説明

学習制御機能を備えたロボット

【課題】大部分の現場において、学習制御器の調整は経験に基づいて試行錯誤で行われており、調整が難しいという問題があった。
【解決手段】本発明のロボットは、位置制御の対象とする部位にセンサを備えたロボット機構部と、ロボット機構部の動作を制御する制御装置とを含むロボットであって、制御装置は、ロボット機構部の動作を制御する通常制御部と、作業プログラムによりロボット機構部を動作させて、センサによって検出した前記ロボット機構部の制御対象位置を通常制御部に与えられた目標軌跡もしくは位置に近づけるために学習補正量を算出する学習を行う学習制御部と、を有し、学習制御部は、学習稼動状態で設定可能な最大速度オーバライドを算出し、最大速度オーバライドに至るまで複数回に渡って速度オーバライドを増加させながら学習補正量を算出する学習を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は学習制御機能を備えたロボットに関し、特にアーム側に取り付けたセンサを利用して動作の高速化を行うロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットにおいて、サーボモータで駆動される被駆動体の位置や速度を制御するために、通常、位置フィードバック制御、速度フィードバック制御さらには電流フィードバック制御がなされ、被駆動体が指令位置、速度と一致するように制御がなされる。
【0003】
このような位置、速度、電流のフィードバック制御を行っても、ロボットの高速動作では、軌跡誤差・位置振動成分が発生する。また、高速動作ではモータ側とアーム側の動特性が違うために、モータエンコーダからはアーム側の軌跡誤差・位置振動成分を直接測定する事はできなくなる。そのために、アーム側に直接センサを取り付けて軌跡誤差・位置振動成分を計測する必要がある。センサを取り付けた学習制御の例として、ロボットの例ではないが加速度センサを使用した学習制御が公開されている(特許文献1)。
【0004】
図1に従来の学習制御を実施する学習制御器を備えたロボットの概略図を示す。ロボット100は、ロボット機構部1と、ロボット機構部1を制御する制御装置2により構成される。制御装置2は、ロボットの学習制御を実施する学習制御部3と、ロボット機構部1を直接的に駆動する通常制御部4とを備えている。
【0005】
ロボット機構部1には、加速度センサ10、アーム11、アーム先端部12、モータ(図示せず)が設けられている。ロボット機構部1のモータには、制御装置2に含まれる通常制御部4からの信号が入力され、アーム11を駆動し、アーム先端部12を所望の位置に移動させて、例えば溶接等の作業を実行する。アーム先端部12には加速度センサ10が設置されており、アーム先端部12の空間的な位置データ(yj(k))を得ることができる。加速度センサ10からの位置データ(yj(k))は学習制御部3に出力され、学習制御に利用される。ここで、jは試行回数、kは時間、Nsは一試行のサンプリング数である。yd(k)は位置指令、yj(k)は前回の制御対象量、ej(k)はフィルターを通して、yd(k)とyj(k)から計算された目的補正量である。uj(k)は前回の学習補正量を表す。
【0006】
通常制御部4には、位置制御部41、速度制御部42、電流制御部43、アンプ44、微分手段45が設けられている。位置制御部41は、制御装置2の外部から入力される位置指令データ(yd(k))を受信するとともに、ロボット機構部1のモータ位置等の位置情報を受信し、ロボット機構部1のアーム先端部12の所望の位置情報を速度制御部42に対して出力する。微分手段45は、ロボット機構部1からフィードバックされるモータ位置情報を受信し、モータ速度を算出し、これを速度制御部42に対して出力する。
【0007】
速度制御部42は、位置制御部41からの位置情報及び微分手段45からのモータ速度情報を勘案して所望のモータ速度を算出し、これを電流制御部43に対して出力する。電流制御部43は、アンプ44からフィードバックされる電流値を受信するとともに、速度制御部42から入力された所望のモータ速度となるようにモータに流す電流を算出し、これをアンプ44に対して出力する。アンプ44は、電流制御部43からの電流値に基づいて所望の電力を算出し、これをロボット機構部1のモータ(図示せず)に投入する。
【0008】
学習制御部3には、一試行遅れW-1300、第1メモリ31、学習制御器L(q)32、ローパスフィルターQ(q)33、第2メモリ34、第3メモリ35が設けられている。第1メモリ31には、アーム先端部12に関する位置指令データ(yd(k))と、加速度センサ10が測定した位置データ(yj(k))からフィルターを通して、目的補正量ej(k)が入力され、これを記憶するともに、目的補正量ej(k)をL(q)32に対して出力する。ここで、目的補正量ej(k)は、アーム先端部12の所望の位置に対する軌跡・振動誤差に相当する。
【0009】
学習制御器L(q)32は、L(q)32に格納された作業プログラムを実行することにより、目的補正量ej(k)とuj(k)から学習補正量uj+1(k)を算出し、これをローパスフィルターQ(q)33に対して出力する。Q(q)33に入力された学習補正量uj+1(k)は、第2メモリ34に対して出力され、第2メモリ34に記憶されるとともに、通常制御部4の位置制御部41で算出される位置偏差データに加算される。
【0010】
補正された位置偏差データに基づいて、ロボット機構部1が制御され、学習制御が繰り返される。学習制御は、この一連のプロセスを繰り返し実行する事により位置偏差を「0」に収束させるものである。学習稼動終了後には、図1の点線で示した学習補正量更新のためのループは実行されず、第2メモリ34から学習補正量uj+1(k)が位置制御部41に出力される。なお、図1において、実線部分は通常制御部4がロボット機構部1を動作させる際に実行される部分を表し、点線部分である学習制御は学習稼動状態で動作終了後に実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−172149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の学習制御は、ある条件下の軌跡・振動誤差の改善という点に着目していた。しかしながら、アプリケーションの幅は狭く、また使い勝手に関しては余り考慮されていないという問題があった。
【0013】
センサを使った学習制御の例である前記従来技術は、工作機械の例であるものの、センサとして加速度センサを使用する事を想定している。ロボットに加速度センサを取り付けた場合、直交座標での軌跡・位置誤差が抽出可能であるが、そのままではセンサデータから各軸の軌跡・位置誤差の計算ができないという問題があった。
【0014】
また、前記従来技術では、加速度センサから軌跡・振動誤差を抽出する際に通常のハイパスフィルターを用いて抽出している。工作機械の場合は対象とするフィードバック制御帯域が数十Hz〜数百Hzと高いため、すなわちフィードバック制御がその帯域で非常に良い性能を持っているので、オフセットデータを取り除くために10Hz以下のデータを学習できなくても、大きな問題は無い。それ故、オフセットはそれ程重要な問題ではない。一方、産業用ロボットにおいては、通常、フィードバックの制御帯域は数Hzであり、それ以上高い帯域はフィードフォワードで制御していて、性能がモデル誤差に依存しやすいため、その部分を学習制御で補正している。例えば、加速度センサデータのオフセットを除去するために1Hzのハイパスをかけた場合は10Hz前後までの軌跡・振動誤差の位相が回転するので、除去したい帯域の軌跡・振動誤差データまで加工されてしまい、学習制御の性能が劣化してしまうという問題があった。
【0015】
さらに、学習制御器の調整が難しいという問題もあった。色々な調整方法が提案されているものの、コントローラの次数が高くなる、安定性が低くなる、膨大な行列計算が必要になる等の問題点がある。それ故、大部分の現場において、調整は経験に基づいて試行錯誤で行われているのが実情である。また、ロボットは姿勢に応じてシステムが変化するために試行錯誤での調整がより難しいという特徴がある。そして、これまでのところ、自動的にパラメータの調整を行い、高速化を行う学習機能を備えた産業用ロボットは存在していない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のロボットは、位置制御の対象とする部位にセンサを備えたロボット機構部と、前記ロボット機構部の動作を制御する制御装置とを含むロボットであって、前記制御装置は、前記ロボット機構部の動作を制御する通常制御部と、作業プログラムにより前記ロボット機構部を動作させて、前記センサによって検出した前記ロボット機構部の制御対象位置を前記通常制御部に与えられた目標軌跡もしくは位置に近づけるために学習補正量を算出する学習を行う学習制御部と、を有し、前記学習制御部は、前記学習稼動状態で設定可能な最大速度オーバライドを算出し、前記最大速度オーバライドに至るまで複数回に渡って速度オーバライドを増加させながら学習補正量を算出する学習を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の他の実施態様として、前記学習制御部は、前記最大速度オーバライドを前記ロボット機構部で許容される最大速度及び最大加速度に基づいて算出するようにしてもよい。
【0018】
本発明の他の実施態様として、前記学習制御部は、前記センサから検出されたデータに基づいて、前記ロボット機構部の軌跡・振動誤差を算出するためのハイパスフィルターを備えるようにしてもよい。
【0019】
本発明の他の実施態様として、前記学習制御部は、前記センサから検出されたデータを基軸三軸に逆変換することにより、軌跡・振動誤差を含んだ各軸上の位置を計算することが好ましい。
【0020】
本発明の他の実施態様として、前記学習制御部は、前記ロボット機構部に所定の動作を実行させて、前記センサの位置及び傾きを算出するようにしてもよい。
【0021】
本発明の他の実施態様として、前記学習制御部は、前記学習補正量を保存するためのメモリをさらに有することが好ましい。
【0022】
本発明の他の実施態様として、前記センサは、ビジョンセンサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、慣性センサ、及び歪ゲージのいずれかであってもよい。
【0023】
本発明の他の実施態様として、前記センサは、ロボット機構部へ着脱可能な取付手段を備えることが好ましく、前記取付手段として磁石を備えることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、学習制御部が学習稼動状態で設定可能な最大速度オーバライドを算出し、最大速度オーバライドに至るまで複数回に渡って速度オーバライドを増加させながら学習補正量を算出する学習を行うことにより、学習中における動作の高速化を自動的に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来のロボットの構成図である。
【図2】本発明の実施例1に係るロボットのロボット機構部及びセンサの構成図である。
【図3】本発明の実施例1に係るロボットのロボット機構部の構成概念図である。
【図4】ワールド座標系におけるセンサの位置を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るロボットの構成図である。
【図6】本発明のロボットを構成するロボット機構部の動作の高速化の手順について説明するためのフローチャートである。
【図7】ビジョンセンサの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下図面を参照して、本発明に係るロボットについて説明する。ただし、本発明の技術的範囲はそれらの実施の形態には限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0027】
本実施例ではスポット動作の高速化を行う。まず、図2に、本発明のロボットのロボット機構部の構成図を示す。図2(a)はロボット機構部の全体構成を示し、図2(b)はセンサを取り付けたガンの拡大図を示す。ロボット機構部1は公知のロボットマニピュレータ(以下、単に「ロボット機構部」という)であり、ガン20が作業を行う位置姿勢に到達可能であれば、その機構に制限はない。ロボット機構部の位置及びロボット機構部が静止するために減速した際に起きる軌跡・振動誤差を検出するセンサとして、加速度センサ10が、ロボット機構部の位置制御の対象とする部位であるガン20の先端部に取り付けられている。加速度センサ10として、三軸加速度センサを用いることができる。加速度センサ10は磁石を備えており、着脱可能となっている。加速度センサ10のケースを磁石としてもよい。
【0028】
以下、本発明の実施例として加速度センサを用いた例について説明するが、加速度センサの代わりにビジョンセンサを用いてもよい。ビジョンセンサを用いた例を図7に示す。ビジョンセンサ70は、第1カメラ72及び第2カメラ73の2台のカメラを備えており、ロボットハンド71に設置される。ビジョンセンサ70は、カメラ72、73を用いて、Targetライン74上の仮想TCP76の位置を計測し、進行方向75をx軸の正の方向にとった場合における、x軸、y軸、z軸のそれぞれの軸方向の軌跡・振動誤差であるΔx, Δy, Δzを算出するものである。
【0029】
加速度センサ10を取り付けた後、ロボット機構部に所定の動作を実行させて、センサの位置及び傾きを算出するキャリブレーションを行う。キャリブレーションの手順は次の通りである。
【0030】
まず、最初に加速度センサの傾きを特定する。図3のように、ワールド座標系のある点P0からX軸方向に動作を行い、ある点P1を通過し、その時の加速度データを取得する。そして、P0点での静止状態での加速度データをa0として、P1点での動作状態での加速度データをa1とする。その時、重力加速度(静止加速度)を抜いた加速度aはa= a1- a0と表す事ができる。規格化を行って、以下のように定義する。
【数1】

【0031】
同様に、点P0からY軸方向に動作を行い、ある点P2を通過し、その時の加速度データa2を取得する。その時、重力加速度を抜いた加速度aはa=a2-a0と表す事ができる。規格化を行って、以下のように表すことができる。
【数2】

【0032】
これら二つに直交するベクトルをa=ax×ayとして、以下のように表すことができる。
【数3】

【0033】
それ故、ツール座標系からワールド座標系へ姿勢の変換を行うための行列Rtは以下のように表すことができる。
【0034】
【数4】

【0035】
次に、J5とJ6を動作させる事により、加速度センサの位置を特定する。まず、図3の様にJ5をΔθ1だけ回転させる。そして、その時の加速度センサ座標系で計測される加速度データに行列Rtを乗じて、ワールド座標系に変換された加速度データを
【0036】
【数5】

とおくと、センサ変位Δφ1は以下のように表される。
【0037】
【数6】

その時のワールド座標系のX軸方向のオフセット量ΔxはΔx=Δφ1/Δθ1と表される。
【0038】
そして、図4の様にJ6をΔθ2だけ回転させる。そして、その時の加速度センサ座標系で計測される加速度データに行列Rtを乗じて、ワールド座標系に変換された加速度データを
【0039】
【数7】

とおくと、センサ変位Δφ2は以下のように表される。
【0040】
【数8】

【0041】
γ=Δφ2/Δθ2となり、ワールド座標系Y軸方向のオフセット量ΔyはΔy=γcosθ2、ワールド座標系のZ軸方向のオフセット量ΔzはΔz=γsinθ2と計算される。
【0042】
次に学習制御器の設計を行う。まず、それぞれの軸について学習補正量の入力から加速度センサから推定した位置までの周波数応答を測定する。また、学習制御のブロックは図5に描かれている。
【0043】
図5に本発明の実施例に係るロボットの概略図を示す。ロボット100は、ロボット機構部1と、ロボット機構部1を制御する制御装置2により構成される。制御装置2は、ロボットの学習制御を実施する学習制御部3と、ロボット機構部1を直接的に駆動する通常制御部4とを備えている。
【0044】
学習制御部3は、作業プログラムによりロボット機構部1を動作させて、加速度センサ10によって検出したロボット機構部1の制御対象位置を通常制御部4に与えられた目標位置Yd(k)に近づけるために学習補正量を算出する学習を行う。学習制御部3以外は、図1に示した従来のロボットの構成と同様であるので、詳細な説明は省略する。学習制御部3には、第1メモリ31、位置変換器35、ハイパスフィルター36、逆変換器IK37、順変換器FK38、学習制御器L(q)32、ローパスフィルターQ(q)33、第2メモリ34、第3メモリ35、第4メモリ39が設けられている。そして、その周波数応答結果から、線形行列不等式を解く事により、学習制御器の設計を行う。
【0045】
線形行列不等式とは以下の拘束条件下で、
【0046】
【数9】

【0047】
【数10】

【0048】
この式ではQ(z)が学習帯域をカット周波数に持つローパスフィルター、L(z)が学習制御フィルター、P(z)が学習補正量入力から制御対象までの伝達関数になる。このγが小さい程、学習制御器の性能は高くなる。学習制御器の最適化問題はQ(z)すなわち、学習制御の帯域が与えられた時、最小のγを与える学習フィルターL(z)を算出する問題である。そして、この式は以下の様に変形する事が可能である。
【0049】
【数11】

【0050】
【数12】

【0051】
ここで、Lkをαk,jとVjの線形性により表す事ができる。ここで、VjはLkと同じ次元であり、Vjは、要素(j,i)以外は全てゼロになる。例えば、Ny=2、Nu=2とする。
【0052】
【数13】

【0053】
【数14】

【0054】
【数15】

【0055】
これは、線形行列不等式(1)の拘束条件と等価である。そして、最小化問題はcTxすなわちγ2を最小とする問題に帰着する。これは、学習制御器の最適化問題と読み替える事ができる。よって、安定性条件と単調減少性への十分条件は
【0056】
【数16】

となる。そこで、実験からP(ejΩi)を測定し、学習帯域フィルターQ(z)を与えれば、自動的に学習フィルターL(z)を求める事ができる。
【0057】
更に、学習制御器のロバスト性を考慮する。ロボットは姿勢により大きくシステムが変化するのが特徴である。
【0058】
ある一つの姿勢を基準姿勢とした時に、Pn(z)は基準姿勢の学習システムとする。そうすると、任意の姿勢Pm(z)はPm(z)=Pn(z)+ΔPm(z)と表される。ΔPm(z)はその基準姿勢からの学習システムの変化量である。その時、学習帯域フィルターQ(z)が与えられた場合の拘束条件は以下のようになる。
【0059】
【数17】

【0060】
そこで、m姿勢分だけ、実験よりP(ejΩi)を測定すれば、前例同様に自動的に学習制御器を求める事ができる。
【0061】
次に、学習制御器のデータ処理手順について説明する。図5に示されるように、フィードバックは位置制御、速度制御、電流制御の三つのループから成立していて、学習制御はフィードバックの位置制御ループ外側にループを組んでいる。実線部分は学習稼動状態で動作中に有効なループになり、停止後は点線のループが有効となる。ajは加速度センサから得たデータであり、位置変換器35は加速度データajを位置データに変換する。学習中は、加速度センサ10が検出したロボットの静止の際に起きる振動のデータを第1メモリ31に保存する。第2メモリ34からは学習補正量uj+1(k)が出力される。
【0062】
動作終了後、位置変換器35により直交座標の軌跡・振動誤差を推定し、ゼロ位相ハイパスフィルターであるハイパスフィルター36を用いる事により、オフセットを取り除いた軌跡・振動誤差Δrを抽出する。その軌跡・振動誤差をモータ位置フィードバック(FB)データからFKを用いて推定したセンサの位置データrに加算することにより、アームのダイナミクスを含めた、加速度センサ10の直交座標系でのセンサ位置を推定する。
【0063】
ここで、センサから推定されたセンサ位置を基軸三軸に逆変換することにより、アームダイナミクスを含んだ各軸上での位置を計算する。このアームダイナミクスを含んだ各軸位置からアームダイナミクスを含まない各軸の位置、すなわちモータの位置を減算することにより各軸目的補正量を計算する。以下の式ではψjがj回目の試行の各軸目的補正量、IKは逆変換、θmjはj回目の試行の各軸モータ位置である。
【0064】
【数18】

【0065】
この各軸目的補正量を学習制御器に入力する事により、次の試行の補正量uj+1(k)を計算する。学習制御器L(q)32を通して、第3メモリ35から前の試行の学習補正量ujを足し込みローパスフィルターQ(q)33を通して、次の試行の補正量uj+1が算出される。
【0066】
次に、本発明による学習制御におけるロボット機構部の動作の高速化の手順について図面を用いて説明する。図6は、ロボット機構部の動作の高速化の手順について説明するためのフローチャートである。ロボット機構部の動作の高速化は、学習制御部が、学習実行中に設定可能な最大速度オーバライドを算出し、最大速度オーバライドに至るまで複数回に渡って速度オーバライドを増加させながら学習補正量を算出する学習を行うことにより実行される。
【0067】
まず、ステップS101において、学習制御部は、学習実行中に設定可能な最大速度オーバライドを算出する。最大速度オーバライドは、ロボット機構部で許容される最大速度及び最大加速度に基づいて算出される。最初に、ロボット機構部を一回動作させて、一回目の試行のデータから、各軸モータの学習可能な最大速度オーバライドを最大加速度、最大速度の観点から算出する。
【0068】
まず、最大加速度の観点から各軸モータの学習可能な最大速度オーバライドを算出する。ロボットの運動方程式は以下の様に定義される。
【0069】
【数19】

【0070】
【数20】

【0071】
【数21】

【0072】
この時、ovr_max1,iがτa,iの二乗に比例する事を考慮すると、
【0073】
【数22】

となる。ここで、添え字のiはi軸目を示す。
【0074】
上記のようにして、最大加速度の観点から、最大速度オーバライドovr_max1,iが得られる。
【0075】
同様に、最大速度の観点から、最大速度オーバライドovr_max2,iについて計算を行う。一回目の試行の最大速度をων,i、モータの最大速度許容量をωp,iとすると、
【0076】
【数23】

となる。
【0077】
上記のようにして、最大速度の観点から、最大速度オーバライドovr_max2,iが得られる。上記の2つの条件と更に軸の中で最小の速度オーバライドが学習制御で使用可能な最大速度オーバライドになる。よって、それをovr_maxと表すと、
【0078】
【数24】

となる。一回のステップで増加させる速度オーバライドの量をΔとすると、ステップ数nは、Δを用いて以下の様に算出される。
【0079】
【数25】

【0080】
速度オーバライドを最大速度オーバライドまで、例えばnステップで増加させて学習を実行し学習補正量を算出する。具体的には、ステップS102において、学習制御部は、速度オーバライドを所定量増加させて学習を数回繰り返し、振動が収束した後に、ステップS103において、学習制御部は、学習補正量を算出する。
【0081】
次に、ステップS104において、学習制御部は、速度オーバライドが最大速度オーバライドより大きくなっているか否かを判断し、速度オーバライドが最大速度オーバライド以下である場合には、ステップS102において、学習制御部は、速度オーバライドを所定量増加させて学習を実行する。速度オーバライドが最大速度オーバライドより大きくなっている場合には、ステップS105において、学習制御部は、学習補正量をF−ROMもしくはメモリカード(MC)に保存する。
【0082】
このようにして、速度オーバライドが最大速度オーバライドに達するまで、速度オーバライドを上げるプロセスと学習を行うプロセスを繰り返す事により、動作速度を高速化する。実稼動時にはF−ROMもしくはメモリカード(MC)から呼び出して学習補正量を再生する。
【0083】
以上、本発明の実施例においては、ロボット機構部に取り付けるセンサとして、加速度センサを用いる例を示したが、ビジョンセンサ、ジャイロセンサ、慣性センサ、歪ゲージを用いてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ロボット機構部
2 制御装置
3 学習制御部
4 通常制御部
31 第1メモリ
32 学習制御器
33 ローパスフィルター
34 第2メモリ
35 第3メモリ
36 ハイパスフィルター
37 逆変換器
38 順変換器
41 位置制御部
42 速度制御部
43 電流制御部
44 アンプ
45 微分手段
100 ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置制御の対象とする部位にセンサを備えたロボット機構部と、前記ロボット機構部の動作を制御する制御装置とを含むロボットであって、
前記制御装置は、
前記ロボット機構部の動作を制御する通常制御部と、
作業プログラムにより前記ロボット機構部を動作させて、前記センサによって検出した前記ロボット機構部の制御対象位置を前記通常制御部に与えられた目標軌跡もしくは位置に近づけるために学習補正量を算出する学習を行う学習制御部と、
を有し、
前記学習制御部は、
前記学習稼動状態で設定可能な最大速度オーバライドを算出し、
前記最大速度オーバライドに至るまで複数回に渡って速度オーバライドを増加させながら学習補正量を算出する学習を行うことを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記学習制御部は、
前記最大速度オーバライドを前記ロボット機構部で許容される最大速度及び最大加速度に基づいて算出する、請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記学習制御部は、前記センサから検出されたデータに基づいて、前記ロボット機構部の位置振動成分を算出するためのハイパスフィルターを備えた、請求項1又は2に記載のロボット。
【請求項4】
前記学習制御部は、前記センサから検出されたデータを基軸三軸に逆変換することにより、位置振動成分を含んだ各軸上の位置を計算する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項5】
前記学習制御部は、前記ロボット機構部に所定の動作を実行させて、前記センサの位置及び傾きを算出する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項6】
前記学習制御部は、前記学習補正量を保存するためのメモリをさらに有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項7】
前記センサは、ビジョンセンサ、加速度センサ、ジャイロセンサ、慣性センサ、及び歪ゲージのいずれかである、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項8】
前記センサは、ロボット機構部へ着脱可能な取付手段を備えた、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のロボット。
【請求項9】
前記センサは、前記取付手段としての磁石を備えている、請求項8に記載のロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−167817(P2011−167817A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35160(P2010−35160)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】