、例えば、絶縁性樹脂、セラミック、絶縁被覆した金属基板、絶縁性無機化合物をコーテイングしたフッ素樹脂フィルムを用いることができる。
【0059】
太陽電池モジュール1は、背面材8に本発明組成物を塗布し硬化させて硬化物層7を形成させ、次に、硬化物層7上に太陽電池4を載せ、その上に本発明組成物を塗布し、更にその上にガラス板2を載せ、該組成物を硬化させて硬化物層3を形成させることにより作製することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、合成例で用いたメチルトリメトキシシランは信越化学工業(株)製のKBM13(商品名)であり、ジメチルジメトキシシランは信越化学工業(株)製のKBM22(商品名)である。
【0061】
<合成例1>
1Lの3つ口フラスコに、撹拌装置および冷却管をセットした。このフラスコに、メチルトリメトキシシラン109g(0.8モル)とジメチルジメトキシシラン24g(0.2モル)とイソブチルアルコ−ル106gとを入れ、撹拌しながら氷冷した。系中の温度を0℃〜20℃に保ちながら、0.05Nの塩酸溶液60.5gを滴下した。滴下終了後、80℃の還流温度で11時間攪拌した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却した後、該反応液にキシレン150gを入れて希釈した。その後、希釈した反応液を分液ロートに入れて水300gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水することにより水を留去し、揮発分を30質量%に調整して、下記式(4):
(CH3)1.2(OX)0.25SiO1.28 (4)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=6.1:1.1:1.1(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が24000のオルガノポリシロキサンA溶液を113g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)得た。
【0062】
次に、得られたオルガノポリシロキサンA溶液113g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)とポリスチレン系陰イオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンSA10A、三菱化学(株)製、水分含有量:43〜47質量%)15.8gをフラスコに入れて、室温で72時間、攪拌混合して反応させた。72時間の反応終了後、キシレン27gを入れて、ろ過することにより下記式(5):
(CH3)1.2(OX)0.12SiO1.34 (5)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=5.1:1.1:1.0(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が210000のオルガノポリシロキサンB溶液を135g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)得た。
【0063】
更に、得られたオルガノポリシロキサンB溶液135g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)とトリエチルアミン36gとキシレン120gとをフラスコに入れた後、攪拌しながら、25〜60℃でトリメチルシリルクロライド26gを滴下した。滴下終了後、2時間室温で反応させた後、水を200g滴下した。その後、反応液を分液ロートに入れて分離した後、水200gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水で水を留去、ろ過、溶剤ストリップを行うことにより、下記式(6):
(CH3)1.2(OX)0.10SiO1.35 (6)
(式中、Xは、−Si(CH3)3で表される基:メチル基:イソブチル基=5.0:1.0:1.0(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が220000のシリル化オルガノポリシロキサンC溶液を71g(有機溶媒を含み、不揮発分92質量%である。)得た。
【0064】
<合成例2>
1Lの3つ口フラスコに、撹拌装置および冷却管をセットした。このフラスコに、メチルトリメトキシシラン68.1g(0.5モル)とジメチルジメトキシシラン60.1g(0.5モル)とイソブチルアルコ−ル118gとを入れ、撹拌しながら氷冷した。系中の温度を0℃〜20℃に保ちながら、0.05Nの塩酸溶液54gを滴下した。滴下終了後、80℃の還流温度で11時間攪拌した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却した後、該反応液にキシレン150gを入れて希釈した。その後、希釈した反応液を分液ロートに入れて水300gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水することにより水を留去し、揮発分を30質量%に調整して、下記式(7):
(CH3)1.5(OX)0.28SiO1.11 (7)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=6.3:1.2:1.2(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が9000のオルガノポリシロキサンD溶液を109g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)得た。
【0065】
次に、得られたオルガノポリシロキサンD溶液109g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)とポリスチレン系陰イオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンSA10A、三菱化学(株)製、水分含有量:43〜47質量%)15.2gをフラスコに入れて、室温で72時間、攪拌混合して反応させた。72時間の反応終了後、キシレン25gを入れて、ろ過することにより、下記式(8):
(CH3)1.5(OX)0.21SiO1.15 (8)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=5.3:1.1:1.2(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が80000のオルガノポリシロキサンE溶液を133g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)得た。
【0066】
更に、得られたオルガノポリシロキサンE溶液133g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)とトリエチルアミン36gとキシレン120gとをフラスコに入れた後、攪拌しながら、25〜60℃でトリメチルシリルクロライド26gを滴下した。滴下終了後、2時間室温で反応させた後、水を200g滴下した。その後、反応液を分液ロートに入れて分離した後、水200gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水で水を留去、ろ過、溶剤ストリップを行うことにより、下記式(9):
(CH3)1.5(OX)0.19SiO1.16 (9)
(式中、Xは、−Si(CH3)3で表される基:メチル基:イソブチル基=5.3:1.1:1.1(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が84000のシリル化オルガノポリシロキサンF溶液を70g(有機溶媒を含み、不揮発分91質量%である。)得た。
【0067】
<合成例3>
1Lの3つ口フラスコに、撹拌装置および冷却管をセットした。このフラスコに、メチルトリメトキシシラン136.2g(1.0モル)とイソブチルアルコ−ル106gとを入れ、撹拌しながら氷冷した。系中の温度を0℃〜20℃に保ちながら、0.05Nの塩酸溶液81gを滴下した。滴下終了後、80℃の還流温度で11時間攪拌した。次いで、得られた反応液を室温まで冷却した後、該反応液にキシレン150gを入れて希釈した。その後、希釈した反応液を分液ロートに入れて水300gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水することにより水を留去し、揮発分を30質量%に調整して、下記式(10):
(CH3)1.0(OX)0.24SiO1.38 (10)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=6.5:1.3:1.2(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が27000のオルガノポリシロキサンG溶液を105g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)得た。
【0068】
次に、得られたオルガノポリシロキサンG溶液105g(有機溶媒を含み、不揮発分70質量%である。)とポリスチレン系陰イオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンSA10A、三菱化学(株)製、水分含有量:43〜47質量%)14.7gをフラスコに入れて、室温で72時間、攪拌混合して反応させた。72時間の反応終了後、キシレン24gを入れて、ろ過することにより、下記式(11):
(CH3)1.0(OX)0.12SiO1.44 (11)
(式中、Xは、水素原子:メチル基:イソブチル基=5.3:1.0:1.1(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が280000のオルガノポリシロキサンH溶液を124g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)得た。
【0069】
更に、得られたオルガノポリシロキサンH溶液124g(有機溶媒を含み、不揮発分57質量%である。)とトリエチルアミン33gとキシレン120gとをフラスコに入れた後、攪拌しながら、25〜60℃でトリメチルシリルクロライド24gを滴下した。滴下終了後、2時間室温で反応させた後、水を200g滴下した。その後、反応液を分液ロートに入れて分離した後、水200gで洗浄し、水洗液の抽出水伝導度が2.0μS/cm以下になるまで洗浄を継続した。そして、前記洗浄済み反応液を共沸脱水で水を留去、ろ過、溶剤ストリップを行うことにより、下記式(12):
(CH3)1.0(OX)0.10SiO1.45 (12)
(式中、Xは、−Si(CH3)3で表される基:メチル基:イソブチル基=4.9:1.1:1.0(モル比)の組み合わせである。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が285000のシリル化オルガノポリシロキサンI溶液を69g(有機溶媒を含み、不揮発分92質量%である。)得た
【0070】
<実施例1>(太陽電池モジュールの作製)
絶縁処理した亜鉛鋼板(サイズ:38mm×85mm×0.5mm(厚さ))を背面材として用いた。この亜鉛鋼板の上に、合成例1で得たシリル化オルガノポリシロキサンC溶液50gとアルミニウムアセチルアセトナート0.5gとジグライム5gとの混合液(J溶液)をスキージングで塗布後、室温で30分、続いて80℃で30分加熱乾燥させることにより厚み15μmの硬化物層を形成させた。次に、硬化物層の上に太陽電池(サイズ:10mm×20mm×0.5mm(厚さ)、3個)を載せ、その上にJ溶液をスキージングで塗布し、更にその上にガラス板(サイズ:38mm×85mm×1mm(厚さ))を載せ、その後、順次、室温で30分、80℃で30分、150℃で1時間、180℃で4時間乾燥させることにより全体として厚み30μmの硬化物層を形成させて、図1の構造を有する太陽電池モジュールを作製した。
【0071】
<実施例2>(太陽電池モジュールの作製)
実施例1において、J溶液の代わりに、合成例2で得たシリル化オルガノポリシロキサンF溶液50gとアルミニウムアセチルアセトナート0.5gとジグライム5gとの混合液(K溶液)を用いた以外は実施例1と同様にして、図1の構造を有する太陽電池モジュールを作製した。
【0072】
<実施例3>(太陽電池モジュールの作製)
実施例1において、J溶液の代わりに、合成例3で得たシリル化オルガノポリシロキサンI溶液50gとアルミニウムアセチルアセトナート0.5gとジグライム5gとの混合液(L溶液)を用いた以外は実施例1と同様にして、図1の構造を有する太陽電池モジュールを作製した。
【0073】
<比較例1>(太陽電池モジュールの作製)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(単量体モル比 エチレン:酢酸ビニル=10:1)に架橋剤(1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、添加量:EVA100質量部に対して2.0質量部)と紫外線吸収材(2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、添加量:EVA100質量部に対して0.03質量部)とを添加し成形して得たシートを、透明な接着剤の機能を有する有機樹脂被覆層として用いた。ガラス板/有機樹脂被覆層(EVA)/太陽電池/有機樹脂被覆層(EVA)/背面材(絶縁処理した亜鉛鋼板)(ガラス板、太陽電池、背面材は実施例1で用いたものと同じ)をこの順で重ね、真空ラミネ−タに入れ、1Torrに真空排気したのち、大気圧をかけ140℃で30分間加熱してこれらを接着し、図1において硬化物層3および7を上記の有機樹脂被覆層で置き換えた構造を有する太陽電池モジュールを作製した。有機樹脂被覆層の厚みは全体として30μmだった。
【0074】
<評価試験>
実施例1〜3および比較例1で得られた各モジュールについて以下の試験を行った。結果は表1に示す。
【0075】
1)屋外曝露による耐候性評価
実施例1〜3および比較例1で作製したモジュールを工場地域の屋外において水平面に対し北向きに45度に傾斜させた支持体に固定し、1年間、放置することにより、屋外曝露試験を行った。表1において、表面外観の変化のあるものを×、変化のないものを○と判定した。
【0076】
2)耐熱性評価
実施例1〜3および比較例1で作製したモジュールを250℃のオーブンに入れ、48時間経過後に表面外観を観察した。表1において、表面外観の変化のあるものを×、変化のないものを○と判定した。
【0077】
3)耐紫外線性評価
実施例1〜3および比較例1で作製したモジュールをUVランプ(温度120℃、60mW/cm2)で照射して、24時間後に表面外観を観察した。表1において、表面外観の変化のあるものを×、変化のないものを○と判定した。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように、本発明の太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物を用いる太陽電池モジュールは、従来のエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いる太陽電池モジュールよりも優れた耐候性、耐紫外線性、耐熱性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの一例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1 太陽電池モジュール
2 ガラス板
3 硬化物層
4 太陽電池
5 N型半導体
6 P型半導体
7 硬化物層
8 背面材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)下記平均組成式(1):
1a(OX)bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は独立に、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基又はアリール基であり、Xは式:−SiR234(ここで、R2、R3およびR4は独立に、非置換または置換の1価炭化水素基である。)で表される基と、炭素原子数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはアシル基またはこれらの二種以上の基との組み合わせであり、aは1.00〜1.5の数であり、bは0<b<2を満たす数であり、但し、a+bは1.00<a+b<2である。)
で表される、ポリスチレン換算の重量平均分子量が5×104以上であるシリル化オルガノポリシロキサン、および
(ロ)縮合触媒
を含有することを特徴とする太陽電池用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
前記R2、R3およびR4がメチル基である請求項1に係る組成物。
【請求項3】
前記R1が炭素原子数1〜6のアルキル基である請求項1または2に係る組成物。
【請求項4】
前記R1がメチル基である請求項3に係る組成物。
【請求項5】
前記(イ)シリル化オルガノポリシロキサン中の前記R1の比率が32質量%以下である請求項1〜4のいずれか一項に係る組成物。
【請求項6】
前記(ロ)縮合触媒が有機金属系触媒である請求項1〜5のいずれか一項に係る組成物。
【請求項7】
前記有機金属系触媒が錫、亜鉛、アルミニウムもしくはチタンまたはこれらの二種以上の原子を含有する請求項6に係る組成物。
【請求項8】
前記有機金属系触媒がアルミニウムキレート化合物である請求項7に係る組成物。
【請求項9】
前記アルミニウムキレート化合物がアセチルアセトン変性アルミニウム化合物である請求項8に係る組成物。
【請求項10】
太陽電池と、該太陽電池を封止する請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物の硬化物とを有してなる太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332248(P2007−332248A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164892(P2006−164892)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】